説明

インクジェットインク画像形成用染料セット

本発明は、6インクジェットインクを有するインクセットをはじめとする、インクジェットインクを調合するための染料セットに関する。一実施形態では、染料セットは、イエローインクを調合するためのイエロー染料と、マゼンタインク及び淡色マゼンタインクを調合するための一対のマゼンタ染料と、シアンインク及び淡色シアンインクを調合するための一対のシアン染料と、ブラックインクジェットインクを調合するためのブラック染料とを含み得る。一対のマゼンタ染料は、遷移金属含有アゾ染料と非金属化染料であり得る。一対のシアン染料は、第1銅フタロシアニン染料と、第1銅フタロシアニン染料とは異なる第2銅フタロシアニン染料であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット画像の分野に関する。より詳細には、本発明は、高い色域体積、適切な色相値、高い彩度、及び/又は低ブロンズ現象を維持する一方、改善された空気褪色耐性及び耐光性をもたらすよう構成された染料セットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェットインクは、染料系又は顔料系インクのいずれかである。両方とも、典型的には、染料及び/又は顔料を含むインクビヒクルにて調製される。染料系インクジェットインクは、一般に、媒体を特定の色に変えるのに、通常は、水をベースとする可溶性着色剤を用いる。一方、顔料着色インクは、典型的に、不溶性若しくは分散性の着色剤を用いて色を得る。
【0003】
染料含有インクのカラー特性は、印刷されたインクジェット画像の品質に重要な役割を果す。感知されるカラー品質は、当分野で周知の、CIELABのような、幾つかの色空間系の1つを用いて表すことができる。CIELAB色空間に関しては、色は、3つの語、即ち、L、a、及びbを用いて定義される。この系では、Lは、色の明度を定義し、0から100(100はホワイトである)の範囲にある。また、語a及びbは、共に色相を定義し、aは、負の数(グリーン)から正の数(レッド)の範囲にあり、そしてbは、負の数(ブルー)から正の数(イエロー)の範囲にある。当業者に周知のように、所与の色をさらに記述するのにh°(色相角)及びC(彩度)のような他の語も使われる。良好な彩度、色域、色相角、及び耐光性を有する第1カラーの単一インクジェットインクは、その他のカラーと共に使用するには必ずしも最適とはいえない。換言すれば、個別のカラー、即ち、シアン、マゼンタ、又はイエローが許容されるカラー品質を有さねばならないだけではなく、それが用いられるインクセットもまた、そのインクジェットインクが許容し得る態様にて機能するか否かにおいて主要な役割を果たす。このように、インクセット用として一定の染料を共に適切に用いることによって、画像品質を改善することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、諸特性が改善されており、且つ他の特性をさほど犠牲にすることなくそれらの特性が改善されている染料セットを開発する研究が続けられている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
典型的なインクビヒクル並びにより具体的なインクビヒクルにて用いることができ、且つ許容し得る空気褪色耐性、色域、耐光性、彩度、信頼性、材料適合性、噴射特性等を呈する染料セットを開発することが有益であろうと考えられる。それ故、インクジェットインクを調合するための染料セットは、以下の式Iの構造を有するブラック染料を含むことができる。
【0006】
【化11】

【0007】
該染料セットにはさらに、シアン染料、マゼンタ染料、及びイエロー染料から成る群から選択される少なくとも1つのカラー染料もまた含まれ得る。
【0008】
存在し得るシアン染料は、以下の式IIに示される構造を有する。
【0009】
【化12】

【0010】
式中、各R基は、平均2〜6のR基がH以外であるという条件付きで、個々独立してH、SOH、SONH、及びSONH−アルキル−OHから成る群から選択される。この特定の実施形態においては、SOH、SONH、及びSONH−アルキル−OH基が平均いくつ存在するかに関しては特別の制限はない(但し、全ての基が平均2〜6存在する)。
【0011】
存在し得るマゼンタ染料は、以下の式IIIに示す構造のNi2+錯体である。
【0012】
【化13】

【0013】
存在し得るイエロー染料は、以下の式IVに示す構造を有する。
【0014】
【化14】

【0015】
他の実施形態では、インクジェット調合用の染料セットは、第1シアン染料と第2シアン染料とを含み、その各々は、以下の式IIに示す同じ一般化学式を有する。
【0016】
【化15】

