説明

インクジェットインクセット

【課題】吐出安定性に優れ、紙に画像を形成しても、ブラックとブラック以外の色の間のカラーブリードの発生及びカールの発生を抑制することが可能なインクジェットインクセット等の提供。
【解決手段】ブラックインクは、水、水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B、水溶性有機溶媒C及び着色剤を含み、溶媒A、溶媒B及び溶媒Cの総含有量が25〜50質量%であり、溶媒Aの含有量が溶媒B及び溶媒Cの総含有量以上であり、ブラック以外の色のインクは、水、溶媒A、溶媒B及び着色剤を含み、溶媒Cを含まず、溶媒A及び溶媒Bの総含有量が25〜50質量%であり、溶媒Aの含有量が溶媒Bの含有量以下であり、23℃、80%RHにおける平衡水分量が、溶媒Aは41〜49質量%、溶媒Bは35〜39質量%、溶媒Cは11〜24質量%であり、水分の蒸発量が30質量%である場合の粘度は、ブラック以外の色のインクよりもブラックインクが大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクセット、インクカートリッジセット及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターは、低騒音、低ランニングコスト、カラー印刷が容易である等の利点を有することから、デジタル信号の出力機器として、近年急速に普及している。
【0003】
インクジェットインクとしては、生体及び環境に対する安全性が高いことから、水性のインクジェットインクが広く用いられている。
【0004】
しかしながら、水性のインクジェットインクは、吐出安定性が低いという問題がある。
【0005】
特許文献1には、着色剤、湿潤剤及び樹脂を含有するインクを2種以上組み合わせてなるインクセットが開示されている。このとき、インクセットにおける各インクが異なる種類の湿潤剤を1種以上含み、各インクにおける湿潤剤総量の最大値と最小値との差の最大値に対する比率及び23℃、50%RHでの平衡時残存水分量の最大値と最小値との差の最大値に対する比率が、それぞれ5%以下である。
【0006】
しかしながら、紙に画像を形成する場合に、ブラックとブラック以外の色の間のカラーブリードの発生及びカールの発生を抑制することが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術が有する問題に鑑み、吐出安定性に優れ、紙に画像を形成しても、ブラックとブラック以外の色の間のカラーブリードの発生及びカールの発生を抑制することが可能なインクジェットインクセット並びに該インクジェットインクセットを有するインクカートリッジセット及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクジェットインクセットは、ブラックのインクジェットインクと、ブラック以外の色のインクジェットインクを有するインクジェットインクセットであって、前記ブラックのインクジェットインクは、水、水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B、水溶性有機溶媒C及び着色剤を含み、該水溶性有機溶媒A、該水溶性有機溶媒B及び該水溶性有機溶媒Cの総含有量が25質量%以上50質量%以下であり、該水溶性有機溶媒Aの含有量が該水溶性有機溶媒B及び該水溶性有機溶媒Cの総含有量以上であり、前記ブラック以外の色のインクジェットインクは、水、水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B及び着色剤を含み、水溶性有機溶媒Cを含まず、該水溶性有機溶媒A及び該水溶性有機溶媒Bの総含有量が25質量%以上50質量%以下であり、該水溶性有機溶媒Aの含有量が該水溶性有機溶媒Bの含有量以下であり、前記水溶性有機溶媒Aは、23℃、80%RHにおける平衡水分量が41質量%以上49質量%以下であり、前記水溶性有機溶媒Bは、23℃、80%RHにおける平衡水分量が35質量%以上39質量%以下であり、前記水溶性有機溶媒Cは、23℃、80%RHにおける平衡水分量が11質量%以上24質量%以下であり、前記ブラックのインクジェットインクの水分の蒸発量が30質量%である場合の粘度は、前記ブラック以外の色のインクジェットインクの水分の蒸発量が30質量%である場合の粘度よりも大きい。
【0009】
本発明のインクカートリッジセットは、ブラックのインクジェットインクが収容されているインクカートリッジと、ブラック以外の色のインクジェットインクが収容されているインクカートリッジを有するインクカートリッジセットであって、本発明のインクジェットインクセットを有する。
【0010】
本発明のインクジェット記録装置は、ブラックのインクジェットインクを吐出する手段と、ブラック以外の色のインクジェットインクを吐出する手段を有するインクジェット記録装置であって、本発明のインクジェットインクセットを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吐出安定性に優れ、紙に画像を形成しても、ブラックとブラック以外の色の間のカラーブリードの発生及びカールの発生を抑制することが可能なインクジェットインクセット並びに該インクジェットインクセットを有するインクカートリッジセット及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0013】
