説明

インクジェット記録方法

【課題】記録媒体に対する接着性、印字品質、ラミネート適性にすぐれたインクジェット記録物を得ることができる高速なインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】表面エネルギーの水素結合成分(γsH)の全表面エネルギー(γs)に対する比率(γsH/γs)が0.1以上0.5以下となる記録媒体に、活性エネルギー線で硬化するインクを用いてシングルパス方式で記録することを特徴とするインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に対する接着性、印字品質、ラミネート適性にすぐれたインクジェット記録物を得ることができる高速なインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方式は簡便・安価に画像を作製出来るため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷など、様々な印刷分野に応用されてきている。特に、微細なドットを出射、制御する記録装置や、色再現域、耐久性、出射適性等を改善したインク及びインクの吸収性、色材の発色性、表面光沢などを飛躍的に向上させた専用紙を用い、銀塩写真に匹敵する画質を得ることも可能となっている。今日のインクジェット記録方式の画質向上は、記録装置、インク、専用紙の全てが揃って初めて達成されている。
【0003】
しかしながら、専用紙を必要とするインクジェットシステムは、記録媒体が制限されること、記録媒体のコストアップが問題となる。そこで、専用紙と異なる被転写媒体へインクジェット方式により記録する試みが多数なされている。具体的には、室温で固形のワックスインクを用いる相変化インクジェット方式、速乾性の有機溶剤を主体としたインクを用いるソルベント系インクジェット方式や、記録後紫外線(UV)光により架橋させるUVインクジェット方式などである。
【0004】
UVインクジェット方式は、ソルベント系インクジェット方式に比べ比較的低臭気であり、速乾性、インク吸収性の無い記録媒体への記録が出来る点で、近年注目されつつありUV硬化型インクジェットインクが開示されている(例えば、参考文献1参照)。
【0005】
中でも、カチオン重合性化合物を用いたインクは、酸素阻害作用を受けないのでエネルギー照度の低い光源であっても硬化させることが出来るという利点がある(例えば、参考文献2参照)。
【0006】
インクジェット方式は記録媒体の搬送方向と垂直方向にインクジェットヘッドを搭載したキャリッジが複数走査して記録を行うシリアル方式と、記録媒体が記録媒体の幅方向に並んだインクジェットヘッドを1回だけ通過して記録を行うシングルパス方式がある。特に記録速度に点からシングルパス方式が好ましくなっている。
【0007】
シングルパス方式は高速で記録された後すぐに巻き取りあるいはウェブ上で重ねられるため、記録後すぐにインクが乾いた状態でないと裏移りやブロッキングが生じてしまう。特に吸収性のないあるいは非常に少ない記録媒体に溶剤の多いインクを用いるとインクが乾ききらず上記問題が顕著に悪くなる。
【0008】
UVインクジェット方式はヘッドからインクが出射されて記録媒体に着弾してすぐにUVによりインクが固化、固定化されるため、上記のような問題が起きないのでシングルパス方式で、特に吸収性の少ない記録媒体に対して好ましく用いられる。
【0009】
しかしながらシングルパス方式ではインク液滴が記録媒体に着弾してから早いタイミングで活性エネルギー線で硬化されるため、記録媒体によってはドットの拡がりが不十分でスジやはじきが発生したり、レベリング不足による膜厚むらが生じてその結果接着不良や記録物へのラミネート適性が低いなどの問題が起きている。
【0010】
吸収性の少ない記録媒体に対してインクジェットで記録する場合、記録媒体の表面エネルギーが印字品質に対して大きく関係することは以前から知られている。
【0011】
活性エネルギーで硬化するインクを表面エネルギーが36〜60mN/mの記録媒体に印字する記録方法が記載されている(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
また、表面エネルギーが65〜72mN/mの記録媒体に、表面張力が25〜40mN/mの活性エネルギー線で硬化するインクをインクジェットで記録する方法が記載されている(例えば、特許文献4参照)。
【0013】
しかしながらこれらは記録媒体の全表面エネルギーにつていて言及しているだけであり、表面エネルギーの各成分と印字品質の関係については言及していない。
【0014】
記録媒体およびインクの表面エネルギーの分散力成分の関係によりドットの拡がり、濃度の向上効果があると記載があるが(例えば、特許文献5参照)、その他の成分(水素結合成分、極性成分)との相関については見い出せていない。
【特許文献1】特表2000−504778号公報
【特許文献2】特開2002−188025号公報
【特許文献3】特開2003−261799号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第1199181号明細書
【特許文献5】特開2005−231371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、記録媒体に対する接着性、印字品質、ラミネート適性にすぐれたインクジェット記録物を得ることができる高速なインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0017】
1.表面エネルギーの水素結合成分(γsH)の全表面エネルギー(γs)に対する比率(γsH/γs)が0.1以上0.5以下となる記録媒体に、活性エネルギー線で硬化するインクを用いてシングルパス方式で記録することを特徴とするインクジェット記録方法。
【0018】
2.前記インクが、活性エネルギー線によりカチオン型反応で重合して硬化するインクであることを特徴とする前記1に記載のインクジェット記録方法。
【0019】
3.前記インクがオキセタン化合物、オキシラン化合物、開始剤を含有することを特徴とする前記2に記載のインクジェット記録方法。
【0020】
