説明

インクジェットプリンター用インクチューブ

【課題】優れた柔軟性と加工性を有すると共に、水蒸気や空気の透過性が小さく、かつ、圧縮永久ひずみが小さいインクジェットプリンター用インクチューブを提供する。
【解決手段】ブチル系ゴムを30質量%以上80質量%以下の割合で含有したゴム成分と、前記ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下のオレフィン系熱可塑性樹脂と、前記ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下の水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを含み、前記ゴム成分が動的架橋により微分散されている熱可塑性エラストマー組成物からインクジェットプリンター用インクチューブを成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンター用インクチューブに関し、詳しくは、動的架橋ゴムが分散された熱可塑性エラストマー組成物から成形されたインクジェットプリンター用チューブに関し、特に、優れた柔軟性と加工性を有すると共に、水蒸気や空気の透過性が小さく、かつ、圧縮永久ひずみが小さいものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターには、インクを輸送するためにインクチューブがインクヘッドに連結されている。該インクチューブは、インクヘッドをクリーニングした際に廃インクをヘッド外へ除去したり、インクタンクからインクヘッドにインクを供給したりするために用いられる。
【0003】
これらのインクチューブは、内部のインクの乾燥および劣化を防ぐために、水蒸気透過性及び空気透過性が小さいことが求められる。また、耐キンク性(チューブの折り曲がりに対する性能)が必要となるため、適度な柔軟性が求められる。
【0004】
この種のインクチューブに関して、近年、ゴムに比べて加工性およびリサイクル性に優れた熱可塑性エラストマーを用いたものが提供されている。
本出願人は、特開2004−142364号公報(特許文献1)において、オレフィン系熱可塑性樹脂中にブチルゴムの含有割合を30重量%以上としたゴム成分が動的架橋により微分散され、ショアA硬度が70以下である熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形されてなるインクジェットプリンター用インクチューブを提供している。該インクチューブは、柔軟性を向上させ、水蒸気透過性や空気透過性を小さくしている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−142364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年のインクジェットプリンターの小型化に伴い、インクチューブも小型化することが求められている。このインクジェットプリンター装置及びインクチューブの小型化により、特にインクタンク等の可動部に接続されるインクチューブは折り曲げて配置される場合があるため、更なる柔軟性の向上及び折り曲げられた場合の戻り性の向上が求められている。
さらに、インクジェットプリンター内部には熱がこもり、高温環境となるため、一層の耐熱性を有することが求められている。
【0007】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、優れた柔軟性と加工性を有すると共に、水蒸気や空気の透過性が小さく、かつ、圧縮永久ひずみが小さいインクジェットプリンター用インクチューブを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、ブチル系ゴムを30質量%以上80質量%以下の割合で含有したゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下のオレフィン系熱可塑性樹脂と、
前記ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下の水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを含み、
前記ゴム成分が動的架橋により微分散されている熱可塑性エラストマー組成物から成形されてなることを特徴とするインクジェットプリンター用インクチューブを提供している。
【0009】
本発明者らは、鋭意研究した結果、インクジェットプリンター用インクチューブ(以下、単に「インクチューブ」とも称す)を、ゴム成分としてブチル系ゴムと他のゴム成分を組み合わせ、ブチル系ゴムの含有割合をゴム成分全体に対して30〜80質量%とし、さらに前記ゴム成分を動的架橋して分散させるマトリックスとしてオレフィン系熱可塑性樹脂と水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーの混合物を特定の配合割合で用いた熱可塑性エラストマー組成物から成形することで、前記課題を解決することができることを知見した。即ち、前記熱可塑性エラストマー組成物から成形されてなるインクチューブは、加工性に優れながら、柔軟かつ低硬度で、圧縮永久ひずみが小さく、さらに水蒸気や空気の透過性が非常に小さいという特性を有する。
【0010】
特に、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを前記配合割合で配合することにより、加工性を損なわず、耐水蒸気透過性、耐空気透過性等の特性は良好としたまま、硬さ及び圧縮永久ひずみの両方を小さくすることができる。このように低硬度、低圧縮永久ひずみの成分を含むことによって、本発明のインクジェットプリンター用インクチューブを好ましい硬さ、好ましい圧縮永久ひずみに調整することができる。インクチューブを形成する熱可塑性エラストマー組成物の加工性を向上するには、オレフィン系樹脂または/及び水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを増量すればよいが、オレフィン系樹脂のみを増量した場合、圧縮永久ひずみが著しく悪化してしまう。
