説明

インクジェットヘッド及びその製造方法、並びに画像形成装置

【課題】十分な接合強度と高い耐インク性を併せ持つインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】金属からなりインクを吐出するノズルが設けられたノズル板6と、液体吐出エネルギー発生部を有する振動板3と、ノズル板6と振動板3の間に設けられる隔壁4と、により区画されて、それぞれが前記ノズルを有する複数の液室5が形成されるインクジェットヘッドにおいて、ノズル板6と隔壁4が、水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤により接着され、振動板3と隔壁4が、前記第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤により接着されており、ノズル板6と隔壁4との接着接合部分であって液室5内部に面する部分(硬化樹脂21)が、振動板3と隔壁4とを接着した前記第2の接着剤の余剰分(硬化樹脂23)により被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド及びその製造方法、並びに画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ等の画像記録装置あるいは画像形成装置として用いるインクジェット記録装置において使用するインクジェットヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する液室(加圧室、吐出室、圧力室、加圧液室、インク流路とも称される。)と、この液室内のインクを加圧する圧力発生手段(駆動手段、或いはエネルギー発生手段)とを備えて、圧力発生手段を駆動することで液室内インクを加圧してノズルからインク滴を吐出させるものである。
【0003】
このようなインクジェットヘッドとしては、圧電素子を用いて液室の壁面を形成する振動板を変形させてインク滴を吐出させるようにしたもの(特許文献1参照)、或いは、発熱抵抗体を用いて液室内でインクを加熱して気泡を発生させることによる圧力でインク滴を吐出させるようにしたもの(特許文献2参照)、液室の壁面を形成する振動板と電極とを平行に配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることでインク滴を吐出させるようにしたもの(特許文献3参照)などがあり、高速化、高密度化等、益々高機能化の要求に答えるべく現在開発が盛んに行われている。
【0004】
ここで、インクジェットヘッドは、一般的に、液室、この液室にインクを供給する流体抵抗部、流体抵抗部を介して液室に供給するための共通インク液室、インク滴を吐出するための液滴吐出孔(ノズル孔)或いはノズル溝などの各種流路を形成する必要があり、例えば、液室などの流路を形成するための流路基板(液室基板)とノズルを有するノズル板などの部材を接合して形成される。
【0005】
従来、インクジェットヘッドを構成する部材の接合には、液室基板やノズル板にシリコン基板を用いた場合には直接接合や金属材料を介した共晶接合、あるいは金属材料を用いた場合には陽極接合などが行われることもあるが、湿式の接着剤、フィルム接着剤などによる接着接合が一般的である。
【0006】
ここで、インクジェットヘッドにおいて接合された部位はインクと接触する部位が多く、接着剤による接合の場合、接触するインクが接着剤自体を劣化させたり、接合界面に浸透し、剥離を生じさせたりして信頼性に関して大きな問題を引き起こすことがあった。すなわちインクジェットヘッドの液室内部において接着接合部の端部がインクに曝されており、またインク吐出の圧力が部材間にかかるようになるが、インクジェットヘッドの吐出サイクルは数kHzであり、高周波の圧力変動を受ける部材であるため接着接合部の劣化が進みやすかった。そのため、インクジェットヘッドにおける接着剤による接合部分には一般的な接着接合よりも耐インク性(耐液性ともいう)が求められている(例えば、特許文献4)。また、一般的に2つの部材の接着接合を行う場合には、部品精度を保ち、信頼性の高い接合を実現しなければならないという要求もあった。
【0007】
そのため接着剤は使用されるインクに対して耐性を持ち、かつ接合界面への浸透乖離を極力抑えて十分な接合強度を持つものが望まれているが、すべてのインクに対して優位な接着剤は存在しておらず、特定のインクに対する低劣化な接着剤の選定も極めて困難であった。
【0008】
特に、ノズル板(あるいは液室基板)に金属部材を用いた場合、接合強度を確保するためには特定の接着剤、一般に金属接着剤と呼ばれる接着剤を使用する必要があるが、インク中の水分がその接着力の維持に障害をもたらすためその使用が困難であった。これは通常、金属接着剤と呼ばれる接着剤樹脂の多くにおいて分子鎖に有する水酸基が金属表面と水素結合を形成することで金属部材との接着力を得ているからである。水素結合は水により簡単に結合が壊れてしまうため、乾燥した状態では非常に接着力が強いものの、このような水酸基を多数持つ接着剤はインクに対して接着性を長期間維持することが出来ない。
【0009】
特許文献5では、ノズル板(吐出口形成部材)の吐出口周辺に耐インク性の高い主接着剤を付着させるとともに、該主接着剤の周りに、該主接着剤硬化時に該主接着剤より硬化収縮率の小さい補助接着剤を付着させる発明が提案されている。これによれば、インクに曝される接着接合部の端部における耐インク性を確保しつつ、吐出口とインク流路とを位置ずれさせることなくノズル板とインク流路部材を接着することが可能である。
【0010】
しかしながら、この発明では、サイドエッジ方式のインクジェットヘッドのようにインクと接触するノズル板とインク流路部材の接合部分がごく小さい場合にはその周りの補助接着剤により十分な接合強度が確保されるが、積層法式のインクジェットヘッドのように液室における接合部分の面積が大きくノズル板にかかるインクの圧力が大きい場合には、ノズル板とインク流路部材の多くの部分を耐インク性は高いものの接着力の弱い接着剤で接合しなければならず、これではインク流路ごと(液室ごと)の部分的な接着力は低く、接合強度は十分といえない。この場合、インクジェットヘッド全体として、液室に高い圧力が加わると隔壁の接着接合した部分が剥離してインクの内部リークが発生するため、低い圧力でインク充填や吐出を行う必要があり、インクジェットヘッドの要求特性を満たすことができなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、複数の部材を積層し接着剤により接合して液室を形成する積層方式のインクジェットヘッドにおいて、十分な接合強度と高い耐インク性を併せ持つインクジェットヘッド及びその製造方法、並びに前記インクジェットヘッドを備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために提供する本発明は、インクを吐出するノズルが設けられたノズル板と、液体吐出エネルギー発生部を有する基板と、前記ノズル板と基板の間に設けられる隔壁と、により区画されて、それぞれが前記ノズルを有する複数の液室が形成されるインクジェットヘッドにおいて、前記隔壁と接合される前記ノズル板の接合面及び前記基板の接合面の何れか一方が金属材料、他方が樹脂材料で形成され、前記金属材料の接合面と前記隔壁が、水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤により接着され、前記樹脂材料の接合面と前記隔壁が、前記第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤により接着されており、前記金属材料の接合面と前記隔壁との接着接合部分であって前記液室内部に面する部分が、前記樹脂材料の接合面と前記隔壁とを接着した前記第2の接着剤の余剰分により被覆されていることを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0013】
また前記課題を解決するために提供する本発明は、金属材料からなりインクを吐出するノズルが設けられたノズル板と、液体吐出エネルギー発生部を有する基板と、前記ノズル板と基板の間に設けられる隔壁と、により区画されて、それぞれが前記ノズルを有する複数の液室が形成されるインクジェットヘッドにおいて、前記ノズル板と前記隔壁とが、水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤により接着され、接合面が樹脂材料からなる前記基板と前記隔壁とが、前記第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤により接着されており、前記ノズル板と前記隔壁との接着接合部分であって前記液室内部に面する部分が、前記基板と前記隔壁とを接着した前記第2の接着剤の余剰分により被覆されていることを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0014】
また前記課題を解決するために提供する本発明は、インクを吐出するノズルが設けられたノズル板と、液体吐出エネルギー発生部を有する基板と、前記ノズル板と基板の間に設けられる隔壁と、により区画されて、それぞれが前記ノズルを有する複数の液室が形成されるインクジェットヘッドにおいて、前記隔壁と接合される前記ノズル板の接合面及び前記基板の接合面の何れか一方が金属材料、他方が樹脂材料で形成され、前記金属材料の接合面と前記隔壁が、水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤により接着され、前記樹脂材料の接合面と前記隔壁が、前記第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤により接着されており、前記金属材料の接合面と前記隔壁との接着接合部分であって前記液室内部に面する部分が、前記樹脂材料の接合面と前記隔壁とを接着した前記第2の接着剤の余剰分により被覆されているインクジェットヘッドを搭載したことを特徴とする画像形成装置である。
【0015】
また前記課題を解決するために提供する本発明は、インクを吐出するノズルが設けられたノズル板と、液体吐出エネルギー発生部を有する基板と、前記ノズル板と基板の間に設けられる隔壁と、により区画されて、それぞれが前記ノズルを有する複数の液室が形成されるインクジェットヘッドの製造方法において、前記隔壁と接合される前記ノズル板の接合面及び前記基板の接合面の何れか一方を金属材料、他方を樹脂材料として形成する工程と、前記隔壁の一方の面に水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤を塗布し、ついで該隔壁の前記一方の面とは反対面に前記第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、前記隔壁の前記第1の接着剤が塗布された面と前記金属材料で形成された接合面とを貼り合わせる第1貼り合わせ工程と、前記隔壁の前記第2の接着剤が塗布された面と前記樹脂材料で形成された接合面とを貼り合わせる第2貼り合わせ工程と、加熱により、前記金属材料で形成された接合面と隔壁との貼り合わせ部分における第1の接着剤と、前記樹脂材料で形成された接合面と隔壁との貼り合わせ部分における第2の接着剤を硬化させる加熱硬化工程と、を有し、前記加熱硬化工程では、前記加熱の昇温過程において少なくとも前記第2の接着剤に流動性を付与して、前記樹脂材料で形成された接合面と前記隔壁との貼り合わせ部分における前記第2の接着剤の余剰分が、前記金属材料で形成された接合面と前記隔壁との貼り合わせ部分の第1の接着剤であって前記液室内部に面する部分を被覆するようにし、ついで加熱硬化過程において前記第1の接着剤及び第2の接着剤を硬化させることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法である。
