説明

インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置

【課題】 インクの間欠吐出安定性を向上するために記録ヘッドと記録媒体との間の加湿を行う場合においても、二次色画像の耐ブロンズ性の低下を抑制することができるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】 インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出してインク受容層を有する記録媒体に画像を形成する工程を有するインクジェット記録方法であって、さらに、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間を加湿する工程を有し、前記画像形成工程に、特定の染料を含有するシアンインク、及び、特定の染料を含有するマゼンタインク、を少なくとも用いることを特徴とするインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法により得られる画像の高画質化により、画像の出力形態が銀塩方式からインクジェット方式へと急激にシフトしている。このような状況のもとで、画像の耐オゾン性や耐ブロンズ性などの堅牢性をより高いレベルとすることが要求されている。例えば、フタロシアニン骨格の最外核の芳香環を含窒素複素芳香環としたアザフタロシアニン染料により、優れたレベルの耐オゾン性が達成されることが記載されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、インクジェット記録方法では高画質化を図るためにインク滴の極小化が進んでおり、信頼性をより一層高めることも要求されている。近年、特に重要とされている信頼性の課題のひとつとして、間欠吐出安定性が挙げられる。インクジェット記録方法で画像を形成する際、記録ヘッドの回復動作を行わず、かつ、記録ヘッドのある吐出口から一定時間インクが吐出されない状態が続くと、該記録ヘッドの吐出口からインク中の水分などの蒸発が進行することになる。その後、前記吐出口から次の1滴目のインクを吐出させようとすると、インクの吐出が不安定になる場合や吐出ができない場合があり、その結果として、画像が乱れてしまうことがある。信頼性の課題に対しては、例えば、記録ヘッドと記録媒体との間を加湿することにより、インクとなじみにくい材質にも記録可能で、インク滴からの水分の飛散や記録ヘッドの目詰まりを抑制できる記録方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2007/091631号パンフレット
【特許文献2】特開平11−268256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討の結果、インク受容層を有する記録媒体に形成した画像の耐オゾン性や耐ブロンズ性は、上記特許文献1に記載されたアザフタロシアニン染料を用いることで向上できることがわかった。しかし、前記染料を含有するインクを用い、加湿工程を有するインクジェット記録方法により画像を形成すると、マゼンタ及びシアンの各インクで形成する二次色画像の耐ブロンズ性が低下するという新たな課題が生じることがわかった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、インクの間欠吐出安定性を向上するために記録ヘッドと記録媒体との間の加湿を行う場合においても、二次色画像の耐ブロンズ性の低下を抑制することができるインクジェット記録方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記の顕著な効果が得られるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出してインク受容層を有する記録媒体に画像を形成する工程を有するインクジェット記録方法であって、さらに、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間を加湿する工程を有し、前記画像形成工程に、下記一般式(I)で表される染料を含有するシアンインク、及び、下記一般式(II)で表される染料を含有するマゼンタインク、を少なくとも用いることを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
(一般式(I)中、A、B、C、及びDはそれぞれ独立に芳香性を有する6員環であり、かつ、A、B、C、及びDの少なくともひとつはピリジン環又はピラジン環である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。Eはアルキレン基である。Xは、スルホ置換アニリノ基、カルボキシ置換アニリノ基、又はホスホノ置換アニリノ基であり、該置換アニリノ基はさらに、スルホン酸基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アセチルアミノ基、ウレイド基、アルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アルキルスルホニル基、及びアルキルチオ基からなる群から選ばれる少なくともひとつの置換基を1乃至4個有してもよい。Yはヒドロキシ基又はアミノ基である。a、b、及びcは、0≦a≦2.0、0≦b≦3.0、0.1≦c≦3.0であり、かつa+b+c=1.0乃至4.0である。)
【0010】
【化2】

