説明

インクジェット記録ヘッド

【課題】インクのリフィル速度を落とさずに、サテライトを低減する。
【解決手段】本発明のインクジェット記録ヘッドは、平板形状のヒータ1と、発泡室10と、発泡室10にインクを導くための供給路9と、発泡室10に連通する吐出口4がヒータ1と対向する位置に形成された流路構成基板3とを有する。ヒータ1は、熱エネルギを発生する、吐出口4に対面する第1の面1aおよびその反対側の面である第2の面1bを有する。また、ヒータ1は、第1の面1aから吐出口4が開口している発泡室10の天面までの距離が第2の面1bから発泡室10の底面までの距離よりも短くなる位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、数多くの記録装置が使用されるようになり、これらの記録装置に対して、高速記録、高解像度、高画像品質、低騒音などが要求されている。このような要求に応える記録装置として、インクジェット装置をあげることができる。インクジェット式は、記録ヘッドの吐出口からインク(記録液)滴を吐出飛翔させ、これを被記録材に付着させて記録するように構成されている。
【0003】
一般的に利用されているインクジェット記録方式のインク吐出方法には、インク滴の吐出に用いられる吐出エネルギ発生素子として、例えば、ヒータ等の電気熱変換素子を用いる方法やピエゾ素子等の圧電素子を用いる方法がある。いずれの方法も電気信号によってインク滴の吐出を制御することができる。
【0004】
電気熱変換素子を用いるインク吐出方法の原理は、電気熱変換素子に電圧を印加することにより、電気熱変換素子近傍のインクを瞬時に沸騰させて、沸騰時のインクの相変化により生じる急激な発泡圧によってインク滴を高速に吐出させる。
【0005】
一方、圧電素子を用いるインク吐出方法の原理は、圧電素子に電圧を印加することにより、圧電素子が変位してこの変位時に発生する圧力によってインク滴を吐出させる。
【0006】
電気熱変換素子を用いるインク吐出方法は、吐出エネルギ発生素子を配設するためのスペースを大きく確保する必要がなく、記録ヘッドの構造が簡素で、ノズルの集積化が容易であること等の利点がある。一方で、このインク吐出方法の固有の問題としては、電気熱変換素子で発生する熱等が記録ヘッド内に蓄熱されることによって、飛翔するインク滴の体積が変動し、画像品質を劣化することがあった。
【0007】
これらの問題を解決する方法としては、特許文献1−4に開示されたインクジェット記録方法および記録ヘッドがある。すなわち、上述した公報に開示されたインクジェット記録方法は、記録信号によって電気熱変換素子を駆動させて発生した気泡を外気に通気させる構成とされている。このインクジェット記録方法を採用することにより、飛翔するインク滴の体積の安定化を図り、微少量のインク滴を高速に吐出することを可能とし、更なる高精細画像が容易に得られるようになる。上述した公報において、気泡を外気に連通させるための構成としては、インクに気泡を発生させる電気熱変換素子と、インクが吐出される開口である吐出口との間の最短距離を、従来に比して大幅に短くする構成が挙げられている。
【0008】
ところで、現在、更なる高速・高画質のインクジェットプリンタが求められている。
【0009】
インクジェット方式における画像劣化の原因としては、主滴以外のサテライトの発生が知られている。よって、高画質化を達成するためには、前記サテライトを低減する必要がある。
【0010】
サテライトを低減する方法としては、インク滴形成時に吐出口部のインクの逆流を防ぐという方法が、例えば特許文献5に開示されている。これは、言い換えれば、気泡が消泡過程に入る前に、主滴の形成を終えてしまうというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭54−161935号公報
【特許文献2】特開昭61−185455号公報
【特許文献3】特開昭61−249768号公報
【特許文献4】特開平4−10941号公報
【特許文献5】特開2001−347666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ヒータと吐出口が対向するように配される所謂サイドシュータ型のインクジェット記録ヘッドでサテライトの低減を実現する形状としては、ヒータと吐出口部の距離を極めて近くし、発生した泡を成長している過程で外気と連通させ、飛翔液滴を形成させるものが極めて望ましい。
