説明

インクジェット画像形成方法

【課題】摩擦堅牢性、洗濯堅牢性、及び鮮鋭性(にじみ耐性)に優れる画像を得ることができるインクジェット画像形成方法を提供する。
【解決手段】顔料と架橋性高分子分散剤を含むインクジェット用水性顔料インク(A)と、架橋剤を含む定着インク(B)とから構成されるインクジェットインクセットを、布帛上に付与して画像形成を行う画像形成方法であって、該インクジェット用水性顔料インク(A)と該定着インク(B)の布帛への付与間隔が、10ms以上、50秒未満であることを特徴とするインクジェット画像形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料を用いたインクジェット捺染方式によるインクジェット画像形成方法に関し、さらに詳しくは、摩擦堅牢性及び洗濯堅牢性に優れ、にじみの少ない画像が得られるインクジェット画像形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式による画像記録方法は、インク液を微小液滴として飛翔させ、記録媒体に付着させる方法であって、その機構が比較的簡便、安価であり、高精細、高品位な画像を形成できる利点がある。
【0003】
このインクジェット方式の利点を生かして布帛へ画層記録する、いわゆるインクジェット捺染も行われている。インクジェット捺染は、従来の捺染方法とは異なり、版を作製する必要がなく、種々の画像を少量作成するのに適している。また、画像形成のために必要な量だけインクを用いるため、廃液が少なく環境適性にも優れた画像形成方法である。
【0004】
一般に、インクジェット捺染方式では、酸性染料を用いたインク、反応性染料を用いたインク、あるいは分散性染料インクが主であるが、いずれのインクを用いた方法でも、布帛に対して印字の前後で処理が別途必要となり、コスト、納期の点で課題を抱えている。
【0005】
上記課題に対し、前処理あるいは後処理を必要としないのが、色材として顔料を含む顔料インクをインクジェット捺染方式に適用する技術である。この顔料インクを用いたインクジェット捺染方式では、その定着性、堅牢性を向上させるために、下記のような技術が開示されている。例えば、特許文献1においては、洗濯堅牢性、摩擦堅牢性向上の観点から、前処理、インク、ミドルコート、オーバーコートの各工程における素材に関する情報開示がなされている。これらの工程を経ることにより、特許文献1が目的とする発明の効果は得られるものの、工程数が多く、効率的とは言い難いのが現状である。
【0006】
一方、特許文献2、3には、顔料インクに定着性を付与する機能を有する高分子微粒子と架橋剤とを共存させる技術が、それぞれ開示されている。特許文献2、3に記載の発明では、使用する架橋剤は、いずれも加熱により架橋反応が進む機構を有している。しかしながら、上記方法では、高分子微粒子と架橋剤と同一インク中に共存して存在するため、インク保存中に少しずつ架橋反応が進行することによる保存安定性の低下の懸念は避けられない。
【0007】
また、特許文献4では、前処理液をパッド法にて付与した後に、インクジェットインクによる画像形成を行う技術である。この技術では、パッド付与という工程が余分に入り、効率的ではない。また、特許文献5では、顔料インクと、反応剤を含む定着液とを、それぞれ独立させて付与することにより、吐出安定性、耐擦性等が改良されている旨が開示されている。しかしながら、これらの液に関しては、付与する時間間隔による効果の差異について何ら論じられていない。
【0008】
また、インクジェット方式を用いない従来の捺染用顔料インク技術として、堅牢性と風合いの両立を意図した技術も下記の如く公開されている(例えば、特許文献6参照。)。特許文献6に記載の方法では、固着剤としてのエマルジョンの使用量を規定した着色インクの顔料分散剤を、架橋剤と反応させることで疎水化し、顔料を繊維上に固着させる技術であり、顔料を用いた従来の捺染方法に比べれば、堅牢性と風合いが向上している。しかしながら、これらの性能は十分であるとは言い難く、高粘度の色糊の調製等も必要となり、作業者工数が発生する課題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−150454号公報
【特許文献2】特開2010−185012号公報
【特許文献3】特開2003−268271号公報
【特許文献4】特開2006−342455号公報
【特許文献5】特開2010−155444号公報
【特許文献6】特許公報4579966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、摩擦堅牢性、洗濯堅牢性、及び鮮鋭性(にじみ耐性)に優れる画像を得ることができるインクジェット画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0012】
1.顔料と架橋性高分子分散剤を含むインクジェット用水性顔料インク(A)と、架橋剤を含む定着インク(B)とから構成されるインクジェットインクセットを、布帛上に付与して画像形成を行う画像形成方法であって、該インクジェット用水性顔料インク(A)と該定着インク(B)の布帛への付与間隔が、10ms以上、50秒未満であることを特徴とするインクジェット画像形成方法。
【0013】
2.前記インクジェット用水性顔料インク(A)が含有する前記架橋性高分子分散剤が、疎水基またはイオン性基を有することを特徴とする前記1に記載のインクジェット画像形成方法。
