説明

インクジェット用シリコーンインク組成物及び画像形成方法

【課題】インクジェット印刷機で印刷、塗装に好適に用いることのできるシリコーンインク組成物、また、該インク組成物をインクジェット印刷機で印刷、塗装した後、記録媒体上で架橋及び/又は接着させる画像形成方法を提供する。
【解決手段】(A)分子内に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)分子内に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)白金系触媒、
(D)反応制御剤、
(E)顔料、
(F)分散剤、
(G)溶剤
を含有することを特徴とするインクジェット用シリコーンインク組成物。また、該インク組成物記録媒体上にインクジェット印刷し、硬化、接着させてなる画像形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体上にシリコーンインクで印刷、塗装する際、インクジェット印刷機で印刷可能なシリコーンインク組成物に関する。更に、本発明は、該シリコーンインク組成物を用いる画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴム成形物表面に印刷を施す場合、シリコーンゴム成形物表面は、一般の樹脂系インクではレベリング性に劣り、また難接着性であるため、通常は熱硬化シリコーン系インクが使用されている。液状シリコーンゴム組成物などの硬化性シリコーン組成物に顔料を分散した熱硬化性シリコーン系インク組成物は、シリコーンゴム成形物表面に対してレベリング性と接着性に優れている。また、熱硬化性シリコーン系インク組成物を用いてシリコーンゴム成形物表面に文字や画像を印刷するためには、従来、スクリーン印刷か、マスキングを施したスプレー塗装によるのが一般的であった。
【0003】
しかしながら、スクリーン印刷は印刷機の部材(印刷版)が被印刷面に接触する印刷法であり、印刷後の表面状態が損なわれる懸念がある。シリコーンゴム成形物への熱硬化性シリコーン系インク組成物での印刷では、印刷後に必ず加熱によるインク硬化工程を経る必要があり、多色刷りの場合、これを色数だけ繰り返すため、印刷工程に長時間を要していた。また、多色印刷だけでなく、複雑な文字や画像を印刷する場合、部分的に分割したそれぞれの印刷版が必要となり、これらの製版に要する時間やコストも印刷の合理化を阻んでいた。
【0004】
一方、スプレー塗装は印刷面に非接触であり、特に大面積や、全面塗装には適しているが、マスキングによる塗り分けには限界があり、高精度の文字や画像の印刷は不可能であった。
【0005】
これに対し、微小インク滴をノズルから吐出させてドット単位で印刷するインクジェット印刷は、非接触、多色同時印刷、高解像度、高速化が可能となるため、幅広い用途で応用されている。しかし、インクジェット印刷の被印刷面としては紙やダンボール、木材等のインク吸収性を有する基材がほとんどで、金属、プラスチック、ゴム等のインク吸収性を持たない基材に印刷する場合については、あらかじめ表面にインク受容層を設けてから印刷する方法が提案されているが、この方法は基材独自の表面特性を失ってしまうという欠点がある。また、被印刷面に対してレベリング性、接着性を有する熱可塑性のバインダー樹脂を揮発性液体(媒体)に溶解したインクならば、インク受容層を設けなくとも直接インクジェット印刷が可能であるため、印刷後に媒体を揮発させてインクを固化し、文字や画像を形成する方法も提案されているが、被印刷面がシリコーンゴム成形物である場合に適用可能なバインダー樹脂は存在していない。
【0006】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、下記のものが挙げられる。
【特許文献1】特許第2993096号公報
【特許文献2】特開平4−248879号公報
【特許文献3】特開平10−245513号公報
【特許文献4】特開平11−181345号公報
【特許文献5】特開2002−338863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、インクジェット印刷機で印刷、塗装に好適に用いることのできるシリコーンインク組成物、及び該インク組成物をインクジェット印刷機で印刷する画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、シリコーンゴム成形物表面に対する熱硬化性シリコーン系インク組成物の特性に着目し、インクジェット印刷用インクとして鋭意検討した結果、下記成分、
(A)分子内に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)分子内に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)白金系触媒、
