説明

インクジェット記録用水性インク、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置

【課題】発色性に優れ、且つ、耐光性および耐オゾン性にも優れるインクジェット記録用水性インクを提供する。
【解決手段】着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、前記着色剤が、下記の染料(1)および染料(2)を含むことを特徴とする。本発明の水性インクは、発色性、耐オゾン性および耐光性のすべての性能に優れる。染料(1):特殊アントラピリドン系の特定な化合物である染料。染料(2):C.I.アシッドレッド1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インク、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用マゼンタインクとして、発色性に優れるC.I.アシッドレッド52や、C.I.アシッドレッド289を含むインクが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、前記マゼンタ染料は、耐オゾン性および耐光性が充分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−137098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、発色性に優れ、且つ、耐オゾン性および耐光性にも優れるインクジェット記録用水性インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用水性インクは、着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
前記着色剤が、下記の染料(1)および染料(2)を含むことを特徴とする。
染料(1):一般式(1)で表される染料
染料(2):C.I.アシッドレッド1
【化1】

一般式(1)において、
は、1または2であり、
3つのMは、それぞれ、ナトリウムまたはアンモニウムであり、3つのMは同一でも異なっていてもよく、
は、カルボキシ基で置換された炭素原子数1〜8のモノアルキルアミノ基である。
【発明の効果】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明者等は、一連の研究を重ねたところ、インクジェット記録用水性インクに前記染料(1)と前記染料(2)とを組み合わせて用いれば、発色性、耐オゾン性および耐光性のすべての性能に優れることを見出し、本発明に至った。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本発明のインクジェット記録装置の構成の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のインクジェット記録用水性インク(以下、単に「水性インク」または「インク」と言うことがある)について説明する。本発明の水性インクは、着色剤、水および水溶性有機溶剤を含む。前述のとおり、前記着色剤は、前記染料(1)および前記染料(2)を含む。
【0009】
前述のとおり、前記染料(1)は、一般式(1)で表される染料である。
【0010】
前述のとおり、一般式(1)において、
は、1または2であり、
3つのMは、それぞれ、ナトリウムまたはアンモニウムであり、3つのMは同一でも異なっていてもよく、
は、カルボキシ基で置換された炭素原子数1〜8のモノアルキルアミノ基である。
一般式(1)で表される化合物は、3つのMがすべてナトリウムである化合物(ナトリウム塩)であってもよいし、3つのMがすべてアンモニウムである化合物(アンモニウム塩)であってもよいし、3つのMの一つまたは二つがナトリウムであり残りがアンモニウムである化合物であってもよい。
前記染料(1)は、単一の前記化合物で構成されていてもよいし、2種以上の前記化合物を含む混合物であってもよい。
前記Mは、水性インク中で電離して、イオン(NaおよびNHの少なくとも一方)となっていてもよい。
【0011】
前記染料(1)の好ましい具体例としては、表1に示す染料(1−A)〜(1−E)で表される化合物があげられる。
【0012】
【表1】

【0013】
前記染料(1)は、従来公知の方法で製造できる。前記染料(1)の製造方法は、例えば、つぎのとおりである。
【0014】
すなわち、まず、構造式(11)で表されるアントラキノン化合物1モルと、ベンゾイル酢酸エチルエステル1.1モル〜3モルとを、キシレン等の極性溶媒中で、炭酸ナトリウム等の塩基性化合物の存在下、130℃〜180℃で、5時間〜15時間反応させ、構造式(12)で表される化合物を得る。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
つぎに、得られた構造式(12)で表される化合物1モルとメタアミノアセトアミド1モル〜5モルとを、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性有機溶媒中で、炭酸ナトリウム等の塩基および酢酸銅等の銅触媒の存在下、110℃〜150℃で、2時間〜6時間、ウルマン反応により縮合させ、構造式(13)で表される化合物を得る。
【0018】
【化4】

【0019】
つぎに、得られた構造式(13)で表される化合物を8%〜15%の発煙硫酸中で、50℃〜120℃でスルホ化すると同時に、アセチルアミノ基を加水分解することにより、構造式(14)で表される化合物を得る。
【0020】
【化5】

