説明

インクジェット記録装置の搬送装置

【課題】シート搬送以外の他の動作中に手差しトレイよりシートが挿入されても、手差し経路の途中で詰まりを生じたり、シートを使用不能にするのを防止できるようにする。
【解決手段】手差しトレイ20の下部に後方排紙口23を設けることにより、手差し経路P1の下部に当該手差し経路P1とは異なる退避経路P3を形成している。この退避経路P3は、メンテナンス機構によるメンテナンス動作により第1搬送ローラ60が逆転した際に、逆方向に搬送されたシートの後端を逃がすように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドからインクを吐出してシートに画像記録を行うインクジェット記録装置の搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドからインクを吐出してシートに画像記録を行うインクジェット記録装置が知られている。このインクジェット記録装置では、記録ヘッドにおいて気泡やインクの詰まりが生じる場合がある。これらは、記録ヘッドからのインクの吐出に対して障害となる。このような障害を防止又は回復するために、記録ヘッドから気泡やインクを除去するパージが行われる。パージはメンテナンス機構によって実現される。
【0003】
一方、従来よりインクジェット記録装置として、給紙トレイに積載されたシートに加え、ユーザにより手差しトレイから挿入されたシートに対して画像記録を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術のインクジェット記録装置が備えた搬送装置は、手差しトレイからの用紙の搬送路と、給紙トレイからのシートの搬送路と、搬送ローラとを有しており、上記2つの搬送路が搬送ローラの手前で合流し、その下流で画像記録が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−113379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、手差しトレイを用いるのは厚紙等の特殊紙が多く、通常の用紙と比べて高価であり、また予備が少ない等、再印刷を避けることが重要となっている。
【0006】
上記従来技術のインクジェット記録装置では、手差しトレイが非使用時に装置本体に収納可能な構成となっている。一方で、手差しトレイより挿入されるシートは上述のように厚紙等の特殊紙が多いため、手差しトレイから挿入されたシートの経路(以下「手差し経路」という)の傾きは、装置本体内において水平に近い構成となっている。このため、手差し経路は、開閉可能な手差しトレイ部分と装置本体内の水平部分との間で角度が変わり、非連続となっている。
【0007】
手差しトレイを用いる場合、ユーザは任意のタイミングで手差しできるため、メンテナンス機構によってメンテナンスが実行されている最中に、シートを手差し経路に沿って搬送ローラに当接するまで差し込むことができる。このとき、搬送ローラが、他の機構、例えば上記メンテナンス機構と駆動源を共用している場合には、意図せずにシートが搬送されるおそれがある。このとき、駆動源の動作によっては搬送ローラが正転あるいは逆転し、状況によっては上記手差し経路の非連続部分に戻されたシートがぶつかり、詰まりやシートを使用不能にするおそれがあった。
【0008】
本発明の目的は、シート搬送以外の他の動作中に手差しトレイよりシートが挿入されても、手差し経路の途中で詰まりを生じたり、シートを使用不能にするのを防止することができるインクジェット記録装置の搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1発明のインクジェット記録装置の搬送装置は、手差しトレイを備えたインクジェット記録装置の搬送装置であって、シートを搬送する搬送ローラと、前記手差しトレイから挿入された前記シートの経路である手差し経路と、前記手差し経路の下部に形成された、前記手差し経路とは異なる退避経路と、を有し、前記搬送ローラは、前記シートの搬送以外の他の動作を行う動作機構と駆動源を共通とし、前記他の動作と連動しており、前記退避経路は、前記手差し経路と一部を共用し、前記動作機構による前記他の動作により前記搬送ローラが逆転した際に、前記シートの後端を逃がすように形成されていることを特徴とする。
【0010】
本願第1発明のインクジェット記録装置の搬送装置においては、搬送ローラが、シートの搬送以外の他の動作を行う動作機構と駆動源を共通とし、他の動作と連動している。このため、動作機構が他の動作を行っている最中に、ユーザがシートを手差しトレイより挿入した場合、連動する搬送ローラにより意図せずにシートが搬送されるおそれがある。このとき、駆動源の動作によっては搬送ローラが正転あるいは逆転し、状況によっては手差し経路の非連続部分に戻されたシートがぶつかり、詰まりやシートを使用不能にするおそれがある。
