説明

インクジェットプリンタ

【課題】搬送ベルトに付着したインクを速やかに回収すること、及び、インクを回収する構成を付加することによるプリンタの大型化を抑えることである。
【解決手段】インクジェットプリンタは、複数のノズルが開口する液滴噴射面10aを有するインクジェットヘッド10と、液滴噴射面10aと対向した状態で走行し、記録用紙を搬送する搬送ベルト18と、搬送ベルト18を走行駆動する搬送モータ19と、インクジェットヘッド10に搭載されたインク吸収体24と、インク吸収体24を、その一部が搬送ベルト18に接触する吸収位置と、搬送ベルト18から退避した退避位置とにわたって移動させる吸収体駆動モータ25とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に画像等を記録するインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、多数のノズルを備えたインクジェットヘッドを有し、被記録媒体に対してインクジェットヘッドのノズルからインクの液滴を噴射させることにより、被記録媒体に画像等を記録する。
【0003】
上記のインクジェットプリンタとして、特許文献1には、位置が固定された状態で被記録媒体への記録を行う固定型のインクジェットヘッド(いわゆる、ラインヘッド)を有するプリンタが開示されている。このプリンタは、インクジェットヘッドのノズルが開口した面(液滴噴射面)と対向して搬送ベルトが配置され、搬送ベルトによって搬送される被記録媒体に対して、インクジェットヘッドのノズルからインクを噴射することで、被記録媒体に画像等を記録する。
【0004】
また、一般的なプリンタにおいては、ノズルの乾燥防止や異物除去の目的で、被記録媒体への記録動作とは別に、ノズルからインクを噴射する、いわゆるフラッシングという動作を行う。ここで、上記特許文献1のプリンタでは、インクジェットヘッドの位置が固定されており、その液滴噴射面は常に搬送ベルトと対向していることから、上記のフラッシングは搬送ベルトに向けて行うようになっている。具体的には、搬送ベルトにインク受け溝が形成され、このインク受け溝をインクジェットヘッドの液滴噴射面と対向させた状態で、ノズルからインク受け溝に向けてインクを噴射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−53020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1には、フラッシングの際にノズルから噴射されて、搬送ベルトのインク受け溝に収容されたインクを回収することについての開示はない。しかしながら、このインク受け溝にインクが付着したままで被記録媒体の搬送を行うと、たとえ、このインク受け溝に被記録媒体が載置されないように搬送動作を制御したとしても、何かの拍子にインク受け溝内のインクが被記録媒体に付着する可能性は否定できない。また、搬送ベルトの走行中に、インク受け溝内のインクがこぼれ落ちる虞もある。従って、搬送ベルトに付着したインクを回収した上で、被記録媒体の搬送を行うことが好ましい。
【0007】
搬送ベルトに付着したインクを回収するには、例えば、搬送ベルトの外周面にインク吸収体を押し付けることが考えられるが、その場合、搬送ベルトの外側に、インク吸収体を配置するためのスペースを確保する必要があり、その分、プリンタが大型化する。また、このインク吸収体は、記録時における被記録媒体の搬送の邪魔にならないように、インクジェットヘッドから離れた位置において設置される必要がある。そのため、インクが付着したベルト部分を、インクジェットヘッドから離れたインク吸収体の位置まで移動させる必要があり、付着したインクを回収するまでに時間がかかるという問題もある。
【0008】
本発明の目的は、搬送ベルトに付着したインクを速やかに回収すること、及び、インクを回収する構成を付加することによるプリンタの大型化を抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明のインクジェットプリンタは、複数のノズルが開口する液滴噴射面を有し、前記複数のノズルから被記録媒体に向けてインクの液滴を噴射するインクジェットヘッドと、前記液滴噴射面と対向した状態で走行し、前記被記録媒体を搬送する搬送ベルトと、前記搬送ベルトを駆動するベルト駆動手段と、前記インクジェットヘッドに搭載されたインク吸収体と、前記インク吸収体を、その一部が前記搬送ベルトに接触して前記搬送ベルトに付着したインクを吸収可能な吸収位置と、前記搬送ベルトから退避した退避位置とにわたって移動させる吸収体駆動手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
搬送ベルトにインクが付着したときには、インクが付着したベルト部分は、インクの発生源であるインクジェットヘッドに近い位置にある。本発明では、インクジェットヘッドにインク吸収体が搭載されているため、搬送ベルトに付着したインクをインク吸収体によって速やかに回収することができる。また、インクジェットヘッドとは別の位置に、インク吸収体を配置するためのスペースを確保する必要がないため、プリンタが大型化することがない。
【0011】
第2の発明のインクジェットプリンタは、前記第1の発明において、前記インク吸収体は、前記吸収位置にあるときに、前記搬送ベルトとの接触部によって前記搬送ベルトを前記液滴噴射面と反対側へ押し出し、前記搬送ベルトの前記液滴噴射面と対向する部分を水平面に対して下向きに傾斜させることを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、インク吸収体を吸収位置に移動させたときに、搬送ベルトを液滴噴射面と反対側に押し出して水平面に対して下向きに傾斜させることで、搬送ベルト上のインクがインク吸収体へ向かって流れ落ちる。従って、インク吸収体を吸収位置に切り換えるだけで、搬送ベルト上のインクを自然に吸収でき、搬送ベルトに付着したインクを速やかに回収することができる。また、搬送ベルトを走行させてインクが付着した部分をインク吸収体まで移動させる必要がない。
【0013】
第3の発明のインクジェットプリンタは、前記第2の発明において、前記インクジェットヘッドは、前記搬送ベルトが前記液滴噴射面と対向する状態で、前記ノズルから前記搬送ベルトに直接インクを噴射してフラッシングするものであり、前記インクジェットヘッドと前記搬送ベルトは、互いに離接する方向に相対移動可能に構成され、前記インクジェットヘッドの前記搬送ベルトに対する位置を、前記液滴噴射面が前記搬送ベルトに密着可能なキャッピング位置と、前記キャッピング位置よりも前記搬送ベルトから離れたアンキャッピング位置との間で切り換える、位置切換手段をさらに備え、前記インクジェットヘッドが前記キャッピング位置にあり、且つ、前記吸収位置にある前記インク吸収体の前記接触部によって前記搬送ベルトが押し出されて前記液滴噴射面から離れた状態で、前記インクジェットヘッドが前記フラッシングを行い、前記フラッシングが終了した後に、前記吸収体駆動手段が前記インク吸収体を前記吸収位置から前記退避位置に移動させることにより、前記インク吸収体によって押し出されていた前記搬送ベルトを前記液滴噴射面に密着させ、前記液滴噴射面をキャッピングすることを特徴とするものである。
