説明

インクジェット記録用水性インクセット及びその製造方法

【課題】 普通紙に対しインクジェット記録を行った場合でも、ブリーディングが生じ難いだけでなく、良好な吐出安定性を示すインクジェット記録用水性インクセットを提供する。
【解決手段】 水、黒色顔料及び水溶性有機溶剤を含有する黒インクと、水、染料、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物及び水溶性有機溶剤を含有するカラーインクとを少なくとも有するインクジェット記録用水性インクセットにおいて、黒色顔料として負帯電型の自己分散型顔料を使用し、染料としてフルオレセイン構造を有する染料又は特定の双極子モーメントを有する染料を使用する。しかも、黒インク及びカラーインクに含有させるべき水溶性有機溶剤として互いに同種のものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも黒インクとカラーインクとを組み合わせて使用するインクジェットプリンタ用のインクジェット記録用水性インクセット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録においては、取扱性に優れ、沈澱物が析出し難く、良好な発色性を示す水溶性染料を着色剤として含有する染料系水性インクが従来より広く用いられており、また、ランニングコストを低減するために、インクジェット記録がインクジェット専用紙ではなく普通紙に行われるようになっている。一般に染料系水性インクは、普通紙に対して吸収され易いため、普通紙に対しては滲み易いという性質がある。このため、このような染料系水性インクで普通紙にインクジェット記録を行うと、異色インク同士が隣接する部分でそれぞれインクが滲んで重なり合う現象(ブリーディング)が生じ、印字品質が悪化するという問題がある。特に、印字品質の悪化には、黒インクとカラーインクとの間に生ずるブリーディングが大きな原因となっている。
【0003】
そこで、ブリーディングを防止して印字品質を改善するために、例えば、黒インクでは紙面での着色剤の移動を制御すべく、着色剤として水に対して不溶性である黒色顔料を使用することが行われ(特許文献1)、一方、染料系水性カラーインクでは紙内部への浸透性を高めるべく、水溶性多価アルキルアルコールエーテルなどの浸透剤や界面活性剤などを配合し、インクの表面張力を下げることが行われている(特許文献2)。
【0004】
ここで、インクジェット記録用黒インクに使用される黒色顔料は、水中への分散方法の違いにより大きく2つに分けることができ、一つは界面活性剤や水溶性高分子化合物等を分散剤として用いた分散剤分散型顔料であり、他方はカーボンブラック等の顔料粒子に表面酸化処理等を施して表面に負電荷を帯電させることにより水中で自己分散を可能にした自己分散型顔料である。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,745,140号明細書
【特許文献2】特開平8−283631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分散剤分散型顔料から黒インクを調製する際に使用される分散剤は、黒インクを紙へ浸透させる作用を助長させ、場合により不均一な滲みの要因となり、また、インク中の水分が蒸発してその水分量が減少した場合にはインクの固化の要因となるという問題があった。一方、自己分散型顔料は、静電反発作用のみによって分散安定性を保っているため、塩類が共存すると分散が不安定になりやすく、塩構造を持つ染料カラーインクと接触した場合、顔料凝集が発生しノズルが詰まって吐出不良が引き起こされるという問題があった。
【0007】
また、水溶性多価アルキルアルコールエーテルなどの浸透剤や界面活性剤などでインクジェット記録用水性インクの紙への浸透性を調節した場合には、原因は不明であるが、黒インクとカラーインクとが接触すると凝集が生じ易くなり、場合により顔料凝集が発生しノズルが詰まって吐出不良を引き起こす可能性があった。
【0008】
このように、普通紙にインクジェット記録を行った場合に、ブリーディングの生じ難さと、良好な吐出安定性とを両立することは非常に困難であった。
【0009】
本発明の目的は、上述した問題点を解決することであり、普通紙に対してインクジェット記録を行った場合でも、ブリーディングが生じ難いだけでなく、良好な吐出安定性を示すインクジェット記録用水性インクセットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、負帯電型の自己分散型顔料を含有するインクジェット記録用の黒インクに対し、分子全体が一様に負に帯電するような特定のフルオレセイン構造を有する染料を含有するカラーインクを組み合わせて使用することで、上述の目的を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明の第1の態様は、
水、黒色顔料及び水溶性有機溶剤を含有する黒インクと、
水、染料、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物及び水溶性有機溶剤を含有するカラーインクとを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記黒色顔料が負帯電型の自己分散型顔料であり、
前記染料が、式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
で表されるフルオレセイン構造を有する染料であり、
前記アルキルアミンエチレンオキサイド付加物が、式(2)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R1は炭素数8〜18のアルキル基であり、xとyとはそれぞれ1以上の整数であり、xとyとの和は5〜15である。)