【0013】
しかしながら、ヒータと吐出口の距離を近づけると、インク流路が狭くなってしまうため、インクのリフィル速度が著しく低下してしまう。
【0014】
そこで、インクのリフィル速度の低下を防止する方法としては、図9に示すように、素子基板102に突出部102aを設け、この突出部102a上にヒータ101を配置することでヒータ101のみを吐出口104の下端に近づける方法が考えられる。
【0015】
しかしながら、図9の構成にした場合、発生した泡が成長過程で外気と連通する。このため、図10に示すように、外気と連通した後に、供給室方向へのインクの流れが残ってしまい、迅速にインクをリフィルすることが困難となる。
【0016】
図10に、突出部102a上にヒータ101を配置したインクジェット記録ヘッドにおけるインクの吐出およびリフィル状況を示す。
【0017】
図10(a)は発泡前の状態を示している。ヒータ101に駆動信号は入力されておらず、気泡は発生していない。
【0018】
図10(b)は発泡直後の状態を示している。ヒータ101に駆動信号が入力されることでヒータ1が発熱し気泡が発生する。これにより吐出口104からインク滴110の吐出が開始される。また、ノズル105内では供給室106側に向かうインクの流れが生じる(図中矢印a方向)。
【0019】
図10(c)は気泡が外気と連通する前の状態を示している。この状態においてもノズル105内におけるインクは供給室106方向に向けて流れている。
【0020】
図10(d)は気泡が外気と連通した後の状態を示している。このインクジェット記録ヘッドは、ヒータ101が突出部102aに上部に配置されることで吐出口104に近接して設けられている。このため、発生した気泡が成長している過程で外気と連通しつつ、インク滴を形成するためサテライトの発生を抑制することができる。ノズル105内における供給室106方向へのインクの流れは気泡が吐出される前に比べ弱まっている。
【0021】
図10(d)はリフィル時の状態を示す図である。供給室106側からヒータ101に向けてインクが流れることでリフィルがなされる。しかしながら、供給路109内に突出部102aが存在することで流路が狭くなりリフィルの効率が低下してしまっている(図中矢印b)。
【0022】
そこで、本発明は、上記の問題を顧みてなされたものであり、リフィル促進効果を維持するとともに、サテライトの低減を達成することが可能なインクジェット記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明のインクジェット記録ヘッドは、熱エネルギにより気泡を発生させる平板形状の熱エネルギ発生手段と、熱エネルギ発生手段が設けられた発泡室とを有する。さらに、本発明のインクジェット記録ヘッドは、発泡室にインクを導くためのインク流路と、発泡室に連通する吐出口が熱エネルギ発生手段と対向する位置に形成された流路構成基板とを有する。熱エネルギ発生手段は、熱エネルギを発生する、吐出口に対面する第1の主面および第1の主面の反対側の面である第2の主面を有する。熱エネルギ発生手段は、第1の主面から吐出口が開口している発泡室の天面までの距離が第2の主面から発泡室の底面までの距離よりも短くなる位置に配置されている。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、リフィル促進効果を維持するとともに、サテライトの低減を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の代表的な実施の形態であるインクジェットプリンタIJRAの構成の概要を示す外観斜視図である。
【図2】インクジェットプリンタIJRAの制御回路の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に好適なインクジェット記録ヘッドの実施の形態を示した模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態によるインクジェット記録ヘッドのノズル構造を示す図である。
【図5】本実施形態のインクジェット記録ヘッドによるインクの吐出およびリフィル状況を説明する図である。
【図6】本発明の第2の実施形態によるインクジェット記録ヘッドのノズル構造を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態によるインクジェット記録ヘッドのノズル構造を示す図である。