【0014】
本発明においては、インク吸収体はフラッシング時に搬送ベルトに噴射されたインクを吸収する。また、フラッシングが終了したときに、インク吸収体を退避位置へ戻すだけで、インク吸収体によって押し出されていた搬送ベルトが元に戻り、液滴噴射面に密着してキャッピング状態となる。従って、フラッシングの終了後、すぐに液滴噴射面をキャッピングすることができる。
【0015】
第4の発明のインクジェットプリンタは、前記第2又は第3の発明において、前記インク吸収体と前記インクジェットヘッドの前記液滴噴射面とが、前記搬送方向に並んで配置され、前記搬送方向において前記液滴噴射面に対して前記インク吸収体と反対側の位置に配置され、前記搬送ベルトの前記液滴噴射面と反対側の面に当接する当接部材を有することを特徴とするものである。この構成によれば、インク吸収体が搬送ベルトを押し下げたときの、液滴噴射面と対向する部分の傾斜角度が大きくなり、搬送ベルトに付着したインクがインク吸収体へ向かって流れ落ちやすくなる。
【0016】
第5の発明のインクジェットプリンタは、前記第2〜第4の何れかの発明において、前記搬送ベルトの張力を調整する張力調整手段をさらに備え、前記インク吸収体が前記吸収位置に移動して前記搬送ベルトを押し出す際に、前記張力調整手段は前記搬送ベルトの張力を下げることを特徴とするものである。
また、第6の発明のインクジェットプリンタは、前記第2〜第4の何れかの発明において、前記搬送ベルトの張力を調整する張力調整手段をさらに備え、前記張力調整手段は、前記インク吸収体が前記吸収位置に移動して前記搬送ベルトを押し出したときの前記搬送ベルトの張力上昇分を吸収して、前記搬送ベルトの張力が一定になるように調整することを特徴とするものである。
【0017】
インク吸収体によって搬送ベルトを押し出したときに、搬送ベルトの張力が高いと、搬送ベルトが撓みにくい。これに対して、前記第5の発明及び第6の発明によれば、搬送ベルトの張力を下げる、あるいは、押し出したときの張力上昇分を吸収することから、搬送ベルトが撓みやすくなる。従って、搬送ベルトの傾斜角度が大きくなり、搬送ベルトに付着したインクがインク吸収体へ向かって流れ落ちやすくなる。
【0018】
第7の発明のインクジェットプリンタは、前記第2〜第6の何れかの発明において、少なくとも2つの前記インクジェットヘッドが前記被記録媒体の搬送方向に並んで配置され、前記インク吸収体は、前記2つのインクジェットヘッドの間に配置されていることを特徴とするものである。
【0019】
2以上のインクジェットヘッドの並び方向の端側にインク吸収体が配置されていると、このインク吸収体で搬送ベルトを押し出して傾斜させたときに、インク吸収体と反対側の端に位置するインクジェットヘッドからインク吸収体までの距離が遠くなり、このインクジェットヘッドから噴射されたインクがインク吸収体まで到達しにくくなる。本発明では、2つのインクジェットヘッドの間にインク吸収体が配置されることで、特定のヘッドのインク吸収体までの距離が極端に遠くなることがないため、それぞれのヘッドから噴射されたインクをインク吸収体へ到達させることが可能になる。また、異なる種類のインクをそれぞれ噴射する2つのインクジェットヘッドの間にインク吸収体が配置されることで、異なる種類のインクが混ざり合うことが防止される。
【0020】
第8の発明のインクジェットプリンタは、前記第1の発明において、前記インク吸収体が前記吸収位置にある状態で、前記ベルト駆動手段により前記搬送ベルトを走行させ、前記搬送ベルトのインクが付着した部分を前記インク吸収体へ向けて移動させることを特徴とするものである。本発明では、搬送ベルトを走行させて搬送ベルトのインク付着部分をインク吸収体へ移動させることにより、インク吸収体で確実に回収できる。また、インク吸収体はインクジェットヘッドに搭載されているから、搬送ベルトのインク付着部分とインク吸収体までの距離は短い。従って、インク吸収体へ到達するまでにほとんど時間を要しないことから、搬送ベルトに付着したインクを速やかに回収することができる。
【0021】
第9の発明のインクジェットプリンタは、前記第3の発明において、前記搬送ベルトの特定の一部分が、前記フラッシングによって噴射されたインクを受ける、インク受け部分であることを特徴とするものである。本発明では、フラッシングは、搬送ベルトの特定の一部分(インク受け部分)に対して行われる。つまり、フラッシングで噴射されたインクが付着するのは特定のインク受け部分だけであって、搬送ベルトの他の部分には付着しないことから、被記録媒体が汚れにくい。
【0022】
第10の発明のインクジェットプリンタは、前記第9の発明において、前記搬送ベルトには、搬送する前記被記録媒体を前記搬送ベルトに吸着させるための複数の吸着孔が形成されており、前記インク受け部分には、前記吸着孔が形成されていないことを特徴とするものである。本発明では、搬送ベルトのインク受け部分には吸着孔が形成されていないことから、このインク受け部分に噴射されたインクが吸着孔から漏れ落ちることがない。
【0023】
第11の発明のインクジェットプリンタは、前記第9又は第10の発明において、前記インク受け部分は、前記液滴噴射面側の面において前記搬送ベルトの他の以外の部分よりも凹んだ凹部を有し、前記凹部の内側に、前記インク受け部分が前記液滴噴射面をキャッピングしたときに、前記液滴噴射面のノズルの開口に前記インク受け部分が接触するのを防止する、凸部が形成されていることを特徴とするものである。本発明では、インク受け部分に凹部が形成されて、液滴噴射面のノズルがインク受け部分に接触しにくくなっている。さらに、凹部の内側に形成された凸部によって、ノズルがインク受け部分に接触することが確実に防止される。これにより、キャッピング時にノズル内のメニスカスが破壊されて、インクが漏れ出すことが防止される。
【0024】
第12の発明のインクジェットプリンタは、前記第2の発明において、前記インクジェットヘッドは、前記搬送ベルトが前記液滴噴射面と対向する状態で、前記ノズルから前記搬送ベルトに直接インクを噴射してフラッシングをするものであり、前記インクジェットヘッドと前記搬送ベルトは、互いに離接する方向に相対移動可能に構成され、前記インクジェットヘッドの前記搬送ベルトに対する位置を、前記液滴噴射面が前記搬送ベルトに密着可能なキャッピング位置と、前記キャッピング位置よりも前記搬送ベルトから離れたアンキャッピング位置との間で切り換える、位置切換手段をさらに備え、前記インクジェットヘッドは、前記アンキャッピング位置にある状態で前記フラッシングを行い、前記フラッシングが終了した後に、前記位置切換手段が前記インクジェットヘッドの前記搬送ベルトに対する位置を前記キャッピング位置に切り換え、前記吸収位置にある前記インク吸収体の前記接触部によって前記搬送ベルトを押し出して前記搬送ベルトの前記液滴噴射面と対向する部分を傾斜させ、前記吸収体駆動手段が前記インク吸収体を前記吸収位置から前記退避位置に移動させることにより、前記インク吸収体によって押し出されていた前記搬送ベルトを前記液滴噴射面に密着させ、前記液滴噴射面をキャッピングすることを特徴とするものである。
