説明

インクジェットヘッドのメンテナンス方法および機構並びに装置

【課題】インクの吐出性能を回復させノズル抜けが発生しない良好な塗布ができるインクジェットヘッドのメンテナンス方法および機構並びに装置の提供。
【解決手段】インクジェットヘッドの有するノズルをキャップで覆い、負圧を発生させて液体を吸引するメンテナンス方法において、液体の吸引終了時に、予め設定された信号波形に基づきキャップ内の負圧を大気圧に戻すことを特徴とするインクジェットヘッドのメンテナンス方法および機構並びに装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクカートリッジ装着・交換時にインクジェットヘッドにインクを充填したり、印刷不良時にインクインクジェットヘッドの塵埃、乾燥インク、気泡等を除去(以下、「メンテナンス」という場合がある。)するための方法および機構並びに装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット記録装置には、インク吐出性能を維持するためにメンテナンス機構が設けられる。従来のメンテナンス機構としては、インクジェットヘッドのノズル面をキャップにて被覆した後に、負圧吸引ポンプを作動させてインクジェットヘッドのノズル面に負圧吸引力を作用させ、インクジェットヘッド側から廃インクを回収するものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インクジェットヘッドのノズル面を覆うキャップと、このキャップのインク排出口に接続チューブを介して連通接続される負圧吸引ポンプと、この負圧吸引ポンプに連通接続され、吸引された廃インクを回収する廃インクタンクとを備える構成が開示される。
【0004】
また、特許文献2に開示されるインクジェットプリンタは、複数のノズルを有する印字ヘッドと、印字ヘッドの複数のノズルに共通の開口部及び複数の吸引口を有し、開口部をノズルの面に密着させて密閉空間を形成するキャップと、キャップの複数の吸引口を通して複数のノズルからインクを吸引する少なくとも1個の吸引ポンプと、キャップの吸引口及び吸引ポンプを接続するインク流路とを備え、印字ヘッドのノズルよりインクを噴射して媒体にドット印字を行い、電源投入時或いは必要時にノズルにキャップの開口部を密着させて吸引ポンプによって吸引する構成である。
【0005】
また、特許文献3には、吸引キャップに複数の吸引口を設け、各吸引口の連通路の各バルブの開閉動作を制御することで、インク初期導入時には全てのチャンネルにインクを適切に充填することができ、定期パージ時には気泡が溜まりやすいヘッド端部付近のチャンネルから気泡を効率良く除去することが開示される。
【特許文献1】特開平7−81089号公報
【特許文献2】特開平7−304191号公報
【特許文献3】特許第3800855号公報
【特許文献4】特開平3−274166号公報
【特許文献5】特開平5−131641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
顔料などの固形分が含まれるインクの場合、粘度が高くインク自体の流動性が悪いので、充填にかなりの時間を要するという課題やメンテナンスのために高価なインクを多量に消費しなくてはならないという課題がある。
また、キャップ内を負圧とする際に、ヘッド面とキャップの密着性が悪いと、外気が混入し充分な吸引力が得られないという課題がある。
また、メンテナンス後に、キャップ内が負圧になった状態でキャップを遊離すると、キャップ内の気圧が急激に変化し、その変化に応じてヘッドの各ノズルに充填されたインクが振動するため、その時に各ノズルから空気が巻き込まれてしまい、再び気泡がヘッド内に入ってしまうという課題がある。
【0007】
本発明は、以上の技術的課題を解決し、インクの吐出性能を回復させノズル抜けが発生しない良好な塗布ができるインクジェットヘッドのメンテナンス方法および機構並びに装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、インクジェットヘッドの有するノズルをキャップで覆い、負圧を発生させて液体を吸引するメンテナンス方法において、液体の吸引終了時に、予め設定された信号波形に基づきキャップ内の負圧を大気圧に戻すことを特徴とするインクジェットヘッドのメンテナンス方法である。