説明

インクジェット記録方法、記録物、インクセット、インクカートリッジ、およびインクジェット記録装置

【課題】記録媒体上に、異なる光沢度を有する金属光沢面を、一回の記録によって形成することができるインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】インクジェット記録装置を用いて、複数種のインク組成物のそれぞれの液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて画像の記録を行うインクジェット記録方法であって、前記インクジェット記録装置には、少なくとも、第1インク組成物および第2インク組成物が備えられ、前記第1インク組成物は、金属顔料を含有し、前記第2インク組成物は、前記金属顔料および球状粒子を含有し、前記球状粒子の平均直径は、1〜3μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、記録物、インクセット、インクカートリッジ、およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷面に金属光沢面が形成された印刷物の需要が高まっている。金属光沢面を有する印刷物は、該光沢による外観的な特徴の他に、複製が難しいという特徴を有している。たとえば、コピー機等により金属光沢面を有する印刷物を複写することは、光学的なスキャンによって金属光沢面の画像情報を取り込むことが困難な点、および金属光沢を再現できるトナーを搭載していない点などにより、非常に困難である。
【0003】
金属光沢面には、鏡面状の高光沢面とマット調のマット光沢面とがある。これらの金属光沢面には、それぞれ、光沢度(鏡面光沢度JIS Z8741等)にバリエーションがある。
【0004】
高光沢面は、インクジェット記録方法によって形成する方法も提案されている。たとえば、特開2002−179960号公報には、プラスチックの球形粒子の表面に金属の被膜を形成したものを顔料として含むインク組成物を、インクジェット記録装置にて記録媒体に塗布し、その後プレス加工によって表面の平滑化を行う印刷技術が開示されている(特許文献1)。
【0005】
マット光沢面を形成する従来の方法としては、たとえば、金属顔料インキを用いたグラビア印刷法やフレキソ印刷法が挙げられ、また、記録媒体にプレス等によりあらかじめ凹凸を形成した後、さらに箔押し印刷や熱転写印刷を行う方法などがある。
【0006】
一方、記録物を形成するための極めて効率の良い方法として、インクジェット記録方法がある。インクジェット記録方法は、インク組成物の小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させる記録方法である。この記録方法は、種々の記録媒体に高解像度、高品位な画像を高速で記録することができるという特徴を有している。
【特許文献1】特開2002−179960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記例示した従来の印刷技術は、印刷面に特定の光沢度を有する金属光沢面を形成するために適した技術であった。したがって、1つの印刷工程で、対象となる1つの印刷面に光沢度の異なる複数の金属光沢面を形成することは困難であった。
【0008】
光沢度の異なる複数の金属光沢面を形成するためには、従来のグラビア印刷法やフレキソ印刷法では、金属顔料インキの種類を版ごとに変える必要があり、また、従来の箔押し印刷や熱転写印刷では、凹凸を形成するための版やロール等を交換したり専用のものを準備する必要があった。そのため、従来の方法では複数の印刷装置を直列に組み合わせて各金属光沢面を逐次的に形成したり、印刷装置に特殊な版やロール等の構成を追加するなど、印刷工程や印刷装置が極めて複雑化する傾向があった。
【0009】
発明者らは、金属光沢面の光沢度が金属光沢面の表面の凹凸によって変化すること、および該凹凸が金属顔料の種類を変えることなく制御しうることに着目し、本発明を為すに至った。
【0010】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の1つは、記録媒体上に、異なる光沢度を有する金属光沢面を、一回の記録によって形成することができるインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるインクジェット記録方法は、
インクジェット記録装置を用いて、複数種のインク組成物のそれぞれの液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて画像の記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記インクジェット記録装置には、少なくとも、第1インク組成物および第2インク組成物が備えられ、
前記第1インク組成物は、金属顔料を含有し、
前記第2インク組成物は、前記金属顔料および球状粒子を含有し、
前記球状粒子の平均直径は、1〜3μmである。
【0012】
このようにすれば、記録媒体上に、異なる光沢度を有する金属光沢面を、一回の記録によって形成することができる。
【0013】
本発明にかかるインクジェット記録方法において、
前記インクジェット記録装置には、さらに、前記金属顔料および前記球状粒子を含有する第3インク組成物が備えられ、
前記第3インク組成物における前記球状粒子の含有量は、前記第2インク組成物における前記球状粒子の含有量と異なることができる。
【0014】
本発明にかかるインクジェット記録方法において、
前記第2インク組成物および前記第3インク組成物に含有される前記球状粒子および前記金属顔料の質量比は、いずれも1:15〜10:3であることができる。
【0015】
本発明にかかるインクジェット記録方法において、
前記記録媒体の記録面の平均表面粗さRaは、0.5μm以下であることができる。
【0016】
本発明にかかるインクジェット記録方法において、
前記第1インク組成物、前記第2インク組成物、および前記第3インク組成物に含有される前記金属顔料の各前記インク組成物に対する含有量は、それぞれ0.5〜3質量%であることができる。
【0017】
本発明にかかるインクジェット記録方法において、
前記金属顔料は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状粒子であって、
該平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、
該平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径において、50%平均粒子径R50は、0.5〜3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たすものとすることができる。
【0018】
本発明にかかるインクジェット記録方法において、
前記第1ないし第3インク組成物のうち、少なくとも1つは、さらに、色材を含有することができる。
【0019】
本発明にかかるインクジェット記録方法において、
前記第1ないし第3インク組成物の20℃における粘度は、いずれも2〜15mPa・sであることができる。
【0020】
本発明にかかる記録物は、
上述のインクジェット記録方法によって、前記記録媒体に前記画像が記録されたものである。
【0021】
このような記録物は、光沢度の異なる金属光沢面を有する。
【0022】
本発明にかかるインクセットは、
上述のインクジェット記録方法に用いられる複数種の前記インク組成物を有する。
【0023】
本発明にかかるインクカートリッジは、
上述のインクセットを備える。
【0024】
本発明にかかるインクジェット記録装置は、
上述のインクカートリッジを備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について、詳細に説明する。
【0026】
1.インクジェット記録方法
本実施形態のインクジェット記録方法は、インクジェット記録装置を用いて、複数種のインク組成物の液滴をそれぞれ吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて画像の記録を行うものであって、前記インクジェット記録装置には、少なくとも、第1インク組成物および第2インク組成物が備えられる。
【0027】
1.1.インクジェット記録装置
本実施形態の記録方法で使用するインクジェット記録装置は、インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて情報の記録を行うことができるものであって、複数種のインク組成物を備えることができるものであれば、特に限定されない。
【0028】