【0011】
(一般式(II)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立にアルキル基である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インクの間欠吐出安定性を向上するために記録ヘッドと記録媒体との間の加湿を行う場合においても、二次色画像の耐ブロンズ性の低下を抑制することができるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】インクジェット記録装置の主要部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好適な実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。以下、一般式(I)で表される染料及び一般式(II)で表される染料を、それぞれ一般式(I)の染料及び一般式(II)の染料と呼ぶことがある。
【0015】
ブロンズ現象は、記録媒体のインク受容層において染料が凝集し積層することで発生し、色材の観点からは、耐オゾン性に優れるフタロシアニン染料において顕著であることが知られている。本発明で使用する、後述する一般式(I)の染料も凝集性を高めることで耐オゾン性を向上させているため、ブロンズ現象が生じやすい。また、間欠吐出安定性を向上するために記録ヘッドと記録媒体との間を加湿する場合、記録媒体においてはインク受容層の吸水が生じる。このため、記録媒体へのインクの浸透が遅くなり、結果として、一般式(I)の染料は記録媒体の表面近傍で凝集し易くなり、ブロンズ現象がより生じやすくなる。シアンインクの付与量を同じとして、一次色画像と二次色画像をそれぞれ形成する場合、後者のほうが単位面積あたりのインクの総付与量はより多くなるため、記録媒体へのインクの浸透がさらに遅くなり、ブロンズ現象の発生が特に顕著となる。
【0016】
本発明者らの検討の結果、一般式(I)の染料を含有するシアンインクと併用するマゼンタインクに、後述する一般式(II)の染料を含有させることで、加湿を行う場合においても、二次色画像における耐ブロンズ性を向上できることがわかった。本発明者らはこの理由を以下のように推測している。
【0017】
一般式(II)の染料は、記録媒体のインク受容層への定着性が高い。このため、一般式(II)の染料を含有するインクが記録媒体に付与されると、その高い定着性のために記録媒体のインク受容層の表面近傍に速やかに定着する。このようなマゼンタインクと一般式(I)の染料を含有するシアンインクとを用いて形成する二次色画像においては、一般式(I)の染料の間に一般式(II)の染料が入り込むことで、ブロンズ現象の発生が抑制されるものと考えられる。なお、このとき、一般式(II)の染料は、一般式(I)の染料の凝集体の間に入り込んで存在するので、一般式(I)の染料の凝集を阻害するわけではなく、一般式(I)の染料が有する優れた耐オゾン性を損なうことはないと考えられる。
【0018】
<インクジェット記録方法>
本発明の特徴は、上述の複数のインクを用いて、インク受容層を有する記録媒体に画像を形成する画像形成工程を行う際に、記録ヘッドと記録媒体との間を加湿する工程を行うことにある。
【0019】
[画像形成工程]
本発明においては、インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出してインク受容層を有する記録媒体に画像を形成する画像形成工程を行う。この画像形成工程では、一般式(I)で表される染料を含有するシアンインク、及び、下記一般式(II)で表される染料を含有するマゼンタインク、を少なくとも用いることを要する。そして、前記シアンインク及び前記マゼンタインクを、記録媒体において少なくとも一部の領域で重なるよう付与して、二次色領域を含む画像を形成することが好ましい。インクの吐出方式は、インクに熱エネルギーや力学的エネルギーを作用させる方法が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する方式を特に好ましく利用することができる。
【0020】
(記録媒体)
本発明で使用する記録媒体は、インク受容層を有するものであればよく、光沢ないしは半光沢の性状を有する表面を持つものが好ましい。具体的には、支持体の少なくとも一方の面に、シリカ、アルミナ又はその水和物などの顔料を主体とし、必要に応じてバインダやカチオン性ポリマーなどの添加剤を含んで構成されるインク受容層を有する記録媒体を用いることが好ましい。このような記録媒体は、顔料粒子で構成される多孔質構造の空隙によりインクを吸収するものであり、形成した画像が高品位なものとなるため好適である。
【0021】
支持体としては、前記インク受容層を形成することが可能であって、かつ、インクジェット記録装置の搬送機構によって搬送可能な剛度を与えるものが好ましく、例えば、パルプや填料を含んで構成される紙などが挙げられる。また、支持体の少なくとも一方の面にポリオレフィンなどの樹脂層を設け、さらにその上にインク受容層が形成されている記録媒体であってもよい。さらに、支持体の両面にインク受容層を有する記録媒体を用いることもできる。
【0022】
なお、本発明のインクジェット記録方法に用いる記録媒体は、所望のサイズに予めカットされたものであっても、また、ロール状に巻かれたシートを用い、画像形成後に所望のサイズにカットされるものであってもよい。
【0023】
(インク)
〔シアンインクの色材:一般式(I)で表される染料〕
本発明で使用するシアンインクに含有させる色材は、耐オゾン性に優れるという特性を有する、下記一般式(I)で表される染料である。本発明においては、シアンインク中の、一般式(I)の染料の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下、さらには、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.1質量%未満であると、画像の耐オゾン性が十分に得られない場合があり、10.0質量%を超えると、インクの吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0024】
【化3】

【0025】
(一般式(I)中、A、B、C、及びDはそれぞれ独立に芳香性を有する6員環であり、かつ、A、B、C、及びDの少なくともひとつはピリジン環又はピラジン環である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。Eはアルキレン基である。Xは、スルホ置換アニリノ基、カルボキシ置換アニリノ基、又はホスホノ置換アニリノ基であり、該置換アニリノ基はさらに、スルホン酸基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アセチルアミノ基、ウレイド基、アルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アルキルスルホニル基、及びアルキルチオ基からなる群から選ばれる少なくともひとつの置換基を1乃至4個有してもよい。Yはヒドロキシ基又はアミノ基である。a、b、及びcは、0≦a≦2.0、0≦b≦3.0、0.1≦c≦3.0であり、かつa+b+c=1.0乃至4.0である。)
【0026】
一般式(I)におけるA、B、C、及びDはそれぞれ独立に芳香性を有する6員環であり、かつ、A、B、C、及びDの少なくともひとつはピリジン環又はピラジン環である。芳香性を有する6員環としては、ベンゼン環、ピリジン環、及びピラジン環が挙げられ、中でもピリジン環が特に好ましい。本発明では、A、B、C、及びDのうち1乃至3個がピリジン環又はピラジン環であり、残りがベンゼン環である染料を用いることが好ましい。
【0027】
一般式(I)におけるEはアルキレン基であり、アルキレン基における炭素数は2乃至12、さらには2乃至6であることが好ましい。具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、シクロプロピレンジイル基、1,2−又は1,3−シクロペンチレンジイル基、1,2−、1,3−、又は1,4−などのシクロヘキシレン基などが挙げられる。中でも、エチレン基、プロピレン基、及びブチレン基が好ましい。
【0028】
一般式(I)におけるXは、スルホ置換アニリノ基、カルボキシ置換アニリノ基、又はホスホノ置換アニリノ基である。前記置換アニリノ基はさらに、スルホン酸基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アセチルアミノ基、ウレイド基、アルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アルキルスルホニル基、及びアルキルチオ基からなる群から選ばれる少なくともひとつの置換基を0乃至4個、好ましくは0乃至2個有してもよい。Xは、具体的には、2,5−ジスルホアニリノ基、2−スルホアニリノ基、3−スルホアニリノ基、4−スルホアニリノ基、2−カルボキシアニリノ基、4−エトキシ−2−スルホアニリノ基、2−メチル−5−スルホアニリノ基、2−メトキシ−4−ニトロ−5−スルホアニリノ基、2−クロロ−5−スルホアニリノ基、3−カルボキシ−4−ヒドロキシアニリノ基、3−カルボキシ−4−ヒドロキシ−5−スルホアニリノ基、2−ヒドロキシ−5−ニトロ−3−スルホアニリノ基、4−アセチルアミノ−2−スルホアニリノ基、4−アニリノ−3−スルホアニリノ基、3,5−ジカルボキシアニリノ基、2−カルボキシ−4−スルファモイルアニリノ基、2,5−ジクロロ−4−スルホアニリノ基、及び3−ホスホノアニリノ基などが挙げられる。また、一般式(I)におけるYは、ヒドロキシ基又はアミノ基である。
【0029】
一般式(I)における、スルホン酸基、カルボキシ基、及びホスホノ基などは塩の形態であってもよい。塩を形成する対イオンは、例えば、アルカリ金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムなどのイオンが挙げられる。アルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムが挙げられる。有機アンモニウムは、例えば、メチルアミン、エチルアミンなどの炭素数1乃至3のアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどのモノ、ジ又はトリ(炭素数1乃至4のアルカノール)アミンのオニウム塩が挙げられる。また、対イオンは、カルシウム及びマグネシウムなどのアルカリ土類金属であってもよい。
【0030】
一般式(I)の染料の好ましい具体例は、下記表1に示す例示化合物C1〜C24が挙げられる。なお、表1には、前記一般式(I)におけるA、B、C、D、E、X、及びYの部分をそれぞれ示した。勿論、本発明は、前記一般式(I)の構造及びその定義に包含されるものであれば、下記の例示化合物に限られるものではない。一般式(I)におけるA、B、C、及びDの少なくともひとつはピリジン環又はピラジン環であるので、窒素原子の位置異性体が存在するため、化合物を合成する際にはこれらの位置異性体の混合物が含まれる。これらの異性体を単離することは困難であり、また、これらの異性体を分析して特定することも困難である。したがって、一般式(I)の染料は通常、混合物として用いる。しかし、異性体を含む状態であっても、本発明の効果は何ら変わらずに得られるため、ここでは異性体を区別することなく記載する。本発明においては、一般式(I)におけるA、B、C及びDのうちピリジン環の数が1〜3個、さらには1〜2個であることが好ましい。具体的には、下記の例示化合物中、例示化合物C1〜C3、C10〜C12、C21〜C23を用いることが特に好ましい。
【0031】
【表1】

