説明

インクジェット記録用インクセット、インクジェット記録方法、及び画像記録装置

【課題】顔料などの水不溶性色材を含み、インクジェット記録に用いられるインクとしての特性を満足する、複数のインクから構成され、高速定着性や高画質化に対応できるインクジェット記録用インクセットの提供。
【解決手段】水性媒体、水不溶性色材、及び、前記色材を前記水性媒体に分散させる分散樹脂を含有するインクを複数組み合わせてなるインクセットであって、前記インクセットは、同一色相を有する、第1のインクと第2のインクとを含み、前記第1のインクが、多価金属塩を含有し、かつ前記分散樹脂として非イオン性親水部を含む共重合体を用いるものであり、前記第2のインクが、前記第1のインクと反応して凝集するものであることを特徴とするインクジェット記録用インクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー画像の記録及び記録画像の保存に好適なインクジェット記録用インクセットに関する。また、本発明は、エネルギーを作用させることにより、記録媒体上に前記インクを吐出し、画像を形成するインクジェット記録方法、及びそれに用いる画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインクジェット記録方法に用いられるインクは、一般に水を主成分とし、これに乾燥防止、目詰まり防止などの目的でグリコールなどの水溶性高沸点溶剤を含有させたものが一般的であった。しかしながら、このようなインクを用いて普通紙に記録を行った場合には、十分な定着性が得られなかったり、記録紙表面の填料やサイズ剤の不均一な分布によると推定される不均一画像が発生したりすることがあった。特にカラー画像を得ようとした場合には、複数の色のインクが、紙に定着する以前に次々と重ねられることから、異色の画像の境界部分では色が滲んだり、不均一に混ざり合ったりして(以下、この現象をブリーディングと呼ぶ)、満足すべき画像が得られなかった。
【0003】
これに対し定着性を高める手段として、特許文献1に、インク中に界面活性剤などの浸透性を高める化合物を添加する方法が開示されている。また、特許文献2には、揮発性溶剤を主体としたインクを用いることが開示されている。しかし、前者のインク中に界面活性剤などを添加する方法では、記録紙へのインクの浸透性が高まり、インクの定着性やブリーディングについてはある程度向上するものの、インク中の色材も記録紙の奥深くまで浸透してしまう。このため、画像濃度及び彩度が低下するなどの不都合が生じる。その他、インクの横方向に対する広がりも発生し、その結果、エッジのシャープさが低下したり、解像度が低下したりするなどの問題も発生した。一方、揮発性溶剤を主体としたインクを用いる後者の方法の場合には、上記した前者の場合と同様の不都合が生じるのに加え、記録ヘッドのノズル部での溶剤の蒸発による目詰まりが発生し易く、好ましくなかった。
【0004】
上述した問題点を改善するために、記録インクの噴射に先立って記録媒体上に、画像を良好にせしめる反応液を付着させる種々の方法が提案されている。特許文献3には、多価金属イオンとカルボキシル基の反応を利用してブリーディングを防止する方法が提案されている。さらには、特許文献4には顔料と樹脂エマルジョンと多価金属塩による反応によりブリーディングを改善する方法も提案されている。これらの方法によれば、反応液を記録媒体に含浸させてから着色インクと反応させるために、ブリーディングはある程度抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−65269号公報
【特許文献2】特開昭55−66976号公報
【特許文献3】特開平5−202328号公報
【特許文献4】特開平9−207424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、着色インクが記録媒体に対して浸透性が高い場合には、発色性の低下及び裏抜けの問題が懸念され、逆に浸透性が低い場合には、インクの定着に時間がかかるという問題が懸念される。
【0007】
また、近年のインクジェット技術の進展により、多ノズル化、高速印字が進み、インクへの要求は益々増大している。そして、インクを吐出するノズルの高密度化、高速印字への対応によって、以下のことが問題となる。すなわち、ノズルから吐出されたインクが、着弾後浸透する前に、隣接するノズルから吐出されたインクと接触するため、ドットの形状を保持できずに画像品位を悪化させる、所謂マイクロビーディングといわれる現象などが問題となってくる。
【0008】
また、インクジェットプリンタのビジネス分野への展開を考慮したときに、印字速度のより一層の向上が要求されてくるようになると考えられる。このような用途としてインクジェットによるフルラインタイプの記録装置なども考案されている。このフルラインタイプの記録装置は、インク吐出ノズルを記録紙の幅方向に高密度に配列した、高速印字に対応した装置である。このような高速プリンタにおける大きな課題の一つが、インクの記録媒体への定着性である。定着性が悪い場合、先に排出された印字済み記録媒体の表面に、後続の記録媒体が積層される過程において、先の記録媒体の表面の印字を汚損したり、或いは後続の記録媒体の裏面に先に排出された記録媒体のインクが付着したりするなどの事態が生じる。そして、結果として、印字品位の低下や印刷物の美観を損ないかねない。また、インクジェット法によるカラー画像に対する高画質化への要求もまた高度化しつつある。特に顔料インクを用いる場合においては、染料インクを用いる場合と比較して、画像の光沢性が損なわれる場合がある。
【0009】
本発明は、このような従来の技術の問題点に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、顔料などの水不溶性色材を含み、インクジェット記録に用いられるインクとしての特性を満足する、複数のインクから構成され、高速定着性や高画質化に対応できるインクジェット記録用インクセットを提供することにある。また、本発明の目的は、該インクセットを使用したインクジェット記録方法、及び該インクジェット記録方法を用いた画像記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明の第一は、水性媒体、水不溶性色材、及び、前記色材を前記水性媒体に分散させる分散樹脂を含有するインクを複数組み合わせてなるインクセットであって、前記インクセットは、同一色相を有する、第1のインクと第2のインクとを含み、前記第1のインクが、多価金属塩を含有し、かつ前記分散樹脂として非イオン性親水部を含む共重合体を用いるものであり、前記第2のインクが、前記第1のインクと反応して凝集するものであることを特徴とするインクジェット記録用インクセットである。
【0011】