オレフィン系樹脂のみを増量した場合の圧縮永久ひずみの悪化は、特に高温において著しいが、前記配合割合で配合することにより、圧縮永久ひずみの悪化を抑えることができる。
【0011】
さらに、前記水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを配合する理由としては、オイル等の可塑剤と親和性が良い点がある。より柔軟性が要求される場合においてオイル等の可塑剤を加えて硬さを調整することは良く行われることであるが、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーはオイル等の可塑剤と親和性が良いために可塑剤を加えた場合の加工が容易であり、かつ成形物からの可塑剤のブリードを防ぐことができる。
さらに、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーは水素添加により二重結合が飽和されているため、ゴム成分の動的架橋を阻害しないことも水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを用いる理由として挙げられる。
【0012】
以下、本発明のインクジェットプリンター用インクジェットチューブを形成する熱可塑性エラストマー組成物の各成分について詳細に説明する。
【0013】
前記ブチル系ゴムとしては公知の化合物を用いてよいが、例えばイソブチレン−イソプレン共重合ゴム、ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴムまたはその変性物が挙げられる。変性物としてはイソブチレンとp−メチルスチレンの共重合体の臭素化物等が挙げられる。
ブチル系ゴムにおける不飽和度(イソブチレン−イソプレン共重合ゴムの場合はイソプレン量)は通常0.6〜2.5mol%である。
ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴムのハロゲンは塩素または臭素が好適な例として上げられる。ハロゲンの含有量は通常1.1〜2.4質量%である。
ブチル系ゴムとしては1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてよい。なかでも、イソブチレン−イソプレン共重合ゴムを含むことが好ましく、イソブチレン−イソプレン共重合ゴムを単独で含むことがより好ましい。
【0014】
ブチル系ゴムを他のゴム成分と組み合わせて用いても良いが、前記のように、ブチル系ゴムの含有割合がゴム成分全体に対し30〜80質量%とすることで、水蒸気透過性や空気透過性を小さくしつつ、高い加工性を確保している。
即ち、前記配合割合としているのは、ゴム成分中においてブチル系ゴムを30質量%未満しか含んでいないと、ブチル系ゴムが持つ耐水蒸気透過性・耐空気透過性を発揮できないからである。一方、ブチル系ゴムをゴム成分全体の80質量%より多く含むと高い加工性を発揮できない。これは、ブチル系ゴムはムーニー粘度が高いため動的架橋を行う際に困難が生じたり、粘着性が強いため得られる熱可塑性エラストマー組成物に粘着性が生じ、加工が容易ではなくなることによる。
【0015】
ブチル系ゴムと組み合わせる「他のゴム成分」は特に限定されないが、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどのニトリル系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリルゴム、エチレン・アクリレートゴム、フッ素ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フォスファンゼンゴムまたは1,2−ポリブタジエン等が挙げられる。
なかでも「他のゴム成分」としては、ブチルゴムと相溶性の良いゴム、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム等が良い。
前記他のゴム成分は1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてよい。
さらに、「他のゴム成分」としては加工性のよいゴム成分が好ましく、特にエチレン−プロピレン−ジエンゴム(以下、EPDMゴムという)が良好な加工性を有するうえにブチル系ゴムとの相溶性に優れていることから好適に用いられる。
【0016】
EPDMゴムにはゴム成分のみからなる非油展タイプのEPDMゴムとゴム成分とともに伸展油を含む油展タイプのEPDMゴムとが存在するが、本発明ではいずれのタイプのものも使用可能である。EPDMゴムにおけるジエンモノマーの例としては、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエンまたはシクロオクタジエンなどが挙げられる。
【0017】
本発明で用いる前記オレフィン系熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンエチルアクリレート樹脂、エチレンビニルアセテート樹脂、エチレン−メタクリル酸樹脂、アイオノマー樹脂または塩素化ポリエチレン等が挙げられ、そのうちポリプロピレンまたはポリエチレンを用いることが好ましい。なかでもポリプロピレンを用いることがより好ましい。ポリプロピレンはポリエチレンに比べて流動性が良く、かつブチル系ゴムとの相溶性も良いからである。
【0018】
オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量は、前記のように、ゴム成分100質量部に対して15質量部以上50質量部以下とし、優れた柔軟性を維持しつつ高い加工性を確保している。前記配合割合としているのは、オレフィン系熱可塑性樹脂をゴム成分100質量部に対して50質量部より多く含むとゴム成分の配合割合が相対的に小さくなり、ゴム弾性由来の優れた柔軟性を発揮できないことによる。一方、オレフィン系熱可塑性樹脂を15質量部未満しか含んでいないと、好ましい流動性が確保できず動的架橋を行う際に困難が生じたり、熱可塑性エラストマー組成物の加工性に問題が生じることによる。
