説明

インクジェットプリンタ、印刷ユニットおよびその印刷方法

【課題】印刷媒体の表面にUVインクを平滑化した状態で且つ滲まないように重ねて付着させることにより印刷品質を向上させたインクジェットプリンタ、その印刷ユニットおよびその印刷方法を提供する。
【解決手段】インクジェットプリンタは、印刷媒体を支持するバキュームテーブルと、キャリッジ63に搭載され、印刷媒体の表面に向けてUVインクを吐出して付着させる印刷ヘッド62と、キャリッジ63に搭載され、印刷媒体の表面に付着したUVインクに紫外線を照射してUVインクを硬化させる右UVLEDユニット70R,左UVLEDユニット70Lとを有している。右UVLEDユニット70R,左UVLEDユニット70Lは、複数のUVLEDを前後に並べてキャリッジ63に搭載されて構成され、複数のUVLEDの各々は、独立して紫外線の照射強度が制御可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷媒体にインクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタ、その印刷ユニットおよびその印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラテン上に載置させた印刷媒体に対して、プラテンと対向して配設された印刷ヘッドを左右に往復移動させながら、印刷ヘッドからインクを吐出させて印刷媒体に印刷を施すインクジェットプリンタが知られている。このようなインクジェットプリンタには、紫外線が照射されることにより硬化する性質を有した紫外線硬化型インク(以下、UVインクと称す)を、印刷ヘッドから吐出させて印刷媒体に印刷を行うものがある。このUVインクは、耐候性および耐水性に優れているため、印刷物を例えば屋外広告宣伝ビラ等に用いることが可能となり、水溶性インクを用いた場合と比較して印刷物の使用用途が格段に広がるという利点がある。
【0003】
ところで、UVインクを吐出させて印刷を行うインクジェットプリンタには、印刷媒体に付着したUVインクに紫外線を照射して硬化させるための紫外線照射装置が設けられている。近年、この紫外線照射装置における紫外線を発光させる光源として、紫外線発光ダイオード(以下、UVLEDと称する)を用いたインクジェットプリンタが開発されている(例えば、特許文献1を参照)。ここでUVLEDとは、Ultra Vioret Light Emitting Diodeの略である。
【0004】
従来の印刷ユニット500は、図9(a)に示すように、内部にUVLEDが配設されて、下方に位置した印刷媒体501に向けて紫外線を照射可能に構成された右紫外線照射装置520Rおよび左紫外線照射装置520Lが、印刷ヘッド510の左右に一対となって固定配設されている。説明の便宜上、図9(a)に示す矢印方向を前後および左右と定義して説明する。印刷ヘッド510は、例えば滴状のマゼンタのUVインクを下面に設けられた複数のノズル(図示せず)から、印刷媒体501に向けて吐出するマゼンタ印刷ヘッド510M、同様にイエローのUVインクを吐出するイエロー印刷ヘッド510Y、シアンのUVインクを吐出するシアン印刷ヘッド510CおよびブラックのUVインクを吐出するブラック印刷ヘッド510Kから構成される。
【0005】
印刷媒体501の印刷ライン508に印刷を施すときには、印刷ユニット500を印刷ライン508の上方で所定のパス数だけ左右に往復移動させながら、印刷ヘッド510の各ノズルからUVインクを吐出させて、所望のパターンで印刷ライン508に重ねて付着させる。このとき、右紫外線照射装置520Rおよび左紫外線照射装置520Lから、UVインクを完全に硬化可能な照射強度となった紫外線が発射されており、この紫外線が印刷ライン508に照射されることによって、印刷ライン508に付着したUVインクが硬化されて印刷が施される。
【0006】
上記のようにして、印刷ライン508に印刷を施す途中段階における、ノズルから吐出されたUVインクが印刷ライン508に付着した状態の断面図を、図9(b)および(c)に示している。図9(b)においては、前回のパスにおいて印刷ライン508に付着して、紫外線が照射されて完全に硬化された完全硬化UVインク511の上に、今回のパスにおいて未硬化UVインク512が吐出されて付着した状態を示している。このとき、完全硬化UVインク511は完全に硬化されているため、完全硬化UVインク511と未硬化UVインク512との親和性が悪く、未硬化UVインク512は、表面張力によって粒状に盛り上がった状態となって付着する。また、未硬化UVインク512は粒状となって付着した後、親和性が悪いために紫外線が照射されるまでの間にほとんど拡がらない状態で紫外線が照射されて、完全に硬化される。
【0007】
一方、前回のパスにおいて印刷ライン508に付着して、硬化されていない(または、ほとんど硬化されていない)先の未硬化UVインク513の上に、今回のパスにおいて後の未硬化UVインク514が吐出されて付着した状態を、図9(c)に示している。このとき、先の未硬化UVインク513と後の未硬化UVインク514との親和性は良く、後の未硬化UVインク514は、粒状となって付着した後に先の未硬化UVインク513と混ざり合って滲む。そして、先の未硬化UVインク513と後の未硬化UVインク514とが混ざり合って、混合UVインク515となった状態で紫外線が照射されて、完全に硬化される。
【0008】
【特許文献1】特開2006−27236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、印刷ユニット500によって印刷媒体501に印刷を施す場合、印刷媒体501の表面に重なって付着したそれぞれのUVインクが、混ざり合って滲むことなく、且つ拡がって平滑化した状態で硬化されることにより、所望の印刷が施された印刷媒体501(所望印刷物)を得ることができる。しかしながら、図9(b)に示すように、完全に硬化された完全硬化UVインク511の上に、硬化されていない未硬化UVインク512が重なって付着すると、完全硬化UVインク511と未硬化UVインク512とが混ざり合うことがない反面、完全硬化UVインク511が未硬化UVインク512を弾き、未硬化UVインク512が完全硬化UVインク511の表面で粒状に盛り上がった状態のまま紫外線が照射されて硬化されることがあった。このように、UVインクが粒状のまま硬化されて印刷された印刷物を所望印刷物と比較すると、印刷物からの光の反射が異なるために見え方が異なり、印刷品質を低下させる虞があった。
【0010】
