説明

インクジェット記録装置

【課題】高品質の印刷物を、再現性よく安定して製造し得るインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】酸の存在下で重合する溶媒と、前記溶媒中に分散した色成分とを含有する着色インクを収容する着色インク容器(5)、光照射により酸を発生する光酸発生剤が溶媒に添加されてなる反応液を収容する反応液容器(3)、前記着色インクと前記反応液とを混合して、記録用インクを得る攪拌容器(2)、前記着色インク容器から前記攪拌容器に前記着色インクを、容積S1で供給する着色インク供給用ポンプ(6)、前記反応液容器から前記攪拌容器に前記反応液を、容積S2(S2<S1)で供給する反応液供給用ポンプ(4)、前記記録用インクを記録媒体に吐出するインクジェット記録ヘッド(20)、および前記攪拌容器内の記録用インクを、前記インクジェット記録ヘッドへ供給する供給管を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置に係り、特にインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地域広告や企業内配布資料のようにある程度の部数を必要とする印刷物の製造には、版を利用した印刷機が用いられてきた。近年、このような従来の印刷機に代わって、多様化するニーズに迅速に対応でき、しかも、在庫を圧縮することが可能なオンデマンド印刷機が利用されつつある。そのようなオンデマンド印刷機としては、高速および高画質印刷が可能なインクジェットプリンタが期待されている。
【0003】
インクジェットプリンタで高精彩な画像を印刷する技術としては、版を利用した印刷機と同様に、顔料と有機溶剤とを含んだ溶剤系インクや溶剤系液体トナーを使用することが知られている。しかしながら、こうした技術では、或る程度の部数を印刷した場合に、無視できない量の有機溶剤が揮発することとなる。そのため、揮発した有機溶剤による雰囲気汚染の問題があり、排気設備や溶剤回収機構を設ける必要があった。
【0004】
上述した問題に対して有効な技術として、感光性インクとそれを用いたプリンタシステムが注目され始めている。この技術は、被印刷面に吐出した感光性インクを速やかに光硬化させるものである。使用する感光性インクとしては、ラジカル重合性モノマーと光重合開始剤と顔料とを必須成分として含有したものが代表的である。
【0005】
光照射によりインク層を非流動化することができるので、こうした手法により比較的高い品質の印刷物を得ることができる。しかしながら、使用されるインクはラジカル発生剤などの発癌性成分を多く含むうえ、ラジカル重合性モノマーとして使用する揮発性のアクリル酸誘導体は皮膚刺激や臭気が大きい。すなわち、上記のインクは、取り扱いに注意を要する。さらに、ラジカル重合は空気中の酸素の存在によって著しく阻害されるのに加え、インク中に含まれる顔料が露光光を吸収してしまう。このため、インク層の深部では露光量が不足しがちである。そのため、上述した感光性インクは光に対する感度が低く、このシステムで高品質な印刷物を得るためには非常に大掛かりな露光システムが必要とされる。
【0006】
こうした問題を改善したものとしては、活性エネルギー線を照射することにより硬化させるカチオン硬化型インクが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、および特許文献4参照)。カチオン硬化型インクは、例えば、インクジェットプリントヘッドから吐出して、画像に対応したインク層を記録媒体上に形成する。その後、紫外線または電子線などの活性エネルギー線を照射することによって、このインク層を硬化させる。
【0007】
しかしながら、光カチオン硬化型のインクジェットインクに共通した問題点として、経時的な粘度の変化が激しいということが挙げられる。これは、インクの暗反応が多いことに起因する。粘度が変化すると、インクジェットインクの場合、インクの飛翔形状の乱れ、印字再現性の減少が生じる。最悪の場合には、吐出不良やインクづまりといった致命的状態に陥りやすいため、この問題は極めて深刻であった。インクジェットインクの粘度増加の問題を解決する有効な手段は、未だ得られていない。
【特許文献1】特開平9−183928号公報
【特許文献2】特開2001−220526号公報
【特許文献3】特開2002−188025号公報
【特許文献4】特開2002−317139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
オキシラン基含有化合物、オキセタン環含有化合物、ビニルエーテル化合物、顔料、顔料分散剤、光酸発生剤、その他添加剤を含有する光カチオン硬化型のインクジェットインクは、暗反応が多いことから経時的な粘度の変化(増粘)が大きく、インクの保存性が悪く寿命が短い。
【0009】
そこで本発明は、高品質の印刷物を再現性よく安定して製造し得るインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様にかかるインクジェット記録装置は、酸の存在下で重合する溶媒と、前記溶媒中に分散した色成分とを含有する着色インクを収容する着色インク容器、
光照射により酸を発生する光酸発生剤が溶媒に添加されてなる反応液を収容する反応液容器、
前記着色インクと前記反応液とを混合して、記録用インクを得る攪拌容器、
前記着色インク容器から前記攪拌容器に前記着色インクを、容積S1で供給する着色インク供給用ポンプ、
前記反応液容器から前記攪拌容器に前記反応液を、容積S2(S2<S1)で供給する反応液供給用ポンプ、
前記記録用インクを記録媒体に吐出するインクジェット記録ヘッド、および
前記攪拌容器内の記録用インクを、前記インクジェット記録ヘッドへ供給する供給管
を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、高品質の印刷物を再現性よく安定して製造し得るインクジェット記録装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
本発明の実施形態にかかるインクジェット用インクは、別個に調製され分離保存された2種類の溶液からなる。第1の溶液は、酸の存在下で重合する溶媒と、この溶媒に分散された色成分とを含有し、第2の溶液は、光照射により酸を発生する光酸発生剤が溶媒に添加されてなる。
【0014】
本発明の実施形態にかかるインクジェット記録装置で用いられる場合、これら2種類の溶液は、分離して別個の容器に保存されており、インクジェット式記録ヘッドに供給される直前で混合される。攪拌により充分に混合した後、2つの溶液の混合物からなるインクは、インクジェット式記録ヘッドに供給されて、記録メディア上に吐出される。吐出される状態のインクを、本明細書においては「記録用インク」と称する。
【0015】
記録用インクは記録メディア上に吐出され、画像に対応したインク層が形成される。このインク層に光を照射することによって、光酸発生剤から酸が発生し、この酸は重合性化合物の架橋反応の触媒として機能する。また、発生した酸はインク層内で拡散する。しかも、酸の拡散および酸を触媒とした架橋反応は、加熱することにより加速可能である。この架橋反応は、ラジカル重合とは異なって、酸素の存在によって阻害されることがない。そのため、1つの光子で複数の架橋反応を生じさせることができ、高い感度を実現することができる。加えて、インク層の深部や吸収性のメディア内部でも、架橋反応を速やかに進行させることができる。
【0016】
そのため、こうした記録用インクを用いた場合には、被印刷面に吐出してインク層を形成した後、光照射および加熱を行なうことによって、インク層を速やかに非流動化することができる。すなわち、大規模な露光システムを必要とすることなく高品質な印刷物を得ることができる。
【0017】
さらに、本実施形態では、上述した重合性化合物を溶媒の少なくとも一部として使用し、典型的には、溶媒のほぼ全体を重合性化合物で構成する。そのため、溶媒に占める重合性化合物の割合が十分に高ければ、印刷時に有機溶剤が揮発することはほとんどない。したがって、有機溶剤の揮発に起因した雰囲気汚染の問題を防止することができ、排気設備や溶剤回収機構などが不要となる。
【0018】
加えて、本実施形態では、有機溶剤を使用する必要がなく、且つインク層を速やかに非流動化することができる。このため、性質が異なる様々な被印刷面に対して、滲みなどを殆ど生じることなく容易に画像を定着させることができ、しかも、インク層の乾燥に伴なう被印刷面の劣化を生じ難い。さらに、本実施形態に係るインクジェット用インクは、色成分として顔料を高濃度で含有することができるので、鮮明であり且つ耐候性に優れた印刷パターンを形成することができる。
【0019】
以下、本発明の実施形態にかかるインクジェット用インクを構成する各溶液について詳細に説明する。
【0020】
第1の溶液は、酸の存在下で重合する溶媒と、この溶媒に分散された色成分とを含有し、着色インクと称される。
【0021】
酸の存在下で重合する溶媒としては、常温常圧で30mPa・s以下の粘度、摂氏150度以上の沸点を有する化合物、より好ましくは180度以上の沸点を有する化合物であって、次のような化合物が挙げられる。すなわち、少なくともエポキシ基、オキセタン基、オキソラン基などのような環状エーテル基を有する分子量1000以下の化合物が好ましい。さらに、上述した置換基を側鎖に有するアクリルまたはビニル化合物、カーボネート系化合物、低分子量のメラニン化合物、ビニルエーテル類やビニルカルバゾール類、スチレン誘導体、アルファメチルスチレン誘導体、ビニルアルコールとアクリル、メタクリルなどのエステル化合物をはじめとするビニルアルコールエステル類など、カチオン重合可能なビニル結合を有するモノマー類を併せて使用してもよい。
【0022】
なかでも、酸の存在下で架橋する重合性化合物が脂肪族骨格や脂環式骨格を有する場合、重合性化合物に加えて上述した他の成分を添加すると、露光時の記録用インクの透明度を高め、硬化後のインク層に適当な熱可塑性や再溶解性を付与することができる。そのため、感度、定着性、転写性、メンテナンス性が向上する。特に、重合性化合物が脂環式骨格を有するエポキシ化合物である場合、反応性のほか或る程度の高沸点と低粘度とを両立させることができる。
【0023】
一方、本発明の実施形態にかかるインクに硬化速度が特に要求される場合、例えば、数十m毎分という高速な印字を必要とされるような場合には、オキセタン化合物を添加することが好ましい。このオキセタン化合物は、硬化を促進、加速させる作用を有するので、一次硬化を加速することができる。ただし、この場合、熱可塑性が低下するため、熱転写性能は添加量にしたがって減少する傾向にある。したがって、オキセタン化合物の添加量は、溶媒全体の10重量部乃至40重量部の範囲とすることが望ましい。この範囲を超えると、硬化が加速されないか、ノズルつまりや、熱可塑性不足を生じやすくなる。
【0024】
使用し得るオキセタン化合物としては、例えば、1,4−ビス[(1−エチル−3オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,3−ビス[(1−エチル−3オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、4,4‘−ビス[(3−エチル−3オキセタニル)メトキシ]ビフェニル、フェノールノボラックオキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、東亜合成(株)製のアロンオキセタンOXT−101、OXT−102、1,4−ビス[(1−エチル−3オキセタニル)メトキシ]シクロヘキサン、1,4−ビス[(3−エチル−3オキセタニル)メトキシ]シクロヘキサン、1,2−ビス[(1−エチル−3オキセタニル)メトキシ]ノルボルナン、2個以上のオキセタン基を有する脂肪族あるいは脂環化合物、オキセタン基を側鎖に有するアクリル、メタクリル化合物などが挙げられる。
【0025】
また、硬化速度の向上に加えて粘度の低下が要求される場合には、ビニルエーテル化合物をさらに添加することが好ましい。ビニルエーテル化合物を含有することによって、揮発性を極端に増大させることなく硬化速度を高めるとともに、インクの粘度を低下させることができる。
【0026】
かかるビニルエーテル化合物としては、ベンゼン環やナフタレン環、ビフェニル環を含むp+1価の基、シクロアルカン骨格や、ノルボルナン骨格、アダマンタン骨格、トリシクロデンカン骨格、テトラシクロドデカン骨格、テルペノイド骨格、コレステロール骨格などの誘導されるp+1価の基にビニル基をエーテル結合を介して結合させた化合物などが挙げられる。より具体的には、シクロヘキサン、ノルボルナン、トリシクロデカン、アダマンタン、ベンゼン、ナフタレンなどのポリビニルエーテル化化合物などがあげられる。
【0027】
本発明の実施形態にかかるインクにおいて、印字物にアルコール等の溶剤耐性が必要とされる場合には、芳香族骨格を有する化合物を添加することが好ましい。これによって、硬化を促進、加速することができるため、耐性が向上する。なかでも、2価以上の芳香族骨格を含むオキセタン化合物やビニルエーテル化合物の添加が望ましい。かかるオキセタン化合物としては、例えば1,4−ビス[(1−エチル−3オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、1,3−ビス[(1−エチル−3オキセタニル)メトキシ]ベンゼン、4,4‘−ビス[(3−エチル−3オキセタニル)メトキシ]ビフェニル、フェノールノボラックオキセタン、2個以上のオキセタン基を有する脂環化合物などが例示される。
【0028】
第1の溶液においては、粘性の高い化合物を、溶媒の一部として少量含有してもよい。例えば、比較的分子量が高く、常温で固体状の化合物である。こうした成分をさらに含有する場合には、硬化後のインク層の可撓性や顔料の分散性を高めることが可能となる。また、価数の大きな反応性の高い化合物を用いた場合には、その硬化物の硬度や溶媒耐性を高めることができる。
【0029】
そのような化合物としては、例えば、長鎖アルキレン基などによって結合されたエポキシ基、オキセタン基、オキソラン基などのような環状エーテル基を有する分子量5000以下の化合物、上記置換基を側鎖に有するアクリル又はビニル化合物、カーボネート系化合物、低分子量のメラニン化合物、ビニルエーテル類やビニルカルバゾール類、スチレン誘導体、アルファ−メチルスチレン誘導体、ビニルアルコールとアクリル、メタクリルなどのエステル化合物をはじめとするビニルアルコールエステル類など、カチオン重合可能なビニル結合を有するモノマーおよびそのモノマー1種以上が重合したオリゴマーが挙げられる。
【0030】
また、第1の溶液における溶媒は、上述した化合物に加えて、ビニルアルコールの単独もしくは共重合体、カゼイン、セルロースのように酸反応性・脱水縮合性のOH基、COOH基、アセタール基等を有する分子量5000以下の樹脂、同じく分子量5000以下のポリカーボネート樹脂、ポリアミック酸、ポリアミノ酸もしくはアクリル酸と側鎖に酸重合性二重結合を有するビニル化合物との共重合体、ビニルアルコールと側鎖に酸重合性二重結合を有するビニル化合物との共重合体、およびメチロール化されたメラミン樹脂をさらに含有してもよい。
【0031】
本発明の実施形態におけるインクは、加熱を必要とする感光性インクであるため、インクの揮発性は安全性や臭気の観点から低い方が好ましい。例えば露光後、かつ80度における揮発速度が、0.2mg/cm2・min以下であることが望まれる。ここでの揮発量は例えば開口面積10cm2の容器を加熱した場合、毎分あたりの揮発量(mg)を示す。この値は容器の開口に依存するが、通常6cm直径のシャーレに4gのインクをとり、常圧下、加熱した時の値と定義している。この範囲を逸脱した組成は、加熱時の揮発速度が大きすぎて安全性が損なわれるとともに、臭気の問題が著しいものとなる。一方、揮発性に著しく乏しい、例えば、0.00001mg/cm2・min以下のインクの場合には、通常は粘度が高く、インクジェット吐出が困難である場合が多い。
【0032】
硬化後のインク層が十分な熱可塑性や再溶解性を有している場合には、記録用インクを像担持体上に吐出してインク層を形成した後、このインク層を記録媒体上に転写することができる。すなわち、記録用インクを像担持体上に吐出してインク層を形成し、このインク層に光照射および加熱を行なうことにより硬化または予備硬化させる。さらに、このインク層に記録媒体を接触させた状態で圧力、或いは圧力および熱を加えることによって再流動化または可塑化させる。こうして、記録媒体上へと転写することができる。一方、記録用インクを記録媒体上に直接吐出した場合には、まず、記録媒体上にインク層を形成し、光照射および加熱を行なうことにより硬化または予備硬化させる。さらに、このインク層に熱を加えることによって本硬化させて記録媒体上へ定着させることができる。
【0033】
上述した重合性化合物として、エポキシ基、オキセタン基、オキソラン基のような環状エーテル基を有する脂肪族骨格や脂環式骨格を含むものを使用すれば、基本的に硬化後のインク層に適当な熱可塑性や再溶解性を付与することができる。特に、酸重合性に優れるエポキシ基を有するものを使用することが望ましい。そのような化合物としては、例えば、炭素数1乃至15程度の2価の脂肪族または脂環式骨格を有する炭化水素基、あるいは、脂肪族鎖または脂環式骨格を一部に有する2価の基の一方あるいは両方にエポキシ基あるいは脂環式エポキシ基を有する化合物を挙げることができる。
【0034】
上述した分子骨格に導入されるエポキシ基の数に特に制限はないが、硬化後のインク層に可撓性や再溶解性を付与するには、多くとも2乃至3程度の価数とすることが望ましい。そのような重合性化合物としては、例えば、以下の一般式(1)および(2)に示す化合物を挙げることができる。
【化1】