本発明のインクジェットインクセットは、ブラックのインクジェットインクと、ブラック以外の色のインクジェットインクを有する。
【0014】
ブラックのインクジェットインクは、水、着色剤、23℃、80%RHにおける平衡水分量(以下、平衡水分量という)が41〜49質量%の水溶性有機溶媒A、平衡水分量が35〜39質量%の水溶性有機溶媒B、平衡水分量が11〜24質量%の水溶性有機溶媒Cを含む。一方、ブラック以外の色のインクジェットインクは、水、着色剤、平衡水分量が41〜49質量%の水溶性有機溶媒A及び平衡水分量が35〜39質量%の水溶性有機溶媒Bを含み、平衡水分量が11〜24質量%の水溶性有機溶媒Cを含まない。このため、紙に画像を形成しても、ブラックとブラック以外の色の間のカラーブリードの発生を抑制することができる。また、一般的に吐出量が多いブラックのインクジェットインクが、平衡水分量が小さい水溶性有機溶媒Cを含むため、紙に画像を形成しても、カールの発生を抑制することができる。
【0015】
なお、平衡水分量は、飽和塩化カリウム水溶液を用いて、温度を23±1℃、湿度を80±3%RHに保持しているデシケーター内に、水溶性有機溶媒1gを入れたシャーレを保管し、式
(水溶性有機溶媒に吸収された水分の質量[g])/[(水溶性有機溶媒の質量[g])+(水溶性有機溶媒に吸収された水分の質量[g])]×100
から算出される。
【0016】
ブラックのインクジェットインクは、水溶性有機溶媒Aの含有量が水溶性有機溶媒B及び水溶性有機溶媒Cの総含有量以上である。ブラックのインクジェットインクの水溶性有機溶媒Aの含有量が水溶性有機溶媒B及び水溶性有機溶媒Cの総含有量未満であると、インクジェット記録装置のノズルの目詰まりが発生しやすくなって、吐出安定性が低下する。
【0017】
ブラックのインクジェットインクの水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B及び水溶性有機溶媒Cの総含有量は、25〜50質量%であり、30〜45質量%が好ましい。ブラックのインクジェットインクの水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B及び水溶性有機溶媒Cの総含有量が25質量%未満であると、インクジェット記録装置のノズルの目詰まりが発生しやすくなって、吐出安定性が低下し、50質量%を超えると、インクジェットインクの粘度が高くなって、吐出安定性が低下する。
【0018】
ブラック以外の色のインクジェットインクは、水溶性有機溶媒Aの含有量が水溶性有機溶媒Bの含有量以下である。ブラック以外の色のインクジェットインクの水溶性有機溶媒Aの含有量が水溶性有機溶媒Bの含有量を超えると、紙に画像を形成した場合に、ブラックとブラック以外の色の間のカラーブリードが発生しやすくなる。
【0019】
ブラック以外の色のインクジェットインクの水溶性有機溶媒A及び水溶性有機溶媒Bの総含有量は、25〜50質量%であり、25〜40質量%が好ましい。ブラック以外の色のインクジェットインクの水溶性有機溶媒A及び水溶性有機溶媒Bの総含有量が25質量%未満であると、インクジェット記録装置のノズルの目詰まりが発生しやすくなって、吐出安定性が低下し、50質量%を超えると、インクジェットインクの粘度が高くなって、吐出安定性が低下する。
【0020】
ブラックのインクジェットインクの水分の蒸発量が30質量%である場合の粘度は、ブラック以外の色のインクジェットインクの水分の蒸発量が30質量%である場合の粘度よりも大きい。これにより、紙に画像を形成しても、ブラックとブラック以外の色の間のカラーブリードの発生を抑制することができる。
【0021】
水溶性有機溶媒Aとしては、特に限定されないが、平衡水分量が49質量%のグリセリン、平衡水分量が43質量%のジエチレングリコール、平衡水分量が41質量%の1,2,4−ブタントリオール、平衡水分量が43質量%の2−ピロリドン等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、保存安定性及び吐出安定性に優れることから、グリセリンが好ましい。
【0022】
水溶性有機溶媒Bとしては、特に限定されないが、平衡水分量が39質量%のトリエチレングリコール、平衡水分量が38質量%のジグリセリン、平衡水分量が38質量%の1,2,3−ブタントリオール、平衡水分量が37質量%のテトラエチレングリコール、平衡水分量が35質量%の1,3−ブタンジオール等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0023】
水溶性有機溶媒Cとしては、特に限定されないが、平衡水分量が24質量%の2−メチル−1,3−ブタンジオール、平衡水分量が17質量%の1,6−ヘキサンジオール、平衡水分量が17質量%の1,2−ペンタンジオール、平衡水分量が11質量%の1,2−ヘキサンジオール等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0024】
このとき、保存安定性に優れることから、ブラックのインクジェットインクに含まれる水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B及び水溶性有機溶媒Cの少なくとも一つが多価アルコールであり、ブラック以外の色のインクジェットインクに含まれる水溶性有機溶媒A及び/又は水溶性有機溶媒Bが多価アルコールであることが好ましい。
