説明

インクジェットカートリッジの製造方法およびインクジェットカートリッジ

【課題】タンクケース内部に繊維からなる吸収体が二つ以上配置されているインクジェットカートリッジにおいて、各吸収体の寸法変化を低減できる製造方法を提供する。
【解決手段】繊維からなる互いに面で接する二つ以上の略直方体形状の吸収体をタンクケース内に備えるインクジェットカートリッジの製造方法において、繊維を二つ又は三つの軸方向に順次圧縮して略直方体形状に成形し、吸収体を二つ以上製造する工程と、前記各吸収体の各面において、該面に対して垂直方向への反発力を測定する工程と、前記各吸収体が接する面において、該面における垂直方向への反発力の差の絶対値が最大とならないように前記各吸収体をタンクケース内に配置する工程と、を含むインクジェットカートリッジの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットカートリッジの製造方法およびインクジェットカートリッジに関する。特にインクジェットヘッドへインクを供給するためにインクを保持する吸収体の寸法変化を低減する製造方法および当該製法により製造されたインクジェットカートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドへインクを供給するインクジェットカートリッジには、インクを保持できる吸収体が用いられている。吸収体には、記録時以外の状態では外部にインクを漏らすことがないようにインクを保持でき、更に、記録時にはインクを効率よくインクジェットヘッドに供給できることが要求される。
【0003】
記録時にインクを効率よくインクジェットヘッドに供給する手段としては、吸収体が有する毛管力に分布を付与することが一般的に知られている。即ち、インク供給口近傍の吸収体の毛管力を他部よりも高くすることで、インク供給口近傍にインクを吸い寄せることができ、インクを効率よく使用することが可能となる。一方、インク供給口近傍以外の吸収体についても、外部にインクを漏らさないために最低限必要な毛管力を有している必要がある。一般的に吸収体には、例えば樹脂製繊維を加熱溶融することにより繊維間交点を融着させた連続多孔質体や、ウレタンスポンジ等を用いることが提案されている。
【0004】
近年、顧客ニーズとしてインクジェットプリンタ本体の小型化が要求され、インクジェットプリンタ本体内に如何に効率良くインクジェットカートリッジを配置できるかが重要となっている。即ち、複雑なインクジェットカートリッジ形状とすることにより、インクジェットプリンタ本体内に効率良く配置できることが求められている。前述したような繊維間交点を融着した連続多孔質体やウレタンスポンジを使用した吸収体を適用すると、予めある形状の材料塊からインクジェットカートリッジに適合する複雑な形状に切り出す必要がある。したがって、従来よりも複雑な形状のインクジェットカートリッジに合わせて吸収体を作製すると材料の使用効率が低下しコストアップとなる。そこで、インクジェットカートリッジ形状の自由度を向上させるために、前述したような繊維間交点を融着した連続多孔質体やウレタンスポンジを使用した吸収体ではなく、繊維間交点を融着していない吸収体を適用する手法も提案されている。即ち、吸収体を複雑な製品形状に切り出す必要が無くなるため、吸収体を形成するために用いる材料の使用効率が向上し、インクジェットカートリッジを安価に顧客へ提供することが可能となる。
【0005】
特許文献1には、繊維間交点を融着していない繊維からなる吸収体において、インク供給口近傍の吸収体毛管力を他部よりも高くする方法として、インク供給口近傍の吸収体に他部よりも繊維径が細い繊維を用いることが提案されている。即ち、タンクケース内に繊維径が異なる二つの吸収体を配置する構成である。この構成によると、繊維径が細い繊維を用いたインク供給口近傍の吸収体では、他部の吸収体よりも繊維が構成する空隙のサイズが小さくなり、インク供給口近傍の吸収体の毛管力が他部の吸収体の毛管力よりも高くなる。これにより、毛管力が高いインク供給口近傍にインクを吸い寄せることができ、インクを効率よくインクジェットヘッドに供給することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−20115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、消費者の環境意識の高まりにより、インクジェットカートリッジ内のインクをより効率よく使い切ることができる製品、即ちインクをより効率よくインクジェットヘッドに供給できるインクジェットカートリッジが求められている。
