説明

インクジェットヘッド及び記録装置

【課題】アクチュエータの変位の低下を抑制しつつ、アクチュエータを好適に保護できるインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】ヘッド5は、上面21aに形成された凹部により加圧室31が構成された基体21と、加圧室31を塞ぐように上面21aに重ねられ、加圧室31側への撓み変形を生じるアクチュエータ23と、アクチュエータ23に重ねられた保護層47とを有する。保護層47は、平面透視において加圧室31の縁部内側から縁部外側に跨る外周部51を有するとともに、平面透視において加圧室31の中央側の一部に重なる領域が開口49とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる撓みモードで変位するアクチュエータを有するインクジェットヘッドが知られている(例えば特許文献1)。当該インクジェットヘッドは、吐出孔に通じる凹部(加圧室)を有する基体と、凹部を塞ぐアクチュエータとを有している。そして、アクチュエータが加圧室の内部側へ撓むことにより、加圧室の容積が縮小され、加圧室に満たされていたインクが吐出孔から吐出される。
【0003】
特許文献1のインクジェットヘッドでは、アクチュエータを水分から保護するために、アクチュエータを覆う保護層が設けられている。しかし、保護層が設けられると、アクチュエータ及び保護層全体としての剛性は、アクチュエータのみの剛性に比較して高くなるから、アクチュエータの変位は低下する。そこで、特許文献1では、保護層によってアクチュエータの変位が低下しないように、保護層の厚みを薄くして、保護層の剛性を低下させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−73087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、保護層を薄くすれば、当然に、保護層によるアクチュエータの保護効果は低下する。すなわち、特許文献1の技術は、アクチュエータの変位の確保と、アクチュエータの保護とがトレードオフの関係にあることに関して、解決手段を示していない。また、特許文献1は、保護層による保護効果について、水分からの保護効果のみに着目しており、保護層を薄くすることによって他の保護効果が低下することについても言及されていない。
【0006】
本発明の目的は、アクチュエータの変位の低下を抑制しつつ、アクチュエータを好適に保護できるインクジェットヘッド及び記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るインクジェットヘッドは、所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられ、前記加圧室側への撓み変形を生じるアクチュエータと、前記アクチュエータに重ねられた保護層と、を有し、前記保護層は、平面透視において前記加圧室の中央側の一部に重なる中央部が、平面透視において前記加圧室の縁部内側から縁部外側に跨る外周部よりも薄く形成されている。
【0008】
本発明の他の一態様に係るインクジェットヘッドは、所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられ、前記加圧室側への撓み変形を生じるアクチュエータと、前記アクチュエータに重ねられた保護層と、を有し、前記保護層は、平面透視において前記加圧室の縁部内側から縁部外側に跨る外周部を有するとともに、平面透視において前記加圧室の中央側の一部に重なる領域が開口とされている。
【0009】
好適には、前記加圧室は複数形成され、前記保護層は、前記加圧室毎に前記外周部を有し、平面視において各外周部の外側は前記保護層の非配置領域とされている。
【0010】
好適には、前記保護層は、平面視において前記外周部及び前記非配置領域を囲む囲繞部を有する。
【0011】
好適には、前記アクチュエータは、前記加圧室を塞ぐ振動板と、前記振動板に重ねられた共通電極と、前記共通電極に重ねられた圧電体と、前記圧電体に重ねられ、平面透視において前記加圧室よりも狭い個別電極本体を含む個別電極と、を有し、前記外周部は、前記個別電極本体よりも外側に位置している。
【0012】
