説明

インクジェット記録シート用包装材料及びインクジェット記録方法

【課題】記録前の湿度による画像への影響を抑え、色再現性を安定化し、記録直後からの色変わりを防止することができるインクジェット記録シート用包装材料を提供する。
【解決手段】調湿機能を有する調湿材を用いることにより、少なくとも、インクを受容する多孔質層を有する多孔質型インクジェット記録シート23が収容されるシート収容部が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質層を有する多孔質型インクジェット記録シートを包装するインクジェット記録シート用包装材料、及びこれを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報技術産業の急速な発展に伴って、種々の情報処理システムが開発されると共に、各々の情報処理システムに適した記録方法及び記録装置も開発、実用化されており、例えば、インクジェット記録方法は、オフィスのみならずホームユースの形態で広く利用されている。
【0003】
このインクジェット記録方法によって記録された画像は、いわゆる写真ライクな比較的高い画像品質を有するに至っており、近年では、そのような画像を高速に又は一度に多量に印画したり、あるいは写真の代替画像として以外の例えば印刷用途など、種々の商業的用途が期待されている。
【0004】
上記状況に関連して、膨潤型記録媒体を調湿手段の存在下に包装材内に密封してインクジェット記録媒体を調湿する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。膨潤型記録媒体の場合、媒体表面の水分含量によってはインクの吸収の程度が著しく異なり、吸収型記録媒体の場合とは異なって媒体表面が著しく乾燥し水分含量が少なくなると、インク吸収が不十分で良好な画像が得られなくなるとされている。
【0005】
一方、熱現像感光材料や感熱記録材料、X線撮影用のシート状記録材料を包装するための包装材料が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−180757号公報
【特許文献2】特開2005−77878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インクジェット記録システムにおいては、高品質化ないし高性能化が進むにつれ、画像を記録する環境の湿度変化による性能変動(例えば、カール性、脆性、色相など)への影響が無視できなくなっている。
【0007】
例えば、染料タイプのインクを用いてインクジェット法で画像記録する場合、インク受容層の水分量が変化すると、インクの多孔質層への浸透挙動が変化し、インク受容層の深さ方向(層厚方向)におけるインクの存在位置が変わるため、最終的に得られる画像の色相が変化してしまう課題がある。
特に、着滴したインクが良好に吸収されるように多孔質構造の層が設けられたインクジェット記録用の記録媒体では、他の記録方式用の記録媒体に比べ、記録面における環境雰囲気との接触面積が広いため、環境湿度の影響を受けやすい特徴がある。
【0008】
また、高速処理ないし多数枚処理が可能なプリンタでは、インク吐出後に乾燥処理を行なうことで画像部中のインク溶媒(水や有機溶剤など)を蒸発させる場合があるが、画像記録される以前の湿度環境でインク受容層中の水分量が変化してしまうと、乾燥工程で除去される溶媒量が変わるため、さらに画像品質にもたらす影響は大きくなる。この場合、必要以上の乾燥処理を行なうことで最終的な画像品質をある程度の範囲に保つことは可能ではあるが、記録媒体自体のカール挙動等に悪影響し、搬送性やプリント品質が悪化する。そのため、インク吐出後の乾燥処理は、必要とされる乾燥条件内に抑えて乾燥処理を行なうことが求められる。
【0009】
このように、インクジェット記録システムにおいては、画像の高品質化(例えば色相(色再現性)、高速処理や多数枚処理等の高性能化(例えばカール性、色変わり)等の面で、他の記録方式とは異なる特有の事情が存在するにも関わらず、これらを考慮して安定的に良好な品質の画像を記録することができるシステムの構築は、未だ達成されていないのが現状である。
【0010】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、記録前の湿度による画像への影響を抑え、色再現性、カール性を安定化し、記録直後からの色変わりを防止することができるインクジェット記録シート用包装材料、及び記録前の湿度による画像への影響を抑え、色再現性、カール性を安定化し、記録直後からの色変わりが防止された画像を記録できるインクジェット記録方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、多孔質層が設けられた記録媒体を用いて高品質・高性能化したインクジェット記録システムでは、環境依存性、特に湿度依存性の影響を従来システム以上に受けやすい傾向にあるため、多孔質層の記録前の水分含量が大きくならないように取扱うことが、インク画像の色相、カール性を安定化し、例えば記録直後に紙等が重なった部分と重なっていない部分とで生じる色差(色変わり)の発生を低減することができるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。特に、高速処理や多数枚処理等を行なうインクジェット記録や、高速処理や多数枚処理等の後に乾燥処理を施すインクジェット記録などの場合に有効である。
【0012】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 調湿機能を有する調湿材を用いることにより少なくとも、インクを受容する多孔質層を有する多孔質型インクジェット記録シートが収容されるシート収容部が設けられたインクジェット記録シート用包装材料である。
【0013】
<2> 多孔質型インクジェット記録シートが収容された状態でインクジェット記録用プリンタに装着可能であって、装着中の少なくとも前記多孔質層が前記調湿材により調湿されることを特徴とする前記<1>に記載のインクジェット記録シート用包装材料である。
【0014】
<3> 前記調湿材の少なくとも一部は、パルプ全体に対して20〜80質量%の機械パルプを含む原紙であることを特徴とする前記<1>又は前記<2>に記載のインクジェット記録シート用包装材料である。
【0015】
<4> 前記調湿材は、収容された多孔質型インクジェット記録シートの前記多孔質層の表面と接触する位置に配されたことを特徴とする前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のインクジェット記録シート用包装材料である。
【0016】
<5> 前記調湿材の少なくとも前記多孔質層の表面と接触する領域のイオン濃度が100mg/m以下であることを特徴とする前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載のインクジェット記録シート用包装材料である。
【0017】
<6> 前記イオンが、ナトリウム(Na)イオン及びカリウム(K)イオンの少なくとも一方であることを特徴とする前記<5>に記載のインクジェット記録シート用包装材料である。
【0018】
<7> インクジェット記録用プリンタに装着された前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のインクジェット記録シート用包装材料から多孔質型インクジェット記録シートを前記インクジェット記録用プリンタに供給する工程と、供給された多孔質型インクジェット記録シートの多孔質層に、インクジェット法により染料インクを吐出する工程と、吐出により記録された画像部に乾燥風を供給し、前記画像部の溶媒の少なくとも1部を除去する工程と、を有するインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、記録前の湿度による画像への影響を抑え、色再現性、カール性を安定化し、記録直後からの色変わりを防止することができるインクジェット記録シート用包装材料、及び記録前の湿度による画像への影響を抑え、色再現性、カール性を安定化し、記録直後からの色変わりが防止された画像を記録できるインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のインクジェット記録シート用包装材料及びこれを用いたインクジェット記録方法について詳細に説明する。
【0021】
本発明のインクジェット記録シート用包装材料は、調湿機能を有する調湿材を用いることによって、少なくとも、インクを受容する多孔質層(以下、インク受容層ともいう。)を有する多孔質型インクジェット記録シートが収容されるシート収容部を設けて構成されたものである。
【0022】
本発明においては、少なくともシート収容部が調湿機能を有する調湿材(以下、単に「調湿材」ともいう。)を用いて形成されることで、インク着滴前の多孔質層における水分状態が大きく増加しないように抑えられるので、安定した色相、低カールの画像が得られ、高速処理や多数枚処理等による記録後、比較的短時間の間に重ねられるような場合でも、例えば重なった部分と重なっていない部分との間で画像に色相変動(色変わり)が発生するのを効果的に防止することができる。特に、包装材料中にインクジェット記録シートが収容されたままプリンタに装着されることで、長時間その雰囲気中の水分に曝されることなく保持でき、画像品質やカール性をより安定的に保証することができる。
【0023】
本発明における調湿材の「調湿」とは、密封内部の雰囲気が高湿状態になると水分を吸着し、逆に低湿状態になると高湿時に吸着していた水分を雰囲気中に放出して、外部の温度や湿度に関らず、内部雰囲気の湿度を一定に保つ機能をいう。環境湿度が一定に保られることにより、インクが着滴するインク受容層中の含水率を所定範囲に調整することができる。
【0024】
本発明のインクジェット記録シート用包装材料は、少なくとも、多孔質層を有する多孔質型インクジェット記録シートが収容されるシート収容部の少なくとも一部に調湿材が用いられるが、吸湿性の多孔質層(好ましくはシリカ含有多孔質層)の吸湿をより効果的に抑制する観点から、シート収容部はその全体が調湿材からなる場合が好ましく、更にはインクジェット記録シート用包装材の全体が調湿材からなる場合がより好ましい。
【0025】
調湿機能を有する調湿材としては、調湿紙が挙げられ、例えば、後述の調湿用材料を製紙用繊維と混合して抄紙して紙にしたものが挙げられる。製紙用繊維としては、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の木材パルプの単独もしくは混合物を主体にして、これに麻、竹、藁、ケナフパルプ等の非木材パルプやカチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ、ミクロフィブリル化パルプ、レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステル等の合成繊維、ガラス繊維、ロックウール等の無機繊維を併用したものを使用できる。
【0026】
前記調湿用材料としては、例えば、塩化カルシウム、シリカゲル、シリカアルミナゲル、活性アルミナ、合成ゼオライト、天然ゼオライト、合成シリカ、酸性白土、活性白土、α−セピオライト、β−セピオライト、パリゴルスカイト(アタパルジャイト)、アロフェン、イモゴライト、ベントナイト、珪藻土、ケイ酸カルシウム等の多孔質金属酸化物や、活性炭等の吸放湿性を有する天然及び合成の粉体が好ましい。これら粉体は、単独であるいは複数種を組み合わせて使用してもよい。また、調湿用材料としては、吸水性ポリマー(例えば、カルボキシメチルセルロース架橋物、ポリエチレンオキシド架橋物、デンプン−アクリロニトリルグラフト共重合体の加水分解物、ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸グラフト重合体の中和物、架橋カルボキシメチルセルロース、アクリル酸・酢酸ビニル共重合体の加水分解物、架橋ポリアクリル酸塩、架橋ポリビニルアルコール変性物、ビニルアルコール・アクリル酸塩共重合体架橋物等)を用いることもできる。また、粉体と吸水性ポリマーとを組み合わせて用いることもできる。
前記調湿用材料を用いる場合、調湿用材料の使用量は調湿紙100質量部に対して15〜70質量部が好ましい。調湿用材料の使用量が前記範囲であると、調湿性能、強度が良好であり、粉落ちを防止できる。
【0027】
調湿機能を全くもしくはほとんど有しない袋(例えば、不透水性で透湿性の布(ゴアテックス(登録商標))など)等に調湿用材料を入れてシート状に加工したものを用い、包装材料のインク収容部の一部に設けるようにしてもよい。ここでの調湿用材料としては、発泡ウレタンや吸水性の高い紙、布、不織布又はポリアクリルアミドに代表される吸水ポリマー等に水を含ませたもの、例えば脱脂綿等が挙げられる。
【0028】
また、本発明における調湿材の全部又は一部として、パルプ全体に対して20〜80質量%の機械パルプを含む原紙を用いた形態が好ましい。原紙に含まれるパルプの20〜80質量%が機械パルプであると、湿度による吸脱水能力として高い機能を示す。そのため、環境湿度が高い場合には、調湿材が吸湿して環境湿度を所望の範囲内に調整し得る。また、環境湿度を調整する機能に持続性があり、多孔質型インクジェット記録シートが長期間収容された場合であっても、シートの画像性能を変化させずに高く維持することができる。
機械パルプの含有量は、湿度による吸脱水能力をより高める点で、原紙に含まれるパルプの30〜70質量%の範囲が好ましく、40〜60質量%の範囲がより好ましい。
【0029】
機械パルプには種々の種類があるが、本発明における調湿材を構成する原紙には、いずれの種類の機械パルプも使用が可能である。例えば、GP(groundwood pulp:グランドパルプ)、RGP(refiner groundwood pulp)、TMP(thermomechanical pulp)などを用いることができる。これらの機械パルプの製造方法は、特に制限はない。例えば、GP製造過程におけるグラインダーによる摩砕条件や、RGP製造過程で用いるディスクの形状や操作条件などは、特に制限されない。
【0030】
パルプ全体に対して20〜80質量%の機械パルプを含む原紙を用いた調湿材を用いて少なくともシート収容部を形成した場合には、上記の調湿用材料を併用せずとも適度に調湿することができる。
また、調湿機能をより向上させる点から、特開平9−101596号公報に記載の調湿部材を用いてもよい。調湿部材の形状は特に制限されないが、例えば特開平9−101596号公報の図1に記載の態様で用いてもよい。
【0031】
前記原紙において、機械パルプ以外のパルプの種類は、特に制限されない。通常は、NBKPやLBKPなどを用いることができ、好ましくはLBKPである。また、複数のパルプを組み合わせてもよく、例えば、NBKPとLBKPとを機械パルプに配合することによって原紙としてもよい。
【0032】
前記原紙の坪量としては、250〜400g/mが好ましく、270〜360g/mがより好ましい。
また、前記原紙の含水率(JIS−P−8127)としては、7%以下が好ましく、1〜4%がより好ましい。
なお、原紙の水分量は、乾燥する等の方法により適宜調整することができる。
【0033】
前記原紙は、そのまま包装材料を成形する調湿材として用いることができる。すなわち、原紙のままインクジェット記録シート用包装材料とすることによっても、記録前の湿度による画像への影響が抑えられ、色再現性を安定化し、記録直後からの色変わりを防止することができる。
【0034】
原紙には、湿度による画像への影響がより効果的に抑えられるように、表面処理を施してもよい。この場合の表面処理法としては、種々の方法があるが、例えばポリビニルアルコールをコーティングする方法を挙げることができる。また、別の表面処理法として、紫外線硬化性樹脂をコーティングする方法も好ましい。具体的には、特公平4−13697号公報に記載の紫外線硬化性樹脂を用いることができ、紫外線硬化性樹脂を用いた場合のコーティング層の厚みは0.05μm〜15μmが好ましい。
【0035】
本発明における調湿材は、イオン濃度が100mg/m以下であるものを選択して用いることが好ましい。調湿材による調湿効果を高める若しくは調整する点から調湿材を多孔質型インクジェット記録シートの多孔質層に近い位置に配置する等の場合に、多孔質層が調湿材で良好に調湿される一方、調湿材と接触して多孔質層にイオン成分が付着し、その付着量が多いと画像滲みが悪化することがある。本発明においては、使用する調湿材に含まれるイオン濃度、好ましくは構造上少なくとも多孔質層の表面と接触する調湿材の領域のイオン濃度を前記範囲とすると、画像滲みを防止することができる。
調湿材のイオン種としては、例えば、Naイオン、Kイオン等が挙げられるが、本発明においては、特にNaイオンのイオン濃度が前記範囲内であることが好ましい。
調湿材の前記イオン濃度としては、上記同様の理由から、50mg/m以下がより好ましく、より好ましくは40mg/m以下である。
【0036】
前記イオン濃度は、本発明のインクジェット記録シート用包装材料を20℃、60%RHの環境条件下で調温調湿した後、同環境下で原子吸光分析法(Atomic Absorption Spectrometry,AAS)により測定される値である。
