説明

インクジェット式記録ヘッドの製造方法及びインクジェット式記録ヘッド、インクジェット式記録装置

【課題】基板同士の貼り合わせが不要で、接着剤によるノズル開口部の塞がりを防止できるようにしたインクジェット式記録ヘッドの製造方法及びインクジェット式記録ヘッド、インクジェット式記録装置を提供する。
【解決手段】ドライバ回路3を有する基板1の表側に流路形成膜10を形成する工程と、流路形成膜10に溝部を形成する工程と、溝部に犠牲膜を充填する工程と、犠牲膜及び流路形成膜10上に振動膜30を形成する工程と、振動膜30上に圧電素子50を形成する工程と、基板1を裏面側から犠牲膜が露出するまでエッチングしてリザーバ5を形成する工程と、リザーバ5を介して犠牲膜をエッチングし除去する工程と、流路形成膜10にノズル開口部22を形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法及びインクジェット式記録ヘッド、インクジェット式記録装置に関し、特に、基板同士の貼り合わせが不要で、接着剤によるノズル開口部の塞がりを防止できるようにした技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図10(a)に示すように、従来例に係るインクジェット式記録ヘッド200は、圧電素子(即ち、ピエゾ素子)201と、圧電素子を駆動するためのドライバ回路203と、圧電素子を封止するための封止板205と、外部からインク液の供給を受けるリザーバ207と、振動板209及び圧力発生室211を有する基板210と、ノズル開口部213が形成されたノズル板220と、を備える。このような構成のインクジェット式記録ヘッド200は、図10(b)に示すように、上記各部位が接着剤で接着されると共に、圧電素子201とドライバ回路203とがワイヤーボンディングで接続することにより、組み上げられている。
【0003】
また、近年では、ノズル開口部の配置間隔の高密度化が進んでおり、ワイヤーボンディングによる圧電素子201とドライバ回路203の接続は技術的限界に近づきつつある。このような流れを受けて、上記の基板や封止板にドライバ回路を直接形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1、2参照。)。この方法によれば、圧電素子とドライバ回路の接続を、フォトリソグラフィー技術による金属配線の形成や、フリップチップ実装により行うので、ワイヤーボンディングよりも微細な接続が可能である。このため、ノズル開口部の配置間隔の高密度化に対応することができる。
【特許文献1】特開2001−205815号公報
【特許文献2】特開2001−162794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1、2等に開示された方法は、基板同士の貼り合わせを前提とした方法である。つまり、複数の基板にそれぞれ素子の形成や加工を施したものを貼り合わせるため、工程が煩雑で低コスト化が困難であった。
また、基板同士の貼り合わせは接着剤により行われるが、この接着剤が接合面からはみ出してノズル開口部を塞いでしまう可能性があった。このような可能性は、ノズル開口部が小径化しその配置間隔が高密度化するほど増大すると考えられる。
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、基板同士の貼り合わせが不要で、接着剤によるノズル開口部の塞がりを防止できるようにしたインクジェット式記録ヘッドの製造方法及びインクジェット式記録ヘッド、インクジェット式記録装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔発明1、2〕 発明1のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、外部からインク液の供給を受けるリザーバと、前記リザーバに連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、を備えるインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、集積回路を有する基板の一方の面側に流路形成膜を形成する工程と、前記流路形成膜に溝部を形成する工程と、前記溝部に犠牲膜を充填する工程と、前記犠牲膜及び前記流路形成膜上に振動膜を形成する工程と、前記振動膜上に圧電素子を形成する工程と、前記基板を他方の面側から前記犠牲膜が露出するまでエッチングして前記リザーバを形成する工程と、前記リザーバを介して前記犠牲膜を除去する工程と、前記流路形成膜に前記ノズル開口部を形成する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0006】
