説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】インクジェット記録装置でテストパターンを記録する場合において、テストパターンの信頼性を損なうことなく、記録素子の吐出状態を安定させるための紙面予備吐出を行う。
【解決手段】実画像と等しい条件で記録すると、その後の補正に都合のよいテストパターンでは、紙面予備吐出を実行して吐出不良が懸念されない状態で補正を行う。その一方、パターン内に無関係なドットが記録されると、その後の補正に不具合が懸念されるテストパターンでは、紙面予備吐出を行わずにテストパターンを記録する。これにより信頼性の高いテストパターンの記録および高精度な読み取りを行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に対して複数の吐出口からインクを吐出することで記録を行うインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。詳しくは、複数の吐出口からの安定した吐出状態を維持するために、画像とは無関係な吐出を記録中の記録媒体に向けて実行する紙面予備吐出に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、画像データに応じて個々の記録素子からインクを吐出し、記録媒体に所望の画像を記録する。このようなインクジェット記録装置では、吐出口からのインクの蒸発に伴って、記録素子内のインクが増粘したり固着したりするので、吐出頻度が少ない記録素子では、必要以上に濃度の高いインクが吐出されたり正常な吐出が行えなくなったりする。増粘や固着が起きた記録素子でも数発の吐出を行えばドットの濃度や吐出状態を元に戻すことは出来る。但し、増粘や固着はインクを吐出していない時間(非吐出時間)と共に進行するので、正常な吐出に戻すために必要な吐出数も非吐出時間が長いほど増加する(図12参照)。そのため、個々の記録素子においては、ある程度の頻度で吐出を行っていることが望まれる。
【0003】
しかし、各記録素子の吐出動作は画像データに依存しているので、実画像を記録しているだけでは、全ての記録素子で所望の吐出頻度を維持することは難しい。よって、多くのインクジェット記録装置では、画像データとは無関係な吐出(いわゆる予備吐出)を適宜行うことにより、全ての記録素子で吐出状態を安定させるようにしている。
【0004】
近年では、大判印刷の普及や記録素子の小液滴化に伴い、1枚の用紙に対する記録の最中あっても、予備吐出が必要となる場合がある。この際、例えばシリアル型のインクジェット記録装置であれば、主走査のたびに、記録媒体から外れた位置にキャリッジを移動させ、予め用意されたキャップ内に向けて予備吐出を行うことが出来る。しかし、記録ヘッドが記録装置に固定されているフルライン型の記録装置では、1枚分の記録が完了するまで、記録ヘッドを記録媒体から外すことは出来ない。
【0005】
この問題に対応するため、例えば特許文献1には、フルライン型のインクジェット記録装置において、画像を記録する紙面上に目立たない程度に予備吐出を行う方法(所謂紙面予備吐)が開示されている。特許文献1の方法を採用すれば、画像記録中に予備吐出を行うことが出来るので、画像とは無関係な予備吐出のために記録時間が延長されることもなく、大判の記録媒体に迅速な記録を安定した吐出状態で行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−255480号公報
【特許文献2】特開2008−168628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクジェット記録装置では、高品位な画像出力を維持するために、任意のタイミングで様々なテストパターンを記録して、記録ヘッドの記録状態を確認するモードが設けられている。そして、テストパターンを目視で或いはセンサを用いて読み取った結果に基づいて記録データに補正をかけることにより、記録ヘッドの吐出ばらつきや記録装置の誤差に伴う画像弊害を緩和することが出来るのである。
【0008】
ところで、このようなテストパターンを記録する最中であっても、しばらく吐出していない記録素子のインクの蒸発は進行するので、テストパターン記録時においても記録素子の吐出状態が不安定にある恐れもある。よって、個々の記録素子の吐出状態を鑑みれば、テストパターンの記録最中においても、紙面予備吐出を実行することが望まれる。しかし、テストパターンの種類や目的によっては、テストパターン中に、パターンとは無関係なドットが記録されることが好ましくないものもある。テストパターン内に予備吐出による無関係なドットが存在すると、パターンから読み取るべき情報が正確に検出できず、得られた情報に従って各種の補正を行っても、画像品位が向上しない恐れが生じるからである。このように、テストパターンを記録する際には、記録素子の吐出状態を安定させながら、信頼性の高いテストパターンを記録することが難しい状態であった。そして、特許文献1においても、実画像を記録しながら紙面予備吐出を行う方法についての記載はあるが、上述したようなテストパターンを記録する際の紙面予備吐出については、なんら対応も成されていなかった。
