説明

インクジェット記録用インク、該インクと前処理液とのセット、インクジェット記録方法

【課題】定着性が向上し、高画像濃度で、カラーブリードやフェザリングが少なく、耐擦化性、光沢性、耐マーカー性にも優れたインクジェット記録用インク、該インクと前処理液とのセット、及び該セットを用いたインクジェット記録方法の提供。
【解決手段】(1)水、水溶性有機溶媒、界面活性剤、顔料及び水溶性樹脂を含み、該水溶性樹脂としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有するインクジェット記録用インクと、カチオン性成分を含有する前処理液とからなるインクジェット記録用インクセット。
(2)被記録媒体に対して、カチオン性成分を含有する前処理液をインクジェット方式で付与した後、前処理された箇所に、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤、顔料及び水溶性樹脂を含み、該水溶性樹脂としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有するインクジェット記録用インクを用いて印字するインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インク、該インクと前処理液とのセット、及び該セットを用いたインクジェット記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被記録媒体表面に前処理液を塗布あるいは吐出した後、顔料インクを吐出することにより被記録媒体上で顔料を凝集させ、高画質化を図るという前処理方法は公知である。
例えば特許文献1には、水吸収能力の低い平滑な印刷用紙に対し、カチオン性シリカを含む前処理液で処理した後、カチオン性シリカと反応する水溶性樹脂を含むインクを用いて印刷する方法が開示されている。
しかし、従来の前処理方法では、高画像濃度は達成できても、凝集した顔料(画像)を十分に定着させることができず、特にラインエンジンシステムのような高速搬送時においては、搬送コロなどへの転写汚れが多く発生してしまい、また、カラーブリード、フェザリングの改善効果も不十分であるという問題があった。また、従来の水溶性樹脂を含むインクを用いた場合には、耐擦化性や光沢性も不十分であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、定着性が向上し、高画像濃度で、カラーブリードやフェザリングが少なく、耐擦化性、光沢性、耐マーカー性にも優れたインクジェット記録用インク、該インクと前処理液とのセット、及び該セットを用いたインクジェット記録方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、次の1)〜5)の発明によって解決される。
1) 水、水溶性有機溶媒、界面活性剤、顔料及び水溶性樹脂を含み、該水溶性樹脂としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有するインクジェット記録用インクと、カチオン性成分を含有する前処理液とからなることを特徴とするインクジェット記録用インクセット。
2) 前処理液のカチオン性成分がコロイダルシリカであることを特徴とする1)に記載のインクジェット記録用インクセット。
3) 水、水溶性有機溶媒、界面活性剤、顔料及び水溶性樹脂を含み、該水溶性樹脂としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有することを特徴とするインクジェット記録用インク。
4) 被記録媒体に対して、カチオン性成分を含有する前処理液をインクジェット方式で付与した後、前処理された箇所に、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤、顔料及び水溶性樹脂を含み、該水溶性樹脂としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有するインクジェット記録用インクを用いて印字することを特徴とするインクジェット記録方法。
5) 被記録媒体が普通紙であることを特徴とする4)に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、定着性が向上し、高画像濃度で、カラーブリードやフェザリングが少なく、耐擦化性、光沢性、耐マーカー性にも優れたインクジェット記録用インク、該インクと前処理液とのセット、及び該セットを用いたインクジェット記録方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】インクジェット記録装置の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本発明に係る前処理液は、カチオン性成分を必須成分とし、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤、酸などを含み、更に必要に応じてpH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤などの添加剤を含む。カチオン性成分としては、コロイダルシリカ、第4級アンモニウム塩、ポリアミン等のカチオン性ポリマーなどが挙げられるが、コロイダルシリカが好ましい。
本発明に係るインクジェット記録用インク(以下、インクと略称することもある)は、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤、顔料及び水溶性樹脂を含み、該水溶性樹脂としてシラノール変性ポリビニルアルコールを必ず含有する。さらに必要に応じてpH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤などを添加してもよい。
上記前処理液とインクを組み合わせて用いると、前処理液中のカチオン性成分と、インク中のシラノール変性ポリビニルアルコールとが凝集反応を起こすので、前述したインクの定着性向上などの効果が得られる。
前処理は、印字予定箇所に対しインクジェット方式で行なうことが好ましい。これにより前処理液の過剰塗布を防止でき、前処理液の使用量を減らしてコストを削減することができる。
【0008】
前処理液のカチオン性成分としてコロイダルシリカを用いる場合には、その添加量は、前処理液全体の0.1〜40質量%が好ましく、より好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは3〜15質量%である。0.1〜40質量%の範囲であれば、凝集反応による粘度上昇が適切な範囲に収まるし、ヘッドのノズル近傍での析出も防止できる。
コロイダルシリカとしては、水に分散した球状シリカの分散体であるシリカゾルなどが凝集効果が高いので好ましい。その市販品としては、スノーテックスAK(日産化学工業社製)、SMR8−17−109SMSG 3CS(グレースジャパン社製)、CEP10AK97002(CABOT社製)などが挙げられる。
【0009】
前処理液には、インク中のシラノール変性ポリビニルアルコールとの吸着性向上や前処理液の粘度調整のため、酸を含有させることが好ましい。
その添加量は、前処理液中のコロイダルシリカと酸の比率(質量基準)で、200:1〜5:1の範囲が好ましく、より好ましくは150:1〜8:1である。この範囲であれば、コロイダルシリカの分散安定性の向上、インク中に含まれるシラノール変性ポリビニルアルコール表面への吸着性向上を実現できる。
酸としては、無機酸や有機酸等から適宜選択して用いることができる。
無機酸としては、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、燐酸、硼酸、炭酸等が挙げられ、有機酸としては、カルボン酸やスルホン酸、アミノ酸等が挙げられる。
特に、コロイダルシリカの分散安定性やシラノール変性ポリビニルアルコールへの吸着性に優れることから、水中での一次解離定数pKaが5以下の酸が好適であり、その例としては、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸、乳酸、クエン酸、マレイン酸、マロン酸等が挙げられる。
【0010】
インクに含有させるシラノール変性ポリビニルアルコールは、前処理液中のコロイダルシリカとの凝集反応による定着性向上、及び印刷物の耐擦性向上の役割を果す。
その添加量は、インク全量に対して10質量%以上が好ましく、光沢度向上の観点からは15質量%以上がより好ましい。10質量%以上であれば、充分な画質改善効果が得られる。
シラノール変性ポリビニルアルコールの市販品としては、R1130、R2105(クラレ社製)等が挙げられる。
インクの保存安定性や吐出安定性を損なわない範囲で、シラノール変性ポリビニルアルコール以外の樹脂を併用してもよく、例えば種々の水溶性ポリマーやそのエマルジョン、ラテックス等から適宜選択して用いることができる。
【0011】
インクに用いる顔料は特に限定されないが、ブラック顔料インクには通常、カーボンブラックを用いる。その市販品としては、No.2300、No.900、MCF88、No.40、No.52、MA7、MA8、No.2200B(以上、三菱化成社製)、RAVEN1255(コロンビア社製)、REGAL400R、REGAL660R、MOGUL L(以上、キヤボット社製)、Color Black FW1、Color Black FW18、Color Black S170、Color Black S150、Printex 35、Printex U(以上、デグッサ社製)等が挙げられる。この他に、樹脂被覆型顔料や自己分散型顔料を用いてもよい。
【0012】
自己分散型顔料は、表面を改質処理して少なくとも1種の親水基を顔料の表面に直接若しくは他の原子団を介して結合させたものであり、分散剤を使用することなく安定に分散させることができる。
表面改質方法としては、例えば次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過硫酸塩、過硼酸塩、過炭酸塩などのアルカリ金属塩やアンモニウム塩などの酸化剤水溶液中にカーボンブラックを添加して酸化処理する方法、低温酸化プラズマ処理する方法、オゾンによって酸化する方法等が挙げられる。
親水性基としては、例えば、−COOM、−SOM、−POHM、−PO、−SONH、−SONHCOR(ただし、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表す。Rは、炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基を表す。)等が挙げられる。これらの中でも、−COOM、−SOMが好ましい。また、前記「M」のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、前記有機アンモニウムとしては、モノ乃至トリメチルアンモニウム、モノ乃至トリエチルアンモニウム、モノ乃至トリメタノールアンモニウムが挙げられる。
【0013】
また、カーボンブラックを、3−アミノ−N−エチルピリジウムブロマイドで処理することにより、下記〔化1〕に示す、N−エチルピリジル基を結合させる方法、あるいは、ジアゾニウム塩を反応させることにより、カチオン性親水性基を導入する方法もある。
カチオン性親水性基としては、第4級アンモニウム基が好ましく、具体例として下記〔化2〕に示すものが挙げられる。
【化1】