本発明の一態様に係る記録装置は、前記インクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドを制御する制御部と、メディアを前記インクジェットヘッドに対して相対的に搬送する搬送部とを有する。
【発明の効果】
【0013】
上記の構成によれば、アクチュエータの変位の低下を抑制しつつ、アクチュエータを好適に保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る記録装置の要部を模式的に示す斜視図。
【図2】図1の記録装置のインクジェットヘッドの一部の断面図。
【図3】図1の記録装置のインクジェットヘッドの一部の流路を模式的に示す平面透視図。
【図4】図4(a)及び図4(b)は第1の実施形態のインクジェットヘッドのアクチュエータ周辺の断面図及び平面図。
【図5】図5(a)及び図5(b)は第2の実施形態のインクジェットヘッドのアクチュエータ周辺の断面図及び平面図。
【図6】図6(a)及び図6(b)は第3の実施形態のインクジェットヘッドのアクチュエータ周辺の断面図及び平面図。
【図7】図7(a)及び図7(b)は第4の実施形態のインクジェットヘッドのアクチュエータ周辺の断面図及び平面図。
【図8】図8(a)及び図8(b)は第5の実施形態のインクジェットヘッドのアクチュエータ周辺の断面図及び平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、説明対象の実施形態において、既に説明された実施形態の構成と同一若しくは類似する構成については、同一の符号を付すことがあり、また、説明を省略することがある。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る記録装置1の要部を模式的に示す斜視図である。
【0017】
なお、記録装置1及び後述するインクジェットヘッド5は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともに、z方向の正側(図1の紙面上方)を上方として、上面、下面等の用語を用いることがあるものとする。
【0018】
記録装置1は、例えば、メディア(例えば紙)101を矢印y1で示す方向へ搬送する搬送部3と、搬送されているメディア101に向けてインク滴を吐出するヘッド5と、搬送部3及びヘッド5の動作を制御する制御部7とを有している。
【0019】
搬送部3は、例えば、不図示の供給スタックに積層された複数のメディア101を一ずつ不図示の排出スタックへ搬送する。搬送部3は、公知の適宜な構成とされてよい。図1では、搬送経路がストレートパスとされ、メディア101に当接するローラ9と、ローラ9を回転させるモータ11とが設けられた搬送部が例示されている。
【0020】
ヘッド5は、メディア101の搬送経路の途中に配置されており、z方向の正側からメディア101に対向する。ヘッド5は、メディア101の印画面及び搬送方向に直交する方向(主走査方向、x方向)にシャトル運動を行うシリアルヘッドであってもよいし、当該直交する方向に(ほぼ)固定されたラインヘッドであってもよい。なお、本実施形態においては、ヘッド5がラインヘッドである場合を例に挙げて説明するものとする。
【0021】
ヘッド5は、x方向の複数位置においてインク滴をメディア101に吐出、付着させる。当該動作が、メディア101の搬送に伴って繰り返し行なわれることにより、メディア101には2次元画像が形成される。
【0022】
制御部7は、例えば、CPU、ROM、RAM及び外部記憶装置を含んで構成されている。制御部7は、モータ用ドライバ13に制御信号を出力することにより、所望の電圧をモータ11に印加して、モータ11を制御する。同様に、制御部7は、ヘッド用ドライバ15に制御信号を出力することにより、所望の電圧をヘッド5に印加して、ヘッド5を制御する。
【0023】
図2は、ヘッド5の一部を拡大して示す模式的な断面図である。なお、図2の下方がメディア101に対向する側である。
【0024】
ヘッド5は、例えば、圧電素子の機械的歪によりインクに圧力を付与するピエゾ式のヘッドである。ヘッド5は、インク滴を吐出する複数の吐出素子19を有し、図2は一の吐出素子19を示している。複数の吐出素子19は、xy平面において配列されており(図3参照)、各吐出素子19は、メディア101上の1ドットに対応している。