すなわち、本発明者らは、水不溶性色材を含むインクに使用する分散樹脂として、非イオン性親水部を含む共重合体を用いることで、同一系内に多価金属塩を含有させても、前記水不溶性色剤が凝集することなく安定に分散されることを見出し、本発明に至った。そして、本発明は、該インクと、該インクと反応して凝集する、多価金属塩を含まないインクとを組み合わせてなるインクセットであり、両者が接触することで、該多価金属塩を含まないインクが凝集し、紙面上で定着するようになる。
【0012】
また、本発明の第二は、前記した本発明のインクジェット記録用インクセットを用い、該インクセットを構成する、第1のインクと第2のインクとを、記録媒体に付与し、反応させて画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0013】
また、本発明の第三は、前記した本発明のインクジェット記録方法を用いて画像形成を行うことを特徴とする画像記録装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、顔料などの水不溶性色材を含み、インクジェット記録用インクとしての特性を満足する、複数のインクを有し、高速定着性が確保され、かつ、光沢性が良好で高画質な印字物が出力できるインクジェット記録用インクセットが提供される。また、本発明によれば、該インクセットを使用したインクジェット記録方法、及び該インクジェット記録方法を用いた画像記録装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)本発明のインクセットにおけるインク着弾時の状態を示す模式図である。(b)本発明のインクセットにおけるインク着弾時のドット形状を示す模式図である。(c)本発明のインクセットにおけるインク浸透後の状態を示す模式図である。
【図2】(a)本発明のインクセットにおけるインク着弾時の状態を示す模式図である。(b)本発明のインクセットにおけるインク着弾時のドット形状を示す模式図である。(c)本発明のインクセットにおけるインク浸透後の状態を示す模式図である。
【図3】(a)従来のインクセットにおけるインク着弾時の状態を示す模式図である。(b)従来のインクセットにおけるインク着弾時のドット形状を示す模式図である。(c)従来のインクセットにおけるインク浸透後の状態を示す模式図である。
【図4】(a)従来のインクセットにおけるインク着弾時の状態を示す模式図である。(b)従来のインクセットにおけるインク着弾時のドット形状を示す模式図である。(c)従来のインクセットにおけるインク浸透後の状態を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施例に係るプリント装置の概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のインクジェット記録用インクセット(以下、「インクセット」と称する)は、水性媒体、水不溶性色材、及び該色材を該水性媒体に分散させる分散樹脂を含有するインクを複数組み合わせてなる。また、本発明のインクセットは、同一色相を有する、第1のインクと第2のインクとを含む構成を有するものである。そして、前記第1のインクが、多価金属塩を含有し、かつ前記分散樹脂として非イオン性親水部を含む共重合体を用いるものであり、前記第2のインクが、前記第1のインクと反応して凝集するものであることを特徴とする。なお、以下の説明においては、前記第1のインクを「多価金属塩を含むインク」と、前記第2のインクを「多価金属塩を含まないインク」と、それぞれ称する場合がある。また、本発明においては、水不溶性色材として、主に顔料を用いることができる。このため、以下の記載において、水不溶性色材として顔料を用いた場合を例に本発明を説明する場合がある。
【0017】
なお、本発明において、同一色相とは、以下のことを示す。先ず、各々のインクを、インクジェットヘッドを用いて吐出し、600dpi(dot per inch)×600dpiの画像を普通紙上に形成して、得られた画像を目視で観察する。次に、その色相を、マンセルの色票に基づくマンセル記号の10のカテゴリー(R、YR、Y、GY、G、BG、B、PB、P、RP)に分類する。その際、各々の画像が、同じカテゴリーに属しているか、或いは、隣接するカテゴリーに属している場合には、同一色相であるということができる。すなわち、本発明のインクセットにおいて、同一色相を有する複数のインクは、顔料及びその濃度が同じでもよいし、顔料が同じでその濃度のみが異なる場合、類似の色相を持つ顔料から選ばれる2つの顔料を用いてもよい。
【0018】
ここで、本発明のインクセットを従来の技術との違いと対比させながら説明する。先ず、多価金属塩を利用したインクジェット記録方法としては、従来、多価金属塩を含む反応液と、顔料インクとを用い、これらを紙面上にて反応させて画像を形成する方法が採られてきた。これに対して、本発明においては、多価金属塩を顔料インク中に添加させてなるインクを用いる。そして、このインクを、紙面上で、同一色相の、他の多価金属塩を含まないインクと反応させることによって、多価金属塩を含まないインクを凝集させ、顔料粒子を紙面表層に定着させて、画像を形成する。
【0019】
また、従来、顔料インクを用いて、高密度ノズルで高速に印字を行った場合には、以下のような課題があった。この場合、隣接するドットとの着弾時間差が短くなるため、図4(a)に示すように、隣接するドット同士が紙面に浸透する前に接触する。このため、全く反応液を用いないと、これらのインクは表面張力により一つの集合体になった後に浸透する(図4(c)参照)。したがって、形成されるドット形状の再現性が悪く、画像劣化の原因(マイクロビーディング)となっていた。しかしながら、この方法では、インクの凝集反応が生じないことから、紙面上においてドットの段差が形成されにくく、光沢メディアなどに印字した場合の画像の光沢性は良好に保たれる。一方、透明な反応液を用いる場合、すなわち該反応液を予め異なるノズルで印字した後に、顔料インクを高速印字する場合においては、該反応液により全てのインクが凝集するため、ドット形状の再現性が高く、マイクロビーディングの問題は生じない。しかし、この場合においては、反応液によるインクの凝集反応によって、図3(c)に示す模式図のように、ドットの重なりが段差となるため、光が散乱されて、画像の光沢性が損なわれる場合があった。
【0020】
