説明

インクジェット記録方法

【課題】 記録媒体に記録を行う際のインクのにじみ(フェザリング)が抑制され、光学濃度に優れた画像を得ることができるインクジェット方法を提供すること。
【解決手段】 インクをインクジェット方法で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、前記記録媒体のインク受容層が、水溶性環状化合物を含有してなり、前記インクが、水溶性環状化合物を包接し得る水溶性高分子を含有してなることを特徴とするインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インク滴を形成し、それらを、紙、加工紙、プラスチックフィルム、織布等の記録媒体に付与して記録を行う方法である。かかるインクジェット記録方式に用いるインクは、水又は水及び水溶性有機溶剤を含有する水性媒体に染料や顔料を溶解又は分散したものが用いられる。
【0003】
しかし、従来のインクは、水を主成分として、これにインクの乾燥防止や、記録ヘッドの吐出口の目詰まり防止等の目的でグリコール等の水溶性高沸点溶剤を添加したものが一般的であった。そのため、かかるインクを用いて普通紙等の記録媒体に記録を行うと、十分な定着性が得られない場合や、記録媒体の表面における填料やサイズ剤の不均一な分布に起因すると推定されるにじみ(フェザリング)が発生するなどの問題が起きる場合があった。
【0004】
前記した問題を解決するために、以下のような方法が提案されている。例えば、インク中に界面活性剤等を添加して、インクの浸透性を高める方法が開示されている(特許文献1参照)。しかし、この場合、記録媒体へのインクの浸透性が高まるため、異なるインクで形成した画像間のブリーディングはある程度抑制できるものの、インク中の色材も記録媒体の深さ方向に沈み込んだ箇所まで浸透する。このため、画像の光学濃度や彩度が低下する場合がある。更に、記録媒体に付与されたインクは、水平方向にも広がり、輪郭のシャープさが低下する場合や、解像度が低下する場合がある。又、揮発性溶剤を主として含有するインクが開示されている(特許文献2参照)。この場合、界面活性剤等を添加する場合と同様の課題が発生することに加えて、記録ヘッドの吐出口近傍で揮発性溶剤が蒸発することにより目詰まりが発生し易くなる場合がある。
【0005】
そこで、先にアニオン性のインクで記録を行い、その後カチオン性のインク又は定着液の記録を行う方法が開示されている(特許文献3参照)。更に、カチオン性のインク又は定着液をアニオン性のインクに先立って記録する方法が開示されている(特許文献4参照)。しかし、これらの場合には、発色性の向上とにじみ(フェザリング)及びブリーディングの抑制はできるが、記録媒体に付与するインクが増加するため、コックリング(紙のぼこつき)がひどくなるほか、ランニングコストの上昇、インクジェット記録装置の内部で定着液及びインクが混合しないようにする工夫が必要である。又、インク中に添加するカチオン性の成分やアニオン性の成分は反応性が高く、インクの保存安定性等に問題がある場合がある。
【0006】
又、にじみ(フェザリング)を抑制し、光学濃度を向上することができる記録媒体が開示されている(特許文献5〜7参照)。しかし、これらの記録媒体でも、特に最近多く用いられる顔料インクを用いた場合、上記した効果が十分に得られない場合がある。
【特許文献1】特開昭55−65269号公報
【特許文献2】特開昭55−66976号公報
【特許文献3】特公昭62−38155号公報
【特許文献4】特開昭58−128862号公報
【特許文献5】特開平11−165459号公報
【特許文献6】特開2001−010201号公報
【特許文献7】特開2001−150796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した課題を鑑みてなされたものである。本発明の目的は、記録媒体に記録を行う際のインクのにじみ(フェザリング)が抑制され、光学濃度に優れた画像を得ることができるインクジェット方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかるインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方法で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、前記記録媒体のインク受容層が、水溶性環状化合物を含有してなり、前記インクが、水溶性環状化合物を包接し得る水溶性高分子を含有してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、記録媒体に記録を行う際のインクのにじみ(フェザリング)が抑制され、光学濃度に優れた画像を得ることができるインクジェット方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0011】
本発明におけるにじみ(フェザリング)が抑制され、光学濃度が向上する機構は、記録媒体のインク受容層に含まれる水溶性環状化合物と、インクに含まれる水溶性環状化合物を包接し得る水溶性高分子とが、水に不溶である複合体を形成することに由来する。
【0012】
例えば、記録媒体のインク受容層が水溶性環状化合物としてα−シクロデキストリン、インクが水溶性環状化合物を包接し得る水溶性高分子成分としてポリエチレングリコール鎖をそれぞれ含有する場合、記録直後の記録媒体上において、α−シクロデキストリンにポリエチレングリコールが貫通した状態の分子構造体が瞬時に形成され、インクを構成する成分が凝集又は増粘を起こし、その結果、にじみ(フェザリング)が抑制され、光学濃度が向上する。
【0013】
本発明においては、水溶性環状化合物、及び前記水溶性環状化合物を包接し得る水溶性高分子は、水に不溶である複合体を形成するものであれば何れのものも用いることができる。
