説明

インクジェット印刷装置

【課題】 簡易な構成でありながら、インクの消費を低減することができるとともに、速やかにインクジェットヘッドをクリーニングすることが可能なインクジェット印刷装置を提供する。
【解決手段】 吸引キャップと連通するチューブを接続する接続キャップ51a〜51lと、接続キャップ51a〜51lを支持するキャップ支持部54と、チューブが接続された接続キャップ51a〜51lのいずれかを吸引可能な状態に切り換える切換部60と、切換部60を軸支するとともにこの切換部60を回転させるステッピングモータ57とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のインクジェットヘッドを備えるインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多数のインクジェットノズルを有するインクジェットヘッドを備えるインクジェット印刷装置では、インクジェットノズルの一部が目詰まりを起こすことによる、いわゆるノズル欠けと呼称される印刷不良を解消するために、吸引によるインクジェットヘッドのクリーニング(吸引パージ)が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のインクジェット記録装置は、吐出口群(インクジェットヘッド)を個別に覆うキャップと、インクの吐出口(インクジェットノズル)から吸引によりキャップ内にインクを引き出すためのポンプとを備え、個々のキャップとポンプを接続する接続路に、個別に開閉弁が介設された構成を有している。そして、このインクジェット記録装置では、吐出口群(インクジェットヘッド)の各キャップに連通する接続路に介設された開閉弁を選択的に開放することにより、例えば、インクが吐出されないインクジェットノズルが含まれるインクジェットヘッドを覆うキャップのみを、ポンプと接続して個別吸引する吸引パージが可能となっている。
【0004】
また、複数のインクジェットヘッドに対してまとめて吸引を行う全体吸引と、1個のインクジェットヘッドに対してのみ個別吸引とを行うことが可能なクリーニング機構を備えるインクジェット印刷装置も提案されている(特許文献2参照)。このクリーニング機構は、複数のインクジェットヘッドを個別に覆うキャップのうちの1個のみがチューブを介してポンプに接続される個別吸引用キャップと、その他複数のキャップに分岐して接続されるチューブを介してポンプに接続されるキャップと、複数のキャップの吸引動作を同時に切り換える第1の開閉弁と、個別吸引用キャップの吸引動作のみを切り換える第2の開閉弁とから構成されている。そして、全体吸引を行う場合には、複数のインクジェットヘッドを全てキャップで覆い、第1、第2の開閉弁を開放して吸引を行っている。また、個別吸引を行う場合には、1個のインクジェットヘッドのみを個別吸引用のキャップで覆い、第1の開閉弁を閉じるとともに第2の開閉弁を開放することで、吸引を行いたいインクジェットヘッドの個別吸引を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−213216号公報
【特許文献2】国際公開第2007/058139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、電磁開閉弁をキャップの数に応じて多数配設する必要があるため、装置が大型化し生産コストが高くなるという問題が生じる。また、多数の電磁開閉弁を駆動させるため、消費電力が高くなりランニングコストが高くなるという問題も生じる。
【0007】
一方、特許文献2に記載の装置では、複数のインクジェットヘッドが一方向に列設されたインクジェットユニット毎にクリーニング動作を行っている。このため、インクジェットヘッドの個別吸引を行う場合に、吸引を行う必要があるインクジェットヘッドのインクジェットユニットでの配置によっては、インクジェットヘッドと個別吸引用キャップとの位置あわせのためにインクジェットユニットを移動させる時間が長くなり、インクジェットヘッドのクリーニングに要する時間が長くなるという問題が生じる。
【0008】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、簡易な構成でありながら、インクの消費を低減することができるとともに、速やかにインクジェットヘッドをクリーニングすることが可能なインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、複数のインクジェットノズルが列設された複数のインクジェットヘッドと、前記複数のインクジェットヘッドの各々に対応する複数のキャップと、前記複数のキャップに各々連通接続される複数の管路と、前記複数のキャップおよび複数の管路を介して前記複数のインクジェットノズルからインクを吸引するための吸引手段と、を備えるインクジェット印刷装置であって、前記吸引手段に接続される吸出口と、内部に前記吸出口と連通する連通路が形成されるとともに、駆動手段に接続されることにより回転可能に支持された切換部と、前記切換部の回転中心から等しい距離に配設され、前記複数の管路を接続可能な複数の吸入口と、を有し、前記切換部を前記連通路が前記複数の吸入口のいずれかと連通接続する位置に回転させることにより、前記複数の管路を前記吸引手段に選択的に接続する接続切換手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記吸出口と前記吸引手段との間に、開閉弁をさらに備える。