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記信号波形が正弦曲線的であることを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第1または2の発明において、前記信号波形が複数の登録されたパターンから選択出力されることを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、インクジェットヘッドの有するノズルをキャップで覆い、負圧を発生させて液体を吸引するメンテナンス機構であって、インクジェットヘッドと当接してノズルを覆うキャップと、負圧をキャップに発生させる負圧発生装置と、キャップおよび負圧発生装置と連通する廃液タンクと、キャップとインクジェットヘッドを当接ないし非当接させるキャップ開閉機構と、インクジェットヘッドと連通するインク貯留部と、これらの作動を制御する制御部とを備え、前記制御部が、予め設定された信号波形に基づきキャップ内の負圧を大気圧に戻すよう負圧発生装置を制御することを特徴とするインクジェットヘッドのメンテナンス機構である。
【0012】
第5の発明は、第4の発明において、前記信号波形が正弦曲線的であることを特徴とする。
【0013】
第6の発明は、第4または5の発明において、前記信号波形を複数の登録されたパターンから選択可能とする信号選択手段を備えることを特徴とする。
【0014】
第7の発明は、第4ないし6のいずれかの発明に係るインクジェットヘッドのメンテナンス機構を有する装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、気泡を混入することなく、インクの充填を行うことができる。
また、メンテナンスに伴うインクの消費量を削減することができ、しかもメンテナンスに要する時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のメンテナンス機構は、種々のインクジェット記録に用いることができるが、以下では、インクジェットプリンタを例に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明のメンテナンス機構は、インクカートリッジ装着・交換時にインクジェットヘッド1にインクを充填したり、印刷不良時にインクインクジェットヘッド1の塵埃、乾燥インク、気泡等を除去するためのものである。インクジェットヘッド1は、延出する円筒や平面に穿った孔等により構成されるノズルを単数または複数備える。
本発明のメンテナンス機構は、液体切替手段4と、低粘性液体32を貯留する第2のタンクを備え、液体切替手段4によりインク31と低粘性液体32を切り替えてメンテナンスに伴う液体の充填を行うことができる。このため、インクジェットヘッド1内にインク31を充填する前に、先に流動性の高い低粘性液体32で充填を行い気泡の除去を行った後、インク31の充填を行うことができ、これにより、インクの消費量を削減することができるだけでなく、インク充填時間を短縮することできる。
液体切替手段4は、インクジェットヘッド1の近傍に設けるのが好ましい。液体切替手段4の入口までは両方の液が入るような構成とすることで、よりインク31の消費量を抑えることができるからである。
低粘性液体32は、低粘度・流動性が高い液体を用いることができるが、洗浄液としての機能を奏するものが好ましく、具体的には、使用するインクの固形分を取り除いた溶媒だけで構成された液体やインクを溶かす溶媒が例示される。
【0017】
一般にインクジェットプリンタに使用されるインクは、染料系または顔料系に分類できる。染料とは、キャリア媒体により分子として分散または溶媒和する着色剤である。キャリア媒体は、室温で液体または固体である。通常用いられるキャリア媒体は水または水と有機共溶媒との混合物である。水を主成分とし、これに着色剤及び目詰まり防止等の目的でグリセリン等の湿潤剤を含有したものが一般的である。キャリア媒体として水が使用される場合、一般的にそのようなインクには耐水堅牢性が低いという欠点もある。
顔料とは、キャリア媒体に不溶であるが、小粒子の形態で分散または懸濁しており、しばしば凝集および沈澱しないように分散剤の使用により安定化されている着色剤である。そのような化合物は数多く知られており、例えば、有機顔料やカーボンブラック等の顔料を界面活性剤や分散剤を用いて微粒子化し、水等の媒体中に分散させることで着色剤として用いる顔料インクなどがある。