【0009】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。よってその目的とするところは、テストパターンを記録する場合において、テストパターンの信頼性を損なうことなく、記録素子の吐出状態を安定させるための紙面予備吐出を行う方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、インクを吐出する複数の記録素子を備えた記録ヘッドを用い、入力された画像データに基づいて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置において、前記画像データと、前記複数の記録素子の吐出状態を回復するためであって前記画像データとは無関係のドットパターンを、記録媒体の同領域に記録する第1の記録モードと、前記記録ヘッドの記録状態を検査するための第1のテストパターンと、前記ドットパターンとを記録媒体の同領域に記録する第2の記録モードと、前記記録ヘッドの記録状態を検査するための、前記第1のテストパターンとは異なる第2のテストパターンを、前記ドットパターンの記録を伴わずに記録媒体に記録する第3の記録モードと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、テストパターンの種類や目的に応じて、紙面予備吐出の実行・非実行を切り替えることが出来る。よって、実画像と等しい条件で記録することが好適なパターンでは、紙面予備吐出を実行して吐出不良が懸念されない状態で補正を行うことが出来る。その一方、パターン内に無関係なドットが記録されると、その後の補正に不具合が懸念されるパターンでは、紙面予備吐出を行わずにテストパターンを記録する。これにより信頼性の高いテストパターンの記録および高精度な読み取りを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フルライン型のインクジェット記録装置の記録部の構成を示す斜視図である。
【図2】記録ヘッドの吐出口の配列構成を示す概略図である。
【図3】隣接する2つのチップにおける吐出口の配列状態を説明する拡大図である。
【図4】チップ内の吐出部の内部構成を説明するための模式図である。
【図5】画像処理に係る制御系の構成を示すブロック図である。
【図6】画像処理の工程を具体的に説明するためのフローチャートである。
【図7】画素データの吐出口列への振り分け結果を説明するための図である。
【図8】吐出口列A〜Dそれぞれの記録比率を示した図である。
【図9】吐出口列E〜Hそれぞれの記録比率を示した図である。
【図10】紙面予備吐出のためのドットパターンの一例を示す図である。
【図11】同一領域に対する記録媒体でのドットの記録状態を示す図である。
【図12】記録する画像と、紙面予備吐出のON/OFFの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施形態に係るフルライン型のインクジェット記録装置の記録部の構成を示す斜視図である。装置内に固定された長尺の記録ヘッド1〜4は、それぞれブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のインクを吐出するための記録ヘッドであり、各記録ヘッドには記録解像度に相当するピッチで複数の記録素子がx方向に配列している。図には示していないが、記録ヘッド1〜4のそれぞれには、記録ヘッドにインクを供給するためのチューブや、吐出信号などを送信するためのケーブルが接続されている。そして、個々の記録素子はケーブルを介して送信されてきたデータに従って、所定の周波数で記録媒体5に向けてインクを吐出する。
【0014】
普通紙や高品位専用紙、OHPシート、光沢紙、光沢フィルム、ハガキ等の記録媒体5は、不図示の搬送ローラや排紙ローラ等に挟持され、搬送モータの駆動に伴って、上記吐出の周波数に対応した一定の速度で、x方向とは交差するy方向に搬送される。
【0015】
記録装置が記録を行わないとき、記録ヘッド1〜4は不図示のキャップによって吐出口が密閉される。これによって、インクの増粘や固着あるいは塵埃などの異物による吐出口の目詰まりを防止することが出来る。また、非記録時には、キャップに向けて、予備吐出動作を行うことも出来る。さらに、キャップによって吐出口面を密閉した状態で、キャップ内部に不図示のポンプを用いて負圧を導入することにより、吐出口から所定量のインクを強制的に排出し、増粘したインクや泡あるいは塵埃などの異物を除去することが出来る。また、キャップの隣接位置にはブレードが配備されており、記録ヘッドの吐出口面をワイピングすることが出来る。
