説明

インクジェットインク、インクセットおよびそれを使用した方法

本発明は、水性ビヒクルと、特定のブロックコポリマー分散剤により分散液に対して安定化されたカーボンブラック顔料とを含むブラックインクジェットインクに関する。本発明は、このブラックインクと、カーボンブラック分散液を不安定化させることができる反応種を含有する少なくとも第2のインクとを含むインクセットにさらに関する。さらに、本発明は、ブラックインクおよび第2のインクを重ねた関係で印刷して、ブラック顔料の透過、フェザリングおよび/またはブリードを最小にし、印刷品質を改善する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のブロックコポリマー分散剤により安定化されたカーボンブラック顔料を含む水性インクジェットインクに関する。本発明は、このインクを含むインクセットおよびこのインクセットを使用して印刷する方法にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は非衝撃印刷プロセスであり、インク液滴を、紙等の基材に付着して、所望の画像を形成するものである。液滴は、マイクロプロセッサにより生成される電気信号に応答して、プリントヘッドから吐出される。
【0003】
大概のインクジェットプリンタは、2種類以上の異なるインクを含むインクセットを備えており、ブラックテキストと多色画像を印刷することができる。典型的に、インクセットは、少なくともシアン、マゼンタおよびイエロー着色インクとブラックインク(CMYKインクセット)を含む。
【0004】
テキストを印刷するには、ブラックインクは高光学密度を有するのが望ましい。このためには、顔料着色剤、特にカーボンブラック顔料が最も有利である。顔料着色剤は、インクビヒクルに可溶でなく、安定に分散されたまま、適切に噴射させるためには処理しなければならない。
【0005】
安定な分散液とするために、顔料は、一般的に、分散剤で処理され、これには様々な材料が開示されている。特に有効なのは、例えば、米国特許第5,085,698号明細書に記載されたブロックコポリマー分散剤である。他の例としては、米国特許第5,852,075号明細書に開示された数平均分子量(Mn)が2966のベンジルメタクリレート(BZMA)//メタクリル酸(MAA)13//10ブロックコポリマー、および米国特許出願公開第2005/0090599号明細書に開示された数平均分子量(Mn)が2522のベンジルメタクリレート(BZMA)//メタクリル酸(MAA)13//3ブロックコポリマーが挙げられる。
【0006】
顔料ブラックインクを含むCMYKインクセットについては、1種類以上の着色インクを、ブラック顔料分散液を不安定化させる成分と共に処方するとき、ブラックインクを、1種類以上の着色インクと重ねた関係で印刷して、ブラックインクの印刷品質を改善することが知られている。かかるインクセットおよび印刷方法は、例えば、米国特許第5,734,403号明細書および米国特許第6,354,693号明細書および欧州特許出願公開第1,125,994 A1号明細書に開示されている。
【0007】
良好なインクジェットインクおよび印刷方法が現在利用可能であるものの、より良い印刷品質および噴射信頼性を有するインクおよび方法が尚求められており、それを提供することが本発明の目的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、本発明は、水性ビヒクルとカーボンブラック顔料とを含むブラックインクジェットインクに係わり、前記カーボンブラック顔料は、AブロックとBブロックとを含むブロックコポリマーであるポリマー分散剤により前記水性ビヒクル中で分散液に対して安定化されており、ここで、
前記Aブロックが、2〜8単位のメタクリル酸からなるセグメントであり、
前記Bブロックが、少なくとも2単位のメタクリル酸と、少なくとも16単位のベンジルメタクリレートとを含むセグメントであるが、但し、
前記ブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)が約3,000〜16,000ダルトン(Daulton)であり、酸価(mgKOH/gポリマー固体)が約50〜220であることを条件とする。
【0009】
他の態様において、本発明は、既述のブラックインクである第1のインクと、反応種を含む水性インクである第2のインクとを含むインクジェットインクセットに関する。反応種は、カーボンブラック分散液を不安定化させることのできる材料であり、例えば、これらに限られるものではないが、可溶無機塩およびポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等の多官能性アミンが挙げられる。アミンは、鉱酸などの強酸と組み合わせることによりプロトン化された形態とすることができる。
【0010】
さらに他の態様において、本発明は、基材にインクジェット印刷する方法であって、
(a)デジタルデータ信号に応答して印刷するインクジェットプリンタを準備する工程と、