【0017】
式中、各R基は、平均2〜6のR基がH以外であるという条件付きで、個々独立してH、SOH、SONH、及びSONH−アルキル−OHから成る群から選択される。第1シアン染料は、平均0.25〜1.5未満のSONH−アルキル−OH基を有することができ、且つ第2シアン染料は、平均1.5〜3のSONH−アルキル−OH基を有し得る。
【0018】
他の実施形態において、染料セットは、マゼンタインクと淡色マゼンタインクを調合するための一対のマゼンタ染料を含み、ここで、マゼンタインクを調合するのに前記一対のマゼンタ染料が使用され、且つ淡色マゼンタインクを調合するのに前記一対のマゼンタ染料のうちの一方のみが使用される。
【0019】
さらに他の実施形態では、少なくとも6つのインクジェットインクを有するインクセットを調合するための染料セットは、イエロー染料、一対のマゼンタ染料、一対のシアン染料、及びブラック染料を含むことができる。一対のマゼンタ染料は、マゼンタインク及び淡色マゼンタインクを調合するのに用いることができ、ここで、一対のマゼンタ染料は、遷移金属含有アゾ染料と非金属化染料である。一対のシアン染料は、シアンインクと淡色シアンインクを調合するのに用いることができ、ここで、一対のシアン染料は、第1銅フタロシアニン染料と、第1銅フタロシアニン染料とは異なる第2銅フタロシアニン染料である。
【0020】
本発明の他の特徴及び利点は、例示目的で本発明の特徴を示す詳細な説明から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を開示、記述する前に、本発明が、ここに開示する特定の処理ステップ並びに材料に限定されないことを理解されたい。それらの処理ステップ並びに材料は、ある程度変更し得るからである。また、ここで用いる用語は、特定の実施形態を専ら記述するだけの目的で用いられることも理解されたい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲並びにその等価物によってのみ限定され、その用語に限定の意はない。
【0022】
本明細書並びに添付の特許請求の範囲において用いられるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、別途明確に指示のない限り、複数形の意味を包含することに留意されたい。
【0023】
ここで用いるとき、「ビヒクル」とは、インクを形成するにあたり、着色剤がその中に入れられる液体を指す。液体ビヒクルは、当分野においてよく知られており、種々のタイプのインクビヒクルを本発明の実施形態に従って用いることができる。液体ビヒクルは、限定はしないが、界面活性剤、有機溶媒及び共溶媒、緩衝剤、殺生物剤、粘度修正剤、金属イオン封止剤、安定化剤、抗コゲーション剤、及び水をはじめとする、様々な薬剤の混合物から構成することができる。それら自体は液体ビヒクルの一部ではないが、着色剤に加えて、液体ビヒクルは、ポリマー、ラテックス、UV硬化性材料、可塑剤、塩等のような固体添加物を保持することができる。
【0024】
用語「金属化染料」には、染料構造の必須部分として染料分子にキレート化されたり、配位したり、又は錯化する、遷移金属を有する染料が包含される。金属化染料には、単に金属対イオンを含む染料は包含されない。例えば、DB199Naは、ナトリウム対イオンを有する銅フタロシアニン染料である。ナトリウム対イオンではなく、その銅成分によって、この染料は「金属化」染料にされる。
【0025】
同様に、用語「非金属化染料」とは、染料分子にキレート化されたり、配位したり、又は錯化する、遷移金属を含まない染料を指す。従って、AR52Naは、Acid Red 52のナトリウム塩であるが、本発明の実施形態によれば、金属化されているとは考えられない。
【0026】