【0032】
〔マゼンタインクの色材:一般式(II)で表される染料〕
本発明で使用するマゼンタインクに含有させる色材は、疎水性が比較的高く、また、記録媒体のインク受容層への定着性が高いという特性を有する、下記一般式(II)で表される染料である。本発明においては、マゼンタインク中の、一般式(II)の染料の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、1.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。含有量が1.5質量%未満又は5.0質量%を超えると、二次色画像の耐ブロンズ性が十分に得られない場合がある。特に、含有量が5.0質量%を超えると、記録媒体のインク受容層の表面近傍に定着する一般式(II)の染料が多くなりすぎる。このため、記録媒体へのシアンインクの浸透が過度に阻害され、その結果、一般式(I)の染料が記録媒体のインク受容層の表面近傍で凝集し易くなり、耐ブロンズ性が十分に得られない場合がある。
【0033】
【化4】

【0034】
(一般式(II)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立にアルキル基である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0035】
一般式(II)におけるアルキル基は、インクを構成する水性媒体への溶解性の観点から、炭素数1乃至3であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、第1級プロピル基及び第2級プロピル基が挙げられる。なお、アルキル基の炭素数が4以上であると、色材の疎水性が高くなりすぎ、色材がインクを構成する水性媒体に溶解しにくい場合がある。
【0036】
一般式(II)におけるMはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。前記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどが挙げられる。前記有機アンモニウムとしては、例えば、アセトアミド、ベンズアミド、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、トリエチルアミノ、及びフェニルアミノなどが挙げられる。
【0037】
一般式(II)の染料の好ましい具体例としては、下記の例示化合物M1及びM2が挙げられる。なお、下記の例示化合物は遊離酸の形で記載する。勿論、本発明は、前記一般式(II)の構造及びその定義に包含されるものであれば、下記の例示化合物に限られるものではない。本発明においては、下記の例示化合物の中でも、一般式(II)におけるR、R、R、及びRの全てがエチル基である例示化合物M2を用いることが特に好ましい。
【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
〔マゼンタインクの好適な実施態様:IOB値が2.0以上であるマゼンタ染料、及び、IOB値が1.7以上2.5以下である水溶性有機化合物〕
インクジェット記録方法における信頼性の課題としては、間欠吐出安定性が特に重要であることを先に述べたが、これに加えて、端部濃度上昇という別の課題を解決することも重要である。この端部濃度上昇は、記録ヘッドのノズル内に存在するインク中の水分が吐出口から蒸発することにより、ノズルの吐出口近傍に存在するインクにおいては、染料の濃度が相対的に高くなるために発生する現象である。そして、この状態で画像を形成すると、画像の端部(書き出し部分)の画像濃度が他の部分よりも高くなり、高品位な画像を形成するうえでは問題となる。
【0041】
上述の通り、端部濃度上昇はインク中の水分の蒸発により発生するため、間欠吐出安定性が加湿により向上するのと同様に、端部濃度上昇も加湿により抑制することができると予測されていた。しかし、本発明者らの検討の結果、この予測に反し、加湿により間欠吐出安定性は向上するものの、端部濃度上昇に対してはプラスの影響が生じることはなかった。このような違いが生じる理由を、本発明者らは以下のように推測している。間欠吐出安定性が低下する直接の原因は、水の蒸発に伴うインクの粘度の局所的な上昇であり、その一方、端部濃度上昇は水の蒸発に伴うインク中の染料濃度の局所的な上昇により生じており、これらは異なる現象に起因して生じていると言える。そして、記録ヘッドにおける結露が生じない程度の実用的な範囲での加湿により、インクの粘度が上昇しない程度には水分の蒸発を抑制できるが、染料濃度の上昇を抑制できる程度までの効果はないためであると考えられる。このように、端部濃度上昇に関しては、加湿などの手法による抑制には限界がある。
【0042】
特に、一般式(II)の染料のみを色材として含有するマゼンタインクにおいては、端部濃度上昇が顕著に生じた。本発明者らはこの理由を以下のように考えている。一般式(II)の染料は、インクジェット用のインクに含有させる染料のなかでも、疎水性が比較的高いという特性を有するため、インクに一般に使用される種々の水溶性有機溶剤への溶解性が高いことに起因している。そして、吐出口から水分が蒸発し、インク中の水の比率が相対的に少なくなった状態でも、染料の水溶性有機溶剤への溶解性が高いため、水が減った分、染料濃度は相対的に高くなり、1滴目として吐出されるインク滴における染料濃度が高くなる。
【0043】
ここで、一般式(II)の染料に代えて、親水性が比較的高い染料のみを色材として含有するマゼンタインクであれば、インクに一般に使用される種々の水溶性有機溶剤への染料の溶解性が低い。このため、該染料は、吐出口からの水分の蒸発が生じて水の比率が相対的に少なくなった部分のインク中では溶解した状態を保てず、ノズル奥(吐出口とは反対の方向)に後退し、1滴目として吐出されるインク滴における染料濃度の上昇を抑制することができる。しかし、この場合、1滴目として吐出されるインク滴における染料濃度が逆に低くなり、加えて、一般式(II)の染料を使用した場合の1滴目ほどではないものの、2滴目として吐出されるインク滴における染料濃度が高くなる。その結果、画像としての端部濃度上昇はやはり生じてしまう。
【0044】
そこで、本発明者らが検討を行ったところ、疎水性が比較的高い一般式(II)の染料に加えて、親水性が比較的高い染料及び疎水性が比較的高い水溶性有機化合物を含有するインクとすることで、画像の端部濃度上昇を抑制できることを見出した。この理由は、これらの成分を含有するインクにより、1滴目及び2滴目として吐出されるインク滴における染料濃度がいずれも高くなることで、形成した画像の端部における画像濃度の違いが目立たなくなるためだと考えられる。
【0045】
本発明者らは、有機化合物の特性を示す指標として、有機概念図論に基づく無機性値と有機性値の比であるIOB(Inorganic Organic Balance、無機性値/有機性値)に注目した。有機概念図とは、有機化合物の特性を、共有結合性を表す有機性値と、イオン結合性を表す無機性値にわけ、有機軸(横軸)と無機軸(縦軸)との直交座標上にプロットして示すものである。有機性値はおおよそ、化合物の炭素数に20を掛けた値であり、無機性値はある基に固有の無機性値の加算値である。
【0046】
参考文献1(甲田善生、「有機概念図−基礎と応用−」、三共出版(1984))では、ヒドロキシ基の無機性値を100とするなど、現在までに約80個の基についての無機性値が決定されている。また、参考文献2(小田良平、「帝人タイムス」、22、〔9〕10〜4(1952))には以下の記載がある。有機概念図における有機性は、界面活性剤の親油性(つまり、疎水性)と一致する。したがって、任意の界面活性剤について、その化学構造から無機性と有機性の比を計算すれば、その値が界面活性剤のHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)と同じ意味の数値になる。このことを逆に考えれば、IOB値は有機化合物の疎水性を表す指標とみなすことができる。
【0047】
上述の通り、疎水性が比較的高い一般式(II)の染料に加えて、親水性が比較的高い染料及び疎水性が比較的高い水溶性有機化合物を含有するインクとすることで、画像の端部濃度上昇を抑制することができる。そして、水溶性有機化合物の疎水性の程度はIOB値により把握することができるため、本発明者らは、親水性が比較的高い染料及び疎水性が比較的高い水溶性有機化合物に着目して、これらのIOB値の範囲についての検討を行った。その結果、一般式(II)の染料に加えて、IOB値が2.0以上であるマゼンタ染料と、IOB値が1.7以上2.5以下である水溶性有機化合物とを含有するインクとすればよいという知見を得た。
【0048】
なお、水溶性有機化合物への染料の溶解性についての関係は現在のところ解明されているわけではない。しかし、本発明者らは、IOB値が1.5〜1.8の染料はIOB値が1.4〜5.0の水溶性有機化合物によく溶解し、IOB値が2.0以上の染料はIOB値が2.5以下の水溶性有機化合物には溶解しにくいという検討結果を少なくとも得ている。
【0049】
〈IOB値が2.0以上であるマゼンタ染料〉
マゼンタインクは、IOB値が2.0以上であるマゼンタ染料を含有することが好ましい。なお、IOB値の上限は3.0以下であることが好ましい。マゼンタインク中の、IOB値が2.0以上であるマゼンタ染料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。含有量が1.0%未満であると、端部濃度上昇を十分に抑制することができない場合がある。また、5.0質量%を超えると、記録ヘッドのある吐出口から一定時間インクが吐出されない状態が続いた後の、1滴目として吐出されるインクよりも、2滴目のインクにおける染料濃度が高くなり、端部濃度上昇を十分に抑制することができない場合がある。
【0050】
IOB値が2.0以上であるマゼンタ染料の好ましい具体例は、下記一般式(III)で表される染料、下記一般式(IV)で表される染料、及び下記一般式(V)で表される染料が挙げられる。本発明においては、これらのIOB値が2.0以上であるマゼンタ染料の中でも、端部濃度上昇を顕著に抑制することができるため、下記一般式(III)で表される染料を用いることが特に好ましい。
【0051】
【化7】