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記連通路の前記吸入口との連通側端部に、前記連通路と前記吸入口との間をシールするシール部材と、このシール部材を支持するための当接支持部材と、を備える。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のインクジェット印刷装置において、前記複数のインクジェットヘッドは、単一のインク色に対して複数備えられる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1乃至請求項4に記載の発明によれば、複数の管路を吸引手段に選択的に接続する接続切換手段を備えたことにより、吸引パージの必要のないインクジェットヘッドを吸引パージすることによるインクの消費を低減することができるとともに、複数のインクジェットヘッドに対して選択的に迅速なクリーニングを実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置の概要図である。
【図2】クリーニング部30をインクジェットユニット100とともに示す概要図である。
【図3】クリーニング部30をインクジェットユニット100とともに示す概要図である。
【図4】接続切換手段50とその周辺を示す斜視図である。
【図5】接続切換手段50における切換部60の概略断面図である。
【図6】形状の異なる当接支持部材165を使用した場合のO−リング64付近を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は、この発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置を説明する概要図である。
【0016】
このインクジェット印刷装置は、一対の巻き出しローラ43に巻回され、ドライブモータ41の駆動により一方向に移動する長尺記録媒体Mに対して、インクジェットノズルからインクを吐出して印刷をおこなうものであり、制御部20と、インクジェットヘッド群10と、クリーニング部30と、を備える。
【0017】
制御部20は、画像情報等に基づいて、ドライブモータ41の駆動、エンコーダ42による印刷媒体の移動量の監視、インクジェットノズルからのインクの吐出量調節等の印刷制御を行うとともに、クリーニング部30におけるインクジェットヘッド110(図2および図3参照)のクリーニング動作を制御する。
【0018】
インクジェットヘッド群10は、記録媒体Mの進行方向と直行する方向である記録媒体Mの幅方向に、多数のインクジェットノズルを有するインクジェットヘッド110を複数列設したインクジェットユニット100を、記録媒体Mの移動方向に向かって、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)のインク色毎に配置した構成を有する。このため、このインクジェット印刷装置では、インクジェットヘッド110を記録媒体Mの移動方向と直行する方向に往復移動させることなく、記録媒体Mがインクジェットヘッド群10の下を一回通過することで印刷が完了する、いわゆるワンパス印刷が行われる。
【0019】
図2および図3は、このインクジェット記録装置のクリーニング部30をインクジェットユニット100とともに示す概要図である。また、図4は、このクリーニング部30における接続切換手段50とその周辺を示す斜視図であり、図5は、接続切換手段50における切換部60の概略断面図である。なお、このインクジェット記録装置では、クリーニング部30においてインクジェットユニット100毎にインクジェットヘッド110a〜110h(これらを総称する場合は「インクジェットヘッド100」という)のクリーニングを行なっている。この実施形態では、8個のインクジェットヘッド110a〜110hが列設されたインクジェットユニット100を例に説明する。
【0020】
クリーニング部30は、後述する接続切換手段50と、インクジェットユニット100に列設された8個のインクジェットヘッド110a〜110hを各々覆うための吸引キャップ31a〜31h(これらを総称する場合は「吸引キャップ31」という)と、各吸引キャップ31a〜31hを接続切換手段50に接続するチューブ32a〜32h(これらを総称する場合は「チューブ32」という)と、各吸引キャップ31a〜31hに対して吸引力を付与する吸引手段としての吸引ポンプ34と、接続切換手段50と吸引ポンプ34とを接続する管路35に介設された電磁開閉弁33と、を備える。インクジェットヘッド110のクリーニングを行うときには、インクジェットユニット100が印刷を実行する印刷位置から、図3に示す、各インクジェットヘッド110a〜110hが吸引キャップ31a〜31hにより覆われるクリーニング位置に移動する。