【0008】
本発明者らは、繊維間交点を融着していない通常の繊維からなる吸収体において、インクジェットヘッドにインクをより効率よく供給するため、特許文献1に記載された繊維径よりも細い繊維をインク供給口近傍の吸収体に用いた。ところが、インク供給口近傍の吸収体及びインク供給口近傍以外の吸収体を、吸収体の設計寸法まで圧縮した後タンクケースに挿入したところ、両吸収体の寸法が設計寸法から変化するという課題が明らかになった。即ち、インク供給口近傍の吸収体の寸法が小さくなり、インク供給口近傍以外の吸収体の寸法が大きくなった。これにより、インク供給口近傍の吸収体は設計値よりも繊維密度が高くなり、繊維が構成する空隙のサイズが小さくなり、毛管力が高くなった。一方、インク供給口近傍以外の吸収体は、設計値よりも繊維密度が低くなり、繊維が構成する空隙のサイズが大きくなり、毛管力が低くなった。その結果、インク供給口近傍以外の吸収体の毛管力は、外部にインクを漏らさないために最低限必要な毛管力を下回ってしまった。これは、インク供給口近傍の吸収体に繊維径がより細い繊維を用いたことで、インク供給口近傍の吸収体の反発力が小さくなり、インク供給口近傍以外の吸収体の反発力との差が大きくなったことが原因であることが明らかになった。即ち、各吸収体の接触面における反発力の差が大きくなったことで、一方の吸収体が他方の吸収体を押し込み、各吸収体の寸法が所定の寸法から変化したことが明らかとなった。
【0009】
そこで本発明の目的は、上記課題に鑑み、タンクケース内部に繊維からなる吸収体が二つ以上配置されているインクジェットカートリッジにおいて、各吸収体の寸法変化を低減できる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のインクジェットカートリッジの製造方法は、繊維からなる互いに面で接する二つ以上の略直方体形状の吸収体をタンクケース内に備えるインクジェットカートリッジの製造方法において、繊維を二つ又は三つの軸方向に順次圧縮して略直方体形状に成形し、吸収体を二つ以上製造する工程と、前記各吸収体が接する面において、該面における垂直方向への反発力の差の絶対値が最大とならないように前記各吸収体をタンクケース内に配置する工程と、を含む。
【0011】
また、本発明のインクジェットカートリッジの製造方法は、繊維からなる互いに面で接する略直方体形状の第一の吸収体及び第二の吸収体をタンクケース内に備えるインクジェットカートリッジの製造方法において、前記第一の吸収体及び第二の吸収体を構成する繊維の材質、繊維径及び繊維長は互いに同一であり、前記第一の吸収体は前記第二の吸収体より繊維密度が高く、繊維を二つ又は三つの軸方向に順次圧縮して略直方体形状に成形し、第一の吸収体及び第二の吸収体を製造する工程と、前記第一の吸収体の一番目に圧縮された軸方向と垂直をなす面が、前記第二の吸収体の一面と接するように該第一の吸収体及び第二の吸収体をタンクケース内に配置する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、二つ以上の吸収体の接触面における反発力の差、即ち互いに押し合う力の差を小さくすることができるため、各吸収体の寸法変化を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】繊維10を所定の吸収体寸法まで圧縮する工程を示す模式図である。
【図2】吸収体の各面が有する反発力を測定する方法を示す模式図である。
【図3】第一の実施形態及び実施例1における吸収体の配置方向を示す模式図である。
【図4】吸収体をタンクケースに挿入する工程を示す模式図である。
【図5】本発明の方法により製造されるインクジェットカートリッジの模式図である。
【図6】第一の実施形態における吸収体圧縮、挿入装置の構成の一例を示す図である。
【図7】実施例2、3における吸収体の圧縮順序と反発力の関係を示すグラフである。
