説明

インクジェット記録ヘッドおよびインクジェット記録装置

【課題】インクを必要以上に加熱することなく安定した吐出制御を行なう。
【解決手段】複数の吐出口からなる吐出口列11A〜11Fと、吐出口に対応しインクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生させる複数の吐出用発熱抵抗体と、インクを加熱するために利用される熱エネルギーを発生させる加熱用発熱抵抗体501,502を備えるインクジェット記録ヘッドである。加熱用発熱抵抗体501は、前記吐出用発熱抵抗体の下層に位置し、一部が前記インク流路の下に位置する。加熱用発熱抵抗体502はヘッド用基板の外周に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の記録液を吐出して記録動作を行なう記録装置、この記録装置に適用される記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーマル方式のインクジェット記録装置は、発熱抵抗体にパルス電圧を印加し、発熱抵抗体と隣接したインク室のインクを瞬間的に沸騰させて生じた気泡の膨張によって、インク吐出口からインクを吐出することによって記録する。したがって、一定量のインクを吐出するために必要な駆動エネルギーは、インク温度や記録ヘッドの温度によって変化する。逆に、常に一定の駆動エネルギーを発熱抵抗体に供給した場合には、環境温度の変化や連続的な使用による記録ヘッドの温度上昇が生じ、インク吐出量が変動してしまい、記録される画像の濃度や色調が変わり画像の品位が低下してしまう。
【0003】
このような画像の品位の低下を避けるために、記録ヘッドの半導体素子(以下記録素子基板と呼ぶ)内に温度検出素子を設け、記録ヘッド温度を検出し、検出温度に応じて駆動パルスのパルス幅を調整するような方法がとられている。上記調整手段は、概略以下のような構成となっている。記録ヘッドに設けた温度検出素子は、たとえばダイオードであり、ダイオードに一定の電流を流した時の順方向電圧VFをA/Dコンバータに入力しデジタル量に変換して、順方向電圧VFの温度による変化量を検出する。記録ヘッドの使用環境温度範囲を幾つかに分割し、各温度領域に対して発熱抵抗体を駆動する駆動パルス信号のパルス幅テーブルを設けることで、記録ヘッドの温度に対応してパルス幅テーブルを切り替えて、温度によるインク吐出量の変動を抑えている。
【0004】
また、記録ヘッドが低温(0℃〜15℃)の場合には、インクの粘度が高いため、所定のインク吐出量を確保するために、予備加熱用のプレパルスを加えたダブルパルス駆動を行う一例が特許文献1で述べられている。他の方法として、記録素子基板上に設けられたサブヒータで記録素子基板を加熱することでインクの予備加熱を行い、低温時の吐出特性の悪化を解消しているものもある。この方法として特許文献2では吐出用発熱抵抗体と同一層でサブヒータを設けるものが紹介されている。さらに、吐出用発熱抵抗体の下層に、IC回路で使用される層で構成されたサブヒータを設けることにより、記録素子基板が必要以上に大きくなることを防いだり製造工程の増加を防いだりできるものが特許文献3で述べられている。
【特許文献1】特開平5−31905号公報
【特許文献2】特開平3−5151号公報
【特許文献3】特開平10−774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来のインクジェット記録ヘッドには、以下に述べるような問題点があった。
【0006】
しばらくインクを吐出しなかった状態からの一発目の吐出特性すなわち発一特性を、インクの加熱によって改善するため吐出口近傍を加熱する場合がある。この場合、吐出用発熱抵抗体にインクが発泡しない程度の駆動パルスの波形を調整するような方法を用いると、複雑なパルス制御による印字速度の低下やコスト増加、インクジェット記録ヘッドの温度上昇に時間がかかる事による印字速度の低下があった。また、印字中に温度制御する場合は印字速度が低下するという影響もあった。
【0007】
さらに、記録中、吐出用発熱抵抗体の発泡による記録素子基板の温度上昇と共に、記録素子基板の端部側から放熱することがあり、これにより、記録素子基板内の端部と中央部において、温度分布が発生することがあった。この場合、インクの温度による、インクの粘度の影響から、インク吐出速度やインク吐出量などの吐出特性が記録素子基板内で異なり、その結果、媒体に記録される画像の色濃度や色調が変わり、スジ、ムラ等の画像品位の低下を招く虞があった。
【0008】
また、近年のインクジェット記録ヘッドでは性能向上とコストダウンを実現すべく、供給される複数種のインクに対する複数のノズルを、また、それぞれ異なる大きさのインク滴の吐出に対応した各種ノズルを、一つの記録素子基板上に効率よく多数構成している。このような異なるノズルに対応する上でも、以下の課題を解決する必要がある。
【0009】
すなわち、高粘度のインクと低粘度のインクを同じ記録素子基板上で使う場合、高粘度のインクの吐出特性を考慮するとインク温度を上げて吐出するのが望ましい。しかしながら、記録素子基板全体の温度が上がってしまい低粘度のインクにとっては更に粘度が下がってしまうのであまり好ましくない。また記録ヘッド全体の温度も上がってしまい過昇温保護回路が作動し易くなる。これは、しばらくインクを吐出しなかった状態からの一発目の吐出特性すなわち発一特性を、インクの加熱によって改善させる場合にもあてはまる。全てのインク種において十分な発一特性を得られるのが好ましいが、各種インクの発色や劣化等の目標値を達成するためには必ずしも可能ではなく、インク種によっては十分な発一特性が出せない場合がある。
【0010】
また、同じインクにおいても、インク滴の大きさすなわちインク吐出口の大きさによって発一特性に差が生じてくる。すなわち吐出口が小さい程発一特性は悪くなるためさらなる小液滴化が進むとより厳しくなる。発一特性の良くないインクの吐出特性や相対的に小さい吐出口列の吐出特性を加熱により改善しようとすると、記録素子基板全体の温度が上がってしまい他のインクや吐出口列にとっては好ましくない。また、記録ヘッド全体の温度も上がってしまい過昇温保護回路が作動し易くなる。
【0011】
そこで本発明の目的は、記録素子基板上の位置により加熱度合いを変えることで、ヘッドの温度を必要以上に上昇させることなく安定した吐出制御を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様は、複数の吐出口からなる吐出口列と、前記吐出口にインクを供給するために前記吐出口に連通されたインク流路部と、前記吐出口に対応しインクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生させる複数の吐出用発熱抵抗体とを備えた記録素子基板を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、前記吐出用発熱抵抗体の下層に配置されるとともに前記インク流路部の下を通って配置された第1の加熱用発熱抵抗体と、前記記録素子基板の外周に配置された第2の加熱用発熱抵抗体の少なくとも2種類を有し、ヘッドの温度に応じて、前記第1の加熱用発熱抵抗体と前記第2の加熱用発熱抵抗体の発熱量を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の第二の態様は、複数の吐出口からなる複数の吐出口列と、前記吐出口にインクを供給するために前記吐出口に連通されたインク流路部と、各々の前記吐出口列の前記インク流路部にインクを供給するための複数のインク供給口と、前記吐出口に対応しインクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生させる複数の吐出用発熱抵抗体とを備えた記録素子基板を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、前記吐出用発熱抵抗体の下層に配置されるとともに各々の前記吐出口列の前記インク流路部の下を通って配置された複数の加熱用発熱抵抗体を有し、前記複数の加熱用発熱抵抗体のうちの少なくとも2つが異なる材料層で構成されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果は次の通りである。第1の加熱用発熱抵抗体は、吐出用発熱抵抗体の下層に配置されるとともにインク流路部の下を通って配置されるため、必要な部位を効率的に加熱することが可能となる。これにより、吐出用発熱抵抗体の駆動エネルギーを少なくすることが可能となり、吐出効率が向上する。また、記録素子基板が必要以上に大きくなり、製造コストが増加してしまうことを抑制することが可能となる。
【0015】
さらに、第1の加熱用発熱抵抗体及び第2の加熱用発熱抵抗体を用いて、その発熱量をヘッド温度に応じて制御することにより、記録中、効率的に記録素子基板の端部と中央部における温度分布の発生を抑制することが可能となる。これにより、画像品位が著しく低下することの無いインクジェット記録ヘッドを提供することが可能となる。
【0016】