インクジェット記録装置の記録方式としては、例えば、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏光電極に与えて記録する方式またはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式(静電吸引方式)、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式(ピエゾ方式)、インク液を印刷情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式(サーマルジェット方式)等が挙げられる。
【0029】
また、本実施形態で用いるインクジェット記録装置としては、インクジェット式記録ヘッド、本体、トレイ、ヘッド駆動機構、キャリッジおよびキャリッジの側面に搭載された紫外線照射装置などを備えたものを例示できる。インクジェット式記録ヘッドは、少なくともシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクセットを収容するインクカートリッジを備えており、フルカラー印刷ができるように構成されることができる。本実施形態では、このインクカートリッジに、少なくとも第1インク組成物および第2インク組成物(いずれも後述する)を充填し設置する。また、それ以外のカートリッジには、さらに、第3のインク組成物や、通常のインクを充填することができる。インクジェット記録装置は、内部に専用のコントロールボード等を備えており、インクジェット式記録ヘッドのインクの吐出タイミングおよびヘッド駆動機構の走査を制御することができる。
【0030】
1.2.記録媒体
本実施形態で用いる記録媒体としては、インクジェット記録装置によって各インク組成物の液滴を塗布することができる限り特に限定されない。記録媒体の種類としては、たとえば、紙、フィルム、布等の吸収性記録媒体、金属、ガラス、プラスチック等の非吸収性記録媒体、などが挙げられる。吸収性媒体および非吸収性媒体の選択は、各インク組成物に配合される成分に応じて選択される。また、記録媒体は、無色透明、半透明、着色透明、有彩色不透明、無彩色不透明等であってもよい。
【0031】
記録媒体は、グロス系、マット系、ダル系のいずれであってもよい。市販の記録媒体としては、パールコート紙(三菱製紙株式会社から入手可能。)や、オーロラコート紙(日本製紙株式会社から入手可能。)、光沢塩化ビニルシート(たとえば商品名SP−SG−1270C:ローランドディージー株式会社製)、PETフィルム(たとえば商品名XEROX FILM<枠無し>:富士ゼロックス株式会社製)などがある。
【0032】
記録媒体として、たとえば、コート紙、アート紙、キャストコート紙等の表面加工紙、および塩化ビニルシートやPETフィルム等のプラスチックフィルムなどの印刷面が平滑なものを選べば、光沢度の高い金属光沢面を形成しやすくなり、記録媒体上に形成される金属光沢面の光沢度の変化の幅を広げることができる。この場合の印刷面の平滑さは、たとえば、印刷面の平均表面粗さRaで評価することができる。記録媒体上に形成される金属光沢面の光沢度の変化の幅を広げるためには、記録媒体の記録面の平均表面粗さRaの値は、0.5μm以下がより好ましい。なお、平均表面粗さRaは、たとえば、一般的な表面粗さ計によって測定することができる。
【0033】
コート紙の例としては、たとえば、上質紙または中質紙をベースに少なくとも片面に7g/mないし20g/mの白色の塗料を塗布したものを挙げることができる。これらは、上質コート紙または中質コート紙などと呼ばれることがある。また、コート紙の種類としては、白色塗料の塗工量の小さい(たとえば、片面あたり7g/m程度)軽量コート紙や光沢を抑えたマットコート紙、表面光沢の高いミラーコート紙などを挙げることができる。
【0034】
アート紙の例としては、たとえば、上質紙に白色の塗料が片面あたり20g/m程度塗工され、ロール等によって、高圧が加えられ表面が滑らかになっている紙を挙げることができる。アート紙には、つや消しアート紙、上質アート紙、並アート紙などが含まれる。キャストコート紙の例としては、たとえば、上質紙に白色の塗料が片面あたり少なくとも22g/m塗工され、ロール等によって、高圧が加えられ表面が滑らかになっている紙を挙げることができる。
【0035】
1.3.インク組成物
本実施形態のインクジェット記録方法では、少なくとも第1インク組成物および第2インク組成物をインクジェット記録装置に充填して使用する。
【0036】
1.3.1.第1インク組成物
第1インク組成物は、金属顔料を含有する。
【0037】
1.3.1.(1)金属顔料
第1インク組成物に含有される金属顔料としては、前述のインクジェット記録装置によって第1インク組成物の液滴を吐出できる範囲内で、任意のものを用いることができる。金属顔料は、第1インク組成物が記録媒体の上に付着されたときに、付着物に金属光沢を付与する機能を有する。
【0038】
このような金属顔料としては、たとえば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などの粒子を挙げることができ、これらの単体またはこれらの合金およびこれらの混合物から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。本実施形態で使用される金属顔料は、光を反射する性能およびコストの観点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることがより好ましい。アルミニウム合金を用いる場合、アルミニウムに添加する他の金属元素または非金属元素としては、金属光沢を有するものであれば特に限定されるものではないが、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などを挙げることができ、これらから選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができる。
【0039】
金属顔料は、インク組成物がインクジェット記録装置によって液滴を吐出できる程度の大きさを有する。金属顔料の粒子を球で近似したときの平均粒子径(直径)は、たとえば、0.5〜10μmであることができる。金属顔料の粒子を球で近似したときの平均粒子径(直径)は、より好ましくは、0.5〜5μmである。
【0040】
金属顔料の含有量は、第1インク組成物全質量に対して好ましくは0.1〜5質量%であり、より好ましくは0.25〜4質量%であり、さらに好ましくは0.5〜3質量%であり、特に好ましくは0.7〜2質量%である。
【0041】
金属顔料は、いわゆる平板状粒子であることがさらに好ましい。このような金属顔料を用いると、記録媒体に形成される付着物における光沢度をさらに高めることができる。また、このような金属顔料を用いると、光の反射機能を発現のために必要なインク組成物中の含有量を減らすことができる。したがって、インク組成物の粘度をより小さくすることができ、インク組成物を、よりインクジェット記録方法に適用しやすくなる。
【0042】
ここで、「平板状粒子」とは、略平坦な面(X−Y平面)を有し、かつ、厚みが略均一である粒子をいう。金属顔料が、金属蒸着膜を破砕して作製されたものである場合、略平坦な面と、略均一な厚みの粒子を得ることができる。したがって、この平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZと定義することができる。
【0043】
金属顔料を平板状粒子とする場合、該粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、該平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50は、0.5〜3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たすことが好ましい。50%平均粒子径R50は、0.75〜2μmであることがより好ましい。50%平均粒子径R50が0.5μm未満であると、光を反射する機能が不足することがある。一方、50%平均粒子径R50が3μmを超えると、インクジェット記録における印字安定性が低下することがある。また、前記円相当径の50%平均粒子径R50と厚みZとの関係は、R50/Z>5の条件を満たすことが好ましい。R50/Z>5の条件を満たすと、高い光沢を有する金属層を形成することができる。R50/Zが5以下の場合は、インクジェット記録における印字安定性が低下することがある。
【0044】
平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の最大粒子径Rmaxは、インクジェット記録装置におけるインク組成物の目詰まり防止の観点から、10μm以下であることが好ましい。Rmaxを10μm以下にすることで、インクジェット記録装置のノズル、およびインク流路内に設けられた異物除去用フィルターなどの目詰まりを防止することができる。
【0045】
ここで「円相当径」とは、平板状粒子の略平坦な面(X−Y平面)を、該平板状粒子の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの当該円の直径である。たとえば、平板状粒子の略平坦な面(X−Y平面)が多角形である場合、その多角形の投影面を円に変換して得られた当該円の直径を円相当径という。