【0016】
図2は、記録ヘッド1〜4の1色分の吐出口の配列構成を示す概略図である。本実施形態の記録ヘッドは、同型の6つのチップC41〜C46が、図のようにy方向に交互にずれながら、x方向に吐出口が連続するように配置されている。個々のチップには、1200dpiのピッチで複数の吐出口がx方向に配列してなる吐出口列が、y方向に4列ずつ並列配置されている。
【0017】
図3は、チップC41およびC42における吐出口の配列状態を説明するための拡大図である。チップC41、チップC42ともにA〜Dの4本のノズル列を有しており、個々の吐出口列には、複数の吐出口が1200dpiのピッチでx方向に配列している。ここで、吐出口列Aと吐出口列Cは、x方向の同じ位置に吐出口が位置するように並列配置している。また、吐出口列Bと吐出口列Dも、x方向の同じ位置に吐出口が位置するように並列配置している。しかし、ノズル列AおよびCに対するノズル列BおよびDは、x方向に半ピッチずれた位置に吐出口が位置するように、並列配置されている。
【0018】
一方、チップC41とチップC42は、図のようにy方向にずれながら、吐出口がx方向に連続するように、つなぎ部を設けて配置されている。つなぎ部のx方向の幅は、2400dpiで16画素とする。また、吐出口列においてつなぎ部に含まれない領域をここでは非つなぎ部とする。以上のような配列構成は、全てのチップC41〜C46で共通である。
【0019】
このような構成のもと、記録媒体をy方向に搬送させながら各吐出口から所定の周波数でインクを吐出することにより、記録媒体にはx方向に2400dpiの解像度でドットを記録することが出来る。また、2つのチップ間につなぎ部を設けることにより、記録ヘッド上でチップの配置誤差が多少存在しても、チップ間には隙間を生じさせず、記録画像における白すじの発生を回避することが出来る。
【0020】
更に、y方向に延びる同一ラインは、非つなぎ部においては、吐出口列Aと吐出口列Cの2つの吐出口列、あるいは吐出口列Bと吐出口列Dの2つの吐出口列によってドットが記録されることになる。また、つなぎ部においては、2つのチップの吐出口列Aと吐出口列Cの計4つの吐出口列、あるいは2つのチップの吐出口列Bと吐出口列Dの計4つの吐出口列によってドットが記録されることになる。このように、y方向に延びる同一ラインに並ぶ複数のドットを、複数の吐出口(記録素子)で代わる代わる記録することにより、特定の記録素子のドットが一列に並ぶことが回避され、個々の記録素子の吐出特性のばらつきを画像上目立たなくすることが出来る。
【0021】
図4は、チップ内の吐出部の内部構成を説明するための模式図である。ここでは簡単のため、記録素子4つ分の構成要素を示している。チップ21は、主に、複数のヒータが構成されたヒータボード23と、個々のヒータに対応する位置に吐出口が形成された天板24とが張り合わされて構成されている。1つの記録素子は、記録信号に応じて発熱するヒータ22と、ヒータ22までインクを導く液路26と、ヒータ22で発生した発泡エネルギによってインクを吐出する吐出口25とで構成される。
【0022】
図5は、本実施形態のインクジェット記録装置における画像処理に係る制御系の構成を示すブロック図である。スキャナやデジタルカメラ等の画像入力機器からの多値画像データやパーソナルコンピュータのハードディスク等に保存されている多値画像データは、画像データ入力部31を介して入力される。操作部32は、記録を実行する際、ユーザが各種パラメータの設定および記録開始を指示するための各種キーを備えている。CPU33は、記憶媒体34に格納された制御プログラムに従って、記録装置全体を制御する。記憶媒体34は、上記制御プログラムのほか、対応可能な記録媒体やインクの種類に係る情報、環境温度に係る情報、あるいは画像処理を実行する際に使用する各種パラメータなどを格納している。このような記憶媒体34としては、ROM、FD、CD−ROM、HD、メモリカード、光磁気ディスクなどを用いることができる。RAM35は、記憶媒体34中の各種プログラムのワークエリア、エラー処理時の一時待避エリア、および画像処理時のワークエリアとして用いられる。また、RAM35は、記憶媒体34の中の各種テーブルをコピーした後、そのテーブルの内容を変更し、この変更したテーブルを参照しながら画像処理を進めることも可能である。
【0023】
