説明

インクジェットヘッドおよびその製造方法と、インクジェット描画装置

【課題】圧電特性の大幅な低下を回避しながら、圧電体15aを連続動作させた場合でも、圧電体15aの膜剥がれや絶縁破壊を抑え、高歩留り、低コスト化を図る。
【解決手段】インクジェットヘッド1のヘッド基板10と配線基板20とは、接着樹脂層30を介して接着される。ヘッド基板10は、インクを収容する圧力室13aと、振動板14と、圧電素子15とを備えている。振動板14は、圧力室13aを配線基板20側から覆うように設けられて、振動によって圧力室13a内のインクを外部に吐出させる。圧電素子15は、振動板14に対して配線基板20側に設けられ、振動板14を振動させるものであり、少なくとも圧力室13aの上方に位置する圧電体15aを有している。接着樹脂層30は、圧電体15aの少なくともエッジを覆い、かつ、圧電素子15の一部が圧力室13aの上方で配線基板20側に露出する開口部30aを有して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力室からインクを吐出させるインクジェットヘッドおよびその製造方法と、上記のインクジェットヘッドによって被記録材に対して描画を行うインクジェット描画装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の微細なノズルからインクを吐出して各種記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドにおいては、より高精度、高精細な画像形成を実現するために、ノズルのより一層の高密度配置が求められている。
【0003】
インクジェットヘッドには、インクの共通流路がノズル列ごとに設けられているほか、インクに吐出圧力を付与するための圧力室や、共通流路から圧力室へインクを供給するための個別流路が、複数のノズルに対して個別に設けられている。そのため、これら共通流路、圧力室および個別流路を、ノズルの配列方向(例えば水平方向)に並設してしまうと、複数のノズルを高密度に配置することが困難となる。
【0004】
そこで、従来から、インクジェットヘッド本体を積層体とする、つまり、ノズルの上方に圧力室を設け、その圧力室の上方に、共通流路に代わる共通インク室を設ける積層構造とすることにより、ノズルの間隔が配列方向に広がるのを抑えてノズルの高密度配置を可能にしたインクジェットヘッドが提案されている(例えば特許文献1参照)。このインクジェットヘッドでは、積層体中の各圧力室の上壁を薄板状に形成して振動板とし、この振動板の上面に各圧力室に対応するように圧電素子を積層している。
【0005】
このように積層体を有するインクジェットヘッドでは、各圧電素子に給電するための各配線も高密度に形成する必要がある。しかし、各圧電素子が設置されている基板(ヘッド基板)上には、圧電素子そのもののほかに、各圧力室にインク供給を行うための流路がすでに配置されているため、配線を引きまわすだけの面積的な余裕はない。
【0006】
このため、特許文献1では、各圧電素子に給電するための各配線が形成された配線基板(インターポーザ)を別途形成し、これをヘッド基板に対して各圧電素子の上方から積層して、各圧電素子に形成されている電極(上部電極)と各配線とを電気的に接続することにより、配線の高密度化を図っている。しかも、配線基板とヘッド基板との間に、感光性樹脂からなるリブ隔壁を圧電素子の周囲を取り囲むように立設することで、配線基板と圧電素子との間に所定の空間を形成して、配線基板が圧電素子の機械的変位を阻害しないようにしている。また、配線基板側の配線にヘッド基板側に向けて突出するバンプを形成することで、バンプを介して、配線基板側の配線とヘッド基板側の圧電素子の電極との間の電気的接続を図っている。
【0007】
また、圧電素子は、大気中の湿気に弱く、水分によって劣化しやすい。このため、連続駆動時に、圧電体の膜剥がれや絶縁破壊などが発生しやすい。この点、特許文献1では、圧電素子の表面に低透水性絶縁膜(SiOx)を保護膜として形成することにより、水分が圧電素子の内部に侵入して信頼性不良(圧電体としてのPZT膜内の酸素の還元による圧電特性の劣化)が生じるのを防止している。なお、SiOxは、CVD法(Chemical Vapor Deposition)による成膜、レジストのフッ酸エッチングによるパターニング、酸素プラズマによるレジスト剥離等の処理を経て形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−264322号公報(請求項1、段落〔0043〕、〔0060〕、図4−1等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1の構成では、圧電素子の表面全体を保護膜で覆っているため、圧力室上方に位置する圧電体の駆動が大きく阻害され、圧電体の圧電特性が大幅に低下する。また、CVD法による保護膜の成膜や、酸素プラズマによるレジスト剥離においては、真空プロセスが必要となるが、このような真空プロセスでは、電圧印加時にチャンバ内の電子やイオンが圧電素子の表面に衝突したり、圧電素子の表面に電荷がチャージされることによって、繊細な圧電素子にダメージが付与されるため、歩留りが低下する。さらに、保護膜の形成は、上述したように、成膜、レジストパターニング、レジスト剥離の複数の工程を経て行われるため、インクジェットヘッド全体の製造コストが増大する。
【0010】