【0025】
本発明では、フラッシング後にインクジェットヘッドの位置をキャッピング位置にすることで、吸収位置にあるインク吸収体によって搬送ベルトを傾斜させて、搬送ベルトに付着したインクをインク吸収体により回収できる。このインク回収後に、インク吸収体を吸収位置から退避位置に戻すだけで、インク吸収体によって押し出されていた搬送ベルトが元に戻り、液滴噴射面に密着してキャッピング状態となる。従って、インク吸収体によるインクの回収後に、すぐに液滴噴射面をキャッピングすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、インクジェットヘッドにインク吸収体が搭載されているため、搬送ベルトに付着したインクをインク吸収体で速やかに回収できる。また、インクジェットヘッドとは別の位置に、インク吸収体を配置するためのスペースを確保する必要がないため、プリンタが大型化することがない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタを概略的に示す上面図である。
【図2】記録動作時のインクジェットプリンタの記録部を含む主要部の側面図である。
【図3】キャッピング時のインクジェットプリンタの主要部の側面図である。
【図4】搬送ベルトの一部拡大平面図である。
【図5】搬送ベルトのインク受け部分の断面図であり、(a)は図4のA−A線断面図、(b)は図4のB−B線断面図である。
【図6】インク吸収体が取り付けられた、インクジェットヘッドの側面部の拡大図である。
【図7】プリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図8】フラッシング時におけるプリンタの動作説明図である。
【図9】変更形態に係る、搬送ベルトの張力調整手段を有するインクジェットプリンタの側面図である。
【図10】別の変更形態のプリンタの、インクジェットヘッドの周辺部分の拡大図である。
【図11】さらに別の変更形態の、フラッシング時におけるプリンタの動作説明図である。
【図12】さらに別の変更形態の、フラッシング時におけるプリンタの動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施形態について説明する。図1は本実施形態に係るインクジェットプリンタの構成を概略的に示す上面図、図2は、図1のインクジェットプリンタの記録部を含む主要部の側面図である。図1、図2に示すように、インクジェットプリンタ1(以下、単にプリンタ1という)は、被記録媒体である記録用紙100に画像等を記録する記録部2と、プリンタ1の各部の制御を行う制御装置4等を備えている。また、記録部2は、インクを噴射するインクジェットヘッド10と、このインクジェットヘッド10に対して被記録媒体である記録用紙100を搬送する搬送ユニット11を有する。
【0029】
図1に示すように、インクジェットヘッド10は、水平面に沿った所定方向(主走査方向)に沿って配列された複数のノズル13を有する。また、複数のノズル13は、主走査方向に直交する(副走査方向)に並ぶ4列のノズル列14を構成し、これらノズル列14の長さは記録用紙100の幅とほぼ同じである。また、インクジェットヘッド10は、前記複数のノズル13が開口した液滴噴射面10aを有し、この液滴噴射面10aが下を向いた姿勢で筐体6に固定されている。即ち、インクジェットヘッド10は、記録用紙100に対向する所定の記録位置に固定された状態で、搬送ユニット11によって搬送される記録用紙100にインクを噴射する。インクジェットヘッド10は、いわゆる、固定型のラインヘッドである。また、このインクジェットヘッド10には、搬送ベルト18に付着したインクを回収するインク吸収体24が搭載されている。このインク吸収体24は、インクジェットヘッド10に対して上下方向に移動可能である。インク吸収体24については後ほど詳細に説明する。
【0030】
筐体6には、カートリッジホルダ5が設けられており、このカートリッジホルダ5には、4色(ブラック(K)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M))のインクをそれぞれ貯留するインクカートリッジ15が取り外し可能に装着される。また、カートリッジホルダ5に装着された4つのインクカートリッジ15から、4本のチューブ12を介してインクジェットヘッド10に供給される。そして、インクジェットヘッド10の4列のノズル列14(14K,14Y,14C,14M)が、次述の搬送ユニット11によって搬送される記録用紙100に対して、上記4色のインクをそれぞれ噴射して、記録用紙100に所望の画像等を記録するようになっている。
【0031】
また、一方で、インクジェットヘッド10は、ノズル13の乾燥防止や異物除去の目的で、記録動作とは別に、ノズル13からインクを噴射する、いわゆるフラッシングを行う。このフラッシングは、インクジェットヘッド10の待機状態(キャッピング状態:図3参照)から記録動作を開始する前のタイミングや、記録用紙100への記録が終了して待機状態に移行する前のタイミングで行う。また、このフラッシングの際には、インクジェットヘッド10は、液滴噴射面10aに対向して配置される搬送ベルト18に向けて、複数のノズルからそれぞれインクを噴射する。
【0032】
図2に示すように、搬送ユニット11はインクジェットヘッド10の下側に配置されている。この搬送ユニット11は、ベース部材22と、2つのプーリ16,17と、搬送ベルト18と、搬送モータ19を有する。尚、図2の側面図では、搬送ベルト18については断面で示している。
【0033】
ベース部材22は、このベース部材22に取り付けられたプーリ16,17、搬送ベルト18、搬送モータ19等の、搬送ユニット11の構成部品とともに、一体的に上下方向に移動可能に構成されている。即ち、搬送ユニット11全体が、インクジェットヘッド10に対して離接する方向に移動可能となっている。尚、ベース部材22の下側には、このベース部材22を上下に駆動する、モータ等の駆動源と適宜の動力伝達機構を備えた搬送ユニット駆動部23が配置されている。
【0034】
