説明

インクジェット記録ヘッド

【課題】比較的簡素な手段で、キャリッジに対してインクカートリッジを精度良く保持でき、インク吐出口列の傾きによる記録ヘッドのずれに起因する画像劣化の生じない高精細記録を可能とする。
【解決手段】キャリッジ取り付け時の位置決めに用いられるY方向突き当て部31が、記録素子基板24a,24bを支持する支持基板である第1のプレート22に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置本体に対して保持され、インクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写装置や、ワードプロセッサ、コンピュータ等の情報処理機器、さらには通信機器の普及に伴い、それらの機器の画像記録(プリント)のための出力装置の一つとして、インクジェット方式により記録を行うインクジェット記録装置がある。インクジェット記録装置は、記録手段であるインクジェット記録ヘッドのコンパクト化が容易であり、高精細な画像を高速で記録することができるという利点を有している。また、普通紙にも特別の処理を必要とせずに記録することができるためにランニングコストが低く、またノンインパクト方式であるために騒音が少なく、さらに複数色調(色、濃度)のインクを使用することでカラー画像の記録も容易であるなどの利点もある。
【0003】
このインクジェット記録装置における代表的なインク吐出方式としては、電気熱変換素子を用いた方式がある。この方式は、電気熱変換素子の発生する熱によって気泡を発生させ、気泡発生時に生じる圧力を利用して微小な吐出口から微少な液滴を吐出させて、記録媒体に対し記録を行うものである。一般に、液滴を形成するためのインクジェット記録ヘッドと、このヘッドに対してインクを供給する供給系とから構成される。
【0004】
電気熱変換素子を用いたインクジェット記録ヘッドは、電気熱変換素子を記録液室内に設けている。これに記録信号となる電気パルスを与えることにより記録液に熱エネルギーを与え、その時の記録液の相変化時、すなわち記録液の発泡時(沸騰時)の気泡圧力を記録液滴の吐出に利用している。
【0005】
従来のインクジェット記録ヘッドの構成例としては、例えば、特許文献1に開示された方法がある。
【0006】
これら従来のインクジェット記録ヘッドの構成例を図6、図7、図8に示す。図7は、記録ヘッド本体部とインク保持供給系とを有するインクジェット記録ヘッド(記録ヘッドカートリッジと呼ぶ。)を示しており、図7(a)は全体の斜視図、図7(b)はインクタンクを外した状態の斜視図を示している。図6は、この記録ヘッドカートリッジの記録ヘッド部の分解斜視図を示している。図8は、この記録ヘッドカートリッジの記録ヘッド部の下部平面図を示している。
【0007】
この記録ヘッドカートリッジは、インクを貯蔵するインクタンク61と、このインクタンク61から供給されるインクを記録情報に応じてノズルから吐出する記録素子基板が搭載された記録ヘッド本体部60とを有している。記録装置本体のキャリッジに対して着脱可能に搭載される、いわゆるカートリッジ方式を採ったものとなっている。
【0008】
この記録ヘッドカートリッジは、インクタンク61として、例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、およびイエローの各色独立のインクタンクが備えられている。これらのインクタンクは、図7(b)に示すように、それぞれが記録ヘッド本体部60に対して独立して着脱自在となるように装着されている。
【0009】
記録ヘッド本体部は、図6に示すように、インクタンク61から記録ヘッド本体部60にインクを供給するインク供給ユニット40と、インクを吐出するための複数の記録素子基板を備えた記録素子ユニット50を有している。
【0010】
インク供給ユニット40は、インク供給部材、インク供給フィルター、シールゴム、流路部材から構成されている。インク供給部材のインクタンク61のインク供給口との係合部に、係合部からのインクの蒸発を防止するシールゴムと、外部からのごみの進入を防止するフィルターとが取り付けられている。インク供給部材の記録素子ユニット側には、インク流路につながるインク供給路を形成する流路部材が取り付けられている。
【0011】