(D)反応制御剤、
(E)顔料、
(F)分散剤、及び
(G)溶剤
を含有するシリコーン組成物がインクジェット印刷用として有効で、これを用いてインクジェット印刷した場合、シリコーンゴム成形物表面への印刷性に優れることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、
(A)分子内に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)分子内に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)白金系触媒、
(D)反応制御剤、
(E)顔料、
(F)分散剤、及び
(G)溶剤
を含有することを特徴とするインクジェット用シリコーンインク組成物を提供する。
この場合、前記(E)成分の顔料としては、無機顔料及び有機顔料から選ばれる少なくとも1種を用いることができ、また、前記(F)成分の分散剤としては、シリコーン変性樹脂であることが好ましく、シリコーン変性樹脂としては、アミノ基含有シリコーンオイル、カルボキシル基含有シリコーンオイル、カルビノール基含有シリコーンオイル、アルキル基含有シリコーンオイル、及び片末端(メタ)アクリル基含有シリコーンオイルとラジカル重合性モノマーとの共重合体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、前記(G)成分の溶剤が、圧力666Paでの沸点が100℃以下の低分子オルガノシロキサンであることが好ましい。
本発明のインクジェット用シリコーンインク組成物は、シリコーンゴム硬化物表面への印字用として好適に用いられる。
本発明は、更に上記インクジェット用シリコーンインク組成物を用いてインクジェット方式により記録媒体上、特にシリコーンゴム硬化物上に画像を形成した後、該シリコーンインク組成物の画像を架橋することを特徴とする画像形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェット印刷用硬化シリコーンインク組成物は、インク吸収性を持たない基材に対して、インク受容層を設けることなく直接印刷可能で、特にシリコーンゴム成形物表面に対して優れたレベリング性と接着性を有するものである。また、該シリコーンインク組成物では顔料の分散安定化を実現し、インクジェット印刷技術に適用可能であるため、高品位な画質が得られるインクジェット印刷機で印刷、塗装することを可能とするものである。
【0011】
更に、熱硬化させることによりシリコーンゴム成形物表面に印字物を接着固定化でき、従来のスクリーン印刷によるものに比較して、高品位で美麗な印刷画質を有する付加価値の高いシリコーンゴム成形物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。
(A)成分は、本発明のシリコーンインク組成物のベースポリマーであり、分子内に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。このオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端あるいは分子鎖側鎖(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(特には、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサン)として、下記一般式(1)で示されるものが好ましく用いられる。
【化1】


(式中、R1は炭素数1〜8、好ましくは1〜6の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の一価炭化水素基、R2は炭素数2〜8、好ましくは2〜4のアルケニル基、R3はR1かR2であり、mはR3=R1のとき2〜50の整数、R3=R2のとき0〜50の整数であり、nは0〜1,000の整数である。)
【0013】
1の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基やシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基が挙げられ、好ましくはメチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、特に好ましくはメチル基である。R2の例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等のアルキル基やシクロアルケニル基が挙げられ、特に好ましくはビニル基である。
【0014】
mは、R3がR1である場合、2〜50、好ましくは2〜20、より好ましくは2〜10の整数であり、R3がR2である場合、0〜50、好ましくは0〜20、より好ましくは1〜10の整数である。nは、0〜1,000の整数、好ましくは20〜500の整数、より好ましくは20〜200の整数、特に好ましくは50〜100の整数である。
