説明

インクジェット記録用水性インクセット、インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置

【課題】顔料ブラックインクと染料シアンインクを含む、耐光性、耐オゾン性および噴射安定性に優れるインクジェット記録用水性インクセットの提供。
【解決手段】水性ブラックインクと水性シアンインクを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、該ブラックインクの着色剤がカルボキシ基およびスルホ基の少なくとも一方の基により修飾された自己分散型カーボンブラックであり、かつ該シアンインクの着色剤が下記式(1)で表される染料であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インクセット、インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、顔料ブラックインクおよび染料カラーインクを含むインクジェット記録用水性インクセットが普及している。このようなインクセットに用いる水性シアンインクとして、C.I.アシッドブルー74およびC.I.アシッドブルー9等のシアン染料を含むインクが知られている。しかし、前記シアン染料は、耐光性が充分でない。このため、市販の水性シアンインクには、C.I.ダイレクトブルー86およびC.I.ダイレクトブルー199等の銅フタロシアニン系染料が広く用いられている。これらの一般的な銅フタロシアニン系染料は、マゼンタ染料やイエロー染料と比べても耐光性に優れているものの、オゾンとの接触により退色・変色しやすく、記録物において色変化および光学濃度の低下が生じるという問題がある。このため、耐オゾン性を向上させた銅フタロシアニン系染料が提案されている(特許文献1)。
【0003】
前記水性インクセットは、前記染料シアンインクの耐光性、耐オゾン性に優れていることに加え、さらに、前記染料シアンインクの噴射安定性および前記顔料ブラックインクと前記染料シアンインクとの非凝集性にも優れていることが求められる。前記非凝集性とは、例えば、インクジェット記録装置において、インクジェットヘッドのノズル形成面をワイパ部材で拭う際に前記顔料ブラックインクと前記染料シアンインクが接触しても凝集を起こさないことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−103484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、染料シアンインクの耐光性、耐オゾン性および噴射安定性に優れ、且つ、顔料ブラックインクと染料シアンインクとの非凝集性にも優れた顔料ブラックインクおよび染料シアンインクを含むインクジェット記録用水性インクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、
水性ブラックインクおよび水性シアンインクを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記水性ブラックインクが、ブラック着色剤、水および水溶性有機溶剤を含み、
前記ブラック着色剤が、カルボキシ基およびスルホ基の少なくとも一方の基により修飾された自己分散型カーボンブラックを含み、
前記水性シアンインクが、シアン着色剤、水および水溶性有機溶剤を含み、
前記シアン着色剤が、一般式(1)で表される染料を含むことを特徴とする。
【化1】