【図8】第二の実施形態及び実施例2における吸収体の配置方向を示す模式図である。
【図9】第二の実施形態における吸収体圧縮、挿入装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第一の実施形態]
図1〜4は本発明における第一の実施形態を示すインクジェットカートリッジ製造方法の工程を模式的に表したものである。図5は本発明の製造方法に基づいて製造されるインクジェットカートリッジを示したものである。
【0015】
第一の実施形態におけるインクジェットカートリッジ14は、図5に示すように、インク供給口18近傍の吸収体の毛管力を他部よりも高くし、インク供給口18に効率的にインクを供給するために、インク供給口18の上部に高毛管力吸収体11(以下、吸収体A11)を配置する。また、それ以外の部分に低毛管力吸収体12(以下、吸収体B12)を配置する。吸収体A11及び吸収体B12は、吸収体A11及び吸収体B12の各1面同士が互いにタンクケース13内で接触するように、タンクケース13のY方向に並べて配置する。なお、各吸収体の形状は略直方体形状であり、各吸収体の寸法は各吸収体がタンクケース13に挿入された際に顕著な隙間ができなければ特に限定されず、タンクケース13の形状や求められる毛管力分布により適宜選択することができる。タンクケース13は蓋15により蓋がされており、インク16が吸収体A11及び吸収体B12に吸収されている。インク16は、インク供給口18を介してインク吐出デバイス17に供給される。
【0016】
吸収体A11及び吸収体B12は繊維からなり、その繊維の材質は耐インク性を考慮し適宜選択することができる。例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、アクリロニトリル等が挙げられるが、化学的に安定性の高いポリオレフィンが好ましい。一般的に吸収体に用いられている芯鞘構造等の2層構造の繊維を選択することもできる。具体的には、芯にポリプロピレン(PP)、鞘にポリエチレン(PE)のように異種材料を選択してもよい。これらの繊維は一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。また、各吸収体を構成する繊維としては、互いに同一の繊維を用いてもよく、異なる繊維を用いてもよい。なお、本発明において繊維とは一本ずつの繊維の集合体を示す。
【0017】
吸収体の毛管力は、主に繊維が構成する空隙のサイズにより決定される。即ち、タンクケース13に形成されたインク収容部体積と、該インク収容部に存在する繊維体積の割合(以下、繊維密度)と、繊維径と、により毛管力が決定される。したがって、各吸収体の繊維密度及び繊維径の少なくとも一方を互いに相違させることにより、各吸収体の毛管力を相違させることができる。なお、吸収体の繊維密度が高い方が毛管力は大きく、吸収体の繊維径が細い方が毛管力は大きい。また、吸収体の繊維長については吸収体の毛管力に影響を及ぼす因子ではないが、製造上の取り扱いにより適宜選択することが可能である。本実施形態においては、吸収体A11を構成する繊維の繊維径が吸収体B12を構成する繊維の繊維径より細く、繊維の材質、繊維密度、繊維長については同一とする。
【0018】
次に、本実施形態におけるインクジェットカートリッジ14の製造方法について詳細に説明する。まず、繊維を二つ又は三つの軸方向に順次圧縮して略直方体形状に成形し、吸収体A11及び吸収体B12を製造する。この工程について図1に基づき説明する。吸収体A11及び吸収体B12を構成する繊維10は、各吸収体の設計寸法までそれぞれ個別に圧縮される。予め所定量に計量された繊維10は、まず一番目の圧縮板201で圧縮され、次に二番目の圧縮板202、三番目の圧縮板203で順次三つの直交する軸方向に圧縮される。なお、図1においては各軸方向ともに片面の圧縮板は固定され、各軸方向とも片面から圧縮する構成としているが、各軸方向とも両面から圧縮する構成としても良い。
【0019】
