説明

インクジェット記録用染料、これを用いたインクジェット記録用インク、及びこれを用いた記録方法

【課題】インクジェット記録により形成される画像の変色、退色を防止し、安定的に画像を維持できる染料、インク及び記録方法を提供すること。
【解決手段】例えば下記構造式で例示される安定化アスコルビン酸誘導体の残基を有することを特徴とするインクジェット記録用染料、これを用いたインクジェット記録用インク、及びこれを用いた記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用染料等に関し、更に詳しくは、特に耐ガス性と耐光性に優れる画像を与えるインクジェット記録用インク(以下単に「インク」という場合がある)等に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの微小液滴を種々の作動原理により飛翔させて、紙等の被記録媒体に付着させ、画像や文字等を記録するものである。該記録方式は、高速印字、多色化が容易であり、記録パターンの融通性が大きい。又、現像及び定着が不要等の特徴があり、近年、各種画像の記録装置として情報機器をはじめ、各種の用途において急速に普及している。更に、多色インクジェット方式により形成される画像は、製版方式による多色印刷や、カラー写真方式以上に優れた画像を得ることも可能である。そのため、作成部数が少ない場合には通常の多色印刷や印画よりも安価であることから、フルカラー画像記録分野にまで広く応用されつつある。
【0003】
近年は手軽に印刷できるインクジェット印刷機が普及し、銀塩プリントを凌ぐ画質が得られている。しかし、水性染料は変色又は退色しやすく、銀塩写真と比較して保存安定性に劣り、形成された高画質の画質を長時間維持することに問題点がある。その解決策として、染料の劣化を防ぐ様々な方法が提案されている。例えば、アスコルビン酸等をインクに含有させ、変色、退色を防止する方法は特許文献1乃至4に開示されている。
【0004】
アスコルビン酸或いはその無機塩は結晶乾燥状態では比較的安定であるが、吸湿により着色し、分解する。又、中性からアルカリ性下では空気中の酸素による酸化が促進され、容易に分解する。更に、光や熱に対しても安定でない。そのため、アスコルビン酸の抗酸化作用等を利用することは困難である。その改善方法として、安定化アスコルビン酸誘導体を添加剤として使用し、変色、退色を防止する方法が特許文献5に開示されている。しかし、添加による方法では、インク中の色材と抗酸化剤で溶解度が異なり、被記録媒体上で色材と抗酸化剤の距離が離れてしまい、被記録媒体の性質によっては、十分な効果が得られないという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平2−228379号公報
【特許文献2】特開平7−331150号公報
【特許文献3】特開平9−95634号公報
【特許文献4】特開平9−302294号公報
【特許文献5】特開2000−226543公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、インクジェット記録により形成される画像の変色、退色を防止し、安定的に画像を維持できる染料、インク及び記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来技術に伴う問題点を解決するために、インクジェット記録に用いる染料に、直接安定化アスコルビン酸誘導体を結合させ、これを色材としてインクに使用することで、画像安定性が著しく向上することを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、安定化アスコルビン酸誘導体の残基を有することを特徴とするインクジェット記録用染料、該染料を含むインク及び該インクを使用するインクジェット記録方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明の染料を用いることで、耐候性の向上した画像を与えるインク及び記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明の染料は、一般的に知られた染料に、安定化アスコルビン酸誘導体を結合させたことを特徴としている。