【0015】
(A)成分としては、下記式(2)〜(4)が例示される。
【化2】


(式中、m1は2〜50の整数、m2は1〜50の整数であり、nは0〜1,000の整数である。)
【0016】
(B)成分である分子内に2個以上のヒドロシリル基(SiH基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分の架橋剤である。この場合、その分子構造に特に制限はなく、例えば直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造等の各種のものが使用可能であるが、1分子中に2個以上、好ましくは3個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiHで表されるヒドロシリル基)を有する必要があり、通常2〜200個、より好ましくは3〜100個程度のSiH基を有することが望ましい。また、1分子中のケイ素原子数(又は重合度)が2〜300個、特に3〜150個程度のものが好適に使用される。
【0017】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば分子鎖両末端及び/又は分子鎖側鎖(分子鎖途中)にヒドロシリル基を有する下記一般式(5)で表される、分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖オルガノハイドロジェンシロキサン・ジオルガノシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン、分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖オルガノハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖オルガノハイドロジェンシロキサン・ジオルガノシロキサン共重合体、1,1,3,3−テトラオルガノジシロキサン等の直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(ここでオルガノ基は、好ましくは脂肪族不飽和基を有さない一価炭化水素基を意味する)などが好ましい。
【化3】


(式中、R4は炭素数1〜8の非置換又は置換の好ましくは脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基、R5は水素原子かR4である。pは0〜100の整数であり、qはR5が水素原子のとき0〜100の整数、R5=R4のとき2〜100の整数となる。)
【0018】
4の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基やシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基が挙げられ、好ましくはメチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、特に好ましくはメチル基である。pは0〜100、好ましくは0〜40の整数である。また、qは、R5が水素原子の場合、0〜100、好ましくは1〜40の整数であり、R5がR4の場合、2〜100、好ましくは3〜40の整数である。
【0019】
(B)成分としては、下記式(6)〜(8)が例示される。
【化4】


(式中、pは0〜100の整数、q1は2〜100の整数、q2は0〜100の整数である。)
【0020】
(B)成分の配合量は、(A)成分のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して(B)成分中のSiH基(即ち、ケイ素原子に結合した水素原子)が0.5〜10モル、特に1.5〜5モルとすることが好ましい。或いは(A)成分100質量部に対して0.1〜100質量部、特に0.1〜50質量部とすることができる。
【0021】
(C)成分である白金系触媒は、ヒドロシリル化反応における硬化触媒であり、従来公知の触媒を用いることができ、例えば、塩化白金酸のアルコール溶液が挙げられる。これは塩化白金(IV)酸六水和物をエタノールやIPA、n−ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール等に溶解したもので、金属白金濃度を0.1〜5質量%程度、好ましくは0.5〜2質量%に調整したものである。また、これらの塩化白金酸アルコール溶液を中和し、ジエン化合物を配位させ、適当な溶媒に置換した白金錯体化合物溶液も好適に用いられる。このジエンの例としては、1,3−ブタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,9−デカジエン、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、ビニルノルボルネン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,5−ジビニル−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン等が挙げられる。溶媒の例としては上記アルコール類の他に、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、アセトン、MEK、MIBK、酢酸エチル、酢酸ブチル等が、また、オルガノポリシロキサン(シリコーンオイル)類も挙げられる。