次に、吸収体A11及び吸収体B12の各面において、該面に対する垂直方向への反発力を測定する。この工程について図2を用いて説明する。ここで、面に対する垂直方向への反発力とは、繊維10を所定の吸収体寸法まで圧縮し、繊維10をその寸法に保持した際に、吸収体の各面が該面に対する垂直方向に与える力と定義する。測定される反発力は後の各吸収体の配置方向を規定する際に、一方の吸収体がタンクケース13内で隣り合うもう一方の吸収体を押し込む力を判断するために用いられる。したがって、正確には、タンクケース13内における各吸収体の反発力を求める必要がある。しかし、タンクケース13内という狭い空間に反発力を測定する機器を配置するのは困難である。そこで、本発明に係る方法においては、圧縮板201、202、203で繊維10を所定の吸収体寸法まで圧縮し、圧縮板で繊維10を所定の吸収体寸法に保持した状態で、圧縮板201、202、203が吸収体から受ける力をフォースゲージ101にて測定し、測定された値を反発力とする。図2においてはフォースゲージ101によりf2を反発力として測定することができる。なお、タンクケース13内での吸収体の状態をよりよく再現するため、即ち吸収体とタンクケース13との間に働く摩擦力を再現するため、圧縮板の材質はタンクケース13の材質と同一とする。また、フォースゲージ101としては、「ZP−50N」(商品名、イマダ社製)を用いることができる。
【0020】
次に、吸収体A11及び吸収体B12が接する面において、前記反発力の差の絶対値が最大とならないように吸収体A11及び吸収体B12をタンクケース13内に配置する。タンクケース13内における吸収体A11及び吸収体B12の配置方向の規定方法について図3を用いて説明する。図3のf1a、f2a、f3aはそれぞれ吸収体A11を圧縮した際に圧縮板201、202、203が受けた反発力、f1b、f2b、f3bはそれぞれ吸収体B12を圧縮した際に圧縮板201、202、203が受けた反発力を表す。
【0021】
本発明に係る方法では、吸収体A11のある1面と、吸収体B12のある1面の組み合わせのうち、反発力の差の絶対値(以下、反発力の差)が最大とならない面同士が接する方向に各吸収体を配置する。これは、吸収体A11、吸収体B12の互いに接する面同士の反発力の差が大きいと、各吸収体をタンクケース13に挿入した際に反発力が大きい方の吸収体が、反発力が小さい吸収体を押し込み、各吸収体の寸法変化が顕著となるためである。本実施形態では、吸収体A11のf1aと吸収体B12のf2bの組み合わせが、反発力の差が最大となる。この場合、この組み合わせ以外の面同士が接するように吸収体A11と吸収体B12をタンクケース13内に配置する。なお、反発力の差がより小さい面同士を接するように各吸収体を配置すれば、各吸収体の寸法変化はより軽減されるため、可能な限り反発力の差が小さい面同士が接するように各吸収体を配置することが好ましい。また、反発力の差が最小となる面同士が接するように各吸収体を配置することがより好ましい。それ以外の面の配置方向については適宜選択することができる。本実施形態では、吸収体A11のf2aと吸収体B12のf1bの組み合わせが、反発力の差が最小となり、図3に示すようにこの組み合わせの面同士が接するようにタンクケース13内に配置する。
【0022】
次に、吸収体A11及び吸収体B12を前記規定された配置方向となるようにタンクケース13内に挿入する。この工程について図4を用いて説明する。圧縮板により圧縮状態を維持された吸収体A401を、前記規定された配置方向を維持した状態でタンクケース13上に配置する(図4(a))。次に底面となる圧縮板204をタンクケース13の開口部と水平の方向に引き抜き(図4(b))、天面となる圧縮板205をタンクケース13方向に押す(図4(c))ことで、吸収体A11をタンクケース13内に挿入する(図4(d))。吸収体B12についても吸収体A11と同様にタンクケース13内に挿入する(図4(e)、図4(f))。なお、図4においてはタンクケース13内に吸収体A11を挿入した後吸収体B12を挿入しているが、吸収体B12を先に挿入してもよく、また、吸収体A11及び吸収体B12を同時に挿入しても良い。
【0023】
タンクケース13へ吸収体A11及び吸収体B12を挿入した後、インク16を注入し、蓋15を接合することで、図5に示すインクジェットカートリッジ14を作製することができる。本実施形態において作製されるインクジェットカートリッジは、吸収体A11、吸収体B12の互いに接する面同士の反発力の差が最大とならないように吸収体A11及び吸収体B12を配置するため、各吸収体の寸法変化が低減される。