【化2】

【0014】
カラー顔料インクに用いる顔料は有機顔料、無機顔料のいずれでもよい。
有機顔料の例としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリレン系、イソインドレノン系、アニリンブラツク、アゾメチン系、ローダミンBレーキ顔料、カーボンブラック等が挙げられ、無機顔料の例としては、酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、紺青、カドミウムレッド、クロムイエロー、金属粉等が挙げられる。
顔料の含有量は、インク全体の6〜15質量%が好ましく、8〜12質量%がより好ましい。含有量が6質量%以上であれば、着色力が低下して画像濃度が低くなったり、粘度の低下によりフェザリングや滲みが悪化したりすることはない。また、15質量%以下であれば、記録装置を放置しておいた場合等に、ノズルが乾燥して不吐出現象が発生したり、粘度が高くなりすぎて浸透性が低下したり、ドットが広がらず画像濃度が低下したり、ぼそついた画像になったりするようなことはない。
【0015】
次に、前処理液とインクに共通する材料について説明する。
<水溶性有機溶媒>
水溶性有機溶媒は、乾燥によって記録ヘッドのノズルが詰まるのを防止する湿潤剤として、あるいは、前処理液と被記録媒体との濡れ性を向上させ、浸透速度を調整する浸透剤として添加する。
その添加量は、湿潤剤として用いる場合は、全体の10〜50質量%が好ましく、20〜35質量%がより好ましい。添加量が10質量%以上であれば、ノズルが乾燥して液滴の吐出不良が発生するようなことはなく、50質量%以下であれば、インク粘度が高くなりすぎて適正な粘度範囲を超えてしまうようなこともない。
また、浸透剤として用いる場合には、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。この範囲であれば、浸透剤としての機能が充分に発揮される。
【0016】
湿潤剤として用いる水溶性有機溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、2−メチル−1,3−へキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−へキサントリオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエ−テル額;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプロラクタム等の含窒素複素環化合物;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノ−ル等の含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0017】
浸透剤として用いる水溶性有機溶媒の例としては、グリセリン、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、エタノール、2−プロパノール等の低級アルコール類が挙げられるが、特にジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0018】
<界面活性剤>
界面活性剤は、表面張力を下げて被記録媒体との濡れ性を高め、微粒子層を速やかに形成すると共に、色材を凝集する作用があり、画質改善に効果がある。
その添加量は、全体の0.01〜3.0質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましい。ただし、界面活性剤も含めた、水よりも高沸点の25℃で液体である液体成分の合計含有量は、20質量%以下、特に15質量%以下とすることが好ましい。界面活性剤の添加量が0.01質量%以上であれば、その機能が充分に発揮され、3.0質量%以下であれば、被記録媒体への浸透性が必要以上に高くなって画像濃度の低下や裏抜けを生じるようなことはない。
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤から選ばれる一種を単独、又は二種以上を混合して用いることができる。特に好ましいのはノニオン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤である。
【0019】
アニオン系界面活性剤としては、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルアリールエーテルリン酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、アルキルアリールエーテルエステル硫酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルカンオレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、エーテルカルボキシレート、スルホコハク酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル、脂肪酸塩、高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物、ナフテン酸塩等が挙げられる。
【0020】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げれられる。
両性界面活性剤としては、イミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン誘導体、ジメチルアルキルラウリルベタイン、アルキルグリシン、アルキルジ(アミノエチル)グリシン等が挙げられる。
【0021】
フッ素系界面活性剤としては、下記一般式(I)〜(III)で示されるものが好ましい。
【化3】

(式中、mは、0〜10の整数、nは、1〜40の整数を表す。)
【化4】

(式中、Rfはフッ素含有基を表し、m、n、pは、それぞれ正の整数を表す。)
上記フッ素含有基としてはパーフルオロアルキル基が好ましく、中でも炭素数が1〜10のものが好ましく、1〜3のものがより好ましい。その具体例としては、−CF、−CFCF、−C、−C、などが挙げられ、これらの中でも、−CF、−CFCFが特に好ましい。また、nは1〜4、mは6〜25、pは1〜4が好ましい。
【化5】