【0022】
(C)成分の配合量は触媒量であり、通常、(A)、(B)成分の合計量に対して白金金属として1〜1,000ppm、特に5〜200ppmである。
【0023】
(D)成分である反応制御剤は、本発明のシリコーンインク組成物の保存時におけるヒドロシリル化反応を抑制し、ポットライフを延長させる目的で添加するものであり、アセチレンアルコール系化合物や多官能不飽和基含有化合物が挙げられる。具体的には、アセチレンアルコール系化合物としては、エチニルシクロヘキサノール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−トリデシン−3−オール等が例示され、多官能不飽和基含有化合物としては、1,3,5−トリアリルイソシアヌレート、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。
【0024】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01〜5質量部であり、好ましくは0.1〜1質量部である。
【0025】
(E)成分である顔料は、本発明のシリコーンインク組成物に所望の着色を施すために配合するものであり、無機顔料や有機顔料の各種のものを用いることができる。無機顔料ならば例えばカーボンブラック、酸化チタン、赤ベンガラ、黒ベンガラ、チタンイエロー、コバルトブルー、群青等が挙げられ、有機顔料ならば例えば縮合アゾ系(黄色、茶色、赤色)、イソインドリノン系(黄色、橙色)、キナクリドン系(赤色、紫色)、ジケトピロロピロール系(橙色、赤色、紫色)、アンスラキノン系(黄色、赤色、青色)、ジオキサジン系(紫色)、ベンズイミダゾロン系(橙色)、銅フタロシアニン系(青色)、アリルアマイド系(黄色)等を挙げることができ、被着体の色調、彩度等を考慮して適宜選択される。
【0026】
(E)成分の配合量は、目的とする着色度、隠蔽度に応じて決定されるが、物性上から(A)成分100質量部に対して1〜100質量部とすることが好ましい。
【0027】
(F)成分である分散剤は、本発明のシリコーンインク組成物の顔料分散性を向上させ、インクジェットプリンターヘッドのノズルの目詰まりを防止するために配合するものであり、特にシリコーン変性樹脂を好適に用いることができる。具体的には、アミノ基含有シリコーンオイル、カルボキシル基含有シリコーンオイル、カルビノール基含有シリコーンオイル、(通常、炭素数8〜30、好ましくは10〜24程度の)長鎖アルキル基含有シリコーンオイル、片末端(メタ)アクリル基含有シリコーンオイルとラジカル重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。これらの例を下記式(9)〜(15)に示す。
【0028】
【化5】


(式中、R6及びR7は水素原子又は炭素数1〜12の同一又は異種の非置換又はヒドロキシもしくはハロゲン置換の一価炭化水素基である。aは0〜100、bは1〜10、cは1〜10、dは1〜10、eは0〜1,000、fは0〜1,000、gは0〜1,000、hは1〜1,000、iは0〜100の整数であり、e+f+g+hは10〜4,000の整数である。)
【0029】
6及びR7の例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基等が挙げられる。なお、a〜iの好適な範囲は、aは1〜50、bは1〜5、cは1〜5、dは1〜5、eは0〜10、fは50〜200、gは0〜10、hは1〜100、iは3〜20の整数であり、e+f+g+hは50〜500の整数である。
【0030】
(F)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜100質量部であり、好ましくは1〜50質量部である。
【0031】