なお、上記の問題は、圧電素子が形成された基板(第1の基板とする)に対して、その上方に別の基板(第2の基板とする)を配置して、これらの基板を接着樹脂層を介して接着する構成であれば同様に起こり得る。つまり、第2の基板が、圧電素子に給電するための配線を有する配線基板ではなく、例えば第2の基板側に設けられたインク室から第1の基板の圧力室にインクを供給するためのインク供給路が形成された基板であったり、配線やインク供給路を有さない単なる基板(この場合、配線やインク供給路は第1の基板側に形成されている)であっても、上記の問題は起こり得る。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、圧電素子の一部を保護することで、圧電特性の大幅な低下を回避しながら、圧電体を連続動作させた場合でも、圧電体の膜剥がれや絶縁破壊を抑えることができ、しかも、高歩留り、低コスト化を図ることができるインクジェットヘッドと、上記インクジェットヘッドを備えたインクジェット描画装置と、上記インクジェットヘッドの製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のインクジェットヘッドは、第1の基板と、該第1の基板を保護するための第2の基板とが、接着樹脂層を介して接着されてなり、前記第1の基板が、インクを収容する圧力室と、前記圧力室を前記第2の基板側から覆うように設けられ、振動によって前記圧力室内のインクを外部に吐出させるための振動板と、前記振動板に対して前記第2の基板側に設けられ、前記振動板を振動させる圧電素子とを備えたインクジェットヘッドであって、前記圧電素子は、少なくとも前記圧力室の上方に位置する圧電体を有しており、前記接着樹脂層は、前記圧電体の少なくともエッジを覆い、かつ、前記圧電素子の一部が前記圧力室の上方で前記第2の基板側に露出する開口部を有して形成されていることを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、第1の基板と第2の基板とを接着する接着樹脂層が圧電体のエッジを少なくとも覆っていることにより、圧電体のエッジが大気中の水分と反応して劣化するのを抑えることができる。これにより、圧力室内のインクを振動板によって外部に吐出させるべく、圧電素子を連続駆動させた場合でも、圧電体の膜剥がれや絶縁破壊を抑えることができる。
【0014】
また、接着樹脂層は、圧電素子の一部が圧力室の上方で第2の基板側に露出する開口部を有しているので、圧電素子において、開口部で露出している部分については、接着樹脂層によってその駆動が阻害されることはない。これにより、圧電体の圧電特性が大幅に低下するのを抑えることができる。
【0015】
さらに、接着樹脂層を用いて圧電素子を保護する構成とすることにより、例えば接着樹脂層の加熱、硬化によって、圧電素子を保護することが可能となり、従来のような圧電素子を保護するための薄膜を形成する真空プロセスは不要となる。したがって、圧電素子形成後に、真空プロセスによって繊細な圧電素子にダメージが付与されるという事態はなくなり、製造工程も簡略化される。その結果、インクジェットヘッドを製造するにあたり、高歩留り、低コストを実現することができる。
【0016】
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記第1の基板は、前記圧力室からのインクの吐出口となるノズルをさらに備えているとともに、前記圧力室を複数備えており、前記圧電体および前記ノズルは、各圧力室のそれぞれに対応して設けられていてもよい。
【0017】
この場合、各圧力室および各ノズルを1次元的または2次元的に配置したインクジェットヘッドにおいて、各圧力室ごとに、対応する圧電体によってインクの吐出を制御することができる。
【0018】
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記第2の基板は、前記圧電素子に給電するための配線を有していてもよい。
【0019】
この場合、圧電素子に給電するための配線を第1の基板に設けなくても済むため、第1の基板にて、複数の圧力室を高密度で配置するとともに、各圧力室に対応して、圧電体およびノズルを高密度で配置することが可能となる。その結果、高精細な画像形成を行うインクジェットヘッドを実現することができる。
【0020】
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記第2の基板は、(インクを貯留する)インク室から前記圧力室に供給されるインクの流路となるインク供給路を有していてもよい。
【0021】
この場合、インク供給路を第1の基板に設けなくても済むため、第1の基板にて、複数の圧力室を高密度で配置するとともに、各圧力室に対応して、圧電体およびノズルを高密度で配置することが可能となる。その結果、高精細な画像形成を行うインクジェットヘッドを実現することができる。
【0022】
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記圧電素子は、前記圧電体に対して前記第2の基板とは反対側に位置する下部電極と、前記圧電体に対して前記第2の基板側に位置し、かつ、前記圧電体の形成領域よりも内側に形成される上部電極とを有しており、前記接着樹脂層は、前記圧電体のエッジと前記上部電極のエッジとを両方とも覆うように設けられていることが望ましい。
【0023】
この構成では、圧電体における上部電極が存在しない領域において、周囲の湿気との反応による圧電体の劣化を確実に抑えることができ、圧電体の絶縁破壊による上部電極と下部電極との間でのリーク電流の発生を確実に抑えることができる。
【0024】
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記開口部の内部の空間は、前記第1の基板と前記第2の基板との間で、周囲の前記接着樹脂層によって密閉されていることが望ましい。
【0025】
この場合、上記の密閉空間に、水分を含まない気体(例えば不活性ガス)を封入して閉じ込めることができる。これにより、接着樹脂層による圧電体のエッジの保護とも相まって、圧電体のエッジの水分による劣化を確実に抑えることができる。
【0026】
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記空間内に、不活性ガスまたは乾燥空気が充填されていることが望ましい。
【0027】
