説明

インクジェット装置

【課題】インクジェットヘッドでは、印字の休止時間が長くなるとノズルにおけるインク粘度の増加によりノズルの目詰まりが生じたり、目詰まりに至らずとも印字休止時間の長さによって、インク滴の吐出が正常に行われず、画質が劣化する。
【解決手段】インクジェットヘッドに連結されてインク循環系のインクタンクから検出される圧力に基づき、予め設定された演算式により、インクノズルの圧力を求める演算手段を有する。演算手段により求められた値Yを、圧力判断手段において基準値Pnと比較させ、この基準値に対して正圧か負圧かを判断する。インク循環系にはポンプが連結され、基準値Pnに対して正圧と判断された場合は、インクノズルに対する負圧値を高める。圧力判断手段は、基準値Pnを負圧側に変化させることができ、これによりノズルから増粘インク等を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクを循環させる流路に駆動電極が設けられ、この駆動電極に電界をかけることによりインク吐出口からインクを吐出させるインクジェットヘッドを備えたインクジェット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク流路の先端にインクのノズルを設け、このノズルからインク滴を吐出させ、画像を形成するようにしたインクジェットヘッドでは、しばらくインクの吐出が行われないと、細いノズル内でインクが乾燥する。すなわち、ノズル内に増粘化したインクが滞留することに起因するノズルの目詰まりやインクの吐出不良を生じることがある。このため、種々の乾燥防止方法がある。代表的な方法としては、インクジェットが非印字領域に達した時に、ノズルにノズルキャップを被せて外気と遮断する方法がある。また、内部にインク吸収パッドが設けられたノズルキャップを被せた後に、外部に設けた吸引手段によりノズル内のインクを吸引する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
さらに、ノズルの目詰まりやインクの吐出不良を防止する方法として、圧力発生手段により各ノズルのインクメニスカスを微振動させる空駆動動作を、印刷動作に先立って行われるキャリッジの移動期間中に行うようにする技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−15911号公報
【特許文献2】特開2005−96272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インクジェットヘッドのノズルにノズルキャップを被せるだけの方法は、ノズルキャップの気密性が余程保たれていないとノズルの乾燥を防止することが出来ず、ノズル乾燥防止方法としては不十分である。吸引手段によりノズル内のインクを外部に向けて吸引する方法は、ノズル内で乾燥により固まったインクを勢い良く吸引する必要があり、インクの消費量が多くなるという問題点がある。
【0006】
このように、インクジェットヘッドでは、印字の休止時間が長くなるとノズルにおけるインク粘度の増加によりノズルの目詰まりが生じる。また、目詰まりに至らずとも印字休止時間の長さによって、インク滴の吐出が正常に行われず、画質が劣化するという問題があった。
【0007】
この問題に対しては、印刷とは関係のない予備吐出を行うことにより、ノズルの増粘したインクを排出する手法が知られているが、この方法では予備吐出による余剰なインクの消費が多くなる問題がある。
【0008】
また、メニスカスに微振動させる空駆動を行うことにより、ノズルのインク増粘を低減する方法では、増粘したインクは外部に排出されるわけではないため、ヘッドが使用される状態遷移によってはノズルの目詰まりを十分に除去することは出来ない。この空駆動処理が、インクジェットヘッドをホ−ムポジションから印刷位置に移動させる期間中である加減速領域のみでおこなわれ、しかも印刷状態に応じた空駆動処理が行われないため、予備吐出の間隔をそれ以上長く出来ないという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施の形態によるインクジェット装置は、インクを循環させる流路に駆動電極が設けられ、この駆動電極に電界をかけることでインクノズルからインクを吐出させるインクジェットヘッドを備えたインクジェット装置であって、管路部材と、前記インクジェットヘッドに前記管路部材を介して連結され、液面高さを前記インクノズルの液面高さに合わせたインクタンクと、前記インクタンクから検出される圧力に基づき、予め設定された演算式により、前記インクノズルの圧力を求める演算手段と、前記インクノズルの、インクを吐出していないときの適正圧力を基準値とし、この基準値に対して前記演算手段により求められた値が正圧か負圧かを判断する圧力判断手段と、前記インクタンクに連結され、前記圧力判断手段により正圧と判断された場合は前記インクノズルに対する負圧値を高める負圧調整手段とを備え、前記圧力判断手段は、前記基準値を負圧側に変化させることが可能であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット装置の構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に用いる圧力判断手段の判断機能を説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態によりノズル内の増粘したインク等が排出される状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態におけるインクヘッドジェット1を備えたインクジェット装置の構成を示している。インクジェットヘッド1は、詳細な構成の図示は省略したが、特開2009−20275号公報で説明されているような構成であり、インクを循環させる複数の流路を有し、これら各流路の内面に薄膜状の駆動電極がそれぞれ設けられ、図示下面部分には、複数の流路それぞれに対応したインク吐出口(以下、ノズルと呼ぶ)が設けられている。そして、この駆動電極に電界をかけることによりノズルからインク滴を吐出させるものである。
【0013】
インクジェットヘッド1は、上流インクタンク3と管路部材4を介して連結され、下流側インクタンク5とも管路部材6を介して連結している。下流側インクタンク5は管路部材20を介して送液ポンプ13の吸い込み側に連結し、この送液ポンプ13の吐出側は管路部材18、フィルタ17、管路部材16を順次介して上流側インクタンク3と連結している。これらの相互に連結されたインク循環設備は、インクジェットヘッド1の前述した流路と連通しており、この流路とともにインク循環系2を構成する。
【0014】
インク循環系2を構成する管路部材20には、供給インクタンク14との間に、送液ポンプ23が設けられている。この送液ポンプ23は、正転により供給インクタンク14内のインクをインク循環系2へ供給し、逆転によりインク循環系2からインクを供給インクタンク14へ戻し、インク循環系2の負圧値を高めるように機能する。したがって、このポンプ23は、インク循環系2の負圧値を調整する負圧調整手段としても機能する。
【0015】
上流側インクタンク3には、管路部材7を介して圧力計8が取りつけられ、上流側インクタンク3内の圧力Aをモニターする。また、下流側インクタンク5にも、管路部材9を介して圧力計10が取り付けられており、下流側インクタンク5内の圧力Bをモニターする。これら上流側の圧力計8と下流側の圧力計10は、演算器11に接続されており、各々の圧力計8,10でモニターリングされた圧力デ−タA,Bは演算器11に送信され、演算処理が実行される。演算器11は、後述する演算式により、インクジェットヘッド1のノズル部分の圧力Yを求める。したがって、この演算器11は、インク循環系2から検出される圧力に基づき、予め設定された演算式により、ノズル部分の圧力Yを求める演算手段として機能する。
【0016】
演算器11は、比較器12と接続されており、演算器11で演算処理されたデ−タYは比較器12に送信される。比較器12は、演算器11により求められた値Yが、予め設定された基準値に対して正圧か負圧かを判断する圧力判断手段として機能する。この比較器12の判断結果は、ポンプ13に対する正転/逆転指令として出力される。
【0017】
ここで、基準値とは、インクノズルの、インクを吐出していないときの適正圧力(以下、適性ノズル圧力ともいう)である。これに対し、演算手段11により求められた値Yは、インク循環系2から検出された圧力に基づき求められた現状のノズル部分の圧力である。
【0018】
本実施の形態では、この基準値を負圧側に変化できるように構成したことが特徴の一つである。
【0019】