【0052】
(一般式(III)で表される染料のIOB値は2.0以上である。Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、シクロヘキシル基、モノアルキルアミノアルキル基、又はジアルキルアミノアルキル基である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。Rは連結基である。)
【0053】
一般式(III)におけるRが炭素原子を含む基である場合、その炭素原子数は、1乃至8、さらには1乃至4であることが好ましい。また、一般式(III)におけるRは連結基であり、例えば、*−NH−(CH−NH−*などの構造が挙げられる(nは2乃至8、好ましくは2乃至6、さらに好ましくは2であり、*はそれぞれ異なる2つのトリアジン環との結合部位である)。また、一般式(III)におけるMはそれぞれ独立に、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。前記アルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどが挙げられる。前記有機アンモニウムは、例えば、アセトアミド、ベンズアミド、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、及びフェニルアミノなどが挙げられる。
【0054】
【化8】

【0055】
(一般式(IV)で表される染料のIOB値は2.0以上である。Rは水素原子又はアルキル基である。dは1乃至3の整数である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0056】
一般式(IV)におけるRは水素原子又はアルキル基であり、アルキル基の炭素原子数は1乃至8、さらには1乃至4であることが好ましい。一般式(IV)におけるMはそれぞれ独立に、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。前記アルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどが挙げられる。前記有機アンモニウムは、例えば、アセトアミド、ベンズアミド、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、及びフェニルアミノなどが挙げられる。
【0057】
【化9】

【0058】
(一般式(V)で表される染料のIOB値は2.0以上である。R、R、及びR10はそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシ基、カルバモイル基、スルファモイル基、アミノ基、ニトロ基、スルホン酸エステル基、カルボキシ基、又はカルボン酸エステル基である。R11、R12、及びR13はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、芳香族基、又は複素環基である。eは0乃至3の整数である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0059】
一般式(V)におけるR、R、R10、R11、R12、及びR13が炭素原子を含む基である場合、その炭素原子数は、1乃至8、さらには1乃至4であることが好ましい。また、一般式(V)におけるMはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。前記アルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどが挙げられる。前記有機アンモニウムは、例えば、アセトアミド、ベンズアミド、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、及びフェニルアミノなどが挙げられる。
【0060】
前記一般式(III)で表される染料、前記一般式(IV)で表される染料、及び前記一般式(V)で表される染料の好ましい具体例としては、それぞれ、下記の例示化合物M3、M4及びM5が挙げられる。なお、下記の例示化合物は遊離酸の形で記載する。勿論、本発明は、前記一般式(III)、前記一般式(IV)、及び前記一般式(V)の構造及びその定義に包含されるものであれば、下記の例示化合物に限られるものではない。
【0061】
【化10】

