説明

インクジェット用インク

【課題】塩酢ビ樹脂を使用したインクジェットインクにおいて、塩酢ビ樹脂の分解を抑え、これにより増粘などを抑えることが可能となるインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】色材を含有し、塩酢ビ樹脂を使用したインクジェットインクであって、
インクジェットインク中の前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂の経時での分解を抑制するための安定剤を添加したことを特徴とするインクジェット用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用のインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式としては、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる方式(いわゆる電界制御方式)、ピエゾ素子の振動圧力を利用してインクを吐出させる方式(いわゆるドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式))、高熱によって気泡を形成、成長させることによって生じる圧力を利用してインクを吐出させる方式(いわゆるサーマルインクジェット方式)、 等の各種方式が提案されており、これらは極めて高精細の画像を得ることができる。
【0003】
これらのインクジェット記録方式には、主溶媒として水を用いる水性インクと、主溶媒として有機溶媒を用いる油性インクとが一般に用いられている。水性インクを用いた印刷画像は、全般に、耐水性が劣っているのに対して、油性インクは、優れた耐水性を有する印刷画像を提供することが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェット用のインクは各種開発され、使用されている。例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂(以下、塩酢ビ樹脂という)を使用したインクジェットインク(例えば特許文献1)が知られている。
【特許文献1】国際公開番号WO2004/007626
【0005】
本発明の目的は、塩酢ビ樹脂を使用したインクジェットインクの特性の向上にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、塩酢ビ樹脂を使用したインクジェットインクについて、インク中の塩酢ビ樹脂が経時で分解してしまうと、粘度の増加(増粘)などによってインクジェットプリンターでの吐出安定性が低下したり、擦過性、乾燥性等の性能が低下してしまう原因となり、インクジェットインクとしての安定した性能を保つことが難しいことを突き止めた。
そして、本発明者等は、塩酢ビ樹脂を使用したインクジェットインクについて、安定した性能を保つことができるインクの開発を行った結果、「インクジェットインク中の塩酢ビ樹脂の経時での分解を抑制するための安定剤」を加えることによって(解決手段)、塩酢ビ樹脂の分解を抑え、これにより、インクジェットインクとしての性能(例えば、吐出安定性、擦過性、乾燥性など)を安定に保つことが可能であることを見い出し、本願発明に至った。
【0007】
本発明は以下の構成を有する。
(構成1)色材を含有し、塩酢ビ樹脂を使用したインクジェットインクであって、
インクジェットインク中の前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂の経時での分解を抑制するための安定剤を添加したことを特徴とするインクジェット用インク。
(構成2)前記安定剤は、有機スズ系であることを特徴とする構成1記載のインクジェット用インク。
(構成3)前記安定剤は、有機スズ系の安定剤と、エポキシ変性植物油系可塑剤を併用したものであることを特徴とする構成2記載のインクジェット用インク。
(構成4)前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂を溶解させる溶剤として、下記一般式で表される溶剤から選ばれるいずれか1種、又は2種以上を混合した、溶剤を含有することを特徴とする構成3に記載のインクジェット用インク。
【化2】

