説明

インクジェットプリンタおよび記録紙搬送方法

【課題】ロール紙プリンタにおいて、プラテンの吸引を停止したときの記録紙の浮き上がりを防止し、紙ジャムや印刷不良の発生を防止すること。
【解決手段】ロール紙プリンタ1は、記録紙12aを吸引機構50によりプラテン19の表面上に吸引しながら搬送する。また、オートカット処理後には記録紙12aの先端部分12bを切断位置Bからプラテン19上の印刷開始位置Aまで一旦戻し、プラテン19側に記録紙12aを吸引した状態を維持して次の印刷に備える。ロール紙プリンタ1の制御部61は、省電力モードあるいは電源オフ状態に移行するときは、記録紙12aの先端部分12bを印刷開始位置Aから切断位置Bまで前進させて下流側紙送りローラ34および押えローラ35によって把持させてからプラテン19の吸引機構50への電力供給を停止する。これにより、吸引停止中も記録紙12aの浮き上がりを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール紙などの長尺の記録紙を装填するプリンタにおいて、インクジェットヘッドと対峙するプラテンが記録紙を吸引するための吸引機構を備えているインクジェットプリンタ、および、当該インクジェットプリンタにおける記録紙搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロール紙状に巻かれた記録紙を装填して印刷するプリンタでは、ロール紙から繰り出される記録紙を、印刷ヘッドと対峙するプラテン上の印刷位置、および、記録紙排出口付近の切断位置を経由する搬送路に沿って搬送する。従来のプリンタでは、印刷済みの記録紙を切断位置まで搬送してオートカッタなどにより切断した後、次の印刷に備えるために、切断後の記録紙の先端部分を切断位置から印刷開始位置まで後退させ、印刷開始位置で待機させている。
【0003】
ロール紙状に巻かれた記録紙は巻き癖がついていることが多く、また、腰が強い紙が用いられているために巻き癖が直りにくいことが多い。記録紙の先端部分を印刷開始位置まで後退させたときには、当該先端部分は紙送りローラ等で保持されない状態でプラテン上に配置されているが、巻き癖がついた記録紙の先端部分はカールしてプラテン面から浮き上がるので、紙ジャムの原因になったり、印刷ヘッドと干渉して印刷不良の原因になる恐れがある。特許文献1のインクジェットプリンタは、ロール紙から繰り出した記録紙を印刷位置においてプラテン上に平らに保持させるために、プラテンの表面に開けた穴から記録紙を吸引してプラテン面に密着させる吸引機構を備えている。
【特許文献1】特開2007−153602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような吸引機構を備えたプラテンを有するインクジェットプリンタでは、記録紙の先端部分を印刷開始位置まで後退させて待機させるときに、記録紙がプラテン面から浮き上がらないように吸引しておくことができる。しかしながら、待機時間が長く続いてプリンタが省電力モードに移行したりプリンタが電源オフ状態になると、電源供給の停止によりプラテンの吸引機構も停止してしまう。よって、このような場合には、記録紙の先端部分がカールしてプラテン面から浮き上がってしまい、省電力モードや電源オフ状態などから復帰して印刷ジョブを再開したときに、カールした記録紙が印刷ヘッドや紙送りローラなどと干渉して紙ジャムが発生したり、印刷不良が発生する恐れがあった。
【0005】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、プラテン上に記録紙を吸引するための吸引機構を備えたインクジェットプリンタにおいて、印刷待機中にインクジェットプリンタが省電力モードになったり電源オフ状態になっても記録紙を搬送路から浮きあがらないように保持することができ、復帰後の紙ジャムあるいは印刷不良の発生を防止できるインクジェットプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のプリンタは、
インクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドの印刷位置を規定しているプラテンと、
前記印刷位置を経由して長尺状の記録紙を搬送するための搬送路と、
前記搬送路における前記プラテンの下流側に配置されている紙送りローラ対を備え、前記搬送路に沿って前記記録紙を搬送する紙送り機構と、
前記プラテンの表面に前記記録紙を吸引する吸引機構と、
