説明

インクジェットプリンタ

【課題】放射線硬化インクを使用したインクジェットプリンタにおいて、インク吐出量が多い印刷を行なう場合に生じる発色ムラを低減することができるインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】放射線硬化インクを吐出して印刷を行なうインクジェットプリンタの制御手段が、放射線発振器を駆動する交流電源の位相を検出してプリントヘッドによる印刷開始を制御する印刷開始制御手段を備えることにより、放射線発振器による放射線発振に対応してインクジェットヘッドから放射線硬化インクを吐出するので、毎インタレースの印字開始タイミングを放射線発振のタイミングにあわせて制御することで、全体に均一な照射が可能となり、インクの発色ムラを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
紫外線などの放射線によって記録媒体上に硬化するインクを吐出して印刷を行なうインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
近来、紫外線などの放射線によって硬化するインクを吐出することにより印刷を行なうインクジェットプリンタが実用化されている。このようなインクジェットプリンタは、主にインクが染み込まないガラスやプラスティックプレート、金属板等の表面に印刷を行なうことにより、屋外宣伝用のサインディスプレイや自動車のメータパネルなどを作成するために使用される。
【0003】
このようなインクジェットプリンタは、概略次のように印刷が行なわれる。
(1)インクをノズルから吐出し、インク滴を記録媒体に付着させる。
(2)インクジェットヘッド、あるいは記録媒体が移動する。
(3)インクを硬化するための放射線発振器が記録媒体に対して放射線を発振することで、記録媒体に付着したインク滴が硬化する。
(4)印刷が終了するまで(1)〜(3)を繰り返す。
【0004】
紫外線硬化インクを使用するインクジェットプリンタでは、吐出した紫外線硬化インクを硬化させるための放射線発振器として、商用の交流電源、あるいは商用電源を降圧させた交流電源で点灯する紫外線ランプを使用するのが一般的である。直流電源で点灯する紫外線ランプも存在するが、その場合交流電源からの電流を直流化するための回路を必要とするため、コストが上昇するという問題がある。
【0005】
また、インクジェットプリンタでは、インタレース方式によるインク吐出が一般的に行なわれている。
【0006】
インタレース方式によるインクの吐出の概略を図6に示す。図6では4つのノズルを一列に備えた1つのインクジェットヘッドにおいてインタレース方式でインクの吐出を行なった状態を示している。
【0007】
一回目の吐出において、インクジェットヘッドは主走査方向(X軸方向)に移動しながらインクを吐出しているが、この際にインクジェットヘッドはノズル孔の直径Rの4倍程の距離をとってインクを吐出する。
【0008】
二回目の吐出において、記録媒体あるいはインクジェットヘッドを副走査方向(Y軸方向)に移動する。この移動距離はインクジェットヘッドのノズル間距離dとする。移動後、再びインクジェットヘッドはインク吐出を行なう。二回目の吐出においてインクジェットヘッドは最初のインクの吐出位置を第一回目のインク吐出位置からノズル孔R程の距離をとった場所として、一回目の吐出同様にノズル孔の直径Rの4倍ほどの距離を取るようにインクジェットヘッドが移動しながらインクを吐出する。
【0009】
三回目の吐出も同様に、記録媒体あるいはインクジェットヘッドを副走査方向(Y軸方向)に距離dだけ移動して、インクジェットヘッドはインクの吐出位置を第二回目のインク吐出位置からノズル孔R程の距離をとった場所として、ノズル孔の直径Rの4倍ほどの距離を取るようにインクジェットヘッドが移動しながらインクを吐出し、四回目の吐出もまた同様に行なう。
【0010】
このようなインタレース方式のインク吐出を行なうことにより、ノズル間隔を限界まで小さくせずとも高解像度の印刷を行なうことが可能となることが、例えば特許文献1に開示されているように周知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−177175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、紫外線硬化インクを使用したインクジェットプリンタにおいても、インタレース方式によるインク吐出を実現可能ではあるが、解決しなければならない問題がある。
【0013】