一般式(1)において、
環A、AおよびAは、それぞれ、ベンゼン環、2,3−ピリジン環および3,2−ピリジン環からなる群から選択される少なくとも一つであり、且つ、環A、AおよびAの少なくとも一つは、2,3−ピリジン環または3,2−ピリジン環であり、環A、AおよびAは互いに同一でも異なっていてもよく、
aは、0≦a≦4を満たし、bは、0≦b≦4を満たし、cは、0≦c≦4を満たし、且つ、a、bおよびcは、0≦a+b+c≦4を満たし、
zは、1≦z≦3を満たす整数であり、
は、炭素原子数1〜6の直鎖アルキル基である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、染料シアンインクの耐光性、耐オゾン性および噴射安定性に優れ、且つ、顔料ブラックインクと染料シアンインクとの非凝集性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施例における凝集性評価の方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のインクジェット記録用水性インクセット(以下、単に「水性インクセット」または「インクセット」と言うことがある)について説明する。本発明の水性インクセットは、水性ブラックインクおよび水性シアンインクを含む。
【0010】
(水性ブラックインク)
前述のとおり、前記水性ブラックインクは、ブラック着色剤、水および水溶性有機溶剤を含む。前記ブラック着色剤は、カルボキシ基およびスルホ基の少なくとも一方の基により修飾された自己分散型カーボンブラックを含む。本発明において、カルボキシ基およびスルホ基の少なくとも一方の基により修飾された自己分散型カーボンブラック(以下、「特定基修飾自己分散型カーボンブラック」とも言う)と、前記特定の水性シアンインクとを組み合わせることで、非凝集性に優れたものとすることができる。前記特定基修飾自己分散型カーボンブラックは、例えば、後述のカーボンブラックに対し特表2008−524400号公報に記載の方法で処理することにより調製できる。また、前記特定基修飾自己分散型カーボンブラックは、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「CAB−O−JET(登録商標)200」、「CAB−O−JET(登録商標)300」等があげられる。前記水性ブラックインクは、高分子顔料分散剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。前記水性ブラックインクが高分子顔料分散剤を含む場合には、前記水性ブラックインクの粘度に影響を与えない程度の量であることが好ましい。このように、本発明の水性ブラックインクは、自己分散型カーボンブラックを使用するため、高分子顔料分散剤に起因する粘度上昇の問題が無く、且つ、吐出安定性および保存安定性に優れたものとすることができる。
【0011】
前記特定基修飾自己分散型カーボンブラックの原料として用いることができるカーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。特に、前記処理を行うのに適したカーボンブラックとしては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」および「MA100」、デグサ社製の「カラーブラックFW200」等があげられる。
【0012】
前記水性ブラックインク全量に対する前記特定基修飾自己分散型カーボンブラックの固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度または色彩等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。
【0013】
前記ブラック着色剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、前記特定基修飾自己分散型カーボンブラックに加え、さらに他の顔料および染料等を含んでもよい。
【0014】
前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記水性ブラックインク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0015】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性ブラックインクの乾燥を防止する湿潤剤および記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0016】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、へキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0017】
前記水性ブラックインク全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、さらに好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0018】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−へキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテルおよびトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
前記水性ブラックインク全量に対する前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0020】
前記水性ブラックインクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0021】
前記水性ブラックインクは、例えば、ブラック着色剤、水および水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0022】
(水性シアンインク)
前述のとおり、前記水性シアンインクは、シアン着色剤、水および水溶性有機溶剤を含む。前記シアン着色剤は、一般式(1)で表される染料を含む。一般式(1)で表される前記染料を含むことで、噴射安定性、耐光性および耐オゾン性に優れた水性シアンインクを得ることができる。一般的に、水性シアンインクは、染料分子の会合性を高くすることで、耐オゾン性を向上させている。しかし、その一方で染料分子の会合度が大きいと、水への溶解性が低いという欠点を有する。このため、インクジェット記録用シアンインクのシアン染料として染料分子の会合性が高い染料を使用した場合、水への溶解性が低いため、インクの長期保存安定性、蒸発性に問題が生ずることが懸念される。即ち、水に対する溶解性が低い染料を使用したインクは、少量の水分蒸発で粘度が高くなってしまうということが懸念され、粘度が高すぎるとインクジェットヘッド中での流路抵抗が大きくなり、インクを安定に噴射することが困難になる。他方、一般式(1)で表される前記染料は、染料分子との会合性が高く、耐オゾン性に優れていることに加え、水への溶解性が良好であるため、噴射安定性にも優れるという効果がある。ただし、このメカニズムは推定であり、本発明を何ら限定しない。
【0023】
一般式(1)で表される前記染料は、環A、AおよびAがすべて2,3−ピリジン環または3,2−ピリジン環である化合物であってもよいし、環A、AおよびAのうち二つが2,3−ピリジン環または3,2−ピリジン環であり、残り一つがベンゼン環である化合物であってもよいし、環A、AおよびAのうち一つが2,3−ピリジン環または3,2−ピリジン環であり、残り二つがベンゼン環である化合物であってもよい。
一般式(1)で表される前記染料は、単一の前記化合物で構成されていてもよいし、2種以上の前記化合物を含む混合物であってもよい。
【0024】
一般式(1)で表される前記染料の好ましい具体例としては、化学式(1−A)〜(1−E)で表される化合物があげられる。
【0025】
【化2】