4.前記記録媒体の全表面エネルギー(γs)が25〜100mN/mであることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0021】
5.前記活性エネルギー線が紫外線であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0022】
6.前記インクが複数の色のインクセットからなることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0023】
7.前記記録媒体が印刷用紙、合成紙、フィルムのいずれかからなることを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、記録媒体に対する密着性、印字品質、ラミネート適性にすぐれたインクジェット記録物を高速に得ることができる記録方法が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を更に詳しく説明する。
【0026】
<インク>
本発明では活性エネルギー線で硬化するインクを用いることにより吸収性の少ない記録媒体へシングルパス方式での記録が可能になる。活性エネルギー線で硬化するインク中には活性エネルギー線で重合する化合物を含有する。活性エネルギー線で重合する化合物としては、ラジカル重合性化合物とカチオン重合性化合物を挙げることができる。ラジカル重合性化合物はラジカル型反応で重合する化合物であり、カチオン重合性化合物はカチオン型反応で重合する化合物である。
【0027】
<ラジカル重合性化合物>
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であり、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であればどの様なものでもよく、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態をもつものが含まれる。ラジカル重合性化合物は1種のみ用いてもよく、また目的とする特性を向上するために任意の比率で2種以上を併用してもよい。また、単官能化合物よりも官能基を2つ以上持つ多官能化合物の方がより好ましい。更に好ましくは多官能化合物を2種以上併用して用いることが、反応性、物性などの性能を制御する上で好ましい。
【0028】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エステル、ウレタン、アミドや無水物、アクリロニトリル、スチレン、さらに種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等のラジカル重合性化合物が挙げられる。具体的には、アクリロイルモルホリン、フェノキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、グリセリンエポキシアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、エポキシアクリレート等のアクリル酸誘導体、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のメタクリル誘導体、その他、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体が挙げられ、さらに具体的には、山下晋三編,「架橋剤ハンドブック」、(1981年大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79頁,(1989年、シーエムシー);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品もしくは業界で公知のラジカル重合性ないし架橋性のモノマー、オリゴマー及びポリマーを用いることができる。上記ラジカル重合性化合物の添加量は好ましくは1〜97質量%であり、より好ましくは30〜95質量%である。
【0029】
<カチオン重合性化合物>
本発明では活性エネルギー線によりカチオン型反応で重合して硬化するインクが好ましい。カチオン型反応で重合して硬化するインクは硬化収縮が少なく柔軟性、剛直な記録媒体との接着性の点ですぐれている。また重合反応に際して酸素阻害の影響がないために、インクの小液滴化、塗膜の薄膜化の点でもすぐれている。
【0030】
本発明に用いられるカチオン重合性化合物としては、例えば、オキセタン環を有する化合物(以下、オキセタン化合物という)、オキシラン環を有する化合物(以下、オキシラン化合物という)、ビニルエーテル化合物が挙げられる。
【0031】
<オキセタン化合物>
本発明で用いることのできるカチオン重合性化合物としてのオキセタン化合物は、分子内に1以上のオキセタン環を有する化合物である。具体的には、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(東亞合成(株)製商品名OXT101等)、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン(同OXT121等)、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン(同OXT211等)、ジ(1−エチル−3−オキセタニル)メチルエーテル(同OXT221等)、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン(同OXT212等)等を好ましく用いることができ、特に、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ(1−エチル−3−オキセタニル)メチルエーテルを好ましく用いることができる。これらは単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
本発明のオキセタン化合物は、本発明の活性エネルギー線で硬化するインク中に好ましくは5〜95質量%、より好ましくは20〜80質量%含まれる。
【0033】
<オキシラン化合物>
オキシラン化合物としては、以下の芳香族エポキシド、脂環式エポキシド及び脂肪族エポキシド等のエポキシ化合物が挙げられる。
【0034】
