説明

インクジェット記録媒体

【課題】光の映りこみが低減され、ぎらつき感の少ない美しい光沢感をもったインクジェット記録媒体の提供。
【解決手段】基材、金属層およびインク受容層をこの順で、または金属層、基材およびインク受容層をこの順で積層したインクジェット記録媒体であって、前者では金属層と受容層、後者では金属層と基材の間の界面に差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸を存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方式のプリンターを用いて印刷が可能なアイキャッチ効果の高い金属光沢感を持つ記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方式を用いてアイキャッチ効果の高い印刷物を得るため、金属光沢感をもつインクジェット記録画像の開発が進められている。そのためのインクジェット記録媒体としてポリエチレンテレフタレートフィルムにアルミ蒸着を行い、該フィルムの蒸着を施した面の反対面に記録層を設けた記録シートや特許文献1にあるような支持体の一方の面に接着樹脂層、金属箔、記録層を順次積層してなる金属光沢記録媒体が提案されている。
【0003】
上記の基材、金属膜およびインク受容層からなるインクジェット記録媒体では、金属膜からなる金属層により高い光沢性が得られる半面、金属層の表面の反射により屋内照明の映りこみやぎらつき感などの反射光による印刷物の品質悪化が予想外に大きいことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−327442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、光の映りこみが低減され、ぎらつき感の少ない美しい光沢感をもったインクジェット記録媒体の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的の解決手段は下記の通りである。
すなわち、本発明1のインクジェット記録媒体は、少なくとも基材、金属層およびインク受容層からなるインクジェット記録媒体において、前記基材と前記インク受容層の間に前記金属層が設けられ、前記金属層のインク受容層側の界面に、差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸が存在することを特徴とする。
差し渡し距離0.1μmから3μmの凹凸が存在するとは、この距離範囲の中に入る様々な差し渡し距離を持つ凹凸が多数、界面に分布していることを意味する。
この差し渡し距離は、例えば、室内灯の光源の映り込みが見えなければ、上記の範囲内にあると判断できる。
本発明により、高い光沢感をもち、アイキャッチ効果も高く、且つぎらつき感など不快な輝きを低減できる。前記基材は透明基材でも不透明基材でもよい。
【0007】
発明1において、金属層とインク受容層の間には、金属材料と有機あるいは無機材料との層間密着性を向上させるためのプライマー層が形成されていてもよく、この場合には前記プライマー層のインク受容層側の界面に差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸が存在することで、発明1と同様、高い光沢感をもち、アイキャッチ効果も高く、且つぎらつき感など不快な輝きが低減されたインクジェット記録媒体とすることができる。
即ち、発明2のインクジェット記録媒体は、少なくとも基材、金属層およびインク受容層からなるインクジェット記録媒体において、前記基材と前記インク受容層の間に前記金属層が設けられるとともに、更にこの前記金属層のインク受容層側にプライマー層が設けられ、このプライマー層のインク受容層側の界面に、差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸が存在することを特徴とする。
【0008】
発明3は、発明1または発明2において更に、
前記金属層の表面または前記金属層の前記インク受容層側に設けられたプライマー層の表面を差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸状にした後にインク受容層を成膜したものであることを特徴とする。
【0009】
発明4は、発明1または発明2において更に、
前記金属層の表面または前記金属層の前記インク受容層側に設けられたプライマー層の表面に差し渡し距離が0.1μmから3μmの微粒子が分散された状態にした後にインク受容層を成膜したものであることを特徴とする。
発明4では、微粒子はプライマー層の塗布液の中に分散してのち、塗布してもよい。
このときはプライマー層の厚みは微粒子の平均径より薄いことが望ましい。
発明1から4においては、ぎらつき感低減の他にインクの密着性の改良効果も有する。
【0010】
発明5は、
少なくとも基材、金属層およびインク受容層からなるインクジェット記録媒体において、前記基材が前記金属層とインク受容層の間に設けられ且つ透明基材であって、