【0019】
さらに、オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量は全組成物中15質量%以下であることが好ましく、10〜15質量%であることがより好ましい。
これは、オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量が全組成物中15質量%を超えると硬度が上昇するため柔軟性に欠け、ゴム弾性が発揮されにくく、耐キンク性が悪くなり、好ましくないからである。一方で、オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量が少ないと、動的架橋に困難をきたし加工性が悪くなる場合があることから、オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量は全組成物中10質量%以上であることが好ましい。
【0020】
本発明で用いる前記水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系モノマーを主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とするブロック(B)のブロック共重合体の共役ジエン重合単位を水素添加したものを例示することができる。前記スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンまたはt−ブチルスチレンなどが挙げられる。これらモノマーは1種類のみを使用しても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。スチレン系モノマーとしては、なかでもスチレンが好ましい。また前記共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチルブタジエンなどが挙げられる。これらは1種類のみを使用しても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0021】
前記水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーとして、具体的には、スチレン−エチレン−スチレン共重合体(SES)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)またはスチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)等が挙げられる。
なかでも、スチレン−エチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)を用いることが特に好ましい。
【0022】
水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーの含有割合を、前記のように、ゴム成分100質量部に対して10質量部以上100質量部以下として、良好な加工性、及び小さな圧縮永久ひずみを発揮させている。
前記配合割合としているのは、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーをゴム成分100質量部に対して100質量部より多く含むと動的架橋によって架橋されたゴム成分が持つ小さな圧縮永久ひずみを発揮できないことによる。一方、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを10質量部未満しか含んでいないと、加工性が悪化すると共に熱可塑性エラストマー組成物は高硬度を示し、柔軟性が要求されるインクジェットプリンター用インクチューブには好ましくない。
【0023】
水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーとオレフィン系熱可塑性樹脂との混合割合は使用するエラストマーおよび樹脂に応じて適切な混合割合を決定できるが、オレフィン系熱可塑性樹脂100質量部に対して水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーが30質量部以上300質量部以下とすることが好ましい。これは、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーの混合量が30質量部未満であると本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形物の硬度が高くなりやすいことによる。一方、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーの混合量が300質量部より多いと相対的にオレフィン系熱可塑性樹脂の割合が低くなり、熱可塑性樹脂を混合した効果、例えば加工性の向上等が見られないからである。
【0024】
本発明のインクジェットプリンター用インクチューブを形成する熱可塑性エラストマー組成物においては、ブチル系ゴムを含むゴム成分が動的架橋されてオレフィン系熱可塑性樹脂と水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーの混合物中に分散されている。ゴム成分の動的架橋はせん断力を加えつつ架橋を行えばよく、例えば二軸スクリュー押出機を用いて行うことができる。
このようにせん断力を加えながら架橋を行うと組成物中のゴム粒子径を数μm〜数十μmにすることができ、微分散させることができる。
【0025】
前記ゴム成分を動的架橋する架橋剤としては、組成物中のゴム成分を架橋できれば特に限定されず、公知の架橋剤を用いることができる。例えば、硫黄、樹脂架橋剤、金属酸化物または有機過酸化物などが挙げられる。このうち、樹脂架橋剤は、硫黄と加硫促進剤とを用いた架橋物によく見られるブルームの問題が起こりにくいため好ましい。
【0026】
前記樹脂架橋剤は加熱等によってゴム成分に架橋反応を起こさせる合成樹脂であり、本発明においては特に限定されず、公知の樹脂架橋剤を用いることができる。