【0062】
【化11】

【0063】
【化12】

【0064】
〈IOB値が1.7以上2.5以下である水溶性有機化合物〉
マゼンタインクは、先に説明したIOB値が2.0以上であるマゼンタ染料と、IOB値が1.7以上2.5以下である水溶性有機化合物とを組み合わせて含有することが好ましい。水溶性有機化合物のIOB値が1.7未満であると、水溶性有機化合物の疎水性が高くなりすぎて、上述のIOB値が2.0以上である、親水性が高い染料がノズルの先端で析出する。その結果、該染料を使用することにより端部濃度上昇を抑制する効果が十分に得られない場合がある。また、IOB値が2.5を超えると、端部濃度上昇を十分に抑制することができない場合がある。なお、本実施態様においては、マゼンタインク中にIOB値が1.7以上2.5以下である水溶性有機化合物が含有されていれば、その作用により上述の効果が得られる。したがって、マゼンタインク中に、IOB値が1.7未満又は2.5を超える水溶性有機化合物が共存していてもよい。
【0065】
本発明で使用するマゼンタインクに含有させる、IOB値が1.7以上2.5以下である水溶性有機化合物としては、以下のようなものが挙げられる(IOB値を括弧内に示す)。例えば、1,4−ブタンジオール(2.5)、1,5−ペンタンジオール(2.0)、2−ピロリドン(1.8)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(1.8)、1,2−ヘキサンジオール(1.7)、1,6−ヘキサンジオール(1.7)などが挙げられ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。勿論、本発明は、IOB値が上記範囲内の水溶性有機化合物であれば、上記のものに限られるものではない。本発明においては、これらの水溶性有機化合物の中でも、1,5−ペンタンジオールを用いることが特に好ましい。
【0066】
本発明においては、マゼンタインク中のIOB値が2.0以上であるマゼンタ染料の含有量をA(質量%)、IOB値が1.7以上2.5以下である水溶性有機化合物の含有量をB(質量%)としたときに、以下の関係を満たすようにすることが好ましい。インク全質量を基準とした、IOB値が1.7以上2.5以下である水溶性有機化合物の含有量B(質量%)が一般式(II)で表される染料の含有量A(質量%)に対する質量比率(B/A)で、0.5倍以上15.0倍以下であることが好ましい。さらには、前記質量比率が、1.0倍以上10.0倍以下であることが特に好ましい。質量比率が0.5倍未満であると、端部濃度上昇を抑制する効果が十分に得られない場合があり、15.0倍を超えると、インクの粘度が高くなりすぎて、間欠吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0067】
なお、本発明は染料と水溶性有機化合物の親和性に着目するものであるので、IOB値を算出する対象の水溶性有機化合物には、染料や顔料などの色材、後述するような添加剤は含まないものとして考える。
【0068】
〔水性媒体〕
各インクには、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。さらに、マゼンタインクには、IOB値が特定の範囲にある上述の水溶性有機化合物を含有させてもよい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を使用することが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、1価ないしは多価のアルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この場合の水溶性有機溶剤の含有量は、IOB値が特定の範囲にある上述の水溶性有機化合物の含有量を含むものとする。
【0069】
〔その他の添加剤〕
本発明で使用する各インクには、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパンやトリメチロールエタンなどの多価アルコール類など、常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、インクには、上記で説明した成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマーなどの、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0070】
〔その他のインク〕
本発明においては、画像形成工程で用いるインクに、上記で説明したシアンインク及びマゼンタインクを少なくとも含むことが必要であるが、その他の種類のインクをさらに用いることもできる。このようなインクとしては、例えば、イエロー、ブラック、レッド、グリーン、ブルーなどの各インクが挙げられる。また、これらのインクと同じ色相を有し、濃度が異なるインクや、色材を含有しないクリアインクなども使用することができる。
【0071】
[加湿工程]
本発明においては、上記で説明した画像形成工程を行う際に、記録ヘッドと記録媒体との間を加湿する加湿工程を行う。加湿工程では、記録媒体のインク受容層が十分に吸湿する程度に加湿を行えばよく、その方法としては、例えば、記録ヘッドと記録媒体との間に加湿空気を供給する方法などが挙げられる。本発明においては、加湿工程を、記録ヘッドと記録媒体との間に加湿空気を供給することで行い、記録ヘッドと記録媒体との間を、温度35℃以下かつ絶対湿度0.013kg/kgDA以上の雰囲気とする条件で行うことが好ましい。ここで、本発明における絶対湿度とは重量絶対湿度のことであり、その単位kg/kgDAにより表されるように、乾き空気(Dry Air)の重量(kg)に対して、湿り空気中に含まれる水蒸気の重量(kg)を示す。なお、温度の下限は15℃以上であることが好ましい。これらの前提条件として、相対湿度が100%未満であることが好ましい。最も好ましい加湿条件は、温度15℃以上35℃以下や、絶対湿度が0.015kg/kgDA以上、より好適には0.017kg/kgDA以上の雰囲気とする条件である。この場合、加湿により間欠吐出安定性を向上する効果が高く、さらにこの温度範囲における相対湿度が100%未満となるため、記録ヘッドにおける結露も生じず、吐出安定性にも優れる。
【0072】
本発明においては、上記の加湿工程に加えて、画像形成工程の前に記録媒体を加湿するプレ加湿工程をさらに行うことが好ましい。この工程では、記録媒体が記録ヘッドを含む画像形成位置に進入する以前に該記録媒体を加湿する。このプレ加湿工程を行うことで、間欠吐出安定性をより効果的に向上することができる。これは、画像形成位置に記録媒体が進入する以前に記録媒体が十分に吸水した状態としておくことで、記録ヘッドと記録媒体との間の加湿をより効果的に行うことができるためである。本発明においては、プレ加湿工程を、記録媒体が記録ヘッドを含む画像形成位置に進入する以前に加湿空気を供給することで行われ、温度が35℃以下かつ絶対湿度0.013kg/kgDA以上の雰囲気とする条件で行うことが好ましい。