前記金属層の前記透明基材側の界面に、差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸が存在することを特徴とする。
差し渡し距離0.1μmから3μmの凹凸が存在するとは、この距離範囲の中に入る様々な差し渡し距離を持つ凹凸が多数、界面に分布していることを意味する。
この差し渡し距離は、例えば、室内灯の光源の映り込みが見えなければ、上記の範囲内にあると判断できる。
本発明により、高い光沢感をもち、アイキャッチ効果も高く、且つぎらつき感など不快な輝きを低減できる。
【0011】
発明5において、金属層と透明基材の間には、金属材料と有機あるいは無機材料との層間密着性を向上させるためのプライマー層が形成されていてもよく、この場合には前記プライマー層の金属層側の界面に差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸が存在することで、発明5と同様、高い光沢感をもち、アイキャッチ効果も高く、且つぎらつき感など不快な輝きが低減されたインクジェット記録媒体とすることができる。
即ち、発明6のインクジェット記録媒体は、少なくとも基材、金属層およびインク受容層からなるインクジェット記録媒体において、前記基材が前記金属層とインク受容層の間に設けられ且つ透明基材であるとともに、更に前記金属層と透明基材の間にプライマー層が設けられ、前記プライマー層の金属層側の界面に差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸が存在することを特徴とする。
【0012】
発明7は、発明5または発明6において、更に
前記金属層と界面を作る基材の金属層を設ける側の表面または前記基材の前記金属層側に設けられたプライマー層の金属層を設ける側の表面を、差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸状にした後に金属層を成膜したものであることを特徴とする。
【0013】
発明8は、発明5または発明6において、更に
前記金属層と界面を作る基材の金属層を設ける側の表面または前記基材の前記金属層側に設けられたプライマー層の金属層を設ける側の表面に、差し渡し距離が0.1μmから3μmの微粒子が分散された状態にした後に金属層を成膜したものであることを特徴とする。
発明8では、微粒子はプライマー層の塗布液の中に分散してのち、塗布してもよい。このときはプライマー層の厚みは微粒子の平均径より薄いことが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、各凹凸の差し渡し距離は、0.1μm〜3μmの範囲であり、深さは0.1μm〜3μmの範囲であることが好ましい。なお、差し渡し距離はインクジェット記録媒体の伸びる方向に対する、各凹凸の1周期の距離である。
表面に形成される凹凸の分布は、凹凸をできるだけ不規則に並べて形成するのが記録媒体に干渉縞などによる着色が発生しなくてよい。
各凹凸の形状は特に限定されないが、放物面の形状が好ましく、記録媒体の表面に放物面を不規則に並べて形成できれば、表面が理想的な凹凸分布を示す記録媒体を実現することが可能である。但し、放物面の並び方が規則的となる場合には記録媒体の表面に干渉縞を生じる可能性があるので不適当である。
凹凸の距離や深さの測定方法としては光干渉顕微鏡やAFM(Atomic Force Microscope)等が利用可能である。
【0015】
金属層表面、基材表面及び該プライマー層の表面を差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸状にするには、プラズマ処理やレーザー照射が適切である。
本発明で実施するプラズマ処理は、高電圧を印加することによって開始持続する放電によって生成するプラズマに金属層表面、基材表面またはプライマー層表面を曝すものである。かかる放電の形態には、コロナ放電、グロー放電等、種々の形態があるが、金属膜、基材またはプライマー層に熱的な損傷を与えない放電形態であれば特に限定されるものではない。放電の均一性を得るためには、グロー放電が好ましい。グロー放電は、低圧力のガス雰囲気中で高電圧を印加した際に開始持続する放電であり、放電電力、処理時間等の処理条件は、金属膜の種類、基材またはプライマー層を構成する樹脂の種類、処理装置等に応じて設定すればよい。要は、金属層表面、基材表面またはプライマー層表面に凹凸が付くようにして、本発明の効果が得られる条件を選定する。
【0016】
プラズマ処理において、金属層表面、基材表面またはプライマー層表面の温度が100℃以下となる低温プラズマ処理であることが好ましいが、大気圧下でヘリウム、アルゴンなどの希ガスを主成分とした放電いわゆる常圧プラズマ技術、市販の大気圧プラズマ処理装置によっても本発明の凹凸付与処理は可能である。
【0017】
放電周波数は、高周波、低周波、マイクロ波を用いることができ、また直流も用いることができる。