図2に比較器12のブロック図を記す。演算器11により処理されたデ−タYは、図2で示すように2つの比較部を有し、適正ノズル圧力Pn+Δ及びPn−Δと比較される。そして、データYが適正ノズル圧力Pn+Δに対して正圧の場合は、比較器12より送液ポンプ13を逆転させる指示を出しインクの減少動作を行う。すなわち、デ−タYが適正ノズル圧力Pn+Δに対し正圧の間、送液ポンプ13を逆転させてインクの減少動作を行い、ノズルに対する負圧を高めるように動作する。デ−タYが適正ノズル圧力Pnと同じになったとき(データY=Pn)、送液ポンプ13を停止させ、インクの減少動作を停止する。
【0020】
これに対し、デ−タYが適正ノズル圧力Pn−Δに対して負圧の場合、比較器12より送液ポンプ13を正転させる指示を出し、インクの補給動作を行う。すなわち、データYが適正ノズル圧力Pn−Δよりも負圧(インクがノズルから滴下されていることを意味する)の間、送液ポンプ13を正転させてインクの補給動作を行う。データYが適正ノズル圧力Pnと同じ(データY=Pn)になったとき送液ポンプ13が停止し、インクの補給動作を停止する。
【0021】
なお、図2の比較器12のブロック図において、送液ポンプ13を正転及び逆転させる際にΔ(ヒステリシス)を付加させているが、これは、送液ポンプ13を正転させる場合、正転させる前の状態に戻すように、基準値(Pn−Δ)で送液ポンプ13を駆動させており、送液ポンプ13を逆転させる場合も、逆転させる前の状態に戻るように、基準値(Pn+Δ)で送液ポンプ13を駆動させるようにしている。
【0022】
ここで、図1の構成では、通常のインクジェットヘッド1が吐出しないとき、適正ノズル圧力Pnは、インクジェットヘッド1に対する上流側管路抵抗をRU、下流側管路抵抗をRLとし、流路抵抗比RU:RL=1:rとした場合、P1(上流側圧力源の単位面積当たりのエネルギ−)とP2(下流側圧力源の単位面積当たりのエネルギ−)との関係が、P1・r/(1+r)+P2/(1+r)=Pn(適正ノズル圧力≒−1kPa)となるように制御されている。図1の実施形態では、上流側インクタンク3と下流側インクタンク4の液面高さをノズル面(インクジェットヘッドの図示下面)の高さに合せているので、P1、P2は各々のインクタンクの空気圧A,Bに等しい。周囲温度やインクの種類が変わって流路抵抗が変化しても、ノズル近傍圧力は変化しない。
【0023】
したがって、演算手段11における演算式は以下のように定める。
【数1】

【0024】
上記演算式により、インク循環系2における実際の圧力A,Bに基づき、インクノズル部分の圧力がデータYとして求められる。そして、比較器12により基準値Pnと比較され、基準値に対して正圧か負圧かが判断される。以下、この基準値Pnについて説明する。
【0025】
インクジェットヘッド1を搭載したインクジェット式印刷装置(図示せず)が、長期間使用されない時や、印字の休止時間が長い場合は、比較器12の基準値(適正ノズル圧力Pn)を、より負圧側に変化させる。すなわち、通常のインクジェットヘッド1が吐出しない時の基準値は、前述のように、Pn=−1kPaと設定されている。これを、図3に示すようにメニスカスが後退する圧力に合せる。例えば、比較器12に基準値として、適正ノズル圧力Pnを−4kPaに設定する。このように設定すると、データYは、−4kPaになるまで基準値に対する正圧状態を維持するので、この間、送液ポンプ13は逆転し続け、インクの減少動作を行う。このインクの減少動作によりインクが下流側に引っ張られ、その際、ノズル孔内に存在する気泡や増粘したインクは、図3A〜Eで示すように流動させられ、ノズル孔内からインク循環の流れによって下流側インクタンク5へ送液される。
【0026】
図3A〜Eは、上述したインク減少動作による負圧増大時の、インクジェットヘッド1のノズル孔内におけるメニスカスの挙動を示す図である。図3Aに示すメニスカスは、図3Bに示すように後退し始め、その後、図3C、図3Dのように後退が進行する。その際ノズル孔内に存在する気泡や増粘したインクを流動させ、図3Eのようにノズル孔内からインク循環の流れによって、下流側インクタンク5へ送液される。増粘したインクは下流側インクタンク5内で薄められ、またはフィルタ17でトラップされるので、インクジェットヘッド1に再び戻ってくることはない。その後、圧力を通常の適正な負圧(−1kPa)に戻すことで印字可能とする。
【0027】
このような構成をとることにより、ノズル孔内に存在する気泡や増粘したインク・固着したインクを流動させ、ノズル孔内から除去することができる。この結果、常にノズル孔内が新鮮なインクで濡れている状態となり、増粘したインクによるノズル孔の目詰まりや不吐出、吐出方向の歪み等が生じないインクジェットヘッド1を得ることができる。