【図8】本発明の第4の実施形態によるインクジェット記録ヘッドのノズル構造を示す図である。
【図9】ヒータを吐出口に近接させるための突出部を供給路内に備えたインクジェット記録ヘッドのノズル構造を示す図である。
【図10】図9に示すインクジェット記録ヘッドによるインクの吐出およびリフィル状況を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
<装置本体の概略説明>
図1は、本発明の代表的な実施の形態であるインクジェットプリンタIJRAの構成の概要を示す外観斜視図である。駆動モータ5013の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア5009〜5011を介して回転するリードスクリュー5005の螺旋溝5004に対して係合するキャリッジHCはピン(不図示)を有する。キャリッジHCはガイドレール5003に支持されて矢印a、b方向を往復移動する。キャリッジHCには、記録ヘッドIJHとインクタンクITとを内蔵した一体型インクジェットカートリッジIJCが搭載されている。紙押え板5002は、キャリッジHCの移動方向に亙って記録用紙Pをプラテン5000に対して押圧する。
【0027】
フォトカプラ5007、5008は、キャリッジHCのレバー5006の存在を確認して、モータ5013の回転方向切り換え等を行うためのホームポジション検知器である。支持部材5016は、記録ヘッドIJHの前面をキャップするキャップ部材5022を支持する部材である。吸引器5015はこのキャップ内を吸引し、キャップ内開口5023を介して記録ヘッドの吸引回復を行う。部材5019はクリーニングブレード5017を前後方向に移動可能にする部材であり、本体支持板5018にこれらが支持されている。クリーニングブレード5017は、この形態でなく周知のクリーニングブレード5017が本例に適用できることは言うまでもない。レバー5021は吸引回復の吸引を開始するためのものであり、キャリッジHCと係合するカム5020の移動に伴って移動し、駆動モータからの駆動力がクラッチ切り換え等の公知の伝達機構で移動制御される。
【0028】
これらのキャッピング、クリーニング、吸引回復は、キャリッジがホームポジション側の領域に来た時にリードスクリュー5005の作用によってそれらの対応位置で所望の処理が行えるように構成されている。もっとも、周知のタイミングで所望の動作を行うようにすれば、本例にはいずれも適用できる。
【0029】
<制御構成の説明>
次に、上述した装置の記録制御を実行するための制御構成について説明する。
【0030】
図2はインクジェットプリンタIJRAの制御回路の構成を示すブロック図である。制御回路を示す同図において、インタフェース1700は記録信号を入力するものである。ROM1702はMPU1701が実行する制御プログラムを格納する。DRAM1703は各種データ(上記記録信号や記録ヘッドIJHに供給される記録データ等)を保存しておく。ゲートアレイ(G.A.)1704は記録ヘッドIJHに対する記録データの供給制御を行い、インタフェース1700、MPU1701、RAM1703間のデータ転送制御も行う。キャリアモータ1710は記録ヘッドIJHを搬送するためのモータであり、搬送モータ1709は記録紙搬送のためのモータである。ヘッドドライバ1705は記録ヘッドIJHを駆動し、モータドライバ1706、1707はそれぞれ搬送モータ1709、キャリアモータ1710を駆動する。
【0031】
上記制御構成の動作を説明すると、インタフェース1700に記録信号が入るとゲートアレイ1704とMPU1701との間で記録信号がプリント用の記録データに変換される。そして、モータドライバ1706、1707が駆動されると共に、ヘッドドライバ1705に送られた記録データに従って記録ヘッドIJHが駆動され、記録が行われる。
【0032】
次に本発明におけるインクジェット記録ヘッドIJHについて説明する。
【0033】
本発明のインクジェット記録ヘッドは、液体のインクを吐出するために利用されるエネルギとして熱エネルギを発生する手段を備え、その熱エネルギによってインクの状態変化を生起させる方式が採用された記録ヘッドである。この方式が用いられることにより、記録される文字や画像等の高密度化および高精細化を達成している。特に本実施形態では、熱エネルギを発生する手段として電気熱変換素子を用い、この電気熱変換素子によりインクを加熱して膜沸騰させたときに発生する気泡による圧力を利用してインクを吐出している。