【0021】
つぎに、得られた構造式(14)で表される化合物1モルと、構造式(15)で表される化合物2モル〜2.5モルとを水中で、pH2〜9、2℃〜15℃で、30分〜1時間反応させる。得られた構造式(16)で表される化合物に、Rに対応する化合物、すなわち「R−H」等で表される化合物2モル〜5モルを、pH7〜10、20℃〜90℃で、10分〜10時間反応させることにより、構造式(16)中の脱離基XをRで置換することにより、前記染料(1)を得ることができる。
【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
前記染料(1)の配合量は、特に制限されない。水性インクに前記染料(1)を含ませることで、耐オゾン性および耐光性を向上させることができる。前記染料(1)の配合量は、前記水性インク全量に対し、例えば、0.1重量%〜10重量%であり、好ましくは、1.4重量%〜5.4重量%であり、より好ましくは、1.6重量%〜4.8重量%である。
【0025】
前記染料(2)のC.I.アシッドレッド1は、例えば、構造式(2)で表される染料である。
【0026】
【化8】

【0027】
前記染料(2)の配合量は、特に制限されない。水性インクに前記染料(2)を含ませることで、発色性を向上させることができる。前記染料(2)の配合量は、前記水性インク全量に対し、例えば、0.05重量%〜5重量%であり、好ましくは、0.2重量%〜1.8重量%であり、より好ましくは、0.4重量%〜1.2重量%である。
【0028】
前記水性インクにおける前記染料(1)と前記染料(2)との重量比は、染料(1):染料(2)=70:30〜90:10であることが好ましい。前記重量比を前記範囲とすることで、発色性と、耐オゾン性および耐光性とが、共に極めて良好な水性インクを得ることができる。
【0029】
前記染料(1)と前記染料(2)との合計配合量は、特に制限されないが、前記水性インク全量に対し、2重量%〜6重量%であることが好ましい。前記合計配合量を前記範囲とすることで、発色性、耐オゾン性、耐光性および噴射安定性の全てが、極めて良好な水性インクを得ることができる。
【0030】
前記着色剤は、前記染料(1)および前記染料(2)に加え、さらに他の染料および顔料等を含んでもよい。
【0031】
前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0032】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤および被記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0033】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0034】
前記水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量(湿潤剤割合)は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、さらに好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0035】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテルおよびトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
前記水性インク全量に対する前記浸透剤の配合量(浸透剤割合)は、例えば、0重量%〜20重量%である。前記浸透剤割合を前記範囲とすることで、前記水性インクの被記録媒体への浸透性を、より好適なものとできる。前記浸透剤割合は、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0037】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0038】
前記水性インクは、例えば、着色剤、水および水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0039】
本発明の水性インクは、例えば、水性マゼンタインクとして用いることができる。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明の水性インクは、前記染料(1)および前記染料(2)以外の着色剤を用いることにより、マゼンタ以外の色の水性インクとすることもできる。
【0040】
つぎに、本発明のインクカートリッジについて説明する。本発明のインクカートリッジは、インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、本発明のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0041】
つぎに、本発明のインクジェット記録装置について説明する。本発明のインクジェット記録装置は、インク収容部およびインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、本発明のインクカートリッジが収容されていることを特徴とする。これを除き、本発明のインクジェット記録装置の構成は、例えば、従来公知のインクジェット記録装置と同様であってもよい。
【0042】
図1に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成部材として含む。
【0043】
前記4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記水性マゼンタインクを含むインクカートリッジが、本発明のインクカートリッジである。前記インクジェットヘッド3は、記録紙等の被記録媒体Pに記録を行う。前記ヘッドユニット4は、前記インクジェットヘッド3を備えている。前記キャリッジ5には、前記4つのインクカートリッジ2および前記ヘッドユニット4が搭載される。前記駆動ユニット6は、前記キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。前記駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。前記プラテンローラ7は、前記キャリッジ5の往復方向に延び、前記インクジェットヘッド3と対向して配置されている。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0044】