淡色シアンインク及び淡色マゼンタインクについていう用語「淡色」とは、インクを、その非淡色相当物と比較した場合の、比較上の用語である。例えば、淡色マゼンタは、それが比較されるマゼンタインクよりも高いL値を有することになろう。同様に、淡色シアンインクも、それが比較されるシアンインクよりも高いL値を有することになろう。Lのカラー空間の他の値もまた、要求はされないが、任意に変更し得る。
【0027】
数値又は範囲についていう用語「約」は、測定実施時に生じ得る実験誤差から生ずる値を包含する意がある。
【0028】
本書においては、比、濃度、量、分子サイズ等のような数値を範囲形式で表示する場合がある。そのような範囲形式は、単に便利且つ簡潔のために用いられるものであり、従って、範囲の限界値として明記した数値を含むだけでなく、各数値及び副範囲が明記されているかのように、その範囲内に包含される個別の数値又は副範囲を全て包含するものと柔軟に解釈されるべきであることを理解されたい。例えば、約1wt%〜約20wt%という重量範囲は、1wt%〜約20wt%という明記された濃度限界を含むだけではなく、2wt%、3wt%、4wt%のような個別の濃度、並びに5wt%〜15wt%、10wt%〜20wt%等のような副範囲を含むものと解釈されるべきである。
【0029】
このことを銘記して、本発明は、インクジェットイメージングの分野に関する。より詳細には、本発明は、インクジェットインクのビヒクルに用いられる染料セットに関する。これらの染料セットは、その幾つかはそれら自体独自性のある複数の染料を含み、且つ本発明の染料セットとの関連においては全てに独自性がある。染料セットを構成する各染料を個別に説明するが、これらの染料が、本書では主としてそれらの各染料セットと関連して提示されていることは理解されよう。さらに、インク又はインクジェットインクについては、染料は、その各インクを形成するべく、液体ビヒクル内で混合されることは理解されよう。説明するように、染料セットは、液体ビヒクルへの添加のために、個別に存在又は混合され得る染料の組合せである。染料セットの各染料又は染料ブレンドは、同じか又は類似する種類の液体ビヒクル中に存在させ得、又は各染料又は染料ブレンドは、特有の調合を有する別個の液体ビヒクル中に存在させ得る。さらに、ここでは特定の染料セットの組合せを記載するが、種々の追加の染料を染料セットに任意に付加し得る(追加のインクを形成するべく又は通常のインクの染料セットの染料と組み合わせるべく)ことは理解されたい。例えば、染料セットの染料はさらに、それと混合される、DB199、Acid Blue染料、Direct Blue染料等のような他のフタロシアニン染料を含み得る。ブラック、マゼンタ、及びイエロー染料に関する他の組合せもまた、本発明の実施形態に従って利用し得る。
【0030】
一般に、本書に記載する染料セットは、インクジェットインクの長期信頼性をもたらす個々の染料を含む。特定の液体ビヒクルにおけるそれらの高い信頼性のために、それらは、より多くの在来プリンタにも使用し得るとはいえ、オフアクシスプリンタでの使用に適している。オフアクシスプリンタは、半永久的なインクジェット印刷ヘッドを具備し、そしてインクサプライだけが交換されるため、印刷ヘッドの長期信頼性を実現する必要がある。従って、特定の染料(及び関連する液体ビヒクル)の選択は、この目標を達成するうえで重要である。さらに、空気褪色及び光退色の両方に耐性のある、比較的堅牢な印刷物を生成するのに用い得る染料セットの染料を提供することも望ましい。本発明の染料セットは、特殊写真紙(例えば、膨潤性且つ無機多孔性媒体)上における良好な写真画像品質、並びに普通紙上に印刷される際の良好な画像品質との間で良好なバランスをもたらす。
【0031】
従って、一実施形態では、インクジェットインクを調合するための染料セットは、以下の式Iの構造を有するブラック染料を含み得る。
【0032】
【化16】