不活性ガスは、水分(水蒸気)を含んでいないため、圧電体が上記水分との反応によって劣化するということはない。また、乾燥空気は、空気中の水蒸気量(水蒸気圧)を著しく低下させたものであるため、圧電体が周囲の水分との反応によって劣化するのを抑えることができる。
【0028】
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記圧電素子は、前記圧電体に対して前記第2の基板とは反対側に位置する下部電極と、前記圧電体に対して前記第2の基板側に位置する上部電極とを有しており、前記第1の基板は、前記圧電素子の前記上部電極と電気的に接続されて前記第2の基板側に突出する第1のバンプをさらに有しており、前記第2の基板は、前記配線と電気的に接続されて前記第1の基板側に突出するとともに、前記第1のバンプと電気的に接続される第2のバンプをさらに有しており、前記第1のバンプおよび前記第2のバンプは、前記第1の基板と前記第2の基板との間で、前記接着樹脂層によって囲まれて密閉された空間内に位置していることが望ましい。
【0029】
この場合、第1のバンプおよび第2のバンプが密閉される空間に、水分を含まない気体(例えば不活性ガス)を封入して閉じ込めることができる。これにより、第1のバンプ、第2のバンプおよびこれらの接続部の水分との反応による劣化を抑えることができ、第2の基板から第1の基板への給電によって圧電体を連続動作させても、第1のバンプと第2のバンプとの接続部で接点不良が発生するのを抑えて、電気的接続の信頼性を向上させることができる。
【0030】
本発明のインクジェットヘッドにおいて、前記空間内に、不活性ガスまたは乾燥空気が充填されていることが望ましい。
【0031】
不活性ガスは、水分(水蒸気)を含んでいないため、第1のバンプ、第2のバンプおよびこれらの接続部が上記水分との反応によって劣化するということはない。また、乾燥空気は、空気中の水蒸気量(水蒸気圧)を著しく低下させたものであるため、上記の接続部が周囲の水分との反応によって劣化するのを抑えることができる。
【0032】
本発明のインクジェット描画装置は、上述した本発明のインクジェットヘッドと、被記録材が載置されるステージとを備え、前記インクジェットヘッドから吐出されるインクにより、前記ステージ上の前記被記録材に対して描画を行うことを特徴としている。
【0033】
この場合、被記録材に対して描画を行うインクジェット描画装置として、信頼性の高い(圧電体の膜剥がれや絶縁破壊が生じにくい)装置を実現することができる。
【0034】
本発明のインクジェットヘッドの製造方法は、インクを収容する圧力室と、振動によって前記圧力室内のインクを外部に吐出させるための振動板と、少なくとも前記圧力室の上方に位置する圧電体を含み、前記振動板を振動させる圧電素子とを備えた第1の基板と、前記第1の基板を保護するための第2の基板とを、接着樹脂層を介して接着する接着工程を有し、前記接着工程では、前記接着樹脂層が、前記圧電体の少なくともエッジを覆い、かつ、前記圧電素子の一部が前記圧力室の上方で前記第2の基板側に露出する開口部を有するように、前記接着樹脂層をパターニング形成した後、前記第1の基板と前記第2の基板とを前記接着樹脂層を介して接着することを特徴としている。
【0035】
この場合、上述した本発明のインクジェットヘッドの構成による効果と同様の効果を得ることができる。
【0036】
本発明のインクジェットヘッドの製造方法において、前記接着工程では、前記第2の基板側に前記接着樹脂層をパターニング形成した後、前記第1の基板と前記第2の基板とを前記接着樹脂層を介して接着することが望ましい。
【0037】
例えば、第1の基板側に接着樹脂層をパターニング形成する手法では、そのパターニング形成の際に、第1の基板の圧電素子を損傷させて圧電特性を低下させる可能性が高くなる。しかし、第2の基板側に接着樹脂層をパターニング形成して、第1の基板と第2の基板とを接着樹脂層を介して接着することにより、接着樹脂層の形成による圧電素子の損傷を回避することができ、これによる圧電特性の低下を回避することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、第1の基板と第2の基板とを接着する接着樹脂層を圧電素子の保護に利用することにより、真空プロセスを用いずに(省プロセスで)圧電素子を保護する構成を実現することができ、高歩留り、低コストを実現できるとともに、信頼性の高い(連続駆動時に圧電体の膜剥がれや絶縁破壊が生じにくく)、圧電体の圧電特性に優れたインクジェットヘッドを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の一形態に係るインクジェットヘッドの概略の構成を示す断面図である。
【図2】上記インクジェットヘッドの主要部を拡大して示す断面図である。
【図3】上記インクジェットヘッドの接着樹脂層がない状態での圧電体および上部電極の平面図である。
【図4】(a)および(b)は、上記インクジェットヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】上記接着樹脂層のパターニング形状の一例を示す平面図である。
【図6】上記接着樹脂層のパターニング形状の他の例を示す平面図である。
【図7】上記インクジェットヘッドを搭載したインクジェット描画装置の概略の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0041】
(インクジェットヘッドについて)
図1は、本実施形態のインクジェットヘッド1の概略の構成を示す断面図であり、図2は、インクジェットヘッド1の主要部を拡大して示す断面図である。インクジェットヘッド1は、ヘッド基板10(第1の基板)と配線基板20(第2の基板)とを接着樹脂層30を介して接着し、これらを一体化して形成されている。配線基板20の上面には、インクが貯留される共通インク室41を構成する箱型形状のマニホールド40が設けられている。
【0042】
(ヘッド基板について)