【0046】
また、平板状粒子の円相当径の50%平均粒子径R50とは、円相当径に対する粒子の個数(頻度)分布を描いたときに、測定した粒子の総個数の50%部分に相当する円相当径のことを指す。
【0047】
平板状粒子の平面上の長径X、短径Yおよび円相当径は、たとえば、粒子像分析装置を用いて測定することができる。粒子像分析装置としては、たとえば、シスメックス社製のフロー式粒子像分析装置FPIA−2100、FPIA−3000、FPIA−3000Sを利用することができる。
【0048】
上記平板状の金属顔料は、たとえば、シート状基材面に剥離用樹脂層と金属または金属化合物層とが順次積層された構造からなる複合化顔料原体の前記金属または金属化合物層と前記剥離用樹脂層との界面を境界として前記シート状基材より剥離し粉砕し微細化して平板状粒子を得ることによって製造することができる。
【0049】
金属または金属化合物層は、真空蒸着、イオンプレーティングまたはスパッタリング法により形成されることが好ましい。金属または金属化合物層の厚さは、20nm以上100nm以下で形成されることが好ましい。これにより、平均厚みが20nm以上100nm以下の顔料が得られる。20nm以上にすることで、反射性、光沢性等の性能が高くなる。一方、100nm以下にすることで、見かけ比重の増加を抑え、金属顔料のインク組成物中における分散安定性を高めることができる。
【0050】
複合化顔料原体における剥離用樹脂層は、金属または金属化合物のアンダーコート層であるが、シート状基材面との剥離性を向上させるための剥離性層である。この剥離用樹脂層に用いる樹脂としては、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース誘導体、ポリビニルブチラール、アクリル酸重合体または変性ナイロン樹脂が好ましい。
【0051】
剥離用樹脂の1種または2種以上の混合物の溶液を、シート基材に塗布し乾燥させると、剥離用樹脂層を形成することができる。塗布後は粘度調整剤などの添加剤を添加することができる。剥離用樹脂層の塗布は、一般的に用いられているグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布、ディップ塗布、スピンコート法など技術を用いることができる。塗布・乾燥後、必要であれば、カレンダー処理により表面の平滑化を行うことができる。
【0052】
剥離用樹脂層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.5〜50μmであり、より好ましくは1〜10μmである。0.5μm未満では分散樹脂としての量が不足し、50μmを超えるとロール化した場合、金属または金属化合物層との界面で剥離が生じることがある。
【0053】
上記シート基材としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、ナイロン66、ナイロン6などのポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセテートフィルム、ポリイミドフィルムなどの離型性フィルムを挙げることができる。これらのうち、ポリエチレンテレフタレートまたはその共重合体が好ましい。
【0054】
シート基材の厚さは、特に限定されないが、好ましくは10〜150μmである。10μm以上であれば、工程等で取扱い性に問題がなく、150μm以下であれば、柔軟性に富み、ロール化、剥離等に問題がない。
【0055】
また、金属または金属化合物層は、特開2005−68250号公報に例示されるように、保護層で挟まれていてもよい。該保護層としては、酸化ケイ素層、保護用樹脂層が挙げられる。
【0056】
酸化ケイ素層は、酸化ケイ素を含有する層であれば特に制限されないが、ゾル−ゲル法によって、テトラアルコキシシランなどのシリコンアルコキシドまたはその重合体から形成されることが好ましい。シリコンアルコキシドまたはその重合体を溶解したアルコール溶液を塗布し、加熱焼成することにより、酸化ケイ素層の塗膜を形成する。
【0057】
保護用樹脂層としては、分散媒に溶解しない樹脂であれば特に限定されないが、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース誘導体等を挙げることができる。これらのうち、ポリビニルアルコールまたはセルロース誘導体から形成されることが好ましい。
【0058】
保護用樹脂の1種または2種以上の混合物の水溶液を塗布し乾燥させると、保護用樹脂層を形成することができる。塗布液には、粘度調整剤などの添加剤を添加することができる。また、酸化ケイ素および樹脂の塗布は、剥離用樹脂層の塗布と同様の手法により行われる。
【0059】
保護層の厚さは、特に限定されないが、50〜150μmの範囲が好ましい。50nm未満では機械的強度が不足することがあり、150nmを超えると強度が高くなりすぎるため粉砕・分散が困難となることがある。また、150nmを超えると金属または金属化合物層との界面で剥離してしまう場合がある。
【0060】
また、特開2005−68251号公報に例示されるように、前記「保護層」と「金属または金属化合物層」との間に色材層を有していてもよい。
【0061】
色材層は、任意の着色複合顔料を得るために導入するものであり、本実施形態に使用する金属顔料の光の反射機能、金属光沢、光輝性に加え、任意の色調、色相を付与できる色材を含有できるものであれば特に制限されるものではない。この色材層に用いる色材としては、染料、顔料のいずれでもよい。また、染料、顔料としては、公知のものを適宜使用することができる。
【0062】
この場合、色材層に用いられる「顔料」とは、一般的な工学の分野で定義される、天然顔料、合成有機顔料、合成無機顔料等を意味する。
【0063】
この色材層の形成方法としては、特に限定されないが、コーティングにより形成することが好ましい。また、色材層に用いられる色材が顔料の場合は、色材分散用樹脂をさらに含むことが好ましく、該色材分散用樹脂としては、顔料と色材分散用樹脂と必要に応じてその他の添加剤等を溶媒に分散または溶解させ、溶液としてスピンコートで均一な液膜を形成した後、乾燥させて樹脂薄膜として作製されることが好ましい。なお、複合化顔料原体の製造において、上記の色材層と保護層の形成がともにコーティングにより行われることが、作業効率上好ましい。
【0064】
複合化顔料原体としては、剥離用樹脂層と金属または金属化合物層とを順次積層した構造を複数有する層構成も可能である。その際、複数の金属または金属化合物層からなる積層構造の全体の厚み、すなわち、シート状基材とその直上の剥離用樹脂層を除いた、金属または金属化合物層−剥離用樹脂層−金属または金属化合物層、または剥離用樹脂層−金属または金属化合物層の厚みは5000nm以下であることが好ましい。5000nm以下であると、複合化顔料原体をロール状に丸めた場合でも、ひび割れ、剥離を生じ難く、保存性に優れる。また、顔料化した場合も光沢性に優れており好ましいものである。また、シート状基材面の両面に、剥離用樹脂層と金属または金属化合物層とが順次積層された構造も挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
上記シート状基材からの剥離処理法としては、特に限定されないが、複合化顔料原体を液体中に浸浸することによりなされる方法、また液体中に浸浸すると同時に超音波処理を行い、剥離処理と剥離した複合化顔料の粉砕処理を行う方法が好ましい。
【0066】
以上のようにして得られた平板状粒子の形状を有する金属顔料は、剥離用樹脂層が保護コロイドの役割を有し、溶剤中での分散処理を行うだけで安定な分散液を得ることが可能である。また、該金属顔料を本実施形態の第1インク組成物に用いる場合は、剥離用樹脂層由来の樹脂が記録媒体または球状粒子に対する金属顔料の接着性を付与する機能も担うことができる。
【0067】
1.3.1.(2)その他の成分
本実施形態の第1インク組成物は、その他の成分として、色材、分散剤、有機溶媒、重合性化合物、重合開始剤、界面活性剤などを含有することができる。これらのうち、重合性化合物および重合開始剤は、通常組み合わせて含有される。また、これらのうち有機溶媒を含有する場合、そのインク組成物は、いわゆる溶剤系インク組成物となり、重合性化合物および重合開始剤は配合されることはまれで、バインダーとしての樹脂成分が含有される場合がある。また、これらのうち重合性化合物および重合開始剤を含有する場合、そのインク組成物は、エネルギー硬化型インク組成物となり、有機溶媒が配合されることはまれで、重合促進剤や重合禁止剤などが含有される場合がある。
【0068】
以下、第1インク組成物に配合し得るその他の成分について順次説明するが、これらの成分は、記録物における金属光沢を損なわない限り第1インク組成物に自由に含有させることができる。
【0069】
(2−1)色材
第1インク組成物には、色材を含有させることができる。色材としては、染料、顔料のいずれであってもよい。第1インク組成物に色材を含有させることにより、記録媒体上に、金属光沢を有しその上、色彩を有する画像を形成することができる。