図7は、交流電源で点灯する紫外線ランプの点灯周期と、図6で示したインタレース方式によるインク吐出周期との関係を説明するための図である。
【0014】
交流電源で点灯することから、紫外線ランプは供給される交流周波数に対応した点灯、消灯を繰り返しており、周期の頂点で紫外線ランプの照度は最大となり、電流が0の時は紫外線ランプの照度は最低となる。
【0015】
図7(a)では、理解のためにインク滴吐出周期と紫外線ランプの点灯周期とが略同一であるように図示している。図示しているように、紫外線ランプの点灯とインク吐出とのタイミングとがずれているために、インタレース方式で吐出したインクにインタレースの回数分、UVランプが照射されることになるが、その複数回のUVランプ照射の積算での強弱が、インクの発色ムラの原因となっている。
【0016】
すなわち、紫外線ランプの照度が最大の時点で記録媒体に付着しているインク滴と、紫外線ランプの照度が低下している時に記録媒体に付着しているインク滴とが存在するため、紫外線ランプの照射を受けて硬化するタイミングにムラが生じることから、予期していた発色を得ることができないことを示している。
【0017】
実際にはインク吐出周期は紫外線ランプの点灯周期よりも高速であるため、図7(b)のようにインク吐出がなされることになるが、紫外線ランプの点灯周期とインク吐出周期との関係によって生じる問題については図7(a)で示したものと同様に生じる。
【0018】
図7の場合、インクジェットヘッドが移動するものとして、その移動速度が1000mm/sec.、商用交流周波数60Hzの場合、1000×1/60×1/2=8.33333・・・となり、約8mm間隔で照射する紫外線の強度が変化することになる。従って、図7(c)に示すようにインクの発色ムラが生じてしまうので、印刷物の品質を低下させてしまうという問題があった。
【0019】
殊に、このような印字ムラは濃度の高い印刷を行なう際に顕著な問題となっている。すなわち、インクの吐出量が少ない場合、言い換えれば濃度が低い場合はインクの発色ムラは目立たないので、印刷物の品質低下も目立つことはない。
【0020】
しかし、黒100%などのインクの吐出量が多い印刷を行なう場合は、発色ムラが格段に目立つために、印刷物の品質低下が目立ってしまう。
【0021】
そこで、本発明は、放射線硬化インクを使用したインクジェットプリンタであって、インク吐出量が多い印刷を行なう場合に生じる発色ムラを低減することができるインクジェットプリンタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
かかる課題を解決する為に、請求項1に係る発明は、インクジェットプリンタであって、前記インクジェットプリンタの動作を制御する制御手段と、放射線硬化インクを吐出する複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを有するプリントヘッドと、交流電源で駆動する放射線発振器と、を備え、前記制御手段が、前記交流電源の位相を検出することにより前記プリントヘッドによる印刷開始を制御する印刷開始制御手段を備えること、を特徴としている。
【0023】
また、請求項2に係わる発明は、請求項1のインクジェットプリンタであって、前記制御手段が、前記プリントヘッドが有するインクジェットヘッドによる放射線硬化インクの吐出量に基づいて、前記印刷開始の制御を行うか否かを判断する判断手段を備えること、を特徴としている。
【0024】
さらに、請求項3に係わる発明は、請求項1のインクジェットプリンタであって、前記印刷開始制御手段が、前記プリントヘッドを駆動する印刷信号を遅延することにより、前記プリントヘッドによる印刷開始を制御すること、を特徴としている。
【0025】
加えて、請求項4に係わる発明は、請求項1のインクジェットプリンタであって、前記印刷開始制御手段が、前記印刷信号を前記交流電源の周期の1/4遅延すること、を特徴としている。
【0026】
また、請求項5に係わる発明は、請求項1のインクジェットプリンタであって、前記制御手段が、前記プリントヘッドが有するインクジェットヘッドによる放射線硬化インクをインタレース方式で吐出することにより印刷を行なうこと、を特徴としている。
【0027】