【0014】
〔記録媒体〕
[インク受容層]
本発明において用いることができる水溶性環状化合物は、シクロデキストリン、ポリシクロデキストリン、環状アミン類、及びクラウンエーテル類等が挙げられる。中でも特に、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、又はこれらの誘導体を用いることが好ましい。更には、シクロデキストリンを構成単位とする1つ又は2つ以上の環を有する水溶性環状化合物を用いることが好ましい。
【0015】
シクロデキストリンを構成単位にした1つ又は2つ以上の環を有する水溶性環状化合物とは、複数のシクロデキストリン分子同士の結合により形成される重合体等を意味する。本発明においては、複数のシクロデキストリン分子同士の結合により形成される重合体とは、(A)シクロデキストリン分子間で、ヒドロキシル基同士が縮重合することにより形成される重合体、(B)シクロデキストリン分子同士が、外部由来の化学構造(例えば、架橋剤による架橋構造等)を介して結合することにより形成される重合体、を意味する。これらの重合体を形成するシクロデキストリンの数は、特に限定されるものではないが、工業的に安価に製造可能であるという観点から、2つ(即ち二量体)であることがより好ましい。
【0016】
シクロデキストリンの2量体は公知の化合物であり、J.Am.Chem.Soc.(1979)、101、1614、Polym.J.(1980)、12、29、J.Chem.Soc.、Chem.Commun.(1984)1277、Chem.Lett.(1985)11に詳細が記載されている。
【0017】
本発明においては、1つ又は2つ以上の環を有する水溶性環状化合物の構成単位のシクロデキストリンとして、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンを用いることがより好ましい。本発明においては、記録媒体が、上記したような1つ又は2つ以上の環を有する水溶性環状化合物をインク受容層に含むものを用いる。水溶性環状化合物の含有量(質量%)は、バインダー全質量を基準として、5質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0018】
一般に、インク受容層は顔料やバインダーを含むものが用いられる。本発明においては、これらの顔料やバインダーに加えて水溶性環状化合物を用いることを特徴とする。
【0019】
顔料は、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、チタニア、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、アルミナ水和物、ケイ酸、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム等の無機系顔料、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリレート等からなるプラスチックピグメント、尿素樹脂顔料等の有機系顔料を用いることができる。中でも特に、インクの吸収性や画像の解像性の観点から、シリカやアルミナ水和物を用いることが好ましい。尚、上記した顔料は、何れも1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
バインダーは、水溶性高分子物質を用いることが好ましい。例えば、ポリビニルアルコール又はその変性体(カチオン変性、アニオン変性、シラノール変性)、澱粉又はその変性体(酸化、エーテル化)、ゼラチン又はその変性体、カゼイン又はその変性体、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス、官能基変性重合体ラテックス、エチレン酢酸ビニル共重合体等のビニル系共重合体ラテックス、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸又はその共重合体、アクリル酸エステル共重合体等を用いることができる。尚、上記したバインダーは、何れも1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
顔料及びバインダーを組み合わせて用いる場合、これらの含有量の比率は、質量基準で1:1以上30:1以下、更には2:1以上20:1以下とすることが好ましい。即ち、バインダーの含有量を1としたときに、顔料の含有量が1以上3以下、更には2以上20以下とすることが好ましい。バインダーの含有量が上記範囲よりも少ない場合、インク受容層の機械的強度が不足するため、ひび割れや粉落ちが発生しやすい場合がある。又、バインダーの含有量が上記範囲よりも多い場合、細孔容積が小さくなるため、インクの吸収性が低下しやすい場合がある。
【0022】
インク受容層を形成するための、顔料やバインダー、及び水溶性環状化合物を含有する分散液には、上記した成分の他に必要に応じて、分散剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、耐水化剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤等を添加しても良い。
【0023】
本発明においては、画像保存性を向上する観点から、インク受容層にカチオン性化合物を含有させてもよい。カチオン性化合物は、分子内にカチオン性を有する部分を含むものであれば何れのものも用いることができる。例えば、モノアルキルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリメチルフェニルアンモニウムクロライド、エチレンオキサイド付加アンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤、アミン塩型のカチオン性界面活性剤、カチオン性を有する部分を含むアルキルベタイン、イミダゾリミウムベタイン、アラニン系等の両性界面活性剤が挙げられる。又、ポリマーやオリゴマーを用いることもできる。例えば、ポリアクリルアミドのカチオン変性物又はアクリルアミドとカチオン性モノマーの共重合体、ポリエチレンイミン、ポリアミド−エピクロルヒドリン樹脂、ポリビニルピリジニウムハライド、ポリアリルアミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン等のポリアミン系樹脂が挙げられる。又は、カチオン変性したポリビニルアルコールやセルロース等を用いることもできる。