また、記録素子ユニット50は、流路部材のインク供給路に連通するインク供給口が形成された第1のプレートを有しており、その一表面上には、記録素子基板が接着固定されている。記録素子基板54には、インクを吐出するための複数の記録素子と、各記録素子に電力を供給するAlなどからなる電気配線とがSi基板の片面に成膜技術により形成されている。さらにこの片面上には、記録素子に対応した複数のインク流路と複数の吐出口とがフォトリソ技術により形成されている。その裏面には、インク流路にインクを供給するためのインク供給口が開口されており、記録素子基板は、このインク供給口が第1のプレート54のインク供給口と連通するように固定されている。さらに、第1のプレート54の下面には、電気配線テープ51が記録素子基板に対して電気的に接続されるように固定されている。この電気配線テープ51は、記録素子基板にインクを吐出するための電気信号を印可するものであり、記録素子基板に対応する電気配線を備えている。この電気配テープ51の端部には、本体からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子を備えた電気コンタクト基板53が接続されている。電気コンタクト基板53は、インク供給部材の背面側に位置決め固定される。これら、記録素子基板、第1のプレート、電気配線テープおよび電気コンタクト基板から記録素子ユニット部が構成されている。
【0012】
図8に示すように、インク供給ユニット40には、記録ヘッドカートリッジをインクジェット記録装置本体のキャリッジに装着するための構造が形成されている。キャリッジの対応部に当接させて、記録ヘッドカートリッジを所定の装着位置に位置決めするための突き当て基準として、Y方向(記録媒体搬送方向)の突き当て部71がインク供給部材の下面に形成されている。記録素子ユニット50とインク供給ユニット40とは、記録素子ユニットの第1のプレートの端面に設けられた2個所のY方向基準面を、インク供給部材に設けられたキャリッジへのY方向突き当て部と同一面上に当接することで、Y方向に位置決め固定されている。
【0013】
そして、前述のインク供給ユニット部40と記録素子ユニット部50とをそれぞれのインク供給路同士を連通させるように行う構成として、2つの部分の間に、接続させるインク供給路に対応した孔を有する弾性部材であるジョイントシール部材41を挟んで、インク供給ユニット40のビス止めボス部42と記録素子ユニット50のビス止め固定部55をビス52を用いて圧接させることで、それぞれのインク供給路が連通し、封止され、かつ記録素子ユニット部50が固定されるように結合されている。
【特許文献1】特開2002−209094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年では、インクジェット記録方式の普及に伴い、記録動作の一層の高精細化および高速化が要望されている。そのため、インクジェット記録ヘッドとしては多数の吐出口を高密度に配列してなるものが用いられている。またカラー記録が可能なインクジェット記録装置では、インクジェット記録ヘッドとして複数の吐出口配列を設けたものが用いられている。
【0015】
また、インクジェット記録ヘッドから吐出されて記録媒体に付着したインク滴は、記録媒体上で広がってドットを形成し、そのドットの集合体として画像が記録される。1つのドットの面積はインク滴の大きさ、すなわちインク吐出量に大きく依存する。そして、インクジェット方式を用いて高精細で銀塩写真に匹敵する高画質記録を実現するためには、インクジェット記録ヘッドから吐出するインクをできるだけ微細化する傾向にある。
【0016】
ところで、背景技術に述べた記録ヘッドカートリッジのようなインクジェット記録ヘッドは、キャリッジを介して記録装置のガイドシャフトに対し、位置決めされ、主走査(移動)が行われる。各吐出口列が主走査に対し正確に垂直なっている状態を想定して画像を生成し印字を行う。しかし実際には、インクジェット記録ヘッドやキャリッジは製造上のばらつきを持っている場合があるので、吐出口列がガイドシャフトに対して、完全な垂直でない状態となっていることがある。
【0017】
この想定と実際のずれ(傾き)によって、本来のドット配置を行うことが出来ず、結果としてパス間のバンドムラといった画像劣化を引き起こす可能性がある。特に前述したようにインク吐出量を微細化していくと1つのドットの面積が小さくなり、従来の同等の傾きであっても、エリアファクターの変化が大きくなり、より画像劣化が目立ちやすくなる傾向にある。
【0018】
そのため、インクジェット記録ヘッドにおいても、従来以上に、キャリッジとの位置決め部に対してインク吐出口列をより高い精度で保持する必要がある。そのためには、キャリッジに対して吐出口列がなるべく垂直になるよう、インクジェット記録ヘッドも高い精度で製造されることが要求される。
【0019】
一方で、インクジェット方式を用いて高精細で銀塩写真に匹敵する高画質記録を実現するためは、色再現範囲をより広げる努力がなされている。近年の高画質プリンタは、従来のブラック、シアン、マゼンタ、イエローにとどまらず、フォトブラック、グレーなどのモノクロインク、または、グリーン、レッドなどの特色インクなど数多くのインク種を搭載する傾向にある。このため、記録ヘッド本体部とインクタンクをキャリッジに積載したいわゆるオンキャリッジタイプのプリンタでは、多数のインクタンクを記録ヘッド本体部に連結するために記録ヘッド本体部が大型になる傾向にある。
