説明

インクジェット記録用プライマー

【課題】種々の非吸収性被記録媒体上にインクジェットインクにより形成した画像の定着性を向上させることができ、かつ、高品質の画像を実現し得る、それ自体も被記録媒体上にインクジェット方式により塗設されるプライマーインクを提供すること
【解決手段】N−ビニルラクタム化合物、アクリルアミド系化合物およびN−ビニルアミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種の密着促進成分、ならびに2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートを含有し、プライマーインクの表面張力が25〜31mN/mであり、粘度が50mPa・s以下であるプライマーインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプライマーに関し、さらに詳しくは、インクジェット方式により塗設されるインクジェット記録用のプライマーインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インク吐出口からインクを液滴で吐出するインクジェット方式は、小型で安価であり、被記録媒体に非接触で画像形成が可能である等の理由から多くのプリンターに用いられている。
【0003】
最近では、家庭用またはオフィス用の写真印刷や文書印刷に留まらず、広告、ポスター、および装飾等の用途でインクジェットプリンターを用いた商業用印刷や産業用印刷が行なわれている。これに伴って、商業用印刷や産業用印刷に適するインクジェットインクおよびインクジェットインク記録印刷物として使用し得るよう、従来の家庭用またはオフィス用のインクジェットインクおよびインクジェット記録印刷物に対して、(1)形成した画像品質が高いこと、および(2)プラスチックなどの非吸収性の被記録媒体を含む種々の被記録媒体に印刷可能なこと、が強く求められている。
【0004】
従来、家庭用またはオフィス用の印刷に用いるインクジェットインクおよび記録装置、ならびに方法(以下、インク、装置および方法を含めてインクジェットインク等と略する)の多くは、写真プリントまたは文書印刷を意図して開発されてきた。このため、従来のインクジェットインク等では、非吸収性の被記録媒体に記録を行う場合、打滴後の液滴の乾燥や被記録媒体への浸透に時間がかかると画像に滲みが生じやすく、また、被記録媒体上で隣接するインク液滴間で混合が生じ、鮮鋭な画像形成が妨げられるなどの問題がある。さらに、非吸収性の被記録媒体上に画像を形成した場合、被記録媒体から剥がれやすく擦過性に劣るなど、画像の定着性が良好でないという実用上の問題点がある。また、高速印刷に適用した場合には、打滴された後、隣接する液滴が合一して液滴移動するために、着弾した位置からずれ、細線を描く場合には線幅が不均一となり、また着色面を描く場合には色ムラ等が発生するなど、打滴干渉により色ムラ等が発生するという問題がある。
なお、以下、本明細書においては、擦過性や剥れやすさなどの特性を「定着性」と称し、色ムラや線幅の不均一など画像品質に関わる特性を「描画性」と称する。
【0005】
上記課題を解決する方法としてはこれまでに、例えば、インク自体の成分や構成を改良する技術(例えば、特許文献1)や、インクジェット記録装置や方法を改良する技術(例えば、特許文献2)など、様々な技術が提案されてきている。しかしながら、上記文献に開示された技術により、特に、商業用や産業用の印刷物において重要となる非吸収性の被記録媒体に記録した画像の定着性についての課題を十分に解決することができなかった。一方、特許文献3は、定着性の課題を解決するためにプライマーを採用し、記録方法としてプライマーを半硬化させてシングルパスで実施することを開示している。また、インクやプライマーの成分、およびそれらの好ましい物性ならびに両者の関係についても記載または示唆している。これは定着性の問題を総合的な面から解決しようとしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−531223号公報
【特許文献2】特開2005−096254号公報
【特許文献3】特開2009−083267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3では用いられていないPET以外の非吸収性の被記録媒体(例えばアクリル製のシート)上に、特許文献3に記載された化合物を用いてプライマーを形成し、その上に形成した画像は、爪で軽く擦っただけで直ぐに剥れてしまい、描画性を評価する段階に到らなかった。すなわち、非吸収性の被記録媒体に形成した画像の定着性と描画性は、未だ十分に満足のいくものではない。
【0008】
したがって、本発明の課題は、種々の非吸収性被記録媒体上にインクジェットインクにより形成した画像の定着性を向上させることができ、かつ、高品質の画像を実現し得る、それ自体も被記録媒体上にインクジェット方式により塗設されるプライマーインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
非吸収性の被記録媒体にインクジェットインクを用いて画像を形成する場合に、プライマー(下塗り)を付与することは画像の定着性を改善するために有効であり、プライマーに使用される物質は過去多くの文献で取り上げられてきている。しかしながら、上記特許文献3に代表されるように、従来の文献においては、プライマーに使用可能な物質は一般的に記載されているにすぎず、また、プライマー自体をインクジェット方式で塗設するという発想はなかった。さらに、プライマーを構成する物質は、機能的に分類した場合(1)被記録媒体との密着力を確保すること、(2)画像形成用インクの印刷画像と親和力を有すること、および(3)塗膜硬化性を有すること、のすべてを満足するよう構成される必要がある。
本発明者らは、種々の非吸収性被記録媒体上にインクジェットインクにより画像を形成する場合に、N−ビニルラクタム化合物、アクリルアミド系化合物およびN−ビニルアミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種の密着促進成分を含有し、かつ、重合性化合物として2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートを含有するプライマーインクが、画像の定着性および描画性を向上し得ることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明の対象およびその好ましい態様は、以下の通りである。
[1]重合性化合物および重合開始剤を含有するプライマーインクであって、N−ビニルラクタム化合物、アクリルアミド系化合物およびN−ビニルアミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種の密着促進成分、ならびに2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートを含有し、プライマーインクの表面張力が25〜31mN/mであり、粘度が50mPa・s以下であるプライマーインク。
[2]ゲル化防止剤および表面調整剤をさらに含有する前記[1]に記載のプライマーインク。
[3]表面張力が25〜32mN/m である画像形成用インク組成物のためのプライマーとして用いる前記[1]または[2]に記載のプライマーインク。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非吸収性の被記録媒体に対する定着性が良好であり、かつ高画質である、インクジェットインクにより形成された印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のプライマーインクは、N−ビニルラクタム化合物、アクリルアミド系化合物およびN−ビニルアミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種の密着促進成分を含有する。
本発明のプライマーインクに含有し得るN−ビニルラクタム化合物としては、例えば、N−2−ビニルピロリドンおよびN−ビニルカプロラクタム等が挙げられる。また、アクリルアミド系化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリロイルモルフォリン等が挙げられる。N−ビニルアミド化合物としては、N−ビニルホルムアミドおよびN−ビニルアセトアミド等が挙げられる。
特に、本発明のプライマーインクにおける密着促進成分としては、N−ビニルカプロラクタム、N−2−ビニルピロリドン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、およびN−ビニルホルムアミドを用いることが好ましい。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリルアミド」とは、「アクリルアミド」または「メタクリルアミド」を表し、後述する「(メタ)アクリレート」や「(メタ)アクリロイルオキシ」等の表記も同様の意味を有する。
【0013】
本発明のプライマーインクは、N−ビニルラクタム化合物、アクリルアミド系化合物およびN−ビニルアミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種の密着促進成分を、プライマーインク100質量部に対して、好ましくは5質量部以上60質量部以下の量、より好ましくは10質量部以上50質量部以下の量で含有する。
【0014】
本発明のプライマーインクは、重合性化合物を含有する。本発明における重合性化合物は、重合開始剤等から発生するラジカルなどの開始種により重合または架橋し、これらを含有する組成物を硬化させる機能を有する化合物である。
具体的には、例えば、少なくとも1個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物、マレイミド基を側鎖に有する高分子化合物、芳香核に隣接した光二量化可能な不飽和二重結合を有するシンナミル基、シンナミリデン基やカルコン基等を側鎖に有する高分子化合物などが挙げられる。中でも、重合開始剤から発生する活性ラジカルにより重合するラジカル重合性化合物が好ましい。
【0015】
〔ラジカル重合性化合物〕
本発明のプライマーインクに含有し得るラジカル重合性化合物としては、特にラジカル重合開始剤から発生する開始種により重合または架橋反応するラジカル重合性のモノマーを用いることが好ましい。さらに、ラジカル重合性モノマーとしては、少なくとも1個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物がより好ましく、少なくとも1個の末端エチレン性不飽和結合を有する化合物から選択される化合物であることが特に好ましい。例えば、(メタ)アクリレート類、芳香族ビニル類、ビニルエーテル類および内部二重結合を有する化合物(マレイン酸など)等が挙げられる。また、これらの化合物の化学的形態としては、モノマー、プレポリマー(すなわち2量体、3量体およびオリゴマー)およびそれらの共重合体、ならびにそれらの混合物が含まれる。
【0016】