【0025】
また、別の観点では、ヘッド5は、インクを貯留する空間を形成する基体21と、基体21に貯留されているインクに圧力を付与するためのアクチュエータ23と、アクチュエータ23を覆う保護層47とを有している。複数の吐出素子19は、基体21、アクチュエータ23及び保護層47により構成されている。
【0026】
基体21の内部には、複数の個別流路25(図2では1つを図示)と、当該複数の個別流路25に通じる共通流路(リザーバ)27とが形成されている。個別流路25は、吐出素子19毎に設けられ、共通流路27は、複数の吐出素子19に共通に設けられている。
【0027】
各個別流路25は、メディア101に対向する吐出孔29aを含むディセンダ(部分流路)29と、ディセンダ29に通じる加圧室31と、加圧室31と共通流路27とを連通する供給路33とを有している。
【0028】
加圧室31は、基体21の上面21aに形成された凹部により構成されている。そして、加圧室31は、アクチュエータ23が上面21aに重ねられることによって、上方の開口が塞がれている。
【0029】
複数の個別流路25及び共通流路27にはインクが満たされている。複数の加圧室31の容積が変化してインクに圧力が付与されることにより、複数の加圧室31から複数のディセンダ29へインクが送出され、複数の吐出孔29aからは複数のインク滴が吐出される。また、複数の加圧室31へは複数の供給路33を介して共通流路27からインクが補充される。
【0030】
複数の個別流路25及び共通流路27の断面形状若しくは平面形状は、適宜に設定されてよい。本実施形態では、加圧室31は、z方向において一定の厚みに形成されるとともに、z方向に見てx方向及びy方向を対角線方向とする菱形(図3参照)とされている。その菱形のy方向の一方の角部はディセンダ29と連通され、他方の角部は供給路33と連通されている。供給路33の一部は、断面積が共通流路27および加圧室31よりも小さくされたしぼりとされている。
【0031】
基体21は、例えば、複数の基板35が積層されることにより構成されている。基板35には、複数の個別流路25及び共通流路27を構成する貫通孔が形成されている。複数の基板35の厚み及び積層数は、複数の個別流路25及び共通流路27の形状等に応じて適宜に設定されてよい。複数の基板35は、適宜な材料により形成されてよく、例えば、金属、セラミック若しくはシリコンにより形成されている。
【0032】
アクチュエータ23は、撓みモードで変位する圧電素子により構成されている。具体的には、例えば、アクチュエータ23は、ユニモルフ型の圧電素子により構成されており、加圧室31側から順に積層された、振動板37、共通電極39、圧電体41及び複数の個別電極43を有している。個別電極43は、吐出素子19毎に設けられている。
【0033】
振動板37、共通電極39及び圧電体41は、例えば、複数の加圧室31を覆うように複数の加圧室31に共通に設けられている。一方、個別電極43は、加圧室31毎に設けられている。より具体的には、個別電極43は、概ね、加圧室31と相似形(本実施形態では概ね菱形)で、加圧室31の広さよりも若干小さい個別電極本体44と、その個別電極本体44の角部に接続されている引出電極45とを含んでいる。
【0034】
振動板37、共通電極39、圧電体41及び複数の個別電極43は、適宜な材料により形成されてよい。例えば、振動板37は、セラミック、酸化シリコン若しくは窒化シリコンにより形成されている。共通電極39及び複数の個別電極43は、例えば、白金若しくはパラジウムにより形成されている。圧電体41は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等のセラミックにより形成されている。
【0035】
振動板37、共通電極39、圧電体41及び複数の個別電極43の剛性若しくは厚みは、適宜に設定されてよい。例えば、振動板37の厚みは1μm〜45μm、共通電極39の厚みは0.1μm〜2μm、圧電体41の厚みは1μm〜15μm、個別電極43の厚みは0.05μm〜2μmである。また、アクチュエータ23全体の厚みは、好ましくは50μm以下である。このようにアクチュエータ23を比較的薄く形成することによりアクチュエータ23の変位を小さくせずに圧電素子の面積を小さくできるので、複数の吐出素子19が集積された高解像度(例えば600dpi)のヘッドが実現される。