【0037】
本発明のインクジェット記録シート用包装材料は、多孔質型インクジェット記録シートが収容された状態でインクジェット記録用プリンタに装着可能に構成され、プリンタ装着中の包装内部が調湿材により調湿される態様が好ましい。インク画像が記録される多孔質層(インク受容層)は、大気中の水分を吸収しやすく、雰囲気中の湿度の変動で水分含量が変化しやすいため、記録画像の色相を安定化し、高速処理や多数枚処理などで記録後直ぐに重ねられるような場合の色変わりの発生を防止する点で、記録作業が行なわれる環境雰囲気下に長期間曝されないように保持することができる。
なお、多孔質層を有するインクジェット記録シートの詳細については後述する。
【0038】
例えば図1に示すように、多孔質型インクジェット記録シートが収容されたインクジェット記録シート用包装材料をそのままカセット14に装填することによりインクジェット記録用プリンタ13に装着し、装着されたインクジェット記録シート用包装材料から該インクジェット記録用プリンタに多孔質型インクジェット記録シートを供給して画像記録を行なうことができる。
この場合、例えば図2に示すように、本発明のインクジェット記録シート用包装材料(例えば原紙)を用いて図2(a)のような個装箱24を作製し、これを例えば23℃、相対湿度50%で24時間調湿した後、多孔質型インクジェット記録シート23を収容した状態でインクジェット記録用プリンタ13に装着することができる。このとき、図2(b)に示すように、多孔質型インクジェット記録シートが収容された個装箱24を防湿袋12に入れて減圧、エア脱気し、開口する両端をヒートシールして密封体とし、これを図1に示すようにカセット14に装填して防湿袋12のみを引き出すようにすることにより、プリンタ装着時から装着中の多孔質層を調湿材により調湿することが可能になる。
【0039】
本発明においては、多孔質型インクジェット記録シートが包装材料に収容される場合、収容された多孔質型インクジェット記録シートの多孔質層の表面が調湿材と直接、接触している場合が好ましい。インクを受容する多孔質層は大気との接触面積が広く水分を吸収しやすいことから、収納時は多孔質層の表面を調湿材と接触させることで、記録前の湿度による画像への影響をより効果的に抑えることができる。
【0040】
例えば、図2(a)のように収容される場合、多孔質層を包装材料24の開口側に向けたときには、天部25の裏面(多孔質型インクジェット記録シート23の多孔質層と向き合う面)が多孔質層の表面と接触されていることが好ましい。多孔質層との接触は、例えば、包装材料24の底部からインクジェット記録シート23を天部側に押し上げることにより形成することができる。具体的には、包装材料24の底部の一部を予めシート収容側に凸に折り曲げた折曲げ片を形成しておき、その上にインクジェット記録シート23を載せ、シート残量の減少に応じて折曲げ片の反発力でインクジェット記録シートが押上げられる等の構成が挙げられる。折曲げ片は、底部に1箇所でもよいし、複数箇所設けてもよく、また、折曲げ片の大きさもシートサイズや反発力の程度など場合に応じて適宜選択すればよい。また、例えば、図3に示すように、底部にジグザグ状に折り曲げて形成された足部を有する押し上げ構造を有してもよい。
但し、上記包装材料と、記録シートの表面とが接触する場合、包装材料と記録材料との摩擦係数が大きいと、記録シートの表面に傷が生じやすい。そのため、JIS P 8147で規定された方法により測定された包装材料の摩擦係数は、0.8以下が好ましく、より好ましくは0.6以下である。更に好ましい摩擦係数は、0.5以下である。
【0041】
本発明のインクジェット記録シート用包装材料中により調湿された湿度環境としては、多孔質型インクジェット記録シートの多孔質層の水分含量を画像に影響しない範囲で保持する点から、40〜70%RHが好ましい。望ましくは、50〜60%RHである。
【0042】
次に、本発明のインクジェット記録シート用包装材料を用いたインクジェット記録方法について説明する。
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録用プリンタに装着された既述の本発明のインクジェット記録シート用包装材料から多孔質型インクジェット記録シートを該インクジェット記録用プリンタに供給する工程(以下、「シート供給工程」ということがある。)と、インクジェット記録用プリンタに供給された多孔質型インクジェット記録シートの多孔質層に、インクジェット法により染料インクを吐出する工程(以下、「インク吐出工程」ということがある。)と、吐出により記録された画像部に乾燥風を供給し、画像部の溶媒の少なくとも1部を除去する工程(以下、「溶媒除去工程」ということがある。)と、を設けて構成されたものである。また、本発明のインクジェット記録方法は、必要に応じて、他の工程を設けて構成されてもよい。
【0043】
−シート供給工程−
本発明におけるシート供給工程は、インクジェット記録用プリンタに装着された既述の本発明のインクジェット記録シート用包装材料から多孔質型インクジェット記録シートを該インクジェット記録用プリンタに供給する。
【0044】
本発明のシート供給工程では、インクジェット記録シート用包装材料に複数枚が重ねて収容された多孔質型インクジェット記録シートを一枚ずつ取り出し、インクジェット記録用プリンタに供給する。包装材料から取り出されてプリンタ内に供給されるまでの間、未使用のインクジェット記録シートは、インクジェット記録シート用包装材料中の調湿された雰囲気下で保持され、インクが着滴するまで多孔質層中の水分変動が抑えられるので、色相、カール性の安定した画像が得られる。また、後のインク吐出工程で高速記録する場合でも、着滴から比較的短い時間内で重ねられた場合でも、例えば重なった部分と重なっていない部分との間で生じやすい画像色相の変動(色変わり)を防止することができる。
【0045】
インクジェット記録シートの取り出しは、特に制限なく行なえ、例えば吸盤や給紙ローラなどを用いて行なえる。
【0046】
−インク吐出工程−
本発明におけるインク吐出工程は、前記シート供給工程でインクジェット記録用プリンタに供給された多孔質型インクジェット記録シートの多孔質層に、インクジェット法により染料インクを吐出する。
【0047】
〜インクジェット法〜
インクジェット法には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0048】
インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
尚、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0049】
また、インクジェットヘッドとしては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されている長尺のラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができる。また、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。
本発明においては、例えば、1回の走査で1ラインを形成するシングルパスで主走査方向に吐出する方式で記録する形態が効果的である。
【0050】
〜多孔質型インクジェット記録シート〜
本発明における多孔質型インクジェット記録シートは、支持体上に少なくとも1層の多孔質層(インク受容層)を設けて構成されたものである。インク受容層は、支持体の一方の側に1層もしくは2層以上設けられた形態のほか、支持体の両側にそれぞれ1層もしくは2層以上設けられた形態であってもよい。
【0051】
[多孔質層]
本発明における多孔質層(インク受容層)は、微粒子と水溶性樹脂とを少なくとも含んで3次元多孔質構造に形成された層であることが好ましい。3次元多孔質構造を有する層は、大気との接触面積が広く、大気中の水分を吸収しやすく、経時により記録画像の品位やカール性が低下しやすい。また、インク受容層は、必要に応じて、架橋剤、媒染剤、水溶性多価金属塩化合物、カチオン変性高分子ラテックス等の他の成分を用いて構成される。
【0052】
〈微粒子〉
インク受容層は、微粒子の少なくとも1種を含有することが好ましい。微粒子を含有することにより多孔質構造が得られ、これによりインクの吸収性能が向上する。特に、微粒子のインク受容層における固形分含有量が50質量%以上、より好ましくは60質量%を超えていると、更に良好な多孔質構造を形成することが可能となり、十分なインク吸収性を備えたインクジェット記録媒体が得られるので好ましい。
【0053】
ここで、微粒子のインク受容層における固形分含有量とは、インク受容層を構成する組成物中の水や各種溶剤、溶媒以外の成分に基づいて算出される含有量である。