【0024】
なお、本実施形態においては吸収体A11及び吸収体B12の各面の反発力が未知であったため、各吸収体の各面の反発力を測定した後、各吸収体の配置方向を規定している。しかし、既に各吸収体の各面の反発力がわかっており、その反発力に応じて各吸収体の配置方向が規定できる場合には、反発力を測定する工程を省略することもできる。
【0025】
反発力を測定する工程を省略する場合には、例えば図6に示す装置構成により、吸収体A11及び吸収体B12を同一装置上で圧縮し、規定された方向に各吸収体をタンクケース13に挿入することができる。仕切り板306で仕切られた底面となる圧縮板204の片側に吸収体A11を構成する繊維19(以下、繊維A19)を、もう一方に吸収体B12を構成する繊維20(以下、繊維B20)を配置する(図6(a))。圧縮板303で繊維B20をY方向に圧縮する(図6(b))。圧縮板304及び吸収体挿入ツール305で繊維A19及び繊維B20をZ方向に圧縮する(図6(c))。圧縮板302で吸収体A19をY方向に圧縮する(図6(d))。圧縮板301で繊維A19及び繊維B20をX方向に圧縮する(図6(e))。所定の吸収体寸法まで圧縮された吸収体A11及び吸収体B12の下方にタンクケース13を配置する。底面となる圧縮板204をタンクケース13の開口部と水平の方向に引き抜き(図6(f))、吸収体挿入ツール305をタンクケース13方向に押すことにより吸収体A11及び吸収体B12をタンクケース13に挿入する。この方法によれば、前述した製造方法と同様に、吸収体A11の二番目に圧縮した面(f2a)と吸収体B12の一番目に圧縮した面(f1b)が接するように各吸収体が配置される。
【0026】
なお、本実施形態では吸収体A11と吸収体B12の二つの吸収体を用いているが、吸収体の数は三つ以上であってもよい。この場合にも吸収体の数が二つの場合と同様に、吸収体を三つ以上製造し、各吸収体が互いに接する面同士の反発力の差が最大とならないように各吸収体をタンクケース内に配置することで、各吸収体の寸法変化を低減することができる。また、本実施形態では繊維を三つの軸方向に順次圧縮して略直方体形状に成形している。しかしながら、成形前の繊維の形状が平板状である場合には、平板状の平面に対応する圧縮面を所定寸法の位置に固定し、その後繊維を供給し、二つの軸方向に順次圧縮することにより略直方体形状に成形することもできる。
【0027】
[第二の実施形態]
第二の実施形態では、吸収体A11の毛管力を吸収体B12よりも大きくする手段として、吸収体A11(第一の吸収体)の繊維密度を吸収体B12(第二の吸収体)の繊維密度よりも高くする。なお、吸収体A11及び吸収体B12を構成する繊維の材質、繊維径、繊維長は互いに同一である。
【0028】
第一の実施形態と同様に、繊維を二つ又は三つの軸方向に順次圧縮して略直方体形状に成形する。本実施形態では、繊維を三つの直交する軸方向に順次圧縮して略直方体形状に成形し、吸収体A11及び吸収体B12を製造するとする。また、各吸収体の各面において、該面に対する垂直方向への反発力を測定する。この時、どのような繊維密度の吸収体においても、二番目と三番目に圧縮された軸方向と垂直をなす面の反発力は同程度であり、一番目に圧縮された軸方向と垂直をなす面の反発力のみが他の面と比較して小さくなる。また、繊維密度の異なる吸収体についてn番目に圧縮された軸方向と垂直をなす面について反発力を比較すると、繊維密度の高い吸収体の方が、反発力が大きい。したがって、本実施形態のように、各吸収体を構成する繊維の材質と、繊維径と、繊維長とが互いに同一であり、繊維密度が異なる場合には、各吸収体の各面の反発力を測定しなくとも各吸収体の配置方向を規定することができる。即ち、繊維密度の高い吸収体の一番目に圧縮された軸方向と垂直をなす面が、他の吸収体の一面と接するように各吸収体を配置することにより、各吸収体の接触面における反発力の差が最大となる配置方向を避けることができる。なお、それ以外の面の配置方向については適宜選択することができる。また、前記配置方向以外にも、吸収体B12の二番目又は三番目に圧縮された軸方向と垂直をなす面が、吸収体A11の一面と接するように配置しても、各吸収体の接触面における反発力の差が最大となる配置方向を避けることができる。