本発明のメンテナンス機構は、染料系または顔料系にかかわらず、適用可能である。インクの粘度は、数十cps程度の低粘度のものが主流であるが、飛翔吐出できるものであれば、数百cps程度の中粘度以上のものにも適用可能である。
なお、本発明は、プリント基板における配線パターン印刷、微小部品への潤滑剤の塗布、屋外耐光性表示材料印刷、UV硬化インク印刷等に用いる機能性インクにも適用可能である。
【0018】
また、本発明のメンテナンス機構は、外部の信号波形パターン通りの流量に調整可能な電空レギュレータ51と、その流量の値に従って負圧を調整できるエジェクタ52とから構成される負圧調整手段5を備える。従来のメンテナンス機構は、キャップ2内の負圧を急激に大気圧に戻すものであったため、ノズル6から排出されるインク31の流れも急激に停止し、ノズル6先端のメニスカス(液体架橋)が激しく振動され、このときに流路に気泡が発生(再混入)してしまったが、本発明では、キャップ2内の負圧を所望の波形信号で大気圧に戻すことができるため、ノズル6先端のメニスカスに振動を与えず、気泡の再混入を防止することができる。
【0019】
ところで、インク31の充填を負圧で行う場合、インクジェットヘッド1のヘッド面とキャップ2の密着性が重要である。キャップ2の当接部材21を高硬度の弾性体で構成することで、密着性を向上させることができるが、高硬度の弾性体で構成した場合、ヘッド面とキャップ2の傾きが大きいと隙間が生ずるという問題がある。一方で、キャップ2の当接部材21の硬度を軟らかくすると、負圧力に負けて当接部材21に変形が生じ隙間が生じてしまう。
そこで、本発明では、ヘッド面の傾きに追従できるような構造とすることで、キャップ2の密着性および密封性を確実なものとすることを可能とした。すなわち、ヘッド面と当接する当接部材21は硬化な弾性体で構成することで密着性を高め、当接部材21(およびフレーム22)を支持する支持部材23に軟化な弾性体で支持することで、ヘッド面の傾きに追従できるような自由度を持たせ、密封性を維持することを可能とした。
【0020】
以下では、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、本実施例のインクジェット塗布装置のメンテナンス機構の構成図である。
インクジェットヘッド1は、複数のノズル6を有し、連通部材9により連通された第1のタンク11に貯留されるインク31を吐出して印字等を行うものである。インクジェットヘッド1のメンテナンスは、ノズル6をキャップ2で覆い、キャップ2内に負圧を発生させ、吸引したインク等をキャップ2と連通部材9により連通される廃液タンク14に排出することにより行う。キャップ2とインクジェットヘッド1との当接は、キャップ開閉手段3により自動的に行われる。キャップ開閉手段3は、インクジェットヘッド1を相対動させるものでもよいし、キャップ2を相対動させるものでもよい。なお、産業分野によっては、キャップ2を手動で開閉するよう構成してもよい。
【0022】
本実施例のメンテナンス機構は、上記公知の構成に、インクジェットヘッド1と連通部材9により連通された第2のタンク12と、インクジェットヘッド1と第1のタンク11または第2のタンク12との連通を択一的に切り替える液体切替手段4とを付加したものである。第2のタンク12には、メンテナンス開始時に最初に流入される低粘性液体32が貯留されている。本実施例においては、低粘性液体32に、インク31を溶かす溶媒(洗浄液)を用いた。これにより、インク31が流路内で固結している場合でも溶解することができる。
【0023】
また、図2に示すとおり、本実施例のキャップ2は、ヘッド面の傾きに追従できるような自由度を持たせることが可能となるよう構成されている。
ヘッド面と当接する当接部材21は硬化な弾性体であるショアA硬度40〜80度(好ましくは50〜70度)(JIS K 6253規格)のゴムで構成され、フレーム22の上面に接着またはネジ留め等で装着される。
フレーム22は、接着またはネジ留め等で固着された軟化な弾性部材(例えば、ゴムまたはバネ)で構成された支持部材23により支持される。支持部材23は、インクジェットヘッド1のノズル面の取り付け誤差(3次元的な傾き)に対して追従可能とすべく、針入度が40〜80(好ましくは50〜70度)のものがよい。支持部材23は、板状の取付部材24に固着される。フレーム22の底面部には、少なくとも一つ以上の吸引用の貫通穴25と連通部材9を接続可能な継手26が配設される。