芳香族エポキシドとして好ましいものは、少なくとも1個の芳香族核を有する多価フェノール或いはそのアルキレンオキサイド付加体とエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジ又はポリグリシジルエーテルであり、例えばビスフェノールA或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールA或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、並びにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0035】
脂環式エポキシドとしては、少なくとも1個のシクロヘキセン又はシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することによって得られる、シクロヘキセンオキサイド又はシクロペンテンオキサイド含有化合物が好ましい。
【0036】
脂肪族エポキシドの好ましいものとしては、脂肪族多価アルコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル等があり、その代表例としては、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル又は1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリン或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0037】
これらのエポキシドのうち、速硬化性を考慮すると、芳香族エポキシド及び脂環式エポキシドが好ましく、特に脂環式エポキシドが好ましい。
【0038】
本発明においてもっとも好ましい脂環式エポキシドとしては、たとえば、特開2004−315778号、特開2005−28632号公報に記載のものが挙げられる。
【0039】
具体的化合物を以下に記載する。
【0040】
【化1】

【0041】
【化2】

【0042】
【化3】

【0043】
【化4】

【0044】
【化5】

【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
本発明では、上記エポキシドの1種を単独で使用してもよいが、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0048】
これらオキシラン化合物は、本発明の活性エネルギー線で硬化するインク中に好ましくは5〜95質量%、より好ましくは20〜80質量%含まれる。
【0049】
<ビニルエーテル化合物>
本発明で用いることのできるカチオン重合性化合物としてのビニルエーテル化合物は、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ヒドロキシエチルモノビニルエーテル、ヒドロキシノニルモノビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジまたはトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−o−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0050】
<開始剤>
<ラジカル重合開始剤>
本発明で用いることのできるラジカル重合開始剤としては、「UV・EB硬化技術の応用と市場」(シーエムシー出版、田畑米穂監修/ラドテック研究会編集)などに記載されている従来公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。開始剤としては分子開裂型または水素引き抜き型のものが好ましい。具体例としては、ベンゾインイソブチルエーテル、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ベンジル、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2,4,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、1,2−オクタンジオン、1−(4−(フェニルチオ)−2,2−(O−ベンゾイルオキシム))等が好ましく、さらにこれら以外の分子開裂型のものとして、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オンおよび2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン等を併用しても良いし、さらに水素引き抜き型光重合開始剤である、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルスルフィド等も併用できる。
【0051】
また上記光ラジカル重合開始剤に対し、例えば、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p−ジエチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N−ジメチルベンジルアミンおよび4,4′−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等の、前述重合性成分と付加反応を起こさないアミン類を増感剤として併用することもできる。
【0052】
<カチオン重合開始剤>
本発明に係る活性エネルギー線で硬化するインクにおいては、カチオン重合性化合物と共に、光重合開始剤としてカチオン重合開始剤を含有することが好ましい。
【0053】
カチオン重合開始剤としては、具体的には光酸発生剤等を挙げることができ、例えば、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が用いられる(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照)。本発明に好適な化合物の例を以下に挙げる。
【0054】
第1に、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウム等の芳香族オニウム化合物のB(C、PF、AsF、SbF、CFSO塩を挙げることができる。
【0055】
本発明で用いることのできるオニウム化合物の具体的な例を以下に示す。
【0056】
【化8】

【0057】