前記吸引機構による吸引動作を停止するときに前記記録紙が前記紙送りローラ対によって把持されていない場合には、前記記録紙の搬送を行わせて、当該記録紙が前記紙送りローラ対によって把持された状態にする制御部とを有していることを特徴とする。
【0007】
このように、本発明では、記録紙を吸引機構によりプラテンの表面に吸引できる。また、吸引機構による吸引動作を停止するときには、記録紙をプラテンの下流側に配置されている紙送りローラ対によって把持できる。よって、記録紙を常に搬送路から浮き上がらないように保持しておくことができるので、紙ジャムや印刷不良の発生を抑制できる。また、吸引機構が停止するときの記録紙の保持手段として紙送りローラを利用しているので、吸引機構が停止したときに記録紙を保持するためだけに新たな構成部品を追加する必要がない。
【0008】
本発明において、前記インクジェットプリンタが省電力状態または電源オフ状態に移行するときに前記吸引機構による吸引動作を停止するとよい。このように、省電力状態または電源オフ状態に移行するときにはプリンタ各部への電源供給が一部あるいは全部停止するために吸引機構も停止してしまうが、本発明では、そのような状態でも、記録紙を紙送りローラによって搬送路から浮き上がらないように保持しておくことができる。よって、省電力状態または電源オフ状態から復帰した後の紙ジャムや印刷不良の発生を抑制できる。
【0009】
本発明において、前記制御部は、前記吸引機構による吸引動作を再開するときには、前記記録紙を前記インクジェットヘッドによる印刷時とは逆方向に搬送させ、前記記録紙の先端部分を前記プラテン上の印刷開始位置まで戻すとよい。このようにすれば、吸引動作を再開した後には印刷開始位置で記録紙を待機させることができるので、次の印刷指令を受信したときに速やかに印刷を開始することができる。
【0010】
本発明において、前記記録紙がロール状に巻き取られた構成のロール紙を装填するロール紙装填部を有しているとよい。このように、ロール紙を装填してロール紙から繰り出される巻き癖がついた記録紙に印刷するインクジェットプリンタでは、ロール紙がカールして搬送路から浮き上がりやすいが、吸引機構による吸引動作が停止したときには紙送りローラ対によって把持させておくことにより、紙ジャムや印刷不良の発生を抑制できる。
【0011】
本発明において、前記搬送路における前記紙送りローラ対の下流側には、前記記録紙を切断する切断機構が配置されており、前記制御部は、前記吸引機構による吸引動作を停止するときに、前記記録紙が前記紙送りローラ対によって把持されていない場合には、前記記録紙の先端部分が前記切断機構による記録紙切断位置に至るまで前記記録紙の搬送を行わせるとよい。このようにすれば、記録紙の先端部分の停止位置を記録紙切断時と同位置にすることができるので、記録紙の停止位置を吸引機構が停止したときのために別個に設定する必要がない。よって、記録紙の搬送制御を単純にすることができる。
【0012】
次に、本発明は、上記構成のインクジェットプリンタの記録紙搬送方法であって、
前記ロール紙装填部から繰り出した前記記録紙を前記記録紙切断位置まで搬送して切断し、
切断後の前記記録紙の先端部分を前記プラテン上の印刷開始位置まで後退させ、前記記録紙における前記プラテンの表面上に位置する部分を前記吸引機構により吸引した状態で印刷待機させ、
前記印刷待機の途中で前記吸引機構による吸引を停止するときには、前記記録紙の先端部分を前記紙送りローラ対によって把持される位置まで搬送して、前記記録紙における前記プラテンの表面上に位置している部分が当該表面から浮き上がることを防止し、
前記吸引機構による吸引を再開するときには、前記記録紙の先端部分を前記印刷開始位置まで戻すことを特徴とする。
【0013】
このように、本発明のインクジェットプリンタの記録紙搬送方法は、記録紙切断後は記録紙の先端部分を印刷開始位置で待機させることができ、印刷待機中には、吸引機構あるいは紙送りローラのどちらかで常に記録紙を搬送路から浮き上がらないように保持しておくことができる。よって、紙ジャムや印刷不良の発生を抑制できる。また、吸引動作の再開後は印刷開始位置で記録紙を待機させることができるので、次の印刷指令を受信したときに速やかに印刷を開始することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、記録紙の先端を吸引機構によりプラテンの表面に吸引できる。また、吸引機構による吸引動作を停止するときには、記録紙の先端部分をプラテンの下流側に配置されている紙送りローラ対によって把持できる。よって、記録紙を常に搬送路から浮き上がらないように保持しておくことができるので、紙ジャムや印刷不良の発生を抑制できる。また、吸引機構が停止するときの記録紙の保持手段として紙送りローラを利用しているので、吸引機構が停止したときに記録紙を保持するためだけに新たな構成部品を追加する必要がない。よって、プリンタの構成を簡素化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したロール紙プリンタの実施の形態を説明する。
