説明

インクジェット描画方法および装置

【課題】位置精度の高い画像を形成することができるインクジェット描画方法および装置を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド14によって光硬化型インクをインク液滴として像様に画像記録媒体P上に吐出して直接描画し、インクジェットヘッド14による描画位置から画像記録媒体の副走査搬送下流側に所定距離離間した後方位置において、静止した点状または略点状の活性光光源からの活性光を主走査方向に走査移動する回転ミラー44によって画像記録媒体P上に照射し、画像記録媒体P上に像様に吐出された光硬化型インクを硬化させて、画像を形成することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状画像記録媒体にインクジェット記録方法により画像を記録するインクジェット描画方法および装置に係り、特に、平版印刷用の印刷版を作製する製版装置などに用いられる、平版印刷原版などにインクジェット記録方法により画像を形成するインクジェット描画方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平版印刷においては、印刷版の表面に画像原稿に対応して印刷インキ受容性(親インキ性)と印刷インキ反発性(撥インキ性)の領域を設け、印刷インキをインキ受容性の領域に付着させて印刷を行う。通常は印刷版の表面に、親水性(撥インキ性)および親油性(インキ受容性または親インキ性)の領域を画像様に形成し、湿し水を用いて親水性領域をインキ反発性(撥インキ性)としている。
【0003】
従来は、画像を含む版下原稿を、白黒原稿であればそのまま、カラー原稿であれば、例えばC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(墨)の各色に色分解し、各色毎に、一旦、アナログ的またはデジタル的に銀塩写真フィルム(リスフィルム)に露光現像してフィルム版を出力し、このフィルム版を用いてジアゾ樹脂や光重合性のフォトポリマー感光材料(印刷原版)に露光し、例えば、非画像部を主にアルカリ性溶液を用いて溶出除去することによって、画像が形成された印刷版を各色毎に作製(製版)している。
【0004】
近年、デジタル描画技術の向上と、プロセスの効率化の要求から、印刷原版上に、デジタル画像情報を直接描画するシステムが数多く提案されている。そのようなデジタル画像情報を印刷原版上に直接描画するシステムの一例として、レーザを用いて、光モードまたは熱モードで、印刷原版の感光層または感熱層などに画像を記録するシステムが知られている。しかし、この製版方法は、光モード、熱モードともに、一般に、レーザ記録後にアルカリ性現像液で露光された印刷原版(の感光層または感熱層など)を処理して非画像部を溶解除去して製版が行われるため、アルカリ性廃液がそのまま排出されると、環境保全上好ましくなく、アルカリ性廃液の処理が必要となる。また、レーザを用いる方法は、高価でかつ大きな装置となってしまう。
【0005】
このような問題を解決するために、安価でかつコンパクトな描画方式であるインクジェット記録方法を応用したシステムが試みられている。インクジェット記録方法により印刷原版上に直接画像を形成することで、非画像部の溶解除去等を行うことなく、印刷版を作製することができる。また、装置としても小型化することができる。
【0006】
インクジェット法を用いる記録装置としては、特許文献1および2にインクジェットヘッドから紫外線(UV)硬化型のインク(以下、UVインクという)をインク滴として吐出させるタイプの、UVインク使用のインクジェットプリンタが開示されている。このようなUVインクを使用するインクジェットプリンタには、インクジェットヘッドから吐出させてプリントメディア表面に着弾させたUVインク滴に紫外線を照射して、UVインク滴を硬化させるためのUV照射手段がインクジェットヘッドの横に設けられている。こうして、プリントメディアの表面にUVインクを液滴として着弾させた直後に、着弾したUVインク滴にUV照射手段によって紫外線を照射して、そのUVインクを素早く乾燥、硬化させることで、プリントメディア上に画像を形成している。
【0007】
ここで、特許文献1に開示のインクジェットプリンタでは、UV照射手段として高熱を発するUVランプを内蔵しているので、インクジェットヘッドおよびUV照射手段の待機位置においてUV照射手段のUVランプから放射されるUV光が照射されるプリンタ部分が高温に加熱されるのを防ぐために、UV照射手段の下面の窓から放射されるUV光に当たるカバーを冷却する冷却手段を設けている。
一方、特許文献2に開示の装置では、UV照射手段として、UVLEDやUVLEDアレイを用いることにより、高圧水銀灯やメタルハライドランプなどの大型で大量の電力を消費する、すなわち高熱を発生するUVランプの欠点を解消し、UV照射手段の消費エネルギを抑え、UV照射手段の小型化を達成している。そして、特許文献2には、インクジェットヘッドとUV照射手段とを一体化して移動する構成例と、別体として移動する構成例が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−322560号公報
【特許文献2】特開2004−358769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、記録媒体(プリントメディア)として印刷原版を用いる製版装置において、特許文献1に開示のUVランプなどのUV照射手段がインクジェットヘッドの横に設けられているインクジェットプリンタを適用すると、インクジェットヘッドによる描画位置近傍で描画直後にUVインクを硬化させるために、UVランプから熱成分を含むUV光を照射することになるし、高熱のUVランプからの熱を受けることになる。このため、高熱のUV光が照射され、かつ高熱のUVランプからの熱を受けた印刷原版が加熱により描画(記録)位置において熱膨張により変形が生じてしまい、変形が大きいと印刷原版上に画像の位置ずれが発生するという問題がある。また、印刷原版の画像形成位置のずれは、複数の印刷版で画像を形成する多色刷り印刷の場合に、色ずれが起こるため、特に問題になる。
【0010】
一方、特許文献2に開示のUVLEDやUVLEDアレイをUV照射手段として用いるインクジェットプリンタを製版装置に適用すると、インクジェットヘッドとUV照射手段とが一体化されていようと別体であろうと、エネルギ消費も小さいので、UVLED自体に発熱の問題がなく、装置構成が小型化されるが、高価であるという問題がある。
【0011】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、低コストの点状または略点状の活性光光源から射出される活性光を無駄なくまたは損失なく走査照射することができ、また、熱成分を含む活性光の照射により、また、高熱の活性光光源からの熱を受けて、平版印刷版原版などの画像記録媒体に熱膨張による変形が生じたとしても、描画画像の精度への影響を排除し、位置精度の高い画像を形成することができるインクジェット描画方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、シート状画像記録媒体にインクジェット記録方法により画像を記録するインクジェット描画装置であって、前記画像記録媒体を支持する支持台と、前記支持台に対向して配置され、前記支持台上に載置された前記画像記録媒体上に像様に光硬化型インクをインク液滴として吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドを主走査方向に移動させるヘッド移動機構と、前記支持台に対向して、前記インクジェットヘッドに対して所定距離離間するように前記画像記録媒体の搬送下流側に配置され、前記画像記録媒体に活性光線を前記主走査方向に走査して照射し、前記画像記録媒体上に吐出された前記光硬化型インクを硬化させる走査型活性光照射部と、前記画像記録媒体を前記主走査方向と略直交する副走査方向に前記インクジェットヘッドに対して相対的に搬送する搬送機構とを有し、前記走査型活性光照射部は、前記活性光を射出する点状または略点状の活性光光源と、該活性光光源から射出された前記活性光を前記支持台に支持された前記画像記録媒体の記録面に平行な平行光として生成する平行光生成手段と、該平行光生成手段によって生成された前記平行光の光路上に配置され、前記副走査方向に平行な回転軸を有し、前記平行光を前記画像記録媒体側に反射させる回転ミラーと、該回転ミラーを回転させる回転駆動手段とを有するものであることを特徴とするインクジェット描画装置を提供する。
【0013】
ここで、活性光線とは、紫外(UV)光、可視光、赤外光等である。また、光硬化型インクとは、活性光線が照射されることで硬化するインクである。
また、活性光線に紫外(UV)光を用い、かつ光硬化型インクに紫外線硬化型インク(UVインク)を用いるのが好ましい。
【0014】
本発明のインクジェット描画装置において、前記回転ミラーは、光反射面が平坦な平板状のミラーであることが好ましく、更に、コールドミラー(熱線成分は透過するミラー)であることがより好ましく、前記回転駆動手段は、順方向及びその逆方向に交互に前記回転ミラーを回転させることが好ましい。
また、前記平行光生成手段は、該活性光光源から射出された前記活性光を前記平行光として射出する射出口を持つリフレクタを有することが好ましく、該活性光光源から射出された前記活性光の断面形状を矩形形状にすることができるリフレクタがより好ましい。
また、前記走査型活性光照射部は、さらに、前記回転ミラーから前記画像記録媒体の表面までの間の前記平行光の光路を囲むように配置される、前記光路に対向する面が鏡面をなす4つの鏡面板を有することが好ましい。
【0015】
本発明の第1の態様のインクジェット描画装置は、さらに、前記走査型活性光照射部を前記インクジェットヘッドに対して前記副走査方向に相対的に移動させる照射部移動機構と、前記走査型活性光照射部と前記インクジェットヘッドとを前記所定距離以上離間するように、前記照射部移動機構、または前記ヘッド移動機構および前記照射部移動機構を制御する制御部とを有することが好ましい。
また、前記搬送機構は、前記画像記録媒体を前記副走査方向に搬送する機構であることが好ましく、前記搬送機構は、前記インクジェットヘッド、前記ヘッド移動機構および前記走査型活性光照射部を載置して、一体として副走査方向に移動させる機構であることが好ましい。
【0016】
また、前記制御部は、前記活性光光源の出射光量に基づいて、前記回転ミラーの回転速度を変速させることが好ましく、前記回転ミラーの前記回転速度を多段階に変速させることが好ましい。
また、前記照射部移動機構は、前記画像記録媒体と前記インクジェットヘッドとの相対的移動速度と異なる速度で、前記活性光光源または前記走査型活性光照射部を移動させることが好ましい。前記画像記録媒体は、平版印刷原版であることが好ましい。
また、前記画像記録媒体は、平版印刷原版であり、さらに、前記インクジェットヘッドによって描画された前記印刷原版上に版面保護液を吐出する版面保護液吐出ヘッドを有することが好ましい。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の第2の態様は、主走査方向に移動するシリアルタイプのインクジェットヘッドによって光硬化型インクを用いて、前記主走査方向と直交する副走査方向に相対的に搬送されるシート状画像記録媒体に直接画像を形成するインクジェット描画方法であって、前記インクジェットヘッドによって前記光硬化型インクをインク液滴として像様に吐出して直接描画し、前記インクジェットヘッドによる描画位置から前記画像記録媒体の副走査搬送下流側に所定距離離間した後方位置において、静止した点状または略点状の活性光光源から射出し、副走査方向と平行な方向に回転軸を有する回転ミラーによって反射させた活性光で前記画像記録媒体の画像形成面を主走査方向に走査し、前記画像記録媒体上に像様に吐出された前記光硬化型インクを硬化させて、前記画像を形成することを特徴とするインクジェット描画方法を提供する。
【0018】
上記第1および第2の態様において、前記所定距離は、前記活性光光源による熱の影響が前記インクジェットヘッドによる描画に影響を及ぼさない距離であることが好ましく、前記所定距離は、前記インクジェットヘッドによる描画速度と、前記インクジェットヘッドおよび前記活性光光源の種類または構造と、前記画像記録媒体の前記インクジェットヘッドに対する相対的な副走査方向の搬送速度、前記画像記録媒体の材料または材質と、前記活性光光源から照射される活性光の光量との少なくとも1つに応じて決定されることが好ましい。
【0019】
また、前記印刷原版は、陽極酸化層を有するアルミ支持体上に、親水性層と、さらにインク受容層と、を順次有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1および第2の態様によれば、インクジェットヘッドによる描画位置から画像記録媒体の副走査搬送下流側に所定距離離間した後方位置において、静止した活性光光源から射出された活性光を、回転ミラーによって、主走査方向に走査移動させて、画像記録媒体上に像様に吐出された光硬化型インクを硬化させて画像を形成するので、低コストの点状または略点状の活性光光源から射出される活性光を無駄なくまたは損失なく走査照射することができる。また、熱成分を含む活性光の照射により、また、高熱の活性光光源からの熱を受けて、平版印刷版原版などの画像記録媒体に熱膨張による変形が生じたとしても、描画画像の精度への影響を排除し、位置精度の高い、高画質かつ高精度な画像を形成することができる。
【0021】
また、本発明によれば、活性光光源を装置の内部に静止させておくことができるので、低コストの耐振動性の低い点状または略点状の紫外光線源、例えば、超高圧水銀灯(ランプ)などのように、振動すると電極が曲がったり、アーク位置がずれてバルブ(電球)が割れやすくなったりするような低コストの点光源を用いることができる。
また、インクジェットヘッドに対して、活性光光源または走査型活性光照射部を副走査方向に移動させるものでは、副走査方向における、インクジェットヘッドによる描画位置と回転ミラーによる活性光の走査照射位置との所定距離を調整することができるので、印刷原版等の画像記録媒体への活性光(光線)の照射時間を調整することができ、印刷原版上の光硬化型インクを好適に硬化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係るインクジェット描画方法および装置を添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて以下に詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の第2の態様に係るインクジェット描画方法を実施する本発明の第1の態様に係るインクジェット描画装置を適用する製版装置の一実施形態の概略構成を示す模式的上面図であり、図2は、図1に示す製版装置の模式的な断面図であり、図3は、図1に示す製版装置の走査型UV照射部の模式的な断面図である。