【0070】
第1インク組成物に使用可能な染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料、など通常インクジェット記録に使用される各種染料を使用することができる。
【0071】
第1インク組成物に使用可能な顔料としては、無機顔料、有機顔料を挙げることができる。無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。
【0072】
顔料の具体例としては、カーボンブラックとして、C.I.ピグメントブラック7、三菱化学社製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等が、コロンビア社製のRaven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700等が、キャボット社製のRegal 400R、同330R、同660R、Mogul L、同700、Monarch800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等が、デグッサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、Color Black S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同140U、Special Black 6、同5、同4A、同4等が挙げられる。
【0073】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180、185、213、およびCHROMOPHTAL YELLOW LA2(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0074】
また、マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、209、C.I.ピグメントヴァイオレット 19、およびHostaperm Pink E02(クラリアントジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0075】
さらに、シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、60、16、22、およびTGR−SD(DIC株式会社製)が挙げられる。
【0076】
また、第1インク組成物には白色顔料を含有させてもよい。白色顔料としては、たとえば、中空樹脂粒子および金属酸化物粒子から選択される少なくとも1種を挙げることができる。中空樹脂粒子は、特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。例えば、米国特許第4,880,465号や特許第3,562,754号などの明細書に記載されている中空樹脂粒子を好ましく用いることができる。金属酸化物粒子としては、二酸化チタン、酸化亜鉛(亜鉛華)などが挙げられる。
【0077】
第1インク組成物に顔料を含有させる際には、顔料はその平均粒径が10〜200nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50〜150nm程度のものである。第1インク組成物に色材を含有させる場合は色材の添加量は、0.1〜25質量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜15質量%程度の範囲である。
【0078】
また、第1インク組成物に顔料を含有させる際には、これらの顔料と、分散剤または界面活性剤を含有させることができる。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を使用することができる。このような分散剤としては、Lubrizol社製のSOLSPERSE 13940が例示できる。
【0079】
(2−2)有機溶媒
第1インク組成物は、有機溶媒を含有することができる。有機溶媒としては、好ましくは極性有機溶媒、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、またはフッ化アルコールなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、またはシクロヘキサノンなど)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、またはプロピオン酸エチルなど)、またはエーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、またはジオキサンなど)を用いることができる。これらのうち、常温常圧下で液体であるアルキレングリコールエーテルを好ましく用いることができる。
【0080】
アルキレングリコールとしては、メチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、へキシル、2−エチルへキシルの脂肪族、二重結合を有するアリルまたはフェニルの各基をベースとするエチレングリコール系エーテルとプロピレングリコール系エーテルがある。これらのアルキレングリコールは、無色で臭いも少なく、分子内にエーテル基と水酸基を有しているので、アルコール類とエーテル類の両方の特性を兼ね備えており、しかも常温常圧下で液体であるから好ましく用いられる。また、片方の水酸基だけを置換したモノエーテル型と両方の水酸基を置換したジエーテル型があり、これらを複数種組み合わせて用いることができる。
【0081】
第1インク組成物に有機溶媒を含有させる場合は、アルキレングリコールモノエーテル、アルキレングリコールジエーテル、およびラクトンの混合物から選ばれる少なくとも1種を選択すること好ましい。
【0082】
アルキレングリコールモノエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等を挙げることができる。
【0083】
アルキレングリコールジエーテルとしては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等を挙げることができる。
【0084】
また、ラクトンとしては、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等を挙げることができる。
【0085】
第1インク組成物に上記例示した有機溶媒を含有させる場合は、有機溶媒全体の含有量は、第1インク組成物全体に対して、たとえば、50〜99質量%である。
【0086】
第1インク組成物に有機溶媒を含有させる場合は、さらに、バインダーとしての樹脂を含有することができる。このような樹脂としては、たとえば、セルロースアセテート(CA)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースプロピオネート(CP)、セルローストリアセテート(CAT)などのセルロースエステル樹脂が例示できる。
【0087】
第1インク組成物にバインダー樹脂が含有される場合は、バインダー樹脂は、第1インク組成物が記録媒体の上に付着されたときに、付着物を摩擦等から保護する機能を発揮することができる。
【0088】
(2−3)重合性化合物
第1インク組成物は、重合性化合物および重合開始剤を含有することができる。重合性化合物は、カチオン重合性および/またはラジカル重合性を有することができる。重合開始剤は、カチオン重合およびラジカル重合のための開始剤であり、重合性化合物の種類によって適宜選択される。これらの化合物が含有されると、各インク組成物が記録媒体に付着した付着物の耐擦過性などを向上させることができる。重合開始剤については後述する。重合性化合物の性状としては、モノマー状、オリゴマー状、直鎖状ポリマー状、樹枝状オリゴマー状の種を問わず使用することができる。
【0089】
第1インク組成物に使用可能なカチオン重合性化合物としては、カチオン重合性の官能基を有する化合物が挙げられる。カチオン重合性の官能基としては、エポキシ環(芳香族エポキシ基、脂環式エポキシ基の構造を有する基など)、オキセタン環、オキソラン環、ジオキソラン環、およびビニルエーテル構造、およびこれらの構造を有する官能基が挙げられる。エポキシ環については、芳香族系および脂環系が硬化速度に優れるという観点から好ましく、特に脂環式エポキシ環が好ましい。また、重合性化合物としては、カチオン重合性の官能基を複数有することが、反応速度、硬化性の観点からより好ましい。
【0090】
カチオン重合性化合物としては、開始種(酸)により重合反応を生じる各種公知のカチオン重合性の化合物が挙げられる。カチオン重合性化合物としては、たとえば、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物等が挙げられる。
【0091】
エポキシ化合物としては、単官能または多官能の芳香族エポキシド、脂環式エポキシドなどが挙げられ、硬化速度に優れるという観点から特に脂環式エポキシドが好ましい。