で表される化合物であり、
前記黒インクに含有されている水溶性有機溶剤と前記カラーインクに含有されている水溶性有機溶剤とが同種であることを特徴とするインクジェット記録用水性インクセットを提供する。
【0016】
また、本発明の第2の態様は、
水、黒色の負帯電型の自己分散型顔料及び水溶性有機溶剤を含有する黒インクと、
水、20debye以下の双極子モーメントを有する染料、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物及び水溶性有機溶剤を含有するカラーインクとを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記アルキルアミンエチレンオキサイド付加物が、式(2)
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R1は炭素数8〜18のアルキル基であり、xとyとはそれぞれ1以上の整数であり、xとyとの和は5〜15である。)
で表される化合物であり、
黒インクに含有されている水溶性有機溶剤とカラーインクに含有されている水溶性有機溶剤とが同種であることを特徴とするインクジェット記録用水性インクセットを提供する。
【0019】
また、本発明の第3の態様は、
黒インクを、少なくとも水、黒色顔料及び水溶性有機溶剤から調製し、
カラーインクを、少なくとも水、染料、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物及び水溶性有機溶剤から調製することを含む、黒インクとカラーインクとを有するインクジェット記録用水性インクセットの製造方法において、
前記黒色顔料が、負帯電型の自己分散型顔料であり、
前記染料が、式(1)
【0020】
【化4】

で表されるフルオレセイン構造を有する染料であり、
前記アルキルアミンエチレンオキサイド付加物が、式(2)
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、R1は炭素数8〜18のアルキル基であり、xとyとはそれぞれ1以上の整数であり、xとyとの和は5〜15である。)
で表される化合物であり、
前記黒インクに含有されている水溶性有機溶剤と前記カラーインクに含有されている水溶性有機溶剤とが同種のものであることを特徴とする製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、負帯電型の自己分散型顔料を含有するインクジェット記録用黒インクと、分子全体が一様に負に帯電するような特定のフルオレセイン構造を有する染料又は特定の双極子モーメントを有する染料を含有するインクジェット記録用カラーインクとが組み合わされている。従って、このインクジェット記録用水性インクセットを用いて普通紙に対してインクジェット記録を行った場合には、ブリーディングが生じ難いだけでなく、良好な吐出安定性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、少なくとも黒インクとカラーインクとから構成される。ここで、黒インクは、水、黒色顔料及び水溶性有機溶剤を含有し、また、カラーインクは、水、染料、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物及び水溶性有機溶剤を含有する。
【0026】
本発明の黒インクに含有させる黒色顔料としては、不均一な滲みが少なく、インク中の水分が蒸発して減少した場合でもインクが固化し難い、負帯電型の自己分散型顔料を使用する。このような自己分散型顔料は、マイナスに帯電し、その電気的反発によりインク中で安定的に分散するものである。従って、ブリーディングやインクの固化の原因となる分散剤や界面活性剤を黒インクに使用する必要性が著しく低下する。このような負帯電型の自己分散型黒色顔料としては、疎水性の炭化水素の表面に分散性を付与する官能基(例えば、スルホン酸基やカルボキシル基等)を有する黒色顔料が好ましい。具体的には、Cabot社のCAB−O−JET200、CAB−O−JET300等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
黒インク中の自己分散型顔料の含有量は、少なすぎると十分な光学濃度(OD値)が得られず、多すぎるとインク中の水分が蒸発して減少した場合にインクが固化するおそれがあるので、顔料固形分量としてインク全量に対して好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜12重量%、特に好ましくは2〜8重量%の範囲である。
【0028】
一方、本発明のカラーインクに使用する染料としては、黒インクに使用する自己分散型黒色顔料の凝集を防止する作用を有する前述の式(1)で表されるフルオレセイン構造を有する染料を使用する。式(1)のフルオレセイン構造を有する染料が、自己分散型黒色顔料の凝集を防止する作用を示す理由を、以下に例示するカラーインデックスナンバー(C.I.)アシッドレッド92の解離前と解離後の状態を参照して説明する。
【0029】
【化6】

【0030】
即ち、アシッドレッド92のようなフルオレセイン構造を持つ染料分子が水に溶けて解離した場合、解離基(解離後のアシッドレッド中、−COOと−O)は、ほぼ分子の中心に対して対称な位置にあり、電荷の偏りを打ち消しあう力が働くため双極子モーメントが小さい。よって、染料分子全体が一様にマイナスに帯電した状態(電荷の偏りが少ない状態すなわち極性が低い状態)となる。このような化学構造を有する染料は、解離後に極性が高い染料に比べて、自己分散型顔料の間に入り易くなると考えられる。更に、このように解離した染料がマイナスに帯電した自己分散型顔料の間に入ると、顔料どうしの凝集を防ぐ電気的反発作用を示すと考えられる。更にまた、フルオレセイン構造のジベンゾピラン構造に、単結合で回転可能に直交するように結ばれたベンゼン環は、染料のかさ高さを増大させる。それ故、フルオレセイン構造を有する染料が一旦顔料の間に入ると、染料は顔料同士の接近を妨害する立体障害として作用し、顔料どうしのが凝集を妨げると考えられる。よって、フルオレセイン構造を有する染料は、上述したような極性及び立体構造という点で、他の染料に比べ、マイナスに帯電した自己分散型顔料同士の凝集を防ぐ作用を示すものと考えられる。