【0016】
(全体構成)
図1は本発明の実施の形態に係るシリアル型のオートカッタ付きインクジェットプリンタであるロール紙プリンタ1を示す外観斜視図であり、図2はそのロール紙カバーを全開にした状態の外観斜視図である。ロール紙プリンタ1は、全体としてほぼ直方体形状をしたプリンタ本体2における外装ケース2aの前面に、ロール紙カバー3aおよびインクカートリッジカバー3bが左右に並んで取り付けられている。ロール紙カバー3aおよびインクカートリッジカバー3bは手前側に開閉可能に取り付けられている。また、外装ケース2aの前面におけるロール紙カバー3aの上部には、所定幅の記録紙排出口4が形成されている。記録紙排出口4の下側には排紙ガイド5が前方に突出しており、当該排紙ガイド5の側方には蓋開閉レバー6が配置されている。
【0017】
蓋開閉レバー6を操作するとロール紙カバー3aのロックが解除される。ロック解除後、排紙ガイド5を前方に引くと、ロール紙カバー3aはその下端部を中心として前方にほぼ水平となるまで開く。ロール紙カバー3aが開くと、図2に示すように、プリンタ内部のロール紙収納部11が開放状態となる。同時に、ロール紙収納部11から記録紙排出口4に到る記録紙搬送経路が開放状態となり、プリンタ前方からロール紙の交換作業などを簡単に行うことができるようになる。また、インクカートリッジカバー3bを手前側に開くと、インク液を封入したインクカートリッジを装着するためのカートリッジ装着部が開放状態になり、インクカートリッジの装着や取り外しを行うことができるようになる。なお、図2においては、ロール紙カバー3aおよび蓋開閉レバー6を省略してある。
【0018】
図3(a)はロール紙プリンタ1の内部構造を示す概略構成図である。ロール紙プリンタ1の内部に形成されているロール紙収納部11には、ロール紙12がプリンタ幅方向に向いた横置き状態で転動可能に収納される。ロール紙12は記録紙12a(図において太い一点鎖線で示してある)をロール状に巻き取った構成のものである。ロール紙収納部11に収納されているロール紙12から繰り出される長尺状の記録紙12a(連続紙)は、後述する紙送り機構30により、プリンタ本体2内の搬送路15(記録紙12aを示す一線鎖線と同一の経路)に沿って搬送され、記録紙排出口4から排出される。搬送路15は、ロール紙12から斜め上方に延びてから湾曲状の紙送りガイド14によって方向転換され、プリンタ前面側の記録紙排出口4に向かって水平方向に延びている。紙送りガイド14により、搬送路15上の記録紙12aに所定の張力が付与される。
【0019】
搬送路15の水平方向に延びている部分はロール紙収納部11の真上に位置しており、当該搬送路部分には、インクジェットヘッド18およびプラテン19が一定のギャップで上下方向に対向配置されている。このプラテン19によってインクジェットヘッド18による印刷位置が規定されている。本実施形態のプラテン19は、後述する吸引機構50(図5参照)が接続されている吸引プラテンであり、この上を搬送される記録紙12aを、当該プラテンの表面上に吸引して浮き上がりを防止することができる。ロール紙12から繰り出される記録紙12aの先端部分12b(図7参照)は、印刷ジョブ終了時あるいは用紙交換時などには、次の印刷に備えるために、プラテン19上の印刷開始位置Aに位置合わせされる。
【0020】
図3(b)はロール紙プリンタ1におけるインクジェットヘッド18が配置されている部分の縦断面の構成を示す説明図である。インクジェットヘッド18はヘッドキャリッジ21に搭載されており、ヘッドキャリッジ21は、キャリッジモータ22によって、プリンタ幅方向に水平に架け渡したキャリッジガイド軸23に沿って往復移動する。インクジェットヘッド18は、プラテン19上を横断する印刷領域24を往復移動しながら、プラテン19上を搬送される記録紙12aに印刷を施す。印刷待機状態では、インクジェットヘッド18は印刷領域24から横方に外れた想像線で示すホームポジション25に位置している。ホームポジション25の下側には、ノズルキャップ(図示せず)を備えたヘッドメンテナンスユニット26が配置されている。このヘッドメンテナンスユニット26により、インクジェットヘッド18に、公知のヘッドクリーニング処理や不良ノズルの有無を検出するためのノズルチェック処理などが行われる。