ヘッド基板10は、下層側から、Si(シリコン)基板によって形成されたノズルプレート11と、ガラス基板によって形成された中間プレート12と、SOI(Silicon on Insulator)基板の支持層のSiによって形成された圧力室プレート13と、SOI基板の活性層のSiおよびSiOによって形成された振動板14と、圧電素子15と有している。ノズルプレート11の下面には、後述する圧力室13a内のインクの吐出孔となるノズル11aが開口している。
【0043】
圧力室プレート13には、吐出のためのインクを収容する圧力室13aが複数形成されている。上記したノズル11aおよび圧電素子15(特に後述する圧電体15a)は、複数の圧力室13aのそれぞれに対応して設けられている。圧力室プレート13の上壁は、振動板14によって構成されており、下壁は中間プレート12によって構成されている。中間プレート12には、圧力室13aの内部とノズル11aとを連通する連通路12aが貫通形成されている。振動板14は、圧力室13aを配線基板20側から覆うように設けられ、振動によって圧力室13a内のインクをノズル11aを介して外部に吐出させる。
【0044】
圧電素子15は、振動板14に対して配線基板20側に設けられて振動板14を振動させるアクチュエータである。この圧電素子15は、アクチュエータ本体としての薄膜PZT(Pb(Zr,Ti)O)からなる圧電体15aを上部電極15bと下部電極15cとで挟持して構成されている。つまり、圧電素子15は、圧電体15aと、圧電体15aに対して配線基板20とは反対側に位置する下部電極15cと、圧電体15aに対して配線基板20側に位置する上部電極15bとをこの順で積層して構成されている。
【0045】
下部電極15cは、振動板14の表面に形成されており、この下部電極15c上に、圧力室13aと1対1に対応するように個別に圧電体15aとその上面の上部電極15bとが積層されている。圧電体15aは、少なくとも圧力室13aの上方(配線基板20側)に位置しており、本実施形態では、圧力室13aの上方から圧力室13aの側壁上方にわたって(圧力室13aとその側壁との境界をまたぐように)下部電極15c上に設けられている。上部電極15b上には、融点が1063℃の金スタッドバンプ16(第1のバンプ)が、配線基板20に向けて突出形成されている。金スタッドバンプ16は、上部電極15bと電気的に接続されている。
【0046】
図3は、接着樹脂層30がない状態での圧電体15aおよび上部電極15bの配線基板20側からの平面図である。このように、上部電極15bは、圧電体15a上で、圧電体15aの形成領域の内側に形成されている。この結果、圧電体15aは、上部電極15bから周囲(エッジ)がはみ出る形状となっている。また、同図における領域Dは、圧電素子15が主に駆動される領域を示しており、圧力室13aは、ノズル11aの形成領域を含んで領域Dよりも一回り大きい形状で形成されている。
【0047】
(配線基板について)
配線基板20は、Si基板からなる基板本体21の上面に、SiOからなる配線保護層22を介して形成される上部配線23を有している。この上部配線23は、配線基板20の端部において、駆動IC24が実装されたFPC(フレキシブルプリント回路基板)25とACF(異方性導電フィルム)によって電気的に接続されている。上部配線23は、SiOからなる配線保護層26で覆われている。
【0048】
また、上部配線23の一部は、基板本体21に形成された貫通孔21aを介して基板本体21の下面に臨んでおり、該基板本体21の下面にSiOからなる配線保護層22を介して形成された下部配線27と導通している。下部配線27上には、SiOからなる配線保護層28が形成されているが、圧電素子15と面する位置に形成された開口部28aを介して、下部配線27の一部が露出している。開口部28aの位置で露出した下部配線27には、該下部配線27と電気的に接続されるはんだバンプ29(第2のバンプ)が、ヘッド基板10に向けて突出形成されている。はんだバンプ29と上記した金スタッドバンプ16とは、ヘッド基板10と配線基板20との間で電気的に接続されている。
【0049】
はんだバンプ29は、例えばSn−Bi系共晶はんだ(融点139℃)で構成されており、下部配線27の表面から圧電素子15に向けて半球状に盛り上がり、その先端面(下端面)は球面状となっている。
【0050】
また、配線基板20には、インク供給路21bが形成されている。インク供給路21bは、配線基板20の上面に開口しており、その開口部26aから共通インク室41内のインクを流入させて圧力室13aに供給することが可能となっている。
【0051】
(接着樹脂層について)
接着樹脂層30は、ヘッド基板10と配線基板20とを接着するための接着層である。本実施形態の接着樹脂層30は、接着前の状態では所定の弾性率(例えば0.1〜2.5GPa)を有し、接着時に所定の硬化温度(例えば200℃)に加熱されることによって硬化して接着機能を発揮する熱硬化性接着樹脂層であり、例えば熱硬化性の感光性接着樹脂シートで構成されている。このような接着樹脂層30としては、例えば東レ社製感光性ポリイミド接着シート、デュポン社製PerMXシリーズ(商品名)等を用いることができる。
【0052】
接着樹脂層30は、ヘッド基板10と配線基板20との間に、接着樹脂層30の厚み分の間隔を確保すべく、配線基板20の配線保護層28の表面(下面)に予め貼着され、その後、ヘッド基板10と接着される。接着樹脂層30は、配線基板20への貼着後でヘッド基板10との積層前に、露光、現像によって所望の形状にパターニングされる。なお、接着樹脂層30のパターニング形状の詳細については後述する。接着樹脂層30として、上述した感光性接着樹脂シートを用いることにより、接着樹脂層30の不要部分を露光、現像処理によって容易に除去することができ、所望パターンの層形成が容易となる。
【0053】
また、接着樹脂層30には、予め上下に貫通する貫通孔32が同じく露光、現像によって形成されている。貫通孔32の一端(上端)は、上記した配線基板20のインク供給路21bと連通している。一方、貫通孔32の他端(下端)は、ヘッド基板10の振動板14に形成された開口14aと、圧力室プレート13に形成された貫通孔13bと、中間プレート12に形成された連通路12bとを介して圧力室13aと連通している。