(b)プリンタに、印刷される基材を装填する工程と、
(c)プリンタに、既述のブラックインクである第1のインクと第2のインクとを含むインクセットを装填する工程と、
(d)前記第1および第2のインクを、互いに重なる、かつ/または隣接する関係で、基材に印刷する工程とを含む。
【0011】
好ましい実施形態において、第1および第2のインクは、互いに重なる関係で印刷され、第2のインクが第1のインクの下に印刷される。好ましくは、印刷された領域の光学密度は、第2のインクが第1のインクの下に印刷されるとき、第2のインクと重ねずに第1のインクのみが印刷される場合よりも高いのが好ましい。
【0012】
本発明のこれらおよびその他の特徴ならびに利点は、以下の詳細な説明を読めば、当業者であれば容易に理解されるであろう。明瞭にするために、別個の実施形態で上述および後述される本発明の特定の特徴はまた、単一の実施形態で組み合わせて提供されてもよいものと考えるものとする。逆に、簡潔にするために、単一の実施形態で説明した本発明の様々な特徴も、別々、または下位の組み合わせで提供されてもよい。加えて、特に断りのない限り、単数には複数も含まれるものとする(例えば、「1つ(種)」は、1つ(種)、あるいは1つ(種)または複数のことを指す)。さらに、範囲で述べた値には、その範囲内の各値が含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ブラックインク
本明細書に規定されるブラックインクは、水性ビヒクル、カーボンブラック顔料および任意のその他の成分を含む。
【0014】
インクビヒクルは、着色剤および任意の添加剤の液体キャリア(または媒体)である。「水性ビヒクル」という用語は、水または水混合物と、共溶媒または保湿剤と一般的に呼ばれている1つまたは複数の有機水溶性ビヒクル成分とから構成されるビヒクルのことを指す。業界では、共溶媒が、印刷基材上のインクの浸透および乾燥を補助できるときは、浸透剤と呼ばれることがある。
【0015】
水溶性有機溶媒および湿潤剤としては、アルコール、ケトン、ケト−アルコール、エーテルおよびその他、例えば、チオジグリコール、スルホラン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンおよびカプロラクタム;グリコール、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコールおよびヘキシレングリコール;オキシエチレンまたはオキシプロピレンの付加ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等;トリオール、例えば、グリセロールおよび1,2,6−ヘキサントリオール;多価アルコールの低級アルキルエーテル、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル;多価アルコールの低級ジアルキルエーテル、例えば、ジエチレングリコールジメチルまたはジエチルエーテル;ウレアおよび置換ウレアが例示される。
【0016】
浸透剤として一般的に作用する共溶媒としては、高級アルキルグリコールエーテルおよび/または1,2−アルカンジオールが例示される。グリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテルおよびジプロピレングリコールモノ−イソプロピルエーテルが挙げられる。1,2−アルカンジオール浸透剤としては、例えば、1,2−(C5〜C8)アルカンジオールおよび特に、1,2−ペンタンジオールおよび1,2−ヘキサンジオールが挙げられる。
【0017】
水性ビヒクルは、典型的に、約50%〜約96%の水を含有しており、残り(すなわち、約50%〜約4%)は水溶性溶剤/湿潤剤である。
【0018】
原料カーボンブラック顔料は、インクビヒクルに不溶かつ非分散性であり、安定な分散液を形成するには処理しなければならない。本発明によれば、カーボンブラック顔料は、AブロックとBブロックの2つのブロック(またはセグメント)を有するブロックコポリマー分散剤での処理により、水性ビヒクル中で分散液に対して安定化される。Aブロックは、2〜8単位のメタクリル酸からなるホモポリマーセグメントである。Bブロックは、少なくとも2単位のメタクリル酸および少なくとも16単位のベンジルメタクリレートを含むコポリマーセグメントである。「単位」とは、当業者に明白なとおり、モノマー単位を意味する。ポリマー全体の数平均分子量(Mn)は、約3,000〜16,000ダルトンであり、酸価(ポリマー固体1グラムを中和するのに必要なmgKOH)は、約50〜220である。好ましい実施形態において、数平均分子量(Mn)は、約4,000〜12,000ダルトンである。他の好ましい実施形態において、酸価は、約75〜200である。顔料対分散剤の重量比(P/D)は、典型的に、約0.5〜5である。分散剤ポリマーの酸基は、典型的に、塩基により塩形態まで部分または完全に中和されている。有用な塩基としては、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、ナトリウムおよびカリウム)、アルカリ金属炭酸塩および重炭酸塩(炭酸および重炭酸ナトリウムおよびカリウム)、有機アミン(モノ−、ジ−、トリ−メチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン)、有機アルコールアミン(N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、モノ−、ジ−、トリ−エタノールアミン)、アンモニウム塩(水酸化アンモニウム、水酸化テトラ−アルキルアンモニウム)およびピリジンが例示される。
