説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】品質の高い画像を高速で記録することが可能なインクジェット記録装置、および、インクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】インクジェット記録装置1は、記録媒体Pの記録面にインクジェットヘッド2から顔料インクを吐出して、画像を記録する装置であって、インクジェットヘッド2に記録媒体Pを搬送する記録媒体送り手段4と、インクジェットヘッド2により画像を記録した記録媒体Pを排出する記録媒体排出手段5とを有し、記録媒体排出手段5は、記録媒体Pの記録面とは反対側に配置された排出ローラ51と、記録媒体の記録面側に排出ローラと対向するよう配置された円柱形状の従動ローラ52とを有し、従動ローラ52は、電気抵抗率が10Ωcmよりも小さく、かつ、接地されており、顔料インクの電気伝導率は、0.5mS/m以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙等の記録媒体に対し、インクジェットヘッドによりインクを吐出して、画像を記録するインクジェット記録装置が知られている。
このようなインクジェット装置は、一般に、インクジェットヘッドへ記録媒体を搬送する記録媒体搬送手段と、画像を記録した記録媒体を装置外へ排出する記録媒体排出手段とを有している。記録媒体排出手段は、通常、記録媒体の記録面とは反対側の排出ローラ(駆動ローラ)と、記録面側の従動ローラとで構成されている。
【0003】
ところで、従来の従動ローラとしては円柱状のものが一般的であったが、記録媒体と従動ローラとの間での摩擦帯電により、乾燥していないインクが従動ローラに付着してしまうといった問題があった。この従動ローラに付着したインクは、従動ローラの回転により、記録媒体の本来インクが付着すべきではない部位に付着してしまい、形成される画像の品質が低下するといった問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、従動ローラとして、拍車を用い、記録媒体と従動ローラとの接触面積を小さくするといった試みが行われている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、近年の画像記録速度のさらなる向上化の傾向にともない、従来の拍車では、記録媒体との接触面積が小さいため、排出ローラの駆動力を記録媒体に伝えることができず、画像記録速度を向上させるのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−41277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、品質の高い画像を高速で記録することが可能なインクジェット記録装置、および、インクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体の記録面にインクジェットヘッドから顔料インクを吐出して、画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記記録媒体を搬送する記録媒体送り手段と、
前記記録媒体を排出する記録媒体排出手段と、を有し、
前記記録媒体排出手段は、前記記録媒体の前記記録面とは反対側に配置された排出ローラと、前記記録媒体の前記記録面側に前記排出ローラと対向するよう配置された円柱形状の従動ローラと、を有し、
前記従動ローラは、電気抵抗率が10Ωcmよりも小さく、かつ、接地されており、
前記顔料インクの電気伝導率は、0.5mS/m以上であることを特徴とする。
これにより、品質の高い画像を高速で記録することが可能なインクジェット記録装置を提供することができる。
【0008】
本発明のインクジェット記録装置では、前記従動ローラは、導電性ウレタン樹脂を含む材料で構成されていることが好ましい。
これにより、記録媒体上の顔料インクが従動ローラに付着するのをより効果的に防止することができ、より品質の高い画像を記録することができる。
本発明のインクジェット記録装置では、前記顔料インクは、ワックスを含むことが好ましい。
これにより、記録媒体上の顔料インクが従動ローラに付着するのをより効果的に防止することができる。
【0009】
本発明のインクジェット記録装置では、前記ワックスは、結晶性エチレン系重合体を含むことが好ましい。
これにより、記録媒体上の顔料インクが従動ローラに付着するのをより効果的に防止することができ、より品質の高い画像を記録することができる。
本発明のインクジェット記録装置では、前記顔料インクは、イオン性物質を含むことが好ましい。
これにより、記録媒体上の顔料インクが従動ローラに付着するのをより効果的に防止することができ、より品質の高い画像を記録することができる。
【0010】
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体の記録面にインクジェットヘッドから顔料インクを吐出して、画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクジェットヘッドに前記記録媒体を搬送する記録媒体送り手段と、
前記インクジェットヘッドにより画像を記録した前記記録媒体を排出する記録媒体排出手段と、を有するインクジェット記録装置を備え、
前記記録媒体排出手段は、前記記録媒体の前記記録面とは反対側に配置された排出ローラと、前記記録媒体の前記記録面側に前記排出ローラと対向するよう配置された円柱形状の従動ローラと、を有し、
前記従動ローラは、電気抵抗率が10Ωcmよりも小さく、かつ、接地されており、
前記顔料インクの電気伝導率は、0.5mS/m以上であることを特徴とする。