【0021】
記録紙12aは、搬送路15の水平方向に延びている部分に沿って前進方向(記録紙排出口4側に進む方向)または後退方向(紙送りガイド14側に戻る方向)に水平に搬送される。紙送り機構30は、プラテン19の前端側と後端側の2箇所において記録紙12aを紙送りローラ対によって把持する構造になっており、これらのローラを同期して正逆方向に回転させることにより、記録紙12aを前進方向または後退方向に搬送している。
【0022】
すなわち、搬送路15におけるプラテン19の前端側には上流側紙送りローラ31がプリンタ幅方向に水平に架け渡されている。この上流側紙送りローラ31には記録紙12aを介して押えローラ33が連れ回りするように押し付けられている。一方、インクジェットヘッド18の下流側には、上流側紙送りローラ31と同期して回転する下流側紙送りローラ34(紙送りローラ対の一部)が配置されており、この下流側紙送りローラ34には記録紙12aを介して押えローラ35(紙送りローラ対の一部)が連れ回りするように押し付けられている。上流側紙送りローラ31および下流側紙送りローラ34は、プリンタ本体2に搭載されている紙送りモータ32によって同期して回転駆動される。
【0023】
図4はオートカッタ40(切断機構)およびプラテン19の部分断面図である。プラテン19よりも記録紙搬送方向の下流側には、記録紙排出口4の近傍にオートカッタ40が配置されている。このオートカッタ40は鋏式のものであり、下側に配置されている固定刃41と、上側に配置されている可動刃42と、この可動刃42を駆動するためのカッタモータ43とを備えている。印刷後の記録紙12aは、記録紙排出口4の近傍の切断位置B(記録紙切断位置)においてオートカッタ40によって幅方向に切断される。
【0024】
図5はプラテン19および吸引機構50を取り出して示す斜視図である。図4および図5に示すように、プラテン19はプリンタ幅方向に長い扁平な直方体形状をしている。プラテン19の表面には、記録紙12aの搬送方向に延びる複数本の縦リブ19aが所定の間隔で形成されている。これらの縦リブ19aの間に形成されている細長い長方形の浅い凹部の底には1個または複数個の吸引孔19bが上下方向に貫通した状態に形成されている。プラテン19の裏面側は封鎖空間19cとなっており、ここには、吸引機構50の吸引ダクト51の前端が接続されている。吸引ダクト51の後端はロール紙プリンタ1の後端部に配置されている吸引ファン52の吸引口に接続されている。
【0025】
プラテン19はロール紙カバー3a側に搭載されており、ロール紙カバー3aの開閉に伴って移動する。ロール紙カバー3aを閉じると、プラテン19の封鎖空間19cが吸引ダクト51の前端に接続され、ロール紙カバー3aを開くと、プラテン19は吸引ダクト51の前端から離れるようになっている。また、プラテン19の側方には、インクジェットヘッド18を搭載したヘッドキャリッジ21の移動範囲を確保するためのスペースを利用して、インクジェットヘッド18から吐出されるインク液滴に起因して発生するインクミストを回収するためのインクミスト回収部19dが形成されている。
【0026】
図6はロール紙プリンタ1の制御系を示す概略ブロック図である。制御系は、CPU、ROM、RAMなどを含むMPUを中心に構成されている制御部61を備えている。制御部61には、ロール紙カバー3aおよびインクカートリッジカバー3bの開閉を検出するための開閉センサ、プリンタ本体2の外装ケース2aなどに配置されている衝撃センサ、ヘッドキャリッジ21の移動位置を検出するためのキャリッジセンサ、オートカッタ40における可動刃42の位置を検出するためのカッタ検出器、ノズルチェックなどの際にインクジェットヘッド18から吐出されたインクを検出するためのインク検出器、搬送路15の所定位置に配置されている記録紙センサ、記録紙12aのラベルやブラックマークを検出するラベル検出器やブラックマーク検出器、カートリッジのインク残量を検出するための検出器、などを含む各種のセンサ群62から各種の検出信号が供給される。制御部61は、これらの検出信号に基づいてロール紙プリンタ1の各部を制御する。
【0027】