【0018】
上述の特定のガス(雰囲気ガス)としては、非重合性(不活性)ガスが好ましく、例えばAr、Air、He、CO、炭酸ガス、酸素、水素、水蒸気、アンモニアなどが例示され、これらを単独あるいは二種以上を混合して用いることができる。エチレンモノマー、パーフロロプロピレンモノマーなどの重合性ガスは、本発明の目的を阻害しない範囲で使用しても差し支えない。
【0019】
このような低圧ガスの存在下でプラズマ処理をすることで、特に、基材表面またはプライマー層表面を改質し、低圧ガス雰囲気のプラズマ反応系に存在する微量酸素が反応することにより、特に親水性の高い水酸基やカルボニル基が導入されることによって、静電気発生を抑制し、塵埃の再付着が防止することができる。
【0020】
プラズマ処理の真空度は、0.01〜10Torr程度とすることが好ましい。0.01Torrより低いと金属層表面、基材表面またはプライマー層表面を活性化するためのエネルギー粒子の数が少ないので反応に長時間を要する場合があり、10Torrを越えると放電が不安定になったり、エネルギー粒子の平均自由工程距離が長くなるので反応効率が低下する場合がある。
【0021】
低温プラズマの放電電力は、0.4〜30W/cm(放電電極面積)であることが好ましい。0.4W/cm より低いと反応に長時間かかるし、30W/cm を越えると放電が不安定になる。
【0022】
また、一般に、レーザー光によるビームスポット内でのエネルギー分布は、ほぼガウス分布となることが知られており、レーザー照射で凹凸を与えれば凹凸の形状は放物面の形状に近くなる。レーザー光の照射が互いに重なり合うように行ってガウス分布形状の照射領域の周辺部分が極力残存しないようにすると共に、その際のレーザーの露光量を変化させることで、放物面を有する凹部の深さや大きさを自在に変化させた形状の不規則な凹凸を基材や金属層の表面、プライマー層の表面に形成することが可能となる。表面に放物面を不規則に並べて形成するためには、レーザー光を順次照射するスポクト照射を行うと、放物面に近い形状の不規則な窪みを形成することが可能となる。
【0023】
金属層表面または基材表面に微粒子を分散させるには、高分子成分等の糊剤を含む微粒子含有液を金属層表面または基材表面に塗工(例えば吹きつけ、塗布等)する方法がある。
プライマー層の表面に微粒子を分散させるには、樹脂を含む有機溶剤溶液あるいは水溶液に微粒子を分散したものを、形成されたプライマー層の表面に塗工すればよい。またプライマー層用塗布液に微粒子を添加し分散させた液を、微粒子の平均粒子サイズより薄く塗布してもよい。プライマー層の上に飛び出した粒子が凹凸を形成する。
【0024】
分散される微粒子は、酸化アルミニウム、酸化チタンなど公知の微粒子が使用できる。微粒子の平均粒子径は0.05μm〜3μmの範囲であることが好ましい。この範囲内であれば、ぎらつき感低減の効果は得られる。特に、平均粒子径が0.2μm〜0.3μmの範囲内のものが好ましい。この範囲であると、入射光が微粒子によって完全に散乱されることにより、色調ムラが生じ難い。粒子径が0.2μm未満となると、可視光の波長域の中で比較的波長の短い青い光が微粒子によって散乱されるために、色調ムラが大きくなる傾向にある。また、ぎらつき感低減の効果がやや減少する傾向がある。一方、粒子径が0.3μmを越えると、微粒を分散させたプライマー層と該プライマー層に隣接する層との密着性が弱まる傾向がある。
微粒子は酸化チタン微粒子であることが好ましい。本発明において酸化チタンは二酸化チタンを含む。微粒子の平均粒子系は、レーザー回折散乱式による粒度分布測定装置により測定することができる。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置として、例えば、「マイクロトラックMT3300」日機装株式会社製)を用いることができる。本発明において平均粒子径は体積平均粒子として測定したものである。本発明において微粒子と粒子は同じ意味である。
【0025】
本発明に用いられる基材としては、天然パルプ紙、合成繊維あるいは合成樹脂フィルムを擬紙化したいわゆる合成紙、繊維構造体(織布、編布、不織布)、ガラスファイバーシートなど無機質シート、合成樹脂フィルム、ガラス、金属面、板あるいは合板、積層板などでもプリンターで搬送可能であり記録できる可撓性、折り曲げ適性などを有する範囲であれば、特に問題なく使用できる。
【0026】
透明基材としては、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、セルロース系フィルム、ポリアミド系フィルム、アラミド系フィルム等が好適に使用できる。その中でも、ポリエチレンテレフタレートが特に望ましい。
【0027】
金属層は蒸着によって透明フィルムの面上に設けられるか或いは金属箔を貼り付けることで設けることができる。
使用される金属は、アルミニウム、錫、亜鉛、金、銅などであるが、アルミが高い光沢度を得るには、コストを考えると最も望ましい。