【0054】
微粒子としては、無機微粒子が好ましいが、有機微粒子も本発明の効果を損なわない限りにおいて使用することができる。
【0055】
前記有機微粒子としては、好ましいものとして例えば、乳化重合、マイクロエマルジョン系重合、ソープフリー重合、シード重合、分散重合、懸濁重合などにより得られるポリマー微粒子が挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリアミド、シリコン樹脂、フェノール樹脂、天然高分子等の粉末、ラテックス又はエマルジョン状のポリマー微粒子等が挙げられる。有機微粒子を用いる場合、有機微粒子はカチオン化されていることが好ましく、また、有機微粒子は主に多孔質構造の柱材を構成するため、造膜性がないあるいは小さいものが望ましく、その最低造膜温度(MFT)は50℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。
【0056】
前記無機微粒子としては、例えば、シリカ微粒子、コロイダルシリカ、二酸化チタン、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、雲母、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、擬ベーマイト型水酸化アルミニウム微粒子(以下、単に「擬ベーマイト」と称する。)、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、アルミナ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化イットリウム等が挙げられる。
これらの中でも、良好な多孔質構造を形成し得る観点より、シリカ微粒子、コロイダルシリカ、アルミナ微粒子、又は擬ベーマイトが好ましい。
【0057】
微粒子は、1次粒子のまま用いてもよいし、2次粒子を形成した状態で使用してもよい。これら微粒子の平均1次粒径は、2μm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。更には、平均一次粒径が20nm以下のシリカ微粒子、平均一次粒径が30nm以下のコロイダルシリカ、平均一次粒径が20nm以下のアルミナ微粒子、又は平均細孔半径が2〜15nmの擬ベーマイトがより好ましく、特にシリカ微粒子、アルミナ微粒子、擬ベーマイトが好ましい。
【0058】
シリカ微粒子は、通常その製造法により湿式法粒子と乾式法(気相法)粒子とに大別される。上記湿式法では、ケイ酸塩の酸分解により活性シリカを生成し、これを適度に重合させ凝集沈降させて含水シリカを得る方法が主流である。一方、気相法は、ハロゲン化珪素の高温気相加水分解による方法(火炎加水分解法)、ケイ砂とコークスとを電気炉中でアークによって加熱還元気化し、これを空気で酸化する方法(アーク法)によって無水シリカを得る方法が主流であり、「気相法シリカ」とは該気相法によって得られた無水シリカ微粒子を意味する。本発明に用いるシリカ微粒子としては、特に気相法シリカ微粒子が好ましい。
【0059】
前記気相法シリカは、含水シリカと表面のシラノール基の密度、空孔の有無等に相違があり、異なった性質を示すが、空隙率が高い三次元構造を形成するのに適している。この理由は明らかではないが、含水シリカの場合には、微粒子表面におけるシラノール基の密度が5〜8個/nm2で多く、シリカ微粒子が密に凝集(アグリゲート)し易く、一方、気相法シリカの場合には、微粒子表面におけるシラノール基の密度が2〜3個/nm2であり少ないことから疎な軟凝集(フロキュレート)となり、その結果、空隙率が高い構造になるものと推定される。
【0060】
前記気相法シリカは、比表面積が特に大きいので、インクの吸収性、保持の効率が高く、また、屈折率が低いので、適切な粒子径まで分散をおこなえば受容層に透明性を付与でき、高い色濃度と良好な発色性が得られるという特徴がある。受容層が透明であることは、OHP等透明性が必要とされる用途のみならず、フォト光沢紙等の記録用シートに適用する場合でも、高い色濃度と良好な発色性光沢を得る観点で重要である。
【0061】
前記気相法シリカの平均一次粒子径としては1〜30nmが好ましく、1〜20nm以下が更に好ましく、1〜10nm以下が特に好ましく、3〜10nmが最も好ましい。上記気相法シリカは、シラノール基による水素結合によって粒子同士が付着しやすいため、平均一次粒子径が30nm以下の場合に空隙率の大きい構造を形成することができ、インク吸収特性を効果的に向上させることができる。
【0062】
また、シリカ微粒子は、上記した他の微粒子と併用してもよい。他の微粒子と気相法シリカとを併用する場合、全微粒子中の気相法シリカの含有量は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
【0063】
微粒子としては、アルミナ微粒子、アルミナ水和物、これらの混合物又は複合物も好ましい。このうち、アルミナ水和物は、インクをよく吸収し定着することなどから好ましく、特に、擬ベーマイト(Al23・nH2O)が好ましい。アルミナ水和物は、種々の形態のものを用いることができるが、容易に平滑な層が得られることからゾル状のベーマイトを原料として用いることが好ましい。
【0064】
擬ベーマイトの細孔構造については、その平均細孔半径は1〜30nmが好ましく、2〜15nmがより好ましい。また、その細孔容積は0.3〜2.0cc/gが好ましく、0.5〜1.5cc/gがより好ましい。ここで、上記細孔半径及び細孔容積の測定は、窒素吸脱着法により測定されるもので、例えば、ガス吸脱着アナライザー(例えば、コールター社製の商品名「オムニソープ369」)により測定できる。
また、アルミナ微粒子の中では気相法アルミナ微粒子が比表面積が大きく好ましい。該気相法アルミナの平均一次粒子径としては30nm以下が好ましく、20nm以下が更に好ましい。
【0065】
コロイダルシリカや二酸化チタンを用いる場合、空隙形成能力が小さいために充分な空隙率が得られないことがあるが、シリカ微粒子とコロイダルシリカとを同一層内に含有する、コロイダルシリカ含有層又は二酸化チタン含有層の重層による等の方法により、本発明の効果を奏する点で効果的である。
【0066】
また、微粒子の分散性を改善する目的で、微粒子はその表面がシランカップリング剤で処理されていてもよい。シランカップリング剤としては、カップリング処理を行なう部位の他に、有機官能性基(例えば、ビニル基、アミノ基(1級〜3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基)、エポキシ基、メルカプト基、クロロ基、アルキル基、フェニル基、エステル基等)を有するものが好ましい。
【0067】
微粒子を用いる場合、例えば、特開平10−81064号、同10−119423号、同10−157277号、同10−217601号、同11−348409号、特開2001−138621号、同2000−43401号、同2000−211235号、同2000−309157号、同2001−96897号、同2001−138627号、特開平11−91242号、同8−2087号、同8−2090号、同8−2091号、同8−2093号、同8−174992号、同11−192777号、特開2001−301314号等公報に記載された態様でも好ましく用いることができる。
【0068】
〈水溶性樹脂〉
インク受容層は、水溶性樹脂の少なくとも1種を含有することが好ましい。水溶性樹脂としては、例えば、親水性構造単位としてヒドロキシ基を有する樹脂であるポリビニルアルコール系樹脂〔ポリビニルアルコール(PVA)、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール等〕、セルロース系樹脂〔メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等〕、キチン類、キトサン類、デンプン、エーテル結合を有する樹脂〔ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル(PVE)等〕、カルバモイル基を有する樹脂〔ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸ヒドラジド等〕等が挙げられる。
また、解離性基としてカルボキシル基を有するポリアクリル酸塩、マレイン酸樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン類等も挙げることができる。
【0069】