【0025】
各色のインクジェットインクは、水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B及び水溶性有機溶媒C以外の湿潤剤をさらに含んでいてもよい。
【0026】
水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B及び水溶性有機溶媒C以外の湿潤剤としては、特に限定されないが、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0027】
着色剤は、顔料及び染料のいずれであってもよく、顔料及び染料を混合して用いてもよい。
【0028】
顔料としては、特に限定されないが、無機顔料、有機顔料が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0029】
無機顔料としては、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、紺青、カドミウムレッド、クロムイエロー、金属粉、カーボンブラック等が挙げられる。中でも、カーボンブラックが好ましい。
【0030】
有機顔料としては、アゾ顔料、アゾメチン顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が挙げられる。中でも、アゾ顔料、多環式顔料が好ましい。
【0031】
アゾ顔料としては、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等が挙げられる。
【0032】
多環式顔料としては、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、ローダミンBレーキ顔料等が挙げられる。
【0033】
染料キレートとしては、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等が挙げられる。
【0034】
ブラックのインクジェットインク用の顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料等が挙げられる。
【0035】
カーボンブラックの製造方法としては、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法、チャネル法等が挙げられる。
【0036】
カーボンブラックは、平均一次粒径が15〜40nm、BET比表面積が50〜300m/g、DBP吸油量が40〜150ml/100g、揮発性成分の含有量が0.5〜10質量%、pHが2〜9であることが好ましい。
【0037】
カーボンブラックの市販品としては、No.2300、No.900、MCF−88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B(以上、三菱化学社製);Raven700、5750、5250、5000、3500、1255(以上、コロンビア社製);Regal400R、330R、660R、Mogul L、Monarch700、800、880、900、1000、1100、1300、Monarch1400(以上、キャボット社製);カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリンテックス35、U、V、140U、140V、スペシャルブラック6、5、4A、4(以上、デグッサ社製)等が挙げられる。
【0038】
イエローのインクジェットインク用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー2、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー73、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー75、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー98、C.I.ピグメントイエロー114、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー174、C.I.ピグメントイエロー180等が挙げられる。
【0039】
マゼンタのインクジェットインク用の顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド48(Ca)、C.I.ピグメントレッド48(Mn)、C.I.ピグメントレッド57(Ca)、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド176、C.I.ピグメントレッド184、C.I.ピグメントレッド185、C.I.ピグメントレッド202、ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0040】
