説明

インクジェット記録ヘッド

【課題】回収処理能力を高くできる、マルチノズルに対応したインク回収装置を有するコンティニュアス方式のインクジェット記録ヘッドを提供する。
【解決手段】この記録ヘッドは連続的に液滴を吐出する吐出ノズル1−3と、該吐出ノズルから吐出された画像形成に使用しない非使用液滴を回収する回収口4−5,4−6と、吐出された液滴の飛翔方向を偏向して非使用液滴を前記回収口へ着弾させ、液滴のうち画像形成に使用する液滴のみを被記録媒体へ着弾させるための帯電電極2−2および偏向電極3−2,3−3を備える。偏向電極3−2,3−3は、非使用液滴を回収口4−5と回収口4−6に振り分けながら着弾させられるように、非使用液滴の飛翔方向を変えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続式インクジェット記録ヘッドに関し、特に、記録(画像形成)に用いない液滴(以下、非使用液滴と呼ぶ。)を回収するためのインク回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ等に採用される記録方式のうち、吐出口(ノズル)からインク滴を吐出させて被記録媒体に文字や画像等を形成するインクジェット記録方式は、低騒音のノンインパクト記録方式で高密度かつ高速の記録動作が可能であるため、近年では広く採用されている。
【0003】
一般的なインクジェット記録装置は、インクジェット記録ヘッドと、これを搭載するキャリッジを移動させる手段と、被記録媒体を搬送する手段と、これらを制御するための制御手段とを備えている。このように、キャリッジを移動させながら記録動作を行うものをシリアルスキャン型という。一方、インクジェット記録ヘッドを移動させずに被記録媒体の搬送のみで記録動作を行うものをライン型という。ライン型のインクジェット記録装置では、インクジェット記録ヘッドは、被記録媒体の幅方向(搬送方向に対して直交する方向)の全域にわたって配列された多数のノズルを有する。
【0004】
インクジェット記録ヘッドは、ノズルからインク滴を吐出させるために、ノズル内のインクに与える吐出用のエネルギーを発生するエネルギー発生手段を有する。エネルギー発生手段としては、ピエゾ素子等の電気機械変換素子を用いたもの、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いたもの、あるいは電波やレーザ等の電磁波を機械的振動または熱に変換する電磁波機械変換素子、電磁波熱変換素子を用いたもの等がある。その中でも、熱エネルギーを利用してインク滴を吐出させる方式は、エネルギー発生手段を高密度に配列させることができるため高解像度の記録を行うことが可能である。特に、電気熱変換素子をエネルギー発生手段として用いたインクジェット記録ヘッドは、電気機械変換素子を用いたものよりも小型化が容易であり、更には、最近の半導体製造分野において進歩と信頼性の向上が著しいIC技術やマイクロ加工技術を応用してその長所を十分に活用することにより、高密度実装化が容易でかつ製造コストを低くできるという利点がある。
【0005】
一方で他の技術としては、一般に「コンティニュアス式」インクジェット方式と呼ばれる印刷方式がある。この方式では、加圧源と励振手段により連続的なインク液滴を形成しながら記録媒体へ向けて飛翔させる。この連続したインク液滴の飛翔中に、記録に用いない非印字液滴を帯電手段により電荷を与え、偏向手段により形成された電界により電荷を帯びた非印字液滴を回収口に向けて偏向させる。このようにして画像形成を行う。
【0006】