以上の中でも、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、エーテル結合を有する樹脂、カルバモイル基を有する樹脂、カルボキシ基を有する樹脂、又はゼラチン類が好ましく、特にポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂の例としては、ポリビニルアルコールをはじめ、特公平4−52786号、特公平5−67432号、特公平7−29479号、特許第2537827号、特公平7−57553号、特許第2502998号、特許第3053231号、特開昭63−176173号、特許第2604367号、特開平7−276787号、特開平9−207425号、特開平11−58941号、特開2000−135858号、特開2001−205924号、特開2001−287444号、特開昭62−278080号、特開平9−39373号、特許第2750433号、特開2000−158801号、特開2001−213045号、特開2001−328345号、特開平8−324105号、特開平11−348417号等に記載されたもの等が挙げられる。
また、ポリビニルアルコール系樹脂以外の水溶性樹脂の例としては、特開平11-165461号公報の段落番号[0011]〜[0014]に記載の化合物なども挙げられる。
これら水溶性樹脂はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0070】
水溶性樹脂の含有量としては、インク受容層の全固形分質量に対して、9〜40質量%が好ましく、12〜33質量%がより好ましい。
【0071】
インク受容層を主として構成する水溶性樹脂と前記微粒子とは、それぞれ単一素材であってもよいし、複数の素材の混合系を使用してもよい。
なお、透明性を保持する観点からは、微粒子、特にシリカ微粒子に組み合される水溶性樹脂の種類が重要となる。前記気相法シリカを用いる場合には、該水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコールが好ましく、その中でも、鹸化度70〜100%のポリビニルアルコールがより好ましく、鹸化度80〜99.5%のポリビニルアルコールが特に好ましい。
更には、画像濃度やインク受容層側へのカール防止の観点から、鹸化度75〜95%のポリビニルアルコールが好ましく、鹸化度80〜90%のポリビニルアルコールが最も好ましい。
【0072】
また、ポリビニルアルコール(PVA)の重合度としては、充分な膜強度を得る観点から、1400〜5000が好ましく、2300〜4000がより好ましい。なお、重合度1400未満と重合度1400以上のポリビニルアルコールを併用して使用してもかまわない。
【0073】
前記ポリビニルアルコール系樹脂は、その構造単位に水酸基を有するが、この水酸基と前記シリカ微粒子の表面シラノール基とが水素結合を形成するため、シリカ微粒子の二次粒子を網目鎖単位とした三次元網目構造を形成し易くなる。この三次元網目構造の形成によって、空隙率が高く十分な強度のある多孔質構造のインク受容層を形成されると考えられる。
インクジェット記録において、上述のようにして得られた多孔質のインク受容層は、毛細管現象によって急速にインクを吸収し、インク滲みの発生しない真円性の良好なドットを形成することができる。
【0074】
また、ポリビニルアルコール系樹脂は、前記その他の水溶性樹脂と併用してもよい。該他の水溶性樹脂と上記ポリビニルアルコール系樹脂とを併用する場合、全水溶性樹脂中、ポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上が更に好ましい。
【0075】
〜〜微粒子と水溶性樹脂との含有比〜〜
微粒子(x)と水溶性樹脂(y)との質量含有比〔PB比(x/y)〕は、インク受容層の膜構造及び膜強度にも大きな影響を与える。即ち、質量含有比〔PB比〕が大きくなると、空隙率、細孔容積、表面積(単位質量当り)が大きくなるが、密度や強度は低下する傾向にある。インク受容層は、前記PB比(x/y)としては、該PB比が大き過ぎることに起因する、膜強度の低下や乾燥時のひび割れを防止し、且つ該PB比が小さ過ぎることによって、該空隙が樹脂によって塞がれ易くなり、空隙率が減少することでインク吸収性が低下するのを防止する観点から、1.5〜10が好ましい。
【0076】
インクジェットプリンタの搬送系を通過する場合、記録用シートに応力が加わることがあるので、インク受容層は十分な膜強度を有していることが必要である。またシート状に裁断加工する場合、インク受容層の割れや剥がれ等を防止する上でも、インク受容層には十分な膜強度を有していることが必要である。これらの場合を考慮すると、前記質量比(x/y)としては5以下がより好ましく、一方インクジェットプリンターで、高速インク吸収性を確保する観点からは、2以上であることがより好ましい。
【0077】
例えば、平均一次粒子径が20nm以下の気相法シリカ微粒子と水溶性樹脂とを、質量比(x/y)2〜5で水溶液中に完全に分散した塗布液を支持体上に塗布し、該塗布層を乾燥した場合、シリカ微粒子の二次粒子を網目鎖とする三次元網目構造が形成され、その平均細孔径が30nm以下、空隙率が50〜80%、細孔比容積が0.5ml/g以上、比表面積が100m2/g以上の、透光性の多孔質膜を容易に形成することができる。
【0078】
〈架橋剤〉
本発明におけるインク受容層は、微粒子及び水溶性樹脂と共に、更に少なくとも前記水溶性樹脂を架橋し得る架橋剤を用いることができ、架橋剤と水溶性樹脂との架橋反応によって硬化された多孔質層に構成されることが好ましい。
【0079】
上記の水溶性樹脂、特にポリビニルアルコール系樹脂の架橋には、ホウ素化合物が好ましい。該ホウ素化合物としては、例えば、硼砂、硼酸、硼酸塩(例えば、オルト硼酸塩、InBO3、ScBO3、YBO3、LaBO3、Mg3(BO32、Co3(BO32、二硼酸塩(例えば、Mg225、Co225)、メタ硼酸塩(例えば、LiBO2、Ca(BO22、NaBO2、KBO2)、四硼酸塩(例えば、Na247・10H2O)、五硼酸塩(例えば、KB58・4H2O、Ca2611・7H2O、CsB55)等を挙げることができる。中でも、速やかに架橋反応を起こすことができる点で、硼砂、硼酸、硼酸塩が好ましく、特に硼酸が好ましい。
また、水溶性樹脂の架橋剤として、ホウ素化合物以外の下記化合物を使用することもできる。例えば、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタールアルデヒド等のアルデヒド系化合物;ジアセチル、シクロペンタンジオン等のケトン系化合物;ビス(2−クロロエチル尿素)−2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジクロロ−6−S−トリアジン・ナトリウム塩等の活性ハロゲン化合物;ジビニルスルホン酸、1,3−ビニルスルホニル−2−プロパノール、N,N’−エチレンビス(ビニルスルホニルアセタミド)、1,3,5−トリアクリロイル−ヘキサヒドロ−S−トリアジン等の活性ビニル化合物;ジメチロ−ル尿素、メチロールジメチルヒダントイン等のN−メチロール化合物;メラミン樹脂(例えば、メチロールメラミン、アルキル化メチロールメラミン);エポキシ樹脂;1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート系化合物;米国特許第3017280号明細書、同第2983611号に記載のアジリジン系化合物;米国特許第3100704号明細書に記載のカルボキシイミド系化合物;グリセロールトリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物;1,6−ヘキサメチレン−N,N’−ビスエチレン尿素等のエチレンイミノ系化合物;ムコクロル酸、ムコフェノキシクロル酸等のハロゲン化カルボキシアルデヒド系化合物;2,3−ジヒドロキシジオキサン等のジオキサン系化合物;乳酸チタン、硫酸アルミ、クロム明ばん、カリ明ばん、酢酸ジルコニル、酢酸クロム等の金属含有化合物、テトラエチレンペンタミン等のポリアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物、オキサゾリン基を2個以上含有する低分子又はポリマー等である。
上記の架橋剤は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
架橋硬化は、微粒子及び水溶性樹脂等を含有する塗布液(塗布液A)及び/又は下記塩基性溶液に架橋剤を添加し、かつ(1)前記塗布液Aを塗布して塗布層を形成すると同時、又は(2)前記塗布液Aの塗布により塗設された塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前のいずれかのときに、pH7.1以上の塩基性溶液(溶液B)を前記塗布層に付与することにより行なうことが好ましい。架橋剤であるホウ素化合物は、塗布液A又は溶液Bのいずれに含有してもよく、塗布液A及び溶液Bの両方に含有させてもよい。