【0014】
3.前記定着インク(B)が含有する前記架橋剤が、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ樹脂化合物、エチレン尿素化合物、エチレンイミン化合物、メラミン系化合物、有機酸ジヒドラジン化合物、ジアセトンアクリルアミド化合物、カルボジイミド化合物及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記1または2に記載のインクジェット画像形成方法。
【0015】
4.前記布帛上に、前記インクジェット用水性顔料インク(A)及び前記定着インク(B)を付与した後、該布帛に100℃以上、180℃以下の熱定着処理を施すことを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載のインクジェット画像形成方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、摩擦堅牢性、洗濯堅牢性、及び鮮鋭性(にじみ耐性)に優れる画像を得ることができるインクジェット画像形成方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、顔料と架橋性高分子分散剤を含むインクジェット用水性顔料インク(A)と、架橋剤を含む定着インク(B)とから構成されるインクジェットインクセットを、布帛上に付与して画像形成を行う画像形成方法であって、該インクジェット用水性顔料インク(A)と該定着インク(B)の布帛への付与間隔が、10ms以上、50秒未満であることを特徴とするインクジェット画像形成方法により、摩擦堅牢性、洗濯堅牢性、及び鮮鋭性(にじみ耐性)に優れる画像を得ることができるインクジェット画像形成方法を実現することができることを見出し、本発明を完成するに至った次第である。
【0019】
本発明で規定する構成からなるインクジェット画像形成方法を用いることにより、上記課題が解決できるその詳細な理由に関しては、以下のように推測している。
【0020】
すなわち、顔料インクを布帛上に付与した後に定着させるためには定着樹脂が必要となる。その樹脂量は多いほど定着に効果を発揮するが、インク化した場合、その付与量が多くなる(インク中の樹脂含有量が多くなる)と、インク粘度が上昇し、かつ高分子成分が増えることによりインクジェットヘッドでの吐出安定性を維持することが難しくなるため、インク中における樹脂量を減量させる必要がある。
【0021】
一方で、添加する樹脂量を制限しつつ、布帛への定着性を高める方法のひとつとして、定着樹脂の架橋反応を利用する方法が挙げられる。この方法により、定着性の高いプリント物を得ることができる。しかしながら、架橋性樹脂と架橋剤を同一インク中で共存させると、たとえ温度が低い状態で保存されていても、インク中で徐々に架橋反応が進行し、それに伴いインク粘度が上昇する現象がみられる。
【0022】
上記課題を解決するため、本発明では、顔料と架橋性高分子分散剤を含むインクジェット用水性顔料インク(A)と、架橋剤を含む定着インク(B)とでインクジェットインクセットを構成とし、かつインクジェット用水性顔料インク(A)と該定着インク(B)の布帛への付与間隔を、10ms以上、50秒未満とすることにより、インクジェットインク化と印字後の性能確保の両立を図ることができた。
【0023】
布帛へのインクジェット用水性顔料インク(A)と定着インク(B)の付与間隔が10ms未満になると、インクジェット用水性顔料インク(A)が布帛中に浸透する前に、定着インク(B)から供給される架橋剤と混合することにより、布帛表面近傍に顔料がとどまることになる。このため、布帛表面の擦れにより、顔料が剥がれ落ちやすくなり、堅牢性が低下することが判明した。
【0024】
一方、インクジェット用水性顔料インク(A)と定着インク(B)との付与間隔が50秒以上になると、インクジェット用水性顔料インク(A)が先に付与される場合、あるいは定着インク(B)が先に付与されるいずれの場合においても、先に付与されたインクの乾燥が過度に進行し、後から付与されるインクとの間で、それぞれが液体状態で混和することが難しくなり、架橋性高分子分散剤と架橋剤との混和が不十分となり、架橋反応が十分に進まない、あるいは均一に進まないことから、所望の効果を得ることができないことが判明した。
【0025】
上記の検討結果を踏まえ、インクジェット用水性顔料インク(A)と定着インク(B)の付与間隔時間として、10ms以上、50秒未満にすることで、摩擦堅牢性、洗濯堅牢性、鮮鋭性(にじみ耐性)に優れたインクジェット捺染画像を得ることができることを見出したものである。
【0026】
以下、本発明のインクジェット画像形成方法で用いる各構成要素の詳細について説明する。
【0027】
《インクジェット用水性顔料インク(A)》
本発明に係るインクジェット用水性顔料インク(A)(以下、単に顔料インク(A)ともいう)は、少なくとも顔料と架橋性高分子分散剤を含有する。
【0028】
〔架橋性高分子分散剤〕
本発明に係る架橋性高分子分散剤は、必須成分として、疎水基(電気的に中性の非極性物質で水と親和性が低い)とイオン性基(電気的にイオン性の極性物質で、水との親和性が高い)とを有し、その構造は、直鎖又は分岐したいずれでもよく、ランダム、交互、周期、ブロックのいずれの構造や、グラフトポリマーであってもよい。
【0029】