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塩酢ビ樹脂を使用したインクジェットインクにおいて、「インクジェットインク中の塩酢ビ樹脂の経時での分解を抑制するための安定剤」を加えることによって、塩酢ビ樹脂の分解を抑えることが可能となる。これにより、インクジェットインクとしての性能(例えば、吐出安定性、擦過性、乾燥性など)を安定に保つことが可能となる。
【0009】
以下、本発明について説明する。
本発明のインクジェット用インクは、色材を含有し、塩酢ビ樹脂を使用したインクジェットインクであって、
インクジェットインク中の前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂の経時での分解を抑制するための安定剤を添加したことを特徴とする(構成1)。
本発明は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂(以下、塩酢ビ樹脂という)を使用したインクジェットインクにおいて、「インクジェットインク中の塩酢ビ樹脂の経時での分解を抑制するための安定剤」(以下、所定の安定剤という)を加えることによって、塩酢ビ樹脂の分解を抑えることが可能となる。塩酢ビ樹脂の分解を抑えることにより、粘度の増粘が抑えられ、その結果、インクジェットプリンターでの吐出安定性の低下が抑えられる。また、塩酢ビ樹脂の分解を抑えることにより、擦過性、乾燥性等の性能の低下が抑えられる。これらのことにより、本発明では、インクジェットインクとしての性能(例えば、吐出安定性、擦過性、乾燥性など)を安定に保つことが可能となる。
本発明においては、安定剤の種類や安定剤の添加の有無にかかわらず、塩酢ビ樹脂の分解を効果的に抑えることができない場合においては、インクジェットインクとしての性能(例えば、吐出安定性、擦過性、乾燥性など)を安定に保つことができない。
したがて、本発明のインクジェット用インクにおいては、上記所定の安定剤及びその添加量は、塩酢ビ樹脂の分解を抑える作用、これにより増粘などを抑える作用、が実質的に十分に認められる安定剤及びその添加量、好ましくはこれらの作用が効果的に認められる安定剤及びその添加量、であることが好ましい。上記の作用が効果的に認められる安定剤及びその添加量としては、例えば、経時での粘度の増加(粘度の変化率)を10%以下に抑える作用のある安定剤及びその添加量が好ましい。
【0010】
本発明においては、前記安定剤は、有機スズ系であることが好ましい(構成2)。
有機スズ系の安定剤は、塩酢ビ樹脂の分解を抑える作用、これにより増粘などを抑える作用に優れるためである。
ここで、有機スズ系の安定剤としては、ブチル錫(スズ)系安定剤や、オクチル錫(スズ)系安定剤、メチル錫(スズ)系安定剤、ラウレート系安定剤、マレート系安定剤、メルカプト系安定剤などが挙げられる。
【0011】
本発明においては、前記安定剤は、有機スズ系の安定剤と、エポキシ変性植物油系可塑剤を併用したものであることが好ましい(構成3)。
有機スズ系の安定剤と、エポキシ変性植物油系可塑剤を併用した安定剤は、塩酢ビ樹脂の分解を抑える作用、これにより増粘などを抑える作用に非常に優れるためである。
有機スズ系の安定剤と、エポキシ変性植物油系可塑剤を併用した安定剤としては、例えば、(株)ADEKA社製:アデカサイザー0シリーズや、日東化成(株)社製:#8102、#8831や、(株)ADEKA社製:アデカスタブ465E、アデカスタブOT−1や、東京ファインケミカル(株)社製:EMBILIZER、などが挙げられる。
【0012】
本発明は、溶剤・油性インクにおいて、溶剤と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂を含むインクジェット用インクにおいて好適に適用できる。本発明は、溶剤・油性インクにおいて、例えば、バインダー樹脂として、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂を含むインクジェット用インクにおいて好適に適用できる。
【0013】
本発明において、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂としては、例えばダウケミカル製VYNS−3、VYHH、VYHD、VMCH、VMCC、VMCA、VERR−40、VAGH、VAGD、VAGF、VROH、日信化学工業(株)製ソルバインC、ソルバインCL、ソルバインCH、ソルバインCN、ソルバインC5、ソルバインC5R、ソルバインM、ソルバインML、ソルバインTA5R、ソルバインTAO、ソルバインMK6、ソルバインTA2等があげられる。
【0014】
本発明においては、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂を溶解させる溶剤として、下記一般式で表される溶剤から選ばれるいずれか1種、又は2種以上を混合した、溶剤を用いることが好ましい(構成4)。
他の溶剤を用いる場合に比べ、ヘッド部材の浸食、メディアへの浸食が少なく、特性が良好だからである。
【化3】