また、記録素子基板上の位置による加熱度合いの設定が容易に行えるため、ヘッドの温度を必要以上に上昇させることのない効率良い加熱が可能で、安定した吐出制御をおこなうことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
なお、以下の各実施形態で示される数値は一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、各実施形態に限らず、これらをさらに組み合わせるものであってもよく、特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるべき他の技術にも応用することができる。
【0019】
(実施形態1)
まず、本発明の特徴を具体的に説明する前に、本発明を好適に実施できるインクジェットプリントヘッドカートリッジを搭載するのに好適なインクジェット記録装置の構成について説明する。
【0020】
図1は本実施形態におけるプリントヘッドカートリッジが搭載されるインクジェットプリンタの機構部分の外観図である。本実施形態におけるインクジェットプリンタのシャシー1010は、所定の剛性を有する複数の板状金属部材により構成され、このインクジェットプリンタの骨格をなす。シャシー1010には、図示しないシート状のプリント媒体をインクジェットプリンタの内部へと自動的に給送する媒体給送部1011が組み付けられている。この媒体給送部1011から1枚ずつ給送されるプリント媒体を所望のプリント位置へ導くと共にこのプリント位置から媒体排出部1012へとプリント媒体を導く媒体搬送部1013が組み付けられている。さらに、プリント位置に搬送されたプリント媒体に所定のプリント動作を行うプリント部と、このプリント部の機能回復処理を行うヘッド回復部1014とが組み付けられている。
【0021】
プリント部は、キャリッジ軸1015に沿って走査移動可能に支持されたキャリッジ1016と、このキャリッジ1016にヘッドセットレバー1017を介して着脱可能に搭載されるプリントヘッドカートリッジ1000(図2)とからなる。
【0022】
プリントヘッドカートリッジ1000が搭載されるキャリッジ1016には、このカートリッジ1000の一部を構成するプリントヘッド部1001(図2)をキャリッジ1016上の所定の装着位置に位置決めするためのキャリッジカバー1020がある。また、プリントヘッドカートリッジ1000の一部を構成するインクタンク部1002(図2)と係合してプリントヘッド部1001を所定の装着位置に位置決めするように押圧する、前述のヘッドセットレバー1017とが設けられている。ヘッドセットレバー1017は、キャリッジ1016の上部に図示しないヘッドセットレバー軸に対して回動可能に設けられ、また、プリントヘッドカートリッジ1000との係合部には、ばね付勢される図示しないヘッドセットプレートが設けられている。このヘッドセットプレートのばね力によってプリントヘッドカートリッジ1000を押圧しながらキャリッジ1016に装着するようになっている。
【0023】
プリントヘッドカートリッジ1000に対するキャリッジ1016の別の係合部には、コンタクトフレキシブルプリントケーブル(以下、コンタクトFPCと称す)1022の一端部が連結されている。このコンタクトFPC1022の一端部に形成された図示しないコンタクト部と、プリントヘッド部1001と電気的に接続され電気配線基板1300に設けられた外部信号入力端子であるコンタクト部1301とが電気的に接触している。そして、プリントのための各種情報の授受やプリントヘッド部1001への電力の供給などを行えるようになっている。
【0024】
コンタクトFPC1022とキャリッジ1016との間には、図示しないゴムなどの弾性部材が設けられている。この弾性部材の弾性力とヘッドセットプレートによる押圧力とによって、コンタクトFPC1022のコンタクト部とプリントヘッドカートリッジ1000の外部信号入力端子部1301との確実な接触を可能とするようになっている。コンタクトFPC1022の他端部は、キャリッジ1016の背面に搭載された図示しないキャリッジ基板に接続されている。
【0025】
次に、本発明のインクジェットプリントヘッドカートリッジに係る実施形態の基本構成および作用を説明する。
【0026】
本実施形態のプリントヘッド部は、電気信号に応じて膜沸騰をインクに対して生じせしめてインクを吐出するのに利用される熱エネルギーを生成する電気熱変換体を用いて記録を行なうバブルジェット方式のサイドシューター型とされるプリントヘッド部である。
【0027】
図2は、本発明におけるプリントヘッドカートリッジの斜視図であるが、図に示すように、プリントヘッド部1001は、発熱抵抗体を有する電気熱変換素子によってインクを加熱し、膜沸騰の作用によりインク滴を吐出させる記録素子基板1100を有している。さらに、記録素子基板1100にプリンタ(図1)からの駆動信号等を印加する電気配線基板1300と、記録素子基板1100にインクを供給するためのインク流路を形成しインクタンク部1002に接続される支持部材1500等から構成されている。
【0028】
次に、図3にプリントヘッド部1001の分解斜視図を示し、詳細に説明する。図3に示すように、記録素子基板1100の主面には、吐出口1101を備えるノズルプレート1102と電極部1103が備わっている。そして、電気配線基板1300の開口部1303はそれらを組み込める形状となっており、記録素子基板1100のインク供給口が、支持部材1500上の流路の出口となるインク供給口1506に対応するように、第1の接着剤1501によって接続される。また、電気配線基板1300は、支持部材1500に対して、開口部1303に配置されたインナーリード1302と記録素子基板の電極部1103が接続できる位置に、第2の接着剤1502で固定されている。そして、インナーリード1302と電極部1103が例えば特開平10−000776に述べられているTAB実装技術によって電気的に接続されている。さらに、電気配線基板1300はプリンタからの駆動信号等を入力するコンタクト部1301を有する部分が、支持部材1500の側面に第3の接着剤1503によって接着固定される。
【0029】
また、図4は、プリントヘッド部1001の斜視図であり、(a)は全体図、(b)は(a)に示すA部の拡大図である。この図に示すように記録素子基板1100の側面周囲を、第1の封止剤1201によって封止し、さらに、電気接続部を第2の封止剤1202によって封止し、電気接続部をインクによる腐食や外力から保護している。
【0030】
次に、図5を用いて、本発明の記録素子基板の構造を詳しく説明する。
【0031】
図5は本実施形態における記録素子基板の断面図である。
【0032】
図5に示すように、P導電体のSi基板201にAsなどのドーパントをイオンプランテーション及び拡散の手段により導入し、N型エピタキシャル層203を形成する。さらに、N型エピタキシャル層203にB等の不純物を導入し、P型ウェル領域204を形成する。その後、フォトリソグラフィと酸化拡散及びイオンプランテーション等の不純物導入を繰り返してN型エピタキシャル領域にp−MOS250、P型ウェル領域にn−MOS251が構成される。p−MOS250及びn−MOS251は、それぞれ厚さ数百Åのゲート絶縁膜208を介してCVD法で堆積したポリシリコンによるゲート配線215及びN型あるいはP型の不純物導入したソース領域205、ドレイン領域206で構成される。
【0033】
以上のMOSトランジスタによりラッチ回路やシフトレジスタ(S/R)等のロジック部が構成される。また、発熱素子のドライバとなるNPN型パワートランジスタ252は、やはり不純物導入及び拡散等の工程によりN型エピタキシャル層中に、コレクタ領域211、ベース領域212、エミッタ領域213などで構成される。
【0034】
また、各素子間は、フィールド酸化により、酸化膜分離領域253を形成し素子分離されている。このフィールド酸化膜は、Ta膜である発熱素子255下においては、一層目の畜熱層214として作用する。各素子が形成された後、層間絶縁膜216がCVD法でPSG、BPSGで堆積され、熱処理により平坦化処理等される。そしてコンタクトホールを介し、一層目の第1のアルミ電極217でロジック回路250、251の配線とパワートランジスタ252の配線がされている。
【0035】
本発明においては、図5に示すように吐出用発熱抵抗体300となる抵抗層219の下層に、第1の加熱用発熱抵抗体501が設けられている。この第1の加熱用発熱抵抗体501は、アルミで形成し前述のアルミ電極217製法時に同時に作ってもよいし、前述のゲート配線に用いられるポリシリコンで形成してもよい。また、第1の加熱用発熱抵抗体と同層の第2の加熱用発熱抵抗体601が記録素子基板の外周に設けられている。第1の加熱用発熱抵抗体501と第2の加熱用発熱抵抗体601は、それぞれ図6に示した外部信号入力端子1301の中の第1の加熱用コンタクトパッド510と第2の加熱用コンタクトパッド610に同じ層の配線を介し、電気的に接続されている。そして、本体からの信号によりコンタクトパッド510、610に信号が送られると、発熱する仕組みになっている。
【0036】