【0016】
また前記課題を解決するために提供する本発明は、金属材料からなりインクを吐出するノズルが設けられたノズル板と、液体吐出エネルギー発生部を有する基板と、前記ノズル板と基板の間に設けられる隔壁と、により区画されて、それぞれが前記ノズルを有する複数の液室が形成されるインクジェットヘッドの製造方法において、前記隔壁の一方の面に水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤を塗布し、ついで該隔壁の前記一方の面とは反対面に前記第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、前記隔壁の前記第1の接着剤が塗布された面と前記ノズル板とを貼り合わせる第1貼り合わせ工程と、前記隔壁の前記第2の接着剤が塗布された面と接合面が樹脂材料からなる前記基板とを貼り合わせる第2貼り合わせ工程と、加熱により、前記ノズル板と隔壁との貼り合わせ部分における第1の接着剤と、前記基板と隔壁との貼り合わせ部分における第2の接着剤を硬化させる加熱硬化工程と、を有し、前記加熱硬化工程では、前記加熱の昇温過程において少なくとも前記第2の接着剤に流動性を付与して、前記基板と前記隔壁との貼り合わせ部分における前記第2の接着剤の余剰分が、前記ノズル板と前記隔壁との貼り合わせ部分の第1の接着剤であって前記液室内部に面する部分を被覆するようにし、ついで加熱硬化過程において前記第1の接着剤及び第2の接着剤を硬化させることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のインクジェットヘッドによれば、ノズル板の接合面及び前記基板の接合面の何れか一方である金属材料の接合面(例えば、ノズル板)と隔壁が、水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤により接着接合されているので、液室ごとの面積の広い接合部分において十分な接合強度を確保することができる。また第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤により、金属材料の接合面(ノズル板)と隔壁との接着接合部分であって液室内部に面する部分が被覆されているので、面積の広い接合部分においても液室内のインクから第1の接着剤で接着接合された部分が保護されて、十分な耐インク性が確保され、必要な接合強度を長期間保持することができ信頼性の高いものになる。
また本発明の画像形成装置によれば、本発明のインクジェットヘッドを備えているので、長期間に渡り安定したインク吐出による画像形成を行うことができる。
また本発明のインクジェットヘッドの製造方法によれば、所定の接着剤塗布工程、第1貼り合わせ工程、第2貼り合わせ工程、加熱硬化工程により、簡便な方法で、本発明のインクジェットヘッドを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るインクジェットヘッドの構成を示す斜視図である。
【図2】図1のインクジェットヘッドにおける液室の断面図である。
【図3】本発明に係るインクジェットヘッドの要部構成(1)を示す断面図である。
【図4】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法に関する第1の実施形態を示す工程図である。
【図5】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法に関する第2の実施形態を示す工程図である。
【図6】本発明に係るインクジェットヘッドの要部構成(2)を示す断面図である。
【図7】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法に関する第3の実施形態を示す工程図である。
【図8】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法に関する第4の実施形態を示す工程図である。
【図9】本発明に係る液体カートリッジの外観図である。
【図10】本発明に係る画像形成装置であるインクジェット記録装置の外観図である。
【図11】図10のインクジェット記録装置の機構部の構成を示す断面図である。
【図12】実施例Aの接合サンプルのインク浸漬による剥離強度試験(1)の結果を示す図である。
【図13】実施例Aのインクジェットヘッドのインク滴吐出速度試験(1)の結果を示す図である。
【図14】実施例A,Bの接合サンプルのインク浸漬による剥離強度試験(2)の結果を示す図である。
【図15】実施例A,Bのインクジェットヘッドのインク滴吐出速度試験(2)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係るインクジェットヘッドの構成について説明する。
図1は本発明に係るインクジェットヘッドの主要部分の斜視図、図2は図1のインクジェットヘッドの断面図である。なお、図2(a)は液室短辺長方向の断面図、図2(b)は液室長辺長方向の断面図である。
図に示すように、インクジェットヘッド1は、液体吐出エネルギー発生部である圧電体素子2を有する基板(振動板3)上に、液滴状のインクを吐出するノズル(ノズル孔6a)を有する複数の加圧液室(液室5)が配列されてなり、圧電体素子2及び振動板3からなる圧電型アクチュエータを用いてノズル板6に設けたノズル孔6aから液滴を吐出させるサイドシュータータイプのものである。詳しくは、インクジェットヘッド1は、共通電極10,圧電体12,個別電極11からなる圧電体素子2と、振動板3と、該振動板3上に設けられる液室5,液室5に液体のインクを供給する為の流体抵抗部7,共通液室8と、液室5ごとに設けられインクを吐出するノズル孔6aを有するノズル板6と、から構成されている。また、振動板3には、共通インク供給口9が開口されており、ここからインクを外部から共通液室8に供給できるようになっている。
【0020】
なお、液室5は、振動板3と、ノズル板6と、ノズル板6と振動板3の間に設けられ隣接する液室5を仕切る隔壁4と、を壁面として囲まれた空間である。
【0021】
また、振動板3の液室5とは反対面側に、共通電極10,圧電体12,個別電極11が積層されてなる圧電体素子2が形成されている。また、液室5の振動板3に対向する面がノズル板6となっている。
【0022】
ここで、振動板3は、ダイヤフラムとも称され、圧電体素子2の駆動に伴い撓むような可撓性を有する薄板材であり、例えば液室5側の板面にポリイミドなどの樹脂コーティングやシリコン酸化膜の被覆が施されたNi薄板などが用いられる。
【0023】
隔壁4は、リストリクタ部材、流路板とも称され、振動板3とノズル板6との間に挟まれる部材であり、例えばステンレス鋼の薄板材に液室5、流体抵抗部7、共通液室8を区画するためのプレス加工による抜き穴が設けられたものである。この隔壁4の厚みは15〜140μmである。
【0024】
また、ノズル板6は、オリフィスプレートとも称され、金属材料からなり、インクを吐出する貫通孔であるノズル孔6aが設けられた板材である。このノズル板6は、ステンレス鋼、あるいはNiまたはSiを主成分とする金属からなることが好ましい。なお、ノズル板6の表面にSiOなどの金属酸化物がコーティングされていてもよい。
【0025】
このように構成されたインクジェットヘッド1において、各液室5内に液体、例えば記録液(インク)が満たされた状態で、図示しない制御部から画像データに基づいて、発振回路により、記録液の吐出を行いたいノズル孔6aに対応する個別電極11に対して、20Vのパルス電圧を印加する。この電圧パルスを印加することにより、圧電体12は、電歪効果により圧電体12そのものが振動板3と平行方向に縮むことにより、振動板3が液室5側に凸となるように撓むことになる。これにより、液室5内の圧力が急激に上昇して、液室5に連通するノズル孔6aから液滴状の記録液が吐出されるようになる。次に、パルス電圧印加後は、縮んだ圧電体12が元に戻ることから撓んだ振動板3は、元の位置に戻るため、液室5内が共通液室8内に比べて負圧となり、共通液室8から流体抵抗部7を通って記録液が液室5に供給される。
以上の動作制御を繰り返すことにより、インクジェットヘッド1は液滴を連続的に吐出でき、インクジェットヘッド1に対向して配置された被記録媒体(用紙)に画像を形成することが可能となる。
【0026】
ここで、このような複数の部材を積層して液室5を形成するインクジェットヘッド1では、液室5における面積の広い接合部分において高い接着性とインクに対する高い接液性(耐インク性)の両方を併せ持つ接着接合が必要である。しかしながら、接着接合で高い接着性と高い耐インク性を両立させることは難しかった。
【0027】
特に、金属材料からなるノズル板6と隔壁4との接合部分においてその問題が顕著であった。ここで、金属部材との接着接合に関して、金属部材表面に樹脂をコーティングしたり、シランカップリング剤による下地処理を施したりして、例えば第2の接着剤であっても十分な接合強度が得られるように接着性を改善する方法があるが、そのような樹脂やシランカップリング剤は撥水性を持つため、液室5のインク充填性が悪くなったり、ノズル板6のノズル孔6aに樹脂やシランカップリング剤が付着してメニスカス保持力が弱くなりインクの吐出安定性が悪くなったりするなどの不具合を生じるため、不適である。
【0028】
したがって、接着接合で高い接着性と高い耐インク性を両立させるためには、接着剤、とりわけ主剤樹脂の選定が重要である。しかしながら、例えば接着剤の主剤樹脂の分子鎖形状において、硬化樹脂が分岐の少ない長鎖の分子形状から成るものは、硬化樹脂が高弾性と成るため高い剥離強度を持つ。しかし、分子鎖が長鎖であると立体障害が大きく、分子間に大きな隙間が出来てしまうため、この隙間にインク成分が入りやすくなることから、長鎖の分子から成る硬化樹脂は吸湿性が高くなり、膨潤しやすく、強度が低下しやすくなる。即ち耐インク性が低い樹脂となってしまった。
【0029】
また、接着剤の主剤樹脂の分子鎖にある官能基において、水酸基を分子鎖中に持つ樹脂は、水酸基が水素結合を作る性質を持つことから、特に金属部材との接着において、部材表面にある水酸基と水素結合を作り、高い接着性を持つ。しかし、前記水酸基を分子鎖中に持つ樹脂は水酸基が親水基でもあることから、硬化樹脂は吸湿性が高くなり、膨潤しやすく、水素結合が切れるため強度が低下しやすくなる。即ち耐インク性が低い樹脂となってしまった。
【0030】
このように接着剤の主剤樹脂には、接着性と耐インク性の間において化学的にトレードオフの傾向が強いことから、一つの主剤樹脂で接着性と耐インク性を両立させることは困難であった。このため、接着剤の主剤樹脂は用途に合せ分子鎖の形状や大きさ、官能基の数に対してバランスを取った材料を選択する、あるいは複数の樹脂をバランス良く混合した処方とすることが一般的である。
【0031】
一方で、インクジェットヘッド用接着剤に対して接着性と耐インク性の両立の要求が近年益々高まっている。すなわち、インクジェットヘッドには微細化、巨大化が要求され、それに従い、隔壁4は細くなり、液室5は小さく細くなって、液室5に露出する接合面積は相対的にますます広くなり、かつインクジェットヘッド全体として接合面積が広くなることから、インクジェットヘッドには高い接着性が求められている。また、画質向上のため、インクはより高い浸透性を持たせたい要求があるが、これは接着剤の耐インク性において厳しい要求となっている。しかしながら、接着剤の調製に関し、前述したような一般的な方法では、このようなインクジェットヘッド用接着剤の近年の高まる接着性と耐インク性の両立の要求に対して、前記のトレードオフの問題に直面して満足させることができなかった。
