説明

インクジェット記録用インクセット及びその製造方法

【課題】 従来の低コストの簡素なメンテナンスシステムを備えたインクジェットプリンタに、顔料系インクと染料系インクとからなるインクジェット用インクセットを搭載した場合に、顔料の凝集を大きく抑制し、高品質のプリントを安定的にできるようにする。
低コスト、高画質、高信頼性なインクジェットプリンタを提供すること。
【解決手段】 着色材として負帯電型の自己分散性顔料を含む顔料系インクと、着色材としてアニオン染料を含む染料系インクとを有するインクジェット記録用インクセットは、以下式(1)
【数1】



(式中、“Dci”は、該染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量(mol/g)であり、“Pci”は、該顔料系インク中の自己分散性顔料のカウンターイオン量(mol/g)である。)
を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料系インクと染料系インクとを有するインクジェット記録用インクセット及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録に使用するインクとして、取扱性に優れ、沈澱物が析出し難く、良好な発色性を示し、種類の多いアニオン染料を着色剤として含有する染料系インクが従来より広く用いられている。また、染料系インクに比べて、発色の鮮明性の点で若干劣っているが、高い画像濃度と低いにじみ性とを示す顔料系インクがインクジェット記録用インクに使用されるようにもなっている。このような、顔料系インクに着色剤として使用される顔料としては、インク物性に影響を与えるような界面活性剤等の添加物を原則的に必要とせず、インク設計の自由度が比較的高い負帯電型の自己分散性顔料が使用されている(特許文献1)。
【0003】
これまでは、顔料系インクと染料系インクとのインク物性の相違のため、単一のインクジェットプリンタに同時に用いることは行われていなかったが、それぞれのインクの長所を生かすために、着色材に黒色顔料を用いた顔料系インク(ブラックインク)と、着色材にイエロー、シアンもしくはマゼンタ染料を用いた染料系インク(カラーインク)とからなるインクジェット記録用インクセットを搭載したインクジェットプリンタが上市されるようになった。このようなインクジェットプリンタにより、黒色の顔料系インクを用いて文字データをプリントした場合、プリントされた文字のエッジがシャープでコントラストも高いため、優れた視認性の文字プリントが得られる。また、グラフィックデータ等をプリントした場合、そのカラー部は鮮やかな色彩を呈する。このように、インクジェット用黒インクとして顔料系インクと用い、インクジェット用カラーインクとして染料系インクを用いることで、文字の視認性とカラー部の鮮やかさとの両立が期待できる。
【0004】
しかし、負帯電型の自己分散型顔料を用いた顔料系インクと、アニオン染料を用いた染料系インクとからなる一般的なインクジェット記録用インクセットを搭載するインクジェットプリンタにおいては、顔料系インクと染料系インクとが接触・混合した場合には、顔料系インク中の負帯電型の自己分散型顔料に対して、染料系インク中のアニオン染料のナトリウムイオン等のカウンターイオンが顔料表面の分散基に作用し、その解離度を低下させ、顔料の表面電荷(帯電量)を減少させる。このため、顔料の電気的反発力が低下し、もしくは失われ、顔料系インク中の顔料の分散性が低下し、顔料の凝集が生じる。顔料凝集体が生じると、プリントヘッドノズルに目詰まりを生じさせたり、プリントヘッドノズルの周辺に付着・固着した場合にはプリントヘッドの撥インクコート面を傷つけたりするため、吐出不良を引き起こしてプリント品質を低下させる可能性が高い。
【0005】
このような顔料系インクの凝集の問題は、製造コストを低減させるための簡素なメンテナンスシステムを備えたインクジェットプリンタにおいて顕著である。例えば、特許文献2に示すように、インクジェットプリンタは、プリントヘッドと、そのプリントヘッドの各色ノズルを一括してワイプするワイパ部材を有しているが、そのプリントヘッドには2色のノズル列が極度に近接して配設されているため、プリントヘッド内部のインクを吸引パージするための吸引キャップを1色ずつに分割することができず、プリントヘッドノズル面の2色のノズル列を一括して覆う構造となっている。例えば、黒インクとシアンインクのノズル列が、吸引キャップに一括して覆われる。そして、この吸引キャップを介して同時に吸引された2色のインクは、吸引キャップ内で混合され、一部がノズル面に付着することもある。従って、ワイプした際のプリントヘッドノズル面、ワイパ部材等に顔料系インクと染料系インクの混合インクが付着することになるため、そのような箇所に顔料が凝集すると、前述したような様々な不具合が発生する。プリンタ側でこのような不具合を解消するような改良が可能な面もあるが、コストの点で非常に不利である。
【0006】
このように、従来の低コストの簡素なメンテナンスシステムを備えたインクジェットプリンタに、顔料系インクと染料系インクとからなるインクジェット用インクセットを搭載した場合、顔料の凝集により高品質のインクジェット記録ができないおそれがある。
【0007】
【特許文献1】特開2000−303014
【特許文献2】特開2002−234151
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、従来の低コストの簡素なメンテナンスシステムを備えたインクジェットプリンタに、顔料系インクと染料系インクとからなるインクジェット用インクセットを搭載した場合に、顔料の凝集を大きく抑制し、高品質のプリントを安定的にできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、顔料系インク中の負帯電型の自己分散性顔料のカウンターイオン量と、染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量とに着目し、それらの間の関係を規制することにより顔料の凝集を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、着色材として顔料を含む顔料系インクと、着色材として染料を含む染料系インクとを有するインクジェット記録用インクセットにおいて、該顔料が負帯電型の自己分散性顔料であり、該染料がアニオン染料であり、且つ以下式(1)
【0011】
【数1】