ここで、「犠牲膜」には、「流路形成膜」に対してエッチングの選択性が高い膜(即ち、流路形成膜よりもエッチングされ易い膜)を用いることが好ましい。例えば、流路形成膜がシリコン酸化(SiO2)膜の場合は、犠牲膜にアモルファスシリコン(a−Si)膜を用いることができる。また、流路形成膜がa−Si膜の場合は、犠牲膜にSiO2膜を用いることができる。さらに、流路形成膜がポリシリコン(Poly−Si)膜の場合は、犠牲膜にSiO2膜又はシリコンゲルマニウム(SiGe)膜を用いることができる。犠牲膜としてのSiO2膜は、エッチングレートが比較的速いPSG(Phospho Silicate Glass)膜でも良い。
【0007】
発明2のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、外部からインク液の供給を受けるリザーバと、前記リザーバに連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、を備えるインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、集積回路を有する基板の一方の面側に第1流路形成膜を形成する工程と、前記圧力発生室と前記リザーバとを繋ぐ第1連通路となる領域の前記第1流路形成膜及び、前記圧力発生室と前記ノズル開口部とを繋ぐ第2連通路となる領域の前記第1流路形成膜にそれぞれ第1溝部を形成する工程と、前記第1溝部に第1犠牲膜を充填する工程と、前記第1流路形成膜及び前記第1犠牲膜上に第2流路形成膜を形成する工程と、前記圧力発生室となる領域の前記第2流路形成膜に第2溝部を形成する工程と、前記第2溝部に第2犠牲膜を充填する工程と、前記第2犠牲膜及び前記第2流路形成膜上に振動膜を形成する工程と、前記振動膜上に圧電素子を形成する工程と、前記基板を他方の面側から前記第1犠牲膜が露出するまでエッチングして前記リザーバを形成する工程と、前記リザーバを介して前記第1犠牲膜及び前記第2犠牲膜を除去する工程と、前記第2流路形成膜に前記ノズル開口部を形成する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0008】
発明1、2のインクジェット式記録ヘッドの製造方法によれば、1枚の基板に対して半導体プロセス(即ち、成膜工程、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程など)を行うことにより、インクジェット式記録ヘッドを製造することができる。従来例と比べて、複数枚の基板を貼り合わせる必要がないので、工程を簡素化でき低コスト化が可能である。また、貼り合わせのための接着剤が不要であるため、接着剤によりノズル開口部が塞がれる可能性がない。このため、インクジェット式記録ヘッドを低コストで、歩留まり高く製造することが可能となる。
【0009】
〔発明3〕 発明3のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、発明2のインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記ノズル開口部を形成する工程は、前記ノズル開口部となる領域の前記第2流路形成膜に前記第2溝部を形成する工程と、前記第2溝部に前記第2犠牲膜を充填する工程と、前記リザーバを形成する工程の後で、前記リザーバを介して前記第2犠牲膜をエッチングし除去する工程と、を有することを特徴とするものである。
このような方法によれば、圧力発生室を形成する工程及び、ノズル開口部を形成する工程を並行して行うことができるので、工程数の削減に寄与することができる。
【0010】
〔発明4〕 発明4のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、発明1から発明3の何れか一のインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記集積回路を前記基板の一方の面に形成する工程、をさらに含み、前記集積回路の配線材料には高融点金属を用いることを特徴とするものである。ここで、「高融点金属」は、例えばタングステン(W)、タングステンシリサイド(WSi2)、チタン(Ti)又はチタンシリサイド(TiSi2)、金(Au)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)等であり、例えば1000℃以上の融点を持つ金属のことである。
このような方法によれば、例えば、圧電素子を形成する際に700℃程度の熱処理を行う場合でも、熱を原因とする断線等の不具合発生を防止することができる。
〔発明5〕 発明5のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、発明1から発明4のインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記圧電素子上に絶縁性の保護膜を形成する工程と、を含むことを特徴とするものである。
このような方法によれば、圧電素子を封止することができる。