制御部61は、上位機器63から供給された印刷指令及び印刷データに基づき、記録紙12aの搬送に同期させてキャリッジモータ22およびインクジェットヘッド18を駆動し、記録紙12a上に印刷する印刷動作を制御する。また、制御部61は、オートカッタ40によるオートカットモードが指定されている場合、あるいは上位機器63から供給されたオートカット指令に基づき、一連の印刷動作の終了後にカッタモータ43を駆動して、記録紙12aのオートカット動作を制御する。さらに、制御部61は、吸引ファン52を駆動して、プラテン19上を搬送される記録紙12aを当該プラテン19に吸引する吸引動作を制御する。また、制御部61は、ヘッドメンテナンスユニット26によるヘッドクリーニング動作やノズルチェック動作を制御する。
【0028】
(ロール紙プリンタの印刷制御)
次に、ロール紙プリンタ1における印刷時の動作およびその制御について説明する。
制御部61は、上位機器63から印刷指令および印刷データが入力されると、吸引ファン52を駆動して記録紙12aをプラテン19に吸引する吸引動作を開始する。また、紙送りモータ32を駆動して記録紙12aを搬送し、記録紙12aの先端部分12b(図7参照)をインクジェットヘッド18による印刷開始位置Aに合わせるようにプラテン19上に位置決めする。また、ヘッドキャリッジ21をプリンタ幅方向に移動させることにより、インクジェットヘッド18をホームポジション25からプラテン19上の所定位置に位置決めする。そして、インクジェットヘッド18を印刷領域24内でプリンタ幅方向に往復移動させながらインク液滴を吐出する動作と、記録紙12aを1行分送り出す紙送り動作とを交互に繰り返す。
【0029】
制御部61は、インク吐出動作中および紙送り動作中は吸引ファン52を駆動し続けているので、記録紙12aはプラテン19上で浮き上がらずに搬送される。また、制御部61は、一連の印刷動作の終了後も、記録紙12aをプラテン19側に吸引する吸引状態を継続する。そして、記録紙12aの印刷済み部分およびその後方の余白部分がオートカッタ40による切断位置Bを通過するまで記録紙12aを搬送する。制御部61は、オートカットモードが指定されている場合、あるいはオートカット指令を受信している場合には、記録紙12aの余白部分が切断位置Bを通過した時点で記録紙12aの搬送を停止してオートカッタ40を駆動し、記録紙12aを切断位置で幅方向に切断する。切断直後は、記録紙12aの先端部分は、切断位置Bの近傍において下流側紙送りローラ34と押えローラ35に挟持されている。
【0030】
その後、制御部61は、次の印刷に備えるために、紙送りモータ32を印刷時とは逆方向に回転駆動させて記録紙12aを後退方向に搬送し、切断後の記録紙12aの先端部分12bを印刷開始位置Aに合わせてプラテン19上に位置決めした後、紙送りモータ32を駆動停止させる。このとき、インクジェットヘッド18はプラテン19上の印刷終了位置にそのまま待機しているが、紙送りモータ32が停止した後も制御部61は吸引ファン52を駆動し続けているので、記録紙12aのプラテン19上にある部分はプラテン19から浮き上がらず、プラテン19上に待機しているインクジェットヘッド18のノズル面に干渉してしまうことがない。
【0031】
ここで、ロール紙プリンタ1が既に次の印刷指令および印刷データを受信している場合には、制御部61は、印刷終了位置に待機していたインクジェットヘッド18を再び移動させ、次の印刷動作を開始する。一方、まだ次の印刷指令および印刷データを受信していない場合には、制御部61は、記録紙12aを印刷開始位置Aに位置合わせした状態でインクジェットヘッド18をホームポジション25に退避させ、印刷待機状態に入る。制御部61は、印刷待機状態に入った後もそのまま吸引ファン52を駆動し続けることにより、記録紙12aがプラテン19から浮き上がらないように印刷開始位置Aで保持し続ける。
【0032】
(省電力モード移行時および電源オフ時のロール紙プリンタの制御)
ロール紙プリンタ1は、所定の省電力モード移行条件を満たした場合には省電力モードに移行し、消費電力を低減させるようにしている。本実施形態では、制御部61は、以下の(1)〜(8)の移行条件の全てが満たされた状態になり、その状態が予め設定した時間以上続いた場合には、ロール紙プリンタ1を省電力モードに移行させる。そのため、制御部61は、内蔵する不揮発メモリなどにこれらの移行条件およびその継続時間を記憶保持している。
(1)プリンタが印刷ジョブを実行中でないこと
(2)印刷指令が入力されていないこと
(3)ロール紙カバー3aが閉じていること
(4)インクカートリッジカバー3bが閉じていること
(5)インクジェットヘッド18のノズルがヘッドメンテナンスユニット26のノズルキャップで封止されていること
(6)ヘッドメンテナンスユニット26がノズルチェックやヘッドクリーニングなどのメンテナンス動作を実行中でないこと