具体的には、例えば、単官能(メタ)アクリレート化合物として、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、tert−オクチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−n−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルジグリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、4−ブロモブチル(メタ)アクリレート、シアノエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ブトシキメチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、アルコキシメチル(メタ)アクリレート、アルコキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシル(メタ)アクリレート、4−ブチルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,4,5−テトラメチルフェニル(メタ)アクリレート、4−クロロフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、トリメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、オリゴエチレンオキシドモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド(メタ)アクリレート、オリゴエチレンオキシド(メタ)アクリレート、オリゴエチレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、オリゴプロピレンオキシドモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシチルコハク酸、2−メタクリロイロキシヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート(2−HPA)、EO変性フェノール(メタ)アクリレート、EO変性クレゾール(メタ)アクリレート、EO変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、PO変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、およびEO変性−2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0017】
二官能の(メタ)アクリレートの具体例として、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオール(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチル−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFポリエトキシジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、オリゴプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
三官能の(メタ)アクリレートの具体例として、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリス((メタ)アクリロイルオキシプロピル)エーテル、イソシアヌル酸アルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ヒドロキシピバルアルデヒド変性ジメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ソルビトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート等を挙げることができる。
【0019】
四官能の(メタ)アクリレートの具体例として、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0020】
五官能の(メタ)アクリレートの具体例として、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0021】
六官能の(メタ)アクリレートの具体例として、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、フォスファゼンのアルキレンオキサイド変性ヘキサ(メタ)アクリレート、カプトラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0022】
芳香族ビニル類の具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、ビニル安息香酸メチルエステル、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、3−プロピルスチレン、4−プロピルスチレン、3−ブチルスチレン、4−ブチルスチレン、3−ヘキシルスチレン、4−ヘキシルスチレン、3―オクチルスチレン、4−オクチルスチレン、3−(2−エチルヘキシル)スチレン、4−(2−エチルヘキシル)スチレン、アリルスチレン、イソプロペニルスチレン、ブテニルスチレン、オクテニルスチレン、4−t−ブトキシカルボニルスチレン、4−メトキシスチレン、4−t−ブトキシスチレン等が挙げられる。
【0023】
ビニルエーテル類の具体例としては、単官能ビニルエーテルの例として、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4−メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ジシクロペンテニルビニルエーテル、2−ジシクロペンテノキシエチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ブトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、クロルブチルビニルエーテル、クロルエトキシエチルビニルエーテル、フェニルエチルビニルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールビニルエーテル等が挙げられる。
【0024】
また、多官能ビニルエーテルの例として、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ブチレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジビニルエーテル、ビスフェノールFアルキレンオキサイドジビニルエーテルなどのジビニルエーテル類;トリメチロールエタントリビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、グリセリントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテルなどの多官能ビニルエーテル類等が挙げられる。
ビニルエーテル化合物としては、ジ又はトリビニルエーテル化合物が、硬化性、被記録媒体との密着性、形成された画像の表面硬度などの観点から好ましく、特にジビニルエーテル化合物が好ましい。
【0025】
上記以外に、本発明におけるラジカル重合性モノマーとしては、さらに、ビニルエステル類[酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなど]、アリルエステル類[酢酸アリルなど]、ハロゲン含有単量体[塩化ビニリデン、塩化ビニルなど]、シアン化ビニル[(メタ)アクリロニトリルなど]、オレフィン類[エチレン、プロピレンなど]などが挙げられる。
【0026】
本発明のプライマーインクは、上記に例示されるような重合性化合物を、単独でまたは2種以上組み合わせて含有し得るが、本発明のプライマーインクは、重合性化合物として2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートを含有する。
本発明のプライマーインクにおける2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートの含有量は、プライマーインク100質量部に対して、好ましくは5質量部以上70質量部以下であり、より好ましくは10質量部以上60質量部以下である。
【0027】
本発明のプライマーインクを構成する重合性化合物は、ラジカル重合性モノマーであることが好ましく、単官能のラジカル重合性モノマーと二官能以上の多官能のラジカル重合性モノマーを組み合わせて用いることが好ましい。に、本発明のプライマーインクにおいては、単官能の重合性モノマーを相対的に多く用いることにより、優れた定着性を確保し得る。具体的には、単官能重合性モノマーと多官能重合性モノマーの混合比が、質量比(単官能重合性モノマー:多官能重合性モノマー)で10:0〜8:2であることが好ましく、10:0〜9:1であることがより好ましい。単官能重合性モノマーと多官能重合性モノマーの混合比が上記数値の範囲内であると、適度な硬化速度および粘度を有するプライマーインクを得ることができる。
【0028】
〔カチオン重合性化合物〕
さらに、重合性化合物としてカチオン重合性化合物を用いることもできる。カチオン重合性化合物としては、何らかのエネルギー付与によりカチオン重合反応が開始され、これを含有する組成物を硬化させる機能を有する化合物であれば特に制限されず、モノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれの形態であってもよい。特に、カチオン重合開始剤から発生する開始種により重合する、光カチオン重合性化合物として知られる公知のカチオン重合性化合物を使用することができる。また、カチオン重合性化合物は単官能化合物または多官能化合物のいずれであってもよい。
【0029】
本発明のプライマーインクに含有し得るカチオン重合性化合物としては、例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892号、同2001−40068号、同2001−55507号、同2001−310938号、同2001−310937号、同2001−220526号および同2003−341217号などの各公報に記載されているエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物およびオキセタン化合物等が挙げられる。カチオン性重合性化合物は、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明のプライマーインクに含有し得るカチオン重合性化合物としては、硬化性および耐擦過性の観点から、オキシラン環含有化合物およびオキセタン環含有化合物が好ましく、オキシラン環含有化合物とオキセタン環含有化合物の両方を含有することがより好ましい。
ここで、本明細書において、オキシラン環含有化合物(以下、「オキシラン化合物」と称する場合がある)とは、分子内に、少なくとも1つのオキシラン環(オキシラニル基、エポキシ基)を含む化合物をいう。また、オキセタン環含有化合物(以下、「オキセタン化合物」と称する場合がある)とは、分子内に少なくとも1つのオキセタン環(オキセタニル基)を含む化合物をいう。
