説明

インクジェット用金属インク組成物

【課題】PCB基板上でクラックの発生がなく、低温焼成が可能であり、特にメッキ後にも接着強度が改善されたインクジェット用金属インク組成物を提供する。
【解決手段】本発明によるインクジェット用金属インク組成物は、金属ナノ粒子20〜85重量部と、非水系有機溶媒10〜70重量部と、不飽和ポリエステル系ポリマー、ブタジエン系モノマー、及びブタジエン系ポリマーから選択される少なくとも1種の添加剤1〜10重量部と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用金属インク組成物に関するもので、より詳細には、PCB基板の上でクラックの発生がなく、低温焼成が可能であり、特にメッキ後にも接着強度が改善された金属インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットによる非接触式直接印刷は、正確な位置に定量のインクを吐出することができるので、材料費を節減できるだけでなく、製造時間を短縮することができるという長所がある。PCB基板の金属配線形成時にインクジェット方法を適用するために最近金属インクに対する関心が高まり、金属インクに対する研究が活発に進行されている。
【0003】
市販の金属インクは溶剤の種類に応じて大きく、水系金属インク、油系金属インク、及びソルベント系インクに分ける。金属インクにおいて溶剤の選択は、金属ナノ粒子を合成する時に使用されたコーティング物質により決定され、各インクは互いに異なる長短所を持っている。油系金属インクは水系金属インクに比してナノ粒子の大きさが小さく、高濃度の製造が容易であり、ヘッドからの連続的な吐出が可能であるという長所がある。しかし、印刷されたイメージの配線にクラックがひどくて線幅が均一ではないため、表面処理が必要になり、焼成時の温度を250℃以上としなくてはならないという短所がある。
【0004】
特に、PCB基板としての使用のためにポリイミド上に印刷される金属ナノインクは、メッキ工程後にも配線の接着強度が維持されて印刷配線として使用可能でなければならない。親油性ナノインクは、インク配線後にメッキ液の浸透により接着力が低下し配線が離脱(delamination)して使用不可能となり、さらに配線の機械的特性が劣るという短所がある。また、高濃度のナノ金属インクにおいて、最も重要な問題は配線としての特性を得なくてはならないが、基板に対する配線の接着力、低い焼成条件、クラック発生防止は金属インクの組成を決定するのに、解決しなくてはならない重要な要素であり、これらの要素を満足できる金属インク組成を確立することは非常に難しい課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためのものであって、本発明の目的は、クラックの発生がなく、低温にて硬化がよく行われ、接着強度が改善され、機械的強度の高いインクジェット用金属インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施例によるインクジェット用金属インク組成物は、PCB基板上でクラックの発生がなく、低温焼成が可能であり、特にメッキ後にも接着強度の改善された回路パターンを形成することができる。
【0007】
本発明の一実施例によれば、金属ナノ粒子20〜85重量部と、非水系有機溶媒10〜70重量部と、不飽和ポリエステル系ポリマー、ブタジエン系モノマー、及びブタジエン系ポリマーから選択される少なくとも1種の添加剤1〜10重量部と、を含むインクジェット用金属インク組成物が提供される。
【0008】
本発明の一実施例によれば、上記金属ナノ粒子は、金、銀、ニッケル、インジウム、亜鉛、チタン、銅、クロム、タンタル、タングステン、白金、鉄、コバルト、及びこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする金属インク組成物が提供される。
【0009】
本発明の一実施例によれば、上記金属ナノ粒子は、粒子表面が脂肪酸及び脂肪アミンから選択される少なくとも1種の分散剤でキャッピングされることを特徴とする金属インク組成物が提供される。
【0010】
本発明の一実施例によれば、上記金属ナノ粒子は、200nm以下、より好ましくは50nm以下の大きさであることを特徴とする金属インク組成物が提供される。
【0011】
本発明の一実施例によれば、上記非水系有機溶媒は、ヘキサン、ドデカン、デカン、ウンデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、ヘキシルアミン、ビス−2−エチルヘキシルアミン、オクタノール、デカリン、及びテトラリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする金属インク組成物が提供される。
【0012】