第2に、スルホン酸を発生するスルホン化物を挙げることができ、その具体的な化合物を以下に例示する。
【0058】
【化9】

【0059】
第3に、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物も用いることができ、以下にその具体的な化合物を例示する。
【0060】
【化10】

【0061】
第4に、鉄アレン錯体を挙げることができる。
【0062】
【化11】

【0063】
<増感剤>
本発明に係る活性エネルギー線で硬化するインクにおいては、300nmよりも長波長に紫外線スペクトル吸収を有する増感剤を用いることが好ましく、例えば、置換基として水酸基、置換されていてもよいアラルキルオキシ基またはアルコキシ基を少なくとも1つ有する多環芳香族化合物、カルバゾール誘導体、チオキサントン誘導体等を挙げることができる。
【0064】
本発明で用いることのできる多環芳香族化合物としては、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、クリセン誘導体、フェナントレン誘導体が好ましい。置換基であるアルコキシ基としては、炭素数1〜18のものが好ましく、特に炭素数1〜8のものが好ましい。アラルキルオキシ基としては、炭素数7〜10のものが好ましく、特に炭素数7〜8のベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基が好ましい。
【0065】
本発明に用いることのできるこれらの増感剤を例示すると、カルバゾール、N−エチルカルバゾール、N−ビニルカルバゾール、N−フェニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、1−ナフトール、2−ナフトール、1−メトキシナフタレン、1−ステアリルオキシナフタレン、2−メトキシナフタレン、2−ドデシルオキシナフタレン、4−メトキシ−1−ナフトール、グリシジル−1−ナフチルエーテル、2−(2−ナフトキシ)エチルビニルエーテル、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジメトキシナフタレン、1,1′−チオビス(2−ナフトール)、1,1′−ビ−2−ナフトール、1,5−ナフチルジグリシジルエーテル、2,7−ジ(2−ビニルオキシエチル)ナフチルエーテル、4−メトキシ−1−ナフトール、ESN−175(新日鉄化学社製のエポキシ樹脂)またはそのシリーズ、ナフトール誘導体とホルマリンとの縮合体等のナフタレン誘導体、9,10−ジメトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン、2−tブチル−9,10−ジメトキシアントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジメトキシアントラセン、9−メトキシ−10−メチルアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン、2−tブチル−9,10−ジエトキシアントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジエトキシアントラセン、9−エトキシ−10−メチルアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジプロポキシアントラセン、2−tブチル−9,10−ジプロポキシアントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジプロポキシアントラセン、9−イソプロポキシ−10−メチルアントラセン、9,10−ジベンジルオキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジベンジルオキシアントラセン、2−tブチル−9,10−ジベンジルオキシアントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジベンジルオキシアントラセン、9−ベンジルオキシ−10−メチルアントラセン、9,10−ジ−α−メチルベンジルオキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジ−α−メチルベンジルオキシアントラセン、2−tブチル−9,10−ジ−α−メチルベンジルオキシアントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジ−α−メチルベンジルオキシアントラセン、9−(α−メチルベンジルオキシ)−10−メチルアントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ジ(2−カルボキシエトキシ)アントラセン等のアントラセン誘導体、1,4−ジメトキシクリセン、1,4−ジエトキシクリセン、1,4−ジプロポキシクリセン、1,4−ジベンジルオキシクリセン、1,4−ジ−α−メチルベンジルオキシクリセン等のクリセン誘導体、9−ヒドロキシフェナントレン、9,10−ジメトキシフェナントレン、9,10−ジエトキシフェナントレン等のフェナントレン誘導体等を挙げることができる。これら誘導体の中でも、特に、炭素数1〜4のアルキル基を置換基として有していてもよい9,10−ジアルコキシアントラセン誘導体が好ましく、アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0066】
また、チオキサントン誘導体としては、例えば、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン2−クロロチオキサントン等を挙げることができる。
【0067】
<開始助剤>
開始助剤とは、光照射により、電子供与、電子吸引、熱の発生等により開始剤にエネルギーを供与して、開始剤のラジカルまたは酸の発生効率を向上させる増感色素として作用する物質であり、開始剤と組み合わせて適用される。
【0068】
開始助剤としては、例えば、キサンテン、チオキサントン色素、ケトクマリン、チオキサンテン色素、シアニン、フタロシアニン、メロシアニン、ポルフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、ピリリウム化合物、ピロメテン化合物、ピラゾロトリアゾール化合物、ベンゾチアゾール化合物、バルビツール酸誘導体、チオバルビツール酸誘導体等が適用できる。