【0011】
本願第1発明においては、手差し経路の下部に当該手差し経路とは異なる退避経路を形成し、この退避経路が、手差し経路と一部を共用し、動作機構による他の動作により搬送ローラが逆転した際に、逆方向に搬送されたシートの後端を逃がすように形成されている。これにより、シート後端が上流側(通常搬送方向とは逆方向=手差し位置側)へ戻るように搬送ローラが動作した場合でも、シート後端を退避経路側に逃がすことができ、手差し経路の途中で詰まりを生じたり、シートを使用不能にするのを防止することができる。
【0012】
第2発明のインクジェット記録装置の搬送装置は、上記第1発明において、前記退避経路は、前記手差し経路の前記共用部分の前記搬送ローラ側に、前記シートを検出するシート検出手段を3方向から囲むように突出した搬送端部を有すると共に、裏側に給紙トレイから供給された前記シートの経路である給紙経路を形成する面を一体的に有する、メンテナンス用開放部によって構成されていることを特徴とする。
【0013】
本願第2発明においては、退避経路が、裏側に給紙経路を形成する面を一体的に有するメンテナンス用開放部によって構成されている。これにより、メンテナンス用開放部を開放することにより退避経路と給紙経路の両方を一度に開放することができ、退避経路や給紙経路で生じた詰まりを一度に解消することができる。また、メンテナンス用開放部は、シートを検出するシート検出手段を3方向から囲むように突出した搬送端部を有している。この搬送端部により、シート検出手段に対するシートの位置決めを行うことができると共に、シート後端が上流側へ戻るように搬送ローラが動作した場合に、その後端を給紙経路側でなく退避経路側に誘導することができる。
【0014】
第3発明のインクジェット記録装置の搬送装置は、上記第1又は第2発明において、前記シート検出手段は、前記手差し経路への前記シート挿入時に前記搬送ローラ側に傾動可能な接触スイッチであり、前記搬送端部は、前記接触スイッチが傾動した際に前記シートを先端部より突き出すことを特徴とする。
【0015】
本願第3発明においては、シート検出手段として、手差し経路へのシート挿入時に搬送ローラ側に傾動可能な接触スイッチを用いる。この接触スイッチは、手差しトレイより挿入されたシートの先端が接触して搬送ローラ側に傾動することでオンとなり、シートが下流側に搬送され後端が通り過ぎることにより元の姿勢に戻り、オフとなる。そして、搬送端部は、接触スイッチが傾動した際にシートを先端部より突き出す。これにより、手差しトレイよりシートが挿入されて搬送端部より搬送ローラに突き出された際に、接触スイッチによりシートを確実に検出することができる。
【0016】
第4発明のインクジェット記録装置の搬送装置は、上記第1乃至第3発明のいずれかにおいて、前記動作機構はメンテナンス機構であり、前記他の動作は、記録ヘッドに対して行うメンテナンス動作であることを特徴とする。
【0017】
インクジェット記録装置においては、記録ヘッドより気泡やインクを除去するために、メンテナンスが行われる。メンテナンスは、メンテナンス機構によって実行される。本願第4発明においては、メンテナンス機構によるメンテナンス動作により搬送ローラが逆転した際に、シートの後端を退避経路に逃がすことができる。これにより、メンテナンス中に手差しトレイよりシートが挿入されても、手差し経路の途中で詰まりを生じたり、シートを使用不能にするのを防止することができる。
【0018】
第5発明のインクジェット記録装置の搬送装置は、上記第4発明において、前記メンテナンス動作は、前記記録ヘッドのノズル面からのインク排出であることを特徴とする。
【0019】
インクジェット記録装置においては、記録ヘッドのノズル面からインクを排出するために、吸引パージが行われる。吸引パージは、メンテナンス機構によって実行される。本願第5発明においては、メンテナンス機構による吸引パージ動作により搬送ローラが逆転した際に、シートの後端を退避経路に逃がすことができる。これにより、吸引パージ中に手差しトレイよりシートが挿入されても、手差し経路の途中で詰まりを生じたり、シートを使用不能にするのを防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シート搬送以外の他の動作中に手差しトレイよりシートが挿入されても、手差し経路の途中で詰まりを生じたり、シートを使用不能にするのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態としての複合機の外観を示す斜視図である。
【図2】複合機の外観を示す背面図である。
【図3】画像読取部を開放した状態の複合機の外観を示す斜視図である。
【図4】ジャム処理カバーの詳細構造を表す、図3中A方向からの矢視図である。