その後、プラズマCVD法によるSiO等の層間絶縁膜218が堆積形成されている。この層間絶縁膜218にはスルーホールが開口され、熱変換素子の配線とそれらと駆動トランジスタを接続するアルミ電極層220が配線されている。そして、ヒータ層219と2層目の第2のアルミ電極220を形成している。
【0037】
保護膜221は、プラズマCVD法によりSiN膜が形成されている。最上層には耐キャビテーション膜222が、Ta等で堆積され、パッド部254を開口して形成する。また、220は第2のAl(アルミ)電極である。このように、熱変換素子群を有し、素子駆動用のパワートランジスタ及び、シフトレジスタとラッチよりなる印字信号に対して、選択的に素子を駆動させるためのロジック回路が一体となった構造となっている。
【0038】
次に、図7は本実施形態における記録素子基板1100の平面図であるが、この図を用いてさらに詳しく説明する。
【0039】
記録素子基板1100は、記録素子基板の温度を測定するためのヘッド温度センサ800を有する。ヘッド温度センサとしては、例えばサーミスタが用いられるが、ヘッド温度を検出できるものならば他の種類のデバイスを用いてもよい。
【0040】
本発明においては、シアン,マゼンタ,イエローの3色のインクが用いられる。吐出口1101は円状であり、吐出口径が16.8μmであり、吐出される一滴あたりのインク吐出量がおよそ5.7ngである。吐出口列11A、11Bはシアンインクを、吐出口列11C、11Dはマゼンタインクを、吐出口列11E、11Fはイエローインクを吐出する吐出口列である。吐出口列11A〜Fに対応してそれぞれ第1の加熱用発熱抵抗体501が設けられている。第1の加熱用発熱抵抗体501は同層の配線101で接続されている。この第1の加熱用発熱抵抗体の幅は一例として3μmであり、抵抗値が192Ωであり、24Vの電圧が加えられているため、発熱量が3W程度である。また、図7に示すように第2の加熱用発熱抵抗体601は記録素子基板の周囲を囲むように設けられている。この第2の加熱用発熱抵抗体の幅は1例として4μmである。この第1の加熱用発熱抵抗体501と第2の加熱用発熱抵抗体601は、前述のようにそれぞれ図6に示す第1の加熱用コンタクトパッド510、第2の加熱用コンタクトパッド610に電気的に接続されている。第1の加熱用発熱抵抗体501は、第1の加熱用コンタクトパッド510に通電すると発熱する仕組みになっている。また、第2の加熱用発熱抵抗体601は第2の加熱用コンタクトパッド610に通電すると発熱する仕組みになっている。以上のような構成であるため、本実施形態においては、第1の加熱用発熱抵抗体501と第2の加熱用発熱抵抗体601は別々に制御することが可能である。
【0041】
図8は第1の加熱用発熱抵抗体の位置を説明するための図であり、図8(a)は、図7のA部の拡大図であり、図8(b)は図8(a)のa-aの断面図である。図8に示すように、第1の加熱用発熱抵抗体501の一部は吐出口1101にインクを供給するために吐出口に直接連通されたインク流路部の下を通って配置されている。このため、第1の加熱用発熱抵抗体は吐出口近傍のインクを効率的に温めるのに適している。また、本実施形態に用いられるインクは温度が高くなることで、粘度が下がる性質、発一特性(しばらくインクを吐出しなかった状態からの一発目の吐出特性)がよくなる性質が持つ液体である。
【0042】
図9は本発明におけるヘッド温度と発一特性の関係を示した表である。この表に示すように温度センサで読み取ったヘッド温度が15℃では、0.5スキャン以上吐出を行なわないいわゆる間欠状態が続くと、安定して吐出を行なうことができない。しかし、ヘッド温度が40℃に達すると間欠状態が6スキャン程度までなら安定して吐出を行なうことができる。さらにヘッド温度が50℃に達すると間欠状態が7スキャン程度までなら安定して吐出を行なうことができる。
【0043】
本実施形態において具体的に印字命令が行なわれた場合の動作について説明する。
【0044】
図10は、本発明の第1の実施形態における印字命令時の温調処理を示すフローチャートである。前述のように、本発明に用いられるインクは、温度が上がることにより、粘度が下がる性質、発一性がよくなる性質を持つ。前述のようにヘッド温度が40℃に達していると、予備吐出後、間欠状態が6スキャン程度までなら安定してインクを吐出することができる。図10を用いて、本実施形態における、印字命令から印字を開始するまで(記録開始前)の具体的動作を示す。印字命令(ステップS100)が行なわれると、ヘッド温度センサ800(図7)により現在のヘッド温度を測定(ステップS101)する。図示していないが、ステップS100の後に吸引等の回復動作を行ってもよい。温度測定の結果、ヘッド温度が40℃以上の場合には、ステップS102、S110、S111に示すように予備吐出を行ない、印字動作を開始する。ヘッド温度が40℃以上であるため、予備吐出後、間欠状態が6スキャン程度続いても安定して吐出を行なえる状態で印字を開始できる。
【0045】
ヘッド温度が30℃以上40℃未満である場合は、ステップS103、S104に示すように、第1の加熱用発熱抵抗体501をTa秒間発熱させ、インク温度を10℃程度上昇させる。Ta秒は、インク温度を10℃程度上昇させるのに必要な加熱時間であり、0.5秒程度である。第1の加熱用発熱抵抗体の一部は、吐出口にインクを供給するために吐出口に連通されたインク流路の下に位置するため、インクを効率的に温めることができる。その結果、吐出口列11に対応するインクの温度が40℃程度に達する。その後、予備吐出(ステップS110)を行い、印字開始動作(ステップS111)を行なう。
【0046】
ヘッドの温度が20℃以上30℃未満である場合は、ステップS105、S106に示すように、第1の加熱用発熱抵抗体501をTb(>Ta)秒間発熱させる。Tb秒はインク温度を20℃程度上昇させるのに必要な加熱時間である。その後、予備吐出(ステップS110)を行い、印字(ステップS111)を開始する。この時、吐出口列11に対応するインクは40℃程度に上昇する。
【0047】
同様に、ヘッド温度が10℃以上20℃未満である場合には、第1の加熱用発熱抵抗体501をインク温度が30℃程度上昇するTc(>Tb)秒間発熱させ、予備吐出後、印字開始動作を行う(ステップS107、S108、S110、S111)。
【0048】
ヘッド温度が10℃以下である場合には、第1の加熱用発熱抵抗体501をインク温度が40℃程度上昇するTd(>Tc)秒間発熱させる。その後、予備吐出を行い、印字開始動作を行う(ステップS107、S109、S110、S111)。
【0049】
以上のような制御を行なうことにより、6スキャン程度は予備吐出を行なうことなく、安定した画像形成が可能となる40℃程度にヘッド温度が達した状態で、印字を開始することができる。
【0050】
次に、図11を用いて印字開始後の動作について説明を行なう。印字が開始される(ステップS200)と、ステップS201に示すように第2の加熱用発熱抵抗体601の発熱を開始する。第2の加熱用発熱抵抗体601は図7に示すように記録素子基板1100の周囲を囲むように設けられており、特に放熱が大きい記録素子基板1100の端部を効果的に温めることができ、放熱により温度が下がるのを防ぐ効果がある。さらには、記録素子基板全体を温め、温度分布をなくす効果もある。ステップS202に示すように、第2の加熱用発熱抵抗体により基板端部のインクも温められたまま、6スキャン分の印字を行なう。この時、前述のようにヘッド温度が40℃程度に達しているため安定して吐出を行なえる。6スキャン分の印字(ステップS202)を終えると、ステップS203に示すように予備吐出を行い、再び6スキャン分の印字(ステップS204)を行なう。ステップS204の印字が終了すると、ステップS205に示すように全印字が終了したかを判定し、終了していない場合はステップS203に戻り、再び予備吐出を行なう。全印字が終了した場合には、第2の加熱用発熱抵抗体の発熱を停止(ステップS206)し、終了(ステップS207)となる。
【0051】
以上のように、印字動作開始時に第1の加熱用発熱抵抗体を発熱させ、インクを温めることにより発一特性を良くする。また第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させながら印字することにより、記録素子基板端部からの放熱による記録素子基板内の端部と中央部の温度分布の発生を抑制することが可能となるため、記録素子基板内でのインク吐出特性を一定にすることが可能となる。よって、媒体に記録される画像の色濃度や色調が変わることによる、スジ、ムラ等の画像品位の低下を抑制することが可能である。
【0052】
(第2の実施形態)
本実施形態に用いられるインクジェット記録ヘッド、インクジェット記録装置は第1の実施形態と同様である。よって、第1の実施形態と異なる、記録素子基板の温調処理を主に説明する。
【0053】
図12は本発明の第2の実施形態の印字命令時のヘッド温調処理を示すフローチャートである。
【0054】
図12を用いて、本実施形態における印字命令から印字を開始するまでの具体的動作を示す。
【0055】