【0011】
本発明で使用する安定化アスコルビン酸誘導体は、アスコルビン酸骨格を有し、少なくとも2位又は3位の何れかの水酸基が無機酸又は有機酸とのエステル又は糖との配糖体を形成することで保護されている。該誘導体は、光や熱で容易に分解されない安定化されたアスコルビン酸誘導体である。このような安定化アスコルビン酸誘導体は、必要な場面において2位又は3位が遊離の水酸基になり、還元性、抗酸化性、ラジカルスキャベンジング等のアスコルビン酸活性を示すことができる。
【0012】
本発明で使用する安定化アスコルビン酸誘導体は、アスコルビン酸の2位又は3位の少なくとも一方の水酸基が無機酸又は有機酸とのエステル構造又は糖との配糖体構造を有している。ここで、無機酸としてはリン酸(モノリン酸)、ピロリン酸、トリリン酸、ポリリン酸、これらのリン酸の誘導体、硫酸等が挙げられる。リン酸、ピロリン酸、トリリン酸が安定性等の観点から好ましく、リン酸が更に好ましい。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバリン酸、吉草酸、イソ吉草酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、プロピオル酸、クロトン酸、オレイン酸等の飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸が挙げられる。糖としては、グルコースが好ましい。
【0013】
安定化アスコルビン酸誘導体は、D体、L体、DL体、ラセミ体等、特に制限はない。具体的には以下のものが例示されるが、下記例示に限定されない。アスコルビン酸−2−リン酸、アスコルビン酸−2−リン酸ナトリウム、アスコルビン酸−2−リン酸カリウム、アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム、アスコルビン酸−2−リン酸カルシウム、アスコルビン酸−2−リン酸亜鉛。アスコルビン酸−2−ピロリン酸ナトリウム、アスコルビン酸−2−トリリン酸、アスコルビン酸−2−ポリリン酸、アスコルビン酸−2−硫酸、アスコルビン酸−2−硫酸ナトリウム、アスコルビン酸−3−リン酸。アスコルビン酸−3−リン酸ナトリウム、アスコルビン酸−3−リン酸カリウム、アスコルビン酸−3−リン酸マグネシウム、アスコルビン酸−3−硫酸、アスコルビン酸−2−O−グルコシド等。
【0014】
好ましくは、インクとの相性等の観点からアスコルビン酸−2−リン酸ナトリウム、アスコルビン酸−2−リン酸カリウム等のアスコルビン酸−2−リン酸のアルカリ金属塩、アスコルビン酸−2−O−グルコシド等のアスコルビン酸の2位配糖体等が挙げられる。更に好ましくは、アスコルビン酸−2−リン酸ナトリウム、アスコルビン酸−2−リン酸カリウムである。染料と安定化アスコルビン酸誘導体の結合は、安定化アスコルビン酸誘導体の5位又は6位の水酸基と染料のカルボキシル基又はスルホン基とがエステル結合を形成して為される。
【0015】
上記染料としては、スルホン基又はカルボキシル基を少なくとも1個有するアゾ染料、フタロシアニン染料、アントラピリドン染料又はアントラキノン染料等が挙げられる。
【0016】
上記本発明の染料の典型的な例を化学式(1)、化学式(2)、化学式(3)及び化学式(4)として以下に示す。これらの例は単なる例示であって本発明を限定するものではない。
【0017】