【図5】プリンタ部の内部構造を模式的に示す縦断面図である。
【図6】シートセンサ近傍の構造を概念的に示す縦断面図である。
【図7】プリンタ部の内部構成を示す部分平面図である。
【図8】メンテナンスの動作手順を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1及び図2を参照しつつ、本発明のインクジェット記録装置の搬送装置の一実施形態を備えた複合機10の外観構成について説明する。なお、以下の説明においては、複合機10が使用可能に設置された状態(図1の状態)を基準として上下方向7を定義し、操作パネル121が設けられている側を手前側(正面)として前後方向8を定義し、複合機10を手前側(正面)から見て左右方向9を定義する。
【0024】
図1に示すように、複合機10は、高さ(上下方向7の長さ)に対して横幅(左右方向9の長さ)及び奥行き(前後方向8の長さ)が大きい薄型の直方体に概ね形成されている。複合機10の上部に画像読取部12、下部にインクジェット記録方式のプリンタ部11が設けられ、プリンタ部11は、正面及び背面に開口が形成されたケーシング14を有する。このケーシング14内にプリンタ部11の各構成要素が配設されている。複合機10は、ファクシミリ機能、プリンタ機能、スキャナ機能、及びコピー機能などの各種の機能を有している。なお、本実施形態では、プリンタ機能として片面画像記録機能のみ有している複合機10が説明されるが、複合機10は両面画像記録機能を有していてもよい。
【0025】
[画像読取部12の構成]
画像読取部12はプリンタ部11の上部に配設されており、スキャナ部122を備えている。スキャナ部122は、フラットベッドスキャナ(FBS:Flat Bed Scanner)及び自動原稿搬送装置(ADF:Automatic Document Feeder)として構成されているが、本発明においてスキャナ部122は、原稿に記録された画像を読み取るものであれば任意の
構成である。本明細書においては、その詳細な説明が省略される。
【0026】
[操作パネル121の構成]
複合機10の上面の前方側であって、スキャナ部122の正面側の上面には、プリンタ部11やスキャナ部122を操作するための操作パネル121が設けられている。操作パネル121は、各種操作ボタンや液晶表示部から構成されている。複合機10は、操作パネル121からの指示入力によって動作する。
【0027】
[プリンタ部11の構成]
プリンタ部11の正面の開口(不図示)からケーシング14の内部側へ連続するように収容室(不図示)が区画されている。この収容室に給紙トレイ78(後述の図5参照)が装着されている。給紙トレイ78は、正面の開口からケーシング14内に前後方向8に挿抜可能に構成されている。給紙トレイ78は、各種サイズのシートを保持可能である。なお、本実施形態では、1つの給紙トレイ78のみを装着可能な複合機10が説明されるが、複合機10は複数の給紙トレイ78を装着可能であってもよい。例えば、後述の図6に示すように、複合機10は、第1給紙トレイ78Aと、その上方で前後方向8へスライド可能な第2給紙トレイ78Bとを有していてもよい。
【0028】
プリンタ部11の背面14Aには、凹部122Bが設けられている。凹部122Bは、スキャナ部122と給紙トレイ78の間の高さに設けられており、右側面14AA、左側面14AB及び奥面14ACで構成されている。
【0029】
プリンタ部11の背面14Aには、手差しトレイ20が装置本体10Aに対して開閉可能に設けられている。ここで装置本体10Aとは、複合機10全体における手差しトレイ20以外の部分を指す。後述の図5に示すように、手差しトレイ20は、基軸21(図3参照)を回動中心軸として回転することで開閉される。図1及び図2には、手差しトレイ20が閉じられた状態が示されている。図3及び後述の図5には、手差しトレイ20が開放された状態が示されている。なお図5には、手差しトレイ20が開けられた状態が実線で、閉じられた状態が破線で示されている。手差しトレイ20には、開けられた状態において各種サイズのシートを載置可能である。一般に手差しトレイ20には、厚紙等の特殊紙が載置される。プリンタ部11の背面14Aにおいて、手差しトレイ20の基端部(下方側の端部)に対向する位置には、背面開口13が設けられている。シートは、複合機10のユーザによって、手差しトレイ20の載置面に担持されつつ、背面開口13から前方に向けてプリンタ部11内に挿入される。
【0030】
図2に示すように、手差しトレイ20には、当該手差しトレイ20と装置本体10Aとが接続される部分、具体的には、手差しトレイ20の回動中心軸である上記基軸21,21の間に、後方排紙口23が設けられている。この後方排紙口23は、手差しトレイ20から挿入されたシートの経路である手差し経路P1(後述の図5及び図6参照)と一部を共用し、メンテナンス機構180によるメンテナンス動作により後述する第1搬送ローラ60が逆転した際に、シートの後端を逃がす退避経路P3(図5及び図6参照)の出口として形成されている。