樹脂架橋剤としては、例えばフェノール樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、トリアジン・ホルムアルデヒド縮合物、ヘキサメトキシメチル・メラミン樹脂等が挙げられる。なかでもフェノール樹脂を用いると、給紙機構を構成する部材として用いたときに給紙性能を高めることができるため好ましい。
フェノール樹脂の具体例としては、フェノール、アルキルフェノール、クレゾール、キシレノールもしくはレゾルシン等のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドもしくはフルフラール等のアルデヒド類との反応により合成される各種フェノール樹脂が挙げられる。フェノール樹脂のアルデヒドユニットに少なくとも一個のハロゲン原子が結合したハロゲン化フェノール樹脂を用いることもできる。
特に、ベンゼンのオルト位またはパラ位にアルキル基が結合したアルキルフェノールと、ホルムアルデヒドとの反応によって得られるアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂が、ゴム成分との相溶性に優れるとともに反応性に富んでいて架橋反応開始時間を比較的早くできるので好ましい。アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂のアルキル基は、通常、炭素数が1から10のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基等が挙げられる。また、このアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂のハロゲン化物も好適に用いられる。
また、硫化−p−第三ブチルフェノールとアルデヒド類とを付加縮合させた変性アルキルフェノール樹脂や、アルキルフェノール・スルフィド樹脂も樹脂架橋剤として使用可能である。
【0027】
前記樹脂架橋剤の配合量は、前記ゴム成分100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましい。これは、樹脂架橋剤の配合量が1質量部未満では架橋が不十分となるため圧縮永久ひずみ等の物性が劣ることとなる一方、樹脂架橋剤の配合量が50質量部を超えるとインクチューブの硬度が高くなりすぎる場合があるからである。前記配合量は8〜15質量部であることがより好ましい。
【0028】
動的架橋反応を適切に行うために架橋活性剤を用いてもよい。架橋活性剤としては金属酸化物が使用され、特に酸化亜鉛、炭酸亜鉛が好ましい。
架橋活性剤の配合量はゴム成分の物性が十分発揮される量であればよいが、例えば前記ゴム成分100質量部に対して0.5〜10質量部であることが好ましく、さらには1〜10質量部であることがより好ましい。
【0029】
前記有機過酸化物としては、ゴム成分を架橋できる化合物であれば特に限定されないが、例えばベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(tert−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、1,4−ビス[(tert−ブチル)パーオキシイソプロピル]ベンゼン、ジ(tert−ブチルパーオキシ)ベンゾエート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジtert−ブチルパーオキシドまたは2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)−3−ヘキセン等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
前記有機過酸化物の配合量はゴム成分100質量部に対し0.2〜3.0質量部であることが好ましい。これは、有機過酸化物の配合量が0.2質量部未満ではゴム成分の架橋が不十分となるため圧縮永久ひずみ等の物性が劣ることとなる一方、有機過酸化物の配合量が3.0質量部を超えると分子切断による物性低下が起ってしまううえに分散不良などが発生して加工も困難となることによる。
有機過酸化物の配合量に関し、下限はゴム成分100質量部に対し0.5質量部以上であることがより好ましく、1.0質量部以上であることが特に好ましい。また、上限はゴム成分100質量部に対し2.5質量部以下が好ましく、2.0質量部以下が特に好ましい。
【0031】
前記有機過酸化物とともに共架橋剤を配合してもよい。共架橋剤とはそれ自身も架橋するとともにゴム分子とも反応して架橋し全体を高分子化する働きをするものである。この共架橋剤を用いて共架橋することにより架橋分子の分子量が増大し、耐摩耗性等を向上させることができる。
前記共架橋剤としては、例えば多官能性モノマー、メタクリル酸あるいはアクリル酸の金属塩、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、複素環ビニル化合物、アリル化合物、1,2−ポリブタジエンの官能基を利用した多官能ポリマー類、ジオキシム類等が挙げられる。
有機過酸化物とともに共架橋剤を配合する場合、当該共架橋剤の配合量は共架橋剤の種類または用いる他の成分との関係で適宜選択することができるが、ゴム成分100質量部に対して好ましくは5質量部以上20質量部以下、より好ましくは10質量部以上15質量部以下とする。
【0032】
本発明のインクジェットプリンター用インクチューブを形成する熱可塑性エラストマー組成物には、本発明の目的に反しない限り他の成分を配合してもよい。
他の成分としては、例えば、適度な柔軟性と弾性を与えるために、必要に応じて軟化剤を配合することができる。
軟化剤としてはオイルや可塑剤が挙げられる。オイルとしては、例えばパラフィン系、ナフテン系、芳香族系等の鉱物油や炭化水素系オリゴマーからなるそれ自体公知の合成油、またはプロセスオイルを用いることができる。合成油としては、例えばα−オレフィンとのオリゴマー、ブテンのオリゴマー、エチレンとα−オレフィンとの非晶質オリゴマーが好ましい。可塑剤としては、フタレート系、アジペート系、セパケート系、ホスフェート系、ポリエーテル系、ポリエステル系等の可塑剤が挙げられ、より具体的には例えばジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルセパケート(DOS)、ジオクチルアジペート(DOA)等が挙げられる。