【0020】
樹脂部材でなる記録ヘッド本体部のインク供給ユニットは大型化することで強度が低下する。そのため、従来のインク供給ユニットとキャリッジとの位置決めでは、装着時のインク供給部材に設けたY方向突き当て部の変形や、インク供給ユニットと記録素子ユニットの結合精度が結合時の変形で維持できず、傾き精度の確保が今まで以上に難しくなっている。
【0021】
すなわち、ドットの微細化にともなう傾き精度向上の要求がある一方で、多色化にともなうヘッドの大型化で強度が低下する傾向にあり、従来の方法では精度の確保が難しくなっている。
【0022】
本発明は以上の問題に鑑み、比較的簡素な手段で、インク吐出口列を記録装置本体の主走査方向に対し垂直に精度良く保持でき、吐出口列の傾きに起因する画像劣化の生じない高精細記録を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、記録媒体の搬送方向である第一方向と交差する第二方向に移動するキャリッジを備えたインクジェット記録装置の、当該キャリッジに保持されるインクジェット記録ヘッドであり、前記記録媒体に液滴を吐出する記録素子基板と、該記録素子基板を支持する支持基板とを含むインクジェット記録ヘッドである。
【0024】
そして、上記目的を達成するために、本発明の一態様によるインクジェット記録ヘッドは、前記キャリッジに前記インクジェット記録ヘッドを取り付けるときの前記第一方向の位置決めに用いられる第一方向突き当て部を有する。そして、該第一方向突き当て部が前記支持基板に設けられており、該第一方向突き当て部の、前記キャリッジへの装着軌跡の前方側の端面に凹状の段差が設けられている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、比較的簡素な手段で、インク吐出口列を記録装置本体の主走査方向に対し垂直に精度良く保持することができ、吐出口列の傾きに起因する画像劣化の生じない高精細記録が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
図1から図5は、本発明が実施または適用される好適なインクジェット記録ヘッドを説明するための説明図である。以下、これらの図面を参照して各構成要素について説明する。
【0028】
本実施形態のインクジェット記録ヘッド(記録ヘッドカートリッジ)は、インクジェット記録装置本体のキャリッジ34(図4)に、位置決め手段によって位置決めされ、電気的接点の接触により電気的に接続され固定支持されて載置されるとともに、キャリッジに対して着脱可能となっている。さらにインクタンクがインクジェット記録ヘッドに着脱自在に取り付けられている。このインクジェット記録ヘッドは、6個のインクタンクが搭載され、マットブラック、フォトブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、グレーのインク用のインクタンクが設けられている。これらのインクタンクはそれぞれがインクジェット記録ヘッドに対して独立して着脱自在であり、それぞれ個別に交換可能となっている。このような構成とすることにより、インクタンクを適宜交換して、インクを無駄無く使用できるので、インクジェット記録装置の印刷のランニングコストを低く抑えることができる。
【0029】
次に、インクジェット記録ヘッドに関して、それを構成しているそれぞれの構成要素毎にさらに詳しく順を追って説明する。
(1)記録ヘッド本体部
記録ヘッド本体部は、電気信号に応じてインクに対して膜沸騰を生じさせるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体を用いたバブルジェット(登録商標)方式を採用している。また、電気熱変換体とインク吐出口とが対向するように配置された、いわゆるサイドシュータ型である。
【0030】
記録ヘッド本体部は、図1の分解斜視図に示すように、記録素子ユニット20とインク供給ユニット10から構成されている。
【0031】
さらに、図2に示すように、記録素子ユニット20は、第1の記録素子基板24a、第2の記録素子基板24b、第1のプレート22、電気配線テープ(電気配線基板)26、電気コンタクト基板25、第2のプレート23で構成されている。また、インク供給ユニット10は、インク供給部材15、流路形成部材16、ジョイントシール部材11、フィルター13、シールゴム14から構成されている。
【0032】
(1−1)記録素子ユニット
第1のプレート22は、記録素子基板24a,24bを支持する支持基板である、例えば、厚さ2〜6mmのアルミナ(Al23)材料で形成されている。第1のプレート22には、インク供給口として、第1の記録素子基板24aに1種類のインクを供給するためのものと第2の記録素子基板24bに他の5種類のインクを供給するためのものとが形成されている。また、両側部には、インク供給ユニット10との接続用のビス止め部が形成されている。
