説明

インクジェットプリンタ

【課題】 印刷ページのインク消費量に対しインク残量が少ない状態になった時、レイアウト確認もしくは印刷品位確認のいずれかの選択を可能とし、選択目的に応じた価値のある印刷物が印刷出来るようにする。また、インク消費量とインク残量のバランスを考慮して、ページ終了後に丁度残インクを使い切るような最適な印刷濃度に制御して、印刷に使われずに破棄される無駄なインクを無くすようにする。
【解決手段】 ページ印刷前に、画像データと予備吐出インク量からページ印刷に必要なインク消費量を算出し、そのインク消費量よりインク残量が少なければオペレータに通知し、印刷を続行するか中止するかを選択させる。さらに印刷を続行する場合、インク切れまで通常濃度で印刷する方法と、ページ印刷終了時にインク残量がゼロになるように画像データを間引いて印刷する方法とをオペレータに選択させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリンタやプロッタ等に適用され、種々のインクを使用して用紙に画像を記録することが可能なインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは記録ヘッド(以下ヘッド)から被記録材にインクを吐出して文字や画像の記録を行うものである。
【0003】
インクは消耗品であり、残量が少なくなると補充する必要がある。一般にプリンタではインクの補充時期をオペレータに知らせるためのインク残量の管理を行っている。インクの残量なしを検知する方法には、例えばインクの導電性を利用した電極検知方式や、初期インク量から実使用量を減算する計算方式、あるいはそれらの併用方式などがある。一般的なインクの搭載形態は、例えばヘッドとインクがひとつになった一体カートリッジや、インクのみが容器に入ったインクタンクの形態で搭載される。オペレータはこれらのカートリッジやインクタンクを交換することでインクの補充をおこなう。
【0004】
さて近年、インクジェット技術を用いてA0サイズ、B0サイズといった大きな用紙に印刷を施し、写真やポスターなどを印刷することができる大判プリンタが普及してきている。大判プリンタは印刷される1ページの面積が大きく、ページあたりのインク使用量も多い。また1ページあたりにかかる印刷時間も長いため、ページ印刷途中でインク切れになって印刷が途中終了してしまうと、用紙やインクだけでなくや時間もムダとなってしまう。そこで特許文献1にあるように、ページ途中でインク切れとなることを防ぐ提案がなされている。この提案では1ページ分のインク消費量とインク残量を比較し、インク残量が少ないときはオペレータに通知し、印刷続行するか否かを選択させるものである。続行しない場合、オペレータはインクタンクを交換するか、残量インクで印刷できるように画像データを加工することになる。
【特許文献1】特開平11-138852公報(第5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において、インク残量少の際にオペレータが印刷を続行した場合、印刷開始からインク切れまでは正常な画像品位で印刷できるが、やがてインク切れになり画像全体は印刷できない。しかしながら印刷目的によっては、たとえ不完全な印刷であっても局所的な画像品位よりも全体像を確認できたほうが有利な場合もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような問題に対し、本発明は、インクジェットプリンタにおいて、ページ印刷前に画像データおよびインク予備吐出の所要量からインク消費量を算出する手段と、現在のインク残量を取得する手段と、前記インク消費量と前記現在のインク残量と比較する手段と、インク所要量よりインク残量が少なければオペレータにインク残量警告を通知する手段と、オペレータがインク残量警告を確認した上で印刷の続行を指示した場合、印刷濃度を下げて印刷する第一の印刷方法と、印刷濃度を下げずに印刷する第二の方法のいずれかを選択する選択手段とを有することを特徴とする。また、この第一の印刷方法における印刷濃度は、前記インク消費量とインク残量の関係から、残量不足と判定されたインクがページ印刷後に残量ゼロとなるように算出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、印刷ページのインク消費量に対しインク残量が少ない状態であっても利用目的に応じた価値のある印刷物が印刷できる。また、インク消費量とインク残量よりページ終了後に丁度残インクを使い切るような最適な印刷濃度に制御できるため、印刷に使われずに破棄される無駄なインクを無くすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明の詳細を実施例の記述に従って説明する。