【0015】
本発明において、上記式(1)に含まれる溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(例えば(株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG))や、
ジエチレングリコールヘキシルエーテルや、
ジプロピレングリコールジメチルエーテル(例えば(株)日本乳化剤社製:商品名ジメチルプロピレングリコール(DMFDG))や、
ジエチレングリコールジエチルエーテル(例えば(株)日本乳化剤社製:商品名ジエチルジグリコール(DEDG)、
などのポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられる。
本発明において、上記式(2)に含まれる溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略号PMA)や、
ジプロピレングリコール(モノ)メチルエーテルアセテート(ジプロピレングリコールモノメチルエーテルモノメチルアセテート)(略号DPMA)や、
エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(略号BMGAC)
などのポリオキシエチレンアルキルエーテルアセテートが挙げられる。
【0016】
(発明を実施するための形態)
本発明のインクジェット用油性インクは、例えば、色材、バインダー樹脂が分散剤と共に溶剤中に適宜、溶解または分散されてなるものであることが好ましい(例えば、特許文献1:国際公開番号WO2004/007626参照)。
このようなインクジェット用油性インクの調製法としては、溶媒、または、混合溶媒を、インク組成物における溶媒とする。その溶媒の一部に、顔料と分散剤を添加し、ボールミル、ビーズミル、超音波、又はジェットミル等で混合・分散させて顔料分散液を調製する。得られた顔料分散液に、上記で得た溶媒の残部とバインダー樹脂、その他の添加剤を攪拌下に添加することにより得られる。
上記インク組成物にいおて、バインダー樹脂は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂が好ましい。バインダー樹脂は、ロジン系、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系を併用してもよい。
上記インク組成物には、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、界面活性剤等を添加してもよい。酸化防止剤としてはBHA(2,3−ブチル−4−オキシアニソール)、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)等が例示され、油性インク組成物中0.01〜3.0重量%である。また、紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系化合物、又はベンゾトリアゾール系化合物を用いることができ、油性インク組成物中0.01〜0.5重量%である。
また、界面活性剤としてはアニオン系、カチオン系、両性又は非イオン系のいずれの界面活性剤も用いることができ、油性インク組成物中0.5〜4.0重量%である。
【0017】
(実施例)
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0018】
(樹脂溶液Iの作製)
溶媒として下記の混合溶剤を使用した。
(i)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(略号PMA):45重量部
(ii)ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル((株)日本乳化剤社製:商品名ヘキシルジグリコール(HeDG)):10重量部
(iii)エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BMGAC):45重量部
上記3種の溶剤を混合した混合溶剤に塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂(塩酢ビ樹脂)を攪拌しながら加え、ウオーターバスで約50℃で1hr温めながら攪拌装置(新東科学(株)社製スリーワンモータ)で樹脂を溶解して、樹脂濃度5wt%の樹脂溶液Iを作製した。塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂としては、日信化学工業(株)社製:ソルバインC5R、又は、ダウケミカル社製:VYHDを使用した。
【0019】
(樹脂溶液IIの作製)
次いで、上記の樹脂溶液Iに、
安定剤として、(1)エポキシ変性植物油の安定剤として(株)ADEKA社製:0−130P、(2)有機スズ系の安定剤として日東化成(株)社製:#8102、#8105、#8832、又は、(3)上記(1)と(2)の混合を表1、表2に示すように、加えて攪拌して、樹脂溶液IIを作製した。同様に、表1、表2に示すように安定剤を加えない無添加の樹脂溶液Iを比較として用いた。
また、保管中の吸湿の影響を見るために、安定剤を加えた樹脂溶液IIと安定剤を加えない無添加の樹脂溶液Iのそれぞれに水を2wt%添加した試料を作製した。
安定剤の添加量は樹脂溶液量に対して、表1では0.1wt%、表2では0.1wt%又は0.4wt%とした。
【0020】
(評価)
樹脂溶液IIの粘度を粘度計(東機産業製:RE−115L)で確認後、60℃恒温槽へ入れて1ヶ月間放置する。放置日数0日(樹脂溶液IIの作製直後)、放置日数14日、放置日数30日、において粘度を粘度計(東機産業製:RE−115L)にて確認した結果を表1に示す。
表1、表2に示すように、60℃で1ヶ月放置後の結果では、塩酢ビ樹脂(C5R、VYHD)のみの無添加の樹脂溶液Iでは粘度変化率が10〜25%であるのに対し(比較例)、安定剤及び/又は水を加えた樹脂溶液IIでは粘度変化率は5%以下であった(実施例)。尚、表2の試料a〜fは、表1の下段(VYHDの6試料)と対応している。
上記のように、塩酢ビ樹脂(C5R、VYHD)に安定剤(0−130P、#8102、#8105、#8832)を加える事で樹脂溶液(樹脂溶剤)の粘度を安定に保つことができた。
【0021】
上記実施例及び比較例に係る樹脂溶液に、色材等を加えて作製したインクジェット用インクを用い、インクジェットプリンターでの吐出安定性や擦過性、乾燥性等の性能の経時変化について調べた。
その結果、比較例に係る樹脂溶液Iを用いた場合、粘度の増加(増粘)などによってインクの不吐出や飛行曲がりの原因となり、塩酢ビ樹脂の経時分解などによって擦過性、乾燥性等の性能の低下の原因となることがわかった。これに対し、実施例に係る樹脂溶液IIを用いた場合、問題なく印宇可能であり、インクの不吐出や飛行曲がりや、擦過性、乾燥性等の性能の低下、は確認されなかった。
【0022】
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材を含有し、塩酢ビ樹脂を使用したインクジェットインクであって、
インクジェットインク中の前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂の経時での分解を抑制するための安定剤を添加したことを特徴とするインクジェット用インク。
【請求項2】
前記安定剤は、有機スズ系であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記安定剤は、有機スズ系の安定剤と、エポキシ変性植物油系可塑剤を併用したものであることを特徴とする請求項2記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂を溶解させる溶剤として、下記一般式で表される溶剤から選ばれるいずれか1種、又は2種以上を混合した、溶剤を含有することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット用インク。
【化1】


【公開番号】特開2009−132846(P2009−132846A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311944(P2007−311944)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】