【0054】
なお、接着樹脂層30としては、圧電体15aを湿気から保護する防湿性、およびヘッド基板10と配線基板20とを確実に接着する接着性が求められる。防湿性があり、接着性のある樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ノボラック樹脂、などを用いることができる。また、高密度に配列された圧電素子15をカバーすべく、接着樹脂層30をパターニング形成する場合の方法としては、スクリーン印刷、凸版印刷、ディスペンサー塗布、IJ(インクジェット)塗布、フォトリソ法、などを用いることができる。
【0055】
(動作について)
ヘッド基板10側の金スタッドバンプ16と、配線基板20側のはんだバンプ29とが電気的に接続されているので、配線基板20の駆動IC24からの駆動電圧(駆動信号)は、上部配線23、下部配線27、はんだバンプ29および金スタッドバンプ16を順に介して、圧電素子15の上部電極15bに供給される。このように、圧電素子15の下部電極15cに対して上部電極15bに駆動電圧が供給されると、圧電体15aが圧電効果によって変形して振動板14を振動させる。これにより、圧力室13a内のインクに対して吐出のための圧力が付与される。そして、圧力室13a内のインクが連通路12aを通ってノズル11aから微小液滴として吐出される。
【0056】
本実施形態では、ヘッド基板10が、圧力室13aを複数備え、圧電体15aおよびノズル11aが各圧力室13aのそれぞれに対応して設けられている。これにより、各圧力室13aおよび各ノズル11aを1次元的または2次元的に配置したインクジェットヘッド1において、各圧力室13aごとに、対応する圧電体15aによってインクの吐出を制御することができる。
【0057】
また、本実施形態では、配線基板20が、圧電素子15に給電するための配線(上部配線23、下部配線27)、およびインク供給路21bを有しており、これらをヘッド基板10に設けなくても済むため、ヘッド基板10にて、複数の圧力室13aを高密度で配置するとともに、各圧力室13aに対応して、圧電体15aおよびノズル11aを高密度で配置することが可能となる。その結果、高精細な画像形成を行うインクジェットヘッド1を実現することができる。なお、給電のための配線およびインク供給路21bのうちの少なくとも一方が、ヘッド基板10と対向する基板側に設けられていれば、上記の効果を得ることができる。
【0058】
(インクジェットヘッドの製造方法について)
次に、上記したインクジェットヘッド1の製造方法について説明する。図4(a)(b)は、本実施形態のインクジェットヘッド1の製造工程を示す断面図である。まず、図4(a)に示すように、ヘッド基板10と配線基板20とを各々別々に作製した後、配線基板20側に接着樹脂層30を所定の形状でパターニング形成する。なお、接着樹脂層30のパターニング形状については後述する。その後、図4(b)に示すように、接着樹脂層30の貼着面がヘッド基板10側を向くようにして、ヘッド基板10と配線基板20とを対向配置し、接着樹脂層30を所定の硬化温度に加熱して両基板を圧着する。これにより、ヘッド基板10、配線基板20および接着樹脂層30が積層、一体化されたインクジェットヘッド1が完成する。
【0059】
このように、ヘッド基板10と配線基板20との接着工程では、接着樹脂層30を所定の形状にパターニング形成した後、ヘッド基板10と配線基板20とを接着樹脂層30を介して接着する。このとき、ヘッド基板10側に接着樹脂層30をパターニング形成して配線基板20と貼り合せると、そのパターニング形成の際に、ヘッド基板10の圧電素子15を損傷させる可能性が高くなり、これが圧電特性を低下させる要因となる。しかし、本実施形態のように、配線基板20側に接着樹脂層30をパターニング形成した後、ヘッド基板10と配線基板20とを接着樹脂層30を介して接着することで、接着樹脂層30の形成時に圧電素子15を損傷させることがなくなり、圧電素子15の損傷による圧電特性の低下を回避することができる。
【0060】
(接着樹脂層のパターニング形状について)
図5は、接着樹脂層30がある状態での圧電体15aおよび上部電極15bの配線基板20側からの平面図であって、接着樹脂層30のパターニング形状の一例を示す平面図である。なお、図5において、便宜上、接着樹脂層30が覆っている部分をハッチングで示す。このように、本実施形態では、接着樹脂層30は、圧電体15aの少なくともエッジを覆い、かつ、開口部30aおよび開口部30bを有する形状となるように、パターニングされている。
【0061】
ここで、開口部30aは、圧電素子15(例えば上部電極15b)の一部を圧力室13aの上方で配線基板20側に露出させるための開口である。この開口部30aの開口領域は、図3で示した領域D(圧電素子15の主たる駆動領域)に対応している。また、開口部30bは、金スタッドバンプ16およびはんだバンプ29の収容空間を形成するための開口である。特に、本実施形態では、接着樹脂層30は、圧電体15aのエッジと上部電極15bのエッジとを両方とも覆うように設けられている。なお、接着樹脂層30は、ノズル11aを覆うように設けられていてもよいし、ノズル11aの上方を外れるように設けられていてもよい。
【0062】
ここで、圧電素子15の一部が露出する開口部30aの内部の空間S1(図2参照)は、ヘッド基板10と配線基板20との間で、周囲の接着樹脂層30によって密閉されている。そして、この密閉された空間S1内に、乾燥窒素が充填されている。また、開口部30bの内部の空間S2(図2参照)についても、ヘッド基板10と配線基板20との間で、周囲の接着樹脂層30によって密閉されており、この密閉された空間S2内に、乾燥窒素が充填されている。したがって、上記した金スタッドバンプ16およびはんだバンプ29は、接着樹脂層30によって囲まれて密閉された空間S2内に位置していることになる。なお、上記したインクジェットヘッド1の製造において、接着樹脂層30をパターニング形成した配線基板20と、ヘッド基板10との貼り付け工程を乾燥窒素雰囲気中で行うことにより、開口部30a・30bの内部の密閉された空間S1・S2に乾燥窒素をそれぞれ充填させることができる。