【0033】
さらに、シアン染料、マゼンタ染料、及びイエロー染料から成る群から選択される、少なくとも1つのカラー染料もまたその染料セット中に含まれ得る。
【0034】
当該シアン染料は、以下の式IIに示す構造を有する。
【0035】
【化17】

【0036】
ここで、各R基は、平均2〜6のR基がH以外であるという条件付きで、個々独立してH、SOH、SONH、及びSONH−アルキル−OHから成る群から選択される。この特定の実施形態においては、SOH、SONH、及びSONH−アルキル−OH基が平均いくつ存在するかに関しては特別の制限はない(但し、全ての基が平均2〜6存在する)。
【0037】
当該マゼンタ染料は、以下の式IIIに示す構造のNi2+錯体である。
【0038】
【化18】

【0039】
当該イエロー染料は、以下の式IVに示す構造を有する。
【0040】
【化19】

【0041】
式Iのブラック染料は、フルカラーの染料セットにおける使用に有用であり、また、優れた黒色テキスト印刷能をもたらす。さらに、このブラック染料は、普通紙、並びに無機多孔質被覆媒体及び膨潤性媒体のような写真媒体上において優れた光学濃度を有し、且つ特定の液体ビヒクル中にて調合することによってレーザー品質の黒色テキストを形成し得る。
【0042】
別の実施形態では、インクジェットインクを調合するための染料セットは、第1シアン染料と第2シアン染料を含み、ここで、各々は同じ一般化学式を有するが、式IIに示すように、芳香環構造に結合されるある種の垂れ下がり官能基(pendent functional group)に関しては異なっている。
【0043】
【化20】

【0044】
上式IIにおいて、染料は、銅(II)フタロシアニン核を含む。第1シアン染料と第2シアン染料の両方に関して、ここに開示する2つの特定の染料間の差異を画定するのは、R基の選択である。両染料に関して、各R基は、平均2〜6のR基がH以外であるという条件付きで、個々独立してH、SOH、SONH、及びSONH−アルキル−OHから成る群から選択される。しかしながら、この特定の実施形態においては、第1シアン染料に関しては、平均0.25〜1.5未満のSONH−アルキル−OH基があり、そして第2シアン染料に関しては、平均1.5〜3のSONH−アルキル−OH基がある。注目されるべきは、染料セットが同じ一般化学式をもつ2つの異なったシアン染料を含むこの特定の実施形態に関しては、式IIの染料を利用する従来の実施形態とは異なり、第1シアン染料と第2シアン染料の各々について、SONH−アルキル−OH基は、重複しない平均範囲で存在するということである。「アルキル」は、炭素数1〜4の低級アルキルを意味する。
【0045】
第1シアン染料に関しより詳細に説明すると、一実施形態では、フタロシアニン核には、平均1〜4のSOH基と、平均0.25〜2のSONH基と、そして平均0.25〜1.5未満のSONH−アルキル−OH基が垂れ下がっている。一実施形態では、H以外には、平均約4の全R基が存在し得る。第1シアン染料として用いるのに有用である1つの具体的染料を引き合いに出せば、平均約1.8のSOH基、平均約1のSONH基、及び/又は平均約1.2のSONH−アルキル−OH基がフタロシアニン核に垂れ下がって存在する。この具体例では、SONH−アルキル−OH基のアルキル基はエチルであり得る。
【0046】
第2シアン染料に関しより詳細に説明すると、一実施形態では、フタロシアニン核には、平均0.25〜2のSOH基と、平均0.25〜2.5のSONH基と、そして平均1.5〜3のSONH−アルキル−OH基が垂れ下がって存在し得る。一実施形態では、H基以外には、平均約4の全R基が存在し得る。第1シアン染料として用いるのに有用である1つの具体的染料を引き合いに出せば、平均約1のSOH基、平均約1.2のSONH基、及び/又は平均約1.8のSONH−アルキル−OH基がフタロシアニン核に垂れ下がって存在し得る。この具体例では、SONH−アルキル−OH基のアルキル基はエチルであり得る。
【0047】
上記各実施形態において、各フタロシアニン核に結合する垂れ下がり基(pendent groups)の平均数が重要である。「平均」とは、染料の或るロット又はバッチにおけるある任意の垂れ下がり基の総数は、述べた平均数値範囲内の値であろうことを意味する。例えば、垂れ下がり基の範囲が0.5〜1であるとは、染料バッチの幾つかの分子については垂れ下がり基を欠くことがあり、他は1つ以上の垂れ下がり基を含み得るということを意味する。従って、或る染料バッチは0.5の平均値を有し得、他の染料バッチは1の平均値を有し得、そして両バッチは挙げられた範囲内にあることになる。
【0048】
式IIのシアン染料は、ブロンズ現象を低く抑えつつ、優れた空気褪色及び光退色耐性を実現する。ブロンズ現象は、インクジェットで作製された印刷物の印刷領域上に生じ得る金属のような光沢であるが、特に、ブラック、シアン、及び/又はブルーの印刷領域で起こる。さらに、この染料は、膨潤性媒体、無機多孔質媒体、普通紙、及びその他の基材上での使用に有用である。これまで、空気褪色耐性とブロンズ現象耐性の両方を達成することは困難であった。一般に、比較的褪色耐性のある染料分子はより激しくブロンズ化する傾向がある。染料含量と同様に、官能基、即ち、R基の比が、ブロンズ現象に影響し得ることが見出されている。従って、これらのパラメータを注意深く選択することによって、画像品質と耐用年数を改善することができる。
【0049】
他の実施形態では、インクジェットインクを調合するための染料セットは、マゼンタインクと淡色マゼンタインクを調合するために、一対のマゼンタ染料を含み得る。この実施形態では、一対のマゼンタ染料を構成する両染料がマゼンタインクジェットインクを調合するのに用いられ、そして一対のマゼンタ染料のうちの一方の染料だけが淡色マゼンタインクを調合するのに用いられる。一実施形態では、一対のマゼンタ染料は、遷移金属含有アゾ染料及び/又は非金属化染料を含み得る。より詳細な実施形態では、遷移金属はニッケルであり得、そして遷移金属含有アゾ染料は、以下の式IIIに示す構造のNi2+錯体である。
【0050】
【化21】