【0034】
まず、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの全体構成について述べる。
【0035】
図3(a)は、本発明に好適なインクジェット記録ヘッドの実施の形態を示した模式図である。また、図3(b)は、図3(a)からノズル構成基板3を取り除いた状態の模式図である。
【0036】
ここで、素子基板2は、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等によって形成されており、一般にSiによって形成されている。ヒータ1と、このヒータ1に電圧を印加する配線12は、素子基板2をエッチング等により除去することで図3(b)のように素子基板2の主面から所定の距離だけ離れた状態で形成されている。また、熱の発散性を向上させる絶縁膜(図示せず)が、ヒータ1を被覆するように設けられている。また、ヒータ1の周りには、気泡が消泡した際に生じるキャビテーションからヒータ1を保護するための保護膜(図示せず)が、絶縁膜を被覆するように設けられている。
【0037】
また、ノズルを形成しているノズル構成基板3は、例えば、金属、ポリイミド、ポリサルフォン、エポキシ樹脂によって形成されている。図3に示す形態のインクジェット記録ヘッドは、各ヒータ1毎に、インクの流路であるノズル5を個別に独立して形成するための隔離壁が、吐出口4から後述する供給室6近傍まで延設された構成となっている。ヒータ1は、ノズル構成基板3により、その周囲を後述する発泡室10で囲まれている。この発泡室10の天井側に吐出口4が形成されており、また、発泡室10の側面には供給路9が貫通して形成されている。
【0038】
このインクジェット記録ヘッドは、複数のヒータ1および複数のノズル5を有する。また、このインクジェット記録ヘッドは、各ノズル5の長手方向が平行に配列された第1のノズル列7と、供給室6を挟んで第1のノズル列7に対向する位置に各ノズル5の長手方向が平行に配列された第2のノズル列8とを備えている。
【0039】
以下に、本発明の主要部となるインクジェット記録ヘッドのノズル構造について種々の形態例を挙げて説明する。
(第1の実施形態)
図4は本発明の第1の実施形態によるインクジェット記録ヘッドのノズル構造を示す図である。同図(a)はインクジェット記録ヘッドの一部を基板に対して垂直な方向から見た平面透視図、(b)は(a)のA−A’線に沿った断面図、(c)はB−B’線に沿った断面図である。
【0040】
本実施形態のインクジェット記録ヘッドは、素子基板2と、この素子基板2に接合されてインクの流路を構成するノズル構成基板3(オリフィス基板とも称す。)とを備えている。
【0041】
ノズル構成基板3は、インクが流動する複数のノズル列と、これら各ノズルにインクを供給する供給室6と、インク滴を吐出するノズル先端開口である複数の吐出口4とを有する。素子基板2には、ノズル構成基板3に接する主面とは反対側の裏面から供給室6にインクを供給するための供給口(図示せず)が設けられている。
【0042】
ノズル5は、ヒータ1によって気泡が発生する発泡室10と、この発泡室10にインクを供給する供給路9と、吐出口4を含む吐出口部11とを有する。また、ノズル5は、素子基板2の主面に対向する内壁面が、供給室6から発泡室10に亘って、素子基板2の主面に平行にそれぞれ形成されている。
【0043】
供給路9は、一端が発泡室10に連通されるとともに他端が供給室6に連通されていて、供給路9の幅が供給室6から発泡室10に亘ってほぼ等しいストレート状で形成されている。また、吐出口4と供給路9とは、吐出口4からインク液滴が飛翔される吐出方向と、供給路9内を流動するインク液の流動方向とが直交するように構成されている。発泡室10は、吐出口4の開口面に対向する底面が略矩形状をなすように形成されている。
【0044】