【0031】
このような式(1)のフルオレセイン構造を有する好ましい染料の例として、カラーインデックスナンバーのアシッドレッド52、アシッドレッド87、アシッドレッド92等のマゼンタ染料が挙げられるが、これらのマゼンタ染料に限定されるものではない。式(1)の構造を有するオレンジやイエローのような他の色の染料も本発明のインクセットで使用される染料に包含される。これらのマゼンタ染料の双極子モーメントは、アシッドレッド52が19.0debye、アシッドレッド87が10.0debye、アシッドレッド92が10.2debyeであり、いずれも20debye以下である。それ故、本発明に用いる染料を双極子モーメントの観点から選択するならば、20debye以下の双極子モーメントを有する染料を選択することが好ましい。ここで、双極子モーメントは、分子軌道計算ソフトウエア(Win MOPAC V1.0 for Windous95/NT3.51(富士通社製);計算方法AM1)により算出することができる。
【0032】
式(1)のフルオレセイン構造を有する染料は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。カラーインク中の式(1)のフルオレセイン構造を有する染料の含有量は、少なすぎると十分な発色やOD値が得られず、多すぎると染料由来の対イオンである陽イオン量が多くなり、黒インクと接触した場合に黒インクに含まれる自己分散型顔料の表面電位を低下させ、顔料分散が不安定化し顔料凝集が発生する可能性があるので、染料固形分量としてインク全量に対して好ましくは1〜5重量%、より好ましくは2〜4重量%の範囲である。
【0033】
また、本発明においては、カラーインクに、前述の式(2)で表されるアルキルアミンエチレンオキサイド付加物を添加する。式(2)で表されるアルキルアミンエチレンオキサイド付加物は、適度な界面活性作用を示すため、カラーインクに適度な浸透性を与えることができる。また、式(2)で表されるアルキルアミンエチレンオキサイド付加物は、窒素原子に2つの親水性のエチレンオキシド基と1つの疎水性のアルキル基が結合した構造を有するので、水に溶け易いという性質を示す。このため、このアルキルアミンエチレンオキサイド付加物は、水に溶けると有機塩基として働き、水分子から水素原子を引き抜き、それ自体がδに帯電し、そしてその水溶液はアルカリ性を示す。従って、式(2)で表されるアルキルアミンエチレンオキサイド付加物は、その構造故に、アニオン性の水溶性染料である式(1)のフルオレセイン構造を有する染料をインク中で安定化させるのである。
【0034】
その一方で、インクジェットプリンタに使用される一般的な記録紙(普通紙)の印字面は酸性または中性であるから、式(2)で表されるアルキルアミンエチレンオキサイド付加物を含むカラーインクが記録紙面に接した瞬間に、印字面とインクとのpHの差に起因して、カラーインク中での染料の安定性が低下し、場合により染料が析出するようになる。いったん析出した染料は、記録紙の繊維に対して十分な絡まりを示す。従って、このような浸透性と液性を兼ね備えた式(2)で表されるアルキルアミンエチレンオキサイド付加物を、式(1)のフルオレセイン構造を有する染料を含有するカラーインクに配合すると、カラーインクの紙繊維への適度な浸透と染料の紙繊維への絡まり合いにより、黒インクとの印字境界部においてブリーディングの発生を回避し、十分に高い印字品質を保つことが可能となる。
【0035】
なお、式(2)において、R1の炭素数8〜18のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状アルキル基を使用することができる。また、xとyとの和は5〜15の整数である。また、xとyのそれぞれは1以上の整数である。式(2)のアルキルアミンエチレンオキサイド付加物は、単一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。このような式(2)のアルキルアミンエチレンオキサイド付加物の具体例としては、ライオン社製のエソミンC/15(x+y=5)、エソミンS/25(x+y=15)、エソミンT/15(x+y=5)、エソミンS/15(x+y=5)、エソミンC/25(x+y=15)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ここで、商品名“エソミン”で特定される材料は、異なる炭素数の式(2)の化合物(脂肪族第1アミンのエチレンオキサイド縮合物)の混合物又は組成物を意味する。例えば、エソミンC/15は、R1=炭素数8〜18で且つx+y=5である式(2)の混合物であり、ココナッツオイルに由来するものである。
【0036】
本発明において、カラーインク中の式(2)で表されるアルキルアミンエチレンオキサイド付加物の含有量は、式(1)で表されるフルオレセイン構造を持った染料固形分に対して、少なすぎると染料が記録紙の繊維に対して十分な絡まりを示さなかったり、また記録紙への十分な浸透作用が得られず、多すぎるとカラーインク中の水分量が蒸発して減少した場合、染料が析出したり、インクの固化などの問題が生じたり、黒インクとカラーインクが接触した場合に黒インク中の顔料の分散を破壊したりする危険性がある。従って、カラーインク中における、式(1)で表されるフルオレセイン構造を持った染料固形分に対する式(2)で表されるアルキルアミンエチレンオキサイド付加物の含有量(=[{式(2)で表されるアルキルアミンエチレンオキサイド付加物の組成重量}/{式(1)で表されるフルオレセイン構造を持った染料固形分の重量}]×100)は、好ましくは5〜20重量%、より好ましくは6〜10重量%の範囲である。