本発明の一実施例によれば、上記ブタジエン系ポリマーまたはモノマーは、ポリブタジエンオイル(Polybutadiene oil)及びブタジエンモノマーから選択された少なくとも1種であることを特徴とする金属インク組成物が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の好ましい実施例によれば、クラックの発生がなく、低温にて硬化がよく行われ、接着強度が改善され、機械的強度の高いインクジェット用金属インク組成物を提供することができる。
【0014】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】テープテスト方法により金属インク組成物で印刷された配線の接着強度を測定する方法を示す図である。
【図2】本発明の実施例4による金属インク組成物で印刷された配線の接着強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は多様な変換を加えることができ、様々な実施例を有することができるため、本願では特定実施例を図面に例示し、詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の実施形態に限定するものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれるあらゆる変換、均等物及び代替物を含むものとして理解されるべきである。本発明を説明するに当たって、係る公知技術に対する具体的な説明が本発明の要旨をかえって不明にすると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0017】
本願で用いた用語は、ただ特定の実施例を説明するために用いたものであって、本発明を限定するものではない。単数の表現は、文の中で明らかに表現しない限り、複数の表現を含む。本願において、「含む」または「有する」などの用語は明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品、またはこれらを組合せたものの存在を指定するものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品、またはこれらを組合せたものの存在または付加可能性を予め排除するものではないと理解しなくてはならない。
【0018】
次に、比較例及び実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0019】
本発明の金属インク組成物における金属ナノ粒子を形成する金属の種類は、特に制限されないが、導電性金属として金、銀、ニッケル、インジウム、亜鉛、チタン、銅、クロム、タンタル、タングステン、白金、鉄、コバルト、及びこれらの合金のうちの少なくとも1種を選択して用いることができる。上記金属粒子の大きさが小さいほど、インクジェットノズルからのインク吐出が容易である。インクジェット用インクとしては200nm以下の粒子が使用可能であり、インクジェット吐出時の液滴(drop)形成には50nm以下の粒子が好ましい。
【0020】
本発明によるインクジェット用金属インク組成物は、金属ナノ粒子20〜85重量部と、非水系有機溶媒10〜70重量部と、及び不飽和ポリエステル系またはブタジエン系ポリマーまたはモノマーから選択される少なくとも1つの添加剤1〜10重量部とを含む。金属粒子としては、分散剤である脂肪酸または脂肪アミンでキャッピングされた金属ナノ粒子を用いてもよく、2種の分散剤、すなわち脂肪酸と脂肪アミンとで同時にキャッピングされた金属ナノ粒子を用いてもよい。上記添加剤は、非水系溶剤との混用性及び相溶性に非常に優れた添加剤であって、脂肪酸または脂肪アミンのような脂溶性分散剤でキャッピングされたナノ粒子に適用することができる。水系キャッピング保護剤であるPVP、ポリ酸などの分散剤で保護された場合には適用することができない。
【0021】
金属インク組成物において、上記金属ナノ粒子の含量は20〜85重量部であることが好ましい。含量が20重量部未満であると金属含量が足りなくて配線としての活用が多様ではなく用途が制限され、含量が85重量部を超過すると、粘度が非常に高くてインクの吐出性が悪くなるので金属インクとして好ましくない。より好ましくは、高濃度の金属含量を維持しながらインクの流れ性を容易にする50〜70重量部である。
【0022】
本発明の金属インク組成物に用いられる有機溶媒は非水系溶媒で、ヘキサン、オクタン、デカン、ウンデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、ヘキシルアミン、ビス−2−エチルヘキシルアミンなどから少なくとも1種を用いることができる。すなわち、これら溶媒のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
金属インクの溶媒は基板に吐出されたインク配線の乾燥速度に重要な影響を及ぼすため、溶媒の沸点(BP)と露点(FP)の差を用いてインクジェットに適する乾燥特性を有するように配合することができる。例えば、インクの乾燥特性を調節するに当たって、1−オクタデカンのような沸点の高い溶媒は乾燥速度が遅く、ビス−2−エチルヘキシルアミン、テトラリン(Tetraline)、デカリン(Decalin)、ドデカン(Dodecane)、オクタノール(Octanol)などのような沸点の低い溶媒は乾燥速度が速いことを利用することができる。