さらに、請求項6に係わる発明は、請求項1のインクジェットプリンタであって、前記放射線硬化インクが紫外線硬化インクであり、前記放射線発振器が紫外線ランプであること、を特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に記載のインクジェットプリンタは、放射線硬化インクを吐出して印刷を行なうインクジェットプリンタの制御手段が、放射線発振器を駆動する交流電源の位相を検出してプリントヘッドによる印刷開始を制御する印刷開始制御手段を備えることにより、放射線発振器による放射線発振に対応してインクジェットヘッドから放射線硬化インクを吐出するので、毎インタレースの印刷開始タイミングを放射線発振のタイミングにあわせて制御することで、全体に均一な照射が可能となり、インクの発色ムラを低減することができる。
【0029】
請求項2に記載のインクジェットプリンタは、制御手段がインクジェットヘッドによる放射線硬化インクの吐出量に基づいて印刷開始制御手段による印刷開始制御を行なうか否かを判断する判断手段を備えることにより、インクの吐出量が少ない時には放射線発振に対応したインクの吐出を行なわないので、インクの発色ムラを低減する際の印刷効率の低下を防ぐことができる。
【0030】
請求項3に記載のインクジェットプリンタは、印刷開始制御手段によってプリントヘッドを駆動するための印刷信号を遅延することで、プリントヘッドによる印刷開始を制御するので、簡易な構成によりインクの発色ムラを低減することができる。
【0031】
請求項4に記載のインクジェットプリンタは、印刷信号の遅延時間を交流電源の周期の1/4とすることにより、放射線発振器の最大発振時に合わせてプリントヘッドによる印刷開始を制御してインクの発色ムラを低減することができる。
【0032】
請求項5に記載のインクジェットプリンタは、放射線硬化インクをインタレース方式で吐出することにより印刷を行なうので、インクの発色ムラを低減した高解像度の印刷を実現することができる。
【0033】
請求項6に記載のインクジェットプリンタは、紫外線ランプから全体に均一な照射が可能となり、紫外線硬化インクの発色ムラを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明におけるインクジェットプリンタ100の構造を説明するための図である。
【図2】図1に示したインクジェットプリンタ100のプリントヘッド1の構造を説明するための図である。
【図3】インクジェットプリンタ100の電気的な構成を説明するための図である。
【図4】インクジェットプリンタ100の動作を説明するための図である。
【図5】インクジェットプリンタ100によって記録媒体Pに対して行なったインク吐出を説明するための図である。
【図6】インクジェットプリンタ100におけるインタレース方式の印刷を説明するための図である。
【図7】紫外線硬化インクを使用してインタレース方式の印刷を行なった場合に生じる問題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を利用しながら、本発明を実施するための最良の形態について、説明を行なう。
【0036】
この実施の形態は、放射線硬化インクとして、紫外線硬化インクを吐出する構成を備えたインクジェットプリンタである。
【0037】
図1は、本発明におけるインクジェットプリンタ100の構造図である。
【0038】
図1に示すインクジェットプリンタ100は、プリントヘッド1が記録媒体Pに対して直交方向(主走査方向)に往復動作を行ない、所定方向(副走査方向)に記録媒体Pを移動させることで記録媒体Pに印刷を行なうことが可能となる、いわゆるシャトル式インクジェットプリンタである。
【0039】
インクジェットプリンタ100は、プリントヘッド1、シャトル軸2、テーブル3、テーブル駆動部4を備えている。
【0040】
プリントヘッド1は、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドおよび紫外線ランプを備えており、図示しないインクタンクから紫外線硬化インクの供給を受けてインクを吐出し、紫外線ランプからの紫外線放射によりインクを硬化する。
【0041】
プリントヘッド1は、ボールネジやチェーン、ベルト、あるいはリニアモータなどで実現される駆動手段を備えたシャトル軸2に沿って往復移動可能なように設備されており、印刷を行なう際、テーブル3に載置された記録媒体Pに対して往復移動(主走査方向の移動)を繰り返す。
【0042】
テーブル3は、図示しないエア吸引部を備えており、薄板状の記録媒体Pを固定して載置する。
【0043】
テーブル3は、ボールネジやチェーン、ベルト、あるいはリニアモータなどで実現されるテーブル駆動部4に沿って往復移動可能なように設備されており、印刷を行なう際、テーブル駆動部4の制御により、記録媒体Pを載置した状態で、所定の方向(副走査方向)に移動する。
【0044】