金属層の厚みは、1オングストローム〜20μmが好ましい。1オングストロームより薄い場合は金属特有の金属光沢が得られず、20μmより厚い場合には厚くしただけの効果が得られない。
【0028】
本発明におけるプライマー層は、前記透明基材と前記金属層との間、前記インク受容層と金属層の間など、プライマー層を挟んでその上下に構成される層の間の接着性を高めるためのものである。該プライマー層は、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂等の樹脂の有機溶剤溶液、水溶液などをたとえばグラビアコーティング法、スプレイコーティング法などの通常のコーティング法により均一な厚みに塗布し、乾燥(熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などの場合は硬化)することによって塗膜化される。前記プライマー層の厚みは通常0.005〜2μmの範囲、好ましくは0.01〜1μmの範囲である。プライマー層の厚みは、プライマー層に微粒子を入れて凹凸を形成させるときはその微粒子の径より薄くするのが望ましい。
本発明においては、微粒子を含有しないプライマー液を塗布してプライマー層を形成することで、接着性を高めることにプライマー層を用いてもよいし、プライマー液に微粒子を入れた微粒子含有液を塗布して凹凸を形成させるために用いても良い。前者の場合には、形成されたプライマー層にプラズマ処理やレーザー照射によって直接その表面に凹凸を形成することができる。また、プライマー層表面に凹凸を形成させる際、微粒子を含有しないプライマー液を塗布してプライマー層を形成し、その上に、微粒子含有液を塗布して凹凸を形成してもよい。この場合、接着性が高まる効果も有する。
尚、金属層表面または基材表面に微粒子を分散させて凹凸を形成させる際においても、上記プライマー液を用いて同様の方法により形成することができる。
【0029】
本発明で使用されるインク受容層には、高い光沢性を得るために、インク吸収性、耐水性、透明性のよいインク受容層を作成することで知られているウレタンやアクリルなどの分散樹脂の使用が好ましく、またウレタンまたはアクリルなどの分散樹脂をカルボジイミドで架橋させたものも更に好ましく使用できる。特に、樹脂としてウレタン樹脂が広く使われている。
【0030】
このようなインク受容層としては、例えば下記構成のものが知られている。
シラノール基を有するポリウレタン樹脂をポリイソシアネート、ポリエチレンイミン及びカルボジイミド樹脂から選ばれた架橋剤で架橋された樹脂を含む特開2003−166183に開示されているようなインク受容層
具体的にはこの公報の実施例5にあるポリウレタン樹脂エマルジョン(武田薬品工業(株)製タケラックXW−75−X35(固形分30質量%))75質量%とカルボジイミド樹脂(日清紡績(株)製カルボジライトV−02)15質量%などからなるインク受容層、
アクリル重合物とカルボジイミド基を有する化合物を含有する特開2004−345110に記載のインク受理層、
特開2009−125958に記載のポリエステル系ウレタンラテックス及びアクリルシリコーン系ラテックスなどの分散樹脂とカルボジイミドを含有するインク受理層。
また、特開2005−74880に記載の水性ウレタン樹脂および水性アクリル樹脂の2種と架橋剤を含むインク受容層も使用できる。
さらに、加水分解性シリル基を架橋成分として有しているカチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂のような分散樹脂とカチオン性ウレタン系樹脂との併用系のように分散樹脂とウレタン樹脂とを架橋したような特開2006−88341に記載のものも好ましい。
【0031】
ウレタン樹脂は、ポリエステル系、ポリエーテル系等が例示できる。カチオン性ポリエーテル系ウレタン樹脂が好ましい。
カチオン性ウレタン系樹脂は、ポリエステル系、ポリエーテル系等が例示できるが、カチオン性ポリエーテル系ウレタン樹脂が好ましい。
アクリル樹脂は、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの重合体または共重合体等のアクリル系重合体樹脂、または、エチレン−酢酸ビニル、エチレン−アクリル−酢酸ビニル、エチレン−塩化ビニル−酢酸ビニル等のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル・スチレン共重合体樹脂等が例示できる。カチオン性アクリル・スチレン共重合体樹脂が好ましい。
インク受容層固形分中のカチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂とカチオン性ウレタン系樹脂の質量%は、カチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂が5〜25%で、カチオン性ウレタン系樹脂が75〜95%のものが好ましい。