これにより、品質の高い画像を高速で記録することが可能なインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】インクジェット記録装置の一例を示す模式図である。
【図2】インクジェット記録装置の排出手段の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《インクジェット記録装置(インクジェット記録方法)》
以下、インクジェット記録装置(液滴吐出装置)の好適な実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るインクジェット装置の一例を示す模式図である。
図1に示すように、記録装置としてのインクジェット記録装置1(以下、プリンタ1という)は、インクジェットヘッド2と、インクジェットヘッド2に対向するように接地されたプラテン3と、インクジェットヘッド2に記録媒体Pを搬送する記録媒体送り手段4と、画像が記録された記録媒体Pを排出する記録媒体排出手段5とを有している。ここで、接地とは、大地と電位を等しくすることをいう。
【0013】
インクジェットヘッド2は、後述する顔料インクを吐出する機能を備え、記録媒体Pに画像(データ)を記録する機能を備えている。
吐出方法としては、サーマルジェット(バブルジェット(登録商標))方式でもよい。また、従来公知の方法はいずれも使用できる。
プラテン3は、インクジェットヘッド2から記録媒体Pに顔料インクを吐出する際に記録媒体Pを支持する機能を有している。
【0014】
記録媒体送り手段4は、図1に示すように、インクジェットヘッド2よりも記録媒体Pの搬送方向における上手側に設置されており、インクジェットヘッド2とプラテン3との間に記録媒体Pを搬送する機能を備えている。
記録媒体送り手段4は、図1に示すように、駆動ローラ41と、駆動ローラ41と記録媒体Pを介して対向するように設置された加圧ローラ42とで構成されている。加圧ローラ42によって記録媒体Pを加圧することで、駆動ローラ41と記録媒体Pとの間で摩擦力が生じ、この摩擦力と駆動ローラ41の駆動により記録媒体Pがインクジェットヘッド2とプラテン3の間に搬送される。
【0015】
記録媒体排出手段5は、画像が記録された記録媒体Pを装置外へ排出する機能を有している。
記録媒体排出手段5は、図1、図2に示すように、記録媒体Pの記録面とは反対側に設置された排出ローラ51と、記録媒体Pの記録面側に排出ローラ51と対向するように設置された従動ローラ52と、従動ローラ52を排出ローラ51に向かって付勢する付勢手段53とを有している。
【0016】
排出ローラ51は、図示せぬ動力により回転駆動するよう構成されており、記録媒体Pとの摩擦力によって記録媒体Pを装置外へ排出する機能を有している。
従動ローラ52は、円柱形状の部材であり、円柱の側面が記録媒体Pに接するよう配置されており、また、記録媒体Pを挟むように排出ローラ51と対向して配置されている。
ところで、このような円柱形状の従動ローラは、記録媒体と従動ローラとの間での摩擦帯電により、乾燥していないインクが従動ローラに付着してしまうといった問題があった。この従動ローラに付着したインクは、従動ローラの回転により、記録媒体の本来インクが付着すべきではない部位に付着してしまい、形成される画像の品質が低下するといった問題があった。
【0017】
このような問題を解決するために、従動ローラとして、拍車を用い、記録媒体と従動ローラとの接触部分を小さくするといった試みが行われているが、近年の画像記録速度のさらなる向上化の傾向にともない、従来の拍車では、記録媒体との接触面積が小さいため、排出ローラの駆動力を記録媒体に伝えることができず、画像記録速度を向上させるのが困難であった。
【0018】
そこで、本発明者らは、上記問題に鑑み、鋭意検討した結果、従動ローラとして円柱形状のものを用い、従動ローラの電気抵抗率を10Ωcmよりも小さくするとともに、従動ローラを接地し、さらに、電気伝導率が0.5mS/m以上である顔料インクを用いることにより、上記問題を解決することを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明のインクジェット記録装置およびこれを用いたインクジェット記録方法は、円柱形状で電気抵抗率が10Ωcmよりも小さい従動ローラを用い、かつ、当該従動ローラを接地し、さらに、電気伝導率が0.5mS/m以上である顔料インクを用いる点に特徴を有している。このような特徴により、従動ローラと記録媒体との間で静電気が発生するのを防止することができる。導電性の高い顔料インクを用いることで、例え、静電気が発生したとしても、顔料インクが静電気力で従動ローラに付着してしまうのを防止することができる。さらに、導電性の高い材料で従動ローラを構成するとともに、従動ローラを接地することで、例え、静電気が発生したとしても、接地されている従動ローラを介して静電気を逃がすことができる。この結果、顔料インクが静電気力で従動ローラに付着してしまうのを防止することができ、品質の高い画像を記録することができるとともに、画像記録速度を高速化することができる。
【0019】
本発明において、従動ローラの電気抵抗率は、10Ωcmよりも小さいものであるが、10Ωcm以上10Ωcm以下であるのがより好ましい。これにより、顔料インクが静電気力で従動ローラに付着してしまうのをさらに効果的に防止することができる。
従動ローラ52を構成する材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、カーボンをウレタン樹脂に練り込んだ導電性ウレタン樹脂を用いることが好ましい。これにより、記録媒体P上の顔料インクが従動ローラ52に付着するのをより効果的に防止することができ、より品質の高い画像を記録することができる。
【0020】