【0011】
〔発明6〕 発明6のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、発明5のインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記流路形成膜、又は、前記第2流路形成膜及び前記第1流路形成膜をエッチングして前記集積回路に至る第1コンタクトホールを形成する工程と、前記保護膜をエッチングして前記圧電素子に至る第2コンタクトホールを形成する工程と、前記基板の一方の面上に導電材料を形成して、前記第1コンタクトホールと前記第2コンタクトホールとを埋め込む工程と、前記導電材料をエッチングして、前記集積回路と前記圧電素子とを電気的に接続する配線を形成する工程と、を含むことを特徴とするものである。
このような方法によれば、例えば、インクジェット式記録ヘッドを駆動するためのドライバ回路を、集積回路として基板の一方の面に配置することができる。
【0012】
〔発明7、8〕 発明7のインクジェット式記録ヘッドは、外部からインク液の供給を受けるリザーバと、前記リザーバに連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、を備えるインクジェット式記録ヘッドであって、集積回路及び前記リザーバが形成された基板と、前記基板の一方の面側に設けられて、前記圧力発生室と前記ノズル開口部とが形成された流路形成膜と、前記流路形成膜上に設けられて前記圧力発生室を覆う振動膜と、前記振動膜上に設けられた圧電素子と、を備えることを特徴とするものである。
発明8のインクジェット式記録ヘッドは、発明7のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記インクジェット式記録ヘッドは、前記圧力発生室内の圧力変化により、前記リザーバに供給されたインク液を前記ノズル開口部から吐出することを特徴とするものである。
発明7、8のインクジェット式記録ヘッドによれば、基板同士の貼り合わせがなく、接着剤によるノズル開口部の塞がりが防止されたインクジェット式記録ヘッドを提供することができる。
【0013】
〔発明9〕 発明9のインクジェット式記録装置は、発明7又は発明8に記載のインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするものである。
このような構成であれば、基板同士の貼り合わせがなく、接着剤によるノズル開口部の塞がりが防止されたインクジェット式記録ヘッドを具備することができる。そして、このようなインクジェット式記録ヘッドは、低コストで、歩留まり高く製造することができるので、インクジェット式記録装置の安価化に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、その重複する説明は省略する。
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)をX1−X´1線で切断したときの断面図である。図1(a)及び(b)に示すように、このインクジェット式記録ヘッド100は、例えば基板1と、流路形成膜10と、振動膜30と、圧電素子(即ち、ピエゾ素子)50とを備える。
【0015】
基板1は、例えば面方位(100)のバルクシリコン基板である。この基板1の表面(即ち、図1(b)において上側の面)には、圧電素子50を駆動するためのドライバ回路3が一体に形成されている。また、この基板1には、裏面(即ち、図1(b)において下側の面)から表面にかけて径が徐々に小さくなるように形成された貫通穴が形成されている。この貫通穴が、外部からインク液の供給を受けるリザーバ5である。リザーバ5の容積は、後述する全ての圧力発生室20の容積に対して、それよりも十分に大きい。さらに、基板1の表面にはドライバ回路3を保護するためのパッシベーション膜7が形成されている。
【0016】
流路形成膜10は、基板1の表面側に形成されている。この流路形成膜10は例えば積層構造であり、基板1側からみて1層目の第1流路形成膜11と、2層目の第2流路形成膜12とを有する。このような構成の流路形成膜10には、個々に区画された複数のインク流路が形成されている。ここで、インク流路とは、インク液が流れる経路のことであり、インク連通路19と、圧力発生室20と、ノズル連通路21と、ノズル開口部22とを有する。図1(b)に示すように、インク連通路19はリザーバ5と圧力発生室20とを繋いで当該間でインク液が流れるようにする流路であり、ノズル連通路21は圧力発生室20とノズル開口部22とを繋いで当該間でインク液が流れるようにする流路である。なお、インク液に圧力を与える圧力発生室20の容積と、ノズル開口部22の大きさは、インク液の吐出量とその吐出スピード、吐出周波数などに応じて最適化されている。
【0017】