化学式(1−A)において、
環A、AおよびAは、それぞれ独立に、2,3−ピリジン環および/または3,2−ピリジン環であり、
aは、1.0であり、bは、1.8であり、cは、1.2であり、a、bおよびcは、混合物における平均値である。
【0026】
【化3】

化学式(1−B)において、
環AおよびAは、それぞれ独立に、2,3−ピリジン環および/または3,2−ピリジン環であり、環Aは、ベンゼン環であり、
aは、2.4であり、bは、0.6であり、cは、1.0であり、a、bおよびcは、混合物における平均値である。
【0027】
【化4】

化学式(1−C)において、
環A、AおよびAは、それぞれ独立に、2,3−ピリジン環および/または3,2−ピリジン環であり、
aは、3.0であり、bは、0.2であり、cは、0.8であり、a、bおよびcは、混合物における平均値である。
【0028】
【化5】

化学式(1−D)において、
環Aは、ベンゼン環であり、環AおよびAは、それぞれ独立に、2,3−ピリジン環および/または3,2−ピリジン環であり、
aは、1.8であり、bは、0.9であり、cは、1.3であり、a、bおよびcは、混合物における平均値である。
【0029】
【化6】

化学式(1−E)において、
環A、AおよびAは、それぞれ独立に、2,3−ピリジン環および/または3,2−ピリジン環であり、
aは、1.1であり、bは、1.3であり、cは、1.6であり、a、bおよびcは、混合物における平均値である。
【0030】
一般式(1)で表される前記染料の配合量は、特に制限されないが、前記水性シアンインク全量に対し、2重量%〜6重量%であることが好ましい。
【0031】
前記シアン着色剤は、一般式(1)で表される前記染料のみで構成されていてもよいし、さらに他の染料および顔料等を含んでもよい。
【0032】
前記水およびその配合量は、前述の水性ブラックインクにおける水およびその配合量と同様である。
【0033】
前記水溶性有機溶剤およびその配合量は、前述の水性ブラックインクにおける水溶性有機溶剤およびその配合量と同様である。
【0034】
前記水性シアンインクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤も、前述の水性ブラックインクにおける添加剤と同様である。
【0035】
前記水性シアンインクは、例えば、シアン着色剤、水および水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0036】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、前記水性ブラックインクおよび前記水性シアンインクのみで構成されていてもよいし、さらに他の色の水性インクを含んでもよい。前記他の色の水性インクとしては、例えば、水性イエローインク、水性マゼンタインク、水性レッドインク、水性グリーンインク、水性ブルーインク、着色剤濃度が低い水性ライトインク(水性ライトブラックインク、水性ライトシアンインク、水性ライトイエローインク、水性ライトマゼンタインク、水性ライトレッドインク、水性ライトグリーンインク、水性ライトブルーインク等)等があげられる。フルカラー記録に対応可能となることから、本発明の水性インクセットは、水性イエローインクおよび水性マゼンタインクを含むことが好ましい。
【0037】
つぎに、本発明において、インクジェット記録用水性インクセットは、インクカートリッジとして提供することも可能である。例えば、本発明のインクカートリッジは、水性ブラックインクおよび水性シアンインクのそれぞれの収納部を有するインクカートリッジであって、前記水性ブラックインクおよび前記水性シアンインクが、本発明のインクジェット記録用水性インクセットを構成する水性ブラックインクおよび水性シアンインクであることを特徴とする。本発明のインクカートリッジは、さらに、前記他の色の水性インクの収納部を有してもよい。
【0038】
本発明のインクカートリッジは、1色の水性インクの収納部を有するインクカートリッジが複数集まったインクカートリッジ集合体であることが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されない。本発明のインクカートリッジは、各色の水性インクの収納部を形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジであってもよい。本発明のインクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0039】
つぎに、本発明のインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置について説明する。
【0040】