【0036】
圧電体41は、厚み方向(z方向)を分極方向とされている。従って、共通電極39及び個別電極43に電圧を印加して、圧電体41に対して分極方向に電界を作用させると、圧電体41は面内で収縮する。この収縮により振動板37は、加圧室31側に凸となるように撓み、その結果、加圧室31の体積は変化する。
【0037】
なお、吐出素子19の駆動方式は、引き打ち方式、押し打ち方式等の公知の駆動方式から適宜に選択されてよい。また、1ドットの記録に対してインク滴の数が増減されることや、インク滴の量を変えることにより、階調が表現されてよい。複数の吐出素子19の駆動(加圧室31への圧力付与)開始タイミングは、互いに同時とされてもよいし、隣接する複数の加圧室31同士において、吐出孔29aからしぼりまでの流路の中のインクの固有振動周期よりも短い時間差で互いにずらされてもよい。
【0038】
保護層47は、絶縁材料により形成されている。絶縁材料は、有機材料であってもよいし、無機材料であってもよい。有機絶縁材料としては、例えば、樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂は比較的やわらかく、同じ剛性を実現するための厚みが厚くなり、クラックの伸展をより抑制できる。無機絶縁材料としては、例えば、セラミック及びシリコンが挙げられる。
【0039】
保護層47の厚みは、適宜に設定されてよい。保護層47の厚みは、例えば、その剛性が圧電体41の剛性の1%を超える厚みに設定されている。なお、剛性は、例えば、曲げ剛性であり、断面形状が矩形の場合には、Et/(12(1−ν))(E:ヤング率、t:厚み、ν:ポアソン比)である。無機絶縁材料により形成された保護層47の厚みは、例えば、150nmを超える厚みに設定されている。有機絶縁材料により形成された保護層47の厚みは、例えば、700nmを超える厚みに設定されている。このように、保護層47の剛性が比較的高く設定されることにより、後に詳述するように、保護層47による強度的な保護効果等が向上する。
【0040】
図3は、ヘッド5の一部の流路を模式的に示す平面透視図である。図3においては、加圧室31及び供給路33が実線で示され、ディセンダ29が複数の実線の丸で示され、共通流路27が点線で示されている。一つの加圧室31に繋がっているディセンダ29が複数の丸で示されているのは、ディセンダ29が、x方向およびy方向に位置を変えながら、加圧室31から吐出孔29aに向かって(z方向の負側に向かって)いることを表している。
【0041】
上述のように、複数の加圧室31は、x方向及びy方向に配列されている。なお、複数の加圧室31は、菱形の対角線方向に配列されていると捉えることもできる。加圧室31がy方向に配列された各列においては、各加圧室31に繋がっている吐出孔29aのx方向の位置は互いに相違している。すなわち、ヘッド5においては、x方向及びy方向に配列された複数の吐出孔29a全体として、x方向において所望の解像度(例えば600dpi)が実現されている。
【0042】
共通流路27は、例えば、x方向に延びており、複数の加圧室31がx方向に配列された列の4列に対して1本設けられている。なお、特に図示しないが、共通流路27は、マニホールド状に形成されており、主流路と、主流路から分岐した複数の副流路とを有し、図3においては、一の副流路を図示している。
【0043】
図4(a)は、アクチュエータ23周辺の断面図であり、図4(b)は、アクチュエータ周辺の平面図である。なお、図4(b)において、保護層47はハッチングされて示されている。
【0044】
保護層47は、加圧室31の中央側の一部に重なる領域に、開口49が形成された形状とされている。換言すれば、保護層47は、各加圧室31の縁部内側から縁部外側に跨る外周部51(符号は図4(a))と、複数の加圧室31の外周部51間を隙間なく埋める(外周部51同士を接続する)境界部53(符号は図4(a))とを有し、外周部51の内側は保護層47の非配置領域R1とされている。
【0045】
外周部51は、加圧室31の全周に亘って、加圧室31の縁部内側から縁部外側に跨っている。なお、保護層47を外周部51と境界部53とに分けたのは説明の便宜のためであり、両者の厚み及び材料は同一である。また、外周部51及び境界部53の全体が外周部と捉えられてもよい。