本発明は、この課題を解決すべく発明者が鋭意検討を行い、完成させたものである。以下、本発明の根幹部分について説明する。
【0032】
本発明に係るインクジェットヘッドの実施形態は、前述の通り金属材料で形成されたノズル板6の接合面と隔壁4とが、水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤により接着され、前述の通りポリイミドなどの樹脂コーティングがなされた振動板3の接合面と隔壁4とが、前記第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤により接着されており、ノズル板6と隔壁4との接着接合部分であって液室5内部に面する部分が、振動板3と隔壁4とを接着した前記第2の接着剤の余剰分により被覆されていることを特徴とするものである。
【0033】
図3は、本発明に係るインクジェットヘッドの要部構成(1)を示す断面概略図である。ここでは、ノズル板6と、振動板3と、ノズル板6と振動板3の間に設けられる隔壁4と、により区画されて複数の液室5が形成されている液室ユニットにおける接合部分の模式図を示している。
【0034】
図3に示すように、振動板3と隔壁4の接着接合部分は、第2の接着剤が硬化した硬化樹脂22からなり、振動板3と隔壁4との間隙部分だけでなく、液室5側(図中左右方向)にはみ出した状態となっている。
【0035】
また、ノズル板6と隔壁4の接着接合部分は、第1の接着剤が硬化した硬化樹脂21からなり、ノズル板6と隔壁4との間隙部分だけでなく、液室5側(図中左右方向)に若干はみ出した状態となっている。
【0036】
また、硬化樹脂21の液室5内部に面する部分は、振動板3と隔壁4とを接着した前記第2の接着剤の余剰分が硬化した硬化樹脂23により被覆された状態となっている。なお、第2の接着剤の余剰分とは、当初振動板3と隔壁4の接着接合のために塗布された第2の接着剤のうち、結果として振動板3と隔壁4を貼り合わせた場合に、振動板3と隔壁4の間からはみ出して両者の接着接合に寄与しなかった分である。
【0037】
ここで、前記第1の接着剤は、金属部材の接着接合に好適な主剤樹脂として、エポキシ当量160以上の、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂のいずれかを含むことが好ましい。これらの樹脂は、その分子鎖に水酸基を有し、金属との間に水素結合を形成して高い密着性を得ることができるものである。
【0038】
なお、第1の接着剤が硬化したもの(硬化樹脂21)はできるだけ高弾性を有するとよく、少なくとも第2の接着剤が硬化した硬化樹脂22よりも高弾性である。高弾性を得るためには比較的長鎖で分岐の少ない高分子量のエポキシ樹脂が好ましいが、硬化剤の硬化開始温度よりも低い温度にガラス転移点を持ち、硬化反応が始まるよりも低い温度で流動性を持つことが好ましいため、あまり高分子量過ぎても不具合を生じる。そのため、分子量900〜60000がよい。
【0039】
例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名jER1010、三菱化学社製)は、水酸基を多く持つ長鎖で高分子量のエポキシ樹脂であり、硬化して高弾性率を発現する。このため特に金属に対して高い接着力を持つが、その反面、水酸基が作る水素結合は水に対して脆弱であるため、耐インク性はそれほど高くない。
【0040】
また、前記第2の接着剤は、耐吸湿性に優れる主剤樹脂として、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPD)型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、キサンテン型エポキシ樹脂のいずれかを含むことが好ましい。これらは、低吸湿性の樹脂として、主に半導体などのコーティング材料としても用いられるものであり、硬化樹脂22,23は本発明で用いる水系インクから水分が浸透するのをブロックする。また、これらの樹脂は硬化すると、比較的架橋密度の高いエポキシ樹脂を形成し、優れた耐薬品性も示す。
【0041】
例えば、DCPD型エポキシ樹脂(商品名EPICLON HP-7200HH、DIC社製)は、分子鎖に水酸基を持たず、立体障害が小さい分子形状であることから、硬化後は低い吸湿率を発現する。このため高い耐インク性を持つが、その反面、分岐が多く、また分子量が小さいため、硬化樹脂は剛直となり第1の接着剤ほどの接着力はない。
【0042】
また、前記第1の接着剤及び第2の接着剤は、アミン系硬化剤を含有することが好ましい。具体的な硬化剤としては、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリアミノアミド等の1級、2級アミン類が挙げられる。
【0043】
アミン系硬化剤を用いることで、第1の接着剤及び第2の接着剤は、硬化反応後の樹脂の分子鎖が長鎖となって弾性が高い樹脂を形成し、剥離強度が高くなる。また同時に、分子鎖に分岐を作らずに結合反応することから、分子鎖の間に立体障害を原因する隙間を生じにくくなり、結合樹脂の透湿性が低くなる結果、耐インク性が改善される。
以上のように、本発明者は、本発明における好ましい理由を推察している。ただし、本発明は上記推察に寄らない。
【0044】
また本発明において、第1の接着剤に含まれる硬化剤と第2の接着剤に含まれる硬化剤は同一の温度で硬化することが好ましく、簡易的には同一であることがより好ましい。第1の接着剤と第2の接着剤では主とするエポキシ樹脂が異なり、熱膨張率などに差が有るため、熱履歴によっては第1の接着剤と第2の接着剤が接触する界面において界面剥離を起してしまう懸念が有る。本発明では、それぞれの硬化剤を同一温度で反応が始まるように、簡易的には同一のものとすることで、双方の接着剤が同時に反応を開始し、接する界面が強固に接着され、界面剥離などを生じなくすることが可能である。
【0045】
また、第1の接着剤に含まれる溶媒と第2の接着剤に含まれる溶媒は同一のものが好ましい。
第1の接着剤と第2の接着剤が、乾燥速度の違いではっきりとした界面を形成したり、相溶性が悪く、液相分離の作用で明確な界面を形成したりすると、そのままではインクの水分が界面に沿って浸入しやすく、耐インク性が劣化する可能性があるためである。それぞれの接着剤に含まれる溶媒を同一のものにすることにより、第1の接着剤と第2の接着剤の界面を曖昧な状態にして硬化することが可能である。
【0046】
また、第1の接着剤、第2の接着剤にはシランカップリング剤を混合することもできる。これにより補助的に接着力や、耐インク性を向上することが可能である。
【0047】
これらに用いるカップリング剤の例を以下に示す。
・シランカップリング剤
2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、
N-2(-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-2(-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、(1,3-ジメチル-ブチリデン)─プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス(3-(トリメトキシシリル)プロピル)エチレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、3-‐フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、
アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、N-(2-(ビニルベンジンアミノ)エチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、1,2-エタンジアミン,N-{3-(トリメトキシシリル)プロピル}-,N-{(エテニルフェニル)メチル}誘導体・塩酸塩
3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン
シランカップリング剤の有機性基に関してはエポキシ樹脂と反応する官能基を有するものが好ましく、上記のカップリング剤はその一例である。これらは信越化学、東レダウコーニング、チッソなどから購入可能である。
【0048】
・チタネート系、アルミネート系カップリング剤
テトラ-i-プロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、チタニウム-i-プロポキシオクチレングリコレート、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、ポリ(ジ-i-プロポキシ・オキシチタン)、ポリ(ジ-n-ブトキシ・オキシチタン)、ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(トリエタノ-ルアミネ-ト)チタン、イソプロピルトリ(N-アミドエチル・アミノエチル)チタネート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート
チタネート系、アルミネート系カップリング剤は無機表面に高分子有機被膜を形成することで接着剤の濡れ性を向上させて接着強度を向上させる。上記はチタネート系カップリング剤の一例であり限定されるものではない。これらは三菱ガス化学、日本曹達、味の素ファインテクノより購入可能である。
【0049】
以上の何れのカップリング剤であっても利用可能であるが、好ましくはエポキシ基、もしくはアミン基をもつカップリング剤が好ましく、カップリング剤をエポキシ系接着剤である第1の接着剤、第2の接着剤に添加して効果を発揮させるためには、接着剤の有効期間の面から常温で反応が進まない面から、エポキシ基のカップリング剤が好ましい。
【0050】
また、第1の接着剤、第2の接着剤には、前述したエポキシ樹脂や硬化剤、溶剤、カップリング剤以外に、フィラーやその他のバインダー樹脂、粘度調整剤などを含んでもよい。フィラーとしてはシリカやアルミナのような無機粒子であっても、メラミン樹脂やアクリル樹脂の樹脂微粒子であってもよい。また粘度調整剤として高級脂肪酸アマイドなどを添加して、接着剤の塗工にて適した粘度に調整することも可能である。また塗膜に泡による塗布斑が発生しないために抑泡剤や消泡剤を添加しても良い。
【0051】
以上のように、本発明のインクジェットヘッドによれば、第2の接着剤による接着接合部分である硬化樹脂22により、振動板3と隔壁4は十分な接合強度で接着接合されており、また硬化樹脂22は耐吸湿性に優れるため、液室5に露出している部分でインクと接触しても長期に渡ってその接合強度が劣化することもない。
【0052】
また、第1の接着剤による接着接合部分である硬化樹脂21は、水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤からなるため、その水酸基の水素結合によりノズル板6と隔壁4を十分な接合強度で接着接合しているが、前述のように耐吸湿性に劣るため、そのまま液室5に露出した状態であると接触したインクの水分によりその接合強度が劣化してしまう。
【0053】
