説明

インクジェット用熱収縮性基材

【課題】インクジェット用台紙つき熱収縮性基材において発生する保存輸送中の反りを膜厚のうすい基材の剛性を確保しつつ防止する。
【解決手段】保存または輸送中に予想される温度より高く主収縮温度より低い範囲で予め熱収縮基材を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータ付熱収縮性インクジェット記録媒体において、保存中の熱履歴により発生するフィルムの反りを改善した記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ペットボトル、プラスチックケース等の各種成形物の包装用として、加熱により収縮する性質を利用した熱収縮性フィルムが広く用いられている。
【0003】
当該熱収縮性フィルムは、熱収縮性基材で筒状体を作り、ペットボトル、プラスチックケース等の成形物に被せたり、または接着ラベルとして成形物に貼着し、当該成形物に熱をかけて熱収縮性基材を収縮させ(主収縮)、成形物に密着させるものである。
【0004】
当該熱収縮性フィルムは、単に成形物を包装する目的だけでなく、成形物の保護や、画像印刷が可能といった、特定の機能で装飾することが一般的に行われている。
【0005】
このような熱収縮性フィルムとして、例えば、熱収縮性基材の片面若しくは両面に、オフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷等により画像処理を施したものが提案されている。
【0006】
このような熱収縮性フィルムとして、例えば、熱収縮性基材の片面若しくは両面に、オフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷等により画像処理を施したものが提案されている。
また、少量多品種の生産が可能なインクジェット記録媒体方式により画像処理を施すことが可能な熱収縮性インクジェット記録媒体が提案されている(特許文献1)。このようなインクジェット記録媒体は、確かに少量多品種の生産に適するものである。
【0007】
しかし熱収縮フィルムは、その用途からできる限り厚さの薄いものが要求される傾向にあり、この要求は熱収縮性インクジェット記録媒体にも同様に当てはまり、熱収縮性インクジェット記録媒体の基材の厚みは通常60μm以下である。このように薄い場合には記録媒体の剛性が足りず、プリンター内での搬送の際にジャムを生じたり、しゃくったりする搬送性の問題が生じる。これを解決する一つの方法は熱収縮性インクジェット記録媒体の裏に台紙を貼り付けることである。
【0008】
台紙を貼り付ける方法は搬送性の改良には有効であるが、保存輸送中に大きなカールを生じるという新たな予想外の問題が生じることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−224988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の台紙付熱収縮性インクジェット記録媒体において保存輸送中に発生する記録媒体の反りという問題点を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、下記の本発明により解決することができる。
(発明1)
主収縮開始温度より低い温度であらかじめ収縮させた熱収縮基材を台紙に貼り付けたインクジェット用熱収縮性基材。
(発明2)
発明1に記載のインクジェット用熱収縮性基材の台紙貼り付け面とは反対側の面にインク受容層を設けた熱収縮性インクジェット記録媒体。
(発明3)
所定の主収縮開始温度を有する熱収縮基材の片面にインク受容層を形成する工程、前記熱収縮基材を主収縮温度よりも低い温度に曝し予備収縮させる工程、前記熱収縮基材のインク受容層を設けた面とは反対側の面に台紙を貼り付ける工程を有する熱収縮性インクジェット記録媒体の製造方法。
(発明4)
所定の主収縮開始温度を有する熱収縮基材を主収縮温度よりも低い温度に曝し予備収縮させる工程、前記熱収縮基材の片面にインク受容層を形成する工程、前記熱収縮基材のインク受容層を設けた面とは反対側の面に台紙を貼り付ける工程を有する熱収縮性インクジェット記録媒体の製造方法。
(発明5)
上記の台紙は、熱収縮基材よりも熱収縮率が低い基材よりなる。
【発明の効果】
【0012】
膜厚の非常に薄い基材の剛性不足により発生する問題を台紙に貼り付けて防ぎつつ、保管輸送中の保管温度上昇等に起因して発生するカールの発生を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、上記熱収縮基材を主収縮開始温度より低い温度であらかじめ収縮させたものを使用する。通常は主収縮させるための温度は55℃以上である。
予め加熱する温度は、主収縮させるための加熱時までに対象である熱収縮性基材が遭遇する温度を予想してその最高温度で予備加熱する。例えば、通常の常温保存が予想される場合では40℃で予め加熱しておけばその温度までは基材のサイズがさらに縮むことがなく熱収縮しないような台紙に貼り付けても保存中に反りが生じることはない。
【0014】
本発明に用いられる熱収縮性基材とは、加熱により収縮する性能を有するものをいい、例えばポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂その他の樹脂からなるプラスチックフィルムを少なくとも一軸方向に延伸してなるものが挙げられる。二軸方向に延伸したものでもよい。
【0015】
熱収縮性基材の厚みとしては特に制限はないが、10〜300μm程度が好適であり、10〜60μmが熱収縮基材の目的にはより好ましい。
【0016】
熱収縮性基材の加熱収縮率は、熱収縮性基材を80℃の熱風中で10秒間収縮させたときに5〜80%程度であることが好ましく、30〜80%程度であることがより好ましい。
【0017】
本発明では、記録媒体の記録面と反対の側を台紙に貼り付ける。