また、図9(c)に示すように、硬化されていない先の未硬化UVインク513の上に、硬化されていない後の未硬化UVインク514が重なって付着すると、後の未硬化UVインク514は先の未硬化UVインク513と混ざり合って滲んだ状態となり、この状態で紫外線が照射されて硬化されることがあった。このように、UVインク同士が混ざり合って滲んだ状態で硬化されて印刷された印刷物を所望印刷物と比較すると、混ざり合って滲んだ部分の色彩が異なって見えるために、印刷品質を低下させる虞があった。
【0011】
以上のような課題に鑑みて、本発明では印刷媒体の表面にUVインクを平滑化した状態で且つ滲まないように重ねて付着させることにより印刷品質を向上させたインクジェットプリンタ、そのインクジェットプリンタに用いる印刷ユニットおよびそのインクジェットプリンタを用いた印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明に係るインクジェットプリンタは、印刷媒体を支持する媒体支持部材(例えば、実施形態におけるバキュームテーブル12a)と、印刷媒体に対して第1の方向に相対往復移動されるとともに前記第1の方向に直交する第2の方向に相対移動されるキャリッジに前記媒体支持部材と対向して搭載され、前記媒体支持部材に支持された印刷媒体の表面に向けてインクを吐出して付着させる印刷ヘッドと、前記媒体支持部材と対向して前記キャリッジに搭載され、前記媒体支持部材に支持された印刷媒体の表面に紫外線を照射して前記印刷媒体の表面に付着したインクを硬化させる紫外線照射装置(例えば、実施形態における右UVLEDユニット70Rおよび左UVLEDユニット70L)とを有して構成される。前記紫外線照射装置は、複数の紫外線光源(例えば、実施形態におけるUVLED81R等)を前記第2の方向に並べて前記キャリッジに搭載されて構成され、前記複数の紫外線光源の各々は、独立して紫外線の照射強度が制御可能に構成されている。
【0013】
上記構成のインクジェットプリンタにおいて、前記紫外線照射装置は、前記第2の方向の寸法が前記印刷ヘッドの寸法よりも長く、一部の前記紫外線光源が前記印刷ヘッドに隣接するとともに、残りの前記紫外線光源が前記印刷ヘッドに対して前記第2の方向に突出して前記キャリッジに搭載された構成が好ましい。上記構成のインクジェットプリンタにおいて、前記紫外線照射装置は、前記キャリッジ上において前記第1の方向における前記印刷ヘッドの両側に配設された構成が好ましい。上記構成のインクジェットプリンタにおいて、前記複数の紫外線光源は、発光ダイオードを用いた構成が好ましい。上記構成のインクジェットプリンタにおいて、前記複数の紫外線光源は、少なくとも2段階に紫外線の照射強度を設定可能となった構成が好ましい。
【0014】
本発明に係る印刷ユニットは、印刷媒体の表面に対向して相対移動しながら前記印刷媒体の表面にインクを吐出して付着させるとともに、付着したインクに紫外線を照射して硬化させ所望の印刷を施すために用いられる印刷ユニットであって、印刷媒体に対して第1の方向に相対往復移動されるとともに前記第1の方向に直交する第2の方向に相対移動されるキャリッジに搭載され、印刷媒体の表面に向けてインクを吐出して付着させる印刷ヘッドと、前記キャリッジに搭載され、印刷媒体の表面に紫外線を照射して前記印刷媒体の表面に付着したインクを硬化させる紫外線照射装置とを有している。前記紫外線照射装置は、前記複数の紫外線光源を前記第2の方向に並べて前記キャリッジに搭載されて構成され、前記複数の紫外線光源の各々は、独立して紫外線の照射強度が制御可能に構成されている。
【0015】
本発明に係る印刷方法は、上述のように構成されたインクジェットプリンタを用いて行う印刷方法であって、前記媒体支持部材に支持された印刷媒体に対して前記キャリッジを前記第1の方向に相対往復移動させながら、前記印刷ヘッドから前記印刷媒体の表面にインクを吐出して所望の印刷を行うとともに前記紫外線照射装置から紫外線を照射して前記印刷媒体の表面に付着したインクを硬化させるステップを備え、前記紫外線照射装置から紫外線の照射を行うときに、前記複数の紫外線光源からの照射紫外線強度を独立して制御し、前記印刷ヘッドから吐出されて前記印刷媒体の表面に付着したインクに対する紫外線の照射タイミングおよび照射量を制御するようになっている。
【0016】
また、上記印刷方法は、前記紫外線照射装置の前記第2の方向の寸法が前記印刷ヘッドの寸法よりも長く、一部の前記紫外線光源が前記印刷ヘッドに隣接するとともに、残りの前記紫外線光源が前記印刷ヘッドに対して前記第2の方向に突出して前記キャリッジに搭載されたインクジェットプリンタを用いて、前記キャリッジを前記第1の方向に相対往復移動させながら前記印刷ヘッドから前記印刷媒体の表面にインクを吐出して所望の印刷を行うときに、前記紫外線光源のうち前記印刷ヘッドに隣接する部分からは、前記印刷ヘッドから吐出されて前記印刷媒体の表面に付着した直後のインクに仮硬化用の紫外線を照射して仮硬化させ、前記紫外線光源のうち前記印刷ヘッドに対して前記第2の方向に突出する部分からは、前の相対往復移動において前記印刷ヘッドから吐出されて前記印刷媒体の表面に付着したインクに本硬化用の紫外線を照射して本硬化させるようになっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るインクジェットプリンタは、複数の紫外線光源を第2の方向に並べるようにして紫外線照射装置がキャリッジに搭載されて構成され、この複数の紫外線光源の各々は、独立して紫外線の照射強度が制御可能に構成されている。この構成より、印刷媒体に付着した未硬化のUVインクに対して、拡がって平滑化可能な親和性を確保しつつ、接したUVインク同士が混ざり合って滲まないゲル状の半硬化状態に硬化可能な照射強度の紫外線を照射することができる。そのため、上記のゲル状の半硬化状態となったUVインクに対して、別のUVインクを付着させて重ねたとき、その付着したUVインクは、拡がって平滑化するとともに滲みが発生しない。よって、印刷媒体の表面で、UVインクを平滑化した状態で且つ滲まないように重ねて印刷することができ、印刷品質を向上させることが可能となる。また、互いに重なった半硬化状態のUVインクが平滑化した後で、これらのUVインクを完全に硬化可能な照射強度の紫外線を照射することによって、UVインクが印刷媒体に固定される。このように、照射強度の異なった紫外線を、タイミングを変えて照射させることが可能となる。
【0018】
また、紫外線照射装置は、一部の紫外線光源が印刷ヘッドに隣接するとともに、残りの紫外線光源が印刷ヘッドに対して第2の方向に突出してキャリッジに搭載された構成が好ましい。このように構成された場合には、印刷ヘッドに隣接する紫外線光源から、例えばゲル状の半硬化状態に硬化可能な照射強度の紫外線をUVインクに照射し、キャリッジが第2の方向に相対移動された後に、印刷ヘッドに対して第2の方向に突出した紫外線光源から、半硬化状態のUVインクを完全に硬化可能な照射強度の紫外線を照射することが可能である。そのため、UVインクが、例えばゲル状の半硬化状態となった後、拡がって平滑化するまでに時間がかかるような場合においても、平滑化するのを待ってUVインクを完全に硬化させて印刷媒体に固定させることが可能となる。