【0018】

【0019】

【0020】

【0021】
(式中R1は安定化アスコルビン酸誘導体の残基を、R2乃至R5は水素原子、スルホン基、カルボキシル基又は水酸基を、R6は水素原子又はアルキル基を、R7は水素原子、スルホン基、カルボキシル基又は水酸基を、R8及びR14は−COO−基又は−SO3−基を、R9及びR10はハロゲン原子を、R11は水素原子、スルホン基、カルボキシル基又は水酸基を、R12及びR13はアミノ基又はニトロ基を示す。)
【0022】
本発明のインクは上記本発明の染料と液媒体とを含むことを特徴とする。本発明のインク中における染料の添加量は所望される色や色の濃度により決定されるが、本発明のインクの全量に対して、0.1質量%以上12質量%以下である。より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以上8質量%以下である。
【0023】
上記染料を溶解又は分散する液媒体は特に限定されないが、その例は以下の通りである。水、アルコール類(例えばメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、ブタノール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン等)。ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)。エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等)。アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド等)。ピロリジノン類(1−メチル−2−ピロリジノン、2−ピロリジノン等)。芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン等)。脂肪族炭化水素類(n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等)。グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール等)。グリコールエーテル類(2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等)等。これらの化合物は単独或いは2種以上を任意の割合で組み合わせて使用することができる。液媒体の使用量は特に限定はないが、インク中の総含有量が50質量%以上98質量%以下であることが好ましい。
【0024】
又、インクを分散させる場合には、必要に応じて分散剤(例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム、イオン性界面活性剤、高分子物質、非イオン界面活性剤等)等を使用してもよい。添加する場合、特に限定はないが、添加量は0.01質量%以上10質量%以下の範囲が好ましい。
【0025】
又、必要に応じて防腐・防黴剤、キレート試薬、防錆剤、pH調整剤、消泡剤、粘度調整剤、浸透剤、ノズル乾燥防止剤等を加えてもよく、添加量、添加法に限定はない。このインク組成はpHが7乃至12の範囲であることが好ましい。
【0026】
又、本発明のインクは、インクジェット記録に好適に用いられる。このため、本発明のインクの物性として好適な範囲は、25℃付近でのpHが3から12、より好ましくは4から10の範囲である。表面張力は好ましくは10から60mN/m(dyn/cm)、より好ましくは15から50mN/m(dyn/cm)の範囲である。粘度は好ましくは1から30cps(mPa・s)、より好ましくは1から10cps(mPa・s)の範囲である。
【0027】
本発明のインクジェット記録方法は、上記本発明のインクを使用することを特徴とする。本発明のインクは、インクジェット記録方式の中でもバブルジェット(登録商標)方式の記録ヘッドに用いられ、又、そのインクが収納されているインク収納容器としても、或いはその充填用のインクとしても有効である。本発明は、バブルジェット(登録商標)方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらすものである。
【0028】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は所謂オンデマンド型、コンティニュアス型の何れにも適用可能である。特に、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置された電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰させて、結果的にこの駆動信号に一対一対応し、インク内の気泡を形成できるので有効である。
【0029】
この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行うことができる。
【0030】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路又は直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成にも本発明は有効である。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通する吐出口を電気熱変換体の吐出部とする構成(特開昭59−123670号公報等)に対しても、本発明は有効である。
【0031】
更に、記録装置が記録できる最大被記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによって、その長さを満たす構成や一体的に形成された一個の記録ヘッドとしての構成の何れでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0032】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或いは記録ヘッド自体に一体的に設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0033】
又、本発明は、適用される記録装置の構成として設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧或いは吸引手段、電気熱変換体或いはこれとは別の加熱素子或いはこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードである。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。又、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準であり、「部」及び「%」は固形分換算とする。尚、「残部」とは全体を100%とし、各成分を差し引いた残りをいう。
【0035】
<実施例1>
アスコルビン酸−2−リン酸を結合させた本発明の染料を用いて作製したインクで印字し、評価を行った。本実施例で用いられるインクの好適な例として以下のものを挙げることができる。即ち、水溶性染料を含む下記の成分を混合し、更にポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルタにて加圧ろ過してインクを得ることができる。
・水溶性染料 1.5%
・チオジグリコール 10%
・商品名:アセチレノールEH
(川研ファインケミカル株式会社製) 0.05%
・水 残部
【0036】
安定化アスコルビン酸誘導体の染料への結合は一般的なエステル化反応で行った。特に、スルホン酸エステル化については、次の方法で合成を行った。しかし、他の一般的な方法で合成してもよい。
【0037】
1)スルホン酸エステル化
染料は、POCl3によりスルホン酸クロライド化を行う。次に、アスコルビン酸−2−リン酸0.05〜0.5molを塩基性溶媒、例えば、ピリジン50〜200mlに溶解し、0〜5℃に冷却する。次に窒素雰囲気下、0〜5℃で、スルホン酸クロライド化した染料0.05〜0.5molをピリジン50〜500mlに溶解した溶液を滴下し、滴下終了後、0から5℃で0.5〜2時間攪拌を続け、必要に応じて更に室温で1〜6時間攪拌を続けて反応を完了させる。反応液を氷水中に注ぎ入れ、析出する沈澱をpH4〜6の弱酸性水溶液で十分に洗浄した後、必要に応じてエタノール等の有機溶媒から再結晶させることで、安定化アスコルビン酸誘導体の6位の水酸基とスルホン酸エステル結合を持つ染料を得ることができる。
【0038】
本実施例で使用した染料を以下に示す。
[アゾ染料]
C.I.Direct Red33にアスコルビン酸−2−リン酸を結合させた染料