コンティニュアス方式の記録ヘッドをマルチノズル化した形態の前記インク回収技術が特許文献1にて提案されている。この従来技術の回収装置としては、複数の吐出ノズルにそれぞれ対応した回収口が回収流路下流側で合流し、共通の真空ポンプにて非印字液滴を真空吸引することで回収する構成である。特に、上記の回収口は複数の吐出ノズルからの非印字液滴を同時に回収するために、非印字液滴が偏向されて着弾する位置に多孔質部材で形成され、非印字液滴を均一圧力で吸引できるように、回収流路先端部を複数の微細孔としている。つまり、全ての吐出ノズル分の回収口(ガター)を1つの吸引ポンプにて均一な圧力で吸引可能な構成にするため、回収口を構成する複数の孔のサイズを微細にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−145804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述のようなマルチノズル化に対応したインク回収装置においては、回収口が、回収流路の最上流部に構成された複数の微細な孔が近接配置された領域であるため、液体などが通過するときに生じる流抵抗が大きくなり、回収流量に制約が生じてしまう。
【0009】
特に、偏向手段により一方向に偏向された非印字液滴は、前記回収口内の一箇所に集中的に着弾するため、回収口表面に液溜まりが形成される。そのため、突発的な衝撃などにより前記液溜まりが下部の被記録媒体に落下し、記録媒体を汚してしまう問題点が発生してしまう。また、回収口が微細な孔構成であるため、回収処理能力(回収流量)が上げられず、結果、印刷装置自体の印刷速度をより速く出来ない。
【0010】
本発明の目的は、上記背景技術の課題に鑑み、回収処理能力を高くできる、マルチノズルに対応したインク回収装置を有するコンティニュアス方式のインクジェット記録ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、連続的に液滴を吐出する吐出ノズルと、該吐出ノズルから吐出された画像形成に使用しない非使用液滴を回収する回収口と、吐出ノズル吐出された液滴の飛翔方向を偏向して非使用液滴を回収口へ着弾させ、吐出ノズルから吐出された画像形成に使用する液滴のみを被記録媒体へ着弾させる偏向手段とを備えるインクジェット記録ヘッドにおいて、
偏向手段は、非使用液滴を回収口内の複数の位置に振り分けながら着弾させられるように、前記非使用液滴の飛翔方向または偏向量を変えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コンティニュアス型インクジェット記録ヘッドの回収装置において、非印字液滴を回収口の複数の位置に着弾させられるので、回収口表面に溜まる回収液滴の液溜まりが下部の記録媒体に落下し、記録媒体を汚してしまう問題点を解消することができる。また、回収口が微細な孔構成であっても、回収口全体として通過できる非印字液滴(回収インク)量を多くすることできるので、回収装置としての回収能力(回収流量)を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一の実施例における記録ヘッド全体を示す斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施例における記録ヘッドの吐出ノズルを示す平面図である。
【図3】本発明の第一の実施例における記録ヘッドの帯電電極ユニットを示す平面図である。
【図4】本発明の第一の実施例における記録ヘッドの偏向電極ユニットを示す平面図である。
【図5】本発明の第一の実施例における記録ヘッドの回収ユニットと回収装置を示す平面図である。
【図6】本発明の第一の実施例における記録ヘッドの吐出ノズル周辺を詳細に示す断面図である。
【図7】本発明の第一の実施例における帯電電極と偏向電極へ出力される電圧制御波形図である。
【図8】本発明の第二の実施例における記録ヘッドの吐出ノズル周辺を詳細に示す断面図である。
【図9】本発明の第二の実施例における帯電電極と偏向電極へ出力される電圧制御波形図である。
【図10】本発明の第三の実施例における記録ヘッド全体を示す斜視図である。
【図11】本発明の第三の実施例におけるX方向偏向ユニットを示す平面図である。
【図12】本発明の第三の実施例におけるX方向偏向ユニット内の偏向ホール周辺を示す詳細斜視図である。
【図13】本発明の第三の実施例におけるY方向偏向ユニットを示す平面図である。