【0024】
[基材]
記録媒体を構成する基材は、上質紙、中質紙、アート紙、光沢紙、ボンド紙、再生紙、バライタ紙、キャストコート紙、ダンボール紙、非木材紙、合成紙等、ポリエチレンテレフタレート、ジアセテート、トリアセテート、セロハン、セルロイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチック製のフィルム、セラミックス、ベニア、桧、杉等の木又は板、ガラス板、アルミ、鉄、銅等の金属板、木綿、レーヨン、アクリル、ナイロン、絹、ポリエステル等の布、牛、羊、蛇、ワニ等の皮革や人工皮革、不織布、ゴム状弾性体、無機質紙等を用いることができる。
【0025】
基材の表面は、滑らかであっても、凹凸があっても良く、又、透明、半透明、不透明のいずれでも良い。又、上記したような基材の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。更に記録面とは反対側野面にマット層、剥離粘着層等を設けても良く、又、記録後に、記録面に粘着層等を設けても良い。記録媒体を使用する目的、画像の用途、記録媒体に被覆する組成物との密着性等の諸条件に応じて、上記したような基材の中から適宜選択することができる。
【0026】
[記録媒体の作製]
記録媒体の作製は、以下のように行うことができる。先ず、水溶性環状化合物、及び必要によりその他の添加剤を、水やアルコール等の水溶性有機溶剤等に溶解又は分散することで、塗工液を調製する。この塗工液を、例えば、ロールコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、ゲートロールコーター法、バーコーター法、サイズプレス法、スプレーコート法、グラビアコーター法、カーテンコーター法等により基材の表面に塗工する。その後、例えば、熱風乾燥炉、熱ドラム等を用いて乾燥させることで、本発明の記録媒体を作製することができる。本発明においては、更に必要に応じて、インク受容層の平滑化や、表面強度を上げるために、スーパーカレンダー処理等を行ってもよい。
【0027】
〔インク〕
[水溶性環状化合物を包接し得る水溶性高分子]
上記で述べたように、本発明で用いるインクは水溶性環状化合物を包接し得る水溶性高分子を含有することを特徴とする。本発明において用いることができる水溶性環状化合物を包接し得る水溶性高分子は、アルキレングリコール構造を有する水溶性高分子が挙げられる。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソブチレングリコール、又はこれらの構造を有するブロック共重合体又はグラフト共重合体を用いることが好ましい。
【0028】
又、本発明においては、水溶性高分子がホモポリマーの場合は、数平均分子量が200以上10,000以下であることが好ましく、ブロックポリマー又はグラフトポリマーの場合は、ポリアルキレングリコール部位の繰り返し単位数が10以上500以下であることが好ましい。水溶性高分子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上7質量%以下であることが好ましい。
【0029】
更に、本発明においては、上記したアルキレングリコール構造を有する水溶性高分子は、インク中で顔料の分散剤として機能することが特に好ましい。このような場合、記録媒体の表面に顔料等の色材が留まりやすくなるため、にじみ(フェザリング)が効果的に抑制され、光学濃度がより高い画像とすることができる。
【0030】
分散剤として機能するアルキレングリコール構造を有する水溶性高分子は、例えば、下記の一般式(I)又は一般式(II)で表されるモノマー単位で構成されるポリマー等が挙げられる。
【0031】
【化1】

(RはH又はCH3であり、mは2以上24以下であり、pは1以上12以下であり、qは0以上16以下である。)
一般式(I)で表されるモノマー単位は、例えば、以下のものが挙げられる。
【0032】
(I)CH2=C(R)−COO−(CH2CH2O)m−H(m=2−24)の例として、
【0033】
【化2】

一般式(II)で表されるモノマー単位は、例えば、以下のものが挙げられる。
フェノキシジエチレングリコールアクリレート
(R=H、p=2、q=0、商品名:NKエステルAMP−20G;新中村化学工業製)
フェノキシポリエチレングリコールアクリレート
(R=H、p≒5、q=0、商品名:NKエステルAMP−60G;新中村化学工業製)
ノニルフェノキシエチルアクリレート
(R=H、p=1、q=6、商品名:NKエステルNPA−10G;新中村化学工業製)
【0034】
【化3】

又、親水性モノマーとして、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸を5モル%以上60モル%以下で含有することが好ましい。このようなモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸等、又はこれらの誘導体が挙げられる。
【0035】
