説明

インクジェット記録用紙

【課題】 再生パルプを高配合しながら、白色度が高く、蛍光強度が低く、チリやダートが少ないインクジェット記録用紙を提供する。
【解決手段】 基紙の少なくとも片面に、顔料を含有するインク受理層をキャストコート法により設けたインクジェット記録用紙において、基紙は3層以上の多層構造で、表層と裏層との間の少なくとも1つの内層に再生パルプを含有する紙であって、前記再生パルプの全固形分に対し白色度が60%以上である再生パルプを50質量%以上含有する多層紙を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生パルプを含有するインクジェット記録用紙に関し、特にインクジェット記録用光沢はがき用紙に好適なインクジェット記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に紙は、大きくは紙と板紙とに分類される。前者の紙の用途には様々なものがあるが、「官製はがき」(あるいは「郵政はがき」)、「私製はがき」と呼ばれる郵便はがきもその一つである。郵便はがきは、通常、原料パルプからはがき用紙を製造し所定のサイズに裁断したものであり、官製の場合、表面に郵便番号記載枠や切手と同じ効力を持つ額面が記載された料額印面が印刷される。お年玉付き年賀はがきや夏のお便りはがきなどでは、さらに下端に組番号や抽選番号が印刷される。これらの印刷は、通常オフセット印刷方式にて行われる。
【0003】
このようなはがき用紙として、例えば特許文献1(特許第3755483号公報)には、化学パルプや脱墨パルプ等を混合し填料として炭酸カルシウムを使用することなどが記載されている。特許文献2(特開2004−100049号公報)には、多層構造の支持体の一方の面にインクジェット記録に適するようインク受理層を設けることが記載されている。特許文献3(特開2003−291515号公報)、特許文献4(特開2002−127592号公報)、特許文献5(特開平10−297148号公報)、および特許文献6(特許第4031277号公報)には、2層以上の多層構造の支持体としてインク吸収性に優れることが記載されている。
【0004】
近年、紙の製造においては、リサイクルや省資源など環境意識の高まりに伴って、原料パルプとして古紙の利用が推進されている。はがき用紙や封書用紙においても、古紙の活用に対する要望は非常に高い。例えば、特許文献7(特開2005−35224号公報)には、原料パルプとして古紙から得られる再生パルプを含有するはがきの輸送システムが記載されている。
【0005】
一方、郵便局では、郵便物に差出人によって記載された郵便番号や住所氏名等をOCRで読み取り、これらの宛先情報をバーコードとして印字し、自動区分機による機械処理により選別・搬送区分することが行われている。なお、このバーコードは、赤外線または紫外線励起の蛍光ステルスインクを用いて、目には見えない不可視情報として印字されている。例えば、特許文献8(特開平11−076950号公報)には、郵便物の仕分け用バーコード印字システムが記載されている。また、特許文献9には、古紙パルプを40重量%以上含有し3層以上の多層抄き合わせにより抄造される再生葉書用紙が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3755483号公報
【特許文献2】特開2004−100049号公報
【特許文献3】特開2003−291515号公報
【特許文献4】特開2002−127592号公報
【特許文献5】特開平10−297148号公報
【特許文献6】特許第4031277号公報
【特許文献7】特開2005−035224号公報
【特許文献8】特開平11−076950号公報
【特許文献9】特開2010−047894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、郵便物は、差出人が記載した宛先情報を光学的に読み取りステルスバーコード化することで、効率良く搬送されるシステムとなっている。しかし、紙の製造においてパルプ類には、塵やピッチ、古紙由来のインキ粕やトナー粕等の夾雑物が混入しやすく、これらのチリやダート(夾雑物による黒点や異物)により宛先情報の読み取り精度が低下して、正確にバーコード化されない問題がある。また、古紙に含まれる蛍光染料などの蛍光物質は、バーコードの印字部と地色部とのコントラストを低下させて、自動区分機でのバーコードの読み取りに支障を及ぼし、正確に搬送されない問題がある。そして、古紙を原料とする再生パルプを多量に配合する場合、差出人が記載した宛先情報やステルスバーコードの読み取り精度はさらに悪化してしまう。また、再生パルプを高配合すると、白色度が低下するなど製品の外観も損なわれる問題がある。
【0008】
このように、古紙利用の推進と郵便搬送システムの効率化とは反比例の関係にあり、宛先情報やバーコードの読み取り精度を悪化させることなく、再生パルプを増配することが望まれている。そこで、本発明は、再生パルプを高配合しながら、白色度に優れ、蛍光強度が低く、チリやダートの少ないインクジェット記録用光沢はがき用紙に適したインクジェット記録用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、再生パルプの中でも白色度の高いパルプを用いることで、上記課題を解決し、本発明に到達した。詳しくは、基紙の少なくとも片面に、顔料を含有するインク受理層をキャストコート法により設けたインクジェット記録用紙であって、該基紙は、パルプを主原料とした3層以上の多層構造で、表層と裏層との間に形成された少なくとも1つの内層に再生パルプを含有する紙であって、全パルプ固形分に対し再生パルプを20質量%以上含有し、かつ、再生パルプの全固形分に対し白色度が60%以上である再生パルプを50質量%以上含有する多層紙とすることにより、課題を達成できることを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、再生パルプを高配合することができ、環境に配慮したインクジェット記録用紙とすることができる。また、再生パルプを高配合しても、白色度が高く、蛍光強度が低く、チリやダートが少なく郵便搬送システムに適したインクジェット記録用はがき用紙を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明のインクジェット記録用紙は、基紙の少なくとも一方の面にインク受容層を設けたものである。以下、インクジェット記録用はがき用紙の場合を例として本発明を詳細に説明する。
【0012】
<基紙>
(基紙の構造)
本発明の基紙は、パルプを主原料とした3層以上の多層構造からなり、抄き合わせあるいは多層抄きで製造される。例えば、3層の場合は「表層」「中層」「裏層」、4層の場合は「表層」「表下層」「裏下層」「裏層」、5層の場合は「表層」「表下層」「中層」「裏下層」「裏層」からそれぞれ構成される。積層数はこれらに限定されるものではない。表層はステルスバーコードの印刷面を含む。なお、本発明でいう表層と裏層との間に形成された内層とは、「表下層」、「中層」、「裏下層」を意味する。