台紙としては、紙や透明プラスチック、例えばポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、PET樹脂その他の樹脂からなるプラスチックフィルムを選択することができる。台紙の加熱収縮率は、台紙を80℃の熱風中で10秒間収縮させたときに5%未満であることが好ましく、特に実質的に熱収縮特性を持たないことが望ましい。
【0018】
本発明におけるインク受容層は、例えば、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジウムハライド、メラミン樹脂、ポリウレタン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアクリル酸ナトリウム等の親水性合成高分子やゼラチン、でんぷん、セルロース誘導体セルロース、カゼイン、キチン、キトサン等の親水性天然高分子、ポリエチレンオキサイドやその共重合体等の高吸収性樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂等から形成されたものが使用できる。
【0019】
なかでも、インク吸収性、耐水性、透明性のよいインク受容層を作成することで知られているウレタンやアクリルなどの分散樹脂の使用が好ましく、またウレタンまたはアクリルなどの分散樹脂をカルボジイミドで架橋させたものも更に好ましく使用できる。特に、樹脂としてウレタン樹脂が広く使われている。
【0020】
このようなインク受容層としては、例えば下記構成のものが知られている。
シラノール基を有するポリウレタン樹脂をポリイソシアネート、ポリエチレンイミン及びカルボジイミド樹脂から選ばれた架橋剤で架橋された樹脂を含む特開2003−166183に開示されているようなインク受容層
具体的にはこの公報の実施例5にあるポリウレタン樹脂エマルジョン(武田薬品工業(株)製タケラックXW−75−X35(固形分30重量%))75重量%とカルボジイミド樹脂(日清紡績(株)製カルボジライトV−02)15重量%などからなるインク受容層、
アクリル重合物とカルボジイミド基を有する化合物を含有する特開2004−345110に記載のインク受理層、
特開2009−125958に記載のポリエステル系ウレタンラテックス及びアクリルシリコーン系ラテックスなどの分散樹脂とカルボジイミドを含有するインク受理層。
また、特開2005−74880に記載の水性ウレタン樹脂および水性アクリル樹脂の2種と架橋剤を含むインク受容層も使用できる。
さらに、加水分解性シリル基を架橋成分として有しているカチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂のような分散樹脂とカチオン性ウレタン系樹脂との併用系のように分散樹脂とウレタン樹脂とを架橋したような特開2006−88341に記載のものも好ましい。
【0021】
ウレタン樹脂は、ポリエステル系、ポリエーテル系等が例示できる。カチオン性ポリエーテル系ウレタン樹脂が好ましい。
カチオン性ウレタン系樹脂は、ポリエステル系、ポリエーテル系等が例示できるが、カチオン性ポリエーテル系ウレタン樹脂が好ましい。
アクリル樹脂は、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの重合体または共重合体等のアクリル系重合体樹脂、または、エチレン−酢酸ビニル、エチレン−アクリル−酢酸ビニル、エチレン−塩化ビニル−酢酸ビニル等のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル・スチレン共重合体樹脂等が例示できる。カチオン性アクリル・スチレン共重合体樹脂が好ましい。
インク受容層固形分中のカチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂とカチオン性ウレタン系樹脂の重量%は、カチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂が5〜25%で、カチオン性ウレタン系樹脂が75〜95%のものが好ましい。
さらには、カチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂が10〜20%で、カチオン性ウレタン系樹脂が80〜90%のものが好ましい。
【0022】
架橋剤として、ポリイソシアネート、ポリエチレンイミン及びカルボジイミド樹脂から選ばれるものが用いられる。
カルボジイミド樹脂は、ジイソシアネート類又はジイソシアネート類とトリイソシアネート類とを脱二酸化炭素縮合して得られる縮合反応物の末端イソシアネート基を親水性基で封止してなる水溶性又は水分散性カルボジイミド化合物である。
ジイソシアネート類及びトリイソシアネート類としては、脂環族イソシアネート、脂肪族イソシアネート、及び芳香族イソシアネートのいずれでもよく、分子中にイソシアネート基を少なくとも2個以上、特に2個有するものが好適である。このようなイソシアネートとしては、分子中にメチレン基の炭素原子に結合したイソシアネート基を有しないイソシアネート化合物では4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,4,6−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート(TIDI)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、水添トリレンジイソシアネート(HTDI)などが、また分子中にメチレン基の炭素原子に結合したイソシアネート基を2個以上有する脂環族、脂肪族、芳香族イソシアネートではヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,12−ジイソシアネートドデカン(DDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、及び2,4−ビス−(8−イソシアネートオクチル)−1,3−ジオクチルシクロブタン(OCDI)などが挙げられる。