【0046】
上述したように、個別電極本体44は、加圧室31よりも若干小さく形成されている。また、個別電極本体44は、その全体が開口49から露出している。引出電極45は、保護層47の一部が排除されることにより、少なくとも端子となる部分が保護層47から露出している。
【0047】
保護層47は、例えば、公知の薄膜形成法若しくはフィルム貼付によりアクチュエータ23上に薄膜を形成した後、エッチングによって開口49及び引出電極45を露出させる孔部を形成することにより形成される。また、例えば、保護層47は、開口49等が形成されたフィルムをアクチュエータ23に貼付(転写)することにより形成される。引出電極45の端子部分は、保護層47の形成後にめっき法などにより嵩上げがなされてもよい。
【0048】
以上の第1の実施形態によれば、ヘッド5は、上面21aに形成された凹部により加圧室31が構成された基体21と、加圧室31を塞ぐように上面21aに重ねられ、加圧室31側への撓み変形を生じるアクチュエータ23と、アクチュエータ23に重ねられた保護層47とを有する。保護層47は、平面透視において加圧室31の縁部内側から縁部外側に跨る外周部51を有するとともに、平面透視において加圧室31の中央側の一部に重なる領域が開口49とされている。
【0049】
従って、アクチュエータ23の変位の低下を抑制しつつ、アクチュエータ23を好適に保護できる。具体的には、以下のとおりである。
【0050】
アクチュエータ23は、加圧室31の縁部が当接する位置P1(図4(a))若しくは位置P1の直上のアクチュエータ23の上面においてクラックが発生しやすい。そのような位置P1を覆うように外周部51が形成され、アクチュエータ23の強度が補強されることから、クラックの発生が抑制される。
【0051】
一方、加圧室31の中央側の一部と重なる領域においては、保護層47に開口49が形成されており、アクチュエータ23は保護層47に覆われていない。従って、アクチュエータ23の変位の低下が抑制される。保護層47の厚みは、アクチュエータ23の変位への影響が少ないので、保護を重視して1〜5μmで形成される。
【0052】
特に、開口49が個別電極本体44よりも広い(外周部51が個別電極本体44よりも外側に位置している)場合には、アクチュエータ23の変位を十分に確保することができる。
【0053】
圧電体41において、個別電極本体44と重なる部分の伸縮は、その周囲の部分(複数の個別電極本体44間の部分)に応力を付与する。その結果、例えば、圧電体41の、複数の個別電極本体44間の部分に繰り返し引張り力が加えられ、当該部分に、引張り力が加わっていない状態でも、個別電極本体44の方向に引き伸ばされた状態となる変形が生じる。そして、当該変形によって、圧電体41の個別電極本体44と重なる部分は、その周囲の部分から圧縮応力が付与されることになり、駆動劣化が生じる。しかし、外周部51が圧電体41の個別電極本体44の周囲の部分を補強することにより、このような駆動劣化が抑制される。
【0054】
基体21とアクチュエータ23との間に異物が混入すると、異物を起点としてクラックが生じやすいが、保護層47によりアクチュエータ23の強度が補強されることから、そのようなクラックの発生も抑制される。
【0055】
特に、保護層47が、複数の外周部51間に亘る境界部53を有するなど、保護層47が個別電極本体44の周囲に比較的広く形成されている場合には、駆動劣化の抑制効果及び異物を起点とするクラックの抑制効果の増大が期待される。
【0056】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態のヘッドにおける図4に相当する図である。
【0057】
第2の実施形態は、第1の実施形態と比較して、保護層247が外周部51のみを有し、境界部53を有さない点のみが相違する。すなわち、第2の実施形態では、平面視において各外周部51の外側は保護層247の非配置領域R3とされており、複数の外周部51同士は接続されていない。
【0058】
外周部51は、例えば、概ね一定の幅で加圧室31の縁部に沿って延びている。なお、外周部51の幅は、所望の保護効果が得られるように適宜に設定されてよい。例えば、平面透視における個別電極本体44と加圧室31の縁部との隙間程度でもよいし、複数の外周部51同士が接続されない最大限の大きさとされてもよい。非配置領域R3は、例えば、開口49と同様に、保護層247となる薄膜に対してエッチングが行われることなどにより形成される。