2つのプーリ16,17は、副走査方向に関してインクジェットヘッド10を挟むように距離をあけて、ベース部材22にそれぞれ取り付けられている。搬送ベルト18は、ゴム等の可撓性材料によって形成された無端ベルトであり、2つのプーリ16,17に架け渡されている。また、搬送ベルト18の上部18eは、インクジェットヘッド10の液滴噴射面10aとわずかな隙間を空けて対向している。水平面に沿った搬送ベルト18の上部18eには、図示しない給紙機構から供給された記録用紙100が載置される。そして、搬送モータ19により、図2の矢印方向に2つのプーリ16,17がそれぞれ回転駆動されるとそれに伴って搬送ベルト18が走行し、搬送ベルト18に載置された記録用紙100が、副走査方向と平行な方向(搬送方向)に搬送される。尚、図1に示すように、搬送ベルト18の幅W1は、インクジェットヘッド10の幅W2(搬送ベルト18の幅方向と平行な、主走査方向の長さ)よりも大きくなっている。
【0035】
図3は、キャッピング状態のインクジェットプリンタ1の側面図である。この図3に示すように、搬送ユニット11が上方に移動することによって、搬送ベルト18はインクジェットヘッド10の液滴噴射面10aに密着可能である。即ち、搬送ユニット駆動部23によって搬送ユニット11が上下方向に駆動されることにより、搬送ベルト18の位置(インクジェットヘッド10の搬送ベルト18に対する相対位置)が、液滴噴射面10aが搬送ベルト18に密着可能なキャッピング位置(図3)と、キャッピング位置よりも搬送ベルト18から離れたアンキャッピング位置(図2)との間で切り換えられる。上記の搬送ユニット駆動部23が、本発明の位置切換手段に相当する。尚、上記とは逆に、インクジェットヘッド10を上下に可動に構成し、位置が固定された搬送ユニット11に対してインクジェットヘッド10を上下方向に移動させることにより、インクジェットヘッド10の搬送ベルト18に対する位置が切り換えられてもよい。
【0036】
図2に示すように、搬送方向上流側に位置するプーリ16には、このプーリ16の回転角度及び回転数を検出するエンコーダ20が装着されている。そして、このエンコーダ20の検出信号に基づいて、制御装置4は、搬送ベルト18上の記録用紙100の位置を把握し、搬送モータ19による記録用紙100の搬送を制御する。
【0037】
図4は、搬送ベルト18の一部拡大平面図である。図4に示すように、搬送ベルト18には、多数の吸着孔18aが形成されている。これらの吸着孔18aは、負圧源であるポンプや縁切り用のバルブ等で構成される用紙吸引装置39(図7参照)と接続されている。そして、用紙吸引装置39で発生した負圧を、複数の吸着孔18aの位置において記録用紙100に作用させることで、搬送中に落下しないように記録用紙100が搬送ベルト18に吸着保持される。
【0038】
また、搬送ベルト18には、フラッシング時にインクジェットヘッド10のノズル13から噴射されたインクを受けるインク受け部分21を有する。図5は搬送ベルト18のインク受け部分21の断面図であり、(a)は図4のA−A線断面図、(b)は図4のB−B線断面図である。図4、図5に示すように、インク受け部分21には吸着孔18aが形成されておらず、フラッシング時に噴射されたインクが吸着孔18aから漏れ落ちることがない。また、図1に示すように、搬送ベルト18の幅W1は、インクジェットヘッド10の幅W2よりも大きい。また、図5(a)に示すように、インク受け部分21の幅方向(主走査方向)両端部には、上方(液滴噴射面10a側)に突出した壁部18bがそれぞれ一体成形によって形成されている。これらの構成から、インク受け部分21の縁からインクが漏れ落ちることが確実に防止される。尚、図4、図5では、壁部18bは、インク受け部分21の縁部に形成されているが、インクジェットヘッド10の液滴噴射面10aと干渉しない範囲内で、インク受け部分21の縁よりもやや内側の位置に壁部18bが形成されてもよい。また、壁部18bは、インク受け部分21にのみ形成されるのではなく、インク受け部分21よりも搬送方向上流側部分、及び、搬送方向下流側部分まで延びていてもよい。
【0039】
また、このインク受け部分21は、搬送ベルト18が図3のキャッピング位置にあるときに、液滴噴射面10aに密着してキャッピングする部分でもある。インク受け部分21の液滴噴射面10aとの対向面には、液滴噴射面10aより一回り小さい凹部18cが形成されている。そして、インク受け部分21は、凹部18cの周囲部分が液滴噴射面10aの外縁部(ノズル13が開口している領域よりも外側の領域)に密着することにより、液滴噴射面10aに開口する複数のノズル13を覆う。これにより、ノズル13が、搬送ベルト18(インク受け部分21)に直接接触しにくくなっている。さらに、図5(b)に示すように、凹部18cの内側には、凹部18cの底面から突出する複数のノズル保護用の凸部18dが形成され、複数の凸部18dは、インク受け部分21が液滴噴射面10aをキャッピングしたときに、液滴噴射面10aの4列のノズル列14の間に位置する。そのため、これら複数の凸部18dにより、液滴噴射面10aのノズル13が一層インク受け部分21に接触しにくくなる。このように、キャッピング時にノズル13がインク受け部分21に接触することが防止されるため、ノズル13内のメニスカスが破壊されてインクが漏れ出すことが防止される。
【0040】
尚、インク受け部分21が液滴噴射面10aに密着した、キャッピング状態における密閉性を高めるために、液滴噴射面10aの、前記インク受け部分21が接触する外縁部に、シリコンゴム等で形成されたシール部材が設けられていてもよい。
【0041】
上記の搬送ベルト18へのフラッシングによって搬送ベルト18に付着したインクは、インクジェットヘッド10に搭載されたインク吸収体24によって回収される。図6は、インク吸収体24が取り付けられた、インクジェットヘッド10の側面部の拡大図である。図2、図3、図6に示すように、インクジェットヘッド10の搬送方向下流側の側面には、多孔質材料からなるインク吸収体24と、このインク吸収体24を上下に駆動する吸収体駆動モータ25が取り付けられている。尚、モータの代わりに、エアシリンダによってインク吸収体24を上下に駆動する構成であってもよい。また、インク吸収体24の下端部は、やや丸みを帯びた形状に形成されている。
【0042】
そして、インク吸収体24は、吸収体駆動モータ25によって駆動されることにより、その下端部が液滴噴射面10aから大きく下方に突出して搬送ベルト18(インク受け部分21)に接触する吸収位置(図6(a))と、搬送ベルト18から上方に退避した退避位置(図6(b))とにわたって移動可能である。尚、退避位置にあるときには、インク吸収体24は、インクジェットヘッド10の側面に取り付けられた収容部26に収容される。
【0043】
このインク吸収体24は、搬送ベルト18のインク受け部分21にインクが付着しているときに、吸収位置に移動してその下端部が搬送ベルト18に接触した状態となる。この状態から、インク受け部分21のインクを、搬送ベルト18のインク吸収体24が接触する位置まで移動させる必要がある。本実施形態では、吸収位置のインク吸収体24によって搬送ベルト18を下方に押し出し、搬送ベルト18を傾斜させることによってインクをインク吸収体24へ導く(図8(b)参照)。このインク回収時におけるインク吸収体24の動作については後で詳しく説明する。尚、搬送ベルト18を押し出す際にインク吸収体24が曲がらないように、図6に示すように、インク吸収体24の両側面部に板部材27が取り付けられて、インク吸収体24の剛性が高められている。