【0013】
本発明の基紙は、少なくとも1層の内層、すなわち、例えば3層の場合は「中層」に、4層の場合は「表下層」および/又は「裏下層」に、5層の場合は「表下層」「中層」「裏下層」のいずれか1層以上に、パルプとして古紙を原料とする再生パルプを含有する。本発明ではこのように内層に再生パルプを含有することにより、再生パルプを高配合したはがき用紙でありながら白色性が高く、また、再生パルプに含まれるチリやダート、蛍光物質の影響を低く抑えることが可能となる。本発明において、再生パルプの含有割合は環境面から多いほど望ましく、全パルプ固形分に対し20質量%以上であり、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。
【0014】
(パルプ原料)
本発明においては、再生パルプとして白色度が60%以上であるものを使用し、全再生パルプの固形分に対して50質量%以上含有することで、ダートやチリ、蛍光強度など再生パルプを高配合した場合の問題を解消できるとともに、優れた白色性を得ることができる。再生パルプの白色度は65%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。なお、本発明におけるパルプの白色度は、JIS P 8148に準じて測定したものである。
【0015】
また、本発明において、再生パルプに含有される灰分は、チリやダートを低減する観点から、再生パルプ中の20質量%未満が好ましく、さらに10質量%未満が好ましい。このように再生パルプ中の灰分が少ないことにより、多層構造における内部結合強度も良好となる。再生パルプ中の灰分は、除塵処理、脱墨処理、脱水機による洗浄などにより調整することができる。また、これらの処理を十分に行うことで、再生パルプに含有される微細繊維量は少なくなり、長さが0.1mm以下の微細繊維の含有割合として10質量%未満、さらには5質量%未満となる。なお、再生パルプ中の灰分は、JIS P 8251に規定される525℃燃焼法に準じて測定したものである。微細繊維量は、JIS P 8226に規定される光学的自動分析法による繊維長測定方法に準じて測定したものであり、具体的には、Kajaanisy社製パルプ分析装置「FiberLab」にて測定したときの長さ平均算出時の繊維長分布における0.1mm以下の頻度をいう。
【0016】
本発明において、4層以上で複数の内層に再生パルプを配合する場合は、各内層に配合する再生パルプは同一でも異なっていても良い。各層に用いられる再生パルプの白色度が異なっている場合は、例えば5層以上のとき、表下層や裏下層に用いられる再生パルプの白色度が、中層に用いられる再生パルプの白色度よりも高いことが好ましい。ひいては、はがき用紙を各層に分割したとき、表下層や裏下層の紙の白色度が、中層の紙の白色度よりも高いことが好ましい。
【0017】
さらに必要に応じて、内層には、機械パルプ(MP)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)など、抄紙原料として一般的に使用されているものの1種類または2種類以上と再生パルプとを混合して使用することができる。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)などが挙げられる。環境の観点からは、再生パルプの使用量が多いことが望ましい。再生パルプと他のパルプを混合して使用する場合、内層各層における両者の比率は任意に設定することができ特に限定されないが、再生パルプ:他のパルプ=50:50〜100:0が好適である。
【0018】
再生パルプの原料となる古紙としては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙や、コピー紙や感熱紙、ノーカーボン紙などを含むオフィス古紙などを好適に使用することができる。
【0019】
一方、表層や裏層には、再生パルプを配合してもよいが、製品の白色性や蛍光強度、チリ・ダート等の観点から、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプなどの化学パルプを用いることが好ましい。特に、表層は、紙の外観を決定づけるとともに、ステルスバーコードが印刷される面側でもあるため、化学パルプ100質量%が好ましい。
【0020】
本発明によれば、外観の白色性に優れたインクジェット記録用はがき用紙を得ることができる。再生パルプを利用したインクジェット記録用はがき用紙として、紙の表面および裏面の白色度としては74%程度が望ましいが、本発明によれば76%以上の白色度のものも得ることができる。
【0021】
(蛍光失活処理)
本発明においては、蛍光強度低下の観点から、再生パルプに蛍光失活処理を施すことが望ましい。蛍光失活処理としては、再生パルプスラリーへの蛍光失活剤の添加、多価金属処理、酵素処理、過酸化物処理、オゾン処理、マスキング処理、脱墨後のパルプの二酸化塩素等による処理等が挙げられる。
【0022】
本発明では、蛍光失活剤が添加された再生パルプを使用することが望ましい。蛍光失活剤としては、ジクロルイソシアヌール酸塩やN−ビニルホルムアミド系重合体、あるいは芳香族カルボン酸・アミン縮合物等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0023】
蛍光失活剤の添加量は、再生パルプの固形分あたり固形分質量で0.01〜2%が好ましく、0.03〜1.5%であることが更に好ましい。蛍光失活剤の添加量が多くても蛍光除去効果は頭打ちであり、また、多すぎるとパルプの白色度が低下する傾向がある一方で、蛍光失活剤が少なすぎると、効果が不十分である。特に、例えば5層の場合など、表下層及び/又は裏下層に含有される再生パルプに添加することが好ましい。表層あるいは裏層に近い内層に存在する蛍光染料を失活させることで、再生パルプ由来の蛍光染料の悪影響をより効率良く抑えることができると考えられる。
【0024】
蛍光失活剤を再生パルプに添加するには、再生パルプの製造後が好ましい。本発明では蛍光失活剤のマスキング作用が発揮されることで、蛍光強度が低下すると推測される。再生パルプの製造前あるいは製造中に添加すると、その処理工程で水と一緒に流出したり、攪拌などによりパルプ繊維に十分に密着しないと考えられる。
【0025】
(抄紙方法)
本発明の基紙の製造方法は特に限定されるものでなく、各層の紙料をそれぞれ調製し、例えば長網型湿式抄紙機により各層を抄き合わせて多層構造とすることによって得ることができる。また、多層ヘッドボックスから各層の紙料をそれぞれ噴射して多層抄きしてもよい。抄紙機としては上記の他、ツインワイヤー型抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機等が挙げられる。
【0026】