【0035】
なお、上記一般式(1)および(2)において、R1乃至R5はそれぞれエポキシ基または脂環骨格を有するエポキシ基を示し、A1およびA2は官能基を示している。
これら一般式(1)および(2)に示す化合物は、通常、粘度が1cP乃至30cP程度と低い。したがって、こうした低粘度化合物を配合することによって、インクの粘度を十分に低減するのに有効である。
【0036】
また、下記一般式(3)に示す脂環式エポキシ化合物は、通常、20cP乃至500cP程度と高い粘度を有している。したがって、この高粘度化合物を使用することによって、硬化後のインク層に可撓性、あるいは逆に硬度などを付与することができる。
【化2】

【0037】
なお、上記一般式(3)において、R4およびR5はそれぞれエポキシ基または脂環骨格を有するエポキシ基を示し、A3はアルキレン基および/または脂環式骨格とを少なくとも有するk+1価の官能基(kは自然数)を示している。
【0038】
上述した低粘度化合物および高粘度化合物は、それぞれ少なくとも1種以上を混合して使用することが好ましい。例えば、第1の溶液100重量部に対して、低粘度化合物を5重量部乃至90重量部、および、高粘度化合物を1重量部乃至40重量部の割合で添加した場合、吐出に必要な最低限の流動性(50℃で30cP以下の粘度)を実現するうえで有利である。特に、一般式(1)に示す化合物と一般式(2)に示す化合物と一般式(3)に示す化合物との重量比をほぼ1:1乃至10:1とすることが好ましい。
【0039】
上述した脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、ダイセル化学社製のセロキサイド2021、セロキサイド2021A、セロキサイド2021P、セロキサイド2081、セロキサイド2000、セロキサイド3000に例示される脂環式エポキシ、エポキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物であるサイクロマーA200、サイクロマーM100、MGMAのようなメチルグリシジル基を有するメタクリレート、低分子エポキシ化合物であるグリシドール、β−メチルエピコロルヒドリン、α−ピネンオキサイド、C12〜C14のα−オレフィンモノエポキシド、C16〜C18のα−オレフィンモノエポキシド、ダイマックS−300Kのようなエポキシ化大豆油、ダイマックL−500のようなエポキシ化亜麻仁油、エポリードGT301、エポリードGT401のような多官能エポキシなどを挙げることができる。さらに、サイラキュアのような米国ダウケミカル社の脂環式エポキシや、水素添加し且つ脂肪族化した低分子フェノール化合物の水酸基末端をエポキシを有する基で置換した化合物、エチレングリコールやグリセリン、ネオペンチルアルコールやヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなどの脂肪族アルコール/脂環アルコールなどのグリシジルエーテル化合物、ヘキサヒドロフタル酸や、水添芳香族の多価カルボン酸のグリシジルエステルなどを使用することができる。また、画像の耐薬品性などを向上させるために、ダイセル化学社製エポリードPB3600、PB3600Mなどのエポキシ化ポリブタジエン、EHPE3150、EHPE3150CEなどの高耐候性および高Tgを有する透明液状エポキシ樹脂等を添加してもよい。あるいは、これらに加え、ラクトン変性脂環エポキシ樹脂を加えても構わない。例えば、ダイセル社製プラクセルGL61、GL62、G101、G102、G105、G401、G402、G403Xなどを例示することができる。
【0040】
なかでも、セロキサイド2000、セロキサイド3000、α−ピネンオキサイドエチレングリコールやグリセリン、ネオペンチルアルコールやヘキサンジオールのアルコールをグリシジルエーテルに変性した化合物が、粘度、揮発性の観点から望ましい。
【0041】
上述したエポキシ化合物に含まれる脂環式骨格がテルペノイド骨格を有している場合、インクまたは硬化後のインク層の人体や環境に対する安全性が向上する。そのようなエポキシ化合物としては、例えば、ミルセン、オシメン、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトロレノール、シトラール、メンテン、リモネン、ジペンテン、テルピノレン、テルピネン、フェランドレン、シルベストレン、ピペリトール、テルピネオール、テルピネオール、メンテンモノオール、イソプレゴール、ペラリアルデヒド、ピペリトン、ジヒドロカルボン、カルボン、ピノール、アスカリドール、ザビネン、カレン、ピメン、ボルネン、フェンケン、カンフェン、カルベオール、セスキテルペン類、ジテルペン類、トリテルペン類などの不飽和結合を有するテルペン系化合物の不飽和結合を酸化してエポキシ化したような化合物が好適である。また天然に多く存在するノルボルネン化合物を酸化したエポキシ化合物は、コストの面で良好である。
【0042】
なお、エポキシへの酸化には、例えば過酢酸のような酸化剤を作用させる多くの酸化手法を利用することができる。なかでも、特開平11−49764号公報に示されるような、Nヒドロキシフタルイミドと希土類の触媒とを用いた空気酸化法が最も好適に用いられる。
【0043】
上述したような酸の存在下で重合する化合物は、後述する第2の溶液中に含有される光酸発生剤に応じて選択することができる。この場合、記録用インクとした状態において、所定の含有量となるよう、各成分の量を調整すればよい。例えば、テルペノイド骨格またはノルボルナン骨格を有する脂環エポキシ化合物を30重量部乃至70重量部と、および2個以上のグリシジルエーテル基が炭素数6以内の脂肪族骨格を有するエポキシ化合物を30重量部乃至70重量部との混合物によって、第1の溶液における酸の存在下で重合する化合物を構成する場合、色成分は1重量部乃至10重量部の割合で配合することができる。第2の溶液における光酸発生剤としては、フェニルスルフォニウム骨格を有するヘキサフルオロフォスフェート化合物を用いて、記録用インクにおける光酸発生剤の含有量が1重量部乃至10重量部となるよう、第1の溶液と第2の溶液とを混合することが好ましい。この場合には、感光性能に加え、硬度、密着性、および転写性が特に申し分ないものとなる。
【0044】
使用し得る脂環エポキシ化合物としては、リモネン(ジ)オキサイド、(ジ)オキサビシクロヘプタンおよびその置換化合物が挙げられ、炭素数6以内であるエポキシ化合物としては、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジジルエーテル、グリセロールジ(トリ)グリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。なかでも、リモネンジオキサイドと、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルの組み合わせが最も好適である。なお、炭素数が6を越えた場合には、硬度や密着性、転写性が低下するおそれがある。
【0045】
上述した組み合わせでエポキシ化合物を用いた場合、硬化後のインク層は、最低50℃、好ましくは80℃程度の温度から再流動化するため、定着や転写を良好に行なうことができる。さらに、この場合、硬化後のインク層が液体インク中に再溶解したり、あるいは、比較的安全なエタノールなどの低級アルコールやアイソパーなどの低沸点石油成分からなる有機溶媒にも可溶となる。したがって、ノズルつまりが発生するのを抑制することができ、また、ノズルのつまりを生じたとしても容易にノズルつまりを解消可能となる。すなわち、ヘッドメンテナンス性が格段に向上する。
【0046】
ただし、印刷物に要求される特性は、その用途に応じて異なる。例えば、印刷物を缶やペットボトルの外装や油性材料からなる容器の外装などに使用する場合、第1の溶液には、上述したエポキシ化合物に加えて、フェノール性水酸基を有する化合物、例えばビスフェノールAのグリシジルエーテル化合物や、フェノールノボラックやポリヒドロキシスチレンをはじめとするフェノール系オリゴマーのグリシジルエーテル化合物や、スチレンオキサイドのような、一般の芳香族エポキシ化合物、芳香族骨格を有するオキセタン化合物、さらには、架橋密度を高めるために、3価以上の多価エポキシ化合物、3価以上の多価ビニルエーテル化合物を添加してもよい。
【0047】
上述したような酸の存在下で重合可能な溶媒に色成分を分散させることによって、第1の溶液が調製される。
【0048】
色成分としては、顔料および/または染料を含有することができる。ただし、本発明の実施形態においては、酸が使用されるため、酸により退色しやすい染料よりも顔料の方が望ましい。
色成分として利用可能な顔料は、顔料に要求される光学的な発色・着色機能を有するものであれば特に制限されない。ここで使用する顔料は、発色・着色性に加え、磁性、蛍光性、導電性、誘電性等のような他の性質をさらに示すものであってもよい。この場合、画像に様々な機能を付与することができる。また、耐熱性や物理的強度を向上させ得る粉体を加えることもできる。
【0049】
使用可能な顔料としては、例えば、光吸収性の顔料を挙げることができる。そのような顔料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンリファインド、およびカーボンナノチューブのような炭素系顔料、鉄黒、コバルトブルー、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化クロム、および酸化鉄のような金属酸化物顔料、硫化亜鉛のような硫化物顔料、フタロシアニン系顔料、金属の硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、およびリン酸塩のような塩からなる顔料、並びにアルミ粉末、ブロンズ粉末、および亜鉛粉末のような金属粉末からなる顔料が挙げられる。
【0050】
また、顔料としては、例えば、染料キレート(塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、アニリンブラック、ナフトールグリーンBのようなニトロソ顔料、ボルドー10B、レーキレッド4Rおよびクロモフタールレッドのようなアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む。)、ピーコックブルーレーキおよびローダミンレーキのようなレーキ顔料、フタロシアニンブルーのようなフタロシアニン顔料、多環式顔料(ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラノン顔料など)、チオインジゴレッドおよびインダトロンブルーのようなスレン顔料、キナクリドン顔料、キナクリジン顔料、並びにイソインドリノン顔料のような有機系顔料を使用することもできる。
【0051】
黒インクで使用可能な顔料としては、例えば、コロンビア社製のRaven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400、三菱化学社製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4などのようなカーボンブラックを挙げることができる。