このような従動ローラ52は、回転シャフト(回転軸)6を軸として回転可能となっている。そして、従動ローラ52は、回転シャフト6を介して接地されている。従動ローラ52と回転シャフト6とは、導通が取れるよう接続されており、例えば、公知の導電性接着剤で接着されている。
付勢手段53は、従動ローラ52を排出ローラ51に向かって付勢する機能を有している。従動ローラ52を排出ローラ51に付勢することで、排出ローラ51と記録媒体Pとの間に摩擦力が生じ、この摩擦力と排出ローラ51の駆動で記録媒体Pが装置外へ排出される。
上述した説明では、従動ローラ52が接地されているものとして説明したが、排出ローラ51も接地されていてもよい。このような構成とすることにより、不本意に発生した静電気をより容易に逃がすことができる。
【0021】
《顔料インク》
次に、本発明で用いる顔料インクについて説明する。
本発明で用いる顔料インクは、電気伝導率が0.5mS/m以上のものであるが、0.5mS/m以上1.5mS/m以下であるのがより好ましい。これにより、顔料インクが静電気力で従動ローラに付着してしまうのをさらに効果的に防止することができる。
顔料インクの組成は、顔料が分散媒に分散したものであり、上記電気伝導率を備えたものであれば、特に限定されず、例えば、以下のような成分を含んでいてもよい。
【0022】
[顔料]
本実施形態の顔料インクは、色材として顔料を含んでいてもよい。
本実施形態に使用可能な顔料(顔料粒子)としては、特に制限されないが、各種公知の顔料が挙げられる。
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180等が挙げられる。
【0023】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、またはC.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0024】
シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー4、60等が挙げられる。
また、マゼンタ、シアンおよびイエロー以外の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、10、C.I.ピグメントブラウン3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63等が挙げられる。
【0025】
ブラック顔料としては、C.I.ピグメントブラック1,7等が挙げられる。
これらの顔料は、顔料表面に分散性付与基(親水性官能基およびその塩のうち少なくともいずれか)を直接的またはアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させ、分散剤なしに水性媒体中に分散または溶解する自己分散型顔料として加工され、水性媒体中に分散させた顔料分散液として、または、分散剤によって水性媒体中に分散させた顔料分散液として、顔料インクに配合させることが好ましい。分散剤の例としては、スチレン−アクリル酸共重合体樹脂などが挙げられ、その分子量が10,000以上150,000以下程度のものが、顔料を安定的に分散させる点で好ましい。
【0026】
ブラック色の自己分散型顔料の市販品として、例えば、Cabot社より異なる2種類の製品として販売されている。CAB−O−JET200(スルホン化カーボンブラック)、CAB−O−JET300(カルボキシル化カーボンブラック)(以上、キャボット社(Cabot Corporation)製商品名)、Bonjet Black CW−1(オリエント化学工業社(ORIENT CHEMICAL INDUSTRIES CO., LTD.)製商品名)等が挙げられる。
【0027】
また、これらの顔料は、インクの保存安定性を良好なものとし、かつ、ノズルの目詰まりを効果的に防止するため、その平均粒径が50nm以上250nm以下の範囲であることが好ましい。ここで、本明細書において、平均粒径とは、動的光散乱法による球換算50%平均粒径(d50)を意味し、以下のようにして得られる値である。
分散媒中の粒子に光を照射し、この分散媒の前方・側方・後方に配置された検出器によって、発生する回折散乱光を測定する。得られた測定値を利用して、本来は不定形である粒子を、球形であると仮定し、当該粒子の体積と等しい球に換算された粒子集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その際の累積値が50%となる点を、「動的光散乱法による球換算50%平均粒径(d50)」とする。上記回折散乱光の測定装置としては、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定器 LMS−2000e(セイシン企業社(SEISHIN ENTERPRISE Co.,Ltd.)製商品名)などが挙げられる。
さらに、これらの顔料は、本実施形態の顔料インクの総質量(100質量%)に対して、2質量%以上15質量%以下の範囲で含有されることが好ましい。含有量が2質量%以上であると、印字濃度が十分なものとなって発色性に優れる。また、含有量が15質量%以下であると、ノズルが目詰まりすることなく、吐出安定性にも優れる。
【0028】
[水]
本実施形態の顔料インクは、顔料の分散媒として水を含んでいてもよい。本実施形態において、水は主溶媒であり、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止して顔料インクの長期保存を可能にする点で好ましい。
【0029】
[イオン性物質]
本実施形態の顔料インクは、イオン性物質を含んでいてもよい。イオン性物質を含むことにより、顔料インクの電気伝導率を向上させることができる。その結果、記録媒体上の顔料インクが従動ローラに付着するのをより効果的に防止することができ、より品質の高い画像を記録することができる。
【0030】