(7)ブザーやランプなどの報知手段が鳴動中あるいは点灯中でないこと
(8)何らかのエラー状態中でないこと
なお、これらのいずれか一つ、或いはこれらの中の組み合せが満たされた場合に、省電力モードに移行するようにしてもよい。
【0033】
省電力モードに移行するときには、ロール紙プリンタ1は、以下の(イ)〜(ヘ)に示すように、予め設定した電力消費部への電力供給を停止する。
(イ)キャリッジモータ22、紙送りモータ32、カッタモータ43などの全てのモータへの電力供給を停止する
(ロ)インクジェットヘッド18への電力供給を停止する
(ハ)プラテン19を吸引する吸引ファン52への電力供給を停止する
(ニ)商用電源からの交流電流を所定の供給電圧(42V、24V、12Vなど)の直流電流に変換するための電源回路のうち、予め設定した電源回路(例えば、42Vと24V)を停止させ、予め設定した電圧の電力供給を全て停止する
(ホ)ロール紙プリンタ1が内蔵するICのうち、予め設定したICへの電力供給を停止する
(ヘ)ロール紙プリンタ1が内蔵する検出器のうち、予め設定した検出器への電力供給を停止し、その使用を不可にする
なお、これらのいずれか一つ、或いはこれらの中の組み合せを、省電力モードに移行したときの電力供給停止処理として行ってもよい。
【0034】
上記(ヘ)の省電力モードで使用不可になる検出器は、以下のものに設定されている。
・ヘッドキャリッジ21の位置を検出するキャリッジセンサ
・ロール紙カバー3aの開閉を検出する開閉センサ
・インクカートリッジカバー3bの開閉を検出する開閉センサ
・プリンタ本体2に加えられた衝撃を検出する衝撃センサ
・ノズルチェックなどの際に吐出されたインクを検出するインク検出器
・オートカッタ40の可動刃42の位置を検出するカッタ検出器
なお、これらのいずれか一つ、或いはこれらの中の組み合せを、省電力モード時に使用不可にしてもよい。
【0035】
図7(a)〜(c)は記録紙12aの先端部分12bの停止位置を示す説明図である。省電力モードに移行するときには、移行条件(1)で説明したようにプリンタが印刷ジョブを実行しておらず印刷待機状態になっている。従って、このときには、図7(a)に示すように記録紙12aの先端部分12bはプラテン19上の印刷開始位置Aに位置合わせされている。この状態で省電力モードに移行すると、上記(ハ)で説明したようにプラテン19への電力供給が停止されて吸引ファン52の駆動が停止するので、印刷開始位置Aにおいて記録紙12aをプラテン19から浮き上がらないように吸引し続けることができない。よって、そのまま放置すると、図7(b)に示すように記録紙12aがプラテン19から浮き上がってしまい、省電力モードから復帰したときに再び吸引ファン52を駆動開始しても記録紙12aを元の位置に復帰させることができないおそれがある。よって、そのまま印刷を再開すると、記録紙12aの先端部分12bがインクジェットヘッド18などに接触して紙ジャムが発生したり、印刷不良が発生するおそれがある。
【0036】
また、マニュアルによる電源オフ操作あるいは上位機器63からの電源オフ指令によりロール紙プリンタ1の電源をオフにするときにも同様に、吸引ファン52の駆動が停止することによって記録紙12aが吸引されない状態で放置されるので、記録紙12aがプラテン19の表面から浮き上がってしまい、電源オン操作あるいは電源オン指令などにより再びロール紙プリンタ1が復帰したときに再び吸引ファン52を駆動開始しても、記録紙12aを元の位置に復帰させることができないおそれがある。よって、そのまま印刷を再開すると、紙ジャムが発生したり、印刷不良が発生するおそれがある。
【0037】
図8は省電力モードあるいは電源オフ状態に移行する際の制御のフローチャートである。制御部61は、省電力モード移行条件を満たした場合、あるいは、電源オフ指令などにより電源オフ状態に移行する場合には、吸引ファン52の駆動を停止する前に、まず、記録紙センサなどのセンサ群62からの検出信号に基づき、記録紙12aが下流側紙送りローラ34と押えローラ35からなる紙送りローラ対により把持されているか否かを検出する(S1)。記録紙12aの先端部分12bが下流側紙送りローラ34と押えローラ35による把持位置よりも印刷開始位置A側にあって下流側紙送りローラ34と押えローラ35から外れていることを検出した場合には(S1:Yes)、紙送りモータ32を回転駆動させて記録紙12aの先端部分12bをオートカッタ40による切断位置Bまで前進させる(S2)。そして、その後で吸引ファン52を駆動停止させて吸引機構50による吸引を停止する(S3)。
【0038】
