説明

インクジェットインク及びインクジェット記録方法

【課題】色再現性に優れ、深みのある濃い赤を布帛上に表現し、保存安定性に優れ、高速印刷にも対応可能なインクジェットインク、及び該インクを用いたインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】染料としてC.I.No.アシッドレッド447を6〜12質量%、水、かつ溶剤としてグリコールエーテルの少なくとも1種及び多価アルコールの少なくとも2種を含むことを特徴とするインクジェットインク。該インクジェットインクの粘度が4〜7mPa・sであることが好ましい。
上記インクジェットインクを用い、ヘッドの駆動周波数が10〜30kHz、かつ出射量が15〜30ng/滴で記録することを特徴とするインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットインクに関し、詳しくは、色再現性に優れ、深みのある濃い赤を布帛上に表現し、保存安定性に優れ、高速印刷にも対応可能な捺染用酸性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式による画像の印刷方法は、インクの微小液滴をインクジェット記録ヘッドより飛翔させ、対象となる記録媒体に付着させて印刷を行う方法である。インクジェット方式は、その機構が比較的簡便で、安価であり、かつ高精細で高品位な画像を形成させることが利点である。
【0003】
この利点を生かして、布帛への画像印字、所謂インクジェット捺染についても開発が進められている。インクジェット捺染は、従来の捺染とは異なり、版を作製する必要がなく、手早く階調性に優れた画像を形成できる利点を有する。更に、形成画像として必要な量のインクのみを使用するために、従来方式に比較すると廃液が少ない等の環境的利点も有し、優れた画像形成方法であると言える。
【0004】
上記インクジェット捺染の中でもポリアミド繊維を主体とする布帛への画像形成方法として、酸性染料を用いる方法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0005】
インクジェット捺染の場合の重要特性としては、その印刷物の画質として高濃度の発色ができることであり、インクとしては目詰まり等の発生がなく、安定に出射できること、長期保存しても安定であることが挙げられる。特に発色濃度については、紙等を対象としたインクジェット記録方法に比べ、布帛への印字は画像濃度が出難いという課題を有している。これは、吐出したインクの布内部への浸透が起こり易いこと、印字された染料の全てが定着されないこと等に起因している。高い画像濃度を達成する手段としては、使用するインク染料濃度を高める方法が一般に採られるが、出射安定性や、インク保存安定性を劣化させる等の問題を有しているため、画像濃度と安定性の両立には到っていないのが現状である。
【0006】
又、濃度以外の重要な要件として色再現性がある。単独で良好な色再現性を有しているインク組成物を用いても、重ね打ちによって発現できる2次色の場合、良好な色再現を期待できないことがある。又、重ね打ちによるインク量増大によって、布帛中に残存するインク溶剤によって滲みが発生することがある。このため、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックを基本とするインク構成以外に、これらの混合によって得られるレッド、ブルー、グリーン等のインクを併用することによって、インク打込み量の減量と色再現性の向上を図ることができる。
【0007】
例えば、イエロー、オレンジ、レッド、マゼンタ、ブルー及びシアンから選ばれる1色とブラックインクをインクジェット方式によって布帛に付与し、混色部を持つ黒色部を形成する技術が開示されている(例えば特許文献3参照)。その中で、レッドインクとして、C.I.アシッドレッド35,114,127,145,266,318,337,361から選ばれる染料を用いることが記されている。又、同様に布帛上に赤色を付与するのに用いるレッドインクとして、C.I.アシッドレッド35,106,114,127,143,143:1,145,249,254,265,266,274,318,337,341,361を使用する技術が開示されている(例えば特許文献4参照)。
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、上記のC.I.アシッドレッドNo.の染料では、発色濃度と出射安定性の両立が困難であることが判明した。
【特許文献1】特開昭62−253659号公報
【特許文献2】特開昭62−253660号公報
【特許文献3】特許3011830号公報
【特許文献4】特許3234643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の課題は、ポリアミド繊維を捺染するための、色再現性に優れ、堅牢性が高く、しかも保存安定性に優れたインクジェットインク(以下、単にインクとも言う)及び該インクを用いたインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の構成により解決することができた。
1.