本発明に係る架橋性高分子分散剤は、イオン性基含有単量体と疎水基含有単量体とを共重合させることにより得られる。それぞれの単量体は一種類のみでも、又は二種類以上用いてもよい。
【0030】
上記の疎水基含有単量体及びイオン性基含有単量体としては、以下のものがある。
【0031】
(疎水基含有単量体)
疎水基含有単量体としては、例えば、スチレン系単量体、フェニル基含有(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、アルキルビニルエーテル類、(メタ)アクリロニトリル等のビニル単量体;ポリイソシアネートとポリオール又はポリアミン等から形成されるウレタン基含有ビニル単量体;エピクロルヒドリンとビスフェノール等から形成されるエポキシ基含有ビニル単量体;多価カルボン酸とポリアルコール等を単量体から形成されるエステル基含有ビニル単量体;オルガノポリシロキサン等から形成されるシリコーン基含有ビニル単量体などが挙げられる。
【0032】
(イオン性基含有単量体)
次に、イオン性基含有単量体が含有するイオン性基としては、陰イオン性基と陽イオン性基があるが、これらのイオン性基を与える単量体としては、以下のものがある。
【0033】
〈陰イオン性基含有単量体〉
陰イオン性基含有単量体として、以下の不飽和スルホン酸単量体、不飽和カルボン酸単量体、不飽和リン酸単量体、又はこれらの無水物や塩等を用いることができる。
【0034】
不飽和スルホン酸単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシアルキルの硫酸エステル等、又はそれらの塩等が挙げられる。
【0035】
不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸、不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル、クロトン酸、ソルビン酸、イタコン酸等またはそれらの無水物及び塩などが挙げられる。
【0036】
不飽和リン酸単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル(炭素数2〜6)の燐酸エステル、(メタ)アクリル酸アルキルホスホン酸類等が挙げられる。
【0037】
〈陽イオン性基含有単量体〉
陽イオン性基含有単量体として、以下の、不飽和アミン含有単量体、不飽和アンモニウム塩含有単量体等を用いることができる。
【0038】
不飽和アミン含有単量体としては、例えば、ジアルキルアミノエチルビニルエーテル、アリルアミン、N,N−ジアルキルアミノスチレン、ビニルアミン、ビニルピリジン、メチルビニルピリジン、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0039】
不飽和アンモニウム塩含有単量体としては、上記不飽和3級アミン含有単量体を4級化剤で4級化させたもの等が挙げられる。
【0040】
なお、本発明に係るインクジェット用水性顔料インク(A)における顔料と架橋性高分子分散剤との質量比率は、顔料:架橋性高分子分散剤(質量比)で100:30から100:200の範囲で選択することができる。特に、射出安定性、インク保存性、プリント物堅牢性の観点からは、100:40から100:120の範囲であることが好ましい。
【0041】
また、本発明に係る架橋性高分子分散剤では、その分子量が大きすぎると、増粘や、顔料粒子間の凝集を誘発する。一方、分子量が小さすぎると、顔料からの脱着が起こりやすくなる。又、分子量が小さくなると架橋させた後の固着剤としての効果が弱くなる。このため、本発明に係る架橋性高分子型分散剤としては、重量平均分子量が2,000〜50,000のものを用いることが好ましい。
【0042】
また、本発明のインクジェット画像形成方法においては、顔料と布帛の定着性を向上させるために、別途定着性樹脂の添加は行わない。これは、上記架橋性高分子型分散剤と、後述する架橋剤の架橋反応による樹脂強度の向上、耐水性向上により、布帛と顔料の固着が強固になるためである。また、このことにより、定着樹脂を過剰に添加することに起因するゴワゴワ感を抑制することができる。
【0043】
〔顔料〕
本発明に係る顔料インク(A)に適用可能な顔料としては、従来公知の有機及び無機顔料が使用できる。例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料のアゾ顔料や、フタトシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機溶剤、カーボンブラック等の無機顔料が挙げられる。
【0044】
具体的な有機顔料を以下に例示する。
【0045】
マゼンタまたはレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222等が挙げられる。
【0046】
オレンジまたはイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138等が挙げられる。
【0047】
グリーンまたはシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0048】
本発明に係る顔料の分散方法としては、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等各種を用いることができる。
【0049】