【図14】本発明の第三の実施例におけるY方向偏向ユニット内の偏向ホール周辺を示す詳細斜視図である。
【図15】本発明の第三の実施例における回収ユニットと回収装置を示す平面図である。
【図16】本発明の第三の実施例における回収口を詳細に示した断面図である。
【図17】本発明の第三の実施例における記録ヘッドの吐出ノズル周辺を詳細に示す断面図である。
【図18】本発明の第三の実施例における帯電電極とX方向向偏向電極とY方向偏向電極へ出力される電圧制御波形図である。
【図19】本発明の第三の実施例における液滴の飛翔を具体的に示す断面斜視図である。
【図20】本発明の第三の実施例における回収口への液滴の着弾位置を具体的に示す平面図である。
【図21】本発明の第三の実施例の別形態における記録ヘッドの吐出ノズル周辺を詳細に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ここでは、記録ヘッドの形態として、記録ヘッドのノズル列が記録紙幅分有し、固定された前記記録ヘッドの直下を被記録媒体としての記録紙が移動することで印刷動作を行なうライン型記録方式を例にとって説明する。
【0015】
[第一の実施例]
図1は、本発明の一実施形態のインクジェット記録ヘッド全体を示す斜視図である。本実施例の記録ヘッドは、吐出ヘッド1と、帯電ユニット2、偏向ユニット3、さらには回収ユニット4から成る。
【0016】
吐出ヘッド1については、インクジェットプリンター本体のインク供給装置から、インク加圧ポンプ(不図示)によりインクに圧力を与えることで、インク流入口1−1を経て、吐出ヘッド1内の共通液室(不図示)の中へインクが供給される。前記加圧時の圧力値としてはゲージ圧で数MPa程度が考えられる。前記共通液室の下部には、インクを吐出するための吐出ノズル(不図示)が配置されている。前記吐出ノズルのサイズは直径が10μm程度の微細孔である。
【0017】
図2は、前記吐出ノズルが形成されている吐出ノズルプレートを示す(図1のZ方向から見た平面図)。この図に示される吐出ノズルプレート1−5では、隣接する吐出ノズル1−3が図1のX方向に対して角度θの方向に斜めに配列されることで形成された分割ノズル列1−4が、X方向にある間隔をおいて複数配列されている。また、隣接する吐出ノズル1−3の配列は、X方向の隣接ノズル間距離(M)が、プリンタ出力解像度分の距離になるような配置となっている。
【0018】
図3は図1の帯電ユニット2を示した平面図である(図1のZ方向からの平面図)。吐出ヘッド1の吐出ノズル1−3に対向した位置に帯電ホール2−1が配置され、さらに帯電ホール2−1の内壁には導電性材質である帯電電極2−2が形成されている。さらに各帯電電極2−2は、帯電電極配線2−4が帯電ユニット2の表面にパターニングされていて、帯電駆動回路(不図示)まで帯電電極毎に電気配線されている。本実施例では帯電駆動回路(不図示)から正電圧または負電圧を独立駆動させながら各帯電電極2−2に電圧を与える構成とする。
【0019】
図4は図1の偏向ユニット3を示した平面図である(図1のZ方向からの平面図)。吐出ヘッド1の分割ノズル列1−4に対向した位置に偏向スリット3−1が配置され、偏向スリット3−1の内壁には、第1の偏向電極3−2と第2の偏向電極3−3が、X方向に対向した位置に形成されている。さらに偏向ユニット3の表面にはパターニングにより、偏向電極対からはそれぞれ第1の偏向電極配線3−4と第2の偏向電極配線3−5が配線されている。本実施例では、第1の偏向電極3−2はアース側と接続され、第2の偏向電極3−3は、負電圧を与えられる構成と接続されている。
【0020】
図5は図1の回収ユニット4の平面図と、回収ユニット4に接続される回収装置を同時に示した図である。回収ユニット4は、吐出ヘッド1の分割ノズル列1−4に対向した位置に回収スリット4−4が形成されている。さらに、回収スリット4−4の内壁で吐出液滴が偏向電極対3−2,3−3により偏向されて、回収スリット4−4の内壁に衝突する位置に、回収口4−5と回収口4−6(図6参照)が各吐出ノズル1−3に対応して形成されている。回収口4−5,4−6については、図6を参照されたい。