【0044】
また、図1に示すように、搬送ベルト18の幅W1がインクジェットヘッド10の幅W2よりも大きい。その上で、インク吸収体24の幅W3は搬送ベルト18の幅W1とほぼ同じであって、インクジェットヘッド10の幅W2よりも大きくなっている。そのため、フラッシング時に飛び散ったり流れたりして、搬送ベルト18のインクジェットヘッド10よりも外側部分に付着したインクを、インク吸収体24によって確実に回収できるようになっている。また、インク吸収体24は図示しない廃液タンクとチューブ等を介して接続されており、搬送ベルト18から回収されたインクは廃液タンクに送られる。
【0045】
次に、プリンタ1の電気的構成について図7のブロック図を参照して説明する。図7に示されるプリンタ1の制御装置4は、例えば、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、プリンタ1の全体動作を制御する為の各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むマイクロコンピュータを備え、ROMに格納されたプログラムがCPUで実行されることにより、プリンタ1全体の動作を制御する。あるいは、制御装置4は、演算回路を含む各種回路が組み合わされたものであってもよい。
【0046】
この制御装置4(制御手段)は、外部装置であるPC50から入力されたデータに基づいて、プリンタ1の記録用紙100への記録動作を制御する記録制御部40を有する。記録制御部40は、さらに、インクジェットヘッド10を制御するヘッド制御部41と、搬送ユニット11の搬送モータ19や記録用紙100を搬送ベルト18に吸着させるための用紙吸引装置39を制御する搬送制御部42を有する。尚、記録制御部40の機能は、実際には、制御装置4を構成している上述のマイクロコンピュータの動作、あるいは、演算回路を含む各種回路の動作によって実現される。
【0047】
また、制御装置4は、他にも、インク吸収体24を駆動する吸収体駆動モータ25や、搬送ユニット11の位置を切換える搬送ユニット駆動部23等の制御も行う。
【0048】
次に、インクジェットヘッド10のフラッシング時における、インク吸収体24によるインク回収動作を含む、プリンタ1の一連の動作について説明する。図8は、フラッシング時のプリンタ1(特にインク吸収体24)の動作説明図である。
【0049】
インクジェットヘッド10がフラッシングを行う前に、まず、搬送制御部42が搬送モータ19を制御して搬送ベルト18を走行させる。そして、図8(a)に示すように、凹部18cが形成されたインク受け部分21を、液滴噴射面10aと対向した位置に移動させる。この制御は、エンコーダ20から入力された信号に基づき、搬送制御部42が、搬送ベルト18のインク受け部分21の位置を把握することによって可能となる。この状態で、吸収体駆動モータ25により、インク吸収体24を退避位置から吸収位置へ下方に進出させる。このとき、図8(a)に示すように、インク吸収体24の下端部が搬送ベルト18に接触した状態となる。
【0050】
次に、搬送ユニット駆動部23により、搬送ユニット11を上方へ駆動し、搬送ベルト18の位置をメンテナンス位置に切り換える。ここで、本来であれば、メンテナンス位置では液滴噴射面10aに搬送ベルト18のインク受け部分21が接触する。しかし、インク吸収体24が液滴噴射面10aから下方に突出して、その下端部が搬送ベルト18に接触している。そのため、図8(b)に示すように、搬送ベルト18のインク受け部分21の一部が、インク吸収体24の下端部(接触部)によって、インク吸収体24と反対側(下方)へ押し出される。これに伴い、搬送ベルト18のインク受け部分21は、水平面に対して下向きに傾斜し、且つ、滴噴射面10aから離れた状態となる。
【0051】
この状態で、インクジェットヘッド10にフラッシングを実行させると、ノズル13から噴射されたインクは、液滴噴射面10aと対向するインク受け部分21に衝突する。ここで、インク受け部分21はインク吸収体24の接触位置に向けて下向きに傾斜している。そのため、インク受け部分21に衝突したインク(符号Iで示す)はインク受け部分21の凹部18cの底面を流れ落ちてインク吸収体24に到達し、インク吸収体24に自然に回収される。従って、インク受け部分21に付着したインクを速やかに回収できる。また、搬送ベルト18を走行させてインクが付着した部分をインク吸収体24まで移動させる必要がない。
【0052】
尚、図8では、インクジェットヘッド10(液滴噴射面10a)に対してインク吸収体24と反対側(搬送方向上流側)の位置に、搬送ベルト18の液滴噴射面10aと反対側の面に当接する当接部材28が設置されている。このように、当接部材28が液滴噴射面10aと反対側から搬送ベルト18に当接することで、インク吸収体24によって押し出されたときのインク受け部分21の傾斜角度が大きくなり、インク受け部分21のインクがインク吸収体24に向けて流れ落ちやすくなる。また、インク受け部分21に付着したインクが一層流れ落ちやすくなるように、インク受け部分21(凹部18c)の底面には撥インク性を高めるコーティングが施されてもよい。例えば、フラッシング時に一部のノズル13のみインクを噴射させる場合や、記録動作の途中にフラッシングをする場合など、特に、フラッシングで噴射されるインク量が少なくインクが流れ落ちにくい場合に、上記構成は効果的である。
【0053】
フラッシングが終了した後に、図8(c)に示すように、吸収体駆動モータ25によりインク吸収体24を退避位置に移動させる。すると、インク吸収体24によって下方に押し出されていたインク受け部分21が元の水平な状態に戻ると同時に、液滴噴射面10aに密着してキャッピング状態となる。つまり、フラッシングの終了後、インク吸収体24を退避位置に戻すだけで、すぐに液滴噴射面10aをキャッピングすることができ、フラッシングした後のノズル13の乾燥を極力防止できる。
【0054】
また、上記のようにインク吸収体24を介さずに、搬送ユニット11の上昇駆動によって、液滴噴射面10aに直接搬送ベルト18を密着させると、そのときの衝撃によって液滴噴射面10aに搬送ベルト18が衝突し、液滴噴射面10aが傷ついたり、ノズルのメニスカスが破壊されたりする虞がある。その点、図8(c)では、インク吸収体24によって衝撃が一旦吸収され、その後、インク吸収体24を比較的ゆっくりとした速度で退避位置に戻せば、搬送ベルト18のインク受け部分21が液滴噴射面10aに衝突する虞がない。
【0055】