これに対して、本発明のインクセットを用いて高速印字すると、多価金属塩を含むインクと、多価金属塩を含まないインクとが、紙面上で接触した際、多価金属塩を含まないインクが急速に凝集するため、ドットの再現性が保たれる。さらに、本発明のインクセットを用いて印字する際には、図1(a)に示すように、先に、多価金属塩を含まないインクが印字された後に、多価金属塩を含むインクが印字されるようにすることが好ましい。この場合、ドットの重なり部分で上部に位置するようになる、多価金属塩を含むインクが凝集しにくいために、ドットの重なりが段差になりにくく、光沢性が良好な画像を得ることが可能となる(図1(c)参照)。なお、本発明のインクセットを用いて印字する際には、図2(a)に示すように、先に、多価金属塩を含むインクが印字された後に、多価金属塩を含まないインクが印字されるようにすることもできる。この場合、全てのインクが凝集するという、前記した従来の技術と比較して、ある程度ドットによる凹凸形成を抑制することが可能となる。
【0021】
前述の多価金属塩を含むインクは、多価金属塩を含んでいても保存状態において、インク中の顔料が凝集しないことが要求される。このようなインクを調製するためには分散樹脂の選択が重要である。本発明においては、多価金属塩を含むインクに使用する分散樹脂として、非イオン性親水部を含む共重合体を用いる。非イオン性親水部を含む共重合体を分散樹脂として用いることによって、同一系内に多価金属塩を含んでいても、非イオン性親水部による立体障害斥力が働き、顔料は凝集することなく安定に分散されることが可能となる。
【0022】
次に、本発明のインクセットの好ましい形態について説明する。
先ず、本発明においては、中間調の再現性や印字画像の粒状間の低減のため、同一色相内の、多価金属塩を含まないインクと、多価金属塩を含むインクとで、その顔料濃度を異ならせてもよい。この場合、多価金属塩を含むインクの顔料濃度を低くすることで、多価金属塩を含むインクの分散安定性が向上するため、好ましく適用できる。
【0023】
また、本発明のインクセットにおいては、同一色相の、多価金属塩を含まないインクと、多価金属塩を含むインクとで、P/B(顔料濃度/分散樹脂濃度)比を異ならせてもよい。この場合、多価金属塩を含むインクが、多価金属塩を含まないインクよりも、P/B比が小さい方が好ましい。また、多価金属塩を含まないインクは、多価金属塩を含むインクと反応して、凝集する必要があるため、P/B比は高い方が好ましいが、あまり高くするとインクの分散安定性が低下する。したがって、多価金属塩を含まないインクのP/Bは、1乃至5程度が好ましい。さらに好ましくは1乃至3程度である。一方、多価金属塩を含むインクは、多価金属塩を含まないインクと比較して、インクの分散安定性を保持するため、P/B比を低くする方が好ましく、具体的には、P/Bは0.5乃至3程度が好ましい。
【0024】
また、本発明のインクセットにおいては、同一色相の、多価金属塩を含まないインクと、多価金属塩を含むインクとで、pHを異ならせてもよい。この場合、多価金属塩を含むインクのpHが、同一色相を持つ、多価金属塩を含まないインクのpHと比較して低いことが好ましい。多価金属塩を含むインクのpHを、多価金属塩を含まないインクのpHよりも低く設定することによって、これらのインクの紙面上での反応性が向上する。
【0025】
また、本発明のインクセットを用いて画像を形成する場合、多価金属塩を含まないインクと、多価金属塩を含むインクとが、同一色相間で重なるように描画し、紙面上にて、これらのインクを反応させて画像を形成する。この場合、多価金属塩を含まないインクを先に紙面に付与した後に、該インクを付与した領域に、該インクと同一色相の多価金属塩を含むインクを付与することが好ましい。多価金属を含むインクは、紙面表面でも、分散樹脂の非イオン性親水部の働きにより顔料が凝集しにくく、分散状態が比較的長く保持される。このため、多価金属塩を含むインクを後に付与することにより、多価金属を含まないインクとのドットの重なり部分における段差を生じさせにくくなり、光沢性が良好な画像を形成することが可能となる。
【0026】
また、前述したように、紙面上で、多価金属塩を含まないインクが、多価金属塩を含むインクと反応して画像を形成するためには、紙面上でそれぞれのインクの浸透性を制御することが好ましい。本発明のインクセットにおいては、同一色相の、多価金属塩を含まないインクと、多価金属塩を含むインクとで、表面張力を異ならせることが好ましい。この場合、これらのインクは、紙面上で反応させることから、先に付与されるインクの浸透性を低くし、後から付与されるインクの浸透性を高めておく方が好ましい。すなわち、本発明においては、多価金属塩を含むインクの表面張力が、同一色相を持つ、多価金属塩を含まないインクの表面張力と比較して低いことが好ましい。インクの表面張力は界面活性剤の種類や添加量で調整される。多価金属塩を含まないインクにおいては、その表面張力が30mN/m以上50mN/m以下に調整されることが好ましい。より好ましくは40mN/m以上50mN/m以下である。一方、多価金属塩を含むインクの表面張力は25mN/m以上40mN/m以下に調整されることが好ましい。より好ましくは30mN/m以上35mN/m以下である。
【0027】
以下、本発明のインクセットを構成するインクの各成分について説明する。なお、以下の各成分の説明において、インクとは、特別に指定がない限り、多価金属塩を含むインクと多価金属塩を含まないインクの両方を指す。
【0028】
(水不溶性色材)
本発明において、水不溶性色材としては、顔料が用いられるが、顔料は、有機顔料及び無機顔料のいずれでもよい。インクに用いられる顔料としては、好ましくは、黒色顔料と、シアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料を用いることができる。なお、上記に記した以外の色顔料、無色又は淡色の顔料、又は金属光沢顔料などを使用してもよい。また、本発明において、市販の顔料を用いてもよいし、或いは新規に合成した顔料を用いてもよい。また、染料と併用して用いてもよい。
【0029】
以下に、黒、シアン、マゼンタ、イエローにおいて、市販されている顔料を例示する。
黒色の顔料としては、Raven1060、Raven1080、Raven1170、Raven1200、Raven1250、Raven1255、Raven1500、Raven2000。Raven3500、Raven5250、Raven5750、Raven7000、Raven5000 ULTRAII、Raven1190 ULTRAII(以上、コロンビアン・カーボン社製)。Black Pearls L、MOGUL−L、Regal400R、Regal660R、Regal330R。Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1300、Monarch 1400(以上、キャボット社製)。Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW200、Color Black 18、Color Black S160、Color Black S170。Special Black 4、Special Black 4A、Special Black 6、Printex35、PrintexU、Printex140U、PrintexV、Printex140V(以上、デグッサ社製)。No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学社製)などを挙げることができる。勿論、これらに限定されない。