疎水性モノマーは、スチレン、αメチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン類、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル類を用いることが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブメチル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、2−エチルブチル(メタ)アクリレート、3−メチルブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、3−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、3−エトキシプロピルアクリレート、2−エトキシブチルアクリレート、3−エトキシブチルアクリレート、3−エトキシブチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート等が挙げられる。又、ハーフエステル化に用いられるアルコール成分は、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。
【0036】
これらのモノマーを構成成分とする分散剤は、通常のラジカル共重合により合成することができる。これらの分散剤の重量平均分子量は、500以上50,000以下、更には、2,000以上30,000以下であることが好ましい。又、これらの重合体の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上7質量%以下であることが好ましい。
【0037】
又、分散剤として機能するアルキレングリコール構造を有する水溶性高分子は、例えば、ビニルエーテル系モノマーで構成されるポリマー等が挙げられる。
【0038】
ビニルエーテル系モノマーで構成されるポリマーは、常法により合成することができる。例えば、1種以上のビニルエーテル系モノマーを原料として、アニオンリビング重合、カチオンリビング重合、ラジカルリビング重合、グループトランスファー重合等により合成することができる。
【0039】
ビニルエーテル系モノマーとして疎水性のモノマーである、2−イソブトキシビニルエーテル、2−t−ブトキシビニルエーテル、2−フェノキシエチルビニルエーテル、2−(4−メチルフェニルオキシ)エチルビニルエーテル、2−(4−ビフェニルオキシ)エチルビニルエーテル等を用いることができる。又、ビニルエーテル系モノマーとして親水性モノマーである、2−(4−カルボキシフェニルオキシ)エチルビニルエーテル、2−(3,5−ジカルボキシフェニルオキシ)エチルビニルエーテル、2−(4−スルホフェニルオキシ)エチルビニルエーテル、2−メトキシエチルビニルエーテル、2−(2−メトキシエチルオキシ)エチルビニルエーテル、2−(2−(2−メトキシエチルオキシ)エチルオキシ)エチルビニルエーテル等を用いることができる。これらのモノマーは、重合方法に応じて適宜選択することができる。尚、重合の際に、モノマーの溶解性等に問題がある場合は、その前駆体、例えば、カルボン酸であればそのエステル体(2−(4−エトキシカルボニルフェニルオキシ)エチルビニルエーテル等)として重合を行い、その後に適宜加水分解等により所望の構造とする等の処理を行うことができる。
【0040】
ビニルエーテル系モノマーで構成されるポリマーの重量平均分子量は、2,000以上100,000以下、更には、4,000以上30,000以下であることが好ましい。重量平均分子量がこれより低い場合、顔料を安定に分散することが困難となる場合があり、これよりも高い場合、インクとしたときの粘度が高くなり過ぎて、インクジェット方法で吐出するインクとして利用できない場合がある。
【0041】
ビニルエーテル系モノマーで構成されるポリマーのモノマー組成比は、顔料への吸着とインク中における分散安定性を両立するため、疎水性モノマー及び親水性モノマーを少なくとも1種類ずつ用いることが好ましい。尚、この際、ポリマーの立体構造をブロックポリマーのように制御することで機能分担して、より効率的に顔料への吸着とインク中における分散安定性を得ることもできる。
【0042】
[色材]
本発明のインクに用いる色材は、水溶性染料、顔料等が挙げられるが、顔料を用いることが特に好ましい。顔料は1種、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1質量%以上20質量%以下、更には2質量%以上12質量%以下とすることが好ましい。
【0043】
ブラックインクに用いる顔料は、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックは、一次粒子径が15μm以上40μm以下、BET法による比表面積が50m2/g以上300m2/g以下、DBP吸油量が40ml/100g以上150ml/100g以下、揮発分が0.5質量%以上10質量%以下、pH値が2以上9以下の特性を有するものが好ましい。このような特性を有する市販品は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、#2200B(以上、三菱化学製)。RAVEN(登録商標)1255(以上、コロンビア製)。REGAL(登録商標):400R、330R、660R、MOGULL(以上、キャボット製)。Color Black:FW1、FW18、S170、S150、Printex(登録商標):35、U(以上、デグッサ製)。
【0044】
イエローインクに用いる顔料は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。C.I.ピグメントイエロー:1、3、12、13、14、17、42、55、62、73、74、81、83、93、95、97、108、109、110、128、130、151、155、158、139、147、154、168、173、180、184、191、199等。
【0045】