【0021】
さらに、回収口下流位置にはそれぞれ回収支流路4−2が形成され、回収支流路4−2の下流位置には、複数の回収支流路4−2が合流される構成で1本の回収本流路4−3が配置されている。回収本流路4−3の下流には回収流出口4−1が構成されている。回収流出口4−1は、回収装置5の回収流路5−2により回収タンク5−1まで接続され、その途中には上記の回収口を減圧するための回収ポンプ5−3が配置されている。
【0022】
各回収口へ飛翔された非印字液滴(回収される非使用液滴)は回収ポンプ5−3により回収支流路4−2を通過し、回収タンク5−1へ移動する。回収タンク5−1に集められた非印字液滴は、再度吐出ヘッド1へ供給され再利用される構成をとるが、その他の構成であっても構わない。
【0023】
図1の記録ヘッド全体のB−B断面で、特に吐出ノズル周辺を示した拡大断面を図6に示す。吐出ヘッド1内の共通液室(不図示)には、この中へ供給されたインクに振動を与える為、ピエゾ素子などの励振動手段が配置されている(不図示)。
【0024】
吐出ヘッド1の共通液室内に供給されたインクにインク加圧ポンプ(不図示)により数MPa程度(ゲージ圧)の圧力を与えることにより、図6に示すように各吐出ノズル1−3から連続的にインクが排出され、液柱Pが形成される。さらに、上記の励振手段(不図示)により共通液室内(不図示)のインク全体に振動が与えられることにより、液柱Pの先端部は微小な液滴Qが連続的に分離され、さらに一定間隔でしかも一定速度を持った連続液滴が飛翔される。液柱Pは帯電ホール2−1内の帯電電極2−2に近接した位置に形成されている。
【0025】
画像形成のための印刷データに基づき、各帯電電極2−2への印加電圧を制御する。即ち、印刷に用いる印字液滴(Q−1、Q−5など)が液柱Pから分離するときは、帯電電極2−2に電圧を与えないために液柱から分離する印字液滴への帯電は行なわれない。一方で印字に使用されない非印字液滴(Q−2、Q−3、Q−4、Q−6、Q−7など)が液柱Pから分離するとき、帯電電極2−2は正または負の電圧が印加され、液柱Pを形成しているインク自体に電流が流れ、液柱P表面には帯電電極2−2とは反対の極性の電荷が誘電され、非印字液滴として分離される。例えば帯電電極2−2に負の電圧を印加した場合、液柱Pの表面は正の電荷に誘電され、正の電荷を持った液滴が分離し、非印字液滴として飛翔する(非印字液滴Q−2,Q−4、Q−7)。また、帯電電極2−2に正の電圧をかけた場合、液柱P全体は負の電荷を帯び、液柱Pから分離される液滴は負に帯電しながら非印字液滴として飛翔する(非印字液滴Q−3,Q−6)。
【0026】
回収ユニット4の回収スリット4−4内には、第1の回収口4−5と第2の回収口4−6が回収支流路4−2の両側位置で、非印字液滴が図6のX方向と−X方向に偏向された場合にそれぞれ着弾される位置に配置されている。第1の回収口4−5と第2の回収口4−6は微細な孔形状によりそれぞれ構成されている。例えば、微細孔からなる回収口4−5,4−6は、それぞれ、ある領域に直径が10μm程度の複数個の孔が近接して配置されることにより構成されている。言い換えれば、回収スリット4−4内の内壁の内周に沿った領域を2つに分割し、分割した各々の領域に複数の微細な孔を形成することで、回収口4−5,4−6が構成されている。
【0027】
図5に示すような本実施例のマルチノズル対応の回収装置では、全ての回収口を下流側の流路4−3に合流し、1個の回収ポンプ5−3により全ての回収口を負圧で吸引回収する構成としている。
【0028】
図7は本実施例の記録ヘッドによる印字動作時の吐出ノズル1つ分の吐出液滴の飛翔方向を制御するための帯電電極と偏向電極に与える電圧の駆動制御方法を示したものである。例えば図6の連続液滴である液滴Q−1が帯電電極2−2を通過する時には電圧を与えない。さらに、液滴Q−1が偏向電極対3−2,3−3を通過する時、第2の偏向電極3−3には負の電圧を印加するが、液滴Q−1は電荷を持たないため飛翔方向は偏向されずに印字液滴として記録紙へ飛翔される。