【0031】
オキシラン化合物は、エポキシ樹脂として通常用いられているものの中から適宜選択することができ、例えば、従来公知の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂および脂肪族エポキシ樹脂等を用いることができる。これらは、モノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれであってもよい。
【0032】
単官能エポキシ化合物としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブタジエンモノオキサイド、1,2−エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2−エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイド等が挙げられる。
【0033】
また、多官能エポキシ化合物の例としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−7,8−エポキシ−1,3−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキシド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,13−テトラデカジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン等が挙げられる。中でも、芳香族エポキシドおよび脂環式エポキシドが、硬化速度に優れるという観点から好ましく、特に脂環式エポキシドが好ましい。
【0034】
ビニルエーテル化合物としては、ラジカル重合性化合物において例示したような単官能および多官能ビニルエーテル化合物が挙げられる。
【0035】
オキセタン化合物としては、その構造内にオキセタン環を1〜4個有する化合物が好ましい。このような化合物を使用することで、プライマーインクの粘度をハンドリング性の良好な範囲に維持することが容易となり、また、硬化後の画像形成インクと被記録媒体との高い密着性を得ることができる。特に、プライマーインクの粘度と粘着性の観点から、オキセタン環を1〜2個有する化合物を使用することがより好ましい。
【0036】
具体的には、単官能オキセタン化合物として、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−(メタ)アリルオキシメチル−3−エチルオキセタン、(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン、4−フルオロ−[1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル[ベンゼン、4−メトキシ−[1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、[1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)エチル]フェニルエーテル、イソブトキシメチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−エチルヘキシル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンタジエン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラヒドロフルフリル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−テトラブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−トリブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシプロピル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ブトキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタクロロフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が挙げられる。
【0037】
また、多官能オキセタン化合物として、例えば、3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、3,3’−(1,3−(2−メチレニル)プロパンジイルビス(オキシメチレン))ビス−(3−エチルオキセタン)、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、1,2−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]エタン、1,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]プロパン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリシクロデカンジイルジメチレン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ヘキサン、ペンタエリスリトールトリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジトリメチロールプロパンテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチレンオキサイド(EO)変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、プロピレンオキサイド(PO)変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、PO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性ビスフェノールF(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が挙げられる。このようなオキセタン化合物については、前記特開2003−341217公報、段落[0021]〜[0084]に詳細に記載され、本発明のプライマーインクにも好適に使用し得る。
【0038】
本発明のプライマーインクがカチオン重合性化合物を含有する場合、その含有量は、プライマーインクの固形分に対して、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜92質量%の範囲である。
【0039】
本発明のプライマーインクにおける重合性化合物の含有量は、プライマーインクの固形分に対して、50〜99.6質量%であることが好ましく、60〜99.0質量%であることがより好ましい。
【0040】
〔重合開始剤〕
本発明のプライマーインクは、重合開始剤を含有する。本発明における重合開始剤は、活性光、熱、あるいはその両方のエネルギーの付与によりラジカルなどの開始種を発生し、上述した重合性化合物の重合反応または架橋反応を開始、促進させる化合物である。本発明において、重合開始剤は、熱または活性放射線によって重合反応または架橋反応を開始させるものが好ましく、活性放射線によって重合反応または架橋反応を開始させるものがより好ましい。プライマーインクが重合開始剤を含むことにより、被記録媒体に付与されたプライマーインクを活性放射線の照射または加熱によって硬化させることができる。
【0041】
本発明のプライマーインクが、重合性化合物としてラジカル重合性化合物を使用する場合には、ラジカル重合を開始する重合開始剤(ラジカル重合開始剤)を含有することが好ましく、カチオン重合性化合物を含有する場合には、カチオン重合を開始する重合開始剤(カチオン重合開始剤)を含有することが好ましい。また、これらが光重合開始剤であることが特に好ましい。本発明のプライマーインクが、ラジカル重合性化合物およびラジカル重合開始剤を含むことにより、硬化反応を短時間で行うことができるため好ましい。
【0042】
光重合開始剤としては、照射される活性光線、例えば、400〜200nmの紫外線、遠紫外線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線、LED光線又はイオンビームなどに感度を有する公知の光重合開始剤を適宜選択して使用することができる。
【0043】
本発明のプライマーインクに使用し得る光重合開始剤としては、(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム塩、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)ボレート化合物、(g)アジニウム化合物、(h)メタロセン化合物、(i)活性エステル化合物、および(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物等が挙げられる。
【0044】
(a)芳香族ケトン類としては、例えば、ベンゾフェノン骨格あるいはチオキサントン骨格を有する化合物、α−チオベンゾフェノン化合物、ベンゾインエーテル化合物、α−置換ベンゾイン化合物、ベンゾイン誘導体、アロイルホスホン酸エステル、ジアルコキシベンゾフェノン、ベンゾインエーテル類、α−アミノベンゾフェノン類、p−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、チオ置換芳香族ケトン、アシルホスフィンオキサイド、アシルホスフィン、チオキサントン類およびクマリン類等を挙げることができる。
【0045】
(b)芳香族オニウム塩としては、周期律表の第V、VIおよびVII族の元素、具体的にはN、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、Te、またはIの芳香族オニウム塩が挙げられる。ヨードニウム塩類、スルホニウム塩類、ジアゾニウム塩類(置換基を有してもよいベンゼンジアゾニウム等)、ジアゾニウム塩樹脂類(ジアゾジフェニルアミンのホルムアルデヒド樹脂等)、およびN−アルコキシピリジニウム塩類等が好適に使用される。これらは、活性種としてラジカルや酸を生成する。
【0046】
(c)有機過酸化物としては、分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物が挙げられる。
【0047】
(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物としては、ロフィンダイマー類が挙げられる。
【0048】
(e)ケトオキシムエステル化合物としては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0049】
(f)ボレート化合物の例としては米国特許3,567,453号、同4,343,891号、ヨーロッパ特許109,772号および同109,773号に記載されている化合物が挙げられる。
(g)アジニウム化合物の例としては、特開昭63−138345号、特開昭63−142345号、特開昭63−142346号、特開昭63−143537号および特公昭46−42363号各公報記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