また、図8(b)から(c)の状態に移行するときに、インク受け部分21は、インク吸収体24と反対側(図中右側)の部分から順に液滴噴射面10aに密着していく。従って、キャッピングの際に、液滴噴射面10aと搬送ベルト18との間に気泡が巻き込まれにくい。
【0056】
尚、図8(c)は、例えば、記録動作が終了して待機状態に入る前にフラッシングする場合など、フラッシング後にすぐにキャッピングする場合の例であるが、記録動作を開始するときのフラッシングでは、フラッシングの後にキャッピングする必要はない。この場合は、図8(b)のようにしてインクを回収した後、搬送ユニット駆動部23により搬送ユニット11を下降させて、インクジェットヘッド10の搬送ベルト18に対する位置をアンキャッピング位置にしてから、インク吸収体24を退避位置に戻す。
【0057】
また、図8の変形例として以下の動作も可能である。まず、図8(a)のアンキャッピング状態で先にフラッシングを行い、その後、図8(b)のように、キャッピング位置に切り換える。これにより、吸収位置にあるインク吸収体24によってインク受け部分21を押し出して下向きに傾斜させて、インク受け部分21に噴射されたインクをインク吸収体24で回収する。この場合でも、インク吸収体24でインクを回収した後に、図8(c)と同じようにインク吸収体24を退避位置に戻すだけで、すぐに液滴噴射面10aのキャッピングができる。但し、先に述べた、図8(b)の状態でフラッシングを行う場合と比べて、フラッシングを行うタイミングが先になることから、フラッシング終了からキャッピング完了までの時間は少し長くなる。
【0058】
また、本実施形態では、フラッシングの際には、搬送ベルト18の特定の一部分(インク受け部分21)を液滴噴射面10aと対向させ、フラッシング時にノズルから噴射されたインクをインク受け部分21で受けるようにしている。また、このインク受け部分21は、液滴噴射面10aに密着してキャッピングする部分でもある。従って、フラッシングやキャッピングによってインクが付着するのは、このインク受け部分21だけであって、搬送ベルト18の他の部分にはインクが付着しないことから、記録用紙100が汚れにくい。
【0059】
また、搬送制御部42は、記録用紙100の搬送時には、インク受け部分21には記録用紙100が載置されないように、以下のように搬送モータ19を制御する。搬送制御部42は、エンコーダ20から入力された信号に基づいて、搬送ベルト18のインク受け部分21の位置を把握している。その上で、図示しない給紙機構から記録用紙100が供給される際に、記録用紙100の供給側のプーリ16の近傍に、インク受け部分21が位置している場合には、搬送制御部42は、搬送モータ19を制御して搬送ベルト18を走行させ、インク受け部分21の位置を搬送方向下流側にずらす。このように、記録用紙100の搬送時に、インク受け部分21には記録用紙100が載置されないようにすることで、一層、記録用紙100が汚れにくくなる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態のプリンタ1においては、インクジェットヘッド10にインク吸収体24が搭載されているため、インクジェットヘッド10から噴射されて搬送ベルト18に付着したインクを速やかに回収できる。また、インク吸収体24を吸収位置に移動させて、搬送ベルト18を押し出して下向きに傾斜させるだけで、搬送ベルト18に付着したインクをインク吸収体24に導いて回収できるから、この点からもインクの回収を速やかに行える。従って、次の動作(記録動作やキャッピング等)に速やかに移行することができる。また、インクジェットヘッド10とは別の位置に、インク吸収体24を配置するためのスペースを確保する必要がないため、プリンタ1が大型化することがない。
【0061】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0062】
1]前記実施形態では、インク吸収体24を吸収位置に移動させて、その接触部により搬送ベルト18を押し出して傾斜させている。このときの搬送ベルト18の張力が高いと、搬送ベルト18が撓みにくく、傾斜角度が小さくなるために付着したインクをインク吸収体24まで到達させることが難しくなる。そこで、プリンタ1が、インク吸収体24によって搬送ベルト18を押し出す際に、搬送ベルト18の傾斜角度が大きくなるように、搬送ベルト18の張力を調整する機構(張力調整手段)を備えていてもよい。
【0063】
例えば、図9(a)では、搬送ベルト18が巻き掛けられた2つのプーリ16,17のうちの少なくとも一方のプーリ(図ではプーリ17)が、モータやエアシリンダ等からなる駆動部60により駆動される。そして、この一方のプーリが他方のプーリ(プーリ16)に対して接近/離間する方向に移動することにより、搬送ベルト18の張力を調整可能になっている。その上で、インク吸収体24を吸収位置に移動させる際には、駆動部60が、前記一方のプーリ17を他方のプーリ16に接近する方向に移動させることによって、搬送ベルト18の張力を下げる。この変更形態では、移動可能な一方のプーリ17と、このプーリ17を駆動する駆動部60が、本発明の張力調整手段を構成している。
【0064】
また、図9(b)には、搬送ベルト18の内側に設置された押圧部材61と、この押圧部材61を搬送ベルト18の内面に押しつけるバネ等の付勢部材62とを有する、張力調整手段が示されている。この形態において、インク吸収体24が退避位置から吸収位置に移動して搬送ベルト18を押し出したときには、搬送ベルト18の張力が上昇するが、その張力上昇分によって、押圧部材61が付勢部材62の付勢力に抗して搬送ベルト18によって押し返されて、上記の張力上昇分が付勢部材62で吸収される。従って、搬送ベルト18の張力が一定に保たれる。
【0065】
このように、インク吸収体24が搬送ベルト18を押し出したときに、張力調整手段によって搬送ベルト18の張力を下げる、あるいは、押し出したときの張力上昇分を吸収することで、搬送ベルト18が撓みやすくなる。従って、搬送ベルト18の傾斜角度が大きくなり、搬送ベルト18に付着したインクがインク吸収体24へ向かって流れ落ちやすくなる。
【0066】
2]前記実施形態では、搬送ベルト18のインク受け部分21に、複数色(例えば4色)のノズル列14に共通の凹部18cが形成されていたが(図5(b))、複数色のノズル列14にそれぞれ対応した複数の凹部18cが形成されていてもよい。この場合は、キャッピング時にノズル列14の間で混色が生じにくくなる。
【0067】
また、前記実施形態では、1つのインクジェットヘッド10が、複数色のノズル列14を有する構成であったが、各色毎にインクジェットヘッド10が分けられてもよい。つまり、複数色のインクをそれぞれ噴射する複数のインクジェットヘッド10が、搬送方向に並べて配置されてもよい。また、この場合、さらに、図10に示すように、インク吸収体24が、隣接する2つのインクジェットヘッド10の間に配置されていることが好ましい。