【0081】
架橋剤の量は、前記水溶性樹脂に対して、1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましい。
【0082】
〈他の成分〉
インク受容層は、上記の微粒子及び水溶性樹脂に加えて、媒染剤、水溶性多価金属塩化合物、カチオン変性高分子ラテックスなどの他の成分を用いて構成することができる。
【0083】
前記媒染剤としては、カチオン性のポリマー(カチオン性媒染剤)、又は無機媒染剤が好適であり、有機媒染剤、無機媒染剤はそれぞれ単独種で使用してもよいし、有機媒染剤及び無機媒染剤を併用してもよい。
前記水溶性多価金属塩化合物としては、例えば、カルシウム、バリウム、マンガン、銅、コバルト、ニッケル、アルミニウム、鉄、亜鉛、ジルコニウム、クロム、マグネシウム、タングステン、モリブデンから選ばれる金属の水溶性塩が挙げられる。水溶性多価金属塩化合物は、形成画像の耐経時滲み(高湿環境下での耐湿性)及び耐水性を向上させることができ、更に耐ガス性、耐光性などの向上にも有効である。
前記カチオン変性高分子ラテックスは、非水溶性のポリマーが水中に乳化もしくは分散された粒径0.001〜0.1μmのコロイド分散液又は半径0.1μm以上のエマルション状の液体に調製されたものであり、例えば、ポリスチレン系、スチレン−ブタジエン共重合体系、アクリロニトリル−ブタジエン系、アクリル酸系、スチレン−アクリル系、ウレタン系、メタクリル酸系、塩化ビニル系、酢酸ビニル系、エチレン−酢酸ビニル系のラテックスが挙げられる。カチオン変性高分子ラテックスの含有は、インク受容層の層強度の向上、インクジェット記録する際のインク受容層表面における傷発生防止、並びに記録後の画像の耐湿性向上(インクの湿熱滲みの防止)の点で効果的である。
上記した媒染剤、水溶性多価金属塩化合物、カチオン変性高分子ラテックスなどの他の成分については、特開2006−334911号公報の段落番号[0086]〜[0161]に記載されている各成分を適宜選択して用いることができる。
【0084】
[支持体]
支持体としては、プラスチック等の透明材料よりなる透明支持体、紙等の不透明材料からなる不透明支持体のいずれをも使用できる。インク受容層の透明性を生かす上では、透明支持体又は高光沢性の不透明支持体を用いることが好ましい。
【0085】
前記透明支持体に使用可能な材料としては、透明性で、OHPやバックライトディスプレイで使用される時の輻射熱に耐え得る性質を有する材料が好ましい。該材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル類;ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド等を挙げることができる。中でも、ポリエステル類が好ましく、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。
前記透明支持体の厚みとしては、特に制限はないが、取り扱い易い点で、50〜200μmが好ましい。
【0086】
高光沢性の不透明支持体としては、インク受容層の設けられる側の表面が40%以上の光沢度を有するものが好ましい。前記光沢度は、JIS P−8142(紙及び板紙の75度鏡面光沢度試験方法)に記載の方法に従って求められる値である。具体的には、下記支持体が挙げられる。
【0087】
例えば、アート紙、コート紙、キャストコート紙、銀塩写真用支持体等に使用されるバライタ紙等の高光沢性の紙支持体;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル類、ニトロセルロース,セルロースアセテート,セルロースアセテートブチレート等のセルロースエステル類、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド等のプラスチックフィルムに白色顔料等を含有させて不透明にした(表面カレンダー処理が施されていてもよい。)高光沢性のフィルム;或いは、前記各種紙支持体、前記透明支持体若しくは白色顔料等を含有する高光沢性のフィルムの表面に、白色顔料を含有若しくは含有しないポリオレフィンの被覆層が設けられた支持体等が挙げられる。
白色顔料含有発泡ポリエステルフィルム(例えば、ポリオレフィン微粒子を含有させ、延伸により空隙を形成した発泡PET)も好適に挙げることができる。更に銀塩写真用印画紙に用いられるレジンコート紙も好適である。
【0088】
前記不透明支持体の厚みについても特に制限はないが、取り扱い性の点で、50〜300μmが好ましい。
【0089】
また、前記支持体の表面には、濡れ特性及び接着性を改善するために、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理等を施したものを使用してもよい。
【0090】
次に、前記レジンコート紙に用いられる原紙について詳述する。
前記原紙としては、木材パルプを主原料とし、必要に応じて木材パルプに加えてポリプロピレンなどの合成パルプ、あるいはナイロンやポリエステルなどの合成繊維を用いて抄紙される。前記木材パルプとしては、LBKP、LBSP、NBKP、NBSP、LDP、NDP、LUKP、NUKPのいずれも用いることができるが、短繊維分の多いLBKP、NBSP、LBSP、NDP、LDPをより多く用いることが好ましい。
但し、LBSP及び/又はLDPの比率としては、10質量%以上、70質量%以下が好ましい。
【0091】
前記パルプは、不純物の少ない化学パルプ(硫酸塩パルプや亜硫酸パルプ)が好ましく用いられ、漂白処理をおこなって白色度を向上させたパルプも有用である。
【0092】
原紙中には、高級脂肪酸、アルキルケテンダイマー等のサイズ剤、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンなどの白色顔料、スターチ、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の紙力増強剤、蛍光増白剤、ポリエチレングリコール類等の水分保持剤、分散剤、4級アンモニウム等の柔軟化剤などを適宜添加することができる。
【0093】
抄紙に使用するパルプの濾水度としては、CSFの規定で200〜500mlが好ましく、また、叩解後の繊維長が、JIS P−8207に規定される24メッシュ残分質量%と42メッシュ残分の質量%との和が30〜70%が好ましい。尚、4メッシュ残分の質量%は20質量%以下であることが好ましい。
【0094】
原紙の坪量としては、30〜250gが好ましく、特に50〜200gが好ましい。原紙の厚さとしては、40〜250μmが好ましい。原紙は、抄紙段階または抄紙後にカレンダー処理して高平滑性を与えることもできる。原紙密度は0.7〜1.2g/m2(JIS P−8118)が一般的である。
更に、原紙剛度としては、JIS P−8143に規定される条件で20〜200gが好ましい。
原紙表面には表面サイズ剤を塗布してもよく、表面サイズ剤としては、前記原紙中添加できるサイズと同様のサイズ剤を使用できる。
原紙のpHは、JIS P−8113で規定された熱水抽出法により測定された場合、5〜9であることが好ましい。
【0095】
原紙表面および裏面を被覆するポリエチレンは、主として低密度のポリエチレン(LDPE)および/または高密度のポリエチレン(HDPE)であるが、他のLLDPEやポリプロピレン等も一部使用することができる。
特に、インク受容層を形成する側のポリエチレン層は、写真用印画紙で広くおこなわれているように、ルチルまたはアナターゼ型の酸化チタン、蛍光増白剤、群青をポリエチレン中に添加し、不透明度、白色度および色相を改良したものが好ましい。ここで、酸化チタン含有量としては、ポリエチレンに対して、概ね3〜20質量%が好ましく、4〜13質量%がより好ましい。ポリエチレン層の厚みは特に限定はないが、表裏面層とも10〜50μmが好適である。さらにポリエチレン層上にインク受容層との密着性を付与するために下塗り層を設けることもできる。該下塗り層としては、水性ポリエステル、ゼラチン、PVAが好ましい。また、該下塗り層の厚みとしては、0.01〜5μmが好ましい。ポリエチレン被覆紙は、光沢紙として用いることも、また、ポリエチレンを原紙表面上に溶融押し出してコーティングする際に、いわゆる型付け処理をおこなって通常の写真印画紙で得られるようなマット面や絹目面を形成したものも使用できる。
【0096】