【0037】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットを構成する黒インクとカラーインクとは、溶剤として、水の他に、互いに同種の水溶性有機溶剤を使用する。ここで、“同種”の水溶性有機溶媒とは、互いに化学構造や親水・疎水性等の化学的性質が少なくとも類似している同系列水溶性有機溶剤を意味する。従って、黒インクの水溶性有機溶剤とカラーインクの水溶性有機溶剤とは、互いに同系列水溶性有機溶剤(例えば、水溶性多価アルコール)であるが、化学構造的には同一ではない場合(例えば、一方がエチレングリコールで他方がプロピレングリコールである場合)と、化学構造的に同一である場合(例えば、双方ともエチレングリコールである場合)とがある。
【0038】
このように黒インクとカラーインクとで互いに同種の水溶性有機溶剤を使用する理由は以下の通りである。即ち、黒インクとカラーインクとで互いに異なる水溶性有機溶剤を使用した場合には、黒インクとカラーインクが接触すると、水溶性有機溶剤が有する疎水・親水特性の相違によって、黒インクに含まれる自己分散型顔料の対イオンの水和状態が変化し、その変化によって、自己分散型顔料の対イオンの電荷状態が変動し、今まで安定だった分散状態も変化するようになる。その結果、自己分散型顔料同士が極端に接近して凝集が起こりやすい状況になり、顔料凝集が発生し(このような現象を以下ソルベントショックと呼ぶ)、ノズル詰まりなどによる印字不良を引き起こす可能性があるからである。そこで、黒インクとカラーインクに使用する水溶性有機溶剤をそれぞれ同種のものを使用することにより、黒インクとカラーインクが接触した際、黒インク中の顔料凝集の引き金となるソルベントショックを低減させる効果が高くなる。よって、黒インクの水溶性有機溶剤とカラーインクの水溶性有機溶剤とは、互いに化学構造的に同一、即ち、同一の化合物であることがより好ましい。
【0039】
また、黒インク及びカラーインクのそれぞれの水溶性有機溶剤として、単一の水溶性化合物を使用してもよいが、2以上の水溶性化合物の混合溶剤を使用してもよい。黒インクの水溶性有機溶剤とカラーインクの水溶性有機溶剤とがそれぞれ混合溶剤である場合、黒インクの混合溶剤を構成する各水溶性化合物に対応し、それぞれ同種の水溶性化合物からカラーインクの混合溶剤を構成すればよい。
【0040】
黒インク及びカラーインクの水溶性有機溶剤を、2以上の水溶性化合物から構成する好ましい具体例としては、記録ヘッドの先端部におけるインクの乾固防止のためにインクを湿潤させる機能を有する水溶性有機溶剤(本明細書中で、“湿潤剤”と略することがある。)と、インクを記録紙へ浸透させる機能を有する有機溶剤(本明細書中で、“浸透剤”と略することがある。)とから水溶性有機溶剤を構成する場合が挙げられる。この場合、前述したように、黒インクに使用する湿潤剤と同種のものをカラーインクの湿潤剤として使用し、且つ黒インクに使用する浸透剤と同種のものをカラーインクの浸透剤として使用することが好ましい。これにより、黒インクとカラーインク中に含まれる主要溶剤成分は、ほとんど同じ化学構造をもつ物質で構成されることになり、黒インクとカラーインクが接触した際、黒インク中の顔料凝集の引き金となるソルベントショックを低減させる効果が高くなる。
【0041】
黒インクおよびカラーインクにおいて使用する好ましい湿潤剤としては、水溶性多価アルコールが挙げられる。このような湿潤剤の具体例としては、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコール等のアルキレングリコール類;グリセリン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの水溶性多価アルコールは単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いることも可能である。
【0042】
黒インクおよびカラーインク中の水溶性多価アルコール等の湿潤剤の含有量は、少なすぎると湿潤作用が不十分となり、インク中の水分量が蒸発して減少した場合、染料析出やインク固化等の問題が生じ、多すぎるとインクが必要以上に増粘し、吐出不能となったり、記録紙上での乾燥が極端に遅くなる等の問題を生じるので、それぞれのインク全量の好ましくは5〜50重量%、より好ましくは7〜40重量%、特に好ましくは10〜35重量%である。
【0043】
黒インクおよびカラーインクにおいて使用する好ましい浸透剤としては、水溶性多価アルコールアルキルエーテルが挙げられる。このような浸透剤の具体例としては、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの水溶性多価アルコールアルキルエーテルは単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いることも可能である。
【0044】
黒インク中の水溶性多価アルコールアルキルエーテル等の浸透剤の含有量は、少なすぎるとインクの記録紙への浸透速度が遅いため、乾燥時間に問題を生じたり、紙面表面上で液体状態で存在する時間が長くなり、他色のインクと混合しやすくなりブリーディングの問題を生じたりする。また、多すぎるとインクの記録紙への浸透度が大きくなり、滲みすぎるためカラーインクとの境界部に対してブリーディングを起こしたり、黒インク中の水分が蒸発して減少した場合に水溶性多価アルコールアルキルエーテル等の浸透剤の溶解性が悪くなり、インク液が分離を起こしたりするので、黒インク全量に対して好ましくは0.05〜5重量%、より好ましくは0.5〜2重量%である。