(h)メタロセン化合物の例としては、チタノセン化合物および鉄−アレーン錯体を挙げることができる。
【0050】
(i)活性エステル化合物の例としては、ニトロベンズルエステル化合物、イミノスルホネート化合物等が挙げられる。
(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物の好ましい例としては、たとえば、若林ら著、Bull.Chem.Soc.Japan,42,2924(1969)に記載の化合物等を挙げることができる。 また、F.C.Schaefer等によるJ.Org.Chem.29、1527(1964)記載の化合物を挙げることができる。
【0051】
上記光重合開始剤の中でも、本発明のプライマーインクに使用し得るラジカル重合開始剤としては、硬化性の観点から、(a)芳香族ケトン類が好ましく、ベンゾフェノン骨格あるいはチオキサントン骨格を有する化合物がより好ましく、α−アミノアルキルフェノン化合物およびアシルホスフィンオキサイド化合物が特に好ましい。一方、カチオン重合開始剤としては、硬化性の観点から、(b)芳香族オニウム塩が好ましく、ヨードニウム塩およびスルホニウム塩がより好ましく、ヨードニウムのPF6塩、およびスルホニウム塩のPF6塩が特に好ましい。
これらの重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、感度向上の目的で公知の増感剤と併用することもできる。
【0052】
本発明のプライマーインクにおける重合開始剤の含有量は、プライマーインクの固形分に対して、好ましくは0.1〜20質量%であり、より好ましくは0.5〜10質量%である。
また、重合開始剤と重合性化合物との含有比は、質量比(重合開始剤:重合性化合物)で、0.5:100〜30:100であることが好ましく、1:100〜15:100であることがより好ましい。
【0053】
〔着色材〕
本発明のプライマーインクは、印刷画像の性質によって再現性がより優れる場合は、着色材を含有してもよいが、高画質の印刷物を得る目的から、その上の画像形成用インクの描画性に影響を与えない透明であることが好ましい。
【0054】
着色材をプライマーインクに配合する場合、着色材としては、後述する画像形成用インクに用いられる着色材を使用し得るが、特に白色の着色材を好適に使用し得る。また、着色材を配合する場合には、分散剤(例えば、後述する画像形成用インクにおいて使用し得るもの)を添加することが好ましい。
本発明のプライマーインクが着色材を含有する場合、その含有量は、プライマーインクの総質量に対して、0.1〜30質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがより好ましい。
【0055】
〔表面調整剤〕
被記録媒体に対する濡れ性を向上させ、ハジキを防止するために、本発明のプライマーインクは表面調整剤を含有することが好ましい。
本発明において使用し得る表面調整剤の具体例としては、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類および脂肪酸塩類等のアニオン性表面調整剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類およびポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性表面調整剤、アルキルアミン塩類および第4級アンモニウム塩類等のカチオン性表面調整剤、シリコン系表面調整剤ならびにフッ素系表面調整剤などが挙げられる。
【0056】
本発明のプライマーインクに含まれる表面調整剤の含有量は、その使用目的により適宜選択されるが、一般的には、プライマーインクの総質量に対して、0.0001〜1質量%であることが好ましい。上記の範囲内で必要に応じて表面調整剤の添加量を調節することにより、プライマーインクの表面張力を調整することができる。
【0057】
〔増感剤〕
本発明のプライマーインクは、光重合開始剤の感度を向上させることを目的として、増感剤として増感色素を含有してもよい。好ましい増感色素の例としては、以下の化合物類:多核芳香族類、キサンテン類、シアニン類、メロシアニン類、チアジン類、アクリジン類、アントラキノン類またはクマリン類に属しており、かつ350nm〜450nm域に吸収波長を有するものを挙げることができる。
【0058】
〔共増感剤〕
また、感度を一層向上させる、あるいは酸素による重合阻害を抑制する等の作用を有する公知の化合物を共増感剤として加えてもよい。共増感剤の例としては、アミン類が挙げられ、具体的には、トリエタノールアミン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ホルミルジメチルアニリン、およびp−メチルチオジメチルアニリン等が挙げられる。
【0059】
〔ゲル化防止剤〕
本発明のプライマーインクは、保存性を高める観点および熱重合によるヘッド詰まりを防止する観点から、ゲル化防止剤を含有してもよい。ゲル化防止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ベンゾキノン、p−メトキシフェノール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノンモノブチルエーテル、TEMPO、TEMPOL、クペロンAl、IRGASTAB UV-10、IRGASTAB UV-22、およびFIRSTCURE ST−1(ALBEMARLE社製)等が挙げられる。ゲル化防止剤を含有する場合、その含有量は、プライマーインクの総量に対して、200〜20,000ppm添加することが好ましい。
【0060】
〔溶剤〕
本発明のプライマーインクは、必要に応じて公知の溶剤を含有し得る。溶剤は、プライマーインクの極性や粘度、表面張力、着色材の溶解性・分散性の向上、導電性の調整、および印字性能の調整などの目的で使用できる。
【0061】
溶剤としては、構成素材、特にモノマーとの相溶性に優れる性質を有する高沸点有機溶媒が好ましい。公知の溶剤として、100℃以下の有機溶剤である低沸点有機溶媒も挙げられるが、硬化性に影響を与える懸念があり、また、低沸点有機溶媒による環境汚染を考慮すると使用しないことが望ましい。使用する場合には、安全性の高いもの[管理濃度(作業環境評価基準で示される指標)が高い溶媒]を用いることが好ましく、例えば、管理濃度が100ppm以上のものが好ましく、200ppm以上がさらに好ましい。そのような溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素などが挙げられ、具体的には、メタノール、2−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0062】
溶剤は、1種単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。水および/または低沸点有機溶媒を用いる場合には、両者の使用量が、プライマーインク中に0〜20重量%であることが好ましく、0〜10重量%であることがさらに好ましく、実質的に含まないことが好ましい。また、経時による不均一化、染料の析出等に起因する液体の濁りが生じる等の経時安定性の点、および非浸透性ないし緩浸透性の被記録媒体を用いた場合の乾燥性の点から、本発明のプライマーインクは水を実質的に含まないことが好ましい。なお、「実質的に含まない」とは、不可避不純物の存在を容認することを意味する。
【0063】
〔その他の成分〕
本発明のプライマーインクは、さらに、貯蔵安定剤、導電性塩類、およびその他の添加剤等を目的に応じて含有し得る。
その他の添加剤としては、ポリマー、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、およびpH調整剤等の公知の添加剤を適宜選択して使用することができる。紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、pH調整剤に関しては、具体的には例えば、特開2001−181549号公報に記載されている添加剤などを用いることができる。
【0064】
また、混合により反応して凝集物を生成するか増粘する1組の化合物を、例えば、本発明のプライマーインクと、このプライマーインクと共に使用する画像形成用インクとに分けて含有することができる。前記1組の化合物は、凝集体を急速に形成させるか、あるいはインク液を急速に増粘させる特徴を有するものであり、これにより互いに隣接する液滴間の合一をより効果的に抑制することができる。
【0065】
本発明のプライマーインクは、インクジェット方式により被記録媒体上に塗設される。このため、プライマーインクの物理的特性がインクジェット方式に適合している必要がある。
具体的には、本発明のプライマーインクの表面張力は、25〜31mN/mである。プライマーインクの表面張力が25mN/mより小さいと、画像形成時に画像形成用インクに対するハジキが生じやすく画像が描画できない可能性があり、一方、31mN/mを超えると、画像形成時に画像形成用インクが広がりやすくにじむ可能性がある。また、25〜31mN/mの範囲を大きく外れる場合、IJP適性から外れインク自体が吐出不良となる可能性がある。
【0066】
また、本発明のプライマーインクの25℃における粘度は、50mPa・s以下である。粘度が50mPa・sより高い場合には、インクジェット方式により吐出する際、インクヘッドからの吐出性が低下するためである。なお、プライマーインクの粘度の下限値については特に制限はないが、通常3.0mPa・s程度である。
【0067】
一般にインクジェット記録方法においては、高い画像濃度を得るために互いに重なり部分を有して付与された隣接するインク液滴が、乾燥前に被記録媒体上に留まって接触するため、隣接するインク液滴が互いに合一して画像の滲みや細線の線幅の不均一が発生し、鮮鋭な画像形成が損なわれやすい。本発明においては、本発明のプライマーインクを用いて被記録媒体上にプライマー層を付与する構成とすることにより、プライマーインクと画像を形成するインク液滴との相互作用により、隣接するインク液滴間の合一を抑えることができる。これにより、画像の滲み、画像中の細線などの線幅の不均一および着色面の色ムラの発生が効果的に防止される。
【0068】
ここで、隣接するインク液滴とは、単一色のインクを用いてインク吐出口から打滴される液滴であって重なり部分を有して打滴されるもの、あるいは色違いのインクを用いてインク吐出口から打滴される液滴であって重なり部分を有して打滴されるインク液滴を意味する。隣接するインク液滴は、打滴が同時である液滴であってもよいし、先行打滴と後続打滴の関係にある先行液滴と後続液滴であってもよい。
【0069】
したがって、本発明のプライマーインクは、画像を形成するための液体として、少なくとも1種の画像形成用インクとともに用いる。
本発明において、本発明のプライマーインクとともに用いられる画像形成用インクについては特に制限はなく、従来、インクジェット方式に使用される公知のインク組成物を使用することができるが、エネルギー線硬化性の重合性化合物、および着色材として顔料を用いたインク組成物が好ましい。