本発明では、多層構造の内部結合強度を高めるために、澱粉その他の接着剤を各層間に塗布することや、紙力増強剤の配合を行ってもよい。但し、リサイクル時の離解性の観点から、内部結合強度は高すぎないことが望ましい。本発明においては、JAPAN TAPPI No.18−1に沿った測定値として、500KPa未満が好ましく、450KPa以下がより好ましく、さらに好ましくは400KPa以下である。あるいは、JAPAN TAPPI No.18−2に沿った測定値として、1650KPa未満が好ましく、より好ましくは1600KPa以下である。このような範囲の内部結合強度を有する多層構造の紙を得る方法としては、例えば、澱粉や接着剤を塗布する層間としない層間とを設ける、紙力増強剤を配合する層としない層を設けることが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0027】
また、はがき用紙サイズに裁断する際の紙粉発生や、印刷時または自動区分機処理時の紙剥けを防止するために、紙が有する内部結合強度として、JAPAN TAPPI No.18−1に沿った測定値において300KPa以上、JAPAN TAPPI No.18−2に沿った測定値において1300KPa以上であってもよい。
【0028】
(坪量)
基紙の坪量としては180〜200g/mであることが望ましい。抄き合わせにおける各層の坪量範囲は、本発明の効果を損なわない範囲で調整が可能であるが、表層および裏層の坪量は、各々20〜60g/mであることが好ましく、25〜50g/mであることが更に好ましい。表層、裏層の坪量が低すぎると、再生パルプ由来の蛍光強度が高くなる懸念があり、一方、表層および裏層の坪量が高すぎる場合、蛍光強度やダートの点では良好だが、表層、裏層に用いられる化学パルプの量が多くなり、コスト的にも環境的にも望ましくない。
【0029】
内層の坪量は、60〜160g/m程度が好ましい。また4層以上(内層が2層以上)の抄き合わせで基紙を製造する場合は、各層の坪量は30〜80g/mであることが更に好ましい。内層の坪量が低すぎると、再生パルプの配合率を高く出来ず、一方内層の坪量が高すぎると、表層、裏層の坪量が低くなるため、再生パルプ由来の蛍光強度が高くなり、宛先情報バーコードの読取適性等に問題が生じるおそれがある。
【0030】
(填料)
また、本発明の基紙には、填料を含有しても良い。特に、不透明度を高めるため、表層および/又は裏層は填料を含有することが好ましい。填料の種類は特に制限されないが、例えば、重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム、炭酸カルシウム−シリカ複合物、酸化チタン、クレー、シリカ、タルク、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化チタン、ベントナイトなどの無機填料;尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料;を単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、製紙スラッジや脱墨フロス等を原料とした再生填料も使用することができる。酸性抄紙の場合は、前記填料から、酸溶解性のものを除いた填料が使用され、その単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用される。
【0031】
本発明では中でも、リサイクル可能でかつ紙の不透明度や白色度を比較的低コストで向上させることができるため、炭酸カルシウムを使用して紙面pHが6.0〜9.5となるように中性抄紙することが好ましい。填料の含有量は、少なすぎると不透明度に劣り、多すぎるとオフセット印刷時や断裁時に紙粉が発生しやすいことなどから、対パルプ絶乾質量あたり1〜10質量%が好ましい。なお、ここでいう填料の含有量とは、再生パルプに由来するもの、および抄紙の際に添加されたものなどいずれも含む。
【0032】
(製紙用薬品)
また、本発明では必要に応じて各種の製紙用薬品を添加することができる。具体的には、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン性澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの内添紙力増強剤;ロジン系サイズ剤、AKD系サイズ剤、ASA系サイズ剤、石油系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤などの内添サイズ剤;などを挙げることができる。また、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、ベントナイト、シリカ、染料、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤などを用いることができる。
【0033】
(表面処理)
また、本発明の基紙には、必要に応じて、片面または両面に表面処理剤を塗布することができる。表面処理剤の種類や組成は、特に限定はないが、表面強度の向上を目的とした水溶性高分子物質としては、生澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、酵素変性澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉などの澱粉;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース誘導体;ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコールなどの変性アルコール;スチレンブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミドなどを単独または併用する。また、本発明では筆記適性あるいはプリンターでの印字適性のため、ステキヒトサイズ度が250〜600秒であることが好ましく、の吸水抵抗性を高めるために、前記の水溶性高分子物質の他に、スチレンアクリル酸、スチレンマレイン酸、オレフィン系化合物など表面サイズ剤を併用塗布してもよい。表面処理剤の塗布量は特に制限されず、通常、両面当たり0.5〜5g/m程度である。また、水溶性高分子物質と表面サイズ剤からなる表面処理剤を塗布する場合、水溶性高分子物質と表面サイズ剤との混合比率は公用の範囲で行えばよい。
【0034】
また、前述した表面処理剤を塗布する場合、塗工装置は一般に使用されるものを用いることができ、例えば、2ロールサイズプレス、ゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレス、ブレードコーター、バーブレードコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーターなどをオンマシンまたはオフマシンで用いることができる。更に、本発明においては紙表面にカレンダー処理を施すこともできる。カレンダー装置の種類と処理条件は特に限定はなく、金属ロールから成る通常のカレンダーやソフトニップカレンダー、高温ソフトニップカレンダーなどの公用の装置を適宜選定し、品質目標値に応じて、これらの装置の制御可能な範囲内で条件を設定すればよい。