軟化剤の配合量はゴム成分100質量部に対して600質量部以下であることが好ましく、400質量部以下であることがより好ましい。軟化剤を前記範囲より多く配合すると、組成物の表面から軟化剤がブリードしたり、あるいは軟化剤が架橋阻害を起こしてゴム成分が十分に架橋されず物性が低下してしまうことがあるからである。軟化剤の配合量の下限は特に限定されず、軟化剤を添加した効果、すなわち動的架橋時におけるゴム成分の分散性をより良化する効果が得られればよいが、通常は15質量部以上である。
軟化剤を配合する方法としては、動的架橋前の組成物に加えて混練する方法や、予め組成物中の一部の成分に加えて混練しておいてから全体と混練する方法等が挙げられる。
後者は、例えば、油展EPDMゴムを組成物に加える方法や、油展した水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを用いる方法がある。
なお、油展EPDMゴムや油展した水素添加スチレン系熱可塑性エラスマー等を用いた場合は伸展油が軟化剤としての役割も果たす。ゆえに、伸展油の量を軟化剤の配合量に勘案する。
【0033】
機械的強度を改善するために、必要に応じて充填剤等を配合することができる。
充填剤としては、例えばシリカ、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、二塩基性亜リン酸塩(DLP)、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナ等の粉体を挙げることができる。
充填剤はゴム成分100質量部に対して30質量部以下で配合するのが好ましい。充填剤の比率が前記範囲を超えると、柔軟性が低下してしまうことがあるからである。
【0034】
また、受酸剤を配合することもできる。ゴム成分としてクロロプレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴムなどのハロゲンを含むゴムを用いた場合、受酸剤を配合することにより動的架橋時に発生するハロゲン系ガスの残留を防止することができる。
受酸剤としては酸受容体として作用する種々の物質を用いることができるが、マグネシウムまたはカルシウムの炭酸塩などが好適な例として挙げられる。また、ハイドロタルサイト類または酸化マグネシウムを用いることもできる。
受酸剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対し0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
そのほか、前記熱可塑性エラストマー組成物においては、滑剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤、中和剤、造核剤または気泡防止剤等の添加剤を適宜配合してもよい。
滑剤としては、例えば高級脂肪酸アミドまたは不飽和脂肪酸アミド等が挙げられる。
老化防止剤としては、例えば2−メルカプトベンゾイミダゾールなどのイミダゾール類;フェニル−α−ナフチルアミン,N,N’−ジ−6−ナフチル−p−フェニレンジアミンもしくはN−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミンなどのアミン類;または2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)もしくは2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノンなどのフェノール類等が挙げられる。
【0036】
本発明のインクジェットプリンター用インクチューブを形成する熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、以下のような方法で製造することができる。
まず、少なくともブチル系ゴムを含むゴム成分、オレフィン系熱可塑性樹脂、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーおよび架橋剤、所望によりその他の添加剤を投入してヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混練機で混練、もしくはタンブラーを用いて混合する。全ての成分を一度に混練・混合しても良いし、一部の成分を予め混練・混合したのち残りの成分を加えて混練・混合してもよい。
この混練物あるいは混合物を一軸もしくは2軸押出機またはニーダー等に投入し、せん断力を加えつつ150〜250℃に加熱しながら架橋剤によりゴム成分を動的架橋し、オレフィン系熱可塑性樹脂および水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーの混合物中にゴム成分を分散させる。
【0037】
前記動的架橋は、塩素、臭素、フッ素またはヨウ素等のハロゲンの存在下で行ってもよい。動的架橋時にハロゲンを存在させるには、上述したハロゲン化されたゴム成分を用いるか、ハロゲン供与性物質を配合すればよい。前記ハロゲン供与性物質としては、塩化第二スズ等の塩化スズ、塩化第二鉄、塩化第二銅等が挙げられる。また、例えば塩素化ポリエチレンなどのハロゲン化樹脂を用いてもよい。ハロゲン供与性物質は1種類の物質を単独で用いてもよく、2種以上の物質を併用してもよい。
前記のようにして得られた熱可塑性エラストマー組成物は、後工程のためにペレット状とするのが良い。これにより良好な成形性を得ることができる。
【0038】
本発明のインクジェットプリンター用インクジェットチューブは、ペレット状とされた前記熱可塑性エラストマー組成物を樹脂押し出し法によりチューブ状に押し出して成形されてなることが好ましい。これにより良好な押し出し肌が得られると共に、加工性・成形性がさらに優れ、加硫ゴムに比べて生産速度も速く、生産性をより向上することができる。その他、インジェクション成形等の方法により成形することもできる。