【0033】
第1の記録素子基板24aには、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板に、インク流路である長溝状の貫通口であるインク供給口が1列形成されている。インク供給口を挟んだ両側には、電気熱変換素子がそれぞれ1列ずつ並べて配置されて形成されており、さらに電気熱変換素子に電力を供給するAlなどからなる不図示の電気配線が形成されている。これら電気熱変換素子と電気配線とは成膜技術により形成されている。
【0034】
電気熱変換素子は、各列千鳥状に配列されて、すなわち各列の吐出口の位置が、その並び列方向に直交する方向に並ばないように少しずれて配置されている。さらに、この電気配線に電力を供給するための電極部が電気熱変換素子の両外側の側辺に沿って配列して形成されており、電極部上にはAuなどからなるバンプが形成されている。
【0035】
そして、Si基板上の、これらが形成された面上には、電気熱変換素子に対応したインク流路を形成するインク流路壁とその上方を覆う天井部とを有し、天井部に吐出口が開口された、樹脂材料からなる構造体がフォトリソ技術によって形成されている。吐出口は、電気熱変換素子に対向して設けられており、吐出口群を形成している。この第1の記録素子において、インク流路から供給されたインクは各電気熱変換素子の発熱によって発生した気泡の圧力によって、各電気熱変換素子に対向する吐出口から吐出される。1色あたり512個の吐出口を備え、吐出量は20〜40plである。
【0036】
第2の記録素子基板24bも、第1の記録素子基板24aと同様の構成であるが、第1の記録素子基板24aと異なる点としては、インク供給口が5列形成されており、1色あたり512個から1536個の吐出口を備え、吐出量は1〜10plである。
【0037】
記録素子基板24は、そのそれぞれのインク供給口が第1のプレート22のインク供給口にそれぞれ連通するように接続され、かつ、それぞれが、第1のプレート22に対して精度良く位置するように接着固定される。この接着に用いられる第1の接着剤は、低粘度で硬化温度が低く、短時間で硬化し、硬化後比較的高い硬度を有し、かつ、耐インク性のあるものが望ましい。例えば、第1の接着剤としては、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤が用いられ、その際の接着層の厚みは50μm以下が望ましい。
【0038】
第2のプレート23は、例えば、厚さ0.5〜1mmの一枚の板状部材であり、アルミナ(Al23)で形成されている。そして、第1のプレート22に接着固定された第1の記録素子基板24aと第2の記録素子基板24bとのそれぞれの外形寸法よりも大きな2つの開口部を有する形状となっている。第2のプレート23は第1のプレート22に第2の接着剤により接着されている。これによって、電気配線テープ26を接着した際に、電気配線テープ26を第1の記録素子基板24aおよび第2の記録素子基板24bに接着面平面上で接触して電気接続できるようになっている。
【0039】
電気配線テープ26は、第1の記録素子基板24aと第2の記録素子基板24bに対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成するものである。電気配線テープ26には、それぞれの記録素子基板24に対応する2つの開口部が形成されている。この開口部の縁付近には、それぞれの記録素子基板24の電極部に接続される電極端子が形成されている。電気配線テープ26の端部には、電気信号を受け取るための外部信号入力端子を有する電気コンタクト基板25と電気的接続を行うための電気端子接続部が形成されており、電極端子と電気端子接続部は連続した銅箔の配線パターンでつながっている。
【0040】
電気配線テープ26は裏面で第3の接着剤によって第2のプレート23の下面に接着固定され、さらに、第1のプレート22の一側面側に折り曲げられ、第1のプレート22の側面に接着固定されている。第3の接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂を主成分とした厚さ10〜100μmの熱硬化接着剤が使用されている。
【0041】
電気配線テープ26と第1の記録素子基板24aおよび第2の記録素子基板24bとの電気的な接続は、例えば、記録素子基板24の電極部と電気配線テープ26の電極端子とを熱超音波圧着法により電気接合させることにより行われている。そして、第1の記録素子基板24aおよび第2の記録素子基板24bと電気配線テープ26との電気接続部分は、第1の封止剤と第2の封止剤によって封止されており、これによって電気接続部分がインクによる腐食や外的衝撃から保護されている。第1の封止剤は、主に電気配線テープ26の電極端子と記録素子基板24の電極部との接続部の裏側からの封止と記録素子基板24の外周部分の封止とに用いられており、第2の封止剤は、接続部の表側からの封止に用いられている。