印字命令(ステップS300)が行なわれると、ヘッド温度センサ800(図7)により現在のヘッド温度を測定(ステップS301)する。図示していないが、ステップS300の後に吸引等の回復動作を行ってもよい。温度測定の結果、ヘッド温度が40℃以上の場合には、ステップS302、S310、S311に示すように予備吐出を行ない、印字動作を開始する。ヘッド温度が40℃以上であるため、予備吐出後6スキャン程度不吐出状態であっても、安定して吐出を行なえる状態で印字を開始できる。
【0056】
ヘッド温度が30℃以上40℃未満である場合は、ステップS303、304に示すように、第1の実施形態と同じように第1の加熱用発熱抵抗体501のみTa’秒間発熱させ、インク温度を10℃程度上昇させる。Ta’秒は、インク温度を10℃程度上昇させるのに必要な加熱時間であり、0.5秒程度である。その結果、吐出口列11に対応するインクの温度が40℃程度に達する。その後、予備吐出(ステップS310)を行い、印字開始動作(ステップS301)を行なう。
【0057】
ヘッド温度が20℃以上30℃未満である場合は、ステップS305、306に示すように、第1の加熱用発熱抵抗体をTb’(<Tb)秒間、第2の加熱用発熱抵抗体をTb’’(≦Tb’)秒間発熱させる。第1の加熱用発熱抵抗体に加え、第2の加熱用発熱抵抗体も発熱させることによって、第1の実施形態で述べた第1の加熱用発熱抵抗体のみを発熱させた場合にかかる時間Tbよりも短い時間で、20℃程度の温度を上げることができる。
【0058】
ここで、第1の実施形態で説明したように第1の加熱用発熱抵抗体の抵抗値が第2の加熱用発熱抵抗体の抵抗値よりも大きい。さらに第1の加熱用発熱抵抗体の方が、第2の加熱用発熱抵抗体よりも吐出口に近い位置に設けられている。これらを考慮すると第1の加熱用発熱抵抗体の方が短時間でインクの温度を上げるのに適している。そのため、温度を上昇させるという点では、第2の加熱用発熱抵抗体を補助的に使うのが好ましい。したがって、第2の加熱用発熱抵抗体の発熱時間Tb’’より、第1の加熱用発熱抵抗体の発熱時間Tb’の方が長い、あるいは同じであることが好ましい。つまり第1の加熱用発熱抵抗体の発熱量が第2の加熱用発熱抵抗体の発熱量よりも多いことが好ましい。また、第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させることで温度分布をなくすという効果もある。その後、ステップS310、ステップS311に示すように予備吐出後、印字開始動作を行なう。
【0059】
同様に、ヘッド温度が10℃以上20℃未満である場合には、ステップS307、S308に示すように第1の加熱用発熱抵抗体501をTc’秒間、第2の加熱用発熱抵抗体をTc’’秒間発熱させる。それにより、インク温度を30℃程度上げる。ヘッド温度が20℃以上30℃未満である場合と同様に、Tc’’≦Tc’<Tcであることが好ましく、第1の加熱用発熱抵抗体の発熱量が、第2の加熱用発熱抵抗体の発熱量よりも多くなることが好ましい。その後、ステップS310、ステップS311に示すように予備吐出、印字開始動作を行なう。
【0060】
同様に、ヘッド温度が10℃以下である場合には、第1の加熱用発熱抵抗体501をTd’秒間、第2の加熱用発熱抵抗体をTd’’秒間発熱させ、インク温度を40℃程度上げる。Td’’≦Td’<Tdであることが好ましく、第1の加熱用発熱抵抗体の発熱量が、第2の加熱用発熱抵抗体の発熱量よりも多くなることが好ましい。その後、ステップS310、ステップS311に示すように予備吐出、印字開始動作を行なう。
【0061】
以上のような制御を行なうことにより、6スキャン程度は予備吐出を行なうことなく、安定した画像形成が可能となる40℃程度にインク温度が達した状態で、印字を開始することができる。さらに、第1の加熱用発熱抵抗体のみでなく第2の加熱用発熱抵抗体を加熱させることによって、第1の加熱用発熱抵抗体のみを用いた場合よりも短時間で温度を上昇させることができる。
【0062】
次に、図13を用いて印字開始後の動作について説明を行なう。印字が開始される(ステップS400)と、ステップS401に示すように第2の加熱用発熱抵抗体601の発熱を開始する。第2の加熱用発熱抵抗体601は図7に示すように記録素子基板1100の周囲を囲むように設けられており、放熱が大きい記録素子基板1100端部を効果的に温めることができる。これにより基板端部のインクも温められたまま、6スキャン分の印字(ステップS402)を行なう。この時、前述のようにヘッド温度が40℃程度に達しているため安定して吐出を行なえる。6スキャン分の印字(ステップS402)を終えると、ヘッド温度センサにより温度測定(ステップS403)を行なう。ヘッド温度が40℃以上である場合には、予備吐出(ステップS409)を行い、さらに6スキャン分の印字を行なう。ヘッド温度が40℃に達しているため、十分安定して吐出を行なうことができる。ステップS404においてヘッド温度が40℃未満である場合には、ステップS405に示すように第1の加熱用発熱抵抗体の発熱を開始する。第2の加熱用発熱抵抗体に加え、第1の加熱用発熱抵抗体も発熱させることにより、効果的にヘッド温度を上昇させる。その後、予備吐出(ステップS406)を行い、さらに6スキャン分印字(ステップS407)し、第1の加熱用発熱抵抗体の発熱を停止する。
【0063】
ステップS408、あるいはステップS410が終了すると、ステップS411において全印字が終了したかを判定し、終了していない場合はステップS403に戻り、再び予備吐を行なう。全印字が終了した場合には、第2の加熱用発熱抵抗体の発熱を停止(ステップS412)し、終了(ステップS413)となる。
【0064】
以上のように、ヘッド温度に応じて、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体の発熱量を制御することによって、より適した加熱が可能となる。
【0065】
(第3の実施形態)
ここでは、上述した第1,2の実施形態に対し異なる点を主に説明する。
【0066】
図14は本実施形態における記録素子基板の平面図である。この図に示される形態の記録素子基板1100は、相対的に吐出口の大きい第1の吐出口列11と、相対的に吐出口の小さい第2の吐出口列12を備える。吐出口は円状であり第1の吐出口径が16.8μm、第2の吐出口径が11.6μmであり、第1の吐出口から吐出される1滴あたりのインク吐出量がおよそ5.7ng、第2の吐出口から吐出される1滴あたりのインク吐出量がおよそ2.5ngである。また、隣接する吐出口列11A、12aはシアンのインクを、隣接する吐出口列11Bと12bはマゼンタのインクを、隣接する吐出口列11Cと12cはイエローのインクを吐出する吐出口列である。図14に示すように吐出口列11A〜11Cに対応して第1の加熱用発熱抵抗体501A〜501Cが設けられ、吐出口列12a〜12cに対応して第2の加熱用発熱抵抗体502a〜502cが設けられている。
【0067】
本実施形態において、ポリシリコン層からなる第2の加熱用発熱抵抗体502は配線幅190μm、配線厚1.6μmであり、アルミ層からなる第1の加熱用発熱抵抗体501は配線幅1.5μm、配線厚0.8μmである。本実施形態では、各々のインクに対応する一対の各加熱用発熱抵抗体は直列接続で配線されており、24Vの印加電圧による第1及び第2の加熱用発熱抵抗体の発熱量は、それぞれ0.5W程度及び0.75W程度である。
【0068】
図15は加熱用発熱抵抗体の位置を説明するための図であり、図15(a)は、図14のA部の拡大図であり、図15(b)は図15(a)のa−a断面である。図15に示すように、各加熱用発熱抵抗体501,502の一部は吐出口11,12にインクを供給するために吐出口に連通されたインク流路部の下に位置している。
【0069】
また図16に示すように、第1の加熱用発熱抵抗体501が占める配線幅(範囲)を4.5μmと大きくし、第1の加熱用発熱抵抗体501は、第1の吐出口列11に対応する位置に3本引いた発熱抵抗体を直列接続して構成されるものでも良い。この場合も、配線厚0.8μmで24Vの印加電圧により発熱量が0.5W程度となる。
【0070】
図17は加熱用発熱抵抗体の位置を説明するための図であり、図17(a)は図16のA部の拡大図であり、図17(b)は図17(a)のa−a断面である。第1の加熱用発熱抵抗体501が占める配線幅(範囲)を4.5μmとすることで、線幅公差による配線抵抗への影響を小さくできる。また3本の配線を引くことで、1本の場合よりも少しは広い範囲を加熱できる。
【0071】
本実施形態に用いられるインクは温度が高くなることで、粘度が下がる性質、発一特性(しばらくインクを吐出しなかった状態からの一発目の吐出特性)がよくなる性質がを持つ液体である。
【0072】
図18はヘッド温度と発一特性の関係を第1の吐出口と第2の吐出口それぞれ示した表である。この表に示すように15℃環境では第1の吐出口から吐出されるインクも第2の吐出口から吐出されるインクも、0.5スキャン以上吐出しない状態では安定しなかった。しかし、ヘッドを加熱し温度センサにより測定温度が40℃程度になると、第1の吐出口から吐出されるインクは6スキャン程度吐出されない状態からでも安定し吐出されることが確認された。同様に、温度センサによる測定温度が40℃程度になると、第2の吐出口から吐出されるインクも3スキャン程度吐出されない状態からでも安定して吐出されることが確認された。さらに、温度センサが示す温度が50℃程度になるまで加熱すると、第2の吐出口から吐出されるインクも、6スキャン程度吐出されない状態からでも安定して吐出することが確認された。