以下においては、画像記録媒体として平版印刷原版、光硬化型インクとして紫外光線硬化型インク(以下、UVインクという)、活性光として紫外光(線)(以下、UV光という)、点状または略点状の活性光源として紫外線ランプ(以下、UVランプという)を用いて印刷版を作製する製版装置を代表例として説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0024】
図1および図2に示す製版装置10は、シート状の印刷原版Pの記録面にインクジェット法により印刷インキ受容性(親インク性)の画像部を形成するインクジェット描画装置を適用するものであって、印刷原版Pを支持する支持台12と、印刷原版Pに像様に光硬化型インクを吐出するインクジェットヘッド14と、印刷原版Pに吐出された光硬化型インクにUV光を主走査方向(図1中矢印Yで示す方向)に走査して照射する走査型UV(紫外光または紫外線)照射部16と、インクジェットヘッド14を主走査方向であるY方向に移動させるヘッド移動機構18と、支持台12に支持された印刷原版Pを主走査方向(Y方向)と略直交する副走査方向(図1および図2中矢印Xで示す方向)に搬送する搬送機構20と、インクジェットヘッド14、走査型UV照射部16、ヘッド移動機構18および搬送機構20の動作を制御する制御部22とを有する。
【0025】
支持台12は、平板形状を有し、図示しない自動給版装置から供給された印刷原版Pをその表面に支持するものである。ここで、支持台12の表面には、空気吸引孔を設けてインクジェットヘッド14による描画中に印刷原版Pを吸着することが好ましい。これにより、印刷原版Pの平面性を適正に維持できる。また、搬送機構20によって印刷原版Pを副走査方向(X方向)に搬送する際には、支持台12の表面は、印刷原版Pの裏面との摩擦が小さいものであるのが好ましい。なお、支持台12は、図示しない製版装置筐体に取り付けられる。
【0026】
搬送機構20は、インクジェットヘッド14に対して印刷原版Pを副走査(X)方向に搬送するものであって、図示しない駆動源に接続される駆動ローラである送りローラ30と従動ローラである抑えローラ32とを有し、送りローラ30と抑えローラ32との間に印刷原版Pを挟持して副走査(X)方向に搬送する。送りローラ30と抑えローラ32とは、印刷原版Pの搬送経路を上下に挟んで配置されている。自動給版装置から供給された印刷原版Pは、送りローラ30と抑えローラ32との間に所定のニップ圧で挟持され、送りローラ30を図示しない駆動源によって所定方向(図2において反時計回り)に回転させることで、副走査(X)方向に搬送される。
ここで、インクジェットヘッド14による描画中に、印刷原版Pを支持台12の表面に吸着させる場合には、送りローラ30と抑えローラ32とは回転を停止し、インクジェットヘッド14による非描画中に、送りローラ30が図示しない駆動源によって回転駆動され、抑えローラ32との間に挟持している印刷原版Pを副走査(X)方向に搬送するように構成するのが好ましい。すなわち、搬送機構20は、印刷原版Pを間欠的に副走査搬送
するものであるのが好ましい。なお、送りローラ30および抑えローラ32は、共に、図示しない製版装置筐体に回転可能に支持される。
本発明に用いられる搬送機構20は、印刷原版Pを副走査方向に搬送できるものであれば、どのようなものでも良く、公知の全ての副走査搬送機構を適用可能である。
【0027】
インクジェットヘッド14は、支持台12に対向して、図中、印刷原版Pの記録面の上方に配置され、後述するヘッド移動機構18により、支持台12の表面と平行な主走査(Y)方向に往復移動(走査)可能な状態で支持されている。
インクジェットヘッド14は、支持台12上に載置された印刷原版Pの記録面上に像様にUVインクをインク液滴として吐出する、すなわち、記録されるべき画像の画像データに基づく吐出信号に応じてUVインクを吐出し、印刷原版P上に画像を記録し、親インキ性の画像部を形成するものである。ここで、吐出信号とは、記録されるべき画像の画像データ信号に基づいて、画像部となる部分に選択的にインクを塗布するように液滴を吐出させる吐出信号である。なお、印刷原版Pの記録面は、撥インキ性(親水性)を呈し、UVインクの吐出によって形成された画像部のみが親インキ性(疎水性)を呈する。
【0028】
ここで、インクジェットヘッド14としては、コンティニュアス型およびオンデマンド型のピエゾ方式、サーマル方式、ソリッド方式、静電吸引方式等の種々の方式のインクジェットヘッド(吐出ヘッド)を用いることができ、特に、オンデマンド型の種々の方式のインクジェットヘッドを用いることが好ましい。本発明に好適に用いることのできるインクジェットヘッドの一例については後に詳細に説明する。
【0029】
ヘッド移動機構18は、インクジェットヘッド14を主走査方向に往復移動(走査)させるもので、ドライブスクリュー34と、ガイドレール35と、駆動支持部36aと、支持部36bとを有する。
ドライブスクリュー34およびガイドレール35は、共に、印刷原版Pの搬送方向(図1中X方向)と直交する主走査方向(図1中Y方向)と平行に、また、使用可能な最大の印刷原版Pをその左端から右端まで跨ぐように配置されている。
ドライブスクリュー34は、インクジェットヘッド14に形成された雌ねじ部(図示せず)と螺合する雄ねじ部を持つボールねじ(図示せず)等からなり、回転することによりインクジェットヘッド14を移動させる。ガイドレール35は、インクジェットヘッド14に形成された貫通孔に挿通され、ドライブスクリュー34の回転により移動するインクジェットヘッド14の姿勢が変わらないように案内するガイドである。
また、駆動支持部36aは、ドライブスクリュー34およびガイドレール35の一方の端部に、支持部36bは、それらの他方の端部に設けられ、ドライブスクリュー34を正逆回転可能な状態で支持し、ガイドレール35を移動しないように支持している。駆動支持部36aは、ドライブスクリュー34を駆動するモータ等の駆動源(図示せず)を備える。なお、駆動支持部36aおよび支持部36bは、共に、上述した図示しない製版装置筐体に支持される。
【0030】
インクジェットヘッド14は、ドライブスクリュー34およびガイドレール35によって移動可能に支持されており、駆動支持部36aによりドライブスクリュー34を正逆回転させることで、ガイドレール35に案内されつつ、Y方向(主走査方向)に往復移動(走査)される。なお、ヘッド移動機構18は、インクジェットヘッド14の姿勢を保つために、複数のガイドレールを備えていても良いし、その他の姿勢保持手段を有していても良い。なお、インクジェットヘッド14は、ガイドレール35により、インク液滴を吐出させる部分が支持台12と対向した所定の姿勢を維持して移動される。
ここで、インクジェットヘッド14の移動機構としては、上記のヘッド移動機構18に限定されず、種々の公知の移動機構を用いることができる。例えば、ドライブスクリューをガイドレールなどの棒状部材とし、インクジェットヘッドのY方向の端部の両側にそれぞれガイドワイヤをつけた構成として、移動方向のガイドワイヤを巻き取り、ガイドレールに沿って移動させる構成も用いることができる。また、ガイドワイヤの代りにタイミングベルトとタイミングベルト用スプロケットを用いることができる。また、ラックアンドピニオン機構を用いても良い。また、自走式としても良い。さらに、リニアモータを用いてもよい。
【0031】
走査型UV照射部16は、印刷原版Pの搬送下流側(副走査(X)方向の後方)の、インクジェットヘッド14に対して所定距離Lだけ離れた位置に、支持台12に対向して配置されている。走査型UV照射部16は、印刷原版Pの記録面にUV光を主走査(Y)方向に走査しながら照射して、印刷原版Pの記録面上に像様に吐出され、画像部を形成しているUVインクを硬化させるものである。なお、本発明では、インクジェットヘッド14と走査型UV照射部16との間の距離とは、インクジェットヘッド14の吐出ノズルの位置、ノズルアレイの場合は副走査方向(X)の中心位置と走査型UV照射部16のUVランプ40の位置、UVランプ40の副走査方向(X)の中心位置との間の距離をいう。
走査型UV照射部16は、図3に示すように、印刷原版Pの搬送経路の外部に静置され、UV光を射出するUVランプ40と、UVランプ40から射出されたUV光を、支持台12上に支持された印刷原版Pの記録面に平行な平行光とするリフレクタ42と、副走査方向に平行な方向に回転軸を有し、リフレクタ42によって生成された平行UV光を印刷原版P側に反射させる回転ミラー44と、その回転ミラー44を回転させる回転駆動部46と有する。
【0032】
UVランプ40は、インクジェットヘッド14により印刷原版P上にUVインクで形成された画像部にUV光を照射し、UVインクを硬化させるためのものである。UVランプ40としては、例えば、超高圧水銀ランプやメタルハライドランプなどの種々のランプ(点状光源)、紫外線蛍光管などのチューブバルブやこれらを用いて略点状にしたランプなどを用いることができる。これらの光源は、可視光線を含む光を照射してもよい。光硬化型インク(本実施形態では、UVインク)の感光域が可視光域にも感度を持つ場合には、可視光線も含む光を照射することで、より感度を高くすることができ、UVインクの硬化を好適に行うことができる。なお、本発明において、装置コストを考慮しなければ、UVランプ40の代わりに、UVLEDやUVLEDアレイを用いることも可能であるが、高コストとなるので好ましくない。
【0033】
リフレクタ42は、UVランプ40を内蔵し、UVランプ40から射出されたUV光を矩形断面形状の平行光として射出する矩形断面形状の射出口42aを備えている。リフレクタ42の内面は、鏡面とされており、UVランプ40から射出されたUV光が、内面で吸収されることなく反射され、全て射出口42aから矩形状の平行UV光として射出される。
UVランプ40を内蔵するリフレクタ42は、その射出口42aを、印刷原版Pの搬送経路の略中央の鉛直線上に位置する回転ミラー側に向けて配置されており、リフレクタ42の射出口42aから射出された断面矩形状の平行UV光は、印刷原版Pの表面に対して平行を維持しつつ回転ミラーに向かって進行する。
【0034】
回転ミラー44は、平坦な矩形状の光反射面を有しており、回転駆動部46により、回転軸を中心にして所定の角度で回転方向を交互に変えながら回転振動することができる。回転ミラー44の光反射面は、リフレクタ42の射出口42aから射出する平行光の断面積よりも大きく、回転ミラー44の回転軸は、リフレクタ42の射出口42aから射出する平行光の進行方向(光軸)に対して垂直で、印刷原版Pの表面に対して平行である。
【0035】
図4に示されるように、回転ミラー44がAで示す位置に位置づけられているときは、回転ミラー44で反射された断面矩形状のUV光は、印刷原版PのUVランプ側の端部(右側の端部)を照射する。回転ミラー44が、Aで示す位置からBで示す位置に回転すると、回転ミラー44で反射された断面矩形状のUV光は、図中右端から左端の方向に移動して印刷原版Pの表面を走査する。その後、印刷原版Pを副走査方向に相対的に移動した後、回転ミラー44が回転駆動部46によって逆方向に回転すると、回転ミラー44で反射する断面矩形状のUV光は、図中左端から右端の方向に印刷原版Pの表面を走査する。このように回転ミラー44を正方向とその逆方向に交互に回転振動させることによって、UV光の反射方向を偏向させることができ、回転ミラー44で反射された断面矩形状のUV光を、印刷原版Pの記録面上で主走査方向に往復走査させることができる。
【0036】
回転ミラー44は、その回転軸47から印刷原版Pの両端部まで距離が、印刷原版Pの主走査方向の長さ(印刷原版の横幅)と略等しくなるように、印刷原版Pの上方に配置されることが好ましい。すなわち、回転ミラー44の回転軸47と印刷原版Pの両端部とを直線で結ぶことによって形成される三角形が正三角形となるように、印刷原版Pの上方に配置されていることが好ましい。このような位置に回転ミラー44を配置することにより、回転ミラー44で反射させたUV平行光で印刷原版Pの表面を主走査方向に一定速度で走査したときに、印刷原版Pの中央部と両端部にそれぞれ照射されるUV光の照射量は、光路長に反比例した差が生じる。その結果、感材(UVインク)感度の許容範囲内の差である場合(ラチチュードが広い場合)は問題ないが、ラチチュードが狭い場合は、回転ミラーの回転速度を両端部照射時よりも中央部照射時の方が速くなるように制御して、照射量を問題ない範囲にあわせることが好ましい。この場合、回転駆動部46はステッピングモータを用いるとよい。
【0037】
回転ミラー44の回転角度の範囲は、使用する印刷原版Pの主走査方向の一方の端部から他方の端部までの範囲をUV光が走査できるように、使用する印刷原版Pの主走査方向の長さ(印刷原版Pの横幅)や印刷原版Pの表面から回転ミラー44までの距離に基づいて制御部22によって制御される。例えば、上述したように、回転ミラー44の回転軸47から印刷原版Pの両端部までの距離が印刷原版Pの主走査方向の長さと略等しくなるように回転ミラー44が配置されている場合は、回転ミラー44は、リフレクタ42の射出口42aから射出する平行光に対して約30°〜約60°の範囲で回動するように調整される。そして、印刷原版Pの主走査方向の長さが小さい印刷原版Pを使用する場合は、30°〜60°の範囲よりも狭い回転角度範囲で回転ミラー44を回動させればよい。また、走査型UV照射部16を印刷原版Pの表面に対して垂直な方向に移動させるための移動機構を設け、この移動機構により、回転ミラー44の回転軸47から印刷原版Pの両端部まで距離が印刷原版Pの横幅と略等しくなるように走査型UV照射部16を印刷原版Pに近付けて、リフレクタ42の射出口42aから射出する平行光に対して約30°〜約60°の範囲で回転ミラー44を回動させてもよい。
【0038】
また、ここでは、印刷原版上のUV光の照射領域Wを印刷原版の主走査方向の端部から端部までよりも長い領域としたが、本発明はこれに限定されず、少なくとも印刷原版上にUVインクにより形成される画像部の主走査方向の端部から端部までにUV光を照射できればよい。
なお、照射領域は、印刷原版上のUVインクを確実に硬化できる点から印刷原版の主走査方向の端部から端部までよりも長い領域とすることが好ましい。
【0039】
この回転ミラー44は、断面矩形状の平行UV光を印刷原版Pに向けて反射させることができればどのようなミラーでも良いが、全ての光を反射できる全反射ミラーであるのが好ましく、熱線成分を透過し、UVインクを硬化させるのに必要な紫外線成分を反射するように表面加工が施されたコールドミラーであることがより好ましい。このようなコールドミラーを用いることにより、UVランプ40から射出したUV光が印刷原版Pの表面に照射されたとしても、そのUV光には熱線成分が殆ど含まれていないので、印刷原版Pが必要以上に熱せられて、熱膨張によって変形することが防止される。その結果、印刷原版Pに形成された描画画像の精度への影響を一層排除することができ、位置精度の高い画像を印刷原版Pに形成することができる。
また、回転ミラー44として、図1に示すようなフラットミラーの代わりに、光反射面を複数有するポリゴンミラー(多面体鏡)やスピナーミラーを用いてもよい。
【0040】