【0039】
このようにして得られたインクチューブは、ASTM D 1434 Methods5に準拠して測定した空気透過性が70[g・mm/m・day・atm(23℃)]以下であることが好ましく、これによりインクチューブ外周側に存在する酸素等の透過に起因するインクの劣化を防止することができる。
また、インクチューブの水蒸気透過性は、0.60以下であることが好ましく、0.55であることがより好ましい。これによりインクチューブ内周側に流通できるインク中に含まれる水分の蒸発を防ぎ、インクの固化を防止することができ、チューブ詰まりを防止することができる。
水蒸気透過性は、実施例に記載の方法で測定している。
【0040】
また、インクチューブは、JIS K6253に準拠して測定したタイプAデュロメータ硬さが60以下であることが好ましい。
タイプAデュロメータ硬さを60以下としているのは、特に、小型のインクジェットプリンターのインクタンク等の可動部に接続されるインクチューブにおいて、60よりも大きいと十分な柔軟性や可撓性が得られず、使用時にキンク(チューブの折れ曲がり)によりインクが流れ難くなったり、作動時にチューブとの継ぎ手の強度に影響を及ぼすことがあるからである。
【0041】
また、インクチューブのJIS K6262に準拠して測定温度70℃、測定時間24時間、圧縮率25%で測定した圧縮永久ひずみが30%以下であることが好ましい。
これは圧縮永久ひずみが30%を超えると寸法変化が大きくなりすぎ、インクチューブの変形時の戻りが悪くなりやすいためである。また、継ぎ手と連結したチューブ端部が継ぎ手から外れやすくなるためである。
【0042】
本発明のインクジェットプリンター用インクチューブは、チューブ形状で、前記熱可塑性エラストマー組成物から成形されてなるものであれば、長さ、外径、肉厚等は特に限定されない。しかし、水蒸気や空気の透過性と、柔軟性及び可撓性のバランスを図る観点から、肉厚は0.5mm〜3mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0043】
本発明のインクジェットプリンター用インクチューブは、ゴム成分としてブチル系ゴムと他のゴム成分を組み合わせ、ブチル系ゴムの含有割合をゴム成分全体に対して30〜80質量%とし、さらに前記ゴム成分を動的架橋して分散させるマトリックスとしてオレフィン系熱可塑性樹脂と水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーの混合物を特定の配合割合で用いた熱可塑性エラストマー組成物から成形されているので、優れた柔軟性と加工性を併せ持つとともに、かつ、低圧縮永久ひずみを実現することができる。そのため、優れた可撓性を有しているにも関わらず、チューブが変形等しても戻りが良く、小型のインクジェットプリンター内においても配置形態の制限も少なく、良好なインク流れを維持することができる。また、本発明のインクチューブは、水蒸気や空気の透過性が非常に小さいため、インクの水分蒸発や劣化を抑制することができる。
【0044】
また、樹脂押し出し成形により成形可能であるため、表面状態が良好であり、生産性も高めることができ、インクチューブとして高性能な材料を低コストで生産することができる。
【0045】
従って、インクジェットプリンターにおいてインクヘッド等に連結されてインクを輸送するためのインクチューブとして好適であり、インクヘッドをクリーニングした際に廃インクをヘッド外へ除去したり、インクタンクからインクヘッドにインクを供給したりするために用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明のインクジェットプリンター用のインクチューブ10を示す。
インクチューブ10は、インクジェットプリンターにおいてインクヘッド等に連結されてインクを輸送するために用いられるものであり、インクヘッドをクリーニングした際に廃インクをヘッド外へ除去したり、インクタンクからインクヘッドにインクを供給したりするために用いられる。
具体的には、インクチューブ10の中空部内をインクが流通してインクチューブ10の内周面10aとインクとが接触し、インクチューブ10の外周面10bと外気が接触した状態で使用される。
【0047】
インクチューブ10は、熱可塑性エラストマー組成物から成形されており、該熱可塑性エラストマー組成物は、ブチル系ゴムを30質量%以上80質量%以下の割合で含有したゴム成分と、該ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下のオレフィン系熱可塑性樹脂と、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下の水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを含み、前記オレフィン系熱可塑性樹脂と水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーとの混合物からなるマトリクス成分中に前記ゴム成分が動的架橋により微分散されている。
【0048】
前記ゴム成分としてブチル系ゴムとEPDMゴムを含む。ブチル系ゴムとしてはイソブチレン−イソプレン共重合ゴムを用いることが好ましい。ブチル系ゴムとEPDMゴムの比率は、ブチル系ゴムがゴム成分全体に対して30〜80質量%、好ましくは50〜70質量%となるように、一方、EPDMゴムがゴム成分全体に対して20〜70質量%、好ましくは30〜50質量%となるようにしている。
【0049】
前記オレフィン系熱可塑性樹脂としてはポリプロピレンを用いている。
オレフィン系熱可塑性樹脂は前記ゴム成分100質量部に対して15〜50質量部配合されていることが好ましく、20〜40質量部配合配合されていることがより好ましい。さらに、オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量が全組成物中の10〜15質量%であることが好ましい。