画像データ処理部36は、画像データ入力部31から入力された多値画像データを、画像記録部の記録ヘッドによって記録可能な2値データに変換するまでの画像処理を実行する。画像記録部37は、図1を用いて説明した機構によって構成され、画像データ処理部36で作成された2値データに基づき、対応する吐出口25からインクを吐出して、記録媒体にドット画像を形成する。バスライン38は、本装置内のアドレス信号、データ、制御信号などを伝送する。
【0024】
図6は、CPU33の制御の下、画像データ処理部36が実行する画像処理の工程を具体的に説明するためのフローチャートである。例えば、8bit(256階調)で表現されるRGBの多値画像データが画像データ入力部31に入力されると、画像データ処理部36は、まずステップS101において、色変換処理を実行する。この色変換処理によって、入力されたRGBの多値画像データは、記録装置で使用するインク色CMYKに対応する多値データに変換される。このような変換処理は、例えば、入力信号RGBに対し出力信号CMYKが対応付けられるような3次元ルックアップテーブルを予め記録媒体34に用意しておき、このテーブルを参照することによって、実行することが出来る。
【0025】
続くステップS102において、画像データ処理部36は、色変換処理後のCMYKの多値データに2値化処理を施す。2値化処理法としては、誤差拡散処理を採用しても良いが、例えば多値誤差拡散処理によって256値よりも低いN値に量子化した後、所定のドットパターンを用いて2値化するなどの方法を採っても良い。
【0026】
ステップS103では、2値化処理によって、ドットの記録(1)が定められたデータのそれぞれを、吐出口列に振り分ける。個々の記録データは1画素の幅のy方向に延びるラスタ単位で管理され、ラスタの位置によってx方向の位置は決まるが、AあるいはC、BあるいはDの、どちらの吐出口列で記録するかは、所定の分配比率に従って振り分けられることによって決定される。分配比率は、2列の吐出口列で均等に50%ずつとしてもよいし、多少の偏りを持たせても良い。また、特許文献2に記載のように、記録する画像の階調に応じて分配比率を変更してもよい。いずれにしても、列分配処理S103では、記録(1)と定められた全てのデータについて、これらをいずれの吐出口列で記録するかを決定する。
【0027】
ステップS104では、列分配処理S103で吐出口列A〜Dに振り分けられた2値データのうち、つなぎ部に含まれるものを更に2つのチップに振り分ける。ここでも、2つのチップへの分配比率は均等であってもよいし、偏りを持たせても構わない。ステップS103での分配も、ステップS104での分配も分配比率を均等にすると、非つなぎ部における記録比率は各吐出口列で50%、つなぎ部における記録比率は各吐出口列で25%となる。
【0028】
図7は、ステップS103でもステップS104でも分配比率を均等にした場合の、各画素データの振り分け結果を説明するための図である。ここでは、チップC41とチップC42におけるつなぎ部と非つなぎ部の吐出口列に対し、2400dpiで配列する2値データ700のそれぞれが、いずれの吐出口列に振り分けられているかを示している。図では、チップC41の吐出口列は図3と同様にA〜Dで示しているが、チップC42の吐出口列は便宜上E〜Hとしている。
【0029】
図8は、図7のように振り分けた結果に基づいて、チップC41の吐出口列A〜Dそれぞれの記録比率を示した図である。また、図9はチップC42の吐出口列E〜Hそれぞれの記録比率を示した図である。これら図からも判るように、チップC41の非つなぎ部に相当する画素データは吐出口列A〜Dに50%ずつ振り分けられており、チップC42の非つなぎ部に相当する画素データも吐出口列E〜Hに50%ずつ振り分けられている。一方、つなぎ部に相当する画素データは、吐出口列A〜Hに25%ずつ振り分けられている。
【0030】
図では、全ての画素の2値データが1(記録)である場合、すなわち画像のデューティが100%である場合に、それぞれのデータがいずれの吐出口列で記録されるかの例を示している。しかし、実際には全ての画素の2値データが1(記録)となる訳ではなく、1(記録)を示す画素と0(非記録)を示す画素が混在している。本実施形態では、2値データが1(記録)と定められた画素が、全ての吐出口列に均等に(あるいは処理の分配率で)分配されるようになっている。
【0031】
再度6のフローチャートに戻る。ステップS105において、画像データ処理部34は記憶媒体34に予め記憶されている紙面予備吐出のためのドットパターンを読み取る。
【0032】