イオン性物質としては、特に限定されないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン等を挙げることができる。
また、イオン性物質として、イオン性界面活性剤を用いてもよい。イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリティA−530、ポリティA−540、ポリティA−550、ポリティN−100K等(ライオン社製の製品名)、ポイズ521、ポイズ530等(花王社製の製品名)が挙げられる。
イオン性物質の含有量は、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.03質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。
【0031】
[ワックス]
本実施形態の顔料インクは、ワックスを含んでいてもよい。ワックスを含むことにより、顔料インクが従動ローラ52に付着しづらくなり、より品質の高い画像を記録することができる。
ワックスとしては、特に限定されないが、結晶性エチレン系重合体を用いるのが好ましい。これにより、記録媒体上の顔料インクが従動ローラに付着するのをさらに効果的に防止することができ、より品質の高い画像を記録することができる。
【0032】
本実施形態において、結晶性エチレン系重合体は、エチレン単独重合またはエチレン/α−オレフィン共重合体である。
ここでα−オレフィンとしては、炭素原子数3のプロペン、炭素原子数4の1−ブテン、炭素原子数5の1−ペンテン、炭素原子数6の1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、炭素原子数8の1−オクテン等が挙げられる。これらの中でも、プロペン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンであるのが好ましい。
【0033】
結晶性エチレン系重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(Mn)が400以上8,000以下の範囲にあるのが好ましく、1,000以上8,000以下の範囲にあるのがより好ましく、2,000以上5,000以下の範囲にあるのがさらに好ましい。
結晶性エチレン系重合体は、Mw/Mnが3以下であるのが好ましく、2.9以下であるのがより好ましく、2.8以下であるのがさらに好ましい。
【0034】
結晶性エチレン系重合体は、示差走査熱量計(DSC)で測定した結晶化温度(Tc(℃)、降温速度2℃/分)と密度勾配管法で測定した密度(D(kg/m))の関係が下記式(1)0.501×D−366≧Tcを満足するのが好ましく、0.501×D−366.5≧Tcを満足するのがより好ましく、0.501×D−367≧Tcを満足するのがさらに好ましい。
ワックスの含有量は、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.2質量%以上4質量%以下がより好ましい。
【0035】
[アセチレングリコール]
顔料インクは、アセチレングリコールを含んでいてもよい。アセチレングリコールは、アセチレン基を中央に持ち、左右対称の構造をした非イオン系界面活性剤で、泡立ちにくい濡れ剤として各方面の水系材料に応用されている。アセチレングリコールは、濡れ、消泡、及び分散といった機能に優れている。分子構造としても非常に安定したグリコールで、分子量も小さく、水の表面張力を下げる効果があるため、インクの被記録媒体への浸透性や滲みを適度に制御できる。
【0036】
アセチレングリコールの具体例としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。
アセチレングリコールの市販品としては、例えば、サーフィノール104(シリーズ)、420、440、465、485(以上、エアープロダクツ社(Air Products and Chemicals.Inc.)商品名)、オルフィン STG、PD−001、SPC、E1004、E1010(日信化学工業社(以上、Nissin Chemical Industry Co.,Ltd.)製商品名)、アセチレノールE00、E40、E100、LH(以上、川研ファインケミカル社(Kawaken Fine Chemicals Co.,Ltd.)製商品名)等が挙げられる。
アセチレングリコールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アセチレングリコールの含有量は、0.1質量%以上3.0質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上2.0質量%以下であるのがより好ましい。
【0037】
[不飽和脂肪酸]
顔料インクは、pH調整剤としての不飽和脂肪酸を含んでいてもよい。なお、不飽和脂肪酸は、イオン性物質としても機能する。
不飽和脂肪酸の中でも2重結合を1つ有する不飽和脂肪酸が好ましい。モノ不飽和脂肪酸としては、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸などがある。2重結合が2つ以上あると、2重結合に挟まれたメチレン水素が引き抜かれて容易に酸化されるからである。リノール酸やリノレイン酸がそれに当てはまる。2重結合が1つの不飽和脂肪酸は、メチレン水素がないため、酸化しづらい点で有利である。
【0038】
また、顔料インクとしては液体であることが好ましい。さらに、酸化に対し安定な飽和脂肪酸は常温で固体のものが多くインク中への添加には向かないものが多い。これらの特性を全て満足するものとしてオレイン酸が挙げられる。以上のことから、上記不飽和脂肪酸はオレイン酸であることが好ましい。
不飽和脂肪酸は精製されたものであってもよく、オレイン酸を主成分とするオリーブ油のような植物油であってもよい。