【0051】
優れた色を得るためには、典型的に、より彩度のある染料が選択される。しかしながら、より彩度のある染料は、多くの場合、耐光性に劣る。本書に記載するマゼンタ染料セットに関連する例示的な一実施形態によれば、この問題は、式IIIの染料を、第2タイプの染料、即ち、通常、AR52Naと呼ばれる非金属化キサンテン染料と注意深く混ぜ合わせることによって解決することができる。従って、極めて高い彩度の染料であるAR52は、マゼンタインクに鮮やかな色を与えるのに使用され、そして式IIIの染料は、同じインクに改善された画像耐久性を与えるのに使用することができる。淡色マゼンタインクに関しては、高い彩度又は鮮明な色はそれ程必要ではないため、淡色マゼンタインクジェットインクは、例えば、式IIIの染料のみを用いて調合することができる。
【0052】
本発明の各染料セットはさらに、典型的に、イエロー染料も含む。機能的な任意のイエロー染料を用いることができるが、イエロー染料は、一実施形態では、以下の式IVに示す構造を有し得る。
【0053】
【化22】

【0054】
上述のように、式I〜IVの各染料は、全て、通常の染料セットに存在し得、又はそれらは当業者に周知の他の染料と共に存在し得る。さらに、これらの染料は、2インク、3インク、4インク、5インク又は6インクを含んで成るインクセットをはじめとする、当分野で通常知られているタイプのインクセットを調合するのに用いることができる。より詳細には、2、3、4、5、又は6インクセットを包含するインクセットは当分野において一般的であり且つここに記載するシアン−マゼンタ−イエロー−ブラックのセットは、そのような系へと組み込むことができる。
【0055】
一実施形態では、少なくとも6つのインクジェットインクを有するインクセットを調合するための染料セットは、それぞれのインクジェットインクを調合するための種々の染料を含み得る。当該染料は、イエロー染料、一対のマゼンタ染料、一対のシアン染料、及びブラック染料を含み得る。一対のマゼンタ染料は、マゼンタインクと淡色マゼンタインクを調合するのに用いることができ、ここで、一対のマゼンタ染料は、遷移金属含有アゾ染料と非金属化染料を含み得る。一対のシアン染料は、シアンインクと淡色シアンインクを調合するのに用いることができ、ここで、一対のシアン染料は、第1銅フタロシアニン染料と、その第1銅フタロシアニン染料とは異なる第2銅フタロシアニン染料である。この染料の組合せは、式I−IVに記載する1つ以上の染料を利用するか、又はこの実施形態に従う他の染料を利用することができる。
【0056】
この実施形態の一対のシアン染料に関して、第1銅フタロシアニン染料は、シアンインクを調合するべく構成され得、そして第2銅フタロシアニン染料は、淡色シアンインクを調合するべく構成され得る。用い得る例示的な染料には、式IIに示し且つ説明した染料が含まれ、ここで、第1シアン染料と第2シアン染料の各々についてのSONH−アルキル−OH基は、重複しない平均範囲で存在する。一実施形態では、一対のマゼンタ染料に関して、マゼンタインクを調合するのに遷移金属含有アゾ染料の一部と非金属化染料とをブレンドすることができ、そして淡色マゼンタインクを調合するのに遷移金属含有アゾ染料の一部のみを用いることができる。式IIIに示す染料は、遷移金属含有アゾ染料として用いることができ、そしてAcid Red 52(例えば、AR52)の塩は、非金属化染料として用いることができる。さらに他の実施形態では、ブラック染料は、式Iに示すブラック染料をはじめとする、任意のブラック染料であり得る。さらに、イエロー染料は、式IVに示すイエロー染料をはじめとする、適切な任意のイエロー染料であり得る。
【0057】