以下、本発明のプライマーインクとともに用いるのに特に適した画像形成用インクについて説明する。なお、本明細書において、以下、「画像形成用インク組成物」とは、画像形成をするために用いられる画像形成用インクを構成する個々のインク組成物を意味する(通常、画像形成用インクは、複数の画像形成用インク組成物から構成される)。
【0070】
画像形成用インク組成物は、少なくとも画像を形成するための組成となるよう構成される。具体的には、例えば、少なくとも1種の重合性化合物および着色材を含み、必要により、重合開始剤、表面調整剤、ゲル化防止剤や他の添加剤等から構成される。
【0071】
重合性化合物としては、例えば、本発明のプライマーインクに使用し得るものとして例示したラジカル重合性化合物やカチオン重合性化合物を適宜選択して用いることができる。ラジカル重合性化合物とカチオン重合性化合物を併用してもよく、また、いずれか一方のみを用いてもよい。
【0072】
画像形成用インク組成物に用いる重合性化合物としては、硬化速度の点から、(メタ)アクリレート類および(メタ)アクリルアミド類が好ましい。特に、多官能の重合性化合物を主体に用いることが好ましく、四官能以上の(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。さらには、画像形成用インク組成物の粘度低減および接着力向上の観点からは、三官能以上の多官能(メタ)アクリレートと、単官能(メタ)アクリレート若しくは二官能(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドを併用することが好ましい。
【0073】
画像形成用インク組成物における単官能重合性化合物と多官能重合性化合物の混合比が、質量比(単官能重合性化合物:多官能重合性化合物)で9:1〜1:9であることが好ましく、8:2〜2:8であることがより好ましく、4:6〜2:8であることがさらに好ましい。単官能重合性化合物と多官能重合性化合物の混合比が上記数値の範囲内であると、適度な硬化速度および粘度を有する画像形成用インク組成物となる。
重合性化合物の含有量は、画像形成用インク組成物の固形分(質量)に対して、50〜99.6質量%であることが好ましく、60〜99.0質量%であることが好ましい。
【0074】
重合開始剤としては、例えば、本発明のプライマーインクに使用し得るものとして例示した光重合開始剤を、適宜選択して使用することができる。重合性化合物としてラジカル重合性化合物を用いる場合にはラジカル重合開始剤を、カチオン重合性化合物を用いる場合にはカチオン重合開始剤を用いることが好ましい。
【0075】
ラジカル重合開始剤としては、硬化性の観点から、芳香族ケトン類が好ましく、ベンゾフェノン骨格あるいはチオキサントン骨格を有する化合物がより好ましく、α−アミノアルキルフェノン化合物およびアシルホスフィンオキサイド化合物が特に好ましい。一方、カチオン重合開始剤としては、硬化性の観点から、芳香族オニウム塩が好ましく、ヨードニウム塩およびスルホニウム塩がより好ましく、ヨードニウムのPF6塩、およびスルホニウム塩のPF6塩が特に好ましい。重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、感度向上の目的で公知の増感剤と併用することもできる。
【0076】
重合開始剤は、画像形成用インク組成物の保存安定性を所望の程度に保持できる範囲で適宜選択して含有することが好ましい。その含有量は、例えば、画像形成用インク組成物の固形分に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。また、重合開始剤と重合性化合物との含有比は、質量比(重合開始剤:重合性化合物)で、0.5:100〜30:100であることが好ましく、1:100〜15:100であることがより好ましい。
【0077】
画像形成用インクは、通常、複数の画像形成用インク組成物からなる多色インクセットである。画像形成用インクは、基本的に、シアン色のインク組成物(シアンインク組成物)、マゼンタ色のインク組成物(マゼンタインク組成物)、イエロー色のインク組成物(イエローインク組成物)、ブラック色のインク組成物(ブラックインク組成物)およびホワイト色のインク組成物(ホワイトインク組成物)からなる群から選択された少なくとも1つの着色インク組成物を含むことが好ましい。また、場合によっては、バイオレット、ブルー、グリーン、オレンジおよびレッド等の特色を用いることにより色再現性に優れた画像を形成することができる。
【0078】
したがって、画像形成用インク組成物は、少なくとも1種の着色材を含有することが好ましい。各色の画像形成用インク組成物は、それに対応する色を呈する着色材を少なくとも1種含有する。画像形成用インク組成物に用いる着色材は特に制限されず、公知の水溶性染料、油溶性染料および顔料等から適宜選択して用いることができるが、本発明のプライマーインクが非水系であることから、本発明のプライマーインクとともに使用する画像形成インク組成物の着色材は、非水溶性媒体に均一に分散、溶解しやすい油溶性染料または顔料であることが好ましく、顔料を用いることが特に好ましい。
【0079】
顔料としては、有機顔料、無機顔料のいずれも使用することができる。
黒色顔料としては、カーボンブラック顔料等が好ましく挙げられる。また、一般には黒色、ならびにシアン、マゼンタ、およびイエローの3原色の顔料が用いられるが、その他の色相、例えば、金、銀色等の金属光沢顔料、無色または淡色の体質顔料なども目的に応じて用いることができる。
【0080】
マゼンタ色を呈するものとして、C.I.ピグメントレッド3(トルイジンレッド等)等のモノアゾ系顔料、C.I.ピグメントレッド38(ピラゾロンレッドB等)等のジスアゾ顔料、C.I.ピグメントレッド53:1(レーキレッドC等)やC.I.ピグメントレッド57:1(ブリリアントカーミン6B)等のアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントレッド144(縮合アゾレッドBR等)などの縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントレッド194(ペリノンレッド等)などのペリノン顔料、C.I.ピグメントレッド149(ペリレンスカーレット等)などのペリレン顔料、C.I.ピグメントバイオレット19(無置換キナクリドン、CINQUASIA Magenta RT−355T;チバ・スペシャリティケミカルズ社製)、C.I.ピグメントレッド122(キナクリドンマゼンタ等)などのキナクリドン顔料、C.I.ピグメントレッド180(イソインドリノンレッド2BLT等)などのイソインドリノン顔料、およびC.I.ピグメントレッド83(マダーレーキ等)などアリザリンレーキ顔料等が挙げられる。
【0081】
シアン色を呈する顔料として、C.I.ピグメントブルー25(ジアニシジンブルー等)などのジスアゾ系顔料、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:3(IRGALITE BLUE GLO;チバ・スペシャリティケミカルズ社製)(フタロシアニンブルー等)の如きフタロシアニン顔料、C.I.ピグメントブルー24(ピーコックブルーレーキ等)などの酸性染料レーキ顔料、およびC.I.ピグメントブルー18(アルカリブルーV−5:1)などのアルカリブルー顔料等が挙げられる。
【0082】
イエロー色を呈するものとして、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG等)、C.I.ピグメントイエロー74等のモノアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー12(ジスアジイエローAAA等)、C.I.ピグメントイエロー17等のジスアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー200(Novoperm Yellow 2HG)等の非ベンジジン系のアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー100(タートラジンイエローレーキ等)などのアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー95(縮合アゾイエローGR等)などの縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー115(キノリンイエローレーキ等)などの酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー18(チオフラビンレーキ等)などの塩基性染料レーキ顔料、フラバントロンイエロー(Y−24)等のアントラキノン系顔料、イソインドリノンイエロー3RLT(Y−110)等のイソインドリノン顔料、キノフタロンイエロー(Y−138)等のキノフタロン顔料、イソインドリンイエロー(Y−139)等のイソインドリン顔料、C.I.ピグメントイエロー153(ニッケルニトロソイエロー等)などのニトロソ顔料、およびC.I.ピグメントイエロー117(銅アゾメチンイエロー等)などの金属錯塩アゾメチン顔料等が挙げられる。
【0083】
ブラック色を呈する顔料としては、カーボンブラック、チタンブラック、およびアニリンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、SPECIAL BLACK 250(デグサ社製)が例示できる。
【0084】
白色顔料としては、PigmentWhite 6,18,21が例示できる。また、白色顔料の具体例としては、塩基性炭酸鉛(2PbCOPb(OH)、いわゆる、シルバーホワイト)、酸化亜鉛(ZnO、いわゆる、ジンクホワイト)、酸化チタン(TiO、いわゆる、チタンホワイト)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO、いわゆる、チタンストロンチウムホワイト)などが利用可能である。 酸化チタンは他の白色顔料と比べて比重が小さく、屈折率が大きく化学的、物理的にも安定であるため、顔料としての隠蔽力や着色力が大きく、さらに、酸やアルカリ、その他の環境に対する耐久性にも優れている。したがって、白色顔料としては酸化チタンを利用することが好ましい。必要に応じて他の白色顔料(列挙した白色顔料以外であってもよい)を使用してもよい。
【0085】
これら公知の顔料の中でも、シアン色を呈する顔料がピグメントブルー15:3またはピグメントブルー15:4であることが好ましく、マゼンタ色を呈する顔料がピグメントレッド122、ピグメントレッド202またはピグメントバイオレット19であることが好ましく、イエロー色を呈する顔料がピグメントイエロー150、ピグメントイエロー180またはピグメントイエロー155であることがより好ましい。また、ホワイト色を呈する顔料が酸化チタンであることが好ましい。
【0086】
色再現性に優れた画像を形成するために、必要により用いるバイオレット、ブルー、グリーン、オレンジおよびレッド等の特色の顔料としては、例えば、以下のものを用いることができる。