また、流路形成膜10とその下のパッシベーション膜7には、ドライバ回路3の表面(即ち、能動面)に形成されたパッド電極等を底面とする第1コンタクトホール64が形成されている。さらに、流路形成膜10上に振動膜30が形成されている。振動膜30は弾性膜であり、流路形成膜10上に形成されて圧力発生室20を覆っている。
圧電素子50は、振動膜30を介して圧力発生室20の真上に形成されている。図1(b)に示すように、この圧電素子50は、下部電極51と、下部電極51上に形成された圧電体52と、圧電体52上に形成された上部電極53とを有する。下部電極51は、例えば複数の圧電素子50にわたる共通の電極である。また、圧電体52は、電圧を加えると伸長、収縮する、又は、歪みが生じるような誘電体であり、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)である。さらに、上部電極53は、下部電極51とは異なり共通の電極ではなく、個々の圧電体と1:1で対応した個別の電極である。このような構成の圧電素子50は、個々の圧力発生室20の真上にそれぞれ設けられている。
【0018】
また、圧電素子50を覆うように基板1の表面側には保護膜60が形成されている。そして、この保護膜60には上部電極53を底面とする第2コンタクトホール65が形成されている。この第2コンタクトホール65と、流路形成膜10及びパッシベーション膜7に形成された第1コンタクトホール64とを埋め込むように配線67が形成されている。この配線67により、個々の圧電素子50の上部電極53がドライバ回路3にそれぞれ接続されている。さらに、圧電素子50の下部電極51は配線68によって保護膜60上に引き出されている。
【0019】
このような構成のインクジェット式記録ヘッド100は、図示しない外部インク供給手段からリザーバ5にインク液を取り込み、図中の矢印で示すように、リザーバ5からノズル開口部22に至るまでの間をインク液で満たしておく。そして、ドライバ回路3からの記録信号に従い、圧電素子50の上部電極53と下部電極51との間に電圧を印加して圧電体52を伸長、収縮させ、又は、歪みを生じさせる。これにより、振動膜30が変形して圧力発生室20内の圧力が高まり、ノズル開口部22からインク液を吐出する。
【0020】
次に、上記のインクジェット式記録ヘッド100の製造方法について説明する。図2〜図8は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図であり、各図の(a)は平面図、各図の(b)は(a)をX−X´線で切断したときの断面図である。
図2(a)及び(b)において、まず始めに、圧電素子50を駆動するためのドライバ回路3を基板1の表面側に形成する。このドライバ回路3の形成は半導体プロセスで行う。なお、ドライバ回路3の内部に形成される配線(例えば、トランジスタ等を繋ぐ配線や、最上層の配線であるパッド電極を含む)は、アルミニウム(Al)等の低融点金属ではなく、例えばW、WSi2、Ti又はTiSi2などの高融点金属で形成しておくことが好ましい。その理由は、後の圧電体膜の形成工程で例えば700℃程度の熱処理を行うからである。ドライバ回路3の内部に形成される配線を、例えば1000℃以上の融点を持つ金属で形成しておくことにより、後工程で700℃程度の熱処理を行う場合でも、熱を原因とする断線等の不具合発生を防止することができる。
【0021】
次に、ドライバ回路3を覆うように基板1の表面上にパッシベーション膜7を形成する。このパッシベーション膜7は、例えばSiO2膜、又は、シリコン窒化(Si34)膜等であり、その形成は例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)で行う。
次に、図3(a)及び(b)に示すように、パッシベーション膜7上に第1流路形成膜11を形成する。第1流路形成膜11の厚さは例えば10〜100μmであり、その形成は例えばCVDで行う。そして、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、第1流路形成膜11を部分的にエッチングして、例えば、インク連通路19(図1参照。)となる領域と、ノズル連通路21(図1参照。)となる領域と、ノズル開口部22(図1参照。)となる領域に、それぞれ第1溝部13を形成する。
【0022】
次に、第1溝部13を第1犠牲膜14で充填する。ここでは、例えば、基板1の表面全体に第1犠牲膜14を形成して第1溝部13を埋め込む。第1犠牲膜14の厚さは、例えば第1溝部13の深さと略同一の厚さ、又はそれ以上の厚さとする。次に、例えばCMP(Chemical Mechanical Polish)により、第1犠牲膜14に平坦化処理を施して、第1溝部13以外の部分に形成された第1犠牲膜14を除去する。これにより、第1溝部13の内部にのみ第1犠牲膜14を残すことができる。
【0023】