【0030】
シアン色の顔料としては、C.I.Pigment Blue−1、C.I.Pigment Blue−2、C.I.Pigment Blue−3、C.I.Pigment Blue−15、C.I.Pigment Blue−15:2。C.I.Pigment Blue−15:3、C.I.Pigment Blue−15:4、C.I.Pigment Blue−16、C.I.Pigment Blue−22、C.I.Pigment Blue−60などが挙げられる。勿論、これらに限定されない。
【0031】
マゼンタ色の顔料としては、C.I.Pigment Red−5、C.I.Pigment Red−7、C.I.Pigment Red−12、C.I.Pigment Red−48、C.I.Pigment Red−48:1。C.I.Pigment Red−57、C.I.Pigment Red−112、C.I.Pigment Red−122、C.I.Pigment Red−123、C.I.Pigment Red−146。C.I.Pigment Red−168、C.I.Pigment Red−184、C.I.Pigment Red−202、C.I.Pigment Red−207などが挙げられる。勿論、これらに限定されない。
【0032】
イエローの顔料としては、C.I.Pigment Yellow−12、C.I.Pigment Yellow−13、C.I.Pigment Yellow−14、C.I.Pigment Yellow−16。C.I.Pigment Yellow−17、C.I.Pigment Yellow−74、C.I.Pigment Yellow−83、C.I.Pigment Yellow−93、C.I.Pigment Yellow−95。C.I.Pigment Yellow−97、C.I.Pigment Yellow−98、C.I.Pigment Yellow−114、C.I.Pigment Yellow−128、C.I.Pigment Yellow−129。C.I.Pigment Yellow−151、C.I.Pigment Yellow−154などが挙げられる。勿論、これらに限定されない。
【0033】
また、本発明を構成するインク、特に、多価金属塩を含まないインクでは、水に自己分散可能な顔料も使用できる。水分散可能な顔料としては、顔料表面にポリマーを吸着させた立体障害効果を利用したものと、静電気的反発力を利用したものとがある。市販品としては、CAB−0−JET200、CAB−0−JET300(以上、キャボット社製)、Microjet Black CW−1(オリエント化学社製)などが挙げられる。
【0034】
本発明において、インクに用いられる顔料の含有量は、インクの全質量に対して、0.1質量%以上50質量%以下の範囲あることが好ましい。顔料の含有量が、0.1質量%未満であると、十分な画像濃度を得られなくなり、50質量%を超えると顔料が凝集し分散できなくなる。さらに好ましい範囲としては、0.5質量%以上30質量%以下の範囲である。特に好ましくは0.7質量%以上10質量%以下の範囲である。本発明において使用する顔料の平均粒径としては、50nm以上200nm以下の範囲が好ましく、より良好な画質を得るためには100nm以下であることが好ましい。顔料の平均粒径の測定にはFPAR−1000(大塚電子)を用いて測定した。
【0035】
(分散樹脂)
本発明に用いる顔料粒子を水性媒体に分散させる分散樹脂としては、どのようなものでも使用可能だが、その重量平均分子量が1,000以上30,000以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、3,000以上15,000以下の範囲である。具体的には、下記に挙げるような単量体から選ばれた少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、或いは、ランダム共重合体、グラフト共重合体、また、これらの塩などが挙げられる。単量体としては、以下のものが挙げられる。スチレン及びその誘導体、ビニルナフタレン及びその誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなど、アクリル酸及びその誘導体、マレイン酸及びその誘導体、イタコン酸及びその誘導体、フマール酸及びその誘導体。また、後述するポリビニルエーテル構造を繰り返し単位構造として含有するトリブロック共重合体などが好適に用いられる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶でアルカリ可溶型樹脂である。なお、前記水溶性樹脂である前記分散樹脂は、インク全量に対して0.1質量%以上10質量%以下の範囲で含有されることが好ましい。また、本発明においては、前記第1のインク中における分散樹脂の含有量(質量%)が、該第1のインクと同一色相を持つ前記第2のインク中における分散樹脂の含有量と比較して、相対的に多いことが好ましい。
【0036】
また、本発明において、分散樹脂として用い得るブロック共重合体としては、少なくとも、疎水性セグメントと親水性セグメントを有した、ミセル形成しやすい構造であることが好ましい。さらには、疎水性セグメントと、非イオン性の親水性セグメントと、イオン性の親水性セグメントとが順に並ぶ構造を有するトリブロック共重合体か、若しくは、疎水性セグメントと、イオン性セグメントとからなるジブロック共重合体がより好ましく用いられる。なお、ブロック共重合体とは、異なる繰り返し単位構造からなるポリマーセグメントが共有結合で結合した共重合体であり、ブロックコポリマー、ブロックポリマーとも呼ばれる。また、ジブロック共重合体を用いる場合には、より低粘性な顔料分散液を作成可能である。
【0037】
また、本発明において、前記ブロック共重合体としては、従来から知られているブロック共重合体を用いることができる。具体的な例を挙げると、アクリル、メタクリル系ブロック共重合体、ポリスチレンと他の付加重合系又は縮合重合系のブロック共重合体、ポリオキシエチレン、ポリオキシアルキレンのブロックを有するブロック共重合体などである。本発明においては、前記ブロック共重合体は、ポリビニルエーテル構造を繰り返し単位構造として含有することが好ましい。
【0038】
前記したイオン性の親水性セグメント(Cセグメント)の具体的構造としては下記の一般式(1)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0039】