染料としてC.I.No.アシッドレッド447を6〜12質量%、水、かつ溶剤としてグリコールエーテルの少なくとも1種及び多価アルコールの少なくとも2種を含むことを特徴とするインクジェットインク。
2.
グリコールエーテルとしてジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGEE)、ジエチレングリコールモノブチルチルエーテル(DEGBE)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(TEGEE)、トリエチレングリコールモノブチルチルエーテル(TEGBE)の中から選ばれ、多価アルコールとしてエチレングリコール(EG)、グリセリン(GLY)、プロピレングリコール(PG)、2−メチルペンタン−2,4−ジオール(MPDO)の中から選ばれることを特徴とする前記1項記載のインクジェットインク。
3.
インクジェットインクの粘度が4〜7mPa・sであることを特徴とする前記1又は2項記載のインクジェットインク。
4.
前記1〜3項の何れか1項記載のインクジェットインクを用い、ヘッドの駆動周波数が10〜30kHz、かつ出射量が15〜30ng/滴で記録することを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の捺染用インクを使用することで、鮮やかで深みのある濃い赤色を布帛上に表現し、保存安定性に優れ、高速でも安定に印捺できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明において使用する捺染インクは、色素、水、有機溶剤、添加剤等から成る。
【0014】
まず、本発明の効果を発現するために必要な染料について説明する。
【0015】
本発明者らの検討の結果、印字後の濃度、インクとしての保存安定性、高速印字適性を確保できる染料として、C.I.アシッドレッド447が好ましいことが判った。更に、本発明の効果を得るためには染料濃度として6〜12%を限定している。これは、6%未満の場合には布帛への印字後濃度が低く、逆に12%より大きい場合は染料析出等などによる保存安定性が劣化するため、上記の様に染料濃度を規定している。
【0016】
本発明においては、インク溶剤として水溶性有機溶剤であるグリコールエーテルの少なくとも1種と多価アルコールの少なくとも2種を含有することが必須である。
【0017】
グリコールエーテル類としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0018】
又、多価アルコール類としては、エチレングリコール、グリセリン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
【0019】
本発明らの検討の結果、多価アルコール1種のみの使用だと高速印刷での出射安定性が悪いことが判った。
【0020】
その他に併用できる溶剤としては、アミン類(エタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エタノール等)、1価アルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール等)、2,2′−チオジエタノール、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド等)、複素環類(2−ピロリドン等)、アセトニトリル等が挙げられる。
【0021】
これらの溶剤によって、出射安定性、高速印字性が向上するが、浸透性にも優れることで、捺染の場合、印字後の飽和蒸気中での定着処理及び水洗後に、印字したくない部分に色材が付着してしまう白地汚染が起き難いことも判った。
【0022】
上記水溶性有機溶剤量としては、全インク質量に対して10〜60質量%が好ましい。10%未満の場合、ノズル面が過度に乾燥し出射安定性が低下する。又、60%より高い場合には乾燥性が著しく低下する。
【0023】
本発明に係るインクの粘度としては4〜7mPa・sが好ましい。粘度をこの範囲にすることで、出射安定性を保ち、滲みや白地汚染の発生を抑制できる。粘度は、インクを25℃に調整し、振動式粘度計(山一電機社製:VMIG−L)を用いて測定した。
【0024】