さらには、カチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂が10〜20%で、カチオン性ウレタン系樹脂が80〜90%のものが好ましい。
【0032】
架橋剤として、ポリイソシアネート、ポリエチレンイミン及びカルボジイミド樹脂から選ばれるものが用いられる。
カルボジイミド樹脂は、ジイソシアネート類又はジイソシアネート類とトリイソシアネート類とを脱二酸化炭素縮合して得られる縮合反応物の末端イソシアネート基を親水性基で封止してなる水溶性又は水分散性カルボジイミド化合物である。
ジイソシアネート類及びトリイソシアネート類としては、脂環族イソシアネート、脂肪族イソシアネート、及び芳香族イソシアネートのいずれでもよく、分子中にイソシアネート基を少なくとも2個以上、特に2個有するものが好適である。このようなイソシアネートとしては、分子中にメチレン基の炭素原子に結合したイソシアネート基を有しないイソシアネート化合物では4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,4,6−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート(TIDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、水添トリレンジイソシアネート(HTDI)などが、また分子中にメチレン基の炭素原子に結合したイソシアネート基を2個以上有する脂環族、脂肪族、芳香族イソシアネートではヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,12−ジイソシアネートドデカン(DDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、及び2,4−ビス−(8−イソシアネートオクチル)−1,3−ジオクチルシクロブタン(OCDI)などが挙げられる。
末端イソシアネート基を封止する化合物は、イソシアネート基と反応し得る基を有する水溶性又は水分散性有機化合物であって、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の二官能性の水分散性有機化合物のモノアルキルエステル又はモノアルキルエーテル、あるいはカチオン系の官能基(例えば窒素を含む基)、又はアニオン系の官能基(例えばスルホニル基を含む基)を持つ一官能の有機化合物などが挙げられ、特に、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが好適である。
【実施例】
【0033】
実施例1 インクジェット用記録媒体1の作製
100μm厚さのポリエチレンテレフタレートフィルムに、下記の条件で低温プラズマ処理を行った。
(大気圧プラズマ処理装置を使用したプラズマ処理条件)
処理条件:パール工業社製高周波電源80kHz 印加出力2.0W/cm
ガス条件:窒素ガス 4.5L/min/cm、酸素ガス 0.5L/min/cm
特表平9−511955の記載に基づき、上記のプラズマ処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、約500オングストロームの厚さのアルミニウム層を減圧条件下にて蒸着により形成した。
次いで、該フィルムの他方の表面に次の液体を塗布してインク受容層とする。
【0034】
<インク受容層形成組成物1>
ポリエーテル系ウレタン樹脂
(第一工業製薬株式会社 スーパーフレックス600固形分25%) 93重量部
カルボジイミド
(日清紡ケミカル株式会社 商品名;カルボジライトV02−L2) 7重量部
上記重量比は乾燥重量比である。
上記成分をイオン交換水に順次投入し攪拌処理を行なった後、乾燥塗膜が20μmとなるようにインク受容層を設けてインクジェット用記録媒体1を得た。
【0035】
実施例2 インクジェット用記録媒体2の作製
100μm厚さのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、下記の組成の酸化チタン微粒子を含むプライマー用組成物を、樹脂部分の乾燥厚みが0.1μmになるように塗布、乾燥しプライマー層を設けた。
【0036】
(プライマー用組成物1)
ポリウレタン樹脂(N-5247 日本ポリウレタン社製) 100重量部
酸化チタン粒子(GTR-100 堺化学社製 第一次粒子径 0.26μm)
150重量部
溶剤(トルエン/メチルエチルケトン/IPA=1/1/1) 100重量部
【0037】
このプライマー層の上に特表平9−511955の記載に基づき、約500オングストロームの厚さのアルミニウム層を減圧条件下にて蒸着により形成した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルムのアルミニウム層のある側の反対の面に、前記インク受容層形成組成物1の各成分をイオン交換水に順次投入し攪拌処理を行なった後、乾燥塗膜が20μmとなるようにインク受容層を設けてインクジェット用記録媒体2を得た。