【0042】
電気配線テープ26の端部には、電気コンタクト基板25が異方性導電フィルムなどを用いて熱圧着して電気的に接続されている。電気コンタクト基板25には、位置決め用の端子位置決め穴と、固定用の端子結合穴とが形成されている。
【0043】
(1−2)インク供給ユニット
図2に示すように、インク供給部材15は、インクタンクから記録素子ユニット20にインクを導くためのインク供給ユニット10の一構成部品である。インク供給部15は、例えば、樹脂成形により形成されている。インク供給部材15の、インクタンクの収容部の底部には、インクタンクのインク供給口部分に当接されるジョイント部が設けられている。ここには、外部からのゴミの進入を防ぐためのフィルター13が溶着により接合されており、さらに、ジョイント部からのインクの蒸発を防止するために、シールゴム14が装着されている。インク供給部材15内には、ジョイント部の、インクタンクとの接触面から下面に延びるインク流路が形成されている。
【0044】
インク供給部材15の底面には、記録素子ユニット20にインクを供給するインク導入口が開口された流路形成部材16が、インク導入口とインク供給部材15のインク流路とが連通するように位置決めされ、超音波溶着により取り付けられている。
【0045】
(1−3)記録素子ユニットとインク供給ユニットとの結合
図3は、本発明の記録素子ユニット20とインク供給ユニット10をビス締め固定した後の状態を示す斜視図である。記録素子ユニット20とインク供給ユニット10とは、第1のプレート22のインク供給口と、流路形成部材15のインク導入口とに対応する位置に穴が設けられたジョイントシール部材11を間に挟み圧接固定して2つのビスにより締結されている。
【0046】
ジョイントシール部材11はゴムなどの、圧縮永久ひずみが少ない弾性材料から作られており、これを間に挟んで圧接させることで、インク供給口とインク導入口とをインクリークが発生しないように良好に連通させることができる。
【0047】
(1−4)キャリッジへの装着
図4に示すとおり、インクジェット記録ヘッドはインクジェット記録装置本体のキャリッジ34に装着される。インク供給ユニット10および記録素子ユニット20には、インクジェット記録ヘッドをインクジェット記録装置本体のキャリッジ34に装着するための構造が形成されている。すなわち、インク供給部15には、キャリッジ34の対応部に当接されることで、インクジェット記録ヘッドをキャリッジ34の装着位置に案内するための装着ガイドが設けられている。また、インク供給ユニット10の上部には、本体側のヘッドセットレバー33に当接されて、インクジェット記録ヘッドをキャリッジ34に装着固定するための係合部が設けられている。
【0048】
傾きによるエリアファクターの変化に伴うバンドムラ等の画像劣化を抑制するためには、プリンタの主走査方向(記録媒体の搬送方向である第一方向と交差する第二方向)に対して垂直にインク吐出口列を精度良く配置する必要がある。インクジェット記録ヘッドとしては、キャリッジの対応部に当接させて、インクジェット記録ヘッドを所定の装着位置に位置決めするためのY方向(上記の第一方向)の突き当て基準と、インク吐出口列すなわち記録素子基板を垂直に精度良く位置決め固定することが求められる。
【0049】
従来例のインクジェット記録ヘッドでは、インク供給ユニット10を構成するインク供給部材15にY方向の突き当て基準を設けていた。インク供給部材15は樹脂のため強度が確保できず自身が変形したり、また記録素子ユニット20とインク供給ユニット10をビスにて結合する際にズレが発生する可能性があった。
【0050】
これに対し、本実施形態においては、図5(a)に示したとおり、記録素子ユニット20を構成する記録素子基板24を支持する支持基板である第1のプレート22にキャリッジへのY方向突き当て部31(第一方向突き当て部)を設けた。記録素子基板24は、支持基板である第1のプレート22に対し、画像処理によりキャリッジへの装着に使用するY方向突き当て部31に対してほぼ直交するよう精度良く積載されている。
【0051】
記録素子基板24を積載する際の画像処理の基準には、キャリッジへ装着する際の基準でもあるY方向突き当て部を用いているため、高精度な基板の積載精度がそのままキャリッジに対する吐出口列の精度となる。また、インク供給部材15の変形やインク供給ユニット10と記録素子ユニット20の結合精度の影響を受けることないため、従来の方法に対してY方向の突き当て基準に対しインク吐出口列を高い精度で構成することができる。
【0052】