【0028】
このように、インクジェットヘッドを搭載したインクジェット式印刷装置が長期間使用されないときや印字待機状態が長いときに、負圧値を制御し、通常の負圧値(−1kPa)よりも大きい負圧(−4kPa)にすることにより、ノズル孔内のインクのメニスカスを移動させ、これによりノズル孔内に固着した増粘インクを確実に流動化させ、インク循環によって下流側へ排出させることができる。したがって、常にノズル孔内がインクで濡れている状態となり、増粘したインクによるノズル孔の目詰まりや不吐出、また吐出方向の歪み等が生じない。
【0029】
なお、インクジェット式印刷装置が長期間使用されないことや、印字待機状態が長いことの判断は、例えば、タイマーなどにより吐出口からインクが吐出されない時間を測定し、このインクが吐出されない時間が予定値を越えることにより、圧力判断手段の基準値を負圧側に変化させるようにすればよい。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1・・・インクジェットヘッド
2・・・インク循環系
3・・・上流側のインクタンク
4,6,13,16,17,18,20・・・インク循環設備
5・・・下流側のインクタンク
8,10・・・圧力計
11・・・演算手段
12・・・圧力判断手段
23・・・負圧調整手段(ポンプ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを循環させる流路に駆動電極が設けられ、この駆動電極に電界をかけることでインクノズルからインクを吐出させるインクジェットヘッドを備えたインクジェット装置であって、
管路部材と、
前記インクジェットヘッドに前記管路部材を介して連結され、液面高さを前記インクノズルの液面高さに合わせたインクタンクと、
前記インクタンクから検出される圧力に基づき、予め設定された演算式により、前記インクノズルの圧力を求める演算手段と、
前記インクノズルの、インクを吐出していないときの適正圧力を基準値とし、この基準値に対して前記演算手段により求められた値が正圧か負圧かを判断する圧力判断手段と、
前記インクタンクに連結され、前記圧力判断手段により正圧と判断された場合は前記インクノズルに対する負圧値を高める負圧調整手段とを備え、
前記圧力判断手段は、前記基準値を負圧側に変化させることが可能であることを特徴とするインクジェット装置。
【請求項2】
前記圧力調整手段は、前記吐出口からインクが吐出されない時間が予定値を越えると、前記基準値を負圧側に変化させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット装置。
【請求項3】
前記インクタンクは、前記インクジェットヘッドに対する上流側と下流側にそれぞれ設けられ、これらインクタンクにはそれぞれ内部圧力を検出する圧力計が設けられ、
前記演算手段は、これら上流側および下流側の圧力計からの測定値を入力し、これらの測定値と、予め設定された上流側のインクタンクからインクジェットヘッドまでの流路抵抗値、及びこのインクジェットヘッドから下流側インクタンクまでの流路抵抗値とから前記インクノズルの圧力を求める
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット装置。
【請求項4】
前記負圧調整手段は、前記圧力判断手段による判断結果が前記基準値に対して正圧の場合、前記インクタンクのインク量を減少させる方向に運転されるポンプであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット装置。
【請求項5】
前記ポンプは、前記圧力判断手段による判断結果が前記基準値に対して負圧の場合、前記インクタンクへのインク供給方向に運転されることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−107403(P2013−107403A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−48164(P2013−48164)
【出願日】平成25年3月11日(2013.3.11)
【分割の表示】特願2010−205633(P2010−205633)の分割
【原出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】