【0031】
なお、本実施形態では、上記後方排紙口23を手差しトレイ20側に凹部を形成することにより設けているが、装置本体10A側に凹部を形成して後方排紙口を設けてもよい。
【0032】
次に、図3乃至図7を参照しつつ、プリンタ部11の内部構成を詳細に説明する。なお、図5においては、給紙トレイ78の前方側(紙面右側)の図示を省略している。
【0033】
プリンタ部11は、給紙トレイ78に加えて、給紙トレイ78からシートをピックアップして給紙(給送)する給送部15と、給送部15によって給紙されたシートにインク滴を吐出してシートに画像を形成するインクジェット記録方式の記録部24などを備えている。これらがケーシング14内に設けられている。
【0034】
[搬送経路65]
プリンタ部11の内部には、給紙トレイ78及び手差しトレイ20から記録部24及び前方排紙口85を経て排紙保持部79に至る搬送経路65が形成されている。搬送経路65は、給紙トレイ78の先端(後方側の端部)から記録部24に至る間に形成された給紙経路P2と、手差しトレイ20から挿入されたシートの経路である手差し経路P1と、手差し経路P1の下部に形成された当該手差し経路P1とは異なる退避経路P3と、記録部24から前方排紙口85に至る間に形成された排紙経路65Cとに区分される。手差し経路P1と退避経路P3とはその一部を共用しており、これら手差し経路P1及び退避経路P3の先端(前方側の端部)と給紙経路P2とは、合流位置36で合流する。なお、排紙保持部79は、給紙トレイ78と一体に構成されていてもよく、或いはプリンタ部11のフレームなどに固定されたものであってもよい。
【0035】
図5に示すように、給紙経路P2は、給紙トレイ78に設けられた分離傾斜板22の上端付近から記録部24に渡って延設された湾曲状の経路である。シートは、給紙トレイ78から後方に向けて搬送される。シートは、装置の背面側において、給紙経路P2によって装置の下方から上方へUターンされる。その後、シートは、前方に向けて搬送される。給紙経路P2は、所定間隔を隔てて互いに対向する外側ガイド部材18及び内側ガイド部材19によって区画されている。なお、外側ガイド部材18は、特許請求の範囲に記載の給紙経路を形成する面に相当する。
【0036】
手差し経路P1は、給紙経路P2の上部に形成されている。シートは、複合機10のユーザによって、手差しトレイ20に担持されつつ、背面開口13から前方に向けて挿入される。この挿入されたシートは、手差し経路P1を介して、第1搬送ローラ60とピンチローラ61のニップ位置60Aに挿入される。第1搬送ローラ60は、正転及び逆転することにより、シートを順方向及び逆方向に搬送する。なお、順方向とはシートを搬送方向の下流側へ搬送させる向き(図5中二点鎖線の矢印に示す方向)をいい、逆方向とは、上記順方向と反対方向である、シートを搬送方向の上流側へ搬送させる向きをいう。また、第1搬送ローラ60は、特許請求の範囲に記載の搬送ローラに相当する。
【0037】
手差し経路P1は、所定間隔を隔てて互いに対向する第1下側ガイド部材80及び第1上側ガイド部材81によって区画されている。上述したように、手差しトレイ20より挿入されるシートは厚紙等の特殊紙が多いため、手差し経路P1の傾きは、装置本体10A内において水平に近い構成となっている。一方で、手差しトレイ20は装置本体10Aに対し開閉可能な構成である。このため、手差し経路P1は、開閉可能な手差しトレイ20部分と装置本体10A内の略水平部分との間で角度が変わり、非連続部P1Xを形成している。
【0038】
外側ガイド部材18は、給紙経路P2の複合機10背面側の壁面を構成し、第1下側ガイド部材80は、手差し経路P1及び退避経路P3の下側の壁面を構成しており、これら両壁面部はジャム処理カバー14Bの構成要素となっている。
【0039】
ジャム処理カバー14Bは、装置本体10Aの後端部に回動可能に設けられる。このジャム処理カバー14Bは、手差し経路P1に侵入した例えばクリップ・ステープラーの針等のシート以外の異物を取り込んで貯留するための異物収集部14Cを、その内部にボックス状に形成している。この異物収集部14Cは、手差し経路P1に開口し、手差し経路P1に沿って侵入した異物を取り込むように構成されている。なお、ジャム処理カバー14Bは、特許請求の範囲に記載のメンテナンス用開放部に相当する。
【0040】
また、図3及び図4に示すように、ジャム処理カバー14Bは、その第1搬送ローラ60側の端部から突出した突出部14Dを有している。図4に示すように、この突出部14Dは、上記合流位置36近傍に配置された後述するシートセンサ110を3方向から囲むように二股状に突出して設けられており、当該シートセンサ110に対するシートの位置決めを行う。これにより、シートのシートセンサ110への干渉を防止し搬送阻害を防止している。なお、突出部14Dが、特許請求の範囲に記載の搬送端部に相当する。