後述する制御部10によって、プリントヘッド1の移動と、テーブル3の移動とが協調して行なわれ、プリントヘッド1に備えられたインクジェットヘッドがインクを記録媒体P上に吐出することにより、印刷が実行され、記録媒体P上に印刷像が形成される。
【0045】
図2は、プリントヘッド1の構造を説明するための図である。
【0046】
プリントヘッド1は、複数のインクジェットヘッド1a、および紫外線ランプ1cを備えている。
【0047】
インクジェットヘッド1aは、図示しないインクタンクから供給される紫外線硬化インクを、複数のノズル1bから各々液滴として記録媒体Pに吐出する。インクジェットヘッド1aがインクを吐出する機構としては、ピエゾ式、サーマル式、電磁式等、所望の吐出機構を採用することができる。
【0048】
図2に示したプリントヘッド1では、YMCKのカラーインクを吐出するために、インクジェットヘッド1aY、1aC、1aM、1aKを備えている。インクジェットヘッド1aYはイエローインクを、インクジェットヘッド1aCはシアンインクを、インクジェットヘッド1aMはマゼンダインクを、インクジェットヘッド1aKはブラックインクを、それぞれ吐出する。
【0049】
なお、ここでは、プリントヘッド1において、YMCKの4色インクを吐出するために4つのインクジェットヘッド1aが備えられているよう説明しているが、プリントヘッド1に備えられるインクジェットヘッド1aの数は4に限定されない。
【0050】
例えば、特色インクを吐出するためのインクジェットヘッド1aをさらに備えるようにしてもよい。あるいは、印刷処理を高速化するため、インクジェットヘッド1aY、1aC、1aM、1aKをそれぞれ複数備えるようにしてもよい。
【0051】
ノズル1bは、インクの液滴を吐出するために、インクジェットヘッド1aにそれぞれ備えられている。ノズル1bの数は、図示しているとおり、各インクジェットヘッド1aにおいて一列に4つずつ備えられている。ノズル1bは、インクジェットヘッド1aのインク吐出機構によって、インクの液滴を1つずつ吐出する。
【0052】
なお、ここでは、ノズル1bの数を一列に4つとしているが、インクジェットヘッド1aに備えられるノズル1bの数は4に限定されない。また、インクジェットヘッド1aのノズル1bの列数も1に限定されない。
【0053】
紫外線ランプ1cは、記録媒体Pに付着した紫外線硬化インクを硬化させるため、紫外線を放射する。紫外線ランプ1cは、商用周波数、あるいは放電灯安定器を通して得られる周波数の電源によって点灯する。一般的に、紫外線硬化インクを硬化させるためのUV波長は200nm〜400nmであることから、紫外線ランプ1cにおいても該当する波長の紫外線を照射可能とする。
【0054】
紫外線ランプ1cとしては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、水銀キセノンランプなど、所望の形式のランプを使用することができる。
【0055】
図3は、インクジェットプリンタ100の電気的な構成を示すための図である。
【0056】
インクジェットプリンタ100は、電気的な構成として、制御部10、表示部11、入力部12、外部インタフェイス13、交流電源14、位相検出回路15、遅延回路16を備えている。
【0057】
制御部10は、インクジェットプリンタ100全体を制御するために、CPU10a、ROM10b、メモリ10cを備えている。
【0058】
CPU10aは、ROM10bが記憶している制御用プログラムをメモリ10cにおいて実行することにより、インクジェットプリンタ100の動作を制御する。
【0059】
ROM10bは、インクジェットプリンタ100を制御するための制御プログラムを記憶している。
【0060】
メモリ10cは、CPU10aがROM10bに記憶された制御用プログラムを実行するためのワークエリアであり、該制御用プログラムを実行することによって、インクジェットプリンタ100の動作を制御する。
【0061】
表示部11は、インクジェットプリンタ100の動作状態を表示するためのものであり、液晶モニタなどで実現される。
【0062】
入力部12は、インクジェットプリンタ100の動作を制御するための入力操作を行なうためのものであり、キーボードやマウスなどで実現される。
【0063】
外部インタフェイス13は、インクジェットプリンタ100において印刷を行なうための印刷データPDを受信するために使用される。
【0064】