【0038】
実施例3 インクジェット用記録媒体3の作製
特表平9−511955の記載に基づき、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、約500オングストロームの厚さのアルミニウム層を減圧条件下にて蒸着により形成した。次いで、アルミニウム層に下記の条件でプラズマ照射を行った。
(プラズマ処理)
装置:内部電極方式、
放電周波数:110KHz、
放電電圧:12W/cm
ガス種および流量:アルゴン、200ml/分、
真空度:0.4Torr、
処理時間:60秒
【0039】
このプラズマ処理を施したアルミニウム層の上に、前記インク受容層形成組成物1の各成分をイオン交換水に順次投入し攪拌処理を行なった後、乾燥塗膜が20μmとなるようにインク受容層を設けてインクジェット用記録媒体3を得た。
【0040】
実施例4 インクジェット用記録媒体4の作製
特表平9−511955の記載に基づき、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、約500オングストロームの厚さのアルミニウム層を減圧条件下にて蒸着により形成した。このアルミニウム層の上に前記プライマー用組成物1を塗布、乾燥し、酸化チタン微粒子を含むプライマー層を、樹脂部分の乾燥厚みが0.1μmになるように設けた。
このプライマー層の上に、前記インク受容層形成組成物1の各成分をイオン交換水に順次投入し攪拌処理を行なったものを、乾燥塗膜が20μmとなるようにインク受容層を設けてインクジェット用記録媒体4を得た。
【0041】
実施例5
実施例4において、プライマー用組成物1の代わりにプライマー用組成物2を塗布、乾燥し、酸化チタン微粒子を含むプライマー層を、樹脂部分の乾燥厚みが1μmになるように設けたこと以外は実施例4と同様にしてインクジェット用記録媒体5を得た。
(プライマー用組成物2)
ポリウレタン樹脂(N-5247 日本ポリウレタン社製) 100重量部
酸化チタン粒子(HT0201 東邦チタニウム(株)製 粒子径 2.10〜2.55μm) 150重量部
溶剤(トルエン/メチルエチルケトン/IPA=1/1/1) 100重量部
【0042】
実施例6
実施例4において、プライマー用組成物1の代わりにプライマー用組成物3を塗布、乾燥し、酸化チタン微粒子を含むプライマー層を、樹脂部分の乾燥厚みが0.05μmになるように設けたこと以外は実施例4と同様にしてインクジェット用記録媒体6を得た。
(プライマー用組成物3)
ポリウレタン樹脂(N-5247 日本ポリウレタン社製) 50重量部
酸化チタン粒子(スーパータイタニアF−1 昭和電工(株)製 粒子径 0.09μm) 150重量部
溶剤(トルエン/メチルエチルケトン/IPA=1/1/1) 100重量部
【0043】
比較例1
特表平9−511955の記載に基づき、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、約500オングストロームの厚さのアルミニウム層を減圧にて蒸着により形成した。次いで、該アルミニウム層の上に、インク受容層形成組成物1の各成分をイオン交換水に順次投入し攪拌処理を行なった後、乾燥塗膜が20μmとなるようにインク受容層を設けて比較例1のインクジェット用記録媒体を得た。
【0044】
<インクジェット用記録媒体の評価>
(1)インク受容層の接着性評価
上記で作成した実施例1〜6および比較例1のインクジェット用記録媒体について「JIS−K−5600(1999)5−6 付着性(クロスカット法)」に準じて、インク受容層の接着性について評価した。なお、セロテープ(登録商標)には、ニチバン社製のものを使用した。
評価結果
表1に、実施例1〜6および比較例1の評価結果を示す。なお、表1の評価結果の欄に示す数字は、JIS−K5600(1999)8.3 試験結果の分類表により分類された分類番号である。分類番号は、それぞれ下記に示す状態を表す。
分類1;カットの交差点における塗膜の小さな剥がれがある状態。
分類2;カットの縁に沿って剥がれる状態。
分類3;カットの縁に沿って部分的または全面的に剥がれる状態。
【0045】
(2)アイキャッチ効果の評価
実施例1〜6および比較例1のインクジェット用記録媒体をA4判に断裁し、写真画像をインクジェットプリンターで(エプソン製PM−5000C)で記録した後、蛍光灯のもとで白地の壁に貼り付け、10m離れた時点から目視で観察する。壁の白さと差別化され際だってその存在が強調されているものをアイキャッチ効果優、壁の白さに同化してその存在が判然としないものをアイキャッチ効果劣と判定する。
【0046】
(3)ぎらつき感の評価
実施例1〜6および比較例1のインクジェット用記録媒体をA4判に断裁し、写真画像をインクジェットプリンターで(エプソン製PM−5000C)で記録した後、床から80cmの高さの机上に配置し、床から3mの高さの天井部に昼色光直管蛍光灯(FLR40S・D/M−X松下電器産業(株)製)40W×2本を1セットとして1.5m間隔で10セット配置した。このとき評価者が記録媒体の表示面正面にいるときに、評価者の頭上より後方に向けて天井部に前記蛍光灯がくるように配置した。記録媒体は机に対する垂直方向から25°傾けて蛍光灯が写り込むようにして画像の見易さ(視認性)を下記のようにランク評価した。