【0024】
本発明の実施例において、上記非水系有機溶媒の含量は10〜70重量部であることが好ましく、金属濃度を高濃度にするためには有機溶媒を最小限に使用することがさらに好ましい。有機溶媒の含量が10重量部未満であるとインクジェットヘッドの乾燥速度が速くなってノズル詰まりが生じるため、粒子の分散安定性を確保できなくなり、含量が70重量部を超過すると、金属の含量が相対的に少なくなるため、信頼性のある金属配線を形成するのに適していない。より好ましくは、非水系有機溶媒の上記範囲中、20〜40重量部である。
【0025】
本発明の金属インク組成物に使用できる不飽和ポリエステルポリマーとしては、FA156(愛敬化学株式会社製)、プロピレングリコール(Propylene Glycol Industrial Grade、PGI、Dow社製)、ダイナポール(Dynapol、Evonik Degussa DYNAPOL(登録商標) LH 828 Polyester Resin)、SOLPLUS(登録商標) TX5(Lubrizol社製)などがある。
【実施例】
【0026】
<比較例及び実施例>
比較例1〜3及び実施例1〜5を下記の方法で同様に実施し、その結果を表1に示す。その方法は次の通りである。
【0027】
金属ナノパウダー、溶剤、及び添加物(比較例では使用されない)を含む金属インク組成物を製造した後に、メッキ工程を行うためにインクジェット印刷装備を用いて0.5cm×10cm(700dpi)で配線を印刷した。印刷された配線に対して電気伝導度、接着強度、及び鉛筆硬度を測定した(表1)。まず、配線の接着強度を測定するために標準テープテストを行った。接着強度を3Mテープとクロスカットテスタ(Cross cut tester)のBYK gardenerを用いて測定し、図1にその方法が示されている。テストした3Mテープの接着強度は0.65kN/mで、配線の接着強度はASTM D3359(Measuring Adhesion by Tape Test)規格から判断した。ASTM D3359の評価基準は次の通りである。
−5B:格子及び切開された線に何らの異常がない
−4B:小さな塗膜片が格子または線より5%以下で落ちる
−3B:小さな塗膜片が格子または縁より5〜15%落ちる
−2B:塗膜片が格子や縁より15〜35%落ちる
−1B:大きい帯や四角全体が35〜65%落ちる
−0B:1Bよりもっと悪い状態
【0028】
上記印刷された配線の機械的な特性は鉛筆硬度計(pencil hardness tester)を用いて測定した。インクジェット印刷装備を用いて0.5cm×10cm、700dpiで印刷配線を印刷し、その後250℃の温度で1時間焼成した後、印刷された配線の硬度を鉛筆硬度計で測定した。配線に対する電気伝導度はスペクトラSe−128Headを用いて線幅0.5cm×10cm、700dpiで印刷配線のライン(line)を形成した後、3Dプロファイラー(3D profiler)を用いて厚さを測定して配線の比抵抗(μΩ・cm)を測定した。
【0029】
[比較例1]
銀(Ag)ナノ粒子60wt%に溶剤としてデカリン40wt%を用いて添加剤なしでインク組成物を製造した。上記方法で測定して表1のような結果が得られた。測定された接着強度(0B)及び鉛筆硬度(1H)は非常に低かった。
【0030】
[比較例2]
銅(Cu)ナノ粒子30wt%に溶剤としてテトラデカン70wt%を用いて添加剤なしでインク組成物を製造した。上記方法で測定して表1のような結果が得られた。測定された接着強度(0B)及び鉛筆硬度(2H)は非常に低かった。
【0031】
[比較例3]
金(Au)ナノ粒子50wt%に溶剤としてテトラデカン50wt%を用いて添加剤なしでインク組成物を製造した。上記方法で測定して表1のような結果が得られた。 測定された接着強度(0B)及び鉛筆硬度(3H)は非常に低かった。
【0032】
[実施例1]
銀(Ag)ナノ粒子60wt%に溶剤としてデカリン38重量%を用い、添加剤としてダイナポール(Dynapol、Evonik Degussa DYNAPOL(登録商標) LH 828 Polyester Resin)2wt%を用いて製造したインク組成物を上記方法で測定して表1のような結果が得られた。測定された接着強度が4B、鉛筆硬度が7Hであって、比較例より非常に高かった。
【0033】
[実施例2]
銅(Cu)ナノ粒子30wt%に溶剤としてオクタノール68wt%を用い、添加剤としてFA156(愛敬化学株式会社製)2wt%を用いて製造したインク組成物を上記方法で測定して表1のような結果が得られた。測定された接着強度が3B、鉛筆硬度が7Hであって、比較例より非常に高かった。
【0034】
[実施例3]
金(Au)ナノ粒子50wt%に溶剤としてテトラデカン(Tetradecane)48wt%を用い、添加剤としてポリイソブテンオイル(Poly isobutene oil、BASF)2wt%を用いて製造したインク組成物を上記方法で測定して表1のような結果が得られた。測定された接着強度が3B、鉛筆硬度が6Hであって、比較例より非常に高かった。
