インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法
【課題】 テストパターンを記録・測色してキャリブレーションを実行する必要があるかを判定するとコストや生産性の観点からユーザー負荷が高い。
【解決手段】 テストパターンを記録せずにキャリブレーションの実行の必要性を判断する。ドットカウント手段による前回キャリブレーション実行時からの増加数や、吐出速度の変化に応じてキャリブレーションの必要性を判定する、
【解決手段】 テストパターンを記録せずにキャリブレーションの実行の必要性を判断する。ドットカウント手段による前回キャリブレーション実行時からの増加数や、吐出速度の変化に応じてキャリブレーションの必要性を判定する、
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーキャリブレーション機能を有したインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録装置において、常に安定した色の出力が求められている。このため、いわゆるカラーキャリブレーション機能を有したインクジェット記録装置も多く知られている。カラーキャリブレーションとは、記録ヘッドによって記録される画像の色の変動を抑制し、常に安定状態のプリンタとして想定される基準色(ターゲット色)を記録するために行う色補正処理である。例えば、記録媒体上に測定用カラーパッチを含むテストパターンを出力し、それを測定することで記録ヘッドにより記録される画像の色に関する情報を取得する。そして、取得した情報をもとに基準色が記録されるように補正処理を行うことで、色変動を抑制する。従来、テストパターンを測定した測定値と内部で保持する基準色とのを比較し、その比較結果に基づいてカラーキャリブレーションの必要性を判定し、その判定結果をユーザーに通知するインクジェット記録装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−268832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、キャリブレーションを行うためには、テストパターンを記録するために記録媒体やインクが消費され、測定・補正のために時間がかかる。このため、コストや生産性を鑑みると、キャリブレーションを行うことはユーザーへの負担が大きいものであった。これに対し、特許文献1に記載の発明では、測色値を内部で保持する基準色と比較することによりキャリブレーションの必要性を判定する。これにより、キャリブレーションの実行回数を低減しつつ、色変動の抑制を可能としているが、キャリブレーションの必要性を判定するためのテストパターンを記録・測定するため、コストや生産性の観点からは十分な負荷低減とはなっていない。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、記録媒体やインクを消費せずにキャリブレーションの必要性を判定可能とする。これにより、ユーザーのコストや生産性を向上させつつ、キャリブレーションの実行回数を最低減に抑えつつ、色変動を抑制することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願発明は、吐出口を複数備えた記録ヘッドと記録媒体との相対走査中に前記記録媒体に対してインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置であって、前記記録ヘッドにより記録媒体に記録されたテストパターンの測定結果に基づいて、キャリブレーションを実行する実行手段と、複数の前記吐出口から吐出されるインク滴の吐出回数をカウントするカウント手段と、前記カウント手段によりカウントされた前記吐出回数に基づいて、前記実行手段による前回キャリブレーション実行時からの前記吐出回数の増加数が所定の閾値よりも大きい場合にはキャリブレーションを実行する必要があると判定する判定手段とを備え、前記判定手段は、(A)前記吐出回数の累計が第1の数の場合には前記所定の閾値を第1の値とし、(B)前記吐出回数の累計が前記第1の数よりも大きい第2の数の場合には前記所定の閾値を前記第1の値よりも大きい第2の値とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、記録媒体やインクを消費せずにキャリブレーションの必要性を判定することで、キャリブレーションの実行回数を低減してコストや生産性を向上させつつ、色変動を抑制可能なインクジェット記録装置を提供可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態におけるインクジェット記録装置の平面図
【図2】制御系の構成を示すブロック図
【図3】カラーキャリブレーションを実行フロー
【図4】カラーキャリブレーション用のテストパターンを示す図
【図5】カラーキャリブレーションを適用して印刷するフロー
【図6】実施例1におけるキャリブレーションの必要性を判断するフロー
【図7】吐出カウント閾値テーブル
【図8】前回キャリブレーション実行時での吐出回数の累計を示す図
【図9】記録ヘッドの消耗レベルの判定結果を示す図
【図10】前回キャリブレーションからの吐出回数の増加数を示す図
【図11】キャリブレーションの必要性をユーザーに通知するフロー
【図12】ユーザーに通知する画面の模式図
【図13】実施例2におけるキャリブレーションの必要性を判断するフロー
【図14】吐出速度差分閾値テーブル
【図15】インクの吐出速度を示す図
【図16】前回のキャリブレーションからの吐出速度差分を示す図
【図17】実施例3におけるキャリブレーションの必要性を判断するフロー
【図18】吐出速度検知タイミング閾値テーブル
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0010】
図1は本実施形態におけるインクジェット記録装置の平面図である。1は記録用紙(記録媒体)の搬送ユニット(図示せず)を含む各種の機構部を備えた記録装置本体である。この記録装置本体1と、これに搭載された後述の制御系とによりインクジェット記録装置が構成されている。本実施形態におけるインクジェット記録装置は、搬送系ユニットによって記録媒体をY方向(副走査方向)へと間欠的に搬送すると共に、記録ヘッド3をY方向と交差する方向であるX方向(主走査方向)へと移動させながら記録動作を行う。所謂、シリアル型のインクジェット記録装置である。また、記録装置本体1は、比較的大判の記録媒体(例えば、A0サイズ)への記録を行い得るよう、X方向におけるサイズを大型化した構成となっている。
【0011】
また、図1において、2はキャリッジを示している。このキャリッジ2には、記録ヘッド3が搭載され、記録媒体が搬送されるY方向と交差する方向に往復移動する。キャリッジ2は、X方向に沿って配置されたガイド軸4に沿って移動可能に支持されると共に、ガイド軸4と略平行に移動する無端ベルト5に固定されている。無端ベルト5は、キャリッジモータ(CRモータ)の駆動力によって往復移動し、それによってキャリッジ2をX方向(主走査方向)に往復移動させる。尚、本実施形態では、記録媒体に対して記録ヘッドが走査する形態を用いて説明するが、本発明はこれに限るものではない。例えば、固定された記録ヘッドに対して記録媒体が搬送されるような形態であってもよく、記録媒体と記録ヘッドの相対走査中に記録が行わればよい。更にキャリッジ2は、キャリッジ2を昇降させるキャリッジ昇降機構8を備える。また、キャリッジ2は、カラーパッチの測定や記録媒体の検知のためのカラーセンサ9を備える。
【0012】
また、記録ヘッド3が複数備える各吐出口からのインク吐出を良好な状態に保つために、回復処理装置を備えている。この回復処理装置は、記録装置本体1の所定の位置に保持固定されており、吸引回復機構71と、ワイピング回復機構72と、予備吐出インク受容箱73を備える。
【0013】
なお、キャリッジ2の位置は、キャリッジ2の移動に伴ってエンコーダセンサ215から出力されるパルス信号を後述の主制御部200でカウントすることにより検出される。すなわち、エンコーダセンサ215は、主走査方向に沿って配置されたエンコーダフィルム6に一定の間隔で形成された検出部を検出することによってパルス信号を主制御部200へ出力する。主制御部200はこのパルス信号をカウントすることにより、キャリッジ2の位置を検出する。キャリッジ2のホームポジションおよびその他の位置への移動は、エンコーダセンサ215からの信号に基づいて行われる。
【0014】
記録ヘッド3は、7つの記録チップから構成され、それぞれブラック(BK)、マットブラック(MBK)、シアン(C)、フォトシアン(PC)、マゼンタ(M)、フォトマゼンタ(PM)、イエロー(Y)の7色のインクを吐出可能である。
【0015】
各々の記録チップには、1200dpi(ドット/インチ)の密度で1280個の吐出口が千鳥配列に並んでおり、この千鳥配列を各々の記録チップに2列ずつ配置することで、2560個の吐出口が配列されている。記録装置全体では、合計17920個の吐出口が、主走査方向に7列、副走査方向に1200dpiの密度で2560個並び、前述した7色のインクを記録する形態である。
【0016】
さらに、記録ヘッド3には、インクを吐出口から吐出させるための吐出エネルギーを発生させるエネルギー発生素子が配置されている。本実施形態では、このエネルギー発生素子として、インクを局所的に加熱して膜沸騰を起こさせ、その圧力によってインクを吐出させる電気熱変換体を用いている。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、電気機械変換素子などの他の素子を用いることも可能である。
【0017】