【0052】
イエローインクで使用可能な顔料としては、例えば、Yellow 128、C.I.Pigment Yellow 129、C.I.Pigment Yellow 151、C.I.Pigment Yellow 154、C.I.Pigment Yellow 1、C.I.Pigment Yellow 2、C.I.Pigment Yellow 3、C.I.Pigment Yellow 12、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 14C、C.I.Pigment Yellow 16、C.I.Pigment Yellow 17、C.I.Pigment Yellow 73、C.I.Pigment Yellow 74、C.I.Pigment Yellow 75、C.I.Pigment Yellow 83、C.I.Pigment Yellow 93、C.I.Pigment Yellow95、C.I.Pigment Yellow97、C.I.Pigment Yellow 98、C.I.Pigment Yellow 114、C.I.Pigment等が挙げられる。
【0053】
マゼンタインクで使用可能な顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 123、C.I.Pigment Red 168、C.I.Pigment Red 184、C.I.Pigment Red 202、C.I.Pigment Red 5、C.I.Pigment Red 7、C.I.Pigment Red 12、C.I.Pigment Red 48(Ca)、C.I.Pigment Red 48(Mn)、C.I.Pigment Red 57(Ca)、C.I.Pigment Red 57:1、C.I.Pigment Red 112等が挙げられる。
【0054】
また、シアンインクで使用可能な顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3、C.I.Pigment Blue 15:34、C.I.Pigment Blue 16、C.I.Pigment Blue 22、C.I.Pigment Blue 60、C.I.Pigment Blue 1、C.I.Pigment Blue 2、C.I.Pigment Blue 3、C.I.Vat Blue 4、C.I.Vat Blue 60等が挙げられる。
【0055】
さらに、天然クレイ、鉛白や亜鉛華や炭酸マグネシウムなどの金属炭酸化物、バリウムやチタンなどの金属酸化物のような白色顔料も有用である。白色顔料を含有した記録用インクは、白色印刷に使用可能なだけでなく、重ね書きによる印刷訂正や下地補正に使用することができる。
【0056】
蛍光性を示す顔料としては、無機蛍光体および有機蛍光体の何れを使用してもよい。無機蛍光体の材料としては、例えば、MgWO4、CaWO4、(Ca,Zn)(PO42:Ti+、Ba227:Ti、BaSi25:Pb2+、Sr227:Sn2+、SrFB23.5:Eu2+、MgAl1627:Eu2+、タングステン酸塩、イオウ酸塩のような無機酸塩類を挙げることができる。また、有機蛍光体の材料としては、例えば、アクリジンオレンジ、アミノアクリジン、キナクリン、アニリノナフタレンスルホン酸誘導体、アンスロイルオキシステアリン酸、オーラミンO、クロロテトラサイクリン、メロシアニン、1,1’−ジヘキシル−2,2’−オキサカルボシアニンのようなシアニン系色素、ダンシルスルホアミド、ダンシルコリン、ダンシルガラクシド、ダンシルトリジン、ダンシルクロリドのようなダンシルクロライド誘導体、ジフェニルヘキサトリエン、エオシン、ε−アデノシン、エチジウムブロミド、フルオレセイン、フォーマイシン、4−ベンゾイルアミド−4’−アミノスチルベン−2,2’−スルホン酸、β−ナフチル3リン酸、オキソノール色素、パリナリン酸誘導体、ペリレン、N−フェニルナフチルアミン、ピレン、サフラニンO、フルオレスカミン、フルオレセインイソシアネート、7−クロロニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾル、ダンシルアジリジン、5−(ヨードアセトアミドエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸、5−ヨードアセトアミドフルオレセイン、N−(1−アニリノナフチル4)マレイミド、N−(7−ジメチル−4−メチルクマニル)マレイミド、N−(3−ピレン)マレイミド、エオシン−5−ヨードアセトアミド、フルオレセインマーキュリーアセテート、2−[4’−(2’’−ヨードアセトアミド)]アミノナフタレン−6−スルホン酸、エオシン、ローダミン誘導体、有機EL色素、有機ELポリマーや結晶、デンドリマー等を挙げることができる。
【0057】
インク層の耐熱性や物理的強度を向上させ得る粉体としては、例えば、アルミニウムやシリコンの酸化物もしくは窒化物、フィラー、およびシリコンカーバイドなどを挙げることができる。また、インク層に導電性を付与するために、導電性炭素顔料、カーボン繊維、銅、銀、アンチモン、あるいは貴金属類などの粉体を添加してもよい。酸化鉄や強磁性粉は、磁性を付与するのに適しており、高誘電率なタンタル、チタン等の金属酸化粉なども配合することができる。
【0058】
また、顔料の補助成分として染料を添加することも可能である。例えば、アゾイック染料、硫化(建材)染料、分散染料、蛍光増白剤、油溶染料のような、酸性、塩基性が低く、エポキシに対して溶解性の高い染料が通常用いられる。これらのなかでも、アゾ系、トリアリールメタン系、アントラキノン系、アジン系などの油溶染料が好適に用いられる。例えばその例として、C.I.Slovent Yellow−2、6、14、15、16、19、21、33,56,61,80,など、Diaresin Yellow−A、F、GRN、GGなど、C.I.Solvent Violet−8,13,14,21,27など,C.I.Disperse Violet−1、Sumiplast Violet RR、 C.I.Solvent Blue−2、11、12、25、35など,Diresin Blue−J、A、K、Nなど、Orient Oil Blue−IIN、 #603など、Sumiplast Blue BG などを挙げることができる。
【0059】
上述した顔料や染料は単独で、あるいは2種以上の混合物として使用してもよい。また、吸光性、彩度、および色感などを高めるために、顔料と染料との双方を添加してもよい。さらに、顔料の分散性を高めるために、高分子バインダとの結合やマイクロカプセル化処理などを行なっていてもよい。
【0060】
本発明の実施形態にかかるインク中における顔料の含有量は、1重量%乃至25重量%であることが望ましい。顔料の含有量が1重量%未満である場合には色濃度が低くなり、25重量%を超えるとインク吐出性が低下する。また、インクにおける粉体成分の含有量は1重量%乃至50重量%であることが望ましい。粉体成分の含有量が1重量%未満である場合には感度上昇等の効果が不十分となり、50重量%を超えると解像性や感度が低下することがある。第2の溶液と混合して得られる記録用インクにおいて、こうした範囲内で顔料等が含有されるよう、第1の溶液における含有量は適宜選択すればよい。
【0061】
用いられる顔料や粉体の平均粒径は、可能な限り小さいことが望ましい。これら顔料や粉体の平均粒径は、通常、記録用インクを吐出するノズルの開口径の1/3以下であり、好ましくは1/10程度である。なお、このサイズは典型的には10μm以下であり、好ましくは5μm以下である。印刷インクとして好適な粒子径は0.35μm以下の大きさである。
【0062】
第1の溶液には、顔料などの分散性を高めるために、少量のノニオン系あるいはイオン系界面活性剤や帯電剤のような分散剤を添加することができる。また、同様な性質を有するアクリルやビニルアルコールのような高分子系分散剤も好適に使用される。ただし、分散剤としてカチオン系分散剤を使用する場合、酸性度がカルボン酸より低いのものを選択することが望ましい。これは、カチオン系分散剤のなかにはインクの硬化暗反応を促進するものもあるからである。また、強い塩基性を有する分散剤や色素なども、インクの感度を低下させるのみならず、同様に硬化暗反応を促進することがあるため、これら分散剤は中性に近いものやノニオン系が望ましい。
【0063】
色成分を含有する第1の溶液には、粘度安定化剤として、塩基性化合物および塩基性を調整する化合物の少なくとも一方を添加することが好ましい。色成分としてカーボンブラックが用いられる場合、こうした粘度安定化剤の効果はさらに顕著に発揮される。さらに、かかる塩基性化合物は、同時に、記録装置のインクジェットヘッド内部や、インク配管の金属部分の酸からの腐食を著しく低減させる効果も同時に有するため、本発明の実施形態にかかるインクジェットインク全般に用いて好ましいものとなる。
【0064】
塩基性化合物としては、上述したような酸で重合する化合物中に溶解可能な任意の無機塩基および有機塩基を使用することができるが、その溶解性から有機塩基がより望ましい。有機塩基としては、アンモニアやアンモニウム化合物、置換または非置換アルキルアミン、置換または非置換の芳香族アミン、ピリジン、ピリミジン、イミダゾールなどのヘテロ環骨格を有する有機アミンが挙げられる。より具体的には、n−ヘキシルアミン、ドデシルアミン、アニリン、ジメチルアニリン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロウンデカン、3−フェニルピリジン、4−フェニルピリジン、ルチジン、2,6−ジ−t−ブチルピリジン、4−メチルベンゼンスルホニルヒドラジド、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、および1,3−ベンゼンジスルホニルヒドラジドのようなスルホニルヒドラジドなどが挙げられる。塩基性化合物としては、アンモニウム化合物も用いることができる。これらの塩基性化合物は、1種あるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0065】
しかしながら、イミダゾールをはじめとするあまりに強力な塩基性化合物を使用した場合には、例えば経時重合を生じたり、あるいは光酸発生剤の分解などの副反応を生じやすくなるおそれがある。一方、あまりに塩基性の低い化合物は、添加による粘度安定化の効果を十分に得ることが困難になる。例えば、好適な水溶液の状態での温度25℃における塩基解離定数pKbが4以上の塩基性化合物が望ましく、逆にpKbが11を越えるの化合物では殆ど効果がみられない。そのような条件を満たす化合物としては、例えば、ピリジン誘導体、アニリン誘導体、アミノナフタレン誘導体、その他の含窒素ヘテロ環化合物およびその誘導体が好適である。
【0066】
ピリジン誘導体としては、例えば、2−フルオロピリジン、3−フルオロピリジン、2−クロロピリジン、3−クロロピリジン、3−フェニルピリジン、2−ベンジルピリジン、2−ホルミルピリジン、2−(2′−ピリジル)ピリジン、3−アセチルピリジン、2−ブロモピリジン、3−ブロモピリジン、2−ヨードピリジン、3−ヨードピリジン、および2,6−ジ−tert−ブチルピリジン等を挙げることができる。