【0019】
紫外線照射装置は、キャリッジ上において第1の方向における印刷ヘッドの両側に配設された構成が好ましい。このように構成された場合には、キャリッジの往復移動方向に関わらず、UVインクが印刷媒体に付着した直後に、ゲル状の半硬化状態に硬化可能な照射強度の紫外線を照射可能となる。そのため、例えば同じパスにおいて付着したUVインク同士が接するような場合においても、UVインク同士が混ざって滲む前に、ゲル状の半硬化状態に硬化させることができる。よって、滲みの発生を抑えることができて印刷品質を向上させることが可能となる。
【0020】
また、複数の紫外線光源は、発光ダイオードを用いた構成が好ましい。発光ダイオードは、供給電流の電流値が変化すると同時に、紫外線の照射強度が追従して変化する。そのため、照射強度制御に対してタイムラグをほとんど生じることなく、所望の照射強度の紫外線をUVインクに照射可能となる。よって、UVインクをムラなく例えばゲル状の半硬化状態および完全に硬化させた状態に硬化させることができる。
【0021】
また、複数の紫外線光源は、少なくとも2段階に紫外線の照射強度を設定可能な構成が好ましい。この構成において、紫外線光源の照射強度を、例えば未硬化のUVインクをゲル状の半硬化状態に硬化可能な照射強度と、半硬化状態のUVインクを完全に硬化可能な照射強度とに設定しておく。こうすることにより、複数の紫外線光源の各々の照射強度制御は、2つの照射強度のうち一方を選択するという簡単な方法により行うことができて、紫外線の照射強度制御が容易となる。
【0022】
本発明に係る印刷ユニットは、複数の紫外線光源を第2の方向に並べるようにして紫外線照射装置がキャリッジに搭載されて構成され、この複数の紫外線光源の各々は、独立して紫外線の照射強度が制御可能に構成されている。この印刷ユニットによれば、紫外線照射装置から照射される紫外線の、第2の方向における照射幅およびその照射強度を任意に変えることが可能である。よって、例えば、印刷ヘッドから吐出されるUVインクの第2の方向における吐出幅に応じて、第2の方向における紫外線の照射幅を制御することが可能となる。
【0023】
本発明に係る印刷方法は、紫外線照射装置から紫外線の照射を行うときに、複数の紫外線光源からの照射紫外線強度を独立して制御し、印刷媒体の表面に付着したUVインクに対する紫外線の照射タイミングおよび照射量を制御するようになっている。この印刷方法において、まず印刷媒体に付着したUVインクに対して、例えばゲル状の半硬化状態に硬化可能な照射強度の紫外線を照射する。その後、半硬化状態のUVインクが拡がって平滑化したタイミングで、半硬化状態のUVインクを完全に硬化可能な照射強度の紫外線を、照射することにより、UVインクを滲みがなく平滑化した状態で硬化させて印刷媒体に固定させることが可能である。
【0024】
紫外線照射装置は、印刷ヘッドに隣接するとともに第2の方向に突出してキャリッジに搭載されて、印刷ヘッドに隣接する部分からは、付着した直後のインクに仮硬化用の紫外線を照射して仮硬化(ゲル状に半硬化)させ、第2の方向に突出する部分からは、前の相対往復移動において付着したインクに本硬化用の紫外線を照射して本硬化(完全に硬化)させる印刷方法が好ましい。この印刷方法によれば、仮硬化されたUVインクは、キャリッジが第2の方向に相対移動された後に、本硬化用の紫外線が照射される。そのため、仮硬化されたUVインクは、本硬化用の紫外線が照射されるまでの間に拡がって平滑化することができる。よって、UVインクが平滑化した状態で本硬化用の紫外線を照射して、印刷媒体に固定させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図1から図8を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明を適用したインクジェットプリンタの一例として、テーブル上に固定保持された印刷媒体に対して印刷ユニットを水平面内の直交二軸(X軸−Y軸)方向に移動させて印刷媒体に対して所望の印刷を行うインクジェットプリンタ1を、斜め前方から見た斜視図を図1に示す。なお、説明の便宜上、各図に示す矢印の方向を、それぞれ前後、左右および上下と称して説明する。
【0026】
インクジェットプリンタ1は、下部において土台部分を構成する支持部10、および支持部10の上方に移動自在となって配設された印刷部50から構成されている。支持部10は、本体フレーム11、支持テーブル12、真空ブロア13およびコントロールユニット20を主体に構成される。本体フレーム11は、その上方に載置されて固定された支持テーブル12を水平に支持するとともに、各機構の取り付けベースとなっている。支持テーブル12は、平面視矩形状に形成されておりその中央部分には、平板状の印刷媒体2を載置して固定保持するバキュームテーブル12aが形成されている。バキュームテーブル12aの表面には、上下に貫通する微細な空気孔が多数形成されており、これらの空気孔はバキュームテーブル12aの下面側に設けられた減圧室(図示せず)と連通している。また、支持テーブル12の左右側端面には前後に延びるガイド溝12b,12bが形成され、後述する印刷部50の左右に形成された前後ガイド51a,51aと嵌合している。
【0027】
真空ブロア13は、減圧室と連通しており減圧室内の空気を排気して負圧に設定し、または減圧室に空気を送り込み空気孔から吐出させる。印刷媒体2をバキュームテーブル12a上の原点位置に載置して、真空ブロア13により減圧室が負圧に設定され、印刷媒体2がバキュームテーブル12a表面に真空吸着されて固定保持される。また、印刷媒体2に対する所望の印刷が終了して、バキュームテーブル12aから印刷媒体2を取り除く際は、空気を減圧室に送り込むとともに空気孔から吐出させることによって、印刷媒体2を浮かせて簡単に取り除くことができる。
【0028】
コントロールユニット20は、支持テーブル12の前端部に設置されており、操作パネル21、停止ボタン22およびコントローラー23を主体に構成される。操作パネル21には、インクジェットプリンタ1の作動を操作する操作ボタン(図示せず)、および稼動状況を表示する表示パネル(図示せず)等が設けられている。停止ボタン22は、インクジェットプリンタ1の作動を停止させるボタンである。コントローラー23は、コントロールユニット20の内部に構成されており、図6に示すように、例えばインクジェットプリンタ1が設置されている作業室の室内温度、印刷に用いる印刷媒体2およびUVインクの種類が入力される。また、コントローラー23は、後述する前後駆動機構59、左右駆動機構69、右UVLEDユニット70Rの各UVLED、左UVLEDユニット70Lの各UVLEDおよび各色の印刷ヘッドに対して作動信号を出力可能となって接続されており、これらに作動信号を出力してインクジェットプリンタ1が所望の稼動状況となるように作動を制御する。