【0029】
本実施形態では、図8に示すように、吸収体A11の一番目に圧縮された軸方向と垂直をなす面(f1a)を、吸収体B12の三番目に圧縮された軸方向と垂直をなす面(f3b)と接するように各吸収体を配置する。該配置方向でタンクケース13へ吸収体A11、吸収体B12を挿入した後、インク16を注入し、蓋15を接合して、インクジェットカートリッジ14を得る(図5)。本実施形態では吸収体A11の一番目に圧縮された軸方向と垂直をなす面(f1a)が吸収体B12の一面と接するように配置しているため、吸収体A11及び吸収体B12の接触面における反発力の差が最大とならず、各吸収体の寸法変化を低減できる。
【0030】
本実施形態では、例えば図9に示した装置構成により、吸収体A11及び吸収体B12を同一装置上で圧縮し、規定された方向に各吸収体をタンクケース13に挿入することができる。圧縮板302で吸収体A11を構成する繊維A19をY方向に圧縮する。圧縮板304及び吸収体挿入ツール305で繊維A19及び吸収体B12を構成する繊維B20をZ方向に圧縮する。圧縮板301で繊維A19及び繊維B20をX方向に圧縮する。圧縮板303で吸収体B20をY方向に圧縮する。各吸収体をタンクケース13に挿入する工程は前記第一の実施形態と同様である。この方法によれば、前述した製造方法と同様に、吸収体A11の一番目に圧縮した面(f1a)と吸収体B12の三番目に圧縮した面(f3a)が接するように各吸収体が配置される。
【0031】
[他の実施形態]
本発明に係る方法は、前記第一及び第二の実施形態に限定されず、繊維の材質、繊維径、繊維密度、繊維長、吸収体寸法等の一つ、もしくは複数が異なる形態についても適用が可能である。また、前述したように3つ以上の吸収体を用いる形態についても適用が可能である。更に、前記第一及び第二の実施形態では、図5に示すようにインクジェットカートリッジ14にインク吐出デバイス17が取り付けられている形態について説明したが、インク吐出デバイス17が分離されている形態についても、本発明に係る方法は適用できる。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
図5に示すインクジェットカートリッジ14を作製した。タンクケース13には、内部寸法が縦(X寸法)20mm、横(Y寸法)40mm、高さ(Z寸法)20mmのものを用いた。吸収体の形状は、吸収体A11、吸収体B12共に、X寸法20mm、Y寸法20mm、Z寸法20mmの立方体形状とした。繊維の材質としては、吸収体A11、吸収体B12共に、2層構造の繊維(PP−PE)を用いた。繊維径としては、吸収体B12には繊維径が6.7デシテックスの繊維を用い、吸収体A11には繊維径が2.2デシテックスの繊維を用いた。繊維密度は、吸収体A11、吸収体B12共に12%とした。繊維長としては、吸収体A11、吸収体B12共に50mm長の繊維を用いた。
【0033】
まず、吸収体A11及び吸収体B12に用いる繊維について、前記繊維密度、吸収体寸法、繊維比重からそれぞれ計算される質量分を計量した。次に、図1に示されるように、前記計量された繊維10を、まず一番目の圧縮板201で圧縮し、次に二番目の圧縮板202、次に三番目の圧縮板203で順次直交する三つの軸方向に圧縮した。次に、各圧縮板で繊維10を所定の吸収体寸法に保持した状態で、圧縮板201、202、203が吸収体から受ける力をフォースゲージ101(商品名:「ZP−50N」、イマダ社製)にて測定し、測定された値を各面の反発力とした。表1に吸収体A11、吸収体B12の各面の反発力を測定した結果を示す。f1a、f2a、f3aは、それぞれ吸収体A11を圧縮した際に圧縮板201、202、203が受けた反発力、f1b、f2b、f3bはそれぞれ吸収体B12を圧縮した際に圧縮板201、202、203が受けた反発力を表す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から、吸収体A11の一番目に圧縮した面(f1a=0.7N)と吸収体B12の二番目に圧縮した面(f2b=2.6N)が反発力の差が最大となる組み合わせである。この組み合わせ以外の面同士が接する方向に吸収体A11及び吸収体B12をタンクケース13内に配置する。本実施例においては、反発力の差が最小となる組み合わせである、吸収体A11の二番目に圧縮した面(f2a=1.3N)と吸収体B12の一番目に圧縮した面(f1b=1.4N)が接するように配置した(図3)。また、吸収体A11は一番目に圧縮した面(f1a)が、吸収体B12は二番目に圧縮した面(f2b)がそれぞれタンクケース13の開口面と水平をなすように配置した(図3)。