【0067】
アニリン誘導体としては、例えば、アニリン、4−(p−アミノベンゾイル)アニリン、4−ベンジルアニリン、4−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、3−5−ジブロモアニリン、2,4−ジクロロアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3−ニトロアニリン、N−エチルアニリン、2−フルオロアニリン、3−フルオロアニリン、4−フルオロアニリン、2−ヨードアニリン、N−メチルアニリン、4−メチルチオアニリン、2−ブロモアニリン、3−ブロモアニリン、4−ブロモアニリン、4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、2−クロロアニリン、3−クロロアニリン、4−クロロアニリン、3−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、3−ニトロアニリン、4−ニトロアニリン、2−メトキシアニリン、3−メトキシアニリン、ジフェニルアミン、2−ビフェニルアミン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、および4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン等を挙げることができる。
【0068】
アミノナフタレン誘導体としては、例えば、1−アミノ−6−ヒドロキシナフタレン、1−ナフチルアミン、2−ナフチルアミン、ジエチルアミノナフタレン、および、N−メチル−1−ナフチルアミン等を挙げることができる。
【0069】
その他の窒素ヘテロ環化合物およびその誘導体としては、例えば、シノリン、3−アセチルピペリジン、ピラジン、2−メチルピラジン、メチルアミノピラジン、ピリダジン、2−アミノピリミジン、2−アミノ−4,6−ジメチルピリミジン、2−アミノ−5−ニトロピリミジン、2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン、ピロール、ピラゾール、1−メチルピラゾール、1,2,4−トリアゾール、インダゾール、ベンゾトリアゾール、キナゾリン、キノリン、3−アミノキノリン、3−ブロモキノリン、8−カルボキシキノリン、3−ヒドロキシキノリン、6−メトキシキノリン、5−メチルキノリン、キノキサリン、チアゾール、2−アミノチアゾール、3,4−ジアザインドール、プリン、8−アザプリン、インドール、およびインドリジン等を挙げることができる。
【0070】
これらの中でも、かかる塩基性化合物がアニリン誘導体である場合には、粘度安定性、揮発性、塩基性、さらに低副反応性の点で特に望ましいものとなる。
【0071】
ただし、上述したアニリン化合物は、塩基性が低いために、一般に化合物そのものが塩基性を有するオキセタン基を有するモノマーとの組み合わせでは望ましくない。オキセタン化合物は、25℃でのpKbが7以下3以上であるような、より塩基性の高い化合物が望ましい。例えば、脂肪族骨格を有するアミンや脂環骨格を有するアミンのような塩基性化合物を好適に用いることができる。
【0072】
本発明の実施形態にかかるインクは、露光後に加熱されることから、塩基性化合物の揮発性は極力低いことが望ましい。具体的には、その沸点は常温で150℃以上、より好ましくは180℃以上であることが望ましい。
【0073】
感度を著しく低下させずに粘度の安定化効果を得るためには、塩基性化合物または塩基性を調整する化合物の含有量は、記録用インク中における光酸発生剤の含有量の総モル量に対して、30モル%以下1モル%以上の割合であることが好ましい。より好ましくは、塩基性化合物または塩基性を調整する化合物の含有量は、光酸発生剤に対して15モル%以下2モル%以上である。第2の溶液と混合した後にこうした範囲内となるよう、第1の溶液における含有量および混合比を調整すればよい。
【0074】
また、光または放射線の照射により分解される感光性塩基性化合物を用いた場合には、塩基添加に伴う感度の低下を低減することができるため望ましいものとなる。かかる感光性塩基性化合物としては、スルホニウム化合物、ヨードニウム化合物を好適に用いることができる。
【0075】
スルホニウム化合物、ヨードニウム化合物として特に好ましいものとしては、例えば、トリフェニルスルフォニウムアセテート、水酸化トリフェニルスルホニウム、トリフェニルスルホニウムフェノレート、水酸化トリス−(4−メチルフェニル)スルホニウム、トリス−(4−メチルフェニル)スルホニウムアセテート、トリス−(4−メチルフェニル)スルホニウムフェノレート、水酸化ジフェニルヨードニウム、ジフェニルヨードニウムアセテート、ジフェニルヨードニウムフェノレート、水酸化ビス−(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス−(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムアセテート、ビス−(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムフェノレート、チオフェニル置換されたトリフェニルスルフォニウムアセテートや、チオフェニル置換されたトリフェニルスルフォニウムヒドロキサイドなどが挙げられる。
【0076】
上述した塩基性化合物に加えて、他の塩基性化合物を添加することもできる。また、使用される光酸発生剤がオニウム塩の場合は、光酸発生剤と塩基性化合物とが同種の化合物であることが好ましい。例えば、両者がスルホニウム系化合物やヨードニウム系化合物の場合、感度および保存安定性の点でより優れた効果が得られる。
【0077】
第1の溶液は、ラジカル重合性化合物をさらに含有してもよい。ラジカル重合性化合物によって、印刷面が強い塩基性である場合や、顔料や被印刷面が酸によって影響を受け易い場合に、その影響を低減することができる。かかる化合物としては、例えば、アクリルまたはメタクリル系モノマー、スチレン系モノマー、あるいはそれらのビニル系の重合性基を複数有する化合物などを挙げることができる。なかでも、ダイセル化学製CEL2000、グリシジルメタクリレート、ビニルアルコールとアクリル、メタクリルなどのエステル化合物のようにカチオン重合性とラジカル重合性との双方を有する化合物をさらに添加した場合、ラジカル重合性およびカチオン重合性の利点が得られる。この場合、商品名イルガキュアで知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤およびビスアジドのような光架橋型ラジカル発生剤も同時に含有することもできる。これらの手法は、硬化後のインク層により高い耐薬品性を付与させたい場合にも用いることができる。
【0078】
次に、第2の溶液について説明する。
【0079】
第2の溶液は、光の照射により酸を発生する光酸発生剤を溶媒に溶解して得られ、反応液と称される。
【0080】
光酸発生剤としては、例えば、オニウム塩、ジアゾニウム塩、キノンジアジド化合物、有機ハロゲン化物、芳香族スルフォネート化合物、バイスルフォン化合物、スルフォニル化合物、スルフォネート化合物、スルフォニウム化合物、スルファミド化合物、ヨードニウム化合物、スルフォニルジアゾメタン化合物、およびそれらの混合物などを使用することができる。
【0081】
これらの化合物の具体例としては、例えば、トリフェニルスルフォニウムトリフレート、ジフェニルヨードニウムトリフレート、2,3,4,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン−4−ナフトキノンジアジドスルフォネート、4−N−フェニルアミノ−2−メトキシフェニルジアゾニウムスルフェート、4−N−フェニルアミノ−2−メトキシフェニルジアゾニウムp−エチルフェニルスルフェート、4−N−フェニルアミノ−2−メトキシフェニルジアゾニウム2−ナフチルスルフェート、4−N−フェニルアミノ−2−メトキシフェニルジアゾニウムフェニルスルフェート、2,5−ジエトキシ−4−N−4'−メトキシフェニルカルボニルフェニルジアゾニウム−3−カルボキシ−4−ヒドロキシフェニルスルフェート、2−メトキシ−4−N−フェニルフェニルジアゾニウム−3−カルボキシ−4−ヒドロキシフェニルスルフェート、ジフェニルスルフォニルメタン、ジフェニルスルフォニルジアゾメタン、ジフェニルジスルホン、α−メチルベンゾイントシレート、ピロガロールトリメシレート、ベンゾイントシレート、みどり化学社製MPI−103(CAS.NO.[87709−41−9])、みどり化学社製BDS−105(CAS.NO.[145612−66−4])、みどり化学社製NDS−103(CAS.NO.[110098−97−0])、みどり化学社製MDS−203(CAS.NO.[127855−15−5])、みどり化学社製Pyrogallol tritosylate(CAS.NO.[20032−64−8])、みどり化学社製DTS−102(CAS.NO.[75482−18−7])、みどり化学社製DTS−103(CAS.NO.[71449−78−0])、みどり化学社製MDS−103(CAS.NO.[127279−74−7])、みどり化学社製MDS−105(CAS.NO.[116808−67−4])、みどり化学社製MDS−205(CAS.NO.[81416−37−7])、みどり化学社製BMS−105(CAS.NO.[149934−68−9])、みどり化学社製TMS−105(CAS.NO.[127820−38−6])、みどり化学社製NB−101(CAS.NO.[20444−09−1])、みどり化学社製NB−201(CAS.NO.[4450−68−4])、みどり化学社製DNB−101(CAS.NO.[114719−51−6])、みどり化学社製DNB−102(CAS.NO.[131509−55−2])、みどり化学社製DNB−103(CAS.NO.[132898−35−2])、みどり化学社製DNB−104(CAS.NO.[132898−36−3])、みどり化学社製DNB−105(CAS.NO.[132898−37−4])、みどり化学社製DAM−101(CAS.NO.[1886−74−4])、みどり化学社製DAM−102(CAS.NO.[28343−24−0])、みどり化学社製DAM−103(CAS.NO.[14159−45−6])、みどり化学社製DAM−104(CAS.NO.[130290−80−1]、CAS.NO.[130290−82−3])、みどり化学社製DAM−201(CAS.NO.[28322−50−1])、みどり化学社製CMS−105、みどり化学社製DAM−301(CAS.No.[138529−81−4])、みどり化学社製SI−105(CAS.No.[34694−40−7])、みどり化学社製NDI−105(CAS.No.[133710−62−0])、みどり化学社製EPI−105(CAS.No.[135133−12−9])、ダイセルUCB社製UVACURE1591などを挙げることができる。
また、光酸発生剤として以下に示す化合物を用いることもできる。
【化3】