そこで、本発明では、図3に示すように、硬化樹脂21の液室5内部に面する部分が、振動板3と隔壁4とを接着した前記第2の接着剤の余剰分が硬化した硬化樹脂23により被覆された状態としている。これにより、液室5にインクが満たされても、耐吸湿性に優れた硬化樹脂23が硬化樹脂21にインクが接触することを防ぎ、またインクの浸透も防止するので長期に渡ってノズル板6と隔壁4の接合強度が劣化することがない。
【0054】
また、このように各隔壁4でそれぞれ十分な接合強度と耐インク性を同時に確保することにより、多くの液室5が並び、広い面積の接着が必要な場合でも、インクジェットヘッド1全体として広い面積を強固に接着接合することができるため、インクジェットヘッド1内部で液室5の隔壁4だけが剥離して、インクの内部リークを引き起こすといった不具合を長期間防止することができる。
【0055】
また本発明の効果は、接着剤による隔壁4との接合面が一方が樹脂材料で形成され、他方が金属材料で形成されていれば得られる。このとき、ノズル板6と振動板3の一方が金属材料自体で形成され、他方が樹脂材料自体で形成されていてもよいし、それぞれの接合面にのみ金属薄膜や樹脂コーティングを施したものでもよい。
【0056】
なお上記の実施例では、ノズル板6の隔壁4との接合面が金属材料で形成され、振動板3の隔壁4との接合面が樹脂材料(ポリイミドなどの樹脂コーティング)で形成される構成を示しているが、これに限られるものではなく、ノズル板6の隔壁4との接合面を樹脂材料で形成し、振動板3の隔壁4との接合面を金属材料で形成してもよい。この場合は、振動板3と隔壁4の接合部分に前述の第1の接着剤を用い、ノズル板6の隔壁4との接合部分に前述の第2の接着剤を用い、第2の接着剤の余剰分で硬化した第1の接着剤を被覆された状態とすることで同様の効果を奏することができる。
【0057】
すなわち、隔壁4と金属材料からなる接合面との接合を、金属との接合性が良好であるが耐インク性の劣る水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤を用いて行い、隔壁4と樹脂材料からなる接合面との接合を耐インク性の優れた低吸湿性の第2の接着剤により行い、さらに第2の接着剤で第1の接着剤を被覆することで、隔壁4と金属材料からなる接合面との接合部の耐インク性も向上させるものである。なお、ここで隔壁4に関しては、図3に示すように全体が第2の接着剤で被覆されてインクと接する界面が存在しないため、材料によらず接着剤の剥がれは生じない。
【0058】
つぎに、本発明に係るインクジェットヘッド(図3に示すインクジェットヘッド1)の製造方法について説明する。
図4は、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法に関する第1の実施形態を示す工程図である。ここでは、液室ユニットの液室短辺長方向の断面図を示している。
以下、図4に従い、本発明のインクジェットヘッド1の製造工程を説明する。
【0059】
(S11) まずステンレス鋼の薄板材に液室5、流体抵抗部7、共通液室8を区画するためのプレス加工による抜き穴が設けられた隔壁4を用意する(図4(a))。
(S12) 隔壁4の一方の面(図中上側の面)に第1の接着剤21aを塗布した後、第1の接着剤21aに含まれる溶媒を蒸発させる(図4(b))。このとき、隔壁4においてノズル板6との接合面だけに第1の接着剤21aを塗布するのではなく、液室5を構成する壁面となる面にも少し被るように塗布するとよい。
(S13) ついで、隔壁4の第1の接着剤21aが塗布された面とは反対側の面(図4では、第1の接着剤21a塗布後に隔壁4を反転させているため上側の面)に第2の接着剤22aを塗布した後、第2の接着剤22aに含まれる溶媒を蒸発させる(図4(c))。このとき、隔壁4において振動板3との接合面だけに第2の接着剤22aを塗布するのではなく、液室5を構成する壁面となる面において、第2の接着剤22aと第1の接着剤21aの境界部分では、第2の接着剤22aが第1の接着剤21aの上に少し被っている状態となるように塗布するとよい。また、第2の接着剤22aの塗布量は、振動板3と隔壁4の接着接合の際に余剰分が生じるように第1の接着剤21aよりも多めとするよい。
以上、ステップS12,13が接着剤塗布工程である。
【0060】
(S14) 隔壁4の第1の接着剤21aが塗布された面と金属材料で形成されたノズル板6とを貼り合わせる(図4(d)、第1貼り合わせ工程)。これにより、第1の接着剤21aはノズル板6と隔壁4の間で押しつぶされ、図3の接着接合部分の硬化樹脂21のように液室5側に若干はみ出すようになる。このとき、隔壁4と隔壁4の間の所定位置にノズル孔6aが配置されるように貼り合せる。また、ノズル板6の板面がSiO2などの金属酸化物で被覆されていた場合には、ノズル板6表面をプラズマ処理した後に貼り合わせるとよい。
(S15) ついで、隔壁4の第2の接着剤22aが塗布された面と接合面に樹脂コーティングが施された振動板3とを貼り合わせる(図4(e)、第2貼り合わせ工程)。これにより、第2の接着剤22aは振動板3と隔壁4の間で押しつぶされ、液室5側に若干はみ出すようになる。
【0061】
(S16) 隔壁4を振動板3とノズル板6で挟んだ状態で加熱を行い、ノズル板6と隔壁4との貼り合わせ部分における第1の接着剤21aと、振動板3と隔壁4との貼り合わせ部分における第2の接着剤22aを硬化させる(加熱硬化工程)。ここで、加熱パターンは、徐々に昇温した後に、所定の硬化温度で保持し、ついで常温まで徐冷するものとする。これによりつぎのような処理が行われる。
【0062】
(昇温過程)加熱前半において徐々に昇温することにより、第1の接着剤21a、第2の接着剤22aが流動性をもつようになり、後から塗布した第2の接着剤22aの余剰分がその表面張力により滑らかにノズル板6と隔壁4との貼り合わせ部分の第1の接着剤21aであって液室5内部に面する部分を被覆するようになる(図4(f))。このとき、第1の接着剤21a、第2の接着剤22aが流動性をもつようにするために、第1の接着剤21aの主剤樹脂(モノマー樹脂)、第2の接着剤22aの主剤樹脂(モノマー樹脂)それぞれが流動性を有する温度が硬化温度よりも低い材料を選択する必要がある。また、第2の接着剤22aの余剰分の移動は表面張力によるため、振動板3とノズル板6の上下関係はどちらが上でもかまわないが、第2の接着剤22aの余剰分の移動に重力が作用するとより速く第1の接着剤21aを被覆することができるため、図4(e)に示すように、ノズル板6よりも振動板3が上となるようにするとよい。また、同時に加熱によりそれぞれの接着剤の溶媒が揮発するが、第1の接着剤21aと第2の接着剤22aの溶媒を同一としておくと、両者の層分離などが起こりにくくなり好ましい。
【0063】
(加熱硬化過程)さらに昇温して硬化剤の反応開始点を超えると第1の接着剤21a、第2の接着剤22aの硬化反応が始まり、前述のように第1の接着剤21aを第2の接着剤22aの余剰分が被覆した状態(図4(f)の状態)で第1の接着剤21a及び第2の接着剤22aが硬化する。このとき、第1の接着剤21aの硬化剤と第2の接着剤22aの硬化剤を同一のものとしておくと、第1の接着剤21aと第2の接着剤22aでほぼ同時に硬化反応が始まり、第1の接着剤21aと第2の接着剤22aのそれぞれのエポキシ樹脂同士も硬化剤により一つの硬化樹脂として硬化するようになる。その結果、第1の接着剤21aが硬化したもの(硬化樹脂21)と第2の接着剤が硬化したもの(硬化樹脂23)の間で界面剥離が起こるような問題を防止することができ、界面に沿ったインク成分の浸透も防止することができる。
【0064】
(徐冷過程)第1の接着剤21aが硬化したもの(硬化樹脂21)と第2の接着剤22aが硬化したもの(硬化樹脂23)で熱膨張係数が異なるため、急冷すると両者の間で界面剥離が発生することがあるため、これを回避するため徐冷することが好ましい。
【0065】
以上のように、本発明のインクジェットヘッドの製造方法によれば、所定の接着剤塗布工程、第1貼り合わせ工程、第2貼り合わせ工程、加熱硬化工程により、簡便な方法で、本発明のインクジェットヘッド1を製造することが可能である。
【0066】
図5は、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法に関する第2の実施形態を示す工程図である。ここでは、液室ユニットの液室短辺長方向の断面図を示している。
本実施形態では、第1の実施形態と比較して、第1貼り合わせ工程と第2貼り合わせ工程を同時に行う点で異なり、前半の工程(図5(a)〜(c))はステップS11〜S13(図4(a)〜(c))と同じである。したがって、ここでは図5(d),(e)に示す工程について説明する。
【0067】
(S24) 隔壁4を挟んで隔壁4の第1の接着剤21aが塗布された面側にノズル板6を配置し、隔壁4の第2の接着剤22aが塗布された面側に振動板3を配置して、隔壁4に対して金属材料で形成されたノズル板6、接合面に樹脂コーティング層が形成された振動板3を貼り合せる(図5(d)貼り合わせ工程)。これにより、第1の接着剤21aはノズル板6と隔壁4の間で押しつぶされ、図3の接着接合部分の硬化樹脂21のように液室5側に若干はみ出すようになる。また、第2の接着剤22aは振動板3と隔壁4の間で押しつぶされ、液室5側に若干はみ出すようになる。
【0068】
(S25) 隔壁4を振動板3とノズル板6で挟んだ状態で加熱を行い、ノズル板6と隔壁4との貼り合わせ部分における第1の接着剤21aと、振動板3と隔壁4との貼り合わせ部分における第2の接着剤22aを硬化させる(加熱硬化工程)。ここで、加熱パターンは、第1の実施形態と同様に、徐々に昇温した後に、所定の硬化温度で保持し、ついで常温まで徐冷するものとする。これにより次のように接着工程が進行する。
【0069】
(昇温過程)加熱前半において徐々に昇温することにより、第1の接着剤21a、第2の接着剤22aが流動性をもつようになり、後から塗布した第2の接着剤22aの余剰分がその表面張力により滑らかにノズル板6と隔壁4との貼り合わせ部分の第1の接着剤21aであって液室5内部に面する部分を被覆するようになる(図5(e))。
(加熱硬化過程)さらに昇温して、前述のように第1の接着剤21aを第2の接着剤22aの余剰分が被覆した状態(図5(e)の状態)で第1の接着剤21a及び第2の接着剤22aを硬化させる。
(徐冷過程)第1の接着剤21aが硬化したもの(硬化樹脂21)と第2の接着剤22aが硬化したもの(硬化樹脂23)の間での界面剥離を防止するために徐冷する。
【0070】
以上のように、本発明のインクジェットヘッドの製造方法によれば、所定の接着剤塗布工程、貼り合わせ工程、加熱硬化工程により、簡便な方法で、本発明のインクジェットヘッド1を製造することが可能である。
【0071】
なお上記の製造方法の実施例において、ノズル板6として隔壁4との接合面を樹脂材料で形成したものを採用し、振動板3として隔壁4との接合面を金属材料で形成したものを採用してもよい。この場合は、振動板3と隔壁4の接合工程に前述の第1の接着剤を用い、ノズル板6の隔壁4との接合工程に前述の第2の接着剤を用い、第2の接着剤の余剰分で硬化した第1の接着剤を被覆する工程を行うことで同様の効果を奏することができる。
【0072】
ところで、インクジェットヘッド1の液室5周辺の接着接合では接合強度を確保するために、ある程度の接着剤のはみ出しは必要であるが、そのはみ出し量が大きすぎても問題を生じる。すなわち、インクジェットヘッド1において、隔壁4とノズル板6の接着では、第1の接着剤21aの液室5内へのはみ出しがノズル孔6aにかかると、正常な吐出が妨げられてしまう。また、隔壁4と振動板3の接着では、第2の接着剤22aの液室5内へのはみ出しが大きすぎれば振動板3の変形を妨げてしまう。