【0063】
本実施形態のように、接着樹脂層30が圧電体15aのエッジを覆っていることにより、圧電体15aのエッジが大気中の水分と反応して劣化するのを抑えることができる。これにより、圧力室13a内のインクを振動板14によって外部に吐出させるべく、圧電素子15を連続駆動させた場合でも、圧電体15aの膜剥がれや絶縁破壊を抑えることができる。
【0064】
また、接着樹脂層30は、圧電素子15の一部が圧力室13aの上方で配線基板20側に露出する開口部30aを有しているので、圧電素子15の開口部30aで露出している部分については、接着樹脂層30によってその駆動が阻害されることはない。これにより、圧電素子の全面を保護層で覆う従来のように圧電特性が大幅に低下するのを抑えることができる。
【0065】
さらに、接着樹脂層30の加熱、硬化により、ヘッド基板10と配線基板20との接着と同時に圧電素子15を保護することが可能となるため、従来のような圧電素子を保護する薄膜を形成するための別途の真空プロセスは不要となる。したがって、圧電素子15の形成後に、真空プロセスによって繊細な圧電素子15にダメージが付与されるという事態はなくなり、製造工程も簡略化される。その結果、インクジェットヘッド1を製造するにあたり、高歩留り、低コストを実現することができる。
【0066】
つまり、接着樹脂層30を圧電素子15の保護に利用することにより、真空プロセスを用いない省プロセスで、圧電素子15を保護する構成を実現することができ、高歩留り、低コストを実現できるとともに、連続駆動時に圧電体15aの膜剥がれや絶縁破壊が生じにくく、信頼性の高い、圧電特性に優れたインクジェットヘッド1を実現することができる。
【0067】
また、接着樹脂層30は、圧電体15aのエッジと上部電極15bのエッジとを両方とも覆うように設けられているので、圧電体15aにおける上部電極15bが存在しない領域において、周囲の湿気との反応による圧電体15aの劣化を確実に抑えることができる。その結果、圧電体15aの絶縁破壊による上部電極15bと下部電極15cとの間でのリーク電流の発生を確実に抑えることができる。
【0068】
また、開口部30aの内部の空間S1は、周囲の接着樹脂層30によって密閉されているので、本実施形態のように、乾燥窒素を空間S1内に充填して閉じ込めることができる。乾燥窒素は、水分を含まない不活性ガスであるため、この乾燥窒素が圧電体15aに水分を供給して圧電体15aを劣化させるということはない。したがって、接着樹脂層30による圧電体15aのエッジの保護とも相まって、圧電体15aのエッジの水分による劣化を確実に抑えることができる。
【0069】
また、金スタッドバンプ16およびはんだバンプ29は、周囲の接着樹脂層30によって囲まれて密閉された空間S2内に位置しているので、本実施形態のように、乾燥窒素を空間S2内に充填して閉じ込めることができる。これにより、金スタッドバンプ16、はんだバンプ29およびこれらの接続部の水分との反応による劣化を抑えることができ、配線基板20からヘッド基板10への給電によって圧電体15aを連続動作させても、金スタッドバンプ16とはんだバンプ29との接続部で接点不良が発生するのを抑えて、電気的接続の信頼性を向上させることができる。
【0070】
なお、本実施形態では、開口部30a・30bの空間S1・S2内に充填する不活性ガスとして、乾燥窒素を用いているが、例えば、アルゴン、ヘリウム、クリプトンなどの希ガスを不活性ガスとして用いてもよい。窒素や希ガスは、他の物質と反応を起こさない化学的に安定したガスであるため、圧電体15a、および金スタッドバンプ16とはんだバンプ29との接続部分が充填ガスと何らかの化学反応を起こして劣化するということがない。
【0071】
また、空間S1・S2には、不活性ガスの代わりに、乾燥空気を充填してもよい。乾燥空気とは、空気中の水蒸気量(水蒸気圧)を著しく低下させて、湿度を10%以下、望ましくは1%以下まで低下させたものである。このように、空間S1・S2に乾燥空気を充填することによっても、圧電体15aが周囲の水分との反応によって劣化するのを抑えることができ、また、金スタッドバンプ16とはんだバンプ29との接続部が周囲の水分との反応によって劣化するのを抑えることができる。
【0072】
なお、上記の乾燥空気は、例えば以下の手法(1)〜(3)によって得ることができる。
(1)湿潤空気を冷却して一旦結露させ、その後必要に応じて加熱することにより、乾燥空気を得る。
(2)湿潤空気を吸湿剤に接触させて水蒸気を吸収させることにより、乾燥空気を得る。
(3)湿潤空気を中空糸膜に通して水蒸気を分離することで、乾燥空気を得る。
【0073】
ところで、図6は、接着樹脂層30のパターニング形状の他の例を示す平面図である。同図のように、接着樹脂層30は、圧電体15aのエッジを覆い、かつ、開口部30a・30bが圧電体15aの形成領域の内側で開口部30cを介して連通するように、パターニング形成されていてもよい。この場合でも、圧電素子15(例えば上部電極15b)の一部が圧力室13aの上方で開口部30aを介して配線基板20側に露出することに変わりはなく、圧電素子15の露出部分の駆動が接着樹脂層30によって阻害されることはない。したがって、この場合でも、圧電素子の全面を保護層で覆う従来と比べて、圧電特性が大幅に低下するのを抑えることができる。
【0074】
(ヘッド基板と対向させる基板について)