ヒータ1は吐出口4の中心軸に対して軸対称となるように配置されており、ヒータ1を駆動するための配線12が接続されている。ヒータ1および配線12は、これらの周辺の素子基板をエッチングにより除去することで供給路9の高さとは独立して配置されている。これにより、ヒータ1は、発泡室10内において、吐出口4に対向する面である第1の面1aと、素子基板2に対向する面である第2の面1bとの両面上で発泡、消泡可能な構成となっている。ヒータ1は、第1の面1aから吐出口4が開口している発泡室10の天面まで距離L1の間隔が空き、また、第2の面1bから発泡室10の底面まで距離L2の間隔が空くように配置されている。本実施形態において、第1の面1aから発泡室10の天面までの距離L1を距離L2よりも短くした、すわなち、吐出口4にヒータ1を近接させて配置させたのは、サテライト発生を低減させるためである。このように第1の面1aと吐出口4とを近接させることで第1の面1a上で発生した気泡を成長している過程で外気と連通させて飛翔液滴を形成させることでサテライト発生を低減させることができる。
【0045】
また、本実施形態のヒータ1は、第1の面1a上だけでなく第2の面1b上においても同時に発泡する。従来のインクジェット記録ヘッドは、吐出口4に対面する側の面である第1の面1a側だけ発泡する構成であった。しかしながら、第1の面1a側だけ発泡するような構成の場合、気泡が外気と連通した後に供給室6方向へのインクの流れが残ってしまい、迅速なリフィルは困難となる。これに対して、本実施形態の場合、第2の面1b上において発生した気泡が消泡することで吐出口4側へのインクの流れが発生する。このため、リフィル特性を維持することができる。
【0046】
以上のように、本実施形態のインクジェット記録ヘッドは、ヒータ1を吐出口4に近接させることで画像劣化の原因であるサテライト発生を抑制している。さらに、本実施形態のインクジェット記録ヘッドは、第2の面1bも気泡の発泡消滅可能となるように素子基板2から浮かせて配置しており、これにより、第2の面1b側における消泡によりリフィル特性を維持できるようにしている。
【0047】
次に、本実施形態のインクジェット記録ヘッドによるインクの吐出およびリフィル状況を、図5を用いて説明する。
【0048】
図5(a)は発泡前の状態を示している。ヒータ1に駆動信号は入力されておらず、第1の面1aおよび第2の面1bのいずれの面上においても気泡は発生していない。
【0049】
図5(b)は発泡直後の状態を示している。ヒータ1に駆動信号が入力され、第1の面1aおよび第2の面1bの表面において気泡が発生する。これにより吐出口4からインク滴の吐出が開始される。また、ノズル5内では供給室6側に向かうインクの流れが生じる(図中矢印a方向)。
【0050】
図5(c)は第1の面1aで発生した気泡が外気と連通した直後の状態を示している。本実施形態のインクジェット記録ヘッドは、ヒータ1が吐出口4に近接して設けられていることで第1の面1aで発生した気泡が外気と連通し、これによりサテライトを発生することなく、インク滴を吐出する。第2の面1bで発生した気泡は成長しているため、ノズル5内のインクは供給室6側に向けて流れている(図中矢印a方向)。
【0051】
図5(d)はリフィル時の状態を示す図である。第2の面1bで発生した気泡が消泡し始めることでノズル5内では供給室6側からヒータ1側へと向かうインクの流れが生じる(図中矢印b方向)。このように本実施形態のインクジェット記録ヘッドは、第2の面1b上の気泡の消泡をリフィルに利用するためリフィル特性を維持することができる。また、ヒータ1は素子基板2をノズル5内に突出させて、この上に配置するといった構成を採用していない。このため、供給路9の流路断面を狭くしてしまうことがないのでリフィル特性を低下させることもない。
【0052】
なお、本実施形態においては、ノズル構成基板3全体の厚みが約30μm、吐出口4の径が約8μm、吐出口4の厚みが約10μm、ヒータ1から吐出口部11下端までの距離が約3μm、ヒータ1の厚みが約1μmで形成されている。本発明のインクジェット記録ヘッドはこれらの寸法に限定されるものではないが、本発明の効果を得るためには、ヒータ1から吐出口部11下端までの距離が4μm以下とし、ヒータ1の厚みが10μmとすることが好ましい。
(第2の実施形態)
図6は本発明の第2の実施形態によるインクジェット記録ヘッドのノズル構造を示す図である。同図(a)はインクジェット記録ヘッドの一部を基板に対して垂直な方向から見た平面透視図、(b)は(a)のA−A’線に沿った断面図、(c)はB−B’線に沿った断面図である。
【0053】
なお、本実施形態の構成は、後述するように2つのヒータが所定の間隔を空けて配置されている点で第1の実施形態と異なるが基本的な構成は同様である。よって、本実施形態の説明においては、第1の実施形態で用いた符号により説明するとともにその相違点についてのみ説明する。