【0059】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、保護層247は、平面透視において加圧室31の縁部内側から縁部外側に跨る外周部51を有するとともに、平面透視において加圧室31の中央側の一部に重なる領域が開口49とされていることから、アクチュエータ23の変位の低下を抑制しつつ、アクチュエータ23を好適に保護できる。
【0060】
さらに、各外周部51の外側は保護層247の非配置領域R3とされていることから、外周部51の外縁(外周部51と非配置領域R3との境界)に関し、その内側と外側とでヘッドの構造が変化することになる。その結果、外周部51の外側で発生したクラックが外周部51の外縁を超えて加圧室31側へ進展することが抑制される。
【0061】
(第3の実施形態)
図6は、第3の実施形態のヘッドにおける図4に相当する図である。
【0062】
第3の実施形態は、第1の実施形態(図4)に比較して、外周部51とその周囲とを隔てるように外周部51を囲む溝部57が形成されている点のみが相違する。換言すれば、第3の実施形態は、第2の実施形態(図5)と比較して、保護層347が各外周部51及びその周囲の非配置領域R5を囲む囲繞部55を有している点のみが相違する。
【0063】
溝部57は、例えば、概ね一定の幅で加圧室31と相似形に延びている。なお、溝部57の幅は適宜に設定されてよく、例えば、エッチング等により形成可能な溝の最小の幅であってもよいし、逆に、囲繞部55がエッチング等により形成可能な最小の幅になる程度まで広くされてもよい。溝部57は、例えば、開口49と同様に、保護層347となる薄膜に対してエッチングが行われることなどにより形成される。
【0064】
囲繞部55は、複数の外周部51間において連続して広がっている。換言すれば、保護層347は、開口49、溝部57及び引出電極45のみにおいてアクチュエータ23を露出させている。なお、囲繞部55は、例えば、外周部51と同一の材料及び厚みである。
【0065】
第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、保護層347は、平面透視において加圧室31の縁部内側から縁部外側に跨る外周部51を有するとともに、平面透視において加圧室31の中央側の一部に重なる領域が開口49とされていることから、アクチュエータ23の変位の低下を抑制しつつ、アクチュエータ23を好適に保護できる。
【0066】
さらに、保護層347は、囲繞部55を有していることから、外周部51の外側において、アクチュエータ23の強度補強がなされ、外周部51の外側におけるクラックの発生が抑制される。そして、万が一にも囲繞部55の配置範囲においてクラックが発生したとしても、囲繞部55の内縁(囲繞部55と非配置領域R5との境界)及び外周部51の外縁(非配置領域R5と外周部51との境界)において、その内側と外側との構造の変化によって、クラックが加圧室31側へ進展することが抑制される。
【0067】
特に、囲繞部55が、境界部53と同様に、複数の外周部51を囲む部分同士が接続されている(複数の加圧室31間に亘って広がっている)など、比較的広い範囲に形成されている場合には、クラックの抑制効果等の増大が期待される。
【0068】
(第4の実施形態)
図7は、第4の実施形態のヘッドにおける図4に相当する図である。なお、図7(b)では、保護層447の厚みが薄くなる領域において、ハッチングを薄くしている。
【0069】
第4の実施形態は、第2の実施形態(図5)と比較して、保護層447が外周部51の内側に外周部51よりも薄い中央部59を有している点のみが相違する。すなわち、保護層447は、加圧室31の中央側の一部に重なる領域に凹部61が形成され、外周部51の外側は非配置領域R3とされている。
【0070】
中央部59の厚みは、種々の効果を考慮して適宜に設定されてよい。例えば、中央部59の厚みは、外周部51の厚みとは逆に、その剛性が圧電体41の剛性の1%以下となる厚み、150nm以下(無機絶縁材料)若しくは700nm以下(有機絶縁材料)とされてよい。このように中央部59の厚みが比較的薄く設定されることにより、アクチュエータ23の変位低下が抑制される。