【0041】
また図4及び図5に示すように、上記突出部14Dの先端部は、その給紙経路P2側の面14DAは略水平に形成されているが、その手差し経路P1及び退避経路P3側の面14DBは給紙経路P2側に傾斜して形成されている。このような先端形状とした結果、後端が合流位置36の順方向下流側まで搬送されたシートが逆方向に搬送された際に、シートを退避経路P3側に誘導する機能を有している。
【0042】
さらに、突出部14Dの左右両側位置には、前記合流位置近傍におけるシートの接触面積を小さくして摩擦による搬送抵抗を低減するための凹部14Eが形成されている。
【0043】
排紙経路65Cは、記録部24よりも下流側に設けられた第2下側ガイド部材83と第3上側ガイド部材84とによって区画されている。排紙経路65Cは、第2搬送ローラ62によって搬送された画像記録済のシートの下面を支持しつつ、下流側へ案内する。第3上側ガイド部材84と第2下側ガイド部材83とは、シートが通過可能な所定間隔を隔てて互いに対向するように配置されている。
【0044】
[給送部15]
給送部15は、給紙トレイ78に収容されたシートを給紙経路P2へ向けて搬送するためのものであり、給紙ローラ25と、給紙アーム26と、給紙駆動伝達機構27とを備えている。給紙ローラ25は、給紙トレイ78の上側に配置されている。給紙ローラ25は、給紙トレイ78に収容されたシートをピックアップして給紙経路P2へ給紙するものであり、給紙アーム26の先端に回転自在に軸支されている。給紙ローラ25は、給紙用モータ(不図示)の回転力が給紙駆動伝達機構27を介して伝達されると回転駆動される。なお、給紙駆動伝達機構27は、給紙アーム26に軸支されており、概ね給紙アーム26の延出方向に沿って直線状に並ぶ複数のギヤで構成されている。給紙ローラ25は、基軸28を回動中心軸として回動し、給紙トレイ78に収容されたシートの上面に圧接可能である。
【0045】
[シートセンサ110]
図6に示すように、第1搬送ローラ60の近傍における突出部14Dの下方には、給紙トレイ78から給紙され給紙経路P2を搬送されるシート、又は、手差しトレイ20から手差し経路P1を介して挿入されるシートの有無を検出するシートセンサ110が設けられている。シートセンサ110は、回転軸部110aを中心に傾動可能な接触スイッチで構成されている。図6に示すように、手差し経路P1からのシート挿入時あるいは給紙経路P2からのシート供給時に、シートが順方向(図6中右方向)に挿入されると、シートの先端がシートセンサ110に接触し、第1搬送ローラ60側に傾斜する(図6中破線の110aに示す状態)。シートが第1搬送ローラ60とピンチローラ61とのニップ位置60Aに到達すると、シートセンサ110はその先端がシート下部に位置するまで傾斜する(図6中破線の110bに示す状態)。突出部14Dは、シートセンサ110が上記110bの状態まで傾動した際に、シートを先端部より第1搬送ローラ60側に突き出す。シートセンサ110は、上記110a及び110bに示す状態においてはONとなり、信号を制御部(図示せず)に出力し、制御部はシートが有の状態であると判断する。
【0046】
一方、シートが搬送され、シートの後端が第1搬送ローラ60とピンチローラ61とのニップ位置60Aを通り過ぎると、シートセンサ110は図示しないバネの付勢力によって元の姿勢に戻る(図6中実線の110に示す状態)。また、後述するメンテナンス機構180によるメンテナンス動作により第1搬送ローラ60が逆転し、シートが逆方向(図6中左方向)に搬送されて、シートの後端が退避経路P3に逃がされると、シートセンサ110はその先端がシート下部に位置するまで装置背面側に傾斜する(図6中破線の110cに示す状態)。シートセンサ110は、実線の110及び破線110cに示す状態においてはOFFとなり、信号を制御部(図示せず)に出力しない。その結果、制御部はシートが無の状態であると判断する。
【0047】
このシートセンサ110は、第1搬送ローラ60近傍に設けられているので、第1搬送ローラ60により順方向に搬送されているシートの検出状態が有から無に変化した場合、シートが搬送経路65における第1搬送ローラ60を超えた位置まで搬送されたとみなすことが可能である。なお、このシートセンサ110が、特許請求の範囲に記載のシート検出手段に相当する。
【0048】
[記録部24]