次に、図4(a)及び(b)に示すように、第1流路形成膜11及び第1犠牲膜14上に第2流路形成膜12を形成する。第2流路形成膜12の厚さは例えば10〜100μmであり、その形成は例えばCVDで行う。そして、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、第2流路形成膜12を部分的にエッチングして、例えば、圧力発生室20(図1参照。)となる領域と、ノズル開口部22(図1参照。)となる領域とにそれぞれ第2溝部15を形成する。ここでは、第1溝部13と繋がるように第2溝部15を形成する。つまり、第2溝部15の端部が第1溝部13の端部と重なるように第2溝部15を形成する。これにより、第1溝部13と第2溝部15とからなる連続した溝部が構成される。
【0024】
次に、図4(a)及び(b)に示すように、第2溝部15を第2犠牲膜16で充填する。ここでは、例えば、基板1の表面全体に第2犠牲膜16を形成して第2溝部15を埋め込む。第2犠牲膜16の厚さは、例えば第2溝部15の深さと略同一の厚さ、又はそれ以上の厚さとする。次に、例えばCMPにより、第2犠牲膜16に平坦化処理を施して、第2溝部15以外の部分に形成された第2犠牲膜16を除去する。これにより、第2溝部15の内部にのみ第2犠牲膜16を残すことができる。
【0025】
ここで、これら第1、第2犠牲膜(以下、単に犠牲膜ともいう。)14、16は、リザーバ5(図1参照。)を形成した後で除去する。このため、犠牲膜14、16には、第1流路形成膜11及び第2流路形成膜12(即ち、流路形成膜10)に対してエッチングの選択性が高い膜、つまり、所定のエッチング条件において流路形成膜10よりもエッチングされ易い膜、を用いることが好ましい。
例えば、流路形成膜10がSiO2膜の場合は、犠牲膜14、16にa−Si膜を用いることができる。また、流路形成膜10がa−Si膜の場合は、犠牲膜14、16にSiO2膜を用いることができる。さらに、流路形成膜10がPoly−Si膜の場合は、犠牲膜14、16にSiO2膜又はSiGe膜を用いることができる。上記犠牲膜としてのSiO2膜は、PSG(Phospho Silicate Glass)膜でも良い。
【0026】
なお、犠牲膜14、16の形成方法は上記の方法(即ち、CVDによる成膜工程と、CMPによる平坦化工程の組み合わせ)に限定されない。例えば、1μm以下の超微粒子をヘリウム(He)等のガスの圧力によって高速で基板1に衝突させることにより成膜するいわゆるガスデポジション法或いはジェットモールディング法と呼ばれる方法を用いて、犠牲膜14、16を形成しても良い。このような方法によれば、CMPによる平坦化工程を経なくても、第1溝部13及び第2溝部15に犠牲膜14、16をそれぞれ充填することができる。
【0027】
次に、図5(a)及び(b)に示すように、第2流路形成膜12及び第2犠牲膜16上に振動膜30を形成する。振動膜30は上述したように弾性膜であり、例えばSiO2膜又は酸化ジルコニウム(ZrO2)、若しくはこれらを積層した膜からなり、その厚さは例えば1〜2μmである。振動膜30にZrO2を用いる場合は、例えば、O2を含んだプラズマでジルコニウム(Zr)をスパッタ成膜(反応性スパッタ成膜)することによって形成する。なお、振動膜30の材料は上記の種類に限定されないが、リザーバ5(図1参照。)を形成する工程及び犠牲膜14、16を除去する工程でエッチングされない若しくはエッチングされにくい材料を用いることが好ましい。
【0028】
次に、図5(a)及び(b)に示すように、個々の圧力発生室20に対応して振動膜30上に圧電素子50を形成する。ここでは、例えば、スパッタリング法により振動膜30上に下部電極膜を形成する。この下部電極膜の材料としては、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等が好適である。その理由は、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体膜は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。下部電極膜の材料には、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持することができるような材料を選択して用いる必要がある。特に、圧電体膜としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないような材料を選択して用いることが望ましい。このような条件を満たす材料として、Pt、Ir等が好適である。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、下部電極膜を部分的にエッチングして、共通電極としての形状を有した下部電極51を形成する。そして、圧電体膜を成膜する。ここでは、例えば、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布し乾燥してゲル化し、さらに高温で焼結すること(即ち、ゾルーゲル法)で圧電体膜を形成する。圧電体膜の材料としては、PZT系の材料が好適であり、その場合の焼結温度は例えば700℃程度である。なお、この圧電体膜の成膜方法は、ゾルーゲル法に限定されず、例えば、スパッタリング法、又は、MOD法(有機金属熱塗布分解法)などのスピンコート法により成膜してもよい。或いは、ゾルーゲル法又はスパッタリング法若しくはMOD法等によりPZTの前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法により成膜してもよい。このような方法により形成される圧電体膜の厚さは、例えば0.2〜5μmである。