【0073】
特に、図3に示すインクジェット1では、液室5内においてはみ出した第1の接着剤21aをさらに外側から第2の接着剤22aで覆う構成であるため、液室5内への接着剤のはみ出し量が大きくなりやすかった。また、液室5内への接着剤のはみ出しによる問題発生を防止しつつ接着接合部分のインクに対する十分な接液性を確保するためには、第1の接着剤21aの塗布量を少量に制限して第1の接着剤21aのはみ出し量を少なくし、第2の接着剤22aで第1の接着剤21aを厚く覆うことが考えられるが、それでは隔壁4とノズル板6との接着強度が不十分なものとなってしまった。
発明者は、隔壁4の接合面に工夫を施すことにより、この問題の解決を図った。以下、その実施形態について説明する。
【0074】
図6は、本発明に係るインクジェットヘッドの要部構成(2)を示す断面概略図である。ここでは、ノズル板6と、振動板3と、ノズル板6と振動板3の間に設けられる隔壁4’と、により区画されて複数の液室5が形成されている液室ユニットにおける接合部分の模式図を示している。
【0075】
本構成のインクジェットヘッドは、図3のインクジェットヘッド1の構成と比べると、隔壁4’及び接着接合部分における硬化樹脂21,22,23のはみ出し状態が異なり、それ以外は図3のものと同じである。そのため、ここでは図3の構成と相違する部分について説明する。
【0076】
まず隔壁4’は、振動板3とノズル板6との間に挟まれる部材であって、例えばステンレス鋼の薄板材に液室5等を区画するためのプレス加工による抜き穴が設けられたものである。ここで、隔壁4’におけるノズル板6と接着接合する面(以下、接着する面)は、粗面化されて微細な凹凸が設けられた状態となっている。詳しくは、隔壁4’におけるノズル板6と接着する面は、第1の接着剤21aがその面内で流動可能な逃げ溝4aを有しており、複数の逃げ溝4aにより微細な凹凸が形成されている。
【0077】
逃げ溝4aは、幅及び深さが0.5〜10μm程度でその長さ方向がある程度揃った複数の微細な溝であって、隔壁4’のノズル板6と接着する面において、その面内から液室5への連通が制限されるように配置されている。すなわち、逃げ溝4aによって形成された微細な凹凸は液室5に連通しない、あるいはほぼ規則的、均等に連通していることが好ましい。隔壁4’のノズル板6と接着する面の凹部が液室5に連通していると、その部分の接着剤(第1の接着剤21a)のはみ出しは比較的大きくなるが、液室5内にはみ出した接着剤のはみ出し量に液室5ごとに大きなばらつきが有ると、ノズル間で等速でのインクの吐出が難しくなり、着弾位置バラツキの要因に成りうるからである。したがって、接着剤の液室5へのはみ出し幅がほぼ均等になるように逃げ溝4aを形成することが好ましい。図6では、逃げ溝4aは、その長さ方向が紙面垂直方向(図1において液室5の長さ方向)となるように配置されている。また、逃げ溝4a同士は完全に独立しているのではなく、部分的に逃げ溝4a同士が繋がった構造が好ましい。これにより、第1の接着剤21aとともに逃げ溝4aに入り込んだ空気を抜くことが可能となる。
また、逃げ溝4aの幅や深さは塗布される第1の接着剤21aの濃度や濡れ性、溶融粘度に合わせて適宜調整するとよい。
【0078】
本実施形態では、第1の接着剤21aは、接着強度の面からは常温で液体のエポキシを用いた接着剤、あるいは溶剤に樹脂を溶解させた、少なくとも塗布直後に常温で流動性を持つ接着剤であることが好ましい。逃げ溝4aに空気だまりが有ると接着剤を硬化させるための加熱で閉じ込められた空気が膨張してしまい、接着強度が低下する原因になることから、逃げ溝4aが流動性のある接着剤で埋り、逃げ溝4aに空気だまりができない状態にしてから接着する。
なお、第1の接着剤21aとして、常温で固体のエポキシ樹脂を用いた場合、溶媒を飛ばすことでタック性を有するようにすることができることから接着接合時の部材の取り扱いが容易となる。また、エポキシ樹脂の弾性率が高いため接着力が高くなる。しかし、溶融粘度は低い傾向が有ることから逃げ溝4aに対応するために、塗布の段階では溶剤などに溶かして流動性を持たせた状態とすることが好ましい。また、ゲル状の第1の接着剤21aでは、加圧等で該接着剤を強制的に逃げ溝4aに行き渡らせる必要性が有る。
【0079】
以上のように、本実施形態のインクジェットヘッド1によれば、図3の場合と同様に、ノズル板6と隔壁4’が、水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤21aにより接着接合されているので、液室5ごとの面積の広い接合部分において十分な接合強度を確保することができる。また第1の接着剤21aよりも低吸湿性の第2の接着剤22aにより、ノズル板6と隔壁4’との接着接合部分であって液室5内部に面する部分が被覆されているので、面積の広い接合部分においても液室5内のインクから第1の接着剤21aで接着接合された部分(硬化樹脂21)が保護されて、十分な耐インク性が確保され、必要な接合強度を長期間保持することができ信頼性の高いものになる。
【0080】
また、本実施形態特有の優れた効果として、隔壁4’におけるノズル板6と接着する面に逃げ溝4aを設けることにより、同量の第1の接着剤21aを塗布してノズル板6と貼り合わせた場合、逃げ溝4aを設けていない隔壁4の場合(図3)と比べて、その第1の接着剤21aの液室5側へのはみ出し量は少なくなる(図6)。したがって、ノズル孔6aに接着剤がかかることがなくなりインクジェットヘッド1として正常な吐出性能を確実に得ることが可能である。また、隔壁4’とノズル板6との接着接合部分において第1の接着剤21aの硬化樹脂21を第2の接着剤22aの余剰分の硬化樹脂23でより厚く覆うことができるようになり(図6)、耐インク性(インクに対する接液性)もよりよくすることができる。また、逃げ溝4aを形成することによって隔壁4’におけるノズル板6と接着する面の表面積が大きくなっていることから、第1の接着剤21aとの接合面積が大きくなり、より強い接着強度が確保できる。さらに、逃げ溝4aの深さ分だけ隔壁4’とノズル板6との間の硬化樹脂21の厚さを厚くできるので、隔壁4’とノズル板6の接合部分に高い弾性を付与することができ、インクジェットヘッド1としての耐久性を向上させることができる。
【0081】
なお、図6に示すように、隔壁4’における振動板3と接着する面(図中、上側の面)にも、逃げ溝4aと同様の微細な溝である逃げ溝4bを設けて、その表面に微細な凹凸を形成してもよい。これにより、隔壁4’における振動板3と接着する面の表面積が大きくなることから、第2の接着剤22aとの接合面積が大きくなり、より強い接着強度を確保することができる。さらに、逃げ溝4bの深さ分だけ隔壁4’と振動板3との間の硬化樹脂22の厚さを厚くできるので、隔壁4’と振動板3の接合部分に高い弾性を付与することができ、インクジェットヘッド1としての耐久性を向上させることができる。
【0082】
逃げ溝4a,4bの形成方法としては、研磨、エッチング、プレス工法で生じるバリを利用する方法などいずれの方法でもよく、特に限定されない。
【0083】
つぎに、本発明に係るインクジェットヘッド(図6に示すインクジェットヘッド1)の製造方法について説明する。
図7は、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法に関する第3の実施形態を示す工程図である。ここでは、液室ユニットの液室短辺長方向の断面図を示している。
本実施形態では、第1の実施形態と比較して、隔壁4に代えて逃げ溝4a,4bを有する隔壁4’を用いている点で異なり、それ以外の条件は同じである。したがって、ここでは第1の実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0084】
(S31) まずステンレス鋼の薄板材に液室5、流体抵抗部7、共通液室8を区画するためのプレス加工による抜き穴と、研磨等により逃げ溝4a,4bが設けられた隔壁4’を用意する(図7(a))。
(S32) 隔壁4’の一方の面(図中上側の面)に第1の接着剤21aを塗布した後、第1の接着剤21aに含まれる溶媒を蒸発させる(図7(b))。
(S33) ついで、隔壁4’の第1の接着剤21aが塗布された面とは反対側の面(図7では、第1の接着剤21a塗布後に隔壁4’を反転させているため上側の面)に第2の接着剤22aを塗布した後、第2の接着剤22aに含まれる溶媒を蒸発させる(図7(c))。
以上、ステップS32,33が接着剤塗布工程である。
【0085】
(S34) 隔壁4’の第1の接着剤21aが塗布された面とノズル板6とを貼り合わせる(図7(d)、第1貼り合わせ工程)。これにより、第1の接着剤21aはノズル板6と隔壁4’の間で押しつぶされ、図6の接着接合部分の硬化樹脂21のように液室5側に若干はみ出すようになるが、隔壁4’に形成した逃げ溝4aにより、逃げ溝が無い場合(図4)と比べて同量の第1の接着剤21aを塗布してもはみ出し量を少なくすることができる。
(S35) ついで、隔壁4’の第2の接着剤22aが塗布された面と振動板3とを貼り合わせる(図7(e)、第2貼り合わせ工程)。これにより、第2の接着剤22aは振動板3と隔壁4’の間で押しつぶされ、液室5側に若干はみ出すようになる。
【0086】
(S36) 隔壁4’を振動板3とノズル板6で挟んだ状態で加熱を行い、ノズル板6と隔壁4’との貼り合わせ部分における第1の接着剤21aと、振動板3と隔壁4’との貼り合わせ部分における第2の接着剤22aを硬化させる(加熱硬化工程)。
本工程における加熱パターン、すなわち昇温過程、加熱硬化過程、徐冷過程の条件は、第1の実施形態(図4)と同じであり、それぞれの過程で起こる現象も第1の実施形態の場合と同じである。なお、隔壁4’のノズル板6との接合面側に逃げ溝4aを形成していることで、第1の接着剤21aは逃げ溝が無い場合(図4)と比べてはみ出し量が抑制されているため、ノズル板6と隔壁4’との貼り合わせ部分の第1の接着剤21aであって液室5内部に面する部分は図4の場合よりも小さくなっており、昇温過程において移動してくる第2の接着剤22aの余剰分により相対的により厚く覆うことができる。
【0087】
以上のように、本発明のインクジェットヘッドの製造方法によれば、所定の接着剤塗布工程、第1貼り合わせ工程、第2貼り合わせ工程、加熱硬化工程により、簡便な方法で、本発明のインクジェットヘッド1を製造することが可能である。
【0088】
図8は、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法に関する第4の実施形態を示す工程図である。ここでは、液室ユニットの液室短辺長方向の断面図を示している。
本実施形態では、第2の実施形態と比較して、隔壁4に代えて逃げ溝4a,4bを有する隔壁4’を用いている点で異なり、それ以外の条件は同じである。したがって、ここでは第2の実施形態と相違する点として、図8(d),(e)に示す工程について説明する。
【0089】
(S44) 隔壁4’を挟んで隔壁4’の第1の接着剤21aが塗布された面側にノズル板6を配置し、隔壁4’の第2の接着剤22aが塗布された面側に振動板3を配置して、隔壁4’に対してノズル板6、振動板3を貼り合せる(図8(d)貼り合わせ工程)。これにより、第1の接着剤21aはノズル板6と隔壁4’の間で押しつぶされ、図6の接着接合部分の硬化樹脂21のように液室5側に若干はみ出すようになる。本実施形態では、隔壁4’に逃げ溝4aを設けたことで、第2の実施形態(図5)と比べて、同量の第1の接着剤21aを塗布してもはみ出し量を少なくすることができる。また、逃げ溝4aにより接合面積が大きくなっており、十分な接着強度を得ることができる。また、第2の接着剤22aは振動板3と隔壁4’の間で押しつぶされ、液室5側に若干はみ出すようになる。