本実施形態では、ヘッド基板10と配線基板20とを接着樹脂層30で接着した構成について説明したが、ヘッド基板10と接着される基板は、配線を有する基板でなくてもよい。つまり、ヘッド基板10を保護するための基板であれば、例えば配線を有さず、圧力室13aへのインク供給路21bを有する基板であってもよく(この場合はヘッド基板10側に配線が形成される)、配線もインク供給路も有さない単なる保護基板であってもよい(この場合はヘッド基板10側に配線およびインク供給路が形成される)。これらの基板を第2の基板として用い、第1の基板としてのヘッド基板10と接着樹脂層30を介して接着する構成であっても、接着樹脂層30を用いる限り、接着樹脂層30に対して上述した本実施形態のパターニング形状を適用することができ、これによって、ヘッド基板10側の圧電体15aの水分による劣化を抑えるなどの効果を得ることができる。
【0075】
(ヘッド基板についての補足)
次に、本実施形態で用いたヘッド基板10を構成する各材料の一例について説明する。なお、構成材料は、以下の材料に限定されるわけではない。
【0076】
圧電素子15は、圧電体15a(スパッタ成膜した薄膜PZT)を挟持する形で、Ti/Auをこの順で積層した上部電極15bと、酸化チタン(以下、酸化Tiと記載)/Ptをこの順で積層した下部電極15cとがスパッタ成膜され、それぞれをフォトリソ法でパターニング加工することによって形成されている。各層の膜厚は、下から(圧力室13a側から)、酸化Ti:20nm、Pt:100nm、PZT:5μm、Ti:20nm、Au:300nmである。
【0077】
酸化Tiは、その下地のSiOと上層のPtとの密着性を向上させるための膜である。酸化Tiの厚みは、5nm〜40nm程度が好ましく、薄すぎると密着性が悪くなり、また、厚すぎると、その上層のPtの結晶性が悪くなってしまう。なお、ここでは、酸化Tiを用いているが、酸化Tiの代わりにTiを用いてもよい。
【0078】
Ptは、圧電体15aに電圧を印加するための電極としての役割と、圧電体15aを構成するPZTの結晶性を向上させるための配向制御膜としての役割とを有する。電極(Pt)を厚くすると、抵抗面では好ましいが、厚くしすぎると表面の平滑性が悪くなり、その上に形成されるPZTの結晶状態が悪くなる。基板面に対してPtが<111>配向となる場合が好適であり、このとき、PZTは<100>配向となりやすい。
【0079】
PZTの厚みは、2μm〜10μm程度が好ましく、薄すぎると十分な変位量が得られず、厚すぎると膜が破損しやすくなる。PZTが<100>配向となる場合が好適であり、この場合は良好な圧電特性を示す。
【0080】
上部電極15bは、Ti/Auの層構成であり、TiはAuとPZTとの密着性を上げるための接着層としての役割がある。上部電極15bの一部に形成されるAuバンプ(金スタッドバンプ16)は、回路基板(配線基板20)との導通をとる役割がある。
【0081】
本実施形態では、SOI基板を用いて、圧電素子15の成膜およびフォトリソ法による加工を行っているが、シリコンウェハを加工してボディープレートを作成してもよい。また、圧力室プレート13と中間プレート12、中間プレート12とノズルプレート11との接合は、シリコンとガラスとの接合になるため、陽極接合によって行われる。
【0082】
(インクジェット描画装置について)
次に、上述した構成のインクジェットヘッド1を搭載したインクジェット描画装置50について説明する。
【0083】
図7は、インクジェット描画装置50の概略の構成を示す斜視図である。インクジェット描画装置50は、インクジェット描画を行うためのインクジェットヘッド1と、基台51とを備えている。基台51上には、ステージ52と、θ回転機構53と、Y移動機構54と、X移動機構55とがそれぞれ設けられている。なお、X方向とY方向とは、水平面上で互いに直交する方向とし、XY面内での回転方向をθ方向とする。また、X方向およびY方向と直交する方向をZ方向とする。
【0084】
ステージ52は、X方向に延びるX移動機構55上に、θ回転機構53を介して設けられた平面視矩形状の定盤であり、その上面は被記録材Wを載置するための水平な載置面とされ、該載置面がインクジェットヘッド1のノズル面に対して所定の高さ位置となるように配設されている。θ回転機構53は、インクジェットヘッド1のノズル面に対して平行を維持したまま、ステージ52をθ方向に回転移動させる。Y移動機構54は、ステージ52、θ回転機構53およびX移動機構55をともにY方向に直線移動させる。X移動機構55は、ステージ52およびθ回転機構53をともにX方向に直線移動させる。
【0085】
インクジェットヘッド1は、基台51上の端部近傍において、X方向に架設されたガントリ56に、スライダ57、Z移動機構58およびθ回転機構59を介して、そのノズル面が下面となるように取り付けられ、その下方に配置されるステージ52上の被記録材Wの表面と対向するように配置されている。
【0086】
上記の構成において、インクジェットヘッド1は、スライダ57がガントリ56に沿ってスライド移動することにより、X方向に往復移動し、また、Z移動機構58によって、θ回転機構59とともにZ方向に昇降移動し、さらに、θ回転機構59によって、Z方向を軸としてθ方向に回転移動する。
【0087】
一方、被記録材Wが載置されたステージ52は、X移動機構55により、θ回転機構53とともにX方向に直線移動する。また、X移動機構55は、Y移動機構54によって、θ回転機構53とともにY方向に直線移動する。さらに、ステージ52は、θ回転機構53によって、Z方向を軸としてθ方向に回転移動する。これにより、ステージ52上の被記録材Wは、X方向およびY方向に移動するとともにθ方向に回転移動する。
【0088】
このように、インクジェットヘッド1とステージ52とを相対的に移動させ、そのときの各位置情報に応じて、所定の吐出パターンデータに基づいてインクジェットヘッド1からの液滴(インク)の吐出を制御し、ステージ52上の被記録材Wの表面に着弾させることにより、被記録材Wに対して所望の描画を行うことができる。
【0089】