(一般式(1)中、R0は−X−(COOH)r、−X−(COO−M)r又は−X2−(COO)2−M2を表す。Xは炭素数1乃至20までの直鎖状、分岐状又は環状のアルカンジイル若しくはアルカントリイル基、又は−(CH(R5)−CH(R6)−O)p−(CH2)m−CH3-r−若しくは−(CH2)m−(O)n−(CH2)q−CH3-r−。又は、それらのメチレン基の少なくとも一つがカルボニル基又は芳香環構造で置換された構造を表す。rは1乃至2を表す。X2はXのうちrが2の基を表す。pは1乃至18までの整数を表す。mは0乃至35までの整数を表す。nは1又は0を表す。qは0乃至17の整数を表す。Mは一価のカチオンを表す。M2は二価のカチオンを表す。R5及びR6はアルキル基を表す。R5、R6は同じでも又は異なっていてもよい。)
【0040】
前記したイオン性の親水性セグメント(Cセグメント)を構成する一般式(1)で表される繰り返し単位構造の具体例としては、以下に記載したものが挙げられる。
【0041】

【0042】

【0043】
さらに、前記した、疎水性セグメント(Aセグメント)或いは非イオン性の親水性セグメント(Bセグメント)の具体的構造としては、下記の一般式(2)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0044】

(一般式(2)中、R1は炭素数1乃至18までの直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−(CH(R5)−CH(R6)−O)p−R7及び−(CH2)m−(O)n−R7から選ばれる基を表す。また、該基における、芳香環中の炭素原子に結合している水素原子は炭素数1乃至4の直鎖状又は分岐状のアルキル基と、また芳香環中の炭素原子は窒素原子とそれぞれ置換していてもよい。pは1乃至18の整数、mは1乃至36の整数、nは0又は1を表す。R5及びR6はそれぞれ独立に水素原子若しくは−CH3を表す。R5及びR6が複数ある場合はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。R7は水素原子、炭素数1乃至18までの直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−CHO、−CH2CHO、−CO−CH=CH2及び−CO−C(CH3)=CH2から選ばれる。また、R7が水素原子以外である場合、R7中の炭素原子に結合している水素原子は炭素数1乃至4の直鎖状又は分岐状のアルキル基又は−F、−Cl、−Brと、また芳香環中の炭素原子は窒素原子とそれぞれ置換することができる。Phはフェニル基、Pyrはピリジル基を表す。)
【0045】
前記した疎水性セグメント(Aセグメント)を構成する一般式(2)で表される繰り返し単位構造の具体例としては、以下に記載したものが挙げられる。
【0046】

【0047】
前記した非イオン性の親水性セグメント(Bセグメント)を構成する一般式(2)で表される繰り返し単位構造の具体例としては、以下に記載したものが挙げられる。
【0048】