図10は、紙面予備吐出のためのドットパターンの一例を示す図である。紙面予備吐出のためにドットを記録する画素とそれを記録する吐出口列を、x方向(吐出口配列方向)とy方向(記録媒体搬送方向)に広がる2400dpiの画素領域で示している。チップC41やチップC42の非つなぎ部に相当する領域では、4つの吐出口列A〜DあるいはE〜Hに含まれる全吐出口が等しい周期(ここでは16画素周期)で均等に吐出出来るように、ドットが配置されている。また、チップC41とチップC42のつなぎ部に相当する領域では、8つの吐出口列A〜Hに含まれる全吐出口が等しい周期で均等に吐出出来るように、ドットが配置されている。紙面予備吐出用のドットパターンをこのようにある程度の角度を持った斜線パターンとしておくことにより、単純な罫線パターンに比べ、同時吐出のドット数を抑え、パターン自体を目立ち難くすることが出来る。また、ここでは図の簡略化のために、各吐出口が16画素周期でドットを記録する形態のパターンを示しているが、実際は数百画素程度の長い周期で吐出を行えば十分である。吐出不良が懸念されない程度すなわち正常な吐出状態が回復可能な周期であれば、なるべく長い周期で吐出動作を行う方が、紙面予備吐出のパターンを目立ち難くすることが出来るし、インクの消耗を抑えることも出来る。
【0033】
再度図6に戻る。ステップS106において、画像データ処理部36は、ステップ104で得られた2値の画像データと、ステップS105で読み込んだ紙面予備吐出のためのドットパターンとの間で論理和をとり、個々の記録素子に対する実際の吐出データを生成する。そして、このようにして得られた吐出データを、画像記録部37に送信する(ステップS107)。以上で本処理が終了する。吐出データを受信した画像記録部37は、CPU13の制御のもと記録媒体に画像を記録する。得られた画像は、入力された画像データと、紙面予備吐出用のドットパターンが同領域に記録された画像となる。
【0034】
次に本実施形態の記録装置が記録するテストパターンについて説明する。本明細書においてテストパターンとは、記録ヘッドの記録状態を検査するために実際に記録ヘッドに記録させるパターンのことを示す。本実施形態で記録する主なテストパターンとしては、例えば以下のものが挙げられる。
【0035】
まず、異なる色のインクを吐出する記録ヘッド間の吐出量のバランス(即ちカラーバランス)を検査するためのカラーシェーディングパターンがある。カラーシェーディングパターンは、各ヘッドに同値の信号を入力して一様のパターンを記録させて得られるが、他色に比べて吐出量が多いヘッドが存在する場合はそのヘッドの発色が他のヘッドよりも高くなる。そして、このようなヘッドの組み合わせでそのまま入力画像に従った記録を行うと、出力画像は吐出量の多いインク色に偏った色相となってしまう。しかし、カラーシェーディングパターンを記録し、これを読み取り、各インク色のバランスを予め確認することが出来れば、吐出量が多いインク色を抑えるように入力データを補正することにより、入力画像に忠実な色相を表現することが可能となる。
【0036】
次に、同色のインクを吐出する記録素子間の吐出量のばらつき(即ち濃度むら)を確認するためのヘッドシェーディングパターンがある。ヘッドシェーディングパターンは、所定のピッチで配列する複数の記録素子に同値の信号を入力して一様のパターンを記録させて得られるが、記録素子間に吐出量ばらつきが存在すると、そのヘッドで記録した一様な画像に濃度むらが現れる。しかし、ヘッドシェーディングパターンを読み取ることによって記録素子間の濃度むらが予め確認できれば、濃度が高い部分の記録素子の記録データを抑えたり濃度が低い部分の記録素子の記録データを上げたりして、記録ヘッド内の濃度むらを抑えることが出来る。
【0037】
また、記録ヘッド上に配列する複数のチップ間において吐出量バランスを保つため、あるいは個々のチップの吐出量を制御するために、個々のチップに印加する電圧パルスのパルス形状を調整するためのPWM補正パターンやPth補正パターンがある。これらパターンは、個々のチップの吐出量やチップ間の吐出量ばらつきを確認するためのパターンである。比較的吐出量が多くなりやすいチップが確認された場合は、当該チップに印加する電圧パルスの幅などを調整することにより、チップ間の吐出量ばらつきを均一にすることが出来る。
【0038】
また、記録ヘッドに配列する複数の記録素子のうち、吐出不能な記録素子の有無や位置を確認するための不吐補完パターンがある。不吐補完パターンによればは、記録ヘッドに配列する複数の記録素子のうち、いずれの記録素子が不吐出であるかを確認することが出来る。そして、不吐出が確認された場合は、その記録素子が記録するべきデータを他の記録素子に振り分けて記録を行うことにより、入力画像データの欠落を回避することが可能となる。
【0039】
さらに、記録ヘッドに配列する複数の記録素子の記録位置ずれを確認するためのレジ調整パターンがある。レジ調整パターンは、個々の記録素子によって記録媒体に記録されるドットのずれ量が測定できるようなパターンである。個々の記録素子のずれ量に応じて、個々の記録素子が吐出するタイミングを調整したり、吐出データを隣の記録素子にシフトしたりすることにより、白すじや黒すじの無い画像を記録することが出来る。