【0035】
<インク受理層>
(インク受理層の顔料)
インク受理層中の顔料として、一次粒子径が30〜70nmであり、一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5〜3.0であるコロイダルシリカを含有させることが好ましい。コロイダルシリカの一次粒子径が30nm未満であると、インク受理層の透明性は高いが、塗工層の表面に微細な亀裂が生じ、顔料インク印字時に印字ムラが発生し印字濃度が低下する。一次粒子径が大きいほど亀裂が減少し、顔料インク使用時の印字ムラが少なくなる傾向にある。
【0036】
特に、インク中に粒子径30〜150nm程度の着色粒子を含有する顔料インクを用いたインクジェットプリンターで印字する場合、コロイダルシリカの一次粒子径が30nm以上であることが有効である。
【0037】
一方、一次粒子径が70nmを超えると、インク受理層の透明性が低下して染料インク印字時の印字濃度が大幅に低下し、染料インク適性が劣る。
【0038】
前記コロイダルシリカの一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5未満であるとインク受理層のインク吸収が低下し、3.0を超えるとインク受理層の光沢が低下するからである。コロイダルシリカの一次粒子径はBET法で測定でき、二次粒子径は動的光散乱法等で測定できる。
【0039】
なお、本発明におけるコロイダルシリカは、通常その分散状態を顕微鏡で観察すると、球状の単一コロイダルシリカ(一次粒子)が2〜3個連なったものが多数観察される。これを便宜上、ピーナツ状と表す。
【0040】
この一次粒子連結個数を平均した値は、上記比にほぼ対応する。そして、本発明におけるコロイダルシリカは、鎖状(又はパールネックレス状)のコロイダルシリカ、房状のコロイダルシリカ(顕微鏡観察すると、球状の単一コロイダルシリカが少なくとも5個以上、通常は10個以上連なって凝集しているもの、上記比も5以上となる)を主とするものは含まない。
【0041】
ここでいう含まない、とは、顕微鏡観察した際に、房状のコロイダルシリカが全く観察されないことをいうのでなく、一部房状のコロイダルシリカが観察されていてもよいが、マクロ的な物性である一次粒子径に対する二次粒子径の比を測定した値が3を超える(通常は5以上)ことをいう。
【0042】
前記コロイダルシリカは、アルコキシシランを原料としてゾルゲル法により合成し、合成条件によって一次粒子径(BET法粒子径)や二次粒子径(動的光散乱法粒子径)をコントロールするようにすることが好ましく、二次粒子となった合成シリカを機械的に粉砕して二次粒子径を調整した粉砕シリカを用いることは好ましくない。
【0043】
本発明で好ましく用いることができるコロイダルシリカとしては、扶桑化学工業社製の商品名クォートロンシリーズを上げることができる。
【0044】
コロイダルシリカの配合量は、インク受理層中の全顔料100質量部に対して20〜80質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜70質量部である。コロイダルシリカの配合量が全顔料の20質量部未満の場合には、光沢感が低下するだけでなく、インクジェット印字の際のインク吸収性や発色性向上の効果が不充分となり、又、印字ムラを改善できなくなる場合がある。また、配合量が80質量部を越える場合には、塗工した際の操業性が低下する場合がある。
【0045】
インク受理層中における上記コロイダルシリカ以外の顔料として、合成非晶質シリカを用いることができる。合成非晶質シリカはその製造法により、湿式法シリカと気相法シリカとに大別できる。
【0046】
湿式法で製造された合成非晶質シリカは、顔料の透明性が気相法シリカに劣るが、ポリビニルアルコールと併用した場合の塗料安定性に優れる。さらに、湿式法シリカは、内部空隙の無い気相法シリカに比べて分散性が良好であり、塗料濃度を高くすることが可能である。そのため、インク受理層中の(結着剤に対する)顔料の割合を高くすることができ、インク受理層の吸収性を高くできるので、インク吸収性を向上できると共に染料インクの発色性を向上できる。
【0047】
高い光沢感を得るという点から上記合成非晶質シリカ(コロイダルシリカ以外の合成シリカ)の好ましい二次粒子径は動的光散乱法による粒子径で1〜5μmであることが好ましい。また、BET比表面積は150〜500m/gであることが好ましい。
【0048】
インク受理層中の全顔料に対し、合成非晶質シリカの配合割合が多くなると、インク吸収性が向上するが、着色顔料がインク受理層内部に入り込みやすくなるため顔料インク印字時の発色性向上の効果が不充分となる傾向がある。また、合成非晶質シリカの配合割合が少ない場合にはインク吸収性が低下し、結果として印字ムラが大きくなる傾向がある。
【0049】
なお、インク受理層中の顔料としては、上記コロイダルシリカと合成非晶質シリカを混合したものを用いるのが最もよい。
【0050】
インク受理層中における上記コロイダルシリカ以外の顔料として、インクジェット記録した際のインク吸収性、発色性および光沢感を損なわない範囲で他の顔料、例えば水酸化アルミニウム、アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等のアルミナ(α型結晶のアルミナ、θ型結晶のアルミナ、γ型結晶のアルミナ等)やアルミナ水和物、合成シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、酸化亜鉛等を併用しても良い。
【0051】
(インク受理層の結着剤)
インク受理層中の結着剤として、皮膜形成が可能な高分子化合物を用いることができる。例えば、結着剤として、澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;カゼイン;ゼラチン;大豆タンパク;スチレン−アクリル樹脂及びその誘導体;スチレン−ブタジエン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、アルキッド樹脂及びこれらの誘導体等を単独又は併用して用いることができる。
【0052】
結着剤の配合量は、インク受理層中の全顔料100質量部に対して、5質量部〜30質量部であることが好ましいが、必要な塗工層強度が得られ、且つインク吸収性が悪くならない限り、特に限定されるものではない。
【0053】
結着剤として用いる高分子化合物は水系であることが好ましい。「水系」とは、水又は水と少量の有機溶剤からなる媒体中で樹脂が溶解又は分散し、安定化すること(水溶性又は/及び水分散性の樹脂エマルジョン)を意味する。
【0054】
