説明

インクジェット用顕色剤インク組成物、および該インク組成物を用いた感圧記録体

【課題】良好な初期発色を有する感圧記録用顕色シート、該感圧記録用顕色シートを有する感圧記録体、および感圧複写用顕色シートを簡便に作製するためのインクジェット用顕色剤インク組成物を提供する。
【解決手段】サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)からなる顕色剤と、アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)と、塩基性物質(C)とを含有する水分散液からなり、前記サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)の面積平均粒子径が10nm以上500nm以下であり、前記アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の酸価が5〜120mgKOH/gであり、かつ当該インク組成物のpHが4以上9以下であるインクジェット用顕色剤インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用顕色剤インク組成物、ならびに該インク組成物を用いて作製される感圧複写用顕色シートおよび感圧記録体に関する。
【背景技術】
【0002】
感圧記録体であるノーカーボン複写紙は、発色剤を内包するマイクロカプセルを含有する発色剤層を裏面に有する上用紙と、発色剤と接触したときに呈色する顕色剤を含有する顕色剤層を表面に有する下用紙を有し、これら2種の層が向い合うように重ね合わせられた構造を有する感圧記録体である。筆記圧や印字圧により、マイクロカプセルが壊れ、内包されていた発色剤と顕色剤とが反応し、発色する。また、表面に顕色剤層を、裏面に発色剤を含有するマイクロカプセル含有の発色剤層をそれぞれ設けた中用紙を用いることにより、複数枚を同時に複写可能な感圧記録体とすることができる。
【0003】
ノーカーボン複写紙は、帳票等に汎用されている。帳票等のフォーム印刷は、オフセット方式、凸版方式等の様々な方式でなされるが、近年、インクジェット記録方式で行われることが多くなった。しかしながら、一般に、下用紙や中用紙は、表面の全面にサリチル酸系顕色剤等の顕色剤が塗布されているため、形成されたインクジェット記録画像の耐水性が低くなるという問題がある。この問題を解決するために、例えば特許文献1には、顕色層表面をpH7以下とすることにより、耐水性の良好なインクジェット記録画像を形成することを可能とした感圧複写用顕色シートが開示されている。
【0004】
また、表面の全面に顕色剤が塗布されている場合には、発色不要部の加圧による発色を防ぐために減感インキを印刷して減感層を形成しなくてはならず、製造工程が煩雑となる。そこで、表面の必要な領域にのみ顕色剤を印刷することにより、減感インキを用いることなく、より簡便な工程で下用紙等の感圧複写用顕色シートを製造することができる。例えば、特許文献2には、活版印刷やオフセット印刷によりパターン化された顕色剤層を形成することが可能なノーカーボン紙用顕色インキが開示されている。このような方法で顕色剤層が形成されたノーカーボン複写紙は、帳票等のフォーム印刷部分には顕色剤が塗布されていないため、通常のインクジェット記録方式によりフォーム印刷を行った場合でも、耐水性等の問題のない、良好な記録画像を得ることができる。
【0005】
しかしながら、活版印刷やオフセット印刷は、製版が必要であり、また、小ロット印刷を行う場合の経済性に劣る。これに対してインクジェット印刷は、製版が不要なため、フォーム印刷のデザインを決定してから比較的短時間で印刷することができ、フォームの変更等の自由度が大きく、小ロット印刷にも最適である。更に、特許文献2に例示されるような、活版印刷やオフセット印刷によりパターン化された顕色剤層を形成する方法で作製された複写紙では、タイプライターによる印字テストでは問題ないものの、ボールペン印字等では擦れ等の不要な圧力による発色がいわゆる「汚れ」となり、記録画像が不鮮明になるという欠点があり、この点を改良する必要性が生じていた。しかし、現在までに、インクジェット記録方式により顕色剤層を形成することが可能なインクジェット用インキは開発されていなかった。
【0006】
そこで、本願発明者らは、特許文献2における実施例1記載の顕色剤をインクジェット用インク化することを試みたが、安定したインク吐出性を得ることができなかった。
また、特許文献3には、有機系顕色剤を、有機溶剤に溶解し、水溶性高分子および界面活性剤の存在下、強制乳化して顕色剤エマルションを得る方法が開示されている。しかしながら、特許文献3記載の方法では、微小エマルションを得ることはできるものの、有機溶剤の除去時に多量の粗大粒子を副生するため、インクジェット印刷に供すると吐出不良が頻発するという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−290557号公報
【特許文献2】特開平6−346011号公報
【特許文献3】特開昭63−98483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、良好な初期発色を有する感圧記録用顕色シート、該感圧記録用顕色シートを有する感圧記録体、および感圧複写用顕色シートを簡便に作製するためのインクジェット用顕色剤インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、顕色剤としてサリチル酸またはその誘導体の多価金属塩を用い、ポリマー分散剤として塩基性物質で中和されたアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂を用いたインクジェット用顕色剤インク組成物を用いることにより、上記の課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)からなる顕色剤と、アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)と、塩基性物質(C)とを含有する水分散液からなり、前記サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)の面積平均粒子径が10nm以上500nm以下であり、前記アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の酸価が5〜120mgKOH/gであり、かつ当該インク組成物のpHが4以上9以下であることを特徴とするインクジェット用顕色剤インク組成物を提供する。