【0012】
(式中、“Dci”は、該染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量(mol/g)であり、“Pci”は、該顔料系インク中の自己分散性顔料のカウンターイオン量(mol/g)である。)
を満たすことを特徴とするインクジェット記録用インクセットを提供する。
【0013】
また、本発明は、顔料系インク及び染料系インクとを有するインクジェット記録用インクセットの製造方法において、着色剤として負帯電型の自己分散性顔料を使用する顔料系インクと、着色剤としてアニオン染料を使用する染料系インクとを選択する際に、上述の式(1)を満たすものを選択することを特徴とする製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、顔料系インク中の負帯電型の自己分散性顔料のカウンターイオン量と、染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量との関係を特定の関係に規制しているので、顔料の凝集を大きく抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
本発明は、着色材として顔料を含む顔料系インクと、着色材として染料を含む染料系インクとを有するインクジェット記録用インクセットであり、顔料が負帯電型の自己分散性顔料であり、該染料がアニオン染料であり、且つ以下式(1)
【0017】
【数2】


【0018】
(式中、“Dci”は、該染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量(mol/g)であり、“Pci”は、該顔料系インク中の自己分散性顔料のカウンターイオン量(mol/g)である。)
を満たすことを特徴とする。式(1)の関係式に関して、以下等式を図示すると図1(図1中の直線X)のようになる。そして、この直線Xの下方が式(1)を満足する領域である。
【0019】
以下に、式(1)の意義について、負帯電型の自己分散性顔料が凝集するメカニズムを説明しながら述べる。
【0020】
顔料系インク中の自己分散性顔料の陽イオン(一般的には、主にナトリウムイオン)量は、その顔料の自己分散性に寄与するイオン性基(例えば、スルホン酸基などの分散基)量を示していると考えられる。そして、一般に顔料系インク中の陽イオン量は、染料系インク中の陽イオン量(こちらも一般的にナトリウムイオン)よりもかなり少ない。これは、着色剤のインク中での存在様式(即ち、非水溶性の顔料の分散状態/水溶性の染料の溶解状態)が相違することに起因している。
【0021】
さて、顔料系インクと染料系インクが接触、混合した場合、染料系インク中のナトリウムイオンなどの陽イオンが顔料系インクへ流れ込むことで、顔料粒子周辺の陽イオン量が増加し、顔料表面のカウンターイオンの解離平衡が崩れて解離度が下がる。その結果、顔料の電気的反発力が低下し、分散が不安定になって凝集するものと考えられる。
【0022】
ここで、顔料系インクにおいて、インク中の全陽イオン量に対して、顔料以外の材料に由来する陽イオン量は非常に少ないため、この陽イオン量は無視することができる。また、染料系インクについても同様のことが言える。したがって、顔料系インク中の全陽イオン量は顔料のカウンターイオン量に、染料系インク中の全陽イオン量は染料のカウンターイオン量にそれぞれ近似できる。
【0023】
従って、染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量[Dci(mol/g)]が、顔料系インク中の顔料のカウンターイオン量[Pci(mol/g)]よりも大きくなると、顔料が凝集する傾向が生ずる。図1の直線Xは、このことを後述する実施例及び比較例の実験結果により実験的に求めたものであり、この直線X(Dci=1.1×Pci+0.0001)の上方の領域(染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量が相対的に高くなる領域)は、顔料が凝集し易い領域となる。
【0024】
なお、染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量を下げると、顔料が凝集し難くなることは確かであるが、不都合も生じる。即ち、染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量を減少させるためには、スルホン酸基などの水溶性基が少ないアニオン染料を使用するか、アニオン染料自体の使用量を少なくすることが必要である。しかし、前者の場合には、アニオン染料の水性溶媒への溶解度が低くなるため、染料系インク中の染料濃度を高めることができず、印字物の光学濃度が低くなる。後者の場合にも、染料系インク中のアニオン染料の濃度が低くなるため、結果的に印字物の光学濃度が低くなる。従って、染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量を示すDci(mol/g)を、図1に示す直線Y(0.000074=Dci)のように、下式(2)を満たすようにすることが好ましい。この直線Yは、実用的な印字物の光学濃度の経験的下限を示したものであり、この直線Yの下方の領域(染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量が相対的に少なくなる領域)は、印字物の光学濃度が低い領域である。
【0025】
【数3】