【0035】
[実施例4]
銅(Cu)ナノ粒子40wt%に溶剤としてテトラリン67wt%を用い、添加剤としてはダイナポール(Dynapol、Evonik Degussa DYNAPOL(登録商標) LH 828 Polyester Resin)3wt%を用いて製造したインク組成物を上記方法で測定して表1のような結果が得られた。測定された接着強度が5B、鉛筆硬度が8Hであって、比較例より非常に高かった。
【0036】
[実施例5]
銀(Ag)ナノ粒子40wt%に溶剤としてテトラリン58wt%を用い、添加剤としてダイナポール(Dynapol、Evonik Degussa DYNAPOL(登録商標) LH 828 Polyester Resin)1wt%及びポリイソブテンオイル1wt%を用いて製造したインク組成物を上記方法で測定して表1のような結果が得られた。測定された接着強度が5B、鉛筆硬度が8Hであって、比較例より非常に高かった。
【表1】

【0037】
上記比較例1から3及び実施例1から5の結果のように、ダイナポール、FA156、及びポリイソブタジエンオイルのような添加物を用いて親油性の金属インク組成物を低温焼成で製造した場合、クラックの発生が全くなく、配線の接着強度及び鉛筆硬度が大きく改善されることが分かり(図2参照)、電気伝導度も7〜30μΩ・cmと良好な水準で測定された。したがって、本発明による金属インク組成物を用いた配線が、上記従来技術の問題点を克服して優れた物理的特性をもってPCBに適用できることが分かる。
【0038】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、様々な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子20〜85重量部と、
非水系有機溶媒10〜70重量部と、
不飽和ポリエステル系ポリマー、ブタジエン系モノマー、及びブタジエン系ポリマーから選択される少なくとも1種の添加剤1〜10重量部と、
を含むことを特徴とするインクジェット用金属インク組成物。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子が、金、銀、ニッケル、インジウム、亜鉛、チタン、銅、クロム、タンタル、タングステン、白金、鉄、コバルト、及びこれらの合金からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用金属インク組成物。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子が、粒子表面が脂肪酸及び脂肪アミンから選択される少なくとも一つの分散剤でキャッピングされることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット用金属インク組成物。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子が、200nm以下の大きさであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のインクジェット用金属インク組成物。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子が、50nm以下の大きさであることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のインクジェット用金属インク組成物。
【請求項6】
前記非水系有機溶媒が、ヘキサン、ドデカン、デカン、ウンデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、ヘキシルアミン、ビス−2−エチルヘキシルアミン、オクタノール、デカリン、及びテトラリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載のインクジェット用金属インク組成物。
【請求項7】
前記ブタジエン系ポリマーまたはモノマーは、ポリブタジエンオイル(Polybutadiene oil)及びブタジエンモノマーから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載のインクジェット用金属インク組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−38067(P2011−38067A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285730(P2009−285730)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(594023722)サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド. (1,585)
【Fターム(参考)】