マゼンタインクに用いる顔料は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。C.I.ピグメントレッド:2、4、5、22、23、31、48、53、57、88、112、122、144、146、150、166、171、175、176、177、181、183、184、185、202、206、207、208、209、213、214、220、254、255、264、272等。C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、37、38、42、43、44等。
【0046】
シアンインクに用いる顔料は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。C.I.ピグメントブルー:15:3、16、22、25、26、56、57、60、61、66等。
【0047】
勿論、本発明で用いることができる顔料はこれらに限られるものではない。本発明においては、上記した顔料の他に、本発明のために新たに製造された顔料も勿論用いることが可能である。
【0048】
[バインダー樹脂]
本発明では、記録物の耐水性や耐擦過性の向上のために、バインダー樹脂として水溶性樹脂又は水分散性樹脂を添加したインクとすることもできる。前記水溶性樹脂は、インクに対する溶解性や親和性を有するものであれば、何れのものでも構わない。下記の水溶性樹脂及び水分散性樹脂は、複数を同時に用いてもよい。
【0049】
水溶性樹脂は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、ポリウレタン、カルボキシメチルセルロース、ポリエステル、ポリアクリル酸(エステル)、ポリアクリルアミド、ポリアリルアミン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メラミン樹脂又はこれらの変性物等の合成樹脂、アルブミン、ゼラチン、カゼイン、でんぷん、カチオン化でんぷん、アラビアゴム、アルギン酸ソーダ等の天然樹脂等。
【0050】
水分散型樹脂は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル系重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド系共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等。
【0051】
[水性媒体]
インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤を含む水性媒体を用いることができる。インク中における水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2質量%以上60質量%以下、更には5質量%以上25質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等)、ケトン又はケトアルコール類(例えばアセトン、ジアセトンアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類。テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類。エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコール等のアルキルエーテル類。N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等。中でも、グリセリンを用いることが特に好ましく、インク中におけるグリセリンの含有量(質量%)がインク全質量を基準として、2質量%以上30質量%以下、更には5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。更には、グリセリン、及びエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールを共に用いることが特に好ましく、インク中におけるグリセリン及び多価アルコールの含有量の比率は、質量基準で、グリセリン:多価アルコールが、10:5以上10:50以下、即ち、グリセリンの含有量を10質量%としたときに、多価アルコールの含有量が5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。上記した、グリセリン、又はグリセリン及び多価アルコールの混合物は、勿論他の水溶性有機溶剤と共に用いることができる。
【0052】
又、本発明で用いる水は種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を用いるのことが好ましい。
【0053】
[その他の添加剤]
インクには、インクの記録媒体への浸透性の調節や、顔料の分散安定性の向上等の目的で界面活性剤等を添加してもよい。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0054】
アニオン界面活性剤は、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。
【0055】
カチオン界面活性剤は、第1級、第2級、又は第3級のアミン塩、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0056】
又、上記の他にも、両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッソ系界面活性剤等の従来公知の界面活性剤を用いることもできる。
【0057】