回転ミラー44を正逆回転させるための回転駆動部46は、回転ミラー44を正方向および逆方向に回転させることができるものであればなんでも良く、例えば、電動モータなどを用いることができ、回転ミラー44の回転軸に直結されていても良いし、ベルトおよびプーリを用いるベルト伝導や、歯車伝導などの伝導装置やカム・リンク機構を組み合わせて接続されていても良い。なお、回転駆動部46も、上述した図示しない製版装置筐体に支持される。
【0041】
ここで、回転ミラー44と印刷原版P(支持台12)上のUV光の照射領域Wを結んだ略三角柱形状の2つの傾斜面の所定距離外側に、内面つまり照射領域に対向する面が鏡面の鏡面板を配置することが好ましい。すなわち、回転ミラー44と印刷原版Pとの間を通過するUV光の光路が副走査方向側から挟まれるように、内面が鏡面の一対の鏡面板を対向させて配置することが好ましい。
さらに、回転ミラー44と印刷原版P(支持台12)上のUV光の照射領域Wを結んだ略三角柱形状の略正三角形の2つの面、つまり、印刷原版Pに垂直で主走査方向に平行な2つの面にも鏡面板を配置することが好ましい。すなわち、回転ミラーと印刷原版Pとの間を通過するUV光の光路が主走査方向側からも挟まれるように、内面が鏡面の一対の鏡面板を対向させて配置することが好ましい。
【0042】
図5(a)、(b)および(c)は、それぞれインクジェット描画装置に用いる鏡面板の一例を示す上面図、正面図、および側面図である。ここで、図5(a)〜(c)では、支持台12、回転ミラー44、鏡面板、印刷原版Pのみを示している。
図5(a)〜(c)では、回転ミラー44と印刷原版P(支持台12)上のUV光の照射領域Aを結んだ略三角柱形状の2つの傾斜面の所定距離外側にそれぞれ鏡面板52a、52bを配置し、回転ミラー44と印刷原版P(支持台12)上のUV光の照射領域を結んだ略三角柱形状の略正三角形の2つの面に鏡面板54a、54bを配置している。
【0043】
鏡面板52a、52bを配置することで、回転ミラー44から印刷原版Pに向けて反射されたUV光が、主走査方向の照射領域W以外の領域に照射されることを防止でき、UVランプ40から射出された光を効率よく印刷原版Pに照射することができる。
また、鏡面板54a、54bを配置することで、回転ミラー44で反射されたUV光が、副走査方向の照射領域W以外の領域に照射されることを防止でき、UVランプ40から射出された光を効率よく印刷原版Pに照射することができる。
本実施形態においては、回転ミラー44と印刷原版Pとの間の、回転ミラー44で反射されたUV光が通過する空間を、上述の4枚の鏡面板52a、52b、54a、54bで囲むことによって、走査UV光が照射領域以外の領域に照射されることを防止でき、UVランプ40から射出された走査UV光を更に効率よく印刷原版Pに照射することができる。
【0044】
ここで、鏡面板52a、52b、54a、54bは、少なくとも内面が鏡面であれば、どのようなものでも良い。
また、回転ミラー44により反射されるUV光の照射領域をカバーするような大きさ、すなわち、少なくとも回転ミラー44から支持台12(印刷原版P)の近傍までの範囲を覆う大きさを持ち、好ましくは、この範囲より少し大きい範囲を覆う大きさを持つ内面が鏡面の平板であるのが良い。
また、ここでは、鏡面板52a、52b、54a、54bをそれぞれ独立した部品で構成したが、一体で構成することも可能である。
【0045】
制御部22は、上述したように、インクジェットヘッド14、走査型UV照射部16、ヘッド移動機構18および搬送機構20の動作を制御する。具体的には、制御部22は、印刷原版Pに画像部を形成するための、インクジェットヘッド14による画像データに応じたUVインクの吐出動作、印刷原版Pに画像部を形成しているUVインクを硬化させるための、走査型UV照射部16によるUV光の走査照射、特にUVランプ40から射出され、リフレクタ42の射出口42aから射出されたUV光の反射する回転ミラー44の、回転駆動部46による回転角度と回転速度、ヘッド移動機構18によるインクジェットヘッド14の主走査方向の往復移動(主走査)および搬送機構20による印刷原版Pの副走査搬送(好ましくは、間欠搬送)を制御する。
なお、制御部22は、この他、製版装置10全体、もしくは、図示しない全ての構成要素を制御するものであるのが好ましい。
【0046】
以下に、図1〜図3に示す製版装置の作用を説明することにより、本発明の第1の態様に係るインクジェット描画装置の作用および本発明の第2の態様に係るインクジェット描画方法を適用する平版印刷版の作製方法を説明する。
図1〜図3に示す製版装置10において、図示しない自動給版装置から支持台12に印刷原版Pが供給される。
【0047】
支持台12に供給された印刷原版Pは、搬送機構20により副走査方向(図1中X方向)に所定速度でインクジェットヘッド14と対向する位置まで搬送される。インクジェットヘッド14は、ヘッド移動機構18により主走査方向に移動されつつ、画像信号に応じて印刷原版Pの表面にUVインクを吐出する。これにより、印刷原版Pの表面には、UVインクにより画像部が形成される。
ここで、搬送機構20による印刷原版Pの副走査方向の搬送と、ヘッド移動機構18によるインクジェットヘッド14の主走査方向(図1中Y方向)の往復移動により、インクジェットヘッド14は、印刷原版Pの全面を走査し、印刷原版Pの全面における所要の位置にUVインクによる画像部を形成する。
【0048】
インクジェットヘッド14に対向した位置を通過した印刷原版Pは、その後、走査型UV照射部16に対向した位置に搬送される。走査型UV照射部16は、上述したように、UVランプ40から射出された矩形断面状の平行UV光を、正方向と、その逆の方向とに交互に回転する回転ミラー44によって反射させて、印刷原版Pの記録面上を主走査方向に往復走査させている。そして、このような印刷原版Pの主走査方向への平行UV光の往復照射と、搬送機構20による印刷原版Pの副走査方向への搬送を繰り返し行うことにより、印刷原版Pの記録面上で画像部を形成している全てのUVインクにUV光を照射することができる。
ここで、印刷原版Pの表面(記録面)に画像部として形成されたUVインクは、UVランプ40から射出され、回転ミラー44で反射された断面矩形状のUV光が照射されることで硬化される。
UVランプ16から射出されたUV光で画像部が硬化された印刷原版Pは、さらに副走査方向(図1中X方向)に搬送され、次工程に搬送される、または、完成した印刷版として製版装置10から排出される。
【0049】
ここで、本発明においては、インクジェットヘッド14と走査型UV照射部16とが、具体的には、インクジェットヘッド14のX方向の中心(吐出ノズルのアレイのX方向の中心)と走査型UV照射部16のX方向の中心(UVランプ40のX方向の中心)とが、距離L以上離間するように設定されている。距離Lは、UVランプ40による熱の影響、具体的には、UVランプ40自体から放射される熱およびUVランプ40から射出され、印刷原版Pに照射されるUV光に含まれる熱線(熱成分)が印刷原版Pに与える影響がインクジェットヘッド14による描画に影響を及ぼさない距離であり、インクジェットヘッド14による描画速度、インクジェットヘッド14およびUVランプ40の種類または構造、印刷原版Pの副走査搬送速度、印刷原版Pの材料または材質、UVランプ40から印刷原版Pに照射されるUV光の光量等の種々の条件に基づいて決定される距離である。
【0050】
インクジェットヘッド14と走査型UV照射部16(UVランプ40)との距離をL以上とすることで、UVランプ40から照射された熱成分を持つUV光や放射された熱によって印刷原版Pが加熱されることで生じる熱膨張による印刷原版Pの歪みが、インクジェットヘッド14による画像記録位置(UVインク液滴着弾位置)において生じることを防止でき、従って、インクジェットヘッド14による印刷原版Pへの画像記録位置ずれを防止することができる。
こうすることにより、本発明が適用される印刷装置においては、画像記録位置精度の高い、高画質かつ高精度な画像部が形成された印刷版を作製することができ、複数枚の印刷版を使用し、多色印刷を行なった場合も色ずれのない高精度かつ高品質な印刷を行うことができる。
【0051】
ここで、距離L(cm)は、UV光照射時の印刷原版の最高温度、つまり、UV光照射域の中心点における印刷原版Pの温度と室温との温度差をdt(℃)としたときに、0.5×dt以上とすることが好ましい。
距離Lを、0.5×dt以上とすることで、より画像記録位置精度が高く、高画質、かつ高精度な画像を形成することができる。
なお、これらの効果を得る上では、特に上限値を定める必要はないが、距離Lが大きくなると、印刷原版P上のインクのにじみ幅の拡大を生じる虞があるし、装置が大型化してしまうので、距離Lを、2.5×dt以下とすることが好ましく、このようにすることにより、印刷原版P上のインクのにじみ幅の拡大を防止でき、装置を小型化することができる。さらに、1.0×dt以下とすることで、上記効果をより好適に得ることができる。
【0052】
印刷原版Pに対するインクジェットヘッド14による記録速度に関係なく、回転駆動部46によって回転ミラー44の回転速度を調整し、従って、回転ミラー44で反射された走査UV光の走査速度を調整することで、印刷原版Pの各位置での照射時間を調整できる。
これにより、インクジェットヘッド14によって形成された画像部のUVインクに照射するUV光の照射量(照射エネルギ)を調整することができ、例えば、常に一定にすることができ、画像部のUVインクの硬化を適正に行うことができる。
また、UVランプ40から射出されるUV光の光量を調節することなく、印刷原版Pの各位置の照射されるUV光の照射量(照射エネルギ=単位時間当たりの光量×照射時間)を調節することができる。
さらに、UVランプ40の使用に伴って光量が経時変化した場合でも、UVランプ40の射出光量に応じて回転ミラー44の回転速度、すなわち、走査UV光の走査速度を調節することで、印刷原版Pに一定照射光量のUV光を照射することができる。
【0053】
なお、UV光の走査速度の変速割合は、印刷原版Pの材料、UVインクの材料、画像形成方法等に応じて調整すればよい。
また、UVランプ40の光量が経時により変化する場合も、UV光の走査速度を変速させることで、一定の照射光量でインクを硬化させることができる。具体的には、UVランプ40の照射光量が経時により1/2に減少した場合には、UV光の走査速度を1/2にすることにより、使用開始時と同じ照射光量で印刷原版上のUVインクを硬化させることができる。
【0054】
以上、本発明の一実施形態の製版装置10の各構成要素について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、装置コストを低くできる等の効果があるため、インクジェットヘッドを主走査方向に移動させるシリアルヘッドとしたが、本発明はこれに限定されず、印刷原版の主走査方向の幅よりも長い形状のインクジェットヘッド、つまり、インクジェットヘッドをラインヘッドとしてもよい。
本発明が適用される製版装置は、基本的に以上のように構成される。
【0055】
上述した実施形態の製版装置10では、インクジェットヘッド14と走査型UV照射部16とは、上記距離L以上の所定距離離間して配置されるものであるが、図6に示す製版装置60のように、走査型UV照射部16をインクジェットヘッド14に対して副走査方向に移動可能とし、上記距離Lを調整可能としても良い。また、本発明においては、図6に示す製版装置60のように、インクジェットヘッド14によって印刷原版P上に像様に吐出されたUVインクを、走査型UV照射部16による走査UV光で硬化させることによって形成された画像部を保護するために、版面保護液を塗布するようにしても良い。
図6は、本発明に係るインクジェット描画装置を適用する製版装置の他の実施形態の概略構成を示す模式的上面図である。図7は、図6に示す製版装置のUV(紫外線)照射部および照射部移動機構の模式的な正面図である。
【0056】
図6に示す製版装置60は、UV照射部16の支持部分と、照射部移動機構24と、ガム液吐出ヘッド26と、ヘッド移動機構28および鏡面体ユニット50を除いて図1〜図4に示す製版装置10と同様の構成を有するものであるので、同一の構成要素には同一の番号を付し、その詳細な説明は省略し、主に、照射部移動機構24と、ガム液吐出ヘッド26およびヘッド移動機構28について説明する。
図6に示す製版装置60は、支持台12と、インクジェットヘッド14と、走査型UV照射部16と、ヘッド移動機構18と、搬送機構20と、制御部22と、走査型UV照射部16をインクジェットヘッド14に対して副走査方向(X方向)に往復移動させる照射部移動機構24と、インクジェットヘッド14によってUVインクで像様に描画され、走査型UV照射部16による走査UV光によって硬化させて画像部が形成された印刷原版P上にガム液を吐出するガム液吐出ヘッド26と、このガム液吐出ヘッドを主走査方向(Y方向)に移動させるヘッド移動機構28と、鏡面体ユニット50とを有する。
なお、図6に示す製版装置60において、制御部22は、インクジェットヘッド14、走査型UV照射部16、ヘッド移動機構18および搬送機構20の動作に加え、照射部移動機構24、ガム液吐出ヘッド26およびヘッド移動機構28の動作も制御する。
鏡面体ユニット50は、図5に示した鏡面体52a、52b、54a、54bとを有するものである。鏡面体52a、52b、54a、54bは、それぞれ図5に示した鏡面体と、同様の形状、構成、機能を有するものであるので、その詳細な説明は省略する。
【0057】
図6および図7に示すように、走査型UV照射部16は、さらに、主走査方向に平行に延在し、所定間隔離間して配置された2本の支持板62a、62bと、リフレクタ42および支持板62a、62bの一端を支持する支持部材64aと、支持板62a、62bの他端を支持する支持部材64bとを備え、これらは走査型UV照射部16の支持部分を構成する。
鏡面体ユニット50は、支持板62a及び62bの間に配置され、鏡面体ユニット50の鏡面体54aは支持板62bの内側の面に取り付けられ、鏡面体54bは支持板62aの内側の面に取り付けられている。
また、支持板62a及び62b並びに鏡面体54a及び54bには、回転ミラー44の回転軸47が嵌挿される貫通孔が形成されており、回転ミラー44の回転軸47がこれらの貫通孔に挿入されて、回転ミラー44が回転可能に支持されている。
また、支持板62bの外側の面には、回転駆動部46を載置するための載置台63が設けられており、載置台63上に回転駆動部47が載置されている。
照射部移動機構24は、走査型UV照射部16を副走査方向(X方向)に往復移動(走査)させる、すなわち、支持台12の表面から一定距離離間した平面上を移動させるもので、ドライブスクリュー66a,66bと、ガイドレール67a,67bと、駆動支持部68a、70aと、支持部68b,70bとを有する。
【0058】
次に、ドライブスクリュー66a,66bおよびガイドレール67a,67bは、副走査方向と平行に配置されている。
また、ドライブスクリュー66aおよび66bは、それぞれ、支持部材64aおよび64bに形成された雌ねじ部(図示せず)と螺合する雄ねじ部を持つボールねじ(図示せず)等からなり、回転することにより支持部材64aおよび64bを移動させる。ガイドレール67aおよび67bは、それぞれ、支持部材64aおよび64bに形成された貫通孔に挿通され、それぞれ、ドライブスクリュー66aおよび66bの回転により移動する支持部材64aおよび64bの姿勢が変わらないように案内するガイドである。