【0073】
図19,20を用いて、本実施形態において印字命令が行なわれ、印字を開始するまでの具体的動作を示す。図19はフローチャートを表し、図20は本実施形態において、加熱用発熱抵抗体の発熱時間と、第1の加熱用発熱抵抗体に対応するインクの上昇温度と第2の加熱用発熱抵抗体に対応するインクの上昇温度の関係を表すグラフである。
【0074】
図19に示すように印字命令が行なわれる(ステップS500)と、ヘッド温度センサ600(図14)により現在のヘッド温度を測定する。その結果、ステップS502、S515、S516に示すようにヘッド温度が50℃以上である場合には、6スキャン程度吐出されない状態でも安定してインクを吐出することが可能であるため、予備吐出を行ない、印字を開始する。
【0075】
ステップS503、S504で示すように、ヘッド温度が40℃以上50℃未満である場合には、第1および第2の加熱用発熱抵抗体をTA秒間発熱させる。これにより、第2の吐出口に対応するインクを6スキャン程度吐出されない状態からでも安定して吐出できる50℃以上の温度にする。
【0076】
このとき、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体は配線104により直列に接続されており、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体の抵抗比が2:3つまり発熱量がほぼ2:3である。そのため、図20に示すように、第2の加熱用発熱抵抗体に対応するインクを10℃程度上昇するように加熱すると、第1の加熱用発熱抵抗体に対応するインクも7℃程度上昇する。
【0077】
この後、予備吐出を行い、印字開始動作を行なうことにより、第1の吐出口に対応するインクは40℃程度、第2の吐出口に対応するインクは50℃程度に達しているため、6スキャン程度吐出されない状態からでも安定してインクを吐出することが可能となる。
【0078】
同様にヘッド温度が30℃以上40℃未満である場合には、第1の吐出口に対応するインクが40℃、第2の吐出口に対応するインクが50℃に達するようにTB秒間第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる(ステップS505、S506)。このTB秒間は第1の吐出口に対応するインクの温度が13℃、第2の吐出口に対応するインクの温度が20℃程度上昇する時間である。この後、予備吐出を行い、印字開始動作を行なうことにより、第1の吐出口に対応するインクは40℃程度、第2の吐出口に対応するインクは50℃程度に達しているため、6スキャン程度吐出されない状態からも安定してインクを吐出することが可能となる。
【0079】
同様にヘッド温度が20℃以上30℃未満である場合には、TC秒間第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる(ステップS507、S508)。このTC秒間は第1の吐出口に対応するインクの温度が20℃、第2の吐出口に対応するインクの温度が30℃程度上昇する時間である。この後、予備吐出後、印字を開始する。
【0080】
同様にヘッド温度が10℃以上20℃未満である場合には、TD秒間第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる(ステップS509、S510)。このTD秒間は第1の吐出口に対応するインクの温度が30℃、第2の吐出口に対応するインクの温度が45℃程度上昇する時間である。この後、予備吐出後、印字を開始する。
【0081】
同様にヘッド温度が5℃以上10℃未満である場合には、TE秒間第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる(ステップS511、S12)。このTE秒間は第1の吐出口に対応するインクの温度が40℃、第2の吐出口に対応するインクの温度が53℃程度上昇する時間である。
【0082】
この後、予備吐出後、印字を開始する。
【0083】
同様にヘッド温度が0℃以上5℃未満である場合には、TF秒間第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる(ステップS513、S514)。このTF秒間は第1の吐出口に対応するインクの温度が40℃、第2の吐出口に対応するインクの温度が60℃程度上昇する時間である。
【0084】
この後、予備吐出後、印字を開始する。
【0085】
以上のような制御を行なうことにより、不必要にインクを加熱することなく、第1の吐出口に対応するインクが40℃、第2の吐出口に対応するインクが50℃に達する。そのため、6スキャン程度未吐出状態にあっても安定してインクを吐出できる状態で印字を開始することができる。
【0086】
次に図21を用いて印字開始後の動作の説明を行なう。
【0087】
前述のように、第1の吐出口から吐出されるインクが40℃程度に、第2の吐出口から吐出されるインクが50℃程度に達した状態で、予備吐出が行なわれているため6スキャン程度の安定した画像形成が可能である。そのため、印字開始後6スキャン分の印字を行なう(ステップS600、601)。その後、ステップS602に示すようにヘッド温度センサにより、ヘッド温度が測定される。ヘッド温度が50℃以上である場合は、予備吐出後、さらにもう6スキャン分の印字を行なう(ステップS603、ステップS607、608)。このとき、ヘッド温度が50℃以上であるため、第1の吐出口列からも第2の吐出口列からも6スキャン程度安定してインクを吐出することができる。ヘッド温度が50℃未満40℃以上である場合は、ステップS605に示すように次の6スキャンで使用される吐出口が第1の吐出口のみであるかを判定する。使用するのが第1の吐出口のみである場合は、予備吐出後、次の6スキャン分の印字を行なう(ステップS607、S608)。このとき、第1の吐出口列に対応するインクは6スキャン十分安定して吐出を行なえる温度である40℃に達しているため、安定して画像を形成することができる。ステップS605において、次の6スキャンで使用する吐出口が第1の吐出口のみでない場合、つまり第2の吐出口を使用する場合は、加熱用発熱抵抗体を発熱し、吐出口に対応するインクを加熱する。その後6スキャン分の印字を行なう(ステップS607、S608)ことにより、安定した画像を形成する。
【0088】
ステップS608の6スキャン印字が終了すると、ステップS609において、全印字が終了したか否かを判断する。印字が終了していない場合は、ステップS602に戻り、ヘッド温度を測定する。全印字が終了した場合は、S610に示すように終了となる。
【0089】
本実施形態においては6スキャンごとに温度測定を行なう場合を例に取り説明したが、温度測定の間隔等を変更することも可能である。
【0090】
次に吸引命令時の動作について説明する。
【0091】
本実施形態では、図14で示す第1の吐出口列11A〜11Cと第2の吐出口列12a〜12cを同時にキャップで覆い吸引動作を行なう。相対的に吐出口の大きい第1の吐出口列と相対的に吐出口の小さい第2の吐出口列では、吐出口面積に加え、吐出口に通じる流路の断面積が大きく異なる。そのため、同一キャップで第1の吐出口列と第2の吐出口列を覆い、同じ粘度のインクの吸引を行なうと、流抵抗の小さい第1の吐出口から多量のインクが吸引され、流抵抗の大きい第2の吐出口からは少量のインクしか吸引されず十分な回復が行なえない。
【0092】
そこで、本実施形態においては吸引前に第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる。本実施形態においては、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体は配線104により直列に接続されており、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体の抵抗比が2:3つまり発熱量がほぼ2:3である。そのため、第1の吐出口に対するインクの温度より第2の吐出口に対するインクの温度が上がり、粘度が低くなる。
【0093】
具体的動作を図22を用いて説明する。吸引命令が行なわれる(ステップS700)と加熱用コンタクトパッド510,610(図6)に電気的な信号を送り、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体を同時に発熱させる(ステップS701)。第1の加熱用発熱抵抗体より第2の加熱用発熱抵抗体の抵抗値の方が大きく発熱量が大きいため、第1の吐出口に対応するインクの粘度よりも、第2の吐出口に対応するインクの粘度が下がる。その後、第1の吐出口列と第2の吐出口列を同一キャップで覆い(ステップS702)、吸引動作を行なう(ステップS703)ことにより、相対的に流抵抗の高い第2の吐出口からも安定してインクを吸引することができる。