前記水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーとしてはスチレン−エチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体を用いることが好ましい。水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーは前記ゴム成分100質量部に対して10〜100質量部配合されていることが好ましく、10〜80質量部配合されていることがより好ましく、15〜60質量部配合されていることがさらに好ましい。
オレフィン系熱可塑性樹脂と水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーの混合割合は、オレフィン系熱可塑性樹脂100質量部に対して水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーが50〜200質量部であることが好ましい。
【0050】
ゴム成分を架橋するための架橋剤としては樹脂架橋剤が好ましく、特にフェノール系樹脂架橋剤を用いることが好ましい。該樹脂架橋剤は、ゴム成分100質量部に対して1〜20質量部、好ましくは8〜15質量部配合している。
さらにまた、架橋反応を適切に行うために架橋活性剤として酸化亜鉛を含む。酸化亜鉛はゴム成分100質量部に対して1〜10質量部配合することが好ましい。
【0051】
さらに、軟化剤としてパラフィン系プロセスオイルを含む。パラフィン系プロセスオイルはゴム成分100質量部に対して15〜250質量部、好ましくは15〜150質量部、さらに好ましくは20〜100質量部配合している。
【0052】
本発明のインクチューブ10を形成する前記熱可塑性エラストマー組成物は、以下の方法で製造しているが、該方法に限定されない。
前記成分を所要の配合比にしてタンブラーに投入し、混合する。混合時間は15分とする。得られた混合物を2軸押出機に投入して、150〜250℃、好ましくは180〜200℃で動的架橋を行い、ゴム成分を均一に分散させ、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを取得している。
【0053】
この熱可塑性エラストマー組成物のペレットを樹脂押し出し法により押出機によりチューブ状に押し出し、図1に示すインクジェットプリンター用のインクチューブ10を成形している。
具体的には、インクチューブ10は、ペレットを押出温度190〜220℃で単軸押出機を用いてチューブ状に押し出し、所要長さにカットして作製している。
【0054】
インクチューブ10は、前記熱可塑性エラストマー組成物から成形されてなるものであれば、いかなる形状を有するものであってもよい。しかし、外径2mm〜10mm、肉厚0.5mm〜3mmのチューブとするのが好ましい。
肉厚が0.5mm未満では薄すぎて低い水蒸気透過性・空気透過性を保つことができないおそれがあり、3mmを超えるとインクチューブの柔軟性、可撓性が不足し、プリンター内で屈曲させにくくなるためである。
【0055】
前記インクチューブ10は、ASTM D 1434 Methods5に準拠して測定した空気透過性[単位:g・mm/m・day・atm(23℃)]が70以下、実施例に記載の方法で測定した水蒸気透過性が0.60以下、JIS K6253に準拠して測定したタイプAデュロメータ硬さが40以上50以下、JIS K6262に準拠して測定温度70℃、測定時間24時間、圧縮率25%で測定した圧縮永久ひずみが20%以上30%以下となる物性を有する。
この範囲の物性を有するインクチューブは、インクチューブとして要求される諸機能を十分に発揮することができる。即ち、良好な柔軟性及び変形時の戻り性を有し、耐キンク性にも優れ、かつ、インクチューブの内周側に流れるインクの水分の蒸発及び劣化を防ぐことができる。
【0056】
以下、本発明の実施例および比較例について詳述する。
表1に記載の成分を用いて動的架橋された熱可塑性エラストマー組成物を作製し、さらに得られた熱可塑性エラストマー組成物を用いてインクジェットプリンター用のインクチューブを製造した。
【0057】
【表1】

【0058】
使用した材料は下記の通りである。
・ブチル系ゴム;イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(エクソンモービル社製「ブチル268(商品名)」)
・他のゴム成分;EPDMゴム(住友化学(株)製「エスプレン670F(商品名)」)
(当該EPDMゴムは油展ゴムであり、50質量%のプロセスオイルを含む。したがって、加えたEPDMゴムの質量のうち50質量%分を表中「他のゴム成分」の欄に記載し、残りの50質量%分を「軟化剤」として扱った。すなわち、表中「軟化剤」の欄には、下記パラフィン系プロセスオイルの量とEPDMゴムの伸展油の量との総和を記載している。)
・オレフィン系樹脂;ポリプロピレン樹脂(日本ポリケミカル社製「BC6(商品名)」)
・水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー;スチレン−エチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体((株)クラレ製「セプトン4077(商品名)」)
・樹脂架橋剤;ハロゲン化アルキルフェノール樹脂架橋剤(田岡化学工業(株)製「タッ キロール250−III(商品名)」)
・軟化剤;パラフィン系プロセスオイル(出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルP W−380(商品名)」)
・酸化亜鉛;酸化亜鉛2種(三井鉱山(株)製)
【0059】
製造方法は下記の通りとした。
表1に記載の成分を表1に示した割合で配合し、タンブラーにて混合した後、2軸押出機(アイベック製「HTM38」)にて180〜200℃に加熱しながら回転数200rpmで混練して動的架橋を行い、熱可塑性エラストマー組成物を作製し、ペレット化した。
得られたペレットをφ50単軸押出機((株)笠松加工研究所製)を用いて190〜220℃、20rpmにて押出成形し、インクチューブを成形した。