【0059】
駆動支持部68aは、ドライブスクリュー66aおよびガイドレール67aの一方の端部に、支持部68bは、それらの他方の端部に設けられ、ドライブスクリュー66aを正逆回転可能な状態で支持すると共に、ガイドレール67aも支持している。また、駆動支持部70aは、ドライブスクリュー66bおよびガイドレール67bの一方の端部に、支持部70bは、それらの他方の端部に設けられ、ドライブスクリュー66bを正逆回転可能な状態で支持すると共に、ガイドレール67bも支持している。
ここで、駆動支持部68aおよび70aは、それぞれ、ドライブスクリュー66aおよび66bを駆動するモータ等の駆動源(図示せず)を備える。なお、駆動支持部68a、70aおよび支持部68b,70bは、共に、上述した図示しない製版装置筐体に支持される。
【0060】
ここで、駆動支持部68a、支持部68bおよび駆動支持部70a、支持部70bが、それぞれドライブスクリュー66aおよび66bを回転させることで、支持部材64aおよび64bが、ガイドレール67aおよび67bに案内されつつ、副走査方向(X方向)に移動される。支持部材64aおよび64bが副走査方向に移動されることで、支持部材64aおよび64b、支持板62aおよび62b、支持部63によって支持されているUV照射部16も副走査方向に移動される。このようにして、走査型UV照射部16は、副走査方向に移動可能となり、UVランプ40、リフレクタ42、回転ミラー44も副走査方向に移動可能となるので、UVランプ40から射出され、回転ミラー44で反射された走査UV光も副走査方向に移動可能となる。
このとき、駆動支持部68aおよび70aは、それぞれ、支持部材64aおよび64bの副走査方向における位置が同一となるように、すなわち、走査型UV照射部16が副走査方向に傾くことがないように、支持部材64aおよび64bを同期して移動する。
【0061】
なお、照射部移動機構24は、走査型UV照射部16の姿勢を保つために、複数のガイドレールを備えていても良いし、その他の姿勢保持手段を有していても良い。なお、走査型UV照射部16は、ドライブスクリュー66aおよび66bならびにガイドレール67aおよび67bにより、支持台12と対向した所定の姿勢を維持したまま移動される。
ここで、走査型UV照射部16の移動機構としては、上記の照射部移動機構24に限定されず、種々の公知の移動機構を用いることができる。例えば、ドライブスクリュー66aおよび66bのいずれか一方をガイドレールとし、その駆動支持部を支持部として、1本のドライブスクリューのみで支持部材64aおよび64bを移動するようにしても良いし、支持部材64aおよび64bを連結して一体化された支持部材とし、走査型UV照射部16の回転ミラー44によるUV光の照射領域に開口を設け、印刷原版P上を副走査方向に移動させるようにしても良い。
【0062】
また、ドライブスクリューをガイドレールなどの棒状部材とし、支持部材64aおよび64bの各Y方向の端部の両側にそれぞれガイドワイヤをつけた構成として、移動方向のガイドワイヤを巻き取り、ガイドレールに沿って移動させる構成も用いることができる。また、ラックアンドピニオン機構を用いても良い。また、自走式としても良い。さらに、リニアモータを用いてもよい。
【0063】
ここで、本実施形態では、制御部22は、インクジェットヘッド14と走査型UV照射部16(UVランプ40)とが距離L以上離間するように、ヘッド移動機構18と照射部移動機構24を制御するのが好ましいが、照射部移動機構24による距離Lの調整を手動で行なっても良い。
こうして、本実施形態では、UVランプ40から射出されたUV光を副走査方向に移動させることができる。このように、走査型UV照射部16および照射部移動機構24によって、UVランプ40から射出されたUV光を副走査方向に移動させることで、副走査方向における印刷原版Pと走査型UV照射部16(UVランプ40から射出されたUV光)との相対速度、上述したインクジェットヘッド14による描画速度、インクジェットヘッド14およびUVランプ40の種類または構造、印刷原版Pの副走査搬送速度、印刷原版Pの材料または材質、UVランプ40から印刷原版Pに照射されるUV光の光量等に応じて、距離Lを調整することができる。これにより、制御部22によって、種々の条件下で、インクジェットヘッドと走査型UV照射部16(から射出する走査UV光)との距離Lを好適範囲に調整することができる。
【0064】
また、走査型UV照射部16、従ってUVランプ40を副走査方向に移動可能とすることで、搬送機構20による印刷原版Pの搬送とUVランプ40、従ってUV光の副走査方向の移動との相対速度を調整することができる。つまり、インクジェットヘッド14と印刷原版Pとの副走査方向における相対速度と、UV光(UVランプ40)と印刷原版Pとの副走査方向における相対速度とを異なる速度とすることができる。
これにより、インクジェットヘッド14による描画(記録)速度と、走査UV光(UVランプ40)の最適な移動速度とが異なる場合も、UV光を主走査方向に移動させつつ副走査方向にも移動させることで印刷原版の各位置での照射時間を調整することもできる。つまり、印刷原版Pに対するインクジェットヘッド14による描画速度と、印刷原版Pに対するUV光の移動速度を異なる速度とすることができる。これにより、インクジェットヘッド14による描画(画像の記録)と走査UV光によるUVインクの硬化を好適に行うことができる。また、UVランプ40から照射されるUV光の光量を調節することなく、印刷原版Pの各位置の走査UV光の光量を調節することができる。さらに、UVランプ40は使用と共に光量が経時変化した場合でも、UVランプ40の光量に応じて移動速度を調節することで、印刷原版Pに一定光量を照射することもできる。
例えば、UVランプ40の照射光量が経時により1/2に減少した場合には、UV光の移動速度を1/2にすることにより、使用開始時と同じ照射光量で印刷原版上のUVインクを硬化させることができる。
【0065】
ここで、UVランプ40から射出される走査UV光(UVランプ)の移動速度は、主走査方向にも副走査方向にも、多段階または連続的に変速させることが好ましい。
走査UV光の移動速度を多段階または連続的に変化させることで、印刷原版Pの各位置の光量を調節することができ、印刷原版P上のUVインクの硬化を効率よく行うことができる。画像部の面積率または画像濃度に応じた走査UV光の移動速度、すなわちUV光の走査速度の調整や、調整割合(変速割合)、これらの調整による印刷原版PのUVインクの効果の適正化および効率化については、上述した走査UV光の主走査方向の移動(走査)速度の場合と同様に行えばよい。
【0066】
ガム液吐出ヘッド26は、インクジェットヘッド14によってUVインクで像様に描画され、走査型UV照射部16による走査UV光によってUVインクを硬化させて形成された画像部を持つ印刷原版P上に印刷版の画像部が形成された版表面を保護するための版面保護液(以下、単にガム液という)を吐出するものであって、印刷原版Pの副走査搬送方向においてUV照射部16の下流側に、支持台12に対向して配置されている。
ガム液吐出ヘッド26は、インクジェットヘッド14により画像部が形成され、UVランプ40によりUVインクが硬化された印刷原版Pの版表面に、ガム液を吐出し、印刷原版Pの版表面に、好ましくはガム液を所定のガム液吐出信号に応じて吐出し、印刷原版Pの非画像部にガム液膜を形成する。
【0067】
ここで、ガム液吐出信号とは、例えば、画像信号に基づいて、非画像部となる部分に選択的にガム液を塗布するように液滴を吐出させる吐出信号である。なお、本実施形態のように、非画像部にガム液を塗布する場合は、ガム液吐出信号として、インクジェットヘッド14のインク液滴の吐出を制御するインク吐出信号(以下、単に吐出信号ともいう)の反転信号を用いることができる。
ガム液吐出ヘッド26としては、インクジェットヘッド14と同様に種々の方式のインクジェットヘッドを用いることができる。ガム液吐出ヘッド26としては、特に、オンデマンド型のピエゾ方式またはサーマル方式を用いるインクジェットヘッドを用いることが好ましい。ここで、ガム液吐出ヘッド26は、インクジェットヘッド14よりも解像度の低いインクジェットヘッドも用いることができる。
【0068】
ヘッド移動機構28は、ガム液吐出ヘッド26を主走査方向(Y方向)に移動させるためのもので、ドライブスクリュー72と、ガイドレール73と、駆動支持部74aと、支持部74bとを有し、基本的に、ヘッド移動機構18と同様の構成を有する。
ドライブスクリュー72およびガイドレール73は、共に、印刷原版Pの搬送方向(図1中X方向)と直交する主走査方向(図1中Y方向)と平行に、また、使用可能な最大の印刷原版Pをその左端から右端まで跨ぐように配置されている。
ドライブスクリュー72は、ガム液吐出ヘッド26に形成された雌ねじ部(図示せず)と螺合する雄ねじ部を持つボールねじ(図示せず)等からなり、回転することによりガム液吐出ヘッド26を主走査方向に移動させる。ガイドレール73は、ガム液吐出ヘッド26に形成された貫通孔に挿通され、ドライブスクリュー72の回転により移動するガム液吐出ヘッド26の姿勢が変わらないように案内するガイドである。
また、駆動支持部74aは、ドライブスクリュー72およびガイドレール73の一方の端部に、支持部74bは、それらの他方の端部に設けられ、ドライブスクリュー72を正逆回転可能な状態で支持し、ガイドレール73を移動しないように支持している。駆動支持部74aは、ドライブスクリュー72を駆動するモータ等の駆動源(図示せず)を備える。なお、駆動支持部74aおよび支持部74bは、共に、上述した図示しない製版装置筐体に支持される。
【0069】
ガム液吐出ヘッド26は、ドライブスクリュー72およびガイドレール73によって移動可能に支持されており、駆動支持部74aによりドライブスクリュー72を正逆回転させることで、ガイドレール73に案内されつつ、Y方向(主走査方向)に往復移動(走査)される。なお、ヘッド移動機構28は、ガム液吐出ヘッド26の姿勢を保つために、複数のガイドレールを備えていても良いし、その他の姿勢保持手段を有していても良い。なお、ガム液吐出ヘッド26は、ガイドレール73により、ガム液を吐出させる部分が支持台12と対向した所定の姿勢を維持して移動される。
ここで、ガム液吐出ヘッド26の移動機構としては、上記のヘッド移動機構28に限定されず、ヘッド移動機構18と同様に、種々の公知の移動機構を用いることができる。例えば、ドライブスクリューをガイドレールなどの棒状部材とし、ガム液吐出ヘッドのY方向の端部の両側にそれぞれガイドワイヤをつけた構成として、移動方向のガイドワイヤを巻き取り、ガイドレールに沿って移動させる構成も用いることができる。また、ラックアンドピニオン機構を用いても良い。また、自走式としても良い。さらに、リニアモータを用いてもよい。
【0070】
ガム液吐出ヘッド26は、ヘッド移動機構28により主走査方向に移動されつつ、好ましい態様として、ガム液吐出信号に応じて、ガム液を吐出し、印刷原版P上にガム液膜を形成する。このように、ガム液吐出ヘッド26を用いてガム液吐出信号に応じてガム液を吐出させることで、印刷原版Pの画像部の位置に応じて必要な部分、特に、非画像部に選択的にガム液膜を形成することができる。これにより効率よくガム液を使用することができる。このように、非画像部のみにガム液を吐出させ、ガム液膜を非画像部のみ形成することにより、より無駄なく効率よくガム液を使用することができ、ガム液の消費量をより少なくすることができる。
【0071】
なお、上記実施形態では、ガム液吐出ヘッドを主走査方向(図中Y方向)に移動させつつガム液を吐出させるシリアルヘッドとしたが、本発明はこれに限定されず、印刷原版の主走査方向の全域に設けてもよい。つまり、ガム液吐出ヘッドを印刷原版の主走査方向の長さよりも長くしたラインヘッドとしてもよい。
また、上述したように効率よくガム液を使用できる等の点で、本実施形態のようにガム液吐出ヘッドを用いることが好ましいが、本発明はこれに限定されず、ロールコーター方式やスプレー方式のガム液塗布機構により、印刷原版の全面にガム液を塗布してもよい。
また、印刷原版の副走査方向において、ガム液吐出ヘッドの下流側に印刷原版に塗布されたガム液膜を乾燥させる加熱装置を設けてもよい。また、UV光が照射されたによる余熱によりガム液膜を乾燥させてもよい。
【0072】
また、上記各実施形態では、いずれも、搬送機構20により、印刷原版Pを副走査方向に搬送しているが、本発明はこれに限定されず、インクジェットヘッドとUVランプを備える走査型UV照射部とを一体化して、共通の移動機構により、副走査方向に移動させるようにしてもよい。
図8(a)は、本発明のインクジェット描画装置を適用する製版装置の他の実施形態の概略構成を示す模式的上面図であり、図8(b)は、図8(a)に示す製版装置の概略構成を示す模式的断面図である。
図8に示す製版装置80は、印刷原版Pを副走査搬送する搬送機構20の代わりに、インクジェットヘッド14および走査型UV照射部16を載置する走査台82およびその搬送機構84を除いて、基本的に図1〜図3に示す製版装置10と同様の構成を有するものであるので、同一の構成要素には同一の番号を付し、その詳細な説明は省略し、主に、走査台82および搬送機構84について説明する。
【0073】
これらの図に示す製版装置80は、支持台12と、インクジェットヘッド14と、UV照射部16と、ヘッド移動機構18と、制御部22と、鏡面体ユニット50と、インクジェットヘッド14および走査型UV照射部16を一体として載置する走査台82と、この走査台82を副走査方向(X方向)に移動させる搬送機構84とを有する。
なお、図8に示す製版装置80において、制御部22は、インクジェットヘッド14、走査型UV照射部16、ヘッド移動機構18および搬送機構84の動作を制御する。
【0074】
走査型UV照射部16は、図6および図7に示した製版装置60と同様に、さらに、主走査方向に平行に延在し、所定間隔離間して配置された2本の支持板62a、62bと、リフレクタ42および支持板62a、62bの一端を支持する支持部材64aと、支持板62a、62bの他端を支持する支持部材64bとを備え、これらは走査型UV照射部16の支持部分を構成する。
また、鏡面体ユニット50は、図5(a)〜(c)に示した鏡面体52a、52b、54a、54bとを有するものである。鏡面体52a、52b、54a、54bは、それぞれ図5(a)〜(c)に示した鏡面体と、同様の形状、構成、機能を有するものであるので、その詳細な説明は省略する。
【0075】
走査台82は、支持台12に対向して配置され、搬送機構84によって副走査方向に移動される。走査台82には、インクジェットヘッド14、ヘッド移動機構18およびUVランプ40を備える走査型UV照射部16が載置されている。なお、この場合にも、上述と同様に、インクジェットヘッド14と走査型UV照射部16(のUVランプ40)との距離は、距離L以上離間するように調整されている。