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に水性インクセットを構成する水性インクをインクジェット方式により吐出して記録するインクジェット記録方法であって、前記水性インクセットが、本発明のインクジェット記録用水性インクセットであることを特徴とする。
【0041】
本発明のインクジェット記録装置は、インクセット収容部およびインク吐出手段を含むインクジェット記録装置であって、前記インクセット収容部に、本発明のインクジェット記録用水性インクセットが収容され、前記インクジェット記録用水性インクセットを構成する水性ブラックインクおよび水性シアンインクが、それぞれ、前記インク吐出手段によって記録媒体に吐出されることを特徴とする。
【0042】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0043】
図1に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
【0044】
前記4つのインクカートリッジ2は、ブラック、シアン、イエローおよびマゼンタの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記水性ブラックインクおよび前記水性シアンインクが、本発明の水性インクセットを構成する水性ブラックインクおよび水性シアンインクである。その他の水性インクは、一般的な水性インクを用いてよい。前記ヘッドユニット4に設置された前記インクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。前記キャリッジ5には、前記4つのインクカートリッジ2および前記ヘッドユニット4が搭載される。前記駆動ユニット6は、前記キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。前記駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。前記プラテンローラ7は、前記キャリッジ5の往復方向に延び、前記インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0045】
前記記録用紙Pは、例えば、このインクジェット記録装置1の側方または下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。前記記録用紙Pは、前記インクジェットヘッド3と、前記プラテンローラ7との間に導入される。導入された前記記録用紙Pに、前記インクジェットヘッド3から吐出されるインクにより所定の記録がされる。記録された前記記録用紙Pは、前記インクジェット記録装置1から排紙される。なお、図1においては、前記記録用紙Pの給紙機構および排紙機構の図示を省略している。
【0046】
前記パージ装置8は、前記インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。前記パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0047】
前記パージ装置8の前記プラテンローラ7側には、前記パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。前記ワイパ部材20は、へら状に形成されており、前記キャリッジ5の移動に伴って、前記インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。このワイパ部材20によりノズル形成面を拭う際に、本発明の水性インクセットでは、凝集が生じない。図1において、キャップ18は、インクの乾燥を防止するため、記録が終了すると前記リセット位置に戻される前記インクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0048】
前記インクジェット記録装置において、前記4つのインクカートリッジは、複数のキャリッジに搭載されていてもよい。また、前記インクカートリッジは、前記キャリッジには搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。この態様においては、例えば、前記インクカートリッジと、前記キャリッジに搭載された前記ヘッドユニットとが、チューブ等により連結され、前記インクカートリッジから前記ヘッドユニットに前記インクが供給される。
【実施例】
【0049】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実
施例および比較例により限定および制限されない。
【0050】
[水性ブラックインクの調製]
水性ブラックインク組成(表1および表2)における、自己分散型カーボンブラックの水分散体を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、前記自己分散型カーボンブラックの水分散体に前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)を用いてろ過することで、水性ブラックインクBk1〜Bk3を得た。