バイオレットの色を呈する顔料としては、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンB)、C.I.ピグメントバイオレット2(ローダミン3B)、C.I.ピグメントバイオレット3(メチルバイオレットレーキ)、C.I.ピグメントバイオレット3:1(メチルバイオレットレーキ)、C.I.ピグメントバイオレット3:3(メチルバイオレットレーキ)、C.I.ピグメントバイオレット5:1(アリザリンマルーン)、C.I.ピグメントバイオレット13(ウルトラマリンピンク)、C.I.ピグメントバイオレット17(ナフトールAS)、C.I.ピグメントバイオレット23(ジオキサジンバイオレット)、C.I.ピグメントバイオレット25(ナフトールAS)、C.I.ピグメントバイオレット29(ペリレンバイオレット)、C.I.ピグメントバイオレット31(ビオランスロンバイオレット)、C.I.ピグメントバイオレット32(ベンズイミダゾロンボルドーHF3R)、C.I.ピグメントバイオレット36(チオインジゴ)、C.I.ピグメントバイオレット37(ジオキサジンバイオレット)、C.I.ピグメントバイオレット42(キナクリドンマルーンB)、C.I.ピグメントバイオレット50(ナフトールAS)等が市販品として入手可能である。
【0087】
ブルーの色を呈する顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー22、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントブルー66等が市販品として入手可能である。
【0088】
グリーンの色を呈する顔料としては、C.I.ピグメントグリーン1(ブリリアントグリーンレーキ)、C.I.ピグメントグリーン4(マラカイトグリーンレーキ)、C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)、C.I.ピグメントグリーン8(ピグメントグリーンB)、C.I.ピグメントグリーン10(ニッケルアゾイエロー)、C.I.ピグメントグリーン36(臭素化フタロシアニングリーン)等が市販品として入手可能である。
【0089】
オレンジの色を呈する顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ1(ハンザイエロー3R)、C.I.ピグメントオレンジ2(オルソニトロオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ3(βナフトール)、C.I.ピグメントオレンジ4(ナフトールAS)、C.I.ピグメントオレンジ5(βナフトール)、C.I.ピグメントオレンジ13(ピラゾロンオレンジG)、C.I.ピグメントオレンジ15(ジスアゾオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ16(アニシジンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ17(ペルシアンオレンジレーキ)、C.I.ピグメントオレンジ19(ナフタレンイエローレーキ)、C.I.ピグメントオレンジ24(ナフトールオレンジY)、C.I.ピグメントオレンジ31(縮合アゾオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ34(ピアゾロンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ36(ベンズイミダゾロンオレンジHL)、C.I.ピグメントオレンジ38(ナフトールオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ40(ピランスロンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ43(ペリノンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ46(エチルレッドレーキC)、C.I.ピグメントオレンジ48(キナクリドンゴールド)、C.I.ピグメントオレンジ49(キナクリドンゴールド)、C.I.ピグメントオレンジ51(ピランスロンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ60(イミダゾロンオレンジHGL)、C.I.ピグメントオレンジ61(イソインドリノンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ62(ベンズイミダゾロンオレンジH5G)、C.I.ピグメントオレンジ64(ベンズイミダゾロン)、C.I.ピグメントオレンジ65(アゾメチンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ66(イソインドリオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ67(ピラゾロキナゾロンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ68(アゾメチンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ69(イソインドリノンオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ71(ジケトピロロピロールオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ72(イミダゾロンオレンジH4GL)、C.I.ピグメントオレンジ73(ジケトピロロピロールオレンジ)、C.I.ピグメントオレンジ74(ナフトールオレンジ2RLD)、C.I.ピグメントオレンジ81(ジケトピロロピロールオレンジ)等が市販品として入手可能である。
【0090】
レッドの色を呈する顔料としては、C.I.ピグメントレッド171、C.I.ピグメントレッド175、C.I.ピグメントレッド176、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントレッド242、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド270等が市販品として入手可能である。
【0091】
このうち、色再現性、耐光性や顔料分散物の安定性の観点から、バイオレットの色を呈する顔料としてはC.I.ピグメントバイオレット23が、オレンジの色を呈する顔料としてはC.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ71が、グリーンの色を呈する顔料としてはC.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36が好ましい。
【0092】
本発明においては、上記の特色の顔料を含有する画像形成用インク組成物と、シアン色、マゼンタ色、イエロー色、ブラック色(黒色)またはホワイト色(白色)の顔料および/または染料を含有する各色画像形成用インク組成物を使用することが好ましい。
【0093】
着色材の分散には、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル等の分散装置を用いることができる。 着色材の分散を行う際には、分散剤を添加することができる。
また、着色材を添加するにあたっては、必要に応じて、分散助剤として、各種着色材に応じたシナージストを用いることも可能である。着色材などの諸成分の分散媒として、溶剤を添加してもよく、また、無溶媒で、低分子量成分である重合性化合物を分散媒として用いてもよい。本発明のプライマーインクは、エネルギー線硬化型の液体であることが好ましいことから、これとともに用いる画像形成用インク組成物もエネルギー線硬化型の液体であることが好ましく、プライマーインクおよび画像形成用インクを被記録媒体上に適用後硬化させるため、これらは無溶剤であることが好ましい。形成した画像中に溶剤が残留すると、画像の耐溶剤性が低下したり、残留する溶剤のVOC(Volatile Organic Compound)の問題が生じたりするためである。このような観点から、分散媒として重合性化合物を用い、中でも、粘度が低い重合性化合物を選択することが分散適性やインク組成物のハンドリング性向上の観点から好ましい。
【0094】
用いる着色材の平均粒径が微細なほど発色性に優れるため、着色材の平均粒径は0.01μm以上0.4μm以下であることが好ましく、0.02μm以上0.2μm以下であることがさらに好ましい。最大粒径が、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下となるよう、着色材、分散剤、分散媒の選定、分散条件、ろ過条件を設定することが好ましい。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インク液の保存安定性や透明性および硬化感度を維持することができる。
なお、着色材の粒径は、公知の測定方法で測定することができる。具体的には、例えば、遠心沈降光透過法、X線透過法、レーザー回折・散乱法または動的光散乱法により測定することができる。
【0095】
画像形成用インク組成物における着色材の含有量は、色、および使用目的により適宜選択されるが、画像濃度および保存安定性の観点から、画像形成用インク組成物の総質量に対して、0.1〜30質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがさらに好ましい。
着色材は単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、2種類以上の有機顔料または有機顔料の固溶体を組み合わせて用いることもできる。さらに、打滴する液滴および液体ごとに異なる着色材を用いてもよいし、同一の着色材を用いてもよい。
【0096】
着色材の分散を行う際に分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、その種類に特に制限はないが、公知の高分子分散剤を用いることが好ましい。高分子分散剤としては、例えば、DisperBYK−101、DisperBYK−102、DisperBYK−103、DisperBYK−106、DisperBYK−111、DisperBYK−161、DisperBYK−162、DisperBYK−163、DisperBYK−164、DisperBYK−166、DisperBYK−167、DisperBYK−168、DisperBYK−170、DisperBYK−171、DisperBYK−174、DisperBYK−182(以上BYKケミー社製)、EFKA4010、EFKA4046、EFKA4080、EFKA5010、EFKA5207、EFKA5244、EFKA6745、EFKA6750、EFKA7414、EFKA7462、EFKA7500、EFKA7570、EFKA7575、EFKA7580(以上エフカアディティブ社製)、ディスパースエイド6、ディスパースエイド8、ディスパースエイド15、ディスパースエイド9100(サンノプコ製)等の高分子分散剤;ソルスパース(Solsperse)3000,5000,9000,12000,13240,13940,17000,24000,26000,28000,32000,36000,39000,41000,71000などの各種ソルスパース分散剤、(アビシア社製);アデカプルロニックL31,F38,L42,L44,L61,L64,F68,L72,P95,F77,P84,F87、P94,L101,P103,F108、L121、P−123(旭電化(株)製)およびイソネットS−20(三洋化成(株)製)楠本化成社製「ディスパロン KS−860,873SN,874(高分子分散剤)、#2150(脂肪族多価カルボン酸)、#7004(ポリエーテルエステル型)」が挙げられる。