【0021】
接続切換手段50は、図4に示すように、チューブ32a〜32hと接続される接続キャップ51a〜51l(これらを総称する場合は「接続キャップ51」という)と、接続キャップ51a〜51lを支持するキャップ支持部54と、チューブ32a〜32hが接続された接続キャップ51a〜51lのいずれかを吸引可能な状態に切り換える切換部60と、切換部60を軸支するとともにこの切換部60を回転させる駆動手段としてのステッピングモータ57とを備える。なお、この実施形態では、接続切換手段50の接続キャップ51の数は12個であることから、チューブ32を12個まで接続することが可能であるが、チューブ32a〜32hは、それぞれアルファベットの対応する接続キャップ51a〜51hに接続されているものとする。
【0022】
切換部60は、中心に接続切換手段50内に導かれた吸引物を接続切換手段50外へ排出する吸出口63が形成された円形状を有し、内部に吸出口63から円周側へと抜ける連通路62が形成されている。切換部60の背面に軸58を介して接続されたステッピングモータ57は、連通路62が後述するキャップ支持部54の吸入口61a〜61l(これらを総称する場合は「吸入口61」という)のいずれかと連通する位置となるように、切換部60を回転させる。そして、吸出口63は、後述する電磁開閉弁33に連通する管路35に連結される。
【0023】
キャップ支持部54には、図5に示すように、切換部60を囲むように切換部60の回転中心から等しい距離に、吸引キャップ31a〜31hおよびチューブ32a〜32hを介して吸引された吸引物を接続切換手段内に導く孔(吸入口61a〜61l)が形成されている。この吸入口61a〜61lは、接続キャップ51a〜51lに対応する数だけ等間隔に形成されている。
【0024】
切換部60とキャップ支持部54との間には、切換部60の回転を容易に行えるように隙間66が形成されている。そして、切換部60の連通路62と、キャップ支持部54の吸入口61とを隙間なく連通させるために、連通路62と吸入口61との間にある隙間66にシール部材としてのO−リング64が配設される。なお、このO−リング64は、ステッピングモータ57の駆動による切換部60の回転に伴って、切換部60とキャップ支持部54との間の隙間66を移動する。そして、このO−リング64を支持するために、連通路62に当接支持部材65が配設される。
【0025】
当接支持部材65は、略円筒状の中空形状を有し、切換部60とキャップ支持部54との間の隙間66においてO−リング64を当接支持している。当接支持部材65のO−リング64との当接面には、キャップ支持部54の吸入口61に向かってその外形が大きくなるテーパが形成されている。図6は、この実施形態における当接支持部材65とは形状の異なる当接支持部材165を使用した場合の、O−リング64付近を拡大して示す説明図である。切換部60とキャップ支持部54との間の隙間66のように、円弧面に対してO−リング64が当接することになる同心円状の円形形状間の隙間では、O−リング64に対して変形力が加わり、図6に示すように、O−リング64と切換部60に隙間が発生しシール機能が損なわれることがある。このため、この実施形態では、この当接支持部材65のO−リング64との当接面にテーパを形成することにより、O−リング64に加わる変形力に抗し、O−リング64のシール機能を損なうことなく吸入口61と連通路62を密接な状態で接続することを可能としている。
【0026】
次に、インクジェットヘッド110のクリーニング動作について説明する。
【0027】
図2に示すように、インクジェットヘッド110a〜110hが吸引キャップ31a〜31hに覆われていない状態では、切換部60の連通路62は、キャップ支持部54に形成された吸入口61a〜61lのいずれとも連通しない原点(図5の実線で示す位置)を向いている。このとき、電磁開閉弁33は閉じられ、吸引キャップ31a〜31hのいずれからも吸引は行われていない。
【0028】
インクジェットユニット100が図3に示すクリーニング位置に移動すると、切換部60がステッピングモータ57の駆動により回転し、連通路62はキャップ支持部54に形成された吸入口61a〜61lのいずれかと連通する位置(例えば、図5の仮想線で示す位置)に移動する。このとき、電磁開閉弁33が開状態とされる。これにより、連通路62と連通する吸入口61bに、吸引キャップ51bおよびチューブ32bを介して接続された吸引キャップ31bのみが吸引ポンプ34と接続され、吸引パージが実行される。インクジェットヘッド110bのインクジェットノズルから、吸引により吸引キャップ31bに受けられたインク等は、チューブ32b、吸入口61b、連通路62、吸出口63、電磁開閉弁33、吸引ポンプ34を経由して、装置外へ排出される。
【0029】
インクジェットヘッド110に対して個別吸引を行いたいときは、上述したように、吸引パージを行いたいインクジェットヘッド110に対応する吸引キャップ31に接続される吸入口61の位置と、連通路62の位置とを、切換部60を回転させることにより合わせた後に、吸引を実行すればよい。