図7に示すように、記録部24は、記録ヘッド39を搭載してシートの搬送方向と直交する方向(主走査方向)へ往復動するキャリッジ31を備えている。記録ヘッド39には、インクカートリッジ(不図示)からインクチューブ33を通じてシアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)・ブラック(Bk)の各色インクが供給される。キャリッジ31は主走査方向に延出されたガイドレール35、36に沿って往復動する。これにより、記録ヘッド39がシートに対して走査され、記録部24の下方に設けられたプラテン34上を搬送されるシートに画像記録が行われる。
【0049】
図7に示すように、記録ヘッド39は、キャリッジ31の下面側に露出されている。記録ヘッド39のノズル面48には、複数のノズル(不図示)が設けられている。各ノズルは、CMYBkの各色インクごとに設けられている。各ノズルから各色インクが微小なインク滴として吐出される。
【0050】
図7に示すように、ガイドレール36には、端部37に沿ってリニアエンコーダのエンコーダストリップ42が配設されている。リニアエンコーダは、キャリッジ31に設けられたフォトインタラプタ43によりエンコーダストリップ42を検出する。リニアエンコーダの検出信号に基づいて、キャリッジ31の往復動が制御される。
【0051】
図5に示すように、給紙経路P2の終端と記録部24との間には、第1搬送ローラ60及びピンチローラ61が設けられている。これらは対をなしている。ピンチローラ61は、第1搬送ローラ60の下方に配置されており、図示しないバネなどの弾性部材によって第1搬送ローラ60のローラ面に圧接されている。第1搬送ローラ60及びピンチローラ61は、給紙経路P2又は手差し経路P1を搬送してきたシートを狭持してプラテン34上へ送る。また、記録部24と排紙経路65Cの始端との間には、第2搬送ローラ62及び拍車ローラ63が設けられている。これらは対をなしている。第2搬送ローラ62及び拍車ローラ63は、記録済みのシートを狭持してさらに搬送方向の下流側(前方排紙口85側)へ搬送する。
【0052】
第1搬送ローラ60及び第2搬送ローラ62は、搬送用モータ(不図示)から駆動伝達機構(不図示)を介して回転駆動力が伝達されて回転される。第1搬送ローラ60及び第2搬送ローラ62は、画像記録時に間欠駆動される。そのため、シートは、所定の改行幅で送られながら画像記録が行われる。
【0053】
[駆動伝達機構]
駆動伝達機構は、遊星ギヤなどから構成されており、搬送用モータの正転の回転駆動力を後述するポンプ(不図示)に伝達し、逆転の回転駆動力を後述するポート切換機構(不図示)に伝達する。なお、第1搬送ローラ60及び第2搬送ローラ62は、搬送用モータの正転の回転駆動力によって、シートを順方向へ搬送させる向きに回転し、搬送用モータの逆転の回転駆動力によって、シートを逆方向へ搬送させる向きに回転する。この駆動伝達機構により、第1搬送ローラ60、ポンプ、及びポート切換機構に共通の駆動源である搬送用モータを使用することが可能となっている。なお、上記搬送用モータの回転方向とポンプ又はポート切換機構への駆動伝達との対応関係は、上記と逆でもよいのは言うまでもない。また、搬送用モータが特許請求の範囲に記載の駆動源に相当する。
【0054】
[メンテナンス機構180]
図7に示すように、プラテン34の左右方向9の両側のシートが通過しない領
域、つまり記録部24の往復移動範囲における退避位置には、メンテナンス機構180が配設される。メンテナンス機構180は、パージ機構44と廃液タンク(不図示)などを備えており、排気パージや吸引パージを含むメンテナンスを実行する。
【0055】
パージ機構44は、記録ヘッド39のノズルやサブタンク(不図示)からインクと共に気泡や異物を吸引除去する。図7に示すように、パージ機構44は、記録ヘッド39のノズル面48(図5参照)を覆う吸引キャップ46と、記録ヘッド39に設けたサブタンク(不図示)の排気孔を覆う排気キャップ53と、吸引キャップ46または排気キャップ53に接続されて吸引を行うポンプ(不図示)と、吸引キャップ46および排気キャップ53を記録ヘッド39に接離させるためのリフトアップ機構などを有する。
【0056】
吸引キャップ46は、ゴムにより構成されている。吸引キャップ46は、リフトアップ機構によりノズル面48に密着する。吸引キャップ46の内部は、カラーインク(CMY)のノズルと黒インク(Bk)のノズルとに応じて2つの空間に区画されており、カラーインク及び黒インクに対応してそれぞれノズル面48との間に空間が形成される。図示されていないが、吸引キャップ46の各空間の底部には吸気口が設けられており、各吸気口は、ポート切換機構を介してポンプに接続されている。排気キャップ53もゴムにより構成されている。排気キャップ53は、記録ヘッド39の上記排気孔に密着する。
【0057】
次に、図8を用いて、メンテナンス機構180により実行されるメンテナンス動作の手順について説明する。
【0058】