【0029】
次に、上部電極膜を成膜する。上部電極膜は、導電性の高い材料であればよく、Al、金(Au)、ニッケル(Ni)、Pt等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用することができる。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、上部電極膜及び圧電体膜を順次、部分的にエッチングして、所定形状の上部電極53と圧電体52とを形成する。これにより、振動膜30上に、下部電極51と圧電体52と上部電極53とからなる圧電素子50が完成する。
なお、本実施形態では、下部電極51を圧電素子50の共通電極とし、上部電極53を圧電素子50の個別電極としているが、ドライバ回路3や配線の都合でこれを逆にしても良い。つまり、下部電極51を個別電極とし、上部電極53を共通電極としても良い。
【0030】
次に、図6(a)及び(b)に示すように、圧電素子50が形成された振動膜30上の全面に保護膜60を形成する。保護膜60は例えばアルミナ(Al23)であり、その形成は例えばスパッタリング法、ALD(Atomic Layer Deposition)、又は、MOCVD(Metal Organic CVD)で行う。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、保護膜60、振動膜30及び流路形成膜10を順次、部分的にエッチングして第1コンタクトホール64を形成する。また、同様の方法により、第1コンタクトホール64の形成と前後して、或いは並行して、上部電極53上に第2コンタクトホール65を形成する。
【0031】
次に、基板1の表面全体に導電膜を形成して、第1コンタクトホール64及び第2コンタクトホール65を埋め込む。そして、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、導電膜を部分的にエッチングする。これにより、図7(a)及び(b)に示すように、個々の圧電素子50の上部電極53とドライバ回路3とをそれぞれ電気的に接続する配線67と、共通の電極である下部電極51を保護膜60上に引き出す配線68とを形成する。
次に、図8(a)及び(b)に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、基板1を裏面側から部分的にエッチングしてリザーバ5を形成する。ここでは、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて基板1をウェットエッチングする。KOHを用いた異方性のウェットエッチングにより、リザーバ5は徐々に径が小さくなるように形成され、その側面には(111)面が露出する。
【0032】
なお、リザーバ5の形成はウェットエッチングに限定されず、例えば、ドライエッチングで行ってもよい。また、この実施形態では、圧電素子50を形成した後でリザーバ5を形成しているが、これに限定されず、何れの工程でリザーバ5を形成してもよい。
次に、リザーバ5の底面で露出したパッシベーション膜7をエッチングして除去する。例えば、パッシベーション膜7がSiO2膜の場合は、フッ酸(HF)溶液を用いたウェットエッチング又はドライエッチングにより、パッシベーション膜7を除去する。また、パッシベーション膜7がSi34膜の場合は、熱リン酸溶液を用いたウェットエッチング又はドライエッチングにより、パッシベーション膜7を除去する。これにより、リザーバ5の底面から第1犠牲膜14が露出することとなる。
【0033】
次に、リザーバ5を介して第1犠牲膜14と第2犠牲膜16をエッチングする。これにより、第1犠牲膜14と第2犠牲膜16が完全に取り除かれ、流路形成膜10と振動膜30とに囲まれた空間、即ち、インク流路が形成される。犠牲膜14、16のエッチングはドライエッチング又はウェットエッチングのどちらで行っても良いが、ここでは、流路形成膜10のエッチング速度よりも犠牲膜14、16のエッチング速度の方が大きいエッチングガス、又はエッチング液を用いて犠牲膜14、16をエッチングする。例えば、流路形成膜10がSiO2膜であり、犠牲膜14、16がa−Si膜である場合は、エッチングガスとしてフッ化キセノン(XeF2)ガスを用いることができる。