【0029】
上記において、作業室の室内温度がコントローラー23に入力される構成となっているが、これは室内温度がUVインクの平滑化およびUVインク同士の滲みの進行速度等に関係しているためである。一般的に、UVインク等の液体の粘度は室内温度の変化に伴って変化し、例えば、室内温度が上昇するとUVインクの粘度は低下する。このUVインクの粘度が低い場合には、ノズルから吐出されたUVインクは印刷媒体2に付着した後、短時間のうちに拡がって平滑化する。またこのとき、接したUVインク同士は短時間のうちに混ざって滲む。このように、作業室の室内温度はUVインクの粘度に影響を与え、その結果印刷媒体2に付着したUVインクの平滑化および滲みに影響を与える。また、例えば後述する印刷ユニット60の内部における、印刷ヘッド62の近傍の温度を検出するように構成することも可能である。こうすることにより、より正確にUVインクの粘度を検出することが可能となる。
【0030】
印刷部50は、基部51、ガイドレール52および印刷ユニット60を主体に構成される。基部51は、左右に延びた略直方体となっており、左右端部近傍に形成された前後ガイド51a,51aがガイド溝12b,12bと嵌合し、支持テーブル12の上方を跨いで前後にスライド移動自在に支持される。ガイドレール52は、左右に延びるとともに基部51の前面に形成されている。また、後述するキャリッジ63の後面に形成された左右ガイド65がガイドレール52と嵌合しており、印刷ユニット60は左右にスライド移動自在に支持される。なお、基部51を前後にスライド移動させる前後駆動機構59、および印刷ユニット60を左右にスライド移動させる左右駆動機構69については、種々の周知技術を用いることが可能であり、本明細書ではその説明を省略する。
【0031】
印刷ユニット60は、図1および図2に示すように、印刷ヘッド62、キャリッジ63および左右一対の右UVLEDユニット70R,左UVLEDユニット70Lを主体に構成され、外周部がカバー61によって覆われている。印刷ヘッド62は、例えばマゼンタ(M),イエロー(Y),シアン(C),ブラック(K),透明なクリア(T)の各色に対応した印刷ヘッド62M,62Y,62C,62K,62Tから構成されている。そして、この各色の印刷ヘッド62M,62Y,62C,62K,62Tの下面には、各色のUVインクを下方に向けて吐出可能な複数のノズル(図示せず)が、前後左右方向に延びる平面に配設されている。なお、基部51の左端部上面には、各色のUVインクを貯えた貯蔵タンク53が配置されている。この貯蔵タンク53は、例えば、マゼンタ(M),イエロー(Y),シアン(C),ブラック(K),クリア(T)の各色に対応した貯蔵タンク53M,53Y,53C,53K,53Tから構成されている。そして、色ごとに貯蔵タンクと印刷ヘッドとが管路(図示せず)を介して連通しており、適宜貯蔵タンクから印刷ヘッドにUVインクが送られる。
【0032】
キャリッジ63は、印刷ヘッド62および右UVLEDユニット70R,左UVLEDユニット70Lの取付ベースとなっている。キャリッジ63の前端部近傍に印刷ヘッド62が搭載されて固定されて、印刷ヘッド62の左右に一対の右UVLEDユニット70R,左UVLEDユニット70Lが搭載されて固定されている。
【0033】
右UVLEDユニット70R,左UVLEDユニット70Lは、図2および図3に示すように、その前後側面、左右側面および上面が平板状のカバー71によって覆われており、下方に向けて開口している。図3に、右UVLEDユニット70Rの側断面図を示しており、カバー71によって囲まれた内部には、前方から順にUVLED81R〜86Rが、下方に向けて紫外線を発射可能に取り付けられている。UVLED81R〜86Rは、それぞれ同一仕様となっており、本体部88の内部に組み込まれたLEDチップ(図示せず)から発射された紫外線が、集光レンズ89によって集光されて一定の照射角度となって下方に照射される。各UVLED81R〜86Rは、コントローラー23によって独立して紫外線の照射が制御される。なお、UVLED81R〜86Rを稼動させることにより、印刷ヘッド62の下面に形成されたノズルに対して、略2倍の前後幅の紫外線を照射可能となっている。
【0034】
また、右UVLEDユニット70Rおよび左UVLEDユニット70Lの前後中間部分(UVLED83Rと84Rとの間、およびUVLED83Lと84Lとの間)に、仕切り板72が設けられている。このように構成すると、例えば後述するステップ4において、UVLED84R,85R,86Rから発射された紫外線が、印刷ライン2aに照射されることがないので、ラインごとに所望の照射強度の紫外線を照射してUVインクを硬化させることができる。
【0035】
UVLED81R〜86Rの各々は、コントローラー23によって供給電流の電流値が制御されており、電流値に応じた照射強度の紫外線を照射可能となっている。例えば電流値A1の電流が供給されたときの照射強度は、未硬化のUVインクを、ゲル状の半硬化状態に仮硬化させる強度となっている。また、例えば電流値A2の電流が供給されたときの照射強度は、仮硬化されてゲル状の半硬化状態のUVインクを本硬化させる強度となっている。また、UVインクは、例えば仮硬化用の照射強度となった紫外線が複数回照射されて、本硬化に必要な積算量の紫外線を受光することによっても本硬化される。なお、コントローラー23は、上記の電流値を変えることによって、各UVLEDからの紫外線の照射強度を零、つまり紫外線を照射させないように制御することも可能である。
【0036】
左UVLEDユニット70Lも、右UVLEDユニット70Rと同様の構成となっており(図4を参照)、カバー71によって囲まれた内部には、前方から順にUVLED81L〜86Lが前後に並ぶように配設されている。また、UVLED81L〜86Lの各々は、コントローラー23によって独立して紫外線の照射が制御される。このように構成された印刷ユニット60は、キャリッジ63に印刷ヘッド62および右UVLEDユニット70R,左UVLEDユニット70Lを搭載した状態で、印刷媒体2の上方を左右駆動機構69によって左右に往復移動されるとともに、前後駆動機構59によって前後にスライド移動される。
【0037】