ヘッド移動機構18の駆動支持部36aおよび支持部36bは、走査台82上に取り付られる。また、走査型UV照射部16の支持部材64aおよび64bが、走査台82上に取り付けられている。なお、支持部材64aおよび64は、図6および図7に示す製版装置60において用いたものと同様なものを用いることができる。
【0076】
インクジェットヘッド14、ヘッド移動機構18および走査型UV照射部16は、走査台82に載置され、支持台12に固定されている印刷原版P上を搬送機構84によって副走査方向に所定の副走査速度で走査台82と共に搬送されることを除いて、図1に示す製版装置10のインクジェットヘッド14、ヘッド移動機構18および走査型UV照射部16と同様に動作する。つまり、副走査搬送されている走査台82上で、インクジェットヘッド14は、ヘッド移動機構18により主走査方向に移動され、走査型UV照射部16のUVランプ40から射出されたUV光を印刷原版Pに向けて反射する回転ミラー44は、回転駆動部46により回転する。
このため、走査台82は、インクジェットヘッド14の主走査方向の移動(走査)領域には、開口82aが穿たれ、UV照射部16の回転ミラー44の主走査方向の照射領域、すなわち、UV光の主走査方向の照射領域には、開口82bが穿たれている。
【0077】
搬送機構84は、図示しない製版装置に、支持台12の両外側に副走査方向に平行に配設されるベース86aおよび86bと、ベース86aおよび86b上に、それぞれ副走査方向に平行に敷設されるガイドレール88aおよび88bと、ガイドレール88aに平行にその近傍に配置されるドライブスクリュー90と、ガイドレール88aおよび88bに対向して走査台82の裏面側に設けられる支持脚92aおよび92bに回転可能に支持される車輪94aおよび94bと、ドライブスクリュー90に形成されている雄ねじと螺合する雌ねじが形成され、走査台82の裏面側に固定されたトラベリングナット96とを有する。
なお、ガイドレール88a、88bおよびドライブスクリュー90は、使用される印刷原版Pの副走査方向の最大長さ以上の長さを持つのが良い。ドライブスクリュー90は、その両端が図示しない2つの支持脚によって回転可能に支持され、図示しない駆動源(モータ)によって回転駆動される。これらの支持脚は、ベース86aまたは図示しない製版装置本体に固定される。また、支持脚92aおよび車輪94aの組と、支持脚92bおよび車輪94bの組とは、走査台82の裏面側に副走査方向に沿ってそれぞれ2組以上設けられるのが好ましい。
【0078】
搬送機構84では、インクジェットヘッド14、ヘッド移動機構18およびUV照射部16が載置された走査台82の支持脚92aの車輪94aと、支持脚92bの車輪94bとを、それぞれベース86aおよび86b上のガイドレール88a、88bに載せた後、ドライブスクリュー90を回転させて、トラベリングナット96を副走査搬送方向に移動させることにより、走査台82を適正な姿勢に保ったまま、副走査搬送方向に移動(搬送)させることができる。
こうして、製版装置80では、支持台12上に固定されている印刷原版Pに対して、インクジェットヘッド14および走査型UV照射部16が載置された走査台82を副走査方向(X方向)に移動させつつ、インクジェットヘッド14および走査型UV照射部16の回転ミラー44を回転させることで、印刷原版Pの全域に画像部を形成し、さらに、印刷原版P上に形成された画像部にUV光を照射して、UVインクを硬化させることができる。
このように、インクジェットヘッドおよび走査型UV照射部16を一体として副走査方向に移動させつつ、描画およびインク硬化を行うことで印刷版を作製することができる。
【0079】
制御部22は、上述したように、インクジェットヘッド14、走査型UV照射部16、ヘッド移動機構18および搬送機構84の動作を制御する。具体的には、制御部22は、印刷原版Pに画像部を形成するための、インクジェットヘッド14による描画動作、走査型UV照射部16の回転駆動部46による回転ミラーの角度と回転速度、ヘッド移動機構18によるインクジェットヘッド14の主走査および搬送機構84による走査台82の副走査搬送(好ましくは、間欠搬送)を制御する。
【0080】
なお、図8(a)および(b)に示す例では、インクジェットヘッド14、ヘッド移動機構18およびUVランプ40を備える走査型UV照射部16のみを走査台82に載置しているが、本発明はこれに限定されず、これらに加え、図6に示す製版装置60を構成する走査型UV照射部16の照射部移動機構24と、ガム液吐出ヘッド26およびヘッド移動機構28とのいずれか一方または両方を走査台82に載置するようにしても良い。
このようにすれば、走査台82上に載置されている走査型UV照射部16を照射部移動機構24によりインクジェットヘッド14に対して副走査方向に移動させることでインクジェットヘッド14と走査型UV照射部16との間の距離Lを調整することができる。
【0081】
また、搬送機構84により、インクジェットヘッド14と走査型UV照射部16とを一体にして印刷原版Pに対して副走査方向に移動させ、かつ、距離Lの調整を、照射部移動機構24により、走査型UV照射部16の副走査方向の移動により行うことで、距離Lの調整を簡単に行うことができる。
さらに、インクジェットヘッド14および走査型UV照射部16に加え、ガム液吐出ヘッド26およびヘッド移動機構28をも一体化することにより、印刷原版P上に画像部を適正に形成するのみならず、画像部が適正に形成された印刷原版または印刷版上、特に好ましくは、非画像部に選択的に、版面保護のためのガム液を塗布し、ガム液膜を形成することができる。
【0082】
以下、本発明のインクジェット描画装置およびこれを適用する製版装置に好適に用いることのできるインクジェットヘッド14の一例を、図9および図10を用いて詳細に説明する。
図9は、インクジェットヘッド14の外観の概略構成を示す斜視図であり、図10は、インク吐出ヘッド12の1つのノズル14aの周辺部の概略構成を示す断面図である。
【0083】
インクジェットヘッド14は、インク液滴を吐出する複数のノズル14aを有し、各ノズル14aには、記録電極14bと、圧電素子14cとが配置されている。
ノズル14aは、絶縁性材料からなり、先端部分に200μm以下の径の開口部を備える円柱形状を有する。また、ノズル14a内には、UVインクが充填されている。ノズル14aに充填されたインクは、その一部は開口部から突出し、半球状あるいはコーン状のメニスカスを形成している。なお、本実施形態では、ノズルを円柱形状としたが、本発明はこれに限定されず、直方体形状としてもよい。
ここで、ノズル14aの開口部は、表面エネルギーの高い材料、例えばテフロン(登録商標)等で形成することが好ましい。ノズル14aの開口部を表面エネルギーの高い材料で形成することで、開口部からインクが濡れ広がることを防止できる。インクの濡れ広がりを防止することで、メニスカス形状が不安定になることや、電源OFF時に汚れとして残存し、後の記録に悪影響を与えること等を防止できる。
【0084】
また、ノズル14aにはインクQを貯蔵、補給するためのインク室(図示せず)が接続されている。UVインク室は、加圧手段(図示せず)を有し、加圧手段によってノズル14aにUVインクQを加圧供給する。ここで、加圧手段は、メニスカス14dの形状を一定に保つのに適切な圧力で連続的にあるいは間欠的にUVインクQを加圧供給する。
さらに、UVインク室には、加熱手段を設けUVインクの温度を所定温度に維持することが好ましい。
【0085】
記録電極14bは、ノズル14aの先端部分の外壁側に配置され、図示しない制御部に接続されている。制御部は、液滴吐出時および非吐出時に記録電極14bに印加する駆動電圧の電圧値、パルス幅を制御する。
記録電極14bに制御部から第1吐出信号に応じた所定電圧を印加することで、ノズル14aの先端部分の開口部から液滴が吐出される。
【0086】
ここで、記録電極14bは、ノズル14aの内壁側、または外壁側のどちらに配置してもよいが、本実施形態のように、ノズル14aの外壁側に設けることが好ましい。記録電極14bをノズル14aの外壁側に設けることで、UVインクとの接触等による腐食等の影響を排除することができる。
また、記録電極14bのノズル14a先端からの距離は、特に制限はない。例えば、本実施形態では、印加電圧を変化させずに、記録電極14bの位置をノズル14a先端から離していった場合に、ノズル14a先端から10cm以上離れた位置に記録電極を配置した場合でも、好適に液滴を吐出することができる。
【0087】
本実施形態のインクジェットヘッド14は、好ましい態様として、圧電素子14cを有する。
圧電素子14cは、ノズル14aの記録電極よりもインク流れ上流側の外壁面に配置されている。圧電素子14cは、ピエゾ素子等を用いるものであり、記録電極14bへの電圧印加と同期してノズル内に充填されたUVインクを加圧する。このように圧電素子14cを用いて加圧することで、より安定した記録を行うことができる。
【0088】
ここで、本実施形態では、ノズル14aを絶縁性材料で形成し、第1吐出信号に応じて所定電圧を記録電極14bに印加することにより液滴を吐出させたが、本発明はこれに限定されない。例えば、UVインクとして、接触することによる腐食や目詰まりが無視できるUVインクを用いる場合は、ノズルを金属とし、特に記録電極を設けることなく、ノズルに直接信号電圧を印加することで、液滴を吐出するようにしてもよい。
【0089】
インクジェットヘッド14による、UVインク吐出動作について説明する。
ノズル14aは、インク室からUVインクが加圧供給され、ノズル14aの先端の開口部には、UVインクのメニスカスが形成される。
【0090】
この状態で、制御部から第1吐出信号に応じて記録電極14bに所定電圧が印加されると、ノズル14aの先端から、メニスカスが印刷原版P側に振動(伸縮)し、伸びた状態で印刷原版Pに付着しドットを形成する、もしくは、メニスカス先端が分裂し、分離した液滴が印刷原版P方向に飛翔し、付着しドットを形成する。
このようにして、第1吐出信号に応じて、記録電極14bに印加する電圧を制御し、印刷原版P上にUVインクのドットを形成して画像部を形成する。
インクジェットヘッドには、ヒーター等でヘッド全体を調温加熱してインクの粘度を低減させて吐出しやすくする方法も用いられる。
【0091】
次に、本発明のインクジェット描画装置が適用される製版装置に好適に用いられる印刷原版について説明する。
本発明が適用される製版装置に好適に用いることができる印刷原版は、適切な支持体(基材)に特定のインク受容層を形成することで得られるが、この作製に使用される支持体(基材)としては、必要な強度と耐久性を備えた寸度的に安定な板状物であれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、金属がラミネート、もしくは蒸着された紙、もしくはプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0092】
中でも、本発明においては、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸度安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネートもしくは蒸着されたプラスチックフィルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は高々10質量%以下である。本発明においては表面処理されたアルミニウム板およびポリエステルフィルム上にゾルゲル親水性層が設けられた支持体が好ましい。以下これらについて記載する。
【0093】
〔アルミ支持体〕
本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。
このように、本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mm〜0.4mm、特に好ましくは0.15mm〜0.3mmである。
【0094】
このようなアルミニウム板には、必要に応じて粗面化処理、陽極酸化処理などの表面処理を行なってもよい。以下、このような表面処理について簡単に説明する。
アルミニウム板を粗面化するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための、例えば界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭54−63902号公報に開示されているように両者を組み合わせた方法も利用することができる。
アルミニウム板は、陽極酸化処理などの表面処置が施された後、さらに、親水化処理が
施される。親水化処理には、シリケート処理、ゾルゲル処理等がある。
【0095】
<シリケート処理>
本発明の製版装置に好適に用いることができる印刷原版の第1の態様としては、塗布量が2.0〜25mg/m2のシリケート層を有することを特徴とする。このシリケート層は、シリケート処理により形成される。
ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書および米国特許第3,181,461号明細書に記載されている方法および手順に従って行うことができる。アルカリ金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を適当量含有してもよい。また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、アルカリ土類金属塩または4族(第IVA族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩が挙げられる。4族(第IVA族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩および4族(第IVA族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0096】
シリケート付着量としては、本発明においては2.0〜25mg/m2付着させる必要がある。好ましくは2.0〜20.0mg/m2であり、5.0〜15.0mg/m2がより望ましい。シリケート付着量は2.0mg/m2以上であるとインク滲みが抑制され、かつ、汚れにくくなる。シリケートの付着量が20.0mg/m2以下であると、平版印刷版としたときの耐刷性が良好となり好ましい。なお、シリケート付着量が25mg/m2を超えても、シリケート層を設けることで得られる特性のさらなる向上は見られず、コスト的には不利となる。シリケートは陽極参加皮膜上に連続層として存在していても、アイランド状に存在していてもよい。
【0097】
なおシリケート量は、例えば、蛍光X線分析装置を用いて検量線法によりSi原子の量(mg/m2)として測定される。より具体的には、例えば、下記の如き条件で、蛍光X線分析装置として理学電機工業(株)製RIX3000を用い、下記条件にてSi−Kαスペクトルのピーク高さよりSi原子の量を測定することができる。
【0098】
装置 :理学電機工業(株)製RIX3000
X線管球 :Rh
測定スペクトル :Si−Kα
管電圧 :50kV
管電流 :50mA
スリット :COARSE
分光結晶 :RX4
検出器 :F−PC
分析面積 :30mmφ
ピーク位置(2θ) :144.75deg.