以上のように構成される本実施例のキャップ2によれば、ノズル面の傾きに影響されることなく、完全な密着性および密封性を確保することができる。
【0024】
本実施例の負圧発生手段5は、信号発生手段15と、圧力供給ポンプ16と、レギュレータ51と、エジェクタ52とから構成され、廃液タンク14を介してキャップ2に連通される。なお、負圧発生手段5には、エアー音を吸収する消音器53を付加してもよい。
信号発生手段15は、複数のパターンの時間と電圧の信号波形を設定、登録、且つ複数の登録されたパターンからいづれか一つのパターンのみを選択・出力可能である。レギュレータ51は、信号発生手段15の信号波形の電圧に応じて圧力の供給が可能である。信号発生手段15は、例えばパルスジェネレータやPC等で構成してもよい。
エジェクタ52は、レギュレータ51から供給された圧力に応じて負圧を発生可能である。レギュレータ51およびエジェクタ52は、市販の空圧機器により構成することができる。
レギュレータ51によりエジェクタ52により発生する負圧を制御しなくとも、レギュレータ51からは一定圧を保持したまま、エジェクタ52の廃棄側に設けた絞り弁の絞り量を調整することにより、負圧を制御してもよい。
【0025】
本実施例の負圧発生手段5は、キャップ2内に発生させた負圧を緩やかに大気圧に戻すことを特徴とする。すなわち、本実施例では、予め設定された信号波形を発する信号発生手段15により、キャップ2内の負圧の変化を緩やかに生じさせることで、気泡の再混入を防止することを可能とした。
設定する信号波形は、キャップ2内の負圧が緩やかに変化するものであれば、直線的であっても曲線的であってもよいし、細かく段階的に変化する信号波形でもよい。曲線的な波形としては、例えば、図3に示すようなSin波形があげられる。図3(a)に示すように、信号発生手段15から出力する信号波形をSin波形をとすると、レギュレータ51から供給される圧力が図3(b)に示すように変化し、エジェクタ52の負圧が図3(c)のようになり、インクジェットヘッド1のノズル6先端のメニスカスに振動を与えることを防止することができる。
【0026】
本実施例におけるメンテナンスの手順の詳細を図4に沿って説明する。以下では、インクカートリッジ装着・交換時(初期時やインク補給時)の充填フローについて説明する。
《第1フェーズ》
まず、インク31を連通部材9に充填する。液体切替手段4の第1のバルブ41を開、第2のバルブ42を閉状態とし(STEP1)、予め設定された時間に基づいて負圧発生手段5を起動してキャップ2内を負圧としてインク31を連結部材9へ導く(STEP2)。負圧の発生を予め設定された時間行うことにより、インク31が連通部材9の第1のバルブ41の部分まで充填される(STEP3)。ここで、予め設定された時間とは、インク31が第1のタンク11から連通部材9の第1のバルブ41に到達するまでの時間とする。予め設定された時間の経過後、負圧の発生を停止することにより、キャップ2内が大気圧に戻り、吸引が停止される(STEP4)。なお、第1フェーズにおける負圧の発生の停止は、負圧の変化を緩やかに生じさせるものである必要はない。
《第2フェーズ》
次に、低粘性液体32をノズル6に充填する。液体切替手段4の第1のバルブ41を閉、第2のバルブ42を開状態とし(STEP5)、予め設定された時間に基づいて負圧発生手段5を起動してキャップ2内を負圧として低粘性液体32の充填を行う(STEP6)。負圧の発生を予め設定された時間行うことにより、低粘性液体32が連通部材9に充填された後、インクジェットヘッド1に充填される(STEP7)。ここで、予め設定された時間とは、低粘性液体32がノズル6の先端から確実に排出される時間とする。予め設定された時間の経過後、負圧の発生を停止することにより、キャップ2内が大気圧に戻り、吸引が停止される(STEP8)。なお、第2フェーズにおける負圧の発生の停止は、負圧の変化を緩やかに生じさせるものである必要はない。
《第3フェーズ》
最後に、インク31をノズル6に充填する。液体切替手段4の第1のバルブ41を開、第2のバルブ42を閉状態とし(STEP9)、予め設定された時間と信号波形に基づいて負圧発生手段5を起動してキャップ2内を負圧として第1のバルブ41まで充填されたインク31をインクジェットヘッド1へ導く(STEP10)。負圧の発生を予め設定された時間行うことにより、インク31がインクジェットヘッド1に充填される(STEP11)。ここで、予め設定された時間とは、インク31がノズル6の先端から確実に排出される時間とする。予め設定された時間の経過後、予め設定された信号波形に基づいて負圧の発生を緩やかに停止することにより、キャップ2内が緩やかに大気圧に戻り、吸引が停止される(STEP12)。ここで、予め設定された信号波形としては、上述のSin波形が開示されるが、これに限定されない。