などが挙げられる。
【0049】
また、本発明において、前記ブロック共重合体を構成する各ブロックセグメントは、上記したような繰り返し単位から選択された単一のものからなる構造のものでも、複数の繰り返し単位を有する構造のものでもよい。複数の繰り返し単位を有する構造のブロックセグメントの例としては、ランダム共重合体や徐々に組成比が変化するグラデュエイション共重合体がある。また、本発明において、前記ブロック共重合体は、ブロック共重合体構造が他のポリマーにグラフト結合したポリマーであってもよい。
【0050】
前記ブロック共重合体中に含有される一般式(1)或いは一般式(2)で表される繰り返し単位構造の含有量は、ブロック共重合体全体に対して、0.01mol%以上99mol%以下、好ましくは1mol%以上90mol%以下の範囲が好ましい。0.01mol%未満ではイオン性官能基或いは疎水性官能基或いは非イオン性親水性基の働くべき高分子相互作用が不充分な場合があり、99mol%を超えると逆に相互作用が働きすぎて機能が不充分な場合がある。本発明において、前記ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、200以上10,000,000以下であることが好ましく、より好ましく用いられる範囲としては1,000以上1,000,000以下である。10,000,000を超えると高分子鎖内、高分子鎖間の絡まりあいが多くなりすぎ、溶剤に分散しにくかったりする場合がある。200未満である場合、分子量が小さく高分子としての立体効果が出にくかったりする場合がある。各ブロックセグメントの好ましい重合度は3以上10,000以下である。さらに好ましくは5以上5,000以下である。特に好ましくは10以上4,000以下である。また、前記ブロック共重合体は、例えば、青島らによるリビングカチオン重合による方法(ポリマーブレタン誌 15巻、1986年、417頁、特開平11−322942号公報、特開平11−322866号公報)などを用いて得ることができる。
【0051】
また、本発明を構成する多価金属塩を含むインクでは、前記したように、分散樹脂として、非イオン性親水部を含む共重合体を用いる。これにより、同一系内に多価金属塩を含有したとしても、顔料が凝集することなく安定に分散する。また、非イオン性親水部を含む共重合体としては、前記したようなブロック共重合体を好ましく用いることができる。この場合、非イオン性の親水性セグメント(非イオン性親水部)と、イオン性の親水性セグメントとの重合度の比が、非イオン性の親水性セグメントの重合度を10としたとき、イオン性の親水性セグメントの重合度が5以下であることが好ましい。
【0052】
(顔料分散液の製造方法)
本発明に適用することのできる顔料分散液の製造方法としては、顔料とポリマーを原料として、通常の方法により容易に得ることができる。具体的にはポリマーが、原料に物理吸着して安定に微分散した状態にするため、サンドミル、ビーズミル、ニーダーなどの物理的処理の他、顔料とポリマーを溶媒中に共存させておき、溶媒中にてポリマーの溶解度を低下させて顔料表面に析出させる方法。また、一旦、顔料を溶解させて再度顔料化する際に同時にポリマーによる分散状態にする方法などの化学的処理方法などから適宜選択すればよい。
【0053】
(水性媒体)
本発明において、インクに好適に用いられる水性媒体としては、水、緩衝液及び水溶性有機溶剤の混合溶媒などを用いることができる。水及び緩衝液中に含まれる水としては種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。また、本発明において、インクに用いられる水溶性有機溶剤としては、水に可溶である限り特に制限はないが、好ましくは、以下のものが挙げられる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール。チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの多価アルコール類が好ましく用いられる。その他、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル。ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類。尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0054】
本発明において、インク中における水の含有量は、インク全質量に対して、50質量%以上95質量%以下の範囲であることが好ましい。また、インク中における水溶性有機溶剤の含有量は、インク全質量に対して、3質量%以上50質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0055】
(多価金属塩)
本発明におけるインクセットにおいては、前記したように、同一色相を有する、複数のインクのうち、少なくとも一つのインクが多価金属塩を含有する。この多価金属イオンしては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn3+、Ba2+、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co2+、Fe2+、La2+、Nd3+及びY3+からなる群から選ばれる少なくとも1つの多価金属陽イオンを用いることができる。これら陽イオンと結合して塩を形成することができる、代表的かつ好ましい陰イオンとしては例えば、Cl-、NO3-、I-、Br-、ClO3-、CH3COO-、SO3-があるがこれらに限定されるものではない。本発明において、多価金属塩を含むインクの多価金属塩濃度は0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。より好ましい多価金属塩濃度の範囲は1質量%以上5質量%以下である。さらに好ましい多価金属塩濃度の範囲は1質量%以上3質量%以下である。
【0056】
(その他の成分)
本発明において、インク中には、上記成分の他に、所望の物性値を持つインクとするために、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤などを添加することができる。
【0057】
(インクジェット記録方法)
また、本発明のインクジェット記録方法は、前記した本発明のインクセットを用い、該インクセットを構成する、第1のインクと第2のインクとを、記録媒体上に付与し、同一色相間で反応させて画像を形成することを特徴とする。本発明のインクジェット記録方法においては、前記第1のインクの付与に先立って、該第1のインクと同一色相を持つ前記第2のインクを付与することが好ましい。
【0058】
(画像記録装置)
また、本発明の画像記録装置は、前記した本発明のインクジェット記録方法を用いて画像形成を行うことを特徴とする。また、前記した本発明のインクセットを用いた場合、インクの定着性が良いため、使用する画像記録装置としては、フルラインタイプのプリントヘッドを具備する装置が好適である。図5はフルラインタイプのプリント装置の一例の概略構成を示す側面図である。このプリント装置はプリント媒体として記録媒体の搬送方向(同図中、矢印A方向)に沿って、所定の位置に配置された複数のフルラインタイプのプリントヘッド(インク吐出部)よりインクを吐出して、プリントを行うインクジェットプリント方式を採用する。
【0059】
ヘッド群101gの各プリントヘッドのそれぞれは、図中A方向に搬送される記録紙103の幅方向(図の紙面に対して垂直な方向)にインク吐出口を配列し、最大A3サイズの記録紙に対して、プリントすることができる。なお、各プリントヘッドは、101Bk1、101Bk2、101C1、101C2、101M1、101M2、101Y1及び101Y2が挙げられる。記録紙103は、搬送モータにより駆動される一対のレジストローラ114の回転によってA方向に搬送され、一対のガイド板115によって案内されてその先端のレジ合わせが行われた後に搬送ベルト111によって搬送される。エンドレスベルトである搬送ベルト111は2個のローラ112、113により保持されており、その上側部分の上下方向の偏位はプラテン104によって規制されている。ローラ113が回転駆動されることで、記録紙103が搬送される。
【0060】
なお、搬送ベルト111に対する記録紙113の吸着は静電吸着によって行われる。ローラ113は不図示のモータなどの駆動源により記録紙103を矢印A方向に搬送する方向に回転駆動される。搬送ベルト111上を搬送されこの間に記録ヘッド群101gによって記録が行われた記録紙103は、ストッカ116上に排出される。
【0061】
記録ヘッド群101gの各プリントヘッドからそれぞれ以下のインクが吐出される。すなわち、101Bk1、101C1、101M1及び101Y1から多価金属塩を含有しないインクが吐出される。また、101Bk2、101C2、101M2及び101Y2から多価金属塩を含有するインクが吐出される。そして、これらのインクが吐出されることで、同一色相間において、凝集反応を生じ、カラー画像のプリントが可能になる。これらのプリントヘッドのインク吐出方式としては、ピエゾ方式など周知のいずれの方式のものも採用できる。最も好ましい形態は、熱エネルギーを利用してインクに気泡を生じさせ、この気泡の圧力によってインクを吐出させる方式であり、インクが吐出するノズルの密度を高められるため好ましく用いられる。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載で「%」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。
【0063】
(ブロック共重合体の合成)
疎水性セグメント(A)が単位構造(20)、非イオン性の親水性セグメント(B)が単位構造(30)、イオン性の親水性セグメント(C)が単位構造(11)のブロック共重合体を、アルミニウム触媒を用いたリビングカチオン重合により計4種類合成した。
【0064】
具体的には、以下の方法でブロック共重合体をそれぞれ合成した。先ず、三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下250℃に加熱し吸着水を除去した。系を室温に戻した後、酢酸エチル16mmol、1−イソブトキシエチルアセテート0.1mmol、及びトルエン11mlにAブロックモノマーを加え、反応系を冷却した。系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロリド(ジエチルアルミニウムクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとの等モル混合物)を0.2mmol加え重合を開始した。分子量を時分割に分子ふるいカラムクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、Aブロックの重合の完了を確認した。
【0065】
次いで、Bブロックのモノマーを添加し、重合を続行した。GPCを用いるモニタリングによって、Bブロックの重合の完了を確認した後、Cブロック成分のトルエン溶液を添加して、重合を続行した。20時間後、重合反応を停止した。重合反応の停止は、系内に0.3質量%のアンモニア/メタノール水溶液を加えて行った。反応混合物溶液をジクロロメタンにて希釈し、0.6M塩酸で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた有機相をエバポレーターで濃縮・乾固したものを真空乾燥させたものを、セルロースの半透膜を用いてメタノール溶媒中透析を繰り返し行い、モノマー性化合物を除去し、目的物であるトリブロックポリマーを得た。
【0066】
さらに、ここで得られたトリブロックポリマーをジメチルフォルムアミドと水酸化ナトリウム水混合溶液中で加水分解し、Cブロック成分が加水分解され、ナトリウム塩化されたトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。
【0067】
さらに、水分散液中で0.1Nの塩酸で中和してC成分がフリーのカルボン酸になったトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。表1に今回作製したブロック共重合体の各セグメントの重合数、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnのデータを示す。
【0068】