不飽和脂肪酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
不飽和脂肪酸の含有量は、0.05質量%以上3質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であるのがより好ましい。
【0039】
[湿潤剤]
顔料インクは、湿潤剤を含んでいてもよい。これにより、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを効果的に防止することができる。
湿潤剤として、例えば、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、数平均分子量2,000以下のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、イソブチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類、並びにグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、およびマルトトリオース等の糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸類、および尿素類等のいわゆる固体湿潤剤、並びにエタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、およびイソプロパノール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類、並びに2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、およびスルホラン等が挙げられる。
湿潤剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
湿潤剤の含有量は、顔料インクの総質量(100質量%)に対し、10質量%以上50質量%以下であるのが好ましい。
【0040】
[酸化防止剤]
顔料インクは、酸化防止剤を含んでいてもよい。
酸化防止剤(紫外線吸収剤)としては、例えば、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩、並びにランタニドの酸化物などが挙げられる。これらの市販品としては、例えば、チバガイギー社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024などが用いられる。
酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸化防止剤の含有量は、0.5質量%以下であるのが好ましい。
【0041】
[防腐剤・防黴剤]
顔料インクは、防腐剤・防黴剤を含んでいてもよい。
防腐剤・防黴剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、デヒドロ酢酸ナトリウム、3,4−イソチアゾリン−3−オン、および4,4−ジメチルオキサゾリジンが挙げられる。これらの市販品としては、例えば、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2(1,2−ベンチアゾリン−3−オン)、プロキセルTN(いずれもAvecia社製商品名)等が挙げられる。
防腐剤・防黴剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
防腐剤・防黴剤の含有量は、0.5質量%以下であるのが好ましい。
【0042】
[浸透促進剤]
顔料インクは、浸透促進剤を含んでいてもよい。
このような浸透促進剤としては、多価アルコールのアルキルエーテル(グリコールエーテル類ともいう)および1,2−アルキルジオールのうち少なくともいずれかが好ましく用いられる。多価アルコールのアルキルエーテルとしては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、およびジプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。1,2−アルキルジオールとしては、例えば1,2−ペンタンジオール、および1,2−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの他に、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、および1,8−オクタンジオール等の直鎖炭化水素のジオール類を挙げることができる。
【0043】
浸透剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
浸透剤の含有量は、3〜20質量%であるのが好ましい。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]顔料インク
表1に示すような組成の顔料インク1〜11を常法により製造し用意した。
なお、表1中、ブラック自己分散顔料(オリヱント化学工業株式会社社製、商品名「マイクロジェットCW1」)をB、イエロー自己分散顔料(キャボット社製、商品名「CAB−O−JET270Y」)をY、マゼンダ自己分散顔料(キャボット社製、商品名「CAB−O−JET260M」)をM、シアン自己分散顔料(キャボット社製、商品名「CAB−O−JET250C」)をC、ポイズ530(花王社製)をイオン性物質A、トリプロパノールアミンをイオン性物質B、水酸化カリウムをイオン性物質C、オレイン酸(東京化成工業社(Tokyo Chemical Industry Co., Ltd.)製、モノ不飽和脂肪酸)をイオン化合物D、結晶性エチレン系重合体のエマルジョン(粒径d:200nm、Tc:81℃、密度:0.9g/cm)をワックス、オルフィンE1010(日信化学工業社製)をアセチレングリコール、1,2−ヘキサンジオールを浸透促進剤A、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを浸透促進剤B、グリセリンを湿潤剤A、トリメチロールプロパンを湿潤剤B、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)を防腐剤・防黴剤A、プロキセルXL−2を防腐剤・防黴剤Bと示した。