上述のように、本発明の染料セットは、インクジェットインクセットに調合され得る。染料セットの各染料の染料濃度は、調合されることになるインクのタイプに応じて変更し得る。例えば、淡色シアン及び淡色マゼンタに比べて、シアン及びマゼンタインクには比較的重い染料含量(比較的高濃度)が存在し得る。一般的に、ほとんどのシアン及びマゼンタインクについては、染料濃度は、例えば、約0.1wt%〜約10wt%とし得る。淡色シアン及び淡色マゼンタインクについては、染料濃度は、約0.1wt%〜約6wt%とし得る。ブラックインクジェットインクに関しては、ブラック染料の濃度は約0.1wt%〜約10wt%とし得、そしてイエローインクジェットインクに関しては、イエロー染料の濃度は約0.1wt%〜約10wt%とし得る。これらの染料セットは、インクジェットインクセットをはじめとするインクセットを調合するのに用いることができる。それ故、インクジェット画像を印刷するためのインクセットは、DESKJET(商標)又はPHOTOSMART(商標)のような市販のインクジェットプリンタ及びヒューレット−パッカード社で製造されたその他の類似プリンタに用いることができる。注目すべきは、これらのインクは、サーマルインクジェットプリンタ及び圧電式インクジェットプリンタの両方に十分に使用し得ることである。これらのインクセットは、未被覆媒体、粘土被覆媒体、無機多孔質被覆媒体(例えば、シリカ−及びアルミナ−ベースの媒体)、及び有機膨潤性媒体(例えば、ゼラチン被覆媒体)をはじめとする各種媒体上で、それぞれ耐光性、色域が改善され、且つその他の印刷品質を向上させつつ、真の色を生ずることができる。
【0058】
上述のように、本発明の幾つかの実施形態では、染料セットの各カラー染料又はブラック染料、即ち、ブラック、シアン、イエロー、及びマゼンタは、2つ以上のインク中に存在し、それぞれ、2つ以上の染料含量を有する。即ち、各インクカラーに関し充填された2つ以上のインクジェット容器が存在し得、各容器は、異なる染料含量、異なる染料、異なるビヒクル成分、異なるビヒクル成分量等を有し得るインクをその中に含む。例えば、それぞれが異なる染料含量及び/又は異なるマゼンタ染料を含んでいる、2つのマゼンタ容器が存在し得る。
【0059】
本発明の染料セットに用い得る典型的な液体ビヒクル調合物は、全部で5.0wt%〜50.0wt%にて存在する1つ又は複数の有機共溶媒、0.01wt%〜10.0wt%にて存在する1つ又は複数の非イオン、陽イオン、及び/又は陰イオン性界面活性剤を含むことができる。当該調合物の残部は、純水であるか、又は、殺生物剤、粘度修正剤、pH調節剤、金属イオン封鎖剤、防腐剤、抗コゲーション剤、にじみ抑制剤、乾燥剤、噴射促進(jettability)剤等の、当分野で知られているその他のビヒクル成分とし得る。
【0060】
用い得る溶媒又は共溶媒の種類には、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、ジオール、グリコールエーテル、ポリグリコールエーテル、カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、及び長鎖アルコールが含まれ得る。当該化合物の例としては、第1脂肪族アルコール、第2脂肪族アルコール、1,2−アルコール、1,3−アルコール、1,5−アルコール、エチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの高次同族体、N−アルキルカプロラクタム、未置換カプロラクタム、置換及び未置換の両ホルムアミド、置換及び未置換の両アセトアミド等が挙げられる。用い得る溶媒の具体例を幾つか挙げれば、2−ピロリジノン、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリジノンを含む誘導化2−ピロリジノン、2−メチル−1,3−プロパンジオール、テトラエチレングリコール、及びエチルヒドロキシプロパンジオール(EHPD)がある。
【0061】
インク調合の当業者には周知のように、多くの界面活性剤のうち1つ以上を用いることもでき、それらは、アルキルポリエチレンオキシド、アルキルフェニルポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドブロック共重合体、アセチレンポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド(ジ)エステル、ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミド、ジメチコンコポリオール、置換アミンオキシド、等であり得る。使用に向く好ましい界面活性剤の具体例には、SOLSPERSE(商標)、TERGITOL(商標)、DOWFAX(商標)等が含まれる。本発明の調合物に添加される界面活性剤の量は、0.01wt%〜10.0wt%の範囲とし得る。