【0069】
また、開始助剤としては、上述の化合物の他、「高分子添加剤の開発技術」(シーエムシー出版、大勝靖一監修)等の文献で増感色素として作用することが周知になっている物質を適用することとしてもよい。なお、開始助剤は光重合開始剤の一部をなす構成要素とみなすこともできる。
【0070】
これらの光開始剤に加え、光重合(硬化)反応を促進するため促進助剤を添加することもできる。これらの例として、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0071】
ラジカル重合性化合物物に適用されるラジカル重合開始剤と開始助剤との組み合わせの例としては、ラジカル重合開始剤である過酸エステルと開始助剤であるキサンテン、チオキサントン色素、ケトクマリン、チオピリリウム塩との組み合わせ、ラジカル重合開始剤であるジフェニルヨードニウム塩等のオニウム塩と開始助剤であるチオキサンテン色素との組み合わせ等が周知となっている。
【0072】
また、ラジカル重合開始剤としてチタノセン類を適用する場合には、チタノセン類をレーザ又はLEDに対応して可視光線から近赤外線まで波長増感させる開始助剤として、例えばシアニン、フタロシアニン、メロシアニン、ポルフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、ピリリウム化合物、ピロメテン化合物、ピラゾロトリアゾール化合物、ベンゾチアゾール化合物、バルビツール酸誘導体、チオバルビツール酸誘導体等が適用できる。
【0073】
チタノセンと組み合わせて用いる開始助剤としては、更に欧州特許568,993号、米国特許4,508,811号、同5,227,227号、特開2001−125255号、特開平11−271969号等に記載の化合物も適用可能である。このようなチタノセン類のラジカル重合開始剤と開始助剤との組合せの具体例としては、特開2001−125255号、特開平11−271969号に記載のある組合せが挙げられる。
【0074】
<アミン>
本発明ではインクの保存安定の観点からアミン化合物を含有してもよい。アミン化合物としては、例えば、オクチルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、ナフチルアミン、キシレンジアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、ジブチルアミン、ジオクチルアミン、ジメチルアニリン、ジメチルオクタデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジヘプチルアミン、ジメチルデシルアミン、キヌクリジン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、2−メチルアミノエタノール、トリイソプロパノールアミンおよびトリエタノールアミンなどが挙げられ、そのうち窒素原子の電荷が−0.400以上である化合物は、トリイソプロパノールアミン、ジヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン等がある。
【0075】
<色剤>
本発明に係る活性エネルギー線で硬化するインクに用いる色材は、顔料あるいは染料を用いることができる。画像の耐候性の観点から、顔料を用いることが好ましい。
【0076】
有機顔料及び/または無機顔料等の種々のものが使用できる。具体的には、酸化チタン、亜鉛華、鉛白、リトボン及び酸化アンチモン等の白色顔料、アニリンブラック、鉄黒及びカーボンブラック等の黒色顔料、黄鉛、黄色酸化鉄、ハンザイエロー(100、50、30等)、チタンイエロー、ベンジンイエロー及びパーマネントイエロー等の黄色顔料、クロームバーミロオン、パーマネントオレンジ、バルカンファーストオレンジ及びインダンスレンブリリアントオレンジ等の橙色顔料、酸化鉄、パーマネントブラウン及びパラブラウン等の褐色顔料、ベンガラ、カドミウムレッド、アンチモン朱、パーマネントレッド、ローダミンレーキ、アリザリンレーキ、チオインジゴレッド、PVカーミン、モノライトファーストレッド及びキナクリドン系赤色顔料等の赤色顔料、コバルト紫、マンガン紫、ファーストバイオレット、メチルバイオレットレーキ、インダンスレンブリリアントバイオレット、ジオキサジンバイオレット等の紫色顔料、群青、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、無金属フタロシアニンブルー、銅フタロシアニンブルー、インダンスレンブルー及びインジゴ等の青色顔料、クロムグリーン、酸化クロム、エメラルドグリーン、ナフトールグリーン、グリーンゴールド、アシッドグリーンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、フタロシアニングリーン及びポリクロルブロム銅フタロシアニン等の緑色顔料の他、各種螢光顔料、金属粉顔料、体質顔料等が挙げられる。
【0077】
本発明で好ましく用いることのできる顔料を、以下に列挙する。
C.I.Pigment Yellow 1,2,3,12,13,14,16,17,73,74,75,81,83,87,93,95,97,98,109,114,120,128,129,138,150,151,154,180,185、C.I.Pigment Red 5,7,12,22,38,48:1,48:2,48:4,49:1,53:1,57:1,63:1,101,112,122,123,144,146,168,184,185,202、C.I.Pigment Violet 19,23、C.I.Pigment Blue 1,2,3,15:1,15:2,15:3,15:4,18,22,27,29,60、C.I.Pigment Green 7,36、C.I.Pigment White 6,18,21、C.I.Pigment Black 7。
【0078】