また、フタロシアニン誘導体(商品名:EFKA−745(エフカ社製))、ソルスパース5000,12000、ソルスパース22000(アビシア社製)等の顔料誘導体もあわせて使用することができる。分散性および安定性に優れた前記分散剤を用いることにより、微粒子着色材を用いた場合でも、均一で安定な分散物が得られる。
【0097】
分散剤の含有量は、使用目的により適宜選択されるが、画像形成用インク組成物の総質量に対して、0.01〜5質量%であることが好ましい。
【0098】
表面調整剤としては、例えば、本発明のプライマーインクに使用し得るものとして例示したものを適宜選択して用いることができる。長時間安定した吐出性を実現するために、表面調整剤を含有することが好ましい。含有量は、使用目的により適宜選択されるが、一般的には、画像形成用インク組成物の総質量に対して、0.0001〜1質量%であることが好ましい。
【0099】
ゲル化防止剤としては、例えば、本発明のプライマーインクに使用し得るものとして例示したものを適宜選択して用いることができる。画像形成用インク組成物は、40〜80℃の範囲で加熱し、低粘度化して吐出することが好ましいため、熱重合によりヘッド詰まりを防止するためにもゲル化防止剤を含有することが好ましい。その含有量は、画像形成用インク組成物の全量に対して、200〜20,000ppm添加することが好ましい。
【0100】
本発明のプライマーインクとともに使用する画像形成用インク組成物は、上記成分の他、増感剤、共増感剤、貯蔵安定剤、導電性塩類、溶剤、およびその他の添加剤等を目的に応じて併用することができる。これらの成分としては、本発明のプライマーインクに使用し得るものとして例示したものを適宜選択して用いることができる。
【0101】
本発明のプライマーインクとともに使用する画像形成用インク組成物の表面張力は、25〜32mN/mであることが好ましい。
【0102】
本発明のプライマーインクを用いるインクジェット記録方法においては、被記録媒体として、浸透性の被記録媒体、非浸透性の被記録媒体、および緩浸透性の被記録媒体のいずれも使用することができる。
【0103】
中でも、本発明の効果は、非浸透性および緩浸透性の被記録媒体においてより顕著に奏される。ここで、本明細書において、浸透性の被記録媒体とは、例えば、10pL(ピコリットル)のインク液滴を被記録媒体上に滴下した場合に、全液量が浸透するまでの時間が100ミリ秒以下である被記録媒体をいう。また、非浸透性の被記録媒体とは、実質的に液滴が浸透しない被記録媒体をいう。「実質的に浸透しない」とは、例えば、1分後の液滴の浸透率が5%以下であることをいう。また、緩浸透性の被記録媒体とは、10pLの液滴を被記録媒体上に滴下した場合に、全液量が浸透するまでの時間が100ミリ秒以上である被記録媒体をいう。
【0104】
浸透性の被記録媒体としては、例えば、普通紙、多孔質紙およびその他液を吸収できる被記録媒体が挙げられる。 非浸透性ないし緩浸透性の被記録媒体としては、例えば、アート紙、合成樹脂、ゴム、樹脂コート紙、ガラス、金属、陶器および木材等が挙げられる。また、本発明においては、機能付加の目的でこれらの材質を複数組み合わせて複合化した被記録媒体も使用できる。
【0105】
合成樹脂としては、いかなる合成樹脂も使用可能であるが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等、ジアセテート、トリアセテート、ポリイミド、セロハン、セルロイド等が挙げられる。合成樹脂を用いた場合の被記録媒体の厚みや形状は、特に限定されるものではなく、フィルム状、カード状、ブロック状のいずれの形状でもよい。また、透明または不透明のいずれであってもよい。
【0106】
合成樹脂の使用形態としては、いわゆる軟包装に用いられるようなフィルム状にして用いることも好ましく、各種非吸収性のプラスチックおよびそのフィルムを用いることができる。プラスチックフィルムとしては、例えば、PETフィルム、OPSフィルム、OPPフィルム、PNYフィルム、PVCフィルム、PEフィルム、TACフィルム、PPフィルム等が挙げられる。その他プラスチックとしては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS、ポリアセタール、PVA、ゴム類などを使用できる。
【0107】
樹脂コート紙としては、例えば、透明ポリエステルフィルム、不透明ポリエステルフィルム、不透明ポリオレフィン樹脂フィルムおよび紙の両面をポリオレフィン樹脂でラミネートした紙支持体等が挙げられる。特に好ましいのは、紙の両面をポリオレフィン樹脂でラミネートした紙支持体である。
【0108】
金属としては、特に制限はなく、例えば、アルミニウム、鉄、金、銀、銅、ニッケル、チタン、クロム、モリブデン、シリコン、鉛、亜鉛等およびステンレス等、ならびにこれらの複合材料が挙げられる。
【0109】
被記録媒体として、液体吸収性の低い非浸透性ないし緩浸透性の合成樹脂製の難密着性記録媒体に画像を記録する場合に、本発明のプライマーインクを用いることにより密着性が向上するので、特に有効である。本発明のプライマーインクが効果をあげる被記録媒体としては、特に浸透性がない被記録媒体(例えば、OPP(Oriented Polypropylene Film)、CPP(Casted Polypropylene Film)、PE(polyethylene)、PET(Polyethylene terephthalate)、PP(Polypropylene)、金属板、浸透性が低い軟包材、ラミネート紙、コート紙、アート紙など)等であり、これらを用いた場合に良好な画像を形成することができる。
また、本発明のプライマーインクは、無機系(例えば、ガラスなど)材料の被記録媒体に対しても優れた画像の定着性を実現し得る。
【0110】
本発明のプライマーインクを用いた、好ましいインクジェット記録方法は、被記録媒体上にインクジェット方式でプライマー層を付与し、同時または/その直後に、プライマー層上にエネルギー線の照射により硬化する画像形成用インク組成物を吐出し、エネルギー線により画像形成用インク組成物を硬化させる方法である。
所望の画像に応じて、一色の画像形成用インク組成物のみを吐出する場合もあるが、フルカラー画像を形成するためには、多色の画像形成用インク組成物を順次または同時に吐出して画像形成を行う。なお、画像とは、文字、図表および写真等を含む光学的情報であって、モノクロ、モノカラーおよびフルカラーのいずれであってもよい。
【0111】
本発明において、被記録媒体上に画像形成用インク組成物を吐出することによって形成される画像と同一領域またはその画像より広い領域に、プライマーインクを付与することが好ましい。すなわち、本発明のプライマーインクを用いたインクジェット記録方法の具体的な態様の1つは、被記録媒体上に打滴される複数色の画像形成用インク組成物の液滴により形成される画像と同一またはその画像よりも広い範囲に、本発明のプライマーインクを付与する工程と、被記録媒体上に付与されたプライマーインクに活性エネルギー線または熱を与える工程と、プライマーインクが付与された被記録媒体上に、複数色の画像形成用インク組成物の液滴を打滴する工程とを含む。
【0112】
これを実現するために、本発明におけるプライマーインクは、複数色の画像形成用インクを多色インクセットとして用いる場合に、同時にインクセットの1つとして使用するのが好ましい。すなわち、これを実現する端的な方法は、マルチパスのインクセットを構成する少なくとも1つのインクケースを、本発明のプライマーインクを充填したインクケースにすることである。
【0113】
また、予めプライマーインクを被記録媒体上に付与しておき、その後、優れた定着性を得るために、少なくとも画像形成用インクの全てを打滴した後にエネルギーの付与により記録画像を定着させる工程を設ける方法でもよい。エネルギーの付与により、含まれる重合性化合物の重合または架橋による硬化反応を促進させ、より強固な画像をより効率よく形成することができる。例えば重合開始剤を含む系では、活性エネルギー線や加熱などの活性エネルギーの付与により重合開始剤から活性種の発生が促進されると共に、活性種の増加や温度上昇により、活性種に起因する重合性化合物の重合または架橋による硬化反応が促進される。
【0114】
エネルギーの付与は、従来公知のエネルギー線(エネルギー線を活性放射線ともいう)の照射または加熱によって好適に行うことができる。エネルギー線には、画像固定用の活性光と同様のものを使用することができ、例えば、LED光線、紫外線、可視光線など、およびα線、γ線、X線、電子線などが挙げられる。コストおよび安全性の点から、紫外線や可視光線が好ましい。露光に好適な光源としては、メタルハライドランプ、キセノンランプ、タングステンランプ、カーボンアーク灯、および水銀灯等が挙げられる。
【0115】
活性光の照射によりエネルギーを付与する場合に、硬化反応に必要なエネルギー量は、重合開始剤の種類や含有量などによって異なるが、一般には100mJ/cm以上10,000mJ/cm以下程度が好ましい。また、加熱によりエネルギーを付与する場合は、被記録媒体の表面温度が40〜80℃の温度範囲となる条件で0.1〜1秒間加熱することが好ましい。
【0116】
以下、本発明のプライマーインクを用いた画像形成の工程について、さらに詳細に説明する。
【0117】
〔プライマー液の硬化過程〕
本発明においては、プライマーインク自体もインクジェット方式で被記録媒体に付与される。したがって、上述したように、複数色の画像形成用インク組成物を多色インクセットとして用いる場合に、同時にプライマーインクをインクセットの1つとして使用することが好ましい。それゆえ、インクジェット記録方式・装置の構成によってプライマーインクの硬化過程は決まる。
【0118】
すなわち、インクジェット記録方式・装置がシングルパスで、プライマーインク専用のヘッドと放射線照射装置が設置された方式ならば、プライマー液が硬化した後、その上に画像形成用インクが付与されることになる。マルチパス方式では、画像形成用インクとほぼ同時にプライマーインクが付与される場合であっても、わずかの時間差ではあるが、プライマーインクの硬化処理のあと画像形成用インクが吐出される。本発明のプライマーインクは上記いずれの方式にも適用し得るが、工業的には操作性や生産性の面から後者の方式が好ましい。
【0119】
〔プライマー液および画像形成インクの付与〕
本発明において、プライマーインクを塗布装置またはインクジェットノズル等を用いて被記録媒体上に付与することができる。また、画像形成用インクはインクジェットノズル等を用いて打滴し、プライマー層上に付与する。
【0120】
(i)インクジェットノズルによる吐出
インクジェットノズルによってプライマーインクを吐出する場合、わずかのタイムラグはあるが、ほぼ同時に画像形成用インクをインクジェットノズルにより打滴することによって、画像を形成する態様が好ましい。
【0121】