【実施例1】
【0009】
以下、図面を参照し、本発明を詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明を適用するのに好適なプリンタの一実施例を示す模式的斜視図である。図1において、符号11は記録ヘッドを示しており、キャリッジ12に搭載されて一体となり、不図示のスライド軸受けを介して2本のガイドシャフト19に連結され図中の矢印a,b方向に往復移動されるようになっている。前記記録ヘッド11は、装置本体の後述する制御装置に対し、不図示のフレキシブルケーブル等を介して電気接続されている。
【0011】
被記録材である記録用紙13を上面に載置するプラテン14に形成された開口部からは、搬送ローラ15の外周面の一部が露出されている。その搬送ローラ15と、記録用紙13の幅方向両端部を上方から押える不図示のピンチローラとによって記録用紙13を挟持し、後述する制御装置の制御に応じて回転駆動される。
【0012】
オペレータに載置された記録用紙13は、プラテン14上を往復移動する記録ヘッド11によって、1バンドの画像を記録され、回転駆動される搬送ローラ15によって、1バンド分、図示矢印a,b方向と直交する方向cに搬送される。記録ヘッド11の移動可能範囲の一端の画像形成領域外の位置に、記録ヘッド11の予備吐出動作行う予備吐受け部16が設けられている。
【0013】
記録ヘッド11にはそれぞれブラック、シアン、ライトシアン、マゼンタ,ライトマゼンタ、イエローの各色のインクを吐出するための6列のノズル列がある(不図示)。インクチューブ18は複数本で構成され、一方の端が記録ヘッド11に接続され、もう一方の端が不図示の複数のインクタンクに接続されており、インクタンクのインクを記録ヘッド11の計6列のノズル列にそれぞれ独立に供給することができる。
【0014】
プラテン14を挟んで予備吐受け部16の反対側には、プリンタの制御装置17が設けられている。この制御装置17は、画像情報を担持する画像信号を制御し、記録ヘッド11は制御装置17から送信された画像信号に基づいて、被記録材にインクを吐出させる。それととともに、被記録材を搬送する搬送ローラ15の回転駆動を制御して、被記録材の搬送タイミングや搬送量を制御する機能を備えている。
【0015】
図2は本発明の実施例にかかわるプリンタの構成を示すブロック図である。
【0016】
ROM214にはCPU204が実行するプログラムの他、装置固有の情報や印刷に必要な数値データなどが格納されている。RAM215はCPU204が演算に使用する記憶領域である。
【0017】
画像を記録する際には、ホストコンピュータ216から記録すべき文字や線画、写真調等の画像データが外部I/F部201を解して画像データ格納部202に入力される。画像データ格納部202は具体的にはメモリやハードディスクなどで構成され印刷開始から終了までの画像データ(以下1ページ分の画像データ)を格納することができる。画像データ以外のデータ、例えばホストコンピュータ216から印刷を開始したり、中断したりするためのコマンドデータは、画像データ格納部202には入らずCPU204に入力される。記録ヘッド制御部205は、CPU204からの指令および画像処理部203からの画像データおよびタイミング信号により記録ヘッド206を制御する。例えば画像データに応じて、ノズルを選択的に駆動することで画像を形成する。1バンド分の記録を始めるときに記録ヘッド制御部205はキャリッジ制御部207にキャリッジ208の移動を開始するタイミング信号を送る。キャリッジが記録開始位置に到達するとキャリッジ制御部207は記録ヘッド制御部205に記録開始を知らせるタイミング信号を返す。1バンド分の記録を終えると記録ヘッド制御部205は画像処理部203、キャリッジ制御部207および用紙搬送制御部209へ記録完了を知らせるタイミング信号を返す。これにより画像処理部203は次バンドの画像データを準備し、キャリッジ制御部207はキャリッジの走査を停止させ、用紙搬送制御部209は搬送ローラ210を所定量回転させて次バンドの記録位置に用紙を搬送する。画像処理部203は準備完了後再び記録ヘッド制御部205へタイミング信号を与える。用紙搬送制御部209も用紙搬送完了後記録ヘッド制御部205へタイミング信号を与える。これを繰り返すことで1バンドずつ、全ての画像の記録がなされる。また、制御装置200の動作状態を知らせるデータが、制御装置200からホストコンピュータ216に送信される。CPU204はインクタンク管理部211を介してインクタンク212の記憶領域(不図示)からインク残量値を取得したり、逆に印刷に使用した分のインクをインク残量から減算したりすることができる。インクタンク管理部211は各インク色ごとのインク残量を管理することができる。操作パネル213は表示部と押しボタンスイッチなどの入力部で構成されており、オペレータに対するプリンタ状態の表示や、オペレータからの指示の入力に使用される。