上記顔料の分散には、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等を用いることができる。また、顔料の分散を行う際に、分散剤を添加することも可能である。分散剤としては、高分子分散剤を用いることが好ましく、高分子分散剤としてはAvecia社のSolsperseシリーズや、味の素ファインテクノ社のPBシリーズが挙げられる。また、分散助剤として、各種顔料に応じたシナージストを用いることも可能である。これらの分散剤および分散助剤は、顔料100質量部に対し、1〜50質量部添加することが好ましい。分散媒体は、溶剤または重合性化合物を用いて行うが、本発明に用いる照射線硬化型インクでは、インク着弾直後に反応・硬化させるため、無溶剤であることが好ましい。溶剤が硬化画像に残ってしまうと、耐溶剤性の劣化、残留する溶剤のVOCの問題が生じる。よって、分散媒体は溶剤では無く重合性化合物、その中でも最も粘度の低いモノマーを選択することが分散適性上好ましい。
【0079】
顔料の分散は、顔料粒子の平均粒径を0.08〜0.2μmとすることが好ましく、最大粒径は0.3〜10μm、好ましくは0.3〜3μmとなるよう、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を適宜設定する。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、インク透明性および硬化感度を維持することができる。
【0080】
本発明に係るインクにおいては、色材濃度としては、インク全体の1質量%〜30質量%であることが好ましい。白以外のインクにおいては1質量%10質量%が更に好ましい。
【0081】
<添加剤>
本発明の活性エネルギー線で硬化するインクには、上記成分の他、必要に応じてインク中、50質量%までの量で以下の材料を加えることができる。
【0082】
高分子バインダー、無機充填剤、軟化剤、酸化防止剤、老化防止剤、安定剤、粘着付与樹脂、レベリング剤、消泡剤、可塑剤、染料、処理剤、粘度調節剤、有機溶剤、潤滑性付与剤及び紫外線遮断剤のような不活性成分を配合することができる。高分子バインダーとしては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類が好ましい。無機充填材の例としては、例えば、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化スズ、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化マグネシウム及び酸化マンガン等の金属/非金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化第一鉄及び水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸カルシウム及び硫酸カルシウム等の塩類、二酸化ケイ素等のケイ素化合物、カオリン、ベントナイト、クレー及びタルク等の天然顔料、天然ゼオライト、大谷石、天然雲母及びアンモナイト等の鉱物類、人工雲母及び合成ゼオライト等の合成無機物、並びにアルミニウム、鉄及び亜鉛等の各種金属等が挙げられる。これらの中には、前記顔料と重複するものもあるが、これらは必要に応じて前記必須成分の顔料に加え、組成物に充填材として配合させることもできる。潤滑性付与剤は、得られる塗膜の潤滑性を向上させる目的で配合されるものであり、例えば、ポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックス、ポリオレフィンワックス、動物系ワックス、植物系ワックス等のワックス類を挙げることができる。粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン酸、重合ロジン酸及びロジン酸エステル等のロジン類、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族炭化水素樹脂、脂肪族飽和炭化水素樹脂並びに石油樹脂等が挙げられる。
【0083】
本発明の活性エネルギー線で硬化するインクの調製は、これらを構成する材料を十分混合できれば特に混合方法に制限はない。具体的な混合方法としては、例えば、プロペラの回転に伴う撹拌力を利用する撹拌法、ロール練り混込み法及びサンドミル等の通常の分散機等が挙げられる。
【0084】
<インクの粘度>
本発明の活性エネルギー線で硬化するインクにおいては、25℃における粘度が5〜500mPa・sであることが、硬化環境(温度・湿度)に関係なく、良好な硬化性を得るために好ましい。
【0085】
<シングルパス方法の説明>
本発明ではシングルパスインクジェット方式により高速印字が可能である。シングルパス方式とは記録媒体の幅にインクジェットヘッドが並んだラインヘッドを記録媒体が1回だけ通過して記録を行う方法である。複数回スキャンするシリアル型インクジェット方式に比べ、記録速度が格段に速い特徴がある。しかしながらシングルパス方式は1回だけの記録であるため、連続して打たれるドット間で液よりなどを起こしてはじき、スジなどの故障が発生しやすいという課題がある。また、シリアル型であればはじきやスジなどが発生しても複数回のスキャンで修正できるが。シングルパス方式では1回だけの記録であるため、それらの故障を修正ができないという課題がある。
【0086】
<活性エネルギー線>
本発明で用いることのできる活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波等があり、紫外線が経済的に最も好ましい。紫外線の光源としては、紫外線レーザ、水銀ランプ、キセノンランプ、ナトリウムランプ、アルカリ金属ランプ等があるが、集光性を必要とする場合はレーザ光線が特に好ましい。
【0087】
活性エネルギー線の照射方法としてはシングルパス印字方式であるため、ラインヘッドの後ろに光源を配置して記録後に照射が行われる。インクが複数ある場合はそれぞれのラインヘッドの後に光源を設けて各インクの記録ごとに照射してもよいし、すべてインクをラインヘッド出射からして記録したのち最後に照射してもよい。
【0088】
<記録媒体>
本発明で用いることの記録媒体としては各種紙、合成紙、フィルム、金属、ガラス、布などが用いられる。その中でも印刷用紙、合成紙。フィルムが好ましい。各種紙としては上質紙、塗工紙などがあるが、印字品質の点から印刷用の塗工紙が好ましい。印刷用塗工紙としては微塗工紙、アート紙、キャストコート紙などがあり各製紙メーカーから販売されているものを使用することができる。合成紙は紙の風合いを持ったフィルムであり、具体的にはユポ・コーポレーション製のユポ、東洋紡製のクリスパー、チッソ製のカルレ、日清紡製のピーチコートなどがある。フィルムとしては印刷用、包装用、サインディスプレイ用などに用いられているものであり、材質としてはポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などがある。