これらの結着剤は、支持体に塗工する塗工液中では溶解又は粒子となって分散しているが、塗工し乾燥した後に顔料の結着剤となり、インク受理層を形成する。
【0055】
特に、水系高分子化合物として、部分鹸化のポリビニルアルコールを用いることが好ましい。ポリビニルアルコールの添加量は、インク受理層中の全顔料100質量部に対して3質量部から30質量部であることが好ましい。
【0056】
インク受理層は、上記した顔料と結着剤を含むが、その他の成分、例えば、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、顔料分散剤、離型剤、発泡剤、pH調整剤、表面サイズ剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、耐水化剤、染料定着剤、界面活性剤、湿潤紙力増強剤、保水剤、カチオン性高分子電解質等を、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜添加することができる。
【0057】
支持体上にインク受理層となる塗工液を塗布する方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター等の公知の塗工機をオンマシン、あるいはオフマシンで用いた塗工方法の中から適宜選択して使用することができる。
【0058】
インク受理層の塗工量は、基紙の表面を覆い、かつ充分なインク吸収性が得られる範囲で任意に調整することができるが、記録濃度及びインク吸収性を両立させる観点から、片面当たり、固形分換算で5〜30g/mであることが好ましく、特に、生産性をも加味すると10〜25g/mであることが好ましい。塗工量が30g/mを超えると、キャストドラム鏡面仕上げ面からの剥離性が低下し塗工層が鏡面仕上げ面に付着するなどの問題を生じることがある。
【0059】
本発明において、インク受理層の塗工量を多く必要とする場合には、インク受理層を多層にすることも可能である。また、基紙とインク受理層の間にインク吸収性、接着性その他の各種機能を有するアンダーコート層を設けても良い。さらに、インク受理層を設けた面の反対側にさらにインク吸収性、筆記性、プリンター印字適性他各種機能を有するバックコート層を設けても良い。
【0060】
(インク受理層の形成)
本発明においては、最表面のインク受理層をキャストコート法で形成することによって光沢を付与する。ここで、キャストコート法とは、塗工後の湿潤状態にある塗工面を加熱した仕上げ面に圧着して乾燥する方法である。
【0061】
好ましくは、銀塩写真に匹敵する面感、光沢を付与することが可能であるという点でゲル化キャストコート法(凝固法)を用いてインク受理層を形成させることが好ましい。
【0062】
キャストコート法は、例えば以下のようにして行う。まず、インク受理層となる塗工液を基紙に塗布する。次に、塗工液中の結着剤(特に水系結着剤)を凝固させる作用を有する処理液を塗工層に塗布し、塗工層を湿潤状態にさせる。そして、湿潤状態の塗工層を、加熱した鏡面仕上げ面に圧着し乾燥することにより、光沢を有するインク受理層を形成することができる。
【0063】
処理液を塗布する際の塗工層は、湿潤状態であっても乾燥状態であっても良いが、特に湿潤状態とした場合にはキャストドラムの鏡面仕上げ面を写し取りやすく、塗工層表面の微小な凹凸を少なくすることができるので、得られたインク受理層に銀塩写真並の光沢感を付与させ易くなる。
【0064】
処理液を塗布する方法としてはロール、スプレー、カーテン方式等があげられるが、特に限定されない。
【0065】
次に、ゲル化キャスト法を用いる場合について説明する。
【0066】
この方法は、上記キャストコート法において、上記塗工層を塗布後、未乾燥の塗工層を凝固液によってゲル化させてから、加熱した鏡面仕上げ面に圧着、乾燥するものである。凝固液を塗布する際に塗工層が乾燥状態であると鏡面ドラム表面を写し取ることが難しく、得られたインク受理層表面に微小な凹凸が多くなり、銀塩写真並の光沢感を得にくいため、未乾燥の塗工層に凝固液を塗布する。
【0067】
凝固液は、湿潤状態の塗工層中の水系結着剤を凝固する作用を持ち、例えば、蟻酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、塩酸、硫酸等のカルシウム、亜鉛、マグネシウム等の各種の塩が用いられる。特に、水系結着剤としてポリビニルアルコールを用いた場合には、凝固液としてホウ酸とホウ酸塩とを含有する液を用いることが好ましい。ホウ酸とホウ酸塩とを混合して用いることにより、凝固時の固さを適度なものとすることが容易となり、インク受理層に良好な光沢感を付与できる。
【0068】
凝固液を塗布する方法は、塗工層に塗布できる限り特に制限されず、公知の方法(例えばロール方式、スプレー方式、カーテン方式等)の中から適宜選択して用いることができる。
【0069】
又、上記塗工層及び/又は凝固液には、必要に応じて剥離剤を添加することができる。剥離剤の融点は90〜150℃であることが好ましく、特に95〜120℃であることが好ましい。上記の温度範囲においては、剥離剤の融点が鏡面仕上げ面の温度とほぼ同等であるため、剥離剤としての能力が最大限に発揮される。剥離剤は上記特性を有していれば特に限定されるものではないが、ポリエチレン系のワックスエマルジョンを用いることが好ましい。
【0070】
また、本発明に用いる凝固液には、カチオン性コロイダルシリカ及びカチオン性樹脂を含有させてもよい。その場合、ホウ酸のみでホウ酸塩を含有させないことが好ましい。
【0071】
(カチオン性コロイダルシリカ)
凝固液中にカチオン性コロイダルシリカを添加すると、キャストコートによってインク受理層の表面近傍にカチオン性コロイダルシリカが付着(存在)する。一次粒子径10〜50nmの微細なカチオン性コロイダルシリカがインク受理層の表面に存在すると、染料インクで印字した際の印字濃度が向上する。又、一次粒子径10〜50nmの微細なカチオン性コロイダルシリカがインク受理層の最表面に存在するため、インク受理層の表面が平滑になり、光沢が向上する。
【0072】
カチオン性コロイダルシリカは、その粒子表面が高い陽性電荷を帯びているコロイダルシリカである。カチオン性コロイダルシリカは、例えば、ケイ酸ナトリウムの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られるコロイダルシリカに対し、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、又はジルコニウムイオン等の多価金属イオンを反応させて得られる。例えば、特公昭47−26959号公報にはアルミニウム処理によるカチオン性コロイダルシリカが開示されている。
【0073】
市販されているカチオン性コロイダルシリカとしては、グレース社のLUDOX CL、LUDOX CL−P等が挙げられる。本発明では2種以上のカチオン性コロイダルシリカを混合して使用してもよい。
【0074】