【0029】
続いて、液滴Q−2が液柱Pから分離する時、帯電電極2−2により正の電荷に帯電され第1の偏向電極3−2と第2の偏向電極3−3の間に飛翔される。第2の偏向電極3−3が負の電圧を印加されることにより発生する周囲の電界により、非印字液滴Q−2は第2の回収口4−6の方向に偏向される。そして、非印字液滴Q−2は第2の回収口4−6で回収装置内に回収される。
【0030】
続いて飛翔される液滴Q−3は、帯電電極2−2により負の電荷に帯電することで、偏向電極3−2,3−3の間を通過する時に−X方向に偏向され、今度は第1の回収口4−5に液滴Q−3は回収される。
【0031】
以後、図7に示す液滴Q−4は第2の回収口4−6へ回収され、液滴Q−5は印字液滴として記録紙へ直進し、液滴Q−6は第1の回収口4−5へ回収され、液滴Q−7は第2の回収口4−6へ回収されるように、帯電電極2−2と偏向電極3−2,3−3に与える電圧を制御する。
【0032】
以上の偏向制御を行うことで、本実施例では各々の吐出ノズル1−3に対して2個設けられた回収口4−5,4−6へ非印字液滴の飛翔方向を交互に変えることができる。
【0033】
なお、本実施例では偏向手段として帯電電極2−2と偏向電極3−2,3−3により液滴飛翔方向を偏向させる方式を用いて説明したが、その他の偏向方式であっても構わない。例えば、液滴飛翔方向と垂直方向に流す外部気流により飛翔液滴を偏向させる気流偏向方式や、吐出ノズルプレート表面の各吐出ノズル周辺に複数個のヒーターを配置し、前記複数のヒーター制御により連続液滴の飛翔方向を1滴ごと変化させるヒーター偏向方式などがある。
【0034】
[第二の実施例]
図8は図1の記録ヘッド全体のB−B断面であり、本発明の第二の実施例として、特に吐出ノズル周辺を示した拡大断面図である。
【0035】
第一の実施例(図6)に対して、本実施例における第1の回収口4−5は、回収スリット4−4の内壁の、飛翔方向であるZ方向(図1参照)に沿った帯状領域あるいはその帯状領域の列に、複数の微細な孔を形成することで構成されている。また、第一の実施例で構成されていた第2の回収口4−6は本実施例では構成されていない。
【0036】
図9は本実施例における帯電電極と偏向電極にあたえる電圧の駆動制御方法を示したものである。本実施例では帯電電極に印加する電圧値をV1とV2の2種類の値(V1<V2)とした。
【0037】
液滴Q−1は帯電電極2−2による帯電はされずに、偏向電極3−2,3−3間を通過するために飛翔方向は偏向されずに記録紙に着弾する。続いて飛翔する非印字液滴Q−2の場合は、帯電電極2−2がV1の正の電圧に印加されることにより、液滴Q−2自体は負の電荷に帯電する。よって、負の電圧を印加された第2の偏向電極3−3により飛翔方向が−X方向に偏向され、液滴Q−2は回収口4−6の下部で回収される。
【0038】
さらに続いて飛翔する非印字液滴Q−3の場合は、帯電電極2−2がV2(V2>V1)の正の電圧に印加されることにより、偏向電極3−2,3−3により曲げられる偏向量は非印字液滴Q−2の場合よりも大きくなる。このため、液滴Q−3は回収口4−5の上部の位置(液滴Q−2の回収位置より上)で回収される。
【0039】
以降、液滴Q−4は印字液滴として記録紙へ直進し、液滴Q−5はV1の電荷が与えられて回収口4−5の下部に着弾し、液滴Q−6は回収口4−5の上部位置に着弾する。
【0040】
以上のように、非印字液滴の帯電量が液滴毎に変えられ、非印字液滴の偏向量が変わり、それにより回収口4−5内での着弾位置が液滴毎に変わることで、回収能力を上げることが可能となる。
【0041】
[第三の実施例]
図10は、本発明の第三の実施例によるインクジェット記録ヘッド全体を示す斜視図である。上述した実施例の記録ヘッドは、吐出ヘッド1と帯電ユニット2と偏向ユニット3と回収ユニット4から成っていたが、本実施例では、偏向ユニット3を、X方向偏向ユニット6とY方向偏向ユニット7に替えている。