【0051】
[水性シアンインクの調製]
水性シアンインク組成(表1および表2)の各成分を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.20μm)を用いてろ過することで、水性シアンインクC1〜C10およびC11c〜C26cを得た。なお、表1および表2において、染料(1−A)〜(1−E)は、それぞれ、化学式(1−A)〜(1−E)で表される化合物であり、染料(2−A)〜(2−E)は、それぞれ、化学式(2−A)〜(2−E)で表される化合物であり、染料(3−A)〜(3−C)は、それぞれ、化学式(3−A)〜(3−C)で表される化合物であり、化学式(2−A)〜(2−E)および(3−A)〜(3−C)において、Pc(Cu)は、一般式(Pc)で表される銅フタロシアニン核である。
【0052】
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【0053】
[実施例1〜10および比較例1〜16]
〔インクジェット記録用水性インクセットの構成〕
表1および表2に示すように水性ブラックインクおよび水性シアンインクを組み合わせて、インクジェット記録用水性インクセットを構成した。
【0054】
〔インクジェット記録用水性インクセットの評価〕
実施例および比較例の水性インクセットについて、(a)凝集性評価、(b)水性シアンインクの噴射安定性(シアン噴射安定性)評価、(c)水性シアンインクの耐光性(シアン耐光性)評価、(d)水性シアンインクの耐オゾン性(シアン耐オゾン性)評価および(e)総合評価を、下記の方法により行った。なお、(c)シアン耐光性評価および(d)シアン耐オゾン性評価に用いるサンプルは、つぎのようにして準備した。
【0055】
〔サンプル調製〕
まず、実施例および比較例の水性インクセットを構成する水性シアンインクを、インクカートリッジに充填した。ついで、前記インクカートリッジを、ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cに装着した。つぎに、ブラザー工業(株)製の写真光沢紙BP71GAに前記水性シアンインクの単色グラデーションサンプルをプリントし、初期OD値1.0の単色パッチを得た。前記OD値は、Gretag Macbeth社製の分光測色計Spectrolino(光源:D65;視野:2°;status A)により測定した。
【0056】
(a)凝集性評価
まず、図2(A)に示すように、各実施例および各比較例の水性ブラックインク22と、水性シアンインク23とを、それぞれ、3μLずつスライドガラス21上に滴下した。ついで、図2(B)に示すように、前記滴下した両インクをカバーガラス24で覆うことで、前記両インクを接触させた。このようにして作製したプレパラートの前記両インクの界面25を、光学顕微鏡(200倍)で観察し、下記評価基準に従って評価した。なお、この凝集性評価の結果が良好であれば、ワイパ部材によりノズル形成面を拭う際に凝集が生じることがなく、吐出安定性に優れた水性インクセットであると判断できる。
【0057】
凝集性評価 評価基準
G :前記両インクの界面25に、粒状の凝集物が全く見られないか、あるいはごくわずかに見られた。
NG:前記両インクの界面25に、粒状の凝集物が見られた。
【0058】
(b)シアン噴射安定性評価
実施例および比較例の水性インクセットを構成する水性シアンインクについて、前記インクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cを使用し、富士通コワーコ(株)製のオフィス用紙W(記録用紙)上に、1億ドット(約3万枚)の連続記録を行った。前記連続記録の結果を、下記の評価基準に従って評価した。不吐出とは、インクジェットヘッドのノズルが目詰まりし、前記水性シアンインクが吐出されない状態である。吐出曲がりとは、インクジェットヘッドのノズルの一部が目詰まりし、前記水性シアンインクが、前記記録用紙に対して垂直に吐出されず、斜めに吐出される状態である。
【0059】
シアン噴射安定性評価 評価基準
G :連続記録中において、不吐出および吐出曲がりが全くなかった。
NG:連続記録中において、不吐出若しくは吐出曲がりがあった。
【0060】
(c)シアン耐光性評価
スガ試験機(株)製の強エネルギーキセノンウェザーメーターSC750−WNを用いて、槽内温度25℃、槽内相対湿度50%、照度93klxの条件下、前記単色パッチにキセノンランプ光を100時間照射した。ついで、前記照射後の前記単色パッチのOD値を、前述と同様にして、測定した。つぎに、下記式(I)によりOD値減少率(%)を求め、シアン耐光性を、下記の評価基準に従って評価した。なお、前記OD値減少率が小さいほど、画質の劣化が少なく、シアン耐光性に優れていたこととなる。