【0040】
以上のようなテストパターンは、記録装置着荷時や必要に応じて記録され、パターンから得られた情報は、その後画像を出力する際の画像データを補正するために適切に用いられる。
【0041】
ここで、例えば、ヘッドシェーディングパターン内に予備吐出によるドットが存在すると、個々の記録素子の濃度特性が正確に取得できず、適切なヘッドシェーディング(濃度むら補正)が行えなくなる場合がある。また、不吐補完パターンにおいて、不吐出の記録素子が記録すべき位置に予備吐出によるドットが存在すると、不吐出の記録素子の存在を検出できなくなったりする。このように、記録素子の位置(あるいはチップの位置)を限定しながら読み取りを行うパターンの場合には、パターン内に無関係なドットが記録されると、その後の補正に不都合が生じることが多い。
【0042】
一方、カラーシェーディングパターン内に、予備吐出によるドットが存在しても、このドットを含んだ状態での読み取りを行えば、カラーシェーディング自体の補正は正常に行われる。カラーシェーディングは、記録ヘッド間の吐出量バランスを整えるための補正であるので、それぞれの記録ヘッドで記録した比較的広い領域(パッチ)の平均濃度が把握できれば、記録ヘッド間の吐出量バランスを確認することは出来る。このとき、パッチを記録する際にパッチの中に紙面予備吐出が行われたとしても、実画像を記録する際と同じ条件であるから、正常な補正を行うことが出来る。
【0043】
このように、テストパターンの種類によっては、紙面予備吐出によるドットの記録が弊害になるものもあれば、ならないものもある。よって、本実施形態においては、テストパターンの記録を、紙面予備吐出を実行するものと紙面予備吐出を実行しないものの2つのモードに分類する。
【0044】
図11は、記録対称となる画像(実画像と各種テストパターン)と、紙面予備吐出の実行(ON)あるいは非実行(OFF)の関係を説明するための図である。実画像を記録する際、紙面予備吐出はONとなる。このような記録モードを、本実施形態では第1の記録モードとする。テストパターンの1つであるカラーシェーディングパターン(第1のテストパターン)を記録する際、紙面予備吐出はONとなる。このような記録モードを、本実施形態では第2の記録モードとする。更に、ヘッドシェーディングパターン、PWM補正パターン、Pth補正パターン、不吐補完パターン、レジ調整パターン(第2のテストパターン)を記録する際、紙面予備吐出はOFFとなる。このような記録モードを、本実施形態では第3の記録モードとする。
【0045】
このように、本実施形態では、実画像を記録する際の第1の記録モードのほか、紙面予備吐出を実行しながらテストパターンを記録する第2の記録モードと、紙面予備吐出を実行しない状態でテストパターンを記録する第3の記録モードを用意する。すなわち、テストパターンの種類や目的に応じて、紙面予備吐出の実行・非実行を切り替える。これにより、カラーシェーディングパターンのように、実画像と等しい条件で記録することが好適なパターンでは、紙面予備吐出を実行して吐出不良が懸念されない状態で補正を行うことが出来る。その一方、ヘッドシェーディングパターンや不吐補完パターンのように、パターン内に無関係なドットが記録されると、その後の補正に不具合が懸念されるパターンでは、紙面予備吐出を行わずにテストパターンを記録する。これにより信頼性の高いテストパターンの記録および高精度な読み取りを行うことが可能となる。
【0046】
なお、以上説明した実施形態では、1200dpiのピッチで配列するノズル列を互いに半ピッチずらした複数のノズル列を用意することにより、2400dpiの画像を記録する内容で説明したが、本発明はこのような構成に限定さるものではない。例えば、1/4ピッチずつずらしたA〜Dの4列のノズル列によって、4800dpiの画像を記録する構成であっても良い。また、吐出口列を互いにずらさない配置とし、1つのラスタをA〜Dの4列の吐出口列で記録し、1200dpiの画像を出力する形態であっても良い。無論、個々の吐出口列の配置ピッチや解像度についても上記実施形態に限定されるものではない。
【0047】
また、上記実施形態では、紙面予備吐出の必要性がより高いと思われるフルライン型のインクジェット記録装置を接に説明して来たが、本発明はシリアル型の記録装置に対しても応用することが出来る。シリアル型のインクジェット記録装置の場合、マルチパス記録を行うことによって、記録ヘッド内の吐出量ばらつきや濃度むらはある程度抑えられるが、シリアル型記録装置特有のテストパターンも必要となる。どのようなテストパターンを記録する場合であっても、紙面予備吐出によるドットの存在が、テストパターンの読み取りや補正値算出の精度を低下させるような場合には、紙面予備吐出を実行しないようにすればよい。その一方、紙面予備吐出によるドットの存在が、テストパターンの読み取りや補正値算出の精度を妨げない場合には、紙面予備吐出を実行して、実画像と同様に個々の記録素子の吐出の安定を優先させればよい。