【0062】
特定用途に向くようにインク組成物の諸性質を最適化すべく、本発明の調合物と共に他の種々の添加剤を用いることができる。これらの添加剤の例は、有害微生物の成長を阻害するのに添加されるものである。これらの添加剤は、インク調合物に日常的に用いられるところの、殺生物剤、殺菌剤、及びその他の微生物剤であり得る。適切な抗菌剤の例としては、限定はしないが、NUOSEPT(商標)、UCARCIDE(商標)、VANCIDE(商標)、PROXEL(商標)、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0063】
金属不純物の有害な影響を排除するために、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)のような、金属イオン封鎖剤を含むことができる。当該金属イオン封鎖剤は、典型的に、インクジェットインク組成物の0wt%〜2wt%にて含まれる。インクの諸性質を望み通りに改質するために、当業者に周知の他の添加剤及び粘度調節剤も含ませ得る。当該添加剤は、インクジェットインク組成物中に0wt%〜20wt%にて含ませることができる。
【0064】
任意に、種々の緩衝剤又はpH調節剤もまた、本発明のインクジェットインク組成物中に用いることができる。代表的なpH調節剤には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような、アルカリ金属とアミンの水酸化物;クエン酸;トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びジメチル−エタノールアミンのような、アミン;塩酸;並びに他の塩基性又は酸性成分のようなpH制御溶液が含まれる。用いる場合、pH調節剤は、典型的に、インクジェットインク組成物の約10wt%未満の量にて含まれる。同様に、限定はしないが、TRIS、MOPS、クエン酸、酢酸、MES等のような、緩衝剤も用いることができる。用いる場合、緩衝剤は、典型的に、インクジェットインク組成物の約3wt%未満、多くの場合約0.01wt%〜2wt%、最も一般的には0.2wt%〜0.5wt%にて含まれる。さらに、用い得る抗コゲーション剤としては、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、脂肪アルコールアルコキシレートのリン酸エステル等を、約0.01wt%〜5wt%の量にて含む。
【0065】
実施例
以下の実施例において、現在最もよく知られている本発明の実施形態を説明する。以下は、本発明の原理の応用についての単なる例示又は説明にすぎないことを理解されたい。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、数々の修正及び代替の組成物、方法、並びにシステムが当業者によって案出されよう。添付の特許請求の範囲は、前述の修正並びに代替構成を網羅するべく意図されたものである。従って、これまで特定のものに関して本発明を説明してきたが、以下の実施例は、本発明の最も実用的且つ好ましい実施形態であると現在思われるものに関しさらに詳述するものである。
【実施例1】
【0066】
本発明の実施形態による例示的染料セットを用いて調製したインク
式Iのブラック染料、式IIの異なった2つのシアン染料、式IIIのマゼンタ染料、Acid Red 52の二ナトリウム塩染料、及び式IVのイエロー染料を含んで成る染料セットを用いて、インクセットを調製した。当該インクを以下の表1〜6に挙げる。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
【表6】