本発明において、顔料分散体を調製する際に、顔料分散体の粗粒分を除去する目的で遠心分離装置を使用すること、フィルターを使用することも好ましい。
【0050】
顔料粒子の平均粒子径は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができる。また、透過型電子顕微鏡による粒子像撮影を少なくとも100粒子以上に対して行い、この像をImage−Pro(メディアサイバネティクス製)等の画像解析ソフトを用いて統計的処理を行うことによっても求めることが可能である。
【0051】
また、有機顔料中に含まれる微量な金属イオン成分は、長期に渡るインクジェットヘッドからの吐出によって、インクジェットノズル近傍に析出物を形成し、安定な吐出ができなくなる可能性があるため、あらかじめ水洗等によりその微量金属イオン成分を除去することが望ましい。
【0052】
本発明に係る顔料インク(A)中の顔料の最大粒径は、1.0μmを越えないよう、十分に分散あるいは、ろ過により粗大粒子を除くことが好ましい。この操作を施すことにより、顔料インク(A)のインクジェットヘッドからの吐出安定性が向上する。
【0053】
また、顔料においては、その表面に対する顔料分散剤の吸着を促進するため、酸性処理または塩基性処理、シナージスト、各種カップリング剤など、公知の技術により表面処理を行うこと好ましく、その結果、分散安定性を確保することができる。
【0054】
〔顔料インクセット〕
本発明のインクジェット画像形成方法においては、本発明に係る顔料インク(A)が、顔料種が同一で、顔料濃度の異なる淡色インクジェットインクと濃色インクジェットインクとを含む顔料インクセットを構成しても良い。
【0055】
即ち、少なくとも1色の顔料インクを、淡色顔料インクと濃色顔料インクとで構成し、更には、2色以上の顔料インクにおいて、淡色顔料インクと濃色顔料インクとを含む顔料インクセットを用いることができる。
【0056】
これは、低顔料濃度の淡色顔料インクを用いることで、布帛に形成する画像の粒状感を低減させ、いわゆる「ざらつき」の無い、高品位のプリント物を得ることができる。特に、人間の視感度の高いマゼンタインクあるいはシアンインクにおいて、濃度の異なる少なくとも二つの顔料インクを用いることによって、高品位画像を得ることができる。
【0057】
この濃度が異なる淡色顔料インクと濃色顔料インクとの顔料濃度比は、任意な値であってよいが、滑らかに階調再現する観点からは、淡色顔料インクと濃色顔料インクにおける顔料濃度比(淡色顔料インクの顔料濃度/濃色顔料インクの顔料濃度)は0.1〜1.0の間にあることが好ましく、0.2〜0.5の間にあることが更に好ましく、0.25〜0.4の間にあると更に好ましい。
【0058】
《定着インク(B)》
本発明に係る定着インク(B)は、少なくとも架橋剤を含むことを特徴とする。
【0059】
〔架橋剤〕
本発明に係る架橋剤は、上記説明した顔料インク(A)が含有する顔料分散剤として疎水基とイオン性基をもつ架橋性高分子型分散剤のイオン性基を架橋させることにより、親水性であるイオン性基を封鎖、高分子型分散剤を非水溶性の高い樹脂様高分子体とすることで、顔料の定着剤としての機能を生じさせるものである。
【0060】
上記のように、本発明に係る架橋性高分子型分散剤の親水性であるイオン性基を架橋により疎水性としたため、耐水性が向上して、本発明に係る架橋性高分子型分散剤が固着剤の役割を発揮するため、従来の顔料分散体を用いたインクジェット捺染方式のように、大量のエマルジョン樹脂を用いることなく、顔料の布帛への固着が可能となり、洗濯堅牢性、摩擦堅牢性などを確保できたものである。従って、従来の方法で見られるゴワゴワとした風合いになることがなく、堅牢性の高いプリント物を得ることができる。
【0061】
本発明に係る定着インク(B)に係る適用可能な架橋剤としては、有機酸ジヒドラジド化合物、メラミン系化合物、カルボジイミド、エチレンイミン化合物、オキサゾリン化合物、エチレン尿素化合物、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ樹脂化合物、ジアセトンアクリルアミド、イソシアネート化合物、シランカップリング剤からなる架橋基を含有する化合物であれば、特に限定されない。これらの架橋剤は複数併用して用いることもできる。また、架橋剤は、着色インクである顔料インク(A)とは共存させないので、液の保存性を心配する必要がない。
【0062】
《各インクの共通構成要素》
次いで、インクジェット用水性顔料インク(A)と定着インク(B)のその他の構成要素について説明する。
【0063】
〔液溶媒〕
本発明に係る各インク(顔料インク(A)と定着インク(B))には、種々の液媒体を用いることもできる。該液媒体としては、水及び水溶性有機溶剤等の混合溶剤がさらに好ましく用いられる。
【0064】
本発明に適用可能な水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール等)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)等が挙げられる。
【0065】
〔界面活性剤〕
本発明に係る各インクの表面張力を制御するため、界面活性剤を用いることが好ましい。界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤(ベタイン型界面活性剤)、非イオン性界面活性剤(ノニオン型界面活性剤)のいずれも用いることができる。