シアンのインクジェットインク用の顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:34、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー22、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントブルー63、C.I.ピグメントブルー66;C.I.バットブルー4、C.I.バットブルー60等が挙げられる。
【0041】
着色剤は、表面に親水基を有する自己分散型顔料、界面活性剤により分散している顔料又は顔料と親水性基を有する樹脂を含む着色粒子を含むことが好ましい。これにより、インクジェット記録装置のノズルの目詰まりの発生を抑制することができる。
【0042】
自己分散型顔料としては、特に限定されないが、酸化処理されているカーボンブラック;低温プラズマ処理されているC.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントブルー15:3等が挙げられる。
【0043】
界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリオキシエチレンβ−ナフチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル等が挙げられる。
【0044】
親水基を有する樹脂としては、特に限定されないが、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の親水基を有するアクリル樹脂;アクリル酸、メタクリル酸、スチレン等のビニル系モノマー由来のセグメントと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド由来のセグメントを有するブロック共重合体等が挙げられる。
【0045】
着色剤として、顔料を用いる場合、顔料が水中に分散している顔料分散液を予め調製することが好ましい。
【0046】
このとき、顔料の平均粒径(D50)は、通常、10〜500nmであり、50〜200nmが好ましい。
【0047】
なお、顔料の平均粒径(D50)は、23℃、55%RHの環境下において、マイクロトラックUPA(日機装社製)を用いて測定することができる。
【0048】
染料としては、特に限定されないが、酸性染料及び食用染料、直接染料、塩基性染料、反応性染料等が挙げられ、二種以上併用してもよい。
【0049】
酸性染料及び食用染料としては、C.I.アシッド・イエロー17、23、42、44、79、142;C.I.アシッド・レッド1、8、13、14、18、26、27、35、37、42、52、82、87、89、92、97、106、111、114、115、134、186、249、254、289;C.I.アシッド・ブルー9、29、45、92、249;C.I.アシッド・ブラック1、2、7、24、26、94;C.I.フード・イエロー3、4;C.I.フード・レッド7、9、14;C.I.フード・ブラック1、2等が挙げられる。
【0050】
直接染料としては、C.I.ダイレクト・イエロー1、12、24、26、33、44、50、86、120、132、142、144;C.I.ダイレクト・レッド1、4、9、13、17、20、28、31、39、80、81、83、89、225、227;C.I.ダイレクト・オレンジ26、29、62、102:C.I.ダイレクト・ブルー1、2、6、15、22、25、71、76、79、86、87、90、98、163、165、199、202;C.I.ダイレクト・ブラック19、22、32、38、51、56、71、74、75、77、154、168、171等が挙げられる。
【0051】
塩基性染料としては、C.I.ベーシック・イエロー1、2、11、13、14、15、19、21、23、24、25、28、29、32、36、40、41、45、49、51、53、63、64、65、67、70、73、77、87、91;C.I.ベーシック・レッド2、12、13、14、15、18、22、23、24、27、29、35、36、38、39、46、49、51、52、54、59、68、69、70、73、78、82、102、104、109、112;C.I.ベーシック・ブルー1、3、5、7、9、21、22、26、35、41、45、47、54、62、65、66、67、69、75、77、78、89、92、93、105、117、120、122、124、129、137、141、147、155;C.I.ベーシック・ブラック2、8等が挙げられる。
【0052】
反応性染料としては、C.I.リアクティブ・ブラック3、4、7、11、12、17;C.I.リアクティブ・イエロー1、5、11、13、14、20、21、22、25、40、47、51、55、65、67;C.I.リアクティブ・レッド1、14、17、25、26、32、37、44、46、55、60、66、74、79、96、97;C.I.リアクティブ・ブルー1、2、7、14、15、23、32、35、38、41、63、80、95等が挙げられる。
【0053】
各色のインクジェットインクの着色剤の含有量は、通常、0.1〜50質量%であり、0.1〜20質量%が好ましい。
【0054】
ブラックのインクジェットインク及びブラック以外の色のインクジェットインクは、それぞれ、浸透剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤等をさらに含んでいてもよい。
【実施例】
【0055】
[ブラックの顔料分散液Aの調製]