【0094】
また、インクを加熱して吐出を行ない、発一特性を上げた状態で吐出を行なうため、頻繁な予備吐出が不要となり、廃インクの削減、スループットの向上が可能となる。また、インクの温度が高い状態で吐出を行なうため、低温時に安定してインクを吐出するための複雑なパルス制御等が不要となる。
【0095】
本実施形態では、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体の発熱量比を2:3としたが特にこれに限ったものではない。
【0096】
本発明の構成では第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体を異なる材料層で構成しているので、発熱量比を更に大きく設定することもでき、インク種やインクジェット記録ヘッドの構造に対応した発熱量設定の自由度が大きい。また、より多くの加熱を必要とする側の加熱用発熱抵抗体の配線幅(範囲)を大きくしているので、より広範囲の加熱による効率よい加熱が可能である。
【0097】
(第4の実施形態)
本実施形態の説明にあたって、上述した第1〜3の実施形態に対し異なる点を主に説明する。
【0098】
本実施形態においてはマゼンタインクは、シアンインクやイエローインクよりも粘度が高く、またシアンインクとイエローインクの粘度はほぼ等しい。
【0099】
図23は本実施形態における記録素子基板の平面図であるが、第3の実施形態と同じように、ヘッド温度センサ600が設けられている。また、記録素子基板1100には不図示のインク供給口が設けられている。そして、隣接する吐出口列11D、11Eはシアンインクの供給口に、隣接する吐出口列12F、12Gはマゼンタインクの供給口に、隣接する吐出口列11H、11Iはイエローインクの供給口に連通している。各吐出口列は同一の吐出口径で16.8μmであり、吐出口から吐出される1滴あたりのインク吐出量がおよそ5.7ngである。
【0100】
以下、相対的に粘度の低いシアンインクとイエローインクを吐出するための吐出口列11D、11E、11H、11Iを第1の吐出口列とし、相対的に粘度の高いマゼンタインクを吐出するための吐出口列12F、12Gを第2の吐出口列とし、説明を行なう。
【0101】
相対的に低粘度のインクを吐出する第1の吐出口列11D、11E、11H、11Iに対応して第1の加熱用発熱抵抗体501D、501E、501H、501Iが、相対的に高粘度のインクを吐出する第2の吐出口列12F、12Gに対応し、第2の加熱用発熱抵抗体502F、502Gが設けられている。ポリシリコン層からなる第2の加熱用発熱抵抗体502は配線幅190μm、配線厚1.6μmであり、アルミ層からなる第1の加熱用発熱抵抗体501は配線幅3μm、配線厚0.8μmである。第1の加熱用発熱抵抗体501Dと501E、及び501Hと501Iがそれぞれ並列に接続され、それぞれが第2の加熱用発熱抵抗体502F及び502Gと直列に接続されている。第1および第2の加熱用発熱抵抗体の、24Vの印加電圧による発熱量はそれぞれ0.5W程度及び0.75W程度である。
【0102】
また、本実施形態に用いられるインクは温度が高くなることで、粘度が下がる性質、発一特性(しばらくインクを吐出しなかった状態からの一発目の吐出特性)がよくなる性質がを持つ液体である。同温度では、相対的に粘度が高いマゼンタインクの発一特性が、相対的に粘度が低いシアンインク、イエローインクの発一特性よりも悪くなる。
【0103】
図24は低粘度インクと高粘度インクの温度と粘度の関係を示したグラフである。温度があがると粘度が下がり、それに伴い発一特性も良化する。15℃環境では粘度が高く、0.5スキャン以上吐出しない状態では吐出が安定しなかった。しかし、ヘッドを加熱し温度センサにより測定温度が40℃程度になると、第1の吐出口から吐出される低粘度インクは6スキャン程度吐出されない状態からも安定して吐出されることが確認された。さらに温度センサが示す温度が50℃程度になるまで加熱すると、第2の吐出口から吐出される高粘度インクも6スキャン程度吐出されない状態からも安定して吐出することが確認された。
【0104】
印字命令が行われた場合の動作は、第3の実施形態の場合と基本的には同じで、図19に示されたフローチャートに従う。また、第1および第2の加熱用発熱抵抗体の発熱時間と、第1の加熱用発熱抵抗体に対応するインクの上昇温度と第2の加熱用発熱抵抗体に対応するインクの上昇温度の関係も図20に示すものと一致する。
【0105】
図19に示すように印字命令が行なわれる(ステップS500)と、ヘッド温度センサ600(図23)により現在のヘッド温度を測定する。その結果、ステップS502、S515、S516に示すようにヘッド温度が50℃以上である場合には、6スキャン程度吐出されない状態でも安定してインクを吐出することが可能であるため、予備吐出を行ない、印字を開始する。
【0106】
ステップS503、S504で示すように、ヘッド温度が40℃以上50℃未満である場合には、第2の吐出口に対応するインクを6スキャン程度吐出されない状態から安定して吐出できる50℃以上にするために、第1および第2の加熱用発熱抵抗体をTA秒間発熱させる。このとき、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体は配線104により直列に接続されており、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体の抵抗比が2:3つまり発熱量がほぼ2:3である。そのため、図20に示すように、第2の加熱用発熱抵抗体に対応するインクを10℃程度上昇するように加熱すると、第1の加熱用発熱抵抗体に対応するインクも7℃程度上昇する。
【0107】
この後、予備吐出を行い、印字開始動作を行なうことにより、第1の吐出口に対応するインクは40℃程度、第2の吐出口に対応するインクは50℃程度に達しているため、6スキャン程度吐出されない状態からも安定してインクを吐出することが可能となる。
【0108】
同様にヘッド温度が30℃以上40℃未満である場合には、第1の吐出口に対応するインクが40℃、第2の吐出口に対応するインクが50℃に達するようにTB秒間第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる(ステップS505、S506)。このTB秒間は第1の吐出口に対応するインクの温度が13℃、第2の吐出口に対応するインクの温度が20℃程度上昇する時間である。この後、予備吐出を行い、印字開始動作を行なうことにより、第1の吐出口に対応するインクは40℃程度、第2の吐出口に対応するインクは50℃程度に達しているため、6スキャン程度吐出されない状態からも安定してインクを吐出することが可能となる。
【0109】
同様にヘッド温度が20℃以上30℃未満である場合には、TC秒間第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる(ステップS507、S508)。このTC秒間は第1の吐出口に対応するインクの温度が20℃、第2の吐出口に対応するインクの温度が30℃程度上昇する時間である。この後、予備吐出後、印字を開始する。
【0110】
同様にヘッド温度が10℃以上20℃未満である場合には、TD秒間第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる(ステップS509、S510)。このTD秒間は第1の吐出口に対応するインクの温度が30℃、第2の吐出口に対応するインクの温度が45℃程度上昇する時間である。この後、予備吐出後、印字を開始する。
【0111】
同様にヘッド温度が5℃以上10℃未満である場合には、TE秒間第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる(ステップS511、S512)。このTE秒間は第1の吐出口に対応するインクの温度が40℃、第2の吐出口に対応するインクの温度が53℃程度上昇する時間である。この後、予備吐出後、印字を開始する。
【0112】
同様にヘッド温度が0℃以上5℃未満である場合には、TF秒間第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる(ステップS513、S514)。このTF秒間は第1の吐出口に対応するインクの温度が40℃、第2の吐出口に対応するインクの温度が60℃程度上昇する時間である。この後、予備吐出後、印字を開始する。
【0113】
以上のような制御を行なうことにより、不必要にインクを加熱することなく、第1の吐出口に対応するインクが40℃、第2の吐出口に対応するインクが50℃に達しているため、6スキャン程度吐出されなかったとしても安定してインクを吐出できる状態で印字を開始することができる。
【0114】
次に図21を用いて印字開始後の動作の説明を行なう。
【0115】