特に、上記した顔料を含有するインクとするの場合には、分散剤の溶解性を向上することができ、長期保存性に一層優れたインクとすることができるため、インクが中性又はアルカリ性に調整されていることが好ましい。但し、この場合、インクジェット記録装置を構成する種々の部材における腐食の原因となる場合があるので、インクのpHは、7以上10以下とすることが好ましい。この際にインクに添加するpH調整剤は、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸物、有機酸、鉱酸等が挙げられる。
【0058】
インクには、上記した界面活性剤やpH調整剤の他にも、必要に応じて、粘度調整剤、酸化防止剤、蒸発促進剤等の添加剤を適宜添加することができる。尚、上記した添加剤は、何れも1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
[インクの調製]
インクの調製は、以下のように行うことができる。先ず、少なくとも水及び分散樹脂を含有する液体に顔料を添加して撹拌する。次に、後述する分散手段を用いて分散を行い、必要に応じて遠心分離処理を行い、所望の分散液を得る。更に、得られた分散液に上記で挙げたような成分を加えて撹拌を行い、インクを調製する。尚、顔料を含有する液体を分散処理する前に、プレミキシングを少なくとも30分間行うことが好ましい。プレミキシングは、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進するものである。
【0060】
アルカリ可溶型樹脂を用いる場合には、分散液に塩基類を添加することが好ましい。具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミンメチルプロパノール、アンモニア等の有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基を用いることが好ましい。
【0061】
分散手段は、一般に用いられる分散機であればいずれのものも用いることができる。例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル等が挙げられる。中でも、高速型のサンドミルを用いることが好ましく、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、ビーズミル、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル、コボルミル(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0062】
所望の粒度分布を有する顔料の分散体を得るためには、分散機の粉砕メディアのサイズを小さくする、粉砕メディアの充填率を大きくする、処理時間を長くする、吐出速度を遅くする、粉砕後フィルターや遠心分離機等で分級する等の方法で行うことができる。
【0063】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、特に指定の無い限り、実施例、比較例のインク成分は「質量部」を意味する。
【0064】
[実施例1のインク及び記録媒体の作製]
<記録媒体1の作製>
下記の各成分を、水を媒体として混合して分散、溶解して、塗工液を得た。得られた塗工液を、ワイヤーバーを用いて、一般上質紙(坪量70g/m2)に、乾燥後の塗布厚が10μmになるように塗布した。その後、温度100℃で3分間乾燥して、記録媒体1を得た。
・シリカ(アエロジル300;日本アエロジル工業製) 100部
・ポリビニルアルコール(PVA−117;クラレ製) 20部
・α−シクロデキストリン 5部
<インク1の調製>
(1)重合体1の合成
エチレングリコールモノメチルエーテル及びイソプロピルアルコールの混合溶媒中に、スチレン:50モル%、アクリル酸:35モル%、ブレンマーPE−200:15モル%の割合で仕込み、常法により重合を行い、数平均分子量9,700、重量平均分子量13,500の重合体1を得た。
(2)顔料分散液1の調製
・重合体1 3部
・モノエタノールアミン 1部
・イオン交換水 75部
・ジエチレングリコール 5部
上記の各成分を混合して、ウオーターバスで50℃に加温し、樹脂を完全に溶解した。この溶液にカーボンブラック(:MCF88;三菱化成製):15部、イソプロピルアルコール:1部を加え、30分間プレミキシングを行った。次に、下記の条件で分散処理を行った。その後更に、遠心分離処理(12,000RPM、20分間)を行い、粗大粒子を除去して顔料分散液1を得た。
・分散機:サンドグラインダー(五十嵐機械製)
・粉砕メディア:1mm径ジルコニウムビーズ
・粉砕メディアの充填率:50(体積)%
・粉砕時間:3時間
(3)インク1の調製
上記で得られた顔料分散液1を用いて、下記の各成分(合計100部)を混合して、インク1を得た。
・顔料分散液1 30部
・グリセリン 2部
・ジエチレングリコール 15部
・N−メチルピロリドン 4部
・イソプロピルアルコール 3部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 2部
・イオン交換水 残部
【0065】
[実施例2のインク及び記録媒体の作製]
<記録媒体2の作製>
下記の各成分を、水を媒体として混合して分散、溶解して、塗工液を得た。得られた塗工液を、ワイヤーバーを用いて、一般上質紙(坪量70g/m2)に、乾燥後の塗布厚が10μmになるように塗布した。その後、温度100℃で3分間乾燥して、記録媒体2を得た。
・シリカ(アエロジル300;日本アエロジル工業製) 100部
・シラノール変性成ポリビニルアルコール 20部
(R−1130;クラレ製)
・β−シクロデキストリン2量体 7部
(Polym.J.(1980)、12、29に記載の方法で合成)
<インク2の調製>
(1)重合体2の合成
エチレングリコールモノメチルエーテル及びブチルアルコールの混合溶媒中に、メチルメタクリレート:52モル%、フェノキポリエチレングリコールアクリレート(NKエステルAMP−60G;新中村化学工業製):8モル%、アクリル酸:40モル%の割合で仕込み、常法により重合を行い、数平均分子量7,600、重量平均分子量12,500の重合体2を得た。