【0068】
複数のインクジェットヘッド10の並び方向の端側にインク吸収体24が配置されていると、このインク吸収体24で搬送ベルト18を押し出して傾斜させたときに、インク吸収体24と反対側の端に位置するインクジェットヘッド10からインク吸収体24までの距離が遠くなり、このインクジェットヘッド10から噴射されたインクがインク吸収体24まで到達しにくくなる。これに対して、図10のように、隣接する2つのインクジェットヘッド10の間にインク吸収体24が配置されていることで、特定のヘッド10のインク吸収体24までの距離が極端に遠くなることがないため、それぞれのヘッド10から噴射されたインクをインク吸収体24へ到達させることが可能になる。
【0069】
また、異なる種類のインクをそれぞれ噴射する2つのインクジェットヘッド10の間にインク吸収体24が配置されることで、異なる種類のインクが混ざり合うことが防止される。例えば、染料インクと顔料インクをそれぞれ噴射する2つのインクジェットヘッド10が、搬送方向に並んで配置される場合に、これら2つのインクジェットヘッド10の間にインク吸収体24が配置されることで、染料インクと顔料インクが搬送ベルト18上で混合して凝集することを防止できる。
【0070】
3]図11(a)に示すように、インクジェットヘッド10が搬送ベルト18から離れたアンキャッピング位置にある状態のままで、インク吸収体24を吸収位置に移動させることによって搬送ベルト18を押し出して傾斜させてもよい。この場合には、図11(b)に示すように、インク吸収体24を退避位置に戻したときに、搬送ベルト18が液滴噴射面10aに接触しない状態となる。従って、キャッピングを行うには、図11(c)のように、改めて、搬送ベルト18をインクジェットヘッド10に近づけるように移動させる必要がある。しかし、その一方で、記録動作直前に行うフラッシングのように、フラッシングのみ行って、その後にキャッピングを行う必要がない場合には、前記実施形態の図8とは違って、搬送ユニット11(あるいは、インクジェットヘッド10)を動かして、位置を切り換えなくてよいという利点がある。
【0071】
4]前記実施形態では、搬送ベルト18に、フラッシング時にノズル13から噴射されたインクを専ら受けるインク受け部分21が設けられ、さらに、このインク受け部分21が液滴噴射面10aをキャッピングする部分を兼ねる構成であったが、搬送ベルト18に、液滴噴射面10aをキャッピングする部分がインク受け部分21とは別に設けられてもよい。
【0072】
また、前記実施形態では、記録用紙100の搬送時に、インク受け部分21に記録用紙100が載置されないように制御されていたが、このインク受け部分21にも記録用紙100が載置されて搬送が行われてもよい。また、搬送ベルト18に特定のインク受け部分21が設けられていなくてもよい。尚、その場合、搬送ベルト18のどの部分においてもフラッシングによってインクが噴射される可能性がある。そのため、前記実施形態のように、インクのこぼれ防止のために搬送ベルト18に壁部18b(図5(a)参照)が設けられる場合は、搬送ベルト18の全長にわたって壁部18bが形成されることが好ましい。
【0073】
5]前記実施形態のように、インク吸収体24によって搬送ベルト18を傾斜させることにより、インク吸収体24へインクを移動させるのではなく、フラッシング後に搬送ベルト18を走行させることによって、搬送ベルト18に付着したインクをインク吸収体24で回収するようにしてもよい。まず、図12(a)に示すように、アンキャッピングの状態でインク吸収体24を吸収位置に移動させ、インク吸収体24の下端部を搬送ベルト18に接触させた状態でインクジェットヘッド10にフラッシングを行わせる。尚、フラッシングを行った後にインク吸収体24を吸収位置に移動させてもよい。次に、図12(b)に示すように、搬送ベルト18を走行させ、インクが付着した部分(インク受け部分21をインク吸収体24へ向けて搬送方向に移動させることにより、付着したインクをインク吸収体24で回収する。また、このインクの回収後に液滴噴射面10aのキャッピングを行う場合には、インク吸収体24を退避位置へ移動させた後、搬送ユニット11をインクジェットヘッド10に近づけてキャッピング位置に切り換えて、搬送ベルト18を液滴噴射面10aに密着させる。
【0074】
この変更形態では、インクが付着したベルト部分をインク吸収体24に対して移動させることで、インク吸収体24でインクを確実に回収できる。尚、前記実施形態と違い、インク回収のために搬送ベルト18を走行させる必要があるが、インク吸収体24は、インクジェットヘッド10に搭載されているから、搬送ベルト18のインク付着部分とインク吸収体24までの距離は短い。従って、インクが付着した部分がインク吸収体24に到達するまでにほとんど時間を要しないことから、付着したインクを速やかに回収することができる。また、インクが付着した部分がインク吸収体24に到達した後、搬送ベルト18を逆方向に走行させ、インクが付着した部分をインク吸収体24で繰り返して拭き取るようにしてもよい。また、前記実施形態と同様に、特定のインク受け部分21によって液滴噴射面10aのキャッピングを行う場合には、インク受け部分21のインクをインク吸収体24で回収した後、搬送ベルト18を走行させて、インク受け部分21を再び液滴噴射面10aと対向させる。
【0075】
6]前記実施形態及びその変更形態は、フラッシング時にノズル13から搬送ベルト18に噴射されたインクを回収する場合を例示して説明したが、フラッシング以外の要因で搬送ベルト18に付着したインクを回収する場合にも、本発明を適用可能である。このような例としては、記録用紙への記録動作中に搬送ベルト18にインクが飛び散った場合、あるいは、ノズル13の噴射性能回復のためのパージ動作時に排出されたインクが搬送ベルト18に付着した場合などを挙げることができる。何れの要因であっても、搬送ベルト18の、液滴噴射面10aと対向する領域、あるいは、その周囲の領域にインクが付着する可能性が高いことから、インクジェットヘッド10に搭載されたインク吸収体24によって速やかにインクを回収することが可能である。
【0076】
7]搬送ベルト18に記録用紙100を吸着させる手段としては、前記実施形態のような、吸着孔18aからの吸引によるものには限られない。例えば、搬送ベルト18の表面を帯電させることにより、記録用紙100との間に静電気力を発生させて吸着させる手段を採用することもできる。
【符号の説明】
【0077】
1 インクジェットプリンタ
10 インクジェットヘッド
10a 液滴噴射面
13 ノズル
18 搬送ベルト
18a 吸着孔
18b 壁部
18c 凹部
18d 凸部
19 搬送モータ
21 インク受け部分
23 搬送ユニット駆動部
24 インク吸収体
25 吸収体駆動モータ
28 当接部材
42 搬送制御部
60 駆動部
61 押圧部材
62 付勢部材
100 記録用紙