図2は、本実施形態における記録装置本体1に搭載される制御系(制御手段)の構成を示すブロック図である。図2において、200は主制御部を示している。この主制御部200は、CPU201、ROM202、RAM203、入出力ポート204などを備えている。CPU201は、演算、制御、判別、設定などの処理動作を実行する。そして、ROM202は、CPU201によって実行すべき制御プログラム等を格納する。そして、RAM203は、インクの吐出/非吐出を表す2値の記録データを格納するバッファおよびCPU201による処理のワークエリア等として用いられる。入出力ポート204には、搬送ユニットにおけるキャリッジ(CR)モータ211、搬送(LF)モータ212、記録ヘッド3および回復処理装置71,72,73、キャリッジ昇降機構8等の各駆動回路205、206、207、208、209が接続される。さらに、入出力ポート204には、カラーパッチの測定や記録媒体の検出に用いるカラーセンサ9、周辺環境の温湿度を検出する温湿度センサ214やキャリッジ2に固定されたエンコーダセンサ215などのセンサ類が接続されている。また、主制御部200はインターフェース回路216を介してホストコンピュータ217に接続されている。
【0018】
次に、前述した構成を有するインクジェット記録装置によって実行される記録動作について説明する。ホストコンピュータ217からインターフェースを介して記録データを受信すると、その記録データはRAM203のバッファに展開される。そして、記録動作が指示されると、キャリッジ2は、キャリッジモータ(図示せず)および無端ベルト5により、搭載している記録ヘッド3をガイド軸4に平行に往復移動させる。同時に記録ヘッド3は吐出口(ノズル)からインクを吐出し、ノズル幅分の画像を形成する。次に記録媒体を一定量副走査方向に搬送する。この繰り返しで画像形成が行われる。
【0019】
図3は本実施形態におけるカラーキャリブレーションを実行するためのフローである。ステップS301では、カラーキャリブレーションを行う記録媒体をセットする。ステップS302では、テストパターンを測定するためのカラーセンサ9の光量調整を行う。ステップS303では、カラーキャリブレーション用の出力パッチの第1ブロックを印刷する。
【0020】
図4はカラーキャリブレーション用のテストパターン400の構成を示す図である。第1ブロックは、マットブラックインクのパッチ401、ブラックインクのパッチ402、イエローインクのパッチ403の3色のパッチからなり、色毎に13階調のパッチで構成される。ステップS304では、テストパターンの第1ブロックを、カラーセンサ9で測定する。ステップS305では、カラーキャリブレーション用のテストパターンの第2ブロックを印刷する。第2ブロックは、フォトマゼンタインクのパッチ404、マゼンタインクのパッチ405の2色からなり、色毎に13階調のパッチで構成されている。ステップS306では、この第2ブロックを、カラーセンサ9で測定する。ステップS307では、カラーキャリブレーション用のテストパターンの第3ブロックを印刷する。第3ブロックは、フォトシアンインクのパッチ406、シアンインクのパッチ407の2色からなり、色毎に13階調のパッチで構成されている。ステップS308では、この第3ブロックをカラーセンサ9で測定する。本実施形態において、カラーセンサ9は測定値としてRGB値を取得するが、CMYK値やL*a*b*値、XYZ値を取得する形態であってもよい。
【0021】
ここまでのステップで、カラーキャリブレーションに必要な出力及び測定が完了しているため、ステップS309では、記録媒体を排紙する。最後に、ステップS310において、測定結果である測定値を格納して終了する。
【0022】
図5は、前述のカラーキャリブレーションを適用して画像データを記録するフローである。まず、ステップS501において、図3のカラーキャリブレーション実行フローにおいて格納された測定結果を読み出す。ステップS502では、測定値に基づいてターゲットとなる色目標値(基準色)が出力されるように補正するための色補正用パラメータを生成する。ステップS503では、入力された画像データに対して、前記色補正用パラメータを適用して補正する。ステップS504では、補正された画像データを印刷する。以上説明したようなカラーキャリブレーションを実行・適用することで、色変動のない、常に安定した色の出力をすることが可能となる。
【0023】
次に、本実施形態の特徴構成であるキャリブレーションの必要性を判定するフローを詳細に示す。本実施形態では、前述したキャリブレーションを行うかどうかをテストパターンの印刷・測色を行わずに内部的に判定することができる。この処理は、電源ONとなった時、記録ヘッドの交換が終了した時、記録媒体を装置にセットした時、印刷ジョブが終了した時、1ページの印刷終了時などに行われる。このキャリブレーションの必要性の判定方法について、以下の例をあげて説明する。
【実施例1】
【0024】
本実施例においては、キャリブレーションの必要性を判定する手段として、記録ヘッドの全ての吐出口から吐出されるインク滴の吐出回数に関する情報を用いることを特徴とする。具体的には、インク滴の吐出回数をカウントし、前回キャリブレーション実行時にカウントされた吐出回数に基づいて、キャリブレーションの必要性を判定する。このとき、吐出回数に基づいてキャリブレーションの必要性があると判定される頻度が異なるように設定される。この吐出回数をカウントする方法としては、記録すべき画像データからカウントしてもよく、記録ヘッドに備えられた記録素子を駆動する回数でカウントしてもよく、実際に吐出口から吐出された数をカウントしてもよい。
【0025】
図6は、本実施例におけるキャリブレーションの必要性を判断するフローである。ステップS601では、前回のキャリブレーション実行時における、記録ヘッドの全吐出口から吐出されたインク滴の吐出回数の累計をインク色毎に取得する。ここで例として、取得したインク色毎の吐出回数の累計を図8(a)に示す。
【0026】
ステップS602では、図8(a)の取得した各色の吐出回数の累計と、図7に示す吐出カウント閾値テーブルとに基づいて記録ヘッドの消耗レベルを判定する。詳細は後述するが、本実施例では、前回キャリブレーション実行時の吐出回数の累計からの増加分を所定の閾値と比較することでキャリブレーションの必要性の判定を行う。このとき、記録ヘッドの吐出状態(消耗レベル)に応じて閾値を設定することで、キャリブレーションが必要かどうかを判断する精度を高くする。図7に示す吐出カウント閾値テーブルは、記録ヘッドの消耗レベルを3段階に区分し、消耗レベル毎に設定した閾値を示したテーブルである。本実施形態では、記録ヘッドの吐出が安定する前の不安定な段階である「消耗レベル1」、吐出が安定した段階である「消耗レベル2」、記録ヘッドの寿命が近付き不安定となる可能性が高い「消耗レベル3」の3つの区分を設けている。この消耗レベルについて以下に詳しく説明する。
【0027】
インクジェット記録装置に装着直後の記録ヘッドは、記録ヘッド内の電気熱変換体がインクと初めて接触した状態、所謂新品状態であり、電気熱変換体でインクを局所的に加熱して膜沸騰を発生させる吐出動作が変動しやすい傾向にある。膜沸騰を伴う吐出動作が変動すると、吐出特性の一つである吐出されるインク量も変化するため、色変動が発生しやすい。このため、インクジェット記録装置に装着直後の記録ヘッド、すなわち吐出回数の累計が比較的少ない数の区分を消耗レベル1とする。この消耗レベル1は、3段階の区分の中で後述する消耗レベル2(安定領域)に比べて閾値を小さく設定する。つまり、前回のキャリブレーションの実行後にインクを吐出した吐出回数、すなわち吐出回数の増加数に基づいて、キャリブレーションの必要が有るかどうか判定される。このとき、消耗レベル1において必要有りと判定されるまでのインク滴の吐出回数の増加数の閾値(第1の値)が、消耗レベル2における閾値(第2の値)よりも少なく設定される。これにより、吐出回数が消耗レベル1に含まれる場合、消耗レベル2に含まれる場合に比べてキャリブレーションの必要性有りと判定される頻度を高くする。なお、キャリブレーションの必要性の判定については詳細フローを後述する。
【0028】
続いて、消耗レベル2について説明する。消耗レベル2は、記録ヘッド装着直後の色変動が発生しやすい状態から電気熱変換体とインクの反応が進み、膜沸騰を発生させる吐出動作が安定してきた状態に相当する。膜沸騰を伴う吐出動作が安定すると、吐出特性の一つである吐出されるインク量も安定するため、色変動が発生しにくい。従って、消耗レベル2は、消耗レベル1及び後述の消耗レベル3のいずれよりも、前述の閾値(第2の値)を大きく設定することで、キャリブレーションの必要性有りと判定される頻度を最も低くする。
【0029】
最後に、消耗レベル3について説明する。消耗レベル3は、記録ヘッドの定格寿命が過ぎた状態に相当する。記録ヘッドは、電気熱変換体でインクを局所的に加熱して膜沸騰を発生させて吐出動作を行っている。このため、一定回数以上の吐出動作を行い、その回数が定格寿命回数を超えると、電気熱変換体の摩耗等により膜沸騰が適切に行われない状態となる場合がある。膜沸騰を伴う吐出動作が適切に行われない状態では、吐出特性の一つである吐出されるインク量が変化し、色変動が発生しやすくなる。このため、吐出動作が定格寿命回数を過ぎた記録ヘッドは消耗レベル3とする。この消耗レベル3において用いる閾値(第3の値)は、消耗レベル2において用いる閾値(第2の値)よりも小さく設定することで、消耗レベル2よりもキャリブレーションの必要性有りと判定される頻度を高くする。
【0030】