(2)顔料分散液2の調製
・重合体2 1.5部
・イオン交換水 77.5部
・エチレングリコール 5部
上記の各成分を混合して、ウオーターバスで70℃に加温し、樹脂を完全に溶解した。この溶液にカーボンブラック(S170;デグサ製):15部、イソプロピルアルコール:1部を加え、60分間プレミキシングを行った。次に、下記の条件で分散処理を行った。その後更に、遠心分離処理(12,000RPM、20分間)を行い、粗大粒子を除去して顔料分散液2を得た。
・分散機:サンドグラインダー(五十嵐機械製)
・粉砕メディア:0.5mm径ジルコニウムビーズ
・粉砕メディアの充填率:70(体積)%
・粉砕時間:10時間
(3)インク2の調製
上記で得られた顔料分散液2を用いて、下記の各成分(合計100部)を混合して、インク2を得た。
・顔料分散液2 30部
・グリセリン 12部
・ジエチレングリコール 15部
・2−ピロリドン 5部
・イソプロピルアルコール 3部
・サーフィノール(登録商標)61(エアープロダクツジャパン製) 1.5部
・イオン交換水 残部
【0066】
[実施例3のインク及び記録媒体の作製]
<記録媒体3の作製>
下記の各成分を、水を媒体として混合して分散、溶解して、塗工液を得た。得られた塗工液を、ワイヤーバーを用いて、一般上質紙(坪量70g/m2)に、乾燥後の塗布厚が10μmになるように塗布した。その後、温度100℃で3分間乾燥して、記録媒体3を得た。
・シリカ(BS−312AM;塩野義製薬製) 100部
・ポリビニルアルコール(PVA−117;クラレ製) 15部
・β−シクロデキストリン2量体 5部
(Polym.J.(1980)、12、29に記載の方法で合成)
<インク3の調製>
(1)重合体3の合成
重合体3の合成は公知の文献(特開平11−322942号、特開2003−89752号等)を参考にして、カチオンリビング重合法によって行った。窒素置換したガラス製反応容器に、疎水性モノマーとして2−(4−メチルフェニルオキシ)エチルビニルエーテル:12.0mmol(2.14g)、酢酸エチル:16mmol、1−ブトキシエチルアセテート:0.1mmol、トルエン:11mlを仕込み、氷浴により系内を冷却した後、エチルアルミニウムセスキノクロライド:0.2mmolを添加して、カチオンリビング重合を開始した。反応系内の経時的変化を、サンプリングした試料のGPC測定から求め、仕込んだ2−(4−メチルフェニルオキシ)エチルビニルエーテルがほとんど消失したことを確認してから、親水性モノマーの両親媒性モノマーとして2−(2−メトキシエトキシ)エチルビニルエーテル:11.7mmol(1.712g)を添加して、引き続き重合を進めた。上記と同様にGPC測定で仕込んだ2−(2−メトキシエトキシ)エチルビニルエーテルがほとんど消失したことを確認してから、最後に、親水性モノマーのイオン性モノマー前駆体として2−(4−エトキシカルボニルフェニルオキシ)エチルビニルエーテル:2.07mmol(0.488g)を加え、重合反応を完結した。0.3質量%のアンモニア/メタノール溶液を加えて反応をクエンチし、クロロフォルムを用いて希釈した後、希塩酸及び純水で有機層を洗浄し、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去してから、真空ポンプを繋いだデシケータを用いて生成物を乾燥させた。この生成物に20質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、室温下で48時間撹拌することでエステルの加水分解を行い、4規定の塩酸で液体のpHを4〜5に調整してから、クロロフォルムで抽出、有機層を洗浄した後、濃縮と乾燥を経て目的物である疎水性セグメントと親水性セグメントからなるビニルエーテル系ブロックポリマー(重合体3)3.8gを得た。
(2)顔料分散液3の調製
・重合体3 7部
・モノエタノールアミン 1部
・ジエチレングリコール 5部
・イオン交換水 75部
上記の各成分を混合して、ウオーターバスで50℃に加温し、樹脂を完全に溶解した。この溶液にカーボンブラック(MCF88;三菱化成製):10部、イソプロピルアルコール:1部を加え、30分間プレミキシングを行った。次に、下記の条件で分散処理を行った。その後更に、遠心分離処理(12,000RPM、20分間)を行い、粗大粒子を除去して顔料分散液3を得た。
・分散機:サンドグラインダー(五十嵐機械製)
・粉砕メディア:1mm径ジルコニウムビーズ
・粉砕メディアの充填率:50(体積)%
・粉砕時間:3時間
(3)インク3の調製
上記で得られた顔料分散液3を用いて、下記の各成分(合計100部)を混合して、インク3を得た。
・顔料分散液3 40部
・グリセリン 2部
・ジエチレングリコール 15部
・N−メチルピロリドン 4部
・イソプロピルアルコール 3部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 2部
・イオン交換水 残部
【0067】
[実施例4のインク及び記録媒体の作製]
実施例4の記録媒体は、実施例1と同じものを用いた。
【0068】
<インク4の調製>
(1)重合体4の合成
実施例3の重合体3の合成において、親水性モノマーの両親媒性モノマーである2−(2−メトキシエトキシ)エチルビニルエーテルの仕込み量を12.6mmol(1.28g)、親水性モノマーのイオン性モノマー前駆体である2−(4−エトキシカルボニルフェニルオキシ)エチルビニルエーテルの仕込み量を4.14mmol(0.976g)としたこと以外は同様にして、目的物である疎水性セグメントと親水性セグメントからなるビニルエーテル系ブロックポリマー3.9g(重合体4)を得た。
(2)顔料分散液4の調製
上記で得られた重合体4を用いること以外は実施例3と同様にして、顔料分散液4を得た。