【0069】
(顔料分散液の作製)
〔Black顔料分散液〕
超音波発生装置の槽内に機械的攪拌装置を備えた300mLコルベンを入れ、この中に上記で得たトリブロックポリマー12.0g、カーボンブラック12.0g、テトラヒドロフラン120mLを添加し、顔料表面が溶媒で十分濡れるまでよく混合した。次に、トリブロックポリマーの中和率が100%になるだけのKOHを含むアルカリ水溶液を滴下注入することで転相させた。その後、30分間プレミキシングを行い、ナノマイザYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて、顔料の平均粒径が100nm以下になるまで分散を行った。この分散液からロータリエバポレータを用いて、テトラヒドロフランを留去し、濃度調整を行って、顔料濃度(P)6%、分散樹脂濃度(B)6%、P/B=1.0のBlack顔料分散液を得た。なお、上記で使用したカーボンブラックは、Monarch880(キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ社製)である。
【0070】
〔Cyan顔料分散液〕
顔料をC.I.ピグメントブルー15:3に変えた以外は、Black顔料分散液と同様にして、顔料濃度5%、分散樹脂濃度5%、P/B=1.0のCyan顔料分散液を得た。
【0071】
〔Magenta顔料分散液〕
顔料をC.I.ピグメントレッド122に変えた以外は、Black顔料分散液と同様にして、顔料濃度5%、分散樹脂濃度5%、P/B=1.0のMagenta顔料分散液を得た。
【0072】
〔Yellow顔料分散液〕
顔料をC.I.ピグメントイエロー128に変えた以外は、Black顔料分散液と同様にして、顔料濃度6.5%、分散樹脂濃度6.5%、P/B=1.0のYellow顔料分散液を得た。
【0073】
(インクの調製)
前記で得た各顔料分散物に、それぞれ、グリセリン、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製)及び硝酸マグネシウムを加え、以下の表2〜6に示す組成でインクを調製した。なお、各色で硝酸マグネシウムを入ったインクと入っていないインクでの表面張力をアセチレノールEHの添加量で調整している。また、これらのインクのpHもKOHを用いて調整している。
【0074】
(インクセットの作製)
また、以下の表2〜6に示すインクの組み合わせで、インクセットを作製した。なお、表2〜5に示すインクセットは8色のインクから構成された場合の本発明の実施例である。また、表6に示すインクセットはその比較例を示している。また、表4に示すインクセットでは粒状性低減の目的でCyan、及びMagentaにおいては同一色相で顔料濃度の異なるインクを用いている。
【0075】