【0092】
ビニルエーテル化合物としては、単官能または多官能のビニルエーテルが挙げられ、硬化速度に優れるという観点からジまたはトリビニルエーテル化合物が好ましく、特にジビニルエーテル化合物が好ましい。
【0093】
オキセタン化合物としては、単官能または多官能のオキセタン環を有する化合物が挙げられ、たとえば、特開2001−220526、同2001−310937、同2003−341217の各公報に記載されているオキセタン化合物類を例示することができる。
【0094】
また、オキセタン環を有する化合物としては、多官能の化合物が好ましい。このような化合物を使用することで、インク組成物の粘度をハンドリング性の良好な範囲に維持することが容易となり、また、硬化後のインクの被記録媒体との高い密着性を得ることができる。このようなオキセタン環を有する化合物については、前記特開2003−341217号公報、段落番号〔0021〕乃至〔0084〕に詳細に記載され、ここに記載の化合物は第1インク組成物にも好適に使用しうる。
【0095】
第1インク組成物に使用可能なラジカル重合性化合物としては、ラジカル重合性の官能基を有する化合物が挙げられる。ラジカル重合性の官能基としては、二重結合を構造中に有する官能基が挙げられ、たとえば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基、芳香族ビニル基、アリル基、N−ビニル基、ビニルエステル基(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の構造を有する基など)、アリルエステル基(酢酸アリルの構造を有する基など)、ハロゲン含有ビニル基(塩化ビニリデン、塩化ビニルの構造を有する基など)、ビニルエーテル構造を有する基(メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、メトキシビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル構造を有する基など)、シアン化ビニル基((メタ)アクリロニトリルの構造を有する基など)などが挙げられる。なお、本明細書において、「アクリレート」、「メタクリレート」の双方あるいはいずれかを指す場合「(メタ)アクリレート」と、「アクリル」、「メタクリル」の双方あるいはいずれかを指す場合「(メタ)アクリル」と、それぞれ記載することがある。
【0096】
上記例示したラジカル重合性の官能基の中でも、エチレン性不飽和二重結合を含む官能基は、重合性が高く、印刷面の硬化速度や硬化性を向上させるためにさらに好ましい。また、このような基は、酸素阻害を受けにくいため、比較的低エネルギーでの硬化が可能となるためより好ましい。エチレン性不飽和二重結合を含む官能基としては、ビニル基やアリル基が挙げられる。また、ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合性の官能基を複数有することが、反応速度、硬化性の観点からより好ましい。
【0097】
ラジカル重合性化合物としては、開始種(ラジカル)により重合反応を生じる各種公知のラジカル重合性の化合物が挙げられる。ラジカル重合性化合物としては、たとえば、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、芳香族ビニル類、アリル基を有する化合物類、およびN−ビニル基を有する化合物類等が挙げられる。さらにラジカル重合性化合物としては、ビニルエステル類[酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなど]、アリルエステル類[酢酸アリル等]、ハロゲン含有単量体[塩化ビニリデン、塩化ビニルなど]、ビニルエーテル類[メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、メトキシビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル等]、シアン化ビニル[(メタ)アクリロニトリル等]、オレフィン類[エチレン、プロピレン等]などが挙げられる。
【0098】
また、ラジカル重合性化合物として、樹枝状オリゴマーを用いることもできる。樹枝状オリゴマーの例としては、多官能(メタ)アクリレート化合物と多価メルカプト化合物とが、マイケル付加(カルボニル基に関しβ位)により重合したものが挙げられる。樹枝状オリゴマーは、ラジカル重合のための十分量の官能基を有することが好ましい。そのため、樹枝状オリゴマーの分子量は、炭素−炭素二重結合1モル当たりの分子量が100ないし100000の範囲にあることが好ましい。また、樹枝状オリゴマーの好ましい重量平均分子量は、1000ないし60000であり、より好ましくは1500ないし60000、特に好ましくは10000ないし60000である。
【0099】
第1インク組成物に使用可能な樹枝状オリゴマーの具体的な例としては、商品名「STAR501」で大阪有機化学工業株式会社から入手可能な樹枝状オリゴマーを挙げることができる。第1インク組成物に樹枝状オリゴマーを含有させる場合は、その含有量は、第1インク組成物に対して、1質量%ないし50質量%、より好ましくは5質量%ないし30質量%である。
【0100】
重合性化合物は、重合の反応速度や、インク物性、硬化膜物性等を調整する目的で1種または複数を混合して用いることができる。
【0101】
また、第1インク組成物に使用可能な重合性化合物としては、カチオン重合性の官能基を有する化合物に、ラジカル重合性の官能基を導入したもの、および、ラジカル重合性の官能基を有する化合物にカチオン重合性の官能基を導入したものであってもよい。
【0102】
第1インク組成物に重合性化合物を含有させる場合、重合性化合物の含有量は、第1インク組成物全体に対し50〜99質量%が適当であり好ましくは60〜98質量%の範囲である。
【0103】
(2−4)重合開始剤
第1インク組成物に重合性化合物を含有させる場合は、適宜重合開始剤を含有させることができる。重合開始剤としてはラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤が挙げられ、エネルギーによって各重合の開始種を生じることができるものが挙げられる。ここで、エネルギーとは、熱および/またはエネルギー線(電磁波、光、粒子線など)のことを指す。
【0104】
エネルギーによってラジカルを発生するラジカル重合開始剤としては、当業者間で公知のものを制限なく使用でき、具体的には、例えば、Bruce M. Monroeら著、Chemical Review,93,435(1993)や、R.S.Davidson著、Journal of Photochemistry and biology A:Chemistry,73.81(1993)や、J.P.Faussier“Photoinitiated Polymerization−Theory and Applications”:Rapra Review vol.9,Report,Rapra Technology(1998)や、M.Tsunooka et al.,Prog.Polym.Sci.,21,1(1996)に多く記載されている。さらには、F.D.Saeva,Topics in Current Chemistry,156,59(1990)、G.G.Maslak,Topics in Current Chemistry,168,1(1993)、H.B.Shuster et al,JACS,112,6329(1990)、I.D.F.Eaton et al,JACS,102,3298(1980)等に記載されているような、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、酸化的もしくは還元的に結合解裂を生じる化合物群も知られる。
【0105】
好ましいラジカル重合開始剤としては(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)ボレート化合物、(g)アジニウム化合物、(h)メタロセン化合物、(i)活性エステル化合物、(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物、(k)アシルフォスフィンオキサイド系の化合物等が挙げられる。
【0106】
カチオン重合開始剤としては、たとえば、過酸化ベンゾイル(BPO)、過硫酸塩等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、およびイソフタル酸ジヒドラジド等を挙げることができる。また、光カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族スルホニウム塩系、芳香族ヨードニウム塩系、芳香族ジアゾニウム塩系、ピリジウム塩系および芳香族ホスホニウム塩系等のオニウム塩系の光カチオン重合開始剤や、鉄アレーン錯体およびスルホン酸エステル等の非イオン系の化合物を挙げることができる。熱カチオン重合開始剤としては、硫酸、過塩素酸、トリクロロ酢酸等のプロトン酸、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、塩化第二鉄等のルイス酸、ヨウ素、トリフェニルヘキサクロロアンチモン酸塩等のその他のカチオン発生化合物等が挙げられる。