【0019】
カーボンブラック顔料の源は、当業者には周知である。同様に、ブロックコポリマーの製造方法も公知であり、例えば、前に引用した米国特許第5,085,698号明細書、米国特許第5,852,075号明細書および米国特許出願公開第2005/0090599号明細書に記載された方法が挙げられる。
【0020】
基転移重合(GTP)または可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合等の制御された重合技術が好ましい。それによって生成されるポリマーは、精密に制御された分子量、ブロックサイズおよび非常に狭い分子量分布を有するからである。ポリマーの分散度は、典型的に、2未満、通常、1.0〜1.4の範囲である。分散度は、数平均分子量で除算したポリマー重量平均分子量である。
【0021】
分散液を調製するには、顔料と分散剤を予備混合してから、ミリング工程において、分散または解膠する。予備混合物は、ミリング工程に湿式ミリング操作が含まれるときは、水性担体媒体(水と任意で水混和性溶媒等)を含む。ミリングは、2本ロールミル、媒体ミル、水平ミニミル、ボールミル、磨砕機で、または水性予備混合物を、インクジェット相互作用チャンバ内の複数のノズルに、少なくとも5,000psiの液体圧力で通すことにより実施されて、水性担体媒体(マイクロフルイダイザー)中の顔料粒子の均一な分散液を生成する。あるいは、ポリマー分散液と顔料を加圧下でドライミリングすることにより濃縮物を調製してもよい。媒体ミル用の媒体は、ジルコニア、YTZ(登録商標)(日本、大阪の株式会社ニッカトー)およびナイロンをはじめとする一般的に入手可能な媒体から選択される。これらの様々な分散プロセスは、当該技術分野において一般的な意味において周知であり、米国特許第5,022,592号明細書、米国特許第5,026,427号明細書、米国特許第5,310,778号明細書、米国特許第5,891,231号明細書、米国特許第5,679,138号明細書、米国特許第5,976,232号明細書および米国特許出願公開第2003/0089277号明細書に例示されている。出来上がった状態の顔料分散液は、典型的に濃縮形態(分散液濃縮物)にあり、後に、所望の添加剤を含有する好適な液体で希釈されて、最終インクが製造される。
【0022】
分散後の有用な粒径範囲は、典型的に、約0.005ミクロン〜約15ミクロンである。好ましくは、顔料粒径は、約0.005〜約5ミクロン、最も好ましくは、約0.005〜約1ミクロンである。動的光散乱により測定される平均粒径は、約500nm未満、好ましくは約300nm未満である。
【0023】
処方されたインクに用いる顔料のレベルは、所望の光学密度を印刷画像に付与するのに必要とされるレベルである。典型的に、顔料レベルは、約0.01重量%〜約10重量%、より典型的には約1重量%〜約9重量%の範囲である。
【0024】
その他の成分、添加剤を、インクジェットインクに処方してもよく、かかるその他の成分が、インクの安定性および噴射性を妨害しない程度とする。これは、所定の実験により容易に求められる。かかるその他の成分は、一般的な意味では、業界に周知である。
【0025】
一般的に、界面活性剤をインクに添加して、表面張力および湿潤特性を調整する。好適な界面活性剤としては、エトキシル化アセチレンジオール(例えば、Air Products製Surfynols(登録商標)シリーズ)、エトキシル化第1級(例えば、Shell製Neodol(登録商標)シリーズ)および第2級(例えば、Union Carbide製Tergitol(登録商標)シリーズ)アルコール、スルホコハク酸(例えば、Cytec製Aerosol(登録商標)シリーズ)、オルガノシリコーン(例えば、Witco製Selwet(登録商標)シリーズ)およびフルオロ界面活性剤(例えば、DuPont製Zonyl(登録商標)シリーズ)が挙げられる。界面活性剤は、典型的に、約5重量%までの量で、より典型的には、2重量%以下の量で用いられる。
【0026】