(G)成分である溶剤としては、工業用として一般的に用いられているものが使用できるが、シリコーンゴム成形物表面等への印刷特性を考慮すると、ハジキ等が発生しにくい非極性溶剤が好適に用いられる。例えば、飽和炭化水素化合物又は低分子オルガノシロキサンが適しており、ヘキサン、ヘプタン、ミネラルスピリット、工業用ガソリン、(A)成分と(B)成分とのヒドロシリル化付加反応に関与しない無官能性の、直鎖状ポリオルガノシロキサン、環状ポリオルガノシロキサン等が挙げられ、特に好ましくは、ヘキサン、ヘプタン、直鎖状ジメチルポリシロキサン、環状ジメチルポリシロキサンである。また、上記の無官能性の直鎖状又は環状オルガノポリシロキサンは、印刷後に溶剤を揮発させる必要があることから低沸点(高揮発性)であることが好ましく、シリコーンゴム表面等の濡れ性(レベリング性)に最も優れる低分子オルガノシロキサンで、圧力666Pa(約5Torr)での沸点が100℃以下(例えば分子中のケイ素原子数(又は重合度)が3〜20、特に3〜10程度)のものが最適である。
【0032】
(G)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して10〜10,000質量部であり、好ましくは50〜2,000質量部、より好ましくは100〜1,000質量部である。
【0033】
本発明のシリコーンインク組成物は、従来公知のインクジェットプリンターで使用することができる。このようなインクジェットプリンターの例としては、ピエゾ型ドロップオンデマンド方式、バルブ型ドロップオンデマンド方式、サーマル方式、帯電制御連続方式等が挙げられる。
【0034】
この場合、インクジェット印刷後、印刷して画像形成されたインク組成物を加熱硬化することができる。加熱硬化条件は適宜選定されるが、通常80〜200℃、特に100〜150℃で加熱硬化することができる。
【0035】
本発明のインク組成物がインクジェット印刷される記録媒体は特に限定されず、例えば、紙、ポリエチレンテレフタレートや塩化ビニル等の樹脂フィルム、ポリカーボネートやポリアミド等の樹脂成形物、鉄やアルミニウム等の金属成形物、ミラブルタイプや液状のシリコーンゴム成形物等を挙げることができるが、シリコーンゴム成形物が特に有効である。
【0036】
本発明のシリコーンインク組成物が表面に印刷、熱硬化されるシリコーンゴム成形物の基材となるシリコーンゴム組成物の種類や加硫方法、成形方法は特に限定されない。いわゆるミラブルタイプのシリコーンゴム組成物でもよいし、液状シリコーンゴム組成物であってもよく、有機過酸化物加硫、ヒドロシリル化架橋、シラノール縮合架橋、コンプレッション成形、トランスファー成形、インジェクション成形等により製造されたどのようなシリコーンゴム成形物に対しても適用可能である。
【0037】
本発明のシリコーンインク組成物を表面に印刷、熱硬化させたシリコーンゴム成形物は、文字や絵柄が印刷されたラバースイッチのキー部分等に応用可能であり、テレビやビデオ、エアコン等のリモコンや携帯電話のキーパッド、車載部品用スイッチ等が例示される。従来のスクリーン印刷の画質に比べ、インクジェット印刷によるため高品位な画質の印刷面を持つシリコーンゴム成形物が得られる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0039】
〈実施例1〜7及び比較例1〜3〉
表1に示した各成分の配合量に従い、実施例1〜7及び比較例1〜3のシリコーンインク組成物を調製した。なお、上記シリコーンインク組成物の調製に用いた各成分は以下の通りである。
A−1 式(2)タイプ:n=約200
A−2 式(3)タイプ:n=約200、m1=約3
B−1 式(7)タイプ:p=0、q1=約40
B−2 式(8)タイプ:p=約20、q2=約20
C 塩化白金酸/n−ブタノール溶液(白金濃度=2質量%)
D エチニルシクロヘキサノール
E−1 銅−フタロシアニン系青色顔料
E−2 キナクリドン系赤色顔料
E−3 ニトロフェニルアゾ−アミド系黄色顔料
E−4 二酸化チタン(白色顔料)
E−5 カーボン(黒色顔料)
F−1 式(15)タイプ
F−2 式(13)タイプ
F−3 式(12)タイプ
G−1 環状ジメチルポリシロキサン(重合度=5)
G−2 鎖状ジメチルポリシロキサン(重合度=5)
G−3 n−ヘプタン
【0040】
シリコーンインク組成物の調製は以下の方法により行った。
まず、表1に示した配合量に従い、(C)白金系触媒と(D)反応制御剤以外の各成分を容器に計量し、撹拌してプレミックスを得た。このプレミックスを、0.3mmのジルコニアビーズを充填(85%)したビーズミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製ダイノーミル)に連続式に循環して分散(周速=10m/秒、240分)させ、各インク主剤を得た。
【0041】
次いで、得られた各インク主剤に、表1に示した量の(C)白金系触媒と(D)反応制御剤を添加し、フィルター精度5μmのプロファイルスター(ポール社製)で濾過してインクジェット印刷用熱硬化シリコーンインク組成物とした。ただし、比較例1はフィルター目詰まりを起こしたので、フィルター精度20μmで濾過した。
【0042】
《評価方法》