インク受理層の光沢性、透明度を向上させる観点から、カチオン性コロイダルシリカの一次粒子径を10〜50nmとする。カチオン性コロイダルシリカの一次粒子径が10nmより小さいと、インク受理層の光沢感は優れるが、染料インクの吸収性が劣る場合がある。一方、カチオン性コロイダルシリカの一次粒子径が50nmより大きいと、インク受理層の透明度が低下し、染料インクで印字した際の印字濃度が低下する場合がある。さらにインク吸収性を補う目的で、一次粒子径が50nmを超えたり、房状や繭状等の形状が異なる(各種の不定形の凝集形態をとるもの)カチオン性コロイダルシリカを併用してもよい。
【0075】
又、インク受理層の最表面を平滑にし、光沢度を向上させる観点から、カチオン性コロイダルシリカの一次粒子径は、インク受理層の顔料の一次粒子径より小さいことが好ましい。このようにすると、インク受理層の最表面を微細なカチオン性コロイダルシリカが覆うため、光沢度が向上する。
【0076】
なお、一次粒子径の異なる2種類以上のカチオン性コロイダルシリカを用いる場合、「カチオン性コロイダルシリカの一次粒子径」とは、各カチオン性コロイダルシリカの一次粒子径を各カチオン性コロイダルシリカの含有割合で加重平均した値とする。同様に、インク受理層の顔料として一次粒子径の異なる2種類以上の顔料を用いる場合、「顔料の一次粒子径」とは、各顔料の一次粒子径を各顔料の含有割合で加重平均した値とする。
【0077】
なお、カチオン性コロイダルシリカは、ホウ酸塩と凝集するため、本発明では好ましくはホウ酸を凝固液に添加して凝固をコントロールするが、ホウ酸はホウ酸塩に比べて凝固の(硬さの)制御が難しい。そこで、インク受理層用塗工液にアニオン性コロイダルシリカを含有してそのpHを7〜10(30℃条件時)とし、カチオン性の凝固液のpHを1〜4(30℃条件時)に調整することで、凝固性を安定的に得ることができるので、ホウ酸を用いても凝固を制御し易く、安定操業が可能となる。ここで、インク受理層用塗工液のpHが10を超えるか、又は凝固液のpHが1未満であると、塗工装置等の配管が溶け出す可能性がある。一方、インク受理層用塗工液のpHが7未満か、又は凝固液のpHが4を超える場合、凝固反応が不十分となり、安定操業が難しくなる傾向にある。
【0078】
カチオン性コロイダルシリカは凝固液中に2〜15質量%含有されることが好ましい。カチオン性コロイダルシリカの含有割合が2質量%未満であると、光沢度が低下し、染料インクで印字した際の印字濃度が低下する場合がある。また、カチオン性コロイダルシリカの含有割合が15質量%を超えると凝集体(析出物)が発生し、操業トラブルとなる場合がある。
【0079】
カチオン性コロイダルシリカ以外の顔料として、アルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等)、アルミナ(α型結晶のアルミナ、θ型結晶のアルミナ、γ型結晶のアルミナ等)等を、カチオン性コロイダルシリカと混合して使用してもよいが、カチオン性コロイダルシリカに対するその他の顔料の混合比率は50質量%以下とすることが望ましい。
【0080】
(ホウ酸)
ホウ酸が凝固液中に1〜10質量%含有されることが好ましい。ホウ酸の含有割合が1質量%未満であると凝固作用が不十分となる場合がある。また、ホウ酸の含有割合が10質量%を超えると水に溶解することができず、凝集物(析出物)が発生し、操業トラブルの原因となる場合がある。
【0081】
(カチオン性樹脂)
凝固液中にカチオン性樹脂を含有させることにより、凝固キャストコートによってインク受理層の表面にカチオン性樹脂が付着(存在)する。カチオン性樹脂はインクを定着させ、水溶性染料インク使用時の印字濃度が向上し、さらに耐水性が向上する。凝固液中にいずれも電気的に陽性のカチオン性樹脂とカチオン性コロイダルシリカとが共存するので、両者が凝集することがない。
【0082】
カチオン性樹脂としては、ポリアミンスルホン、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミン縮合物、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド縮合物、カチオン性アクリル樹脂、カチオン性ウレタン樹脂等が挙げられ、これらを1種又は複数種選沢して用いることができる。凝固液中のカチオン性樹脂の含有量は特に限定されるものではないが、0.5〜10質量%含有されることが好ましい。カチオン性化合物の含有割合が0.5質量%未満であると、インク定着機能が低下し、印刷した画像の印字濃度が低下する場合がある。カチオン性化合物の含有割合が10質量%を超えると、凝固液の粘度が上昇して塗工性が悪化する場合がある。
【0083】
凝固液を塗布する方法は、塗工層に塗布できる限り特に制限されず、公知の方法(例えば、ロール方式、スプレー方式、カーテン方式等)の中から適宜選択して用いることができる。
【0084】
凝固液の付着量は固形分で1〜10g/mとすることが好ましい。凝固液の付着量が固形分で1g/m未満であると、凝固作用が不十分となり、インク受理層への光沢の付与が不十分となる場合がある。凝固液の付着量が固形分で10g/mを超えても、インク受理層の光沢度の向上効果が飽和すると共に、凝固液の固形分濃度を高くしなければならないので、後述する問題が発生する場合がある。
【0085】
凝固液の濃度は3質量%以上から15質量%未満であることが好ましい。凝固液の濃度が3質量%未満であると、塗工層への凝固剤の付着量(固形分で1g/m未満)が不十分となり、凝固作用が不十分となる場合がある。また、凝固液の濃度が10質量%を超える場合には、ホウ酸の割合が高くなり、水への溶解が困難となり、凝集物(析出物)が発生し、操業トラブルとなる場合がある。
【0086】
(はがき用紙以外の用途)
本発明のインクジェット記録用紙は、はがき用紙以外にも、印刷用紙、情報用紙、包装用紙等に使用することができる。坪量等の諸物性や製造方法などは、各用途に応じて適宜設定すればよい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は実施例に制限されるものではない。実施例及び比較例において部及び%は固形分質量部及び固形分質量%を表す。なお、以下の実施例は5層の抄き合わせであり、各層を順に「表層」「表下層」「中層」「裏下層」「裏層」で記載した。
【0088】
[実施例1]
<再生パルプの製造>
(DIP−A)
高濃度パルパーに、新聞古紙:雑誌古紙:ケント古紙:チラシ古紙=65:16:11:8の割合で古紙を投入した。ここに薬品を加えてパルプ濃度が15質量%となるように調整し、離解処理を行った。使用薬品は、それぞ対古紙質量に対する割合で苛性ソーダ2.0%、高級アルコール系脱墨剤0.2%を加えた。続いて、粗選スクリーン、フローテーター、精選スクリーン、ディスパーザーを経てDIP(脱墨再生パルプ)を製造した。このDIPにさらにホルムアミジンスルフィン酸(FAS)を添加し、ディスパーザーで分散処理を行った後、水で希釈し、高速ワイヤーベルト式脱水機(DNTウォッシャー)で洗浄することで、DIP−Aを得た。DIP−Aの白色度は70%、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)は230ml、灰分は3%、0.1mm以下の微細繊維量は1.4%であった。