さらに本発明は、前記インクジェット用顕色剤インク組成物を支持体に印刷して得られる顕色剤層を有し、かつ減感剤を含む層を有さない感圧複写用顕色シートを提供する。
さらに本発明は、発色剤を内包するマイクロカプセルを含有する発色剤層を有する感圧複写用の発色シートと、前記感圧複写用顕色シートとを有する感圧記録体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物は、発色性等の顕色剤固有の顕色性能(到達発色度等)を維持しながら、発色速度に優れ、かつ、顕色剤粒子の凝集や沈降がなく、長期保存安定性に優れている。また、当該インクジェット用顕色剤インク組成物を、支持体に対して一般的なインクジェットプリンターを使用して簡便に印刷して、当該支持体の表面の発色の必要な箇所のみに顕色剤層を形成することができる。得られた感圧記録用顕色シートは、減感インキを用いることなく、例えばノーカーボン複写紙の下用紙や中用紙として使用された場合に、良好な発色性能を有するとともに、擦れ等の不要な圧力によっては発色せず、耐熱性、耐水性、耐候性にも優れている。さらに本発明の感圧複写用顕色シートは、発色剤層を有する感圧複写用の発色シートを上用紙、あるいは中用紙として組み合わせることにより、良好な発色性能を有するとともに汚れの発生し難いノンカーボン複写紙を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物は、サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩を、塩基性物質で中和されたアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂からなるポリマー分散剤を用いて分散させた水分散液からなる。具体的には、本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物は、サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)からなる顕色剤と、アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)と、塩基性物質(C)とを含有する水分散液からなり、前記サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)の面積平均粒子径が10nm以上500nm以下であり、前記アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の酸価が5〜120mgKOH/gであり、かつ当該インク組成物のpHが4以上9以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物中では、サリチル酸系顕色剤の面積平均粒径は十分に小さく、かつ安定分散しているため、ノズルの目詰まり等の不具合・不都合が生じ難く、インクジェット印刷に好適である。
【0014】
本発明の感圧記録体は、本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物から得られる顕色剤層を有する感圧複写用顕色シートを有する。本発明の感圧記録体が、擦れ等の不要な圧力による発色、いわゆる「汚れ」を発生しにくい理由は必ずしも明確ではないが、本発明の感圧記録体における顕色剤層は、顕色剤インク組成物を紙等の被記録物へ直接的にインクジェット印刷しているため、顕色剤インク組成物が被記録物中に染み込み、発色性能は鈍化する傾向を有する。このため発色感度が必要な感度を保ちつつ、不要な圧力で汚れを発生しにくい程度に適度に調整されているものと考えられる。
【0015】
本発明において使用する顕色剤は、サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩からなるサリチル酸系顕色剤である。また、本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物は、1種類のサリチル酸系顕色剤を含むものであってもよく、2種類以上のサリチル酸系顕色剤を含むものであってもよい。以下、「サリチル酸系顕色剤」とは、サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩を意味する。
【0016】
サリチル酸誘導体としては、例えば、3−(α−メチルベンジル)サリチル酸、5−(α−メチルベンジル)サリチル酸、3−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、5−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、3,5−ビス(α−メチルベンジル)サリチル酸、3−(α−メチルベンジル)−5−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、3,5−ビス{α−メチル(パラメチルベンジル)サリチル酸、3−α−メチルベンジル−5−(1,3−ジフェニルブチル)サリチル酸、3−(1,3−ジフェニルブチル)−5−α−メチルベンジルサリチル酸、3−α,α−ジメチルベンジル−5−(1,3−ジメチル−1,3−フェニルブチル)サリチル酸、3−(1,3−ジメチル−1,3−ジフェニルブチル)−5−α,α−ジメチルベンジルサリチル酸、3−{1−(4−メチルフェニル)エチル−5−{1,3−ビス(4−メチルフェニル)ブチル}サリチル酸、3−{1−(4−メチルフェニル)エチル−5−{1,3−ビス(4−メチルフェニル)ブチル}サリチル酸、または3−{1,3−ビス(4−メチルフェニル)ブチル)−5−{1−(4−メチルフェニル)エチル}サリチル酸等が挙げられる。