このように上述したインクジェットヘッド1を用いることにより、圧電体の膜剥がれや絶縁破壊が生じにくく、信頼性の高いインクジェット描画装置50を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のインクジェットヘッドは、インクジェット描画装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 インクジェットヘッド
10 ヘッド基板(第1の基板)
11a ノズル
13a 圧力室
14 振動板
15 圧電素子
15a 圧電体
15b 上部電極
15c 下部電極
16 金スタッドバンプ(第1のバンプ)
20 配線基板(第2の基板)
21b インク供給路
23 上部配線(配線)
27 下部配線(配線)
29 はんだバンプ(第2のバンプ)
30 接着樹脂層
30a 開口部
30b 開口部
41 共通インク室(インク室)
50 インクジェット描画装置
52 ステージ
S1 空間
S2 空間
W 被記録材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、該第1の基板を保護するための第2の基板とが、接着樹脂層を介して接着されてなり、
前記第1の基板が、
インクを収容する圧力室と、
前記圧力室を前記第2の基板側から覆うように設けられ、振動によって前記圧力室内のインクを外部に吐出させるための振動板と、
前記振動板に対して前記第2の基板側に設けられ、前記振動板を振動させる圧電素子とを備えたインクジェットヘッドであって、
前記圧電素子は、少なくとも前記圧力室の上方に位置する圧電体を有しており、
前記接着樹脂層は、前記圧電体の少なくともエッジを覆い、かつ、前記圧電素子の一部が前記圧力室の上方で前記第2の基板側に露出する開口部を有して形成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記第1の基板は、前記圧力室からのインクの吐出口となるノズルをさらに備えているとともに、前記圧力室を複数備えており、
前記圧電体および前記ノズルは、各圧力室のそれぞれに対応して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記第2の基板は、前記圧電素子に給電するための配線を有していることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記第2の基板は、インク室から前記圧力室に供給されるインクの流路となるインク供給路を有していることを特徴とする請求項2または3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記圧電素子は、前記圧電体に対して前記第2の基板とは反対側に位置する下部電極と、前記圧電体に対して前記第2の基板側に位置し、かつ、前記圧電体の形成領域よりも内側に形成される上部電極とを有しており、
前記接着樹脂層は、前記圧電体のエッジと前記上部電極のエッジとを両方とも覆うように設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記開口部の内部の空間は、前記第1の基板と前記第2の基板との間で、周囲の前記接着樹脂層によって密閉されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記空間内に、不活性ガスまたは乾燥空気が充填されていることを特徴とする請求項6に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記圧電素子は、前記圧電体に対して前記第2の基板とは反対側に位置する下部電極と、前記圧電体に対して前記第2の基板側に位置する上部電極とを有しており、
前記第1の基板は、前記圧電素子の前記上部電極と電気的に接続されて前記第2の基板側に突出する第1のバンプをさらに有しており、
前記第2の基板は、前記配線と電気的に接続されて前記第1の基板側に突出するとともに、前記第1のバンプと電気的に接続される第2のバンプをさらに有しており、
前記第1のバンプおよび前記第2のバンプは、前記第1の基板と前記第2の基板との間で、前記接着樹脂層によって囲まれて密閉された空間内に位置していることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記空間内に、不活性ガスまたは乾燥空気が充填されていることを特徴とする請求項8に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のインクジェットヘッドと、
被記録材が載置されるステージとを備え、
前記インクジェットヘッドから吐出されるインクにより、前記ステージ上の前記被記録材に対して描画を行うことを特徴とするインクジェット描画装置。
【請求項11】
インクを収容する圧力室と、振動によって前記圧力室内のインクを外部に吐出させるための振動板と、少なくとも前記圧力室の上方に位置する圧電体を含み、前記振動板を振動させる圧電素子とを備えた第1の基板と、
前記第1の基板を保護するための第2の基板とを、接着樹脂層を介して接着する接着工程を有し、
前記接着工程では、前記接着樹脂層が、前記圧電体の少なくともエッジを覆い、かつ、前記圧電素子の一部が前記圧力室の上方で前記第2の基板側に露出する開口部を有するように、前記接着樹脂層をパターニング形成した後、前記第1の基板と前記第2の基板とを前記接着樹脂層を介して接着することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記接着工程では、前記第2の基板側に前記接着樹脂層をパターニング形成した後、前記第1の基板と前記第2の基板とを前記接着樹脂層を介して接着することを特徴とする請求項11に記載のインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−95088(P2013−95088A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241049(P2011−241049)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】