【0073】
特定の好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の趣旨から逸脱することなく、様々な修正、変更、省略、及び置換を成し得ることは、当業者には明らかであろう。例えば、実施例1に使用されるものとして具体的ビヒクルを示しているが、その他のビヒクルも用いることができる。それ故、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットインクを調合するための染料セットであって、
(a)式Iの構造を有するブラック染料、
【化1】

(b)シアン染料、マゼンタ染料、及びイエロー染料からなる群から選択される少なくとも1つのカラー染料
を含んで成り、前記シアン染料が、式II:
【化2】

(式中、各R基は、平均2〜6のR基がH以外であるという条件付で、個々独立してH、SOH、SONH、及びSONH−アルキル−OHから成る群から選択される)の構造を有し、
前記マゼンタ染料が、式III:
【化3】

の構造のNi2+錯体であり、
前記イエロー染料が、以下の式IV:
【化4】

の構造を有する、染料セット。
【請求項2】
前記少なくとも1つのカラー染料が、式IIのシアン染料、式IIIのマゼンタ染料、及び式IVのイエロー染料を含むか、又は前記少なくとも1つのカラー染料が、式IIのシアン染料、式IIIのマゼンタ染料、式IVのイエロー染料及び非金属化マゼンタ染料を含む、請求項1に記載の染料セット。
【請求項3】
各々が以下の同じ一般化学式を有する第1シアン染料及び第2シアン染料を含む、インクジェットインクを調合するための染料セット。
【化5】

式中、各R基は、平均2〜6のR基がH以外であるという条件付で、個々独立してH、SOH、SONH、及びSONH−アルキル−OHから成る群から選択され、前記第1シアン染料が平均0.25〜1.5未満のSONH−アルキル−OH基を有し、且つ前記第2シアン染料が平均1.5〜3のSONH−アルキル−OH基を有する。
【請求項4】
インクジェットインクを調合するための染料セットであって、マゼンタインクと淡色マゼンタインクを調合するための一対のマゼンタ染料を含み、前記一対のマゼンタ染料が前記マゼンタインクを調合するために用いられ、且つ前記一対のマゼンタ染料のうちの一方だけが前記淡色マゼンタインクを調合するのに用いられる、染料セット。
【請求項5】
前記一対のマゼンタ染料が遷移金属含有アゾ染料を含むか、又は前記一対のマゼンタ染料が非金属化染料を含む、請求項4に記載の染料セット。
【請求項6】
前記遷移金属がニッケルであり、且つ前記遷移金属含有アゾ染料が、以下の構造:
【化6】

のNi2+錯体である、請求項5に記載の染料セット。
【請求項7】
前記一対のマゼンタ染料が第2マゼンタ染料より彩度の高い第1マゼンタ染料を含み、且つ前記第2マゼンタ染料が前記第1マゼンタ染料より高い画像永続性をもたらし、前記第1及び第2のマゼンタ染料が前記マゼンタインクを調合するのに用いられ、且つ前記第2マゼンタ染料が前記淡色マゼンタインクを調合するのに用いられる、請求項6に記載の染料セット。
【請求項8】
少なくとも6つのインクジェットインクを有するインクセットを調合するための染料セットであって、
(a)イエローインクを調合するためのイエロー染料、
(b)マゼンタインク及び淡色マゼンタインクを調合するための一対のマゼンタ染料であって、遷移金属含有アゾ染料と非金属化染料である前記一対のマゼンタ染料、
(c)シアンインクと淡色シアンインクを調合するための一対のシアン染料であって、第1銅フタロシアニン染料と、前記第1銅フタロシアニン染料とは異なる第2銅フタロシアニン染料である前記一対のシアン染料、及び
(d)ブラックインクジェットインクを調合するためのブラック染料
を含む、染料セット。
【請求項9】
前記遷移金属含有アゾ染料の一部と前記非金属化染料が、前記マゼンタインクを調合するべくブレンドされ、且つ前記遷移金属含有アゾ染料の一部が、前記非金属化染料を付加せずに前記淡色マゼンタインクを調合するべく用いられる、請求項8に記載の染料セット。
【請求項10】
前記第1銅フタロシアニン染料が前記シアンインクを調合できるように構成され、且つ前記第2銅フタロシアニン染料が前記淡色シアンインクを調合できるように構成される、請求項8に記載の染料セット。
【請求項11】
前記ブラック染料が、以下の構造:
【化7】

を有する、請求項8に記載の染料セット。
【請求項12】
前記遷移金属含有アゾ染料が、以下の構造:
【化8】

のNi2+錯体である、請求項8に記載の染料セット。
【請求項13】
前記非金属化染料が、Acid Red 52の塩である、請求項8に記載の染料セット。
【請求項14】
前記シアン染料の少なくとも1つが、以下の構造:
【化9】

(式中、各R基は、平均2〜6のR基がH以外であるという条件付で、個々独立してH、SOH、SONH、及びSONH−アルキル−OHから成る群から選択される)を有する、請求項8に記載の染料セット。
【請求項15】
前記イエロー染料が、以下の構造:
【化10】

を有する、請求項8に記載の染料セット。

【公表番号】特表2008−533248(P2008−533248A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500969(P2008−500969)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/008607
【国際公開番号】WO2006/096841
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】