【0107】
第1インク組成物に上述の重合性化合物および重合開始剤が含有される場合は、該インク組成物は、記録媒体に付着された後、エネルギーによって硬化されることができる。
【0108】
また、第1インク組成物に上述の重合性化合物および重合開始剤が含有される場合は、さらにラジカル重合禁止剤を含有してもよい。これにより、第1インク組成物の保存安定性を向上させることができる。なお、ラジカル重合禁止剤としては、Irgastab UV−10、UV−22(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0109】
第1インク組成物に上述の重合性化合物および重合開始剤が含有される場合は、さらに重合促進剤が含まれていても良い。重合促進剤としては、特に限定されないが、Darocur EHA、EDB(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0110】
第1インク組成物に上述の重合性化合物および重合開始剤が含有される場合は、これらの硬化物は、第1インク組成物が記録媒体の上に付着されたときに、付着物を摩擦等から保護する機能を発揮することができる。
【0111】
(2−5)界面活性剤
第1インク組成物は、界面活性剤を含有することができる。界面活性剤としては、たとえば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンが挙げられ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンなども挙げることができる。
【0112】
第1インク組成物には、添加剤としてノニオン系界面活性剤を含有させることができる。ノニオン系界面活性剤を添加することによって、第1インク組成物の記録媒体への浸透性が優れたものになり、印刷時に該インク組成物を記録媒体上に速やかに定着させることができる。
【0113】
ノニオン界面活性剤としては、特に限定されないが、アセチレングリコール系界面活性剤を例示することができる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、たとえば、BYK−UV3570、BYK−UV3500、BYK−UV3510、3530、BYK-347,BYK−348(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を例示することができる。
【0114】
第1インク組成物に界面活性剤が含有される場合は、その含有量は、それぞれのインク組成物全体に対して、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.2〜2質量%である。第1インク組成物に界面活性剤を0.1質量%以上含有させることによって、記録媒体に対する該インク組成物の浸透性を高くすることができる。また第1インク組成物中の界面活性剤の含有量を5質量%以下にすることにより、記録媒体上にインク組成物によって形成された画像がにじみにくいという効果が得られる。
【0115】
(2−6)その他の添加剤
第1インク組成物は、一般的なインクに使用し得る公知公用の成分を含有することができる。そのような成分としては、たとえば、湿潤剤、浸透溶剤、pH調整剤、防腐剤、防かび剤等が挙げられる。またさらに、第1インク組成物は、必要に応じてレベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類を含有することができる。
【0116】
第1インク組成物には、さらに酸化防止剤、紫外線吸収剤などが含有されてもよい。酸化防止剤としては、2,3−ブチル−4−オキシアニソール(BHA)、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)等を挙げることができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等を挙げることができる。
【0117】
1.3.2.第2インク組成物
第2インク組成物は、球状粒子、および第1インク組成物と同じ金属顔料を含有する。第2インク組成物に含有される金属顔料は、第1インク組成物に含有される金属顔料と共通である。これにより、金属顔料の種類を変更することなく、第1インク組成物および第2インク組成物の両者をそれぞれ製造することができる。
【0118】
1.3.2.(1)金属顔料
第2インク組成物に含有される金属顔料は、第1インク組成物の「1.3.1.(1)金属顔料」項で述べたものと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0119】
1.3.2.(2)球状粒子
第2インク組成物に含有される球状粒子の機能の1つは、第2インク組成物が記録媒体の上に付着されたときに、第2インク組成物に含まれている金属顔料によって形成される金属光沢面に、凹凸を付与することが挙げられる。これにより、第2インク組成物は、第1インク組成物(球状粒子を含有しない)によって形成される金属光沢面よりも光沢度の小さい金属光沢面を形成することができる。
【0120】
球状粒子は、該粒子を球で近似したときの平均粒子径(直径)が1〜3μmである。この範囲の平均直径を有することにより、インクジェット記録装置によって、第2インク組成物の液滴を吐出することができる。球状粒子の平均直径は、更に好ましくは1.5〜2.5μmである。
【0121】
第2インク組成物における球状粒子の含有量は、第2インク組成物に含有される金属顔料の質量に対して、好ましい質量比の範囲を有する。質量比は、球状粒子:金属顔料=1:20〜5:1、好ましくは1:15〜10:3、より好ましくは1:12〜3:1である。球状粒子の含有量が金属顔料の含有量に対して相対的に大きくなると、乱反射成分の大きいすなわち光沢度の小さい金属光沢面を形成することができ、逆に、球状粒子の含有量が金属顔料の含有量に対して相対的に小さくなると、乱反射成分の小さいすなわち光沢度の大きい金属光沢面を形成することができる。
【0122】
球状粒子は、球に近い形状を有する。球状粒子の形状は、たとえば、次の式で示される真球指数Sで評価することができる。
【0123】
真球指数S=粒子の最小半径rmin/粒子の最大半径rmax
ここで、rminは、粒子の重心から粒子の表面までの最小の距離を指し、rmaxは、粒子の重心から粒子の表面までの最大の距離を指す。なお、この場合、粒子の重心は、粒子の外接球の中心としてもよい。
【0124】
球状粒子は、およそ球形であれば、第2インク組成物が記録媒体に付着された際の付着物に乱反射性を有する金属光沢面を形成することができるが、形状が球に近づくほど、より質感の高い乱反射性を有する金属光沢面を形成することができる。球状粒子の形状を上記で定義した真球指数Sで表す場合は、球状粒子の真球指数Sは、0.8〜1が好ましく、より好ましくは0.9〜1である。
【0125】
なお、球状粒子は、光学的に透明であってもよい。ここで、光学的に透明とは、その材質で形成された平板が光学的に透明となることを指す。したがって、光学的に透明とは、その材質で形成された平板に紫外光線、可視光線、および赤外光線などの光線が入射したときに、少なくとも一部の波長域の光線において透過率が高いことを指す。たとえば、その材質で形成された平板に入射する光線が可視光線である場合は、光学的に透明とは、無色透明または有色透明であることを指す。また本実施形態では、球状粒子の材質中に光の散乱体が含まれていてもよく、光学的に透明とは、その材質で形成された平板に入射する光線が可視光線である場合、無色半透明または有色半透明であることを含む。
【0126】
球状粒子の材質は、特に限定されない。本実施形態の球状粒子の材質の具体例としては、ガラス、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂等が挙げられ、それぞれ、着色されていてもいなくてもよい。着色した材質を選択する場合は、形成される記録物に再帰反射性および色彩を付与することができる。
【0127】
第2インク組成物に含有される球状粒子は、たとえば、所望の材質の前駆体を、適当な溶媒に分散させ、懸濁重合、エマルション重合、乳化重合などの方法によって重合させ、必要に応じて溶媒を除去して得ることができる。
【0128】
第2インク組成物に含有される球状粒子の市販品としては、たとえば、日硝産業株式会社から、商品名トスパール120,130,145,2000B、VC99−A8808等として入手可能な粒子を例示できる。
【0129】
1.3.2.(3)その他の成分