得られた実施例のインクチューブの外径は4.0mm±0.1mm、肉厚は1.0mm±0.1mmであった。なお、インクチューブの外径及び肉厚の測定は投影機を用いて行った。
【0060】
実施例および比較例のインクチューブについて後述する方法により各種評価を行った。評価結果は表1に示す。
(動的架橋における加工性)
動的架橋を行った際のペレット形状を以下の2段階で評価した。
○:良好。動的架橋されており、均一なペレットが得られた。
×:不可。流動性が悪く、粉末状の組成物しか得られなかった。
(硬さ)
JIS K 6253に準拠して、雰囲気温度23℃、相対湿度55%の恒温恒湿条件下にてタイプAデュロメーター硬さ試験を行った。
(圧縮永久ひずみ)
JIS K6262に準拠して、測定温度70℃、測定時間24時間、圧縮率25%にて測定した。
(水蒸気透過性)
成形したインクチューブを100mm長さに切断し、チューブ内部に一定質量の純水を注入し、両端をクリップで封した。この純水を封したインクチューブの質量(初期質量)を測定した後、温度50℃、湿度55%のオーブン内に7日間静置後、再び質量を測定し、初期質量からの差から減少した水の質量を求めた。(減少した水の質量)/(注入した水の質量)から、水蒸気透過性を計算した。
(空気透過性)
ASTM D1434 Methods5の試験法により、23℃の条件で行った。単位は[g・mm/m・day・atm]である。
【0061】
(加工性試験)
インクチューブの押出成形を行う際、成形物の表面の平滑さおよび押出機口金に発生する目ヤニの量を評価した。評価は目視にて行い、以下の3段階評価とした。
○:非常に良好。成形物の表面は平滑であり、押出機口金に目ヤニは発生しなかった。
△:可。成形物の表面に所々平滑でない点が見られたか、あるいは、押出機口金にまれに目ヤニが発生した。
×:不可。成形物の表面にしばしば平滑でない点が見られたか、あるいは、押出機口金にしばしば目ヤニが発生する。
【0062】
実施例および比較例の試験結果より、ブチル系ゴムの含有量が少ない熱可塑性エラストマー組成物を用いた比較例1では、水蒸気透過性や空気透過性が大きく、インクチューブとして好ましい特性が得られなかった。一方、ブチル系ゴムの含有量が多い比較例2では水蒸気透過性や空気透過性が小さいものの加工性が悪く、好ましくなかった。
オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量が少ない比較例3では動的架橋に困難をきたし、成形物が得らず、その後の評価を行うことができなかった。一方、オレフィン系熱可塑性樹脂の含有量が多い比較例4では、硬さが高くなり、圧縮永久ひずみも大きく、好ましくなかった。
水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が少ない比較例5では加工性が悪く、硬さもやや大きめとなり、好ましくなかった。一方、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー含有量が多い比較例6では圧縮永久ひずみがやや大きく、また加工性も良好でないため、好ましくなかった。
【0063】
これに対し、実施例1〜3のインクチューブは、動的架橋時の流動性に優れ成形が容易である上に加工性も優れていた。さらに、優れた柔軟性を有するとともに、水蒸気透過性や空気透過性が小さく、さらに圧縮永久ひずみも小さく、インクチューブとして優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のインクジェットプリンター用インクチューブの模式図である。
【符号の説明】
【0065】
10 インクチューブ
10a 内周面
10b 外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチル系ゴムを30質量%以上80質量%以下の割合で含有したゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下のオレフィン系熱可塑性樹脂と、
前記ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下の水素添加スチレン系熱可塑性エラストマーを含み、
前記ゴム成分が動的架橋により微分散されている熱可塑性エラストマー組成物から成形されてなることを特徴とするインクジェットプリンター用インクチューブ。
【請求項2】
全組成物における前記オレフィン系熱可塑性樹脂の含有率が15質量%以下である請求項1に記載のインクジェットプリンター用インクチューブ。
【請求項3】
前記ゴム成分としてブチル系ゴムとともにエチレン−プロピレン-ジエンゴムを含んでいる請求項1または請求項2に記載のインクジェットプリンター用インクチューブ。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマー組成物を樹脂押し出し法によりチューブ状に押し出して成形されてなる請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のインクジェットプリンター用インクチューブ。
【請求項5】
ASTM D 1434 Methods5に準拠して測定した空気透過性が70[g・mm/m・day・atm(23℃)]以下、JIS K6253に準拠して測定したタイプAデュロメータ硬さが60以下、JIS K6262に準拠して測定温度70℃、測定時間24時間、圧縮率25%で測定した圧縮永久ひずみが30%以下である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のインクジェットプリンター用インクチューブ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−95999(P2009−95999A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267651(P2007−267651)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】