【0076】

【0077】

【0078】

【0079】

【0080】
(画像の評価)
上記で作製した各インクセットについて、下記のように色ムラ、ブリーディング、光沢性に関する評価を行った。評価は、フルラインタイプのプリンタに、各インクセットを搭載して、プロフェッショナルフォトペーパーPR101(キヤノン(株)製)にそれぞれ所定の条件の印刷を行い、得られた画像について行った。この評価に用いたフルラインタイプのプリンタに搭載しているヘッドは、13インチ幅に1200dpiでノズルが構成され、各ノズルの吐出量は4.8pLである。ヘッドは8本あり、各ヘッドに表2〜6に示すインクセット構成するインクを1色ずつ入れて画像を形成した。なお、実施例を用いた、各色相の画像形成にあたっては、硝酸マグネシウムが入っていないインクが、硝酸マグネシウムが入ったインクに先立って記録媒体上に付与されるようにした。
【0081】
(色ムラ評価)
ブラック、シアン、マゼンダ、イエローについて、それぞれ、2本のヘッドを用いて、ヘッドの幅方向2400dpi×紙送り方向4800dpiでベタ印字(28×5cm)を印刷し、色ムラの有無を確認した。色むらは以下の基準に基づき評価した。評価結果を表7に示す。
〔評価基準〕
評価A:色ムラが見えない。
評価B:若干の色ムラが発生している。
評価C:色ムラが顕著に発生している。
【0082】

【0083】
今回の評価では、実施例4及び比較例1において、スジ状のムラがみられた。これらのムラは、顕微鏡で観察したところ、マイクロビーディングによるムラであった。一方、実施例1におけるBkでのムラは、吐出不良によるムラであった。なお、実施例1及び4におけるムラは、実用上問題ないレベルであった。
【0084】
(ブリーディング評価)
ブラック、シアン、マゼンダについて、それぞれ、2本のヘッドを用いて、ヘッドの幅方向2400dpi×紙送り方向4800dpiで2mmの線幅で格子状のパターンを印字した。また、イエローについては、2本のヘッドを用いて、各格子状のパターンの間隙をベタ印字となるように印刷した。ブラック対イエロー、シアン対イエロー、マゼンタ対イエローの、それぞれの境界部の滲みや混色の度合いを確認した。ブリーディングは以下の基準に基づき評価した。評価結果を表8に示す。
〔評価基準〕
評価A:各箇所とも他色間の境界が鮮明であり、境界部に滲みや混色が見られない。
評価B:境界部に多少の滲みや混色が見られる。
評価C:境界部に滲みや混色が顕著に確認できる。
【0085】

【0086】
(光沢性評価)
印字画像はフォト画像を使用し、8色のインクを8本のヘッドで印字し、写像性評価器ICM−IDP(スガ試験機械社製)で反射60度、光学くし2mmでの写像性(光沢値C値%)を測定し、得られた値により光沢性を評価した。評価基準は以下の通りである。評価結果を表9に示す。
〔評価基準〕
評価A:C値%が55以上。
評価B:C値%が40以上55未満。
評価C:C値%が40未満。
【0087】

【0088】
実施例1〜4では、ほぼ満足のいく、光沢性が目視でも確認できる。また、実施例3では、粒状感も低減され、非常に高画質な画像が形成されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体、水不溶性色材、及び、前記色材を前記水性媒体に分散させる分散樹脂を含有するインクを複数組み合わせてなるインクセットであって、前記インクセットは、同一色相を有する、第1のインクと第2のインクとを含み、前記第1のインクが、多価金属塩を含有し、かつ前記分散樹脂として非イオン性親水部を含む共重合体を用いるものであり、前記第2のインクが、前記第1のインクと反応して凝集するものであることを特徴とするインクジェット記録用インクセット。
【請求項2】
前記第1のインクに用いられる分散樹脂が、該第1のインクと同一色相を持つ前記第2のインクに用いられる分散樹脂と比較して、相対的に、非イオン性親水部を多く含む請求項1に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項3】
前記第1のインク中における分散樹脂の含有量(質量%)が、該第1のインクと同一色相を持つ前記第2のインク中における分散樹脂の含有量と比較して、相対的に多い請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項4】
前記第1のインクの顔料濃度が、該第1のインクと同一色相を持つ前記第2のインクの顔料濃度と比較して低い請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項5】
前記第1のインクの表面張力が、該第1のインクと同一色相を持つ前記第2のインクの表面張力と比較して低い請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項6】
前記第1のインクのpHが、該第1のインクと同一色相を持つ前記第2のインクのpHと比較して低い請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項7】
前記分散樹脂が、ブロック共重合体である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項8】
前記分散樹脂が、ポリビニルエーテル構造を繰り返し単位として含有する請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項9】
前記多価金属のカチオンが、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn3+、Ba2+、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co2+、Fe2+、La2+、Nd3+及びY3+からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセットを用い、該インクセットを構成する、第1のインクと第2のインクとを、記録媒体に付与し、反応させて画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記第1のインクの付与に先立って、該第1のインクと同一色相を持つ前記第2のインクを付与する請求項10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のインクジェット記録方法を用いて画像形成を行うことを特徴とする画像記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−248419(P2010−248419A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101059(P2009−101059)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】