【0045】
一方、カラーインク中の水溶性多価アルコールアルキルエーテル等の浸透剤の含有量は、少なすぎるとインクの記録紙への浸透速度が遅いため、乾燥時間に問題を生じたり、紙面表面上で液体状態で存在する時間が長くなり、他色のインクと混合しやすくなりブリーディングの問題を生じたりする。また、多すぎるとインクの記録紙への浸透度が大きくなり、滲みすぎるため黒インクとの境界部に対してブリーディングを起こしたり、カラーインク中の水分が蒸発して減少した場合に水溶性多価アルコールアルキルエーテル等の浸透剤の溶解性が悪くなり、インク液が分離を起こしたりするので、インク全量に対して好ましくは1〜6重量%、より好ましくは2〜4重量%である。
【0046】
また、本発明においては、黒インクに含まれる水溶性多価アルコールアルキルエーテル等の浸透剤の含有量が、カラーインクに含まれる水溶性多価アルコールアルキルエーテル等の浸透剤の含有量よりも少ないこと、好ましくは前者が後者の20〜50重量%である。これは、黒インクに含まれる水溶性多価アルコールアルキルエーテル等の浸透剤の含有量が、カラーインクに含まれる水溶性多価アルコールアルキルエーテル等の浸透剤よりも多いと、黒インクの記録紙への浸透度がカラーインクの記録紙への浸透度よりも大きくなり、紙面上で黒インクがカラーインク側に染み込むようになり、ブリーディングの問題を生じるからである。
【0047】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットに用いる水は、脱イオン水(純水)が望ましい。水の含有量は、通常時のインク粘度を正常吐出可能な低粘度に保つため、インクジェット記録用水性インクセットを構成するそれぞれのインク全重量に対して40重量%以上であることが望ましい。
【0048】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットの基本構成は以上の通りであるが、その他に、粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤、防腐防カビ剤等を必要に応じて添加することができる。上述した以外の湿潤剤や浸透剤も使用し得る。
【0049】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、黒色インクを調製する際に、黒色顔料として負帯電型の自己分散型顔料を選択し、一方、カラーインクを調製する際に、染料として、式(1)で表されるフルオレセイン構造を有する化合物を選択し、更に、カラーインクに、式(2)で表されるアルキルアミンエチレンオキサイド付加物を含有させ、そして黒インクとカラーインクとに含有させるべき水溶性有機溶剤として互いに同種のものを選択し、より具体的には、黒インクとカラーインクとに含有させるべき湿潤剤として互いに同種のものを選択し且つ黒インクとカラーインクとに含有させるべき浸透剤として互いに同種のものを選択し、それぞれ黒インクとカラーインクを常法に従って混合することにより製造することができる。
【0050】
以上のようにして得られる本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、従来技術の問題点が十分に解決されており、黒インクとカラーインクとが接触しても、黒インク中に分散している顔料が凝集することなく、しかも、ノズルが目詰まりする等の問題が発生することはない。また、黒インクとカラーインクの記録紙上の印字境界部におけるブリーディング品質が十分に満足されるものとなる。また、本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、種々の異なるインク液滴の吐出方法(静電吸引式、圧電素子振動式、気泡を利用するサーマル式等)に適用可能であるが、特に圧電素子振動式のインクジェットプリンタに好ましく適用できる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明に従ったインクジェット記録用水性インクセットを具体化した実施例について説明する。なお、インク成分の含有量の単位は“重量%”である。
【0052】
実施例1
自己分散型黒色顔料(キャボット社製の商品名:CAB−O−JET300(顔料固形分15重量%))と、湿潤剤(グリセリン及びポリエチレングリコール(平均分子量200))と、浸透剤(ジプロピレングリコールプロピルエーテル)と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することにより黒インクを調製した。
【0053】
フルオレセイン構造を持つ水溶性マゼンタ染料(C.I.アシッドレッド87)と、湿潤剤(グリセリン及びポリエチレングリコール(平均分子量200))と、浸透剤(ジプロピレングリコールプロピルエーテル)と、更に界面活性剤(エソミンC/15(LION社製;式(2)においてR1=C8〜18、x+y=5))と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することによりマゼンタインクを調製した。
【0054】
実施例2
自己分散型黒色顔料(キャボット社製の商品名:CAB−O−JET300(顔料固形分15重量%))と、湿潤剤(グリセリン及びジエチレングリコール)と、浸透剤(トリエチレングリコール−n−ブチルエーテルとトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル)と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することにより黒インクを調製した。
【0055】