【0082】
【化4】

【0083】
【化5】

【0084】
【化6】

【0085】
【化7】

【0086】
【化8】

【0087】
上記一般式において、C1およびC2は、それぞれ単結合または二重結合を形成した炭素原子を示し、R10は水素原子、フッ素原子、フッ素原子、アルキル基、またはアリール基を示し、R11およびR12はそれぞれ1価の有機基を示す。R11とR12とは互いに結合して環構造を形成していてもよい。
さらに、光酸発生剤として以下に示す化合物を用いることもできる。
【化9】

【0088】
(上記一般式において、Zはアルキル基を示している。)
【化10】

【0089】
光酸発生剤としては、オニウム塩を使用することが望ましい。使用可能なオニウム塩としては、例えば、フルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン、ヘキサフルオロヒ素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、パラトルエンスルホネートアニオン、およびパラニトロトルエンスルホネートアニオンを対イオンとするジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、およびスルホニウム塩を挙げることができる。特に、光酸発生剤は、下記一般式(4)および(5)に示すオニウム塩またはハロゲン化トリアジン化合物を含有していることが好ましい。この場合、感度と安定性との双方で有利である。
【化11】

【0090】
上記一般式中、R6乃至R10は、それぞれ芳香族基およびカルコゲニド原子と芳香族とを有する官能基の何れか一方を示し、C1乃至C2は、それぞれ芳香族基およびカルコゲニド原子を示し、A4およびA5はそれぞれPF6、SbF6、BF4、AsF6、CF3SO3、C49SO3、およびCH3SO3からなる群より選択されるアニオン種を示し、mおよびnは整数を示す。なお、ここでいう「カルコゲニド原子」はカルコゲン原子とカルコゲン原子よりも陽性な原子を意味する。また、「カルコゲン原子」は、硫黄、セレン、テルル、ポロニウム、沃素原子を意味する。
【0091】
一般式(4)および(5)で示されるオニウム塩は、硬化反応性が高く、しかも、常温での安定性に優れる。そのため、記録用インクが光を照射していない状態で硬化するのを抑制することができる。
【0092】
上記一般式(4)および(5)に示す化合物を光酸発生剤として使用する場合、上述したカルコゲニド原子は、硫黄原子またはヨウ素原子であることが熱的安定性や水分に対する安定性の観点で好ましい。また、この場合、アニオン種は非有機酸、特にPF6であることが酸性度や熱的安定性の観点から望ましい。フェニルスルフォニウム骨格を有するヘキサフルオロフォスフェート化合物を用いた場合には、感光性能も向上させることができ、特に望ましい。
【0093】
光酸発生剤は、場合によって、増感色素をさらに含んでいてもよい。そのような増感色素としては、例えば、アクリジン化合物、ベンゾフラビン類、ペリレン、アントラセン、およびレーザ色素類などを挙げることができる。
【0094】
光酸発生剤としてキノンジアジド化合物を使用する場合、ナフトキノンジアジドスルホニルクロリドやナフトキノンジアジドスルホン酸のような塩類を使用することができる。
【0095】
光酸発生剤として使用可能な有機ハロゲン化物は、ハロゲン化水素酸を形成する化合物を意味する。例えば、米国特許第3515552号、第3536489号、および第3779778号、並びに、西独特許公開公報2243621号に記載の化合物を挙げることができる。さらに詳しくは、例えば、米国特許第3515552号に記載されるカーボンテトラブロミド、テトラ(ブロモメチル)メタン、テトラブロモエチレン、1,2,3,4−テトラブロモブタン、トリクロロエトキシエタノール、p−ヨードフェノール、p−ブロモフェノール、p−ヨードビフェニル、2,6−ジブロモフェノール、1−ブロモ−2−ナフトール、p−ブロモアニリン、ヘキサクロロ−p−キシレン、トリクロロアセトアニリド、p−ブロモジメチルアニリン、テトラクロロテトラヒドロナフタレン、α,α’−ジブロモキシレン、α,α,α’,α’−テトラブロモキシレン、ヘキサブロモエタン、1−クロロアントラキノン、ω,ω,ω−トリブロモキナリジン、ヘキサブロモシクロヘキサン、9−ブロモフルオレン、ビス(ペンタクロロ)シクロペンタジフェニル、ポリビニリデンクロライド、および2,4,6−トリクロロフェノキシエチルビニルエーテル、米国特許第3779778号に記載されるヘキサブロモエタン、α,α,α−トリクロロアセトフェノン、トリブロモトリクロロエタン、およびハロメチル−S−トリアジン類を挙げることができる。とりわけ、ハロメチル−S−トリアジン類、例えば2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−メチル−S−トリアジン、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−S−トリアジンは好ましい。さらに好ましい有機ハロゲン化物としては、米国特許第3987037号に開示される、ビニルハロメチル−S−トリアジンで置換された化合物が挙げられる。このビニルハロメチル−S−トリアジン化合物は、少なくとも1つのトリハロメチル基と少なくとも1つのエチレン性不飽和結合でトリアジン環と共役している基とを有する光分解性のS−トリアジン類であり、下記一般式(A)で表わされる。
【化12】