前述のように、第1の吐出口から吐出されるインクが40℃程度に、第2の吐出口から吐出されるインクが50℃程度に達した状態で、予備吐出が行なわれているため6スキャン程度の安定した画像形成が可能である。そのため、印字開始後6スキャン分の印字を行なう(ステップS600、S601)。その後、ステップS602に示すようにヘッド温度センサにより、ヘッド温度が測定される。ヘッド温度が50℃以上である場合は、予備吐出後、さらにもう6スキャン分の印字を行なう(ステップS603、ステップS607、S608)。このとき、ヘッド温度が50℃以上であるため、第1の吐出口列からも第2の吐出口列からも6スキャン程度安定してインクを吐出することができる。ヘッド温度が50℃未満40℃以上である場合は、ステップS605に示すように次の6スキャンで使用される吐出口が第1の吐出口のみであるかを判定する。使用するのが第1の吐出口のみである場合は、予備吐出後、次の6スキャン分の印字を行なう(ステップS607、S608)。このとき、第1の吐出口列に対応するインクは6スキャン十分安定して吐出を行なえる温度である40℃に達しているため、安定して画像を形成することができる。ステップS605において、次の6スキャンで使用する吐出口が第1の吐出口のみでない場合、つまり第2の吐出口を使用する場合は、加熱用発熱抵抗体を発熱し、吐出口に対応するインクを加熱する。その後6スキャン分の印字を行なう(ステップS607、S608)ことにより、安定した画像を形成する。
【0116】
ステップS608の6スキャン印字が終了すると、ステップS609において、全印字が終了したか否かを判断する。印字が終了していない場合は、ステップS602に戻り、ヘッド温度を測定する。全印字が終了した場合は、S610に示すように終了となる。
【0117】
本実施形態においては6スキャンごとに温度測定を行なう場合を例に取り説明したが、温度測定の間隔等を変更することも可能である。
【0118】
次に吸引命令時の動作について説明する。本実施形態でも、図23で示す第1の吐出口列11D、E、H、Iと第2の吐出口列12F、Gを同時にキャップで覆い吸引動作を行なう。相対的に粘度の低いインクに対応している第1の吐出口列と相対的に粘度の高いインクに対応している第2の吐出口列とを同一キャップで覆い吸引を行なうと、相対的に粘度の低いシアン、イエローに対応している第1の吐出口から多量のインクが吸引される。その結果、相対的に粘度が高いマゼンタインクに対応している第2の吐出口からは少量のインクしか吸引されず十分な回復が行なえない場合がある。
【0119】
そこで、本実施形態においては吸引前に第1および第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させる。本実施形態においては、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体は配線104により直列に接続されており、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体の抵抗比が2:3つまり発熱量がほぼ2:3である。そのため、第1の吐出口に対するインクの温度より第2の吐出口に対するインクの温度が上がり、粘度が低くなる。
【0120】
具体的動作を図22を用いて説明する。吸引命令が行なわれる(ステップS700)と加熱用コンタクトパッド510,610(図6)に電気的な信号を送り、第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体を同時に発熱させる(ステップS701)。第2の加熱用発熱抵抗体より第1の加熱用発熱抵抗体の抵抗値の方が小さく発熱量が大きいため、第1の吐出口に対応するインクの温度よりも、第2の吐出口に対応するインクの温度の方が高くなる。その結果、同じ温度で相対的に粘度が高かったマゼンタインクの粘度が下がり、シアン、イエローと同程度の粘度となる。その後、第1の吐出口列と第2の吐出口列を同一キャップで覆い(ステップS702)、吸引動作を行なう(ステップS703)ことにより、第2の吐出口からも安定してインクを吸引することができる。
【0121】
また、第3の実施形態と同様にインクを加熱して吐出を行ない、発一特性を上げた状態で吐出を行なうため、頻繁な予備吐出が不要となり、廃インクの削減、スループットの向上が可能となる。また、インクの温度が高い状態で吐出を行なうため、低温時に安定してインクを吐出するための複雑なパルス制御等が不要となる。
【0122】
本実施形態では、ロジック回路に使用されるアルミ層及びポリシリコン層で第1及び第2の加熱用発熱抵抗体を構成している場合を述べているが、記録素子基板上に新たな層を形成して第3の加熱用発熱抵抗体を構成することも可能である。例えば厚さの異なるアルミ層もしくはポリシリコン層またはその他の層を層間絶縁膜を挟んで新たに設けることで、シアン、マゼンタ、イエローが異なる特性を有する場合にもそれぞれに対応することが可能である。
【0123】
(第5の実施形態)
本実施形態の説明にあたって、上述した第1〜4の実施形態に対し異なる点を主に説明する。
【0124】
図25は本実施形態における記録素子基板の平面図であるが、第3の実施形態と同じように、温度センサ600が設けられている。また、記録素子基板1100には不図示のインク供給口が設けられており、隣接する吐出口列11J、11Kはシアンインクの供給口に、隣接する吐出口列11L、11Mはマゼンタインクの供給口に、隣接する吐出口列11N、11Oはイエローインクの供給口に連通している。各吐出口列は同一の吐出口径で16.8μmであり、吐出口から吐出される1滴あたりのインク吐出量がおよそ5.7ngである。各吐出口列11J、11K、11L、11M、11N、11Oに対応してそれぞれ第1の加熱用発熱抵抗体501J、501K、501L、501M、501N、501Oが設けられている。これらはアルミ層からなり、配線幅1.5μm、配線厚0.4μmである。
【0125】
また、吐出口列11L、11Mには更にそれぞれ第2の加熱用発熱抵抗体502P、502Qが設けられている。これらはポリシリコン層からなり配線幅150μm、配線厚0.78μmである。
【0126】
本実施形態においては、それぞれのインクに対応する一対の各第1の加熱用発熱抵抗体501Jと501K、501Lと501M、501Nと501Oはそれぞれ直列に接続され、図6に示す第1の加熱用コンタクトパッド510に電気的に接続されている。24Vの印加電圧による発熱量は各加熱用発熱抵抗体あたり0.5W程度である。それとは別に第2の加熱用発熱抵抗体502P、502Qは配線104により直列に接続されており、図6に示す第2の加熱用コンタクトパッド610に電気的に接続されている。24Vの印加電圧による発熱量は各加熱用発熱抵抗体あたり0.75W程度である。
【0127】
図26は加熱用発熱抵抗体の位置を説明するための図であり、図26(a)は、図25のB部の拡大図であり、図25(b)は図25(a)のa−a断面である。図25に示すように、第1の加熱用発熱抵抗体502の一部と第2の加熱用発熱抵抗体501が、吐出口にインクを供給するために吐出口に連通されたインク流路部の下に複数配置されている。
【0128】
マゼンタインク、シアンインク、イエローインクの粘度が殆ど同じで、粘度や発一特性の温度依存性もほぼ同じ場合は、ヘッド温度に応じてコンタクトパッド610に通電し過熱することで安定してインクの吐出が得られる。しかし、マゼンタインクとして、シアンインク、イエローインクよりも相対的に粘度が高いものが使用されるような場合は、コンタクトパッド610に加えコンタクトパッド510にも通電し加熱することで安定したインクの吐出制御が可能となる。このように、本実施形態ではインクジェット記録ヘッドに使用されるマゼンタインクが変更しても、その特性に対応したインクの加熱を効率良く行うことが可能となる。
【0129】
本実施形態では、マゼンタインクの吐出口列においてのみ第1の加熱用発熱抵抗体と第2の加熱用発熱抵抗体の両方を設けているが、全ての吐出口列に両方の加熱用発熱抵抗体を設けても良い。この場合、第1の加熱用発熱抵抗体は全て共通の配線で接続し、第2の加熱用発熱抵抗体は各インクに対応した吐出口列ごとに個別の配線とする。それにより、各インク間に特性のばらつきがない場合は第1の加熱用発熱抵抗体でインク差なく加熱でき、特定のインクに特性差がある場合はそのインクのみ選択的により加熱することができるので、効率良い加熱が可能となる。
【0130】
更には、第2の加熱用発熱抵抗体を各吐出口列ごとに個別の配線にすることで、各吐出口列に吐出口の大小差があっても、効率良く個別の加熱制御が可能となる。
【0131】
また、本実施形態では、ロジック回路に使用されるアルミ層及びポリシリコン層で第1及び第2の加熱用発熱抵抗体を構成している場合を述べているが、記録素子基板上に新たな層を形成して第3の加熱用発熱抵抗体を構成することも可能である。例えば厚さの異なるアルミ層もしくはポリシリコン層またはその他の層を層間絶縁膜を挟んで新たに設けることで、さらに多様な組合せに対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明におけるインクジェットカートリッジの斜視図である。
【図3】本発明におけるプリントヘッド部の分解斜視図である。
【図4】本発明におけるプリントヘッド部の斜視図で、(a)は全体図、(b)は(a)に示すA部の拡大図である。