インクの粘度や染料を安定に保つため、又、発色を良くするために、インク中に無機塩を添加してもよい。無機塩としては、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、硫化マグネシウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明のインクには、上記無機塩の他にキレート剤を添加してもよい。好ましく用いられるキレート剤としては、市販のよく知られるキレート剤でよく、例えばエチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミンジ−o−ヒドロキシフェニル酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、イミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ジアミノプロパノール四酢酸、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1,1−ジホスホノエタン−2−カルボン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、1−ヒドロキシ−1−ホスホノプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、カテコール−3,5−ジホスホン酸、ピロリン酸、テトラポリ燐酸、ヘキサメタ燐酸及びこれらの金属塩、有機塩基塩等が挙げられる。特に好ましくは、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ三酢酸等である。
【0026】
キレート剤における二つの酸性基を持つ配位子としては、例えばマロン酸、蓚酸、フタル酸、グリコール酸、サリチル酸がある。一つの酸性基と一つの非酸性配位基を持つ配位子としては、例えば8−キノリノール、アセチルアセトン、トリフルオロアセトン、ジメチルグリオキシム、ジチゾン、サリチルアルデヒドがある。二つの非酸性配位基を持つ配位子としては、エチレンジアミン、2,2′−ビピリジン、1,10−フェナントロリン等がある。
【0027】
又、界面活性剤として、陽イオン性、陰イオン性、両性、非イオン性の何れも用いることが出来る。
【0028】
陽イオン性界面活性剤としては、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0029】
陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸石鹸、N−アシル−N−メチルグリシン塩、N−アシル−N−メチル−β−アラニン塩、N−アシルグルタミン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、第2級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテル燐酸エステル塩、アルキル燐酸エステル塩等が挙げられる。
【0030】
両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0031】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えばエマルゲン911)、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例えばニューポールPE−62)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール等が挙げられる。
【0032】
これらの界面活性剤を使用する場合、単独又は2種類以上を混合して用いることが出来、インク全量に対して0.001〜1.0質量%を添加することで、インクの表面張力を任意に調整することができ好ましい。
【0033】
インクの長期保存安定性を保つため、防腐剤、防黴剤をインク中に添加してもよい。防腐剤・防黴剤としては、芳香族ハロゲン化合物(例えばPreventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(例えばPROXEL GXL)等が挙げられる。
【0034】
本発明に使用する布帛を構成する素材としては、ポリアミド繊維を含有するものである。中でもナイロン、絹、羊毛が好ましい。上記繊維は織物、編物、不織布等、何れの形態でも使用できる。布帛は、ポリアミド繊維100%のものが好適であるが、混紡率30%以上、好ましくは50%以上であれば、ポリアミド繊維と他の素材、例えばレーヨン、綿、アセテ−ト、ポリウレタン、アクリル等との混紡織布又は混紡不織布等も捺染用布帛として使用することができる。
【0035】
布帛を構成するポリアミド繊維及び該繊維から成る糸の物理特性としては好適な範囲があり、例えばナイロンの場合、ナイロン繊維の平均太さが1〜10d(デニール)、更に好ましくは2〜6dに制御され、該ナイロン繊維から構成されるナイロン糸の平均太さが20〜100d、より好ましくは25〜80d、更に好ましくは30〜70dに制御されたものである。又、絹の場合は、繊維自体の特性として絹繊維の平均太さが2.5〜3.5d、更に好ましくは2.7〜3.3dに制御され、該絹繊維から構成される絹糸の平均太さが14〜147d、更に好ましくは14〜105dに制御され、公知の方法により布帛としたものがよい。
【0036】
上記のような本発明に使用する捺染用布帛は、必要に応じて従来の前処理法を併用することができる。特に、尿素、水溶性金属塩、水溶性高分子等を0.01〜20質量%含有させたものが好ましい。
【0037】