【0096】
なお、上記一般式(A)において、Qは臭素または塩素原子を示し、Pは−CQ3、−NH2、−NHR、−NR2、または−OR基を示し、Rはフェニルもしくは炭素数6以下の低級アルキル基を示し、nは1乃至3の整数を示し、Wは芳香環、複素環、または下記一般式(B)で表わされる基である。
【化13】

【0097】
上記一般式(B)において、Zは酸素もしくは硫黄原子を示し、R1は低級アルキル基もしくはフェニル基を示す。
【0098】
上記一般式(A)においてWで表わされる芳香環もしくは複素環は、さらに置換されていてもよい。この場合の置換基としては、例えば、塩素原子、臭素原子、フェニル基、炭素数6以下の低級アルキル基、ニトロ基、フェノキシ基、アルコキシ基、アセトキシ基、アセチル基、アミノ基、およびアルキルアミノ基を挙げることができる。また、上記一般式(A)で表わされるビニルハロメチル−S−トリアジン化合物の具体的な例としては、以下に示す化合物を挙げることができる。
【化14】

【0099】
【化15】

【0100】
【化16】

【0101】
この他にも、トリハロメタンを骨格内に導入したトリアジン環を有する化合物も光酸発生剤として好適に用いることが可能である。また、トリアジン環が4以上の共役した2重結合を有する場合、感光波長が長波長化する。したがって、通常の高圧水銀ランプなどを光源として用いる場合、そのような化合物を使用することが好ましい。なお、上述した化合物としては、例えば、ナフタレン置換基を有するトリアジンや縮合トリアジン化合物を挙げることができる。
【0102】
さらに、光解離性を有する酸エステルなども、光酸発生剤として好適に用いることができる。そのような化合物としては、例えば、アルミシラノールのオルトニトロベンジルエステルを挙げることができる。
【0103】
記録用インク中における光酸発生剤の含有量は、使用する光酸発生剤の酸発生効率や添加する色成分の量などに応じて設定することができる。例えば、記録用インク中における色成分の濃度が5重量%程度である場合、光酸発生剤の含有量は、この記録用インク中に含まれる全固形分100重量部に対して、通常、1重量部乃至10重量部とすることができる。光酸発生剤の全固形分100重量部に対する割合が1重量部未満である場合には液体インクの感度が低くなり、10重量部を超えると、インクの経時間的増粘が激しくなり塗膜性や光硬化後のインク膜の硬度が低下するおそれがある。光酸発生剤の含有量は、好ましくは2重量部乃至8重量部であり、より好ましくは2重量部乃至4重量部である。第1の溶液と混合した後の記録用インクにおいて、こうした範囲内で光酸発生剤が含有されるよう、第2の溶液における光酸発生剤の含有量を調整すればよい。
【0104】
上述したような光酸発生剤を溶解する溶媒としては、例えば、第1の溶液の場合と同様のものを用いることができる。
【0105】
第2の溶液は、前述の第1の溶液と同様、通常、水または有機溶剤のような揮発成分を極力含まないように調製することが望まれる。しかしながら、例えば、メチルエチルケトン、プロピレングリコール系溶媒、乳酸エチルのように原材料の調製時に使用する有機溶剤が不可避的に混入していてもよい。また、例えば、排気機構や溶媒回収機構を設けた場合には、所望の印刷物を得る目的などで、少量の有機溶媒を含有させてもよい。この場合、安全性の観点からは、水、エタノールやプロパノ−ル類のようなアルコール類、アイソパーやテルペンのような石油成分を使用することが望ましい。
【0106】
上述したような第1および第2の溶液は、本発明の実施形態にかかるインクジェット記録装置で用いられ、インクジェット記録ヘッドに供給される直前に混合される。こうして、得られる記録用インクは、その像形成能力を化学増幅機構に依存している。すなわち、露光によって光酸発生剤から酸が発生し、この酸が加熱によって拡散して架橋反応もしくは分解反応の触媒として機能する。このため、この記録用インクでは、塩基性イオンの存在は感度低下の要因となる。したがって、記録用インクの調製過程はもちろん、構成成分のそれぞれの製造過程でも大量の塩基性イオンが混入しないよう留意することが望ましい。
【0107】
図1に、本発明の実施形態にかかるインクジェット記録装置の概略図を示す。
【0108】
インクジェットヘッド20には、記録用インクがインク攪拌容器2から水頭圧で供給される。供給されたインクは、搬送手段(図示せず)で搬送された記録メディアM上に画像情報に対応して吐出されて、画像が形成される。インク攪拌容器2には、着色インクとしての第1の溶液と反応液としての第2の溶液とが、所定の混合比となるように供給される。インク攪拌容器2中における第2の溶液と第1の溶液との混合比(S2/S1)は、通常、(1/32)程度である。第1の溶液は、すでに説明したように酸の存在下で重合する溶媒と色成分とを含有し、着色インク容器5から着色インク供給ポンプ6を介して供給される。インクの保存性の観点から、この第1の溶液には塩基性化合物が配合されていることが好ましい。一方、第2の溶液は、光酸発生剤を含有し、反応液容器3から反応液供給用ポンプ4を介して供給される。
【0109】
インク攪拌容器2に供給される第1および第2の溶液の量が異なるので、これら2種類の溶液を収容する2つの容器(着色インク容器5および反応液容器3)の容量も異なる。反応液容器3の容量(V2)と着色インク容器5の容量(V1)との比(V2/V1)は、インク攪拌容器中における溶液の混合比(S2/S1)より小さいことが好ましい。これによって、着色インク容器5の交換頻度は反応液容器3の交換頻度より低減される。着色インク容器5を交換するために印刷動作を停止する機会は減少し、生産性を高めることができる。後述するように、インクの粘度の増加は、光酸発生剤の熱による分解に起因することが本発明者らにより見出されており、着色インクは単独では粘度増加しない。したがって、着色インク容器5に収容された第1の溶液は、保存期間が長くなっても粘度の増加に影響を与えることはなく、画像の劣化も引き起こされない。
【0110】
インク攪拌容器2内には、モーター7に接続された攪拌羽8と設置され、反応液と着色インクとを攪拌、混合して、インクジェット記録用インクが得られる。インク攪拌容器2、反応液容器3、および着色インク容器5の近傍には、記録用インク残量検知センサー9、反応液残量検知センサー10、および着色インク残量検知センサー11がそれぞれ設けられている。これらのセンサーは、次のように構成される。インク攪拌容器2、反応液容器3、および着色インク容器5の側面には、透明な窓が設けられており、この窓にLED等の光を照射する。この光の反射光を検知し、反射光量の変化に基づいてインクの残量が検知される。また、インク残量検知センサー9は、インク攪拌容器2内におけるインクの残量の有無のみならず、数レベルで残量を検知することができる。
【0111】
さらに、反応液容器3の近傍には冷却ファン12が設けられており、反応液の保存温度を所定温度以下に保っている。本発明者らは、インクジェット用インクの粘度の増加は、光酸発生剤が高温条件化で分解して酸が発生するために生じることを見出した。したがって、反応液容器3を低温に保存することによって酸の発生を低減し、混合後の記録用インクの粘度増加をさらに抑制することができる。反応液としての第2の溶液の割合は、混合後の記録用インク100重量部に対して3重量部程度と少ない。このため、反応液容器3は小容量化したところで、補充の頻度は低く生産性が低下することはない。また小容量ゆえに、ファンやペルチェ素子を用いた冷却手段を用いたとしてもわずかな電力で低温に保存することができる。
【0112】
インクジェットヘッド20の記録メディア搬送方向下流には、光源13および加熱装置14が順次配置されている。
【0113】
光源13は、記録メディアM上のインク層に光を照射して、インク層中に酸を発生させる。光源13としては、例えば、低、中、高圧水銀ランプのような水銀ランプ、タングステンランプ、アーク灯、エキシマランプ、エキシマレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、レーザと非線形光学結晶とを組み合わせたレーザシステム、電子線照射装置、X線照射装置などを使用することができる。なかでも、システムを簡便化できるため、高圧水銀ランプや半導体レーザなどを使用することが望ましい。
【0114】
加熱装置14は、記録メディアM上のインク層を加熱して、酸を触媒とした架橋反応を促進する。加熱装置14としては、例えば、赤外ランプ、温風または熱風を吹き出すブロワ、発熱体を内蔵したローラ(熱ローラ)などを使用することができる。
【0115】
図示するように、インクジェット記録装置1の動作を制御する制御装置101が、インクジェット式記録ヘッド20に接続されている。さらに、インクジェット式記録ヘッド20を駆動する電源103と、インクジェット式記録ヘッド20で形成される画像データを保存、処理する画像データ処理保存装置102とが、制御装置101に接続されている。
【0116】
図2に、インクジェット記録装置1のブロック図を示す。制御装置101には、インク残量センサー9,10,および11からの信号が入力される。また、反応液供給用ポンプ4,着色インク供給用ポンプ6、モータ7、冷却ファン12の動作を制御する信号が、この制御装置101から出力される。
【0117】
第1の溶液および第2の溶液は、次のように制御されてインク攪拌容器2に供給される。インク攪拌容器2内に記録用インクが存在しないことがインク残量検知センサー9により検知されると、所定量の第2の溶液(反応液)が、反応液供給ポンプ4によって反応液容器3からインク攪拌容器2に供給される。これと同時に、所定量の第1の溶液(着色インク)が、着色インク供給ポンプ6によって着色インク容器5からインク攪拌容器2に供給される。
【0118】
各溶液の供給量は、次のように調整されることが好ましい。すなわち、インク攪拌容器2内で混合された後のインク中における光酸発生剤の量が、1重量部以上10重量部以下となるように、2種類の溶液を供給することが望まれる。これによって、インクの粘度の増加を低減するとともに、十分な硬化硬度を得ることができる。
【0119】
第2の溶液(反応液)と第1の溶液(着色インク)とをインク攪拌容器2で混合し始めた時点から、記録用インクの粘度は増加する。インク攪拌容器2内に留まっている時間長いほど、粘度増加の割合は大きくなってしまう。インク攪拌容器2の容量を小さくして、混合後のインクが滞留する時間を短くすれば、粘度の増加は抑制することが可能である。しかしながら、混合される溶液の量が少ない場合には、2つの容器からの溶液の供給動作と、インク攪拌容器2における攪拌・混合動作とが頻繁に実行され、印刷の生産性の低下が生じてしまう。
【0120】
印刷動作に頻度に応じて、インク攪拌容器2内で混合される記録用インクの量を調整することが好ましい。例えば、印刷動作の頻度が高い場合には、調製される記録用インクの量を増やして、供給動作および攪拌・混合動作の頻度を低減する。これによって、印刷の生産性の低下を抑制することができる。一方、印刷動作の頻度が低い場合には、記録用インクの量を減少させて、インク攪拌容器2内に留まっている時間を短縮する。これによって、粘度の増加を低減して画像の劣化を回避することができる。
【0121】
こうした操作は、以下のように行なわれる。まず、制御装置101に印刷するデータ名、部数等の情報とともに印刷の命令が与えられると、指示された画像データ処理・保存装置102に保存されている画像データのデータサイズ、印字率(インクを吐出する画素数の割合)と印刷枚数から求められる消費されるインクの量と、記録用インク残量検知センサー9からのインク残量をもとに、反応液供給用ポンプ4と着色インク供給用ポンプ6の駆動時間を制御する。例えば、印刷に使われるインク消費量が多く、インク攪拌容器2内のインクの残量が少ない場合には、反応液供給用ポンプ4と着色インク供給用ポンプ6で着色インクと反応液をインク攪拌容器2に供給する。逆に印刷に使われるインク消費量が少なく、インク攪拌容器2内のインクの残量が多い場合には、反応液供給用ポンプ4および着色インク供給用ポンプ6の動作は行なわない。
【0122】
このように各溶液の供給量を制御することによって、印刷動作と並行して、両容器からの供給動作と、インク攪拌容器2での攪拌・混合動作とを実行することができる。しかも、印刷動作を停止することはなく、印刷の生産性の低下は抑制される。また、記録用インクの粘度の増加も低減され、画像の劣化も回避することが可能となる。
【実施例】
【0123】
以下、具体例を示して本発明の実施形態をさらに詳細に説明する。本発明の技術思想を逸脱しない限り、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0124】
本発明の実施形態においては、2種類の溶液を混合して、インクジェット式記録ヘッドに供給される直前に記録用インクが調製される。こうして得られる記録用インクにおいては、溶媒100重量%に対して色成分は1〜25重量%の範囲で配合されることが好ましい。着色インクにおける光酸発生剤の含有量の適切な範囲を調べるため、次のような実験を行なった。
【0125】
まず、酸の存在下で重合する溶媒として、下記に示すEP1およびEP2を用意した。
【化17】