【0026】
本発明のインクジェット記録用インクセットの顔料系インクにおいて着色剤として使用する顔料としては、公知の負帯電型の自己分散性顔料を使用する。このような顔料は、その表面に対しカルボキシル化および/またはスルホン化処理等が施されており、表面に負のゼータ電位を有するものである。
【0027】
このような顔料の具体例としては、キャボジェット(CAB−O−JET)200 BLACK、キャボジェット300 BLACK、キャボジェット250C CYAN、キャボジェット260M MAGENTA、キャボジェット270Y YELLOW(以上キャボット社製)、ライオジェット(LIOJET)WD BLACK 002C(東洋インキ社製)、ボンジェット(BONJET)BLACK CW−1、ボンジェットBLACK CW−2、ボンジェットBLACK CW−3(オリエント化学社製)等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
顔料系インク中の顔料の含有量は、好ましくは0.5〜10重量%である。
【0029】
染料系インクに用いる染料としては、陽イオンのカウンターイオンを有するアニオン染料、好ましくはモノアゾ染料を使用する。具体的には、C.I.Reactive Red 17、C.I.Acid Red 1、C.I.Acid Red 8、C.I.Acid Red 35、C.I.Acid Red 106、C.I.Acid Red 265等を挙げることができる。なお、モノアゾ染料を好ましく用いることのできる理由は、他の染料よりも染料構造中に疎水基が少ないため、顔料表面の疎水部分に作用することによる、染料自体の顔料凝集効力を最小限に抑えることができるためである。これらの染料は、単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。
【0030】
染料系インク中のアニオン染料の含有量は、好ましくは0.5〜10重量%である。
【0031】
なお、染料は不純物として多くの陽イオンを含むため、これらの不純物を精製によって除去したものを用いることが好ましい。精製方法としては、例えば、特開平9−25441号公報においてカリウム分の具体的な除去方法が開示されており、同様の方法で精製が可能であるが、この方法に限定されるものではない。また、他の顔料系インク材料や染料系インク材料についても、不純物を極力減らすために精製済みの純度の高いものを用いることが好ましい。
【0032】
ところで、負帯電型の自己分散性顔料、アニオン染料を着色材に用いる場合、それらの着色材のインク中における安定性は、陽イオンの種類と濃度に影響される。例えばナトリウムイオンやカリウムイオン等の1価陽イオン、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等の2価陽イオン、さらにアルミニウムイオン、チタンイオン等の3価以上の陽イオンは正の電荷を有している。このため、顔料系インク中に前述の陽イオンが過剰に含まれていると、顔料表面の負電荷と結合して電荷がゼロとなることにより、顔料の電気的反発力が失われて分散が不安定となり、凝集を生じてしまう。また、染料系インク中に前述の陽イオンが過剰に含まれていると、負電荷を有する染料分子と結合して電荷がゼロとなることにより、塩を形成して染料分子がインク溶媒中に溶解できなくなり、析出するおそれが生ずる。
【0033】
なお、2価以上の陽イオンは、1価陽イオンに比べ、顔料の分散状態や染料の溶解状態を不安定化する作用が非常に強いことが知られている。例えば、1価イオンに比べて2価イオンは20から80倍もの凝集力を有し、3価イオンは2価イオンの凝集力の2乗という桁外れの凝集力を、4価以上ではそれをはるかに越える大きな凝集力を有する。
【0034】
従って、顔料系インク及び染料系インクのそれぞれについて、2価以上の陽イオン含有量を極力少なくすることが求められ、具体的には、10ppm以下に調整することが好ましい。
【0035】
本発明のインクジェット記録用インクセットでは、インク溶媒として水を使用するが、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水等の純度の高いものを使用することが好ましい。
【0036】
また、水の他に、インク溶媒として、インクジェットヘッドの先端部における固形分析出防止や乾固防止のために、揮発性が比較的低い水溶性有機溶剤を使用することができる。このような水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、ペトリオール等の多価アルコール類、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプロラクタム等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物等を挙げることができる。これらの水溶性有機溶剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いることも可能である。
