説明

インクジェット式高耐熱粉末積層成形用水性バインダ

【課題】 インクジェット式粉末積層RP成形装置で成形可能で、鋳鉄等の高融点金属を鋳造できる高い耐熱性をもつ鋳型・中子を成形するための粉末材料に最適な溶質成分を含有する水性バインダを提供する。
【解決手段】 珪砂、オリビン砂、人工砂等に速硬性セメントを配合した高耐熱性粉末材料で品質のよい成形体を得るために、粉末材料に噴出された後の浸透拡散性を調整するために主に粘性調整剤と界面活性剤を適量含有する水溶液を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式粉末積層成形装置で高耐熱粉末積層鋳型および中子を製作するために用いる水溶性バインダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳造は、代表的な金属加工法であり、金属を高温で溶解し、それを耐熱性のある鋳型に注入して冷却・凝固させて複雑な形状をもち金属製品を短時間かつ低コストで製作できるという特徴を有する。鋳造法で用いる鋳型には、金属性の金型を用いる場合もあるが、耐火度の高い砂等を骨材として、これに粘結材を加えて成形する砂型を用いるのが一般的である。
【0003】
3次元CAD等で作成された立体形状データを利用して、実立体を製作すえる技術を総称してラピッド・プロトタイピング技法(Rapid Prototyping、以下「RP」という)という。RP技法のなかで、高耐熱性粉末を材料とする成形技法を用いると、模型や木型を使わずに鋳型や中子を製作することができるため、極めて迅速な鋳物製造プロセスが実現可能となる。
【0004】
鋳型には鋳込む金属の融点以上の耐熱度が要求される。砂型の場合、砂そのものの耐熱度が高いため、鋳型の耐熱性は用いられる粘結材によって決まる。鋳造用金属材料として多く生産されている鋳鉄の鋳込み温度は1350℃を超え、さらに鋳鋼の鋳込み温度は1600℃を超えることがある。
インクジェット式粉末積層成形技法でこれらの金属材料の鋳造に耐える鋳型を製作するためには、成形用粉末材料にこれらに耐える高い耐熱性が要求される。
【0005】
インクジェット式粉末積層成形技法は、主材とする砂に水硬性粘結材を混合した粉末材料を用い、これに水性バインダを吹き付けて選択的に固化させて成形体を得るものである。したがって、この技法で製作する鋳型の耐熱性は、砂主材に混合する水硬性粘結材と水性バインダに含まれる溶質の耐熱性に依存する。
一方、水性バインダに含まれる溶質成分は、インクジェットノズルから噴出されるときの状態や、成形体の面安定性や寸法精度、さらに強度などにも影響を与える。このため、インクジェット式粉末成形技法において、水性バインダは成形体の品質を決定する上できわめて重要な要素となる。
【0006】
先に本発明の考案者らは、インクジェット式粉末積層成形技法によって耐熱性の高い鋳型・中子を製作するための成形材料として、主骨材の砂に所定量の速硬性セメントを混合した粉末材料を開発した。これに伴い、この粉末材料を用いて品質良い鋳型・中子を製作するのに最適化された水性バインダが必要であり、その開発が急務であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、インクジェット式粉末積層成形装置によって鋳造用鋳型を製作する技法において、鋳込み温度が1350℃を超える鋳鉄、鋳鋼などの金属を鋳造可能な高耐熱性粉末を用いて型成形するのに適した水性バインダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
インクジェット式粉末積層成形で用いる水性バインダには、成形機構に依存する機能としてインクジェットノズルから粉末材料の選択的固化に必要かつ十分な量のバインダが噴霧されることに加えて、粉末積層成形体の強度と表面安定性の発現に効果的に寄与することが求められる。水性バインダは、これらの機能を得させるための溶質成分を適量に含む水溶液とする。
【発明の効果】
【0009】