【0042】
図11は図10のX方向偏向ユニット6を示す平面図であり(図10のZ方向から見た平面図)、図12は図11のX方向偏向ユニットの偏向ホール6−1に配線された偏向電極を詳細に示した斜視図である。
【0043】
X方向偏向ユニット6は吐出ヘッド1の各吐出ノズル1−3に対向する位置に偏向ホール6−1が形成されている。また、各偏向ホール6−1の内壁のX方向には、X方向偏向用の第1の偏向電極6−2と第2の偏向電極6−3が構成されている。そして、各偏向ホール6−1の第1の偏向電極6−2と第2の偏向電極6−3をそれぞれまとめた電気配線が第1の偏向電極配線6−4と第2の偏向電極配線6−5としてX方向偏向ユニット6の表面にパターニングされている。第1の偏向電極配線6−4と第2の偏向電極配線6−5はプリンタ本体の偏向制御回路(不図示)に配線されており、以下に示す偏向電極へ与える印加電圧を制御することで、非印字液滴のX方向への偏向が行なわれる。
【0044】
本実施例の場合、第1の偏向電極6−2はアース側に配線接続され、第2の偏向電極6−3は可変の印加電圧回路側に配線接続されている。
【0045】
図13はY方向偏向ユニット7を示す平面図であり(図10のZ方向から見た平面図)、図14は図13のY方向偏向ユニットの偏向ホール7−1に配線された偏向電極を詳細に示した斜視図である。
【0046】
Y方向偏向ユニット7も上述したX方向偏向ユニット6と同様な構成であり、各偏向ホール7−1の内壁のY方向には、Y方向偏向用の第1の偏向電極7−2と第2の偏向電極7−3が構成されている。また、各偏向ホール7−1の第1の偏向電極7−2と第2の偏向電極7−3をそれぞれまとめた電気配線としている第1の偏向電極配線7−4と第2の偏向電極配線7−5がY方向偏向ユニット7の表面にパターニングされている。第1の偏向電極配線7−4と第2の偏向電極配線7−5はプリンタ本体の偏向制御回路(不図示)に配線されており、以下に示す偏向電極へ与える印加電圧を制御することで、非印字液滴のY方向への偏向が行なわれる。
【0047】
本実施例の場合、第1の偏向電極7−2は可変の印加電圧回路側に配線接続され、第2の偏向電極7−3はアース側に配線接続されている。
【0048】
図15は本実施例の回収ユニット4を示す平面図と、本実施例の回収ユニット4に接続される回収装置5を同時に示した図である。
【0049】
第一の実施例(図6)に対して、本実施例における回収ユニット4は、各吐出ノズル1−3に対向した位置に、穴をなす回収ホール4−9が配置されており、回収ホール4−9の内壁には回収口4−5が形成されている。回収口4−5については、図16および図17を参照されたい。また回収ユニット4では、各回収ホール4−9の回収口4−5は回収支流路4−2を経て、さらにその下流側で1本の回収本流路4−3と合流され、回収本流路4−3の下流に回収流出口4−1が構成されている。回収ユニット4の回収流出口4−1には、回収装置5の回収流路5−2が配管接続されている。回収流路5−2の最下流には回収タンク5−1が設けられている。
【0050】
また回収流路5−2途中には、各回収口4−5に回収された非印字液滴を負の圧力により、回収支流路4−2、回収本流路4−3を経て回収タンク5−1まで移動させるための回収ポンプ5−3が配置されている。
【0051】
図16は上記の回収ホール4−9と回収口4−5を詳細に示した断面斜視図である(図15のC−C断面図)。
【0052】
回収ユニット4の回収支流路4−2内部には、各吐出ノズル1−3に対向した位置に回収ホール4−9が形成されており、各吐出ノズル1−3から飛翔される液滴Qが回収ホール4−9内部を通過する。また回収ホール4−9の内壁には回収口4−5が構成されており、液滴が飛翔している回収ホール4−9内部(大気)と回収支流路4−2内とを連通させる構成である。
【0053】
複数の液滴Qのうちの非印字液滴が偏向ユニット6,7により偏向されることで回収口4−5に向かって飛翔し、回収支流路4−2内部に回収される。