バックグランド(2θ) :140.70deg.,146.85deg.
積算時間 :80秒/sample
【0099】
<ゾルゲル親水性層>
また、前記シリケート層からなる親水性層に換えて、インク受容層形成に先立ち、ゾルゲル構造を含有する親水性層表面を設けることも好ましい。
つまり、支持体(基材)上に、インク受容層を形成するのに先立って、ゾルゲル親水性層を設けて印刷原版を作製してもよい。支持体基材としては、必要な強度と耐久性を備えた寸度的に安定な板状物であれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上記のごとき金属がラミネート、もしくは蒸着された紙、もしくはプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0100】
以下ゾルゲル親水性層の構成について記載する。
<親水性バインダー>
本発明においてゾルゲル親水性層は、親水性バインダーを含む。親水性バインダーは、金属水酸化物と金属酸化物との系からなるゾルゲル変換性材料であることが好ましく、その中でもポリシロキサンのゲル組織を形成する性質を有するゾルゲル変換系が最も好ましい。
結着剤は親水性層の構成成分の分散媒として作用し、層の物理的強度の向上、層を構成する組成物相互の分散性の向上、塗布性の向上、印刷適性の向上、製版作業性の便宜上など、種々の目的に適う構成となっている。
親水性バインダーは、親水性層の全固形分に対して、30質量%以上であることが好ましく、さらには35質量%以上であることが好ましい。30質量%以下では親水性層が十分な耐水性および耐磨耗性を得ることができない。
【0101】
印刷原版の親水性層に好適に使用される親水性ポリマーバインダとしては、親水性層としての適度な強度と表面の親水性を付与する目的の、有機高分子化合物を用いることができる。具体的には、ポリビニルアルコール(PVA),カルボキシ変性PVA等の変性PVA,澱粉およびその誘導体、カルボキシメチルセルローズ、ヒドロキシエチルセルローズのようなセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸およびその塩、ポリアクリアミド、およびアクリル酸、アクリアミドなど水溶性のアクリル系モノマーを主な構成成分として含む水溶性アクリル系共重合体等の水溶性樹脂が挙げられる。
【0102】
また、上記有機高分子化合物を架橋して、硬化させる耐水化剤としては、グリオキザール、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等のアミノプラストの初期縮合物、メチロール化ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン・エピクロルヒドリン付加物、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂、変性ポリアミドポリイミド樹脂等が挙げられる。その他、更には、塩化アンモニウム、シランカップリング剤の架橋触媒等が併用できる。
【0103】
本発明に特に好ましく適用できるゾルゲル変換が可能な系は、作花済夫「ゾル−ゲル法の科学」(株)アグネ承風社(刊)(1988年)、平島碩「最新ゾル−ゲル法による機能性薄膜作製技術」総合技術センター(刊)(1992年)等の成書等に詳細に記述されている。
すなわち、多価元素から出ている結合基が酸素原子を介して網目状構造を形成し、同時に多価金属は未結合の水酸基やアルコキシ基も有していてこれらが混在した樹脂状構造となっている高分子体であって、塗布前のアルコキシ基や水酸基が多い段階ではゾル状態であり、塗布後、エステル結合化が進行するのに伴って網目状の樹脂状構造が強固となり、ゲル状態になる。また、樹脂組織の親水性度が変化する性質に加えて、水酸基の一部が固体微粒子に結合することによって固体微粒子の表面を修飾し、親水性度を変化させる働きをも併せ持っている。ゾルゲル変換を行う水酸基やアルコキシ基を有する化合物の多価結合元素は、アルミニウム、珪素、チタンおよびジルコニウムなどであり、これらはいずれも本発明に用いることができるが、以下はもっとも好ましく用いることのできるシロキサン結合によるゾルゲル変換系について説明する。アルミニウム、チタンおよびジルコニウムを用いるゾルゲル変換は、下記の説明の珪素をそれぞれの元素に置き換えて実施することができる。
【0104】
ゾルゲル変換によって形成される親水性マトリックスは、好ましくは、シロキサン結合およびシラノール基を有する樹脂であり、本発明の直描型平版印刷原版の親水性層は、少なくとも1個のシラノール基を有するシラン化合物を含んだゾルの系である塗布液を、塗布後の経時の間に、シラノール基の加水分解縮合が進んでシロキサン骨格の構造が形成され、ゲル化が進行することにより形成される。ゲル構造を形成するシロキサン樹脂は、下記一般式(I)で、また少なくとも1個のシラノール基を有するシラン化合物は、下記一般式(II)で示される。また、親水性層に含まれる親水性から疎水性に変化する物質系は、必ずしも一般式(II)のシラン化合物単独である必要はなく、一般には、シラン化合物が部分加水重合したオリゴマーからなっていてもよく、あるいは、シラン化合物とそのオリゴマーの混合組成であってもよい。
【0105】
【化1】

【0106】
上記一般式(I)のシロキサン系樹脂は、下記一般式(II)で示されるシラン化合物の少なくとも1種を含有する分散液からゾル−ゲル変換によって形成され、一般式(I)中のR01〜R03の少なくとも一つは水酸基を表し、他は下記一般式(II)中の記号のR0およびY1から選ばれる有機残基を表わす。
【0107】
一般式(II) (R0nSi(Y14-n
一般式(II)中、Rは、水酸基、炭化水素基またはヘテロ環基を表わす。Y1は、水素原子、ハロゲン原子、−OR11、−OCOR12、または、−N(R13)(R14)を表す(R11、R12は、各々炭化水素基を表し、R13、R14は同じでも異なってもよく、水素原子または炭化水素基を表す)。nは、0、1、2または3を表わす。
【0108】
一般式(II)中のR0の炭化水素基またはヘテロ環基としては、炭素数1〜12の置換されてもよい直鎖状もしくは分岐状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等;これらの基に置換される基としては、ハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、臭素原子)、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、エポキシ基、−OR1基(R1は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、2−ヒドロキシエチル基、3−クロロプロピル基、2−シアノエチル基、N,N−ジメチルアミノエチル基、2−ブロモエチル基、2−(2−メトキシエチル)オキシエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、3−カルボキシプロピル基、ベンジル基等を示す)、−OCOR2基(R2は、前記R1と同一の内容を表わす)、−COOR2基、−COR2基、−N(R3)(R3)(R3は、水素原子または前記R1と同一の内容を表わし、各々同じでも異なってもよい)、−NHCONHR2基、−NHCOOR2基、−Si(R23基、−CONHR3基、−NHCOR2基、等が挙げられる。これらの置換基はアルキル基中に複数置換されてもよい)、炭素数2〜12の置換されていてもよい直鎖状または分岐状のアルケニル基(例えば、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデセニル基等、これらの基に置換される基としては、前記アルキル基に置換される基と同一の内容のものが挙げられる)、炭素数7〜14の置換されていてもよいアラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、2−ナフチルエチル基等;これらの基に置換される基としては、前記アルキル基に置換される基と同一の内容のものが挙げられ、又複数置換されてもよい)、炭素数5〜10の置換されてもよい脂環式基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−シクロヘキシルエチル基、2−シクロペンチルエチル基、ノルボニル基、アダマンチル基等、これらの基に置換される基としては、前記アルキル基の置換基と同一の内容のものが挙げられ、又複数置換されてもよい)、炭素数6〜12の置換されてもよいアリール基(例えばフェニル基、ナフチル基で、置換基としては前記アルキル基に置換される基と同一の内容のものが挙げられ、又、複数置換されてもよい)、または、窒素原子、酸素原子、イオウ原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有する縮環してもよいヘテロ環基(例えば該ヘテロ環としては、ピラン環、フラン環、チオフェン環、モルホリン環、ピロール環、チアゾール環、オキサゾール環、ピリジン環、ピペリジン環、ピロリドン環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノリン環、テトラヒドロフラン環等で、置換基を含有してもよい。置換基としては、前記アルキル基中の置換基と同一の内容のものが挙げられ、又複数置換されてもよい)を表わす。
【0109】
一般式(II)中のY1の−OR11基、−OCOR12基またはN(R13)(R14)基としては、たとえば以下の基を表す。−OR11基において、R11は炭素数1〜10の置換されてもよい脂肪族基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブトキシ基、ヘプチル基、ヘキシル基、ペンチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−メトキシエチル基、2−(メトキシエチルオキソ)エチル基、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル基、2−メトキシプロピル基、2−シアノエチル基、3−メチルオキサプロピル基、2−クロロエチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロオクチル基、クロロシクロヘキシル基、メトキシシクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、ジメトキシベンジル基、メチルベンジル基、ブロモベンジル基等が挙げられる)を表わす。
【0110】
−OCOR12基において、R12は、R11と同一の内容の脂肪族基または炭素数6〜12の置換されてもよい芳香族基(芳香族基としては、前記R中のアリール基で例示したと同様のものが挙げられる)を表わす。又−N(R13)(R14)基において、R13、R14は、互いに同じでも異なってもよく、各々水素原子または炭素数1〜10の置換されてもよい脂肪族基(例えば、前記の−OR11基のR11と同様の内容のものが挙げられる)を表わす。より好ましくは、R11とR12の炭素数の総和が16個以内である。一般式(II)で示されるシラン化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0111】
テトラクロルシラン、テトラブロムシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリクロルシラン、メチルトリブロムシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチ
ルトリイソプロポキシシラン、メチルトリt−ブトキシシラン、エチルトリクロルシラン、エチルトリブロムシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリt−ブトキシシラン、n−プロピルトリクロルシラン、n−プロピルトリブロムシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリt−ブトキシシラン、n−ヘキシルトリクロルシラン、n−ヘキシルトリブロムシラン、n−へキシルトリメトキシシラン、n−へキシルトリエトキシシラン、n−へキシルトリイソプロポキシシラン、n−へキシルトリt−ブトキシシラン、n−デシルトリクロルシラン、n−デシルトリブロムシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−デシルトリイソプロポキシシラン、n−デシルトリt−ブトキシシラン、n−オクタデシルトリクロルシラン、n−オクタデシルトリブロムシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリイソプロポキシシラン、n−オクタデシルトリt−ブトキシシラン、フェニルトリクロルシラン、フェニルトリブロムシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリt−ブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、ジメチルジブロムシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジクロルシラン、ジフェニルジブロムシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジクロルシラン、フェニルメチルジブロムシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、トリエトキシヒドロシラン、トリブロムヒドロシラン、トリメトキシヒドロシラン、イソプロポキシヒドロシラン、トリt−ブトキシヒドロシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリブロムシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリt−ブトキシシラン、トリフルオロプロピルトリクロルシラン、トリフルオロプロピルトリブロムシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリイソプロポキシシラン、トリフルオロプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
【0112】
γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリt−ブトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0113】
本発明に係る親水性層形成に用いる一般式(II)で示されるシラン化合物とともに、Ti、Zn、Sn、Zr、Al等のゾルゲル変換の際に樹脂に結合して成膜可能な金属化合物を併用することができる。用いられる金属化合物として、例えば、Ti(OR24(R2はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、TiCl4、Zn(OR22、Zn(CH3COCHCOCH32、Sn(OR24、Sn(CH3COCHCOCH34、Sn(OCOR24、SnCl4、Zr(OR24、Zr(CH3COCHCOCH34、Al(OR23等が挙げられる。
【0114】
また、このゲル構造のマトリックスの中には、膜強度、柔軟性などの物理的性能向上や、塗布性の向上、親水性の調節などの目的で、ポリマー主鎖末端にシランカップリング基を有する親水性ポリマーや、架橋剤を加えることが可能である。
【0115】
ポリマー主鎖末端にシランカップリング基を有する親水性ポリマーとしては、下記一般式(1)で表されるポリマーが挙げられる。
【0116】
【化2】

【0117】
一般式(1)において、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ水素原子または炭素数8以下の炭化水素基を表し、mは0、1または2を表し、nは1〜8の整数を表し、pは30〜300の整数を表す。Yは−NHCOCH3、−CONH2、−CON(CH32、−COCH3、−OCH3、−OH、−CO2MまたはCONHC(CH32SO3Mを表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびオニウムからなる群から選択されるいずれかを表す。
【0118】