【0054】
ヒータ1は、間隔Sを空けて並列に配置されたヒータ1cとヒータ1dとを有しており、間隔Sが形成されていることで第1の面1a側と第2の面1b側とは連通している。これらヒータ1cとヒータ1dとは配線12により直列に接続されている。なお、本実施形態では各ヒータ1c、1dとの間隔Sは約3μmである。
【0055】
本実施形態の場合、第2の面1b側に存在しているインクがヒータ1cとヒータ1dとの間に間隔Sを通って第1の面1a側に供給される。このため、間隔Sがない構成に比べてリフィル速度が向上する。
【0056】
本実施形態のインクジェット記録ヘッドも第1の実施形態と同様にヒータ1c、1dを吐出口4に近接させることで画像劣化の原因であるサテライト発生を抑制している。また、第2の面1bも気泡の発泡消滅可能となるように素子基板2から浮かせて配置しており、これにより、第2の面1b側における消泡によりリフィル特性を維持できるようにしている。さらには、本実施形態の場合、間隔Sを介して第1の面1a側にインクを供給する構成としているのでリフィル速度がさらに向上する。
(第3の実施形態)
図7は本発明の第3の実施形態によるインクジェット記録ヘッドのノズル構造を示す図である。同図(a)はインクジェット記録ヘッドの一部を基板に対して垂直な方向から見た平面透視図、(b)は(a)のA−A‘線に沿った断面図、(c)はB−B’線に沿った断面図である。
【0057】
なお、本実施形態の構成は、後述するように円環形状のヒータを有している点で第1の実施形態と異なるが基本的な構成は同様である。よって、本実施形態の説明においては、第1の実施形態で用いた符号により説明するとともにその相違点についてのみ説明する。
【0058】
本実施形態のヒータ1は吐出口4の中心を軸とした円環形状を有しており、その中心部分1eは、第1の面1a側と第2の面1b側を連通させており、インクが流動可能となっている。
【0059】
ヒータ1は円環形状であるため、発生する気泡も円環形状となる。このため、インク吐出時においては、円環形状の気泡が吐出口部11下端を包み込むような状態となり、飛翔液滴へのインクの供給を遮断することとなる。この結果、画像品位の劣化を招くサテライトを低減することができる。
【0060】
また、円環形状のヒータ1の場合、第2の面1b側のインクを中心部分1eを通して第1の面1a側に供給することが可能となる。このため、リフィル速度を向上させることができる。
【0061】
以上、本実施形態のインクジェット記録ヘッドも第1の実施形態と同様にヒータ1を吐出口4に近接させることで画像劣化の原因であるサテライト発生を抑制している。また、第2の面1bも気泡の発泡消滅可能となるように素子基板2から浮かせて配置しており、これにより、第2の面1b側における消泡によりリフィル特性を維持できるようにしている。さらには、本実施形態の場合、中心部分1eを介して第1の面1a側にインクが供給されるため、リフィル速度がさらに向上する。
(第4の実施形態)
図8は本発明の第4の実施形態によるインクジェット記録ヘッドのノズル構造を示す図である。同図(a)はインクジェット記録ヘッドの一部を基板に対して垂直な方向から見た平面透視図、(b)は(a)のA−A‘線に沿った断面図、(c)はB−B’線に沿った断面図である。
【0062】
なお、本実施形態の構成は、後述するようにヒータの周りに泡合体阻害部材が設けられている点で第1の実施形態と異なるが基本的な構成は同様である。よって、本実施形態の説明においては、第1の実施形態で用いた符号により説明するとともにその相違点についてのみ説明する。
【0063】
図8に示すように、本実施形態では、ヒータ1の側面部分のうち、発泡室10の側壁面に支持されている側面部分以外の他の側面部分に、熱エネルギを発生しない泡合体阻害部材13が延びて形成されている。泡合体阻害部材13は、第1の面1a上で発生した気泡と第2の面1b上で発生した気泡とが合体するのを阻害するためのものである。ヒータ1の周囲に泡合体阻害部材13が設けられていない場合、第1の面1aで発生した気泡が第2の面1b側に回り込む、あるいはその逆に第2の面1bで発生した気泡が第1の面1a側に回り込み気泡同士が合体する場合がある。そうすると、第2の面1b上において発生した気泡が消泡することで吐出口4側へのインクの流れが発生し、これによりリフィル特性を維持するといった機能が得られなくなる。つまり、合体した気泡は外気に連通しているので消泡せず、よってインクのリフィル効果を得られなくなる。これを回避するためには、第1の面1aと第2の面1bとを離して配置する必要がある。例えば、ヒータ1の厚みを増すことで第1の面1aと第2の面1bとを離すことができる。しかしながら、ヒータ1の厚みを増すと、インク流路が狭くなってしまうため、インクのリフィル速度が著しく低下してしまう。