CTAB比表面積が150m/g、DBP吸油量100ml/100gのカーボンブラック90gを2.5Nの硫酸ナトリウム水溶液3L中に添加し、60℃、300rpmで攪拌しながら、10時間酸化処理した後、反応液を濾過した。次に、残渣を水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、限外濾過した。さらに、残渣を水洗した後、乾燥させ、自己分散型顔料を得た。次に、自己分散型顔料を水中に分散させ、自己分散型顔料の含有量が20質量%のブラックの顔料分散液Aを得た。
【0056】
[シアンの顔料分散液Aの調製]
ピグメントブルー15:3を低温プラズマ処理して、カルボキシル基を導入した。次に、生成物を水中に分散させた後、限外濾過し、自己分散型顔料を得た。さらに、水を添加して、自己分散型顔料の含有量が15質量%のシアンの顔料分散液Aを得た。
【0057】
[マゼンタの顔料分散液Aの調製]
ピグメントブルー15:3の代わりに、ピグメントレッド122を用いた以外は、シアンの顔料分散液Aと同様にして、自己分散型顔料の含有量が15質量%のマゼンタの顔料分散液Aを得た。
【0058】
[イエローの顔料分散液Aの調製]
ピグメントブルー15:3の代わりに、ピグメントイエロー74を用いた以外は、シアンの顔料分散液Aと同様にして、自己分散型顔料の含有量が15質量%のイエローの顔料分散液Aを得た。
【0059】
[ブラックの顔料分散液Bの調製]
カーボンブラックNIPEX150−IQ(degussa社製)200質量部、ポリオキシエチレン(n=40)β−ナフチルエーテル50質量部及び水750質量部をプレミックスした後、ビーズミル分散機UAM−015(寿工業社製)を用いて分散させた。このとき、直径が0.03mmのジルコニアビーズを用いて、周速10m/s、液温30℃の条件で15分間分散させた。次に、遠心分離機Model−3600(久保山商事社製)を用いて、粗大粒子を除去して、顔料の含有量が20質量%のブラックの顔料分散液Bを得た。
【0060】
[シアンの顔料分散液Bの調製]
カーボンブラックの代わりに、ピグメントブルー15:3を用いた以外は、ブラックの顔料分散液Bと同様にして、顔料の含有量が20質量%のシアンの顔料分散液Bを得た。
【0061】
[ブラックの顔料分散液Cの調製]
滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、撹拌装置及び還流冷却管を備えた3Lの四つ口フラスコに、メチルエチルケトン1000質量部を仕込み、78℃まで昇温した後、n−ブチルメタクリレート700質量部、n−ブチルアクリレート42質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート150質量部、メタクリル酸108質量部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート80質量部の混合液を4時間で滴下し、8時間反応させた。次に、反応液を室温まで放冷した後、メチルエチルケトンを添加して、50質量%のポリマー溶液を得た。
【0062】
ポリマー溶液28g、カーボンブラック26g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g及び水30gを攪拌した後、3本ロールミルNR−84A(ノリタケカンパニー社製)を用いて混練した。得られたペーストを水200gに投入し、攪拌した後、エバポレーターを用いて、メチルエチルケトン及び水の一部を留去した。さらに、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜)を用いて粗大粒子を除去して、顔料の含有量が13質量%のブラックの顔料分散液Cを得た。
【0063】
[シアンの顔料分散液Cの調製]
カーボンブラックの代わりに、ピグメントブルー15:3を用いた以外は、ブラックの顔料分散液Cと同様にして、顔料の含有量が13質量%のシアンの顔料分散液Cを得た。
【0064】
[インクジェットインクの調製]
顔料分散液、湿潤剤としての、水溶性有機溶媒A、B、C、界面活性剤としての、パイオニンD−1007(竹本油脂社製)、ゾニールFS−300(デュポン社製)、ソフタノールEP−5035(日本触媒社製)及び水を90分間撹拌した後、平均孔径が0.8μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ブラックインク及びカラーインクを得た。
【0065】
表1に、ブラックインクの処方を示す。
【0066】
【表1】

なお、表中、数値の単位は質量%であり、界面活性剤の数値は、界面活性剤に含まれる有効成分に換算した値を意味する。
【0067】
表2に、ブラックインクの特性を示す。
【0068】
【表2】

[水分の蒸発量が30質量%である場合の粘度の測定方法]
インクジェットインクをシャーレに入れて、蒸発量が30質量%になるまで水分を蒸発させた後、粘度計RE80L(東機産業社製)を用いて、25℃で粘度を測定した。
【0069】
なお、水分の蒸発量[質量%]は、式
[(蒸発前のインクジェットインクの質量[g])−(蒸発後のインクジェットインクの質量[g])]/(蒸発前のインクジェットインクの質量[g])×100
により算出される。
【0070】
表3に、カラーインクの処方を示す。
【0071】
【表3】