【0036】
次に、図4に示すように、前記配置方向で、吸収体A11と吸収体B12をタンクケース13内に配置した。まず、圧縮板により圧縮状態を維持された吸収体A401を、前記配置方向を維持した状態でタンクケース13上に配置した(図4(a))。次に底面となる圧縮板204をタンクケース13の開口部と水平の方向に引き抜き(図4(b))、天面となる圧縮板205をタンクケース13方向に押す(図4(c))ことで吸収体A11をタンクケース13に挿入した(図4(d))。吸収体B12についても吸収体A11と同様にタンクケース13に挿入した(図4(e)、図4(f))。タンクケース13へ吸収体A11、吸収体B12を挿入した後、インク16を注入し、蓋15を接合して、インクジェットカートリッジ14を得た(図5)。図5において、タンクケース13に挿入された吸収体A11のY寸法(ya)は設計値よりも0.9mm縮小した。また、吸収体B12のY寸法(yb)は設計値よりも0.9mm膨張した。
【0037】
[比較例1]
実施例1において、反発力の差が最大となる組み合わせである吸収体A11の一番目に圧縮した面(f1a=0.7N)と吸収体B12の二番目に圧縮した面(f2b=2.6N)が接するように吸収体A11及び吸収体B12をタンクケース13内に配置した。それ以外は実施例1と同様にインクジェットカートリッジ14を製造した。図5において、タンクケース13に挿入された吸収体A11のY寸法(ya)は設計値よりも2.4mm縮小した。また、吸収体B12のY寸法(yb)は設計値よりも2.4mm膨張した。したがって、実施例1の製造方法では吸収体の寸法変化が低減されたことが確認された。
【0038】
[実施例2]
実施例1と同様に図5に示すインクジェットカートリッジ14を作製した。本実施例においては、吸収体A11の繊維密度を13.5%、吸収体B12の繊維密度を10.0%とした。吸収体A11、吸収体B12共に、繊維の材質は2層構造の繊維(PP−PE)、繊維径は6.7デシテックス、繊維長は50mm長、吸収体寸法はX寸法20mm、Y寸法20mm、Z寸法20mmとした。実施例1と同様に吸収体A11及び吸収体B12を作製し、吸収体A11及び吸収体B12の各面への反発力を測定した結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2から、吸収体A11の三番目に圧縮した面(f3a=5.1N)と吸収体B12の一番目に圧縮した面(f1b=1.3N)が反発力の差が最大となる組み合わせである。この組み合わせ以外の面同士が互いに方向に吸収体A11及び吸収体B12をタンクケース13内に配置する。本実施例においては、反発力の差が最小となる組み合わせである、吸収体A11の一番目に圧縮した面(f1a=3.6N)と吸収体B12の三番目に圧縮した面(f3b=2.5N)が接するように配置した(図8)。また、吸収体A11は二番目に圧縮した面(f2a)が、吸収体B12は一番目に圧縮した面(f1b)がそれぞれタンクケース13の開口面と水平をなすように配置した(図8)。その後、実施例1と同様にしてインクジェットカートリッジ14を得た(図5)。図5において、タンクケース13に挿入された吸収体A11のY寸法(ya)は設計値よりも1.2mm膨張した。また、吸収体B12のY寸法(yb)は設計値よりも1.2mm縮小した。
【0041】
[比較例2]