【0047】
A:もっとも近い蛍光灯の写り込みが全く気にならない。ぎらつき感を感じない。
B:近くの蛍光灯の写りこみはやや気になるが、遠くは気にならならない。かすかにぎらつき感があるが、基にならない。
C:蛍光灯の写りこみがかなり気になり、写り込みの部分は画像を見ることができない。ぎらつき感が大きく、媒体を傾けるなどしてぎらつき感を低減する必要がある。
結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1の結果から、実施例1から6のインクジェット記録媒体は、金属層とインク受容層あるいは金属層と基材の間の界面に差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸が存在するため、アイキャッチ特性を落とすことなく、ぎらつき感が改良されている。また実施例4〜6では、インクの密着性も改良されている。凹凸によるアンカー効果が発揮されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材、金属層およびインク受容層からなるインクジェット記録媒体において、前記基材と前記インク受容層の間に前記金属層が設けられ、前記金属層のインク受容層側の界面に、差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸が存在することを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項2】
少なくとも基材、金属層およびインク受容層からなるインクジェット記録媒体において、前記基材と前記インク受容層の間に前記金属層が設けられるとともに、更にこの前記金属層のインク受容層側にプライマー層が設けられ、このプライマー層のインク受容層側の界面に、差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸が存在することを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記金属層の表面または前記金属層の前記インク受容層側に設けられたプライマー層の表面を差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸状にした後にインク受容層を成膜したものである請求項1または2のインクジェット記録媒体。
【請求項4】
前記金属層の表面または前記金属層の前記インク受容層側に設けられたプライマー層の表面に差し渡し距離が0.1μmから3μmの微粒子が分散された状態にした後にインク受容層を成膜したものである請求項1または2のインクジェット記録媒体。
【請求項5】
少なくとも基材、金属層およびインク受容層からなるインクジェット記録媒体において、前記基材が前記金属層とインク受容層の間に設けられ且つ透明基材であって、前記金属層の前記透明基材側の界面に、差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸が存在することを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項6】
少なくとも基材、金属層およびインク受容層からなるインクジェット記録媒体において、前記基材が前記金属層とインク受容層の間に設けられ且つ透明基材であるとともに、更に前記金属層と透明基材の間にプライマー層が設けられ、前記プライマー層の金属層側の界面に差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸が存在することを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項7】
前記金属層と界面を作る基材の金属層を設ける側の表面または前記基材の前記金属層側に設けられたプライマー層の金属層を設ける側の表面を、差し渡し距離が0.1μmから3μmの凹凸状にした後に、金属層を成膜したものである請求項5または6のインクジェット記録媒体。
【請求項8】
前記金属層と界面を作る基材の金属層を設ける側の表面または前記基材の前記金属層側に設けられたプライマー層の金属層を設ける側の表面に、差し渡し距離が0.1μmから3μmの微粒子が分散された状態にした後に金属層を成膜したものである請求項5または6のインクジェット記録媒体。

【公開番号】特開2012−81691(P2012−81691A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231408(P2010−231408)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】