【0090】
(S45) 隔壁4’を振動板3とノズル板6で挟んだ状態で加熱を行い、ノズル板6と隔壁4’との貼り合わせ部分における第1の接着剤21aと、振動板3と隔壁4’との貼り合わせ部分における第2の接着剤22aを硬化させる(加熱硬化工程)。ここでも、加熱パターン、すなわち昇温過程、加熱硬化過程、徐冷過程の条件は、第2の実施形態(図5)と同じであり、それぞれの過程で起こる現象も第2の実施形態の場合と同じである。なお、隔壁4’のノズル板6との接合面側に逃げ溝4aを形成していることで、第1の接着剤21aは逃げ溝が無い場合(図5)と比べてはみ出し量が抑制されているため、ノズル板6と隔壁4’との貼り合わせ部分の第1の接着剤21aであって液室5内部に面する部分は図5の場合よりも小さくなっており、昇温過程において移動してくる第2の接着剤22aの余剰分により相対的により厚く覆うことができる。
【0091】
以上のように、本発明のインクジェットヘッドの製造方法によれば、所定の接着剤塗布工程、貼り合わせ工程、加熱硬化工程により、簡便な方法で、本発明のインクジェットヘッド1を製造することが可能である。
【0092】
ところで、前述した本発明のインクジェットヘッドに対してインクなどの液体を供給する液体タンクを一体化して液体カートリッジとしてもよい。
図9に、その液体カートリッジであるインクカートリッジの外観図を示す。このインクカートリッジ80は、ノズル孔6a等を有する前述した本発明に係るインクジェットヘッド1と、このインクジェットヘッド1に対してインクを供給する液体タンクであるインクタンク82とを一体化したものである。このようにインクタンク82が一体型のインクジェットヘッド1の場合、アクチュエータ部を高精度化、高密度化、および高信頼化することで、インクカートリッジ80の歩留まりや信頼性を向上することができ、インクカートリッジ80の低コスト化を図ることができる。
【0093】
つぎに、本発明に係る画像形成装置について説明する。
本発明に係る画像形成装置は、液滴を吐出させて画像を形成する画像形成装置であって、前述した本発明のインクジェットヘッド又は本発明の一体型インクジェットヘッドユニットである液体カートリッジを備えていることを特徴とする。
ここでは、図10及び図11を用いて、本発明のインクジェットヘッド1を搭載した画像形成装置であるインクジェット記録装置を実施例として説明する。なお、図10は同記録装置の斜視説明図、図11は同記録装置の機構部の側面説明図である。
【0094】
このインクジェット記録装置は、記録装置本体の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ98、キャリッジ98に搭載した本発明のインクジェットヘッド(記録ヘッド)1、インクジェットヘッド1へインクを供給するインクカートリッジ99等で構成される印字機構部91等を収納し、装置本体の下方部には前方側から多数枚の用紙92を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)93を抜き差し自在に装着することができる。また、用紙92を手差しで給紙するために開かれる手差しトレイ94を有し、給紙カセット93あるいは手差しトレイ94から給送される用紙92を取り込み、印字機構部91によって所要の画像を記録した後、後面側の装着された排紙トレイ95に排紙する。
【0095】
印字機構部91は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド96と従ガイドロッド97とキャリッジ98を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ98には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンダ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出するインクジェットヘッド1を複数のインク吐出口(ノズル孔6a)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ98にはインクジェットヘッド1に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ99を交換可能に装着している。
【0096】
インクカートリッジ99は、上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッド1へインクを供給する供給口が設けられ、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッド1へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、インクジェットヘッド1としては各色のインクジェットヘッド1を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズル孔6aを有する1個の液出ヘッドでもよい。
【0097】
ここで、キャリッジ98は後方側(用紙搬送下流側)を主ガイドロッド96に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送上流側)を従ガイドロッド97に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ98を主走査方向に移動走査するため、主走査モーター101で回転駆動される駆動プーリ102と従動プーリ103との間にタイミングベルト104を張装し、このタイミングベルト104をキャリッジ98に固定しており、主走査モーター101の正逆回転によりキャリッジ98が往復駆動される。
【0098】
一方、給紙カセット93にセットした用紙92をインクジェットヘッド1に下方側に搬送するために、給紙カセット93から用紙92を分離給装する給紙ローラー105及びフリクションパッド106と、用紙92を案内するガイド部材107と、給紙された用紙92を反転させて搬送する搬送ローラー108と、この搬送ローラー108の周面に押し付けられる搬送コロ109及び搬送ローラー108からの用紙92の送り出し角度を規定する先端コロ110とを有する。搬送ローラー108は副走査モーターによってギア列を介して回転駆動される。
【0099】
そして、キャリッジ98の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラー108から送り出された用紙92をインクジェットヘッド1の下方側で案内するため用紙ガイド部材である印写受け部材111を設けている。この印写受け部材111の用紙搬送方向下流側には、用紙92を排紙方向へ送り出すための回転駆動される搬送コロ112と拍車113を設け、さらに用紙92を排紙トレイ95に送り出す排紙ローラー114と拍車115と排紙経路を形成するガイド部材116,117とを配設している。
【0100】
このインクジェット記録装置90で記録時には、キャリッジ98を移動させながら画像信号に応じてインクジェットヘッド1を駆動することにより、停止している用紙92にインクを吐出して1行分を記録し、その後、用紙92を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号または用紙92の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙92を排紙する。
【0101】
また、キャリッジ98の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、インクジェットヘッド1の吐出不良を回復するための回復装置118を配置している。回復装置118はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ98は印字待機中にはこの回復装置118側に移動されてキャップ手段でインクジェットヘッド1をキャッピングして吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係ないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出状態を維持する。
【0102】
また、吐出不良が発生した場合等には、キャップ手段でインクジェットヘッド1の吐出出口(ノズル孔6a)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともの気泡等を吸出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0103】
このように、このインクジェット記録装置90においては本発明のインクジェットヘッド1を搭載しているので、安定したインク吐出特性が得られ、画像品質が向上する。なお、ここではインクジェット記録装置90にインクジェットヘッド1を使用した場合について説明したが、インク以外の液滴、例えば、パターニング用の液体レジストを吐出する装置にインクジェットヘッド1を適用してもよい。
【0104】
なお、本願において、「用紙」とは材質を紙に限定するものではなく、OHP、布、ガラス、基板などを含み、インク滴、その他の液体などが付着可能なものの意味であり、被記録媒体、記録媒体、記録紙、記録用紙などと称されるものを含む。また、画像形成、記録、印字、印写、印刷はいずれも同義語とする。
【0105】
また、「画像形成装置」は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味し、また、「画像形成」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与すること(単に液滴を媒体に着弾させること)をも意味する。
【0106】
また、「インク」とは、特に限定しない限り、インクと称されるものに限らず、記録液、定着処理液、液体などと称されるものなど、画像形成を行うことができるすべての液体の総称として用い、例えば、DNA試料、レジスト、パターン材料、樹脂なども含まれる。
【0107】
また、「画像」とは平面的なものに限らず、立体的に形成されたものに付与された画像、また立体自体を三次元的に造形して形成された像も含まれる。
【0108】
また、画像形成装置には、特に限定しない限り、シリアル型画像形成装置及びライン型画像形成装置のいずれも含まれる。
【実施例】
【0109】
以下、本発明の実施例を説明する。
〔実施例A〕
(実施例A1)
つぎの条件で、インクジェットヘッド1の液室ユニット(接合サンプルA)を作製した。
(1)部材
・振動板3 ;Ni箔(厚さ27μm、表面をポリイミド樹脂でコーティング)
・隔壁4 ;ステンレス薄板(厚さ40μm)
・ノズル板6;ステンレス薄板(厚さ50μm、表面にSiOがスパッタリングにより被覆されているもの、接着接合表面をプラズマ処理してから使用した)
【0110】
(2)接着剤
(a)第1の接着剤21a;以下の薬剤をブレンドして得た。
・主剤樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂 100重量部
(商品名jER1010(エポキシ当量3000〜5000)、三菱化学社製)
・硬化剤 ;アミン系硬化剤 0.14重量部
(商品名DICY7(ジシアンジアミンを主とする、三菱化学社製)
・溶媒 ;メチルエチルケトン(MEK) 482.1重量部
(関東化学社製)
(b)第2の接着剤22a;以下の薬剤をブレンドして得た。
・主剤樹脂;DCPD型エポキシ樹脂 100重量部