インクジェット記録シートの製造方法については、特に制限はなく、例えば特開2006−334911号公報の段落番号[0179]〜[0227]に記載の方法を選択して適用することができる。
【0097】
[インク]
次に、画像を記録するためのインクについて説明する。
本発明の多孔質型インクジェット記録シートに記録するためのインクとしては、顔料を着色剤として含む顔料インク、あるいは染料を着色剤として含む染料インクのいずれも使用可能であるが、記録前の湿度による画像への影響がより効果的に抑えられる点で、染料インクが好ましい。また、本発明のインクジェット記録方法においては、染料を着色剤として含む染料インクを用いることにより、記録前の湿度による画像への影響を効果的に抑え、色再現性を安定化し、記録直後からの色変わりを防止して、色相の良好な画像を記録することができる。
【0098】
前記染料としては、特に制限はなく、例えば、カラーインデックス(COLOR INDEX)に記載されている水溶性酸性染料、直接染料、塩基性染料、反応性染料を好ましく用いることができる。
【0099】
インクは、ブラックインクのほか、赤、緑、青等のカラーインクであってもよい。また、インクは、グリコールエーテルを含んでもよく、この添加によりインクの記録媒体への浸透性が高くなり、画像滲みを抑えた画像が期待できる。
【0100】
前記顔料としては、特別な制限はなく無機顔料、有機顔料をいずれも使用することができる。無機顔料としては、酸化チタン及び酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。
これらの顔料は、分散剤又は界面活性剤を用いて水性媒体中に分散させて得られた顔料分散液としてインクに添加することができる。分散剤は、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を使用することができる。
【0101】
−溶媒除去工程−
本発明における溶媒除去工程は、前記インク吐出工程での吐出により記録された画像部に乾燥風を供給し、画像部の溶媒の少なくとも1部を除去する。
【0102】
画像部に乾燥風を供給すると、画像部中に存在する溶媒(水や有機溶剤など)が迅速に除去され、画像記録をより高速化できる。その一方、記録媒体自体にカールが生じやすくなるため、必要以上に溶媒除去を行なうと、搬送性や画像の品質が悪化するが、本発明においては、多孔質層の湿度依存性が抑えられ、水分含量の増加に伴なう乾燥への影響が低減されるので、過剰に溶媒除去を行なう必要がなく、乾燥風を供給して乾燥させる溶媒除去工程を設けた記録系において、カールの発生を抑えつつ、記録後の色変わりを防止することができる。
【0103】
乾燥風としては、温度40〜80℃の温風が好ましく、温度範囲は60〜70℃がより好ましい。温度が前記範囲内であると、画像部がヒビ割れるなどの問題を生じずに短時間で乾燥させるのに有利である。
【0104】
乾燥風の風量としては、多孔質層の表面で0.5〜5m/minの範囲が好ましい。
【0105】
乾燥風は、例えば、ニクロム線等の熱線ヒーター等を用いて前記温度に雰囲気を暖めながら送風することにより行なえる。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0107】
(実施例1)
GP(グランドパルプ)/LBKP=70/30のパルプ(機械パルプ70質量%)を、6層の円網方式で抄紙し、原紙Aを得た。このとき、抄き合せ層には、変性澱粉を層間にスプレー塗布した。また、内添薬品としてアルキルケテンダイマーとカチオン化澱粉(荒川化学社製)とを用い、内添紙力増強剤としてポリアクリルアミドエマルジョン(荒川化学社製)を用い、表面紙力増強剤としてポリビニルアルコール((株)クラレ製)を用いた。
得られた原紙Aの坪量は、395g/mであった。また、原紙A中のNaイオン量は、50mg/mであり、原紙A表面の“JIS P 8147”で規定された方法により測定した摩擦係数は0.55であった。
【0108】
この原紙Aを用いて、図2(a)に示す形状と同様の包装材料24を作製し、23℃、相対湿度50%の環境条件下で24時間調湿した。
【0109】
次に、インクジェット記録シートとして、セイコーエプソン社製のPM写真用紙(A4サイズ)を用意した。
【0110】
そして、前記環境条件下で24時間調湿した後の包装材料のシート収容部に、用意した上記のPM写真用紙を25℃、60%RHの環境下で10枚入れ、その後これを、ファスナー付き密封パック(アルミニウムラミネートパック;PET12μm/AL9μm/CPP60μm)に密封して24時間、25℃、60%RHの恒温槽内に保存した。
【0111】
保存後における包装材料内の雰囲気の湿度(記録シート周辺の雰囲気の相対湿度)は、60%RH(25℃)に維持されていた。
【0112】
次いで、15℃、20%RH環境下、保存後のPM写真用紙をセイコーエプソン社製のインクジェットプリンタPM−T960に包装材料ごと装着し、この包装材料から取り出したインクジェット記録シートの多孔質層上に純正のIC6CL50インクを用いて記録し、下記の乾燥条件にて乾燥させてフルカラーの画像を得た。
<乾燥条件>
・熱源:ニクロム線ヒーター(360W)
・風量:0.6m/minで5秒間送風
・静圧:40.2Pa・5sec
【0113】
得られた画像について、下記の評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
(1)色変わり
得られた画像の記録直後と24時間経過後との色相の変化を目視により観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:色相に変化はみられなかった。
○:色相に僅かに変化がみられたが、支障のない程度であった。
△:色相に変化がみられたが、実用上許容できる程度であった。
×:顕著な色相の変化がみられた。
【0114】
(2)色相
〜色相A〜
ファスナー付き密封パックのファスナーを開けて、25℃、70%RHの環境条件と、25℃、20%RHの環境条件の2条件に置き、24時間経過した後、それぞれインクジェットプリンタPM−T960にて上記同様に画像を記録した。得られた黒画像の各々の黒濃度(OD)1.0での色相差を目視により観察することにより下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:色相差は全くみられず、色相変動を抑えた画像記録が行なえた。
○:色相差が僅かにみられたが、支障のない程度であった。
△:色相差がみられたが、実用上許容できる程度であった。
×:色相差が顕著であり、実用上許容できない程度であった。
【0115】
〜色相B〜
ファスナー付き密封パックのファスナーを開けて25℃、20%RHの環境条件下に置き、24時間経過した後、インクジェットプリンタPM−T960で上記同様に10枚連続プリントし、得られた画像の1枚目と10枚目の黒濃度(OD)1.0での色相差を目視により観察することにより下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:色相差は全くみられず、色相変動を抑えた画像記録が行なえた。
○:色相差が僅かにみられたが、支障のない程度であった。
△:色相差がみられたが、実用上許容できる程度であった。
×:色相差が顕著であり、実用上許容できない程度であった。
【0116】
(3)ブロンジング
ファスナー付き密封パックのファスナーを開け、25℃、70%RHの環境条件下で24時間放置した後、シアン色インクを用いてインクジェットプリンタPM−T960にて上記同様にベタ画像を記録した。得られたシアン画像を目視により観察し、金属光沢感の有無を下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:金属光沢感は全くみられなかった。
○:金属光沢感が僅かにみられたが、支障のない程度であった。
△:金属光沢感がみられたが、実用上許容できる程度であった。
×:金属光沢感が顕著に認められた。
【0117】
(4)カール性
上記のように15℃、20%RH環境下、保存後のPM写真用紙をインクジェットプリンタPM−T960に包装材料ごと装着し、A4サイズのインクジェット記録シートに上記同様に画像記録した直後、記録面を上方に向けて机上に置き、机面から記録面側に屈曲して浮き上がった高さを計測し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:浮き上がった高さは2mm以下であった。
○:浮き上がった高さが2mmを超え5mm以下であった。
△:浮き上がった高さが5mmを超え10mm以下であった。
×:浮き上がった高さが10mmを超えていた。
【0118】
(5)画像滲み