Lは、単結合または有機連結基を表わすが、ここで有機連結基とは、非金属原子からなる多価の連結基を示し、具体的には1〜60個の炭素原子、0〜10個の窒素原子、0〜50個の酸素原子、1〜100個の水素原子,0〜20個の硫黄原子から成り立つ基である。より具体的な連結基としては下記の構造単位またはこれらが組み合わされて構成された基を挙げることができる。
【0119】
【化3】

【0120】
一般式(1)のシランカップリング基を有する親水性ポリマーの具体例としては以下のポリマーを挙げることができる。なお、下記具体例において、pは100〜250の間のいずれを採ることもできる。
【0121】
【化4】

【0122】
本発明に係る上記親水性ポリマーは、下記一般式(2)で表されるラジカル重合可能なモノマーと、下記一般式(3)で表されるラジカル重合において連鎖移動能を有するシランカップリング剤とを用いてラジカル重合させることによって合成することができる。シランカップリング剤、式(3)が連鎖移動能を有するため、ラジカル重合においてポリマー主鎖末端にシランカップリング基が導入されたポリマーを合成することができる。
【0123】
【化5】

【0124】
以上述べたように、ゾルゲル法によって作製される親水性層をインク受容層と支持体との間に設けることが、特に好ましい。
【0125】
<無機微粒子>
さらに、ゾルゲル構造を含有する親水性層には、画像部の硬化皮膜強度向上および非画像部の機上現像性向上のために、無機微粒子を含有してもよい。
無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウムまたはこれらの混合物が好適に挙げられる。これらは光熱変換性でなくても、皮膜の強化、表面粗面化による界面接着性の強化等に用いることができる。
無機微粒子は、平均粒径が5nm〜10μmであるのが好ましく、0.5〜3μmであるのがより好ましい。上記範囲内であると、親水性層中に安定に分散して、膜強度を十分に保持し、印刷時の汚れを生じにくい親水性に優れる非画像部を形成することができる。
上述したような無機微粒子は、コロイダルシリカ分散物等の市販品として容易に入手することができる。
無機微粒子の含有量は、親水性層の全固形分に対して、20質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましい。
【0126】
<ゾルゲル親水性層の形成>
前記ゾルゲル親水性層は、必要な上記各成分を溶剤に分散、または溶かして塗布液を調製し、塗布される。ここで使用する溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチルラクトン、トルエン、水等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独または混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
本発明に係るゾルゲル親水性層は、同一または異なる上記各成分を同一または異なる溶剤に分散、または溶かした塗布液を複数調製し、複数回の塗布、乾燥を繰り返して形成することも可能である。
【0127】
上記のようにして調製した親水性塗布液組成物を支持体表面に塗布、乾燥することでゾルゲル親水性層を形成することができる。ゾルゲル親水性層の膜厚は目的により選択できるが、一般的には乾燥後の塗布量で、0.5〜5.0g/m2の範囲であり、好ましくは1.0〜3.0g/m2の範囲である。塗布量が、0.5g/m2より少ないと親水性の効果が発現しにくくなり、5.0g/m2を超えると膜強度の低下を生じる傾向があるためいずれも好ましくない。
【0128】
<インク受容層>
本発明の製版装置に好適に用いることのできる印刷原版として、上述したように、前記シリケート層或いはゾルゲル親水性層から選択される親水性層の表面に、インク受容層を設けることが好ましい。インク受容層は、1分子当たり5個以上のフッ素原子を有する有機フッ素化合物を1.0〜50.0mg/m2含む層であるか、又は、1分子当たり5個以上のフッ素原子を有する有機フッ素化合物を1.0〜50mg/m2と、親水性樹脂を1.0〜50.0mg/m2と、を含む層である。
これらのインク受容層は、支持体上に予め設けられた、シリケート層からなる親水性層又はゾルゲル構造を含有する親水性層表面に設けられる。
【0129】
印刷原版は、アルミ基材に形成された陽極酸化皮膜表面にシリケート処理により設けられたシリケート層、あるいはゾルゲル親水性層上にインク受容層を設けることが好ましい。インク受容層成分としてはフッ素原子を5個以上有する有機フッ素化合物を50mg/m2以下の範囲で設けることが好ましい。有機フッ素化合物の含有量を1.0〜50.0mg/m2の範囲とすることで、平版印刷版を作製する際に優れた画像部領域との密着性と表面親水性とを両立させることができ、非画像部の汚れ難さと高耐刷性が実現する。
〔フッ素原子を5個以上有する有機フッ素化合物〕
インク受容層成分としては、有機フッ素化合物はフッ素原子数が1分子当たりあるいは高分子化合物の場合には1構成単位当たり5個以上とすることが好ましい。5個以上とすることで、インク滲み抑制効果が好適に得ることができる。有機フッ素化合物は水溶性であることが好ましく、また界面活性作用がある化合物が好ましい。
本発明に係る好ましいフッ素系化合物は、一般式 RF−Rpol で表される。式中、RFは炭素原子3個以上の直鎖または分枝鎖のペルフルオロアルキル基を表し、Rpolはカルボン酸あるいはその塩、スルホン酸あるいはその塩、燐酸あるいはその塩、ホスホン酸あるいはその塩、アミノ基あるいはその塩、4級アンモニウム塩、ポリエチレンオキシ骨格、ポリプロピレンオキシ骨格、スルホンアミド基、エーテル基、ベタイン構造などの極性基を表す。これらの中でスルホキシル基あるいはその塩の構造を有するものがシリケートと相互作用しにくく機上現像されることより好ましい。また、RFはCn2n+1m2mCOO−骨格を有するものがインク滲みを抑制する観点より特に好ましく、1分子中に2つ以上のCn2n+1m2mCOO−骨格を有するものがさらに好ましい。ここでnは2以上の整数、mは1以上の整数である。
以下に、本発明に好ましく用いられるフッ素系化合物の具体例〔(F−1)〜(F−19)〕を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0130】
【化6】

【0131】
【化7】

【0132】
また、本発明に係るフッ素系化合物として、高分子フッ素系化合物を使用してもよい。特に界面活性剤作用を有するもので水溶性であるものが好ましい。
高分子フッ素系界面活性剤の具体例としては、フルオロ脂肪族基を有するアクリレートまたはフルオロ脂肪族基を有するメタクリレートと、ポリ(オキシアルキレン)アクリレートまたはポリ(オキシアルキレン)メタクリレートとの共重合体が挙げられる。該共重合体において、フルオロ脂肪族基を有するアクリレートまたはメタクリレートのモノマー単位が共重合体の質量に基づいて7〜60質量%であることが好ましく、また、該共重合体の分子量は3000〜100000が適当である。
【0133】
該フルオロ脂肪族基は、3〜20の炭素原子を有し、直鎖状でも分岐していてもよく、かつ40質量%以上のフッ素を含有し、末端の少なくとも3個の炭素原子が十分にフッ素化されているフルオロ脂肪族基であることが好ましい。上記フルオロ脂肪族基を有するアクリレートまたはメタクリレートの具体例としては、N−ブチルペルフルオロオクタンスルホンアミドエチルアクリレート、N−プロピルペルフルオロオクタンスルホンアミドエチルアクリレート、メチルペルフルオロオクタンスルホンアミドエチルアクリレートなどがある。ポリ(オキシアルキレン)アクリレートまたはメタクリレートにおける該ポリオキシアルキレン基の分子量は200〜3000であることが好ましい。オキシアルキレン基としては、オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシブチレン基が挙げられ、好ましくはオキシエチレン、オキシプロピレン基である。例えばオキシエチレン基が8〜15モル付加したアクリレートまたはメタクリレートが使用される。また、必要に応じて該ポリオキシアルキレン基の末端にジメチルシロキサン基などを付加することにより発泡性を抑制することができる。
【0134】
上述のようなフッ素系界面活性剤は、市場で一般に入手することができ、本発明では市販品を使用することができる。フッ素系界面活性剤を2種以上併用することもできる。
販売されている製品としては、旭硝子(株)製サーフロンS−111、S−112、S−113、S−121、S―131、S−141、S−145、S−381、S−382、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−110、F120、F−142D、F−150、F−171、F177、F781、住友3M(株)製フロラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC135、FX−161、FC170C、FC−171、FC176、バイエルジャパン(株)製FT−248、FT−448、FT−548、FT−624、FT−718、FT−738等が挙げられる。
【0135】
−親水性樹脂との併用−
これらの有機フッ素化合物と親水性樹脂をブレンドし、インク受容層とすることができる。親水性樹脂と併用することにより、汚れにくさとインク滲み抑制をさらに改良することができる。この場合の有機フッ素化合物は1.0〜50mg/m2、好ましくは2.0〜10mg/m2の範囲であり、親水性樹脂は1.0〜50mg/m2、好ましくは2.0〜20.0mg/m2の範囲である。親水性樹脂を併用することにより非画像部領域の撥インク性が一層向上する。
親水性樹脂としては、水溶性樹脂であれば問題ないが、特にカルボン酸あるいはその塩を有する水溶性セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)、アクリルあるいはメタクリルポリマーあるいはその共重合体、スルホン酸基あるいはその塩を有するアクリル、メタクリル、ビニル、スチレン系親水性樹脂、ポリアクリルアミドあるいはポリビニルピロリドンなどアミド基含有する親水性樹脂、アミノ基を有する親水性樹脂、リン酸あるいはその塩を有する親水性樹脂、例えば、特開昭62−097892号公報に記載されているリン酸変性デンプンも挙げられる。
【0136】
また、オニウム基を有する化合物を含有することも好ましい。オニウム基を有する化合物は、特開2000−10292公報、同2000−108538公報等に詳述されている。その他、ポリ(p−ビニル安息香酸)などで代表される構造単位を分子中に有する高分子化合物群の中から選ばれる化合物を用いることもできる。これらの高分子化合物として、より具体的には、p−ビニル安息香酸とビニルベンジルトリエチルアンモニウム塩との共重合体、p−ビニル安息香酸とビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドとの共重合体などが挙げられる。
また特開2005−125749公報記載のエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ含有する繰り返し単位と支持体表面と相互作用する官能基を少なくとも1つ含有する繰り返し単位とを有する共重合体も好ましい。
これらの中で、特にスルホン酸塩骨格を有するポリマーが特にインク滲みを抑制し、かつ汚れ難くする点で好ましい。
【0137】
この有機インク受容層は次のような方法で設けることができる。即ち、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液をアルミニウム板上に塗布、乾燥して設ける方法と、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液に、アルミニウム板を浸漬して上記化合物を吸着させ、その後水などによって洗浄、乾燥して有機下塗層を設ける方法である。前者の方法では、上記の有機化合物の0.005〜10質量%の濃度の溶液を種々の方法で塗布できる。また後者の方法では、溶液の濃度は0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%であり、浸漬温度は20〜90℃、好ましくは25〜50℃であり、浸漬時間は0.1秒〜20分、好ましくは2秒〜1分である。前者の塗布する方法のほうが基板に吸着せず、印刷時に汚れにくく、好ましい。
印刷時の汚れ抑制の観点から、基板への水の接触角(空気中で基板に水を0.8μlゆっくりと滴下し、10秒後の接触角を測定する)が8°以下になると印刷時の汚れが抑制される。
【0138】
次に、本発明に好適に用いることができるUVインクについて説明する。
【0139】
本発明に用いるUVインクとしては、吐出性の観点から、吐出する際の温度において、インクの粘度が、1〜1000mPa・sの範囲内にあり、表面張力が、1〜100mN/mの範囲内にあることが好ましい。さらに、吐出する際の温度において、インクの粘度が、1〜100mPa・sの範囲内にあり、表面張力が、1〜80mN/mの範囲内にあることが好ましい。
また、インク滲み抑制の観点から印刷原版とUVインクとの組合せは、印刷原版へのUVインクの接触角(空気中で基板にインクを0.8μlゆっくりと滴下し、10秒後の接触角を測定する)が30°以上となる組み合わせにすることが好ましい。これにより、インク滲みが抑制される。
【0140】
本発明において好適に用いられるUVインク(紫外線硬化型インク)は、技術情報協会(株)発行 「最新UV硬化 実用便覧」(2005年2月25日刊行)などに記載されている公知の方法により作製でき、主成分として、重合開始剤、重合性モノマーまたはオリゴマーを含有する。重合の形態として、ラジカル重合型と、カチオン重合などのイオン重合型があり、いずれも本発明において好適に使用できる。
【0141】
本発明において、好適に用いられる重合開始剤としては、例えば、紫外線硬化型のインク組成物に用いられる公知のラジカル重合、若しくは、カチオン重合の光重合開始剤が挙げられる。本発明に併用可能な他の光重合開始剤は、光の作用、又は、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、化学変化を生じ、ラジカル、酸及び塩基のうちの少なくともいずれか1種を生成する化合物である。具体的な、光重合開始剤は、当業者間で公知のものを制限なく使用できる。好ましい光重合開始剤としては、芳香族ケトン類、ベンゾインやベンゾインエーテルなどのベンゾイン誘導体、スルホニウム塩やヨードニウム塩などのオニウム塩類、有機過酸化物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル類、ボレート塩類、アジニウム化合物、メタロセン化合物、炭素−ハロゲン結合を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は、紫外線に対して重合開始能を有するが、適切な増感剤との組み合わせにより、可視光線や赤外線にも分光増感するようにしてもよい。
【0142】
本発明において、好適に用いられる重合性モノマーまたはオリゴマーとしては、公知のラジカル重合性若しくはカチオン重合性のモノマーまたはオリゴマーが挙げられる。用いられるモノマーまたはオリゴマーとしては、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸、マレイン酸及びその誘導体、スチレン類、オレフィン類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、エポキシ化合物、オキセタン化合物、環状エステル類などが挙げられる。形成された画像の力学特性を制御するため、本発明においてこれらの化合物は、分子内に重合性官能基を1つ有する単官能化合物と、2つ以上有する多官能化合物を併用することができる。
【0143】
また、画像の視認性のため、インクは着色されることが好ましい。着色には、公知の染料や顔料を用いることができる。また、吐出性の改善のための界面活性剤や、インク保存時の安定性のための重合禁止剤などを添加することができる。さらに、形成された画像の力学特性改善のために、各種のポリマーを添加することができる。具体的には、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレングリコール、シェラック樹脂、ビニル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。