印刷した画像の耐久性を改善し、かつ/またはインクのプリンタ性能を向上するために、ポリマーが、添加剤としてインクに含まれていてもよい。これらのポリマーは、約10重量%までインクに添加してよいが、性能に与える影響に応じて、典型的には、5重量%である。好適なポリマーとしては、アクリルコポリマー、乳化重合からのポリマーラテックスおよびポリウレタン分散液が挙げられる。前述した分散剤に関しては、ポリマー添加剤は、基転移重合(GTP)または可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合等の制御された重合技術由来のものが好ましい。ブロックコポリマーは、優れた印刷性能を維持しながら、印刷画像の耐久性を改善するのに特に有用である。ポリマー添加剤は、分散剤として用いるのと同じポリマーの自由な添加を含むことができる。
【0027】
殺生物剤を用いて、微生物の成長を阻害してもよい。
【0028】
顔料インクジェットインクの表面張力は、典型的に、25℃で約20mN.m-1〜約70mN.m-1である。粘度は、25℃で30mPa.sと高くすることができるが、典型的にはこれよりやや低い。インクは、広い範囲の吐出条件、材料構造、ノズルの形状およびサイズと適合する物理特性を有している。インクは、インクジェット装置をかなりの程度詰まらせないよう、長期間にわたって良好な貯蔵安定性を有していなければならない。さらに、インクは、接触するインクジェット印刷装置の部品を腐食してはならず、実質的に無臭かつ無毒でなければならない。
【0029】
特定の粘土範囲またはプリントヘッドに限定されないが、本発明のインクは、低粘度用途に特に向いている。このように、本発明のインクの粘度(25℃)は、約7mPa.s未満、または約5mPa.s未満、さらに有利には約3.5mPa.s未満とすることができる。
【0030】
印刷方法およびそれに用いるインクセット
インクジェットインクセットは、所望の画像を作成するために組み合わせで用いられる少なくとも2つの異なるインクを含む。典型的なプリンタは、概して、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラック(CMYK)インク等の少なくとも4つの異なった色のインクを含む。インクセットは、1種類以上の「色域を広げる」インク、例えば、オレンジインク、グリーンインク、バイオレットインク、レッドインクおよび/またはブルーインク等の異なった色のインク、およびライトシアンおよびライトマゼンタ等のフルストレングスとライトストレングスの組み合わせをさらに含んでいてもよい。また、インクセットは、着色インクと組み合わせて印刷されると、光学密度、彩度、耐久性および/または光沢等の特性を向上する1種類以上の無色インクを含んでいてもよい。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、第1のインクと第2のインクとを含むインクセットであって、第1のインクが、既述のブラックインクであり、第2のインクが、水性ビヒクルと、ブラックインクのカーボンブラック分散液を不安定化させることができる反応種とを含む、インクセットが提供される。第1および第2のインクを重なった関係で印刷すると、反応種は、カーボンブラック分散液を不安定化して、顔料を適所に固定し、透過、フェザリングおよび/またはブリードを最小にする。インクの重なった関係が、第1のインクの下に第2のインクが印刷されている(「アンダープリント」)ときは、第2のインクにおける反応種によるカーボンブラック顔料の固定が、通常、最も有効である。
【0032】
第2のインクは着色または無着色とすることができる。好ましい実施形態において、第2のインクは着色されており、最も好ましくは、多色インクセットにおいてシアン、マゼンタまたはイエローインクである。好ましくは、着色された第2のインクは、定義上、インクビヒクルに可能な染料着色剤を含む。第2のビヒクルは、第1のビヒクルと同じまたは異なっていてもよく、ブラックインクについて前述したのと同様の組成上の条件を課される。
【0033】
第2のインクについての着色剤の選択は、当業者であればよく分かる。有用な染料としては、これらに限られるものではないが、(シアン)アシッドブルー9およびダイレクトブルー199;(マゼンタ)アシッドレッド52、リアクティブレッド180、アシッドレッド37およびリアクティブレッド23;(イエロー)ダイレクトイエロー86、ダイレクトイエロー132およびアシッドイエロー23が例示される。前述の染料は、Society Dyers and Colourists(Bradford,Yorkshire,UK)により設定され、The Color Index、第3版、1971に公開されている「C.I.」表示により参照される。
【0034】
反応種は、例えば、可溶性無機塩および/またはポリアミン化合物等の任意の好適な種とすることができる。好ましい実施形態において、無機塩は、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Cu2+およびこれらの組み合わせの可溶性塩の群から選択される。最も好ましいのは、多価金属の塩である。他の好ましい実施形態において、ポリアミンは、ポリエチレンイミンおよび/またはポリアリルアミンから選択される。アミンは、鉱酸等の強酸との組み合わせでプロトン化形態とすることができる。第2のインクに存在する反応種のレベルは、第1のインク中の顔料分散液を不安定化させるのに有効なレベルであり、所定の最適化の問題である。