【0089】
<記録媒体の表面エネルギー>
本発明では記録媒体の表面エネルギーの水素結合成分(γsH)の全表面エネルギー(γs)に対する比率(γsH/γs)が0.1以上0.5以下であることを特徴とする。γsH/γsが上記範囲にあることで、記録媒体との接着性、ラミネート適性、印字品質の向上が可能になった。
【0090】
記録媒体の全表面エネルギー(γs)はインクのぬれ性に影響する。全表面エネルギーの低い記録媒体であるとインクのぬれ拡がりが悪く、形成されるドット径が小さくなるため、スジやはじきが発生しやすくなる。インクのぬれ拡がりは全表面エネルギーが高くすることとインクの表面張力を下げることである程度がよくなるが、高い印字品質にはまだ不十分であり、それ以上の効果に記録媒体の表面エネルギーの水素結合成分が関係する。
【0091】
活性エネルギー線で硬化するインクは極性が比較的高いため、表面エネルギーの水素結合成分が上記範囲内にあることでインクと記録媒体の親和性がより向上してぬれ拡がりがよくなり、シングルパス方式でもスジやはじきの発生が抑制されたと考えられる。
【0092】
全表面エネルギーが同じでもγsH/γsが上記範囲外であると、ぬれ拡がりが不十分であったり、ぬれ拡がりすぎて細かい文字などを印字した場合ににじんでしまったりする。
【0093】
γsH/γsが0.1より小さいとインクのぬれ拡がりが不十分であり、インクの表面張力を低下してもぬれ拡がりが足らない。γsH/γsが0.5より大きいとインクのぬれ拡がりが大きくなりすぎて、細かい文字などの再現性が劣化したり、記録媒体にインク以外のごみや水分が付着しやすくなって印字品質が低下する。
【0094】
γsH/γsが0.1以上0.5以下であるとインクドットのぬれ拡がりがよくなりレベリングが向上し、膜厚が均一になり、記録媒体との接着性が向上する。活性エネルギー線で硬化するインクの場合、インク液滴のほとんどがモノマーであるために乾燥により揮発せずインク成分がすべて固形分として塗膜になるため、溶剤系や水系のインクに比較して膜厚が厚くなる。色数などにより変化するが膜厚としては数μm〜30μm程度である。そのため、膜厚むらがあると塗膜強度が均一でなくなり部分的に記録媒体との接着が悪くなる場合があった。
【0095】
膜厚が均一化することにより印字物保護などのためのラミネート適性も向上する。ラミネートはフィルム状のものを熱などで圧着するタイプと液状のラミネート剤を塗布して乾燥するタイプがあるが、いずれのタイプのものでも記録媒体上に形成された塗膜の膜厚が均一であればラミネート材との密着性も向上する。
【0096】
記録媒体の全表面エネルギー(γs)が25〜100mN/mであることがより好ましい。全表面エネルギーが25mN/mより小さいとインクのぬれが悪く印字品質として十分なドット径にならない場合がある。100mN/mより大きいとインクのぬれ拡がりが大きくなりすぎて、細かい文字などの再現性が劣化する場合がある。
【0097】
<表面エネルギー測定方法>
記録媒体の表面エネルギーは、表面エネルギーの3成分(γsD:分散力成分、γsP:極性成分、γsH:水素結合成分)が既知の液体の接触角を測定し、Young−Fowkes式を用いることで算出できる。たとえば、石井淑夫他編集「ぬれ技術ハンドブック(2001年発行)」(テクノシステム社刊)などに記載されている。
【0098】
<記録媒体の表面エネルギーを制御する方法>
記録媒体の全表面エネルギー(γs)、表面エネルギーの水素結合成分(γsH)を好ましい範囲に制御する方法としては、記録媒体を表面処理したり、記録媒体に表面コートする方法があげられる。表面処理としては記録媒体表面を物理的、化学的に処理する方法、たとえばコロナ放電、火炎処理、プラズマ処理、スパッタリングと、記録媒体表面にコート層を設ける方法がある。
【0099】
表面コート層を設ける方法としては公知の塗布方法でコート層を設けることができる。具体的な塗布方法としては、バーコーター塗布、ローラー塗布、スピンコート、スプレー塗布、ブレード塗布、グラビア塗布、押し出し塗布、インクジェット塗布などがある。表面コートはオフラインで設けてもよいし、インクジェット記録をする前にインラインで設けてもよい。また、インクをインクジェットで印字する前にインクジェットでコート層を設けてもよい。表面処理は記録媒体全面でもよいし、インクジェット記録する部分だけでもよい。
【実施例】
【0100】
以下に本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらの例に限定されるものではない。
【0101】
実施例1
<インク1(ラジカル重合型)の調製>
インク処方1
C.I.Pigment Black 7: 3部
ラウリルアクリレート: 29.9部
テトラエチレングリコールジアクリレート: 37.5部
カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート: 22.5部
信越シリコン製 KF−352: 0.1部
チバ・ジャパン製 イルガキュア184: 5部
チバ・ジャパン製 イルガキュア369: 5部
分散剤 味の素ファインテクノ製 PB822: 2部
上記記載のインク組成で下記のようにインクを作製した。尚、単位は質量部を表す。
【0102】
上記インク処方1のうち光重合性化合物及び分散剤をステンレスビーカーに入れ、65℃ホットプレート上で加熱しながら1時間撹拌混合し溶解させる。これに、色材を入れて、直径1mmのジルコニアビーズ200gと共にポリ瓶に入れ密栓し、ペイントシェーカーにて2時間分散処理した後、ジルコニアビーズを取り除き、インク処方1に示す残余の素材を加えて撹拌混合した。さらに界面活性剤(信越化学工業社製KF351)にて表面著力が25mN/mになるように調整した。
【0103】
その後、0.8μmメンブランフィルターで濾過してインク1を作製した。
【0104】
顔料分散液の調製
以下の方法に従って、顔料を含む顔料分散液を調製した。
【0105】