【0018】
図3は本発明の実施例にかかわるプリンタの画像データの流れを示すブロック図である。
【0019】
画像データ格納部305には1ページ分の画像データが格納されている。印刷が開始されると画像処理部300は記録ヘッド制御部306からのタイミング信号により画像データ格納部305からバンドメモリ301に1バンド分の画像データを読み出す。この画像データに対しマスク処理部302では、図2のCPU204より設定可能なマスクパターンによりデータ間引き処理を行うことができる。ドットカウント部303では画像データにおけるインク吐出ONとなるビット数(=ドット数)を数えることができる。図2のCPU204はこのドット数を読み出し、さらにバンド印字ごとに必要となる予備吐出のインク量を加えることにより、バンドあたりのインク消費量を正確に算出することができる。これを全バンド分加算することでページあたりのインク消費量を算出することができる。ヘッドデータ変換部304はラスター形式であった画像データを記録ヘッドの駆動信号に合致した形式に変換し、記録ヘッド制御部306に引き渡す。
【0020】
また本構成においては、CPU204の指示に基づき記録ヘッド制御部205および用紙搬送制御部209が即時にタイミング信号を返すことで、画像処理部300に対し擬似的な印刷動作をさせることができる。これを利用して、実際に画像の記録を行わなくとも1ページ印刷に必要なインク消費量を計測することもできる。
【0021】
図4は本発明の実施例にかかわるプリンタのデータ間引き処理のマスクパターンの例を示す概念図である。
【0022】
印刷時には間引き処理部302においてひとつのマスクパターンが使用される。マスクパターンは一般的に画像データサイズに比べ非常に小さいため、横方向および縦方向にタイリングしながら画像データとビット演算される。図4(a),(b),(c)はマスクパターンの例であり、縦4ドット×横4ドットの例である。縦方向は画像データのラスター方向、横方向はカラム方向に対応する。白部はデータスルー(ドットを打つ)、黒部はデータマスク(ドットを打たない)を表している。従ってこの場合(a),(b),(c)の間引き率はそれぞれ0%、25%、50%となる。マスクパターンは間引き処理部302にあらかじめ複数用意したものをCPU204により選択してもよいし、間引き処理部302に備えたマスクパターンRAM領域にCPU204によりパターン書き込みを行ってもよい。
【0023】
図5は本発明の実施例にかかわる印刷処理を示すフロー図である。
【0024】
また、図6は本発明の実施例にかかわる印刷物の例を示す模式図である。
【0025】
以下、説明のためにひとつのインク色に着目して述べるが、複数色のインクそれぞれについて処理は同様である。
【0026】
印刷が開始されるとCPU204はまずの印刷画像1ページ分のインク消費量xを算出する(S501)。印刷せずに当該印刷画像のインク消費量を算出する方法については、前述のとおりである。次に現在のインク残量yを取得する(S502)。次にxとyを比較し(S503)、もしx≦yであればインク切れの恐れはないので画像を印刷する(S504)。もしx>yであればページ中にインク切れが発生することになるので、操作パネル213にインク切れ警告を表示し(S505)、かつ印刷を継続するかどうかの確認を行う(S506)。このときオペレータが「印刷を継続しない」を選択した場合は印刷終了とする。また「印刷を継続する」を選択した場合は2つの印刷モードA、Bのいずれかの選択をするよう操作パネル213に表示し、選択待ちになる(S507)。印刷モードA、Bの詳細については後述する。S508でモードAが選択された場合、CPU204は画像処理部300に対し画像データの最適な間引き率を設定し(S509)、間引かれた画像を印刷する(S510)。一方、S508でモードBが選択された場合、インク切れまで間引かずに画像を印刷し、インクがなくなった時点で印刷を正常終了する(S512)。このとき特にオペレータに対するインク切れ通知は行わない。モードA、Bともに、ページ印刷を終えたら直ちにオペレータにインクタンク交換を促し(S511)、交換後、ページ印刷は終了となる。なお、不図示ではあるがインクタンク交換作業はオペレータにより当然キャンセルすることもできる。