このように、記録ヘッドの消耗レベルに応じて吐出カウント閾値テーブルの閾値を設定する。消耗レベル1及び消耗レベル3のいずれよりも消耗レベル2の閾値を大きくすることで、安定状態の記録ヘッドでキャリブレーションが実行される頻度を最も低くすることが目的である。これにより、記録ヘッドの吐出特性の変化に応じた色変動の予測精度を向上させることができる。また、上述した記録ヘッドの吐出特性の変化は、電気熱変換体とインクの反応によって発生するものであり、インク色毎に変化度合が異なる場合がある。従って、本実施例においては、インク色毎に閾値を設定することで、色変動の予測精度をより高める構成とする。尚、本実施例では消耗レベルを設定したが、吐出回数の累計に基づいて、増加数を比較するための閾値を、累計が第1の数の場合には第1の値とし、第1の数よりも大きい第2の数の場合には、第1の値よりも大きい第2の値とするような形態であってもよい。同様に、累計が第2の数よりも大きい第3の数の場合には、第2の値よりも小さい第3の値とする。
図9(a)は、消耗レベルの判定結果を示した表である。PC、PM、Yのインク色が最も消耗レベルの高い「消耗レベル3」、BK、C、M、のインク色が「消耗レベル2」、MBKのインク色は最も消耗レベルの低い「消耗レベル1」である。
【0031】
次に、ステップS603では、記録ヘッドの前回のキャリブレーションからの吐出回数の増加分をインク色毎に取得する。なお、記録ヘッドが交換され、インクジェット記録装置に現在搭載されている記録ヘッドでのキャリブレーション実行履歴が無い場合には、記録ヘッド交換後からの吐出回数を増加数として取得する。
【0032】
図10(a)に、ここで取得した前回のキャリブレーションからの吐出回数の増加数を示す。ステップS604では、図10(a)に示した前回のキャリブレーションからの吐出回数の増加数を、図7の吐出カウント閾値テーブルのうち、図9(a)のように判定した記録ヘッドのインク色毎の消耗レベルに対応した各々の閾値と比較する。
本実施例では、PCの増加数が閾値以上となっているので、ステップS605に進み、キャリブレーション必要性有りと判定する。
【0033】
続いて、ステップS601で取得した吐出回数が、図8(b)に示す値であった場合について説明を行う。前述したステップS602、ステップS603と同じように、図9(b)、図10(b)を参照すると、ステップS604において、7色のインク色のすべてにおいて閾値未満となる。従って、ステップS604からステップS606へ進み、キャリブレーション必要性無しと判定する。
【0034】
尚、本実施例では、少なくとも1色の吐出回数の増加数が閾値以上であった場合、キャリブレーションの必要有りと判定するが、これに限るものではない。すなわち、所定の数以上のインク色において閾値以上であった場合や、全てのインク色において閾値以上であった場合にキャリブレーションの必要性有りと判定してもよい。
【0035】
図11は、キャリブレーションの必要性をユーザーに通知するフローである。
ステップS1101では、キャリブレーションの通知設定がONとなっているかどうかを判断する。本実施例では、キャリブレーションの必要性をユーザーに通知するかどうかの切り替えを、ユーザーが選択可能とする。通知設定がOFFの場合は、キャリブレーションの必要性の判定結果について通知を望まないユーザーであるので、キャリブレーションの必要性が有り・無しに関わらず、通知を行わずに終了する。通知設定がONの場合は、ステップS1102へと進む。
【0036】
ステップS1102では、キャリブレーションを通知するタイミングかどうかを判断する。本実施例では、電源ONをした時、記録ヘッドの交換が終了した時、記録媒体をインクジェット記録装置に装着した時、印刷jobが終了した時を、キャリブレーションを通知するタイミングとして設定する。このタイミング以外の場合には、通知を行わずに終了する。このタイミングに該当する場合には、ステップS1103へと進む。
【0037】
ステップS1103では、図6のフローで内部的に判定したキャリブレーションの必要性の結果を読み出す。キャリブレーションの必要性無しと判定された場合には、通知を行わずに終了する。キャリブレーションの必要性有りと判定された場合には、ステップS1104にて、キャリブレーションの必要性が有ることをユーザーに通知して終了する。
【0038】
なお、キャリブレーションの実行履歴と、記録ヘッドの吐出履歴から、記録ヘッドの消耗レベルに応じたキャリブレーションの必要性を判定出来る構成となっていることが重要であって、消耗レベルの判定方法は本実施例に記載の方法に限らない。つまり、ステップS601、ステップS602で説明したように、本実施例では、記録ヘッドの消耗レベルは、前回キャリブレーション実行時点での吐出回数の累計を用いて判定しているが、そのような方法に限らない。例えば、キャリブレーションの必要性を判定する時点における吐出回数の累計を取得し、その累計から記録ヘッドの消耗レベルを判定する構成としても良い。
【0039】
図12は、キャリブレーションの必要性が有ることをユーザーに通知する画面の模式図である。本実施例では、インクジェット記録装置のオペレーションパネル上に、キャリブレーションの必要性が有ることを通知する。なお、この構成以外でも、キャリブレーションの必要性が有ることをユーザーに通知出来る構成、例えばドライバ画面上に示す、ネットワークを通じてメールで通知する、といった構成にしても構わない。また、ユーザーに通知するタイミングは前述の場合に限るものではなく、例えば印刷ジョブの途中に通知する形態であってもよい。
【0040】
尚、本実施形態において、記録ヘッドの吐出回数の累計は、記録ヘッドに備えられたメモリに記憶されている。従って、記録ヘッドの使用途中に装置から外されるような場合があっても、記録ヘッドがこれまでに吐出したインク滴の数は記憶されている。また、記録ヘッドが装着されてから吐出したインク滴の数をカウントして吐出回数とする形態であってもよい。
【0041】
以上説明したように本実施例では、複数色のインクの色毎に、前回キャリブレーション実行時における吐出回数の累計に応じて記録ヘッドの消耗レベルを設定し、吐出回数の増加数と所定の閾値とを比較する。これにより、記録ヘッドの吐出が安定する前の時期は、吐出が安定する時期よりもキャリブレーションが必要だと判定される頻度が高い。さらに、記録ヘッドの寿命が近付き、吐出が安定しなくなる時期は、吐出が安定している時期よりも頻繁にキャリブレーションが必要だと判定される。尚、本実施形態において、インク滴の吐出回数をドットカウントする上で、キャリブレーションが必要だと判定される数となる間隔が短いことを頻度が高いと表現している。このような構成により、記録媒体やインクを消費することなく色変動の予測精度をより高めることができる。その結果、キャリブレーションの必要性をより正確に判断でき、キャリブレーションの実行回数を低減しつつ色変動を抑制することができる。
【実施例2】
【0042】
本実施例においては、キャリブレーションの必要性を判定する手段として、記録ヘッドから吐出されるインクの吐出速度を用いることを特徴とする。
図13は本実施例におけるキャリブレーションの必要性を内部的に判断するフローである。ステップS1301では、記録ヘッドから吐出されたインクの吐出速度を、インク色毎に取得する。吐出速度の検出方法としては、例えば、記録ヘッドから一定距離で設置された光軸上へインクを吐出し、吐出時間と光軸を通過した時間から計測する方法が挙げられる。図15(a)は、複数色のインクの色毎に取得した吐出速度の表を示している。
【0043】
ステップS1302では、色毎に、前回のキャリブレーション時に検出した吐出速度を取得し、ステップS1301で取得した吐出速度との差分を求める。なお、本実施形態では、記録ヘッドの交換時(装着時)に吐出速度を検出し、吐出速度の差分の絶対値をとる。記録ヘッドの交換がされて、インクジェット記録装置に現在搭載されている記録ヘッドでキャリブレーションの実行履歴が無い場合には、記録ヘッド交換時の吐出速度との差分を取得する。図16(a)に、前回のキャリブレーション時の吐出速度と今回取得した吐出速度との差分の絶対値を示す。
【0044】
ステップS1303では、図16(a)に示した前回のキャリブレーションからの複数色のインクの色毎の吐出速度の差分を、所定の閾値と比較する。図14は、この閾値を示した吐出速度差分閾値テーブルである。図14の吐出速度差分閾値テーブルは、インク色毎に異なる値を設定できる構成とする。これは、記録ヘッドの吐出速度の変化による色変動への影響がインクにより異なる場合があるためである。また、本実施例で用いているPCインク及びPMインクは、Cインク及びMインクに比べてそれぞれインク中に含まれる色材濃度が低いインクである。そして、低濃度インク(PC、PM)やYインクは吐出速度の変化による色変動への影響が大きいため、色変動への影響が比較的小さい高濃度インク(C、M)やBK・MBKインクに比べて低濃度インクの閾値を小さく設定する。これにより、色変動の予測精度をより高める構成となっている。本実施例では、PCの吐出速度の差分が閾値以上となっているため、ステップS1304に進み、キャリブレーション必要性有りと判定する。尚、本実施例では、吐出速度の差分の絶対値を求めて閾値と比較しているが、インクの特性や記録ヘッドの吐出特性に応じて絶対値を取らずに比較する形態を用いてもよい。
【0045】
続いて、ステップS1301で取得した吐出数が、図15(b)に示す値であった場合について説明する。前述したステップS1302と同じように、図16(b)を参照すると、ステップS1303において、7色のインクのすべてにおいて閾値未満となる。従って、ステップS1303からステップS1305へ進み、キャリブレーションの必要性無しと判定する。このように判定したキャリブレーションの必要性に基づいて、実施例1と同じように、ユーザーへキャリブレーションの通知を行う構成とする。
【0046】
以上説明したように、本実施例では、記録ヘッド吐出速度を検出して色変動の予測を行うことで、予測精度を実施例1よりも高めることができる。また、インク消費も最低限に抑制し、ユーザーの負担を最小限にとどめることが可能である。その結果、キャリブレーションの必要性をより正確に判断し、キャリブレーションの実行回数を低減しつつ、色変動を抑制することができる。