【0039】
[フタロシアニン染料]
C.I.Direct Blue199にアスコルビン酸−2−リン酸を結合させた染料

【0040】
[アントラピリドン染料]
C.I.Acid Red80にアスコルビン酸−2−リン酸を結合させた染料

【0041】
[アントラキノン染料]
C.I.Acid Red91にアスコルビン酸−2−リン酸を結合させた染料

【0042】
上記組成のインクをインクジェットプリンタ(PIXUS 850i、キヤノン(株))に搭載し、プロフェッショナルフォトペーパーPR101(キヤノン(株))に対して印字を行った。
【0043】
<その他の実施例>
インクジェットノズルを並べて印字するフルマルチ形式のインクジェット記録装置を用いるのが好ましいが、この限りではない。又、被記録媒体は紙以外にも板等の材料でもよい。
【0044】
<比較例1>
本比較例で用いるインクの説明を行う。本比較例で用いられるインクの好適な例として以下のものを挙げることができる。即ち、水溶性染料を含む下記の成分を混合し、更にポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルタにて加圧ろ過することによりインクを得ることができる。
・水溶性染料 1.4%
・抗酸化剤 0.6%
・チオジグリコール 10%
・商品名:アセチレノールEH
(川研ファインケミカル株式会社製) 0.05%
・水 残部
【0045】
水溶性染料として以下の市販の染料を用いた。
・アゾ染料:C.I.Direct Red33
・フタロシアニン染料:C.I.Direct Blue199
・アントラピリドン染料:C.I.Acid Red80
・アントラキノン染料:C.I.Acid Red91
抗酸化剤としてアスコルビン酸−2−リン酸を使用した。
インクジェットプリンタ及び被記録媒体は実施例と同じものを使用した。
【0046】
<実施例2>
本発明のアスコルビン酸−2−硫酸ナトリウムを結合させた染料を用いて作製したインクで印字し、評価を行った。アスコルビン酸−2−硫酸ナトリウムを結合させる染料及びインク組成は実施例1と同様のものを用いた。上記組成のインクをインクジェットプリンタ(PIXUS 850i、キヤノン(株))に搭載し、プロフェッショナルフォトペーパーPR101(キヤノン(株))に対して印字を行った。
【0047】
(その他の形態)
インクジェットノズルを並べて印字するフルマルチ形式のインクジェット記録装置を用いるのが好ましいが、この限りではない。又、被記録媒体は紙以外にも板等の材料でもよい。
【0048】
<比較例2>
インク組成及び染料は、比較例1と同様のものを用いた。抗酸化剤としてアスコルビン酸−2−硫酸ナトリウムを使用した。インクジェットプリンタ及び被記録媒体は実施例と同じものを使用した。
【0049】
<実施例3>
本発明のアスコルビン酸−2−(−4−)ビニル安息香酸を結合させた染料を用いて作製したインクで印字し、評価を行った。アスコルビン酸−2−(−4−)ビニル安息香酸を結合させる染料及びインク組成は実施例1と同様のものを用いた。上記組成のインクをインクジェットプリンタ(PIXUS 850i、キヤノン(株))に搭載し、プロフェッショナルフォトペーパーPR101(キヤノン(株))に対して印字を行った。
【0050】
(その他の形態)
インクジェットノズルを並べて印字するフルマルチ形式のインクジェット記録装置を用いるのが好ましいが、この限りではない。又、被記録媒体は紙以外にも板等の材料でもよい。
【0051】
<比較例3>
インク組成及び染料は、比較例2と同様のものを用いた。抗酸化剤としてアスコルビン酸−2−(−4−)ビニル安息香酸を使用した。インクジェットプリンタ及び被記録媒体は実施例1と同じものを使用した。
【0052】
<比較例4>
本比較例で用いられるインクを説明する。本比較例で用いられるインクの好適な例として以下のものを挙げることができる。即ち、水溶性染料を含む下記の成分を混合し、更にポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルタにて加圧ろ過することによりインクを得ることができる。
・水溶性染料 1.6%
・チオジグリコール 10%
・商品名:アセチレノールEH
(川研ファインケミカル株式会社製) 0.05%
・水 残部
水溶性染料として、比較例1と同様のものを用いた。インクジェットプリンタ及び被記録媒体は実施例と同じものを使用した。
【0053】
[耐候性測定用試料の作成]
以上のようにして得られた本発明の実施形態のインク、そして比較例のインクをインクジェット記録装置により、被記録媒体上に、O.D.が0.9〜1.1の範囲に入るように印加Dutyを調整し、黄色の単色パッチ(1.5cm角の正方形)を形成した。
【0054】
<耐オゾン性評価>
試料(黄色の単色パッチ)を、(株)スガ試験機製オゾンウェザーメーターOMS−H型を用い、所定時間(6時間、12時間)オゾン曝露した。曝露時の温度と湿度そしてオゾン濃度はそれぞれ24℃、60%、2ppmである。曝露後、それぞれの印刷物を、下記の基準の官能評価により評価した。
評価A:被験者10人中9人以上が濃度変化なしと判定
評価B:被験者10人中7人以上が濃度変化なしと判定
評価C:被験者10人中5人以上が濃度変化なしと判定
評価D:被験者10人中9人以上が濃度変化ありと判定
【0055】
<耐光性評価>
試料(黄色の単色パッチ)の表面を無色のガラスプレートで覆った後、(株)スガ試験機製キセノンウェザーメータXL−75S型を用い、所定時間(6時間、12時間)光曝露した。曝露時の温度と湿度はそれぞれ24℃、60%である。又、照射条件は、BPT(ブラックパネル温度)40℃:300〜400nm間出の照度34W/m2である。曝露後、それぞれの印字物を下記の基準の官能評価により評価した。
評価A:被験者10人中9人以上が濃度変化なしと判定
評価B:被験者10人中7人以上が濃度変化なしと判定
評価C:被験者10人中5人以上が濃度変化なしと判定
評価D:被験者10人中9人以上が濃度変化ありと判定
【0056】