なお、表中、数値の単位は質量%であり、界面活性剤の数値は、界面活性剤に含まれる有効成分に換算した値を意味する。
【0072】
表4に、カラーインクの特性を示す。
【0073】
【表4】

[保存安定性]
実施例1〜8、比較例1〜7のインクジェットインクセット(表5参照)のブラックインク及びカラーインクをインクカートリッジに充填して65℃で3週間保存し、粘度上昇及び凝集の有無を評価した。なお、ブラックインク及びカラーインクに粘度上昇及び凝集が全く認められない場合を◎、ブラックインク又はカラーインクにわずかに凝集が認められる場合を○、ブラックインク又はカラーインクに粘度上昇及び凝集が認められる場合を△、ブラックインク及びカラーインクに粘度上昇及び凝集が認められる場合を×として、判定した。
【0074】
【表5】

[間欠吐出安定性]
実施例1〜8、比較例1〜7のインクジェットインクセット(表5参照)をインクジェットプリンターIPSiO GX5000(リコー社製)に充填し、紙面全面積中、各色の印字面積が5%であるチャートを20枚連続で印字した後、20分間吐出をしない休止状態にした。この操作を50回繰り返して累計で1000枚印字した後、もう一枚チャートを印字し、不吐出、噴射乱れの有無を目視で評価した。なお、ブラックインク及びカラーインクに不吐出、噴射乱れが全く認められない場合を◎、ブラックインク又はカラーインクに若干の噴射乱れが認められる場合を○、ブラックインク又はカラーインクに明らかな噴射乱れが認められる場合を△、ブラックインク又はカラーインクに不吐出が認められる場合を×として、判定した。
【0075】
[長期放置後吐出安定性]
実施例1〜8、比較例1〜7のインクジェットインクセット(表5参照)をインクジェットプリンターIPSiO GX5000(リコー社製)に充填し、ヘッドを覆蓋して、10℃、15%RHの環境で1週間放置した後、ノズルチェックパターンを印字し、不吐出、噴射乱れの有無を目視で評価した。なお、ブラックインク及びカラーインクに不吐出、噴射乱れが全く認められない場合を◎、ブラックインク又はカラーインクに噴射乱れが認められる場合を○、ブラックインク又はカラーインクに不吐出が認められる場合を△、ブラックインク及びカラーインクに不吐出が認められる場合を×として、判定した。
【0076】
[カール]
実施例1〜8、比較例1〜7のインクジェットインクセット(表5参照)をインクジェットプリンターIPSiO GX5000(リコー社製)に充填し、印字デューティーが100%となるように印字した後、24℃、50%RHの環境で1時間放置し、カールした紙の先端から紙の接地面までの距離、即ち、カール量を定規で測定した。なお、カール量が25mm未満である場合を◎、カール量が25mm以上40mm未満である場合を○、紙の先端が紙面の内側に反り返っている場合を△、紙が丸まっている場合を×として、判定した。
【0077】
[画像濃度]
実施例1〜8、比較例1〜7のインクジェットインクセット(表5参照)をインクジェットプリンターIPSiO GX5000(リコー社製)に充填し、25℃、50%RHの環境で、Type6200紙(NBSリコー社製)にワンパスでベタ画像を印字した。X−Rite938(X−Rite社製)を用いて、ベタ画像の画像濃度を測定した。なお、画像濃度が1.0以上である場合を◎、0.8以上1.0未満である場合を○、0.6以上0.8未満である場合を△、0.6未満である場合を×として、判定した。
【0078】
[カラーブリード]
実施例1〜8、比較例1〜7のインクジェットインクセット(表5参照)をインクジェットプリンターIPSiO GX5000(リコー社製)に充填し、リコービジネスコートグロス100に画像を印字し、ブラックとカラーの境界部分の滲みを目視で評価した。なお、ブラックとカラーの境界部分で滲みが認められないか、殆ど目立たず、高品位な画像である場合を◎、ブラックとカラーの境界部分で若干の滲みが認められるが、問題ない品質の画像である場合を○、ブラックとカラーの境界部分で明らかな滲みが認められ、品質の劣った画像である場合を△、ブラックとカラーの境界部分で極度の滲みが認められ、非常に品質の悪い画像である場合を×として、判定した。
【0079】
表6に、保存安定性、間欠吐出安定性、長期放置後吐出安定性、カール、画像濃度及びカラーブリードの評価結果を示す。
【0080】
【表6】

表6から、実施例1〜8のインクジェットインクセットは、保存安定性、間欠吐出安定性、長期放置後吐出安定性、カール、画像濃度及びカラーブリードに優れることがわかる。
【0081】
これに対して、比較例1のインクジェットインクセットは、ブラックインク4及びカラーインク4が水溶性有機溶媒Aを含まないため、保存安定性、間欠吐出安定性及び長期放置後吐出安定性が低下する。
【0082】
比較例2のインクジェットインクセットは、ブラックインク5及びカラーインク5が水溶性有機溶媒Bを含まないため、カール、画像濃度及びカラーブリードが低下する。
【0083】
比較例3のインクジェットインクセットは、カラーインク6が水溶性有機溶媒Cを含むため、保存安定性、長期放置後吐出安定性及びカラーブリードが低下する。
【0084】
比較例4のインクジェットインクセットは、ブラックインク6が水溶性有機溶媒Cを含まないため、カール及びカラーブリードが低下する。また、水溶性有機溶媒Aの含有量が水溶性有機溶媒Bの含有量と同一であるため、間欠吐出安定性及び長期放置後吐出安定性が低下する。