【0027】
以上の手順を経ることにより、第1フェーズで第1のタンク11と第1のバルブ41の間の気泡を追い込み、第2フェーズで低粘性液体32により第2のタンクとノズル6の間の気泡を排出し、第3フェーズでインクを充填し、予め設定された信号波形に基づいて負圧を解放することにより、気泡を残留することなく、インクジェットヘッド1にインク31を充填することができる。
なお、インクカートリッジ装着・交換時以外の場合におけるメンテナンスは、第1フェーズが不要なので、第2および第3フェーズのみを行えばよい。インクカートリッジ装着・交換時は、液体切替手段4までインクが到達していないと気泡がインクジェットヘッド1に充填されてしまうため、第1フェーズが必要となる。
【実施例2】
【0028】
図5は、本実施例のメンテナンス機構の構成図であり、図6は、本実施例のメンテナンス機構を搭載した卓上型インクジェット塗布装置の概略斜視図である。
本実施例の装置は、図6に示すように、Y方向に並んだ3つのインクジェットヘッド1がZ方向移動手段64に配設されている。ワークテーブル61は、Y方向に移動自在であり、Z方向移動手段64は、ビーム62に設けられたX方向移動手段63によりX方向に移動自在である。3つのキャップ2は、インクジェットヘッド1と対向する間隔で配設されている。図6中、符号11はインク31が貯留された第1のタンクであり、符号12は低粘性液体32が貯留された第2のタンクであり、符号13は溶解液33が貯留された第3のタンクである。なお、図6においては、廃液タンク14、再供給用タンク18、電機系の配線、および液送系の配管は省略している。
【0029】
本実施例のメンテナンス機構と、実施例1との構成上の主な相違点は、第3のタンク13を有する点と、再供給タンク18を有する点である。
本実施例のメンテナンス機構が有する第3のタンク13には、溶解液33が貯留される。溶解液33は、空気がとけ込みやすく、廉価な材料であって、本実施例ではアンモニア水を用いている。
【0030】
再供給タンク18は、低粘性液体32をキャップ2に再供給するためのものである。キャップ2に低粘性液体32を再供給することの意義は、ノズル6の先端に露出するインク31の蒸発を防ぐことにある。メンテナンス工程の終了後、塗布工程が開始するまでの間もインク31は蒸発する。インク31が蒸発すると、インク31が増粘し、吐出量および着弾位置の精度が低下することとなり、増粘が進むとインク31が飛翔しなくなってしまう。そのため、インク31の蒸発を防ぐためにはキャップ2をインクジェットヘッド1に当接した状態としておくことが好ましいが、これだけではインク31の蒸発を充分に防止することができない場合がある。そこで、ノズル6と対向するキャップ2の凹部に低粘性液体32が溜まった状態としておくことで、インク31の蒸発をより効果的に防ぐことを可能としたのである。低粘性液体32の供給は、圧力供給ポンプ17により、再供給用タンク18に正圧をかけることにより行われる。
なお、本実施例では蒸発防止のために低粘性液体32を供給しているが、水を主成分とし、キャップ2内に残留しない液体であれば、同様の効果を奏することができる。
【0031】
本実施例におけるメンテナンスの手順は、まず溶解液33をインクジェットヘッド1に充填し、次に低粘性液体32を充填し、最後にインク31を充填することにより行われる。
負圧により吸引された液体は、廃液タンク14と再供給用タンク18に分別される。すなわち、インク31および溶解液33は廃液タンク14に排出され、低粘性液体32は再供給タンク18に排出される。
以上のように構成される本実施例のメンテナンス機構を備える卓上型インクジェット塗布装置は、実施例1における効果に加え、メンテナンス工程の終了後から塗布工程が開始するまでの間のインク31の蒸発を確実に防止する効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明はインクジェットプリンタに限らず、精密噴霧・注入装置(コーティング装置含む)、精密塗布装置等種々のインクジェット記録に適用することができる。インクジェット式パターニング、例えば、有機ELディスプレイパネルや大型カラーパネルの印刷、産業用マーキング等用の塗布装置・描画装置・印刷装置への適用も可能である。