【0037】
また、顔料系インクあるいは染料系インク中の上記水溶性有機溶剤の含有量は、少なすぎると湿潤作用が不十分となり、インク中の水分が蒸発した場合に固形分の析出や、インク乾固等の問題が生じ、多すぎるとインクが必要以上に粘度上昇し、吐出不能となり、また、プリント媒体上での乾燥が極端に遅くなるので、好ましくはインク全量に対して5〜40重量%である。
【0038】
顔料系インクあるいは染料系インクには、その浸透性を制御する目的で、多価アルコールアルキルエーテルを配合することできる。具体例としては、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる。
【0039】
顔料系インクあるいは染料系インク中の浸透剤の含有量は、好ましくは0.05〜15重量%である。
【0040】
また、顔料系インクあるいは染料系インクには、そのプリント媒体への浸透、乾燥性を制御する目的で、エタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコールを配合することができる。
【0041】
さらに、顔料系インクあるいは染料系インクの吐出安定性やインクジェットヘッド内部への導入性、プリント品質等を満足させる目的で、表面張力を調整することが好ましく、このためには界面活性剤を用いることができる。具体的には、花王社製のエマール、ラテムル、レベノール、ネオペレックス、エレクトロストリッパー、NSソープ、KSソープ、OSソープ、ペレックス、アンヒトール・シリーズや、ライオン社製のリポラン、Kリポラン、ライポン、サンノール、リポタックTE、エナジコール、リパール、リオノール、ロータット・シリーズ等のアニオン界面活性剤; 花王社製のエマルゲン、レオドール、レオドールスーパー、エマゾール、エマゾールスーパー、エキセル、エマノーン、アミート、アミノーン・シリーズや、ライオン社製のドバノックス、レオコール、レオックス、ラオール、レオコン、ライオノール、カデナックス、リオノン、レオファット、エソファット、エソミン、エソデュオミン、エソマイド、アロモックス等の非イオン性界面活性剤等を例示できるが、特にこれに限定されるものではない。また、それらの界面活性剤を単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0042】
本発明のインクジェット記録用インクセットの基本構成は以上の通りであるが、その他に、それぞれの顔料系インクや染料系インクに、公知のpH調整剤、染料溶解剤、防腐防カビ剤、防錆剤等を必要に応じて添加することができる。
【0043】
上述した本発明の顔料系インク及び染料系インクとを有するインクジェット記録用インクセットは、好ましくは、着色剤として負帯電型の自己分散性顔料を使用する顔料系インクと、着色剤としてアニオン染料を使用する染料系インクとを選択する際に、前述した式(1)を満たすもの、好ましくは更に前述の式(2)を満たすものを選択し、セット化することにより製造することができる。ここで、セット化するとは、一つのインクジェットプリンタにて使用できるようにすることを意味する。
【0044】
本発明のインクジェット記録用インクセットは、一般的なインクジェットプリンタに使用することができるが、好ましくは、特開2002−234151に開示されているような、顔料系インクを吐出するノズルと染料系インクを吐出するノズルとが形成されたノズル面を有するプリントヘッドと、該ノズル面をワイプするワイパ部材とを有し、該プリントヘッドのノズル面に付着した顔料系インクと染料系インクとがワイパ部材でワイプされるインクジェットプリンタに適用することができる。ここで、インク滴を飛翔させる駆動力としては、ピエゾ素子を利用するものが好ましいが、熱エネルギーの作用によってインクを吐出させるタイプのインクジェット方式にも適用可能である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を具体化した実施例1〜8、比較例のための比較例1〜8のインクジェット用インクセットを示す。これらのインクセットを構成する顔料系インクとして黒インクを調製し、染料系インクとしてカラーインクを調製した。そして、それぞれのインクについてカウンターイオン量[Pci]と[Dci]を、ICP発光分析法(島津製作所製ICPS−1000IV)により測定した。
【0046】
【表1】