【0035】
インクセット中の2種類以上のインクが反応種を含有していてもよい。例えば、CYMKインクセットにおいて、CYMインクのうち2種類または3種類全てが、反応種を含み、これら反応種含有インクのいずれか、または全てを用いて、ブラックインクを覆ってもよい。
【0036】
本発明のさらに他の態様によれば、既述の第1および第2のインクを含む本発明のインクを用いて、基材にインクジェット印刷する方法であって、基材の1つまたは複数の領域が、重ねた関係の第1のインクおよび第2のインクで印刷される方法が提供される。好ましい実施形態において、インクは、第1のインクの下に第2のインクを印刷することにより重ねられる。また、重ねた領域の光学密度が、第2のインクと重ねずに、カーボンブラック顔料を含む第1のインクのみが印刷される場合よりも高いのが好ましい。
【0037】
既述の背景技術で記したように、ブラック顔料インクを、反応種を含む着色された第2のインクと重ねるインクジェット印刷方法について記載してきた。また、ブラック顔料インクを着色インクと共にアンダープリントするプリントモードを備える市販のプリンタを利用することができる。2つのかかる市販のプリンタは、Hewlett Packard製Deskjet6450およびCanon製PIXMA iP5000である。
【0038】
本発明のインクは、圧電またはサーマルプリントヘッドを備えたプリンタをはじめとする任意の好適なインクジェットプリンタで印刷することができる。基材は、普通紙、例えば、一般的な電子写真複写機紙、表面加工紙、例えば、写真品質インクジェット紙をはじめとする任意の好適な基材とすることができる。本発明は、普通紙に印刷するのに特に有利である。
【0039】
以下の実施例により本発明を例示するが、それに限定するものではない。
【実施例】
【0040】
以下の実施例において、別記しない限り、水は脱イオン化され、成分量は、インクの総重量の重量パーセントである。Surfynol(登録商標)465は、Air Products(Allentown,PA USA)製界面活性剤である。Proxel(登録商標)GXLは、Avecia(Wilmington,DE,USA)製殺生物剤である。Glycereth−26は、グリセリンの26モル酸化エチレン付加物である。
【0041】
分散液調製
分散液を調製するのに用いた分散剤ポリマーは、例えば、開示内容が完全に記載されるものとして、本明細書に参考文献として援用される米国特許第5,085,698号明細書、米国特許第5,852,075号明細書および米国特許出願公開第US2005/0090599号明細書に記載されているような確立された方法により合成された。各ポリマーは、7.5〜9.0のpHまでKOHで中和された。
【0042】
各分散剤について、約20〜24%の顔料、分散剤ポリマー(顔料/分散剤、P/D、重量比2.5)および水の予備混合スラリーをミリング(ビードミル、0.5mmYTZ(登録商標)粉砕媒体)することにより、カーボンブラック顔料分散液を調製した。粉砕時間は約4時間であり、その後、分散液を0.3ミクロンのポールフィルタを通してろ過して、媒体を分離し、大きな粒子を除去した。回収した分散液を水で希釈して、約15重量%の顔料の最終分散液を得た。
【0043】
調製した分散液1〜9およびA〜Dを、用いた分散剤に従って、以下の表にまとめてある。Bブロック(AN Bブロック)および全体のポリマー(AN合計)についての酸価(mgKOH/gポリマー固体)は理論値である。
【0044】
【表1】

【0045】
インク調製
以下の表にまとめてある同じ一般処方に従って、顔料分散液およびその他インク成分を併せて攪拌することにより、インクを調製した。分散液は、4%の顔料固体が最終インクに与えられる量で加えた。
【0046】
【表2】

【0047】
印刷試験および評価
ブラックインクをCanon iPIXMA iP5000(設定:普通媒体、高印刷品質、グレイスケールオフ)で印刷した。各ブラックインクについての光学密度測定(GretagMacbeth AG(Regensdorf,Switzerland)製GretagMacbeth SpectroEye)を、アンダープリントのある領域およびアンダープリントのない領域で行った。アンダープリントに用いたインクは、硝酸マグネシウムを含有する市販のCanon BCI−1201Cシアンインクであった。
【0048】
印刷品質を目視検査により評価した。線、ベタおよびテキストを含む試験パターンの多数のページを印刷した。印刷が鮮明かつ明瞭で、ミッシングノズルがなく、印刷した1番目から10番目のページまでこれらの品質の劣化が観察されない場合に、良好の格付けとした。印刷が鮮明かつ明瞭でない、ミッシングノズルがあり、印刷した1番目から10番目のページに印刷品質の劣化が目視される場合は、不良の格付けとした。鮮明度が劣化すると、テキストが読み難くなり、ラインエッジが不明瞭になる。
【0049】