前項の[0006]で記述した高耐熱性粉末積層成形用材料は、当考案者らが試作・開発したものであるから、この粉末材料に対して最適な性能を有する水性バインダは提供されていない。本発明によって提供される水性バインダを用いることにより、インクジェット式高耐熱性粉末積層成形による鋳型製作の技法において、強度、表面安定性、寸法精度などが改善され、同技法による迅速鋳造プロセスの実用性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】インクジェット式粉末積層成形技法を説明する模式図である。
【図2】水性バインダの拡散浸透度と粉末材料の粒度との関係を示す図である。
【図3】水性バインダの拡散浸透度と粘性調整材含有量との関係を示す図である。
【図4】水性バインダの拡散浸透度と界面活性剤添加量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、インクジェット式粉末積層成形技法で用いられる水性バインダは、において水硬性粘結材の固化による実立体成形の主要な役割に加え、良品質の成形体を得るために粘性調整剤や界面活性剤等の溶質成分を適量添加した水溶液とする。
【実施例】
【0012】
図1は、インクジェット式粉末積層成形技法による立体成形の状態を示す模式図である。1は1層分の積層厚さを示しており、粉末粒径に応じて80〜120μmに設定する。2は水平分割断面に立体の断面定義によって生じる2つの領域を示しており、2aは水性バインダを加えて固化させた領域、2bは水性バインダを加えず固化しないままの領域である。3は主材の耐火粉末を示し、3aは主材に含まれる粒径の大きな粗粒成分、3cは粒径の細かい細粒成分、3bはそれらの中間の中粒成分を示す。4は主材を固化させるために混合した水硬性粘結材を示す。
本発明が対象とする粉末積層成形粉末は、主材となる耐火性粉末に広い粒度分布構成を持ち、1350℃以上の金属溶湯の鋳造に耐えるよう、水硬性粘結材に速硬セメントを配合したものである。
【0013】
水性バインダは、水性バインダはインクジェットノズルを介して粉末材料に噴射され、粉末材料に混合される水硬性粘結材と反応してこれを固化して成形体を得る。したがって、水性バインダには、1)インクジェットノズルから噴出する量の制御、2)粉末に浸透する量の制御、3)粉末成形体の表面安定性の向上、という性能を実現するための溶質成分を含有させる。
本実施例においては、これらの性能を実現する添加剤として、粘性調整剤にPVP(ポリビニルピロリドン)、界面活性剤にオルフィンE1010(日信化学工業(株)製)を選択し、これらを適量配合した。
【0014】
図2は、水性バインダの粉末材料への浸透度を粘性調整剤の含有量および粉末粒度構成の違いで比較した試験結果を示す図である。グラフ横軸の粒度指数は、鋳物砂の粒度構成を表す指標として用いられるものである。この数値が小さい場合は、粉末材料中に比較的粒径の大きい粗粒の重量構成比が高いことを示しており、反対にこの数値が大きいほど粒径の小さな微粉を多く含むことを示している。
また、グラフ縦軸の浸透半径は、水平に滑らかに敷き詰めた粉末表面上にマイクロピペットを用いて水性バインダを約10マイクロリットルだけ落としたときに、水性バインダが浸透して広がった領域の平均半径として定義したものである。
粒度指数が400以下の領域では、粒度指数が高くなるにつれて浸透半径が減少しており、粉末中の微粉の重量構成比が高くなるほど、水性バインダが浸透拡散しにくいことを示している。これは、微粉が多いほど単位容積あたりの粉末表面積が増加することが影響していると考えられる。
水性バインダにPVPを添加した水性バインダを用いた場合、粒度指数が400以上でもこの傾向が継続するが、PVPを添加しない水性バインダでは逆に粒度指数の増加とともに浸透拡散が広がる傾向を示す。これは、PVPを添加しない水溶液は粘性が小さいため、毛細管現象で微粉中の間隙に浸透するためであると考えられる。
【0015】
図3は、粘性調整剤の含有量が水性バインダの粉末材料への浸透度に及ぼす影響を試験した結果を示す図である。グラフ横軸は、粘性調整剤として添加したPVPの重量比濃度を示しており、グラフ縦軸の浸透半径は、前項と同じである。
2種類の粉末材料で試験した結果、いずれもPVPを添加することによって浸透半径が減少する傾向が認められた。インクジェット式粉末成形技法において、水性バインダの浸透拡散が大きいと成形体の表面近傍の砂粒結合力が低下して表面の安定性が損なわれ、CADデータで指定した寸法も正確に再現できないなどの不具合が生じる。したがって、水性バインダは適度な浸透性が要求されるものの、必要以上に浸透拡散しないようにPVP等の粘性調整材を適量添加する必要がある。