【0054】
また本実施例での回収口4−5は、回収ホール4−9の内壁の内周方向(1周分)に沿った領域に多数の微細な孔を形成することで構成されている。そして以下に記述するように非印字液滴の飛翔方向が偏向ユニット6,7により多方向に偏向されて、非印字液滴は回収口4−5の全域にわたって回収される様になっている。回収口4−5における各々の微細孔のサイズを例えば直径が10μmに設計することで、各回収口4−5での回収時に発生させる吸引圧力を一定に保つことが可能となる。
【0055】
図17に図10の記録ヘッド全体のB−B断面で、特に吐出ノズル周辺を示した拡大断面を示す。
【0056】
吐出ノズル1−3から吐出された連続する液滴Qのうちの非印字液滴は、印刷データに基づいた帯電ユニット2−2に与える電圧により負の電荷に帯電され、印字液滴は帯電されない。また、帯電ユニット2−2直下にはX方向偏向ユニット6とY方向偏向ユニット7が配置され、さらにその直下には回収ユニット4が配置されており、それぞれに構成されている偏向ホール6−1、偏向ホール7−1、さらに回収ホール4−9は、吐出ノズル1−3と帯電ホール2−1と対向する位置に配置されることで、飛翔する液滴Qを偏向できる構成となっている。X方向偏向ユニット6の第1の偏向電極6−2と第2の偏向電極6−3への印加電圧制御により非印字液滴の飛翔方向を±X方向に変化させることが可能となる。またY方向偏向ユニット7の第1の偏向電極7−2と第2の偏向電極7−3への印加電圧制御により非印字液滴の飛翔方向を±Y方向に変化させることが可能となる。
【0057】
本実施例の場合、非印字液滴の偏向方向を1液滴毎に変化させることを可能とするため、X方向偏向電極の長さTと、Y方向偏向電極の長さUをそれぞれ T<R(R:液滴間隔)、U<R としたが、それ以外のサイズとすることで例えば3液滴毎の偏向制御としても構わない。
【0058】
図18は本実施例での非印字液滴の偏向方向を変えるための、帯電電極2−2へ与える印加電圧と、X方向偏向電極6−2,6−3間へ与える印加電圧、さらにはY方向偏向電極7−2,7−3間へ与える印加電圧を制御した出力電圧制御図である。
【0059】
本実施例ではX方向偏向電極6−2,6−3間の電圧出力波形とY方向偏向電極7−2,7−3間に与える電圧出力波形は位相が90度ずれている正弦波をそれぞれ出力波形としている。また本実施例では、帯電電極2−2へ与える印加電圧波形は、非印字液滴が帯電ホール2−1を通過する時のみ、ある一定の印加電圧値を与えるような出力波形とする。
【0060】
また図19は図18にて各電極(帯電電極、X方向偏向電極、Y方向偏向電極)を制御した時に、飛翔方向が実際に変化させられる非印字液滴の具体的な偏向方向を表わした斜視図である。さらに図20は前述の非印字液滴の偏向方向を具体的に示した回収ホール部(回収口4−5の部分)の平面図である。
【0061】
図18に示すように各電極(帯電電極、X方向偏向電極、Y方向偏向電極)に与える印加電圧を制御した場合、液滴Q−1は電荷が与えられずに各偏向電極対を通過するため偏向されずに印字液滴として記録紙に飛翔され、画像形成に使用される。
【0062】
続いて液滴Q−2には帯電電極2−2により負電荷が与えられ(帯電電極は正電圧が与えられる)、X方向偏向電極6−2,6−3により正電界が形成されているために+X方向に偏向され、リング状である回収口4−5における位置V1(図20)で回収される。続いて飛翔される液滴Q−3は帯電電極2−2により負の電荷が与えられ、Y方向偏向電極7−2,7−3により負電界が形成されるために−Y方向に偏向され、回収口4−5における位置V2(図20)で回収される。以降、液滴Q−4は回収口4−5における位置V3に偏向され、液滴Q−5は回収口4−5における位置V4に偏向されるような偏向制御が行なわれる。
【0063】