【0085】
比較例5のインクジェットインクセットは、ブラックインク7の水溶性有機溶媒Aの含有量が水溶性有機溶媒B及び水溶性有機溶媒Cの総含有量未満であるため、保存安定性、長期放置後吐出安定性及びカラーブリードが低下する。
【0086】
比較例6のインクジェットインクセットは、カラーインク7の水溶性有機溶媒Aの含有量が水溶性有機溶媒Bの含有量を超えるため、カラーブリードが低下する。
【0087】
比較例7のインクジェットインクセットは、ブラックインク8の水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B及び水溶性有機溶媒Cの総含有量が50質量%を超えており、カラーインク8の水溶性有機溶媒A及び水溶性有機溶媒Bの総含有量が50質量%を超えているため、ブラックインク8及びカラーインク8の粘度が高くなる。その結果、保存安定性、間欠吐出安定性、長期放置後吐出安定性、画像濃度及びカラーブリードが低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0088】
【特許文献1】特開2009−40858号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラックのインクジェットインクと、ブラック以外の色のインクジェットインクを有するインクジェットインクセットであって、
前記ブラックのインクジェットインクは、水、水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B、水溶性有機溶媒C及び着色剤を含み、該水溶性有機溶媒A、該水溶性有機溶媒B及び該水溶性有機溶媒Cの総含有量が25質量%以上50質量%以下であり、該水溶性有機溶媒Aの含有量が該水溶性有機溶媒B及び該水溶性有機溶媒Cの総含有量以上であり、
前記ブラック以外の色のインクジェットインクは、水、水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B及び着色剤を含み、水溶性有機溶媒Cを含まず、該水溶性有機溶媒A及び該水溶性有機溶媒Bの総含有量が25質量%以上50質量%以下であり、該水溶性有機溶媒Aの含有量が該水溶性有機溶媒Bの含有量以下であり、
前記水溶性有機溶媒Aは、23℃、80%RHにおける平衡水分量が41質量%以上49質量%以下であり、
前記水溶性有機溶媒Bは、23℃、80%RHにおける平衡水分量が35質量%以上39質量%以下であり、
前記水溶性有機溶媒Cは、23℃、80%RHにおける平衡水分量が11質量%以上24質量%以下であり、
前記ブラックのインクジェットインクの水分の蒸発量が30質量%である場合の粘度は、前記ブラック以外の色のインクジェットインクの水分の蒸発量が30質量%である場合の粘度よりも大きいことを特徴とするインクジェットインクセット。
【請求項2】
前記ブラックのインクジェットインクに含まれる水溶性有機溶媒A、水溶性有機溶媒B及び水溶性有機溶媒Cの少なくとも一つが多価アルコールであり、
前記ブラック以外の色のインクジェットインクに含まれる水溶性有機溶媒A及び/又は水溶性有機溶媒Bが多価アルコールであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットインクセット。
【請求項3】
前記ブラック以外の色は、マゼンタ、シアン又はイエローであることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットインクセット。
【請求項4】
前記ブラックのインクジェットインク及び前記ブラック以外の色のインクジェットインクに含まれる水溶性有機溶媒Aがグリセリンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインクジェットインクセット。
【請求項5】
前記着色剤は、表面に親水基を有する顔料、界面活性剤により分散している顔料又は顔料と親水性基を有する樹脂を含む着色粒子を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のインクジェットインクセット。
【請求項6】
ブラックのインクジェットインクが収容されているインクカートリッジと、ブラック以外の色のインクジェットインクが収容されているインクカートリッジを有するインクカートリッジセットであって、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のインクジェットインクセットを有することを特徴とするインクカートリッジセット。
【請求項7】
ブラックのインクジェットインクを吐出する手段と、ブラック以外の色のインクジェットインクを吐出する手段を有するインクジェット記録装置であって、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のインクジェットインクセットを有することを特徴とするインクジェット記録装置。

【公開番号】特開2013−10823(P2013−10823A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142964(P2011−142964)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】