【0057】
表1に示すように、本発明の実施形態により記録を行った結果、耐オゾン性、耐光性の優れた印字物が得られることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化アスコルビン酸誘導体の残基を有することを特徴とするインクジェット記録用染料。
【請求項2】
安定化アスコルビン酸誘導体が、その2位又は3位の少なくとも一方の水酸基が無機酸又は有機酸とのエステル又は糖との配糖体であって、5位又は6位のどちらか一方の水酸基と、染料のスルホン基又はカルボキシル基とのエステル結合によって染料に結合している請求項1に記載の染料。
【請求項3】
染料が、スルホン基又はカルボキシル基を少なくとも1個有するアゾ染料、フタロシアニン染料、アントラピリドン染料又はアントラキノン染料である請求項1に記載の染料。
【請求項4】
下記化学式(1)、下記化学式(2)、下記化学式(3)又は下記化学式(4)で表される請求項1に記載の染料。




(式中R1は安定化アスコルビン酸誘導体の残基を、R2乃至R5は水素原子、スルホン基、カルボキシル基、水酸基又はアミノ基を、R6は水素原子又はアルキル基を、R7は水素原子、スルホン基、カルボキシル基、水酸基又はアルキル基を、R8及びR14は−COO−基又は−SO3−基を、R9及びR10はハロゲン原子を、R11は水素原子、スルホン基、カルボキシル基又は水酸基を、R12及びR13はアミノ基又はニトロ基を示す。)
【請求項5】
請求項1に記載の染料を含有することを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項6】
請求項5に記載のインクジェット記録用インクを使用することを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2008−260900(P2008−260900A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106437(P2007−106437)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】