(DIP−B)
ホルムアミジンスルフィン酸(FAS)添加以降の工程を行わない以外は、DIP−Aと同様にしてDIP−Bを得た。DIP−Bの白色度は55%、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)は220ml、灰分は12%、0.1mm以下の微細繊維量は10%であった。
<基紙の製造>
(表層及び裏層)
カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)400mlに叩解したLBKP100部に対して、填料として炭酸カルシウムを2部、内添サイズ剤を0.4部、歩留まり剤を0.1部、硫酸バンドを2部添加して紙料スラリーを調製した。
(表下層、裏下層)
CSF400mlのLBKP50部と、白色度70%の再生パルプ(以下DIP−Aと略)50部とを混合し、パルプ分に対して内添サイズ剤を0.75部、硫酸バンドを2.5部添加して紙料スラリーを調製した。
(中層)
白色度70%の再生パルプ(DIP−A)100部に対して、内添サイズ剤として0.75部、硫酸バンドを2.5部添加して紙料スラリーを調製した。
(抄き合わせ)
上記3種類の紙料スラリーを、表層=28g/m、表下層・中層・裏下層=各40g/m、裏層=30g/mとなるように長網抄紙機で抄紙し、湿紙の状態で抄き合わせて乾燥し、抄き合わせに際し、裏層と裏下層を除く各層間には、顆粒澱粉の2.3%水溶液を塗布量1g/mとなるようにスプレー塗布した。この原紙に2ロールサイズプレスでポリビニルアルコールを両面で1.8g/mとなるように塗布し、ベック平滑度が30秒となるようにカレンダー処理を行って、坪量181.8g/mの基紙を得た。
<インクジェット記録用光沢はがき用紙の製造>
前記原紙にアンダー塗工液をブレードコーターで片面に塗工量が4g/mとなるように塗工して140℃で送風乾燥した。次いでさらにアンダー塗工液を塗工した面にロールコーターでキャスト塗工液Aを12g/m塗工し、塗工層が湿潤状態にあるうちに、凝固液Bを用いて、凝固させ、次いでプレスロールを介して加熱された鏡面仕上げ面に圧着して鏡面を写し取り、197.8g/mのインクジェット記録用光沢はがきを得た。
(アンダー塗工液):顔料として、合成シリカ(商品名:ファインシールX−12:株式会社トクヤマ社製)100部にラテックス(商品名:AM3150、昭和高分子株式会社製)23部及びポリビニルアルコール(商品名:PVA117、株式会社クラレ社製)5部、インク定着剤(商品名:DK6860、星光PMC株式会社製)25部、サイズ剤(商品名:SE2250、星光PMC株式会社製)15部配合して濃度30%の水性塗工液を調製した。
(キャスト塗工液A):顔料として、平均一次粒子径が20nmで、二次粒子/一次粒子径の比が2.7のコロイダルシリカ(商品名:クォートロンPL−2、扶桑化学工業社製)を60部、比表面積が300m/gの沈降法シリカ(商品名:ファインシールX−37、株式会社トクヤマ社製)20部、比表面積が200m/gの気相法シリカ(商品名:アエロジル200、日本アエロジル株式会社製)を20部、バインダーとして重合度1700のポリビニルアルコール(商品名:PVA617、株式会社クラレ製)を15部、蛍光染料(商品名:BLANKOPHOR P liquid01、LANXESS社製)1.0部、着色顔料(商品名:EMT VIOLET BE、東洋インキ社製)0.04部および有色顔料(商品名:EMT Blue DS18、東洋インキ社製)0.04部、離型剤(商品名:メイカテックスHP65、明成化学工業社製)2部、消泡剤0.2部を配合して濃度23%の塗工液を調整した。
(凝固液B):硼砂2%、ホウ酸2%(硼砂/ホウ酸の質量比=1/1、NaおよびHBO換算で計算)、インク定着剤(商品名:パルセットJK230、明成化学工業社製)4%、離型剤(商品名:メイカテックスHP65、明成化学工業社製)0.5%を配合して凝固液を調整した。
【0089】
[実施例2]
実施例1の基紙の製造で、抄き合わせを、表層=30g/m、表下層・中層・裏下層=各41g/m、裏層=30g/mとなるように長網抄紙機で抄紙し、湿紙の状態で抄き合わせて乾燥し、抄き合わせに際し、裏層と裏下層を除く各層間には、顆粒澱粉の2.3%水溶液を塗布量1g/mとなるようにスプレー塗布した。この原紙に2ロールサイズプレスでポリビニルアルコールを両面で1.8g/mとなるように塗布し、ベック平滑度が30秒となるようにカレンダー処理を行って、坪量186.8g/mの基紙を得た。
<インクジェット記録用光沢はがき用紙の製造>
得られた基紙に、キャスト塗工液Cを9g/m塗工し、塗工層が湿潤状態にあるうちに、凝固液Dを塗工量3g/mとなるように塗布して凝固させ、次いでプレスロールを介して加熱された鏡面仕上げ面に圧着して鏡面を写し取り、196.8g/mのインクジェット記録用光沢はがきを得た。
(キャスト塗工液C):顔料として、コロイダルシリカ(商品名:クォートロンPL−3:扶桑化学工業株式会社製、平均一次粒子径30nm)20部、気相法合成非晶質シリカ(商品名:アエロジル200V:日本アエロジル株式会社製、平均一次粒子径12nm)10部、及び湿式法合成非晶質シリカ(商品名:ファインシールX−37、トクヤマ株式会社製、平均二次粒子径2.3μm)70部、結着剤としてポリビニルアルコール(商品名:PVA217、株式会社クラレ製)12部、蛍光染料(商品名:BLANKOPHOR P liquid01、LANXESS社製)1.0部、着色顔料(EMT VIOLET BE:東洋インキ社製)0.04部および有色顔料(商品名:EMT Blue DS18、東洋インキ社製)0.04部離型剤(商品名:メイカテックスHP68、明成化学工業株式会社製)0.5部、消泡剤(商品名:SNデフォーマー480、サンノプコ社製)0.1部を配合して濃度25%でpH8.3の塗工液を調整した。
(凝固液D):ホウ酸4%、カチオン性樹脂(商品名:サフトマーST3300、三菱化学株式会社製)1%、カチオン性コロイダルシリカ(商品名:LUDOX CL−P、グレース社製、平均一次粒子径22nm)2%、離型剤(商品名:メイカテックスHP68、明成化学工業株式会社製)0.5部、消泡剤(商品名:SNデフォーマー480、サンノプコ社製)0.1%を配合して凝固液を調製した。
【0090】
[実施例3]
実施例1の基紙の製造で表下層、裏下層のパルプスラリーにおいて、LBKP50部と再生パルプ(DIP−A)50部とに代えて、それぞれ再生パルプ(DIP−A)100部を使用した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用はがき用紙を得た。