OD値減少率(%)={(X−Y)/X}×100 ・・・(I)
X:1.0(初期OD値)
Y:照射後のOD値

【0061】
シアン耐光性評価 評価基準
G :OD値減少率が、20%未満
NG:OD値減少率が、20%以上
【0062】
(d)耐オゾン性評価
スガ試験機(株)製のオゾンウェザーメーターOMS−Hを用いて、オゾン濃度1ppm、槽内温度24℃、槽内相対湿度60%の条件下に前記単色パッチを40時間放置した。ついで、前記放置後の前記単色パッチのOD値を、前述と同様にして、測定した。つぎに、下記式(II)によりOD値減少率(%)を求め、シアン耐オゾン性を、下記の評価基準に従って評価した。なお、前記OD値減少率が小さいほど、画質の劣化が少なく、シアン耐オゾン性に優れていたこととなる。

OD値減少率(%)={(X−Y)/X}×100 ・・・(II)
X:1.0(初期OD値)
Y:放置後のOD値

【0063】
シアン耐オゾン性評価 評価基準
G :OD値減少率が、20%未満
NG:OD値減少率が、20%以上
【0064】
(e)総合評価
各水性インクセットについて、前記(a)〜(d)の結果から、下記の評価基準に従って総合評価を行った。
【0065】
総合評価 評価基準
G :全ての評価結果がGであった。
NG:評価結果のいずれかにNGがあった。
【0066】
実施例の水性インクセットの構成および評価結果を、表1に示す。また、比較例の水性インクセットの構成および評価結果を、表2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表1に示すとおり、実施例1〜10の水性インクセットは、凝集性評価、シアン噴射安定性評価、シアン耐光性評価およびシアン耐オゾン性評価のすべての結果が、良好であった。
【0070】
一方、表2に示すとおり、比較例1および2の水性インクセットは、水性ブラックインクにリン酸基により修飾された自己分散型カーボンブラックを用いているため、凝集性評価の結果が劣っていた。
【0071】
比較例3〜7の水性インクセットは、水性シアンインクに含まれるシアン着色剤が染料(2−A)〜(2−E)であるため、シアン噴射安定性評価の結果が劣っていた。
【0072】
比較例8〜10の水性インクセットは、水性シアンインクに含まれるシアン着色剤が染料(3−A)〜(3−C)であるため、シアン耐オゾン性評価の結果が劣っていた。
【0073】
比較例11〜13の水性インクセットは、水性シアンインクに含まれるシアン着色剤がC.I.ダイレクトブルー199またはC.I.ダイレクトブルー86であるため、凝集性評価およびシアン耐オゾン性評価の結果が劣っていた。
【0074】
比較例14〜16の水性インクセットは、水性シアンインクに含まれるシアン着色剤がC.I.アシッドブルー9またはC.I.アシッドブルー74であるため、凝集性評価、シアン耐光性評価およびシアン耐オゾン性評価の結果が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上のように、本発明の水性インクセットは、染料シアンインクの耐光性、耐オゾン性および噴射安定性に優れ、且つ、顔料ブラックインクと染料シアンインクとの非凝集性にも優れる。本発明の水性インクセットの用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インク吐出手段(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置
21 スライドガラス
22 水性ブラックインク
23 水性シアンインク
24 カバーガラス
25 界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ブラックインクおよび水性シアンインクを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記水性ブラックインクが、ブラック着色剤、水および水溶性有機溶剤を含み、
前記ブラック着色剤が、カルボキシ基およびスルホ基の少なくとも一方の基により修飾された自己分散型カーボンブラックを含み、
前記水性シアンインクが、シアン着色剤、水および水溶性有機溶剤を含み、
前記シアン着色剤が、一般式(1)で表される染料を含むことを特徴とするインクジェット記録用水性インクセット。
【化1】

一般式(1)において、
環A、AおよびAは、それぞれ、ベンゼン環、2,3−ピリジン環および3,2−ピリジン環からなる群から選択される少なくとも一つであり、且つ、環A、AおよびAの少なくとも一つは、2,3−ピリジン環または3,2−ピリジン環であり、環A、AおよびAは互いに同一でも異なっていてもよく、
lは、0≦l≦4を満たし、mは、0≦m≦4を満たし、nは、0≦n≦4を満たし、且つ、l、mおよびnは、0≦l+m+n≦4を満たし、
zは、1≦z≦3を満たす整数であり、
は、炭素原子数1〜6の直鎖アルキル基である。
【請求項2】
記録媒体に水性インクセットを構成する水性インクをインクジェット方式により吐出して記録するインクジェット記録方法であって、
前記水性インクセットが、請求項1記載のインクジェット記録用水性インクセットであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項3】
インクセット収容部およびインク吐出手段を含むインクジェット記録装置であって、
前記インクセット収容部に、請求項1記載のインクジェット記録用水性インクセットが収容され、
前記インクジェット記録用水性インクセットを構成する水性ブラックインクおよび水性シアンインクが、それぞれ、前記インク吐出手段によって記録媒体に吐出されることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77186(P2012−77186A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223242(P2010−223242)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】