以上の偏向制御により、多数の微細な孔が回収ホール4−9の内壁に該ホールの内周方向に沿って配置される構成である回収口4−5内で、非印字液滴が回収口4−5に着弾する位置が振り分けられながら回収される。このため、回収口4−5全体として通過できる非印字液滴(回収インク)量が多くできる。よって、回収ユニット4のインク回収能力を上げることができる。
【0064】
また本実施例では、非印字液滴の±X方向と±Y方向の偏向をそれぞれ1ユニットずつの偏向ユニット(X方向偏向ユニット6、Y方向偏向ユニット7)で実施したが、それ以外の構成でも構わない。例えば図21に示す構成のように、飛翔する液滴を+X方向へ偏向させるための+X方向偏向ユニット8、−X方向へ偏向させるための−X方向偏向ユニット9、さらには、+Y方向へ偏向させるための+Y方向偏向ユニット10、−Y方向へ偏向させるための−Y方向偏向ユニット11を、偏向ユニット6,7に替えて配置し、これらによって±X方向と±Y方向の偏向を実施する構成であっても構わない。上記4つの偏向ユニット8,9,10,11では、X方向とY方向の偏向方向を自在に変えることが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
1−3 吐出ノズル
2 帯電ユニット
3 偏向ユニット
4 回収ユニット
4−5 回収口
4−6 回収口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に液滴を吐出する吐出ノズルと、該吐出ノズルから吐出された画像形成に使用しない非使用液滴を回収する回収口と、前記吐出ノズルから吐出された液滴の飛翔方向を偏向して前記非使用液滴を前記回収口へ着弾させ、前記吐出ノズルから吐出された画像形成に使用する液滴のみを被記録媒体へ着弾させる偏向手段とを備えるインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記偏向手段は、前記非使用液滴を前記回収口内の複数の位置に振り分けながら着弾させられるように、前記非使用液滴の飛翔方向または偏向量を変えられることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記偏向手段は、飛翔する前記非使用液滴に電荷を与えるための帯電電極と、該帯電電極を通過して飛翔する前記非使用液滴に電界を与えて該非使用液滴の飛翔方向を変えるための複数の偏向電極と、を含み、
前記複数の偏向電極を制御すること、または前記帯電電極を制御することにより、前記非使用液滴の飛翔方向が変えられることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記偏向手段は、飛翔する前記非使用液滴に電荷を与えるための帯電電極と、該帯電電極を通過して飛翔する前記非使用液滴に電界を与えて該非使用液滴の飛翔方向を変えるための複数の偏向電極と、を含み、
前記帯電電極を制御することにより、前記非使用液滴の偏向量が変えられることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記非使用液滴の飛翔方向と偏向量は、前記帯電電極と前記複数の偏向電極の両方を制御することにより変えられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記回収口は、飛翔する前記液滴が通過できるスリット又はホールの内壁の内周方向に沿った領域に多数の孔が形成されてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記回収口は、飛翔する前記液滴が通過できるスリット又はホールの内壁の前記液滴の飛翔方向に沿った帯状領域に多数の孔が形成されてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2011−161723(P2011−161723A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25531(P2010−25531)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】