また、第1のプレート22はセラミックの焼結体、本実施例においてはアルミナ(Al2O3)からなり、樹脂と比較して剛性が極めて高いため、キャリッジへの装着力など外力により変形することがなく、高い精度が確保できる。ここで、本実施形態では、樹脂製のキャリッジを用いた。キャリッジの重量を軽減し、主走査動作を行いやすくするためである。
【0053】
このため、樹脂のキャリッジに対して、本実施形態ではY方向突き当てに強度の高いセラミックのアルミナを用いたため、装着の際にキャリッジの対応部が削れることが懸念される。図5(b)は図5(a)の矢印方向の側面図であり、キャリッジの対応部に対するY方向突き当て部31の装着軌跡を示している。そこで、キャリッジ装着の軌跡においてヘッドのY方向突き当て部31がキャリッジを削ることのないよう、Y方向突き当て部31の下面側(装着軌跡の前方側の端面)に凹状の段差32を設けて端部の干渉が起きないようにした。このため、Y方向突き当て部31がセラミックであっても、キャリッジを削ることなく精度良く装着することが可能となる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、キャリッジへの取付け時の位置決めに用いられるY方向突き当て部を記録素子基板を支持する支持基板に設けることで、インク供給部材のY方向突き当て部の変形の影響が抑えられる。また、インク供給ユニットと記録素子ユニットとの組付け精度の影響による傾きの発生が抑えられる。そのため、走査方向に対するインク吐出口列の精度が向上する。また、支持基板がアルミナなどのセラミック焼結体からなるため、外力による変形の影響も排除できる。また、装着時にセラミックの突き当て部が樹脂製のキャリッジを削る懸念に対しては、突き当て部の下面凹状の段差によって回転軌跡での干渉を回避することができる。
【0055】
以上によって、キャリッジに対し、記録ヘッドが精度よく保持され、吐出口列の傾きにともなうドット形成位置ずれに起因したムラ等の画像劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例のインクジェット記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】図1のインクジェット記録ヘッドのさらに細かく分解した分解斜視図である。
【図3】図1のインクジェット記録ヘッドのインク供給ユニットと記録素子ユニットを結合した状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施例のプリンタ本体とインクジェット記録ヘッドの関係を示す斜視図である。
【図5】図5(a)は図1のインクジェット記録ヘッドの下面平面図、図5(b)は図1のインクジェット記録ヘッドのキャリッジへの装着軌跡を示す側面図である。
【図6】従来例のインクジェット記録ヘッドの分解斜視図である。
【図7】従来例のインクジェット記録ヘッドの斜視図であり、図7(a)はインクタンクを装着した状態、図7(b)はインクタンクを外した状態を示している。
【図8】従来例のインクジェット記録ヘッドの下面平面図である。
【符号の説明】
【0057】
22 第1のプレート
23 第2のプレート
24a,24b 記録素子基板
31 Y方向突き当て部
32 Y方向突き当て部の凹状段差
34 キャリッジ
70 記録ヘッドカートリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の搬送方向である第一方向と交差する第二方向に移動するキャリッジを備えたインクジェット記録装置の、当該キャリッジに保持されるインクジェット記録ヘッドであり、前記記録媒体に液滴を吐出する記録素子基板と、該記録素子基板を支持する支持基板とを含むインクジェット記録ヘッドであって、
前記キャリッジに前記インクジェット記録ヘッドを取り付けるときの前記第一方向の位置決めに用いられる第一方向突き当て部を有し、
該第一方向突き当て部が前記支持基板に設けられており、該第一方向突き当て部の、前記キャリッジへの装着軌跡の前方側の端面に凹状の段差を有していることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記記録素子基板は、前記第一方向突き当て部を基準にして前記支持基板に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記支持基板がセラミック焼結体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記支持基板がアルミナからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−46853(P2010−46853A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211595(P2008−211595)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】