【0066】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0067】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、N−アシル−N−メチルグリシン塩、N−アシル−N−メチル−β−アラニン塩、N−アシルグルタミン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、第2級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0068】
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0069】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、エマルゲン911、花王社製)、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例えば、ニューポールPE−62、三洋化成工業社製)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール等が挙げられる。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
〔その他の添加剤〕
本発明に係る各インクには、上記説明した以外に必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防黴剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができる。
【0071】
例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、特開昭57−74193号、同57−87988号及び同62−261476号の各公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号、同60−72785号、同61−146591号、特開平1−95091号及び同3−13376号の各公報等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号、同59−52689号、同62−280069号、同61−242871号及び特開平4−219266号の各公報等に記載されている蛍光増白剤等を挙げることができる。
【0072】
《各インクの液物性》
〔インク粘度〕
本発明に係る各インク(顔料インク(A)と定着インク(B))の粘度としては、25℃で3.0〜20mPa・sであることが好ましく、4.0〜10mPa・sが特に好ましい。各インクの粘度が3.0mPa・s未満では滲みやすくなり、20mPa・sを越えると出射安定性が劣化する。
【0073】
〔インク表面張力〕
本発明に係る各インク(顔料インク(A)と定着インク(B))の表面張力としては、25℃で30〜50mN/mであることが好ましく、より好ましくは30〜40mN/mである。表面張力が30mN/m未満になると滲みやすくなり、表面張力が50mN/mを越えると、出射安定性が劣化する。
【0074】
《インクジェット画像形成方法》
〔インクジェット記録ヘッド〕
本発明のインクジェット画像形成方法においては、本発明に係る顔料インク(A)と定着インク(B)を、インクジェット記録ヘッドを用いて、布帛上に吐出して画像形成するが、本発明のインクジェット画像形成方法で使用するインクジェット記録ヘッドとしては、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
【0075】
また、本発明のインクジェット画像形成方法においては、ラインヘッド方式を有するインクジェット記録ヘッドを用いることもできる。ライン型インクジェット記録ヘッドとは、記録媒体の幅以上の長尺のインクジェット記録ヘッドであり、多数のノズル数を有する長尺のヘッドであっても、複数のインクジェット記録ヘッドをユニット化して長尺化したヘッドであっても好ましく用いることができる。ライン型インクジェット記録ヘッドを用いることで、記録ヘッドを搭載したキャリッジが記録媒体を搬送する方向に対して垂直方向に走査することで画像を形成するシリアルヘッドに比べて、短時間で多くの記録を行うことができるようになり、生産性が飛躍的に向上する。
【0076】
〔インク付与方法〕
本発明に係る顔料インク(A)及び定着インク(B)は、共にインクジェット記録ヘッドを用いたインクジェット記録方式で付与することが特徴である。
【0077】
例えば、定着インクを従来捺染方式のようなパッド処理を行って付与することもできるが、手間がかかり、作業効率上好ましくない。このため異なるインクジェット記録ヘッド、あるいは同一のインクジェット記録ヘッドでも異なるノズル系列をもつものを用いて、各インク液を付与することが必要となる。
【0078】
本発明のインクジェット画像形成方法においては、顔料インク(A)と定着インク(B)の布帛への付与間隔を、10ms以上、50秒未満とすることを特徴とする。前述のように、顔料インク(A)と定着インク(B)の付与間隔が10ms未満であると、顔料インクが布帛中に浸透する前に、定着インク(B)が含有する架橋剤と混合することで、布帛表面近傍に顔料がとどまることになる。その結果、布帛表面の擦れにより、より表面に配向した顔料が剥がれ落ちやすくなり、耐擦性が低下することになる。