【0126】
50重量%のエポキシ化合物EP1に対し、色成分としてのカーボンブラックを5重量%の割合で混合して、第1の溶液を調製した。
【0127】
光酸発生剤としては、下記に示すPAG1およびPAG2を等量、炭酸プロピレンに溶解させてなる溶液(PAG3)を準備した。この光酸発生剤は、ダイセルUCB社製UVACURE1591として市販されている。
【化18】

【0128】
50重量%のエポキシ化合物EP2に対し、光酸発生剤としてのPAG3を下記表1に示す割合で混合して、第2の溶液(B1〜B7)を調製した。
【表1】

【0129】
先に準備した第1の溶液と、第2の溶液とを混合することによって、インク試料(1〜7)が得られる。
【0130】
得られたインク試料について、以下の手法により硬化性および保存性を調べた。
【0131】
硬化性の評価:
まず、PETフィルムなどの透明性のフィルム上に、ディスポシリンジによりインク試料を滴下した。このインクを、バーコーターにより膜厚約4μmになるように引き伸ばし、25m/分の搬送速度でフュージョン製UV照射機(HP−6)により1500mW/cm2の紫外線を照射させた。その後、100℃で1分加熱させることによって、インク硬化膜を作製した。
【0132】
得られたインク硬化膜について、引っかき硬度法(鉛筆法)(JIS K 5600−5−4)により鉛筆硬度を評価した。ここで、F以上を“○”、HBを“△”、B以下を“×”とし、硬化性として表わした。
【0133】
保存性の評価:
加速試験により評価した。具体的には、65℃で11日間保存し、その後の粘度を東機産業(株)のE型粘度計を用いて45℃で測定した。初期粘度からの増加分に基づいて、以下のように評価した。
【0134】
なお、保存性は、第1の溶液と第2の溶液とを分離して保存したものと、これらを混合して保存したものとの2種類について評価した。
【0135】
○:20%未満
△:20%以上25%未満
×:25%以上、または析出物が発生
得られた結果を、下記表2にまとめる。
【表2】

【0136】
鉛筆硬度はH以上であれば合格とされ、保存性は“△”以上であれば、実用的なレベルである。
【0137】
表2に示されるように、第1の溶液と第2の溶液とを混合した後に保存されたインクは、硬化性と保存性を両立するには、光酸発生剤の添加量は2〜4%の範囲に限られる。これに対して、2つの溶液を分離して保存した場合には、2〜20%の添加量で光酸発生剤が含有されていても、これらの特性を両立することができる。
【0138】
2種類の溶液を混合した後における粘度の上昇は、粘度安定化剤としての塩基性化合物を添加することによって回避することができる。塩基性化合物として下記に示す化合物を用意した。
【化19】

【0139】
前述のエポキシ化合物、色成分、光酸発生剤、および塩基性化合物を、下記表3に示す処方で配合して、インク試料8〜13を調製した。
【表3】

【0140】
得られたインク試料について、前述と同様の手法により硬化性および保存性を評価し、その結果を下記表4にまとめる。
【表4】

【0141】
表4に示されるように、塩基性化合物が含有されない場合(添加量0wt%)には、保存性は悪いが、0.2wt%以上の割合で塩基性化合物を添加することによって、保存性を高めることができる。ただし、塩基性化合物の添加量が1wt%以上となると硬化性が劣化するので、その添加量は0.2〜0.8wt%の範囲内とすることが好ましい。この添加量は、光酸発生剤に対する割合であることが確認されており、光酸発生剤に対して、2.5〜10wt%が望ましい。
【0142】
以上の結果に基づいて、記録用インクにおける光酸発生剤および塩基性化合物の添加量を決定した。
【0143】
(実験1)
溶媒の少なくとも一部として酸の存在下で架橋する重合性化合物と、光照射により酸を発生する光酸発生剤と、色成分とを含有するカチオン硬化型の記録用インクの経時的な粘度の増加の原因を調べるため、以下のような実験を行なった。
【0144】
まず、前述の化合物EP1およびEP2を同重量で混合して、エポキシ樹脂成分aを得た。
【0145】
一方、色成分としてのカーボンブラックを、分散剤としてのアクリル樹脂と混練し、200ppmのノニオン系界面活性剤(住友3M社製)を添加して、色成分混合物を得た。
【0146】
前述のエポキシ樹脂成分aと、色成分混合物、および光酸発生剤としてのPAG3を、下記表5に示す割合(重量%)で配合して、試料b,c,およびeを得た。なお、試料bおよびeは、成分を混合し、ペイントシェーカで一昼夜分散処理して調製した。
【表5】

【0147】
表5中、色成分混合物の割合(重量%)は、試料全体に対するカーボンブラックの量を示している。
【0148】
こうして得られた4種類の試料を65℃の暗所に保存して、経時的な粘度の増加を調べた。
【0149】
粘度の上昇速度は、分解して発生した酸の影響により重合反応が開始するという現象に起因する。このため、粘度の上昇速度と重合(反応)速度とは関係が深い。25℃6ヶ月保存時における粘度を迅速に得るために、高温保存による加速試験を用いる。粘度測定は、東機産業(株)のE型粘度計を用いて、測定温度45℃で行なった。得られた結果を、図3のグラフに示す。
【0150】
図3に示されるように、試料cおよび試料eは、粘度が増加している。これらの試料には、いずれも光酸発生剤が添加されており、光酸発生剤と重合性化合物の反応が生じて粘度が増加したものと推測される。これに対して、試料aおよびbでは粘度の増加が生じていない。このことから、重合性化合物単体や重合性化合物に顔料を分散させた試料では、粘度増加の原因となる反応が生じないことが確認された。
【0151】
以上の結果から、光酸発生剤と酸存在下で重合する重合性化合物とを別々に保存し、画像形成の前に両者を混合して記録用インクを形成し、それをインクジェット式記録ヘッドで吐出すれば、常に粘度の安定した記録用インクをインクジェット式記録ヘッドに供給することができ、安定した印字特性が得られることが分かる。
【0152】
このことを確認するために、以下の実験を行なった。
【0153】
(実験2)
前述と同様のエポキシ樹脂成分(a)、色成分混合物および光酸発生剤を用いて、下記表6に示す試料を準備した。表6中、色成分混合物の割合(重量%)は、試料全体に対するカーボンブラックの量を示している。
【表6】