【0073】
<インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、複数のインクをそれぞれ収容するための複数のインク収容部、インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出してインク受容層を有する記録媒体に画像を形成するための画像形成部を有する。さらに、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間を加湿するための手段を有し、前記複数のインク収容部にそれぞれ収容された複数のインクが、上記で説明したシアンインク及びマゼンタインクを少なくとも含む複数のインクであることを特徴とする。
【0074】
以下、本発明のインクジェット記録装置の構成を説明する。図1は本発明のインクジェット記録方法を行うためのインクジェット記録装置の画像形成部1の一例を示す模式図である。記録装置の全体構成の図示は省略するが、記録媒体の搬送方向の上流側から下流側に沿って、給紙部、画像形成部1、カッタ部、乾燥部、インク収容部、制御部、排紙部を備える。給紙部は、ロール状に巻かれた記録媒体2を回転可能に保持する。画像形成部1は、異なるインク色にそれぞれ対応した複数の記録ヘッド1aを備える。ここでは、4種のインクに対応した4つの記録ヘッドを備えた形態としているが、インク数はこれには限定されない。各インクはインク収容部からそれぞれインクチューブを介して記録ヘッド1aに供給される。複数の記録ヘッド1aのそれぞれは、使用が想定される記録媒体の最大幅をカバーする範囲で、インクジェット方式のノズル列が形成されたライン型の記録ヘッドである。
【0075】
記録ヘッドを主走査方向に往復走査させながら、記録媒体を副走査方向に搬送して画像を形成するシリアル型の記録ヘッドとは異なり、ライン型の記録ヘッドでは記録ヘッドの往復走査は行われない。このため、シリアル型と比較して、ライン型の記録ヘッドは記録速度の点では特に有利である。しかし、上述の端部濃度上昇という課題の点では、シリアル型と比較して、ライン型の記録ヘッドは不利であると言える。これは、シリアル型の記録ヘッドでは往復走査が行われるため、記録動作中であっても、記録媒体に対応する位置とは異なる位置において、染料濃度が相対的に高くなったインクを、いわゆる予備吐出として排出することで端部濃度上昇を抑制することができる。しかし、ライン型の記録ヘッドは常に記録領域に対応する位置に存在するため、上述のような予備吐出を行うことが困難であるためである。このようなライン型の記録ヘッドを採用した場合にも、上記で説明した特定の染料及び水溶性有機化合物を含有するマゼンタインクを用いれば、端部濃度上昇の発生を有効に抑制することができる。
【0076】
画像形成部1には記録ヘッド1aに対向して記録媒体搬送路が横切っており、記録媒体搬送路に沿って記録媒体を搬送するための搬送機構が設けられている。複数の記録ヘッド1a及び搬送機構は筐体1bの中の略閉空間に収容されている。画像形成部1には、記録ヘッド1aと記録媒体との間を加湿するための第2の加湿部1dが設けられており、記録ヘッド1aと記録媒体との間(いわゆる紙間)に加湿空気を供給する。この加湿空気は記録ヘッド1aと記録媒体との間だけでなく、筐体1bの中の略閉空間の全体に行き渡るように供給され、この空間の全体に渡って加湿空気により温度と湿度が所望の雰囲気となるように調整されていてもよい。また、記録ヘッド1aの搬送方向における上流側には、記録媒体が記録ヘッドを含む画像形成位置に進入する以前に該記録媒体をプレ加湿する第1の加湿部1cを設けてもよい。
【0077】
カッタ部は、画像形成部1で画像が形成された、ロール紙状の記録媒体を所定のサイズにカットするためのユニットであり、カッタ機構が設けられている。乾燥部は、カットされた記録媒体を短時間で乾燥させるためのユニットであり、気体を加熱するヒータと加熱された気体の流れを発生させるファンで構成される温風装置、記録媒体の搬送経路に沿って並べられた複数の搬送ローラが設けられている。排紙部は、乾燥部から排出されたカット済みの記録媒体を収容するもので、複数の記録媒体が積み重ねられていく。制御部は、記録装置全体の各種制御や駆動を司るコントローラである。
【0078】
なお、インクジェット記録装置が設置される周囲の環境によっては、上述の加湿工程により設定されるような温湿度の条件になる場合もある。しかし、外部環境の温湿度は常に変動しているため、定常的に所望の温湿度条件を満たしているとは限らない。したがって、本発明で設定するような温湿度条件にするために加湿工程を行うことは、本発明の効果を得るうえで有効であることに変わりはない。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0080】
<インクの調製>
下記表2〜4に示す各成分(単位:質量%)を混合し、十分に撹拌して溶解した後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、シアン及びマゼンタの各インクを調製した。アセチレノールE100は川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤である。なお、表3及び4のマゼンタインクの成分については、括弧内にIOB値を示した。
【0081】
例示化合物C1は、特許文献1に記載された実施例を参考に合成した化合物を用いた。なお、一般式(I)の染料は全て混合物であり、異性体などの混合物のことを「染料」として記載する。すなわち、染料とは、化合物の位置異性体、ピリジン環の窒素原子の位置異性体、一般式(I)のA、B、C、及びDのベンゾ環/含窒素複素芳香環の比率の異性体、並びにベンゾ環の置換又は無置換のスルファモイル基のα/β位置異性体などを含む。また、比較化合物は、特開2003−231834号公報に記載された実施例を参考に合成した化合物No.154を用いた。
【0082】
例示化合物M1及びM2は、特開2006−143989号公報に記載された実施例を参考に合成した各化合物を用いた。例示化合物M5は、特開平8−073791号公報に記載された実施例を参考に合成した化合物を用いた。例示化合物M3は、国際公開第2008/066062号パンフレットに記載された実施例を参考に合成した化合物を用いた。例示化合物M4は、国際公開第2004/104108号パンフレットに記載された実施例を参考に合成した化合物を用いた。また、参考化合物(IOB値が1.2であるマゼンタ染料)は、特開2000−169776号公報に記載された実施例を参考に合成した式(1)の化合物を用いた。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