本実施形態の第2インク組成物は、その他の成分として、色材、分散剤、有機溶媒、重合性化合物、重合開始剤、界面活性剤などを含有することができる。第2インク組成物に含有することができるその他の成分は、第1インク組成物に配合し得るその他の成分と同様であり、1.3.1.(2−1)ないし1.3.1.(2−6)に説明した内容の第1インク組成物の文言を第2インク組成物に読み替えることとし、詳細な説明を省略する。
【0130】
1.3.3.第3インク組成物
本実施形態のインクジェット記録方法では、少なくとも第1インク組成物および第2インク組成物をインクジェット記録装置に充填して行うが、さらに、第3インク組成物をインクジェット記録装置に充填して行うことができる。
【0131】
第3インク組成物は、金属顔料および球状粒子を含有する。第3インク組成物は、第1インク組成物と同じ金属顔料、および第2インク組成物と同じ球状粒子を含有する。これにより、金属顔料および球状粒子の種類を変更することなく、第1インク組成物、第2インク組成物、および第3インク組成物をそれぞれ製造することができる。第3インク組成物に含有される金属顔料は、第1インク組成物の「1.3.1.(1)金属顔料」項で述べたものと同様であるので、詳細な説明を省略する。第3インク組成物に含有される球状粒子は、第1インク組成物の「1.3.2.(2)球状粒子」項で述べたものと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0132】
第3インク組成物に含有される球状粒子の含有量は、第2インク組成物に含有される球状粒子の含有量と異なる。このようにすることで、第2インク組成物によって形成される金属光沢面とは光沢度の異なる金属光沢面を形成することができる。すなわち、第1ないし第3インク組成物を用いて記録することにより、一回の記録で、記録媒体上に光沢度の異なる3種類の金属光沢面を形成することができる。
【0133】
1.3.4.その他
上記ではインクジェット記録方法に用いるインク組成物として、第1ないし第3インク組成物について説明した。本発明のインクジェット記録方法では、これに限定されず、使用するインクジェット記録装置に充填することができる範囲で、さらに、金属顔料および球状粒子を含有する他のインク組成物を使用することができる。これにより、金属光沢面の光沢度の段階を増やすことができる。なお、この場合、各インク組成物における球状粒子の含有量は、互いに異なるものとすることができる。
【0134】
1.3.5.各インク組成物の調製方法
本実施形態における各インク組成物の調製方法としては、特に限定されない。各インク組成物は、たとえば、各インク組成物に含有させる成分を充分に混合してできるだけ均一に溶解した後、孔径5μmのメンブランフィルターで加圧濾過し、必要に応じて得られた溶液を真空ポンプを用いて脱気処理して調製する方法が例示できる。
【0135】
1.3.6.インク組成物の物性
本実施形態の各インク組成物は、インクジェット記録装置に適用されるインクジェット記録用インク組成物であるため、その粘度は、20℃で1〜20mPa・sであることが好ましい。また、各インク組成物の20℃における粘度は、好ましくは2〜15mPa・sであり、より好ましくは3〜12mPa・sである。各インク組成物の粘度が上記範囲内にあると、インクジェット記録装置にさらに好適に適用でき、ノズルから組成物が適量吐出され、組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができる。各インク組成物の粘度が上記範囲内であれば、上述したインクジェット記録装置によって、インク組成物を吐出し、記録媒体上にインク組成物を付着させるときに、インク組成物の吐出安定性を確保することができる。各インク組成物の粘度は、各成分の配合量によって調節することができる。
【0136】
1.4.作用効果
以上説明したインクジェット記録方法によれば、インクジェット記録装置を用いて、少なくとも第1インク組成物および第2インク組成物のそれぞれの液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて画像の記録が行われる。そして、第1インク組成物は、金属顔料を含有し、第2インク組成物は、前記金属顔料および球状粒子を含有する。そのため、記録媒体上に、異なる光沢度を有する金属光沢面を、一回の記録によって容易に形成することができる。
【0137】
2.記録物
本実施形態の記録物は、上述のインクジェット記録方法によって記録媒体に画像が記録されたものである。本実施形態の記録物は、光沢度が互いに異なる金属光沢面を有する。
【0138】
ここで、金属光沢面の光沢度とは、対象に光が入射したときに、その光が正反射する度合いのことを指す。金属光沢面の光沢度は、たとえば、次の方法によって評価することができる。ゴニオフォトメーターを用いて、45°の入射角で画像に対して光源から光を測定点に入射し、測定点から直上(入射角0°)の方向に反射(乱反射)される光を、検出器で検出する。ここで、入射角45°とは、記録面の鉛直方向を0°にとったときの入射光の軸の傾きが45°であることを指す。この場合、検出器は、金属光沢面(測定点)によって、乱反射した光の一部を検出することになる。したがって、測定点の光沢度が高いほど、検出器が検出する乱反射光の強度は小さくなる。また逆に、検出器によって検出された乱反射光の強度が大きいほど、測定点の光沢度は、小さいということができる。検出器で検出される光の強度は、たとえば、XYZ表色系の明度であるY成分によって数値化することができる。
【0139】
3.インクセット
本実施形態にかかるインクセットとして、「1.3.インク組成物」の項で述べた第1インク組成物および第2インク組成物を備えたものを例示する。
【0140】
インクセットは、第1インク組成物および第2インク組成物を備え、さらに一または複数の他のインク組成物(第3インク組成物等)を含むインクを備えたインクセットとしてもよい。インクセットに備えることができる他のインク組成物としては、シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタ、ダークイエロー、レッド、グリーン、ブルー、オレンジ、バイオレット等のカラーインク組成物、ブラックインク組成物、ライトブラックインク組成物等が挙げられる。
【0141】
4.インクカートリッジおよびインクジェット記録装置
本実施形態にかかるインクカートリッジとして、上記のインクセットを備えたものを例示する。これによれば、上記のインク組成物を備えたインクセットを容易に運搬することができる。本実施形態にかかるインクジェット記録装置は、インクカートリッジを備えたものであり、たとえば、「1.1.インクジェット記録装置」の項で述べたインクジェット記録装置を例示できる。
【0142】
5.実験例
以下、本発明を実験例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0143】
5.1.インク組成物
5.1.1.金属顔料分散液の調製
膜厚100μmのPETフィルム上に、樹脂層塗工液(CAB樹脂[ブチル化率50〜54%、分子量16,000]をジエチレングリコールジエチルエーテル中に10重量%含む。)をバーコート法によって均一に塗布し、60℃、10分間乾燥することで、PETフィルム上に樹脂層薄膜を形成した。
【0144】
次に、真空蒸着装置(株式会社真空デバイス製VE−1010型真空蒸着装置)を用いて、上記の樹脂層薄膜上に平均膜厚20nmのアルミニウム蒸着層を形成した。この膜厚における紫外線透過率は、波長365nmにおいて8%、波長395nmにおいて0.8%であった。
【0145】
次に、上記方法にて形成した積層体を、エチレングリコールモノアリルエーテル中に浸漬し、VS−150型超音波分散機(株式会社アズワン製)を用いて、PETフィルムからアルミニウム蒸着層を剥離させた。さらに数枚のアルミニウム蒸着層を有するPETフィルムを同様に浸漬剥離し濃縮させ、濃縮に伴い超音波の強度を調整しながらアルミニウムを粉砕した。このとき同時に、アルミニウム蒸着層は、微細化され、溶媒中に分散された。この超音波分散処理は、12時間行われ、金属顔料分散液が調製された。
【0146】
得られた金属顔料分散液を、開き目5μmのSUSメッシュフィルターにてろ過処理を行い、粗大粒子を除去した。次いで、ろ液を丸底フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターを用いて過剰のエチレングリコールモノアリルエーテルを留去した。これにより、メタリック顔料分散液を濃縮し、熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製EXSTAR−6000TG/DTA)を用いて金属顔料の濃度を求め、金属顔料分散液の濃度調整を行い、5質量%の濃度の金属顔料分散液を得た。
【0147】
そして、粒子径・粒度分布測定装置(シスメックス社製FPIA−3000S)を用いて金属顔料のX(長径)Y(短径)平面の円相当径の50%平均粒子径R50を測定し、さらに、得られたR50とZ(厚み)の測定値に基づき、R50/Zを算出した。その結果、金属顔料は、R50=1.03μm、R50/Z=51.5の値を有していた。
【0148】