【実施例3】
【0047】
本実施例においては、前述の実施例2の構成に加え、吐出速度を検知する頻度を、記録ヘッドの消耗レベルに応じて変更することを特徴とする。本実施例におけるキャリブレーションの必要性を判断するフローを図17に示す。
ステップS1701では、前回のキャリブレーション実行時における記録ヘッドの全吐出口からの吐出回数の累計をインク色毎に取得する。次にステップS1702では、取得した各色の吐出回数の累計と、図18に示す吐出速度検知タイミング閾値テーブルとに基づいて記録ヘッドの消耗レベルを判定する。
【0048】
消耗レベルに伴う色変動の傾向は前述の実施例1と同じであり、色変動の発生しやすい消耗レベル1では、後述するステップのように、色変動の確認を行うための吐出速度検出動作を頻繁に行う。これにより、色変動の確認頻度を高くすることで、色変動の発生しやすい領域でも色変動を抑制することができる。また、色変動が起こりにくい安定領域である消耗レベル2では、色変動の確認を行うための吐出速度検出動作の頻度を低くする。また、色変動の発生しやすい消耗レベル3では、色変動の確認を行うための吐出速度検出動作を頻繁に行い、色変動の確認頻度を高くする。
【0049】
ステップS1703では、前回の吐出速度検出を行った時点からの吐出回数の増加数を、インク色毎に取得する。ステップS1704では、ステップS1703で取得した吐出回数の増加数を、図18の吐出速度検出タイミング閾値テーブルを参照し、記録ヘッドのインク色毎の消耗レベルに対応した各々の閾値と比較する。吐出回数の増加数が閾値以上となっている場合には、吐出速度検出タイミングに該当すると判定し、ステップS1705へ進む。ステップS1705では、記録ヘッドから吐出されたインクの吐出速度をインク色毎に取得する。ステップS1706では、記録ヘッドの前回のキャリブレーション時との吐出速度の差分の絶対値をインク色毎に取得する。
【0050】
ステップS1707では、ステップS1706で取得したインク色毎の吐出速度の差分の絶対値を、吐出速度差分閾値テーブルに基づいて閾値と比較する。比較の結果、吐出速度の差分が閾値以上となっている場合には、ステップS1708に進み、キャリブレーション必要性有りと判定する。閾値未満となっている場合には、ステップS1709に進み、キャリブレーション必要性無しと判定する。なお、ステップS1704において、7色のインク色のすべてにおいて閾値未満となる場合には、吐出速度検出タイミングに該当しないと判定し、終了する。
【0051】
このように本実施例においては、前述の実施例2の構成に加えて、吐出速度を検出する頻度を記録ヘッドの消耗レベルに応じて変更する構成とする。これにより、無駄な吐出速度検出動作を省略することができる。その結果、実施例2の効果に加えて、ユーザーへの負担を更に低減することができる。
【0052】
また、本実施例ではステップS1704で吐出回数の増加数が閾値を超えていた場合に、ステップS1705〜ステップS1707の吐出速度に基づく判定を行ったが、本発明はこれに限るものではない。例えば、ステップS1704で閾値を超えていた場合にはキャリブレーションの必要性有りと判定し、閾値を超えていない場合にステップS1705〜ステップS1707の吐出速度に基づく判定を行ってもよい。このとき、吐出回数による判定と吐出速度による判定のうち、少なくとも一方でキャリブレーションの必要性有りと判定された場合にユーザーに通知することになり、前述した構成よりもキャリブレーションの頻度が高くなる。
【0053】
また、前述の実施形態では、キャリブレーションの必要性有りと判定した場合、ユーザーに通知する構成としたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、自動でテストパターンを印刷・測色し、キャリブレーションを行うに判定する第2の判定手段をさらに備えてもよい。また、キャリブレーションの必要性有りと判定後、テストパターンを印刷し、測色した測定結果に基づいてキャリブレーションを行うかどうかを再判定するような形態であってもよい。
【0054】
さらに、前述の実施形態では、上述のフローをインクジェット記録装置の主制御部200で行う形態について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば記録装置に接続されたホストコンピュータ217でこれらの処理を行うシステムであってもよい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーキャリブレーション機能を有したインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録装置において、常に安定した色の出力が求められている。このため、いわゆるカラーキャリブレーション機能を有したインクジェット記録装置も多く知られている。カラーキャリブレーションとは、記録ヘッドによって記録される画像の色の変動を抑制し、常に安定状態のプリンタとして想定される基準色(ターゲット色)を記録するために行う色補正処理である。例えば、記録媒体上に測定用カラーパッチを含むテストパターンを出力し、それを測定することで記録ヘッドにより記録される画像の色に関する情報を取得する。そして、取得した情報をもとに基準色が記録されるように補正処理を行うことで、色変動を抑制する。従来、テストパターンを測定した測定値と内部で保持する基準色とのを比較し、その比較結果に基づいてカラーキャリブレーションの必要性を判定し、その判定結果をユーザーに通知するインクジェット記録装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−268832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、キャリブレーションを行うためには、テストパターンを記録するために記録媒体やインクが消費され、測定・補正のために時間がかかる。このため、コストや生産性を鑑みると、キャリブレーションを行うことはユーザーへの負担が大きいものであった。これに対し、特許文献1に記載の発明では、測色値を内部で保持する基準色と比較することによりキャリブレーションの必要性を判定する。これにより、キャリブレーションの実行回数を低減しつつ、色変動の抑制を可能としているが、キャリブレーションの必要性を判定するためのテストパターンを記録・測定するため、コストや生産性の観点からは十分な負荷低減とはなっていない。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、記録媒体やインクを消費せずにキャリブレーションの必要性を判定可能とする。これにより、ユーザーのコストや生産性を向上させつつ、キャリブレーションの実行回数を最低減に抑えつつ、色変動を抑制することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願発明は、吐出口を複数備えた記録ヘッドと記録媒体との相対走査中に前記記録媒体に対してインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置であって、前記記録ヘッドにより記録媒体に記録されたテストパターンの測定結果に基づいて、キャリブレーションを実行する実行手段と、複数の前記吐出口から吐出されるインク滴の吐出回数をカウントするカウント手段と、前記カウント手段によりカウントされた前記吐出回数に基づいて、前記実行手段による前回キャリブレーション実行時からの前記吐出回数の増加数が所定の閾値よりも大きい場合にはキャリブレーションを実行する必要があると判定する判定手段とを備え、前記判定手段は、(A)前記吐出回数の累計が第1の数の場合には前記所定の閾値を第1の値とし、(B)前記吐出回数の累計が前記第1の数よりも大きい第2の数の場合には前記所定の閾値を前記第1の値よりも大きい第2の値とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、記録媒体やインクを消費せずにキャリブレーションの必要性を判定することで、キャリブレーションの実行回数を低減してコストや生産性を向上させつつ、色変動を抑制可能なインクジェット記録装置を提供可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態におけるインクジェット記録装置の平面図
【図2】制御系の構成を示すブロック図
【図3】カラーキャリブレーションを実行フロー
【図4】カラーキャリブレーション用のテストパターンを示す図
【図5】カラーキャリブレーションを適用して印刷するフロー
【図6】実施例1におけるキャリブレーションの必要性を判断するフロー
【図7】吐出カウント閾値テーブル
【図8】前回キャリブレーション実行時での吐出回数の累計を示す図
【図9】記録ヘッドの消耗レベルの判定結果を示す図
【図10】前回キャリブレーションからの吐出回数の増加数を示す図
【図11】キャリブレーションの必要性をユーザーに通知するフロー
【図12】ユーザーに通知する画面の模式図
【図13】実施例2におけるキャリブレーションの必要性を判断するフロー
【図14】吐出速度差分閾値テーブル
【図15】インクの吐出速度を示す図
【図16】前回のキャリブレーションからの吐出速度差分を示す図
【図17】実施例3におけるキャリブレーションの必要性を判断するフロー
【図18】吐出速度検知タイミング閾値テーブル
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0010】