以上ここまでは、インクジェットプリンタ1の各構成部材について説明したが、以下に白色の印刷媒体2の左右端部まで印刷を施す場合の各構成部材の作動について、図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、印刷開始前において、印刷部50は支持テーブル12の後端部に位置し、また印刷ユニット60は、図4(a)に示すように印刷媒体2の左端部より左方の位置(以下において、ホームポジションと称する)に位置している。
【0038】
ステップ1において、印刷媒体2は、バキュームテーブル12a上の原点位置に載置されて、真空吸着されることによってバキュームテーブル12aに固定される。そして、オペレータによって、印刷が施される印刷媒体2の種類および印刷に用いるUVインクの種類が、操作パネル21を介してコントローラー23に入力される。またこのとき、インクジェットプリンタ1が設置されている作業室の室内温度も検出され、コントローラー23に入力される。
【0039】
ステップ2に進み、コントローラー23は、検出された室内温度における上記入力されたUVインクの色ごとの粘度を算出する。そして、得られた粘度を基に、UVインクの色ごとの印刷媒体2に付着後平滑化に要する時間を算出する。その結果、例えば、マゼンタが平滑化に最も時間かかかり、2番目に時間かかかるのがイエロー、3番目に時間がかかるのがシアン、最も短時間で平滑化するのがブラックという結果が得られたとして、以下の説明を行う。
【0040】
ステップ3に進み、ステップ2において得られた平滑化に要する時間を基にして、UVインク吐出パターンを決定する。例えば、要求される印刷品質等からパス数が決定され、また、平滑化に要する時間の長い色のUVインクから順に吐出されるように吐出パターンが決定される。ここでパス数とは、印刷媒体2の同一領域に対して、印刷ヘッド62のノズルからUVインクを吐出させながら通過する回数のことである。このようして、例えば6パスで印刷が行われ、各パスにおいてマゼンタ,イエロー,シアン,ブラックの順に1色ずつUVインクが吐出された後、残りの2パスにおいてクリアのUVインクが吐出されるように決定されたとする。このようにして決定されたUVインク吐出パターンを基にして、各UVLEDの紫外線照射パターンが決定される。例えば、UVインクが印刷媒体2に付着後、仮硬化用の紫外線が照射されて平滑化した後に本硬化されるように、各UVLEDの紫外線の照射タイミングおよび紫外線の照射強度が決定される。
【0041】
ステップ4に進み、印刷媒体2にUVインクが吐出されるとともに紫外線が照射されることによって、印刷媒体2に所望の印刷が施される。ここで、印刷ユニット60の平面図を示した図4を用いて、印刷手順の概略を説明する。印刷ユニット60は、図4(a)に示すホームポジションから、図4(b)に示す印刷媒体2の右端部よりも右方の位置(以下において、リバースポジションと称する)に移動され、さらにホームポジションに戻るように往復移動される。このとき、印刷媒体2の上方を左右に往復移動しながら、各印刷ヘッドのノズルから吐出制御されたUVインクが吐出され、印刷媒体2に所望のパターンで付着される。そして、印刷媒体2に付着したUVインクは、上述のように仮硬化用の紫外線が照射されて仮硬化され、時間の経過とともに平滑化した状態となるまで拡がる。その後、平滑化したUVインクに本硬化用の紫外線が照射され、平滑化した状態で本硬化されて印刷媒体2に固定され、所望の印刷が施される。
【0042】
上記のようにして印刷が施される際、ステップ3において決定されたUVインク吐出パターンおよび各UVLEDの紫外線照射パターンとなるように、コントローラー23が各構成部の制御を行う。コントローラー23による右UVLEDユニット70R,左UVLEDユニット70Lおよび印刷ヘッド62の制御の一例を、図4を用いて説明する。印刷ヘッド62は、左右に往復移動することによって、印刷媒体2の表面において左右に延びる例えば印刷ライン2aに、UVインクを付着させることができる前後位置にあるとする。この印刷ライン2aの後方側には、印刷ライン2aと同一の前後幅となった印刷済みライン2bが隣り合っている。印刷済みライン2bには、後述するように各色(マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックおよびクリア)のUVインクが仮硬化された状態で付着している。なお、このとき、UVLED81R,82R,83R(UVLED81L,82L,83L)から発射される紫外線は、印刷ライン2aに照射可能となっている。また、UVLED84R,85R,86R(UVLED84L,85L,86L)から発射される紫外線は、印刷済みライン2bに照射可能となっている。
【0043】
1パス目において、印刷ユニット60は左右駆動機構69によって、図4(a)に示すホームポジションから図4(b)に示すリバースポジションまで移動される。このとき、印刷ライン2aに、印刷ヘッド62Mのノズルから吐出制御されたマゼンタのUVインク62mが吐出される。さらにこのとき、UVLED81L,82L,83Lは仮硬化用の紫外線を発射するように制御され、その他のUVLEDは紫外線を発射させないように制御されている。よって、1パス目が実行されると、印刷ライン2aに付着したUVインク62mは、仮硬化用の紫外線が照射されて仮硬化された状態となっている(図5(a)を参照)。また、1パス目が実行されている間、印刷済みライン2bに仮硬化された状態となって付着した各色のUVインクは、印刷媒体2の表面で徐々に拡がる。
【0044】
2パス目において、印刷ユニット60は図4(b)に示すリバースポジションから、図4(a)に示すホームポジションまで移動される。このとき、印刷ヘッド62Yのノズルから吐出されたイエローのUVインク62yが、例えば1パス目において付着したUVインク62mに重なるように付着する。そして、仮硬化されたUVインク62mと未硬化のUVインク62yとは、混ざり合って滲むことがなく、また、表面張力によってUVインク62yがUVインク62mに弾かれることもない。さらにこのとき、UVLED81R,82R,83Rは、コントローラー23によって仮硬化用の紫外線を発射するように制御され、その他のUVLEDは、紫外線を発射させないように制御されている。よって、2パス目が実行されると、印刷ライン2aに付着したUVインク62yは、仮硬化用の紫外線が照射されて仮硬化された状態となっており、また1パス目で付着したUVインク62mも、仮硬化された状態となっている(図5(b)を参照)。このとき、仮硬化されたUVインク62mと仮硬化されたUVインク62yとは、親和性が良いために互いに弾き合うことがなく徐々に拡がり、また、混ざり合って滲むこともない。また、2パス目が実行されている間、印刷済みライン2bに仮硬化された状態となって付着した各色のUVインクは、印刷媒体2の表面で徐々に拡がる。