一方、制御部61は、S1工程で記録紙センサなどからの検出信号に基づき記録紙12aが下流側紙送りローラ34と押えローラ35により把持されていることを検出した場合には(S1:No)、紙送りモータ32を回転駆動させることなくS3工程に進み、吸引ファン52を駆動停止させる。図7(c)に示すように、S3工程終了後の記録紙12aの先端部分12bは切断位置Bの近傍において下流側紙送りローラ34と押えローラ35により把持されているので、吸引ファン52を駆動停止しても記録紙12aの先端部分12bがプラテン19から浮き上がることはない。
【0039】
(省電力モードあるいは電源オフ状態からの復帰時のロール紙プリンタの制御)
制御部61は、省電力モード状態で上位機器63からの新たな印刷指令および印刷データを受信した場合には、(イ)〜(ヘ)の電力消費部への電力供給を再開し、吸引ファン52を駆動開始する。そして、紙送りモータ32を印刷時とは逆方向に回転駆動させ、記録紙12aの先端部分12bを切断位置Bからプラテン19上の印刷開始位置Aに戻し、新たな印刷指令および印刷データに基づく印刷動作を行う。また、省電力モード状態で印刷指令以外の何らかの指令や操作を受け付けた場合にも、(イ)〜(ヘ)の電力消費部への電力供給を再開し、記録紙12aの先端部分12bを印刷開始位置Aに戻して印刷待機状態にする。
【0040】
また、電源オフ状態のロール紙プリンタ1に電源オン操作が行われたり電源オン指令が入力された場合には、制御部61は、起動処理を行ってロール紙プリンタ1を印刷可能な状態にする。すなわち、吸引ファン52を駆動開始すると共に紙送りモータ32を印刷時とは逆方向に回転駆動させ、記録紙12aの先端部分12bを切断位置Bからプラテン19上の印刷開始位置Aに戻して印刷に備える。
【0041】
(本実施形態の効果)
以上のように、本実施形態のロール紙プリンタ1では、省電力モードあるいは電源オフ状態に移行する前の印刷待機状態では、記録紙12aの先端部分12bを印刷開始位置Aに戻してプラテン19上に吸引することにより、搬送路15から浮き上がらないように保持している。そして、この状態から省電力モードあるいは電源オフ状態に移行する時には、紙送りモータ32を駆動させて記録紙12aの先端部分12bをオートカッタ40による切断位置Bまで戻し、先端部分12bを切断位置Bの近傍で下流側紙送りローラ34と押えローラ35に保持させてから吸引ファン52を駆動停止させている。このようにすると、吸引ファン52が駆動停止しても下流側紙送りローラ34と押えローラ35によって記録紙12aを搬送路15から浮き上がらないように保持しておくことができるので、紙ジャムや印刷不良の発生を抑制できる。
【0042】
また、本実施形態では、吸引ファン52が駆動停止したときの記録紙12aの保持手段として下流側紙送りローラ34と押えローラ35からなる紙送りローラ対を利用するので、既存の構成に加えて新たな保持手段を追加する必要がない。また、吸引ファン52が停止したときの記録紙12aの停止位置は切断位置Bと同位置であって別個に設定する必要がないので、記録紙12aの搬送制御を単純にすることができる。
【0043】
(改変例)
上記実施形態では、吸引ファン52が駆動停止するときには、記録紙12aの先端部分12bを切断位置Bまで前進させて下流側紙送りローラ34と押えローラ35によって保持させるようにしていたが、記録紙12aの先端部分12bをプラテン19の上流側までさらに後退させ、上流側紙送りローラ31と押えローラ33によって保持させることにより、記録紙12aが搬送路15から浮き上がらないようにしてもよい。また、搬送路15上の所定の位置に上流側紙送りローラ31と押えローラ33、あるいは下流側紙送りローラ34と押えローラ35とは異なる保持手段を設け、吸引ファン52の停止時には、この記録紙保持手段まで記録紙12aを搬送して搬送路15上に保持させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のロール紙プリンタの外観斜視図である。
【図2】図1のロール紙プリンタの開閉蓋を開けた状態を示す外観斜視図である。
【図3】図1のロール紙プリンタの内部構成を示す概略構成図である。
【図4】オートカッタおよびプラテンを示す部分断面図である。
【図5】プラテンの吸引機構を示す斜視図である。
【図6】ロール紙プリンタの駆動制御系の概略ブロック図である。
【図7】記録紙の先端の停止位置を示す説明図である。
【図8】記録紙の搬送制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