【0064】
本実施形態の泡合体阻害部材13は、ヒータ1の周りに設けられているため、発熱面である第1の面1aと第2の面1bとの間の距離は泡合体阻害部材13が設けられた分だけ離れていることとなる。泡合体阻害部材13をヒータ1の周辺に設けることでヒータ1の厚みを増すことなく第1の面1aと第2の面1bとの間の距離を延ばすことができる。このように、第1の面1aで発生した気泡、あるいは第2の面1bで発生した気泡は、泡合体阻害部材13によって回り込みを阻害されることとなり、ヒータ1の厚みを増すことなく気泡の合体を防止することができる。よって、リフィル特性を維持することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 ヒータ
1a 第1の面
1b 第2の面
3 ノズル構成基板
4 吐出口
9 供給路
10 発泡室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギにより気泡を発生させる平板形状の熱エネルギ発生手段と、前記熱エネルギ発生手段が設けられた発泡室と、前記発泡室にインクを導くためのインク流路と、前記発泡室に連通する吐出口が前記熱エネルギ発生手段と対向する位置に形成された流路構成基板とを有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記熱エネルギ発生手段は、熱エネルギを発生する、前記吐出口に対面する第1の主面および前記第1の主面の反対側の面である第2の主面を有し、前記第1の主面から前記吐出口が開口している前記発泡室の天面までの距離が前記第2の主面から前記発泡室の底面までの距離よりも短くなる位置に配置されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記熱エネルギ発生手段は、前記発泡室の側壁面に対して前記熱エネルギ発生手段の側面部分で保持されている、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記熱エネルギ発生手段には前記第1の主面側と前記第2の主面側とを連通させる連通部が形成されている、請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記熱エネルギ発生手段は円環形状部を有し、該円環形状部の中心部分が前記連通部であり、前記中心部分は前記吐出口に対応した位置に配置されている、請求項3に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記熱エネルギ発生手段の側面部分のうち、前記発泡室の側壁面に支持されている前記側面部分以外の他の側面部分に、熱エネルギを発生しない非発泡領域が延びて形成されている、請求項2ないし4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記熱エネルギ発生手段は、前記吐出口の中心軸に対して軸対称となる位置に配置されている、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記熱エネルギ発生手段の前記第1の主面から前記吐出口が開口している前記発泡室の天面までの距離が4μm以下である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
前記熱エネルギ発生手段の厚みが10μm以下である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−206523(P2012−206523A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−172768(P2012−172768)
【出願日】平成24年8月3日(2012.8.3)
【分割の表示】特願2011−288229(P2011−288229)の分割
【原出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】