【0154】
試料gは、光酸発生剤としてのPAG3(ダイセルUCB社製UVACURE1591)を単独で用いた。
【0155】
これらの試料を、65℃の暗所でそれぞれ保存した。10日後に、試料fと試料gとを下記表3に示す割合(重量%)で混合して試料hを得、この試料hをさらに65℃の暗所に継続して保存した。この試料hは、試料eと同様の構成になりカチオン硬化型の記録用インクの組成となる。すなわち、別々に保存された光酸発生剤と、色成分を含む酸存在下で重合する重合性化合を混合して調製されたカチオン硬化型の記録用インクである。
【表7】

【0156】
この間、試料fは10日目まで、試料hは10日目以降31日目まで、試料eは、31日目まで粘度を測定した。測定結果を、図4のグラフに示す。
【0157】
前述の実験1の場合と同様、エポキシ樹脂成分と色成分とを含有し、光酸発生剤を含まない試料fは、10日間経時的な粘度の増加は確認されなかった。
【0158】
図4のグラフに示されるように、試料hは、初期の10日間は全く粘度変化が生じていない。このため、試料hの全体としての粘度増加の割合は、試料eの場合の1/2ほどに低減されている。
【0159】
(実験3)
次に、粘度安定剤としての塩基性化合物およびまたは塩基性を調整する化合物を着色インクに配合し、その後、光酸発生剤と混合したインクの経時的な粘度を測定した。
【0160】
前述と同様のエポキシ樹脂成分(a)、色成分混合物、光酸発生剤および塩基性化合物(B1)を下記表8に示す割合(重量%)で配合して、試料i,g,eを調製した。
【表8】

【0161】
これらの試料を、65℃の暗所でそれぞれ保存した。10日後に、試料iと試料gとを下記表9に示す割合(重量%)で混合して試料jを得、この試料jをさらに65℃の暗所に継続して保存した。
【表9】

【0162】
この間、試料iは10日目まで、試料jは10日目以降21日目まで、試料eは21日目まで粘度を測定した。得られた結果を、図5のグラフに示す。
【0163】
実験1の結果を示した図3と同様、光酸発生剤を含んでいないエポキシ組成物、カーボン黒色素、塩基性化合物を含有する試料iは、10日間経時的な粘度の増加は生じていない。
【0164】
試料jは、試料eと同一の構成になりカチオン硬化型の記録用インクの組成になる。すなわち、別々に保存された光酸発生剤と、色成分を含む酸存在下で重合する重合性化合物とを混合して形成されたカチオン硬化型の記録用インクである。試料hは、初期の10日間は全く粘度変化が生じていない。このため、試料hの全体としての粘度増加の割合は、試料eの場合の1/2ほどに低減されている。しかも、11日目からの粘度の増加速度が、試料eの0日目からの粘度の増加速度より低減されている。
【0165】
これは、光酸発生剤から分解した酸と塩基性化合物が中和し、溶媒である重合性化合物の硬化が抑制されるからである。ただし、光酸発生剤と塩基性化合物を初期から混合しておくと中和が進み、UV光などを照射しても酸の発生量が減少し、十分硬化できない場合がある。
【0166】
このため、光酸発生剤と塩基性化合物は別々に保存し、インクジェットヘッドで吐出する前に混合することが望ましい。すなわち、塩基性化合物は、色成分を含有する着色インクに配合して、着色インク容器に収容しておく。これによって、中和が進むことがなく、UV光などを照射することにより酸が効率よく発生して、十分硬化硬度が得られる。本発明の実施形態により、粘度の増加を従来の1/2以下に低減することができる。その結果、インクジェット記録装置の内部でインクを長期間保存しても、画像濃度の低下の少ない良好な画像が得られた。
【0167】
(実験4)
65℃の暗所で所定日数保存したインクについて、前述と同様の方法により硬化性を調べた。得られた結果を下記表10に示す。
【表10】

【0168】
試料h,iは前述したように経時的な粘度の増加を、試料eの約1/2以下に低減することができた。これと同時に、硬化性能は劣化していないことが確認された。
【0169】
粘度の上昇が低減されたので、試料h、iは、何等不都合を生じることなく、インクジェット式記録ヘッドに供給することができる。なお、図1に示したインクジェット記録装置1において、着色インクおよび反応液をそれぞれの容器に収容して保存した場合も、粘度の上昇は低減され、同様にインクジェット式記録ヘッドに供給することができた。粘度が増加していないので、安定した量でインクジェット式記録ヘッドから吐出することができる。
【0170】
図6のグラフに、記録用インクの粘度変化率と吐出体積変化率との関係を示す。粘度の変化率と体積の変化率とはほぼ比例しており、粘度が20%増加すると吐出体積が7〜8%減少する。保存によりインクの粘度が増加して20%に到達すると、インクジェット式記録ヘッドから吐出される体積が7〜8%減少する。その結果、粘度が増加する前の状態と比較して画像濃度が低下してしまう。上述したように本発明の実施形態においては、記録用インクの粘度の増加を従来の1/2ほどに低減することができる。その結果、インクジェット記録装置の内部でインクを長期間保存しても、画像濃度の低下の少ない良好な画像を得ることが可能となった。
【0171】
記録用インクの粘度上昇に及ぼす保存温度の影響を、図7のグラフに示す。前述の試料eを、25℃、45℃、および65℃の3種類の温度で保存し、経時的な粘度の変化を測定した。保存温度が高温になるほど粘度の増加が大きく、低温で保存することによって粘度増加は抑制できること確認された。
【0172】
ここで、図8に、従来のインクジェット記録装置200を示す。従来のインクジェット記録装置200においては、インク容器201からインクジェットヘッド20にインクが供給される。印刷動作および光の照射、加熱は、図1に示した記録装置と同様に行なわれるが、インク容器201中には、光酸発生剤と、酸存在下で重合する溶媒と、色成分とを全て含有するインクが収容されている。こうした状態で長期間インクが保存されると、上述した試料eと同様の条件となって粘度が増加する。粘度が増加したインクをインクジェット式記録ヘッド20に供給すると、吐出不良が発生することになる。
【0173】
また、従来のインクジェット記録装置200におけるインク容器201は、容量が大きく、これを低温に保持するには多大な電力が必要とされる。しかも、装置の大型化が避けられない。インク容器201の容量を縮小することによって、電力で低温に保持することは可能になるものの、インクの補充を頻繁に行なわなければならない。その結果、印刷の生産性が大幅に低下するという問題が生じる。
【0174】
本発明の実施形態にかかる記録装置においては、光酸発生剤を含有する反応液が小容量の容器に収容される。このため、上述したような不都合を何等引き起こすことなく、反応液容器を冷却して、インクの粘度上昇を回避することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】本発明の一実施形態にかかるインクジェット記録装置の概略図。
【図2】図1に示したインクジェット記録装置の制御系を表わすブロック図。
【図3】記録用インクの経時的粘度増加を表わすグラフ図。
【図4】記録用インクの経時的粘度増加を表わすグラフ図。
【図5】記録用インクの経時的粘度増加を表わすグラフ図。
【図6】インクの粘度変化率とインクの吐出体積変化率の関係を表わすグラフ図。
【図7】組成物の粘度変化に及ぼす温度の影響を表わすグラフ図。
【図8】従来のインクジェット記録装置の概略図。
【符号の説明】
【0176】
1…インクジェット記録装置,M…記録メディア,20…インクジェット式記録ヘッド
2…インク攪拌容器,3…反応液容器,4…反応液供給用ポンプ,5…着色インク容器
6…着色インク供給ポンプ,7…モーター,8…攪拌羽
9…記録用インク残量検知センサー,10…反応液残量検知センサー
11…着色インク残量検知センサー,12…冷却ファン,13…光源,14…ヒーター
101…制御部,102…画像データ処理保存装置,103…電源
200…インクジェット記録装置,201…インク容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸の存在下で重合する溶媒と、前記溶媒中に分散した色成分とを含有する着色インクを収容する着色インク容器、
光照射により酸を発生する光酸発生剤が溶媒に添加されてなる反応液を収容する反応液容器、
前記着色インクと前記反応液とを混合して、記録用インクを得る攪拌容器、
前記着色インク容器から前記攪拌容器に前記着色インクを、容積S1で供給する着色インク供給用ポンプ、
前記反応液容器から前記攪拌容器に前記反応液を、容積S2(S2<S1)で供給する反応液供給用ポンプ、
前記記録用インクを記録媒体に吐出するインクジェット記録ヘッド、および
前記攪拌容器内の記録用インクを、前記インクジェット記録ヘッドへ供給する供給管
を具備することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記反応液容器は、前記着色インク容器より低い温度で保存されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記反応液容器を冷却する冷却ファンを具備することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記反応液容器の容量(V2)は、前記着色インク容器の容量(V1)より小さく、容器の容量の比(V2/V1)は、前記攪拌容器内における前記反応液と前記着色インクとの混合比(S2/S1)より小さいことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
画像データを保存・処理する装置、
前記攪拌容器内の前記記録用インクの残量を検知する記録用インク残量検知モニター、および
制御装置をさらに具備し、
前記制御装置には、前記画像データ保存・処理装置からの画像情報と前記着色インク残量検知モニターからの残量情報とが入力され、前記着色インク供給用ポンプと前記反応液供給ポンプとに供給情報を出力することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記記録用インクが前記光酸発生剤を1〜20重量%の割合で含有するように、前記着色インクおよび前記反応液が記攪拌容器に供給されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記記録用インクは、塩基性化合物および塩基性を調整する化合物の少なくとも一方をさらに含有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記塩基性化合物および塩基性を調整する化合物の少なくとも一方は、0.1〜0.8重量%の割合で前記記録用インクに含有されることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−213490(P2008−213490A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117757(P2008−117757)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【分割の表示】特願2003−319841(P2003−319841)の分割
【原出願日】平成15年9月11日(2003.9.11)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】