フルオレセイン構造を持つ水溶性マゼンタ染料(C.I.アシッドレッド52)と、湿潤剤(グリセリン及びジエチレングリコール)と、浸透剤(トリエチレングリコール−n−ブチルエーテルとトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル)と、更に界面活性剤(エソミンS/15(LION社製;式(2)においてR1=C14〜18、x+y=5))と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することによりマゼンタインクを調製した。
【0056】
実施例3
自己分散型黒色顔料(キャボット社製の商品名:CAB−O−JET200(顔料固形分15重量%))と、湿潤剤(グリセリン)と、浸透剤(ジプロピレングリコールプロピルエーテル)と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することにより黒インクを調製した。
【0057】
フルオレセイン構造を持つ水溶性マゼンタ染料(C.I.アシッドレッド87及びC.I.アシッドレッド92)と、湿潤剤(グリセリン)と、浸透剤(ジプロピレングリコールプロピルエーテル)と、更に界面活性剤(エソミンC/25(LION社製;式(2)においてR1=C8〜18、x+y=15))と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することによりマゼンタインクを調製した。
【0058】
比較例1
自己分散型黒色顔料(キャボット社製の商品名:CAB−O−JET300(顔料固形分15重量%))と、湿潤剤(グリセリン及びポリエチレングリコール(平均分子量200))と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することにより黒インクを調製した。
【0059】
フルオレセイン構造を持つ水溶性マゼンタ染料(C.I.アシッドレッド87)と、湿潤剤(グリセリン及びポリエチレングリコール(平均分子量200))と、浸透剤(トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル)と、更に界面活性剤(エソミンC/25(LION社製;式(2)においてR1=C8〜18、x+y=15))と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することによりマゼンタインクを調製した。
【0060】
比較例2
自己分散型黒色顔料(キャボット社製の商品名:CAB−O−JET300(顔料固形分15重量%))と、湿潤剤(グリセリン及びポリエチレングリコール(平均分子量200))と、浸透剤(ジプロピレングリコールプロピルエーテル)と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することにより黒インクを調製した。
【0061】
フルオレセイン構造を持たない水溶性マゼンタ染料(C.I.アシッドレッド294、双極子モーメント35.8debye)と、湿潤剤(グリセリン及びポリエチレングリコール(平均分子量200))と、浸透剤(ジプロピレングリコールプロピルエーテル)と、更に界面活性剤(エソミンC/15(LION社製;式(2)においてR1=C8〜18、x+y=5))と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することによりマゼンタインクを調製した。
【0062】
比較例3
自己分散型黒色顔料(キャボット社製の商品名:CAB−O−JET200(顔料固形分15重量%))と、湿潤剤(グリセリン)と、浸透剤(トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル及びジエチレングリコールジエチルエーテル)と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することにより黒インクを調製した。
【0063】
フルオレセイン構造を持つ水溶性マゼンタ染料(C.I.アシッドレッド52)と、湿潤剤(グリセリン)と、浸透剤(トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル及びジエチレングリコールジエチルエーテル)と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することによりマゼンタインクを調製した。
【0064】
比較例4
自己分散型黒色顔料(キャボット社製の商品名:CAB−O−JET300(顔料固形分15重量%))と、湿潤剤(グリセリン及びポリエチレングリコール(平均分子量200))と、浸透剤(トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル)と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することにより黒インクを調製した。
【0065】
フルオレセイン構造を持つ水溶性マゼンタ染料(C.I.アシッドレッド87)と、湿潤剤(グリセリン)と、浸透剤(1,5−ペンタンジオール及びジプロピレングリコールプロピルエーテル)と、更に界面活性剤(エソミンC/15(LION社製;式(2)においてR1=C8〜18、x+y=5))と、水とを、表1に示した配合量で均一に混合し、その混合物を2.5μmのメンブランフィルタで濾過することによりマゼンタインクを調製した。
【0066】
【表1】

【0067】
(評価1:ブリーディング)
実施例1〜3及び比較例1〜4のインクセット(黒インクとマゼンタインク)について、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製MFC−3100C)を用いて記録紙(GREATWHITE社製のMulti USE 20PAPER)に印字試験を行い、黒インクとマゼンタインクの境界部のラインのISO13660で定義されたラジェットネス(Rag)を測定し、以下の評価基準に従ってブリーディングを評価し、得られた結果を表2に示す。ここで、ラジェットなラインとは、本来スムーズで真っ直ぐなはずの理想のラインエッジに対して、がたがたと波打っている状態を示す。従って、ブリーディングの程度が小さいほどRagの数値が小さくなる。