まずステップS10において、制御部の制御により搬送用モータが逆転駆動され、当該駆動が駆動伝達機構によりポート切換機構に伝達されて、排気パージモードへポート切換が行われる。これにより、第1搬送ローラ60が逆転駆動し、シートが逆方向へ搬送される。
【0059】
次にステップS20において、制御部の制御により搬送用モータが正転駆動され、当該駆動が駆動伝達機構によりポンプに伝達されて、ポンプが駆動される。これにより、排気キャップ53を介して記録ヘッド39のサブタンクから気泡を吸引する排気パージが行われる。また、第1搬送ローラ60が正転駆動し、シートが順方向へ搬送される。
【0060】
次にステップS30において、制御部の制御により搬送用モータが逆転駆動され、当該駆動が駆動伝達機構によりポート切換機構に伝達されて、吸引パージモードへポート切換が行われる。これにより、第1搬送ローラ60が逆転駆動し、シートが逆方向へ搬送される。
【0061】
次にステップS40において、制御部の制御により搬送用モータが正転駆動され、当該駆動が駆動伝達機構によりポンプに伝達されて、ポンプが駆動される。これにより、吸引キャップ46を介して記録ヘッド39のノズル面48からインクを吸引する吸引パージが行われる。また、第1搬送ローラ60が正転駆動し、シートが順方向へ搬送される。
【0062】
次にステップS50において、制御部の制御により搬送用モータが逆転駆動され、当該駆動が駆動伝達機構によりポート切換機構に伝達されて、通常印刷モードへポート切換が行われる。これにより、メンテナンス動作が終了される。
【0063】
以上のように、メンテナンスの最中には、ポンプや切換機構を動作させるために、搬送用モータは正転及び逆転の両方の駆動を行うこととなり、これらの駆動は駆動伝達部により第1搬送ローラ60にも伝達されるため、第1搬送ローラ60は正転及び逆転の両方の駆動を行う。このため、メンテナンスの最中に手差しトレイ20よりシートが挿入されると、当該シートが順方向及び逆方向に搬送され、装置本体10A内を往復移動することになる。その結果、逆方向に搬送されたシートの先端が特に手差し経路P1の非連続部P1Xにおいて接触し、詰まりが生じるおそれがあるが、前述したように、手差しトレイ20と装置本体10Aとの接続部分に後方排紙口23を設けているため、退避経路P3を逆方向に搬送されたシートの先端を後方排紙口23の開口内に受け入れたり、移動量が大きい場合にはシートの先端を後方排紙口23を介して装置外に露出することも可能となる。このようにして、シートの装置本体10A内での逆方向への搬送を許容することができるので、メンテナンス動作中に手差しトレイ20よりシートが挿入されても、シートが装置内で詰まることを防止することができる。
【0064】
以上において、第1搬送ローラ60と、手差し経路P1と、退避経路P3等とが、特許請求の範囲に記載のインクジェット記録装置の搬送装置を構成する。
【0065】
[実施形態の効果]
本実施形態の複合機10においては、第1搬送ローラ60が、シートの搬送以外の他の動作であるメンテナンスを行うメンテナンス機構180と駆動源を共通としており、メンテナンス動作と連動している。このため、メンテナンス機構180がメンテナンス動作を行っている最中に、ユーザがシートを手差しトレイ20より挿入した場合、連動する第1搬送ローラ60により意図せずにシートが搬送されるおそれがある。このとき、搬送用モータの動作によっては第1搬送ローラ60が正転あるいは逆転し、状況によっては手差し経路P1の非連続部P1Xに戻されたシートがぶつかり、詰まりやシートを使用不能にするおそれがある。
【0066】
本実施形態においては、手差しトレイ20の下部に後方排紙口23を設けることにより、手差し経路P1の下部に当該手差し経路P1とは異なる退避経路P3を形成している。この退避経路P3は、メンテナンス機構180によるメンテナンス動作により第1搬送ローラ60が逆転した際に、逆方向に搬送されたシートの後端を逃がすように形成されている。これにより、シート後端が上流側へ戻るように第1搬送ローラ60が動作した場合でも、シート後端を退避経路P3側に逃がすことができ、手差し経路P1の途中で詰まりを生じたり、シートを使用不能にするのを防止することができる。
【0067】
また、本実施形態では特に、退避経路P3が、裏側に給紙経路P2を形成する外側ガイド部材18を一体的に有するジャム処理カバー14Bによって構成されている。これにより、ジャム処理カバー14Bを開放することにより退避経路P3と給紙経路P2の両方を一度に開放することができ、退避経路P3や給紙経路P2で生じた詰まりを一度に解消することができる。また、ジャム処理カバー14Bは、シートを検出するシートセンサ110を3方向から囲むように突出した突出部14Dを有している。この突出部14Dにより、シートセンサ110に対するシートの位置決めを行うことができると共に、シート後端が上流側へ戻るように第1搬送ローラ60が動作した場合に、その後端を給紙経路P2側でなく退避経路P3側に誘導することができる。