【0017】
また、サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩における多価金属としては、亜鉛、ニッケル、コバルト、銅、マグネシウム、バリウム、アルミニウム、ジルコニウム、バナジウム、スズ、鉛、カルシウム等の2価以上の金属が挙げられる。本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物においては、サリチル酸またはその誘導体の亜鉛塩であることが好ましく、3,5−ジ(α−ジメチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩、サリチル酸亜鉛三水和物、3−(α−メチルベンジル)−5−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩、および3,5−ジ−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩からなる群より選択される1種または2種以上であることがより好ましく、3,5−ジ(α−ジメチルベンジル)サリチル酸亜鉛塩およびサリチル酸亜鉛三水和物からなる群より選択される1種以上であることがさらに好ましい。
【0018】
発色性の観点から顕色剤の粒径を比較、検討、規定するに際しては、面積平均粒径を使用することが好ましい。
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物中のサリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)の面積平均粒子径は10nm以上500nm以下である。更に好ましくは、50nm以上400nm以下、更により好ましくは100nm以上300nm以下である。面積平均粒子径が10nmを下回ると、顕色剤表面積が過大となり、不要な発色汚れが発生し易くなる。一方、面積平均粒子径が500nmを超えると、ノズルの目詰まり等によりインクジェット印刷適性が劣化し、印刷できた場合でも顕色剤表面積が過小のため、発色液との接触面積が小さくなり、初期発色性が不足する傾向にある。
【0019】
なお、本発明および本願明細書において、面積平均粒子径とは、動的光散乱法周波数解析(FFT−ヘテロダイン法、光源:半導体レーザー780nm 3mW)で計測し、面積で重みづけされた平均粒子径であり、下記式のMAとして算出することができる。
【0020】
【数1】

di:i番目の粒子の粒子径、ni:個数、ai:表面積、Vi:体積
【0021】
サリチル酸系顕色剤は固体であるが、水性媒体中に分散した状態で市販されているものもある。そこで例えば、これら市販のサリチル酸系顕色剤に微細化処理を施し、顕色剤の面積平均粒子径を10nm以上500nm以下に調整することができる。
サリチル酸系顕色剤の微細化は、ミル等の粉砕機を用いる等、当該技術分野において、従来から顔料等を微細化する際に用いられる公知の方法により行うことができる。例えば、サンドグラインダーなどで湿式粉砕により行ってもよく、乾式粉砕法により行ってもよい。但し、このような粉砕法で得られるサリチル酸系顕色剤の微細化粒子は岩を粉砕したように不定形となり、発色が不均一となりやすい。後述するように、特定のポリマー分散剤存在下における乳化工程を経て水性媒体中に分散する方法を用いると、略球形の形状がそろった顕色剤の微細化粒子を作製することができ好ましい。
【0022】
また、本発明のインクジェット向け顕色剤インク組成物におけるサリチル酸系顕色剤(A)の含有量は、5重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
【0023】
本発明で使用されるアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)としては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマーから誘導される構成単位と、アクリル酸、メタクリル酸等のラジカル重合性不飽和結合を有する不飽和脂肪族カルボン酸からなるモノマーから誘導される構成単位を含有する。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−エチルスチレン、α−ブチルスチレン、4−メトキシスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。
ラジカル重合性不飽和結合を有する不飽和脂肪族カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸の他、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0024】