インクジェットノズルによってプライマーインクを塗布する条件としては、例えば、画像形成用インクを吐出するためのヘッドよりも吐出液滴量が大きく、かつ、ノズル密度の低いヘッドを、被記録媒体の巾方向にフルラインヘッドユニットとして配置し、それによってプライマー液を吐出する。このような吐出液滴量が大きいヘッドは、一般的に吐出力が大きいため、高粘度のプライマーインクに対応しやすく、またノズルのつまりの抑制にも有利である。また、吐出液滴量が多いヘッドを使用した場合には、被記録媒体の搬送方向のプライマーインクの打滴解像力も落とせるため、駆動周波数が低い安価なヘッドを適用できるという利点もある。
【0122】
(ii)塗布装置を用いた塗布
塗布装置を用いてプライマーインクを被記録媒体上に塗布する場合、その後に画像形成用インク液滴をインクジェットノズルにより打滴することも可能である。
【0123】
上記いずれの態様においても、プライマーインクおよび画像形成用インク以外に、これら以外の他の液体をさらに付与することができる。他の液体の付与については、塗布装置による塗布や、インクジェットノズルによる吐出など、いかなる方法で行ってもよく、付与のタイミングも特に限定されるものではない。他の液体が着色材を含有する場合には、インクジェットノズルによる吐出が好ましく、プライマーインクを付与した後に付与することが好ましい。
【0124】
インクジェット記録方式としては、例えば、静電力を利用してインク液を吐出させる静電誘引方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインク液に照射して放射圧を利用してインク液を吐出させる音響インクジェット方式、インク液を加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等の公知の方式を好適に使用し得る。なお、インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインク液を小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインク液を用いて画質を改良する方式や無色透明のインク液を用いる方式が含まれる。
【0125】
本発明において、プライマーインク上に吐出される画像形成用インクの液滴は、0.1pL以上100pL以下の液滴サイズにて(好ましくはインクジェットノズルにより)打滴されることが好ましく、0.5pL以上50pL以下の液滴サイズで打滴されることがより好ましい。液滴サイズが前記範囲内であると、高鮮鋭度の画像濃度で描写できる点で有効である。
【0126】
また、プライマーインクの付与量(単位面積あたりの重量比)は、画像形成用インクの液滴量を1とした場合に、0.05〜5の範囲内であることが好ましく、0.07〜4の範囲内がより好ましく、0.1〜3の範囲内が特に好ましい。
【0127】
プライマーインクが被記録媒体(基材)上に付与されて形成されるプライマー液層およびこれを硬化した下塗り層の厚みは、1μm以上20μm以下であることが好ましく、2μm以上10μm以下であることがより好ましく、3μm以上8μm以下であることがさらに好ましい。プライマー液層および下塗り層の厚さが上記範囲内であると硬化画像の柔軟性、密着性が良好に保持できることから好ましい。
【0128】
プライマーインクの付与後、画像形成用インクが打滴されるまでの打滴間隔としては、5マイクロ秒以上10秒以下の範囲内であることが好ましい。打滴間隔が前記範囲内であると、本発明の効果を顕著に奏し得る点で有効である。インク液滴の打滴間隔は、より好ましくは10マイクロ秒以上5秒以下であり、特に好ましくは20マイクロ秒以上5秒以下である。
【実施例】
【0129】
以下、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、以下の表中で「部」は質量部を示す。
【0130】
各実施例および比較例で用いたプライマーインクおよび画像形成用インク組成物の成分を表1に示す。
【0131】
【表1】

【0132】
各実施例および比較例において、被記録媒体として以下の非浸透性基材を用いた。
ガラス:MATSUNAMI社製 S9111
ガラスエポキシ:新神戸電機社製 KEL−GEF
ナイロン板:東洋プラスチック精工社製 6ナイロン板
【0133】
〔プライマーインクの調製〕
実施例1
表2に示す組成となるよう各成分を計り取り、混合物をマグネチックスターラーで30分間撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、この混合物を吸引ろ過し、プライマー層形成用のプライマーインクを調製した。
【0134】
実施例2〜13および比較例1〜6
表2(実施例1〜10)または表3(実施例11〜13および比較例1〜6)に示す組成となるように、実施例1と同様にしてプライマーインクを調製した。
【0135】
【表2】

【0136】
【表3】

【0137】
以上のようにして調製した実施例および比較例の各プライマーインクについて、下記の方法により粘度および表面張力を測定した。結果を表5に示す。
【0138】
[粘度]
粘度は、R100型粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃、コーン回転数10rpmの条件下で測定した。
【0139】
[表面張力]
表面張力は、全自動平衡式エレクトロ表面張力計ESB−V(協和科学社製)を用いて、25℃において測定した。
【0140】
〔画像形成用インク組成物の調製〕
プラスチック製ビンに、着色材、分散剤、および重合性化合物(IOAとHDDA)を表4に示す配合量で計り取り、これに0.1mmジルコニアビーズ100部を加えて、この混合物をペイントコンディショナー(東洋精機社製)により2時間分散処理して、一次分散体を得た。次に、得られた一次分散体に、表5に示す配合量で残りの成分を加え、マグネチックスターラーにより混合物を30分撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、この混合物を吸引ろ過し、各画像形成用インク組成物を調製した。なお、これらのインクの粘度は21.3〜22.8mPa・s、表面張力は25.5〜31.4mN/mであった(測定方法は、上記プライマーインクにおける方法と同様である)。
【0141】
【表4】

【0142】
〔画像の形成〕
以下に記載する手順にて、各被記録媒体上に各プライマーインクを付与し、さらにその上に各画像形成用インク組成物を用いて画像を形成し、印刷物を得た。
【0143】
(1)指定メディア上に、ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録装置を用いて、プライマーインクベタ印刷物をそれぞれ作成し、膜厚:5μmの印刷膜をそれぞれ形成した。このインクジェット記録装置はインク供給系として、インクタンク、供給パイプ、ヘッド直前の前室インクタンク、およびピエゾヘッドを備えている。また、液滴サイズ約7pl、解像度600×600dpiでインクを射出できるよう、駆動周波数10KHzでインクジェット記録装置を駆動した。
(2)印刷膜に、照射手段として紫外線LED(日亜化学工業社製「NLBU21W01−E2」)を用い、トータル照射光量が300mJ/cmとなるように、紫外線を照射して該当インクを硬化した。
(3)プライマー層を形成した上に、ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録装置を用いて、画像形成用インクベタ印刷物をそれぞれ作成し、印刷膜厚5μmの印刷膜をそれぞれ形成した。このインクジェット記録装置はインク供給系として、インクタンク、供給パイプ、ヘッド直前の前室インクタンク、およびピエゾヘッドを備えている。また、液滴サイズ約7pl、解像度600×600dpiでインクを射出できるよう、駆動周波数10KHzでインクジェット記録装置を駆動した。
(4)印刷膜に、照射手段として紫外線LED(日亜化学工業社製「NLBU21W01−E2」)を用い、トータル照射光量が300mJ/cmとなるように、紫外線を照射して該当インクを硬化した。
【0144】
実施例1〜14および比較例1〜6のプライマーインクを用いてプライマー層を形成した後、P−1〜P−5の各画像形成用インク組成物を用いて画像を形成し、印刷物を得た。
【0145】
各印刷物について下記の方法によりその特性を評価した。結果を表5に示す。なお、表4に示した全ての画像形成用インク組成物について印刷物を作製したが、特性にもっとも有意差が認められたP−1を使用した場合の結果を代表として示す。
【0146】
[密着性]
JIS K5600−5−6に規定された「碁盤目試験セロテープ(登録商標)剥離」に従って評価した。評価基準は下記のようにした。
碁盤目試験で剥がれ部分が10個以下 :○
碁盤目試験で剥がれ部分が11〜20個 :△
碁盤目試験で剥がれ部分が21個以上 :×
【0147】
[画質評価]
形成した画像を目視観察して、はじき、にじみ、色むらのない場合を○、いずれか1つでも認められた場合は×とした。
【0148】
【表5】

【0149】
〔実施例1〜14および比較例1〜6の評価〕
表5の試験結果が示す通り、本発明のプライマーインクを用いた印刷物は、非吸収性の被記録媒体において、画像の定着性を向上させ、高品質の画像を実現できることが実証された。比較例1〜比較例3のプライマーインクを用いて形成した画像の画質は良好なものの、被記録媒体に対する密着性が十分に得られなかった。比較例4のプライマーインクを用いて形成した画像は、プライマーインクの表面張力が本発明の規定より低く、画像形成用インクに対してはじきが発生した。比較例5のプライマーインクは、表面張力が本発明の規定より高いために、プライマーインクが均一に被記録媒体上に塗設できず、画像形成インクに色むらが発現した。比較例6のプライマーインクは、粘度が高いためインクジェット方式で被記録媒体に塗設することができなかった。したがって、プライマー上の画像の評価は行えなかった。
すべてのプライマーインクを、内側がポリエチレンでコートされたアルミ製パウチに充填し、これを60℃で30日間保管したところ、実施例13のプライマーインクのみがアルミ製パウチ内で重合し固体化していた。その他のプライマーインクの粘度および表面張力は共に初期の値に対し±5%の範囲の変化率であり、優れた保管適性を有していた。
【0150】
なお、ガラス板、ガラスエポキシ、ナイロン板共にプライマーインクを用いずに画像形成用インクのみで描画した印刷物は、すべて密着性試験において「×」の結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−ビニルラクタム化合物、アクリルアミド系化合物およびN−ビニルアミド化合物からなる群から選択される少なくとも1種の密着促進成分、ならびに2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートを含有し、表面張力が25〜31mN/mであり、粘度が50mPa・s以下であるプライマーインク。
【請求項2】
ゲル化防止剤および表面調整剤をさらに含有する請求項1に記載のプライマーインク。
【請求項3】
表面張力が25〜32mN/m である画像形成用インク組成物のためのプライマーとして用いる請求項1または2に記載のプライマーインク。

【公開番号】特開2012−140615(P2012−140615A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−276030(P2011−276030)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】