【0048】
更に、図4では、電圧パルスをヒータに印加することによってインク中に発泡を生じさせ、泡の成長エネルギによって1ドット分のインクを吐出する仕組みのインクジェット記録ヘッドを示したが、本発明の記録ヘッドはこのような構成に限定されるものではない。例えば、ピエゾ振動素子を用いてインク滴を吐出する圧力制御方式の記録ヘッドであっても、本発明に適用可能である。
【0049】
更にまた、以上の実施形態では、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの4色のインクを用いて画像を記録するインクジェット記録装置を例に挙げたが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。より少ないインク色を用いる場合であっても、更に多くのインクを用いる場合であっても本発明に適用することは可能である。例えば、上記4色に加え、色材濃度の低いライトシアンやライトマゼンタインクを用いて画像を形成するインクジェット記録装置であっても構わない。ライトシアンやライトマゼンタインク或いはイエローインクは、他のインク色に比べて紙面予備吐出のドットパターンが目立ちにくい傾向がある。よって、これらインクに関しては、他のインク色よりも紙面予備吐出の回数を多く設定しても構わない。
【0050】
本発明は、複数の機器(たとえばホストコンピュータ、インタフェース機器、リーダ、プリンタ等)から構成されるシステムに適用しても一つの機器(たとえば複写機、ファクシミリ装置)からなる装置に適用してもよい。また、図6で説明した画像データ処理は、記録装置内で実行する場合には限られず、記録装置を制御するための外部装置(コンピュータ)において実行してもよい。この場合、外部装置において各吐出口列の2値データの決定処理(図6のステップS106)まで実行し、これら2値データを記録装置へ転送し、記録装置ではその転送データに基づいて記録を行う。従って、上述した特徴的な画像データ処理を記録装置で行う場合、その記録装置が本発明の画像処理装置を構成し、上記特徴的な画像データ処理を外部装置で行う場合、その外部装置が本発明の画像処理装置を構成することになる。
【0051】
また、記録装置と接続された外部装置(例えば、コンピュータ)に、前述の実施形態の機能を実現するソフトウェアプログラムコードを供給し、そのプログラムに従って外部装置が記録装置を制御して実施したものも本発明の範疇に含まれる。
【0052】
この場合、ソフトウェアプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現し、そのプログラムコード自体及びそのプログラムコードを外部装置(コンピュータ)に供給する手段(例えばプログラムコードを格納した記憶媒体)は本発明を構成する。
【0053】
かかるプログラムコードを格納する記憶媒体としては例えばフロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【0054】
またコンピュータが、供給されたプログラムコードを実行することで、前述の実施形態の機能が実現される場合に限らない。つまり、そのプログラムコードがコンピュータにおいて稼働しているOS、あるいは他のアプリケーションソフト等と共同して前述の実施形態の機能が実現される場合にもかかるプログラムコードは本発明の実施形態に含まれることは言うまでもない。
【0055】
さらに、供給されたプログラムコードが、コンピュータの機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに格納された後、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部または全部を行ってもよい。つまり、そのCPU等による処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も本発明に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
1〜4 記録ヘッド
5 記録媒体
33 CPU
34 記憶媒体
36 画像データ処理部
37 画像記録部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数の記録素子を備えた記録ヘッドを用い、入力された画像データに基づいて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置において、