上記水溶性高分子としては、トウモロコシ、小麦等の澱粉物質、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系物質、アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、タマリンド種子等の多糖類、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質物質、タンニン系物質、リグニン系物質等の公知の天然水溶性高分子が挙げられる。又、合成高分子としては、公知のポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系水溶性高分子、無水マレイン酸系水溶性高分子等が挙げられる。これらの中でも、多糖類系高分子やセルロース系高分子が好ましい。
【0038】
水溶性金属塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化物のように、典型的なイオン結晶を形成するものであって、pH4〜10である化合物が挙げられる。係る化合物の代表例としては、アルカリ金属ではNaCl、Na2SO4、KCl、CH3COONa等が挙げられ、アルカリ土類金属としてはCaCl2、MgCl2等が挙げられる。中でも、Na、K、Caの塩類が好ましい。
【0039】
撥水剤としては、パラフィン系、弗素系化合物、ピリジニウム塩類、N−メチロールアルキルアミド、アルキルエチレン尿素、オキザリン誘導体、シリコーン系化合物、トリアジン系化合物、ジルコニウム系化合物、又はこれらの混合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら撥水剤の中でも、パラフィン系及び弗素系撥水剤が、滲み防止、濃度の点において特に好ましい。
【0040】
撥水剤は布帛に対して0.05〜40質量%付与することが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%の範囲である。これは、0.05質量%未満ではインクの過度の浸透を防止する効果が少なく、40質量%を超えて含有させても性能的に大きな変化がないからである。界面活性剤としては、アニオン系、非イオン系や両性界面活性剤等が使用できる。
【0041】
アニオン系界面活性剤としては、スルホン酸型、カルボン酸型、硫酸エステル型、燐酸エステル型等が挙げられ、スルホン酸型としてはアルキルスルホネート系、アルキルアリルスルホネートエステル系のスルホネート系界面活性剤等、カルボン酸型としては石鹸、脂肪蛋白質縮合物等、硫酸エステル型としては高級アルコール硫酸エステル、高級アルコールEO付加物硫酸エステル、オレフィンの硫酸エステル、脂肪酸の硫酸エステル等、燐酸エステル型としては高級アルコール燐酸エステル、高級アルコールEO付加物燐酸エステル等が挙げられる。
【0042】
非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル、アセチレングリコール等のエーテル型や、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のエステル型、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のアミノエーテル型、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型等を使用することができる。特にHLB12.5以上、好ましくは14以上の非イオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0043】
両性界面活性剤としてはベタイン型等を使用することができる。界面活性剤は布帛に対して0.01〜30質量%付与することが好ましい。更に、使用する染料の特性等に応じて還元防止剤、酸化防止剤、均染剤、濃染剤、キャリヤー、還元剤、酸化剤といった添加剤を入れることが好ましい。
【0044】
前処理において上記物質等を布帛に含有させる方法は、特に制限されないが、通常行われる浸漬法、パッド法、コーティング法、スプレー法、インクジェット法等を挙げることができる。
【0045】
布帛に印字を行うインクジェット捺染方法は、インク出射後印字された布帛を巻き取り、加熱により発色し、布帛を洗浄、乾燥させることが望ましい。インクを布帛に印字し、ただ放置して置くだけでは上手く染着しない。又、長尺の布帛に長時間印字し続ける場合などでは、布帛が延々と出て来るため、床などに印字した布帛が重なって場所を取るし、それは不安全であり、又、予期せず汚れてしまう場合がある。そのために、印字後、巻き取る操作が必要となる。この操作時に、布帛と布帛の間に、紙や布、ビニール等の印字に関わらない媒体を挟んでも構わない。ただし、途中で切断する場合や短い布帛に対しては、必ずしも巻き取る必要はない。
【0046】