外部インタフェイス13によって受信された印刷データPDについて、制御部10は図示しない印刷データ処理部を動作させ、必要に応じてRIP処理、スクリーニング処理を行ない、プリントヘッド1がインクを吐出することにより印刷データPDが表現する印刷像を記録媒体Pに形成することが可能となるようなデータ処理を行なう。
【0065】
交流電源14は、プリントヘッド1に備えられた紫外線ランプ1cに電力を供給する。交流電源14として工業用交流電源を使用する。この場合、電圧は200V、周波数は商用周波数と同一である。
【0066】
なお、交流電源14については、図示しない放電灯安定器によって周波数変調を行なってもよい。
【0067】
位相検出回路15は、後述するプリントヘッド1におけるインク吐出制御のため、交流電源14から供給される電流の電圧位相を検出する。位相検出回路15は、周知の回路構成を使用することができる。位相検出回路15によって検出された電圧位相は、電圧位相信号VDとして遅延回路16に送信される。
【0068】
遅延回路16は、制御部10からプリントヘッド1に対して発信された印刷信号SDについて、位相検出回路15から送信された電圧位相信号VDに基づいて遅延処理を行なう。遅延回路16は、周知の回路構成を使用することができる。遅延回路16が、遅延処理許可信号EDに対応した印刷信号SDに対して、電圧位相信号VDに基づく遅延処理を行なうことにより、プリントヘッド1によって行なわれる印刷の発色ムラを解消することが可能となる(後述する)。
【0069】
印刷の発色ムラを解消するため、制御部10のCPU10aがメモリ10cにおいて、プリントヘッド制御部10c1、テーブル制御部10c2、インク量算出部10c3、遅延処理判断部10c4として機能する制御プログラムを実行する。
【0070】
プリントヘッド制御部10c1は、記録媒体Pに対する印刷を実行するためにプリントヘッド1を制御する。プリントヘッド制御部10c1によるプリントヘッド1の制御とは、プリントヘッド1およびシャトル軸2に対して制御信号CDを発信してプリントヘッド1の印刷位置への移動処理、紫外線ランプ点灯処理を実行することであり、また、印刷データPDに基づく印刷信号SDを発信してプリントヘッド1の印刷時移動処理を実行することである。
【0071】
テーブル制御部10c2は、テーブル3における記録媒体Pの吸着処理、および該テーブル3の移動を実行するテーブル駆動部4を制御する。
【0072】
テーブル制御部10c2は、印刷開始前にテーブル3において図示しない記録媒体吸引部を動作させ、記録媒体Pを吸着することにより、テーブル3上に記録媒体Pを載置する。記録媒体Pを吸着するのは、テーブル3の移動によって、記録媒体Pの位置が変化するのを防ぐためである。
【0073】
また、テーブル制御部10c2は、プリントヘッド制御部10c1によるプリントヘッド1の動作と協調してテーブル駆動部4を動作させることにより、記録媒体Pに対する印刷像の形成を実現する。
【0074】
インク量算出部10c3は、外部インタフェイス13より取得した印刷データPDに基づいて、プリントヘッド1が吐出するインク量を算出する。インク量算出部10c3におけるインク量の算出は、印刷データPDが表現する印刷像の画素数をカウントすることによって求める。
【0075】
なお、インク量算出手法は、前記手法に限られることはなく、例えば印刷データPDが表現する印刷像の色濃度ヒストグラムに基づいて算出してもよく、印刷データPDが表現する印刷像の網点サイズと網点数との関係に基づいて算出してもよく、あるいは印刷データPDが表現する印刷像の各色成分の面積に基づいて算出してもよい。
【0076】
遅延処理判断部10c4は、インク量算出部10c3が算出したインク量に基づいて、印刷時の発色ムラを抑制するための処理を実行するか否かを判断する。遅延処理判断部10c4は、インク量算出部10c3が算出したインク量が所定の閾値を越えた場合、記録媒体Pに印刷を行なうとインクの発色ムラが出るものと判断して、遅延回路16に対して遅延処理許可信号EDを発信する。
【0077】
また、遅延処理判断部10c4は、入力部12からの入力によって、遅延処理許可信号EDの送信を判断するようにしてもよい。
【0078】
プリントヘッド1は、前述のとおり、複数のインクジェットヘッド1aと紫外線ランプ1cとを備えている。
【0079】
プリントヘッド1は、プリントヘッド制御部10c1からの制御信号CDによって、紫外線ランプを点灯する。また、プリントヘッド制御部10c1からの印刷信号SDによって、プリントヘッド1は印刷時移動を行ないインクジェットヘッド1aからインクの吐出を実行する。
【0080】