【0047】
【表2】


【0048】
【表3】







【0049】
【表4】



【0050】
【表5】





【0051】
【表6】





【0052】
【表7】



【0053】
【表8】







【0054】
【表9】




【0055】
【表10】






【0056】
【表11】




【0057】
【表12】






【0058】
【表13】




【0059】
【表14】






【0060】
【表15】




【0061】
【表16】



【0062】
得られた各実施例及び比較例の顔料系インクと染料系インクの混合時に顔料が凝集するか否かという点と、ノズルの目詰まりが生ずるか否かという点について、以下に示すように試験し評価した。得られた結果を表17に示す。
【0063】
<顔料凝集試験>
スライドガラスに顔料系インクと染料系インクとをそれぞれ一滴ずつ離して落とし、二つの液滴の上部からカバーガラスを静かに載せ、カバーガラス下で二つのインクを接触させた。それらのインクの接触領域を顕微鏡で観察し、顔料の凝集具合を目視にて観察した。この手法は、顔料系インクと染料系インクとを混合撹拌して行う凝集試験よりも、プリンタヘッドのノズル面における混合状態や、ワイパ等による実際の混合状態に近似しており、顔料の実機上での凝集状態と非常に良く相関がとれている。評価基準は以下の通りである。
【0064】
顔料凝集評価基準
ランク 内容
◎: 凝集が発生しないか、または発生しても10μm程度以下の凝集塊であり、凝集塊が流動性を有する場合
○: 凝集塊の大きさが20μm程度以下の凝集塊であり、凝集塊が流動性を有する場合
×: 凝集塊の大きさが20μm程度を越え、接触面全体に渡って凝集塊が発生し、凝集塊の流動性が無い場合
【0065】
<ノズル目詰まり試験>
各実施例及び比較例のインクセットのそれぞれについて、室温下、連続3000回のヘッドノズル面のワイプ試験を実施し、ノズルの目詰まりを評価した。なお、評価機として用いたプリンタは、ブラザー工業社製MFC−3100Cである。プリントヘッドノズル面のワイピング試験では、顔料系インク(黒インク)および染料系インク(カラーインク)のそれぞれを吐出するノズル列を、横方向に一括してワイプするため、顔料系インクと染料系インクが接触する構造となっている。評価基準は以下の通りである。
【0066】
ノズル目詰まり評価基準
ランク 内容
○: 連続3000回のプリントヘッドノズル面のワイピング試験において不吐出、曲がり無しの場合
×: 連続3000回のプリントヘッドノズル面のワイピング試験において不吐出、曲がり有りであって、不吐出、曲がり共に短時間で回復しない場合