前記画像データと、前記複数の記録素子の吐出状態を回復するためであって前記画像データとは無関係のドットパターンを、記録媒体の同領域に記録する第1の記録モードと、
前記記録ヘッドの記録状態を検査するための第1のテストパターンと、前記ドットパターンとを記録媒体の同領域に記録する第2の記録モードと、
前記記録ヘッドの記録状態を検査するための、前記第1のテストパターンとは異なる第2のテストパターンを、前記ドットパターンの記録を伴わずに記録媒体に記録する第3の記録モードと、
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第1の記録モードでは、前記画像データと前記ドットパターンとの間で論理和を取ることにより、前記記録ヘッドのための吐出データを作成することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1のテストパターンは、異なる色のインクを吐出する複数の記録ヘッドの吐出量のバランスを検査するためのパターンが含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第2のテストパターンには、前記記録ヘッドにおける同色のインクを吐出する複数の前記記録素子間の吐出量ばらつきを検査するためのテストパターンが含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第2のテストパターンには、前記記録ヘッドにおける複数の前記記録素子のうち、吐出不能な記録素子の有無や位置を検査するためのテストパターンが含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記第2のテストパターンには、前記記録ヘッドにおける複数の前記記録素子の記録媒体における記録位置のずれを検査するためのテストパターンが含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記記録ヘッドは、前記複数の記録素子が所定の方向に配列したチップの複数が、前記所定の方向と交差する方向にずれながら、前記所定の方向に前記記録素子の配列が連続するように、前記所定の方向につなぎ部を設けて配置されて構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記第2のテストパターンには、前記記録ヘッドにおける複数の前記チップ間の吐出量のバランスを検査するためのテストパターンが含まれていることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記第2のテストパターンには、前記記録ヘッドにおける複数の前記チップの吐出量を検査するためのテストパターンが含まれていることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
記録媒体を固定された前記記録ヘッドに対して一定の速度で搬送することにより、前記記録媒体に記録を行うことを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記インクジェット記録装置は、異なる色のインクを吐出する複数の記録ヘッドを用い、色材濃度が低いインクのドットパターンにおけるドットの数は、色材濃度が低いインクのドットパターンにおけるドットの数よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
インクを吐出する複数の記録素子を備えた記録ヘッドを用い、入力された画像データに基づいて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法において、
前記画像データと、前記複数の記録素子の吐出状態を回復するためであって前記画像データとは無関係のドットパターンを、記録媒体の同領域に記録する第1の記録モードと、
前記記録ヘッドの記録状態を検査するための第1のテストパターンと、前記ドットパターンとを記録媒体の同領域に記録する第2の記録モードと、
前記記録ヘッドの記録状態を検査するための、前記第1のテストパターンとは異なる第2のテストパターンを、前記ドットパターンの記録を伴わずに記録媒体に記録する第3の記録モードと、
を用意することを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−45724(P2012−45724A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187224(P2010−187224)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】