(3)インク4の調製
上記で得られた顔料分散液4を用いること以外は実施例3と同様にして、インク4を得た。
【0069】
[実施例5のインク及び記録媒体の作製]
実施例5の記録媒体は、実施例2と同じものを用いた。
【0070】
<インク5の調製>
(1)重合体5の合成
エチレングリコールモノメチルエーテル及びイソプロピルアルコールの混合溶媒中に、スチレン:60モル%、アクリル酸:40モル%の割合で仕込み、常法により重合を行い、数平均分子量9,500、重量平均分子量13,000の重合体5を得た。
(2)顔料分散液5の調製
・重合体5 3部
・モノエタノールアミン 1部
・ジエチレングリコール 5部
・イオン交換水 75部
上記の各成分を混合して、ウオーターバスで50℃に加温し、樹脂を完全に溶解した。この溶液にカーボンブラック(MCF88;三菱化成製):15部、イソプロピルアルコール:1部を加え、30分間プレミキシングを行った。次に、下記の条件で分散処理を行った。その後更に、遠心分離処理(12,000RPM、20分間)を行い、粗大粒子を除去して顔料分散液5を得た。
・分散機:サンドグラインダー(五十嵐機械製)
・粉砕メディア:1mm径ジルコニウムビーズ
・粉砕メディアの充填率:50(体積)%
・粉砕時間:3時間
(3)インク5の調製
上記で得られた顔料分散液5を用いて、下記の各成分(合計100部)を混合して、インク5を得た。
・顔料分散液5 30部
・グリセリン 2部
・ジエチレングリコール 15部
・N−メチルピロリドン 4部
・イソプロピルアルコール 3部
・ポリエチレングリコール(数平均分子量1,000) 3部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 2部
・イオン交換水 残部
【0071】
[比較例1のインク及び記録媒体の作製]
<記録媒体4の作製>
下記の各成分を、水を媒体として混合して分散、溶解して、塗工液を得た。得られた塗工液を、ワイヤーバーを用いて、一般上質紙(坪量70g/m2)に、乾燥後の塗布厚が10μmになるように塗布した。その後、温度100℃で3分間乾燥して、記録媒体4を得た。
・シリカ(アエロジル300;日本アエロジル工業製) 100部
・ポリビニルアルコール(PVA−117;クラレ製) 20部
<比較例のインク1の調製>
比較例のインク1は、実施例1と同じものを用いた。
【0072】
[比較例2のインク及び記録媒体の作製]
<記録媒体5の作製>
下記の各成分を、水を媒体として混合して分散、溶解して、塗工液を得た。得られた塗工液を、ワイヤーバーを用いて、一般上質紙(坪量70g/m2)に、乾燥後の塗布厚が10μmになるように塗布した。その後、温度100℃で3分間乾燥して、記録媒体5を得た。
・シリカ(BS−312AM;塩野義製薬製) 100部
・ポリビニルアルコール(PVA−117;クラレ製) 15部
<比較例のインク2の調製>
比較例のインク2は、実施例3と同じものを用いた。
【0073】
[評価]
上記で得られた実施例及び比較例の各記録媒体及びインクを用いて、下記のように記録物を作製した。インクジェット記録装置は、BJF900(キヤノン製)を用いた。
【0074】
(光学濃度)
各記録媒体及びインクを組み合わせて用いて、ベタ画像を記録して記録物を作製した。この記録物を1時間放置した後、光学濃度をマクベスRD915(マクベス製)で測定した。光学濃度の評価基準は下記の通りである。結果を表1に示す。
○:各色の光学濃度が1.5以上であった。
△:各色の光学濃度が1.3を越えて1.5未満であった。
×:各色の光学濃度が1.3以下であった。
【0075】
(にじみ(フェザリング))
各記録媒体及びインクを組み合わせて用いて、ベタ画像を記録して記録物を作製した。この記録物における、画像のエッジ部分での色のにじみを目視で観察して、評価を行った。にじみ(フェザリング)の評価基準は下記の通りである。結果を表1に示す。
○:色がにじんだ部分がなかった。
△:色がにじんだ部分が多少あったが、実際の使用上問題ない。
×:色がにじんで、実際の使用上問題ある。
【0076】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクをインクジェット方法で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、
前記記録媒体のインク受容層が、水溶性環状化合物を含有してなり、
前記インクが、水溶性環状化合物を包接し得る水溶性高分子を含有してなることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記水溶性環状化合物が、1つ又は2つ以上の環を有してなり、
且つ、前記水溶性環状化合物の構造単位が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、又はこれらの誘導体から選択される少なくとも1つである請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記水溶性環状化合物を包接し得る水溶性高分子が、アルキレングリコール構造を有する水溶性高分子である請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記インクが、色材として顔料を含有してなり、
前記顔料の分散剤が、前記アルキレングリコール構造を有する水溶性高分子である請求項1〜3の何れか1項に記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2008−143053(P2008−143053A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333459(P2006−333459)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】