本発明で使用されるアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂としては、スチレン系モノマーおよびラジカル重合性不飽和結合を有する不飽和脂肪族カルボン酸からなるモノマーの他に、従来よりインクジェット記録用水性顔料分散液の作製に用いられる樹脂の構成モノマーとして使用される公知のモノマーを使用してもよい。このようなモノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等の、アクリル酸エステル類およびメタアクリル酸エステル類、3−エトキシプロピルアクリレート、3−エトキシブチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート等の、アクリル酸エステル誘導体およびメタクリル酸エステル誘導体、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸アリールエステル類およびアクリル酸アラルキルエステル類、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンのような多価アルコールのモノアクリル酸エステル類、モノメタアクリル酸エステル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル等のマレイン酸ジアルキルエステル、マレイン酸モノアルキルエステル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0025】
これらの成分からなるアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の酸価は5mgKOH/g以上120mgKOH/g以下が好ましい。酸価が5mgKOH/g以下では水分散性が不足する傾向にあり、酸価が120mgKOH/g以上では水分散性は十分であるが、発色性能が劣る傾向がある。
ここで酸価とは、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表され、具体的な酸価の測定方法はJIS K 2501に記載がある。
【0026】
本発明で使用するアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)としては、質量平均分子量20,000以下のスチレン−アクリル系樹脂を使用することができ、分子量が20,000以下のスチレンまたはα−メチルスチレンとスチレンの混合物とアクリル酸を塊状重合したオリゴマーを使用することが好ましい。アルカリ可溶性スチレン−アクリル酸樹脂の分子量が20,000を超えるとアルカリ可溶性が事実上消失し不溶化するため、顕色剤の水への可溶化性能が低下する傾向にある。
【0027】
本発明で使用するアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)としては、樹脂固体で提供されるもの他、樹脂固体を塩基性物質(C)で中和して水に溶解したもの、またはあらかじめ各種塩基性物質(C)の水溶液で中和溶解させて提供されるものを使用することができる。
【0028】
本発明で使用されるアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)、またはアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の中和水溶液の具体例としては、スチレン−アクリル系樹脂としてBASFジャパン(株)製のJONCRYL586、同611などが挙げられ、これらを塩基性物質水溶液で中和溶解したものを中和水溶液として使用することができる。
【0029】
本発明で使用するスチレン−アクリル系樹脂(B)を中和して水に溶解させるために使用する塩基性物質(C)としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、アンモニアなどの有機塩基性化合物など、水に可溶な塩基性物質であれば特に制限なく使用でき、これらを複数混合して使用しても良い。
【0030】
このようなスチレンアクリル系樹脂が、サリチル酸系顕色剤(A)に対して極めて良好な分散剤としての物性を示す理由としては、必ずしも明確ではないが、特定のpH範囲において、顕色剤の表面にアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)が吸着した状態、すなわち、擬似的にはサリチル酸系顕色剤(A)がスチレン−アクリル系樹脂(B)により内包された、いわゆるマイクロカプセル状となることで、良好な安定分散性を発現すると考えられる。
【0031】
なお、高沸点の液状アミンで前記樹脂を中和したものは乾燥が遅くなり、耐水性が劣る傾向があり、アンモニアによる中和では、乾燥後の樹脂皮膜が水に不溶化するため耐水性が向上するものの、インクジェット吐出安定性が不足する傾向がある。このため、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物で中和することが好ましい。
【0032】
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物のpHは4以上9以下である。pHが9を超えると初期発色性が低下するため、良好な顕色剤層を形成することができない。また、pHが4未満では顕色剤の凝集が発生し易いことに加え、擂れ等の不要な圧力による望ましくない発色が生じる傾向がある。
【0033】
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物におけるサリチル酸系顕色剤(A)およびアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の合算固形分濃度が5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、かつ、その質量比(A)/(B)は好ましくは0.1以上10以下、更に好ましくは0.2以上8以下であることが好ましい。
【0034】
サリチル酸系顕色剤(A)とアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の配合比率に関して、アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の量は、サリチル酸系顕色剤(A)の良好な分散性を実現するために必要な量が確保されていれば十分であり、過剰の樹脂の含有はむしろ好ましくない。