【0027】
次にステップS508で選択される2つのモードA、Bについて説明する。
【0028】
モードAは印刷データを間引くことで印刷濃度を下げ、印刷終了時に丁度インクが切れるようにする印刷方法であり、モードBは印刷濃度を下げずに印刷し、インク切れになった時点で印刷を中止する印刷方法である。両者の印刷結果例を図6に示す。図6において(a)はステップS504にて印刷が完了した場合、つまり画像データどおりの印字結果が得られた場合を示す。これに対し(b)はモードAにて印刷が完了した場合、(c)はモードBにて印刷が完了した場合である。(b),(c)はともに画像データと比べ不完全ではあるが、それぞれ異なる利用価値がある。(b)では全体の印刷濃度は薄いが、印刷画像の位置や大きさは(a)と同じであるため、レイアウト確認用として利用することができる。一方(c)では画像の一部が欠けているが、印刷された部分については(a)と同じ品位が保たれているため、色味などの画像品位確認用としては利用できる。
【0029】
モードAの理想的な間引き率をt[%]とすると、tは印刷画像1ページ分のインク消費量x、現在のインク残量yより次の式で求められる。
【0030】
t = y ÷ x × 100 [%]
しかしながら、前述のとおり間引き処理はマスクパターンで実現されるため、実際の間引き率Tはマスクパターンのサイズによって決まる離散的な値しかとることができない。すなわちマスクパターンの濃度分解能をd、マスクパターンのサイズをm×n[ドット]とすると、
d = 100 ÷ (m×n) [%]
となる。
【0031】
例えば前述の4×4ドットのマスクパターンの例は
d = 100[%] ÷ (4×4)= 6.25 [%]
となるので、Tは6.25[%]刻みの値しかとることができない。
【0032】
また、もしT<tとなると、印刷中の間引きが不十分であるためページ印刷中にインク切れが発生してしまう。逆にTがあまりに大きすぎると必要以上に印刷濃度を下げることになる。
【0033】
したがって最適な実際の間引き率Tは
T > t
となる最小のdの倍数を選択するとよい。
【0034】
以上、本発明によれば、印刷ページのインク消費量に対しインク残量が少ない状態であってもレイアウト確認もしくは印刷品位確認のいずれか利用目的に応じた価値のある印刷物が印刷できる。また、インク消費量とインク残量よりページ終了後に丁度残インクを使い切るような最適な印刷濃度に制御できるため、印刷に使われずに破棄される無駄なインクを無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明を適用するのに好適なプリンタの一実施例を示す模式的斜視図
【図2】本発明の実施例にかかわるプリンタの構成を示すブロック図
【図3】本発明の実施例にかかわるプリンタの画像データの流れを示すブロック図
【図4】本発明の実施例にかかわるプリンタのデータ間引き処理のマスクパターンの例を示す概念図
【図5】本発明の実施例にかかわる印刷処理を示すフロー図
【図6】本発明の実施例にかかわる印刷物の例を示す模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ページ印刷前に画像データおよびインク予備吐出の所要量からインク消費量を算出する手段と、現在のインク残量を取得する手段と、前記インク消費量と前記現在のインク残量と比較する手段と、インク所要量よりインク残量が少なければオペレータにインク残量警告を通知する手段と、オペレータがインク残量警告を確認した上で印刷の続行を指示した場合、印刷濃度を下げて印刷する第一の印刷方法と、印刷濃度を下げずに印刷する第二の方法のいずれかを選択する選択手段とを有することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記第一の印刷方法における印刷濃度は、前記インク消費量とインク残量の関係から、残量不足と判定されたインクがページ印刷後に残量ゼロとなるように算出されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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