末端イソシアネート基を封止する化合物は、イソシアネート基と反応し得る基を有する水溶性又は水分散性有機化合物であって、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の二官能性の水分散性有機化合物のモノアルキルエステル又はモノアルキルエーテル、あるいはカチオン系の官能基(例えば窒素を含む基)、又はアニオン系の官能基(例えばスルホニル基を含む基)を持つ一官能の有機化合物などが挙げられ、特に、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが好適である。
【実施例】
【0023】
実施例1
インクジェット用熱収縮性基材の作成
基材として厚み50μmの熱収縮性PETフィルム(東洋紡績スペースクリーン)を40℃に加熱して予備加熱熱収縮基材を作成した。
この予備加熱熱収縮基材の片面に基材として厚み100μmの熱収縮特性をもたないPET(東洋紡績コスモシャインA4100)を台紙として貼り付けて、台紙つき予備加熱済み熱収縮性基材を作成した。この台紙つき熱収縮性基材を40℃で一月保管した。
この保管したものについてカール量を測定した。カール量はA3に切ったものの各隅の平坦面からの高さの平均値をとった。
台紙つき予備加熱済み熱収縮性基材は保管中も反りやカールがほとんどないのでなんらのカール補正などの操作なしで次のインク受容層塗布作業をすることができる。台紙つき熱収縮性基材の台紙がある面とは反対の面に下記組成のインク受容層形成組成物を含有するイオン交換水を乾燥膜厚20μmになるように塗布して熱収縮性インクジェット記録媒体を作成した。
<インク受容層形成組成物>
ポリエーテル系ウレタン樹脂
(第一工業製薬株式会社 スーパーフレックス600 固形分25%) 72質量部
アクリル・スチレン共重合樹脂
(中央理化工業株式会社 リカボンド FK -820 固形分39%) 24質量部
オキサゾリン基を有する水溶性ポリマー(固形分40%) 0.5質量部
アクリル系の水溶性自己乳化型エポキシ硬化剤として、メタクリル酸・アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル・スチレン共重合物とポリエチレンイミンのグラフト化物の塩化水素中和物(固形分49%) 3.5質量部
作成した熱収縮性インクジェット記録媒体についても前記の方法でカール量を測定した(表1)。
【0024】
実施例2
インクジェット用熱収縮性基材の作成
基材として厚み50μmの熱収縮性PETフィルム(東洋紡績スペースクリーン)の片面に実施例1で用いたインク受容層形成組成物を含有するイオン交換水を乾燥膜厚20μになるように塗布し、このインク受容層を有する熱収縮基材を40℃に24時間加熱した。この予備加熱収縮基材の片面に基材として厚み100μmの熱収縮特性をもたないPET(東洋紡績コスモシャインA4100)を台紙として貼り付けて、台紙つき予備加熱済み熱収縮性基材を作成した。
この作成した台紙付き熱収縮基材を40℃で一月保管した(表2)。これについて保管後のカール量を測定した。測定方法は実施例1と同じである。
【0025】
比較例1
基材として実施例1で用いた熱収縮性PETフィルムの片面に、加熱処理しないで厚み100μmの熱収縮特性をもたないPET(東洋紡績コスモシャインA4100)を台紙として貼り付けて予備加熱なし台紙つき熱収縮性基材を作成した。
これを二つに分け、一つはそのまま40℃の雰囲気の中で一月保管したものを比較例1とした。これについて保管後のカール量を測定した。測定方法は実施例1と同じである(表1)。
【0026】
比較例2
他の一つは、直ちに台紙がある面とは反対の面に前記組成のインク受容層形成組成物の水溶液を乾燥膜厚20μになるように塗布して熱収縮性インクジェット記録媒体を作成した。これを比較例2とする。これについても40℃に一月おいた後のカール量を測定した。測定方法は実施例1と同じである(表1)。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
実施例1のように予備加熱した熱収縮性フィルムを基材とした台紙つき熱収縮性基材は基材として40℃で長期間保管後でもカール量が小さくその後の製造工程に影響を与えない。またそれにインク受容層を設けたインクジェット記録媒体として40℃で一月保管しても発生するカール量は非常に小さいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主収縮開始温度より低い温度であらかじめ収縮させた熱収縮基材を台紙に貼り付けたインクジェット用熱収縮性基材。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット用熱収縮性基材の台紙貼り付け面とは反対側の面にインク受容層を設けた熱収縮性インクジェット記録媒体。
【請求項3】
所定の主収縮開始温度を有する熱収縮基材の片面にインク受容層を形成する工程、前記熱収縮基材を主収縮温度よりも低い温度に曝し予備収縮させる工程、前記熱収縮基材のインク受容層を設けた面とは反対側の面に台紙を貼り付ける工程を有することを特徴とする熱収縮性インクジェット記録媒体の製造方法。
【請求項4】
所定の主収縮開始温度を有する熱収縮基材を主収縮温度よりも低い温度に曝し予備収縮させる工程、前記熱収縮基材の片面にインク受容層を形成する工程、前記熱収縮基材のインク受容層を設けた面とは反対側の面に台紙を貼り付ける工程を有することを特徴とする熱収縮性インクジェット記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記台紙は、前記熱収縮基材よりも熱収縮率が低い基材よりなることを特徴とする請求項3ないし4のいずれかに記載の熱収縮性インクジェット記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2012−196879(P2012−196879A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62525(P2011−62525)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】