シャトル軸2は、前述のとおり、ボールネジやチェーン、ベルト、あるいはリニアモータなどで実現される駆動手段を備えており、プリントヘッド1を往復移動可能なように設備されており、制御信号CDによって、テーブル3に載置された記録媒体Pに対してプリントヘッド1の往復移動(主走査方向の移動)を実行する。
【0081】
図4は、インクジェットプリンタ100の印刷動作を説明するためのフローチャートである。
【0082】
ステップS1で、インクジェットプリンタ100は印刷データPDを受信する。インクジェットプリンタ100は外部インタフェイス13を介して印刷データPDを受信し、図示しない印刷データ処理部で印刷データPDを印刷可能なデータ形式に変換処理を行なう。
【0083】
ステップS2で、インク量算出部10c3が、印刷データPDが表現する印刷像を記録媒体Pに印刷するのに必要なインク量を算出する。インク量算出部10c3で求められたインク量に基づいて、ステップS3による印刷信号SDの遅延処理要否を決定される。
【0084】
ステップS3では、遅延判断処理部10c4が、印刷信号SDの遅延処理を行うか否かを判断する。遅延判断処理部10c4は、記録媒体Pに印刷像を形成するのに必要なインク量が所定の数値を越えている場合、印刷信号SDの遅延処理を行なうための遅延処理許可信号EDを遅延回路16へ送信する。
【0085】
遅延判断処理部10c4が判断の根拠とする所定の数値は、例えば網点濃度で指定する場合、網点濃度35%程度が適当である。網点濃度で所定の数値を指定する理由は、網点濃度が高くなれば該網点濃度を表現するために必要なインク量が多くなり、網点濃度が低くなれば該網点濃度を表現するために必要なインク量は少なくなるためである。
【0086】
網点濃度が低い場合にはインクの発色ムラが生じたとしても目立たないので、印刷信号SDの遅延処理を行なうことによる印刷効率の若干の低下を防ぐため、遅延判断処理部10c4は印刷信号SDの遅延処理を行なわないと判断してステップS20、S21に示すように紫外線ランプ1cを点灯して、印刷信号SDを出力し、普通にステップS9におけるインタレース方式の印刷を行なう。
【0087】
一方、網点濃度が高い場合にはインクの発色ムラが目立つため、遅延判断処理部10c4は印刷信号SDの遅延処理を行なうためステップS4へ移行する。
【0088】
ステップS4で、遅延判断処理部10c4が遅延回路16に対して遅延処理許可信号EDを送信する。遅延回路16は送信された遅延処理許可信号EDを受信することにより、後述するプロセスにおいて印刷信号SDを遅延する処理を実行するためイネーブル状態となる。逆に、遅延回路16は遅延判断処理部10c4から遅延処理許可信号EDが送信されなかった場合はディスエーブル状態となり、印刷信号SDの遅延処理を行なわない。
【0089】
ステップS5で、プリントヘッド制御部10c1が制御信号CDをプリントヘッド1およびシャトル軸2に送信し、プリントヘッド1を印刷開始位置へ移動させ、プリントヘッド1に搭載された紫外線ランプ1cを点灯する。また、テーブル制御部10c2が、テーブル駆動部4を動作させ、記録媒体Pを載置したテーブル3を印刷開始位置へ移動する。
【0090】
ステップS6で、プリントヘッド制御部10c1が、プリントヘッド1のインクジェットヘッド1aによるインク吐出の実行、およびプリントヘッド1の記録媒体Pに対する主走査動作の実行のために、印刷信号SDを出力する。
【0091】
ステップS7で、位相検出回路15が、紫外線ランプ1cに電力を供給する交流電源14の電圧変化を電圧位相として検出し、電圧位相信号VDを遅延回路16に対して出力する。電圧位相信号VDは、交流電源14の電圧が所定の電圧に達したとき、電圧位相信号VDを出力する。
【0092】
位相検出回路15が検出する所定の電圧は、交流電源14の交流周波数の1/4周期における電圧とするのが望ましい。すなわち、記録媒体Pに吐出されたインクの発色ムラを防止するためには、毎インタレースの印刷開始タイミングを放射線発振のタイミングにあわせて制御する必要がある。それに合わせてインクジェットヘッド1aによるインク吐出を行なわせるために印刷信号SDを遅延させるのに適切なのは、交流電源14の1/4周期における電圧である。
【0093】
別の言い方をすれば、印刷信号SDを交流電源14の周期の1/4遅延することにより、インクの発色ムラを防止することができる。
【0094】