前記被記録媒体Pは、このインクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。前記被記録媒体Pは、前記インクジェットヘッド3と、前記プラテンローラ7との間に導入される。すると、前記被記録媒体Pに、前記インクジェットヘッド3から吐出されるインクにより所定の記録がなされる。前記被記録媒体Pは、その後、前記インクジェット記録装置1から排紙される。図1においては、前記被記録媒体Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0045】
前記パージ装置8は、前記インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。前記パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0046】
前記パージ装置8の前記プラテンローラ7側の位置には、前記パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。前記ワイパ部材20は、へら状に形成されており、前記キャリッジ5の移動に伴って、前記インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、インクの乾燥を防止するため、記録が終了すると前記リセット位置に戻される前記インクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0047】
前記インクジェット記録装置において、前記4つのインクカートリッジは、複数のキャリッジに搭載されていてもよい。また、前記インクカートリッジは、前記キャリッジには搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。この態様においては、例えば、前記インクカートリッジと、前記キャリッジに搭載された前記ヘッドユニットとが、チューブ等により連結され、前記インクカートリッジから前記ヘッドユニットに前記インクが供給される。
【実施例】
【0048】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実
施例および比較例により限定および制限されない。
【0049】
[実施例1〜9および比較例1〜6]
インク組成成分(表2)を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.20μm)を用いてろ過することで、実施例1〜9および比較例1〜6のインクジェット記録用水性インクを得た。なお、表2において、染料(1−A)〜(1−E)は、それぞれ、表1に示す染料(1−A)〜(1−E)で表される化合物である。
【0050】
実施例および比較例の水性インクについて、(a)発色性評価、(b)耐オゾン性評価、(c)耐光性評価、(d)噴射安定性評価および(e)総合評価を、下記の方法により行った。なお、(a)発色性評価、(b)耐オゾン性評価および(c)耐光性評価に用いるサンプルは、つぎのようにして準備した。
【0051】
まず、実施例および比較例の水性インクを、インクカートリッジに充填した。ついで、前記インクカートリッジを、ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cに装着した。つぎに、ブラザー工業(株)製の写真光沢紙BP71GAに前記水性インクのグラデーションサンプルをプリントした。
【0052】
(a)発色性評価
前記グラデーションサンプルを、目視にて観察し、マゼンタ色が充分に表現されているか否かを、下記の評価基準に従って評価した。
【0053】
発色性評価 評価基準
A:マゼンタ色を充分に表現できている。
B:マゼンタ色を表現できている。
C:マゼンタ色を表現できていない。
【0054】
(b)耐オゾン性評価
前記グラデーションサンプルのうち、初期OD値が1.0のパッチを評価サンプルとして用いた。前記OD値は、Gretag Macbeth社製の分光測色計Spectrolino(光源:D65;視野:2°;status A)により測定した。スガ試験機(株)製のオゾンウェザーメーターOMS−Hを用いて、オゾン濃度1ppm、槽内温度24℃、槽内相対湿度60%の条件下、前記パッチを40時間放置した。ついで、前記放置後の前記パッチのOD値を、前述と同様にして、測定した。つぎに、下記式(I)によりOD値減少率(%)を求め、耐オゾン性を、下記の評価基準に従って評価した。なお、前記OD値減少率が小さいほど、画質の劣化が少なく、耐オゾン性に優れていたこととなる。

OD値減少率(%)={(X−Y)/X}×100 ・・・(I)
X:1.0(初期OD値)
Y:放置後のOD値

【0055】
耐オゾン性評価 評価基準
A:OD値減少率が、20%未満
B:OD値減少率が、20%以上30%未満
C:OD値減少率が、30%以上40%未満
D:OD値減少率が、40%以上
【0056】
(c)耐光性評価
前記グラデーションサンプルのうち、初期OD値が1.0のパッチを評価サンプルとして用いた。前記OD値は、Gretag Macbeth社製の分光測色計Spectrolino(光源:D65;視野:2°;status A)により測定した。スガ試験機(株)製のスーパーキセノンウェザーメーターSX75を用いて、槽内温度23℃、槽内相対湿度50%、照度81klxの条件下、前記パッチにキセノンランプ光を100時間照射した。ついで、前記照射後の前記パッチのOD値を、前述と同様にして、測定した。つぎに、下記式(II)によりOD値減少率(%)を求め、耐光性を、下記の評価基準に従って評価した。なお、前記OD値減少率が小さいほど、画質の劣化が少なく、耐光性に優れていたこととなる。