【図5】本発明における記録素子基板の断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態におけるインクジェットカートリッジの斜視図である。
【図7】本発明の第1の実施形態における記録素子基板の図である。
【図8】(a)は図1のA部の拡大図、(b)は(a)のa−a部の断面図である。
【図9】第1の実施形態におけるヘッド温度と発一特性の関係の表である。
【図10】本発明の第1の実施形態の印字命令時の温調処理を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第1の実施形態の印字開始後の温調処理を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第2の実施形態の印字命令時の温調処理を示すフローチャートである。
【図13】本発明の第2の実施形態の印字開始動作後の温調処理を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第3の実施形態における記録素子基板の図である。
【図15】(a)は図14のA部の拡大図、(b)は(a)のa−a部の断面図である。
【図16】本発明の第3の実施形態における記録素子基板のもうひとつの例の図である。
【図17】(a)は図16のA部の拡大図、(b)は(a)のa−a部の断面図である。
【図18】第3の実施形態におけるヘッド温度と発一特性の関係の表である。
【図19】第3の実施形態における印字命令時の温調処理を示すフローチャートである。
【図20】第3の実施形態における加熱用発熱抵抗体の発熱時間とインク温度の関係を示す表である。
【図21】第3の実施形態における印字開始動作後の温調処理を示すフローチャートである。
【図22】第3の実施形態における吸引命令時の温調処理を示すフローチャートである。
【図23】本発明の第4の実施形態における記録素子基板の図である。
【図24】本発明に利用するヘッド温度とインクの粘度の関係の図である。
【図25】本発明の第5の実施形態における記録素子基板の図である。
【図26】(a)は図25のB部の拡大図、(b)は(a)のa−a部の断面図である。
【符号の説明】
【0133】
11 吐出口列、第1の吐出口列
12 第2の吐出口列
101 配線
102 配線
104 配線
201 シリコン基板
202 N型埋込層
203 N型エピタキシャル層
204 P型ウェル層
205 ソース領域
206 ドレイン領域
208 ゲート絶縁膜
211 コレクタ領域
212 ベース領域
213 エミッタ領域
214 蓄熱層
215 ゲート電極
216 層間絶縁膜
217 アルミ電極
218 層間絶縁膜
219 抵抗層
220 別のアルミ電極(吐出用)
221 保護膜
222 耐キャビテーション層
250 p-MOS
251 p-MOS
252 NPNトランジスタ
253 酸化膜分離領域
254 パッド部
500 加熱用発熱抵抗体
501 第1の加熱用発熱抵抗体
502、601 第2の加熱用発熱抵抗体
510 第1の加熱用コンタクトパッド
610 第2の加熱用コンタクトパッド
600、800 ヘッド温度センサ
1000 プリントヘッドカートリッジ
1001 プリントヘッド部
1002 インクタンク部
1010 シャシー
1011 媒体供給部
1012 媒体排出部
1013 媒体搬送部
1014 ヘッド回復部
1015 キャリッジ軸
1016 キャリッジ
1017 ヘッドセットレバー
1020 キャリッジカバー
1022 コンタクトフレキシブルプリントケーブル(コンタクトFPC)
1100 記録素子基板
1101 吐出口
1102 ノズルプレート
1103 電極部
1201 第1の封止剤
1202 第2の封止剤
1300 電気配線基板
1303 開口部
1500 支持部材
1300 電気配線基板
1303 開口部
1500 支持部材
1501 第1の接着剤
1502 第2の接着剤
1503 第3の接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吐出口からなる吐出口列と、前記吐出口にインクを供給するために前記吐出口に連通されたインク流路部と、前記吐出口に対応しインクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生させる複数の吐出用発熱抵抗体とを備えた記録素子基板を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記吐出用発熱抵抗体の下層に配置されるとともに前記インク流路部の下を通って配置された第1の加熱用発熱抵抗体と、前記記録素子基板の外周に配置された第2の加熱用発熱抵抗体とを有し、前記記録素子基板の温度に応じて、前記第1の加熱用発熱抵抗体と前記第2の加熱用発熱抵抗体の発熱量を制御することを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
記録開始前は、前記第1の加熱用発熱抵抗体を発熱させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
記録中は、前記第2の加熱用発熱抵抗体を発熱させることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
記録中は、前記記録素子基板の温度に応じて、前記第1の加熱用発熱抵抗体と前記第2の加熱用発熱抵抗体の発熱量を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記第1の加熱用発熱抵抗体の発熱量が、前記第2の加熱用発熱抵抗体の発熱量よりも多いことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
複数の吐出口からなる複数の吐出口列と、前記吐出口にインクを供給するために前記吐出口に連通されたインク流路部と、各々の前記吐出口列の前記インク流路部にインクを供給するための複数のインク供給口と、前記吐出口に対応しインクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生させる複数の吐出用発熱抵抗体とを備えた記録素子基板を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記吐出用発熱抵抗体の下層に配置されるとともに各々の前記吐出口列の前記インク流路部の下を通って配置された複数の加熱用発熱抵抗体を有し、
前記複数の加熱用発熱抵抗体のうちの少なくとも2つが異なる材料層で構成されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記複数の吐出口列は少なくとも、相対的に吐出口径の大きい第1の吐出口列と、相対的に吐出口径の小さい第2の吐出口列とからなり、前記第1の吐出口列に対応する前記加熱用発熱抵抗体と前記第2の吐出口列に対応する前記加熱用発熱抵抗体とが、異なる材料層で構成されていることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
相対的に吐出口径の大きい前記第1の吐出口列に対応する前記加熱用発熱抵抗体が占める幅に対し、相対的に吐出口径の小さい前記第2の吐出口列に対応する前記加熱用発熱抵抗体が占める幅が大きいことを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項9】
前記複数のインク供給口は少なくとも、相対的に粘度が低いインクを供給する第1のインク供給口と、相対的に粘度が高いインクを供給する第2のインク供給口とからなり、前記第1のインク供給口と連通する吐出口列に対応する前記加熱用発熱抵抗体と前記第2のインク供給口に連通する吐出口列に対応する前記加熱用発熱抵抗体とが、異なる材料層で構成されていることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項10】
相対的に粘度が低いインクを供給する前記第1のインク供給口に対応する前記加熱用発熱抵抗体が占める幅に対し、相対的に粘度が高いインクを供給する前記第2のインク供給口に対応する前記加熱用発熱抵抗体が占める幅が大きいことを特徴とする請求項9に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項11】
前記吐出口列のうち少なくとも一つの吐出口列に対応する前記加熱用発熱抵抗体が複数配置されていることを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドを有し、該インクジェット記録ヘッドよりインク滴をプリント媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2009−833(P2009−833A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161592(P2007−161592)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】