ステップS8で、遅延回路16が、ステップS4で遅延処理許可信号EDによってイネーブル状態にある場合、プリントヘッド制御部10c1から送信された印刷信号SDを、電圧位相信号VDに基づいて遅延した後、プリントヘッド1に送信する。遅延回路16は、イネーブル状態時、印刷信号SDを受信しても、交流電源の1/4周期時の電圧位相信号VDを受信するまでは、印刷信号SDの出力を行なわない。電圧位相信号VDを受信したとき、遅延回路16はプリントヘッド1に対して印刷信号SDを出力する。印刷信号SDを受信したプリントヘッド1は、印刷を行なうことが可能なイネーブル状態となる。
【0095】
ステップS9で、制御部10から送信された印刷データPDに基づいて、プリントヘッド1は、記録媒体Pに対する印刷を実行する。ステップS9で記録媒体Pに対して行なわれる印刷方式はインタレース方式である。プリントヘッド1が主走査方向に移動しながらインクジェットヘッド1aの副走査方向のノズル幅分(1ライン目)のインクの吐出を行なう。インク吐出後、プリントヘッド1に備えられた紫外線ランプ1cが記録媒体Pに吐出された紫外線硬化インクを硬化する。
【0096】
ステップS10において、印刷データPDによる印刷像形成を続行する場合、すなわち制御部10が印刷データPDに基づく印刷を終了していないと判断した場合、プリントヘッド制御部10c1が制御信号CDをシャトル軸2に送信して、2ライン目の印刷開始位置へプリントヘッド1を移動させる。2ライン目のプリント開始位置は、1ライン目の開始位置からノズル孔サイズ分主走査方向および副走査方向に移動した位置である。プリントヘッド1の移動後ステップS7へ帰還し、位相検出回路15が再度電圧位相信号VDを出力する。
【0097】
ステップS8による遅延処理が行なわれ、ステップS9ではインタレース方式で印刷を行なうため、遅延回路16で遅延処理が行なわれた印刷信号SDに対応してプリントヘッド1が印刷開始位置から印刷を開始し、2ライン目の印刷においても、電圧位相信号VDに基づいて遅延処理が行なわれる。
【0098】
以降、ステップS10による判断が印刷続行である場合、ステップS9によってインタレース方式による印刷が繰り返される。各ラインに対するインクの吐出は、先に述べているとおり、電圧位相信号VDに基づいて遅延処理が行なわれているため、毎インタレースの印刷開始タイミングを放射線発振のタイミングにあわせて制御することで、記録媒体Pに吐出したインクに対して均一な照射が行なわれる。
【0099】
ステップS10において、制御部10が印刷を終了すると判断した場合、インクジェットプリンタ100はプリントヘッド1およびテーブル3の動作を中止して、印刷処理を終了する。
【0100】
図5は、インクジェットプリンタ100が、図4のフローチャートに示した動作を行なうことによって記録媒体Pに対して行なわれるインク吐出を説明するための図である。
【0101】
ここでは、図6と同様に、発明の理解を助けるために、4個のノズル1bが一列に配列されている1つのインクジェットヘッド1aによってインク吐出が行なわれたものとす。
【0102】
なお、インクジェットヘッド1aの数は1つに限定されることはない。また、ノズル1bの数は4に限定されることもなく、ノズル1bの配列が一列に限定されることもない。
【0103】
図5(a)は、インタレース方式の印刷を行なうためのプリントヘッド1による一回目のインク吐出を説明するための図である。図示しているように紫外線ランプ1cの点灯から紫外線ランプ1cを点灯する交流周波数の1/4周期に相当する遅延時間t1が経過してから、プリントヘッド1が一回目のインク吐出を行なっている。
【0104】
図5(b)は、プリントヘッド1による二回目のインク吐出を説明するための図である。一回目のインク吐出終了後、プリントヘッド1は2ライン目の印刷開始位置へ移動する。従来技術と異なり、プリントヘッド1は印刷開始位置へ移動直後から印刷動作を行なうのではなく、図5(a)同様、紫外線ランプ1cの点灯から紫外線ランプ1cを点灯する交流周波数の1/4周期に相当する遅延時間t1が経過してから二回目のインク吐出を行なう。
【0105】
図5(c)、(d)は、それぞれ三回目、四回目のインク吐出を行なった状態を説明するための図である。図5(a)、(b)の説明と同様に、三回目のインク吐出についても、3ライン目の印刷開始位置へ移動後、紫外線ランプ1cを点灯する交流周波数の1/4周期に相当する遅延時間t1が経過してから三回目のインク吐出を行なう。四回目のインク吐出についても同様の処理を行なう。
【0106】
その結果、記録媒体Pに吐出されたインク全体に対して、複数回の紫外線ランプ1cの照射が均一となり、インクの発色ムラを低減することができる。
【0107】
このように、図1に示したインクジェットプリンタ100が図4のフローチャートで示す動作を行なうことによって、従来技術の課題を解決し、紫外線ランプ1cによる紫外線照射に対応してインクジェットヘッド1aから紫外線硬化インクを吐出するので、インクの発色ムラを低減することができる。