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが開口する液滴噴射面を有し、前記複数のノズルから被記録媒体に向けてインクの液滴を噴射するインクジェットヘッドと、
前記液滴噴射面と対向した状態で走行し、前記被記録媒体を搬送する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトを駆動するベルト駆動手段と、
前記インクジェットヘッドに搭載されたインク吸収体と、
前記インク吸収体を、その一部が前記搬送ベルトに接触して前記搬送ベルトに付着したインクを吸収可能な吸収位置と、前記搬送ベルトから退避した退避位置とにわたって移動させる吸収体駆動手段と、
を備えていることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記インク吸収体は、前記吸収位置にあるときに、前記搬送ベルトとの接触部によって前記搬送ベルトを前記液滴噴射面と反対側へ押し出し、前記搬送ベルトの前記液滴噴射面と対向する部分を水平面に対して下向きに傾斜させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記インクジェットヘッドは、前記搬送ベルトが前記液滴噴射面と対向する状態で、前記ノズルから前記搬送ベルトに直接インクを噴射してフラッシングをするものであり、
前記インクジェットヘッドと前記搬送ベルトは、互いに離接する方向に相対移動可能に構成され、
前記インクジェットヘッドの前記搬送ベルトに対する位置を、前記液滴噴射面が前記搬送ベルトに密着可能なキャッピング位置と、前記キャッピング位置よりも前記搬送ベルトから離れたアンキャッピング位置との間で切り換える、位置切換手段をさらに備え、
前記インクジェットヘッドが前記キャッピング位置にあり、且つ、前記吸収位置にある前記インク吸収体の前記接触部によって前記搬送ベルトが押し出されて前記液滴噴射面から離れた状態で、前記インクジェットヘッドが前記フラッシングを行い、
前記フラッシングが終了した後に、前記吸収体駆動手段が前記インク吸収体を前記吸収位置から前記退避位置に移動させることにより、前記インク吸収体によって押し出されていた前記搬送ベルトを前記液滴噴射面に密着させ、前記液滴噴射面をキャッピングすることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記インク吸収体と前記インクジェットヘッドの前記液滴噴射面とが、前記搬送方向に並んで配置され、
前記搬送方向において前記液滴噴射面に対して前記インク吸収体と反対側の位置に配置され、前記搬送ベルトの前記液滴噴射面と反対側の面に当接する当接部材を有することを特徴とする請求項2又は3に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記搬送ベルトの張力を調整する張力調整手段をさらに備え、
前記インク吸収体が前記吸収位置に移動して前記搬送ベルトを押し出す際に、前記張力調整手段は前記搬送ベルトの張力を下げることを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記搬送ベルトの張力を調整する張力調整手段をさらに備え、
前記張力調整手段は、前記インク吸収体が前記吸収位置に移動して前記搬送ベルトを押し出したときの前記搬送ベルトの張力上昇分を吸収して、前記搬送ベルトの張力が一定になるように調整することを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
少なくとも2つの前記インクジェットヘッドが前記被記録媒体の搬送方向に並んで配置され、
前記インク吸収体は、前記2つのインクジェットヘッドの間に配置されていることを特徴とする請求項2〜6の何れかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記インク吸収体が前記吸収位置にある状態で、前記ベルト駆動手段により前記搬送ベルトを走行させ、前記搬送ベルトのインクが付着した部分を前記インク吸収体へ向けて移動させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項9】
前記搬送ベルトの特定の一部分が、前記フラッシングによって噴射されたインクを受ける、インク受け部分であることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項10】
前記搬送ベルトには、搬送する前記被記録媒体を前記搬送ベルトに吸着させるための複数の吸着孔が形成されており、
前記インク受け部分には、前記吸着孔が形成されていないことを特徴とする請求項9に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項11】
前記インク受け部分は、前記液滴噴射面側の面において前記搬送ベルトの他の以外の部分よりも凹んだ凹部を有し、
前記凹部の内側に、前記インク受け部分が前記液滴噴射面をキャッピングしたときに、前記液滴噴射面のノズルの開口に前記インク受け部分が接触するのを防止する、凸部が形成されていることを特徴とする請求項9又は10に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項12】
前記インクジェットヘッドは、前記搬送ベルトが前記液滴噴射面と対向する状態で、前記ノズルから前記搬送ベルトに直接インクを噴射してフラッシングをするものであり、
前記インクジェットヘッドと前記搬送ベルトは、互いに離接する方向に相対移動可能に構成され、
前記インクジェットヘッドの前記搬送ベルトに対する位置を、前記液滴噴射面が前記搬送ベルトに密着可能なキャッピング位置と、前記キャッピング位置よりも前記搬送ベルトから離れたアンキャッピング位置との間で切り換える、位置切換手段をさらに備え、
前記インクジェットヘッドは、前記アンキャッピング位置にある状態で前記フラッシングを行い、
前記フラッシングが終了した後に、前記位置切換手段が前記インクジェットヘッドの前記搬送ベルトに対する位置を前記キャッピング位置に切り換え、前記吸収位置にある前記インク吸収体の前記接触部によって前記搬送ベルトを押し出して前記搬送ベルトの前記液滴噴射面と対向する部分を傾斜させ、
前記吸収体駆動手段が前記インク吸収体を前記吸収位置から前記退避位置に移動させることにより、前記インク吸収体によって押し出されていた前記搬送ベルトを前記液滴噴射面に密着させ、前記液滴噴射面をキャッピングすることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−75467(P2013−75467A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217726(P2011−217726)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】