【0079】
一方、顔料インク(A)と定着インク(B)の付与間隔が50秒以上になると、例えば、顔料インク(A)が先に布帛上に付与される場合、あるいは定着インク(B)が先に布帛上に付与される場合のいずれにおいても、先に付与されたインクの乾燥が過度に進行し、後に付与されるインクと液体状態で混合することが難しくなり、架橋性高分子分散剤と架橋剤との架橋反応が十分に進まず、本願発明の所望の効果を得ることができない。
【0080】
よって、本発明で規定する様に、顔料インク(A)と定着インク(B)の布帛への付与間隔を、10ms以上、50秒未満とすることにより、摩擦堅牢度、洗濯堅牢性が向上し、滲みが抑制され、本発明の効果を得られることができる。なお、この場合、顔料インク(A)あるいは定着インク(B)の布帛への付与順序は特に問わない。本発明においては、顔料インク(A)と定着インク(B)を、10ms以上、50秒未満の付与間隔で、オンラインで連続して印字する方法が好ましい。
【0081】
〔印字及び加熱〕
本発明のインクジェット画像形成方法においては、上述のように顔料インク(A)を布帛に付与した後に定着インク(B)を付与しても、あるいは定着インク(B)を先に布帛に付与した後に、顔料インク(A)を付与してもよい。両者のインクが布帛内で乾燥しないうちに、液−液混合を起こすことにより、効率的な架橋反応の環境を作り出すことができる。上記2種のインクが付与された布帛は、後処理として、100℃〜180℃で、3〜15分間の加熱処理を施すことが、架橋反応が進行し、堅牢性の高いプリント物を得ることができる観点から好ましい。
【0082】
加熱方法としては、布帛搬送系もしくはプラテン部材に発熱ヒータを組み込み、布帛の下方より接触式で加熱する方法や、ランプ等により下方、もしくは上方から非接触で布帛を加熱する方法を選択することができる。
【0083】
《布帛》
本発明のインクジェット画像形成方法に適用可能な布帛としては、ポリエステル、綿、絹、麻、レーヨン、アセテート繊維からなる布帛が好ましい。特にポリエステル繊維を主体とする布帛が好ましく、ポリエステル繊維を主体とする繊維を、織物、編物、不織物等いずれの形態にしたものでもよい。
【0084】
本発明に適用する布帛としては、ポリエステル繊維が100%であることが好ましいが、レーヨン、絹、ポリウレタン、アクリル、ナイロン及び羊毛等との混紡織物または混紡不織物等も使用することができる。また、本発明に係る布帛を構成する糸の太さとしては10〜100dの範囲が好ましい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0086】
《顔料分散体の調製》
〔顔料分散体1の調製〕
顔料分散剤としてスチレン−アクリル酸共重合体(ジョンクリル63、BASF社製)の3部と、イオン交換水の82部とを、70℃で攪拌、混合して、溶解した。
【0087】
次いで、上記溶液に、シアン顔料としてC.Iピグメントブルー15:3を15部添加し、プレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、シアン顔料の含有量が15質量%の顔料分散体1を調製した。この顔料分散体に含まれるシアン顔料粒子の平均粒径は122nmであった。なお、粒径測定はマルバーン社製ゼータサイザ1000HSにより行った。
【0088】
〔顔料分散体2の調製〕
顔料分散剤としてスチレン−アクリル酸共重合体(ARUFON UC−3080、東亞合成社製)の3部と、イオン交換水の82部とを、70℃で攪拌、混合して、溶解した。
【0089】
次いで、上記溶液に、シアン顔料としてC.Iピグメントブルー15:3を15部添加し、プレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、シアン顔料の含有量が15質量%の顔料分散体2を調製した。この顔料分散体に含まれるシアン顔料粒子の平均粒径は108nmであった。なお、粒径測定はマルバーン社製ゼータサイザ1000HSにより行った。
【0090】
〔顔料分散体3の調製〕
顔料分散剤としてアクリル酸(EFKA4510、EFKA社製)の4部と、イオン交換水の81部とを、70℃で攪拌、混合して溶解した。
【0091】
次いで、上記溶液に、シアン顔料としてC.Iピグメントブルー15:3を15部添加し、プレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、シアン顔料の含有量が15質量%の顔料分散体3を調製した。この顔料分散体に含まれるシアン顔料粒子の平均粒径は130nmであった。なお、粒径測定はマルバーン社製ゼータサイザ1000HSにより行った。
【0092】
〔顔料分散体4の調製〕
顔料分散剤としてスチレン−アクリル酸共重合体(ARUFON UC−3910、東亞合成社製)の3部と、イオン交換水の82部とを、70℃で攪拌、混合して溶解した。
【0093】
次いで、上記溶液に、シアン顔料としてC.Iピグメントブルー15:3を15部添加し、プレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、シアン顔料の含有量が15質量%の顔料分散体4を調製した。この顔料分散体に含まれるシアン顔料粒子の平均粒径は110nmであった。なお、粒径測定はマルバーン社製ゼータサイザ1000HSにより行った。
【0094】
〔顔料分散体5の調製〕