図1は本実施形態におけるインクジェット記録装置の平面図である。1は記録用紙(記録媒体)の搬送ユニット(図示せず)を含む各種の機構部を備えた記録装置本体である。この記録装置本体1と、これに搭載された後述の制御系とによりインクジェット記録装置が構成されている。本実施形態におけるインクジェット記録装置は、搬送系ユニットによって記録媒体をY方向(副走査方向)へと間欠的に搬送すると共に、記録ヘッド3をY方向と交差する方向であるX方向(主走査方向)へと移動させながら記録動作を行う。所謂、シリアル型のインクジェット記録装置である。また、記録装置本体1は、比較的大判の記録媒体(例えば、A0サイズ)への記録を行い得るよう、X方向におけるサイズを大型化した構成となっている。
【0011】
また、図1において、2はキャリッジを示している。このキャリッジ2には、記録ヘッド3が搭載され、記録媒体が搬送されるY方向と交差する方向に往復移動する。キャリッジ2は、X方向に沿って配置されたガイド軸4に沿って移動可能に支持されると共に、ガイド軸4と略平行に移動する無端ベルト5に固定されている。無端ベルト5は、キャリッジモータ(CRモータ)の駆動力によって往復移動し、それによってキャリッジ2をX方向(主走査方向)に往復移動させる。尚、本実施形態では、記録媒体に対して記録ヘッドが走査する形態を用いて説明するが、本発明はこれに限るものではない。例えば、固定された記録ヘッドに対して記録媒体が搬送されるような形態であってもよく、記録媒体と記録ヘッドの相対走査中に記録が行わればよい。更にキャリッジ2は、キャリッジ2を昇降させるキャリッジ昇降機構8を備える。また、キャリッジ2は、カラーパッチの測定や記録媒体の検知のためのカラーセンサ9を備える。
【0012】
また、記録ヘッド3が複数備える各吐出口からのインク吐出を良好な状態に保つために、回復処理装置を備えている。この回復処理装置は、記録装置本体1の所定の位置に保持固定されており、吸引回復機構71と、ワイピング回復機構72と、予備吐出インク受容箱73を備える。
【0013】
なお、キャリッジ2の位置は、キャリッジ2の移動に伴ってエンコーダセンサ215から出力されるパルス信号を後述の主制御部200でカウントすることにより検出される。すなわち、エンコーダセンサ215は、主走査方向に沿って配置されたエンコーダフィルム6に一定の間隔で形成された検出部を検出することによってパルス信号を主制御部200へ出力する。主制御部200はこのパルス信号をカウントすることにより、キャリッジ2の位置を検出する。キャリッジ2のホームポジションおよびその他の位置への移動は、エンコーダセンサ215からの信号に基づいて行われる。
【0014】
記録ヘッド3は、7つの記録チップから構成され、それぞれブラック(BK)、マットブラック(MBK)、シアン(C)、フォトシアン(PC)、マゼンタ(M)、フォトマゼンタ(PM)、イエロー(Y)の7色のインクを吐出可能である。
【0015】
各々の記録チップには、1200dpi(ドット/インチ)の密度で1280個の吐出口が千鳥配列に並んでおり、この千鳥配列を各々の記録チップに2列ずつ配置することで、2560個の吐出口が配列されている。記録装置全体では、合計17920個の吐出口が、主走査方向に7列、副走査方向に1200dpiの密度で2560個並び、前述した7色のインクを記録する形態である。
【0016】
さらに、記録ヘッド3には、インクを吐出口から吐出させるための吐出エネルギーを発生させるエネルギー発生素子が配置されている。本実施形態では、このエネルギー発生素子として、インクを局所的に加熱して膜沸騰を起こさせ、その圧力によってインクを吐出させる電気熱変換体を用いている。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、電気機械変換素子などの他の素子を用いることも可能である。
【0017】
図2は、本実施形態における記録装置本体1に搭載される制御系(制御手段)の構成を示すブロック図である。図2において、200は主制御部を示している。この主制御部200は、CPU201、ROM202、RAM203、入出力ポート204などを備えている。CPU201は、演算、制御、判別、設定などの処理動作を実行する。そして、ROM202は、CPU201によって実行すべき制御プログラム等を格納する。そして、RAM203は、インクの吐出/非吐出を表す2値の記録データを格納するバッファおよびCPU201による処理のワークエリア等として用いられる。入出力ポート204には、搬送ユニットにおけるキャリッジ(CR)モータ211、搬送(LF)モータ212、記録ヘッド3および回復処理装置71,72,73、キャリッジ昇降機構8等の各駆動回路205、206、207、208、209が接続される。さらに、入出力ポート204には、カラーパッチの測定や記録媒体の検出に用いるカラーセンサ9、周辺環境の温湿度を検出する温湿度センサ214やキャリッジ2に固定されたエンコーダセンサ215などのセンサ類が接続されている。また、主制御部200はインターフェース回路216を介してホストコンピュータ217に接続されている。
【0018】
次に、前述した構成を有するインクジェット記録装置によって実行される記録動作について説明する。ホストコンピュータ217からインターフェースを介して記録データを受信すると、その記録データはRAM203のバッファに展開される。そして、記録動作が指示されると、キャリッジ2は、キャリッジモータ(図示せず)および無端ベルト5により、搭載している記録ヘッド3をガイド軸4に平行に往復移動させる。同時に記録ヘッド3は吐出口(ノズル)からインクを吐出し、ノズル幅分の画像を形成する。次に記録媒体を一定量副走査方向に搬送する。この繰り返しで画像形成が行われる。
【0019】
図3は本実施形態におけるカラーキャリブレーションを実行するためのフローである。ステップS301では、カラーキャリブレーションを行う記録媒体をセットする。ステップS302では、テストパターンを測定するためのカラーセンサ9の光量調整を行う。ステップS303では、カラーキャリブレーション用の出力パッチの第1ブロックを印刷する。
【0020】
図4はカラーキャリブレーション用のテストパターン400の構成を示す図である。第1ブロックは、マットブラックインクのパッチ401、ブラックインクのパッチ402、イエローインクのパッチ403の3色のパッチからなり、色毎に13階調のパッチで構成される。ステップS304では、テストパターンの第1ブロックを、カラーセンサ9で測定する。ステップS305では、カラーキャリブレーション用のテストパターンの第2ブロックを印刷する。第2ブロックは、フォトマゼンタインクのパッチ404、マゼンタインクのパッチ405の2色からなり、色毎に13階調のパッチで構成されている。ステップS306では、この第2ブロックを、カラーセンサ9で測定する。ステップS307では、カラーキャリブレーション用のテストパターンの第3ブロックを印刷する。第3ブロックは、フォトシアンインクのパッチ406、シアンインクのパッチ407の2色からなり、色毎に13階調のパッチで構成されている。ステップS308では、この第3ブロックをカラーセンサ9で測定する。本実施形態において、カラーセンサ9は測定値としてRGB値を取得するが、CMYK値やL*a*b*値、XYZ値を取得する形態であってもよい。
【0021】
ここまでのステップで、カラーキャリブレーションに必要な出力及び測定が完了しているため、ステップS309では、記録媒体を排紙する。最後に、ステップS310において、測定結果である測定値を格納して終了する。
【0022】
図5は、前述のカラーキャリブレーションを適用して画像データを記録するフローである。まず、ステップS501において、図3のカラーキャリブレーション実行フローにおいて格納された測定結果を読み出す。ステップS502では、測定値に基づいてターゲットとなる色目標値(基準色)が出力されるように補正するための色補正用パラメータを生成する。ステップS503では、入力された画像データに対して、前記色補正用パラメータを適用して補正する。ステップS504では、補正された画像データを印刷する。以上説明したようなカラーキャリブレーションを実行・適用することで、色変動のない、常に安定した色の出力をすることが可能となる。
【0023】
次に、本実施形態の特徴構成であるキャリブレーションの必要性を判定するフローを詳細に示す。本実施形態では、前述したキャリブレーションを行うかどうかをテストパターンの印刷・測色を行わずに内部的に判定することができる。この処理は、電源ONとなった時、記録ヘッドの交換が終了した時、記録媒体を装置にセットした時、印刷ジョブが終了した時、1ページの印刷終了時などに行われる。このキャリブレーションの必要性の判定方法について、以下の例をあげて説明する。
【実施例1】
【0024】
本実施例においては、キャリブレーションの必要性を判定する手段として、記録ヘッドの全ての吐出口から吐出されるインク滴の吐出回数に関する情報を用いることを特徴とする。具体的には、インク滴の吐出回数をカウントし、前回キャリブレーション実行時にカウントされた吐出回数に基づいて、キャリブレーションの必要性を判定する。このとき、吐出回数に基づいてキャリブレーションの必要性があると判定される頻度が異なるように設定される。この吐出回数をカウントする方法としては、記録すべき画像データからカウントしてもよく、記録ヘッドに備えられた記録素子を駆動する回数でカウントしてもよく、実際に吐出口から吐出された数をカウントしてもよい。
【0025】
図6は、本実施例におけるキャリブレーションの必要性を判断するフローである。ステップS601では、前回のキャリブレーション実行時における、記録ヘッドの全吐出口から吐出されたインク滴の吐出回数の累計をインク色毎に取得する。ここで例として、取得したインク色毎の吐出回数の累計を図8(a)に示す。
【0026】