インク組成物の付着を受けた布帛は、好ましくは後処理に付され、酸性染料の繊維への定着を促進させ、その後、定着しなかった着色剤、その他のインク成分、前処理剤を十分除去することが好ましい。本発明の好ましい態様によれば、後処理は幾つかの工程に別れる。まず、インク組成物を布帛に付着させた後、この布帛を常温〜150℃に0.5〜30分放置し、インク組成物を予備乾燥することが好ましい。この予備乾燥により印捺濃度を向上させ、かつ滲みを有効に防止できる。尚、この予備乾燥とは、インク組成物が布帛中に浸透することも含む。
【0047】
本発明の好ましい様態によれば、前記予備乾燥を連続工程で加熱乾燥することも可能である。布帛をロール状にしてインクジェット印捺機に供給して印捺し、その後、印捺布を巻き取る以前に乾燥工程を通す。乾燥機は印捺機に直結してもよく、分離したものでもよい。乾燥機における乾燥は150℃以下で0.5〜30分行われることが好ましい。又、好ましい乾燥方法としては、空気対流方式、加熱ロール直付け方式、照射方式等が挙げられる。
【0048】
本発明の好ましい態様によれば、後処理工程の内、定着工程は布帛の種類によって、その条件、特に、時間を変化させることが好ましい。例えば、布帛が羊毛である場合、時間は20〜120分が好ましく、より好ましくは30〜90分程度である。又、布帛が絹である場合、時間は5〜40分が好ましく、より好ましくは15〜30分程度である。更に、布帛がナイロンである場合、5〜90分程度が好ましく、より好ましくは10〜60分程度である。
【0049】
このようにしてインクジェット記録されたインクの中の大部分の染料は布帛に固着するが、この中の一部の染料は繊維に染着しないものがある。この未固着染料は洗い流して置くことが好ましい。未固着染料の除去は、従来公知の洗浄方法が採用できる。数10〜100℃の湯を使用したり、アニオン、ノニオン系のソーピング剤を使用することが好ましい。未固着の色材が完全に除去されないと、洗濯堅牢性、耐水堅牢性、耐汗堅牢性において良好な結果が得られない場合がある。
【0050】
洗浄後は乾燥が必要である。洗浄した布帛を絞ったり脱水した後、干したり、あるいは乾燥機、ヒートロール、アイロン等を使用して乾燥させる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例より本発明をより具体的に説明するが、本発明の態様はこれに限定されるものではない。尚、特に断りない限り、実施例中の「%」は「質量%」を表す。
【0052】
〈インクの作製〉
表1に示すように、染料、溶剤を用いてインクA〜Sを調製した。尚、各インクの表面張力は、サーフィノール465(エアプロダクツ社製)を添加することで30〜35mN/mに調整した。又、防腐剤としてプロキセルGXL(アビシア社製)を一律に0.5%添加した。表1にインクA〜Sの内容を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表中の溶剤略号は以下の通りである。
【0055】
PGMME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
DEGEE:ジエチレングリコールモノエチルエーテル
DEGBE:ジエチレングリコールモノブチルチルエーテル
TEGEE:トリエチレングリコールモノエチルエーテル
TEGBE:トリエチレングリコールモノブチルチルエーテル
TEG:トリエチレングリコール
EG:エチレングリコール
PG:プロピレングリコール
MPDO:2−メチルペンタン−2,4−ジオール
GLY:グリセリン
〈インク性能評価〉
上記の様に調製したインクA〜Sを用いて試料101〜119を作製し、以下に示す評価を行った。
【0056】
《インクの保存安定性》
各インクをガラスビンに入れて密栓し、40℃の恒温槽中に3日間保存した後、インク中に異物が発生するか否かを目視にて確認し、下記の基準に則り保存安定性の評価を行った。
【0057】
◎:異物の発生が全く認められない
○:微量の異物の発生が認められるが、実用上問題ないレベル
△:異物の発生が認められ、実用上問題となる品質
×:明らかな異物の発生が認められ、著しい問題となる品質。
【0058】
〈プリント画像の形成及び評価〉
(絹布の前処理)
絹布(120g/m2)に20g/Lのアルギン酸ナトリウム及び100g/Lの尿素を含む液体をパッド塗布(絞り率70%)した後、乾燥した。
【0059】
(インクジェットプリント)
各インクを用いて、インクジェットプリンタ(Nassennger−V:コニカミノルタ社製,ヘッド駆動周波数8kHz,インク出射量20ng/滴)にて上記前処理した絹布上にベタ画像をプリントした。
【0060】
(定着処理)
プリントした絹布を25℃・RH(相対湿度)50%の環境下で24時間放置した後、103℃の飽和蒸気中で12分間の定着処理を行い、次いで冷水で10分、ソーピング剤、炭酸ナトリウム処理した40℃の溶液で5分、40℃の温水で5分、更に冷水で10分濯いだ後、乾燥して定着処理した。
【0061】
《画像濃度》