<評価>
(シアンインクの間欠吐出安定性)
下記表5に示す種類のシアンインクを用いて、0.3ミリ秒の非吐出間隔でインクを吐出させたときの吐出速度に対する、6秒の非吐出間隔でインクを吐出させたときの吐出速度の低下率[%]を求めた。そして、この低下率の値からシアンインクの間欠吐出安定性の評価を行った。インクの吐出速度は、記録ヘッドから吐出させたインクについて、ストロボ発光方式の観察装置により吐出と発光の同期をとり、吐出後5μ秒〜30μ秒の間におけるインク滴の移動距離から算出した。評価基準は以下の通りである。結果を表5に示す。本発明においては、下記の評価基準において、B以上を許容できるレベルとし、C以下を許容できないレベルとした。
【0087】
使用したインクジェット記録装置は、図1に示す画像形成部を有するものである。具体的には、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッド、画像形成の際に記録ヘッドと記録媒体との間に加湿空気を供給する加湿部(図1では第2の加湿部)を有する装置である。記録条件は、インク1滴あたりの体積:2.8pL、解像度:2,400dpi×1,200dpi、ノズル列:8列とした。また、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、インク1滴あたりの体積が2.8pLであるインク滴を8滴付与する条件で形成した画像を記録デューティ100%の画像とした。
【0088】
AA:吐出速度の低下率が30%未満であった
A:吐出速度の低下率が30%以上40%未満であった
B:吐出速度の低下率が40%以上50%未満であった
C:吐出速度の低下率が50%以上であった。
【0089】
(二次色画像の耐ブロンズ性)
下記表5に示す種類のシアン及びマゼンタの各インクを用いて、インク受容層を有する記録媒体(商品名:キヤノン写真用紙・光沢 ゴールドGL−101;キヤノン製)に、以下のブルーの画像を形成した。この画像は、シアン及びマゼンタの各インクの付与量を互いに同じ割合として、記録デューティを10%から160%まで10%刻みとした、16種の記録デューティの二次色画像である。インクジェット記録装置及び記録条件は上記の間欠吐出安定性の評価の場合と同様である。また、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、インク1滴あたりの体積が2.8pLであるインク滴を、シアン及びマゼンタの各インクを合計で8滴付与する条件で形成した画像を記録デューティ100%の二次色画像とした。
【0090】
上記で得られた評価サンプルついて、ブロンズ現象がどの記録デューティの画像で発生するかを目視で確認し、その記録デューティをブロンズ現象が発生する記録デューティとし、その記録デューティの値から二次色画像の耐ブロンズ性の評価を行った。ここで、ブロンズ発生記録デューティが高いほど、そのインクは耐ブロンズ性に優れると言える。評価基準は以下の通りである。結果を表5に示す。本発明においては、下記の評価基準において、B以上を許容できるレベルとし、C以下を許容できないレベルとした。
【0091】
AA:ブロンズ現象が発生する記録デューティが160%以上であった
A:ブロンズ現象が発生する記録デューティが150%以上160%未満であった
B:ブロンズ現象が発生する記録デューティが140%以上150%未満であった
C:ブロンズ現象が発生する記録デューティが140%未満であった。
【0092】
(二次色画像の耐オゾン性)
下記表5に示す種類のシアン及びマゼンタの各インクを用いて、上記の耐ブロンズ性の評価のものと同様にして評価サンプルを作製した。そして、評価サンプルの記録デューティが50%の画像の部分について、画像濃度を測定した(「耐オゾン性試験前の画像濃度d」とする)。さらに、この評価サンプルを、オゾン試験装置(商品名:OMS−H;スガ試験機製)を用いて、オゾンガス濃度10ppm、相対湿度60%、槽内温度23℃で5時間曝露した。その後、オゾン曝露後の評価サンプルにおける記録デューティが50%の画像の部分について、画像濃度を測定した(「耐オゾン性試験後の画像濃度d」とする)。ここでの画像濃度は、分光光度計(商品名:Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件で測定した、シアン成分及びマゼンタ成分の光学濃度の平均とした。得られたd及びdから、d/d×100の式に基づいて画像濃度の残存率(%)を算出し、二次色画像の耐オゾン性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表5に示す。本発明においては、下記の評価基準において、A以上を許容できるレベルとし、B以下を許容できないレベルとした。
【0093】
A:画像濃度の残存率が90%以上であった
B:画像濃度の残存率が80%以上90%未満であった
C:画像濃度の残存率が80%未満であった。
【0094】
(マゼンタインクの端部濃度上昇の抑制)
下記表5に示す種類のマゼンタインクを用いて、0.3ミリ秒の非吐出間隔でインクを100滴吐出させた後、さらに、6秒の非吐出間隔を空けて、記録デューティが25%であるベタ画像を記録した。インクジェット記録装置、記録条件及び記録デューティの定義は上記の間欠吐出安定性の評価の場合と同様であり、記録媒体は上記の耐ブロンズ性の評価の場合と同様である。得られた評価サンプルを目視で確認し、マゼンタインクの端部濃度上昇の抑制の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表5に示す。本発明においては、下記の評価基準において、B以上を許容できるレベルとし、Cを許容できないレベルとした。
【0095】
AAA:画像の端部は濃くなっていなかった
AA:画像の端部がごくわずかに濃くなっていた
A:画像の端部がわずかに濃くなっていた
B:画像の端部が濃くなっていた
C:画像の端部がはっきりわかる程度に濃くなっていた。
【0096】
【表5】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出してインク受容層を有する記録媒体に画像を形成する工程を有するインクジェット記録方法であって、
さらに、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間を加湿する工程を有し、
前記画像形成工程に、下記一般式(I)で表される染料を含有するシアンインク、及び、下記一般式(II)で表される染料を含有するマゼンタインク、を少なくとも用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【化1】