【0045】
3パス目において、印刷ユニット60は1パス目と同様に、ホームポジションからリバースポジションへと移動される。このとき、仮硬化されたUVインク62mおよび仮硬化されたUVインク62yが付着した印刷ライン2aに対して、印刷ヘッド62Cのノズルから吐出されたシアンのUVインク62cが重なって付着する。そして、仮硬化されたUVインク62m,62yと未硬化のUVインク62cとは、混ざり合って滲むことがなく、また、表面張力によってUVインク62cがUVインク62m,62yに弾かれることもない。さらにこのとき、UVLED81L,82L,83Lは、コントローラー23によって仮硬化用の紫外線を発射するように制御され、その他のUVLEDは、紫外線を発射させないように制御されている。よって、3パス目が実行されると、印刷ライン2aに付着したUVインク62cは、仮硬化用の紫外線が照射されて仮硬化された状態となっており、また1パス目および2パス目において付着したUVインク62mおよびUVインク62yも、仮硬化された状態となっている(図5(c)を参照)。このとき、仮硬化されたUVインク62m、UVインク62yおよびUVインク62cは、親和性が良いために互いに弾き合うことがなく徐々に拡がり、また、混ざり合って滲むこともない。また、3パス目が実行されている間、印刷済みライン2bに仮硬化された状態となって付着した各色のUVインクは、印刷媒体2の表面で徐々に拡がる。
【0046】
4パス目において、印刷ユニット60は2パス目と同様に、リバースポジションからホームポジションへと移動される。このとき、仮硬化されたUVインク62m、UVインク62yおよびUVインク62cが付着した印刷ライン2aに対して、印刷ヘッド62Kのノズルから吐出されたブラックのUVインク62kが重なって付着する。そして、仮硬化されたUVインク62m,62y,62cと未硬化のUVインク62kとは、混ざり合って滲むことがなく、また、表面張力によってUVインク62kがUVインク62m,62y,62cに弾かれることもない。さらにこのとき、UVLED81R,82R,83Rは、コントローラー23によって仮硬化用の紫外線を発射するように制御され、その他のUVLEDは、紫外線を発射させないように制御されている。よって、4パス目が実行されると、印刷ライン2aに付着したUVインク62kは、仮硬化用の紫外線が照射されて仮硬化された状態となっており、また1〜3パス目において付着したUVインク62m、UVインク62yおよびUVインク62cも、仮硬化された状態となっている(図5(d)を参照)。このとき、仮硬化されたUVインク62m、UVインク62y、UVインク62cおよびUVインク62kは、親和性が良いために互いに弾き合うことがなく徐々に拡がり、また、混ざり合って滲むこともない。また、4パス目が実行されている間、印刷済みライン2bに仮硬化された状態となって付着した各色のUVインクは、印刷媒体2の表面で徐々に拡がる。
【0047】
5パス目において、印刷ユニット60は1パス目と同様に、ホームポジションからリバースポジションへと移動される。このとき、仮硬化されたUVインク62m、UVインク62y、UVインク62cおよびUVインク62kが付着した印刷ライン2aに対して、印刷ヘッド62Tのノズルから吐出されたクリアのUVインク62tが重なって付着する。そして、仮硬化されたUVインク62m,62y,62c,62kと未硬化のUVインク62tとは、混ざり合って滲むことがなく、また、表面張力によってUVインク62tがUVインク62m,62y,62c,62kに弾かれることもない。さらにこのとき、UVLED81L,82L,83Lは、コントローラー23によって仮硬化用の紫外線を発射するように制御され、その他のUVLEDは、紫外線を発射させないように制御されている。よって、5パス目が実行されると、印刷ライン2aに付着したUVインク62tは、仮硬化用の紫外線が照射されて仮硬化された状態となっており、また1〜4パス目において付着したUVインク62m、UVインク62y、UVインク62cおよびUVインク62kも、仮硬化された状態となっている。このとき、仮硬化されたUVインク62m、UVインク62y、UVインク62c、UVインク62kおよびUVインク62tは、親和性が良いために互いに弾き合うことがなく徐々に拡がり、また、混ざり合って滲むこともない。また、5パス目が実行されている間、印刷済みライン2bに仮硬化された状態となって付着した各色のUVインクは、印刷媒体2の表面で徐々に拡がり、例えば5パス目が完了した時点において平滑化した状態となったとする。
【0048】
6パス目において、印刷ユニット60は2パス目と同様に、リバースポジションからホームポジションへと移動される。このとき、仮硬化されたUVインク62m、UVインク62y、UVインク62c、UVインク62kおよびUVインク62tが付着した印刷ライン2aに対して、印刷ヘッド62Tのノズルから吐出されたクリアのUVインク62tが重なって付着する。そして、5パス目および6パス目において吐出された透明なクリアのUVインク62tは、印刷ライン2aの表面全体に付着している。ここで、仮硬化されたUVインク62m,62y,62c,62k,62tと未硬化のUVインク62tとは、混ざり合って滲むことがなく、また、表面張力によって未硬化のUVインク62tが仮硬化されたUVインク62m,62y,62c,62k,62tに弾かれることもない。さらにこのとき、UVLED81R,82R,83Rは、コントローラー23によって仮硬化用の紫外線を発射するように制御され、UVLED84R,85R,86R,84L,85L,86Lは本硬化用の紫外線を発射するように制御され、UVLED81L,82L,83Lは、紫外線を発射させないように制御されている。
【0049】
よって、6パス目が実行されると、印刷ライン2aに付着したUVインク62tは、仮硬化用の紫外線が照射されて仮硬化された状態となっており、また1〜5パス目において付着したUVインク62m、UVインク62y、UVインク62c、UVインク62kおよびUVインク62tも、仮硬化された状態となっている(図5(e)を参照)。このとき、仮硬化されたUVインク62m、UVインク62y、UVインク62c、UVインク62kおよびUVインク62tは、親和性が良いために互いに弾き合うことがなく徐々に拡がり、また、混ざり合って滲むこともない。また、印刷済みライン2bの各色のUVインクは、平滑化した状態で本硬化用の紫外線が照射されて本硬化され、印刷媒体2に固定される。そうすることにより、マゼンタ,イエロー,シアン,ブラックの各色のUVインクの上面を覆うように、表面が平らに平滑化した状態の透明なクリアコート層が形成されて、光沢のある印刷が可能となる。