結果
各インクについての印刷試験結果を以下の表にまとめてある。
【0050】
【表3】

【0051】
示されるとおり、ランダムポリマー分散剤による比較例のインクCおよびDは、高光学密度であるが、印刷品質は不良である。大きなAブロックを有するブロックコポリマー分散剤による比較例Bは、良好な印刷品質であるが、低光学密度である。同様に、分子量の小さすぎるブロックポリマー分散液による比較例のインクAは、良好な印刷品質であるが、低光学密度である。所定の分散剤による本発明のインクは、良好な印刷品質および高光学密度を、特に、アンダープリント時に与え有利である。表を見れば、約0.05単位の光学密度差があるのが分かり、できる限り濃く(光学密度を高く)すべきテキスト等のブラック領域にとって、これは、一般に望ましいことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の水性ビヒクルとカーボンブラック顔料とを含むブラックインクジェットインクであって、
前記カーボンブラック顔料が、AブロックとBブロックとを含むブロックコポリマーであるポリマー分散剤により前記第1の水性ビヒクル中で分散液に対して安定化されており、ここで、
前記Aブロックが、2〜8単位のメタクリル酸またはその塩形態からなるセグメントであり、
前記Bブロックが、少なくとも2単位のメタクリル酸またはその塩形態と、少なくとも16単位のベンジルメタクリレートとを含むセグメントであるが、但し、
前記ブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)が約3,000〜16,000ダルトンであり、酸価(ポリマー固体1グラムを中和するmgKOH)が約50〜220であることを条件とする、ブラックインクジェットインク。
【請求項2】
前記ブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)が約4,000〜12,000ダルトンであり、酸価が約75〜200である請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
第1のインクと第2のインクとを含むインクセットであって、前記第1のインクが、請求項1に記載のブラックインクであり、前記第2のインクが、第2の水性ビヒクルと、前記第1のインクのカーボンブラック分散液を不安定化させることができる反応種とを含む、インクセット。
【請求項4】
前記反応種が、無機塩および/またはポリアミン化合物である請求項3に記載のインクセット。
【請求項5】
前記反応種が、前記第2の水性ビヒクルに可溶な無機塩を含む請求項4に記載のインクセット。
【請求項6】
前記無機塩が、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Cu2+およびこれらの任意の組み合わせの可溶塩の群から選択される請求項5に記載のインクセット。
【請求項7】
前記反応種が、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンおよびそれらのプロトン化された形態から選択されるポリアミンを含む請求項3に記載のインクセット。
【請求項8】
前記第2のインクが着色剤をさらに含む請求項3〜6のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項9】
前記第2のインク中の前記着色剤が染料である請求項8に記載のインクセット。
【請求項10】
基材にインクジェット印刷する方法であって、任意の実行可能な順番で、
(a)デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを準備する工程と、
(b)前記プリンタに、印刷される基材を装填する工程と、
(c)前記プリンタに、請求項1に記載のブラックインクである第1のインクと、請求項3に記載のインクである第2のインクとを少なくとも含むインクセットを装填する工程と、
(d)前記第1のインクで印刷された前記基材の1つまたは複数の領域が前記第2のインクと重なるように、前記デジタルデータ信号に応答して、前記インクセットを用いて前記基材に印刷する工程と
を含む、方法。
【請求項11】
第2のインクに重なる前記第1のインクで印刷された領域の光学密度が、前記第2のインクと重ねずに前記第1のインクのみが印刷される場合よりも高い請求項10に記載の印刷方法。
【請求項12】
前記第2のインクが染料をさらに含む請求項10に記載の方法。

【公表番号】特表2010−513672(P2010−513672A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542891(P2009−542891)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/025920
【国際公開番号】WO2008/082552
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】