5.1.2.実験例のインク組成物の調製
上記方法にて調製した金属顔料分散液に、有機溶媒として、ジエチレングリコールジエチルエーテル(日本乳化剤株式会社製)、γ−ブチロラクトン(関東化学株式会社製)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(日本乳化剤株式会社製)、および、球状粒子として、日硝産業株式会社から入手した、商品名トスパール120(平均直径=2μm)を、表1に示す配合量となるように添加し、十分に混合・撹拌して、各実験例のインク組成物とした。実験例1は、球状粒子を含有しないインク組成物、実験例10は、金属顔料を含有ないインク組成物とし、いずれもそれ以外の条件は他の実験例と同じにして調製した。
【0149】
【表1】

【0150】
5.2.記録媒体
実験例に用いた記録媒体は、ローランドD.G.社から入手した平均表面粗さRaが0.89μmのSPVC−1270Tである。
【0151】
5.3.評価用試料および評価
実験例の評価用試料は、以下のように作成した。
【0152】
セイコーエプソン株式会社製インクジェットプリンタPX−G5100のマットブラック列に、それぞれのインク組成物を導入した。そして、記録媒体に該インク組成物を印刷した。印刷は、10cm×10cmのベタ印刷を行い。インク使用量は、0.9mg/cmであった。
【0153】
そして、印刷部の光沢度を、ゴニオフォトメーターにより測定を行って下記式(1)に従った乱反射成分Dによって評価した。乱反射成分Dの値を表1に併記した。なお、乱反射成分Dの値が大きいほど、光沢度は小さくなる。
【0154】
D=Yd/Ys ・・・(1)
【0155】
(ただし、式中、YdおよびYsは、それぞれ、光が画像に対して入射角45°で入射しているときの反射光における乱反射成分および正反射成分の明度を指す。)
具体的には、各実験例のインク組成物の評価用試料をゴニオフォトメーターに設置し、光源から試料の金属光沢面(ベタ印刷部分)に入射角45°で光を入射させた。その状態で、検出器を測定点の直上(0°)の方向に移動して、試料から反射された光を検出した。検出された光は、XYZ表色系の明度であるY成分によって数値化し、乱反射成分Dの明度Ydとした。一方、光源から試料の金属光沢面(ベタ印刷部分)に入射角45°で光を入射させた状態で、入射軸の反対側(−45°)の方向に移動して、試料から反射された正反射光を検出した。検出された正反射光は、XYZ表色系の明度であるY成分によって数値化し、正反射成分の明度Ysとした。このようにして得られたYdおよびYsを用いてDを算出した。ゴニオフォトメーターは、日本電色工業株式会社製、型番GC−5000を用いた。
【0156】
5.4.評価結果
表1をみると、金属顔料を含有し、球状粒子の含有量を変化させた場合(実験例1〜9)、球状粒子の含有量が増加するに従って、乱反射成分Dが増加していることが分かった。実験例1〜9は、球状粒子の含有量は、金属顔料の含有量に対して、質量比(球状粒子:金属顔料)が、1:15〜10:3まで変化させた例である。球状粒子の含有量が、この範囲にあれば、乱反射成分Dの値は連続的に変化していることが判明した。図1は、これらの結果を、横軸に球状粒子の含有量、縦軸に乱反射成分Dの値を採ってプロットしたグラフである。図1のグラフには、各記録物の鏡面光沢度を合わせてプロットした。鏡面光沢度の値は、日本工業規格(JIS)Z8741:1997に従って測定した60°鏡面光沢度である。測定に用いた装置は、日本電色工業株式会社製GlossMeter型番VGP5000である。
【0157】
図1を見ると、乱反射成分Dの値と60°鏡面光沢度とは、負の相関関係を示しており、球状粒子の含有量に対して、光沢度が連続的に変化していることが判明した。
【0158】
一方、金属顔料を含まない実験例10の試料については、目視により評価したところ、金属光沢を有しておらず、測定においても、乱反射成分Dおよび60°鏡面光沢度ともに有意義な値を得ることができなかった。
【0159】
以上の実験例の結果から、金属顔料を含有するインク組成物に対して球状粒子の濃度を変化させて含有させたインク組成物によって、記録物の金属光沢度を容易にかつ任意に変化させることができることが分かった。したがって、本発明のインクジェット記録方法は、このようなインク組成物の任意に組み合わせることによって、記録媒体上に、一回の記録で、異なる光沢度を有する金属光沢面を有する画像を容易に形成できることが判明した。
【0160】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。たとえば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(たとえば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】実験例の試料の乱反射成分および鏡面光沢度をプロットしたグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録装置を用いて、複数種のインク組成物のそれぞれの液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて画像の記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記インクジェット記録装置には、少なくとも、第1インク組成物および第2インク組成物が備えられ、
前記第1インク組成物は、金属顔料を含有し、
前記第2インク組成物は、前記金属顔料および球状粒子を含有し、
前記球状粒子の平均直径は、1〜3μmである、インクジェット記録方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記インクジェット記録装置には、さらに、前記金属顔料および前記球状粒子を含有する第3インク組成物が備えられ、
前記第3インク組成物における前記球状粒子の含有量は、前記第2インク組成物における前記球状粒子の含有量と異なる、インクジェット記録方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記第2インク組成物および前記第3インク組成物に含有される前記球状粒子および前記金属顔料の質量比は、いずれも1:15〜10:3である、インクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記記録媒体の記録面の平均表面粗さRaは、0.5μm以下である、インクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記第1インク組成物、前記第2インク組成物、および前記第3インク組成物に含有される前記金属顔料の各前記インク組成物に対する含有量は、それぞれ0.5〜3質量%である、インクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
前記金属顔料は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状粒子であって、
該平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、
該平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径において、50%平均粒子径R50は、0.5〜3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たす、インクジェット記録方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項において、
前記第1ないし第3インク組成物のうち、少なくとも1つは、さらに、色材を含有する、インクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項において、
前記第1ないし第3インク組成物の20℃における粘度は、いずれも2〜15mPa・sである、インクジェット記録方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法によって、前記記録媒体に前記画像が記録された記録物。
【請求項10】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法に用いられる複数種の前記インク組成物を有する、インクセット。
【請求項11】
請求項10に記載のインクセットを備えた、インクカートリッジ。
【請求項12】
請求項11に記載のインクカートリッジを備えた、インクジェット記録装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−149484(P2010−149484A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333095(P2008−333095)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】