【0068】
また、本実施形態では特に、シートセンサ110として、手差し経路P1へのシート挿入時に第1搬送ローラ60側に傾動可能な接触スイッチを用いる。このシートセンサ110は、手差しトレイ20より挿入されたシートの先端が接触して第1搬送ローラ60側に傾動することでオンとなり、シートが下流側に搬送され後端が通り過ぎることにより元の姿勢に戻り、オフとなる。そして、突出部14Dは、シートセンサ110が傾動した際にシートを先端部より突き出す。これにより、手差しトレイ20よりシートが挿入されて突出部14Dより第1搬送ローラ60に突き出された際に、シートセンサ110によりシートを確実に検出することができる。
【0069】
また、本実施形態では特に、メンテナンス機構180によるメンテナンス動作により第1搬送ローラ60が逆転した際に、シートの後端を退避経路P3に逃がすことができる。これにより、メンテナンス中に手差しトレイ20よりシートが挿入されても、手差し経路P1の途中で詰まりを生じたり、シートを使用不能にするのを防止することができる。
【0070】
また、本実施形態では特に、メンテナンス機構180による吸引パージ動作により第1搬送ローラ60が逆転した際に、シートの後端を退避経路P3に逃がすことができる。これにより、吸引パージ中に手差しトレイ20よりシートが挿入されても、手差し経路P3の途中で詰まりを生じたり、シートを使用不能にするのを防止することができる。
【0071】
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0072】
10 複合機(インクジェット記録装置)
14B ジャム処理カバー(メンテナンス用開放部)
14D 突出部(搬送端部)
18 外側ガイド部材(給紙経路を形成する面)
20 手差しトレイ
39 記録ヘッド
48 ノズル面
60 第1搬送ローラ(搬送ローラ、搬送装置)
110 シートセンサ(シート検出手段)
180 メンテナンス機構(動作機構)
P1 手差し経路(搬送装置)
P2 給紙経路
P3 退避経路(搬送装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手差しトレイを備えたインクジェット記録装置の搬送装置であって、
シートを搬送する搬送ローラと、
前記手差しトレイから挿入された前記シートの経路である手差し経路と、
前記手差し経路の下部に形成された、前記手差し経路とは異なる退避経路と、を有し、
前記搬送ローラは、前記シートの搬送以外の他の動作を行う動作機構と駆動源を共通とし、前記他の動作と連動しており、
前記退避経路は、前記手差し経路と一部を共用し、前記動作機構による前記他の動作により前記搬送ローラが逆転した際に、前記シートの後端を逃がすように形成されている
ことを特徴とするインクジェット記録装置の搬送装置。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェット記録装置の搬送装置において、
前記退避経路は、
前記手差し経路の前記共用部分の前記搬送ローラ側に、前記シートを検出するシート検出手段を3方向から囲むように突出した搬送端部を有すると共に、裏側に給紙トレイから供給された前記シートの経路である給紙経路を形成する面を一体的に有する、メンテナンス用開放部によって構成されている
ことを特徴とするインクジェット記録装置の搬送装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のインクジェット記録装置の搬送装置において、
前記シート検出手段は、
前記手差し経路への前記シート挿入時に前記搬送ローラ側に傾動可能な接触スイッチであり、
前記搬送端部は、
前記接触スイッチが傾動した際に前記シートを先端部より突き出す
ことを特徴とするインクジェット記録装置の搬送装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載のインクジェット記録装置の搬送装置において、
前記動作機構はメンテナンス機構であり、前記他の動作は、記録ヘッドに対して行うメンテナンス動作である
ことを特徴とするインクジェット記録装置の搬送装置。
【請求項5】
請求項4記載のインクジェット記録装置の搬送装置において、
前記メンテナンス動作は、
前記記録ヘッドのノズル面からのインク排出である
ことを特徴とするインクジェット記録装置の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−898(P2012−898A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138772(P2010−138772)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】