ファスナー付き密封パックのファスナーを開けて25℃、90%RHの環境条件下に1週間保管した後、インクジェットプリンタPM−T960で上記同様に濃度(OD)1.0のグレー画像を記録し、記録直後にアルバム保管して滲みの有無を下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:滲みの発生はみられなかった。
○:滲みの発生が僅かにみられた。
△:滲みの発生がみられたが、実用上は許容できる程度であった。
×:滲みの発生が顕著であり、実用上許容できない程度であった。
【0119】
(6)画像の表面傷
得られた画像の表面を目視により観察し、画像表面の傷の有無を下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
◎:画像面に傷はなかった。
○:画像面に弱い傷が認められた。
△:画像面に少量の傷が付いていたが、実用上は許容できる程度であった。
×:画像面に顕著な傷が多数認められた。
【0120】
(実施例2)
実施例1において、インクジェット記録シートとして用いたPM写真用紙(セイコーエプソン社製)を画彩 写真仕上げValue(富士フイルム(株)製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、画像を記録すると共に、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0121】
(実施例3)
実施例2において、原紙Aを下記の原紙Bに代えたこと以外は、実施例2と同様にして、画像を記録すると共に、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
〜原紙B〜
脱イオン処理を行なった、GP(グランドパルプ)/LBKP=70/30のパルプ(機械パルプ70質量%)を、6層の円網方式で抄紙し、原紙Bを得た。このとき、抄き合せ層には、変性澱粉を層間にスプレー塗布した。また、内添薬品としてアルキルケテンダイマーとカチオン化澱粉(荒川化学社製)とを用い、内添紙力増強剤としてポリアクリルアミドエマルジョン(荒川化学社製)を用い、表面紙力増強剤としてポリビニルアルコール((株)クラレ製)を用いた。
また、原紙B中のNaイオン量は30mg/mであり、原紙表面の上記同様に測定した摩擦係数は0.55であった。
【0122】
(実施例4)
実施例2において、図2(a)に示す包装形状を有し、そのインクジェット記録シートを載せる底部に、図3に示すようにジグザグ状に交互に折り曲げて形成されたバネ状構造を有する、シートを押上げるための押し上げ構造が設けられた包装材料を用い、収納されたインクジェット記録シートが押し上げられて包装材料の天板に接触させるようにしたこと以外は、実施例2と同様にして、画像を記録すると共に、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0123】
(実施例5)
実施例2において、原紙Aの表面をカレンダー処理することにより表面処理したこと以外は、実施例2と同様にして、画像を記録すると共に、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
また、原紙表面におけるNaイオン量は50mg/mであり、原紙表面の上記同様に測定した摩擦係数は0.45であった。
【0124】
(比較例1)
実施例1において、原紙Aの包装材料及びファスナー付き密封パックを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、画像を記録すると共に、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0125】
(比較例2)
実施例2において、原紙Aの包装材料及びファスナー付き密封パックを用いなかったこと以外は、実施例2と同様にして、画像を記録すると共に、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0126】
(比較例3)
実施例2において、原紙Aの包装材料及びファスナー付き密封パックを用いず、かつ記録後の乾燥を行なわなかったこと以外は、実施例1と同様にして、画像を記録すると共に、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0127】
【表1】



【0128】
前記表1に示すように、実施例では、カールを抑えつつ、画像の湿度変化による色相変化が抑えられ、色再現性が安定化したことに加え、記録直後からの色変わりを防止することができた。また、画像の表面傷の発生や滲み、ブロンジングの発生も抑制することができた。このように、記録前の作業雰囲気中の湿度による画像への影響を効果的に抑えることができた。
これに対し、比較例では、画像の湿度による色相変化が抑えられなかった。また、乾燥処理を行なわない系では、記録直後からの色変わりが抑えられず、高速記録や多数枚記録の際の安定した画像形成性の点で劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】多孔質型インクジェット記録シートが収容されたインクジェット記録シート用包装材を防湿袋に入れたままカセットに装填することによりプリンタに装着する一例を示す斜視図である。
【図2】(a)はインクジェット記録シート用包装材料に多孔質型インクジェット記録シートが収容された状態を示す斜視図であり、(b)は多孔質型インクジェット記録シートが収容されたインクジェット記録シート用包装材料が防湿袋内に収納して密封した状態を示す斜視図である。
【図3】底部にインクジェット記録シートを押し上げるための押し上げ構造が設けられたインクジェット記録シート用包装材料の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0130】
12・・・防湿袋
13・・・インクジェット記録用プリンタ
14・・・カセット
23・・・多孔質型インクジェット記録シート
24・・・インクジェット記録シート用包装材料
27・・・押し上げ構造


【特許請求の範囲】
【請求項1】
調湿機能を有する調湿材を用いることにより少なくとも、インクを受容する多孔質層を有する多孔質型インクジェット記録シートが収容されるシート収容部が設けられたインクジェット記録シート用包装材料。
【請求項2】
多孔質型インクジェット記録シートが収容された状態でインクジェット記録用プリンタに装着可能であって、装着中の少なくとも前記多孔質層が前記調湿材により調湿されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録シート用包装材料。
【請求項3】
前記調湿材の少なくとも一部は、パルプ全体に対して20〜80質量%の機械パルプを含む原紙であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録シート用包装材料。
【請求項4】
前記調湿材は、収容された多孔質型インクジェット記録シートの前記多孔質層の表面と接触する位置に配されたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録シート用包装材料。
【請求項5】
前記調湿材の少なくとも前記多孔質層の表面と接触する領域のイオン濃度が100mg/m以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録シート用包装材料。
【請求項6】
前記イオンが、ナトリウムイオン及びカリウムイオンの少なくとも一方であることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録シート用包装材料。
【請求項7】
インクジェット記録用プリンタに装着された請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録シート用包装材料から多孔質型インクジェット記録シートを前記インクジェット記録用プリンタに供給する工程と、
供給された多孔質型インクジェット記録シートの多孔質層に、インクジェット法により染料インクを吐出する工程と、
吐出により記録された画像部に乾燥風を供給し、前記画像部の溶媒の少なくとも1部を除去する工程と、
を有するインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−70253(P2010−70253A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243088(P2008−243088)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】