インクジェット記録用インク組成物中にアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)が過剰量存在する場合には、サリチル酸系顕色剤(A)に吸着しない遊離のアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)が増加する。インクジェット印刷したときに、遊離のアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)はインクジェット印刷装置のインクノズル部に固着してインク吐出不良の原因となりやすい。特にサーマルジェット方式のインクジェットプリンターにおいては同障害の発生する危険性が高くなる。
【0035】
以上の原材料から、本発明のインクジェット向け顕色剤インク組成物を製造するには、サリチル酸系顕色剤(A)からなる顕色剤を有機溶剤に溶解した溶液に、所定の濃度およびpHに調製したポリマー分散剤(B)の溶液を少量ずつ加えた後、サリチル酸系顕色剤が析出することないように、有機溶剤を減圧留去し、水分散液とするのが好ましい。
【0036】
サリチル酸系顕色剤(A)を溶解させる際に用いる有機溶剤としては、サリチル酸系顕色剤(A)を溶解するものならば特に限定されず公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、エタノール、メタノール等のアルコール系有機溶剤、シクロヘキサン等の脂環属系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶剤、2−ブタノン等のケトン系有機溶剤、酢酸エチル等のエステル系有機溶剤などが挙げられる。中でも、極性が大きい有機溶剤、具体的には誘電率(25℃)4.0以上の有機溶剤が、サリチル酸系顕色剤(A)の溶解性の観点から好ましい。誘電率(25℃)4.0以上の有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、2−ブタノン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1−ブタノール、2−プロパノール、エタノール、メタノール、プロピレンカーボネート等を例示することができる。この中でも、2−ブタノン、酢酸エチル、エタノールが、有機溶剤の減圧留去工程を実施しやすことから好ましく用いられる。
すなわち、これら有機溶剤を用いると、ホモミキサー、高圧ホモジナイザーなどで強制攪拌することにより機械的な乳化を施さなくても、最終的に得られる顕色剤インク組成物中のサリチル酸系顕色剤(A)は、顕色剤としての用途に適した粒径範囲となることから好ましい。なお、これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、複数を混合して用いても良い。
【0037】
インクジェット用顕色剤インク組成物中の固形分(主にサリチル酸系顕色剤)の分散を機械的に行う場合に用いる分散機としては、公知のものを用いることができる。このような分散機としては、例えば、メディアを用いたものでは、サンドミル、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル等が挙げられる。またメディアを用いないものとしては、超音波ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上の装置を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、メディアを用いた分散機は分散能力が高いため好ましい。
【0038】
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物は、水と相溶性を有し、該インク組成物に含まれる、サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)およびアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)、さらには後記する種々の成分を安定に溶解または分散させて保持させることができ、かつ該インク組成物に乾燥防止性能を付与する水溶性有機溶媒を含むことが好ましい。
【0039】
該水溶性有機溶媒の好ましい例としては、水との溶解性の低いグリコールエーテル類や他の成分の溶解性を向上させ、さらに記録媒体(例えば紙)に対する浸透性を向上させ、またノズルの目詰まりを防止する機能が期待できるものとして、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1から4のアルキルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n− プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso − プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ− t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテルなどのグリコールエーテル類、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0040】
また、本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物には、記録ヘッドのノズル前面におけるインクの乾燥を抑えるために、水溶性有機溶媒としてグリコール類を添加することができ、その例としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4 − ブタンジオール、1,3 − ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、メソエリスリトール、ペンタエリスリトールなどを挙げることができる。
【0041】