【0144】
本発明においては、上述のように溶剤を含まないインクを使用しても良いが、水または有機溶剤を混合したものであっても良い。混合する有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、γ−ブチロラクトンなどのエステル系溶剤、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶剤、アイソパーG(エクソン社製)などの炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0145】
次に、本発明の製版装置に好適に用いられるガム液の一例について具体的に説明する。
【0146】
ガム液としては、アルミニウム版を支持体とする平版印刷版の不感脂化処理に使用される不感脂化液が有効に利用できる。好ましい不感脂化液としては、親水性有機高分子化合物、ヘキサメタリン酸およびその塩、フイチン酸およびその塩の少なくとも一種を含有する水溶液が挙げられる。
【0147】
具体的な親水性有機高分子化合物としては、アラビアガム、デキストリン、例えばアルギン酸ナトリウムのようなアルギン酸塩、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、アクリルアミド単位を含む水溶性共重合体、ポリアクリル酸、アクリル酸単位を含む共重合体、ポリアクリル酸、アクリル酸単位を含む共重合体、ポリメタクリル酸、メタクリル酸単位を含む共重合体、ビニルメチルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルと無水マレイン酸との共重合体、燐酸変性澱粉などを挙げることができ、中でもアラビアガムが不感脂化作用が強いので好ましい。これらの親水性高分子化合物は、必要に応じて二種以上組み合わせて使用することができ、約1〜40重量%、より好ましくは3〜30重量%の濃度で使用される。
【0148】
具体的なヘキサメタリン酸塩としては、ヘキサメタリン酸アルカリ金属塩又はアンモニウム塩が挙げられる。ヘキサメタリン酸アルカリ金属塩又はアンモニウム塩としては、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸アンモニウム等を挙げることができる。具体的なフイチン酸又はその塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等がある。アミン塩としては、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、ジ−n−プロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−アミルアミン、n−ヘキシルアミン、ラウリルアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アリルアミン、アニリン等の塩を挙げることができる。フイチン酸塩は12個の酸の水素がすべて置換された正塩、酸の水素の一部が置換された水素塩(酸性塩)でもよく、また1種類の塩基の塩からなる単純塩、2種以上の塩基が成分として含まれる複塩のいずれの形態のものも使用できる。これらの化合物は単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0149】
本発明に使用される不感脂化液には、更に強酸の金属塩を含有させておくことが好ましく、これにより不感脂化作用を高めることができる。具体的な強酸の金属塩としては、硝酸のナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩及び亜鉛塩、硫酸のナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩及び亜鉛塩、クロム酸のナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩及び亜鉛塩、並びに弗化ナトリウム及び弗化カリウムなどを挙げることができる。これらの強酸の金属塩は二種以上を組み合わせて使用することができ、その量は不感脂化液の総重量を基準に約0.01〜5重量%が好ましい。本発明に使用される不感脂化液は、pH値を酸性域、より好ましくは1〜5、最も好ましくは1.5〜4.5に調整される。従って、水相のpHが酸性でない場合には、水相に更に酸が加えられる。かかるpH調整剤として加えられる酸としては、例えば燐酸、硫酸、硝酸などの鉱酸、例えばくえん酸、たんにん酸、りんご酸、氷酢酸、乳酸、蓚酸、p−トルエンスルホン酸、有機ホスホン酸などの有機酸が例示できる。この内、燐酸は、pH調整剤として機能するだけでなく、不感脂化作用を強化する作用もあるので特に優れており、不感脂化液の総重量に対して0.01〜20重量%、最も好ましくは0.1〜10重量%の範囲で含有させておくと好ましい。
【0150】
本発明に使用される不感脂化液には湿潤剤及び/又は界面活性剤を含有させておくことが好ましく、これにより不感脂化液の塗布性を向上させることができる。具体的な湿潤剤としては低級多価アルコールが好ましく、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトールなどが挙げられ、特に好ましいものはグリセリンである。また、界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン界面活性剤、例えば脂肪酸塩類、アルキル硫酸エステル塩酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホこはく酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などのアニオン界面活性剤、例えばベタイン型、グリシン型、アラニン型、スルホベタイン型の両性界面活性剤が使用できる。これらの湿潤剤及び/又は界面活性剤は不感脂化液の総重量に対して約0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%の範囲で含有させられる。本発明に使用される不感脂化液には、更に二酸化珪素、タルク、粘土などの充填剤を2重量%までの量で、また染料や顔料などを1重量%までの量で含有させることもできる。
【0151】
本発明に使用される不感脂化液は、上述の如き親水性の水溶液からなるものであるが、米国特許第4253999号、同第4268613号、同第4348954号などの各明細書に記載されているような乳化型の不感脂化液も使用することができる。不感脂化液の塗布量は乾燥重量で0.001〜50g/m2、好ましくは0.01〜10g/m2 である。
【0152】
以上、本発明のインクジェット描画方法および装置について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の主旨に逸脱しない範囲において、各種改良や変更を行なってもよいのはもちろんである。
【0153】
例えば、本実施形態では、インクとしてUVインクを用いたが本発明はこれに限定されず、可視光線、赤外線を硬化光として使用することができる種々の光硬化型インクも用いることができる。また、光源も同様に、可視光等の活性光を射出する種々の活性光光源を用いることができる。
【0154】
また、上記実施形態では、本発明を、画像記録媒体として印刷原版を用いる製版装置に適用した例を挙げ、詳細に説明しているが、本発明はこれに限定されず、種々の描画装置や画像記録装置に適用しても良いのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】本発明に係るインクジェット描画装置を適用する製版装置の一実施形態の概略構成を示す模式的上面図である。
【図2】図1に示す製版装置の模式的な断面図である。
【図3】図1に示す製版装置の走査型紫外線照射部の模式的な斜視図である。
【図4】図1に示す製版装置の走査型UV光照射部の模式的正面図である。
【図5】(a)(b)および(c)は、それぞれインクジェット描画装置に用いる鏡面板の一例を示す上面図、正面図、および側面図である。
【図6】本発明に係るインクジェット描画装置を適用する製版装置の他の実施形態の概略構成を示す模式的上面図である。
【図7】図6に示す製版装置の走査型紫外線照射部および照射部移動機構の模式的な断面図である。
【図8】(a)は、本発明に係るインクジェット描画装置を適用する製版装置の他の実施形態の概略構成を示す模式的上面図であり、(b)は、(a)に示す製版装置の概略構成を示す模式的断面図である。
【図9】図1に示す製版装置に用いられるインクジェットヘッドの一実施形態の外観の概略構成を示す斜視図である。
【図10】図9に示すインクジェットヘッドのノズルの周辺部の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0156】
10,60,80 製版装置
12 支持台
14 インクジェットヘッド
16 走査型紫外線(UV)照射部
18,28 ヘッド移動機構
20,84 搬送機構
22 制御部
24 照射部移動機構
26 ガム液吐出ヘッド
30 送りローラ
32 抑えローラ
34,66a,66b,72,90 ドライブスクリュー
35,67a,67b,73,88a,88b ガイドレール
36a,68a、70a,74a 駆動支持部
36b,68b,70b,74b 支持部
40 紫外線(UV)ランプ
42 リフレクタ
44 回転ミラー
46 回転駆動部
48a,48b 搬送ローラ
56a,56b 鏡面板
62a,62b,63a,63b,92a,92b 支持脚
64a,64b 支持部材64b
82 走査台
82a,82b 開口
86a,86b ベース
94a,94b 車輪
96 トラベリングナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状画像記録媒体にインクジェット記録方法により画像を記録するインクジェット描画装置であって、
前記画像記録媒体を支持する支持台と、
前記支持台に対向して配置され、前記支持台上に載置された前記画像記録媒体上に像様に光硬化型インクをインク液滴として吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドを主走査方向に移動させるヘッド移動機構と、
前記支持台に対向して、前記インクジェットヘッドに対して所定距離離間するように前記画像記録媒体の搬送下流側に配置され、前記画像記録媒体に活性光線を前記主走査方向に走査して照射し、前記画像記録媒体上に吐出された前記光硬化型インクを硬化させる走査型活性光照射部と、
前記画像記録媒体を前記主走査方向と略直交する副走査方向に前記インクジェットヘッドに対して相対的に搬送する搬送機構とを有し、
前記走査型活性光照射部は、
前記活性光を射出する点状または略点状の活性光光源と、
該活性光光源から射出された前記活性光を前記支持台に支持された前記画像記録媒体の記録面に平行な平行光として生成する平行光生成手段と、
該平行光生成手段によって生成された前記平行光の光路上に配置され、前記副走査方向に平行な回転軸を有し、前記平行光を前記画像記録媒体側に反射させる回転ミラーと、
該回転ミラーを回転させる回転駆動手段とを有するものであることを特徴とするインクジェット描画装置。
【請求項2】
前記回転ミラーは、光反射面が平坦な平板状のミラーである請求項1に記載のインクジェット描画装置。
【請求項3】
前記回転駆動手段は、順方向及びその逆方向に交互に前記回転ミラーを回転させる請求項1又は2に記載のインクジェット描画装置。
【請求項4】
前記平行光生成手段は、該活性光光源から射出された前記活性光を前記平行光として射出する射出口を持つリフレクタを有する請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット描画装置。
【請求項5】
前記走査型活性光照射部は、さらに、前記回転ミラーから前記画像記録媒体の表面までの間の前記平行光の光路を囲むように配置される、前記光路に対向する面が鏡面をなす4つの鏡面板を有する請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット描画装置。
【請求項6】
さらに、前記走査型活性光照射部を前記インクジェットヘッドに対して前記副走査方向に相対的に移動させる照射部移動機構と、
前記走査型活性光照射部と前記インクジェットヘッドとを前記所定距離以上離間するように、前記照射部移動機構、または前記ヘッド移動機構および前記照射部移動機構を制御する制御部とを有する請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット描画装置。
【請求項7】
前記搬送機構は、前記画像記録媒体を前記副走査方向に搬送する機構である請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット描画装置。
【請求項8】
前記搬送機構は、前記インクジェットヘッド、前記ヘッド移動機構および前記走査型活性光照射部を載置して、一体として副走査方向に移動させる機構である請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット描画装置。
【請求項9】
前記所定距離は、前記活性光光源による熱の影響が前記インクジェットヘッドによる描画に影響を及ぼさない距離である請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェット描画装置。
【請求項10】
前記所定距離は、前記インクジェットヘッドによる描画速度と、前記インクジェットヘッドおよび前記活性光光源の種類または構造と、前記画像記録媒体の前記インクジェットヘッドに対する相対的な副走査方向の搬送速度、前記画像記録媒体の材料または材質と、前記活性光光源から照射される活性光の光量との少なくとも1つに応じて決定される請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェット描画装置。
【請求項11】
前記画像記録媒体は、平版印刷原版であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のインクジェット描画装置。
【請求項12】
前記画像記録媒体は、平版印刷原版であり、さらに前記インクジェットヘッドによって描画された前記印刷原版上に版面保護液を吐出する版面保護液吐出ヘッドを有する請求項1〜11のいずれかに記載のインクジェット描画装置。
【請求項13】
主走査方向に移動するシリアルタイプのインクジェットヘッドによって光硬化型インクを用いて、前記主走査方向と直交する副走査方向に相対的に搬送されるシート状画像記録媒体に直接画像を形成するインクジェット描画方法であって、
前記インクジェットヘッドによって前記光硬化型インクをインク液滴として像様に吐出して直接描画し、
前記インクジェットヘッドによる描画位置から前記画像記録媒体の副走査搬送下流側に所定距離離間した後方位置において、静止した点状または略点状の活性光光源から射出し、副走査方向と平行な方向に回転軸を有する回転ミラーによって反射させた活性光で前記画像記録媒体の画像形成面を主走査方向に走査し、
前記画像記録媒体上に像様に吐出された前記光硬化型インクを硬化させて、前記画像を形成することを特徴とするインクジェット描画方法。
【請求項14】
前記所定距離は、前記活性光光源による熱の影響が前記インクジェットヘッドによる描画に影響を及ぼさない距離である請求項13に記載のインクジェット描画方法。
【請求項15】
前記所定距離は、前記インクジェットヘッドによる描画速度と、前記インクジェットヘッドおよび前記活性光光源の種類または構造と、前記画像記録媒体の前記インクジェットヘッドに対する相対的な副走査方向の搬送速度、前記画像記録媒体の材料または材質と、前記活性光光源から照射される活性光の光量との少なくとも1つに応じて決定される請求項13または14に記載のインクジェット描画方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−216388(P2007−216388A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11282(P2006−11282)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】