【0071】
また、例えば、中央部59の厚みは、30nm以上(無機絶縁材料)若しくは100nm以上(有機絶縁材料)とされてよい。このように中央部59の厚みがある程度確保されることにより、個別電極本体44が水分から保護される。
【0072】
凹部61は、例えば、保護層447となる薄膜に対して、ハーフエッチングを行ったり、型を押し付けたりすることにより形成される。
【0073】
第4の実施形態によれば、保護層447は、平面透視において加圧室31の縁部内側から縁部外側に跨る外周部51を有するとともに、平面透視において加圧室31の中央側の一部に重なる中央部59が外周部51よりも薄く形成されている。従って、第1の実施形態の開口49が形成された保護層47と同様に、アクチュエータ23の変位の低下を抑制しつつ、アクチュエータ23を好適に保護できる。
【0074】
さらに、保護層447は、中央部59によって加圧室31の中央側においてもアクチュエータ23を覆っていることから、アクチュエータ23を腐食などの化学的な劣化から好適に保護することができる。
【0075】
(第5の実施形態)
図8は、第5の実施形態のヘッドにおける図4に相当する図である。
【0076】
第5の実施形態は、第1の実施形態(図4)と比較して、保護層547の開口549(非配置領域R501)が個別電極本体44よりも小さく形成されており、外周部551が個別電極本体44の外周部を覆っている点が相違する。
【0077】
外周部551と個別電極本体44との重複量は適宜に設定されてよい。例えば、重複量は、エッチング等の精度によって規定される最小幅であってもよいし、個別電極本体44の縁部と加圧室31の縁部との間の幅程度であってもよい。
【0078】
第5の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、保護層547は、平面透視において加圧室31の縁部内側から縁部外側に跨る外周部51を有するとともに、平面透視において加圧室31の中央側の一部に重なる領域が開口549とされていることから、アクチュエータ23の変位の低下を抑制しつつ、アクチュエータ23を好適に保護できる。
【0079】
さらに、保護層547が個別電極本体44の外周部を覆っていることから、個別電極本体44の剥離が抑制され、耐久性を向上させることができる。
【0080】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0081】
上述した実施形態は、適宜に組み合わされてよい。例えば、第1の実施形態(図4)の境界部53又は第3の実施形態(図6)の囲繞部55は、第4の実施形態(図7)のように加圧室の中央に凹部61が形成された保護層に適用されてもよい。第5の実施形態(図8)の個別電極本体44の外周を覆う外周部551は、第2の実施形態(図5)のように境界部53を有さない保護層や、第3の実施形態(図6)のように囲繞部55を有する保護層に適用されてもよい。さらに、第4の実施形態(図7)の中央部59に第5の実施形態(図8)の開口549を形成し、外周部51よりも薄い部分により個別電極本体44の外周が覆われてもよい。
【0082】
アクチュエータは、ピエゾ式のものに限定されない。例えば、アクチュエータは、振動板を静電気力で吸引変形される静電変位式のものであってもよいし、振動板を加熱して熱変位させる熱変位方式であってもよい。ピエゾ式のアクチュエータは、ユニモルフ型のものに限定されず、例えば、互いに対向する2つの圧電体を有するバイモルフ型のものであってもよい。
【0083】
保護層は、互いに異なる材料により形成された複数の層により形成されてもよい。また、保護層の非配置領域若しくは保護層上には、他の層(他の保護層)が配置されてもよい。例えば、保護層の、加圧室に重なる開口若しくは凹部内に、保護層よりも剛性が低く且つ耐湿性に優れた材料が配されてもよい。また、保護層は、加圧室の中央側に限らず、適宜な位置において厚みが薄く(若しくは厚く)されてよいし、非配置領域が形成されてよい。
【0084】