未プリントの絹布をプリント布絹と同様の定着処理を行い、20枚重ねた上に、プリント絹布を置き、濃度計(X−Rite938 Spectrodensitometer:X−Rite社製)を用いて、レスポンスTにおける画像濃度を測定し、下記の基準に則り判定した。
【0062】
◎:画像濃度が1.5以上であり品質上問題なし
○:画像濃度が1.0以上、1.5未満であるが品質上問題なし
△:画像濃度が0.5以上、1.0未満であり品質上問題あり
×:画像濃度が0.4未満で実用不可。
【0063】
《色再現性》
インクジェットプリンタで30cm×30cmの単色ベタ画像のパッチを3枚印刷し、それぞれ個別に発色、洗浄処理を行い、3枚の色相変化及び画像の均一性について目視観察を行い、下記の基準に則り色再現性を評価した。
【0064】
◎:3枚のパッチ間で完全に同じ色相の印刷物が再現され、かつ画像均一性も高い
○:1枚のパッチ又はその一部で色相が異なる部分があるが、品質上問題なし
△:1枚のパッチ又はその一部で色相が異なり、品質上問題あり
×:3枚共に、それぞれ色相が異なり、かつ画像均一性に欠ける
結果を併せて表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
表2から判るように、本発明のインクを用いることで、色再現性、濃度、インク保存性が向上している。
【0067】
〈高速印刷適性の評価〉
表1に記載のインク種Oを用いて、表3に示す高速印刷を行い、飛翔曲がりとサテライトの発生を評価した。
【0068】
《飛翔曲がり》
表3記載のように、駆動周波数、出射量を変化させ、ノズル数128個のインクジェットヘッドからインクを吐出させ、吐出状態をストロボ発光方式の観察装置を用いて、吐出と発光の同期を撮影することにより観察した。この時のノズルプレートとの垂線方向からの角度のズレが3度以上あるノズルを曲がりがある状態として、以下のランク付けを行った。
【0069】
◎:128個のノズル全てで曲がりがなく正常である
○:1〜5個のノズルで曲がりがある
△:6〜10個のノズルで曲がりがある。
【0070】
《サテライト》
表3記載のように、駆動周波数、出射量を変化させ、ノズル数128個のインクジェットヘッドをインクジェットプリンタに搭載し、100ドットを記録した。サテライト(主ドットから離れて記録されている主ドットに比較して小さいドット)の個数を数えた。記録媒体には上記絹布を用い、以下の基準で評価した。
【0071】
◎:サテライトが全く発生していない
○:サテライトの発生が10個未満
△:サテライトの発生が10個〜50個未満
結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3から判るように、ヘッドの駆動周波数を10〜30kHz、インク出射量を15〜30ng/滴に規定することにより、サテライトの発生、飛翔曲がりが抑制され、高速印字適性に優れることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料としてC.I.No.アシッドレッド447を6〜12質量%、水、かつ溶剤としてグリコールエーテルの少なくとも1種及び多価アルコールの少なくとも2種を含むことを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
グリコールエーテルとしてジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGEE)、ジエチレングリコールモノブチルチルエーテル(DEGBE)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(TEGEE)、トリエチレングリコールモノブチルチルエーテル(TEGBE)の中から選ばれ、多価アルコールとしてエチレングリコール(EG)、グリセリン(GLY)、プロピレングリコール(PG)、2−メチルペンタン−2,4−ジオール(MPDO)の中から選ばれることを特徴とする請求項1記載のインクジェットインク。
【請求項3】
インクジェットインクの粘度が4〜7mPa・sであることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットインク。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載のインクジェットインクを用い、ヘッドの駆動周波数が10〜30kHz、かつ出射量が15〜30ng/滴で記録することを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2008−266537(P2008−266537A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115291(P2007−115291)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】