顔料分散剤としてメチルオキシラン(Solsperse20000、Avecia社製)の4部と、イオン交換水の81部とを、70℃で攪拌、混合して溶解した。
【0095】
次いで、上記溶液に、シアン顔料としてC.Iピグメントブルー15:3を15部添加し、プレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、シアン顔料の含有量が15質量%の顔料分散体5を調製した。この顔料分散体に含まれるシアン顔料粒子の平均粒径は110nmであった。なお、粒径測定はマルバーン社製ゼータサイザ1000HSにより行った。
【0096】
〔顔料分散体6の調製〕
顔料分散剤として、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドブロック共重合体(BYK184 BYK社製、非架橋性高分子分散剤)の3部と、イオン交換水の82部とを、70℃で攪拌、混合して溶解した。
【0097】
次いで、上記溶液に、シアン顔料としてC.Iピグメントブルー15:3を15部添加し、プレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、シアン顔料の含有量が15質量%の比較例である顔料分散体6を調製した。この顔料分散体に含まれるシアン顔料粒子の平均粒径は129nmであった。なお、粒径測定はマルバーン社製ゼータサイザ1000HSにより行った。
【0098】
〔顔料分散体7の調製〕
顔料分散剤としてスチレン−アクリル酸共重合体(ARUFON UC−3920、東亞合成社製)の3部と、イオン交換水の82部とを70℃で攪拌、混合して溶解した。
【0099】
次いで、上記溶液に、シアン顔料としてC.Iピグメントブルー15:3を15部添加し、プレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、シアン顔料の含有量が15質量%の顔料分散体7を調製した。この顔料分散体に含まれるシアン顔料粒子の平均粒径は122nmであった。なお、粒径測定はマルバーン社製ゼータサイザ1000HSにより行った。
【0100】
《顔料インク(A)の調製》
〔顔料インク(A)101の調製〕
上記調製した顔料分散体1の46.6部を攪拌しながら、下記の各添加剤を順次添加して、最後にイオン交換水を加えて全量100部に仕上げて、顔料インクを調製した。その後、0.8μmフィルターにより濾過して、顔料インク(A)101を得た。
【0101】
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
2−ヘキサンジオール 5.0部
ジエチレングリコール 11.2部
オルフィンE1010(アセチレングリコール系界面活性剤:日信化学社製)0.3部
〔顔料インク(A)102〜顔料インク(A)107の調製〕
上記顔料インク(A)101の調製において、顔料分散体1を、それぞれ顔料分散体2〜顔料分散体7に変更した以外は同様にして、顔料インク(A)102〜顔料インク(A)107を調製した。
【0102】
《定着インク(B)の調製》
〔定着インク(B)101の調製〕
下記に記載の各添加剤を順次混合し、最後のイオン交換水を加えて全量を100部に仕上げた。次いで、0.8μmフィルターにより濾過して、定着インク(B)101を調製した。
【0103】
オキサゾリン基含有ポリマー(エポクロス 日本触媒社製) 3.0部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
1、2−ヘキサンジオール 5.0部
ジエチレングリコール 11.2部
オルフィンE1010(アセチレングリコール系界面活性剤:日信化学社製)0.3部
〔定着インク(B)102の調製〕
上記定着インク(B)101の調製において、オキサゾリン基含有ポリマーを、ヘキサメチレンジイソシアネート(デュラエース WB−40−80D 旭化成社製)に変更した以外は同様にして、定着インク(B)102を調製した。
【0104】
《捺染プリント物の作製》
〔プリント物101の作製〕
インクジェットプリンタNassengerKS−1600IIに接触式ヒータを取り付け、ポリエステル繊維100%、糸の太さ50dの布帛を搬送しながらベタ画像をプリントした。なお、布帛温度は50℃になるようにヒータ温度を調整した。
【0105】
インクジェットプリンタの2つのインクジェットヘッドの一方に、上記調製した顔料インク(A)101を装填し、もう一方のインクジェットヘッドに定着インク(B)101を装填し、顔料インク(A)101を布帛上に付与した1ms後に、定着インク(B)101を付与した。印字後の布帛に、150℃で、10分の加熱処理を施して、プリント物101を作製した。
【0106】
〔プリント物102〜114の作製〕
上記プリント物101の作製において、顔料インク(A)の種類、定着インク(B)及び顔料インク(A)と定着インク(B)との付与間隔を、表1に記載の組み合わせに変更した以外は同様にして、プリント物102〜114を作製した。なお、顔料インク(A)と定着インク(B)との付与間隔の調整は、各インクジェットヘッドの移動速度、布帛搬送速度によって制御した。ただし、付与間隔が50秒を超える水準は、顔料インク(A)によりベタ画像を印刷した後、もう一度上記プリンタで、所定の間隔をおいて定着インク(B)のみを吐出させる工程を設けることで対応した。
【0107】
《プリント物の評価》
上記作製した各プリント物について、下記の各評価を行った。
【0108】
〔摩擦堅牢性の評価〕