1…ロール紙プリンタ、2…プリンタ本体、2a…外装ケース、3a…ロール紙カバー、3b…インクカートリッジカバー、4…記録紙排出口、5…排紙ガイド、6…蓋開閉レバー、10…ロール紙供給機構、11…ロール紙収納部、12…ロール紙、12a…記録紙、12b…先端部分、14…紙送りガイド、15…搬送路、18…インクジェットヘッド、19…プラテン(吸引プラテン)、19a…縦リブ、19b…吸引孔、19c…封鎖空間、19d…インクミスト回収部、21…ヘッドキャリッジ、22…キャリッジモータ、23…キャリッジガイド軸、24…印刷領域、25…ホームポジション、26…ヘッドメンテナンスユニット、30…紙送り機構、31…上流側紙送りローラ、32…紙送りモータ、33…押えローラ、34…下流側紙送りローラ(紙送りローラ対の一部)、35…押えローラ(紙送りローラ対の一部)、40…オートカッタ(切断機構)、41…固定刃、42…可動刃、43…カッタモータ、50…吸引機構、51…吸引ダクト、52…吸引ファン、61…制御部、62…センサ群、63…上位機器、A…印刷開始位置、B…切断位置(記録紙切断位置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドの印刷位置を規定しているプラテンと、
前記印刷位置を経由して長尺状の記録紙を搬送するための搬送路と、
前記搬送路における前記プラテンの下流側に配置されている紙送りローラ対を備え、前記搬送路に沿って前記記録紙を搬送する紙送り機構と、
前記プラテンの表面に前記記録紙を吸引する吸引機構と、
前記吸引機構による吸引動作を停止するときに前記記録紙が前記紙送りローラ対によって把持されていない場合には、前記記録紙の搬送を行わせて、当該記録紙が前記紙送りローラ対によって把持された状態にする制御部とを有していることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記インクジェットプリンタが省電力状態または電源オフ状態に移行するときに前記吸引機構による吸引動作を停止することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記制御部は、前記吸引機構による吸引動作を再開するときには、前記記録紙を前記インクジェットヘッドによる印刷時とは逆方向に搬送させ、前記記録紙を前記プラテン上の印刷開始位置まで戻すことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかの項に記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記記録紙がロール状に巻き取られた構成のロール紙を装填するロール紙装填部を有していることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの項に記載のインクジェットプリンタにおいて、
前記搬送路における前記紙送りローラ対の下流側には、前記記録紙を切断する切断機構が配置されており、
前記制御部は、前記吸引機構による吸引動作を停止するときに、前記記録紙が前記紙送りローラ対によって把持されていない場合には、前記記録紙の先端部分が前記切断機構による記録紙切断位置に至るまで前記記録紙の搬送を行わせることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項6】
請求項5に記載のインクジェットプリンタの記録紙搬送方法であって、
前記ロール紙装填部から繰り出した前記記録紙を前記記録紙切断位置まで搬送して切断し、
切断後の前記記録紙の先端部分を前記プラテン上の印刷開始位置まで後退させ、前記記録紙における前記プラテンの表面上に位置する部分を前記吸引機構により吸引した状態で印刷待機させ、
前記印刷待機の途中で前記吸引機構による吸引を停止するときには、前記記録紙の先端部分を前記紙送りローラ対によって把持される位置まで搬送して、前記記録紙における前記プラテンの表面上に位置している部分が当該表面から浮き上がることを防止し、
前記吸引機構による吸引を再開するときには、前記記録紙の先端部分を前記印刷開始位置まで戻すことを特徴とするインクジェットプリンタの記録紙搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−234013(P2009−234013A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82855(P2008−82855)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】