(商品名EPICLON HP-7200HH、DIC社製)
・硬化剤 ;アミン系硬化剤 3.39重量部
(商品名DICY7(ジシアンジアミンを主とする、三菱化学社製)
・溶媒 ;メチルエチルケトン(MEK) 497.7重量部
(関東化学社製)
【0111】
(3)作製手順
図5に示す作製手順(本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の第2の実施形態)に従い、液室ユニットの接合サンプルAを作製した。
なお、ステップS25(加熱硬化工程)における加熱パターンは、まず常温から徐々に昇温して175℃とした後、その温度で7時間加熱を保持し、ついで8時間かけて常温まで冷却するものとした。
ここで、第1の接着剤21aの主剤樹脂(jER1010)のガラス転移点は140℃前後であり、第2の接着剤22aの主剤樹脂(EPICLON HP-7200HH)の軟化点は15℃であることから、昇温過程において、第1の接着剤21a、第2の接着剤22a共に流動性を示した。このとき、第2の接着剤22aは、第1の接着剤21aに比べて塗布量が多く、かつ第1の接着剤21aよりも後で塗布されているので、その表面張力により滑らかにノズル板6と隔壁4との貼り合わせ部分の第1の接着剤21aであって液室5内部に面する部分を被覆した。同時に、加熱により第1の接着剤21a、第2の接着剤22aそれぞれの溶媒が揮発するが、両者は同一の溶媒(MEK)であるため、はっきりとした層分離をしにくくなり、両者の界面は曖昧な状態となった。
また、加熱硬化過程において、第1の接着剤21aと第2の接着剤22aでは同一の硬化剤(DICY7)としているため、第1の接着剤21aと第2の接着剤22aはほぼ同時に硬化反応が始まり、それぞれの主剤樹脂(エポキシ樹脂)が一つの硬化樹脂として硬化した。その結果、硬化樹脂21と硬化樹脂23の間で界面剥離が生じにくい状態となった。
【0112】
(実施例A2)
つぎの条件で、インクジェットヘッド1の液室ユニット(接合サンプルB)を作製した。
(1)部材
・振動板3 ;Ni箔(厚さ27μm、表面をポリイミド樹脂でコーティング)
・隔壁4 ;ステンレス薄板(厚さ40μm)
・ノズル板6;ステンレス薄板(厚さ50μm、表面にSiOがスパッタリングにより被覆されているもの、接着接合表面をプラズマ処理してから使用した)
【0113】
(2)接着剤
(a)第1の接着剤21a;以下の薬剤をブレンドして得た。
・主剤樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂 100重量部
(商品名jER827(エポキシ当量180〜190)、三菱化学社製)
・硬化剤 ;アミン系硬化剤 4重量部
(商品名DICY7(ジシアンジアミンを主とする、三菱化学社製)
・溶媒 ;メチルエチルケトン(MEK) 500.65重量部
(関東化学社製)
(b)第2の接着剤22a;以下の薬剤をブレンドして得た。
・主剤樹脂;DCPD型エポキシ樹脂 100重量部
(商品名EPICLON HP-7200HH、DIC社製)
・硬化剤 ;アミン系硬化剤 3.39重量部
(商品名DICY7(ジシアンジアミンを主とする、三菱化学社製)
・溶媒 ;メチルエチルケトン(MEK) 497.7重量部
(関東化学社製)
【0114】
(3)作製手順
図4に示す作製手順(本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の第1の実施形態)に従い、液室ユニットの接合サンプルBを作製した。
なお、ステップS16(加熱硬化工程)における加熱パターンは、まず常温から徐々に昇温して175℃とした後、その温度で7時間加熱を保持し、ついで8時間かけて常温まで冷却するものとした。ここで、第1の接着剤21aの主剤樹脂(jER827)は常温液体であり、第2の接着剤22aの主剤樹脂(EPICLON HP-7200HH)の軟化点は15℃であることから、昇温過程において、第1の接着剤21a、第2の接着剤22a共に流動性を示した。このとき、第2の接着剤22aは、第1の接着剤21aに比べて塗布量が多く、かつ第1の接着剤21aよりも後で塗布されているので、その表面張力により滑らかにノズル板6と隔壁4との貼り合わせ部分の第1の接着剤21aであって液室5内部に面する部分を被覆した。同時に、加熱により第1の接着剤21a、第2の接着剤22aそれぞれの溶媒が揮発するが、両者は同一の溶媒(MEK)であるため、はっきりとした層分離をしにくくなり、両者の界面は曖昧な状態となった。
また、加熱硬化過程において、第1の接着剤21aと第2の接着剤22aでは同一の硬化剤(DICY7)としているため、第1の接着剤21aと第2の接着剤22aはほぼ同時に硬化反応が始まり、それぞれの主剤樹脂(エポキシ樹脂)が一つの硬化樹脂として硬化した。その結果、硬化樹脂21と硬化樹脂23の間で界面剥離が生じにくい状態となった。
【0115】
(比較例A1)
実施例A1において、第2の接着剤22aを第1の接着剤21aに置き換えて、隔壁4の両面に第1の接着剤21aを塗布し、それ以外は実施例A1と同じ条件で液室ユニットの接合サンプルCを作製した。
【0116】
(比較例A2)
実施例A1において、第1の接着剤21aを第2の接着剤22aに置き換えて、隔壁4の両面に第2の接着剤22aを塗布し、それ以外は実施例A1と同じ条件で液室ユニットの接合サンプルDを作製した。
【0117】
(サンプル評価)
以上のようにして得られた接合サンプルA〜Dについて、以下の評価を行った。
(1)インク接液後の剥離強度測定
接合サンプルA,B,C,Dを下記に示すインクXに60℃に加熱しながら180日間浸漬し、その接合サンプルを期間中所定の日数ごとに取り出して、接合サンプルにおけるノズル板6と隔壁4との剥離強度を測定した。
なお、剥離強度は、引張試験機と専用の治具を用いて、次の手順で90°剥離試験を行い測定した。
(手順1)接合サンプルの一端におけるノズル板6と隔壁4の間の接着部分を少し剥がす。
(手順2)ノズル板6を台座に固定し、ノズル板6から剥した振動板3及び隔壁4をその板面がノズル板6の板面に対して90°となるように撓ませる。
(手順3)引張試験機により振動板3及び隔壁4をその引張方向がノズル板6の板面に対して常に90°方向となるように1mm/minの速度で引張り、その抵抗力を剥離強度として測定する。
【0118】
(インクX)
まず、下記成分のうち、各湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、水を混合して一時間攪拌を行い均一な混合液とする。つぎに、この混合液に対して色材、消泡剤を添加して一時間攪拌し、ついでこの分散液を0.8μmセルロースアセテートメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去し、評価に用いるインクXとした。
【0119】
(インクX成分)
・色材;顔料樹脂分散液(REGAL660R分散液(Cabot社製))
25.8mass%
・溶剤;
・・アミド系湿潤剤;N−メチル−2−ピロリドン 25.0mass%
・・アルコール系湿潤剤;グリセリン 10.0mass%
1,3−ブタンジオール 5.0mass%
・浸透剤;1,2−ヘキサンジオール 2.0mass%
・界面活性剤;BYK−348(ビックケミー社製) 1.0mass%
・水 31.2mass%
(合計100mass%)
【0120】
図12に、接合サンプルの剥離強度の測定結果を示す。
図12に示すように、実施例A1の接合サンプルA(図中、●プロット)は、インクXに浸漬する前で高い剥離強度を示し(初期剥離強度)、試験期間中剥離強度が低下することはなかった。また、実施例A2の接合サンプルB(図中、■プロット)は、接合サンプルAよりも低い値であるが、ある程度の初期剥離強度を示し、試験期間中その値が低下することはなかった。
一方、比較例A1の接合サンプルC(図中、▲プロット)は、高い初期剥離強度を示したが、その後3週間で急激に剥離強度が低下し、それ以降も徐々に剥離強度の低下が見られた。また、比較例A2の接合サンプルD(図中、×プロット)は、初期から極めて低い剥離強度を示し、試験期間中その値が変化することはなかった。
【0121】
(2)ヘッド耐久性
接合サンプルA,B,C,Dを用いて図1,図2に示す構成のインクジェットヘッドを作製し、それぞれをヘッドサンプルA,B,C,Dとした。ついで、ヘッドサンプルA,B,C,Dに前記インクXを充填した状態で60℃に加熱して180日間保管し、そのヘッドサンプルA,B,C,Dを期間中所定の日数ごとに取り出して、インク吐出を行い、インク滴の吐出速度Vjを測定した。なお、インク滴の吐出速度の測定は、常温下でインクジェットヘッドの圧電体素子2の電極(共通電極10,個別電極11)に、電圧7.6V、周波数30Hz、波形PULLのパルス電圧を印加してインクXの吐出を行い、その吐出の様子を高速度カメラで撮影した動画をコマ送りして吐出速度を求めた。
【0122】
図13に、インクジェットヘッドサンプル(ヘッドサンプルA,B,C,D)のインク滴の吐出速度の測定結果を示す。
実施例A1,A2の接合サンプルを適用したヘッドサンプルA,B(図中、●,■プロット)は、試験期間中安定した高い吐出速度を示した。
一方、接合サンプルCを適用したヘッドサンプルC(図中、▲プロット)は、初期には高い吐出速度を示したが、122日目の測定でヘッドへのインク充填中にヘッドサンプルCが壊れてしまった。また、接合サンプルDを適用したヘッドサンプルD(図中、×プロット)は、初期の段階でインク充填の圧力に耐えられずに壊れてしまった。
【0123】
〔実施例B〕
(実施例B1)
実施例A1において、隔壁4を以下に示す隔壁4’に代え、それ以外は実施例A1と同じ条件で液室ユニットの接合サンプルEを作製した。
・隔壁4’ ;ステンレス薄板(厚さ40μm)。なお、それぞれの主面について一方向に研磨する研磨処理を行い、逃げ溝4a,4bを形成した。逃げ溝4a,4bの溝の幅は7〜10μm、溝の深さは2〜5μmであった。
【0124】
(実施例B2)
実施例A2において、隔壁4を下記の隔壁4’に代え、それ以外は実施例A2と同じ条件で液室ユニットの接合サンプルFを作製した。
・隔壁4’ ;ステンレス薄板(厚さ40μm)。なお、それぞれの主面について一方向に研磨する研磨処理を行い、逃げ溝4a,4bを形成した。逃げ溝4a,4bの溝の幅は7〜10μm、溝の深さは2〜5μmであった。
【0125】
(サンプル評価)
以上のようにして得られた接合サンプルE,F及び実施例Aで作製した接合サンプルA,Bについて、以下の評価を行った。
(1)インク接液後の剥離強度測定
接合サンプルA,B,E,Fを前述したインクXに70℃に加熱しながら510日間浸漬し、その接合サンプルを期間中所定の日数ごとに取り出して、接合サンプルにおけるノズル板6と隔壁4との剥離強度を測定した。
なお、剥離強度は、引張試験機と専用の治具を用いて、次の手順で90°剥離試験を行い測定した。
(手順1)接合サンプルの一端におけるノズル板6と隔壁4の間の接着部分を少し剥がす。
(手順2)ノズル板6を台座に固定し、ノズル板6から剥した振動板3及び隔壁4をその板面がノズル板6の板面に対して90°となるように撓ませる。
(手順3)引張試験機により振動板3及び隔壁4をその引張方向がノズル板6の板面に対して常に90°方向となるように1mm/minの速度で引張り、その抵抗力を剥離強度として測定する。
【0126】
図14に、接合サンプルの剥離強度の測定結果を示す。