JIS L0849(染色した繊維製品の摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に規定された方法に従い、I型試験機を用いて乾燥法により行った。各プリント物と摩擦用白綿布とを互いに摩擦し、摩擦用白綿布の着色の程度を汚染用グレースケールと比較して堅牢度を求め、下記の基準に従って摩擦堅牢性を評価した。
【0109】
◎:堅牢度が、5級である
○:堅牢度が、3級または4級である
△:堅牢度が、2級である
×:堅牢度が、1級である
〔洗濯堅牢性の評価〕
上記作製した各プリント物を、日立アプライアンス社製の洗濯乾燥機BD−V7300Lを用いて、10回の洗濯及び乾燥を繰り返して行った。次いで、洗濯を行ってないプリント物を基準として、捺染部分の剥落の有無を目視観察し、下記の基準に従って洗濯堅牢性を評価した。
【0110】
◎:洗濯前後での捺染部分の剥落が、全く認められない
○:洗濯後の捺染部分でわずかな剥落は認められるが、実用上は問題のない品質である
△:洗濯後の捺染部分で剥落が認められ、色ムラが目視で認識できる
×:洗濯後に、捺染部分の大きな剥落が認められ、実用に耐えない品質である
〔にじみ耐性の評価〕
上記作製したプリント物のベタ画像部(印字部)と非印字部の境界における滲みの発生の有無を目視観察し、下記の基準に従ってにじみ耐性を評価した。
【0111】
◎:印字部と非印字部の境界で、にじみの発生は全く観察されない
○:印字部と非印字部の境界で、わずかににじみの発生は認められる
△:印字部と非印字部の境界で、にじみの発生が認められる
×:印字部と非印字部の境界で、非常に強いにじみの発生が認められる
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
表1に記載の結果より明らかなように、本発明で規定する条件で作製した本発明のプリント物は、比較例に対し、摩擦堅牢性及び洗濯堅牢性に優れ、にじみ耐性に優れていることが分かる。
【0114】
本発明に対し、顔料インク(A)と定着インク(B)の布帛への付与間隔を10ms未満として作製した比較例のプリント物101〜103は、摩擦堅牢性及び洗濯堅牢性に乏しく、かつにじみ耐性が低い結果となった。推定原因としては、付与間隔が10ms未満という短い時間になると、先に付与した顔料インク(A)が十分に布帛に浸透する前に、布帛表面から表面近傍でそのあと短時間で付与される定着インク(B)が顔料インク(A)とが混じりあい、顔料が定着されるため、外部からの力によって、顔料粒子が脱着しやすいことが挙げられる。
【0115】
これらの性能は定着インクを用いないで、顔料インクのみでプリント物を作製した比較例のプリント物104、107とほぼ同様の結果となり、顔料分散剤の種類違いでの差はみられなかった。
【0116】
一方、顔料インク(A)と定着インク(B)との付与間隔が50秒を越える条件で作製した比較例のプリント物113、114は、摩擦堅牢性及び洗濯堅牢性が若干低下する傾向にある。これは、顔料粒子を含む顔料インク(A)が付与されてから十分な時間を置くことで、顔料粒子は布帛の十分内部に浸透する。しかし、同時に顔料インク(A)中の溶剤成分が揮発し、乾燥状態にある。ここに定着インク(B)が付与された場合、定着インク(B)中に含まれる架橋剤が顔料分散剤と十分均一に混じり合うことが難しなり、その後の加熱定着処理においても架橋反応が十分に進行しないことに起因すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と架橋性高分子分散剤を含むインクジェット用水性顔料インク(A)と、架橋剤を含む定着インク(B)とから構成されるインクジェットインクセットを、布帛上に付与して画像形成を行う画像形成方法であって、該インクジェット用水性顔料インク(A)と該定着インク(B)の布帛への付与間隔が、10ms以上、50秒未満であることを特徴とするインクジェット画像形成方法。
【請求項2】
前記インクジェット用水性顔料インク(A)が含有する前記架橋性高分子分散剤が、疎水基またはイオン性基を有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット画像形成方法。
【請求項3】
前記定着インク(B)が含有する前記架橋剤が、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ樹脂化合物、エチレン尿素化合物、エチレンイミン化合物、メラミン系化合物、有機酸ジヒドラジン化合物、ジアセトンアクリルアミド化合物、カルボジイミド化合物及びシランカップリング剤から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット画像形成方法。
【請求項4】
前記布帛上に、前記インクジェット用水性顔料インク(A)及び前記定着インク(B)を付与した後、該布帛に100℃以上、180℃以下の熱定着処理を施すことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット画像形成方法。

【公開番号】特開2012−179789(P2012−179789A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43664(P2011−43664)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】