【0016】
一方、PVPは文具用糊の原料としても知られており、乾燥するとその粘結性を発現することから、成形後の成形体強度および表面安定性の向上に寄与すると考えられる。しかし、PVPを必要以上に添加すると、インクジェットノズルの噴出孔を詰まらせやすくなったり、有機成分が増えることでイグロスを増やすなどの不具合も懸念される。
前項の浸透拡散への影響も考慮し、水性バインダに添加するPVP量は、試験結果を参考に1.5%程度添加するのが適量と判断した。
【0017】
図4は、界面活性剤の添加量が水性バインダの粉末材料への浸透度に及ぼす影響を試験した結果を示す図である。グラフ横軸は、界面活性剤として添加したオルフィンE1010の体積比濃度を示しており、グラフ縦軸の浸透半径は、前項と同じである。
試験結果から、界面活性剤を添加しない場合に比べて、界面活性剤を0.1%程度添加すると水性バインダの浸透性が増す傾向が認められた。
【0018】
界面活性剤として用いたオルフィンE1010は、水性バインダの表面張力を減少させ、粉末成形体に水性バインダを一様な濃度で含ませる効果と、インクジェットノズルから水性バインダを噴出させる際の摩擦抵抗を抑える効果が期待できる。
しかし、これを0.2%以上添加すると、インクジェットノズルが詰まりやすくなる現象が確認された。これは、水性バインダの表面張力が小さくなることで、水性バインダがインクジェットノズルの噴出孔から漏出しやすくなり、結果的に乾燥表面積を多くするためインクジェットノズルが乾燥し易くなるためと考察している。
この試験結果から、水性バインダに添加する界面活性剤の量は、0.05%程度とするのが適量と判断した。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の水性バインダは、高温耐熱性を付与した粉末積層成形用粉末材料で高融点合金材料を鋳込むための鋳型製作に適する品質を持たせるために、粘性調整剤および表面活性剤の溶質成分の最も適正な添加量を含有するものであり、この技法を応用する迅速鋳造プロセスによる鋳鉄・鋳鋼品の製造分野において良品質の鋳物の製作に、本発明は大きな効果を発揮する。
【符号の説明】
【0020】
1 積層厚さ
2 固化領域
2a 水性バインダを噴射添加した固化領域
2b 水性バインダを添加しない未固化領域
3 主骨材
3a 主骨材(粗粒)
3b 主骨材(中粒)
3c 主骨材(細粒)
4 水硬性粘結材(速硬セメント)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット式粉末積層成形技法で製作する鋳型・中子を用いた鋳造プロセスで、鋳鉄・鋳鋼等の融点の高い金属を鋳造する鋳型を製作するのに用いることを目的に配合された粉末材料で品質の良い成形体を得るために最適な溶質成分を含有する水溶液で、主に粘性調整剤と界面活性剤を添加することを特徴とする水性バインダ。
【請求項2】
請求項1の水性液で、粉末材料に噴出させたときの浸透拡散性を調整するために、粘性調整材としてポリビニルピロリドンなどの有機高分子材料粘結材を最適値として重量比で1.5%程度、あるいは1.0%〜2.0%含有する水性バインダ。
【請求項3】
請求項1の水性液で、粉末材料に噴出させたときの浸透拡散性の調整と、インクジェットノズルとの摩擦低減のために、界面活性剤を体積比で0.05%〜0.1%程度添加した水性バインダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−104651(P2011−104651A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280975(P2009−280975)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(310010575)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (51)
【Fターム(参考)】