インクジェット記録方法についてもピエゾ式等の機械変換方式、抵抗発熱ジェット式等の気泡発生方式にかかわらず、適用することが可能である。
また、レンズ製造業界におけるレンズの着色工程での利用、大型印刷業界におけるポスターや建材加飾での利用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1に係るメンテナンス機構の構成図である。
【図2】透過的に示したキャップの構成図である。
【図3】実施例1に係る機器類から出力される信号波形である。
【図4】実施例1の充填フローである。
【図5】実施例2に係るメンテナンス機構の構成図である。
【図6】実施例2に係るメンテナンス機構を搭載した卓上型インクジェット塗布装置の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1 インクジェットヘッド
2 キャップ
3 キャップ開閉手段
4 液体切替手段
5 負圧発生手段
6 ノズル
9 連通部材
11 第1のタンク
12 第2のタンク
14 廃液タンク
15 信号発生手段
16 (負圧用)圧力供給ポンプ
17 (正圧用)圧力供給ポンプ
18 再供給タンク
21 当接部材
22 フレーム
23 支持柱
24 取付部材
25 貫通穴
26 継手
31 インク
32 低粘性液体
33 溶解液
34 廃液
41 第1のバルブ
42 第2のバルブ
43 第3のバルブ
44 第4のバルブ
45 第5のバルブ
51 レギュレータ
52 エジェクタ
53 消音器
61 ワークテーブル
62 ビーム
63 X方向移動手段
64 Z方向移動手段
67 電源スイッチ
68 通信用コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドの有するノズルをキャップで覆い、負圧を発生させて液体を吸引するメンテナンス方法において、
液体の吸引終了時に、予め設定された信号波形に基づきキャップ内の負圧を大気圧に戻すことを特徴とするインクジェットヘッドのメンテナンス方法。
【請求項2】
前記信号波形が正弦曲線的であることを特徴とする請求項1のインクジェットヘッドのメンテナンス方法。
【請求項3】
前記信号波形が複数の登録されたパターンから選択出力されることを特徴とする請求項1または2のインクジェットヘッドのメンテナンス方法。
【請求項4】
インクジェットヘッドの有するノズルをキャップで覆い、負圧を発生させて液体を吸引するメンテナンス機構であって、
インクジェットヘッドと当接してノズルを覆うキャップと、負圧をキャップに発生させる負圧発生装置と、キャップおよび負圧発生装置と連通する廃液タンクと、キャップとインクジェットヘッドを当接ないし非当接させるキャップ開閉機構と、インクジェットヘッドと連通するインク貯留部と、これらの作動を制御する制御部とを備え、
前記制御部が、予め設定された信号波形に基づきキャップ内の負圧を大気圧に戻すよう負圧発生装置を制御することを特徴とするインクジェットヘッドのメンテナンス機構。
【請求項5】
前記信号波形が正弦曲線的であることを特徴とする請求項4のインクジェットヘッドのメンテナンス機構。
【請求項6】
前記信号波形を複数の登録されたパターンから選択可能とする信号選択手段を備えることを特徴とする請求項4または5のインクジェットヘッドのメンテナンス機構。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれかのインクジェットヘッドのメンテナンス機構を有する装置。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−183837(P2012−183837A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151112(P2012−151112)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【分割の表示】特願2006−350710(P2006−350710)の分割
【原出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(390026387)武蔵エンジニアリング株式会社 (56)
【Fターム(参考)】