ステップS602では、図8(a)の取得した各色の吐出回数の累計と、図7に示す吐出カウント閾値テーブルとに基づいて記録ヘッドの消耗レベルを判定する。詳細は後述するが、本実施例では、前回キャリブレーション実行時の吐出回数の累計からの増加分を所定の閾値と比較することでキャリブレーションの必要性の判定を行う。このとき、記録ヘッドの吐出状態(消耗レベル)に応じて閾値を設定することで、キャリブレーションが必要かどうかを判断する精度を高くする。図7に示す吐出カウント閾値テーブルは、記録ヘッドの消耗レベルを3段階に区分し、消耗レベル毎に設定した閾値を示したテーブルである。本実施形態では、記録ヘッドの吐出が安定する前の不安定な段階である「消耗レベル1」、吐出が安定した段階である「消耗レベル2」、記録ヘッドの寿命が近付き不安定となる可能性が高い「消耗レベル3」の3つの区分を設けている。この消耗レベルについて以下に詳しく説明する。
【0027】
インクジェット記録装置に装着直後の記録ヘッドは、記録ヘッド内の電気熱変換体がインクと初めて接触した状態、所謂新品状態であり、電気熱変換体でインクを局所的に加熱して膜沸騰を発生させる吐出動作が変動しやすい傾向にある。膜沸騰を伴う吐出動作が変動すると、吐出特性の一つである吐出されるインク量も変化するため、色変動が発生しやすい。このため、インクジェット記録装置に装着直後の記録ヘッド、すなわち吐出回数の累計が比較的少ない数の区分を消耗レベル1とする。この消耗レベル1は、3段階の区分の中で後述する消耗レベル2(安定領域)に比べて閾値を小さく設定する。つまり、前回のキャリブレーションの実行後にインクを吐出した吐出回数、すなわち吐出回数の増加数に基づいて、キャリブレーションの必要が有るかどうか判定される。このとき、消耗レベル1において必要有りと判定されるまでのインク滴の吐出回数の増加数の閾値(第1の値)が、消耗レベル2における閾値(第2の値)よりも少なく設定される。これにより、吐出回数が消耗レベル1に含まれる場合、消耗レベル2に含まれる場合に比べてキャリブレーションの必要性有りと判定される頻度を高くする。なお、キャリブレーションの必要性の判定については詳細フローを後述する。
【0028】
続いて、消耗レベル2について説明する。消耗レベル2は、記録ヘッド装着直後の色変動が発生しやすい状態から電気熱変換体とインクの反応が進み、膜沸騰を発生させる吐出動作が安定してきた状態に相当する。膜沸騰を伴う吐出動作が安定すると、吐出特性の一つである吐出されるインク量も安定するため、色変動が発生しにくい。従って、消耗レベル2は、消耗レベル1及び後述の消耗レベル3のいずれよりも、前述の閾値(第2の値)を大きく設定することで、キャリブレーションの必要性有りと判定される頻度を最も低くする。
【0029】
最後に、消耗レベル3について説明する。消耗レベル3は、記録ヘッドの定格寿命が過ぎた状態に相当する。記録ヘッドは、電気熱変換体でインクを局所的に加熱して膜沸騰を発生させて吐出動作を行っている。このため、一定回数以上の吐出動作を行い、その回数が定格寿命回数を超えると、電気熱変換体の摩耗等により膜沸騰が適切に行われない状態となる場合がある。膜沸騰を伴う吐出動作が適切に行われない状態では、吐出特性の一つである吐出されるインク量が変化し、色変動が発生しやすくなる。このため、吐出動作が定格寿命回数を過ぎた記録ヘッドは消耗レベル3とする。この消耗レベル3において用いる閾値(第3の値)は、消耗レベル2において用いる閾値(第2の値)よりも小さく設定することで、消耗レベル2よりもキャリブレーションの必要性有りと判定される頻度を高くする。
【0030】
このように、記録ヘッドの消耗レベルに応じて吐出カウント閾値テーブルの閾値を設定する。消耗レベル1及び消耗レベル3のいずれよりも消耗レベル2の閾値を大きくすることで、安定状態の記録ヘッドでキャリブレーションが実行される頻度を最も低くすることが目的である。これにより、記録ヘッドの吐出特性の変化に応じた色変動の予測精度を向上させることができる。また、上述した記録ヘッドの吐出特性の変化は、電気熱変換体とインクの反応によって発生するものであり、インク色毎に変化度合が異なる場合がある。従って、本実施例においては、インク色毎に閾値を設定することで、色変動の予測精度をより高める構成とする。尚、本実施例では消耗レベルを設定したが、吐出回数の累計に基づいて、増加数を比較するための閾値を、累計が第1の数の場合には第1の値とし、第1の数よりも大きい第2の数の場合には、第1の値よりも大きい第2の値とするような形態であってもよい。同様に、累計が第2の数よりも大きい第3の数の場合には、第2の値よりも小さい第3の値とする。
図9(a)は、消耗レベルの判定結果を示した表である。PC、PM、Yのインク色が最も消耗レベルの高い「消耗レベル3」、BK、C、M、のインク色が「消耗レベル2」、MBKのインク色は最も消耗レベルの低い「消耗レベル1」である。
【0031】
次に、ステップS603では、記録ヘッドの前回のキャリブレーションからの吐出回数の増加分をインク色毎に取得する。なお、記録ヘッドが交換され、インクジェット記録装置に現在搭載されている記録ヘッドでのキャリブレーション実行履歴が無い場合には、記録ヘッド交換後からの吐出回数を増加数として取得する。
【0032】
図10(a)に、ここで取得した前回のキャリブレーションからの吐出回数の増加数を示す。ステップS604では、図10(a)に示した前回のキャリブレーションからの吐出回数の増加数を、図7の吐出カウント閾値テーブルのうち、図9(a)のように判定した記録ヘッドのインク色毎の消耗レベルに対応した各々の閾値と比較する。
本実施例では、PCの増加数が閾値以上となっているので、ステップS605に進み、キャリブレーション必要性有りと判定する。
【0033】
続いて、ステップS601で取得した吐出回数が、図8(b)に示す値であった場合について説明を行う。前述したステップS602、ステップS603と同じように、図9(b)、図10(b)を参照すると、ステップS604において、7色のインク色のすべてにおいて閾値未満となる。従って、ステップS604からステップS606へ進み、キャリブレーション必要性無しと判定する。
【0034】
尚、本実施例では、少なくとも1色の吐出回数の増加数が閾値以上であった場合、キャリブレーションの必要有りと判定するが、これに限るものではない。すなわち、所定の数以上のインク色において閾値以上であった場合や、全てのインク色において閾値以上であった場合にキャリブレーションの必要性有りと判定してもよい。
【0035】
図11は、キャリブレーションの必要性をユーザーに通知するフローである。
ステップS1101では、キャリブレーションの通知設定がONとなっているかどうかを判断する。本実施例では、キャリブレーションの必要性をユーザーに通知するかどうかの切り替えを、ユーザーが選択可能とする。通知設定がOFFの場合は、キャリブレーションの必要性の判定結果について通知を望まないユーザーであるので、キャリブレーションの必要性が有り・無しに関わらず、通知を行わずに終了する。通知設定がONの場合は、ステップS1102へと進む。
【0036】
ステップS1102では、キャリブレーションを通知するタイミングかどうかを判断する。本実施例では、電源ONをした時、記録ヘッドの交換が終了した時、記録媒体をインクジェット記録装置に装着した時、印刷jobが終了した時を、キャリブレーションを通知するタイミングとして設定する。このタイミング以外の場合には、通知を行わずに終了する。このタイミングに該当する場合には、ステップS1103へと進む。
【0037】
ステップS1103では、図6のフローで内部的に判定したキャリブレーションの必要性の結果を読み出す。キャリブレーションの必要性無しと判定された場合には、通知を行わずに終了する。キャリブレーションの必要性有りと判定された場合には、ステップS1104にて、キャリブレーションの必要性が有ることをユーザーに通知して終了する。
【0038】
なお、キャリブレーションの実行履歴と、記録ヘッドの吐出履歴から、記録ヘッドの消耗レベルに応じたキャリブレーションの必要性を判定出来る構成となっていることが重要であって、消耗レベルの判定方法は本実施例に記載の方法に限らない。つまり、ステップS601、ステップS602で説明したように、本実施例では、記録ヘッドの消耗レベルは、前回キャリブレーション実行時点での吐出回数の累計を用いて判定しているが、そのような方法に限らない。例えば、キャリブレーションの必要性を判定する時点における吐出回数の累計を取得し、その累計から記録ヘッドの消耗レベルを判定する構成としても良い。
【0039】
図12は、キャリブレーションの必要性が有ることをユーザーに通知する画面の模式図である。本実施例では、インクジェット記録装置のオペレーションパネル上に、キャリブレーションの必要性が有ることを通知する。なお、この構成以外でも、キャリブレーションの必要性が有ることをユーザーに通知出来る構成、例えばドライバ画面上に示す、ネットワークを通じてメールで通知する、といった構成にしても構わない。また、ユーザーに通知するタイミングは前述の場合に限るものではなく、例えば印刷ジョブの途中に通知する形態であってもよい。
【0040】
尚、本実施形態において、記録ヘッドの吐出回数の累計は、記録ヘッドに備えられたメモリに記憶されている。従って、記録ヘッドの使用途中に装置から外されるような場合があっても、記録ヘッドがこれまでに吐出したインク滴の数は記憶されている。また、記録ヘッドが装着されてから吐出したインク滴の数をカウントして吐出回数とする形態であってもよい。
【0041】
以上説明したように本実施例では、複数色のインクの色毎に、前回キャリブレーション実行時における吐出回数の累計に応じて記録ヘッドの消耗レベルを設定し、吐出回数の増加数と所定の閾値とを比較する。これにより、記録ヘッドの吐出が安定する前の時期は、吐出が安定する時期よりもキャリブレーションが必要だと判定される頻度が高い。さらに、記録ヘッドの寿命が近付き、吐出が安定しなくなる時期は、吐出が安定している時期よりも頻繁にキャリブレーションが必要だと判定される。尚、本実施形態において、インク滴の吐出回数をドットカウントする上で、キャリブレーションが必要だと判定される数となる間隔が短いことを頻度が高いと表現している。このような構成により、記録媒体やインクを消費することなく色変動の予測精度をより高めることができる。その結果、キャリブレーションの必要性をより正確に判断でき、キャリブレーションの実行回数を低減しつつ色変動を抑制することができる。