さらに、同様な目的で、糖類を添加することもできる。その例としては、単糖類および多糖類が挙げられ、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ラクトース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトース、マルトース、セロビオース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の他に、アルギン酸およびその塩、シクロデキストリン類、セルロース類を用いることができる。その添加量は適宜決定されてよいが、0.05質量%以上30質量%以下が好ましい。上記範囲にあることで、インク組成物がヘッドの先端で乾燥しても、この目詰まりを回復させることが容易にでき、また安定な印字が可能なインク組成物の粘度を容易に実現することができる。本発明の好ましい態様によれば、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ラクトース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトース、マルトース、セロビオース、スクロース、トレハロース、マルトトリオースのより好ましい添加量は3〜20質量%である。
【0042】
また、本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物は、その浸透性を制御するため、またはサリチル酸系顕色剤(A)の水溶性を向上させるために、界面活性剤を添加することも可能である。添加する界面活性剤は、インク組成物中の他の成分と相溶性のよいものが好ましい。また、浸透性が高く安定な界面活性剤が好ましい。界面活性剤としては、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤の利用が好ましい。
【0043】
両性界面活性剤の好ましい例としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−n−カルボキシメチル−n−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体などが挙げられる。
【0044】
非イオン界面活性剤の好ましい例としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系界面活性剤、その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩などの含フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0045】
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物には、防腐剤、防かび剤を含ませることが出来る。その例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などが挙げられる。
【0046】
また、本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物は、必要により、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤を含むことができ、その例としてはジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類およびそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、4級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩、N−メチル−2−ピロリドン、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩などが挙げられる。さらに、本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物には、酸化防止剤、紫外線吸収剤を含ませることができる。
【0047】
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物は、インクジェット記録用のインクとして好適に用いることができる。適用するインクジェットの方式は特に限定するものではないが、連続噴射型(荷電制御型、スプレー型等)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等)等の公知のものを例示することができる。
【0048】
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物を、インクジェットプリンターを用いて紙等の被記録物に印刷することにより、感圧複写用顕色シートを作製することができる。例えば、本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物を用いて形成されたノーカーボン複写紙の顕色剤層を有する感圧複写用顕色シートと、発色剤層を有する感圧複写用の発色シートとを、顕色剤層と発色剤層が互いに接触するように重ね合わせることにより、感圧記録体を作製することができる。こうして得られた感圧記録体に適度な筆圧を加えることにより、感圧記録を行うことができる。
【0049】
このような感圧複写用発色シートは、支持体上に発色剤を含有したマイクロカプセル層からなる発色剤層を形成することにより作製することができる。マイクロカプセルに含まれる発色剤としては、電子供与性発色剤を使用することができる。例えばベンゾイルロイコメチレンブルー、p−ニオロベンゾイルメチレンブルー等のチアジン系染料、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド等のトリアニールメタン系染料、4,4−ビス−ジメチルアミノベンズヒドリルベンジルエーテル等のジフェニタルメタン系染料、3−フェニル−スピロージナフトピラン等のスピロ系染料、3−ピペリジノ−メチル−7−フェニルアミノフルオラン等のフルオラン系染料等から任意に選択できる。