【0030】
また、このように、選択的に流路接続の切り換えが行えることから、吸引パージを行いたいインクジェットヘッド110が複数ある場合、例えば、インクジェットヘッド110b、110f、110hに対して吸引パージを行いたい場合には、吸入口61b、61f、61hの順に連通路62が互いに連通するように切換部60を回転させて流路接続を切り換えるとともに、電磁開閉弁33の開閉動作を繰り返し実行すればよい。さらに、インクジェットヘッド110に対して全体吸引を行いたいときは、例えば、吸入口61a〜61hに対して順次、切換部60の回転により連通路62を移動させて流路接続を切り換えるとともに、電磁開閉弁33の開閉動作を流路接続の切り換えに対応させて繰り返し実行すればよい。なお、連通路62の位置は、すべてのインクジェットヘッド110a〜110hに対して吸引パージを行った後に、ステッピングモータ57の駆動により、再び吸入口61a〜61lのいずれとも連通しない原点に復帰する。
【0031】
上述したように、この実施形態では、切換部60を回転させるだけで、複数のインクジェットヘッド110に対して個別に接続されているクリーニング用の流路を容易かつ迅速に切り換えることができ、個別吸引、全体吸引のいずれにおいても、クリーニング動作を短時間で行うことができる。さらに、インクジェットヘッド110が単一のインク色に対して3個以上配設された場合のように、インク色毎に多数のインクジェットヘッド110が使用されるインクジェット記録装置では、より個別吸引によるクリーニング時間の短縮効果を得ることができる。
【0032】
なお、上述した実施形態では、接続切換手段50に接続できるチューブの数は12個であるが、この数は、例えば、1つのインクジェットユニット100に列設されるインクジェットヘッド110の数以上であれば良く、これに限定されるものではない。また、上述した実施形態では、接続切換手段50の切換部60の形状として、円形のものを採用しているが、多角形状のものを採用してもよい。
【0033】
さらに、上述した実施形態では、インクを吐出するインクジェットノズルを有するインクジェットヘッド110のクリーニング動作について説明したが、コート剤等、インク以外の種々の溶剤を吐出するノズルを有する複数のインクジェットヘッドのクリーニングにおいても、上述した接続切換手段50を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 インクジェットヘッド群
20 制御部
30 クリーニング部
31 吸引キャップ
32 チューブ
33 電磁開閉弁
34 吸引ポンプ
50 接続切換手段
51 接続キャップ
54 キャップ支持部
57 ステッピングモータ
58 軸
60 切換部
61 吸入口
62 連通路
63 吸出口
64 O−リング
65 当接支持部材
66 隙間
100 インクジェットユニット
110 インクジェットヘッド
M 記録媒体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインクジェットノズルが列設された複数のインクジェットヘッドと、前記複数のインクジェットヘッドの各々に対応する複数のキャップと、前記複数のキャップに各々連通接続される複数の管路と、前記複数のキャップおよび複数の管路を介して前記複数のインクジェットノズルからインクを吸引するための吸引手段と、を備えるインクジェット印刷装置であって、
前記吸引手段に接続される吸出口と、
内部に前記吸出口と連通する連通路が形成されるとともに、駆動手段に接続されることにより回転可能に支持された切換部と、
前記切換部の回転中心から等しい距離に配設され、前記複数の管路を接続可能な複数の吸入口と、を有し、
前記切換部を前記連通路が前記複数の吸入口のいずれかと連通接続する位置に回転させることにより、前記複数の管路を前記吸引手段に選択的に接続する接続切換手段を備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット印刷装置において、
前記吸出口と前記吸引手段との間に、開閉弁をさらに備えるインクジェット印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のインクジェット印刷装置において、
前記連通路の前記吸引口との連通側端部に、前記連通路と前記吸入口との間をシールするシール部材と、このシール部材を支持するための当接支持部材と、を備えるインクジェット印刷装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のインクジェット印刷装置において、
前記複数のインクジェットヘッドは、単一のインク色に対して複数備えられるインクジェット印刷装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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