【実施例2】
【0042】
本実施例においては、キャリブレーションの必要性を判定する手段として、記録ヘッドから吐出されるインクの吐出速度を用いることを特徴とする。
図13は本実施例におけるキャリブレーションの必要性を内部的に判断するフローである。ステップS1301では、記録ヘッドから吐出されたインクの吐出速度を、インク色毎に取得する。吐出速度の検出方法としては、例えば、記録ヘッドから一定距離で設置された光軸上へインクを吐出し、吐出時間と光軸を通過した時間から計測する方法が挙げられる。図15(a)は、複数色のインクの色毎に取得した吐出速度の表を示している。
【0043】
ステップS1302では、色毎に、前回のキャリブレーション時に検出した吐出速度を取得し、ステップS1301で取得した吐出速度との差分を求める。なお、本実施形態では、記録ヘッドの交換時(装着時)に吐出速度を検出し、吐出速度の差分の絶対値をとる。記録ヘッドの交換がされて、インクジェット記録装置に現在搭載されている記録ヘッドでキャリブレーションの実行履歴が無い場合には、記録ヘッド交換時の吐出速度との差分を取得する。図16(a)に、前回のキャリブレーション時の吐出速度と今回取得した吐出速度との差分の絶対値を示す。
【0044】
ステップS1303では、図16(a)に示した前回のキャリブレーションからの複数色のインクの色毎の吐出速度の差分を、所定の閾値と比較する。図14は、この閾値を示した吐出速度差分閾値テーブルである。図14の吐出速度差分閾値テーブルは、インク色毎に異なる値を設定できる構成とする。これは、記録ヘッドの吐出速度の変化による色変動への影響がインクにより異なる場合があるためである。また、本実施例で用いているPCインク及びPMインクは、Cインク及びMインクに比べてそれぞれインク中に含まれる色材濃度が低いインクである。そして、低濃度インク(PC、PM)やYインクは吐出速度の変化による色変動への影響が大きいため、色変動への影響が比較的小さい高濃度インク(C、M)やBK・MBKインクに比べて低濃度インクの閾値を小さく設定する。これにより、色変動の予測精度をより高める構成となっている。本実施例では、PCの吐出速度の差分が閾値以上となっているため、ステップS1304に進み、キャリブレーション必要性有りと判定する。尚、本実施例では、吐出速度の差分の絶対値を求めて閾値と比較しているが、インクの特性や記録ヘッドの吐出特性に応じて絶対値を取らずに比較する形態を用いてもよい。
【0045】
続いて、ステップS1301で取得した吐出数が、図15(b)に示す値であった場合について説明する。前述したステップS1302と同じように、図16(b)を参照すると、ステップS1303において、7色のインクのすべてにおいて閾値未満となる。従って、ステップS1303からステップS1305へ進み、キャリブレーションの必要性無しと判定する。このように判定したキャリブレーションの必要性に基づいて、実施例1と同じように、ユーザーへキャリブレーションの通知を行う構成とする。
【0046】
以上説明したように、本実施例では、記録ヘッド吐出速度を検出して色変動の予測を行うことで、予測精度を実施例1よりも高めることができる。また、インク消費も最低限に抑制し、ユーザーの負担を最小限にとどめることが可能である。その結果、キャリブレーションの必要性をより正確に判断し、キャリブレーションの実行回数を低減しつつ、色変動を抑制することができる。
【実施例3】
【0047】
本実施例においては、前述の実施例2の構成に加え、吐出速度を検知する頻度を、記録ヘッドの消耗レベルに応じて変更することを特徴とする。本実施例におけるキャリブレーションの必要性を判断するフローを図17に示す。
ステップS1701では、前回のキャリブレーション実行時における記録ヘッドの全吐出口からの吐出回数の累計をインク色毎に取得する。次にステップS1702では、取得した各色の吐出回数の累計と、図18に示す吐出速度検知タイミング閾値テーブルとに基づいて記録ヘッドの消耗レベルを判定する。
【0048】
消耗レベルに伴う色変動の傾向は前述の実施例1と同じであり、色変動の発生しやすい消耗レベル1では、後述するステップのように、色変動の確認を行うための吐出速度検出動作を頻繁に行う。これにより、色変動の確認頻度を高くすることで、色変動の発生しやすい領域でも色変動を抑制することができる。また、色変動が起こりにくい安定領域である消耗レベル2では、色変動の確認を行うための吐出速度検出動作の頻度を低くする。また、色変動の発生しやすい消耗レベル3では、色変動の確認を行うための吐出速度検出動作を頻繁に行い、色変動の確認頻度を高くする。
【0049】
ステップS1703では、前回の吐出速度検出を行った時点からの吐出回数の増加数を、インク色毎に取得する。ステップS1704では、ステップS1703で取得した吐出回数の増加数を、図18の吐出速度検出タイミング閾値テーブルを参照し、記録ヘッドのインク色毎の消耗レベルに対応した各々の閾値と比較する。吐出回数の増加数が閾値以上となっている場合には、吐出速度検出タイミングに該当すると判定し、ステップS1705へ進む。ステップS1705では、記録ヘッドから吐出されたインクの吐出速度をインク色毎に取得する。ステップS1706では、記録ヘッドの前回のキャリブレーション時との吐出速度の差分の絶対値をインク色毎に取得する。
【0050】
ステップS1707では、ステップS1706で取得したインク色毎の吐出速度の差分の絶対値を、吐出速度差分閾値テーブルに基づいて閾値と比較する。比較の結果、吐出速度の差分が閾値以上となっている場合には、ステップS1708に進み、キャリブレーション必要性有りと判定する。閾値未満となっている場合には、ステップS1709に進み、キャリブレーション必要性無しと判定する。なお、ステップS1704において、7色のインク色のすべてにおいて閾値未満となる場合には、吐出速度検出タイミングに該当しないと判定し、終了する。
【0051】
このように本実施例においては、前述の実施例2の構成に加えて、吐出速度を検出する頻度を記録ヘッドの消耗レベルに応じて変更する構成とする。これにより、無駄な吐出速度検出動作を省略することができる。その結果、実施例2の効果に加えて、ユーザーへの負担を更に低減することができる。
【0052】
また、本実施例ではステップS1704で吐出回数の増加数が閾値を超えていた場合に、ステップS1705〜ステップS1707の吐出速度に基づく判定を行ったが、本発明はこれに限るものではない。例えば、ステップS1704で閾値を超えていた場合にはキャリブレーションの必要性有りと判定し、閾値を超えていない場合にステップS1705〜ステップS1707の吐出速度に基づく判定を行ってもよい。このとき、吐出回数による判定と吐出速度による判定のうち、少なくとも一方でキャリブレーションの必要性有りと判定された場合にユーザーに通知することになり、前述した構成よりもキャリブレーションの頻度が高くなる。
【0053】
また、前述の実施形態では、キャリブレーションの必要性有りと判定した場合、ユーザーに通知する構成としたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、自動でテストパターンを印刷・測色し、キャリブレーションを行うに判定する第2の判定手段をさらに備えてもよい。また、キャリブレーションの必要性有りと判定後、テストパターンを印刷し、測色した測定結果に基づいてキャリブレーションを行うかどうかを再判定するような形態であってもよい。
【0054】
さらに、前述の実施形態では、上述のフローをインクジェット記録装置の主制御部200で行う形態について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば記録装置に接続されたホストコンピュータ217でこれらの処理を行うシステムであってもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口を複数備えた記録ヘッドと記録媒体との相対走査中に前記記録媒体に対してインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドにより記録媒体に記録されたテストパターンの測定結果に基づいて、キャリブレーションを実行する実行手段と、
複数の前記吐出口から吐出されるインク滴の吐出回数をカウントするカウント手段と、
前記カウント手段によりカウントされた前記吐出回数に基づいて、前記実行手段による前回キャリブレーション実行時からの前記吐出回数の増加数が所定の閾値よりも大きい場合にはキャリブレーションを実行する必要があると判定する判定手段と
を備え、
前記判定手段は、(A)前記吐出回数の累計が第1の数の場合には前記所定の閾値を第1の値とし、(B)前記吐出回数の累計が前記第1の数よりも大きい第2の数の場合には前記所定の閾値を前記第1の値よりも大きい第2の値とすることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記吐出回数の累計が前記第2の数よりも大きい第3の数の場合には、前記所定の閾値を前記第2の値よりも小さい第3の値とすることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記記録ヘッドは複数色のインクを吐出可能であり、
前記カウント手段は、前記複数色のインクの色毎に前記吐出回数をカウントし、