【0050】
6パス目が終了すると、印刷ユニット60は、ホームポジションに位置して静止した状態で、前後駆動機構59によって基部51(印刷ユニット60)が印刷ライン2a分だけ前方にスライド移動される。その後、上述の1〜6パス目と同様にして、印刷ライン2aの前方に隣接する印刷ラインに、UVインクが重ねて付着されるとともに仮硬化用の紫外線が照射されて仮硬化される。またこのとき、印刷ライン2aに付着して仮硬化された各色のUVインクは、上述の印刷済みライン2bと同様に、6パス目において本硬化用の紫外線が照射され、平滑化した状態で本硬化されて印刷媒体2に固定される。このようにUVインクの付着、仮硬化および本硬化を、印刷媒体2の前端部に達するまで繰り返して行うことによって、印刷媒体2に対する印刷は完了してこのフローは終了する。
【0051】
ここで、インクジェットプリンタ1の主な効果についてまとめると、以下のようになる。第1に、印刷媒体2に付着したUVインクに対して、パスごとに仮硬化用の紫外線を照射して仮硬化させるように、各UVLEDが照射制御される。こうすることにより、印刷媒体2に付着したUVインクは仮硬化され、印刷媒体2の表面上に重ねて付着されたUVインク同士は、親和性が確保されているので徐々に拡がって平滑化することが可能である。またこのとき、UVインク同士は互いに混じり合って滲むことがない。さらに、UVインクは、仮硬化された後時間の経過とともに徐々に拡がって平滑化した状態となり、それ以上拡がることなく平滑化した状態を維持している。そのため、本硬化用の紫外線は、UVインクが平滑化した後で照射されれば良く、本硬化用の紫外線の照射タイミング制御が容易となる。このように本硬化されることによって、印刷媒体2の表面に、平滑化した状態で且つ滲まないように重ねられたUVインクを固定することができ、印刷品質を向上させることが可能となる。
【0052】
第2に、印刷ヘッド62に隣接するUVLEDから仮硬化用の紫外線を照射し、印刷ヘッド62よりも後方に突出したUVLEDから、本硬化用の紫外線を照射して本硬化させるように制御可能となっている。このような制御を行うことにより、UVインクは仮硬化されてから本硬化されるまでの時間を長く空けることができるので、この間にUVインクは確実に平滑化することが可能となり、よって、UVインクを平滑化した状態で本硬化させて印刷媒体2に固定できる。
【0053】
第3に、作業室の室内温度からUVインクの粘度を算出して、算出された粘度をUVインク吐出パターンおよび各UVLEDの紫外線照射パターンに反映させる構成となっている。このように構成することにより、室内温度が変化してUVインクの粘度が変化した場合においても、印刷媒体2の表面に、UVインクを平滑化した状態で且つ滲まないように重ねて本硬化させることができ、印刷品質を向上させることが可能となる。
【0054】
本発明における右UVLEDユニット70Rおよび左UVLEDユニット70Lの構成は、上述の実施例に限定されず、図8(a)および(b)に示す構成でも良い。一方のUVLEDユニットを、例えば図8(a)に示す印刷ユニット90の右UVLEDユニット70R´ように、印刷ヘッド62の左右側方に隣接する部分(UVLED81R,82R,83R)のみで構成することも可能である。このように構成することにより、上述の実施例の効果を達成しつつUVLEDの個数を削減でき、製造コストを低減できる。また、例えば図8(b)に示す印刷ユニット95のように、一方の左UVLEDユニット70Lのみから構成することも可能である。このように構成することにより、上述の実施例の効果を達成しつつキャリッジ63´の左右幅を短く構成できるので、印刷ユニット95を小型化することができる。
【0055】
上述の実施例において、右UVLEDユニット70R,左UVLEDユニット70Lの前後長さは、2ライン(印刷ライン2aおよび印刷済みライン2b)分に限定されない。例えば、印刷ヘッド62の左右側方から後方に、3ライン分の長さで延びて構成されても良い。また、右UVLEDユニット70R,左UVLEDユニット70Lの内部に配設されるUVLEDの個数は限定されない。さらに、複数のUVLEDは、右UVLEDユニット70Rおよび左UVLEDユニット70Lの内部において、前後に延びて配設されていれば良く、必ずしも前後一列に配設される必要はない。
【0056】
本発明は、上述の実施例に示したような各UVLEDの紫外線の照射タイミングおよび照射強度の制御方法に限定されない。印刷媒体2に付着したUVインクが、平滑化した状態で硬化されて印刷媒体2に固定されるように、各UVLEDが制御されれば良い。
【0057】
上述の実施例のステップ2において、印刷ごとに検出された室内温度を基にしてUVインクの粘度を算出し、さらに平滑化に要する時間を算出する構成に限定されない。例えば、実験またはシミュレーションによって、室内温度とUVインクの粘度との関係を求めておくとともに、UVインクの粘度と平滑化に要する時間との関係を求めておき、これらの関係をデータベースとしてコントロールユニット20の内部に組み込まれたメモリ(図示せず)に記憶させておく構成も可能である。このように構成すると、コントローラー23がデータベースを参照することにより、検出された室内温度に対応したUVインクの平滑化に要する時間が得られる。また、求められた室内温度とUVインクの粘度との関係、および求められたUVインクの粘度と平滑化に要する時間との関係を基に、検出された室内温度とUVインクの平滑化に要する時間との関係を、データベースとしてメモリに記憶させておく構成でも良い。
【0058】
上述の実施例において、UVインクの吐出パターンはパスごとに1色ずつ吐出させるようになっているが、このような吐出制御に限定されない。例えば、各パスにおいて異なった色のUVインクを同時に吐出させるような吐出制御も可能である。また、上述の実施例において、5パス目および6パス目においてクリアのUVインクを吐出させるような吐出制御を行っているが、このような吐出制御に限定されない。例えば、印刷ライン2aの表面全体にクリアのUVインクを付着させることが可能であれば、5パス目のみにおいて、クリアのUVインクを吐出させるような吐出制御も可能である。
【0059】
上述の実施例において、バキュームテーブル12a上に固定保持された平板状の印刷媒体2に印刷を行う構成となっているが、この構成に限定されず、例えば、インクジェットプリンタ1に送り出し機構および巻き取り機構を追加して設けることにより、シート状の印刷媒体に対しても印刷可能となる。
【0060】
上述の実施例において、バキュームテーブル12a上に固定保持された印刷媒体2に印刷を行う構成(いわゆるフラットベッド)となっているが、この構成に限定されず、本発明はシート状の印刷媒体をプラテン上に搬送させながら印刷を行う、インクジェットプリンタにも適用可能である。