【0034】
また、流路形成膜10がa−Si膜又はPoly−Si膜であり、犠牲膜14、16がPSG膜である場合は、エッチング液としてHF溶液を用いることができる。このようにエッチング条件を選択することにより、流路形成膜10のエッチングを抑制しつつ、犠牲膜14、16を選択的にエッチングして除去することができる。その後、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、振動膜30を部分的にエッチングして、ノズル開口部22を形成する。以上のような工程を経て、図1(a)及び(b)に示したインクジェット式記録ヘッド100が完成する。
【0035】
このように、本発明の実施形態によれば、1枚の基板1に対して半導体プロセス(即ち、成膜工程、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程など)を行うことにより、インクジェット式記録ヘッドを製造することができる。従来例と比べて、複数枚の基板を貼り合わせる必要がないので、工程を簡素化でき低コスト化が可能である。また、貼り合わせのための接着剤が不要であるため、接着剤によりノズル開口部22が塞がれる可能性がない。このため、インクジェット式記録ヘッドを低コストで、歩留まり高く製造することが可能となる。また、このようなインクジェット式記録ヘッドをインクジェット式記録装置に搭載することにより、インクジェット式記録装置の安価化にも寄与することができる。
【0036】
この実施形態では、基板1の表面が本発明の「一方の面」に対応し、基板1の裏面が本発明の「他方の面」に対応し、ドライバ回路3が本発明の「集積回路」に対応している。また、インク連通路19が本発明の「第1連通路」に対応し、ノズル連通路21が本発明の「第2連通路」に対応している。さらに、第1犠牲膜14及び第2犠牲膜16が本発明の「犠牲膜」に対応し、第1溝部13及び第2溝部15が本発明の「溝部」に対応している。
【0037】
なお、上記の実施形態では、流路形成膜10を2層(即ち、第1流路形成膜11と第2流路形成膜12とからなる)構造とする場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図9に示すように、流路形成膜10は1層構造でも良い。このような場合であっても、上記の実施形態と同様の方法により、流路形成膜10にインク流路を形成することができる。また、流路形成膜10が1層構造の場合は、圧電素子50の伸長、収縮等の動作により、ノズル開口部22に歪みが生じてしまう可能性がある。そこで、図9に示すように、流路形成膜10が1層構造の場合は、ノズル開口部22の開口側にアダプタ22aを設けると良い。アダプタ22aは、例えばSiO2膜又はSi34膜からなる。これにより、ノズル開口部22が厚膜化されるので、歪みが生じにくくなり、インク液が吐出する方向を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す図。
【図2】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その1)。
【図3】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その2)。
【図4】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その3)。
【図5】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その4)。
【図6】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その5)。
【図7】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その6)。
【図8】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その7)。
【図9】インクジェット式記録ヘッド100の他の構成例を示す図。
【図10】従来例を示す図。
【符号の説明】
【0039】
1 基板、3 ドライバ回路、5 リザーバ、7 パッシベーション膜、10 流路形成膜、11 第1流路形成膜、12 第2流路形成膜、13 第1溝部、14 第1犠牲膜、15 第2溝部、16 第2犠牲膜、19 インク連通部、20 圧力発生室、21 ノズル連通部、22 ノズル開口部、30 振動膜、50 圧電素子、51 下部電極、52 圧電体、53 上部電極、60 保護膜、64 第1コンタクトホール、65 第2コンタクトホール、67、68 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からインク液の供給を受けるリザーバと、前記リザーバに連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、を備えるインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、