【0050】
またこのような発色剤を含有するマイクロカプセルは、公知のコアセルべーション法、界面重合法、インサイチュ重合法等により製造することができ、そのカプセル分散液を界面活性剤と共に、非水系溶媒に混合分散させ、油溶性バインダーを添加して発色剤層を形成するマイクロカプセル塗料を作製することができる。
【0051】
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物から作製された感圧複写用顕色シートは、上記感圧複写用発色シートと組み合わせて、感圧記録体であるノーカーボン複写紙を作製することができる。このようにして形成された顕色剤層を備えるノーカーボン複写紙は、擦れによる汚れ発生が少なく、通常の筆記圧や印字圧(例えば、400g/cm程度)により、複写を行うことができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に示すが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。なお、これらの例中、「部」は質量部、「%」は質量パーセントを意味するものとする。
【0053】
(実施例1)(インク組成物の調製例)
3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛(三光株式会社製、商品名:N−054)16部を2−ブタノン144部に溶解させた(サリチル酸系顕色剤(A)溶液)。
JONCRYL611(商品名)(アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂、BASF社製、酸価:53mgKOH/g、平均分子量:8100)4部を純水12部で希釈した後、5%水酸化カリウム水溶液(塩基性物質(C)溶液)と純水にて不揮発分8%かつpH7.5となるように調製した後、エタノール10部を加えた(アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)のアルカリ中和溶液)。
前記サリチル酸系顕色剤(A)溶液に、アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)のアルカリ中和溶液を少量ずつ加えた後、有機溶剤を減圧留去し、グリセリン20部を加え、1%硫酸水溶液または5%水酸化カリウム水溶液を用いてpH4.3に、かつサリチル酸系顕色剤(A)とアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の合算固形分濃度が25質量%となるように調整を行い、本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物を製造した。
なお、サリチル酸系顕色剤(A)とアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の合算固形分濃度は、製造したインク組成物の不揮発分に対応する。
また、pH測定は、堀場製作所製のカスタニーLABpHメーターF−22を用い、25℃にて測定した。
【0054】
(実施例2〜15、比較例1〜5)(インク組成物の調製例)
表1〜表3に示す組成に従い、実施例1と同様にして、インクジェット用顕色剤インク組成物を調製した。なお表1〜表3において、水の添加量は、サリチル酸系顕色剤(A)と、酸価が5〜120mgKOH/gであるアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)またはその他の樹脂(B’) との合算固形分濃度が所定の数値となるように調整した。
【0055】
以下に実施例、比較例において使用したサリチル酸系顕色剤および樹脂をまとめて記載する。
A−1: 3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸亜鉛(三光株式会社製、商品名:N−054)
A−2: サリチル酸亜鉛・3水和物(和光純薬工業社製、試薬)
B−1:JONCRYL611(商品名)(アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂、BASF社製、酸価:53mgKOH/g、平均分子量:8100)
B−2:JONCRYL586(商品名)(アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂、BASF社製、酸価:108mgKOH/g、平均分子量:4600)
B’−1:JONCRYL683(商品名)(アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂、BASF社製、酸価:160mgKOH/g、平均分子量:8000)
B’−2:ポリビニルアルコール(重合度:500、鹸化度:98%)20%水溶液
【0056】
また、表1における「メディア分散処理」とは、サリチル酸系顕色剤(A)溶液に、アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)またはその他の樹脂(B’)のアルカリ中和溶液を加えた後、有機溶剤減圧留去する前に、以下に示す「メディア分散→遠心処理→フィルター濾過」の追加処理を行ったことを意味する。ここで、メディア分散と遠心処理およびフィルター濾過は、以下の条件で行った。
【0057】
〔メディア分散〕
装置:浅田鉄工(株)製、製品名:ナノミルNM−G2L
[ビーズφ;0.3mmジルコニアビーズ、ビーズ充填量;85%、
冷却水温度;10℃、
回転数;2660回転/分(ディスク周速:12.5m/sec)、
送液量;200g/10秒]
〔遠心処理〕
被処理液:前記ビーズミルの通過液
運転条件:13000G×10分
〔フィルター濾過〕
フィルターの有効孔径:0.5μm
【0058】
【表1】