【0068】
評価基準
ランク 内容
○: 黒インクの単独ラインのRagに対して、黒インクとマゼンタインクとの境界部のラインRagの増加が5未満の場合
×: 黒インクの単独ラインのRagに対して、黒インクとマゼンタインクとの境界部のラインRagの増加が5以上の場合
【0069】
(評価2:黒色顔料凝集)
各記実施例と比較例のインクセットのそれぞれの黒インクとマゼンタインクの組み合わせに対し、スライドガラスに各々のインクを1滴ずつ離して落とし、2つの液滴の上部からカバーガラスを静かにのせ、カバーガラス下で2液を接触させ、その接触した2液の接触面を顕微鏡(ニコン社製 OPTIPHOT(倍率400倍))で観察して、顔料の凝集具合を観察し、以下の評価基準に従って評価し、得られた結果を表2に示す。
【0070】
評価基準
ランク 内容
○: 接触界面の凝集が無い場合
×: 接触界面で黒インク中の黒色顔料が凝集している場合
【0071】
(評価3:ノズル目詰まり)
各記実施例と比較例のインクセットそれぞれをインクジェットプリンタ(ブラザー工業社製MFC−3100C))から、室温において連続3000回吐出させ、その吐出の都度、ヘッドノズル面のワイピングを行い、ノズル目詰まりを、以下の評価基準に従って評価し、得られた結果を表2に示す。なお、ヘッドノズル面のワイピング操作では、黒インク及びマゼンタインクのそれぞれを吐出するノズル列を、横方向に同時にワイピングするため、黒インクとマゼンタインクが接触する環境にある。
【0072】
評価基準
ランク 内容
○: 連続3000回のヘッドノズル面のワイピング後、ノズル面に黒色顔料の凝集がなく、不吐出、曲がりが観察されない場合
×: 連続3000回のヘッドノズル面のワイピング後、不吐出、曲がりが発生し、また、短時間で回復せず、接触界面で黒インク中の黒色顔料が凝集している場合






【0073】
【表2】

【0074】
表2から分かるように、本実施例のインクセットは、いずれの評価項目についても良好な結果を示した。また、各実施例について、ブラザー工業社製MFC−3100Cのシアンインクカートリッジ及びイエローインクカートリッジと組み合わせて記録紙(GREATWHITE社製Multi USE 20PAPER)に印字した結果も良好であった。
【0075】
一方、比較例1の場合には、マゼンタインクに使用した浸透剤を黒インクに使用していないので、ブリーディングに問題があった。比較例2の場合には、マゼンタ染料としてフルオレセイン構造を持たない染料を使用しているので、黒色顔料凝集とノズル目詰まりとが発生した。比較例3の場合には、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物を含有していないので、ブリーディングに問題があった。比較例4の場合には、黒インクとマゼンタインクとで湿潤剤と浸透剤のそれぞれの組成が異なるので、黒色顔料凝集とノズル目詰まりとが発生した。
【0076】
上述の実施例では、カラーインクとしてマゼンタ染料を含有するマゼンタインクを例示したが、式(1)の構造を有する染料を含むマゼンタインク以外のカラーインクを使用することができる。また、水溶性有機溶剤として特定の湿潤剤及び浸透剤を用いたが、水溶性有機溶剤であれば、その呼称にかかわらず、本発明のインクジェット記録用水性インクセットに適用可能である。
【0077】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、黒インクとカラーインクとを別々に収容するコンパートメントを有する単一のカートリッジケース又は黒インクとカラーインクとをそれぞれ収容する独立した複数のカートリッジケースのセットをも包含する。更に、黒インクと複数のカラーインクを有するインクセットも本発明に含まれる。この場合、複数のカラーインクの少なくとも一種のカラーインクが本発明に規定する関係を満たしていればよい。従って、そのようなインクセットとして、黒インク、マゼンタインク、シアンインク、イエローインクを含むインクセットや4色以上のカラーインクを有するインクセットが例示される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、負帯電型の自己分散型顔料を含有するインクジェット記録用の黒インクと、分子全体が一様に負に帯電するような特定のフルオレセン構造を有する染料又は特定の双極子モーメントを有する染料を含有するインクジェット記録用のカラーインクとが組み合わされて構成されているものである。従って、本発明のインクジェット記録用水性インクセットを用いて普通紙に対しインクジェット記録を行った場合には、ブリーディングが生じ難いだけでなく、良好な吐出安定性を示す。よって、低コスト、高く安定したプリント品質、高い信頼性でインクジェット記録が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、黒色顔料及び水溶性有機溶剤を含有する黒インクと、
水、染料、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物及び水溶性有機溶剤を含有するカラーインクとを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記黒色顔料が負帯電型の自己分散型顔料であり、
前記染料が、式(1)
【化1】


で表されるフルオレセイン構造を有する染料であり、
前記アルキルアミンエチレンオキサイド付加物が、式(2)
【化2】