集積回路を有する基板の一方の面側に流路形成膜を形成する工程と、
前記流路形成膜に溝部を形成する工程と、
前記溝部に犠牲膜を充填する工程と、
前記犠牲膜及び前記流路形成膜上に振動膜を形成する工程と、
前記振動膜上に圧電素子を形成する工程と、
前記基板を他方の面側から前記犠牲膜が露出するまでエッチングして前記リザーバを形成する工程と、
前記リザーバを介して前記犠牲膜を除去する工程と、
前記流路形成膜に前記ノズル開口部を形成する工程と、を含むことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項2】
外部からインク液の供給を受けるリザーバと、前記リザーバに連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、を備えるインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、
集積回路を有する基板の一方の面側に第1流路形成膜を形成する工程と、
前記圧力発生室と前記リザーバとを繋ぐ第1連通路となる領域の前記第1流路形成膜及び、前記圧力発生室と前記ノズル開口部とを繋ぐ第2連通路となる領域の前記第1流路形成膜にそれぞれ第1溝部を形成する工程と、
前記第1溝部に第1犠牲膜を充填する工程と、
前記第1流路形成膜及び前記第1犠牲膜上に第2流路形成膜を形成する工程と、
前記圧力発生室となる領域の前記第2流路形成膜に第2溝部を形成する工程と、
前記第2溝部に第2犠牲膜を充填する工程と、
前記第2犠牲膜及び前記第2流路形成膜上に振動膜を形成する工程と、
前記振動膜上に圧電素子を形成する工程と、
前記基板を他方の面側から前記第1犠牲膜が露出するまでエッチングして前記リザーバを形成する工程と、
前記リザーバを介して前記第1犠牲膜及び前記第2犠牲膜を除去する工程と、
前記第2流路形成膜に前記ノズル開口部を形成する工程と、を含むことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記ノズル開口部を形成する工程は、
前記ノズル開口部となる領域の前記第2流路形成膜に前記第2溝部を形成する工程と、
前記第2溝部に前記第2犠牲膜を充填する工程と、
前記リザーバを形成する工程の後で、前記リザーバを介して前記第2犠牲膜をエッチングし除去する工程と、を有することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記集積回路を前記基板の一方の面に形成する工程、をさらに含み、
前記集積回路の配線材料には高融点金属を用いることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記圧電素子上に絶縁性の保護膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記流路形成膜、又は、前記第2流路形成膜及び前記第1流路形成膜をエッチングして前記集積回路に至る第1コンタクトホールを形成する工程と、
前記保護膜をエッチングして前記圧電素子に至る第2コンタクトホールを形成する工程と、
前記基板の一方の面上に導電材料を形成して、前記第1コンタクトホールと前記第2コンタクトホールとを埋め込む工程と、
前記導電材料をエッチングして、前記集積回路と前記圧電素子とを電気的に接続する配線を形成する工程と、を含むことを特徴とする請求項5に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
外部からインク液の供給を受けるリザーバと、前記リザーバに連通する圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、を備えるインクジェット式記録ヘッドであって、
集積回路及び前記リザーバが形成された基板と、
前記基板の一方の面側に設けられて、前記圧力発生室と前記ノズル開口部とが形成された流路形成膜と、
前記流路形成膜上に設けられて前記圧力発生室を覆う振動膜と、
前記振動膜上に設けられた圧電素子と、を備えることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項8】
前記インクジェット式記録ヘッドは、前記圧力発生室内の圧力変化により、前記リザーバに供給されたインク液を前記ノズル開口部から吐出することを特徴とする請求項7に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−226795(P2009−226795A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76376(P2008−76376)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】