(一般式(I)中、A、B、C、及びDはそれぞれ独立に芳香性を有する6員環であり、かつ、A、B、C、及びDの少なくともひとつはピリジン環又はピラジン環である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。Eはアルキレン基である。Xは、スルホ置換アニリノ基、カルボキシ置換アニリノ基、又はホスホノ置換アニリノ基であり、該置換アニリノ基はさらに、スルホン酸基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アセチルアミノ基、ウレイド基、アルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アルキルスルホニル基、及びアルキルチオ基からなる群から選ばれる少なくともひとつの置換基を1乃至4個有してもよい。Yはヒドロキシ基又はアミノ基である。a、b、及びcは、0≦a≦2.0、0≦b≦3.0、0.1≦c≦3.0であり、かつa+b+c=1.0乃至4.0である。)
【化2】


(一般式(II)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立にアルキル基である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【請求項2】
前記マゼンタインク中の、前記一般式(II)で表される染料の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、1.5質量%以上5.0質量%以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記一般式(II)におけるR、R、R、及びRの全てがエチル基である請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記マゼンタインクがさらに、IOB値が2.0以上であるマゼンタ染料、及び、IOB値が1.7以上2.5以下である水溶性有機化合物を含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記マゼンタインク中の、前記IOB値が2.0以上であるマゼンタ染料が、下記一般式(III)で表される染料である請求項4に記載の記録方法。
【化3】


(一般式(III)で表される染料のIOB値は2.0以上である。Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、シクロヘキシル基、モノアルキルアミノアルキル基、又はジアルキルアミノアルキル基である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。Rは連結基である。)
【請求項6】
前記マゼンタインクが、前記IOB値が1.7以上2.5以下である水溶性有機化合物として、1,5−ペンタンジオールを含有する請求項4又は5に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記加湿工程は、前記記録ヘッドと前記媒体との間に対して加湿空気を供給することにより行われ、かつ、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間を、温度35℃以下かつ絶対湿度0.013kg/kgDA以上の雰囲気とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
複数のインクをそれぞれ収容するための複数のインク収容部、インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出してインク受容層を有する記録媒体に画像を形成するための画像形成部を有するインクジェット記録装置であって、
さらに、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間を加湿するための手段を有し、
前記複数のインク収容部にそれぞれ収容された複数のインクが、下記一般式(I)で表される染料を含有するシアンインク、及び、下記一般式(II)で表される染料を含有するマゼンタインク、を少なくとも含む複数のインクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【化4】


(一般式(I)中、A、B、C、及びDはそれぞれ独立に芳香性を有する6員環であり、かつ、A、B、C、及びDの少なくともひとつはピリジン環又はピラジン環である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。Eはアルキレン基である。Xは、スルホ置換アニリノ基、カルボキシ置換アニリノ基、又はホスホノ置換アニリノ基であり、該置換アニリノ基はさらに、スルホン酸基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アセチルアミノ基、ウレイド基、アルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アルキルスルホニル基、及びアルキルチオ基からなる群から選ばれる少なくともひとつの置換基を1乃至4個有してもよい。Yはヒドロキシ基又はアミノ基である。a、b、及びcは、0≦a≦2.0、0≦b≦3.0、0.1≦c≦3.0であり、かつa+b+c=1.0乃至4.0である。)
【化5】


(一般式(II)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立にアルキル基である。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−25156(P2012−25156A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127383(P2011−127383)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】