前記判定手段は、前記複数色のインクの色毎に前記所定の閾値を有することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記判定手段によりキャリブレーションの必要があると判定された場合に判定結果をユーザに通知する通知手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記判定手段によりキャリブレーションの必要があると判定された場合、前記実行手段はキャリブレーションを実行することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記吐出口から吐出されたインク滴の吐出速度を検出する検出手段と、
前記判定手段によりキャリブレーションの必要があると判定された場合、前記検出手段により検出された前記吐出速度と、前記キャリブレーション実行時の前記インク滴の吐出速度との差の絶対値が、所定の閾値よりも大きい場合にキャリブレーションを実行する必要があると判定する第2の判定手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
吐出口を複数備えた記録ヘッドと記録媒体との相対走査中に前記記録媒体に対してインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドにより記録媒体に記録されたテストパターンの測定結果に基づいて、キャリブレーションを実行する実行手段と、
複数の前記吐出口から吐出されるインク滴の吐出回数をカウントするカウント手段と、
前記カウント手段によりカウントされた前記吐出回数に基づき、前記吐出回数が所定の回数を超える毎に前記実行手段によりキャリブレーションを実行する必要があると判定する判定手段と
を備え、
前記判定手段は、複数の前記吐出口から吐出された前記吐出回数の累計が所定の閾値よりも少ない場合、前記所定の閾値よりも多い場合に比べて、前記所定の回数の間隔が小さいことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
吐出口を複数備えた記録ヘッドと記録媒体との相対走査中に前記記録媒体に対してインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドにより記録媒体に記録されたテストパターンの測定結果に基づいてキャリブレーションを実行する実行手段と、
前記吐出口から吐出されたインク滴の吐出速度を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記吐出速度と、前回キャリブレーション実行時に検出された前記吐出速度との差の絶対値が、所定の閾値よりも大きい場合にキャリブレーションを実行する必要があると判定する判定手段と
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項9】
吐出口を複数備えた記録ヘッドと記録媒体との相対走査中に前記記録媒体に対してインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記記録ヘッドにより記録媒体に記録されたテストパターンの測定結果に基づいて、キャリブレーションを実行する実行工程と、
複数の前記吐出口から吐出されるインク滴の吐出回数をカウントするカウント工程と、
前記カウント工程においてカウントされた前記吐出回数に基づいて、前回キャリブレーション実行時からの前記吐出回数の増加数が所定の閾値よりも大きい場合にはキャリブレーションを実行する必要があると判定する判定工程と
を備え、
前記判定工程は、(A)前記吐出回数の累計が第1の数の場合には前記所定の閾値を第1の値とし、(B)前記吐出回数の累計が前記第1の数よりも大きい第2の数の場合には前記所定の閾値を前記第1の値よりも大きい第2の値とすることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項1】
吐出口を複数備えた記録ヘッドと記録媒体との相対走査中に前記記録媒体に対してインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドにより記録媒体に記録されたテストパターンの測定結果に基づいて、キャリブレーションを実行する実行手段と、
複数の前記吐出口から吐出されるインク滴の吐出回数をカウントするカウント手段と、
前記カウント手段によりカウントされた前記吐出回数に基づいて、前記実行手段による前回キャリブレーション実行時からの前記吐出回数の増加数が所定の閾値よりも大きい場合にはキャリブレーションを実行する必要があると判定する判定手段と
を備え、
前記判定手段は、(A)前記吐出回数の累計が第1の数の場合には前記所定の閾値を第1の値とし、(B)前記吐出回数の累計が前記第1の数よりも大きい第2の数の場合には前記所定の閾値を前記第1の値よりも大きい第2の値とすることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記吐出回数の累計が前記第2の数よりも大きい第3の数の場合には、前記所定の閾値を前記第2の値よりも小さい第3の値とすることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記記録ヘッドは複数色のインクを吐出可能であり、
前記カウント手段は、前記複数色のインクの色毎に前記吐出回数をカウントし、
前記判定手段は、前記複数色のインクの色毎に前記所定の閾値を有することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記判定手段によりキャリブレーションの必要があると判定された場合に判定結果をユーザに通知する通知手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記判定手段によりキャリブレーションの必要があると判定された場合、前記実行手段はキャリブレーションを実行することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記吐出口から吐出されたインク滴の吐出速度を検出する検出手段と、
前記判定手段によりキャリブレーションの必要があると判定された場合、前記検出手段により検出された前記吐出速度と、前記キャリブレーション実行時の前記インク滴の吐出速度との差の絶対値が、所定の閾値よりも大きい場合にキャリブレーションを実行する必要があると判定する第2の判定手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
吐出口を複数備えた記録ヘッドと記録媒体との相対走査中に前記記録媒体に対してインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドにより記録媒体に記録されたテストパターンの測定結果に基づいて、キャリブレーションを実行する実行手段と、
複数の前記吐出口から吐出されるインク滴の吐出回数をカウントするカウント手段と、
前記カウント手段によりカウントされた前記吐出回数に基づき、前記吐出回数が所定の回数を超える毎に前記実行手段によりキャリブレーションを実行する必要があると判定する判定手段と
を備え、
前記判定手段は、複数の前記吐出口から吐出された前記吐出回数の累計が所定の閾値よりも少ない場合、前記所定の閾値よりも多い場合に比べて、前記所定の回数の間隔が小さいことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
吐出口を複数備えた記録ヘッドと記録媒体との相対走査中に前記記録媒体に対してインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドにより記録媒体に記録されたテストパターンの測定結果に基づいてキャリブレーションを実行する実行手段と、
前記吐出口から吐出されたインク滴の吐出速度を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記吐出速度と、前回キャリブレーション実行時に検出された前記吐出速度との差の絶対値が、所定の閾値よりも大きい場合にキャリブレーションを実行する必要があると判定する判定手段と
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項9】
吐出口を複数備えた記録ヘッドと記録媒体との相対走査中に前記記録媒体に対してインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記記録ヘッドにより記録媒体に記録されたテストパターンの測定結果に基づいて、キャリブレーションを実行する実行工程と、
複数の前記吐出口から吐出されるインク滴の吐出回数をカウントするカウント工程と、
前記カウント工程においてカウントされた前記吐出回数に基づいて、前回キャリブレーション実行時からの前記吐出回数の増加数が所定の閾値よりも大きい場合にはキャリブレーションを実行する必要があると判定する判定工程と
を備え、
前記判定工程は、(A)前記吐出回数の累計が第1の数の場合には前記所定の閾値を第1の値とし、(B)前記吐出回数の累計が前記第1の数よりも大きい第2の数の場合には前記所定の閾値を前記第1の値よりも大きい第2の値とすることを特徴とするインクジェット記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−153096(P2012−153096A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16349(P2011−16349)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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