【0067】
【表17】



【0068】
表17から明らかなように、本発明の実施例によれば、顔料系インク(黒インク)及び染料系インク(カラーインク)は、それぞれ単体の時に分散性または溶解性が安定しており、さらにそれらが互いに接触・混合しても、顔料の凝集が生じない。このため、顔料の凝集体がプリントヘッドノズルを詰まらせたり、その周辺に付着・固着して撥インクコート面を傷つけたりすることが無いので、吐出不良を引き起こしてプリント品質が悪化することがない。さらに、ワイパに付着・固着してワイプが不均一になったりすることが無いので、信頼性が悪化することもない。
【0069】
また、顔料凝集試験の試験条件から、顔料系インクと染料系インクが1:1で混合する場合、その混合液中の顔料のカウンターイオン量はPci/2、染料のカウンターイオン量はDci/2となる。図1に、各実施例及び比較例の顔料系インクのPci/2と染料系インクのDci/2を、図1にプロットした。実施例のデータは「◎」および「○」で表し、比較例のデータは「×」で表した。
【0070】
図1から分かるように、直線X(即ち、Dci=1.1×Pci+0.0001)を境にして、その下方領域に実施例のインクが含まれている。また、性能上問題のある各比較例のインクは、その上方領域に含まれている。従って、顔料の凝集を抑制するためには顔料表面の分散基と染料のカウンターイオンのバランスが重要であることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のインクジェットプリンタ用インクセットは、顔料を含んだ顔料系インクと染料を含んだ染料系インクを併用しても、顔料系インクと染料系インクとの接触・混合時に顔料の凝集が抑制され、ノズル目詰まりも抑制されているものである。よって、インクジェットプリンタにこのインクセットを使用した場合、顔料の分散不安定化による凝集が原因で、吐出不良や吐出曲がり等、プリント品質の重大な劣化を引き起こすことがない。さらに、ワイパ等のメンテナンスシステムにおいても、顔料系インクと染料系インクを分割する必要が無くなるため、コストダウンにも大きく寄与することができる。従って、低コストのプリンタで安定したプリント品質、高いプリント品質、高い信頼性を同時に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】顔料系インク中の顔料のカウンターイオン量と染料系インク中の染料のカウンターイオン量と、本発明の実施例及び比較例の結果との関係図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色材として顔料を含む顔料系インクと、着色材として染料を含む染料系インクとを有するインクジェット記録用インクセットにおいて、
該顔料が負帯電型の自己分散性顔料であり、該染料がアニオン染料であり、且つ以下式(1)
【数1】



(式中、“Dci”は、該染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量(mol/g)であり、“Pci”は、該顔料系インク中の自己分散性顔料のカウンターイオン量(mol/g)である。)
を満たすことを特徴とするインクジェット記録用インクセット。
【請求項2】
該染料系インク中の染料のカウンターイオン量を示すDci(mol/g)が、以下式(2)
【数2】



を満たす請求項1記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項3】
2価以上の陽イオン量が、10ppm以下である請求項1又は2記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項4】
顔料系インクを吐出するノズルと染料系インクを吐出するノズルとが形成されたノズル面を有するプリントヘッドと、該ノズル面をワイプするワイパ部材とを有し、該プリントヘッドのノズル面に付着した顔料系インクと染料系インクとがワイパ部材でワイプされるインクジェットプリンタに適用するための請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項5】
顔料系インクと染料系インクとを有するインクジェット記録用インクセットの製造方法において、着色剤として負帯電型の自己分散性顔料を使用する顔料系インクと、着色剤としてアニオン染料を使用する染料系インクとを選択する際に、以下式(1)
【数3】


(式中、“Dci”は、該染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量(mol/g)であり、“Pci”は、該顔料系インク中の自己分散性顔料のカウンターイオン量(mol/g)である。)
を満たすものを選択することを特徴とする製造方法。
【請求項6】
該染料系インク中のアニオン染料のカウンターイオン量Dci(mol/g)が、以下式(2)

【数4】



を満たす請求項5記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−2094(P2006−2094A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181753(P2004−181753)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】