【0045】
【表1】

【0046】
[2]画像の記録
(実施例1)
図1に示すようなインクジェット記録装置に、顔料インク1をセットした。従動ローラの材質としては、電気抵抗率が1×10Ωcmの導電性ウレタン樹脂を用いた。
その後、記録媒体としての普通紙にベタ印刷を行った。
(実施例2〜13、比較例1〜3)
表2に示す顔料インクを用い、表2に示す材質の従動ローラを用いた以外は、前記実施例1と同様にしてベタ印刷を行った。なお、比較例3については、従動ローラの接地を行わなかった。
【0047】
【表2】

【0048】
[3]評価
[従動ローラ痕の評価1]
各実施例および各比較例の記録物の、従動ローラが通過した部分のOD値と、それ以外の部分のOD値とをグレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、その差を求め、以下の基準に従って評価した。
A :差が0以上0.007未満(許容できる)。
B :差が0.007以上0.017未満(許容できる)。
C :差が0.017以上(許容できない)。
【0049】
[従動ローラ痕の評価2]
各実施例および各比較例の記録物において、従動ローラに付着したインクの痕跡があるかどうかを目視にて、以下の基準に従い評価した。評価は5人で行い、もっとも多い評価をその評価とした。
A :20cmの位置から認識できない。
B :50cmの位置から認識できない(許容できる)。
C :50cmの位置から認識できる(許容できない)。
【0050】
[従動ローラの摺擦痕の評価]
各実施例および各比較例の記録物において、従動ローラの摺擦痕があるかどうかを目視にて、以下の基準に従い評価した。評価は5人で行い、もっとも多い評価をその評価とした。
A :痕跡なし。
B :痕跡がわずかにあるが許容できる)。
C :明らかな痕跡がある(許容できない)。
これらの結果を表2に合わせて示した。
表2から明らかなように、本発明では、品質の高い画像を記録することが可能であった。また、本発明では、従動ローラが拍車ではないので高速での記録が可能である。これに対して、各比較例では、満足行く結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0051】
1…インクジェット記録装置 2…インクジェットヘッド 3…プラテン 4…記録媒体送り手段 41…駆動ローラ 42…加圧ローラ 5…記録媒体排出手段 51…排出ローラ 52…従動ローラ 53…付勢手段 6…回転シャフト P…記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の記録面にインクジェットヘッドから顔料インクを吐出して、画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記記録媒体を搬送する記録媒体送り手段と、
前記記録媒体を排出する記録媒体排出手段と、を有し、
前記記録媒体排出手段は、前記記録媒体の前記記録面とは反対側に配置された排出ローラと、前記記録媒体の前記記録面側に前記排出ローラと対向するよう配置された円柱形状の従動ローラと、を有し、
前記従動ローラは、電気抵抗率が10Ωcmよりも小さく、かつ、接地されており、
前記顔料インクの電気伝導率は、0.5mS/m以上であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記従動ローラは、導電性ウレタン樹脂を含む材料で構成されている請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記顔料インクは、ワックスを含む請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記ワックスは、結晶性エチレン系重合体を含む請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記顔料インクは、イオン性物質を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
記録媒体の記録面にインクジェットヘッドから顔料インクを吐出して、画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクジェットヘッドに前記記録媒体を搬送する記録媒体送り手段と、
前記インクジェットヘッドにより画像を記録した前記記録媒体を排出する記録媒体排出手段と、を有するインクジェット記録装置を備え、
前記記録媒体排出手段は、前記記録媒体の前記記録面とは反対側に配置された排出ローラと、前記記録媒体の前記記録面側に前記排出ローラと対向するよう配置された円柱形状の従動ローラと、を有し、
前記従動ローラは、電気抵抗率が10Ωcmよりも小さく、かつ、接地されており、
前記顔料インクの電気伝導率は、0.5mS/m以上であることを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−224466(P2012−224466A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95865(P2011−95865)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】