※「(A)/(B) 固形分比」および「(A)+(B)固形分濃度」は、質量基準。
【0059】
【表2】

※「(A)/(B) 固形分比」および「(A)+(B)固形分濃度」は、質量基準。
【0060】
【表3】

※「(A)/(B or B’) 固形分比」および「(A)+(B or B’)固形分濃度」は、質量基準。
【0061】
上記のように作製したインクジェット用顕色剤インク組成物を、以下の方法を用いて評価を行った。結果を表4、表5に示す。
<インク物性評価>
(面積平均粒子径)
ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用い、動的光散乱法により面積平均粒径MAを測定した。
測定条件:水性インク10μlに対しイオン交換水10cmを加え、測定用希釈溶液を調整し、25℃で測定した。
【0062】
(経時安定性)
上記で得られたインクについて、60℃の恒温槽中で1ヶ月間保存した後の面積平均粒子径ならびに粘度を測定し、合否を判定した。
−評価基準−
○(合格)・・・面積平均粒子径変化10nm未満、かつ粘度変化10%未満
×(不合格)・・・面積平均粒子径変化10nm以上、または粘度変化10%以上
【0063】
(IJ吐出性)
インクジェット記録装置を用いた印刷の際に、下記のように合否を判定した。画像ムラは目視観察した。
(1)60分連続吐出試験後の吐出率が90%以上。
(2)1分間吐出後、30分休止した後の吐出率が90%以上。
(3)画像ムラが見られない。
−評価基準−
○・・・3項目とも合格の場合
×・・・1項目でも不合格の場合
【0064】
<印刷物性評価>
(発色性評価)
実施例のインキ1〜15及び比較例のインキ1〜5を、坪量が50g/mの上質紙にインク吐出量が15cm3/mとなるようにインクジェット印刷にてスポット印刷を行い、顕色剤スポット印刷用紙(下用紙)を製造した。
得られた下用紙を市販のノーカーボン感圧複写紙上用紙(三菱製紙(株)製、商品名:NCR紙N50上)と重ね合わせ、23℃、50%RHの環境下でタイプライター印字(Lettera32(商品名:オリベッティ社製))およびボールペン印字して、印字応答性の評価を行った。また、同じ組み合わせで上下用紙を擦り合わせ、汚れの程度を目視観察した。各々を以下の基準により5段階評価を行った。
5:優れる、4:良、3:普通(実用可能な下限レベル)、2:やや劣る、1:劣る
【0065】
(顕色剤層の表面平滑性)
製造したスポット印刷用紙(下用紙)の印刷部分について、レーザー顕微鏡VK−9510(キーエンス社製)を用いて、中心線平均粗さ(Ra)を測定した。
【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
実施例並びに比較例において例示した様に、インクジェット用顕色剤インク組成物が、サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)からなる顕色剤と、酸価が5〜120mgKOH/gであるアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)と、塩基性物質(C)とを含有する水分散液からなり、サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)が、適切な面積平均粒子径を有する場合には、pH4〜9の広いpH範囲にわたって良好な経時安定性並びにインクジェット吐出性を得ることができた。
また、該インク組成物をインクジェット印刷にてスポット印刷により得た顕色剤シートは、良好な発色性を有し、かつ、発色剤層を有するシート(上用紙)との擦り合わせでは汚れが発生しにくかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のインクジェット用顕色剤インク組成物は、インクジェット記録方式により、ノーカーボン複写紙の顕色剤層を形成することができるため、ノーカーボン複写紙の製造に広く展開できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)からなる顕色剤と、アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)と、塩基性物質(C)とを含有する水分散液からなり、前記サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)の面積平均粒子径が10nm以上500nm以下であり、前記アルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の酸価が5〜120mgKOH/gであり、かつ当該インク組成物のpHが4以上9以下であることを特徴とするインクジェット用顕色剤インク組成物。
【請求項2】
前記サリチル酸またはその誘導体の多価金属塩(A)およびアルカリ可溶性スチレン−アクリル系樹脂(B)の合算固形分濃度が5質量%以上50質量%以下であり、かつ、それらの質量比(A)/(B)が0.1以上10以下である請求項1に記載のインクジェット用顕色剤インク組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェット用顕色剤インク組成物を支持体に印刷して得られる顕色剤層を有し、かつ減感剤を含む層を有さないことを特徴とする感圧複写用顕色シート。
【請求項4】
発色剤を内包するマイクロカプセルを含有する発色剤層を有する感圧複写用の発色シートと、請求項3に記載の感圧複写用顕色シートとを有することを特徴とする感圧記録体。

【公開番号】特開2012−229378(P2012−229378A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99925(P2011−99925)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(310000244)DICグラフィックス株式会社 (27)
【Fターム(参考)】