【0061】
上述の実施例において、各UVLEDの紫外線の照射強度が、仮硬化用と本硬化用の2段階に制御される構成について説明したが、この構成に限定されない。例えば、3段階以上に紫外線の照射強度が制御される構成でも良く、また、連続的に紫外線の照射強度が制御される構成でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係るインクジェットプリンタを示した斜視図である。
【図2】印刷ユニットの内部を示した斜視図(一部省略)である。
【図3】図2中のIII−III部分を示した断面図である。
【図4】インクの吐出制御および紫外線の照射制御を説明するための平面図である。
【図5】本発明に係るインクジェットプリンタによって、UVインクがパスごとに重ねられていく過程を示した断面図である。
【図6】本発明に係るインクジェットプリンタの制御系統を示した図である。
【図7】本発明に係るインクジェットプリンタの印刷方法を示したフローチャートである。
【図8】本発明に係る印刷ユニットの別の実施形態を示した平面図である。
【図9】(a)は従来の印刷ユニットを示した平面図であり、(b)は完全に硬化されたUVインクの上に別のUVインクが付着した状態を示した断面図であり、(c)は硬化されていないUVインクの上に別のUVインクが付着した状態を示した断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 インクジェットプリンタ
2 印刷媒体
12a バキュームテーブル(媒体支持部材)
60 印刷ユニット
62 印刷ヘッド
63 キャリッジ
70R 右UVLEDユニット(紫外線照射装置)
70L 左UVLEDユニット(紫外線照射装置)
81R〜86R、81L〜86L UVLED(紫外線光源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体を支持する媒体支持部材と、
印刷媒体に対して第1の方向に相対往復移動されるとともに前記第1の方向に直交する第2の方向に相対移動されるキャリッジに前記媒体支持部材と対向して搭載され、前記媒体支持部材に支持された印刷媒体の表面に向けてインクを吐出して付着させる印刷ヘッドと、
前記媒体支持部材と対向して前記キャリッジに搭載され、前記媒体支持部材に支持された印刷媒体の表面に紫外線を照射して前記印刷媒体の表面に付着したインクを硬化させる紫外線照射装置とを有したインクジェットプリンタにおいて、
前記紫外線照射装置は、複数の紫外線光源を前記第2の方向に並べて前記キャリッジに搭載されて構成され、
前記複数の紫外線光源の各々は、独立して紫外線の照射強度が制御可能であることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記紫外線照射装置は前記第2の方向の寸法が前記印刷ヘッドの寸法よりも長く、一部の前記紫外線光源が前記印刷ヘッドに隣接するとともに残りの前記紫外線光源が前記印刷ヘッドに対して前記第2の方向に突出して前記キャリッジに搭載されたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記紫外線照射装置は、前記キャリッジ上において前記第1の方向における前記印刷ヘッドの両側に配設されたことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記複数の紫外線光源は、発光ダイオードを用いて構成されたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記複数の紫外線光源は、少なくとも2段階に紫外線の照射強度を設定可能に構成されたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
印刷媒体の表面に対向して相対移動しながら前記印刷媒体の表面にインクを吐出して付着させるとともに、付着したインクに紫外線を照射して硬化させ所望の印刷を施すために用いられる印刷ユニットであって、
印刷媒体に対して第1の方向に相対往復移動されるとともに前記第1の方向に直交する第2の方向に相対移動されるキャリッジに搭載され、印刷媒体の表面に向けてインクを吐出して付着させる印刷ヘッドと、
前記キャリッジに搭載され、印刷媒体の表面に紫外線を照射して前記印刷媒体の表面に付着したインクを硬化させる紫外線照射装置とを有し、
前記紫外線照射装置は、前記複数の紫外線光源を前記第2の方向に並べて前記キャリッジに搭載されて構成され、
前記複数の紫外線光源の各々は、独立して紫外線の照射強度が制御可能である印刷ユニット。
【請求項7】
前記請求項1に記載のインクジェットプリンタを用いて行う印刷方法であって、
前記媒体支持部材に支持された印刷媒体に対して前記キャリッジを前記第1の方向に相対往復移動させながら、前記印刷ヘッドから前記印刷媒体の表面にインクを吐出して所望の印刷を行うとともに前記紫外線照射装置から紫外線を照射して前記印刷媒体の表面に付着したインクを硬化させるステップを備え、
前記紫外線照射装置から紫外線の照射を行うときに、前記複数の紫外線光源からの照射紫外線強度を独立して制御し、前記印刷ヘッドから吐出されて前記印刷媒体の表面に付着したインクに対する紫外線の照射タイミングおよび照射量を制御することを特徴とする印刷方法。
【請求項8】
前記紫外線照射装置は前記第2の方向の寸法が前記印刷ヘッドの寸法よりも長く、一部の前記紫外線光源が前記印刷ヘッドに隣接するとともに残りの前記紫外線光源が前記印刷ヘッドに対して前記第2の方向に突出して前記キャリッジに搭載されており、
前記キャリッジを前記第1の方向に相対往復移動させながら前記印刷ヘッドから前記印刷媒体の表面にインクを吐出して所望の印刷を行うときに、
前記紫外線光源のうち前記印刷ヘッドに隣接する部分からは、前記印刷ヘッドから吐出されて前記印刷媒体の表面に付着した直後のインクに仮硬化用の紫外線を照射して仮硬化させ、
前記紫外線光源のうち前記印刷ヘッドに対して前記第2の方向に突出する部分からは、前の相対往復移動において前記印刷ヘッドから吐出されて前記印刷媒体の表面に付着したインクに本硬化用の紫外線を照射して本硬化させることを特徴とする請求項7に記載の印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−202418(P2009−202418A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46883(P2008−46883)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】