(式中、Rfは、フッ素含有基を表し、Rはアニオン基を表し、Rはカチオン基を表し、qは正の整数を表す。)
上記フッ素含有基としては、前記一般式(II)の場合と同様のパーフルオロアルキル基が好ましい。また、Rとしては、COO、SO3−、SO4−、PO4―、などが挙げられる。また、Rとしては、第4級アンモニウム基;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン;トリエチルアミン、トリエタノールアミン、などが挙げられるが、中でも第4級アンモニウム基が好ましい。qは、1〜6が好ましい。
【0022】
<pH調整剤>
pH調整剤は、調合されるインクや前処理液に悪影響を及ぼすことなくpHを調整するために用いる。
その添加量は、全体の0.01〜3.0質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましい。
その例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、ジエタノールアミン、トリエタノ−ルアミン等のアミン類、硼酸、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸等が挙げられる。
【0023】
<防腐防黴剤>
防腐防黴剤は、菌の繁殖を押さえ、保存安定性、画質安定性を高めるために添加する。
その添加量は、全体の0.01〜3.0質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましい。
その例としては、ベンゾトリアゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、イソチアゾリン系化合物、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられる。
【0024】
<防錆剤>
防錆剤は、ヘッド等の接液する金属面に被膜を形成し腐食を防ぐために用いる。
その添加量は0.01〜3.0質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましい。
その例としては、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト等が挙げられる。
【0025】
本発明は被記録媒体が普通紙である場合にも有効である。ここで普通紙とは、インクジェット専用紙に代表されるような樹脂成分を主体とした塗工層を設けた紙ではなく、PPC用紙に代表されるような塗工層を有さない紙を指す。
最近、オフィスなど大量の文字や画像を記録する機会の多い場所ではコスト面で普通紙を用いる傾向が増えている。普通紙はインクが付着しても色材が紙表面に留まらず画像濃度が低下するため、予め前処理液を付与してインクジェット適性を確保し画像濃度を確保する手法が採用されており、本発明は有用である。
【0026】
図1に本発明のインクジェット記録方法に用いることができるインクジェット記録装置の一例を示す。
この装置は、装置本体101と、装置本体101に装着した用紙を装填するための給紙トレイ102と装置本体101に装着され画像が記録(形成)された用紙をストックするための排紙トレイ103とを備えている。そして、装置本体101の上カバー111の上面は略平坦な面であり、装置本体101の前カバーの前面112が上面に対して斜め後方に傾斜し、この傾斜した前面112の下方側に、前方(手前側)に突き出した排紙トレイ103及び給紙トレイ102を備えている。更に、前面112の端部側には、前面112から前方側に突き出し、上カバー111よりも低くなった箇所にカートリッジ装填部104を有し、このカートリッジ装填部104の上面に操作キーや表示器などの操作部105を配置している。このカートリッジ装填部104にカートリッジの脱着を行うための開閉可能な前カバー115を有している。
図示を省略したが、この装置は、ノズルプレートを有するインクジェットヘッド、前処理液又はインクジェット用インクを収容したカートリッジを備えており、該ノズルプレートの吐出面にはシリコン樹脂などからなる撥インク層を有する。このインクジェットヘッドに、記録信号に応じてパルス電圧を印加することにより、ノズルから前処理液及びインクジェット用インクが吐出される。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0028】
実施例1〜3、比較例1〜5
表1に示す組成の材料を混合攪拌した後、孔径0.5μmのメンブランフィルターでろ過し、更に真空脱気して前処理液及びインクジェット用インク(黒)を得た。
得られた前処理液及びインクをカートリッジに充填した。
次にインクジェットプリンター(リコー社製:IPSiO GX5000)を改造し、ノズルプレート面にシリコン樹脂を含有する撥インク層を有するインクジェットヘッドを装着し、上記カートリッジを挿入した。被記録媒体としてゼロックス社製PPC用紙4200を用い、始めに前処理液を吐出し、次いでインクを吐出して、解像度1200dpiでCYMKの4色を併用したコンポジットブラックのベタ印字を行った。
印字画像について、下記のようにして、画像濃度、スミア定着性、拍車痕、フェザリング、カラーブリードを評価した。結果を表1に示す。
なお、実施例1、2は前処理液の酸が異なる例であり、実施例3は自己分散型顔料を用いた例である。また、比較例1は前処理を行わない例、比較例2〜4はコロイダルシリカを含有しない前処理液及びシラノール変性PVAを含有しないインクの少なくとも一方を用いた例、比較例5は水分散型の樹脂を用いた例である。
【0029】
<画像濃度>
画像サンプルのベタ画像の濃度を、反射型カラー分光測色濃度計(X−Rite社製)で測定した。このときの付着量は9.5g/mであった。数値が大きいほど良好である。
【0030】
<スミア定着性>
印字後、3時間以上経過した時点で、クロックメータ(東洋精機社製)に装着した白綿布(東洋精機社製)を用いて印字したベタ画像部を10往復させ、白綿布に付着したインクの汚れを目視で観察し、下記基準により評価した。
〔評価基準〕
ランク5…汚れが全くない。
ランク4…汚れがわずかにある。
ランク3…汚れがあるが、実用上問題なし。
ランク2…汚れがやや顕著に認められる。
ランク1…汚れが顕著に認められる。
【0031】
<拍車痕>
各画像プリントの拍車痕の程度を目視で観察し、下記基準により評価した。
〔評価基準〕
◎:全く認められない。
○:かすかに認められる。
×:明確に拍車痕が認められる。
【0032】
<フェザリング>
黒文字部分を観察し、ランク見本と比較して画質を評価した。
〔評価基準〕
ランク5…滲み出しが全くない。
ランク4…滲み出しがわずかにある。
ランク3…滲み出しがあるが、実用上問題なし。
ランク2…滲み出しがやや多い。
ランク1…滲み出しが多い。
【0033】
<カラーブリード>
黒ベタ部とイエローベタ部との境界部分を観察し、ランク見本と比較して画質を評価した。
〔評価基準〕
ランク5…混色が全くない。
ランク4…混色がわずかに有る。
ランク3…混色があるが、実用上問題なし。
ランク2…混色がやや多い。
ランク1…混色が多い。
【0034】
<光沢度>
被記録媒体を光沢メディアであるリコービジネスコートグロス100(地肌60°光沢:21)に変えた点以外は、前述した画像濃度などの測定の場合と同様にしてベタ印字を行った。印字乾燥後、アトラス社製光沢度計Micro−Gross60°を用いて、60°光沢を測定した。数値が大きいほど良好である。
【0035】
<耐マーカー性>
被記録媒体をType6200紙(NBSリコー社製)に変え、解像度を600dpi変えた点以外は、前述した画像濃度などの測定の場合と同様にして、ベタ印字を行った。印字乾燥後、蛍光マーカー(三菱鉛筆社製、PROPUS2)で印字部をなぞり、顔料が取れることによって発生する汚れ具合を目視観察し、下記基準により評価した。
〔評価基準〕
ランク5:色落ちによる汚れが全くみられない。
ランク4:色落ちによる汚れが殆どみられない。
ランク3:若干の汚れが見られる。
ランク2:汚れが見られる。
ランク1:マーカーに沿って汚れが広がっている。
【0036】
【表1】