下記の2種の化合物をステンレスビーカーに入れ、65℃ホットプレート上で加熱しながら1時間加熱、撹拌して溶解した。
【0106】
オキセタン(東亞合成製OXT−221): 70部
上記溶液を室温まで冷却した後、これにC.I.Pigment Black 7を10部加えて、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れ密栓し、ペイントシェーカーで下記時間を要して分散処理した後、ジルコニアビーズを除去して顔料分散液を調製した。
【0107】
<インク2(カチオン重合型)の調製>
インク処方2
顔料分散液: 10部
オキセタン(東亞合成製OXT−221): 55.5部
オキセタン(東亞合成製OXT−212): 10部
エポキシ化合物(EP−17): 20部
光開始剤(サンアプロ製CPI−100P): 2.5部
増感剤(川崎化成工業製DEA): 2部
上記記載のインク組成を加えて攪拌し、さらに界面活性剤(信越化学工業社製KF351)にて表面著力が25mN/mになるように調整した。その後、0.8μmメンブランフィルターで濾過してインク2を作製した。
【0108】
<記録媒体>
記録媒体としてキャストコート紙(リンテック社製グロス)、アート紙(リンテック社製アートE)、未処理PETを使用した。
【0109】
<記録媒体の表面処理>
春日電機製コロナ放電処理装置を用いて、出力と処理時間を変えて表1のような表面エネルギーになるように記録媒体を処理した。また実験番号10については大気圧プラズマ処理装置を用いて、ガスの種類と出力を調整して表1のような表面エネルギーになるように記録媒体を処理した。
【0110】
<記録媒体の表面エネルギーの測定>
記録媒体の表面エネルギー(γsD:分散力成分、γsP:極性成分、γsH:水素結合成分)はYoung−Fowkes式を用いて水、炭酸プロピレン、ヨウ化メチレン、n−ノナンの接触角を測定することで求めた。接触角は液滴滴下後200msでの値を使用した。
【0111】
<インクジェット記録>
インクジェット記録はコニカミノルタ製インクジェットプリントユニットSP−L2130を用いて行った。記録速度は30m/minであり、シングルパス方式である。UVランプはGSユアサ製のものを用いた。解像度は360dpi×360dpi(dpiとは1インチ、即ち2.54cm当たりのドット数を表す)である。スキャン方式での印字はコニカミノルタ製インクジェット評価装置XY−100を用いて行ったが記録速度としては1m/minであり、シングルパス方式に比べて著しく遅かった。
【0112】
<スジの評価方法>
ベタ部を目視で観察し、スジの発生を評価した。
【0113】
○:スジの発生なし
△:スジがわずかに発生する
×:スジが発生し目立つ。
【0114】
<はじきの評価方法>
ベタ部を目視で観察し、はじきの発生を評価した。
【0115】
○:はじきの発生なし
△:はじきがわずかに発生する
×:はじきが発生し目立つ。
【0116】
<文字品質の評価>
7ポイントの英数文字を目視で評価した。
【0117】
○:文字がはっきりと認識できる
△:一部輪郭がぼやけるが文字の認識はできる
×:文字がにじんで認識がむずかしい。
【0118】
<接着の評価方法>
ベタ部にニチバン製セロハンテープを貼り、90度方向にすばやくはくりして記録部がはくりするか評価した。
【0119】
○:はくりなし
△:一部はくり
×:全面はくり。
【0120】
<ラミネート適性>
ラミーコーポレーション製PP系ラミネートフィルムPPG−20Sを明光商会製ラミネーターHA−330V6を用いてラミネートした。ラミネート適性について下記のように評価した。
【0121】
○:ラミネートフィルムが剥がれや浮きなく転写された
△:ラミネートフィルムの浮きがやや発生した
×:ラミネートフィルムがはがれてしまった。
【0122】
<記録速度>
○:30m/min
×:1m/min。
【0123】
<折り曲げ性>
ベタ印字部を山折り谷折りの繰り返しを50回行い折り曲げ性を評価した。
【0124】
○:変化なし
△:折り曲げ部に薄くスジが残る
×:折り曲げ部に亀裂が入り膜がはがれる。
【0125】
得られた結果を表1に示す。
【0126】
【表1】

【0127】
表1から明らかな通り、本発明のインクジェット記録方法によると、記録媒体に対する接着性、印字品質、ラミネート適性にすぐれたインクジェット記録物を得ることができる高速なインクジェット記録方法であることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面エネルギーの水素結合成分(γsH)の全表面エネルギー(γs)に対する比率(γsH/γs)が0.1以上0.5以下となる記録媒体に、活性エネルギー線で硬化するインクを用いてシングルパス方式で記録することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記インクが、活性エネルギー線によりカチオン型反応で重合して硬化するインクであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記インクがオキセタン化合物、オキシラン化合物、開始剤を含有することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記記録媒体の全表面エネルギー(γs)が25〜100mN/mであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記活性エネルギー線が紫外線であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記インクが複数の色のインクセットからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記記録媒体が印刷用紙、合成紙、フィルムのいずれかからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2010−17930(P2010−17930A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180069(P2008−180069)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】