保護層において、中央部が外周部よりも薄く形成される場合、中央部は、アクチュエータとは反対側の表面に凹部が形成されて薄くされる態様に限定されず、アクチュエータ側の表面に凹部が形成されて薄くされる態様であってもよい。アクチュエータ側の表面に凹部が形成される態様において、保護層は、アクチュエータとは反対側の表面が平坦化される一方で、アクチュエータ側に部材(例えば実施形態では個別電極本体)が配置されることにより、アクチュエータ側の表面に凹部が形成されてもよいし、アクチュエータと保護層との間に空洞が形成されてアクチュエータ側の表面に凹部が形成されてもよい。なお、空洞を構成する保護層は、例えば、凹部を形成した後のフィルム若しくは基板をアクチュエータに貼り付けることにより形成される。
【0085】
周囲が非配置領域(R3、R5)とされた外周部の形状は、一定の幅で加圧室の縁部に沿う形状に限定されない。例えば、外周部は、引張り応力による駆動劣化が生じやすい方向ほど広く形成されてもよい。ただし、外周部の内縁は、変位低下抑制の効果を加圧室の全周に亘って均等に得る観点から加圧室と相似形であることが好ましい。また、外周部の外縁は、加圧室と相似形とされると、クラックの進展の抑制効果が加圧室の全周に亘って均等化されることが期待される。外周部同士は一部において繋がっていてもよい。
【0086】
外周部と囲繞部との間の溝部の形状は、一定の幅で加圧室と相似形に延びる形状に限定されない。溝部は途中で途切れ、外周部と囲繞部とが一部において繋がっていてもよい。また、囲繞部は、各加圧室を囲む部分同士が接続されていなくてもよい。換言すれば、囲繞部は、複数の加圧室に共通に設けられず、加圧室毎に設けられ、各囲繞部の外周に更に非配置領域(溝部)が形成されてもよい。例えば、外周部(加圧室)と相似形の囲繞部が設けられてもよく、さらに、囲繞部が2重以上で設けられてもよい。
【符号の説明】
【0087】
5…ヘッド、21…基体、21a…上面、23…アクチュエータ、31…加圧室、47…保護層、49…開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、
前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられ、前記加圧室側への撓み変形を生じるアクチュエータと、
前記アクチュエータに重ねられた保護層と、
を有し、
前記保護層は、平面透視において前記加圧室の中央側の一部に重なる中央部が、平面透視において前記加圧室の縁部内側から縁部外側に跨る外周部よりも薄く形成されている
インクジェットヘッド。
【請求項2】
所定面に形成された凹部により加圧室が構成された基体と、
前記加圧室を塞ぐように前記所定面に重ねられ、前記加圧室側への撓み変形を生じるアクチュエータと、
前記アクチュエータに重ねられた保護層と、
を有し、
前記保護層は、平面透視において前記加圧室の縁部内側から縁部外側に跨る外周部を有するとともに、平面透視において前記加圧室の中央側の一部に重なる領域が開口とされている
インクジェットヘッド。
【請求項3】
前記加圧室は複数形成され、
前記保護層は、前記加圧室毎に前記外周部を有し、平面視において各外周部の外側は前記保護層の非配置領域とされている
請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記保護層は、平面視において前記外周部及び前記非配置領域を囲む囲繞部を有する
請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記アクチュエータは、
前記加圧室を塞ぐ振動板と、
前記振動板に重ねられた共通電極と、
前記共通電極に重ねられた圧電体と、
前記圧電体に重ねられ、平面透視において前記加圧室よりも狭い個別電極本体を含む個別電極と、
を有し、
前記外周部は、前記個別電極本体よりも外側に位置している
請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドを制御する制御部と、
メディアを前記インクジェットヘッドに対して相対的に搬送する搬送部と
を有する
記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−171196(P2012−171196A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35166(P2011−35166)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】