【0091】
[実施例4]
実施例1の基紙の製造で、表下層、裏下層のそれぞれのパルプスラリー調製時に、蛍光失活剤として芳香族カルボン酸・アミン縮合物(商品名:FQ−50、里田加工製)を、LBKPおよび再生パルプ(DIP−A)とを合わせた対パルプ当たり0.05%添加(DIP−Aに対し0.1%添加に相当)した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用はがき用紙を得た。
【0092】
[実施例5]
実施例1の基紙の製造で、中層のパルプスラリーにおいて、再生パルプ(DIP−A)100部に代えて、白色度55%の再生パルプ(DIP−B)100部を使用した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用はがき用紙を得た。
【0093】
[比較例1]
<基紙の製造>
CSF400mlのLBKP80部と、再生パルプ(DIP−A)20部とを混合し、填料として炭酸カルシウムを5部、内添サイズ剤を1.4部、硫酸バンドを2部添加して紙料スラリーを調製した。この紙料スラリーを、長網抄紙機で抄紙し、サイズプレスでポリビニルアルコールを両面で1.8g/m塗布し、ベック平滑度が30秒となるようにカレンダー処理を行って、坪量181.1g/mの基紙を得た以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用光沢はがき用紙を得た。
【0094】
[比較例2]
<基紙の製造>
CSF400mlのLBKP60部と、再生パルプ(DIP−A)40部とを混合し、填料として炭酸カルシウムを5部、内添サイズ剤を1.4部、硫酸バンドを2部添加して紙料スラリーを調製した。この紙料スラリーを、長網抄紙機で抄紙し、サイズプレスでポリビニルアルコールを両面で1.8g/m塗布し、ベック平滑度が30秒となるようにカレンダー処理を行って、坪量180g/mの基紙を得た以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用光沢はがき用紙を得た。
【0095】
[比較例3]
比較例2の基紙の製造で再生パルプ(DIP−A)40部に代えて、白色度55%の再生パルプ(DIP−B)40部を使用した以外は、比較例2と同様にしてインクジェット記録用光沢はがき用紙を得た。
【0096】
[評価方法]
各実施例および比較例で得られたインクジェット記録用はがき用紙の評価を、以下に示す方法により行った。評価結果を表1にまとめて示す。なお、表中IJ面とはインク受理層面で、裏面はインク受理層を設けていない面である。
【0097】
<白色度>
パルプ、基紙およびインクジェット記録用光沢はがき用紙について、JIS P 8148に従って測定した。
【0098】
<蛍光強度>
JIS P 8148に従って、紫外線領域を含む光を照射した時の白色度(X)と紫外線を含まない光を照射した時の白色度(Y)をそれぞれ測定し、両者の差(X−Y)により蛍光強度を求めた。値が小さいほど蛍光強度が小さいことを示す。
【0099】
<チリ・ダート>
目視で評価を行い次の基準で示した。
◎ チリ・ダートが目立たない
○ チリ・ダートがほとんど目立たない
△ チリ・ダートがやや目立つが実用上問題ない
× チリ・ダートが多い
【0100】
<DIP微細繊維量>
Kajaanisy社製パルプ分析装置「FiberLab」を用いて、長さ平均算出時の繊維長分布における0.1mm以下の頻度を測定した。
【0101】
<内部結合強度>
JAPAN TAPPI No.18−1およびNo.18−2に沿って測定した。前者はZ軸方向引張り、後者はインターナルボンドを表す。
【0102】
<自動区分機処理試験>
自動区分機による処理試験の結果を下記に示す。
○ 良好
△ やや不良
× 不良
【0103】
<不透明度>
インクジェット記録用光沢はがき用紙の不透明度をJIS P 8138に従って測定した。
【0104】
<ベック平滑度>
インクジェット記録用はがき用紙のIJ面のベック平滑度をJIS P 8119に従って測定した。
【0105】
<光沢度>
インクジェット記録用光沢はがき用紙の光沢面の75°光沢度を株式会社村上色彩技術研究所製 トルーグロスGM-26PRO 75°型で測定した。
【0106】
<写像性>
インクジェット記録用光沢はがき用紙の光沢面の写像性をスガ試験機株式会社製 写像性測定器ICM-1T を用いて、反射角度60°、光学くし幅2mmの条件で測定した。
【0107】
【表1】


表1より、多層構造の基紙を使用した実施例1〜5のインクジェット記録用光沢はがき用紙は、再生パルプの含有率が高いにもかかわらず、白色度が高く、蛍光強度が低く、チリやダートも問題ないレベルであり、自動区分機処理の結果が良好であり、光沢度、写像性も良好であった。中でも、蛍光失活剤を添加した実施例4は、蛍光強度がより低下した。一方、単層抄きで白色度の高い再生パルプを用いた比較例1、2のインクジェット記録用光沢はがき用紙は、蛍光強度が高く再生パルプ由来の蛍光染料の影響が強く、チリやダートも増加した。さらに、単層抄きで白色度の低い再生パルプを用いた比較例3では、白色性に劣り、蛍光強度が高く、チリやダートも増加した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のインクジェット記録用紙は、古紙を活用した環境に優しいインクジェット記録が可能な郵便光沢はがきとして使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の少なくとも片面に、顔料を含有するインク受理層をキャストコート法により設けたインクジェット記録用紙であって、該基紙は、パルプを主原料とした3層以上の多層構造で、表層と裏層との間に形成された少なくとも1つの内層に再生パルプを含有する紙であって、全パルプ固形分に対し再生パルプを20質量%以上含有し、かつ、前記再生パルプの全固形分に対し白色度が60%以上である再生パルプを50質量%以上含有する多層紙であるインクジェット記録用紙。
【請求項2】
前記インク受理層は、顔料として一次粒子径30〜70nmで、前記一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5〜3.0であるコロイダルシリカを含有する請求項1記載のインクジェット記録用紙。
【請求項3】
前記キャストコート法が凝固法である請求項1〜記載のインクジェット記録用紙。
【請求項4】
はがき用紙である請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用紙。

【公開番号】特開2012−135954(P2012−135954A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290027(P2010−290027)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】