上記で得られた各シリコーンインク組成物の顔料分散性を遠心分離及び平均粒径測定により評価した。
【0043】
<遠心分離>
試験管に各シリコーンインク組成物を採取し、遠心分離機で4,500rpm×5分の条件で遠心分離した。顔料の沈降を下記の基準で評価した。結果は表2に示した。
−:液層上部に透明層が生じず、顔料が沈降しなかった。
+:顔料が沈降して液層上部に透明層が生じた。
【0044】
<平均粒径測定>
各シリコーンインク組成物の溶剤(G)を循環させたマイクロトラックMT3000(日機装(株)製)により、分散顔料の体積基準での累積平均径を測定し、結果を表2に示した。
【0045】
次に、各シリコーンインク組成物のインクジェット印刷特性を評価するため、インクジェットプリンター(紀州技研工業(株)製PCコーダーJET−HQ500)にインクを充填し、ミラブル型シリコーンゴムKE−951−U(信越化学工業(株)製)の厚さ2mm硬化シート表面にパターン印字し、プリンターヘッド及び印字状態を観察した。
【0046】
<プリンターヘッド>
インクジェットプリンターヘッドのノズル目詰まりを観察し、下記の基準で評価した。結果は表2に示した。
−:ノズルが目詰まりせず、完全なパターンが印字できた。
+:ノズルが目詰まりし、印字の一部又は全部が欠落した。
【0047】
<印字状態>
シリコーンゴムシート上にインク滴が着弾した後の状態を観察し、下記の基準で評価した。結果は表2に示した。
−:適度なレベリングによりハジキやニジミがなかった。
+:ハジキやニジミが発生した。
【0048】
更に、上記で得られたシリコーンゴムシート上の印字パターンを室温で30分風乾して溶剤を揮発させ、次に150℃のオーブンに10分間投入してシリコーンインク組成物を硬化させ、その硬化性及び接着性から印字特性を評価した。結果は表2に示した。
【0049】
<硬化性>
印字パターンを指触した後、表面の状態を観察し、下記の基準で評価した。結果は表2に示した。
○:表面タックなく硬化した。
△:硬化したが、表面タックが残った(アンダーキュア)。
×:硬化しなかった。
【0050】
<接着性>
印字パターンを爪で擦った後、表面の状態を観察し、下記の基準で評価した。結果は表2に示した。
○:シリコーンゴム表面から剥れなかった。
×:シリコーンゴム表面から容易に剥れた。
−:硬化しなかった。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)分子内に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)白金系触媒、
(D)反応制御剤、
(E)顔料、
(F)分散剤、及び
(G)溶剤
を含有することを特徴とするインクジェット用シリコーンインク組成物。
【請求項2】
前記(E)成分の顔料が、無機顔料及び有機顔料から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット用シリコーンインク組成物。
【請求項3】
前記(F)成分の分散剤が、シリコーン変性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット用シリコーンインク組成物。
【請求項4】
前記(F)成分であるシリコーン変性樹脂が、アミノ基含有シリコーンオイル、カルボキシル基含有シリコーンオイル、カルビノール基含有シリコーンオイル、アルキル基含有シリコーンオイル、及び片末端(メタ)アクリル基含有シリコーンオイルとラジカル重合性モノマーとの共重合体から選ばれる少なくとも1種である請求項3記載のインクジェット用シリコーンインク組成物。
【請求項5】
前記(G)成分の溶剤が、圧力666Paでの沸点が100℃以下の低分子オルガノシロキサンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のインクジェット用シリコーンインク組成物。
【請求項6】
シリコーンゴム硬化物表面への印字用であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のインクジェット用シリコーンインク組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載のインクジェット用シリコーンインク組成物を用いてインクジェット方式により記録媒体上に画像を形成した後、該シリコーンインク組成物の画像を架橋することを特徴とする画像形成方法。
【請求項8】
記録媒体がシリコーンゴム硬化物である請求項7記載の画像形成方法。

【公開番号】特開2007−326994(P2007−326994A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160791(P2006−160791)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】