(式中、R1は炭素数8〜18のアルキル基であり、xとyとはそれぞれ1以上の整数であり、そしてxとyとの和は5〜15である。)
で表される化合物であり、
前記黒インクに含有されている水溶性有機溶剤と前記カラーインクに含有されている水溶性有機溶剤とが同種であることを特徴とするインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項2】
前記黒インクに含有されている水溶性有機溶剤と前記カラーインクに含有されている水溶性有機溶剤とが、それぞれ湿潤剤と浸透剤とから構成されており、前記黒インクに含有されている湿潤剤と前記カラーインクに含有されている湿潤剤とが同種であり、前記黒インクに含有されている浸透剤と前記カラーインクに含有されている浸透剤とが同種である請求項1記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項3】
前記黒インク中の浸透剤の含有量が0.05〜5重量%であり、前記カラーインク中の浸透剤の含有量が1〜6重量%であり、且つ前記黒インク中の浸透剤の含有量が前記カラーインク中の浸透剤の含有量よりも少ない請求項2記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項4】
前記湿潤剤が水溶性多価アルコールであり、前記浸透剤が水溶性多価アルコールアルキルエーテルである請求項2又は3記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項5】
前記染料が、マゼンタ染料である請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項6】
前記カラーインクが、式(2)のアルキルアミンエチレンオキサイド付加物を、前記式(1)で表されるフルオレセイン構造を有する染料に対して5〜20重量%の割合で含有している請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項7】
前記染料の双極子モーメントが、20debyeである請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項8】
水、黒色の負帯電型の自己分散型顔料及び水溶性有機溶剤を含有する黒インクと、
水、20debye以下の双極子モーメントを有する染料、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物及び水溶性有機溶剤を含有するカラーインクとを含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記アルキルアミンエチレンオキサイド付加物が、式(2)
【化3】


(式中、R1は、炭素数8〜18のアルキル基であり、xとyとはそれぞれ1以上の整数であり、xとyとの和は5〜15である。)
で表される化合物であり、
前記黒インクに含有されている水溶性有機溶剤と前記カラーインクに含有されている水溶性有機溶剤とが同種であることを特徴とするインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項9】
前記黒インクに含有されている水溶性有機溶剤と前記カラーインクに含有されている水溶性有機溶剤とが、それぞれ湿潤剤と浸透剤とから構成されており、前記黒インクに含有されている湿潤剤と前記カラーインクに含有されている湿潤剤とが同種であり、前記黒インクに含有されている浸透剤と前記カラーインクに含有されている浸透剤とが同種である請求項8記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項10】
前記黒インク中の浸透剤の含有量が0.05〜5重量%であり、前記カラーインク中の浸透剤の含有量が1〜6重量%であり、且つ前記黒インク中の浸透剤の含有量が前記カラーインク中の浸透剤の含有量よりも少ない請求項9記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項11】
前記湿潤剤が水溶性多価アルコールであり、前記浸透剤が水溶性多価アルコールアルキルエーテルである請求項9又は10記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項12】
前記染料が、マゼンタ染料である請求項8〜11のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項13】
黒インクを、少なくとも水、黒色顔料及び水溶性有機溶剤から調製し、
カラーインクを、少なくとも水、染料、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物及び水溶性有機溶剤から調製することを含む、黒インクとカラーインクとを有するインクジェット記録用水性インクセットの製造方法において、
前記黒色顔料が、負帯電型の自己分散型顔料であり、
前記染料が、式(1)





【化4】


で表されるフルオレセイン構造を有する染料であり、
前記アルキルアミンエチレンオキサイド付加物が、式(2)
【化5】


(式中、R1は炭素数8〜18のアルキル基であり、xとyとはそれぞれ1以上の整数であり、xとyとの和は5〜15である。)
で表される化合物であり、
前記黒インクに含有されている水溶性有機溶剤と前記カラーインクに含有されている水溶性有機溶剤とが同種のものであることを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2006−28494(P2006−28494A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177287(P2005−177287)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】