実施例2において、反発力の差が最大となる組み合わせである吸収体A11の三番目に圧縮した面(f3a=5.1N)と吸収体B12の一番目に圧縮した面(f1b=1.3N)が接するように吸収体A11及び吸収体B12をタンクケース13内に配置した。それ以外は実施例2と同様にインクジェットカートリッジ14を製造した。図5において、タンクケース13に挿入された吸収体A11のY寸法(ya)は設計値よりも4.1mm膨張した。また、吸収体B12のY寸法(yb)は設計値よりも4.1mm縮小した。したがって、実施例2の製造方法では吸収体の寸法変化が低減されたことが確認された。
【0042】
[実施例3]
実施例2と同一の繊維の材質、繊維径、繊維長の繊維を用い、繊維密度が8.1%、16.1%、18.7%の吸収体を実施例2と同様に作製し、各吸収体の各面への反発力を測定した結果を表3、図7に示す。表3、図7には、実施例2で測定した繊維密度が10.0%、13.5%の吸収体の反発力のデータも示している。測定したどの繊維密度の吸収体においても、二番目と三番目に圧縮した面の反発力は同程度であり、一番目に圧縮した面の反発力のみが小さいことが確認された。また、n番目に圧縮した面について反発力を比較すると、繊維密度が高くなると反発力が大きくなることが確認された。この結果から、繊維の材質、繊維径、繊維長が同一であり、繊維密度が異なる吸収体をタンクケース13内に配置する場合には、各吸収体の各面の反発力を測定しなくとも、繊維密度の高い吸収体(吸収体A11)の一番目に圧縮した面を他の吸収体(吸収体B12)と接するように各吸収体をタンクケース13内に配置することで、反発力の差が最大となる配置方向を避けることができることが確認された。これにより、吸収体の寸法変化を低減することができる。
【0043】
【表3】

【符号の説明】
【0044】
10 繊維
11 高毛管力吸収体(吸収体A)
12 低毛管力吸収体(吸収体B)
13 タンクケース
14 インクジェットカートリッジ
15 蓋
16 インク
17 インク吐出デバイス
18 インク供給口
19 繊維A
20 繊維B
101 フォースゲージ
201 一番目の圧縮板
202 二番目の圧縮板
203 三番目の圧縮板
204 底面となる圧縮板
205 天面となる圧縮板
401 圧縮板により圧縮状態を維持された吸収体A
402 圧縮板により圧縮状態を維持された吸収体B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維からなる互いに面で接する二つ以上の略直方体形状の吸収体をタンクケース内に備えるインクジェットカートリッジの製造方法において、
繊維を二つ又は三つの軸方向に順次圧縮して略直方体形状に成形し、吸収体を二つ以上製造する工程と、
前記各吸収体が接する面において、該面における垂直方向への反発力の差の絶対値が最大とならないように前記各吸収体をタンクケース内に配置する工程と、を含むインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項2】
前記各吸収体の繊維密度及び繊維径の少なくとも一方が互いに相違する請求項1に記載のインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項3】
前記各吸収体の各面において、該面に対して垂直方向への反発力を測定する工程をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項4】
繊維からなる互いに面で接する略直方体形状の第一の吸収体及び第二の吸収体をタンクケース内に備えるインクジェットカートリッジの製造方法において、
前記第一の吸収体及び第二の吸収体を構成する繊維の材質、繊維径及び繊維長は互いに同一であり、前記第一の吸収体は前記第二の吸収体より繊維密度が高く、
繊維を二つ又は三つの軸方向に順次圧縮して略直方体形状に成形し、第一の吸収体及び第二の吸収体を製造する工程と、
前記第一の吸収体の一番目に圧縮された軸方向と垂直をなす面が、前記第二の吸収体の一面と接するように該第一の吸収体及び第二の吸収体をタンクケース内に配置する工程と、を含むインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法により製造されるインクジェットカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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