OD値減少率(%)={(X−Y)/X}×100 ・・・(II)
X:1.0(初期OD値)
Y:照射後のOD値

【0057】
耐光性評価 評価基準
A:OD値減少率が、20%未満
B:OD値減少率が、20%以上30%未満
C:OD値減少率が、30%以上40%未満
D:OD値減少率が、40%以上
【0058】
(d)噴射安定性評価
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cを使用し、富士通コワーコ(株)製のオフィス用紙W(記録用紙)上に、1億ドット(約3万枚)の連続記録を行った。前記連続記録の結果を、下記の評価基準に従って評価した。不吐出とは、インクジェットヘッドのノズルが目詰まりし、前記水性インクが吐出されない状態である。吐出曲がりとは、インクジェットヘッドのノズルの一部が目詰まりし、前記水性インクが、前記記録用紙に対して垂直に吐出されず、斜めに吐出される状態である。
【0059】
噴射安定性評価 評価基準
A:連続記録中において、不吐出および吐出曲がりが全くなかった。
B:連続記録中において、不吐出若しくは吐出曲がりが僅かにあったが、前記不吐出若しくは吐出曲がりが、共に5回以内のパージによって回復した。
C:連続記録中において、不吐出および吐出曲がりが多数有り、前記不吐出および吐出曲がりが、共に5回のパージでは回復しなかった。
【0060】
(e)総合評価
各水性インクについて、前記(a)〜(d)の結果から、下記の評価基準に従って総合評価を行った。
【0061】
総合評価 評価基準
G :すべての評価結果がAまたはBであった。
NG:評価結果のいずれかにCまたはDがあった。
【0062】
実施例および比較例の水性インクの組成および評価結果を、表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示すとおり、染料(1)および染料(2)を組み合わせて用いた実施例では、評価結果が、良好であった。染料(1)と染料(2)との重量比が異なる実施例1〜5では、染料(1):染料(2)=70:30〜90:10(重量比)である実施例2〜4において、発色性と、耐オゾン性および耐光性とが、共に極めて良好であった。染料合計配合量が異なる実施例6〜9では、染料合計配合量が2重量%〜6重量%である実施例7および8において、耐オゾン性および耐光性と、噴射安定性とが、共に極めて良好であった。
【0065】
一方、染料(2)を含まない比較例1では、発色性が劣っていた。染料(1)を含まない比較例2では、耐オゾン性および耐光性が劣っていた。染料(2)に代えてC.I.アシッドレッド52を用いた比較例3では、耐オゾン性および耐光性が劣っていた。染料(2)に代えてC.I.アシッドレッド289を用いた比較例4では、耐オゾン性および耐光性が劣っていた。染料(1)に代えてC.I.アシッドレッド52を用いた比較例5では、耐オゾン性および耐光性が著しく劣っていた。染料(1)に代えてC.I.アシッドレッド289を用いた比較例6では、耐オゾン性および耐光性が著しく劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明の水性インクは、発色性、耐オゾン性および耐光性のすべての性能に優れるものである。本発明の水性インクの用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インク吐出手段(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
前記着色剤が、下記の染料(1)および染料(2)を含むことを特徴とするインクジェット記録用水性インク。
染料(1):一般式(1)で表される染料
染料(2):C.I.アシッドレッド1
【化1】

一般式(1)において、
は、1または2であり、
3つのMは、それぞれ、ナトリウムまたはアンモニウムであり、3つのMは同一でも異なっていてもよく、
は、カルボキシ基で置換された炭素原子数1〜8のモノアルキルアミノ基である。
【請求項2】
前記水性インクにおける前記染料(1)と前記染料(2)との重量比が、染料(1):染料(2)=70:30〜90:10である請求項1記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項3】
前記水性インク全量に対し、前記染料(1)と前記染料(2)との合計配合量が、2重量%〜6重量%である請求項1または2記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項4】
インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項5】
インク収容部およびインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、請求項4記載のインクカートリッジが収容されていることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−111609(P2011−111609A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272392(P2009−272392)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】