【0108】
なお、ここまでの説明では、位相検出回路15、遅延回路16についてハードウェアとして説明を行なってきたが、ソフトウェア的な処理により、位相検出回路15、遅延回路16の機能を実現するようにしてもよい。
【0109】
また、ここまでの説明では、放射線発振器として紫外線ランプ1cを使用し、放射線硬化インクとして紫外線硬化インクを使用するものとして説明を行なってきたが、放射線発振器は紫外線ランプに限定されるものではなく、また放射線硬化インクは紫外線硬化インクに限定されるものではない。
【0110】
加えて、ここまでは、プリントヘッド1にインクジェットヘッド1aと紫外線ランプ1cとが搭載されている構成として説明を行なってきたが、プリントヘッド1に搭載されているのはインクジェットヘッド1aだけであり、紫外線ランプ1cは記録媒体Pを主走査あるいは副走査方向で照射可能なライン式ランプとすることで、プリントヘッド1とは別体であってもよい。
【0111】
また、プリントヘッド1のインクジェットヘッド1aは、YMCKのプロセスカラー以外に、特色インクを吐出するインクジェットヘッド1aや、記録媒体Pの表面を改質するアンダーコートを吐出するインクジェットヘッド1a、放射線によるインク硬化後に印刷面を保護するオーバーコートを吐出するインクジェットヘッド1aを搭載していてもよい。
【符号の説明】
【0112】
1 プリントヘッド
1a インクジェットヘッド
1b ノズル
1c 紫外線ランプ
2 シャトル軸
3 テーブル
4 テーブル駆動部
10 制御部
10a CPU
10b ROM
10c メモリ
10c1 プリントヘッド制御部
10c2 テーブル制御部
10c3 インク量算出部
10c4 遅延判断処理部
11 表示部
12 入力部
13 外部インタフェイス
14 交流電源
15 電圧位相検出回路
16 遅延回路
100 インクジェットプリンタ
CD 制御信号
ED 遅延処理許可信号
SD 印刷信号
P 記録媒体
PD 印刷データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットプリンタであって、
前記インクジェットプリンタの動作を制御する制御手段と、
放射線硬化インクを吐出する複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを有するプリントヘッドと、
交流電源で駆動する放射線発振器と、
を備え、
前記制御手段が、前記交流電源の位相を検出することにより前記プリントヘッドによる印刷開始を制御する印刷開始制御手段を備えること、
を特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記制御手段が、前記プリントヘッドが有するインクジェットヘッドによる放射線硬化インクの吐出量に基づいて、前記印刷開始の制御を行うか否かを判断する判断手段を備えること、を特徴とする請求項1のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記印刷開始制御手段が、前記プリントヘッドを駆動する印刷信号を遅延することにより、前記プリントヘッドによる印刷開始を制御すること、を特徴とする請求項1のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記印刷開始制御手段が、前記印刷信号を前記交流電源の周期の1/4遅延すること、を特徴とする請求項1のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記制御手段が、前記プリントヘッドが有するインクジェットヘッドによる放射線硬化インクをインタレース方式で吐出することにより印刷を行なうこと、を特徴とする請求項1のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記放射線硬化インクが紫外線硬化インクであり、前記放射線発振器が紫外線ランプであること、を特徴とする請求項1のインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−228326(P2010−228326A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79124(P2009−79124)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】