図14に示すように、実施例B1の接合サンプルE(図中、◆プロット)は、インクXに浸漬する前で高い剥離強度を示し(初期剥離強度)、試験期間中剥離強度が低下することはなかった。また、実施例B2の接合サンプルF(図中、*プロット)は、接合サンプルEよりも低い値であるが、ある程度の初期剥離強度を示し、試験期間中その値が低下することはなかった。
一方、実施例A1の接合サンプルA(図中、●プロット)は、実施例B1の接合サンプルEよりもやや低い初期剥離強度を示し、それ以降ゆっくりとではあるが徐々に剥離強度の低下が見られた。また、実施例A2の接合サンプルB(図中、■プロット)は、実施例B2の接合サンプルFよりもやや低い初期剥離強度を示し、実施例A1と同じく、徐々に剥離強度の低下が見られた。
【0127】
(2)ヘッド耐久性
接合サンプルA,B,E,Fを用いて図1,図2に示す構成のインクジェットヘッドを作製し、それぞれをヘッドサンプルA,B,E,Fとした。ついで、ヘッドサンプルA,B,E,Fに前記インクXを充填した状態で70℃に加熱して510日間保管し、そのヘッドサンプルA,B,E,Fを期間中所定の日数ごとに取り出して、インク吐出を行い、インク滴の吐出速度Vjを測定した。なお、インク滴の吐出速度の測定は、常温下でインクジェットヘッドの圧電体素子2の電極(共通電極10,個別電極11)に、電圧7.6V、周波数30Hz、波形PULLのパルス電圧を印加してインクXの吐出を行い、その吐出の様子を高速度カメラで撮影した動画をコマ送りして吐出速度を求めた。
【0128】
図15に、インクジェットヘッドサンプル(ヘッドサンプルA,B,E,F)のインク滴の吐出速度の測定結果を示す。
実施例B1,B2の接合サンプルを適用したヘッドサンプルE,F(図中、◆,*プロット)は、試験期間中安定した高い吐出速度を示した。
一方、接合サンプルAを適用したヘッドサンプルA(図中、●プロット)は、初期には高い吐出速度を示したが、320日目の測定でヘッドへのインク充填中にヘッドサンプルAが壊れてしまった。また、接合サンプルBを適用したヘッドサンプルB(図中、■プロット)は、192日目の測定でヘッドへのインク充填中にヘッドサンプルBが壊れてしまった。
【0129】
なお、これまで本発明を図面に示した実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。すなわち、ここではインクジェットヘッド1の液滴吐出エネルギー発生手段として、電気機械変換素子である圧電体素子2を用いたタイプで説明したが、他の液滴吐出エネルギー発生手段として、電気機械変換素子である静電型アクチュエータや、電気熱変換素子であるサーマル型を用いてもよい。
【符号の説明】
【0130】
1 インクジェットヘッド
2 圧電体素子
3 振動板
4,4’ 隔壁
4a,4b 逃げ溝
5 液室
6 ノズル板
6a ノズル孔
7 流体抵抗部
8 共通液室
9 共通インク供給口
10 共通電極
11 個別電極
12 圧電体
21,22,23 硬化樹脂
21a 第1の接着剤
22a 第2の接着剤
80,99 インクカートリッジ
81 インクタンク
90 インクジェット記録装置
91 印字機構部
92 用紙
93 給紙カセット
94 手差しトレイ
95 排紙トレイ
96 主ガイドロッド
97 従ガイドロッド
98 キャリッジ
101 主走査モーター
102 駆動プーリ
103 従動プーリ
104 タイミングベルト
105 給紙ローラー
106 フリクションパッド
107,116,117 ガイド部材
108 搬送ローラー
109,112 搬送コロ
110 先端コロ
111 印写受け部材
113,115 拍車
114 排紙ローラー
118 回復装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0131】
【特許文献1】特開平2−51734号公報
【特許文献2】特開昭61−59911号公報
【特許文献3】特開平6−71882号公報
【特許文献4】特開2002−210964号公報
【特許文献5】特開平11−188874号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルが設けられたノズル板と、液体吐出エネルギー発生部を有する基板と、前記ノズル板と基板の間に設けられる隔壁と、により区画されて、それぞれが前記ノズルを有する複数の液室が形成されるインクジェットヘッドにおいて、
前記隔壁と接合される前記ノズル板の接合面及び前記基板の接合面の何れか一方が金属材料、他方が樹脂材料で形成され、
前記金属材料の接合面と前記隔壁が、水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤により接着され、
前記樹脂材料の接合面と前記隔壁が、前記第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤により接着されており、
前記金属材料の接合面と前記隔壁との接着接合部分であって前記液室内部に面する部分が、前記樹脂材料の接合面と前記隔壁とを接着した前記第2の接着剤の余剰分により被覆されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
金属材料からなりインクを吐出するノズルが設けられたノズル板と、液体吐出エネルギー発生部を有する基板と、前記ノズル板と基板の間に設けられる隔壁と、により区画されて、それぞれが前記ノズルを有する複数の液室が形成されるインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズル板と前記隔壁とが、水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤により接着され、接合面が樹脂材料からなる前記基板と前記隔壁とが、前記第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤により接着されており、
前記ノズル板と前記隔壁との接着接合部分であって前記液室内部に面する部分が、前記基板と前記隔壁とを接着した前記第2の接着剤の余剰分により被覆されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記ノズル板は、ステンレス鋼、あるいはNiまたはSiを主成分とする金属材料からなることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記隔壁における前記ノズル板と接着する面は、前記第1の接着剤がその面内で流動可能な逃げ溝を有することを特徴とする請求項2または3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記第1の接着剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂のいずれかを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記第2の接着剤は、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂のいずれかを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記第1の接着剤及び第2の接着剤は、アミン系硬化剤を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記第1の接着剤及び第2の接着剤は、同一の硬化剤を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記第1の接着剤と前記第2の接着剤は同一の主溶媒を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッドを搭載したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
インクを吐出するノズルが設けられたノズル板と、液体吐出エネルギー発生部を有する基板と、前記ノズル板と基板の間に設けられる隔壁と、により区画されて、それぞれが前記ノズルを有する複数の液室が形成されるインクジェットヘッドの製造方法において、
前記隔壁と接合される前記ノズル板の接合面及び前記基板の接合面の何れか一方を金属材料、他方を樹脂材料として形成する工程と、
前記隔壁の一方の面に水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤を塗布し、ついで該隔壁の前記一方の面とは反対面に前記第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記隔壁の前記第1の接着剤が塗布された面と前記金属材料で形成された接合面とを貼り合わせる第1貼り合わせ工程と、
前記隔壁の前記第2の接着剤が塗布された面と前記樹脂材料で形成された接合面とを貼り合わせる第2貼り合わせ工程と、
加熱により、前記金属材料で形成された接合面と隔壁との貼り合わせ部分における第1の接着剤と、前記樹脂材料で形成された接合面と隔壁との貼り合わせ部分における第2の接着剤を硬化させる加熱硬化工程と、
を有し、
前記加熱硬化工程では、前記加熱の昇温過程において少なくとも前記第2の接着剤に流動性を付与して、前記樹脂材料で形成された接合面と前記隔壁との貼り合わせ部分における前記第2の接着剤の余剰分が、前記金属材料で形成された接合面と前記隔壁との貼り合わせ部分の第1の接着剤であって前記液室内部に面する部分を被覆するようにし、ついで加熱硬化過程において前記第1の接着剤及び第2の接着剤を硬化させることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項12】
金属材料からなりインクを吐出するノズルが設けられたノズル板と、液体吐出エネルギー発生部を有する基板と、前記ノズル板と基板の間に設けられる隔壁と、により区画されて、それぞれが前記ノズルを有する複数の液室が形成されるインクジェットヘッドの製造方法において、
前記隔壁の一方の面に水酸基を分子鎖にもつエポキシ樹脂を含む第1の接着剤を塗布し、ついで該隔壁の前記一方の面とは反対面に前記第1の接着剤よりも低吸湿性の第2の接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記隔壁の前記第1の接着剤が塗布された面と前記ノズル板とを貼り合わせる第1貼り合わせ工程と、
前記隔壁の前記第2の接着剤が塗布された面と接合面が樹脂材料からなる前記基板とを貼り合わせる第2貼り合わせ工程と、
加熱により、前記ノズル板と隔壁との貼り合わせ部分における第1の接着剤と、前記基板と隔壁との貼り合わせ部分における第2の接着剤を硬化させる加熱硬化工程と、
を有し、
前記加熱硬化工程では、前記加熱の昇温過程において少なくとも前記第2の接着剤に流動性を付与して、前記基板と前記隔壁との貼り合わせ部分における前記第2の接着剤の余剰分が、前記ノズル板と前記隔壁との貼り合わせ部分の第1の接着剤であって前記液室内部に面する部分を被覆するようにし、ついで加熱硬化過程において前記第1の接着剤及び第2の接着剤を硬化させることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記第1貼り合わせ工程と前記第2貼り合わせ工程を同時に行うことを特徴とする請求項11または12に記載のインクジェットヘッドの製造方法。

【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−6404(P2013−6404A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198347(P2011−198347)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】