【0037】
表1中の各材料の製品名、会社名は次のとおりである。
・コロイダルシリカ:スノーテックスAK、日産化学社製
・シラノール変性ポリビニルアルコール:R1130、クラレ社製
・ポリエステル樹脂微粒子(ベスレジンA210:高松油脂社製、樹脂固形分30重量%)
・樹脂被覆型顔料(カーボンブラック):MONARCK880ベース水不溶性スチレンアクリル系ポリマー粒子水分散体
・自己分散型顔料(カーボンブラック):トーカブラック♯7240
・フッ素系界面活性剤:下記化学式IIにおいて、n=1〜4、m=6〜25、p=1〜4の範囲内にある混合物
【化6】

(式中、Rfはパーフルオロアルキル基である。)
【符号の説明】
【0038】
101 装置本体
102 給紙トレイ
103 排紙トレイ
104 カートリッジ装填部
105 操作部
111 上カバー
112 前カバーの前面
115 前カバー
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】特開2007−276387号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、水溶性有機溶媒、界面活性剤、顔料及び水溶性樹脂を含み、該水溶性樹脂としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有するインクジェット記録用インクと、カチオン性成分を含有する前処理液とからなることを特徴とするインクジェット記録用インクセット。
【請求項2】
前処理液のカチオン性成分がコロイダルシリカであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項3】
水、水溶性有機溶媒、界面活性剤、顔料及び水溶性樹脂を含み、該水溶性樹脂としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有することを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項4】
被記録媒体に対して、カチオン性成分を含有する前処理液をインクジェット方式で付与した後、前処理された箇所に、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤、顔料及び水溶性樹脂を含み、該水溶性樹脂としてシラノール変性ポリビニルアルコールを含有するインクジェット記録用インクを用いて印字することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項5】
被記録媒体が普通紙であることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−741(P2011−741A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143592(P2009−143592)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】